• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 周知性 /  登録商標 /  需要者 /  商品等表示 /  普通名称 /  出所表示性(出所表示) /  他人の商品 /  他人の営業 /  類似性(類似) /  印象 /  混同のおそれ(混同) /  表示の使用 /  先使用 /  誤認混同 /  商品の形態(商品形態) /  模倣 /  差止請求(差止) /  営業上の利益 /  ライセンス /  侵害 /  請求権者 /  商品表示性 /  混同のおそれ(混同) /  品質等誤認表示(誤認) /  販売数量 /  営業上の信用 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 4年 (ワ) 10866号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1994/09/21
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 被告は、別紙第二目録及び同目録説明書記載の折りたたみコンテナ(以下「被告製品」という。)を製造、販売してはならない。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
当事者の主張
一 請求原因1 原告は、総合化学会社として、有機、無機化学原料及び同原料を素材とする各種工業化学製品の製造、販売を業とする会社であり、昭和五四年以来、合成樹脂製品事業部門における事業の一環として別紙第一目録及び同目録説明書記載の形状及び態様からなる合成樹脂製の折りたたみコンテナ(以下「原告製品」という。)を「オリコン」という商品名(登録商標)のもとに製造、販売している。
2 被告は、平成三年七月頃から、被告製品を製造、販売している。
3 原告製品の形態的特徴とその周知性(一)(1) 原告製品は、フレーム、長側板、あおり板及び底板から構成され、
容器としての形態的特徴は、次のとおりである。
a 長側板は、長手方向にわたり中央部で内側に折れ曲り、あおり板は、フレームを支軸として内側に回動するようにした折りたたみ形式である。
b 底板の外面には、フレームの内周面の寸法に合わせた段部があり、フレームの上面四隅に凹溝部を設けてあって、コンテナの積重ねに当たり、上段コンテナの底板段部が下段コンテナのフレーム内に没入し、両コンテナが嵌合するようにした形式である。なお、底板の外面四隅に補強のため突出部を設けることがある。
c 折りたたみ時の高さが組立時に約四分の一である容積縮小率を有する。
(2) 被告は、原告製品の前記a、b、cの特徴は、折りたたみコンテナとしての構造ないし機能を示したものであり、不正競争防止法1条1項1号の「商品タルコトヲ示ス表示」に該当しないと主張する。
しかし、特徴aは、長側板、あおり板、これらとフレーム、底板といった各部材の結合関係からなる形態であって、全て視覚で認識できるものである。
このような形態を前提として初めて、機能とか動的作用などが言えるのである。
また、折りたたみコンテナについて最も需要者の関心が寄せられるところは、折りたたみ動作時の形態であるところ、原告製品の折りたたみ動作時の形態が特異であり、原告製品の特徴aは、折りたたみコンテナの必然的な形態ではない。このような特異な形態が広く製造、販売されて周知のものとなれば、原告製品の形態が商品表示機能を有することは、当然である。特徴bも、段部や凹溝といった形態が設けられてはじめてその嵌合を可能としているのであり、原告製品の特徴の一つである。
(3) 原告製品は、プラスチック製の反復使用可能の物納運搬用容器であって、
右形態的特徴により、組立状態においては箱形の容器となり、不使用時にはこれを折りたたんで、その容積を縮小し、かつ、使用時、折りたたみ時のいずれにおいても積重ね可能としたものである。
折りたたみコンテナは、その用法上多数個が使用されるから、折りたたみが容易かつ取扱いが簡単で一気に折りたたみのできることが肝要であり、前記aの折りたたみの形式は、需要者が最も関心を惹くところである。また、前記bの積重ねが可能である点は、多数の容器の整理統合による占有容積の縮小及び大量運搬に欠かせないものであり、積み重ねた各容器が上下間で十分固定されていなければならないから嵌合の形式は重要である。更に、前記cの折りたたみ時の容積縮小率は、需要者が大きな関心を寄せるところである。
