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事件 平成 10年 (ワ) 5743号 不正競業行為差止等請求事件
原告 武田薬品工業株式会社右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 小野昌延
同 三山峻司
被告 東洋ファルマー株式会社右代表者代表取締役 【B】 右訴訟代理人弁護士 浦崎威
同 久保精一郎
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1999/09/16
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、ビタミン製剤に「アリナビッグA25」の文字を使用してはならない。
二 被告は、「アリナビッグA25」の文字を付したビタミン製剤を製造、販売し又は販売のために展示してはならない。
三 被告は、「アリナビッグA25」の文字を付したビタミン製剤の包装箱・ラベルを廃棄せよ。
四 被告は、原告に対し金四七五万二六三六円及びこれに対する平成一一年三月二〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告のその余の請求を棄却する。
六 訴訟費用は、これを四分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
七 この判決は、第一項ないし第四項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
一 主文第一項ないし第三項と同旨二 被告は、原告に対し金一一九四万八〇〇〇円及びこれに対する平成一一年三月二〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
事案の概要
(争いのない事実等)一 当事者 原告は、医薬品・食品・化学製品等の製造、販売を目的とする株式会社である。
被告は、医薬品・栄養食品等の製造、販売及び輸出入等を目的とする株式会社である。
二 原告商品 原告は、昭和四〇年一一月二五日以降、「アリナミンA25」という商品名(以下「原告表示」という。)で、肉体疲労時の栄養補給等を用途としビタミンB1誘導体フルスルチアミンを主成分とするビタミン製剤(以下「原告商品」という。)を販売している(甲3、4)。
原告商品の包装箱の態様等は、別紙原告商品掲載のとおりである。
三 被告商品 被告は、平成九年五月下旬ころから、「アリナビッグA25」という商品名(以下「被告表示」という。)でフルスルチアミンを主成分とするビタミン製剤(以下「被告商品」という。)を製造し、被告の関連会社である訴外東ファル商事株式会社(以下「東ファル商事」という。)に対し販売している。被告商品は、訴外株式会社ビッグ・ビット(以下「ビッグ・ビット」という。)のプライベートブランド商品であり、東ファル商事からビッグ・ビットに販売されている。
被告商品の包装箱の態様等は、平成九年九月までは別紙被告商品1掲載のとおりであり(以下この包装箱で製造、販売された被告商品を「イ号商品」という。)、
平成一〇年一月以降は別紙被告商品2掲載のとおりである(以下この包装箱で製造、販売された被告商品を「ロ号商品」という。)。
(原告の請求内容) 原告は、被告が被告表示の使用等をしていることは、不正競争防止法2条1項2号の不正競争行為に該当するとして、被告に対し、次の請求をしている。
一 同法3条1項に基づく被告表示の使用並びに被告表示を付したビタミン製剤の製造、販売及び販売のための展示の差止請求
二 同条二項に基づく被告表示を付したビタミン製剤の包装箱・ラベルの廃棄請求。
三 同法4条本文、5条1項に基づく、被告が平成九年五月二〇日から同一一年三月一九日の間に被告商品を販売したことによる損害賠償請求。
(争点)一 原告表示は著名であるか。
二 被告表示は原告表示に類似するか。
三 損害の額。
争点に関する当事者の主張
一 争点一(原告表示は著名であるか。)について【原告の主張】 原告は、昭和四〇年一一月二五日から、原告表示を使用した原告商品を、全国の都道府県の薬局・薬店において、販売している。
そして、原告は、原告商品の販売に努めその販売数量を増加させるとともに、強力な商標管理と莫大な費用による宣伝広告を行った結果、原告表示は、原告の商品表示として著名となっている。
【被告の主張】 原告表示が著名であることは不知。
