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事件 平成 10年 (ワ) 3008号 不正競争防止法に基づく差止等請求事件
平成 10年 (ワ) 9482号 損害賠償等請求事件
第一事件原告(第二事件被告) ミノル工業株式会社 右代表者代表取締役 【A】 第一事件原告 株式会社マーベル 右代表者代表取締役 【B】 右二名訴訟代理人弁護士 小野田学
同 若原俊二右補佐人弁理士 【C】 第一事件被告(第二事件原告) ジェフコム株式会社 右代表者代表取締役 【D】 右訴訟代理人弁護士 深井潔右補佐人弁理士 【E】
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1999/12/21
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 第一事件原告らの請求をいずれも棄却する。
二 第二事件被告は、第二事件被告商品「Jetライン」の包装に、「形状をまねた類似品にご注意下さい。」との表示を付してはならない。
三 第二事件被告は、第二事件原告に対し、金八〇万円及びこれに対する平成一〇年九月一二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四 第二事件原告のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用は、第一事件及び第二事件を通じてこれを一七分し、その一一を第一事件原告(第二事件被告)ミノル工業株式会社の負担とし、その一を第一事件原告マーベル株式会社の負担とし、その余を第一事件被告(第二事件原告)の負担とする。
六 この判決は、二項及び三項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
事実及び理由は、別紙事実及び理由記載のとおりであり、第一事件原告らの請求はいずれも理由がなく、第二事件原告の請求は、主文二項及び三項掲記の限度で理由があるから、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成一一年一一月二日)
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事実及び理由なお、書証番号は甲1などと略称し、枝番のすべてを示すときは枝番の記載を省略する。
第1請求(第一事件)1第一事件被告は、別紙第二目録記載の各商品を製造、販売し、販売のために展示してはならない。
2第一事件被告は、前項記載の商品を廃棄せよ。
3第一事件被告は、第一事件原告ミノル工業株式会社に対し、金2400万円及びこれに対する平成10年11月18日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
(第二事件)1第二事件被告は、第二事件被告商品「Jetライン」の広告・包装に、「形状をまねた類似品にご注意下さい。」との表示を付してはならない。
2第二事件被告は、第二事件原告に対し、金1320万円及びこれに対する平成10年9月12日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3第二事件被告は、雑誌「電気と工事」に1回宛、別紙案文記載の案文により、
標題にはゴシック4号活字を、当事者双方の住所、名称、氏名には4号活字を、その他の文字に5号活字を使用し、全ページにて印刷した謝罪広告を掲載せよ。
4第二事件被告は、業界紙「電気商工新聞」と「電材流通新聞」に各1回宛、別紙案文記載の案文により、標題にはゴシック4号活字を、当事者双方の住所、名称、氏名には4号活字を、その他の文字に5号活字を使用し、3段抜きにて印刷した謝罪広告を掲載せよ。
第2事案の概要(争いのない事実等)1当事者第一事件原告(第二事件被告)ミノル工業株式会社(以下「原告ミノル」という。)は、諸作業工具の製造、販売等を目的とする株式会社である。
第一事件原告株式会社マーベル(以下「原告マーベル」といい、原告ミノルと合わせて「原告ら」という。)は、電設工具・機械工具等の国内卸販売を主たる業務とする株式会社であり、原告ミノルの製品を一手に卸販売している。
第一事件被告(第二事件原告)(以下「被告」という。)は、電設工事用機械工具及び電設工事用資材の製造、販売等を目的とする株式会社である。
2(1)原告ミノルの代表者である【A】は、次の意匠権を有している(以下「本件意匠権」といい、その意匠を「本件登録意匠」という。)。
出願日昭和56年10月8日(意願昭56-44869号)登録日昭和60年9月13日登録番号第667554号意匠に係る物品呼び線説明本物品は、連結金具より継手部迄の長さが20pで、又撚線部分は下端に連続し、全長が30mである。
登録意匠別紙意匠公報(第667554号)所定欄掲載のとおり。
(2)本件意匠権には、次の類似意匠が合体している。
出願日昭和56年10月8日(意願昭56-44870号)登録日昭和60年9月13日登録番号第667554号の類似1号意匠に係る物品呼び線説明本物品は、連結金具より継手部迄の長さが15pで、又撚線部分は下端に連続し、全長が30mである。
登録意匠別紙意匠公報(第667554号の類似1)所定欄掲載のとおり。
(3)原告ミノルは、本件意匠権の独占的通常実施権を有している(弁論の全趣旨)。
(4)なお、呼び線とは、電線・通信等の電線類の(主として)屋内配管への挿通の便に供せられるものである。その使用方法は、先ず、呼び線を配管の一端から、真っ直ぐあるいは屈曲した管の内壁に沿って押進・挿通させて、他端に出た呼び線の先端部に電線類を取り付け、しかる後、挿入開口部の外に残存する呼び線の残部を、挿入開口部側に逆方向に引っ張り出して呼び線を引き戻すことによって、電線類を配管内に引き入れて配設するものである。
3原告ミノルは、昭和56年11月、「Jetライン」の商品名で、別紙第一目録記載の呼び線(以下「原告商品」という。)の製造、販売を開始した。
4被告は、次のとおり呼び線を製造、販売している。
(1)平成2年4月から平成8年末ころまで、別紙呼び線一覧図の被告商品D欄記載のような形状の商品名「ブルーエース」の呼び線(検乙1。以下「被告商品D」という。)を製造、販売した。
