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事件 平成 15年 (ワ) 17358号 不正競争防止法違反差止等請求事件
原告 三山工業株式会社
原告 株式会社ハネックス
上記両名訴訟代理人弁護士 渡邊敏
同 森利明
同補佐人弁理士 林宏
同 林直生樹
被告 株式会社フレックスシステム
被告 株式会社本宏製作所
上記両名訴訟代理人弁護士 高橋賢一
同補佐人弁理士 吉井剛
同 吉井雅栄
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2005/05/24
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告株式会社フレックスシステムは,別紙ロ号物件目録記載のマンホール用ステップを使用,販売,又は拡布してはならない。
2 被告株式会社フレックスシステムは,その本店,営業所及び工場に存する前項の物件並びにその半製品,仕掛品を廃棄し,同物件の製造に必要な金型等の製造設備を除却せよ。
3 被告株式会社本宏製作所は,別紙ロ号物件目録記載のマンホール用ステップを製造し,販売し,貸し渡し,譲渡又は貸渡しのために展示してはならない。
4 被告株式会社本宏製作所は,その本店,営業所及び工場に存する前項の物件並びにその半製品,仕掛品を廃棄し,同物件の製造に必要な金型等の製造設備を除却せよ。
5 被告らは,原告らに対し,各自金2455万5776円及びこれに対する平成15年8月7日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 争いのない事実等 (1) 当事者 ア 原告株式会社ハネックス(旧羽田ヒューム管株式会社。以下「原告ハネックス」という。)は,コンクリート関連では,組立マンホール(ユニホール),ヒューム管,浸透管,その他コンクリート二次製品,ユニハットトイレシリーズ,工事関連では,エポ工法工事,ES工法工事,情報通信関連では,RFID関連製品,情報通信管路システム,通信工事関連製品,環境エネルギー関連製品,資機材関連では,ユニホール関連資機材,雨水浸透関連資機材の製造販売を業とする会社である(甲19)。
原告三山工業株式会社(以下「原告三山」という。)は,上下水道及び水路施設用資材の製造販売等を業とする会社である(弁論の全趣旨)。
全国ユニホール工業会(以下「ユニホール工業会」という。)は,原告ハネックスにより昭和58年10月に設立された団体である(甲19)。ユニホール工業会は,特別会員,正会員及び賛助会員をもって構成されるが,原告ハネックスは,ユニホール工業会の唯一の特別会員であり,原告三山は賛助会員である(甲20,21)。ユニホール工業会は,ユニホール(組立マンホール)の技術を基盤として環境整備事業・水利事業等の進展に寄与することを目的とし,ユニホールの規格の制定,ユニホールの設計施工に関する規準の整備,ユニホール及び新製品に関連する技術の調査研究等の事業を行っている(甲20)。
イ 被告株式会社フレックスシステム(以下「被告フレックス」という。)は,建築資材や建築金物の販売等を業とする会社である(弁論の全趣旨)。
被告株式会社本宏製作所(以下「被告本宏」という。)は,建築用金物,建築用金属製品の製造販売等を業とする会社である(弁論の全趣旨)。
(2) 原告商品の販売 ア 原告三山と原告ハネックスは,ユニホール工業会向けの商品として,別紙原告商品目録記載のマンホール用足掛具(ロフティーステップSTS30樹脂ダボ又はロフティーステップH-SUS150新-RF・304。以下「原告商品」という。)を共同で開発した。原告商品のステップの足踏部には,「ユニホール」という商標が付されている(甲2,4,8の1,乙1,検甲1)。
イ 原告三山は,ユニホール工業会の承認を取り,平成12年5月9日から原告商品を製造販売している。
原告三山は,同日,中川ヒューム管工業株式会社に対して,原告商品を500本,原告ハネックスにも原告商品を700本販売した(甲5の1ないし4)。
(3) 被告らの行為 ア 被告本宏は,別紙イ号物件目録記載のマンホール用足掛具(アメニティステップUN30Z-150。以下「イ号物件」という。)を製造販売した(甲8の2,12,14の1及び2,乙2,検乙1)。
被告フレックスは,平成14年10月16日,高村建材工業株式会社に対し,イ号物件を500本販売し(甲9),同月15日,日之出水道機器株式会社を介して日本ゼニスパイプ株式会社に対し,イ号物件を1000本販売した(甲10,11)。
イ 原告三山は,平成14年12月6日,被告らを相手方として,さいたま地方裁判所にイ号物件の製造販売差止めの仮処分を申請し,被告らは,平成15年1月15日をもって,イ号物件の製造販売を中止した。
ウ 被告らは,平成15年1月16日以降,別紙ロ号物件目録記載のマンホール用足掛具(以下「ロ号物件」といい,イ号物件と併せて「被告商品」という。)に変更して,製造販売している。
ロ号物件は,イ号物件に脚部の4本の線状リングを加え,樹脂製の代わりに金属製のワッシャーとし,パッキンの色を黒色としたものである(甲8の3及び4,乙13,検乙2)。
2 本件は,原告らが被告らに対し,@ 原告商品を模倣する被告商品の販売等の行為が不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為に該当すると主張して,同法4条に基づき,損害賠償を請求するとともに,A 原告商品の形態が周知であり,これと類似する被告商品の販売等の行為が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当すると主張して,同法3条に基づき,ロ号物件の販売等の差止め及び廃棄を請求し,同法4条に基づき,損害賠償を請求する事案である。
3 争点 (1) 不正競争防止法2条1項3号該当性 (2) 不正競争防止法2条1項1号該当性 ア 原告らの商品等表示といえるか。
(ア) 原告商品の一部(脚部)のみを商品等表示ということができるか。
(イ) だれの商品等表示か。
(ウ) 周知性はあるか。
イ 被告商品は,原告らの商品等表示類似するか。
誤認混同が生じるか。
(3) 損害の発生及びその額 (4) 差止めの必要性
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(不正競争防止法2条1項3号)について 〔原告らの主張〕 (1) 原告商品の形態 原告商品の形態は,次のとおりである。
[基本的形態] @ 全体にU字形の芯金に黄色の合成樹脂層を被覆することにより,足踏部とその両側に位置する側部とマンホール壁内に挿入される脚部とを有する足掛具であり, A 足踏部及びその両側に位置する側部は上下面が平坦で連続しており,他方脚部は断面円形状であり, B 脚部に段部を形成するとともに先端側にねじ部を形成し,該段部と脚部先端との間に,段部側から順次,弾性体でフランジ部と截頭円錐部とを備えた止水パッキンと,樹脂ワッシャーと,ナットを配置した足掛具である。
[具体的形態] @ 足踏部6は,直線状の芯金7に合成樹脂層の被覆がなされ,該被覆は長手方向の上下面間の中央部の厚さが両端部側に比較して近接視認できる程度に薄くなっており,また,足踏部の外面及び内面は,厚さ方向の中央部が長手方向に近接視認できる程度に膨出し,該合成樹脂層の上下面に滑止め用の凹凸9があり,凸部は左右8つのX字形で横方向に並んでおり,中央には「ユニホール」の凸文字が設けられている。