二 争点二(原告表示と被告表示の類似性)【原告の主張】1 外観上の対比 原告表示と被告表示は、カタカナ文字の第三文字目までの「アリナ」と語尾の「A25」の五文字を共通にし、「ミン」に対して「ビッグ」を異にしている。
2 称呼上の対比 原告表示と被告表示の「A25」は称呼上共通で、原告表示の「アリナミン」が五音で構成されているのに対し被告表示の「アリナビッグ」は六音で構成されており、そのうちで「ア」「リ」「ナ」の連続する三音を共通にしている。
3 観念上の対比 原告表示と被告表示は、ともに特定の語義を有しない造語である。
しかし、「アリナミン」の末尾の「ミン」はビタミン製剤の名称の接尾語として比較的好まれてありふれて使用される語であり、「アリナビッグ」の末尾の「ビッグ」は「大きい」を意味する形容詞であり通常用語である。そうすると、これら顕著性の乏しい接尾語部分を除いた語頭部「アリナ」が表示の基幹部分として観念連想される点で共通している。
4 全体の対比 原告表示と被告表示を全体としてみるときは、接尾語として印象される語尾部分「ミン」と「ビッグ」を除いた、基幹部分と見られる語頭の構成が、いずれも「アリナ」で全く共通一致し、さらにこれに結合された「A25」においても共通一致し、被告表示から原告表示を容易に想起でき、視覚上・聴覚上又は観念的な連想性の上で強い類似性を有する。
【被告の主張】1 原告表示のうち「A25」の表示部分は、医薬品業界においてごく一般に商品の記号、符号として普通に使用されているので、自他識別機能を有しない。すなわち、医薬品業界においては、一般に同種同効のシリーズ商品についてアルファベットの「A」を添え、あるいは、「エース」を連想させて当該商品に優れたイメージを一般消費者に与えようとする意図から、商品名称の後部に「A」の文字を用いることは多くの商品に見られることであるし、「25」の数字は、当該商品の主たる薬効成分の含有量を表す手段として、これも医薬品業界では一般に行われている(本件においても、原告・被告各商品の主要な薬効成分であるフルスルチアミンの一錠中の含有量が二五rである。)。
したがって、原告表示と被告表示が「A25」を共通にすることで、両者が類似するとはいえない。
2 原告は、原告表示のうち「ミン」はビタミン製剤の接尾語として比較的好まれてありふれて使用される語であるから、「アリナ」の部分が基幹部分であると捉えて、原告表示と被告表示が類似すると主張する。
しかし、「ミン」の語から「ビタミン」を連想することはなく、ビタミン類の商品名称の後部に「ミン」の文字を用いる例は存在するが、少数例にすぎない。むしろ、医薬品の商品名称として好まれて用いられる用語という基準から原告表示を検討すると、「アリ」と「ナミン」という用語が、それぞれ、医薬品の商品名称中の冒頭又は末尾部分に好んで用いられている。また、原告が昭和二九年に商品化して発売した「アリナミン」の元々の主要成分は「アリチアミン」という化合物であるが、右「アリチアミン」の名称は、にんにく成分に由来する「アリ」とビタミンB1の化学名である「チアミン」を合成して命名されたものであり、「アリナミン」は、「アリチアミン」の名称中、にんにくに由来し一般に馴染みやすい語感の「アリ」と、ビタミンB1を意味する「チアミン」の部分を医薬品の名称として一般に馴染みやすい語感の言葉に置き換えた「ナミン」とで商品名称としたものであり、
実質的成り立ちからいっても、「アリ」と「ナミン」からなるものである。
原告は原告商品を「アリナミン」の表示全体をもって宣伝し、原告商品はこれにより流通し、一般消費者においても購入・使用しているものであるから、原告表示のうち「アリナ」が基幹部分であるとすることはできない。したがって、「アリナミン」は、全体的・離隔的観察からは「アリナミン」の表示全体により初めて商品表示として成り立つものである。
一方、「アリナビッグ」の名称について、原告は、その名称中の「ビッグ」は「大きい」を意味する形容詞であり、通常語であると主張する。しかし、「アリナビッグ」の名称構成は、原告の右主張とは異なる。まず、「アリナビッグ」の名称中の「アリ」は前記のとおりビタミン剤に慣用されている例に倣ったものであり、
末尾の「ナビッグ」は「航海、航海術」を意味する英語の「ナビゲーション(navigation)」の「ナビ(navi)」とビッグ・ビットの「ビッグ(vig)」とを合成して「ナビッグ(navig)」としたものである。