(2)平成8年末以降、「ブラックエースT」の商品名で、別紙第二目録記載1の呼び線(以下「被告商品E」という。)を製造、販売している。
(3)平成9年末以降、「ブラックエースU」の商品名で、同目録記載2の呼び線(以下「被告商品F」という。)を製造、販売している。
(4)平成10年以降、「ニューブルーエース」の商品名で、同目録記載3の呼び線(以下「被告商品G」という。)を製造、販売している。
(以下被告商品DないしGを併せて、単に「被告商品群」という。)5原告ミノルによる広告・表示原告ミノルは、月刊誌「電気と工事」の昭和62年12月号から平成5年8月号までの間の合計48号に、「形状をまねた類似品にご注意下さい。」という表示を付した原告商品の広告を掲載した(乙21。以下「本件広告」という。)。
また、原告ミノルは、遅くとも平成7年9月8日から平成10年8月3日まで、
原告商品の包装に、「形状をまねた類似品にご注意下さい。」という表示を付した(乙25、弁論の全趣旨。以下「本件表示」という。)。
(第一事件における原告らの請求)1原告らは、原告商品の形態は原告ミノルの商品表示として周知であるところ、
被告商品群の形態は、原告商品の形態類似し、混同のおそれがあるから、被告が被告商品群を製造、販売することは、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争であるとして、(1)原告らは、被告に対し、同法3条に基づき、被告商品EないしGの製造、販売の差止め等を求めるとともに、(2)原告ミノルは、被告に対して、同法4条に基づき、被告が被告商品群を製造、販売したことにより原告ミノルが被った損害の賠償を求めている。
2また、被告商品群の意匠は、本件登録意匠に類似するから、被告が被告商品群を製造、販売することは、原告ミノルの有する本件意匠権の独占的通常実施権を侵害するとして、原告ミノルは、被告に対し、(1)被告商品EないしGの製造、販売の差止め等を求めるとともに、(2)被告が被告商品群を製造、販売したことにより原告ミノルが被った損害の賠償を求めている。
3原告ミノルの1と2の各請求は、1が主位的請求であり、2が予備的請求である。
(第二事件における被告の請求)被告は、原告ミノルに対し、本件広告及び本件表示(ただし、被告は、本件表示が付された始期を昭和62年9月ころと主張する。)は、被告の営業上の信用を害する虚偽の事実を流布する行為であるから、不正競争防止法2条1項13号所定の不正競争であるとして、同法3条に基づき、本件広告及び本件表示の差止めを求めるとともに、同法4条及び7条に基づき、損害賠償及び謝罪広告を求めている。
(第一事件の争点)1不正競争防止法違反について(1)原告商品の形態は、原告の商品表示として周知か。
(2)原告商品の形態と被告商品群の形態は類似するか。
(3)被告が被告商品群を製造、販売することは、原告商品と混同を生じさせるか。
2被告が、被告商品群を製造、販売することは、本件意匠権を侵害するか。
3原告ミノルが被った損害の額。
(第二事件の争点)1本件広告及び本件表示は被告の営業上の信用を害する虚偽の事実の流布に当たるか。
2原告ミノルに、故意又は過失はあるか。
3損害の額及び消滅時効
4謝罪広告の必要性。
第3争点に関する当事者の主張(第一事件の争点に関する当事者の主張)1争点1(1)(周知な商品表示)について【原告らの主張】原告商品の製造、販売が開始された時点での市場に流通していた呼び線の線条本体は、スチール・ワイヤーの平線か、ポリアセタール樹脂線条円口径の一本で形成されたもののみであった。
そのような状況で、線条本体をポリエチレンテレフタレートの3本の撚線形状とし、これに黒の色彩を施し、線条本体から真っ直ぐに伸びた棒状ワイヤを介して連結金具を取り付けた、原告商品の形態は、取引者・需要者間において極めて特異な形態であると受け止められ、外観上容易に他の呼び線と識別できるものであった。
原告ミノルは、原告マーベルを通じて、原告商品を、全国の電気通信関係の資材・工具等に関する販売業者等及び最終需要者たる電気設備工事業者等に販売してきた。そして、原告商品は、別紙年度別販売数量記載のとおり、昭和61年ころから急速に販売量が伸び出し、平成8年末までの販売総数は46万本を超え、顕著な販売実績を達成している。
原告ミノルは、昭和57年3月以降、業界月刊誌「電気と工事」に多数回にわたって原告商品を広告したが、同広告は、写真で原告商品の形態が示されており、原告商品の形態上の特徴を認識することができるものであった。また、原告商品のカタログにおいても、原告商品の表面の写真や図面が掲載され、本件原告商品の形態を感得できるものがあった。
したがって、遅くとも昭和61年末までには、原告商品の形態は、その形態の特異性、販売実績、宣伝広告及び需要者による使用の実績により、原告ミノルの商品であることを示す表示として、取引者及び需要者の間において広く認識されるに至った。このことは、原告マーベルが依頼した「よび線購入・使用実態調査」(甲6)からも明らかである。
なお、呼び線の線条本体とその端部に取り付ける部材の形状と組み合わせには、
多種多様な選択が可能であるから、原告商品の形態が、技術的機能に由来する必然的・不可避的なものでないことはいうまでもない。
【被告の主張】(1)原告商品の形態は、商品の機能に由来するものであって、商品について自他を識別し、出所を表示するものではない。
(2)原告らが原告商品の特徴的形態と主張する呼び線の線条本体がプラスチックの撚線形状からなる点は、実公昭43-11160号実用新案公報(甲5の1)に開示されている古い技術である。また、昭和55年ころ販売されていた「KLEINTOOLS」(乙2)は、金属線を材料としているが線条本体の外形が撚線形状である呼び線である。さらに、米国特許第3028146号公報(特許庁資料館受入昭和37年11月27日、乙3)には、プラスチックフィラメントを撚った技術により呼び線を構成することが示唆されている。
原告らが原告商品の特徴的形態と主張する棒状ワイヤは、被告代表者の出願にかかる昭57-74623号公開実用新案公報(乙1)に、先端に金具を取り付け、
さらに誘導弾性線条連結材(棒状ワイヤ)を用いる構造・形状が開示されており、
原告商品のみが有する特徴的な形状ではない。