また,足踏部6の内側面には波形で中央が中高の握り部10が多数形成されており,該足踏部6の両端部の合成樹脂層の内周面側を除いた外周に平面視扇形状の赤色透明樹脂製で主としてその内側の凹凸面により外来光を乱反射させるように構成し,外面に2つのX字形の凸部がある反射体11が取り付けられている。
A 前記側部5も直線状の芯金7に合成樹脂層の被覆がなされており,足踏部6から延設された断面角形状の合成樹脂層8Uとなっている。
なお,前記側部5の正面視左右には,わずかに目視可能な程度の大きさで「Miyama」と原告三山のトレードマークが二段に横書きされている。
B 脚部4は,該側部5からの芯金7が延長して構成されるものであり,脚部4の先端部には,ネジ部14が形成されている。脚部4は,途中まで合成樹脂層の被覆がされている。脚部4の合成樹脂層8Rは,先端部側からの筒状部8Cとそれに連続するスカート部8Sからなっており,断面形状が円形である。合成樹脂層8Rは,筒状部8Cの直径がマンホール壁2の貫通孔3より若干小さく,スカート部8Sは筒状部8Cより広がっており,直径が貫通孔3より大きくなっている。更に,合成樹脂層8Rの先端部には段部8Zが形成されている。合成樹脂層8Rの後端部,すなわちスカート部8Sと側部5の合成樹脂層8Uの間は,スカート部8Sの膨らんだ頂部8Tより,スカート部8Sの端部が内側に丸まっているので,段差になっている。
C 脚部4の芯金7には,マンホール壁2の段付き孔12の段部13に当接する止水パッキン16と樹脂ワッシャー17とナット18が順次挿通されるようになっている。止水パッキン16は,合成樹脂製の弾性体であり,フランジ部19と截頭円錐部20とを備えたもので構成されている。更に樹脂ワッシャー17は,中央を部分的に肉厚化して補強したものである。止水パッキン16の中の截頭円錐部20の先端は,合成樹脂層8の端部の段部8Zに当接するように構成されている。
そして,ナット18を締め付けることにより,弾性体の止水パッキン16のフランジ部19が段付き孔12の段部13に当接・押圧されて密着するとともに,該止水パッキン16の截頭円錐部20の先端が前記段部8Zに圧着して押し拡げられて,該止水パッキン16の側曲面が段部13に確実に圧着して該足掛部はマンホール壁2の貫通孔3に水密に保持される。
D 原告商品の実際の概略の寸法は,次のとおりである。
a 足踏部6の長手方向の寸法は303o(±2),両脚部芯金中心間の距離は273o(±1),側部5の長手方向の寸法は150o(±2)である。
b 樹脂ワッシャー17の直径は46oで,一方の盤面中央に補強用の若干の肉厚化した部分があるが,樹脂ワッシャー17の全体の厚さは3.5o,内径は16oである。 c 樹脂製止水パッキン16の截頭円錐部20のフランジ部19側の直径は27o,反対側(段部8Z側)の直径は25o,同じくフランジ部19の直径は44oである。止水パッキン16の軸方向の高さは21oで,フランジ部19の厚さは6o,截頭円錐部20の軸方向の高さは15oである。樹脂製止水パッキン16の中空部16Uの直径は16oである。
d 合成樹脂層8Rの段部8Zの外径は27o(±0.8),合成樹脂層8Rのスカート部8Sと筒状部8Cとの接続部の外径も27o(±0.8),スカート部8Sの膨らんだ頂部8Tは30o(±0.8),合成樹脂層8Rの長手方向の長さが55o(±1)である。
e ナット18は,M16ナットでステンレス(SUS304)製である。
(2) 原告商品とイ号物件の比較 ア イ号物件と原告商品は,[基本的形態]@ないしBが基本的に一致する。ただし,側部の断面形状が,原告商品は矩形に近いのに対し,イ号物件は円形状であり,その点で相違する。
イ イ号物件と原告商品の[具体的形態]のうち,@及びAの部分では相違するところがあるが,B及びCでは一致し,Dについては,わずかに足踏部6の長手方向の寸法が原告商品は303o(±2)であるのに対し,被告製品は300oであるが,その他の寸法は一致するのであり,類似の範囲内の差である。重要なのは,両脚部芯金中心間の距離273oであり,両者に差異はない。マンホールに取り付ける際の貫通孔の幅やマンホール内側面からのステップの出面(側部5の長手方向の寸法の大小)を重視するのは周知の事実である。
ウ [具体的形態]@及びAのうち,原告商品とイ号物件は,次の3点で相違する。
@ 合成樹脂層の上面の滑止め用の凸部9の形状について,原告商品の凸部はX字形が横方向に並んでいるのに対し,イ号物件の凸部は,字形, 字形が相互に横方向に並んでいる点。
A 原告商品は内側面に波形の握り部10が多数形成されているのに対し,イ号物件は内側面の中央に波形の握り部10が1つ形成されている点。
B 原告商品は両端部の合成樹脂層の外周全体に扇形状の赤色で凸部がX字形である反射体が取り付けられているのに対し,イ号物件は両端部の合成樹脂層に菱形で赤色反射体11が取り付けられている点。
エ(ア) 上記@については,両者の凸部の形状が欧文字が連続して横に並んでいる点で一致している(イ号物件の字形は,英語の「A」に類似している。)。また,イ号物件の字形及び 字形は,X字形と同様に,右上がり直線と左上がり直線の組合せであり,交差する部分が異なるにすぎない。両者は,左右傾斜の斜めの凸部により前後左右方向への手足の滑りを防止している点で共通性があり,離れてみたときに,イ号物件は原告商品と非常に紛らわしい形状である。
したがって,イ号物件の凸部字形及び 字形は,原告商品の凸部X字形に類似する。
(イ) 上記Aについては,数の差はあるが,両者とも波形の握り部が存在する点で一致する。
(ウ) 上記Bについては,反射板の形状が異なるものの,赤色透明樹脂製で主としてその内側の凹凸面により外来光を乱反射させるように構成したものである点で一致する。
オ 被告らは,上記エの相違点以外にも相違点があると主張する。
(ア) 被告らは,原告商品の足踏部の外面及び内面は厚さ方向の中央部が長さ方向に連続して膨出し,膨出ラインが視認できるが,イ号物件にはないと主張するが(後記〔被告らの主張〕(1)ウA),イ号物件にも成形でできたラインが入っており,足踏部の外面は,僅かに中央が膨出する湾曲形状である点で類似する。イ号物件の足踏部の内面は,緩やかに膨出する湾曲形状であり,この点でも原告商品と類似する。
(イ) 被告らは,原告商品の足踏部の中央の厚さは,両側に比べて薄くなっていると主張するが(後記〔被告らの主張〕(1)ウC),原告商品の足踏部中央から両端にかけてのロフト角度は1.5度であり,非常に小さく,遠方から見れば略同一の太さに見える。
(ウ) 被告らは,イ号物件の足踏部の外面は,原告商品と異なり平坦であると主張するが(後記〔被告らの主張〕(1)ウD),イ号物件の足踏部6の外面は僅かに中央が膨出する湾曲形状であり,原告商品の足踏部の外面が厚さ方向の中央部が長手方向に近接視認できる程度に膨出している点と大きな違いはない。
(エ) 被告らは,原告商品の側部は断面角形状であるのに対し,イ号物件の側部は断面円形状であるため,原告商品は,側部が足踏部と連続するように見えるのに対し,イ号物件は側部と足踏部は連続したようには見えず,側部と脚部とが連続したように見えると主張する(後記〔被告らの主張〕(1)ウE)。
