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関連ワード 広く認識 /  登録商標 /  需要者 /  商品等表示 /  他人の商品 /  他人の営業 /  混同のおそれ(混同) /  誤認混同 /  差止請求(差止) /  デザイン /  侵害 /  混同のおそれ(混同) /  品質等誤認表示(誤認) /  競争関係 / 
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事件 平成 6年 (ヨ) 218号
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裁判所 金沢地方裁判所
判決言渡日 1995/06/08
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事仮処分
主文 一 債務者は、別紙登録商標目録記載の商標又は別紙周知表示目録記載の標章を付した債権者の製造する製造たばこ(以下「債権者たばこ」という。)に別紙侵害品目録記載の広告用シール又はこれと同様の広告用シールを貼付し、又はこれを貼付した債権者たばこを販売し、若しくは販売のために展示してはならない。
二 債務者の所持する別紙侵害品目録記載の広告用シール又はこれと同様の広告用シール貼付済みの債権者たばこに対する占有を解いて管轄地方裁判所の執行官に保管を命ずる。執行官は債務者の申し出があったときは債権者たばこの包装から広告用シールを取り除いた上、債務者に返還しなければならない。
三 債権者のその余の申立てを却下する。
四 訴訟費用は債務者の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 債権者1 主文第一項及び第四項同旨2 債務者の所持する別紙侵害品目録記載の広告用シール又はこれと同様の広告用シール及びこれらの広告用シール貼付済みの債権者たばこに対する占有を解いて管轄地方裁判所の執行官に保管を命ずる。執行官は債務者の申し出があったときはたばこの包装から広告用シールを取り除いた上、債務者に返還しなければならない。
二 債務者 債権者の申立てを却下する。
事案の概要
一 債権者は、たばこの製造、販売を主たる事業内容とする株式会社であり、債務者は、たばこの小売業を営む株式会社である。
二 債務者は、平成六年八月ころ、債権者製造に係るたばこ(銘柄セブンスター)に別紙侵害品目録記載の「本格料理のカラオケ」、「バーベキューの国」、「健民共和国連邦」等と記載した広告用シール(以下「本件シール」という。)を貼付し、これを債務者所有の金沢市内にある自動販売機によって販売した。
三 債権者の主張の要旨1 (商標権侵害) 債権者は、別紙登録商標目録記載の登録商標(以下「本件商標」という。)を有するところ、債権者製造の右たばこに右侵害品目録記載の広告用シールを貼付して販売する行為は、右商標の一部を抹消し、あるいは債権者たばこに表示された一部の本件商標を抹消するものであって、右商標権を侵害する。
2 (不正競争防止法違反)(一) 債権者は、本件商標の記載のある周知表示目録記載のセブンスターのパッケージデザイン(以下「本件デザイン」という。)を永年使用しており、その表示やおよそ国産のたばこが債権者の製造、販売する商品であることは最終消費者の間に広く認識されている。
(二) 債務者の二記載の行為は、本件デザイン等を使用して、右広告に係る事業又は右広告自体を債権者が行っている営業であると混同させるものであって、不正競争防止法2条1項1号に該当する。
3 (不法行為) 債務者の二記載の行為は、債権者の本件商標の少なくとも一部を抹消するものであり、また、本件シールの貼付は、たばこ自体の商品としての価値を毀損するものであって、不法行為に該当し、さらに債務者の行為は債権者たばこのパッケージに印刷されたチャーコールフィルターの表示の全部を抹消・毀損しており、その他の表示も抹消・毀損する蓋然性を有しているから、債権者は予防的に差止めを請求する権利を有する。
4 (債務不履行) 仮に1から3までが認められないとしても、債権者は債務者との間にたばこの継続的販売取引契約を締結し、その中で個別的なたばこの売買契約を締結しているものであるが、債務者は、右契約上の義務として、債権者の販売する商品を毀損改変しない義務及び債権者のブランドイメージを損ねたり、その有する工業所有権等を侵害しない義務を負っているところ、債務者の二記載の行為は、右継続的取引上の義務及び個別売買契約上の債務不履行に該当する。