(3)原告は、原告商品の形態が原告の商品表示として周知であることの証拠として「よび線購入・使用実態調査」を提出しているが(甲6)、これによれば、原告の主張と逆の事実が明らかとなっている。
すなわち、同調査によれば、需要者は、ねじれのある黒い呼び線を、平成3年ころから使い始めたとの認識しかない。しかし、当時は、被告がねじれのある呼び線「シルバーエース」を発売して既に4年が経過していた。したがって、呼び線の線条本体が撚線形状であることは、原告商品と被告の上記商品の両者が市場に流通している状況の下に認識され始めたにすぎないから、原告商品の形態は原告の商品表示として周知ではない。
2争点1(2)(原告商品と被告商品群の類似性)について【原告らの主張】(1)原告商品の特徴的形態は、呼び線線条本体をポリエチレンテレフタレートの撚線とし、かつ、先端部を形成する棒状ワイヤにある。線条部の素材及び形状と、先端の棒状ワイヤは、両者相まって挿通効果に多大の寄与をしているのみならず、線条部本体撚線の外観形状と先端部の棒状ワイヤは、自ずと取引者又は需要者の目に触れ、かつ、これらの者の注意を引く特徴的形態をなすものである。
しかるに、被告商品群は、いずれも上記特徴的形態を具備している。しかも、被告商品F及びGにあっては、末端部にまで棒状ワイヤが付加され、被告商品E及びFにあっては、黒の撚線という色彩まで同一であり、被告商品Gの青も黒に近いブルーである。
また、被告商品Dも原告商品と類似する。
したがって、被告商品群は、原告商品と類似する。
(2)被告商品EないしGは、原告商品と同様の棒状ワイヤと連結金具で形成される先端部を具備している以上、末端部に環状ワイヤがある点については、原告商品に対する機能的付加があるにすぎず、商品全体として形態としての同一性は損なわれない。
【被告の主張】(1)被告商品群には、原告商品にはないビニール被覆があり、また、被告商品EないしGには、原告商品にはない環状ワイヤが設けられている。
したがって、被告商品群は、一見して明らかに原告商品とは異なる形状として、
明確に区別して認識される。
(2)原告らは、環状ワイヤは機能的付加にすぎないと主張するが、環状ワイヤは結線作業を従来品とは比較にならないほど迅速に行えるようにしたもので、取引者及び需要者が、構造、形状、挿通性、通管能力等の面で原告商品と比較した場合、非常に特徴的なものと認識される。
3争点1(3)(混同のおそれ)について【原告らの主張】(1)撚線の外観を呈する呼び線を製造している会社は、原被告の二社しかなく、原告商品と被告商品群とは、規格及び使用目的等において同じであるから、両者は、
需要者においてはもちろんのこと、製品の販売先も競合している。
したがって、呼び線の形態に着目する取引者又は需要者が、原告商品と類似する被告商品群を見た場合には、これらを、用途に応じた原告商品の改変、あるいは単なる改良として認識し、原告商品と誤認混同するおそれがある。
(2)原告商品の表示札には「Jetライン」、被告商品群のそれには「ブラックエース」、「ブルーエース」又は「ニューブルーエース」というそれぞれの商品名称とそれぞれの製造者名が明記されている。
しかし、呼び線そのものの形態は、表示札に比べて格段に強く需要者の注意を引くものである。需要者は、自己の記憶にある周知の原告商品の形態と目前にある被告商品群の類似形態とを結びつけようとし、原告商品と被告商品群の相違点には気を止めないおそれがある。
他方、需要者は、商品名称や製造社名に関心がなく、しかも呼び線は店頭においてバラ単位で購入され、表示札は購入と同時に廃棄されるのが一般である。仮に店頭で購入するのでなくとも、顧客は、販売員の持ってくる見本帳やカタログを見てどの呼び線を選ぶか決めるのであり、誰の製造であるかに関心がない。
また、取引者も、取引の当初においては、主としてその商品の形態に着目し、現物に当たって取引が開始するのが通常であると考えられ、その際に、原告商品と被告商品群との出所について誤認混同すれば、以後誤認混同に陥ったまま取引が継続されるおそれがあることは否定できない。
したがって、原告商品及び被告商品群の表示札に商品名称及び製造者名が記載されていることをもって、混同のおそれを否定することはできない。
【被告の主張】原告商品と被告商品群の包装や広告には、互いに全く異なる商品名が明確に付されているのであるから、誤認混同されることはあり得ない。
4争点2(本件意匠権の侵害)について【原告ミノルの主張】(1)被告商品群の意匠は、本件登録意匠と類似する。
本件登録意匠は、長尺の撚線形状の線条本体の先端側に接続金具を介して棒状ワイヤを接続し、棒状ワイヤの先端部に連結金具を接続し、これらを直線上に一体的に接続してなる意匠である。そして、本件登録意匠は、@線条本体に撚線形状を採用したこと、A線条本体と連結金具との間に短い金属ワイヤ(棒状ワイヤ)を連繋せしめたこと、B線条本体と棒状ワイヤの連繋に金属筒体からなる接続金具を採用したことに特徴があり、それらが有機的に結合して全体の美感を生み出して特有の審美的効果を発揮させているから、本件登録意匠の要部は、線条本体、接続金具、
棒状ワイヤで一体化された意匠部分にあるといえる。
被告商品群の意匠も、長尺の撚線形状の線条本体、接続金具、棒状ワイヤで一体化された意匠部分を有し、本件登録意匠と類似している。
なお、本件登録意匠の連結金具の形状は、出願前から公知の形状であったから、
被告商品群の意匠との類否の判断に当たって、連結金具の形状の違いに重きを置くことは相当でない。その上、連結金具の形状の違いは、物品全体の形状から見ると微細な差異に過ぎず、看者に異なった印象を与えるものではない。
(2)被告商品EないしGの意匠は、本件登録意匠を利用している。
被告商品EないしGの意匠は、連結金具、棒状ワイヤ、接続金具及び線条本体の他に、接続金具及び環状ワイヤ(被告商品Eの場合)又は接続金具、棒状ワイヤ、
接続金具及び環状ワイヤ(被告商品F及びGの場合)を、線条本体の他端に付加したものからなっている。
しかしながら、被告商品EないしGの意匠のうち、連結金具、棒状ワイヤ、接続金具及び線条本体で形成される部分の意匠は、本件登録意匠又はこれに類似する意匠の全部を、その特徴を破壊することなく、線条本体の他端に付加された意匠と区別し得る態様において包含している。そして本件登録意匠は、線条本体の他端側形状は対象外として出願され、その形状のいかんを問わないものとして設定登録されている。