そして、「アリナミン」と「アリナビッグ」とは、その表示の全体的・離隔的観察において外観上の字数構成も五字と六字と相違し、称呼上も五音と六音と相違するのであるから、明確な相違点が存在しており、明らかに非類似である。
三 争点三(損害の額)について【原告の主張】1 被告は、平成九年五月二〇日から同一一年三月一九日までの間に、被告商品の製造、販売により、合計金三四一四万一五〇〇円の利益を得たが、被告の利益率は三五パーセントであるから、被告が同期間に被告商品の製造、販売によって得た利益は、金一一九四万八〇〇〇円となり、これが原告の受けた損害額と推定される(不正競争防止法5条1項)。
2(一) 被告は、被告商品の製造、販売によって得た利益を算定するに当たり、販売費及び一般管理費の一部をその費用として計上すべきと主張する。
(二) しかし、不正競争防止法5条1項の「侵害の行為により利益を受けているとき」の「利益」とは、不正競争行為によって営業上の利益侵害された者が、当該商品について当該商品等表示を使用している場合で、新たな設備投資や従業員の雇用を要さずそのままの状態で製造、販売することができる個数の範囲内では、侵害行為者の製品の売上額からその製造、販売のための変動経費のみを控除した額を指すと解すべきである。
(三) また、被告商品については、いわば売り先の先決しているビッグ・ビットからの特注品を製造し、ビッグ・ビットに対する販売のために被告系列会社に販売しているというのであるから、元来販管費は、被告会社において、ほとんどかからないはずである。
(四) したがって、被告が平成九年五月二〇日から平成一一年三月一九日までに被告商品を製造、販売したことによって得た利益は、被告提出の書証を前提としても、金四五八万円となる。
【被告の主張】1 被告は、被告商品を東ファル商事を通じて専らビッグ・ビットに販売しているが、被告商品を製造、販売したことにより得た利益の額は、別紙「アリナビッグA25 290錠 出荷状況と原価構成」及び「アリナビッグA25 290錠 1個当り 総原価明細」記載のとおりであり、東ファル商事の分と合わせた全体で合計金二四一万五〇〇〇円である。
なお、被告の利益を算定するに当たっては、被告の販売費及び一般管理費に、被告の全製造原価額中被告商品の製造原価額の占める割合を乗じることにより得られる額を費用として計上すべきである(その結果得られる具体的数額は右別紙該当欄に記載)。
2 原告は、販売費及び一般管理費の一部を、被告商品の経費として計上すべきでないと主張する。
しかし、企業は、その維持管理に必要な販売活動や企業管理の費用を生産物の価格に転嫁し、その収益からそれらに要する費用を得るのである。したがって、これら販売活動や企業管理に要する費用が、個々の商品の収益との直接対応が困難であることの故に、その原価性が否定される理由は全くない。
当裁判所の判断
一 争点一(原告表示は著名か)について1 証拠(甲3ないし5、15ないし41)によれば、以下の事実が認められる。
(一) 原告は、その開発したビタミンB1誘導体製剤を昭和二九年以来「アリナミン」の名称で販売しており、原告商品の製造、販売を開始した昭和四〇年一一月二五日には、原告商品と同じ「アリナミンA」シリーズのビタミン製剤として「アリナミンA5」及び「アリナミンA50」という商品の製造、販売も開始しており、さらに遅くとも平成六年には、「アリナミンEX」という商品の製造、販売を開始している(甲3、4、41)。
そして、原告商品、「アリナミンA5」、「アリナミンA50」及び「アリナミンEX」の商品群は、平成六年から平成八年までの間、全国の九九パーセント以上の薬局で取り扱われており、その販売金額は、店頭向け医薬品の第四位に位置づけられている(甲41)。
また、原告商品は、「アリナミンA」シリーズの中で九〇パーセント以上の売り上げを占める主力商品であり、原告商品の販売実績は、昭和四二年度から平成九年度の三一年間で三四三九億三七〇〇万円(年間平均約一一〇億九四七四万円)であった(甲5、39)。
(二) 原告は、原告商品の製造、販売開始以降、全国紙、ブロック紙、地方紙の各新聞紙上及び雑誌において、原告表示が付された薬瓶の写真が掲載さけた「アリナミンA」の広告をしており、特に昭和五五年ころからは、原告商品単独の広告をしてきている(甲39、40)。
また、原告は、新聞紙上及び雑誌のみならず、テレビ、ラジオの各媒体においても、原告商品の広告を行っており、それらの宣伝費は、昭和五五年度から平成八年度までの合計で、テレビ宣伝費一八三億七七〇〇万円、ラジオ宣伝費四億三七〇〇万円、新聞宣伝費五〇億四一〇〇万円、雑誌宣伝費二三億〇二〇〇万円に達している(甲5、15ないし38)。
