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事件 平成 6年 (ワ) 2859号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1995/05/30
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求の趣旨
一 被告は別紙(1)ないし(6)記載の製品を製造し、販売し、販売のために展示してはならない。
二 被告は原告に対し、一二〇万円及びこれに対する平成六年四月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 仮執行の宣言
事案の概要
一 当事者1 原告は、各種電気機械器具及び電気照明器具の製造販売等を業とする大手電機メーカーの一つであり(争いがない。)、資本金は約一六八五億円、従業員数は二万八五三五名である(甲第一号証、弁論の全趣旨)。
2 被告は、各種電気機械器具及び電気照明器具の製造販売等を業とする資本金一六億二九〇〇万円、従業員数四六〇名の株式会社である(争いがない。)。
二 原告製品の製造販売 原告は、昭和五九年に「it’s」の名称を付したシリーズ家電製品(ジャー炊飯器、電気ジャーポット、コーヒーメーカー、ヘアドライヤー等)八品種一〇品番の製造販売を開始し、その後次第に別表記載のとおり対象商品の品種及び品番を増やし、平成四年には家具等の電気製品以外の製品も対象商品に加えた結果、「it’s」シリーズの製品は平成五年現在で二六品種三六品番に上っている(甲第二一号証、第三四号証、検甲第一号証〜第六号証の各1の1・2、弁論の全趣旨。以下、これら「it’s」シリーズの製品群をまとめて「原告製品」という。)。
三 被告製品の製造販売 被告は、平成六年一月一七日、一八日東京で、同月一九日、二〇日大阪で、同月二四日九州で、同月二五日広島で、同月二六日名古屋で「マイシリーズ」(miシリーズ)の名称を付した別紙(1)ないし(6)記載の製品(以下、これらの製品群をまとめて「被告製品」という。)の商品展示会を各開催し、その後継続して被告製品を製造販売している(争いがない。)。
四 請求 本訴請求は、原告が、原告製品は@ 主として大学生等の単身者を販売対象とする家電製品であり、A 色彩が従来家電製品にはほとんど使用されることのなかった濃紺色である点に特徴があり(以下「原告主張の原告製品の特徴」という。)、
この原告主張の原告製品の特徴は、遅くとも昭和六三年には原告の商品であることを示す出所表示機能を取得し、取引者及び消費者の間に広く認識されるに至っていたところ、被告製品は原告主張の原告製品の特徴と同じ特徴を具えているから、被告による被告製品の製造販売は原告製品との混同を生じさせ、不正競争行為に該当すると主張して、被告に対し、不正競争防止法(平成五年法律第四七号。以下同じ。)2条1項1号3条に基づき、被告製品の製造、販売、販売のための展示の停止を求めるとともに、同法4条に基づき、被告の不正競争行為により原告の被った損害の賠償を求めるものである。
五 争点1 原告主張の原告製品の特徴は原告の商品であることを示す出所表示機能を取得しているか、周知性を獲得しているか。
2 被告製品と原告製品との間に混同を生じるか。
3 被告の行為が不正競争行為に該当する場合、被告が賠償すべき原告の損害の額。
争点に関する当事者の主張
一 争点1(原告主張の原告製品の特徴は原告の商品であることを示す出所表示機能を取得しているか、周知性を獲得しているか)【原告の主張】 原告主張の原告製品の特徴は、以下のとおり、特別顕著性を有し、原告製品の売上げの増大、宣伝広告により、遅くとも昭和六三年には原告の商品であることを示す出所表示機能を取得し、取引者又は消費者の間に広く認識されるに至ったものである。
1 原告製品の販売台数及び宣伝広告費について 昭和五九年以降の原告製品の販売台数、売上高、宣伝広告費(新聞、雑誌、電車の吊り広告等に要した費用)は別紙記載のとおりであり、昭和五九年から平成五年までの間の合計で、販売台数は約二八〇万台、売上高は約二八六億一三四一万円、
宣伝広告費は約七億〇六六二万円である。
2 原告製品が主として大学生等の単身者を販売対象とする家電製品であるという特徴について(一) 昨今の単身者世帯の増加等に伴い、家電業界でも一般家庭用(ファミリー型)とは区別された「単身者用」の製品が注目されており(第三四号証)、そのことは雑誌等でも取り上げられている(甲第三五号証の1〜5)。原告製品もこのように主として大学生等の単身者を販売対象として想定した家電製品群であり、一般家庭用の製品と比較した場合、他社の「単身者用」家電製品と同様に以下の具体的特徴を有している。
(1) 単身者用ということで小容量であり、置場所に配慮したコンパクトなサイズである。
(2) 単身者の中でも比較的若年の層を対象とする製品では、デザイン性及び多機能性(一つの製品に多様な機能を持たせること)が考慮され、比較的年齢の高い層を対象とする製品では、取扱(操作)の容易性が考慮されている。
(3) 価格が個人の可処分所得に見合った低価格に設定されている。
被告製品に対応する原告製品の価格は、希望小売価格でも一万六五〇〇円から六八〇〇円であり、現在の大学生等単身者の可処分所得からすれば、一般家庭より低価格に設定されている。
(二) 右の特徴を平成六年度のit’sシリーズ製品(原告製品)を例に説明すると以下のとおりである。
(1) ジャー炊飯器 原告は、全部で一五機種のジャー炊飯器を製造販売しているが、そのうちで最も小容量、軽量、コンパクトで低価格の二機種をit’sシリーズ製品としている(マイコン式ジャー炊飯器〔四合炊き〕ECJ-S4M(TB)〔検甲第二号証の1の1・2〕、ジャー炊飯器〔三合炊き〕ECJ-SA3(TB)〔検甲第一号証の1の1・2〕)。前者は、おかゆやおこわなども炊飯可能な多機能製品である。
(2) クックプレート 原告は、全部で四機種のクックプレートを製造販売しているが、そのうちで最も小容量、軽量、コンパクトで低価格の一機種をit’sシリーズ製品としている(HPS-7H(TB)〔検甲第三号証の1の1・2〕)。右製品は、プレートの丸洗いが可能で後片付けが容易な構造になっている。
(3) コーヒーメーカー 原告は、全部で六機種のコーヒーメーカーを製造販売しているが、そのうちで小容量、軽量、コンパクトで低価格の二機種をit’sシリーズ製品としている(SAC-P3(TB)〔検甲第四号証の1の1・2〕、SAC-R7(TB))。
(4) 電気ジャーポット 原告は、全部で一二機種の電気ジャーポットを製造販売しているが、そのうちで小容量、軽量、コンパクトで低価格の三機種をit’sシリーズ製品としている(U-A18C(TB)〔検甲第五号証の1の1・2〕等)。
(5) スタンドライト 原告は、シンプルなデザインの低価格な製品をit’sシリーズの製品としている(KS-E2716(TB)〔検甲第六号証の1の1・2〕)。
(6) その他の製品 冷蔵庫等では小容量、軽量、コンパクトで低価格の機種を、電話機では留守番機能を持った機種を、テレビやビデオでは操作の容易な機種をit’sシリーズ製品としている。
(三) 以上のとおり、原告のit’sシリーズ製品(原告製品)は、発売当初から単身者世帯に適した形態や機能を有する製品をその製品群に採用し、従来家電製品には使用されていなかった色彩である濃紺色を使用したそのデザイン性と相まって、家電業界では珍しく発売以来一〇年以上もの長きにわたり、製品の色もコンセプトも変わらないシリーズ製品として存続し続けているのである(甲第三一号証の1・2)。
3 原告製品の色彩が濃紺色であるという特徴について(一) いわゆるトロピカルライン事件の判決(大阪地裁昭和五八年一二月二三日判決・無体集一五巻三号八九四頁)は、「色彩は、本来何人も自由に選択して使用することが許されるものであるが、特定の単色の色彩又は複数の色彩の特定の配色の使用が当該商品には従来見られなかった新規なものであるときには、特定人が右特定の色彩、配色を当該商品に反覆継続して使用することにより需要者をして右特定の色彩・配色の施こされた商品がこれを使用した右特定人のものである旨の連想を抱かせるようになることは否定できないところであり、このように商品と特定の色彩・配色との組合せが特定人の商品であることを識別させるに至った場合には、
右商品と色彩・色彩の配色との組合せも又、商品の形態と同様、不正競争防止法1条1項1号にいう『他人ノ商品タルコトヲ示ス表示』たり得るものといわなければならない。」と判示している。
いわゆるオレンジ色戸車事件の判決(大阪地裁昭和四一年六月二九日判決・下民集一七巻五・六号五六二頁)も、「他人の商品はその色で知られ、その色の商品を見るものは誰でも他人の商品だと判断するに至った(セコンダリーミーニング)場合とか、その色である旨の表示をすれば、誰でも直ちに他人の商品であると判断する(トレードネーム)など、その色が他人の商品と極めて密接に結合し、出所表示の機能を果たしているような特別の場合には、その商品に施された色ならびにその色である旨の呼名は防止法1条1号にいう『他人の商品たることを示す表示』として不正競業から保護せられなければならない。」と判示している。
(二) 本件の場合、以下の事実によれば、原告製品に施された濃紺色の色彩は、
他人の商品はその色で知られ、その色の商品を見るものは誰でも他人の商品だと判断するに至った場合」(オレンジ色戸車事件の判決)、又は「商品と特定の色彩・配色との組合せが特定人の商品であることを識別させるに至った場合」(トロピカルライン事件の判決)に該当するのであり、本件は、右各裁判例が想定していた、商品の色彩が商品表示に該当する典型的事例というべきである。