原告製品は、右特徴によって、容器に内容物を充填したときの整理及び空容器の整理を極めて合理的にし、かつ、最小容積の使用で足りるようにしたものであり、
また、空容器輸送費用を大幅に軽減したものであって、原告製品は右a、b、cの特徴が一体となって他商品と識別され、この一体としての特徴ある形態(以下「原告製品形態」といい、個々の特徴を単に「特徴a」のようにいう。)が原告製品の出所を表示している。
(二) 原告製品形態は、次に述べるとおり、原告の商品であることを示す表示として、我が国において周知になったものである。
(1) 昭和油化株式会社(昭和五四年に原告に吸収合併。以下「昭和油化」という。)は、昭和五〇年に特徴a、b、cを備えた製品をわが国において初めて製造、販売したものであり、当初は農産物搬送用に使用されていたが、その後、化粧品搬送用、仕分用、自動車部品用に使用されるようになり、昭和五三年の売上げは年間約一〇万個を計上するまでとなった。右吸収合併後は原告の製品として販売され、その後も、多方面の分野で使用され、年間販売量は、昭和五五年頃には約二〇万個、昭和六一年には約四〇万個、昭和六二年には約五〇万個、昭和六三年には約六〇万個であり、平成元年には約七〇万個、平成二年には約一一〇万個となった。
原告製品形態は、昭和油化の発売のものから不変であり、原告製品形態の周知性には、昭和油化の発売時からのものが寄与している。
(2) また、原告は、各種の雑誌、新聞に頻繁かつ継続的に原告製品の広告を掲載し、数多くの展示会に出品してきた。
(三) 被告は、被告製品の販売を開始した時期において、既に原告製品と同じ形態の各社の製品が存在していたと主張する。右各社とは、大栄化成株式会社(以下「大栄」という。)、岐阜プラスチック工業株式会社(以下「岐阜プラスチック」という。)、三甲株式会社(以下「三甲」という。)、三菱樹脂株式会社(以下「三菱樹脂」という。)及び積水化学工業株式会社(以下「積水化学」という。)を指すものと思われる。
(1) しかし、原告が大栄に実施許諾したのは携帯用の特殊の折りたたみコンテナであって、しかも、その製造、販売の量はわずかである。したがって、これによって、原告製品の周知性がいささかでも阻害されることはない。
(2)(イ) 原告は、原告製品が周知となった昭和五八年以後に、岐阜プラスチックに対し、同社の要請により、製造、販売のライセンスをしたのであり、かつ、
このライセンスの事実は、業界紙に広く報ぜられたものである。また、その販売数量も少なく、原告とは嵌合形態も異なり、競合しないように管理されている。
(ロ) また、三甲も、同社の要請により、一部原告の委託による製造と、原告製品の販売会社として原告製品の販売の一翼を担っていたが、その管理上極めて自己本意な行動が目立ったため、原告は平成三年六月末日、三甲との契約を解約した。
また、右契約終了後も三甲は、原告製品と同一形態の製品を製造、販売しているので、原告は右違反行為の中止を求めて提訴したのであって、これは明らかに違法な行為である。
(ハ) 右によれば、岐阜プラスチックの前記製品及び三甲の委託製造、販売による製品は、いずれも原告製品と基本的に同じ形態的特徴からなるいわばライセンス商品であって、しかも、ライセンスの事実あるいは委託販売によるものであることは、客観的に明らかになっていた。
(3) 原告は、三菱樹脂に対しては、販売の差止めをもとめて訴えを提起し、積水化学に対しては販売差止めの警告中であり、これらの各社の行為を取り上げて自らを正当化しようとすることはできない。
(四) 被告は、特徴aは、昭和五四年頃以前において、刊行物によって広く知られた事項であると主張する。
しかしながら、たとえ公知の形態の商品であっても、その商品が他に誰も製造、
販売及び使用したことがなく、特定の者のみが長い間製造、販売してきた結果、その形態を有する商品がその者の商品として広く知られるようになったときは、いわゆる「商品たる表示」に該当するとされている。
また、前記のとおり、原告が吸収合併した昭和油化が原告製品の販売を開始したのは昭和五〇年であり、この時点で閲覧可能であった刊行物は二つ(乙第一号証及び乙第二号証)に過ぎないから広く知られたなどといえるものではない。被告が公知の証拠として提出する乙第五号証は、短側板(あおり板)を底板上に倒す形式であって、原告製品のようにフレームを軸として上方にはねあげる形式とは逆であり、全く別の折りたたみコンテナである。