2 右認定事実からすると、原告商品は、その製造、販売開始以来日本全国において多数販売され、その結果同種医薬品の代表的な商品となっていたこと、その広告も各種媒体を通じて多額の費用を投じてなされていたこと、その広告のうち視覚的なものにおいては原告表示が見えるように行われていたことが認められるから、被告商品の製造、販売が開始された平成九年五月下旬の時点で、原告商品の商品名である原告表示が著名であったことは明らかである。
二 争点二(被告表示は原告表示に類似するか)について1 不正競争防止法2条1項2号の「類似」に該当するか否かは、取引の実情の下において、需要者又は取引者が、両者の外観、称呼又は観念に基づく印象記憶
連想等から両者を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるか否かを基準に判断すべきである。
そして、前記のとおり、原告表示の「アリナミンA25」は、全体として著名性を有するものであるから、原告表示全体と被告表示全体を前記基準に従い比較することにより、類似が認められるか否かを判断するのが相当である。
2 原告表示と被告表示の外観について 原告表示は、カタカナ文字の「アリナミン」とローマ字の「A」と数字の「25」からなり、被告表示は、カタカナ文字の「アリナビッグ」とローマ字の「A」と数字の「25」からなるものであり、両者は「ミン」の文字と「ビッグ」の文字の部分で外観が相違するが、その余の部分は共通している。
原告商品と被告商品の各包装箱に付された原告表示と被告表示の実際の使用態様を見ると、別紙原告商品及び被告商品1、2記載のように、店舗で陳列したときに最も目立つと考えられる包装箱正面では、中央部に白地に黒色の太字で各表示が記載され、「A25」の文字が大きく、原告表示及び被告表示1では「A25」の上に「アリナミン」又は「アリナビッグ」の文字が、被告表示2では「A25」の左側に二段にして「アリナビッグ」の文字が記載されている。右外観の対比では、「ミン」の文字と「ビッグ」の文字の部分で外観が相違することは明らかであるが、表示全体の字体や文字の色、配列等においては、外観印象類似しており、特に原告表示と被告表示1とでは極めて類似しているといえる。
3 原告表示と被告表示の称呼について 原告表示は、「ありなみんえーにじゅうご」と称呼され、被告表示は、「ありなびっぐえーにじゅうご」と称呼されるから、両者は、語頭部分である「ありな」と語尾部分である「えーにじゅうご」が共通し、語中部分「みん」と「びっぐ」が異なる称呼である。
そして、原告表示は一一音であるのに対し、被告表示は一二音と、被告表示の方が一音多いが、その一音は促音であるから、両者の音数の差から異なる印象はそれほど生じない。
また、両者は、そのうち九音が共通し、しかも共通する部分は、語頭部分三音と語尾部分六音であるから、その単語を発音した際の印象を決める輪郭部分が共通しているということができる。
4 原告表示と被告表示の観念について 原告表示中の「アリナミン」及び被告表示中の「アリナビッグ」はいずれも特定の語義を有しない造語であり、また、共通する「A25」の部分はそれ自体は記号ないし符号にすぎない。しかし、前記認定のとおり、原告表示はビタミン製剤の商品名として一般消費者に著名であり、これに対して被告表示のうちの「アリナビッグ」は原告表示の「アリナミン」と語の冒頭部分の「アリナ」の三文字が共通するところ、この部分は一般消費者にビタミン製剤の名称「アリナミン」以外に特定の観念を想起させるような語ではなく、しかも原告表示と相違する「ビッグ」の部分は、「大きい」を意味する一般的な修飾語にすぎないと受け取られる可能性が強い。
そうすると、需用者は、被告表示中の「アリナビッグ」から著名なビタミン製剤のシリーズ名である「アリナミン」を、また、被告表示全体からもビタミン製剤を容易に想起、連想するものと認められる。
5 以上の事実と既に判示した「アリナミンA25」の著名性を併せ考慮すれば、原告表示と被告表示は、全体的、離隔的に対比して観察した場合には、その共通点から生じる印象が相違点から生じる印象を凌駕し、一般の需用者に全体として両表示が類似するものと受け取られるおそれがあるというべきである。したがって、被告表示は原告表示に類似しているものと認められる。不正競争防止法2条1項2号の不正競争行為にあっては、誤認混同のおそれは要件とされていないが、前記認定事実からすれば、原告表示と被告表示とは、被告商品が原告商品の関連商品あるいは徳用商品であると一般需用者に誤認されるおそれがある程度に相紛らわしいというべきであり(甲49、58によれば、現に消費者にそのような誤認が生じた実例があることがうかがわれる。)、両表示が類似していることは明らかである。