しかし,被告製品も脚部の側部側端において,合成樹脂層8Rの後端部,すなわちスカート部8Sと合成樹脂層8Uの間は,スカート部8Sの膨らんだ頂部8Tより,スカート部8Sの端部が内側に丸まっているので,段差になっている。したがって,側部と脚部が断面円形状であっても,両者の間には断絶が存在し,原告商品と差異がない。
(オ) 被告らは,原告商品の足踏部は太く,角張ってごつごつした感じであるのに対し,イ号物件の足踏部は細く,華奢な感じがあると主張するが(後記〔被告らの主張〕(1)ウF),これは足踏部に限ったことであり,商品全体の一部のことであり,特に脚部が原告商品とイ号物件は何らの差異がない点も重視されなければならない。本件は脚部のデッドコピーである。
(カ) 被告らは,原告商品とイ号物件は,ともに側部にそれぞれの出所を示す別の商標が付されていると主張するが(後記〔被告らの主張〕(1)ウG),原告商品もイ号物件も商標の記載は控えめであり,合成樹脂の黄色が部分的に盛り上がっているにすぎず,両者の差は分かりづらい。したがって,相違点として挙げるほどのものではない。
カ 以上のとおり,原告商品は,足踏部と側部,脚部から先端部分の2つの部分から成り立っており,特徴的部分も,足踏部から側部にかけての部分と脚部から先端部分にかけての部分の2つである。そして,原告商品とイ号物件は,基本的形態で一致し,具体的形態中,@及びAについては,相違点及び一致点が混在するものの,BないしDは実質的に同一の範囲内にある。したがって,基本的形態や,具体的特徴部分のうちの1つである脚部,樹脂製止水パッキン16,樹脂ワッシャー17,ナットの形状及び寸法が酷似しているイ号物件は,原告商品のデッドコピーであり,原告商品の形態と実質的に同一であるので,不正競争防止法2条1項3号模倣品に該当する。
原告商品の特徴は,コの字形をしている商品の脚部であり,胴体を足踏部とすれば,脚部は両足に相当するのであり,胴体が多少違っていても,両足がデッドコピーであれば,これはただ乗り行為の最たるものであるので,不正競争防止法2条1項3号の射程距離内である。
(3) 原告商品とロ号物件の比較 ア イ号物件とロ号物件の相違点は,@合成樹脂層8Rの筒状部8C及びスカート部8Sの筒状部8C側には,その外周にそれぞれ2本の線状リング8Wが設けられ,それらが外周面より少し盛り上がっている点,A金属ワッシャー17は,リング状をなす金属平板により形成されたものである点である。
イ しかし,線状リング8Wは,合成樹脂層8Rの筒状部8C及びスカート部8Sの各部分を多少際だたせるしか効果がない。
また,金属ワッシャーに関しては,単純に材質が変化し,それに伴って若干の寸法上の差異が生じた程度であって,格別形態が変化したものではない。
ウ 被告らは,上記アの2点のほかに,パッキンが黒色である点を相違点として挙げるが,色が変わっても脚部自体が変わるわけではない。
エ したがって,これらの相違点は,実質的に同一の範疇にあり,ロ号物件もイ号物件と同様,原告商品のデッドコピーであり,原告商品の形態と実質的に同一であるので,不正競争防止法2条1項3号模倣品に該当する。
(4) 被告らは,原告商品の脚部は,機能的に不可避的形態であると主張する。
しかし,原告商品の以前の形態は,ナットとワッシャーであり,芯金が露出するタイプであった。原告商品の開発過程では,止水に重点をおいた隙間キャップ(鍔と同機能)を脚部に設ける案も検討されており,いくらでも回避可能な形態である。
〔被告らの主張〕 (1) 原告商品と被告製品の比較 ア 不正競争防止法2条1項3号の趣旨は,他人の商品の形態をそのまま模倣することによって,他人が費用及び労力をかけて開発した成果である商品の形態を許諾なく利用して開発のコストを節約する一方で商品の開発につきものの失敗の危険を小さく抑えつつ,当該商品を開発した他人と同じ商品において市場で競争しようとすることは,競争のあり方として不当な行為であるので,そのような行為を不正競争とすることにより商品を開発して市場においた者の先行利益を一定の期間保護するところにある。
同号の「模倣」は,上記の趣旨から,そっくりそのままの盗用に限られるものではなく,実質的同一性の範囲まで広げるべきであるとされている。しかし,この実質的同一性の範囲を広げすぎることは自由競争の芽を摘んでしまうことになるので,限定的に解釈する必要がある。
また,同号においては,その保護の対象となる形態から同種の商品が通常有する形態を除外している。それらの形態は,没個性的形態であり,技術的形態(不可避的形態)であるから,開発者が特段何の努力もせず,時間や費用もかけず容易に作り出せ,あるいは同種の商品の構成上必然的に共通するものであるため,何の特徴もないごくありふれた形態となっているからである。
以上の観点から,「模倣」かどうかを判断するに当たっては,先行者の商品と模倣したとされる商品とを眼前に並べて対比することで共通点と相違点を認定し,両商品の形態上の特徴を「従来から存在する同種商品の形態」又は「同種商品が通常有する形態」を考慮して絞り込み,対比考察することにより判断すべきである。
イ 原告商品と被告製品との対比に当たっては,@「U字状の芯金全体に合成樹脂層を被覆した足踏部とその両側に位置する側部とマンホール壁内に挿入される脚部とを有する足掛具」の構成,A危険防止のため注意喚起する黄色を用いること及び反射体に危険を知らせ,注意喚起する赤色を採用することは,「同種の商品が通常有する形態」であるから,除外されるべきである。
ウ 上記イの構成を除外して,原告商品とイ号物件を対比観察すると,両者の相違点は次のとおりである。
@ 原告商品の足踏部の上面滑止め用の凸部は,X字形と「ユニホール」の文字であるが,イ号物件の凸部は,字形と 字形である。
A 原告らも主張する内側面の波形の握り部の形状の相違に加え,原告商品の足踏部の外面及び内面は厚さ方向の中央部が長さ方向に連続して膨出し,膨出ラインが視認できるが,イ号物件にはない。
B 原告商品の反射体の形状は,原告らが主張するとおりであるのに対し,イ号物件の反射体は菱形の枠の中に赤色の反射体がある。
C 原告商品の足踏部の中央の厚さは,両側に比べて薄くなっているが,イ号物件は等厚である。
D イ号物件の足踏部の外面は,原告商品と異なり平坦である。
E 原告商品の側部は断面角形状であるのに対し,イ号物件の側部は断面円形状である。この相違により,原告商品は,側部が足踏部と連続するように見えるのに対し,イ号物件は側部と足踏部は連続したようには見えず,側部と脚部とが連続したように見える。
F 原告商品の足踏部は太く,角張ってごつごつした感じであるのに対し,イ号物件の足踏部は細く,華奢な感じがある。
G 原告商品とイ号物件は,ともに側部にそれぞれの出所を示す別の商標が付されている。
エ ロ号物件には,上記ウの相違点に加え,更に次の3点の相違点がある。
@ 脚部に4本の線状リングがある。
A ワッシャーが金属製である。
B パッキンが黒色である。
オ したがって,被告製品はいずれも原告商品の模倣品とはいえず,不正競争防止法2条1項3号には該当しない。
(2) 原告らは,原告商品とイ号物件の共通点として,脚部の形態を強調する。
しかし,不正競争防止法2条1項3号は,前記(1)アのとおり,先行者の利益を保護すべく独立して取引の対象となっている商品の形態模倣を禁止する規定であるから,あくまで商品を全体としてみて模倣しているか否かを問題とするのであって,商品の部分のみをとらえ,全体として観察せずに模倣か否かを議論することは失当である。