すなわち、従来家電製品には白色ないし淡いパステルカラー色が使用されていた(それ故、家電業界用語で冷蔵庫や洗濯機等を「白物(しろもの)」と呼ぶ。)のに対して、原告は、昭和五九年の原告製品の発売に際し、それまで家電製品に使用されていなかった暗い色彩である濃紺色、すなわち我が国の伝統的な染物等に使用されていた藍色を採用し、トラッドブルー(Trad Blue)と命名して以来これを一貫して使用してきたのであり、これは単身者を販売対象とする家電製品であるという特徴と相まって(原告主張の原告製品の特徴)、他の家電製品と比較して特別顕著性を有するものであり、かつ、その間原告製品の販売台数や売上高を増大させ、膨大な額を投下して宣伝広告をした結果、左記(1)ないし(5)のとおり原告製品が各種新聞で紹介されているように、原告製品の色彩の特徴は、取引者又は消費者の間に原告の商品を表示するものとして広く認識されるに至っている。
(1) 昭和六〇年一月五日付神戸新聞(甲第二八号証の1・2) 「カラー時代、変わる色の常識」の表題のもとに、「家電メーカーの三洋電機(本社・大阪)では、二月から『トラッド・ブルー』と呼ばれる黒に近い濃紺色の電気掃除機や扇風機、テレビなどを発売する。一つの色をテーマに各種の電機製品をまとめて出すこともユニークだが、この『トラッド・ブルー』自体、明るさを第一にする家電商品の色彩の常識に真っ向から挑戦するものだ。向こう見ずとも思えるこの企画に、同社のデザインセンターは、大きな自信を持っている。なぜなら、
昨春、人一倍、色にうるさい若い男性だけをターゲットにテスト販売した同色のトースターや電気ポットが、たちまち品切れになった。しかも購入した半分近くは、
まったく予期していなかった女性たち。……」と紹介している。
(2) 昭和六〇年二月九日付読売新聞(甲第二九号証の1・2) 「強烈な青色による統一感」の表題のもとに、「いま東京地区の大学生協などで『イッツ』という電気製品のシリーズが売れているという。ひとりで下宿生活するのに必要と思われる電気こたつ、電気釜、トースター、テレビ、コーヒーメーカー、ヘアドライヤーなど二十二種の製品で、ほとんどがひとり用の小型のものである。学生用のシリーズというからには若者むきのファッショナブルなデザインで統一されていると普通には思われるかもしれないが、事実は逆で、全製品とも外観を装飾なしの青色にまとめた至極単純なものなのである。無装飾であり、形態も同じ品種のものにくらべてより単純明快なものが選ばれているという点でこのシリーズのデザインは広告パンフレットにあるとおり大変ベーシック(基本的)なものだといえる。青色という色相も電気製品の色彩としては珍しいかもしれないが、色そのものは日本人には昔からなじみ深い紺や藍に通じており、それほど特殊なものではない。
このようなベーシックでシンプルな青色単純シリーズが若者たちに人気があることは大変興味深い現象である。……『イッツ』がシンプルなのは形態よりも色彩の点である。形態もよく見れば十分に単純ではあるが、やや統一には欠けている。これを意識させないほど青色の色彩による統一感は強烈なのである。……」と紹介している。
(3) 平成四年三月三一日付株式新聞(甲第三〇号証の1・2) 「衰え知らず 一人暮らし用家電セット」「購入者層拡大 売上は大幅伸長 ″若者のこだわり″が活況生む」の表題のもとに、「先発の三洋電が事業部体制を越えて取り組み『it’s』シリーズを展開したのは八四年、来春には十周年を迎える。発売当初は進学、就職のために都会に出てきて一人暮らしをする男性をターゲットとしていた。しかしここ数年、女子大生、OLなど一人暮らしをする女性が増加したことから、当初売上の三〇%に過ぎなかった女性比率が昨年は五〇%へ。また、宅急便の発達、兄弟の減少による親の援助増などを背景に、首都圏に集中していた購入の地域性は地方にも広範囲に及んできた。これら、購入者層の拡大、若者の住空間に対するこだわりなどを背景に、同製品群の九〇年売上高は前期比五五%増、九一年七〇%増と高水準。例年、年間売上高の約六五%が二月から四月に集中しており、今年の商戦でも前二月末の売上高は前年同期比四七%増と他の家電をはじめ消費全般が下火にある中で極めて好調だ。……今年の三洋電『it’s』シリーズは、家電製品だけでなく、積水化学と提携し、家具を含めたシリーズ展開が特徴的。発売当初から貫いている紺色で家具のカラーも統一し、一人暮らしの生活空間をまるごと提案できる体制にした。同社の統計では最近の若者に必要、かつ売れ筋となっている『三種の神器』は冷蔵庫、電子レンジ、留守番電話の三品目。……」と紹介している。
(4) 平成四年一二月三〇日付電波新聞(甲第三一号証の1・2) 「来年で10周年を迎える三洋の『it’s』シリーズ」の表題のもとに、「トラッドブルー色(藍色)で知られる、三洋電機の独身者向けシリーズ商品『it’s』が誕生以来、来年十年目を迎える。生まれては消えるものが多い家電業界で、
色もコンセプトも十年間変わらないシリーズ商品はこれまで例がないとのこと。その変わらない姿勢が評価され、愛用者が年々増加。九二年は百億円の売上げをあげた。同社ではこの十周年を記念して、これまでにない宣伝活動を実施、一段と認知度を高め、百三十億円の売上げを目指す。……そのit’sも来年で十年目。基本スタイルを誕生以来守り続け、今や三洋といえばit’sというほど、同社の看板商品に育てあげた。博報堂の調べによると、東京で一人暮らしをしている大学生に、このit’sについてたずねたところ、名称の認知率は五五・六%、写真を見たうえでの認知率は七八・一%、さらに大学入学直後の一年生については七五%が知っていたというから驚きだ。当初一人暮らしの男性をターゲットにしていたのが、最近では女性の購入者が年々増加。昨年過半数を超え、男女を問わない提案に切り替えたこともit’sの人気の高さを証明している。……【A】さんによるとit’sの誕生した八四年はパステルカラーの全盛期。この時代にあえて藍色というベーシックな色をもってきたこと自体、ロング化の確信があったのではというわけだ。……」と紹介している。
(5) 平成五年三月九日付流通サービス新聞(甲第三二号証の1・2) 「シングルライフ用家電製品」の表題のもとに、「……三洋電機の『it’s』シリーズは今年、発売十周年を迎える。同シリーズは、ヤングのシングルライフの定番商品として成長し続け、六つの商品グループに分かれる。……同社では、同シリーズの家電商品を年間を通じて展開するとともに、九二年から積水化学工業との共同開発で家具商品の充実も進めている。また、デザインコンセプトから商品カラー(トラッドブルー)の統一までトータルコーディネートも強化している。『it’s』の一つひとつの商品は、シンプルで使いやすい機能、流行に惑わされないカラーとデザイン、コンパクトサイズという原則で貫いている。……」と紹介している。
4 被告の主張に対する反論(一) 被告は、原告製品の形態の変遷を問題にするが、原告が周知の商品表示として主張しているのは濃紺の色彩であって、形状(意匠)ではないから、この点は問題にならない。
(二) 被告は、原告製品の季節商品性を主張するが、確かに原告製品は毎年一月下旬から四月下旬までの時期に集合展示が行われ、量販店の風物詩的な存在となっているものの、大学新入生、大学卒業者に限らない単身者用として、年間を通して販売されているのである。また、季節商品であるからといって、商品識別力を大幅に減退、喪失させることにはならない。
(三) 被告は、そもそも色彩は万人の共有物であり、一部の者がこれを独占することは許されない旨主張する。しかしながら、原告は、濃紺色という色彩それ自体が不正競争防止法の保護対象となると主張しているのではなく、原告製品と濃紺色という色彩との結合、すなわち、従来の家電製品には採用されていなかった濃紺色という色彩を採用した単身者用家電製品である点に、商品表示としての独自性(特異性)があり、自他識別機能があり、周知性があると主張しているのである。
不正競争防止法は、特許法等の人間の精神活動による知的創作物を保護する創作法ではなく、商標法等とともに商品又は営業の標識に化体された営業上の信用を保護する標識法に属するものであり、標識法の中でも特に競業秩序の維持を第一の目的としたものであって、他人の営業上の標識を無断使用(模倣)することは、とりもなおさず他人の営業上の信用に只乗り(フリーライド)する不正競争行為であるとしている。すなわち、創作法の分野では、模倣一般の禁止は技術発展を阻害するおそれもあるので、禁止すべき模倣と禁止すべきでない模倣を峻別する必要があるが、標識法の分野では、第三者は基本的に他人の標識を使用する必要はないから、
そのような考慮は原則として必要がない。
原告の商品表示たる「濃紺色」の「単身者用」家電製品を不正競争防止法の保護対象としても、第三者は多数の選択肢が存在する色彩の中から濃紺色とは明確に異なる色彩を選択して自己の商品表示とすればよいのであるから、家電業界に影響を及ぼすことは全くない。
(四) 被告は、原告製品は全体が濃紺色一色に彩色されているのではなく、ほとんどの製品の重要部分に黒色が用いられている旨主張する。
確かに原告製品では、ジャー炊飯器の把手、クックプレートの鍋の縁、卓上スタンドの支柱等の部分に黒色を採用しているが、右部分に黒色を施したのは原告製品の色彩の基調たる濃紺色(トラッドブルー)をより際立たせるためである。一般に黒色等の無彩色はそれ自体は目立たず、隣の色をひきたたせる効果があるので、肉眼で原告製品を見た場合、黒色の部分は目立たず、濃紺色単色との認識となるのである。被告主張のように原告製品のうちスタンドライトでは全体の表面積の約五割が、コーヒーメーカーでは約四割が黒色で占められているということはない。原告の自転車(マウンテンバイク)のみは、派手さが好まれるため平成六年から部分的に黄色を採用しているが、全体の基調色は濃紺色である。なお、右マウンテンバイクは家電製品と同じ店舗で販売されることは稀である。