6 被告は、@原告表示のうち「A25」の部分は、医薬品業界においてごく一般に商品の記号、符号として普通に使用されているもので、この表示は自他識別機能を有しない部分であり、A「アリナミン」は、「アリ」と「ナミン」から構成され、
そのうち「アリ」とはにんにくに由来する化学物質や医薬品に好んで冠せられる名称であり、「ナミン」も医薬品に好んで用いられる名称であるから、原告表示中の「アリナ」の部分を基幹部分と捉えるのは相当ではなく、B一方、被告表示は「アリ」と「ナビッグ」からなるものであり、したがって、原告主張のように「アリナ」の部分の共通性から原告表示と被告表示が類似するとすることはできず、「アリナミン」は全体が不可分の一体の表示となって初めて識別性を有するにすぎないから、原告表示と被告表示とが「ミン」と「ビッグ」というように明確に称呼を異にする以上、両者は類似しないと主張する。
しかし、既に判示したとおり、類似か否かの判断は、取引の実情の下における需要者又は取引者を基準にすべきところ、原告商品は、一般用医薬品であるから、その基準とすべきは一般消費者であり、一般消費者が、「A25」を、医薬品業界においてごく一般に商品の記号、符号として普通に使用されているものと認識しているとは、乙1を含む本件証拠によっても認めることができないし、「アリナミン」が医薬的な意味から「アリ」と「ナミン」に分解され、そのうち「アリ」がにんにくに由来する化学物質や医薬品に好んで用いられる名称であるとの点も、一般消費者が認識しているとは認められない。むしろ、前記一で認定したところからすれば、
一般消費者は、「アリナミンA25」という原告表示を、全体として原告商品を識別する商品表示として認識しており、そのような原告表示が全体として著名性を獲得していると認められるから、前記のとおり、原告表示と被告表示とは、その全体を比較して類似するか否かを判断すべきである。また、被告主張のように、被告表示の「アリナビッグ」が「アリ」と「ナビッグ」の部分からなると一般に認識されると認めるべき証拠もない。
したがって、被告の右主張は採用できない。
7 以上によれば、被告表示は、著名商品表示である原告表示に類似するものというべきであるから、原告の被告に対する不正競争防止法2条1項2号3条1項
二項に基づく、(1)被告表示の使用並びに被告表示を付したビタミン製剤の製造、販売及び販売のための展示の差止請求、(2)被告表示を付したビタミン製剤の包装箱・ラベルの廃棄請求は、いずれも理由がある。
三 争点三(損害の額)について1 前記認定のとおり被告表示が原告表示に類似していることに加え、原告商品の包装箱の態様等と被告商品の包装箱の態様等を対比観察すると、商品表示の外観のみならず、包装箱の色の配置、デザインの点でも似ていることが認められるから、
被告は、原告が獲得している信用、名声、評価にただ乗りしようとする意図があったものと推認できる。したがって、たとえ被告が被告表示が原告表示に法的には類似しないと判断していたとしても、被告が不正競争行為を行うにつき過失があったことは優に認められる。
よって、被告は原告に対し損害賠償責任を負う。
2 ところで、不正競争防止法5条1項は、不正競争行為によって営業上の利益侵害された者が侵害者に対して損害賠償を請求する場合に、侵害者が当該不正競争行為によって受けた利益の額をもって被侵害者の損害の額と推定する旨規定しているところ、この規定は、不正競争行為によって営業上の利益侵害された場合に、
被害者が不正競争行為と損害との因果関係を立証することが一般に困難であることに鑑みて設けられたものである。右と同旨の規定は、従前から特許法(平成一〇年法律第五一号による改正後の102条2項)、実用新案法(同29条2項)、意匠法(同39条2項)及び商標法(同38条2項)にも設けられているところであるが、右特許法等においては、平成一〇年の改正により、更に逸失利益の立証の容易化を図る趣旨で、侵害者の譲渡した侵害品の数量に権利者が侵害行為がなければ販売することができた物単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を損害の額とできる旨の規定が新設された(右各条一項)。これらの規定を総合して考えると、右特許法等の各規定(右各条二項)における侵害者が受けた「利益の額」とは、侵害者が侵害行為によって得た売上額から、製造原価・販売原価のほか、