原告らが主張する脚部は,「商品の形態の一部」であって,「商品の形態」の構成部分にすぎず,「商品の形態」とはいえない。
(3) 不正競争防止法2条1項3号は,「同種商品が通常有する形態」を保護対象から除外しているが,このような通常有する不可避的形態については,特許権や意匠権等で保護を受ければ足りるためである。
したがって,原告商品とイ号物件の脚部の機能的近似性(止水パッキン,樹脂ワッシャー及びナットの存在,マンホール壁に挿入される脚部のテーパー部の存在)及び各部の寸法の近似性をもって,イ号物件が原告商品の模倣品であるということもできない。これらの止水パッキン,樹脂ワッシャー,ナットにカラーを組み合わせたものは特許権が認められており(甲1),イ号物件の脚部は,不可避的形態である。
2 争点(2)ア(ア)(商品等表示性)について 〔原告らの主張〕 (1) 原告商品の商品等表示は次のとおりである(以下「本件商品等表示」という。)。
T 全体に黄色の合成樹脂層を被覆し,足踏部とその両側に位置する側部とマンホール壁内に挿入される脚部とを有する足掛具であり, 脚部に段部を形成するとともに芯金の先端側にネジ部を形成し,該段部と脚部先端との間に,段部側から順次,弾性体でフランジ部と截頭円錐部とを備え,かつ筒状の中抜けを設けた止水パッキンと,中央が部分的に肉厚化したリング状の樹脂ワッシャーとナットを前記ネジ部から挿入固定した足掛具であり, U 脚部について @ 脚部4の合成樹脂層8Rは,先端部側からの筒状部8Cとそれに連続するスカート部8Sからなり,スカート部8Sは筒状部8Cより円錐状に広がっており,合成樹脂層8Rは全体的に断面形状が円形状であり, A 合成樹脂層8Rの後端部,すなわちスカート部8Sと側部5の合成樹脂層8Uの間は,スカート部8Sの膨らんだ頂部8Tより,スカート部8Sの端部が内側に丸まった段差になっている。
本件商品等表示で,出所表示機能のある顕著な部分は,脚部とそれに付随した止水パッキン,樹脂ワッシャーとナットの組合せである。寸法の同一性は事情として主張する。
(2) 被告らは,原告商品の脚部は,技術的な機能に由来する形態だから商品等表示性がないと主張するが,このような脚部の形態は過去になく,意匠的な特徴がある。脚部については,特許権の保護もなく,技術的機能に由来する不可避的形態とはいえない。
〔被告らの主張〕 (1) 商品の形態が不正競争防止法2条1項1号商品等表示となり得るためには,他の類似商品と比べ,需要者の感覚に端的に訴える独自な意匠的特徴を有し,需要者が一見して特定の営業主体の商品であることを理解することができる程度の識別力を備えたものであることが必要である。
(2) 不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」からは技術的機能に由来する必然的な形態は除外されるべきであると解される。
原告商品の脚部は,ネジ部,カラー,止水パッキン及びナットの連接構造であり,これは特許を取得し得る構成であるから,技術的形態であるといえる。このような技術的形態は,商品等表示からは除外されると解すべきである。また,脚部の形態は,古来からある造形であり,ネジにナット,ワッシャー,パッキン等の環状体を被嵌する造形も意匠的には特段の特徴はなく,需要者が注意を惹く部分,すなわち出所表示機能を有する部分とはいえない。
したがって,原告商品の特徴が脚部にあるとする原告らの主張は理由がない。
(3) 百歩譲って原告商品に商品等表示性を有する部分があるとすれば,足踏部の凸部の形状と反射体の形状しかあり得ない。しかし,この部分は,被告製品の形状とは大きく相違し,両者に何ら出所混同は生じない。
3 争点(2)ア(イ)(商品等表示の主体)について 〔原告らの主張〕 (1) ユニホール工業会の設立 ア ユニホール工業会会則(甲20の1)によれば,ユニホール工業会は,ユニホールの規格の制定が第一義的な仕事であり,ユニホールの製造や販売の仲介等一切行っていない。
イ 同細則(甲20の2)には,特別会員は,ユニホールの工業所有権を有する株式会社ハネックスとすること,正会員は,ユニホールの工業所有権の製造販売権を原告ハネックスより実施許諾された会社とすること,賛助会員は,ユニホールの工業所有権の販売権のみを原告ハネックスから実施許諾された会社及びユニホール工業会の目的達成に賛助協力することが規定されている。原告三山は賛助会員である。
ウ 日本下水道協会は,下水道に関する調査研究を行うとともに,その急速な普及と健全な発達を図ることにより,河川,湖沼,海などの公共用水域の清らかな水環境の創造に資し,もって快適な生活環境の向上に寄与することを目的として設立された団体であるが,下水道用資器材調査認定委員会を設けて下水道用資器材の各種規格を制定するとともに,適正な品質管理と効率的な検査を目的とした認定工場制度を実施して,下水道用資器材の品質の確保に務めている。認定工場になることにより,下水道事業者(地方公共団体)の工場検査を日本下水道協会が代行し,効率的な検査が実施されている。
エ 平成元年度から,本件で問題となっている「下水道用組立マンホール側塊」がU類として認定適用資器材に指定された。認定適用資器材において,日本下水道協会で決めている登録基準に合致しているものは,認定資器材として登録され,そのうち製品検査を行う資器材とされたものが製品検査資器材である。この登録された認定資器材を製造する工場が認定工場としての申請を行う。ただ,平成12年初めまでは,認定工場申請時には,団体推薦の要件が必要で,日本下水道協会から認定を受けるには,ユニホールなどの団体である必要性があった。そのため,昭和58年に原告ハネックスが主体となってユニホール工業会が設立されたものである。
すなわち,製造者団体を設立して,その製造者団体で認定資器材名及び検査資器材名を登録し,個々のマンホールメーカーが認定工場として申請していたのであり,認定資器材名及び検査資器材名としては,ユニホールであるが,それはあくまで原告ハネックス単独では登録できなかったためであり,製造者団体を設立して,一定の製品規格を作り出して,製造販売してきたものである。
(2) 知的財産権の帰属 ユニホール工業会に関する知的財産権は,不正競争防止法上のものを含めて原告ハネックスに帰属する。原告ハネックスは,ユニホール工業会の特別会員として,これらの権利をライセンサーとして,正会員,賛助会員(ライセンシー)に許諾している。
ユニホール工業会に入会するには,原告ハネックスから工業所有権の実施許諾契約を締結する必要があり,許諾を受けた会社のみが入会できる。各会員は,定められたユニホールの一定の規格品を製造することで,認定資器材名及び検査資器材名を表示でき,諸機関の検査を通過できるのである。ユニホールとは,このような一定の認定された製品規格の名称である。「ユニホール」の商標も原告ハネックスが有している。