5 (保全の必要性) 債務者は今後も債権者たばこに本件シールのみならず、これと同様の広告用シールを貼付して販売することを継続するとともに、量的、地域的に拡大していく意図を有しており、これにより、債権者は回復しがたい損害を被るおそれがあって緊急に保全措置を講じる必要がある。
四 債務者の主張の要旨1 債務者は債権者の商標を使用したものではなく、商標法上の「使用」に該当しないから、そもそも商標の侵害にならないことは確実である。
仮に「使用」に該当しない行為も商標の侵害を構成するとしても、差止請求は商標の本質的機能である自他商品識別機能が侵害された場合にのみ認められるべきところ、本件においては、債権者たばこに本件シールが貼付されても、そのたばこが債権者製品であることは一見して明白であり、債務者の行為は何ら商標権の侵害にならない。
2 不正競争防止法2条1項1号の要件のうち、
(一) 債権者の「商品等表示」が具体的に何であるのか明らかでない。
(二) 「使用」の要件は、商品等表示をその商品又は営業との関連においてその業務に用いることであり、また、競争に影響を及ぼすべき使用が対象となる。
債務者は債権者の表示を広告対象の業務やシール貼付業務に利用する態様で広告を行っておらず、債権者の業務に関連して広告対象の業務やシール貼付業務に用いたわけではないから、債権者との競争に影響を及ぼす使用でないことは客観的に明らかであり、債権者の業務との関連性はない。
(三) 「混同」の要件については、
(1) 本件シールには、債権者の名称や商標が全く使用されていない。
(2) 本件シールは債権者たばこの外側のフィルム上に貼付されたものであって、一見して、債権者によるたばこの製造後、流通過程において貼付されたものであることが明白であり、債権者がこのような業務を行うときは、たばこのケース自体に印刷するであろうと一般には考えられている。
(3) たばこが債権者の取り扱う商品であるということは、一般公衆に周知されており、通常の判断能力を有する人であれば、債権者が、本件における広告対象の業務やシール貼付業務を行っていると考えることはあり得ない。
以上から広告対象の業務や広告業務を債権者が行っているものと誤認混同される可能性はまったくない。仮にシール貼付業務を債権者が行っていると誤認されるおそれがあるとすれば、シールに債務者が広告主体であることを表示すればよいことであり、差止めを認める必要はない。
3 不法行為に基づく申立てについて 債権者の主張中には、損害、受忍限度等の主張がなく、主張自体失当であり、また、債務者の行為には違法性がない。
4 契約上の権利に基づく申立てについて たばこの小売店は、ブランド商品の特約店とは異なるものであって、たばこ事業法の許可を得ればほぼ自動的に可能になるものであり、明示の合意なく、債権者の主張するような義務を債務者が負うことはない。
5 保全の必要性 債務者は債権者に対し、再三広告用シール貼付の営業を認めてもらえるよう依頼してきたのに、債権者は明確な理由を示さず拒絶を続けてきた。
また、広告用シールを貼付して販売することにより、売上は向上する傾向があるし、シール貼付に当たってもその銘柄の認識ができるよう配慮しているから、債権者に具体的損害は生じていない。
さらに、本件仮処分は、満足的な仮処分であり、保証金によっては償えない損害を債務者に生ずるものであるから、保全命令を発するべきではない。
当裁判所の判断
一 被保全権利について1 一件記録によれば、債務者は、平成六年八月ころ、本件デザインを有する債権者たばこ(銘柄セブンスター)の包装用フィルムの外側に別紙侵害品目録記載のような態様で本件シールを貼付し、これを債務者所有の金沢市内にある自動販売機によって販売したこと、また、債務者は、本件申立て後は右の行為を中止しているが、今後は右と同様の広告用シールを債権者製造のたばこに貼付して販売することを継続し、又は拡大していく企画を有していることが認められる。
2 債務者の右販売等の行為は、不正競争防止法2条1項1号に該当する行為であると認められる。その理由は次のとおりである。
(一) 右条項中の「他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものと同一の商品等表示」との要件について 本件デザインには本件商標が記載されており、また、本件デザインが債権者の製造するたばこのパッケージデザインとして、たばこの需要者の間で広く認識されていることは公知である。なお、債務者は債権者の商品表示又は営業表示が具体的に何であるのか明らかでないと主張するが、この点については本件商標を含む本件デザインであるとの明確な主張があり、債務者の主張は理由がない。