侵害者が当該侵害行為たる製造・販売に必要であった諸経費を控除した額であると解するのが相当である。そして、不正競争防止法においては、右の特許法等と同様の改正はされていないが、同法5条1項の規定と平成一〇年の改正後の特許法等の右各条二項の規定とが法文上同旨の規定であることは明らかであるから、不正競争防止法5条1項にいう不正競争行為者が侵害行為により受けた「利益の額」についても、右と同様に解するのが相当である。
もっとも、右「利益の額」とは、侵害者が不正競争行為により受けている利益、
即ち不正競争行為と因果関係がある利益を意味している。したがって、侵害者が不正競争行為により受けている利益を算定するに当たっては、侵害品の売上高から不正競争行為のために要した費用のみを差し引くべきである。そして、不正競争行為のために要した費用とは、いわゆる製造原価がそれに当たることは明らかであるが、販売費及び一般管理費にあっては、当該不正競争行為をしたことによって増加したと認められる部分に限って、不正競争行為のために要した費用と認めるのが相当である。なぜなら、一般に販売費及び一般管理費には、製造原価と異なり、当該不正競争行為を行わなかったとしても必要であった費用が多く含まれており、そのような費用については、不正競争行為を行うために要した費用とは認められないからである。
2 以上を前提に本件について検討する。
(一) 売上高 証拠(乙29及び33の各1と2、34、35)と弁論の全趣旨によれば、被告が平成九年五月二〇日から平成一一年三月一九日までに販売した被告商品の販売数は、イ号商品につき七〇二〇個、ロ号商品につき七一六六個の合計一万四一八六個、その単価は一〇〇〇円、その売上高は金一四一八万六〇〇〇円であると認められる。
1,000×(7,020+7,166)=14,186,000(二) 費用(1) 証拠(乙29の1と2)と弁論の全趣旨によれば、被告は、一個当たりの被告商品を製造するに当たり、イ号商品については七〇二円、ロ号商品については当初の六七四六個については六四九円、その後の四二〇個については七二〇円の製造原価を要したことが認められ(小数点以下第一位を四捨五入)、製造原価の総額は、金九四三万三三六四円と認められる。
702×7,020+649×6,476+720×420=9,433,364(2) 被告は、被告の販売費及び一般管理費に、被告の全製造原価額中被告商品の製造原価額の占める割合を乗じることにより得られる額を、被告商品の費用として計上すべきであると主張する。
しかしながら、平成九年六月一日から平成一〇年五月三一日までの間の、被告の総売上高は五九億一七七九万六〇〇〇円であるのに対し(乙30)、同期間の被告商品の売上高は九一一万七〇〇〇円であり(乙33の1)、被告商品の売上高は総売上高の約〇・一五パーセントしか占めていないこと、被告商品については、売り先の先決しているビッグ・ビットからの特注品を製造し、ビッグ・ビットに販売するために被告系列会社の東ファル商事に販売しているだけであることからすれば、被告が、被告商品を製造、販売することにより、特に販売費及び一般管理費が増加したとは認められず、その中で個別的に被告商品の製造、販売に要した費用があったことを認めるに足りる証拠もない。
したがって、被告が被告商品を製造、販売することによって得た利益額を算定するに当たって、被告の販売費及び一般管理費の一部を被告商品の製造、販売に当たって要した費用と見るのは相当でない。
(三) したがって、被告が被告商品を販売することにより得た利益は、売上高金一四一八万六〇〇〇円から製造原価金九四三万三三六四円を差し引いた金四七五万二六三六円と認めるのが相当である。
四 結論 以上の次第で、原告の請求のうち、(1)被告表示の使用並びに被告表示を付したビタミン製剤の製造、販売及び販売のための展示の差止請求、(2)被告表示を付したビタミン製剤の包装箱・ラベルの廃棄請求は、いずれも理由があり、(3)損害賠償請求は主文第四項において認める限度で理由があり、その余は失当であるから、主文のとおり判決する。 (口頭弁論終結日 平成一一年六月二二日)
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 高松宏之
裁判官 安永武央
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