更に、特徴bの内容をなす凹溝と突出部とは原告の新規な創作にかかるもので、
昭和五三年以前には文献上も全く存在していない。
(五) 不正競争防止法と工業所有権法は、その立法趣旨、保護法益、保護要件等が異なっており、不正競争防止法に定める要件を充足すれば、同法による保護が受けられるのである。すなわち、長い間の営業努力による商品の周知性、商品に蓄積した信用は工業所有権とは全く別の観点からこれを保護することが、不正競争防止法の立法趣旨である。したがって、工業所有権の存続期間の満了の有無に関係なく、不正競争防止法の保護が受けられるものである。
4 被告製品の形態と原告製品形態との類似 被告製品は、原告製品の特徴a、b、cをそのまま備え、実質上同一形態である。
被告は、原告製品と被告製品との相違について、リブ等の有無を問題にするが、
リブ等はコンテナ一般に補強が必要が場合に設けられるものであって、需要者はリブ等の有無によって製品の出所を識別することはない。
5 混同(一)(1) 被告製品の形態は、右4のとおり原告製品の形態と実質上同一である上、被告製品の有効内容量、有効内寸、外寸及び折りたたみ後の高さは、原告が商品カタログに表示し、既に多数出回っている原告規格品「30B」、「40B」、「50B」、「55B」、「75B」と同一であって、原告製品に被告製品の積み重ねが可能であるように意識的に製造している。
(2) また、被告製品は原告製品と同じく、青色及び黄色の色彩を使用している。
(3) 右のとおり、折たたみ形態、寸法、色彩が同一であるから、被告製品と原告製品の出所を同一と考えるのが自然である。
(二) しかも、以下の事情を考慮すれば、両製品の出所の誤認を生じることは明らかである。
(1) 被告は、被告製品の販売に当たって、原告製品と互換性があり積重ねが可能であるとして、既に原告製品を納入しているユーザーに被告製品を販売している。
(2) 運搬容器という商品の性質上、製品が一次購入者であるユーザーから二次的に流通業者、部品等の組立業者等に流通し、これらの業者自身が製品の有利性に着目して新しい購入者となり、市場が拡大していくが、折りたたみコンテナにおいては、製造者の名称や商品名(商標)は片隅にごく小さく表示されるだけで、コンテナの表面に表示されるのは、ユーザーの名称であるから、コンテナの出所は形態で識別され、混同を生じやすい。
(3) また、折りたたみコンテナの販売経路としては、メーカーから一次店(商社等)、二次店(流通資材販売業者)を経て、エンドユーザーに販売されるのが普通であるが、末端にいくほどコンテナの製造者の名称は希薄化し、結局コンテナの形態が大きな関心事となり、これが商品採択の決め手となる。
(4) 現に、三甲の製品と原告製品との混同が生じた例がある(甲第六〇号証の一、二)。
6 営業上の利益侵害 被告による被告製品の販売行為は、原告が長年にわたり努力、開発してきた原告製品に便乗し、原告の営業を妨害し、原告に損失を被らせている行為であって、これにより、原告の営業上の利益侵害している。
7 よって、原告は、被告に対し、不正競争防止法2条1項1号3条1項に基づいて、被告製品の製造、販売の差止めを求める。
二 請求原因に対する認否1 請求原因1のうち、原告が、総合化学会社として、有機、無機化学原料及び同原料を素材とする各種工業化学製品の製造、販売を業とする会社であること、原告が、別紙第一目録の写真に示される形態の合成樹脂製コンテナを「オリコン」という商品名で販売していることは認め、その余の事実は知らない。
2 請求原因2のうち、被告が別紙第二目録の写真に示すような形態の合成樹脂製コンテナを製造、販売していることは認め、その余の事実は否認する。
3 請求原因3(一)の事実は否認する。同(二)の事実は知らない。同(三)、
(四)の事実は否認する。同(五)の主張は争う。
4 請求原因4のうち、被告製品が特徴aを備えていることは認める。
被告製品が特徴bのうち、「底板の外面には、フレームの内周面の寸法に合わせた段部があり、フレームの上面四隅に凹溝部を設けてあって、コンテナの積重ねに当たり、上段コンテナの底板段部が下段コンテナのフレーム内に没入し、両コンテナが嵌合するようにした形式」なる事項を備えていることは認めるが、「なお、底板の外面四隅に補強のため突出部を設けることがある。」との点は否認する。すなわち、被告製品は、いずれも、底板四隅に右のような突出部を備えていない。