また、被告主張のように原告が原告製品と同一形態の製品について濃紺色以外の色彩を施している例は存在するが、濃紺色以外の色彩を施した製品は、原告製品(it’sシリーズ製品)としては販売しておらず、原告製品と他の製品とは色彩により厳格に区別して販売しているのである。
(五) 被告は、カタログに掲載された原告製品の色彩を根拠に、原告製品の初期の色彩と最近の色彩との間には大きな隔たりがあり、同一色とはいえないと主張するが、カタログに掲載された製品の色彩は、現実の製品の色彩と若干異なることがあるから、カタログに掲載された製品の色彩を比較するのは意味がない。
(六) 被告は、単身者用の家電製品はこれまでどのメーカーも取り扱ってきたし、濃紺色又はこれに近い同系統色は、従来他の家電メーカーによって広く使用されており、原告のみが独占的に使用してきたものではない旨主張する。
その例として、株式会社東芝のクックコンポシリーズの色彩は昭和五六年から濃紺色に近いブルーであった旨主張するが、右クックコンポシリーズの本体の色彩がブルー系であったのは、昭和五四年から昭和五七年までであり、その色彩も日本カラーデザイン研究所発行のカラースケール表(乙第一号証。以下「カラースケール表」という。)の「PB(パープルブルー)の色相五、トーンDpA」(コバルトブルー)であって、原告製品の色彩とは明確に異なる(検甲第七号証)。そして、
その本体の色彩を昭和五八年にはミルキーラベンダー(薄い紫色)に、昭和五九年には黄色に変え、同年以降は右クックコンポシリーズ自体の製造販売が中止されている(甲第二四号証、第二五号証の1〜4)。また、松下電器産業株式会社のBEGINシリーズ(薄い灰色)や株式会社東芝のEXCIMAシリーズ(薄い茶色)等の製品の色彩も青系統ではなく、原告製品とは明らかに異なる色彩を採用している。
原告製品は、平成六年二月一〇日発行の書籍「電機業界早わかりマップ」(甲第二二号証)において、「家電の中でもロングセラーになりつつあるのが、独身者をターゲットとした『it’s』シリーズ。外観はブルーで統一され、四八品目をラインナップ。毎年一月末から四月まで全国五五〇〇店あまりで集合展示が行なわれ、量販店の季節の風物詩的存在になった。すでに発売一〇年を迎え、同様のターゲットを狙った松下電器の『BEGIN』や東芝『EXCIMA』などを抑え、指名買いなどでトップ商品になっている。」と紹介されているように、電機業界でもトップ商品シリーズとなっているのである。
【被告の主張】 原告主張の原告製品の特徴はいずれも商品表示ということはできない。その理由は以下のとおりである。
1 原告製品が主として大学生等の単身者を販売対象とする家電製品であるとの点について(一) 「単身者用」の概念の曖昧性 単身者用という概念は極めて曖昧であり、出所表示機能を果たすものではない。
単身者用の製品と単身者以外の者用の製品とは、形状や機能等の面で明確に区別をつけられるものではなく、販売する側が単身者用と名付ければ、それだけで単身者用となってしまいかねない。
商品の販売対象を「老人向け」、「若者向け」、「新婚者向け」というように特定階層の需要者に絞った販売方法は、どの商品についても、どのメーカーによっても行われていることであって、原告に特有の販売方法ではない。このような販売方法は、商品の形態、大きさ、使用方法等がその販売対象とする需要者にとって使用し易いように工夫されているということを示すに過ぎない。ある商品が特定の階層向けに販売されていること自体は、製品の識別力とは関係がなく、不正競争防止法2条1項1号商品等表示とはなり得ない。
そもそも、原告製品は単身者用製品と限定して販売されているわけではない(被告製品も同様である。)。現に、原告製品のカタログ(甲第四号証)には、「シングルライフ」という表現が三か所、「ひとりの時間」という表現が一か所出てくるが、その一方で、「ひとりで頑張る。ふたりで頑張る。そんなあなたを応援します。」という表現もあり、原告が原告製品を単身者用製品であるとしていることには多大な疑問がある。
(二) 他メーカーの単身者用家電製品の存在 単身者用の家電製品はこれまでどのメーカーも取り扱ってきたのであり、古くは株式会社東芝が昭和五六年に「クックコンポシリーズ」として、コーヒーメーカー、オーブントースター、トースター、電気ポット、電気コンロ、電気釜を、「独身気分」「シングルスピリッツ」のキャッチコピーのもとに発売したことに始まる。
東芝以外のメーカーの単身者用の家電製品シリーズとしては、松下電器産業株式会社の「ビギン」(昭和六三年発売)、株式会社東芝の「オフ」(平成二年発売)、象印マホービン株式会社の「ビート」(平成二年発売)、タイガー物産株式会社の「ビーミー」(平成二年発売)、三菱電機株式会社の「自由が丘シリーズ」(平成四年発売)など枚挙にいとまがない。
被告も、単身者向けに、昭和六三年に「シングルライフギアシリーズ」として家電製品五点(ポット、コーヒーメーカー、ホットプレート、電気蒸し器、ホットサンドメーカー)を、平成三年に「ライフシードシリーズ」として家電製品六点(オーブントースターアンドコーヒーメーカー、炊飯ジャー三合炊き、電気保温ポット、グリルパン、サイフォン式コーヒーメーカー、
缶ウォーマー)を発売した。「マイシリーズ」(被告製品)は、若年独身者から熟年単身赴任者、老人世代にまで対象を拡げた単身者向け家電シリーズ第三弾である。
(三) 原告主張の「単身者用」製品の具体的特徴についての反論 原告が「単身者用」製品の特徴として具体的に挙げる点は、以下のとおりいずれも単身者用製品の特徴とはいえない。
(1) 小容量、軽量、コンパクトであるとの点 原告製品のコーヒーメーカーには三カップ用(SAC-P3)の外に五カップ用(SAC-R7)があるが(甲第四号証)、五カップ用は家電業界ではファミリーサイズとされている。原告製品の冷蔵庫の容量は一〇六lと八五lであるが(甲第四号証)、原告が製造販売している原告製品以外の冷蔵庫の中にはこれらより大幅に容量の小さい七五lと四七lのものがある(乙第四五号証)。被告製品の炊飯ジャーは五・五合炊きであるが(甲第五号証)、五・五合炊きは家電業界ではファミリーサイズとされている。原告製品のジャー式ポット二種類はいずれも容量が一・八lであるが(甲第四号証)、被告製品の電気保温ポットは容量が一・〇lであり(甲第五号証)、同じく単身者用製品といいながら大幅な違いがある。
このように、原告指摘の原告製品についてのみ見ても、必ずしも原告の主張するような小容量、軽量、コンパクトという特徴を有していない。その上、原告製品の中には、もともと個人で使用することを前提とする卓上スタンド、シェーバー、ヘアドライヤー、電動歯ブラシ、アイロン、コードレス電話、ワードプロセッサー、
自転車、マウンテンバイク、デスク、チェアー、ベッド等が多数存在するが、これらは小容量、軽量、コンパクトという概念で説明すること自体不可能である。
(2) デザイン性、多機能性、取扱容易性(操作性)が考慮されているとの点 おかゆやおこわの炊飯機能は原告製品のみには限られず、炊飯器ではあたりまえの機能であるし(乙第四三号証)、留守番電話機能を持った電話は原告製品に限らない。また、クックプレートのプレートが丸洗い可能であることは、ファミリー用でも当然具えるべき機能となっており、これをもって単身者用の取扱容易性の根拠ということはできない。原告製品のスタンドライトのデザインは、原告製品以外の同種商品のデザインと同じであり(乙第四四号証)、特にシンプルというわけではない。テレビやビデオの操作が容易であるとの点についても、原告の主張は、ファミリー用に比べてどの点がどのように容易であるのかを明らかにしていない。
(3) 可処分所得に見合った低価格であるとの点 原告主張の一万六五〇〇円ないし六八〇〇円という価格は、例えば親の仕送りで生活している大学生にとって決して低価格とはいえない。
さらに、原告のカタログ(甲第四号証)によれば、例えば、冷蔵庫は六万四〇〇〇円、全自動の洗濯機は五万七〇〇〇円、テレビは九万五〇〇〇円というのであって、大学生にとって高価であることは明らかである。
(四) 原告製品の形態の変遷 原告製品の形態はここ一一年の間に大きく変遷しており、現在(平成六年)販売されている原告製品は、いずれも原告が周知性を獲得したと主張する昭和六三年には未だ存在すらしていなかったものであり、昭和六三年当時市場に存在していた製品は、いずれも形態(意匠)が現在(平成六年)販売されている原告製品の類似範囲にすら入らない全く異なったものである。
しかして、本件はメーカー名、シリーズ名、製品呼称名が明確に異なる事案であるから、周知性獲得の対象は具体的な商品を離れては論ずることができないところ、原告は、周知性を獲得したと主張する昭和六三年当時には未だ存在すらしていなかった現在(平成六年)の原告製品が周知性を獲得した旨主張しているのであるから、原告の主張は破綻している。
原告は、原告製品の形態の変遷は問題にならない旨主張するが、これは、「製品たる物品の形状又はこれと模様との結合であり、場合により色彩が施されたもの」という従来の意匠、デザインの概念から、その根幹をなす物品の形状、模様を外した新しい意匠、デザインの概念を前提とするものである。
(五) 原告製品の季節商品性と季節以外における商品識別力の減退 原告は、原告製品を年間を通して一つの製品群として販売しているかのように主張するが、原告製品が一つの製品群として店頭で展示販売されているのは毎年二月中旬から四月下旬にかけての三か月弱の期間に過ぎず、それ以外の期間は、いわば単品として、特に単身者用として宣伝広告することもなく店頭で展示販売されているに過ぎない。これは原告製品が単身者用製品といいながら、実際の購買層を大学新入生又は大学卒業者に絞っているためである。