したがって、被告商品EないしGの意匠が、全体として一個の意匠をなしているとしても、この意匠を被告が実施することは必然的に本件登録意匠を実施するという関係、つまり利用関係にあるのである。
【被告の主張】呼び線の意匠登録の状況を見ると、連結金具の形状が異なると、非類似の意匠として登録されている。そして、被告商品群の意匠と本件登録意匠を比較すると、被告商品群の連結金具は先端に丸みがあり外周が略円形であるのに対し、本件登録意匠の連結金具は先端が三角形状に尖り外周が六角と、連結金具の形状が非常に異なっているから、両者は非類似である。
また、被告商品Eの意匠は、連結金具のある端部とは逆の線条本体の端部に環状ワイヤを形成しており、被告商品F及びGの意匠も、同端部に接続金具、棒状ワイヤ、環状ワイヤを形成しているから、本件登録意匠と類似しない。
5争点3(損害の額)について【原告ミノルの主張】被告は、平成7年6月から平成10年5月までの間、故意又は過失により、被告商品群を合計4万8000本販売しているところ、1本当たり少なくとも500円の利益を得ているため、被告は、被告商品群を販売することにより、金2400万円の利益を得ている。
したがって、原告ミノルが被告の不正競争により受けた損害額も、金2400万円と推定される。
【被告の主張】争う。
(第二事件の争点に関する当事者の主張)1争点1(営業上の信用を害する虚偽の事実の流布)について【被告の主張】撚線形状の呼び線の市場には、原告ミノルの商品と被告の商品だけが供給されているが、そのような状況の下、原告ミノルが、本件広告又は本件表示を付すことは、問屋、小売店、一般需要者に対し、被告の商品「シルバーエース」、「ブルーエース」、「ブラックエース」が粗悪な模造品であって、加えてそれが原告ミノルが所有する権利を侵害するかのごとき誤った印象を与えることになる。
被告の上記商品は、被告自らが考え出したものとして、実用新案登録と意匠登録を受けていることから明らかなとおり、何ら原告商品をまねたものではない。
【原告ミノルの主張】(1)本件広告及び本件表示は、「形状をまねた」とするのみで、まねた主体を名指しするわけではないし、「粗悪」とも「模造」とも「権利侵害」とも表示していない。
(2)被告は、昭和61年末に発売した商品名「シルバーエースT」という呼び線で、撚線そのものをまね、昭和62年7月に発売した商品名「シルバーエースU」という呼び線で、3本撚線形状たる外観をまね、平成2年4月に発売した被告商品Dで、3本撚線形状と先端の棒状ワイヤをまね、平成8年末に発売した被告商品Eで、3本撚線形状と先端の棒状ワイヤの上に色彩までまね、平成9年末に発売した被告商品Fで、3本撚線形状と先端の棒状ワイヤと色彩の上に末端の棒状ワイヤまでまね、平成10年1月に発売した被告商品Gで、3本撚線形状と先端及び末端の棒状ワイヤをまねた。
したがって、本件広告及び本件表示は虚偽ではない。
2争点2(故意又は過失)について【被告の主張】被告は、原告商品をまねた事実がなく、原告商品と被告の製造、販売した呼び線とは、形態も商標も異なり、誤認混同のおそれもなかったのである。このような状況にありながら、被告の営業活動に著しい悪影響を与えるために誹謗中傷しようとする悪意に基づき、原告ミノルが「形状をまねた類似品にご注意下さい。」の表示を付し続けたことは、故意又は過失があったものと考えられるべきである。
【原告ミノルの主張】被告は、これまで、原告商品の線条本体における撚線形状をまね続けているばかりでなく、原告商品の先端部における棒状ワイヤの形態をまねる行為を繰り返してきたのであって、原告ミノルは、被告による被告商品群の製造販売行為により、自己の営業上の利益を害されると危惧し、自己防衛のため、やむを得ず、本件広告及び本件表示のような注意表記をなさざるを得なかった。
本件広告及び本件表示において用いられている文言の体裁、当該文言が使用されるに至った動機、経緯等を総合的に判断すると、原告ミノルが本件広告及び本件表示を行ったことには、やむを得ざる事情があると認められ、原告ミノルには、故意又は過失はない。
3争点3(損害の額)について【被告の主張】被告は、本件広告及び本件表示のために、正当な営業活動に多大の支障を受け、
販売数量の減少があったことは間違いない。また、本件広告及び本件表示は、被告に対し、計り知れない精神的苦痛を与え続けた。
よって、被告が被った損害は、少なくとも1か月当たり10万円を下らない。
原告ミノルは、この不当な表示を付す行為を、昭和62年9月より約11年間にわたり継続して行ったのであるから、被告は少なくとも金1320万円の損害を被ったことになる。
【原告ミノルの主張】(1)被告の主張は争う。
(2)被告が原告ミノルに対し第二事件において請求している損害賠償請求権のうち、訴え提起時(平成10年9月8日)において発生から3年が経過したものについては、消滅時効を援用する。
4争点4(謝罪広告の必要性)について【被告の主張】原告ミノルは、現在でもなお、本件広告及び本件表示が不当であったと認めていないとともに、過去に原告ミノルが不当な表示を付し続けた行為に起因する被告の著しく害された信用は回復できていないのであり、被告にとって謝罪広告を求める理由は十分に存在している。
また、約10年以上もの長年の間、しかも被告がこのような不当な表示を付さないように求める書簡を送付した後に至っても、社会通念上からも許されない誹謗中傷する表示を付し続けたことは、極めて悪質な事例に該当するのであり、原告ミノルは、当然、被告の信用を回復するために謝罪広告を行うべきである。
【原告ミノルの主張】原告ミノルは、既に主張したとおりの動機・経緯で、本件広告及び本件表示に及んだもので、このような原告ミノルに対し、心にもなく、被告に対する「陳謝」ましてや将来にわたる制約などを強制することは、原告ミノルの沈黙の自由を侵害するものといわざるを得ず、被告の求める謝罪広告は絶対に許容されるべきではない。
また、原告ミノルは、現在本件広告及び表示をしていないから、謝罪広告の必要は全くない。