被告製品のうちY―40B、Y―50B、Y―75Bの型番のものが特徴cを備えていることは認める。被告製品のうちY―30B及びY―55Bの型番のものは特徴cを備えていない。すなわち、右型番の被告製品の折りたたみ後の高さは、組立時の高さの約三分の一である。
5 請求原因5(一)(1)のうち、被告製品の寸法、規格が原告製品と同じであることは認め、その余の事実は否認する。同(一)(2)の事実は認める。同(一)(3)の事実は否認する。同(二)の(1)ないし(3)の事実は否認する。
6 請求原因6の事実は否認する。
7 請求原因7は争う。
三 被告の主張1 原告主張の形態的特徴について(一) 原告製品の特徴aのうち、「長側板は、長手方向にわたり中央部で折れ曲がり」というのは、折りたたみ動作時における長側板の動的作用であり、「あおり板は、フレームを支軸として内側に回動する」というのは、あおり板が示す動的作用であり、いずれも商品の形態ではない。また、それによって容器を折りたたみ得るようにするというのは、まさに容器の折りたたみを実現するための技術的事項に外ならず、このような技術的事項は、不正競争防止法の「商品等表示」には該当しない。
また、特徴aは、機能に基づく形態どころか、機能そのものであるから、機能形態除外説によれば、商品表示としては成立し得ない。
原告は、需要者が別紙第一目録第一〇図、第一一図のような静止状態でその形態及び取扱いを把握することができるというが、原告提出の証拠の中で、原告製品の折りたたみ動作時の状態として第一一図のような形態が示されているものは極めて数が少ない。
(二) 原告製品の特徴bは、容器の積重ねのための構造を示したもので、技術的事項に属するものである。
(三) 折りたたみ式コンテナ自体は広く知られていて、しかも折りたたみ式である以上は、折りたたみ後の高さが三分の一ないし四分の一程度以下にならなければ、折りたたみ容器としての実質的な意味はないのであるから、その程度のことは当然に行われていたことであり、例えば、被告が昭和四四年頃に発売した折りたたみ容器(乙第六号証の二)も折りたたみ後の高さは、折りたたみ前の高さの約四分の一である。したがって、この点も原告製品を際立って特徴づけるような事項ではあり得ない。
2 周知性が認められない事情(一) 昭和油化による折りたたみ式コンテナの発売の意義(1) 原告は、昭和油化による折りたたみコンテナの販売を原告による販売と同視しているが、以下の理由により適切でない。
昭和油化は、昭和三二年に、原告のほか、株式会社日立製作所その他多数の会社の出資によって設立された会社であり、昭和三八年五月には、鋼管化学工業株式会社と合併して「日本オレフィン株式会社」となり、昭和四七年八月に再び「昭和油化株式会社」と名称が変更された会社である。このように、昭和油化は、原告の一〇〇パーセント子会社でもなく、独自の設立趣旨の下に、他社との共同出資により設立された会社であるから、たとえその事業の遂行に際し、有力株主である原告の影響を受けていたとしても、あくまで独自の法人格を有する別個の会社であるから、昭和油化の発売をもって、原告の発売と同一視すべきものではない。
(2) 昭和油化が折りたたみ式コンテナを発売したのは、昭和五〇年五月以降と推認されるが、その製品は、側板中折れ式のものであるものの、その形態においては、側板の多数の孔、上枠の形状、側板のリブの形状等において原告製品と異なり、更に、組立時に、四隅のストッパー(金属ピン)で係止し、折りたたみ時にコンテナを反転させて金属ピンを解除するようにした構造のものであって、原告製品とは形態、構造の異なる製品である。
(3) 昭和油化の製品は、原告への吸収合併当時、未だ周知とはなっておらず、
このような場合地位の承継の問題は生じない。また、原告が昭和油化の発売時期を援用しているのは、製品の全形態ではなく、その一部をなす特徴a、b、cにすぎないから、このような場合、吸収合併による地位の承継は生じない。
