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事件 昭和 45年 (モ) 262号
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裁判所 長野地方裁判所
判決言渡日 1971/02/19
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事仮処分
主文 長野地方裁判所昭和四五年(ヨ)第五六号商品販売製造禁止仮処分申請事件につき同裁判所が昭和四五年九月一八日なした仮処分決定中債務者両名に関する部分を取消す。
債権者の申請を却下する。
申請費用中債権者と債務者両名との間に生じたものは債権者の負担とする。
この判決第一項は仮りに執行することができる。
事実及び理由
全容
一 債権者訴訟代理人は 「長野地方裁判所昭和四五年(ヨ)第五六号商品製造禁止仮処分申請事件につき同裁判所が昭和四五年九月一八日なした仮処分決定はこれを認可する。」との判決を求め、申請の理由として 「(一) 債務者有限会社小島屋は惣菜の製造販売を目的とする会社で、別紙目録記載の建物を使用して、主として各種天ぷら等揚物を製造してこれを店頭で販売するほか、学校・会社等の給食用に手広く販売し、その片手間に天ぷら製造専用粉に「花ころも」なる名称を付してごく少量の販売をも行つていたが、その営業は有限会社組織とはいえ取締役はA一名のみにして、その実体は同人の個人経営と異なるところがない。
(ニ) ところで、右Aの友人であるBはかねて右Aからその営業万端にわたつて相談を受けていたものであるが、債務者小島屋が片手間に販売している天ぷら専用粉「花ころも」を量産して市販するならば事業として成立するにちがいないと考え、会社を設立してその事業にあたるべく、右Aをさそつて「株式会社花ころも」を設立することとし、昭和四四年六月一日の創立総会において右A・BおよびCが取締役に選任され、同日右Aがその代表取締役に就任して翌二日その設立登記を経由した。
(三) そして、債務者小島屋は同月三〇日会社即ち債権者に対し「花ころも」製造販売に関する営業一切を譲渡して小島屋の営業所内にあつた「花ころも」包装用品・天ぷら鍋およびその附属品・電話・自動車等その製造販売に使用していた資材一切を債権者に引渡し、併せて小島屋における「花ころも」の製造販売を止めると約束した。
(四) そこで、債権者は「花ころも」なる商標を用いて特殊配合の天ぷら専用粉の製造販売を開始したところ、従来天ぷらのころもについては天ぷら製造業者が各自その使用する粉の配合に工夫をこらすことはあつても、その専用粉を製造して市販するものはかつてなかつたところから、債権者製造の「花ころも」は長野県下のみならず群馬県・東京都にまで販路が拡がり、好評を得るにいたつたので、右Bは代表取締役Aに対し「花ころも」の商標登録出願方を勧告したところ、同人はこれに応じて同年八月その出願をしたが、その出願人が債権者会社に変更するよう要求するよう決議をなし、席上Aはこれを承諾して直ちにその変更手続きをとる旨確約した。
(五) ところが、右Aは同年一二月三〇日債権者会社取締役辞任の意思を表明するにいたつたので、翌四五年一月一八日債権者会社は役員会を招集して同人に対し、辞意撤回方を勧告したが同人がこれに応じないのでやむなく同人の辞任を承認し、ついては前記商標登録出願人名義変更の手続を直ちに実行すべき旨を重ねて要求し、同人もこれを承諾したが、容易に実行する気配を見せないので、同年二月一七日債権者は同人の出席を求めて役員会を開催し、同人と協議のうえ、次のような約束をした。
(1) 同月二八日まで商標登録出願人名義変更手続をなすこと。
(2) 債権者会社設立に際し債務者小島屋から債権者に引渡された第三項掲記の資材一切の譲渡代金は債権者会社監査役立会のうえ評価して同年五月三一日までに清算すること(3) 債務者小島屋およびAは債権者の営業に対し有形無形を問わず一切の妨害行為を行わない旨の誓約書を同年二月二八日までに債権者に提出すること。
(4) 債権者が株式会社第一化成に発注中の天ぷら粉種につき、Aは同会社に対し直ちにこれを債権者宛出荷するよう連絡すること。