第4当裁判所の判断(第一事件について)1争点1(1)(周知な商品表示性)について(1)元来、商品の形態は、主としてその具備する機能を最も良く発揮させる目的や美感を高める目的で選定されるものであって、商標のように商品の出所を識別させる目的で選定されるものではない。しかし、当該商品の形態が同種の商品と識別できるだけの個性的な特徴を示す場合には、長期間独占的に使用するとか、宣伝広告を積極的に展開するとか、種々の媒体に取り上げられるとか、多くの販売実績を積み重ねるとかの事情が重なることによって、需要者の間において、その形態を有する商品は特定の事業者が製造販売している商品であるとの認識が浸透することがあり得、その場合には、商品形態も不正競争防止法2条1項1号にいう周知の商品表示たり得ると解される。
ところで、本件における不正競争防止法に基づく請求は、(ア)被告商品EないしGの製造、販売の差止め等、(イ)平成7年6月から平成10年5月までの間に被告が被告商品群を製造、販売したことによる損害賠償である。したがって、本件において、原告商品の形態が原告商品であることの商品表示として周知性を有しているか否かを判断する基準時は、(ア)の関係では現時点(本件の口頭弁論終結時)であり、(イ)の関係では平成7年6月以降ということになる。
(2)そこでまず、原告商品の形態の特徴性、販売量及び宣伝広告の状況について見ると、後掲各証拠によれば、次の事実が認められる。
ア検甲1によれば、原告商品の形態は、連結金具、棒状ワイヤ、接続金具、線条本体、連結金具からなっているが、その線条本体は、ポリエチレンテレフタレートの3本の撚線形状であって、黒の色彩が施されており、また棒状ワイヤは線条本体よりも小径の金属製である。他方、検甲4、5及び弁論の全趣旨によれば、原告商品が発売される昭和56年11月より前の市場においては、呼び線の線条本体は、
スチールワイヤの平線又はポリアセタール樹脂製線条円口径の1本で形成されたものであって、棒状ワイヤを介することなく、線条本体に連結金具が取り付けられたものが一般的であったと認められる。
したがって、原告商品の形態は、その発売当初、3本の撚線形状の線条本体を有している点及び線条本体よりも小径で金属製の棒状ワイヤを有している点で、相当程度の特異性を有していたものと認められる。
なお、被告は、原告商品の線条本体の形態が特異なものでないと主張するが、被告がその理由として指摘するもの(甲5の1、乙1ないし3)は、いずれも原告商品の線条本体の形態とは大きく異なるものか、単なる技術文献にすぎず現実の取引社会において流通していたものか否か不明なものであって、現実の取引社会における原告商品の形態の特異性を否定できるものではない。
イまた、甲3によれば、原告マーベルによる原告商品の販売数は、別紙年度別販売数量記載のとおりであると認められるが、それによれば、原告商品の年間販売数は、当初の3年間は年間3000ないし4000本であったものが、昭和59年以降増加し始め、昭和61年ころに、原告商品の発売以前から原告らが製造、販売していた呼び線(商品名「イエローライン」)の年間販売数を抜いて、年間3万本を超えたことが認められる。また、それ以後も販売数は増加し、平成2年には年間約6万を超えたが、以後は減少し、平成7年の時点では年間約3万本の販売数となっていたことが認められる。
ウさらに、甲10、11によれば、原告ミノルは、業界月刊誌「電気と工事」の昭和57年3月号から平成9年9月号までの間に合計126号にわたり原告商品の広告を掲載しているが、うち昭和57年3月号から昭和63年6月号までと、昭和63年8月号から同年12月号までの広告は、棒状ワイヤの形態を強調したものであって、撚線形状の線条本体の形態を特段強調するものではないのに対し、昭和63年7月号と昭和64年1月号から平成9年9月号までの広告は、棒状ワイヤと撚線形状の線条本体の形態を強調したものであったことが認められる。
(3)他方、弁論の全趣旨によれば、被告は、昭和61年末ころから商品名「シルバーエース」という3本の撚線形状の線条本体を具備する呼び線(ただし連結金具、
線状本体、連結金具から成り、線状本体は銀色のもの)を、平成2年4月ころから被告商品Dといった3本の撚線形状の線条本体と棒状ワイヤを具備する呼び線を、
それぞれ販売していたことが認められ、乙24によれば、昭和63年から平成7年までの間のそれら被告商品の販売数は、年間合計1万本前後となっていたことが認められる。そうすると、それら被告の販売していた呼び線の販売数は、原告商品の販売数には劣るものの、原告商品の販売数の約20%ないし30%程度に達するのであって、撚線形状の呼び線を製造、販売しているのが原告らと被告のみであるという市場の状況の下では、このような被告の販売量も無視できないというべきである。
(4)また、甲6(よび線購入・使用実態調査)によれば、次のような呼び線の取引の実情が認められる。
ア工事業者における呼び線の取引の実情(ア)工事業者のうち平成10年1月時点において撚線形状の線条本体を具備する呼び線を使用している者又は過去に使用したことがある者は、100名中87名(その内訳は、原告の商品が19名、被告の商品が26名、両方が2名、無回答が35名、その他が5名)にも及ぶが、そのうち納入業者の薦めや同業者が使っているのを見て購入し始めた者が、61名を占めている。また、その使用開始時期は、
4年以内(平成6年以降)が35名、5〜9年以内(平成元年〜5年)が15名、
10年以上前(昭和63年以前)が31名という状況であり、平均は5〜7年前(平成3年〜5年)からである。
また、呼び線を選ぶときに撚線形状のものであることを重視する要素の一つであると答えた業者(53名)のうち、原告の商品を使用している者は11名で、被告の商品を使用している者は18名であった。
(イ)そして、呼び線は非消耗工具であるところ、電気工事業者は大半が従業員2〜5人の「一人親方」の業者であり(100名中52名)、呼び線を年間1回程度しか注文しない(100名中62名)ため、年間1〜2本程度しか呼び線を注文していない。また、呼び線を注文する際は、電材問屋に対し「スチールの**メーターもの」といって注文するケースが多く(100名中51名)、ブランドや品番を指示する業者は調査対象の業者には存在しなかった(「スチール」とは、呼び線の業界用語である。)。