(二) 昭和五七年頃以降における同種の他社製品の販売 原告は、昭和五七年、大栄に、昭和五八年、岐阜プラスチックに、それぞれ実施許諾を行い、また、昭和五九年には三甲が製品を販売したため原告との間に紛争が生じた。すなわち、昭和五七年以降、原告製品と同種の折りたたみコンテナが、原告以外の第三者によって、次々と製造、販売された。しかも、岐阜プラスチックの製品は「おりたたみコンテナー」、三甲の製品は「オリタタミコンテナー」という普通名称的な商品名の下に販売しており、「オリコン」なる商品名を用いているわけではない。第三者が、同種の製品を原告とは異なる商品名の下に販売していれば、内部的な実施許諾関係の存否にかかわらず、原告製品以外にも同種の製品が存在しているという社会的認識が広がるのは自然である。
したがって、原告製品と形態の類似した他社製品が市場に出現した時期以降においては、もはやそれが原告製品の「商品表示」となる可能性は存在しない。
(三) 形態の公知性について 原告による原告製品の販売が昭和五四年以降である以上、原告が原告製品の特徴的形態が原告製品の商品表示として広く知られるに至ったと主張するのも、右時期以降と考えられるが、特徴aが、既に昭和五三年頃において、原告製品とは関係のない文献によって、世上広く知られていた事項であることは、乙第一号証ないし乙第三号証、乙第五号証及び乙第二三号証等の記載に照らして明らかである。
特徴bの嵌合方法もあらゆる種類の箱型容器について古くから広く知られていることであり、凹溝と突出部による嵌合も乙第七号証、乙第八号証のとおり、昭和五四年以前に既に周知である。
不正競争防止法11条1項3号のいわゆる先使用の規定において、第三者の先使用権の有無の判定の基準時点は、特定の「表示」が広く知られるに至った時点とされているように、同法2条1項1号の適用に際しては、当該表示の使用開始の時期よりも、当該表示が広く知られるに至った時期の方が重要である。当該表示が広く知られるに至った時期より以前に、既に何人も使用し得る状態となっている場合には、その独占を許すべきものではないからである。
(四) 原告による実用新案の出願 原告は、昭和五八年五月二五日に、実願昭五八―七七五六九号の実用新案登録出願を行い、右出願は、既に実公平四―一五六三三号として出願公告されているが、
右出願の実用新案登録請求の範囲の記載事項は、まさに特徴a、bからなる事項である。このことは、右時点において、特徴a、b、cの組合わせが原告製品の商品表示としては知られていなかったことを原告自身が意識していたことを示すものである。
3 工業所有権法との関係 原告が第三者から譲り受けて保有していた実用新案権は、特徴aの事項に細部の構造を付加することによって初めて成立している。そして、このような実用新案権も、存続期間満了によって、平成二年に消滅している。したがって、工業所有権の法理に従えば、実用新案の技術的範囲に属する技術事項は、何人も独占し得ない万人共有の財産となったわけであり、実用新案公報の実施例記載のものとそっくりそのままのコンテナを製造、販売することさえも、何人にとっても自由な行為のはずである。
このような、工業所有権の消滅後においては、当該技術事項は何人も自由に実施し得べきものであるという法理は、工業所有権及び独占禁止法という、産業活動の根幹にかかわる二大経済法の法理となっているのであるから、同じ経済法の一つである不正競争防止法の解釈適用が、これらの法律との権衡を考慮してなさるべきことは当然である。
これを本件についていえば、原告が保有していて既に消滅した実用新案権は、特徴aという公知の基本事項に細部構造の事項を付加した性質のものであり、仮にこれらの実用新案を実施する場合には、特徴aの事項を回避して実施することは不可能である。したがって、特徴aについては、当該実用新案消滅後には、これを不正競争防止法の商品表示として保護することはできない。
4 原告製品と被告製品との形態の相違 原告製品と被告製品との形態の相違点を、原告が代表例として写真を提示している原告製品50Bと被告製品Y―50Bとについて示せば次のとおりである。
(一) 側板側から見ると、原告製品においては、
上下各側板のほぼ中央部分の両側(側板を横にほぼ三分する位置)にそれぞれ二本の細い縦リブが形成され、また、上下各側板の左右両端部付近は、細い縦リブと横リブによって格子状に形成されている状態が、極めて明瞭に観察されるのに対し、
被告製品においては、上下各側板の中央部分は、縦リブが全く存在しない平滑な状態に形成され、また、左右の両端部付近は、縦方向に延びる二本の太い柱状凸部によって形成されている状態が、極めて明瞭に観察される。