(3) 本件商品等表示の主体 ア ユニホール工業会技術部会は,平成10年7月27日に委員会を開催し,樹脂ダボの導入及びそれに合うステップの改良に取り組むこととなった(甲17,18)。原告三山と原告ハネックスは,ユニホール工業会技術部了承のもと,平成10年10月22日に「足踏部とその両側に位置する側部とマンホール壁内に挿入される脚部とを有する足掛具において,前記脚部に段部を形成するとともに先端側にねじ部を形成し,該段部と脚部先端との間にカラーと,弾性体でフランジ部と截頭円錐部とを備えた止水パッキンと,ナットとを配置したことを特徴とする足掛具」という内容の特許権(特許第3110402号)の出願を共同して行った(甲1)。このときのステップの形状は,脚部の先端にカラーを別体で設け,その先に止水パッキンをナットで締める構成であった。
イ その後,ユニホール工業会の会員会社34社がステップ取付部の樹脂ダボへの改造に取り組んだ(甲2,3)。原告三山及び原告ハネックスは,共同して平成11年から新型ステップ製作に取り組み,試作品を完成し,ユニホール工業会技術部で形状確認を行った。同年初めには,原告三山は取付試験等を原告ハネックスで実施したが,ここでステップのカラーのはめ込みが取付上問題があるとの指摘があった。
原告三山はステップの形状を再検討し,脚部とカラーを結合して,カラーの取付を省略した商品を提案した。
同年3月ころ,同商品の金型を製造し,ステップの試作品が完成し,取付試験を原告ハネックスで行った。ただ,この時点では販売は見送りになった。
その後,平成12年4月11日付けの設計図により,ステップの試作品が完成し(甲4),販売に入ることとなった。原告三山は,再度取付試験等を原告ハネックスで行った。
ウ このようにして,特許発明の脚部とカラーを一体化して,進歩させた製品が原告商品である。本件商品等表示を施したマンホール用ステップは,原告三山がユニホール工業会向けの商品として,原告ハネックスと共同開発した商品である。しかし,対外的にはユニホール工業会製品として開発したものであり,ユニホール工業会に関する知的財産権は,不正競争防止法上のものを含めて原告ハネックスに帰属するので,本件商品等表示の主体は,ユニホールを主宰する原告ハネックスであり,他の工業所有権と違いはない。本件商品等表示も,原告ハネックスがライセンサーとしてユニホール工業会の個々の会員にライセンスする商品の一つとなっている。
ウ したがって,不正競争防止法2条1項1号の「他人」とは原告ハネックスであり,原告ハネックスは,被告らに対し,不正競争防止法上の差止め及び損害賠償請求権を有する。
(4) 原告三山の請求権 原告ハネックスは,本件商品等表示を施したステップを原告三山から購入し,マンホールメーカーに販売している。原告ハネックスは,原告三山に対し,本件商品等表示を施したステップについて「ユニホール」という商標を付すことについて,独占的通常使用権の許諾をしている。
原告三山は,「ユニホール」という商標同様,本件商品等表示に関し,原告ハネックスから独占的通常使用権類似の権利を取得している。これは,原告商品の開発の経緯が,原告三山と原告ハネックスの共同開発であり,本件商品等表示類似する特許権が原告三山と原告ハネックスの共有によること及び本件商品等表示の製造については,原告三山が独占的に行っていることによる。
したがって,原告三山は,本件商品等表示に関し,原告ハネックスから,独占的通常使用権類似の権利を取得しているので,これを侵害されたとして,被告らに対して,不正競争防止法上の損害賠償請求権を有している。
〔被告らの主張〕 (1) 原告らは,不正競争防止法上の権利も原告ハネックスに帰属すると主張するが,ユニホール工業会細則には,不正競争防止法上の権利については明記されておらず,同細則での「工業所有権」は,不正競争防止法上の権利も含む広義のものとは解されない。そもそも不正競争防止法上の権利は,自己の商品又は営業を不正又は不公正な行為によって妨害された者の権利であるから,その観点から権利者が決せられるべきであって,単なる会員資格を定めた同細則のようなもので決せられるものではない。
(2) 仮に「他人」が原告ハネックスであるとすれば,「原告ハネックスの商品」であることを示す商品表示であることが広く認識されていることが必要となるが,原告商品のカタログでは,ユニホール工業会の表示はあるが,原告ハネックスの表示はなく,本件商品等表示が原告ハネックスの単独のものとして周知であるはずがない。
なお,最近では原告商品の流通ルートは,原告三山が製造する原告商品の一部が,原告ハネックスを通らずに,直接マンホールメーカーに流れている実態がある。この実態をも考慮すれば,原告商品が原告ハネックスのものとして周知であるはずがない。
4 争点(2)ア(ウ)(周知性)について 〔原告らの主張〕 ユニホール工業会は,平成12年度全国の下水道マンホールの工業会の生産量の43.8%を占める全国で1位の工業会である。原告商品は,ユニホール工業会の統一規格品であり,その売上の85%を超える商品比率である。原告商品は,原告らがユニホール工業会向け商品として共同開発したもので,対外的にはユニホール工業会の商品として周知である。
〔被告らの主張〕 すべて争う。
前記3〔被告らの主張〕(1)のとおり,本件商品等表示が原告ハネックスのものとして周知であるはずがない。
5 争点(2)イ(類似性)について 〔原告らの主張〕 (1) 本件商品等表示とイ号物件は,足踏部6の長手方向の寸法が,原告商品は303o(±2)であるのに対し,被告製品が300oであるだけで,その他の点については全て一致する。
したがって,イ号物件は,本件商品等表示類似する。
(2) ロ号物件についても,寸法は上記(1)のイ号物件と同様である。また,止水パッキンの色を変更したり,樹脂ワッシャーを金属製に変更することは,形状の変更と何ら関係がない。
ロ号物件は,合成樹脂層8Rの筒状部8C及びスカート部8Sの筒状部8C側には,その外周にそれぞれ2本の線状リング8Wが設けられ,その外周面より少し盛り上がっている点において,本件商品等表示と異なるが,線状リング8Wは,合成樹脂層8Rの形状自体を変更するものではなく,しかも8Wの線は細い。
したがって,この線状リング8Wは,合成樹脂層8Rの筒状部8C及びスカート部8Sの各部分を多少際だたせるしか効果がなく,実質的に同一の範疇にある。
したがって,ロ号物件は,本件商品等表示類似する。
〔被告らの主張〕 争う。
6 争点(2)ウ(誤認混同)について 〔原告らの主張〕 (1) 被告製品が原告商品と同様な形態で業界を流通することは,需要者誤認混同を生じさせる。特に,工業会系マンホールは,中間の卸売業者を経て工事施工業者に流通するのであり,工事施工業者は,メーカー段階での事情は,必ずしも十分に知悉していないのであり,中間段階や小売り段階での誤認混同の可能性が高い。
(2) 原告商品の流通ルートとしては,工場取付用ステップルートと現場取付用ステップルートの2通りがある。
ア 工場取付用ステップルートは,工業会で工場生産を行い,完成品を現場に設置する方法による場合である。組立マンホールメーカーからいったん建築土木資材販売商社を経由して建設工事業者に販売する方法が多いが,直接建設工事業者に販売することもある。
イ また,現場取付用ステップルートは,施行現場で直接マンホールのコンクリートを流し込んで建設する「現場打ち」という施工方法による場合であり,カタログに掲載されている標準モデルが使用される。建築土木資材販売商社から,建設工事業者へ販売することが一般的であるが,店頭販売を行うこともある。この流通ルートでは,誤認混同が発生しない場面があり得るが,建設工事業者が建築土木資材販売商社から仕入れるときに,商社の販売の仕方により,十分に誤認混同が起きる可能性がある。