このような原告製品の季節商品性はその商品識別力を大幅に減退、喪失させるものであり、三か月弱の販売期間で形成されかけた原告製品の識別力は、季節終了に伴い九か月間以上にわたって市場から姿を消すことにより、取引者、消費者から忘れ去られるのである。原告が毎年原告製品のために多額の宣伝広告費を投入せざるを得ないのはその故である。
2 原告製品の色彩が従来家電製品にはほとんど使用されることのなかった濃紺色であるとの点について(一) 色彩の商品表示性一般について そもそも色彩は太古の昔から存在する万人の共有物であり、一部の者がこれを独占することは許されない。しかも、原告主張のように単身者用の製品に用いてきたなどという曖昧な基準のもとにその独占が許されるならば、原告は単身者用と称してあらゆる分野の製品を僅かばかり手掛けることにより、あらゆる分野の製品について特定の色彩を独占することが可能となる。そして、右独占は被告に対してだけでなく、すべてのメーカー、すべての人間に対して当該色彩の使用を許さないことになるから、社会から色彩に関する創意工夫や楽しみを奪うことにつながり、その弊害は甚大である。
色彩の単色使用は、既に存在する多くの色彩から何色を使用するかという選択の問題であり、創造の観念を入れる余地はない(他方、色彩の組合せは、同じ何色かの組合せであっても、組合せの順序、配色の割合により無数の組合せが可能であり、見る者に全く異なった印象を与えることができるから、そこには創造性が強く入り込んでくる。)。原告が原告製品に濃紺色を採用したのは、万人の共有物として存在した濃紺色を選択しただけであり、何らの創造性は認められないから、濃紺色の使用に独占的使用という法の保護を与えるべきではない。特に、濃紺色は、昔から我が国民に親しまれ、国民生活に深く溶け込んできた色であり、その独占的使用を認めることの弊害は計り知れない。
色彩の単色使用の商品表示性が問題とされた裁判例がオレンジ色戸車事件しか存しないのは、色彩の独占は許されないとの共通認識が一般社会にも産業界にも存したからである。
右オレンジ色戸車事件の判決は、商品に施された色及びその色である旨の呼名は「他人の商品たることを示す表示」として保護される場合のある旨を判示しているが、当該事案では、そのオレンジ色戸車の販売個数は優に五〇〇〇万個を超えていると窺えるにもかかわらず、未だ不正競争防止法による保護の対象とならないとしている。原告製品の販売台数は、原告の主張によってもその二〇分の一程度に過ぎず、セコンダリーミーニングやトレードネームが問題とされるような販売台数とは比較にならない数である。
(二) 原告製品の多色使用 原告製品は全体が濃紺色一色に彩色されているのではなくて、ほとんどの製品の重要部分に黒色が用いられている。
特にスタンドライトでは全体の表面積の約五割が、コーヒーメーカーでは約四割が黒色で占められ、しかも、最も目立つ中央部分(スタンドライトの支柱・セード下部・基底部分、コーヒーメーカーの水タンク・サーバー台・サーバー把手部分)に黒色が用いられている。マイコン式ジャー炊飯器(四合炊き)、ジャー炊飯器(三合炊き)では把手部分、基底部分、中央のスイッチやボタン部分など目につき易い部分が、マイコン式ジャーポット、ジャー式ポットでは把手部分、クックプレートでは蓋のつまみ部分、スイッチ部分などがそれぞれ黒色に彩色されている。その外、IH調理器やインテリア炬燵、サークライトの重要部分には白色が、スチームアイロンにはグレーが、自転車には黄色が相当の割合で用いられている。
原告は、黒い炉を施したのは原告製品の色彩の基調たる濃紺をより際立たせるためであると主張するが、右主張は、複数の色彩の配色の効用を自ら述べるものに外ならず、濃紺色一色の商品表示性を主張することと矛盾する。
また、原告は、原告製品と同一形態の製品について濃紺色以外の多くの色を使用して販売しているだけでなく(乙第一六号証の1〜7)、原告の製品の中には濃紺色又はこれに近い色を採用しながら、it’sシリーズ製品(原告製品)としては販売していないものが多数存在する(乙第三五号証の1〜5)。このことは、原告主張の原告製品の特徴の出所表示機能を自ら弱めていることを示すものである。
(三) 原告製品の色彩の変遷 原告は、昭和五九年の原告製品の発売以来一貫して濃紺色を使用してきたかのように主張するが、カタログによれば、原告製品の初期の色彩と最近の色彩との間には大きな隔たりがあり、同一色とはいえない。新発売された昭和五九年当時の色、
原告が周知性を獲得したと主張する昭和六三年当時の色、現在(平成六年)の色は全く異なるものであることが明らかである(乙第一一号証、第一二号証の1ないし10、第一三号証の1ないし8)。すなわち、原告製品の色彩をカラースケール表にあてはめると、
(1) 昭和五九年当時の色は、江戸紫「P(パープル)の色相五、トーンのDK(ダーク)の2」又は茄子紺「P(パープル)の色相五、トーンのDK(ダーク)の1」、
(2) 昭和六三年当時の色は、錆納戸「B(ブルー)の色相一〇、トーンのDI(ダル)の2」又は藍ねず「PB(パープルブルー)の色相二・五、トーンのDI(ダル)の2」(3) 平成六年当時の色は、インクブルー(PB(パープルブルー)の色相二・五、トーンのDP(ディープ)の1」又は濃藍「PB(パープルブルー)の色相二・五、トーンのDK(ダーク)の2」に該当すると思われる(なお、濃紺は「PB(パープルブルー)の色相二・五、トーンのDK(ダーク)の@」である。)。このように色相がP(パープル)からPB(パープルブルー)、さらにB(ブルー)にまで及んでいて色相範囲が極めて広く、出所表示として購買者に与える印象が弱い。
(四) 他の家電メーカー及び被告による同色又は同系統色の先使用 原告は従来家電製品には濃紺色はほとんど使用されていなかった旨主張するが、
濃紺色又はこれに近い同系統色は、従来他の家電メーカーによって広く使用されており、原告のみが独占的に使用してきたものではない。
すなわち、東芝が前記のとおり昭和五六年に初めて単身者用家電シリーズとして「クックコンポシリーズ」六点セットを発売した際に使用した色彩は、濃紺色に近いブルーであった。原告は、この色彩を意識して原告製品の色彩を濃紺色にしたものと思われる。三菱電機は、昭和六二年電気スタンドに、日立製作所は、昭和六三年頃電気スタンド等の家電製品にそれぞれ濃紺色を使用しているし、近年では松下電器産業、松下電工、東芝、シャープ、日本ビクターなどほとんどの家電メーカーが濃紺色又はその同系統色を使用している。
被告も昭和五九年には電気保温バスケット、電気ウォーマー、電気保温ポット、
コーヒーウォーマー、電気鍋等にブラック系統色を、昭和六一年にはセーフティーレジャーライト、タイマー付空気清浄器、ソーラークロック、タッチセンサーライト、Lコンポ・ラジオクロックライトに黒色を、昭和六二年にはピッチャー、ペール、ポット等(但し、家電製品ではない。)の把手部分にブラックグリーンを、平成二年にはポータブル温冷蔵庫等のアウトドア製品多数にブルー系統色を使用してきた。
二 争点2(被告製品と原告製品との間に混同を生じるか)【原告の主張】 被告製品は、単身者用の家電製品であり、その色彩は原告製品の濃紺色に極めて類似したものであって、原告主張の原告製品の特徴を具えているから、被告の行為は商品の出所の誤認混同を生じさせる不正競争行為に該当する。
1 被告製品が単身者用の家電製品であること 被告製品は、カタログ(甲第五号証)の「シンプルで始まる。友人とのつきあいも、生活も、自分らしくが、モットーです。」、「シンプルで始まる。とてつもなく自由だけど、何でも自分でやらなきゃ始まらない。だから、生活のアレコレ。
今までのものは脱ぎ捨てて、新しいスタートを自分流にキメてみよう。」などの記載、あるいは例えばマイコン炊飯ジャー五・五合炊についての「お茶わん二杯分からおいしく炊けるからひとりの時も大満足。」というような個別的な記載からも、
原告製品と同じく大学生等の単身者を対象とした家電製品であることが明らかである。
2 被告製品の色彩が原告製品の濃紺色に極めて類似したものであること 原告製品と被告製品の色彩の対比は、色彩を表現する言葉によってではなく、現実に市販されている原告製品(検甲第一号証〜第六号証の各1の1)と被告製品(検甲第一号証〜第六号証の各2の1)に施されている色彩によってなすべきである。
しかるに、原告製品の色彩の名称である「トラッドブルー」は、我が国の伝統的な染物等に使用されていた藍色すなわち濃紺色を採用した経緯から原告において命名した名称であって、一般の色彩の名称ではないところ、被告は、原告がこれを「濃紺色」と表現したことに藉口して、カラースケール表で「濃紺」と表示された色彩「PBの色相二・五、トーンDK@」が原告製品の色彩であると主張するが、
同表で原告製品の色彩を特定すれば、「Bの色相一〇、トーンDgr」の「留紺(とまりこん)」である。同様に、被告は、被告製品の色彩につき、これを「ブラックグリーン」と主張し、そのブラックグリーンに相当する言葉「黒緑」と表示された色彩「Gの色相五、トーンDgr」であると主張するが、被告製品の色彩は同表の「Bの色相五、トーンDgr」と「Bの色相七・五、トーンDgr」の中間の「留紺」と呼ばれる色彩である。したがって、原告製品の色彩と被告製品の色彩とは、いずれもB(ブルー)の色相に属し、トーンはDgr(ダークグレイッシュ)であって、極めて近似する色彩なのである。