また、上方側板と下方側板とのヒンジ止め部付近は、原告製品においては、前記二本の縦リブと、左右両端にわたって横方向に延びる三本の横リブとによって、横方向に大きく三分割された格子状のものとして形成されているのに対し、被告製品においては、左右両端にわたって延びる三本の横リブと、右横リブの間をつなぐ複数本の短い縦リブとによって、やや細かい格子状に形成されている。
右相違点によって、原告製品の側板側側面部は、全体が格子状に区切られた印象を与える形態であるのに対し、被告製品の側板側側面部は、上方側板と下方側板とが、いずれも極めて平滑な状態のものとして構成されている印象を強く受ける形態のものとなっている。
(二) 端板側から見ると、原告製品においては、中央の平坦部の左右を画している二本の柱状の凸部の間隔がやや狭く、またフレームの手掛け部の切り欠きも比較的小さく形成されているのに対して、被告製品においては、二本の柱状凸部の間が広く、また、手掛り用の切り欠きが非常に大きく形成されている。
このため、被告製品の中央平滑部は、原告製品に比べて非常に広い状態のものとして観察され、更に、中央平坦部の上方左右には、被告の標章「DIC」と製品番号「Y―50B」が、明瞭に刻印されている。
(三) 折りたたみ後の上面側から見ると、原告製品と被告製品とでは、上下端部付近の形状が非常に相違していることが明瞭に観察される。この相違は、折りたたみ後の上面側には、コンテナの端板の裏面が表れることになるところ、原告製品と被告製品の端板裏面の形状が相違しているためである。
すなわち、原告製品の端板の柱状凸部は細く、かつ、その裏面に設けられている横リブの数も少ないのに対し、被告製品の端板の柱状凸部は太く、かつ、その裏面に設けられている横リブの数も多いため、その相違が、そのまま折りたたみ後の上面側の形状の相違として表れているものである。
(四) 底面側から見ると、原告製品においては、底面の全面にわたって、斜めに配置されて互いに直交している多数のリブによって形成される斜め格子模様と、底面の四隅に配置されている突出部の存在が極めて顕著に観察されるのに対し、被告製品においては、底面の縁部近傍及び中央部において縁部に平行に長く延びる複数本のリブ(長縁側においては三本、短縁側においては五本、中央図示横方向においては四本、中央図示縦方向においては六本)と、それらを横切って配置されている多数の短いリブとによって形成される顕著な太幅の十字枠模様(四辺枠と十文字によって形成される模様)の存在、並びに、底面四隅には突出部が配置されておらず、斜め格子模様は、右太幅の十字枠によって囲まれかつ四箇所に分散配置されている状態が、極めて顕著に観察される。
もともと、コンテナの底面に多数のリブを斜め格子状に配置することは、コンテナの形状としては極めてありふれたものに過ぎないのであるから、原告製品の底面形状の特徴は、四隅に突出部を有する点にあり、この点は単に底面形状としてのみならず、原告製品の全形状における特徴ともなっているものである。したがって、
被告製品が底面四隅の突出部を有せず、しかもその他の底面形状においても前記のとおり大きく相違している以上、両者の底面形状が類似しないものであることは極めて明らかである。
5 混同について 被告製品は、小売店の店頭で不特定の一般大衆に販売されるものではなく、特定の需要者に対し、代理店を通じての発注に基づいて販売されているものであるから、その販売に際して原告製品との誤認混同などが生じるはずがない。原告製品と三甲製品との誤認混同の事例が真実であるとしても、
既に数百万個を販売したと公称している原告製品について三甲製品との一件の混同事例しか示せないということは、原告製品と被告製品との混同は全くないことを裏付けている。
なお、被告製品の色彩は被告が昭和四八年頃からプラスチックコンテナ全般について用いていた色彩であり、寸法はJIS規格等に基づき、かつ、規格の統一を強く望んでいる需要者の要望を考慮して採用したものである。原告製品と被告製品の寸法や色彩が同一であることについて非難を受けるいわれは全くない。
証拠(省略)
理 由一 原告が、総合化学会社として、有機、無機化学原料及び同原料を素材とする各種工業化学製品の製造、販売を業とする会社であること、原告が、別紙第一目録の写真に示される形態の合成樹脂コンテナを「オリコン」という商品名で製造、販売していること、被告が別紙第二目録の写真に示される形態の合成樹脂コンテナを製造、販売していることは当事者間に争いがない。