(二) 右「商品等表示を使用し」との要件について 債務者が主張するとおり、本件シール自体には債権者の商品等表示があるわけではないけれども、債務者の前記行為は、本件デザインを有する債権者たばこの包装用フィルムの外側に本件シールを貼付することによって右広告用シールを債権者のパッケージデザインと一体の物として人に認識させ、右広告の主体が債権者であるかのように人に認識させるものであるから、本件デザインを使用することに当たるといわなければならない。
債務者は、本件シールの貼付は、債権者の業務との関連性がないから、使用に当たらないと主張し、これは、本件シールの貼付業務や広告対象の業務が債権者の業務と異種の業務であることを前提に関連性がないと主張するもののようであるが、
そのような点は、主として「混同」の要件について論じられるべきものであって、
「使用」については、債務者の業務と債権者の業務が同種であることを要求されているものでもなく、また、後記のとおり、債権者自体広告業務を行っているのであって、少なくともシール貼付による広告業務は、債権者の業務と具体的関連性を有し、債権者と債務者を競争関係に置くものであって債務者の主張は理由がない。
(三) 「他人の営業混同を生じさせる行為」との要件について この点について検討すると、債権者はたばこ製造販売に関して広範な広告活動を行っているばかりでなく、民営化以降、多角的経営を行っていること(公知の事実、なお、甲第二号証、第六号証)、債権者は特別たばことして、注文によって広告を含むパッケージ製造を請け負うこともあること(甲第一〇号証)、債務者が本件シールを貼付した債権者たばこを販売した際、それを購入した消費者から債権者に抗議があったこと(甲第三号証、第四号証)が認められ、これらの点に鑑み、債務者の行為は一般消費者等をして、少なくとも債権者の広告業務と混同を生じさせるものであるといわなければならない。
これらについて、債務者は、
(一) 前記のような貼付の態様からすれば、本件シールは一見して、債権者によるたばこの製造後、流通過程において貼付されたものであることが明白である一方、債権者自らの広告は現にパッケージに印刷する方法によって行っており、一般にも、債権者がこのような業務を行うときは、たばこのケース自体に印刷するであろうと一般には考えられるであろうから、債権者自身が広告等を行ったものであると考えられる可能性はない(二) たばこが債権者の取り扱う商品であるということは、一般公衆に周知されており、通常の判断能力を有する人であれば、債権者が、本件における広告対象の業務やシール貼付業務を行っていると考えることはある得ないからシール貼付の方法による広告業務が債権者によるものであると混同されるおそれはないなどと主張する。しかしながら、右(一)の債務者の主張にかかる事実はそれ自体、かなり債権者の経営の実情や広告業界に知識のある者であればともかく、一般の消費者や需要者が、およそ債権者が広告用シールにより広告業務を行わないと考えさせる性質の事項ではなく、かつ一般消費者等において、債権者が包装用フィルムの外側にシールを貼付するような方法で広告を行わないという認識が浸透していると認めるに足りる証拠もない。また、(二)の主張についてみても、前記認定のとおり、民営化以来、債権者の経営が多角化していることは公知の事実であって、少なくとも広告業務の関係で一般消費者等に混同を生じさせるとの前記判断を覆すに足りない。
以上のとおりであるから、その余の点につき判断するまでもなく、本件の被保全権利として、不正競争防止法上の権利を認めることができる。
二 保全の必要性について1 差止め等の必要性 債務者は、保全の必要性について前記のとおり主張するが、前記一1認定の事実によれば、差止めを認めなければ、債権者に直接間接に具体的損害を生じることは明白であって、保全の必要性のあることは明らかである。
また、債務者は広告用シール上に広告主体が債務者である旨の表示をすれば混同を生じないし、右表示は容易にできるから保全の必要がないと主張するが、現に本件シールには債務者の表示はなく、混同を生じている以上、差止めの必要がないということはできない。
2 差止めの範囲 前記認定のとおり、債務者の広告用シールは、それ自体独立して債権者の商品等表示を使用するなど債権者の権利を侵害するものではないから、本件申立てのうち広告用シール自体の執行官保管を求める部分は理由がない。
三 結論 以上によれば、債権者の本件申請は主文記載の限度で理由があるから、金二〇〇万円の保証を立てさせてこれを認容し、その余の部分は保全の必要性がないから却下し、主文のとおり決定する。
裁判官 増田隆久