ウ 以上のとおり,工場取付用ステップルートと現場取付用ステップルートともに,建築土木資材販売商社を経由することがあり,この部分で原告商品と被告商品は誤認混同を引き起こしている。
〔被告らの主張〕 (1) 本件マンホール用足掛具は,使用者のほとんどが官公庁であり,入札方式がとられ,落札した工事請負業者が下請けのマンホール施工業者にマンホールを発注すると,マンホール施工業者はマンホールメーカーの集合体である製造者団体(ユニホール工業会など)にマンホール用足掛具がセットになったマンホールを発注する。
マンホール用足掛具及びマンホールを製造するマンホールメーカーのほとんどは,ユニホール工業会のようなマンホールメーカーの集合体である製造者団体に属している。現在,このような製造者団体は,ユニホール工業会のほか,十数団体あり,原告三山は,これらほとんどの製造者団体に加入しており,ほとんどの製造者団体のマンホール用足掛具は原告三山製である(甲6)。また,原告三山が納品し,それぞれの製造者団体用として流通するマンホール用足掛具は,デザインが近似している。特に足踏部の造形はほぼ等しく,出所表示機能はない。それぞれの足踏部には,製造者用団体の名称であるネーミングが付されて,他の工業会の商品とは区別されている。
このように,使用者又は発注者のすべてが官公庁,ゼネコン,設計事務所等の専門の業者等であって,日用品等のように一般市民が店頭で商品をみて購入するような流通形態とは異なる特殊な商品は,そもそも商品形態による混同は起こりえない。
被告製品は,足踏部の造形が異なるほか,ユニホールの文字もなく,脚部に「FLEX SYS」の文字を入れている。
したがって,原告商品と被告製品とは誤認混同は生じていない。
(2) 被告商品の販売ルートも原告らの販売ルートとほぼ同一であるが,この種の公共物たるマンホールに使用される商品は,一般消費者がどこでも入手できる商品とは違い,製造元,取扱元などの出所を明示して取り引きされるため,混同は生じにくい。
7 争点(3)(損害)について 〔原告らの主張〕 (1) 不正競争防止法2条1項3号に基づく損害 ア イ号物件の損害 被告らは,平成14年1月1日から平成15年1月15日まで,400o幅の製品と300o幅の製品を合計月間4000本製造販売した。したがって,同期間中の販売数は,合計4万9841本(4000本×12か月×379日/365日)になる。
このうち,400o幅と300o幅の構成比は3:7であるので,400o幅が1万4952本,300o幅が3万4889本となる。
原告らの商品1本当たりの利益額は,400o幅については,447円(売値1490円×利益率3割),300o幅については,283.5円(売値945円×利益率3割)である。
したがって,イ号物件による損害額は,400o幅について668万3544円(447円×1万4952本),300o幅について989万1032円(283.5円×3万4889本),合計1657万4576円である。
イ ロ号物件の損害 被告らは,少なくとも平成15年1月16日から同年5月9日まで(原告商品の発売日から3年),400o幅の製品と300o幅の製品を合計月間4000本製造販売した。同期間中の販売数は,1万4991本(4000本×12か月×114日/365日=1万4991本)になる。
このうち,400o幅と300o幅の構成比は3:7であるので,400o幅が4497本,300o幅が1万0494本である。
原告らの商品1本当たりの利益額は,400o幅については,447円(売値1490円×利益率3割),300o幅については,283.5円(売値945円×利益率3割)である。
したがって,ロ号物件による損害額は,400o幅について201万159円(447円×4497本=201万0159円),300o幅について297万5049円(283.5円×1万0494本),合計498万5208円である。
(2) 不正競争防止法2条1項1号に基づく損害 ア イ号物件の損害 前記(1)アと同じ。
イ ロ号物件の損害 被告らは,平成15年1月16日から同年7月15日まで,400o幅の製品と300o幅の製品を合計月間4000本製造販売した。同期間中の販売数は,2万4000本(4000本×6か月)になる。
このうち,400o幅と300o幅の構成比は3:7であるので,400o幅7200本,300o幅1万6800本である。
原告らの商品1本当たりの利益額は,400o幅については,447円(売値1490円×利益率3割),300o幅については,283.5円(売値945円×利益率3割)である。
したがって,ロ号物件による損害額は,400o幅について321万8400円(447円×7200本),300o幅について476万2800円(283.5円×1万6800本),合計798万1200円である。
ウ 合計 上記ア及びイの合計額は,2455万5776円となる。
〔被告らの主張〕 すべて争う。
8 争点(4)(差止めの必要性)について 〔原告らの主張〕 被告らは,イ号物件についての製造販売を止めたものの,ロ号物件については,製造販売を続けている。したがって,ロ号物件については,差止めの必要性も存在する。
〔被告らの主張〕 争う。
当裁判所の判断
1 原告商品及び被告製品の構成 証拠(甲2,4,8,12ないし15,乙1,2,13,検甲1,検乙1,2。枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば,原告商品及び被告製品の構成は,それぞれ次のとおりである。
(1) 原告商品の構成 ア 基本的形態 原告商品は,全体にU字形の芯金に黄色の合成樹脂層を被覆することにより,足踏部とその両側に位置する側部とマンホール壁内に挿入される脚部とを有する足掛具である。
イ 原告商品の足踏部は,次の形態を有する。
(ア) 足踏部は,直線状の芯金に合成樹脂層の被覆がされたものであり,該被覆は長手方向の上下面間の中央部の厚さが両端部側に比較して若干薄くなっており,足踏部の外面及び内面は,厚さ方向の中央部が長手方向に若干膨出し, (イ) 上記合成樹脂層の上下面に滑止め用の凹凸があり,凸部は左右8つのX字形が横方向に並んでおり,中央には「ユニホール」の凸文字が設けられている。
(ウ) 足踏部の内側面には波形で中央が中高の握り部が9個形成されており, (エ) 上記足踏部の両端部の合成樹脂層の内周面側を除いた外周に平面視扇形状の赤色透明樹脂製反射体(外面に2つのX字形の凸部がある)が取り付けられている。
ウ 原告商品の側部は,次の形態を有する。
(ア) 側部は,直線状の芯金に合成樹脂層の被覆がされており,足踏部から延設された断面角形状の合成樹脂層となっている。
(イ) 側部の正面視左右には,「Miyama」とそのマークが二段に横書きされている。
エ 原告商品の脚部は,次の形態を有する。
(ア) 脚部は,上記側部からの芯金が延長して構成されるものであり,脚部の先端部は,ネジ部が形成されている。脚部は,途中まで合成樹脂層の被覆がされている。脚部の合成樹脂層は,先端部側からの筒状部とそれに連続するスカート部からなっており,断面形状が円形である。上記合成樹脂層は,筒状部の直径がマンホール壁の貫通孔より若干小さく,スカート部は筒状部より広がっており,直径が貫通孔より大きくなっている。さらに,合成樹脂層の先端部には段部が形成されている。合成樹脂層の後端部,すなわちスカート部と側部の合成樹脂層の間は,スカート部の膨らんだ頂部より,スカート部の端部が内側に丸まっているので,段差になっている。