そして、右別紙第一目録の写真及び成立に争いのない甲第一号証の一、二によれば、原告製品のうち、40B、50B、75Bのものは、請求原因3(一)(1)のa、b、cに示す特徴を備えていることが、30B、55Bのものは、右a、bの特徴を備えているが、折りたたみ時の高さが組立時の約三分の一となることが認められる。
二 原告製品の特徴の商品表示性1 商品の形態は、第一次的には、商品の実質的機能の発揮、美観の向上等のために選定されるものであるが、このような本来的機能の外、特定の商品形態が長期間継続的かつ独占的に使用され、又は短期間でも強力に宣伝されることにより、二次的に出所表示の機能を有するに至ることがある。このような場合においては、商品の形態が、本件口頭弁論終結時の不正競争防止法(平成五年法律第四七号による改正前のもの。以下「旧法」という。)1条1項1号の「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」及び右改正後の不正競争防止法(以下「新法」という。)2条1項1号の括弧内の「商品……を表示するもの」として同号の「他人の商品等表示」(以下、旧法についても新法についても「商品表示」という。)に該当するということができる。
しかし、旧法1条1項1号及び新法2条1項1号中商品表示にかかる部分(以下、旧法1条1項1号について判断するところは、新法2条1項1号中商品表示にかかる部分についても共通である。)が、周知の他人の商品表示と同一又は類似の商品表示を使用して他人の商品混同を生じさせる行為を差止請求の対象としているのは、そのような商品表示に化体された他人の営業上の信用を、自己のものと顧客に誤認混同させて顧客を獲得する行為を不正競争行為として防止する趣旨であり、その商品表示を付された他人の商品本体が本来有している形態、構成や、それによって達成される実質的機能をその商品主体の専有として、他者の模倣、利用から保護することを目的とするものではない。
旧法1条1項1号に列挙された、氏名、商号、商標、商品の容器包装という商品表示の具体例は、いずれも商品本体が本来有している形態、構成とは直接関係のないものであるから、旧法1条1項1号に該当しても、当該商品にその商品表示を使用すること、その商品表示を付した当該商品を販売すること等は差し止められるが、その商品表示の付されていない当該商品を販売等することは制約を受けない。
したがって、旧法1条1項1号は、同一商品について営業者間に競争が行われることを前提に、競争のあり方として同号所定のような商品表示の使用を違法としているものと解するのが相当である。
これに対し、商品本体が本来有している形態それ自体が商品表示と認められ、旧法1条1項1号に該当する場合には、その商品表示を使用することを差し止め、あるいは、その商品表示を付した当該商品の販売等を差し止めるということは、当該商品の販売等そのものを差し止めることになる。この場合、その商品形態がその商品の実質的な機能と関係がなければ、商品形態を変更することによって、同一機能の商品を販売等することが可能となるが、その商品形態が商品の実質的な機能を達成するための構成に由来するときは、その形態、構成による同一機能の商品の販売等が禁圧される。
もとより、他の形態、構成を採用することによって類似機能の同種商品を製造することが可能な場合があるであろうが、その場合でも、使い勝手、当該商品との互換性等を考慮すれば同一商品ではない。
したがって、商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態を商品表示と認め、旧法1条1項1号に該当するとして、その使用を差止め、当該商品の販売等そのものを差し止める場合は、商品表示に化体された他人の営業上の信用を保護するというに止まらず、当該商品本体が本来有している形態、構成やそれによって達成される実質的機能、効用を、他者が商品として利用することを許さず、差止請求権者に独占利用させることとなり、同一商品についての業者間の競争それ自体を制約する結果を生ずる。
右のとおり、商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態を旧法1条1項1号の商品表示と認めて、同号を適用することは、実際には旧法1条1項1号が本来予定した保護を上回る保護を差止請求権者に与える反面、相手方には予定された以上の制約を加え、市場の競争形態に与える影響も同号が本来予定したものと全く異なる結果を生ずることを考えると、商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態は、旧法1条1項1号の商品表示には該当しないものと解するのが相当である。