(六) しかるに、右Aは前項(4)を除くその余の約定を履行しないばかりでなく、債務者小島屋においては同年四月頃から債権者製品と同一の天ぷら製造専用粉を製造し、債権者に損害を与えることを認識しながら、不正の目的をもつて、これに「ニュー花ころも」なる名称を付して市販し、債権者の得意先のうち特に大口の得意先に売込むにいたつたが、その包装は大きさ・デザイン・品質において債権者製品の「花ころも」のそれに酷似しているのみならず、その売込みに際しては、それが「花ころも」の改良品であり「花ころも」には有害な食品添加物(特に黄色着色剤)が含まれているかの如く記載したチラシを配布しているため、情を知らない得意先においては「ニユー花ころも」をもつて債権者の新製品であるかのように諒解している状況にあつて、そのため債権者製品の売上げは債務者小島屋に奪われなかつた得意先に対するそれは逐次増加しているのに、これに奪われた丸一中央市場食品部等一四軒の得意先に対するそれは同年四月以降激減して多大の損害を受け、
今後も同様の損害を受けるおそれがある。
しかも、右Aは第五項(3)の約束を潜脱する目的で、債務者小島屋が従前から車庫兼倉庫として使用していた別紙目録(ニ)の建物所在地を本店所在地とし、天ぷら専用粉「ニユー花ころも」の製造販売および天ぷら用具の製造販売を目的とする債務者有限会社美川屋を設立してその妻Dをその唯一の取締役に就任せしめたが、「ニユー花ころも」の袋に印刷されている債務者美川屋の電話番号は債務者小島屋のそれと同一であり、その所在地には美川屋の存在を示す看板その他なんらの表示もないのであつて、以上の経緯にてらすと、右Aは債務者小島屋として今日なお「ニユー花ころも」を製造販売して債権者と不正に競業しているところから、その追及を免れるために実体のない債務者美川屋を設立したものであることは明らかである。
(七) 以上の次第で、債務者らによる「ニユー花ころも」の製造販売は第五項(3)の約定および商法25条の規定に違背し、かつ不正競争防止法1条1項1号に該当するから、債権者は債務者らに対しその行為の差止請求権を有するものというべく、よつて債権者はその本案訴訟を提起すべく準備中であるが、その勝訴判決をまつときは回復しがたい損害を受けるおそれがあるので、
債権者らに対し天ぷら製造用小麦粉の製造販売を禁止するとともに、債権者らが別紙目録記載の建物内に保有する「ニユー花ころも」の既製品および半製品ならびにその製造用機械器具一切に対する債務者らの占有を解きこれを長野地方裁判所執行官に保管させる旨の仮処分を求める。
と述べた。(疎明省略)ニ 債務者訴訟代理人は「原決定中債権者の申請を認容した部分を取消す。
本件仮処分申請を却下する。」との判決および第一項につき仮執行の宣言を求め、申請の理由に対し「(一) 債務者は、債務者小島屋は昭和四四年六月三〇日債権者に対しその営業の一部である主として天ぷら専用粉の製造販売に関する営業を譲渡したものであるから、同債務者は商法25条の規定により競業避止業務があるというが、同債務者は債権者にその営業を譲渡したものではない。即ち同債務者の代表者であるAは事業拡張の目的で別会社を設立し、同債務者においてこれを援助したにすぎず、同債務者は従前どおり右の営業を継続してきたのである。
(ニ) また、債権者は、債務者らによる「ニユー花ころも」の製造販売行為は不正競争防止法1条1項1号に該当するので債権者は債務者らに対しその差止請求権を有するというが、しかしながら、もともと「花ころも」は債務者小島屋の商標として広く認識されているものであつて、債権者のそれとして認識されているものではないのみならず、債務者らにおいては「花ころも」に非ずして「ニユー花ころも」なる商標を使用しているものであるところ、本邦において「新」または「ニユー」なる呼称を付すると、一般にはこれを付さないものとは別異なものであるとの認識が広く行われているのであつて、従つてこれが債権者の商品と混同を生ずるおそれはないから、いずれにしても同法条号に該当する事由はない。」と答えた。(疎明省略) 理 由(一) 成立に争いのない疎甲第一九号証に証人E・同F・同G・同H・同Iの各証言および債務者有限会社小島屋代表者本人尋問の結果を総合すれば、Aは昭和二六年頃から別紙目録(一)記載の店舗において天ぷら等揚物の製造販売業を始め、