(イ) 脚部の芯金には,マンホール壁の段付き孔の段部に当接する止水パッキンと樹脂ワッシャーとナットが順次挿通されるようになっている。止水パッキンは,合成樹脂製の弾性体であり,フランジ部と截頭円錐部とを備えたもので構成されている。更に樹脂ワッシャーは,中央を部分的に肉厚化して補強したものである。止水パッキンの中の截頭円錐部の先端は,合成樹脂層の筒状部の端部の段部に当接するように構成されている。
オ 原告商品は,次のとおりの寸法である。
(ア) 足踏部の長手方向の寸法は303o(±2),両脚部芯金中心間の距離は273o(±1),側部の長手方向の寸法は150o(±2)である。
(イ) 樹脂ワッシャーの直径は46oで,一方の盤面中央に補強用の若干の肉厚化した部分があるが,樹脂ワッシャーの全体の厚さは3.5o,内径は16oである。
(ウ) 樹脂製止水パッキンの截頭円錐部のフランジ部側の直径は27o,反対側(段部側)の直径は25o,同じくフランジ部の直径は44oである。止水パッキンの軸方向の高さは21oで,フランジ部の厚さは6o,截頭円錐部の軸方向の高さは15oである。樹脂製止水パッキンの中空部の直径は16oである。
(エ) 合成樹脂層の段部の外径は27o(±0.8),合成樹脂層のスカート部と筒状部との接続部の外径も27o(±0.8),スカート部の膨らんだ頂部は30o(±0.8),合成樹脂層の長手方向の長さが55o(±1)である。
(オ) ナットは,M16ナットでステンレス(SUS304)製である。
(2) 被告製品の構成 ア 基本的形態 被告製品は,全体にU字形の芯金に黄色の合成樹脂層を被覆することにより,足踏部とその両側に位置する側部とマンホール壁内に挿入される脚部とを有する足掛具である。
イ 被告製品の足踏部は,次の形態を有する。
(ア) 足踏部は,直線状の芯金に合成樹脂層の被覆がなされたものであり,該被覆は長手方向の上下面間の厚さが等厚であり,足踏部の外面は平坦であり,足踏部内面は緩やかに膨出する湾曲形状であり, (イ) 上記合成樹脂層の上下面には滑止め用の凹凸があり,凸部は 字形,字形が相互に等間隔で横方向に並んでおり, (ウ) 足踏部の内側面の中央に波形の握り部が1個形成されており, (エ) 上記足踏部の両端部の合成樹脂層の上面及び下面には,表面から突出する菱形の枠部が形成され,この枠部内には,菱形の赤色透明樹脂製反射体が埋め込んで取り付けられている。
ウ 被告製品の側部は,次の形態を有する。
(ア) 側部は,直線状の芯金に合成樹脂層の被覆がされており,足踏部から延設された断面円形状の合成樹脂層となっている。
(イ) 前記側部の正面視左側には,「FLEX」,「SYS」と二段に横書きされている。
エ 被告製品の脚部は,次の形態を有する。
(ア) 脚部は,側部からの芯金が延長して構成されるものであり,脚部の先端部は,ネジ部が形成されている。脚部は,途中まで合成樹脂層の被覆がされている。脚部の合成樹脂層は,先端部側からの筒状部とそれに連続するスカート部からなっており,断面形状が円形である。合成樹脂層は,筒状部の直径がマンホール壁の貫通孔より若干小さく,スカート部は筒状部より広がっており,直径が貫通孔より大きくなっている。さらに,合成樹脂層の先端部には段部が形成されている。
合成樹脂層の後端部,すなわちスカート部と側部の合成樹脂層の間は,スカート部の膨らんだ頂部より,スカート部の端部が内側に丸まっているので,段差になっている。
(イ) 脚部の芯金には,マンホール壁の段付き孔の段部に当接する止水パッキンと樹脂ワッシャーとナットが順次挿通されるようになっている。止水パッキンは,合成樹脂製の弾性体であり,フランジ部と截頭円錐部とを備えたもので構成されている。更に樹脂ワッシャーは,中央を部分的に肉厚化して補強したものである。止水パッキンの中の截頭円錐部の先端は,合成樹脂層の筒状部の端部の段部に当接するように構成されている。
(ウ) ナットは,M16ナットでステンレス(SUS304)製である。
(エ) なお,ロ号物件の脚部は,上記(ア)及び(イ)の形態と,次の点が異なっている。
a 合成樹脂層の筒状部及びスカート部の筒状部側には,その外周にそれぞれ2本の線状リングが設けられ,それらが外周面より少し盛り上がっている。
b 上記(イ)について,樹脂ワッシャーの代わりに,金属ワッシャーが使用されている。金属ワッシャーは,リング状をなす金属平板により形成されたものである。
c 止水パッキンの色が黒色である。
オ 被告製品の寸法 (ア) 足踏部の長手方向の寸法は300o,両脚部芯金中心間の距離は273o,側部の長手方向の寸法は150oである。
(イ) 樹脂ワッシャーの直径は46oで,一方の盤面中央に補強用の若干の肉厚化した部分があるが,樹脂ワッシャーの全体の厚さは3.5o,内径は16oである。
(ウ) 樹脂製止水パッキンの截頭円錐部のフランジ部側の直径は27o,反対側(段部側)の直径は25o,同じくフランジ部の直径は44oである。止水パッキンの軸方向の高さは21oで,フランジ部の厚さは6o,截頭円錐部の軸方向の高さは15oである。樹脂製止水パッキンの中空部の直径は16oである。
(エ) 合成樹脂層の段部の外径は27o,合成樹脂層のスカート部と筒状部との接続部の外径も27o,スカート部の膨らんだ頂部は30o,合成樹脂層の長手方向の長さが55oである。
(3) 原告商品と被告製品の対比 ア 前記(1)ア,(2)アのとおり,原告商品と被告製品の基本的形態は一致する。
イ 前記(1)イ,(2)イのとおり,原告商品と被告製品の足踏部には,次のとおりの相違点が存在する。
@ 原告商品の足踏部の上面滑止め用の凸部は,X字形と「ユニホール」の文字であるが,被告製品の凸部は,字形と 字形である。
A 原告商品の足踏部の内側面には波形で中央が中高の握り部が9個形成されているが,被告製品の足踏部の内側面の中央に波形の握り部が1つだけ形成されている。
B 原告商品には,足踏部の両端部の合成樹脂層の内周面側を除いた外周に平面視扇形状の赤色透明樹脂製反射体(外面に2つのX字形の凸部がある)が取り付けられているが,被告製品には,足踏部の両端部の合成樹脂層の上面及び下面には,表面から突出する菱形の枠部が形成され,この枠部内には菱形の赤色透明樹脂製の反射体が埋め込んで取り付けられている。
C 原告商品の足踏部の中央の厚さは,両側に比べて薄くなっているが,被告製品は等厚である。
D 原告商品の足踏部の外面及び内面は,厚さ方向の中央部が長手方向に膨出しているが,被告製品の足踏部の外面は平坦である。
ウ 前記(1)ウ,(2)ウによれば,原告商品と被告製品の側部には,次の相違点が存在する。
@ 原告商品の側部の正面視左右には,「Miyama」とそのマークが二段に横書きされているのに対し,被告製品の側部の正面視左側には,「FLEX」,「SYS」と二段に横書きされている。
A 原告商品の側部は断面角形状であるのに対し,被告製品の側部は断面円形状である。
エ 前記(1)エ,(2)エのとおり,原告商品とイ号物件の脚部の形態は一致し,原告商品とロ号物件の脚部には,次の相違点が存在する。
@ ロ号物件の合成樹脂層の筒状部及びスカート部の筒状部側には,その外周にそれぞれ2本の線状リングが設けられ,それらが外周面より少し盛り上がっている。
A 原告商品の樹脂ワッシャーの代わりに,ロ号物件では,金属ワッシャーが使用されている。