その結果、現在では撚線形状のものが呼び線としては当たり前であると認知されている一方で、ブランドやメーカー名の区別をしてはおらず、どちらも認識していない電気工事業者が多い。
イ電材問屋における呼び線の取引の実情電材問屋では、原告及び被告がどんな名称、品番の商品を販売しているのかは知っているが、現物を見せてもそれがどちらのメーカーの何番の商品かをカタログを見ずに答えることができるほどの把握はしていない(撚線形状の呼び線でもそのことは妥当する。)。
電気工事店の電話注文に対して、原告の商品又は被告の商品のどちらの商品を仕入れるかは担当者の判断に任せている。
(5)以上の事実からすると、まず、原告商品の形態は、それが発売された当初である昭和56年の時点では、相当程度の特異性を有しており、販売数も増加していき、昭和61年ころには原告の従来商品の販売数を上回るほどとなったが、ちょうどそのころに、同様の撚線形状を有する被告の商品(「シルバーエース」)も発売され、その後、平成2年には被告商品Dも発売されるに至って、平成7年まで相応の販売数を確保している。そして、平成10年の時点での需要者に対するアンケート調査では、撚線形状を重視する需要者の間でも原告商品と被告商品の使用者数が拮抗している状況にある。したがって、平成7年6月から現在までの間、原告商品の形態が長期間独占的に使用されていたものとはいえない。
また、原告は、多数の宣伝広告を業界月刊誌に掲載していたが、昭和63年6月以前は、撚線形状を特に強調する内容ではなかった上、エンドユーザーである電気工事業者は、撚線形状の呼び線を、納入業者の薦めや同業者が使っているのを見て購入し始めたというのであるから、上記広告が、原告商品の形態は特定の事業者が製造、販売する商品であるとの認識を浸透させるのに、それほど効果的であったとは認められない。
また、電気工事業者が撚線形状の線条本体を具備する呼び線を使い始めたのは、
平均して平成3年から5年というのであり、その時点では被告商品Dも発売されていたから、それ以前に、電気工事業者の間に、原告商品の形態は特定の事業者が製造、販売する商品であるとの認識が浸透していたとは認められない。
さらに、呼び線は非消耗工具であるから、各電気工事業者は、呼び線を年間に1、2本注文する程度にすぎず、しかも注文する際にも、電材問屋に「スチール」という一般名称で特定して注文しているのであって、呼び線のメーカーに全くこだわらず、注文した呼び線がどこのメーカーのものか全く気にしていない状況がうかがわれる。このような電気工事業者の呼び線に対する関心度からすると、電気工事業者にとって、呼び線の形態が特定の事業者の出所を表示するものとして機能するとは考えられない。そして、そのような一般名称による注文を受けた電材問屋は、
原告の商品又は被告の商品のどちらの商品を仕入れるかを担当者の判断に任せているというのであって、原告商品と被告商品群との区別は非常に曖昧なものといわざるを得ない。
また、電材問屋も、原告商品の形態を見ても、それが原告の商品か被告の商品か区別できないのであるから、電材問屋の間においても、原告商品の形態は特定の事業者が製造、販売する商品であるとの認識が浸透していたと認められない。
(6)以上のことからすると、原告商品の形態は、その発売当初、相当程度の特異性を有していたと認められるものの、その後の市場の状況や呼び線の取引の実情に照らして考えた場合、平成7年6月の時点から現在までの間に、需要者の間において、原告商品の形態は特定の事業者が製造、販売する商品であるとの認識が浸透していたとは認められないから、原告商品の形態が周知な商品表示であると認められない。
(7)以上より、その余の争点について判断するまでもなく、被告が被告商品群を製造販売する(した)ことは、不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当しないから、原告らの同法に基づく請求は理由がない。
2争点2(意匠権侵害)について(1)本件登録意匠は、別紙意匠公報(第667554号)所定欄掲載のとおりであり、連結金具、棒状ワイヤ、接続金具及び線条本体という基本的構成態様を有するものである。
これに対し、被告商品Dは、連結金具、棒状ワイヤ、接続金具、線条本体及び連結金具という基本的構成態様を有し、被告商品Eは、連結金具、棒状ワイヤ、接続金具、線条本体、接続金具、環状ワイヤという基本的構成態様を有し、被告商品F及びGは、連結金具、棒状ワイヤ、接続金具、線条本体、接続金具、棒状ワイヤ、
接続金具、環状ワイヤという基本的構成態様を有するものである。
したがって、本件登録意匠は、連結金具、棒状ワイヤ、接続金具がある端部(先端部)とは逆の線条本体の端部(末端部)には何もないのに対し、被告商品Dは、
同端部に連結金具を具備し、被告商品Eは接続金具及び環状ワイヤを具備し、被告商品F及びGは、接続金具、棒状ワイヤ、接続金具及び環状ワイヤを具備しており、いずれも本件登録意匠の基本的構成態様と異なるものである。
(2)ところで、別紙意匠公報(第667554号)の説明欄の記載によれば、本件登録意匠は、全長30mであるのに対し、先端金具より継手部までの長さが20pであると認められ、物品のほとんどを黒い撚線の線状本体部分が占めるものである。そしてまた、このような形態が呼び線の線状本体の形態として周知のものであったと認めるに足りる証拠はない(被告が指摘する甲5の1、乙1ないし3に現われた呼び線の形態は、いずれも本件登録意匠の線条本体の形態とは異なると認められる。)。
したがって、本件登録意匠のうち、黒い撚線の線状本体部分が、視覚的に強い印象を与えるものであることは否定できない。
(3)他方、呼び線とは、前記第2(争いのない事実等)2(4)記載のとおり、電線・通信等の電線類の(主として)屋内配管への挿通の便に供せられるものであり、呼び線を配管の一端から、真っ直ぐあるいは屈曲した管の内壁に沿って押進・挿通させて、他端に出た呼び線の先端部に電線類を取り付け、しかる後、挿入開口部の外に残存する呼び線の残部を、挿入開口部側に逆方向に引っ張り出して呼び線を引き戻すことによって、電線類を配管内に引き入れて配設するものである。
したがって、呼び線の意匠のうち、挿通性、結線性、耐久性等の呼び線の性能と深くかかわる部分は、看者たる需要者の注意を強く引く部分であると認められ、現に、原告商品及び被告商品群についての宣伝広告(甲1、甲11ないし14、乙8ないし12、乙21)でも、このような機能に重点を置いて宣伝広告がなされている。