同二九年頃同所に惣菜の製造販売等を目的とする債務者有限会社小島屋を設立してその唯一の取締役に就任し、同会社においてその営業を承継したが、昭和三四年頃からはこれと併せて、長野市<以下略>の柄木田製粉株式会社から薄力粉なる小麦粉を購入してこれに若干の添加物を混入攪拌し、これを「花ころも」なる商標を付した袋に詰めて市販するようになり、その業績は逐次向上して、のちには添加物混入攪拌作業も右柄木田製粉に依頼して行うようになり、また別に袋詰め工場を設け、その宣伝活動と相まつて販路も拡大し、「小島屋の花ころも」ないしは「花ころもの小島屋」として広く知られるまでに好評を博し、債務者小島屋としては「花ころも」の製造販売はその営業の重要部分を占めるにいたつたことが疎明され、これに反する資料はない。
(ニ) いずれも成立に争いのない疎甲第一ないし第四号証に証人J・同K・同L・同Cの各証言ならびに債権者(但しその一部)および債務者小島屋各代表者本人尋問の結果を総合し、かつ疎甲第二二号証を検すれば、Aは、前説示のように好評を博しつつある「花ころも」を大量に製造販売して企業化すべく、かねて知合いのBの勧めもあつて別会社を設立することとし、昭和四四年四月一五日右両名およびC外四名をもつて、債務者小島屋の所在地に(のちに債権者肩書地に移転)天ぷら材料および天ぷら用器具の製造販売等を目的とする「株式会社花ころも」の設立を発起し、同年六月一日右A・B両名において各金三〇万円を出資し、その余はそれぞれの親族知人等から出資を得て資本金二〇〇万円の同会社を設立し、右Aがその代表取締役に選任され、右BはCとともにその取締役に就任して債権者会社が発足し、同月三〇日債権者小島屋から同社所有の「花ころも」既製品ならびにその添加物および袋等の包装資材等「花ころも」「製造販売のために同社が使用していた物品を、同社の電話器および軽四輪貨物自動車一台ならびに同社が販売品目に加えていた天ぷら鍋とともに代金一三四万〇、一五九円で買受けたほか、前記の袋詰め工場をも借受け、これらを使用して、債務者小島屋が行つていたと同様前記柄木田製粉から原料粉を購入して、これに添加物を混入攪拌し、これを債権者会社名とともに、債務者小島屋が使用していたそれと同一のデザインによる「花ころも」の商標を付したポリエチレン袋に詰め、これを主として債務者小島屋の大口取引先であつた食品販売業者に販売して営業を開始するにいたつたことが疎明され、これに反する資料はない。
(三) ここにおいて債権者は、昭和四四年六月三〇日債務者小島屋からその営業の一部である「花ころも」製造販売に関する営業を譲受け、その履行として前記の資材等の引渡しを受けたものである旨主張し、債権者代表者本人尋問の結果中にはこれにそう供述もみられるが、しかしながら、前顕疎甲第四号証(物品売渡書)には前記の各物品毎に数量・単価を掲記してその代金を算出し、これを債権者に売渡す旨記載されているのに対し、その営業を譲渡する旨の記載がないのみならず、第一項に説示したところからして、その営業が譲渡されたのであれば、そこにおいて最大の価値を有するものと思われる「花ころも」なる商標についてなんらふれるところがなく、かつ債務者小島屋においては有限会社法40条1項1号によつて要求されるはずの同法48条に定める決議がなされた形跡もないのであつて、右の事実にてらすと債権者代表者本人の右供述部分はとうてい措信しがたく、前記証人Cの証言および債務者小島屋代表者本人尋問の結果にてらせば疎甲第五号証・同八号証・同第一〇、一一号証も、前記証人J・同K・同Lの各証言とともに債権者の右主張事実を疎明するにたりるものではないし、他にこれを疎明するにたりる資料はなく、その際債務者小島屋は債権者に対し爾後「花ころも」の製造販売をしないと約束した旨の債権者の主張についても右と同断である。