3 被告製品と原告製品の対比に当たっては離隔的観察を原則とすべきこと 不正競争防止法における商品表示の類似性出所の混同防止の観点から判断するのであるから、需要者の平均人が取引社会において通常使用する注意力ないし判断力を前提とすべきものであり、その判断方法も、
両商品表示を凝視し逐一分析的に対比するのではなく、需要者が商品取引において通常商品表示に注意を払う限られた時間内に与えられた記憶を基準にして考察する離隔的観察を原則とし、また、対象を恣意的に分断し一部のみに焦点を当てて対比するのではなく、両対象を全体的に考察する方法を原則とすべきである。
特に、原告製品及び被告製品は家電製品であり、需要者は単身者(一般消費者)であって、店頭に陳列された製品を購入するのであるから、その色彩の比較、類否判断も、色彩に関して特殊な知識を持たない一般消費者を前提にした離隔的観察によらなければならない。
そのような見地で両製品の色彩を対比観察すると、被告製品の色彩は原告製品の濃紺色と極めて類似しており、しかも、両製品は同じ店舗内で、時には同じ陳列台に陳列して販売されているのであるから、両製品が単身者用の家電製品であることと相俟って出所の混同を生じ、少なくともそのおそれがあることは明らかである。
これに対し、検乙第一号証は、原告製品と被告製品のスタンドライトのセード部分の一部を切り取って貼り合わせたものであって、殊更その差異を強調するものである。このような比較方法は一般消費者が家電製品を購入する際になす比較方法ではない。また、乙第二一号証における測定方法は、肉眼での測色方法ではなく、光学機器を用いた物理的方法による測色方法であって、財団法人東京大学出版会発行「新編 色彩科学ハンドブック」(乙第三三号証)に、「主として、染色工場において色合わせされたものが、見本と色が一致しているかどうかの検査が、染色者の品質管理のために行なわれる。」と記載されているように、製造メーカーの品質管理のためになされる厳密な色比較の方法であって、一般消費者がなす肉眼による比較ではない。被告作成の別紙「製品対照表」も、現実の製品の色彩とは若干異なるかもしれないカタログ(原告製品の甲第四号証と被告製品の甲第五号証)の色彩を、さらにカラーコピーした色彩でもって対比するものであるから、意味がない。
4 被告製品と原告製品の商品形態の差異等についての被告の主張に対する反論(一) 被告は、被告製品と原告製品の商品形態が全く異なる旨主張するが、両製品とも単身者用家電製品としてシンプルなデザインが採用されてはいるものの、特にその種製品が通常有する形態と異なる商品形態が採用されているわけではないから、両製品において需要者の注意を最も喚起するのはその色彩である。このことは前記一【原告の主張】3(二)(2)の昭和六〇年二月九日付読売新聞の記事によっても裏付けられる。
(二) 原告製品及び被告製品の製品自体及び包装箱に表示されたメーカー名や製品のシリーズ名等は、各製品全体からすれば小さく、需要者が特に意識して見なければその相違には気づかない程度の大きさである。まして、一般消費者は家電製品について特別の知識を有しないから、家庭用品品質表示法及び電気用品取締法に基づく表示などを意識することなく、そのような法律が存在することすら知らない。
また、パンフレットにしても需要者が製品購入前に確認するとは限らない。
両製品の取扱説明書及び保証書も、一般消費者が家電製品購入前に確認しその内容を吟味することは極めて稀である。
(三) 被告は、原告製品及び被告製品は決して安価とはいえないし、家電製品として性能、安全性、耐久性等が最も重視されるから、需要者はメーカー名を確認したうえで購入するし、小売店の販売員も各メーカーの製品の特徴を説明して販売する旨主張する。しかし、被告製品及びこれに対応する原告製品の価格は希望小売価格でも一万六五〇〇円ないし六八〇〇円程度であり(甲第五号証、第三四号証)、
現在の大学生等の単身者の可処分所得からすれば高価とはいえないし、少なくとも一般家庭用の製品よりも低価格に設定されている。また、両製品とも量販店で販売されることが多いが、量販店では販売員が製品の説明をするとは限らないことは周知のことである。
(四) 被告は、被告製品の色彩は独自に決定した色彩である旨主張するが、被告が原告製品を知らないはずはなく、その色彩が濃紺であることを知らないはずもないから、被告製品の色彩の決定に当たり、被告製品を原告製品と誤認混同させようとする意思を有していたことは明らかである。
【被告の主張】 被告製品と原告製品とは、以下のとおり、その色彩の差異及び商品形態の相違により、その間に混同を生じることはない。
1 原告製品と被告製品の色彩の差異(一) 人間の視覚は微妙な色彩の変化を見逃さないものであり、同一色と言われる色彩の中でも微妙な色の変化を見分けることができる。カラースケール表は、色の色相を四三段階、色のトーンを一二段階に分類しているが、原告の主張する原告製品の「濃紺」は「PB(パープルブルー)の色相二・五、トーンDK(ダーク)@」に属するのに対し、被告製品の色彩であるブラックグリーンは「G(グリーン)の色相五、トーンDgr(ダークグレイッシュ)」に属するのであって、両者の間にはBG(ブルーグリーン)とB(ブルー)の二つの色相が存在し、同表全体の色相で一〇段階、トーンで一段階の差が存在するから、両者は、同一とはいえないだけでなく、類似色の範疇にも入らず、その違いは歴然としている。
(二) しかして、本来二つの色の差は、まず対比的観察によって絶対的な色差が明らかにされるべきであって、対比的観察によっても二つの色の差が微妙な場合に初めて両者が混同されるおそれがあるか否かを離隔的観察によって判断すべきである。
実際の小売店舗においても、原告製品と被告製品は同一フロアの家電製品コーナーに陳列して販売されることが多く、二月中旬から四月下旬までの間以外は、両製品が並んで展示販売されることが多い(乙第一八号証)。そのような場合、顧客は対比的観察によって両製品の色差を判断しているものといわなければならない。
原告製品と被告製品の各カタログを切り抜きして対比した別紙「製品対照表」及びそれぞれのスタンドライトのセード部分の一部を切り取って貼り合わせた検乙第一号証によれば、原告製品と被告製品の色彩は全く異なることが明らかであるから、離隔的観察をする必要はないものといわなければならない。
なお、原告提出の検甲第一号証ないし第六号証の各1の2及び2の2の写真は、
両製品を同1条件(光、背景等)のもとに撮影したものではない。
(三) 念のため、離隔的観察について検討しても、その色差は以下のとおり明らかである。
(1) 色の比較は見る者の主観によって大きく左右される。しかし、色の類否判断は見る者の主観によって左右されてはならないから、可能な限り客観的基準によらなければならないことは当然である。したがって、色の類否判断においては、光学機器を使用した物理的方法による測色方法に基づく色比較が第一の基準とされなければならない。
(2) そこで、原告製品のスタンドライトと被告製品のタッチセンサーインバータ蛍光灯(ヘ号物件)の各台座部分から切り取った試料の分光反射率を新潟県工業技術センターにおいて測定した結果(乙第二一号証)によれば、ISCCーNBSによる表示で、前者の色は「dark bluish gray」、後者の色は「dark grayish blue」であり、両者の(Lab)表色素による色差△Eabは一一・二〇である。
そして、色差三・〇〜六・〇は「著しく異なる」、色差六・〇〜一二・〇は「極めて著しく異なる」、色差一二・〇以上は「別の色系統になる」とされているから、原告製品と被告製品の色差(一一・二〇)は、「極めて著しく異なる」もので、「別の色系統になる」に近いものである(乙第二二号証の1・2)。
乙第二二号証の1(ミノルタカメラの取扱説明書「色彩色素計CR-二〇〇)の色比較は、元来染色工場における染色物の品質管理のための比較基準から出発したものであるが、そもそも染色工場の品質管理は注文者さらには一般消費者の肉眼又は認識を意識してなされていることは明らかであるから、結局、右の色比較は、一般消費者の肉眼又は認識による色比較の基準とみるべきである。
また、乙第二二号証の2の四枚目の「色差(△E)の使用事例(塗料・塗装業界」では、色差と人の目の感じ方の関係は、以下のとおりとされている。
色差(△E)人の目の感じ方〇・一〜〇・二 熟練工が、色違いを識別できる限界〇・二〜〇・四 一般の人が、色違いを識別できる限界〇・八〜一・五 製品の色管理でよく使用される範囲一・五〜三・〇 離して並べればほとんど気付かず、一般的には同じ色の範囲三・〇〜 色違いのクレームとなる範囲一二・〇〜 別の色系統になる これによると、色差「〇・二〜〇・四」からは一般人の肉眼又は認識を基準とし、色差「一・五〜三・〇」からは離隔的観察方法を基準としているから、結局、
色差「一・五〜三・〇」以上は、一般人の肉眼又は認識による離隔的観察方法を基準としている。原告製品と被告製品の色差(△E)は前記のとおり一一・二〇であるから、一般人の離隔的観察によっても、「色違いのクレームとなる範囲」であって「別の色系統になる」に近いものである。
(3) トロピカルライン事件においては、XYZ表色系(JIS-Z八七〇一)、三属性による表示(修正マンセル表色系)(JIS-Z八七二一)による測色結果が示され、それらが判断の大きな要素となっている。
乙第二一号証においては、右と同一の測色方法も採用されており、その測色結果は、トロピカルライン事件の基準をもってしても、本件は差止めの対象外であることを示している。
2 被告製品と原告製品との商品形態の差異等 商品表示が誤認混同を惹起する典型は、商品の形態の同一又は類似呼称の同一又は類似、出所の不表示又は紛らわしい表示などであるが、原告はその点に関する主張をしないし、現実にも被告製品と原告製品は、以下のとおり商品の形態呼称出所表示のいずれからみても誤認混同を生じるおそれはない。