そして、上記の本件登録意匠にはなく被告商品群に見られる基本的構成態様は、
呼び線の挿通性(棒状ワイヤ)、結線性(連結金具、環状ワイヤ)、耐久性(接続金具)に深くかかわるものであると認められる(甲1、甲11ないし14、乙8ないし12、乙21、弁論の全趣旨)上、呼び線を手に持って挿通作業を行う際には必然的に目に入る部分であるから、いずれも看者の注意を強く引く部分であると認められる。甲6(よび線の購入・使用実態調査)によれば、電気工事業者は、呼び線を選ぶ際、先端部の形状を最も重視することが認められるので、特に呼び線の先端部の形状は、看者たる需要者の注意を強く引くものであると認められる。
(4)これらからすれば、被告商品群のうち、被告商品E、F及びGの各意匠は、黒い撚線の線状本体を有する点と一方の端部(先端部)に連結金具、棒状ワイヤ及び接続金具を有する点で本件登録意匠と共通するものの、他端部(末端部)に環状ワイヤを備えている点(さらに被告商品F及びGでは他端部にも棒状ワイヤを備えている点)で異なっており、これは看者たる需要者の注意を強く引く点における差異であるから、意匠全体を比べた場合、本件登録意匠と類似するとはいえない。
次に、被告商品Dの意匠について見るに、これも撚線の線状本体(ただし青色)を有する点と一方の端部(先端部)に連結金具、棒状ワイヤ及び接続金具を有する点で本件登録意匠と共通するものの、他端部(末端部)に連結金具が設けられている点で異なっており、これは看者たる需要者の注意を強く引く点であるから、意匠全体を比べた場合、本件登録意匠と類似するとはいえない。
したがって、被告商品群が本件登録意匠と類似しているとは認められない。
(5)原告ミノルは、被告商品群の意匠のうち連結金具、棒状ワイヤ、線条本体の意匠が本件登録意匠と類似しているから、被告商品群の意匠は本件登録意匠と類似すると主張する。
しかし、意匠の類否を検討するに当たっては、対象意匠を全体として観察する必要があるから、原告らが主張するように、対象意匠の一部を取り出して、その類否を論ずることはできない。
もっとも、甲5の27(意匠第856657号公報)及び5の29(意匠第856657号の類似1号公報)によれば、連結金具と線条本体という基本的構成態様を有する呼び線の登録意匠に、その線条本体と同一の意匠を有する線条本体の両端部に、その連結金具と同一の意匠を有する連結金具を具備した呼び線の意匠が、類似意匠として合体していることが認められる。したがって、本件登録意匠についても、連結金具、棒状ワイヤ及び接続金具が、線条本体の両端部にある意匠であれば、本件登録意匠の類似範囲に含まれると解する余地もある。
しかしながら、既に認定したとおり、被告商品群は、線条本体の一方の端部(末端部)に連結金具、棒状ワイヤ及び接続金具があるものではない。
したがって、原告ミノルの上記主張を採用することはできない。
(6)原告ミノルは、被告商品EないしGの意匠を被告が実施することは必然的に本件登録意匠を実施するという関係、つまり利用関係にあるから、被告が被告商品群を製造、販売することは、本件登録意匠を侵害すると主張する。
しかしながら、被告商品EないしGにおいては、上記認定した各基本的構成態様の形状が一体となって、全体として呼び線という本件登録意匠に係る物品と同一の物品の意匠を形成しているのである。したがって、被告商品EないしGの意匠の構成要素に本件登録意匠と類似する部分があるとしても、本件登録意匠を実施していることにはならないと解するのが相当である。
なお、原告ミノルは、本件登録意匠は、連結金具、棒状ワイヤ及び接続金具がある端部(先端部)とは逆の端部(末端部)の形状は、権利の対象外として出願され、その形状の如何を問わないものとして設定登録されていると主張するが、本件登録意匠の公報の説明欄には「撚線部分は下端に連続し」と記載されている上、本件登録意匠が部分意匠でないことは明らかであるから、出願人の主観はともかく、
本件登録意匠は、呼び線という物品の完結した意匠と見るほかはなく、本件登録意匠を原告ミノルが主張するように解釈することはできない。
したがって、原告ミノルの主張は採用することができない。
(7)以上より、その余の争点について判断するまでもなく、原告ミノルの意匠権侵害に基づく請求は理由がない。
(第二事件について)1被告の本件請求のうち本件広告に関するものについて(1)原告ミノルが月刊誌「電気と工事」の平成5年8月号まで本件広告を掲載したことは、前記第2(争いのない事実)5記載のとおりであるが、その後原告ミノルが本件広告をしたことや今後するおそれがあるとの立証はない。
したがって、本件請求のうち本件広告と同種の広告の掲載の差止めを求める請求は理由がない。
(2)また、原告ミノルは、第二事件の訴え提起時点(平成10年9月8日)で3年が経過した被告の原告ミノルに対する損害賠償請求権について消滅時効を援用しているところ、被告が主張する原告ミノルの不正競争の内容からして、仮に原告ミノルの行為が不正競争防止法2条1項13号所定の不正競争に該当するとしても、被告は、原告ミノルの同不正競争がなされると同時にその損害及び加害者を知っていたものと認められる。したがって、原告ミノルが、被告に対し、平成7年9月7日以前の行為に基づき、損害賠償債務を負ったとしても、同債務は本件第二事件の提訴の時点で時効消滅したものというべきである。
したがって、本件請求のうち、原告ミノルの本件広告の掲載を理由とする損害賠償請求は理由がない。
(以下は、本件請求のうち本件表示に関するものについて判断を示す。)2争点1(営業上の信用を害する虚偽の事実の流布)について(1)前記第2(争いのない事実等)4記載のとおり、原告ミノルは、遅くとも平成7年9月8日から平成10年8月3日まで、原告商品の包装に、「形状をまねた類似品にご注意下さい。」という表示(本件表示)を付したが、弁論の全趣旨によれば、その期間中、3本の撚線形状を線条本体とする呼び線は、原告商品以外には被告商品群しか存在しなかったことが認められる。したがって、本件表示が、被告商品群を意識したものであることは明らかである。