(四) ところで、いずれも成立に争いのない疎甲第七および第九号証に債権者(但しその一部)および債務者小島屋各代表者本人尋問の結果を総合すれば、Aは同年八月特許庁に対し味付小麦粉の商標として「花ころも」の登録を出願したこと、および同四五年二月一七日債権者会社の取締役を辞任し、その後任代表取締役に前記Bが就任したことが疎明されるところ、債権者は、その際右Aは債権者に対し右の商標登録出願人名義を債権者に変更することを約するとともに、債務者小島屋において債権者の営業に対し有形無形を問わず一切の妨害行為を行わない旨の誓約書を提出することを約した旨主張するので按ずるのに、たしかに疎甲第八号証(取締役会議事録)には右の主張にそう記載があるが、前記証人のCの証言および債務者小島屋代表者本人尋問の結果によれば、Aは同日取締役辞任後債権者取締役会の席上右のような約束をするよう要求されたがこれを拒否して中途退席したことがうかがわれるから、右議事録の記載は債権者の要求がそのようなものであつたというに止まつて、同人がそのような約束をしたことの疎明とはなしがたく、他には右各資料に対比して当裁判所の措信しない前記証人Jおよび証人Mの各証言ならびに債権者代表者本人尋問の結果の一部を除いて債権者の右主張事実を疎明するにたりる資料はない。
(五) してみると、債務者小島屋が債権者主張の「ニユー花ころも」を製造販売しているかどうかはしばらくおき、これに対し商法25条の規定および同債務者との間の契約に基くその差止請求権を有する旨の債権者の主張は既にその前提において理由がないというべく、債務者美川屋に対する同旨の主張にいたつては、その設立経緯ないしは法人としての実体を問うまでもなく理由がないことは上述したところから明白である。
(六) いずれも成立に争いのない疎甲第一二号証、同第二〇、二一号証に前記証人Cおよび証人Eの各証言ならびに債務者小島屋代表者本人尋問の結果を総合し、
かつ同第二三および三〇号証を検すれば、Aは債権者会社取締役辞任後の昭和四五年四月頃債務者小島屋として従前と同一の方法で天ぷら専用粉の製造販売を再開したが、食品添加物の有害法が論議の的にされていた折柄、従前使用していた黄色四号なる着色剤の使用を止めてビタミンによる着色に替え、かつ玉子粉等を新たに混入するなどの改良を加えて、これを製造販売元天ぷらの小島屋とし「花ころも」の頭に「ニユー」と横書きし、かつ「玉子入り」と記載したほかは債権者の製造販売する「花ころも」のそれとほぼ同一のデザインになるポリエチレン袋に詰めて従前の取引先等に販売していたところ、同年五月同人は別紙目録(二)記載の建物所在地に「ニユー花ころも」の製造販売等を目的とする債務者有限会社美川屋を設立してその唯一の取締役にDを就任せしめ、爾後は債務者美川屋において「ニユー花ころも」を製造し、これを債務者小島屋がその販路にのせて販売することとなり、のちにその商標を「ニユーはなころも」と改めて現在にいたつていることが認められるところ、これら「ニユー花ころも」ないしは「ニユーはなころも」なる商標はいずれも債権者の商品たることを表示する「花ころも」なる商標と類似するものであつて、これが販売は政権者の商品と混同を生ぜしめる行為であるといわなければならないが、しかしながら、前記証人F・同G・同Iの各証言および債務者小島屋代表者本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、そもそも「花ころも」なる商標は債権者がこれを付した天ぷら専用粉を販売するにいたる以前から債務者小島屋の販売する天ぷら専用粉を表示する商標として長野県およびその周辺諸県等に周知せられていたものであつて、同債務者はこれが使用を債権者に許諾したものであることがうかがわれるから、他に特段の事情の存しない限り、同債務者による「ニユー花ころも」ないしは「ニユーはなころも」の販売がいかなる目的ないし意図のもとになされたかを問うまでもなく、債権者に対し不正競争防止法1条1項1号の規定によつてその販売行為の差止めを請求することはできないものというべく、そして債務者美川屋に対してこれを請求することができないことはもはや多言を要しないところであつて、ましてその製造行為の差止めを請求しうべく事由はなんら存しない。
(七) 以上の次第で「債権者の本件仮処分申請は結局被保全権利の疎明がないことに帰するから却下を免れず、よつて、これと判断を異にする原決定中の債務者両名に関する部分を取消すこととし、申請費用の負担につき民事訴訟法89条を、仮執行の宣言につき同法196条1項を各適用して主文のとおり判決する。
(別紙目録省略)