(一) 被告製品と原告製品の商品形態は別紙「製品対照表」のとおりであり、全く異なる。
(二) 被告製品の商品名はイ号物件からヘ号物件まで順に、「炊飯ジャー三合炊」、「マイコン炊飯ジャー五・五合炊」、「グリルパン」、「コーヒーメーカー」、「電気保温ポット」、「タッチセンサー・インバータ蛍光灯」であり(甲第五号証)、これに対応する原告製品の商品名は順に、「ジャー炊飯器(三合炊き)」、「マイコン式ジャー炊飯器(四合炊き)」、「クックプレート」、「コーヒーメーカー」、「マイコンジャー式ポット」又は「ジャー式ポット」、「スタンドライト」であり(甲第四号証)、「コーヒーメーカー」を除き、全く異なる。コーヒーメーカーは、冷蔵庫やテレビなどの語と同じく既に我が国においては普通名詞となっているから、コーヒーメーカーの呼称が同一であるからといって、原告製品と被告製品との間に混同を生ずることはあり得ない。
(三) 原告製品には、一番目立つところに原告の名称「SANYO」及びシリーズ名の「it’s」が白色文字で大きく表示され、被告製品には、同様に一番目立つところに被告の名称「TWINBIRD」及びシリーズ名の「mi」が金色文字で大きく表示されている。
被告製品には、家庭用品品質表示法に基づき被告の社名、住所、電話番号が記載されたシールが貼付されるか、これらが直接製品に示され、また、電気用品取締法に基づき被告又は協力工場(請負業者)の社名が明示されている。これらの点は原告製品についても同様である。したがって、原告製品と被告製品には「SANYO」、「TWINBIRD」の表示も合わせれば、一個の製品についてその出所を示す社名及び工場名が三個宛表示されていることになる。
のみならず、それぞれの包装箱についてみても、原告製品の包装箱では、無地に「SANYO」「it’s」と表示され、その文字は大きいが細い灰色の文字であるのに対し、被告製品の包装箱では、緑色を基調とした地を相当部分に用いており、「mi」「TWINBIRD」の文字は緑色で太く表示されている。
さらに、原告製品と被告製品にはいずれも取扱説明書及び保証書が添付されているが、それらにも原告又は被告の社名、住所、電話番号、ファックス番号が明示されている。
販売の現場においても、原告製品と被告製品は、「it’s」、「mi」と大きく表示したポップや陳列什器のもとに陳列されている。
(四) 原告製品及び被告製品は、単身者、独身者、単身赴任者、老人世帯のみならず、一般需要者にとっても決して安価とはいえないし、家電製品として性能、安全性、耐久性等が最も重視される。
したがって、需要者は、購入時には必ずと言ってもよいほど製品を実際に手に取ってメーカー名を確認し、さらには取扱説明書によって使用方法を確認したうえで購入し、小売店の販売員も、各メーカーの製品の特徴を説明して販売する。
原告は我が国大手家電メーカーの一つであるのに対し、被告はもともとギフト商品メーカーとしてわが国ではかなり知られた存在であり、数年前から家電部門に進出して新製品を世に送り出してきているのであって、原告と被告が間違われるはずもない。
(五) なお、被告が被告製品の色彩にブラックグリーンを採用した理由は、以下のとおりである。
被告は、昭和五七年に家庭用照明器具の製造を開始して以来、多数の家電製品を、「ブレンド」等のシリーズ商標のもとでカラーコーディネートして販売してきた。
また、被告は、これまで単身者向けの家電製品のシリーズとして、昭和六三年に「シングルライフギアシリーズ」を、平成三年に「ライフシードシリーズ」を販売してきたが、いずれも対象を若年独身者に絞り過ぎたことの外、商品の色彩に高級感がなく、家電製品としての品揃も十分でなかったことなどから、期待したほどの売行きを示さなかった。
そこで、被告は、右両シリーズの反省に立って、単身者向け家電製品シリーズ第三弾として平成五年一二月からマイシリーズ製品(被告製品)を発売したのであるが、その際、高齢化社会や単身赴任者の増大という今日の社会状況に合わせて、販売対象を若者、独身者だけでなく熟年層の単身赴任者、一人暮らしや夫婦だけの老人世帯にも拡げ、それに伴い製品の形態や色彩につき「高級感」と「やすらぎ」を商品開発のテーマとした。
色彩の選択に際しては、被告は、「高級感」、「やすらぎ」のイメージに合う色や流行色を研究し、特に社会生活に深くくい込んでいる乗用車の色彩を徹底調査した結果、近年いわゆる高級車とされている車種にはブラックグリーン系統、ダークグリーン系統(エコロジーカラー〔環境適合色〕)が多く採用されていることが判明した。被告は、このブラックグリーン系統やダークグリーン系統の色彩を中心に周辺色の調色を繰り返して候補を三色に絞り、さらに複数の顧客に対してマーケットリサーチをし、その結果、ブラックグリーンの採用を決定し、関西ペイントに調色を依頼した。被告製品に採用されているブラックグリーンは、こうして関西ペイントが被告の注文に合わせて何度か調色を繰り返し、関西ペイント原色番号五八二(チンチングブラック)五〇%、同三六五(ファストブルー)三二%、同五八一(レモンイエロー)一二%、同五三一(ホワイト)六%の割合で調色した独自色である。
右調色の割合からも明らかなように、被告製品の色彩は、黒と緑を基調とするものであり、青を基調とする原告製品の色彩とは明らかに異なる。
三 争点3(被告の行為が不正競争行為に該当する場合、被告が賠償すべき原告の損害の額。)について【原告の主張】 被告の不正競争行為は故意又は過失に基づくものであり、被告は、平成六年一月二〇日頃から同年三月二〇日頃までの間に約四〇〇〇万円の被告製品を売り上げ、
その三%に相当する一二〇万円の利益を得たから、原告は右利益額と同額の損害を被ったものと推定される(不正競争防止法5条)。
争点1(原告主張の原告製品の特徴は原告の商品であることを示す出所表示
機能を取得しているか、周知性を獲得しているか)に関する判断一 証拠(甲第六号証、第七号証、第九号証、第二一号証、第二八号証〜第三二号証の各1・2)及び弁論の全趣旨によれば、原告製品(it’sシリーズ製品)の発売後の品種品番、販売台数、売上高、宣伝広告費は別表記載のとおりであること、原告製品はこの間前記第三の一【原告の主張】3(二)の(1)〜(5)に摘示したとおり各新聞によって紹介されたことが認められ、右認定事実によれば、原告製品はこれまで一〇年以上にわたり継続的に製造販売されてきた実績のある商品であり、単身者を販売対象とするシリーズ商品として評価を受けてきたということができる。
しかしながら、本件全証拠によるも、原告主張の原告製品の特徴、すなわち@主として大学生等の単身者を販売対象とする家電製品であり、A色彩が従来の家電製品ではほとんど使用されることのなかった濃紺色であるという特徴が、原告主張の昭和六三年の時点においても現在においても原告の商品であることを示す出所表示機能を取得し、取引者及び消費者の間に広く認識されるに至っていると認めることはできない。その理由は以下に説示するとおりである。
二 原告製品が主として大学生等の単身者を販売対象とする家電製品であるとの点について1 不正競争防止法2条1項1号にいう「商品表示(人の業務に係る商品を表示するもの)」とは、商品を個別化し、その商品の出所を他の出所から区別せしめる認識手段たる形象をいうところ、原告主張の原告製品の特徴のうち、原告製品が主として大学生等の単身者を販売対象とする家電製品であるとの点が、右のように原告製品を個別化し、原告製品の出所(原告)を他の出所から区別せしめうる認識手段たる形象ということができるか否かを検討する。
(一) 原告製品は、カタログ(甲第四号証)等の宣伝広告媒体では単身者を主たる販売対象とする商品であることが示されているが、商品それ自体にはその旨表示されているわけではなく(乙第一九号証の1〜6の各B、検甲第一号証〜甲第六号証の各1の1・2)、実際の小売店舗における販売に際しても、毎年二月中旬頃から四月下旬頃までの大学入学、就職、転勤等の時期には、単身者向けのシリーズ製品であることが消費者に分かりやすいように原告製品のみが一つのコーナーにまとめて展示販売されることが多いが、右の時期以外の時期には、各製品が単品でファミリー用の他社製品と一緒に同じコーナーにおいて、特に単身者向けのシリーズ製品であることを示さないで展示販売されることも多い(甲第八号証、乙第一七号証、第一八号証、弁論の全趣旨)。
(二) 家電業において、最初に単身者を販売対象とする製品を発売したのは株式会社東芝であって、同社は昭和五六年、「独身気分 single spirits 男の調理器具 クックコンポ」のキャッチフレーズのもとに、原告製品の濃紺色に近いブルーに彩色したコーヒーメーカー(七七〇〇円)、オーブントースター(六九八〇円)、トースター(四九〇〇円)、電気ポット(四七八〇円)、電気コンロ(二五八〇円)、電気釜(七八〇〇円)の六種の製品を発売した(乙第七号証)。
(三) 現在では、単身者向けのシリーズ家電製品として松下電器産業株式会社の「ビギン(BEGIN)」(昭和六三年発売)、株式会社東芝の「オフ(off)」(平成二年発売)、象印マホービン株式会社の「ビート(BEAT)」(平成二年発売)、タイガー物産株式会社の「ビーミー(Beme)」(平成二年発売)、三菱電機株式会社の「自由が丘シリーズ」(平成四年発売)等、多種の製品が販売されている(乙第八号証の1〜5、弁論の全趣旨)。
したがって、抽象的に単身者を販売対象とする製品であるというだけでは、前記のような、原告製品を個別化し原告製品の出所(原告)を他の出所から区別せしめうる認識手段たる形象といえないことは明らかである。