勿論、右のような商品形態模倣する行為が社会的意味での不正競争行為に該当するとの考えもあり得るところであるが、これに対する不正競争防止法による法的保護が必要であるとすれば、例えば新法2条1項3号のような別類型の不正競争行為として、他の知的財産制度との関係も考慮しつつ、保護の目的に適応した要件を定めた立法によるべきである。
2 これを本件についてみると、別紙第一目録の写真及び前記甲第一号証の一、二によれば、
(一) 原告製品は、別紙第一目録のような形態の折りたたみコンテナであって、
(二) 別紙第一目録中の説明書の「図面中、1はフレーム、2はフレームに軸支されたあおり板で、フレーム軸を中心に内側上方に回動可能になっている(第10図参照)。3は下側板、4は上側板で両者は内側に折れ曲るように連結されている(第11図参照)。」という形態、構成、請求原因3(一)(1)の形態的特徴aのうち「長側板は、長手方向にわたり中央部で内側に折れ曲がり、あおり板は、フレームを支軸として内側に回動するようにした」という形態、構成によって、別紙第一目録中の説明書の「折りたたんだ状態(第9図参照)から組み立てるにはフレームを上方に持ち上げ、側板を伸ばし、次いであおり板を回動して底板の下面縁部に固定すればよい。折りたたむ場合はこの逆の操作をする。」との操作をすることによって、前記形態的特徴aのうち「折りたたみ形式である。」との実質的機能、
原告製品のうち、40B、50B、75Bのものについて形態的特徴cの「折りたたみ時の高さが組立時の約四分の一である容積縮小率を有する。」、30B、55Bのものについて「折りたたみ時の高さが組立時の約三分の一となる。」との実質的機能を達成し、組み立てた状態では上部が開口した各種物品搬送用のコンテナとなり、折りたたんだ状態では容量が三分の一から四分の一に縮小され、保管のスペースを低減し、輸送コストを低減するという効用を有すること、
(三) また、別紙第一目録中の説明書の「5はフレームの四隅に説けられた凹溝、7は底板6の四隅を補強するために設けられた突出部である。8は底板の周辺段部で前記突出部と同じ高さを有する。」という形態、構成、前記形態的特徴bのうち「底板の外面には、フレームの内周面の寸法に合わせた段部があり、フレームの上面四隅に凹溝部を設けてあ(る)。底板の外面四隅に補強のため突出部を設けることがある。」という構成、形態によって、別紙第一目録中の説明書の「折りたたみコンテナを複数個積重ねたとき、下段のコンテナのフレーム内に上段のコンテナの周辺段部8が嵌合し、さらに凹溝5と突出部7が嵌合するようになっている。」との実質的機能、前記形態的特徴bのうち「コンテナの積重ねに当たり、上段コンテナの底板段部が下段コンテナのフレーム内に没入し、両コンテナが嵌合するようにした形式である。」との実質的機能を達成し、組み立てた状態、折りたたんだ状態で積み重ねた場合荷くずれしないという効用を奏すること、
が認められる。
右事実によれば、原告が原告製品の形態的特徴として挙げるaないしc、原告製品のうち30B、55Bのものについて認められる特徴cに準ずる特徴は、原告製品の商品本体の実質的機能そのものか、その機能を達成するための構成に由来する形態に当たるものであり、いずれも旧法1条1項1号の商品表示には該当しない。
したがって、原告主張の原告製品の形態的特徴aないしcが旧法1条1項1号の商品表示に該当することを前提とする本件請求は、その余の点について検討するまでもなく理由がない。
三 よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
追加
別紙第一、第二目録説明書(省略)(別紙)第一目録<28308-001><28308-002><28308-003><28308-004><28308-005><28308-006><28308-007>(別紙)第二目録<28308-008><28308-009><28308-010><28308-011><28308-012><28308-013><28308-014>
裁判官 西田美昭
裁判官 宍戸充
裁判官 大須賀滋
  • この表をプリントする