そして、被告が被告商品群を製造、販売していることを知っている者が、本件表示を読めば、被告商品群の形状は、原告商品の形状を不当にまねたものであると認識すると考えられるから、本件表示は、被告の営業上の信用を害する表示であるといえる。
(2)そこで、本件表示が虚偽の表示といえるかどうか、すなわち、被告商品群が、
原告商品の形状をまねていないといえるかどうかを検討する。
ア被告商品Dについて原告商品は、連結金具、棒状ワイヤ、接続金具、3本の撚線形状からなる線条本体及び連結金具から成り立っている。そして、被告商品Dも、原告商品と同様、連結金具、棒状ワイヤ、接続金具、3本の撚線形状からなる線条本体及び連結金具から成り立っている(検乙1)。そして、検甲1(原告商品)と検乙1(被告商品D)とを比較すれば、原告商品と被告商品Dは、各構成要素の具体的形状も類似していることが認められる。もっとも、被告商品Dは、連結金具の中途から棒状ワイヤ、接続金具にかけてと、他方の連結金具近傍の線条本体に、ビニール被覆があることが認められるが、同ビニール被覆を通じても、被告商品Dの上記構成を看取することはできるから(同)、結局、被告商品Dは、原告商品に類似しているものと認められる。
そして、被告商品Dの製造、販売が開始された当時、原告商品のような構造を有する呼び線は原告商品しか存在しなかったものと認められるから(弁論の全趣旨)、被告は、被告商品Dを製造するに当たって、原告商品の形状を参考にしたものと認められる。
したがって、被告商品Dの形状が、原告商品の形状をまねたものではないとは認められない。
イ被告商品EないしGについて被告商品Eは、連結金具、棒状ワイヤ、接続金具、3本の撚線形状からなる線条本体、接続金具及び環状ワイヤから成り立っており、被告商品F及びGは、連結金具、棒状ワイヤ、3本の撚線形状からなる接続金具、線条本体、接続金具、棒状ワイヤ、接続金具及び環状ワイヤから成り立っている。
そうすると、原告商品と被告商品EないしGは、(ア)原告商品の両端部が連結金具であるのに対し、被告商品EないしGは一方の端部が連結金具で他端部が環状ワイヤである点で異なり、(イ)原告商品には線条本体の一方の端部にしか棒状ワイヤがないのに対し、被告商品F及びGは、線条本体の両端部に棒状ワイヤがある点で異なる。そして、呼び線の端部に連結金具があるか環状ワイヤがあるかは、結線性という呼び線の性能と深くかかわるものであり、棒状ワイヤが線条本体の一方端部にしかないか、両端部にあるかは、挿通性という呼び線の性能と深くかかわるものであり、呼び線全体の視覚的印象に対する影響は大きいというべきである。
したがって、原告商品の形状と被告商品EないしGの形状は、ともに3本の撚線形状の線条本体を有する点で共通するものの、上記の違いにより類似していないものと認められる。
よって、被告商品EないしGの形状は、原告商品の形状をまねたものではないと認められる。
(3)前記第2(争いのない事実等)3記載のとおり、被告は、平成2年4月から平成8年末ころまで、被告商品Dを製造、販売したが、平成9年以降は、被告商品EないしGしか製造、販売していない(ただし、被告商品Fは平成9年末以降の製造、販売であり、被告商品Gは平成10年以降の製造、販売である。)。
したがって、被告が被告商品Dを販売していた平成8年末までは、本件表示が虚偽の表示であるとは認められないが、平成9年以降、原告ミノルが本件表示を付した行為は、被告の営業上の信用を害する虚偽の表示を流布する行為であったと認められる。
(4)以上より、被告の原告ミノルに対する、本件表示の差止めを求める請求は理由がある。なお、本件表示は、現在流布されていないが、それは、原告ミノルに対し本件表示の使用差止めを命じた仮処分決定(当庁平成9年(ヨ)第3012号)の執行の結果であると認められるので(乙25)、差止めの必要性は依然として認められる。
3争点2(故意又は過失)について(1)上記のように、原告ミノルが、平成9年以降、本件表示を付した行為は、不正競争防止法2条1項13号所定の不正競争に該当するが、既に判示したように、被告は、平成8年末まで、原告商品の形状をまねていないとは認められない被告商品Dを製造、販売していたのであるから、原告ミノルが上記不正競争を行ったことについて、直ちに過失があったとは認められない。
もっとも、被告は、平成9年7月22日付文書により、原告ミノルに対し、本件表示を中止するよう文書で警告し、この警告書は同月25日に原告ミノルに到達したことが認められるから(乙26)、その時点で、原告ミノルは、被告が製造、販売する呼び線について調査すべきであったのであり、調査すれば、当時被告が製造、販売している呼び線は被告商品Eのみであり、原告商品の形状をまねたものではないことが、容易に判明したはずであると認められる。
したがって、原告ミノルは、平成9年7月26日以降、本件表示を付した行為につき、過失があるものというべきである。
(2)以上より、原告ミノルは、平成9年7月26日以降の上記不正競争につき損害賠償義務を負う。
4争点3(損害額)及び争点4(謝罪広告の必要性)について(1)上記認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、平成9年7月26日以降、原告ミノルが原告商品の包装に本件表示を付した行為により、被告は営業上の信用を害され、無形の損害を被ったものというべきである。もっとも、本件表示は、被告のことを名指ししたものではなく、「形状をまねた類似品にご注意下さい。」と表示したものであるところ、被告商品F及びGの形状が被告の商品表示として機能していた程度は、原告商品の形態と同様、低いものと考えられること、その他、本件に現れた一切の事情を総合勘案すると、被告が平成9年7月26日から平成10年8月3日まで80万円と評価するのが相当である。
(2)以上より、被告の原告ミノルに対する損害賠償請求は、金80万円及びこれに対する平成10年9月12日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。
(3)なお、被告が受けた損害は、既に過去のものであり、その損害額も上記の程度であるから、損害賠償に代えて又は損害賠償とともに謝罪広告の必要性を認めることはできない。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 高松宏之
裁判官 安永武央