2 原告は、一般家庭用の製品と比較した場合、原告製品が単身者を販売対象としている家電製品であることによる具体的特徴として、(1) 単身者用ということで小容量であり、置場所に配慮したコンパクトなサイズであること、(2)単身者の中でも比較的若年の層を対象とする製品では、デザイン性及び多機能性(一つの製品に多様な機能を持たせること)が考慮され、比較的年齢の高い層を対象とする製品では、取扱(操作)の容易性が考慮されていること、(3)価格が個人の可処分所得に見合った低価格に設定されていることを挙げる。
(一) しかし、まず、1の小容量、コンパクトなサイズであるとの点についていえば、原告製品に属するマイコン式ジャー炊飯器四合炊き(ECJ-S4M。検甲第二号証の1の1・2)、ジャー炊飯器三合炊き(ECJ-SA3)とそれぞれ全く同一の機種でありながら、色を異にする(前者では白色、後者では白色及びマニッシュグレー)だけで原告製品に属しない製品が存する外、原告製品に属するマイコン式ジャー炊飯器四合炊き(ECJ-S4M)と全く同一の消費電力・寸法・重量・容量(四・〇合)でありながら、価格が二〇〇〇円違うだけで原告製品に属しない製品(ECJ-DOS2)が存すること、原告製品に属するコーヒーメーカー(SAC-R7)と同一の機種でありながら、色を異にする(ダークグリーン)だけで原告製品に属しない製品が存する外(乙第四三号証)、原告の製造販売するコーヒーメーカーは、原告製品以外の製品(四機種)でもすべて容量が原告製品に属する右機種(SAC-R7)と同じ五カップであり、そのうち一機種(SAC-FJ5)は重量も同じ一・八キログラムである(甲第三四号証)こと(常識的にも、
容量五カップのコーヒーメーカーが小容量とは到底いえない。)、原告製品に属するオーブンレンジ(EMO-V4)と同一の機種でありながら、色を異にする(ソフトグレー)だけで原告製品に属しない製品が存し、原告製品に属するオーブントースター(SK-BY2)と同一の機種でありながら、色を異にする(ライトグレー)だけで原告製品に属しない製品が存すること(乙第四三号証)、原告製品に属する蛍光灯スタンド(KS-EA2717、KS-2710)と同一機種でありながら、色を異にする(前者についてはグレー、後者についてはグレー、ブラック及びベージュ)だけで原告製品に属しない製品が存すること、原告製品に属する冷蔵庫の容量は一〇六l(SR―11NH)と八五l(SR-9DH)であるが、それよりも大幅に容量の小さい七五lの機種(SR-8G)及び四七1の機種(SR-5G)を原告製品に属しない製品として製造販売しているだけでなく、原告製品に属する右機種(SRー9DH)と同一機種でありながら、色を異にする(ロフトグレー)だけで原告製品に属しない製品が存すること(乙第四五号証)が認められる。
(二)(2)のデザイン性及び多機能性、あるいは取扱(操作)の容易性については、原告は、原告製品に属するマイコン式ジャー炊飯器四合炊き(ECJ-S4M)はおかゆやおこわなども炊飯可能な多機能製品であり、クックプレートはプレートの丸洗いが可能で後片付けが容易な構造になっていると主張するが、原告製品に属しないジャー炊飯器でも容量のいかんを問わずおかゆやおこわなども炊飯可能な「マイコン多機能」なる機能を備えており、原告製品に属しないクックプレートでもプレートの丸洗いが可能で後片付けが容易な構造になっている(乙第四三号証)。また、コーヒーメーカー、オーブンレンジ、オーブントースター、蛍光灯スタンド、冷蔵庫については、前示のとおり同一機種の製品、したがって同一のデザイン、機能で取扱(操作)の容易性も同じ製品であるのに、色違いというだけで原告製品に属するものと属しないものとがある。さらに、原告は、電話機では留守番機能を持った機種を、テレビやビデオでは操作の容易な機種を原告製品としている旨主張するが、電話機の留守番機能は一般家庭用のものでも備えていれば便利であることはいうまでもなく、原告の製造販売する電話機は一般家庭用のものでも当然この機能を備えたものが存在すると推認され、テレビやビデオの操作の容易性については、具体的に原告製品に属する機種が原告製品に属しない機種と比較して具体的にどのように操作が容易なのか主張立証するところがなく、操作の容易性はテレビやビデオに限らず、家電製品一般について一般家庭用、単身者用を問わず当然求められるものである。
(三)(3)の低価格の点についていえば、原告が製造販売している蛍光灯スタンドの中には、原告製品に属する蛍光灯スタンド(KS-EA2717一万三五〇〇円、KS-E2716一万二〇〇〇円、KS-2710一万二〇〇〇円)よりも安価な製品が多数存するし(KS-1521四九〇〇円、KS-1526五九〇〇円、KS-1523六一〇〇円、KS-2702七五〇〇円など。(乙第四四号証)、コーヒーメーカー、オーブンレンジ、オーブントースター、蛍光灯スタンド、冷蔵庫については、前示のとおり同一機種の製品、したがって、同一価格のものであるのに、色違いというだけで原告製品に属するものと属しないものとがある。さらに原告製品のうち被告製品に対応する製品の標準価格は一万六五〇〇円から六〇〇〇円までであるが(甲第四号証、第三四号証)、これは大学生等にとっては低価格とはいい難いし、原告製品の中でもテレビ(標準価格九万五〇〇〇円。甲第四号証により認められる。以下同じ。)、ビデオ(同七万円)、冷蔵庫(同六万四〇〇〇円、五万二〇〇〇円)、全自動洗濯機(同五万七〇〇〇円)、二槽式洗濯機(同三万三〇〇〇円)、衣類乾燥機(同五万七〇〇〇円)、オーブンレンジ(同四万六五〇〇円)、小電力コードレス留守番電話機(同四万六〇〇〇円)、留守番電話機(同二万五〇〇〇円)、パーソナルラップトップワープロ(同一六万円)、
自転車(同三万八五〇〇円)、マウンテンバイク(同五万五〇〇〇円)に至っては、一般家庭用としても高価という外はない。
(四) 原告製品に属する家電製品の中でも、蛍光灯スタンド、シェーバー、ヘアドライヤー、カールドライヤー、電動歯ブラシ、パーソナルラップトップワープロ、自転車、マウンテンバイク、デスク、チェアー等は、もともと一人で使用することが前提となっており、したがって、単身者用と一般家庭用とを区別することは不可能である。
したがって、原告が一般家庭用の製品と比較した場合の原告製品の具体的特徴として挙げる(1)ないし(3)の点は、いずれも到底単身者を販売対象とする家電製品であることによる特徴ということはできない。
3 以上によれば、原告製品が単身者を販売対象とする家電製品であるとの点は、
単に、原告が原告製品(it’sシリーズ製品)の購入層として単身者を想定し、
単身者に狙いを絞って販売活動をしていることを示すに過ぎず、そのことが原告製品を他社の単身者用製品及び原告の製造販売する一般家庭用製品と区別せしめるに足る何らかの形象として現れているとはいい難いから、前記のように原告製品を個別化し原告製品の出所(原告)を他の出所から区別せしめうる認識手段たる形象とは到底いうことができない。
三 原告製品の色彩が濃紺色であるとの点について1 原告は、昭和五九年の原告製品の発売に際し、それまで家電製品には使用されていなかった暗い色彩である濃紺色、すなわち我が国の伝統的な染物等に使用されていた藍色を採用し、トラッドブルーと命名して以来、これを一貫して使用してきたのであり、単身者を販売対象とする家電製品であるという特徴と相まって、他の家電製品と比較して特別顕著性を有するものであり、原告製品の色彩の特徴は、取引者又は消費者の間に原告の商品を表示するものとして広く認識されるに至っている旨主張する。
なるほど、特定の色彩が特定の者の商品と極めて密接に結合し、その色の商品を見たりあるいはその色である旨の表示を耳にすれば、それだけで誰でも直ちに特定の者の商品であると判断するというように出所表示機能を取得するに至ることは、
極めて稀ではあろうが、全く想定し得ないわけでない。しかしながら、色彩は、古来存在するものであって、本来何人も自由に使用し得るものであり、原告が原告製品に濃紺色を長年にわたり使用してきたとしても、濃紺色というようなおおまかな枠で包括した色彩、しかも、仮に従来家電製品ではほとんど用いられなかったとしても、極くありふれ親しまれてきた色彩について、原告にその独占的使用を認めるとすると、他の者は自らの商品に付する色彩の選択肢の範囲を狭められ、極端にいえば最後発の業者は商品に付する色彩がなくなってしまうというような事態にもなりかねないから、複数の色の組合せとは異なり、そのような単一色の独占的使用を認めるのは、業界における競争を不当に阻害することになるといわざるを得ない。
したがって、仮に原告製品に施された濃紺色が原告の商品であることを示す出所表示機能を取得しているとしても、複数の色の組合せの場合と異なり、不正競争防止法2条1項1号による保護を与えられないというべきである。
そうすると、原告の主張は、この点で既に理由がないといわなければならない。
この点について、原告は、濃紺色という色彩それ自体が不正競争防止法の保護対象となると主張しているのではなく、原告製品と濃紺色という色彩の結合、すなわち、従来の家電製品には採用されていなかった濃紺色という色彩を採用した単身者用家電製品である点に、商品表示としての独自性(特異性)があり、自他商品識別機能があり、周知性があると主張しているのである、というが、前示のとおり、原告製品が単身者を販売対象とする家電製品であるとの点は、単に、原告が原告製品の購入層として単身者を想定し、単身者に狙いを絞って販売活動をしていることを示すに過ぎず、そのことが原告製品を他社の単身者用製品及び原告の製造販売する一般家庭用製品と区別せしめるに足る何らかの形象として現れているとはいい難いから、単身者用製品であることによって格別家電製品の種類に限定を付したことにはならず、結局は、濃紺色という単一の色彩について不正競争防止法2条1項1号による保護を主張していることに帰するものであって、採用の限りでない。さらに、原告は、創作法の分野では、模倣一般の禁止は技術発展を阻害するおそれもあるので、禁止すべき模倣と禁止すべきでない模倣を峻別する必要があるが、標識法の分野では、第三者は基本的に他人の標識を使用する必要はないから、そのような考慮は原則として必要がないのであり、したがって、原告の商品表示たる「濃紺色」の「単身者用」家電製品を不正競争防止法の保護対象としても、第三者は多数の選択肢が存在する色彩の中から濃紺色とは明確に異なる色彩を選択して自己の商品表示とすればよいのであるから、家電業界に影響を及ぼすことは全くない旨主張するが、原告の商品表示たる「濃紺色」の「単身者用」家電製品との主張が濃紺色という単一の色彩について同法の保護を主張していることに帰し、そして、濃紺色という単一色について特定の者に独占的使用を認めるべきでないことは右説示のとおりである。
2 のみならず、以下のとおり、原告製品の濃紺色は、濃紺色の商品を見たりあるいは濃紺色ないしはトラッドブルーである旨の表示を耳にすればそれだけで誰でも直ちに原告の商品であると判断するというように出所表示機能を取得するに至っているとは認められない。
(一) 原告製品のカタログ、雑誌・新聞広告、ポスター、看板物、電照広告、販促資料、商談資料、店頭展開マニュアル等の各種宣伝広告媒体物(甲第一〇号証、
第一一号証の1、第一二号証の1・2、第一二号証の3・2、第一三号証の1・3、第一四号証の1〜4、5の2、第一五号証の1〜4、6、第一六号証の1、2の2・3、3〜5、6の2、第一七号証の1〜4、5の4、6〜8の各2、第一八行証の1・2の各2、2〜14、15〜19の各2、第一九号証の1・3の各2、
4〜26、27の2、28の3、29の2、31〜35、第二〇号証の1・2の各2、3〜10、13〜15、16・17の各2、18の3、19の2、21〜26)による限り、原告製品の形態及び色彩は、昭和五九年の発売以来現在まで相当程度変遷を重ねており、現在の原告製品の形態及び色彩により一貫して販売されてきたというものではない(乙第一一号証、第一二号証の1〜10、第一三号証の1〜8)。
この原告製品の形態の変遷について、原告は、原告が周知の商品表示と主張しているのは濃紺の色彩であって形状(意匠)ではないから問題にならない旨主張するが、商品は必ず形状を伴うものであり、色彩のみが独立して存在することはないから、人が商品の色彩を認識する場合も、形状と一体になったものとして認識するものである。
また、原告製品における色彩の変遷につき、原告は、カタログに掲載された製品の色彩は現実の製品の色彩と若干異なることがあるから、カタログに掲載された製品の色彩を比較するのは意味がないと主張するが、確かに、カタログに掲載された製品の色彩が現実の製品の色彩と若干異なることはあり得るものの、右のような多数の資料によって原告製品の色彩の変遷が認められるのであるから、これをすべてカタログの色彩と現実の製品の色彩とのズレをもって説明するのは困難であるのみならず、実際に原告が原告製品に一貫して同一の色彩を使用してきたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
(二) 現在の原告製品に限っても、必ずしも製品全体が濃紺色一色に彩色されているわけではなく、マイコン式ジャー炊飯器四合炊きでは把手や中央のスイッチ部分、ジャー炊飯器三合炊きでは把手、クックプレートでは蓋のつまみや縁、コーヒーメーカーでは水タンク、サーバーの把手、ジャー式ポットでは把手、蛍光灯スタンドでは支柱など目立つ部分に黒色が使用されている(乙第九号証の1〜6、検甲第一号証〜第六号証の各1の1・2)。
この点について、原告は、黒色を施したのは原告製品の色彩の基調たる濃紺色(トラッドブルー)をより際立たせるためであり、肉眼で原告製品を見た場合、黒色の部分は目立たず、濃紺色単色との認識となるのである旨主張するが、黒色が濃紺色を際立たせるとの主張自体複数の色の組合せを主張することに帰するし、肉眼で原告製品を見た場合、黒色の部分は目立たず濃紺色単色との認識となるともいい難い。
(三) 原告が製造販売している家電製品の中には、原告製品に属しないにもかかわらず、ダークブルーの除湿冷風機、ダークブルー・ディープブルー・ロイヤルブルーの扇風機、ディープブルーのアイロン・ドライヤー・カールドライヤー・浄水器、ロイヤルブルーのクリーナー、ダークブルー・ブルーのシェーバーなど、濃紺色を施した製品が多数存在する(乙第三四号証の1〜5)。
(四) 一方、前示のとおりマイコン式ジャー炊飯器四合炊き、ジャー炊飯器三合炊き、コーヒーメーカー、オーブンレンジ、オーブントースター、蛍光灯スタンド、冷蔵庫については、原告製品に属する製品と同じ機種でありながら、濃紺色以外の色彩が施されている製品が存在する。
この点について、原告は、濃紺色以外の色彩を施した製品は、原告製品としては販売しておらず、原告製品と他の製品とは色彩により厳格に区別して販売しているのであると主張するが、前示のとおり商品の色彩は形状と一体になったものとして認識されるものであるから、同一機種でありながら、原告製品に属するものと属しないものがあることは、濃紺色という色彩の出所表示力を減退させるといわざるを得ない。
(五) 前示のとおり、最初に単身者を販売対象とする製品を発売したのは、株式会社東芝であり、同社は、昭和五六年に原告製品の濃紺色に近いブルーに彩色したクックコンポシリーズ製品を発売しており、現在では、我が国の大手家電メーカーの多くが、自社製品の一部に原告製品の濃紺色に近い色彩を採用しており(乙第五号証の1〜21、第三五号証の1〜5)、特に松下電器産業株式会社は、原告製品と同様に濃紺色をトラッドブルーと名付けている(乙第三六号証)。
(六) 社団法人日本流行色協会発行の「流行色」一九九三年七・八月号(乙第三九号証)は、戦後の我が国の各分野の流行色を特集しているが、そこでは、家電業界での流行色又は話題色として、アーモンド家電(シャープ)、アボガドグリーン家電(シャープ)、パステル家電(日立)、モノトーン家電(松下)、石目調家電(シャープ)が取り上げられながら、原告製品の濃紺色は取り上げられていない。
(七) そもそも、原告製品のような家電製品にあっては、製品の機能性、安全性、堅牢性が重視され、その価格も前示のとおり低価格とはいえないのであるから、消費者は、その色彩のみに着目して製品を選択して購入するとは到底考えられず、実際に小売店舗において製品を手に取り、製品の機能性、安全性、堅牢性について自分自身で他の製品と比較検討し、そして、何よりもそれがどのメーカーの製品であるかを確認したうえで製品を選択し購入するものと考えられる。現に、原告製品には、目につきやすい個所に原告製品のシリーズ名である「it’s」及び原告の商号の英文による略称である「SANYO」の表示が付されているのである(検甲第一号証〜第六号証の各1の1・2。なお、被告製品についても、同様に、
目につきやすい個所に被告製品のシリーズ名である「mi」及び被告の商号の英文による略称である「TWINBIRD」の表示が付されている。)。取引者については、なおさらのこと、製品の色彩のみによって製品を識別して取引をするとは到底考えられない。
(八) 以上のように、原告製品の形態及び色彩は昭和五九年の発売以来現在まで相当程度変遷を重ねており、現在の原告製品の形態及び色彩により一貫して販売されてきたというものではないこと、現在の原告製品に限っても、必ずしも製品全体が濃紺色一色に彩色されているわけではなく、目立つ部分に黒色が使用されていること、原告が製造販売している家電製品の中には、原告製品に属しないにもかかわらず濃紺色を施した製品が多数存在すること、マイコン式ジャー炊飯器四合炊き、
ジャー炊飯器三合炊き、コーヒーメーカー、オーブンレンジ、オーブントースター、蛍光灯スタンド、冷蔵庫については、原告製品に属する製品と同じ機種でありながら、濃紺色以外の色彩が施されている製品が存在すること、最初に単身者を販売対象として発売された製品である株式会社東芝のクックコンポシリーズは、原告製品の濃紺色に近いブルーに彩色されていたのであり、現在では我が国の大手家電メーカーの多くが自社製品の一部に原告製品の濃紺色に近い色彩を採用していること、そして、何よりも、消費者は、その色彩のみに着目して家電製品を選択して購入するとは到底考えられず、製品の機能性、安全性、堅牢性の外、どのメーカーの製品であるかを確認したうえで製品を選択し購入するものと考えられることに照らすと、原告製品が濃紺色の単身者用家電製品であるという点が、「SANYO」及び「it’s」の表示と独立して直ちに原告の製品であるとの出所表示機能を取得するに至っているとは認められず、原告製品は、「SANYO」の「it’s」シリーズの製品、あるいは単に「it’s」シリーズの製品ということで他社の製品と識別されているものと解される(前記一認定の新聞の紹介記事によっても、原告製品が濃紺色の単身者用家電製品であるという点だけで、「SANYO」及び「it’s」の表示と独立して出所表示機能を取得しているとは認められない。)。
結論
以上のとおり、原告主張の原告製品の特徴は、原告の商品であることを示す出所表示機能を取得するに至っているものとは認められないから、これを前提とする原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由のないことが明らかである。
裁判官 水野武
裁判官 小澤一郎
裁判官 本吉弘行
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