B 止水パッキンの色がロ号物件では黒色である。
オ 前記(1)オ,(2)オのとおり,被告製品の寸法は,足踏部の長手方向の寸法が300oであるほかは,いずれの寸法も原告商品と同一である。
2 争点(1)(不正競争防止法2条1項3号)について (1) 不正競争防止法2条1項3号にいう「模倣」とは,他人の商品の形態をまねて,その商品と同一又は実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいい,双方の商品を対比して観察したときに,形態が同一であるか又は実質的に同一といえるほどに酷似していることを要する。
(2) イ号物件について ア 前記1(3)のとおり,原告商品とイ号物件は,基本的形態が同一であり,脚部及び寸法は,ほぼ原告商品と同一である。しかし,この基本的形態は,原告三山や被告らの他の製品及び他社の製品にも使用されており(甲6,16,乙3ないし12,14ないし19。枝番を含む。),マンホール用足掛具の基本的な構造であるといえるから,「同種の製品が通常有する形態」ということができる。そして,寸法については,商品の形態を直接形成するものではないから,模倣の有無の判断に際しては,参考となるにすぎない。
他方,原告商品とイ号物件の足踏部及び側部には,前記1(3)イ,ウのとおり相違点が存在する。これらの相違点のうち,足踏部に関する相違点C及びDは,注意深く比較検討しないと気が付かない程度の相違であって,形態の比較において大きな影響を与える相違点ではない。しかし,足踏部に関する上面滑止め用凸部,握り部及び反射体の相違(前記1(3)イ@ないしB)並びに側部の相違(前記1(3)ウ)については,容易に目に留まり,商品の全体の半分以上の割合を占める部位にわたる差異であり,形態に大きく影響を与える顕著な相違ということができる。そして,これらの相違点を考慮すると,イ号物件は,原告商品と同一であるといえないのみならず,実質的に同一であるということもできない。
イ もっとも,イ号物件は,原告商品の形態から同種の商品が通常有する形態を除いた脚部,足踏部及び側部のうち,脚部については,原告商品の脚部とほぼ同一である。
しかしながら,不正競争防止法2条1項3号は,「他人の商品(中略)の形態(中略)を模倣した商品を譲渡し,貸し渡し,譲渡若しくは貸渡しのために展示し,輸出し,若しくは輸入する行為」を不正競争行為と規定しているのであるから,同号にいう「商品」とは,「譲渡し,貸し渡し,譲渡若しくは貸渡しのために展示し,輸出し,若しくは輸入する」対象となるものであること,すなわち,それ自体独立して譲渡,貸渡し等の対象となるものであることが必要である。したがって,商品の形態の一部分については,それ自体独立して譲渡,貸渡し等の対象となる部品である場合には,その部品の形態は「商品の形態」であるといえるが,商品の形態の一部分が,独立した譲渡,貸渡し等の対象でなく,販売の単位となる商品の一部分を構成しているにすぎない場合には,当該一部分に商品の形態の特徴があって,その模倣が全体としての「商品の形態」の模倣と評価し得るなど特段の事情がない限り,原則として,その一部分の形態をもって「商品の形態」ということはできない。そして,本件では,脚部は,原告商品ないし被告製品から取り外すことができず,独立して譲渡,貸渡し等の対象となる部品ではなく,販売の単位となる商品の一部分を構成しているにすぎない上,上記特段の事情を認めるに足りないから,脚部の形態をもって,同法2条1項3号にいう「商品の形態」ということはできない。
そして,原告商品とイ号物件を比較した場合には,前記のとおり,両者には足踏部及び側部において顕著な相違点が認められるから,イ号物件は,原告商品の形態模倣した商品であるということはできない。
(3) ロ号物件について 前記1(3)のとおり,ロ号物件は,イ号物件との相違点に加え,さらに脚部においても原告商品との相違点を生じるものである。
したがって,イ号物件が原告商品の形態模倣した商品であるといえない以上,ロ号物件も原告商品の形態模倣した商品であるということはできない。
(4) 小括 以上のとおりであるから,原告らの不正競争防止法2条1項3号に基づく請求は理由がない。
3 争点(2)ア(ア)(商品等表示性)について (1) 不正競争防止法2条1項1号は,他人の周知な商品等表示と同一又は類似商品等表示を使用することをもって不正競争行為と定めたものであるところ,その趣旨は,周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するため,周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより,事業者間の公正な競争を確保することにある。
同号にいう「商品等表示」とは,「人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」をいう。商品の形態は,商標等と異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが,商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして,このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するためには,@商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,Aその形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により(周知性),需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていることを要すると解するのが相当である。
他方,不正競争防止法2条1項1号の趣旨は前記のとおりであり,商品の形態自体やそれによって達成される商品の機能を当該事業者に独占させることを目的とするものではないものの,商品の形態自体が上記「商品等表示」に該当し,当該商品の販売行為が同号に該当するとすると,その場合には,当該形態を有する商品の販売そのものが禁止されることになる。このような場合であっても,その商品の形態が商品の技術的な機能及び効用と関係がないか,又は商品の技術的な機能及び効用に由来はするが他の形態を選択する余地があるときには,商品の形態を変更することにより,同一の機能及び効用を奏する商品を販売することが可能となる。
これに対し,商品の形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するため他の形態を選択する余地のない不可避な構成に由来するときは,結果的に,特許権等工業所有権制度によることなく,永久にその形態によって実現されるのと同一の機能及び効用を奏する同種の商品の販売が禁じられ,第三者の市場への参入を阻害し,これを特定の事業者に独占させることになる。このような形態が商品等表示に該当するとすると,結果的に,周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するというにとどまらず,商品の技術的な機能及び効用を第三者が商品として利用することを許さず,当該商品についての事業者間の公正な競争を制約することとなる。
したがって,商品の形態が商品の技術的な機能及び効用に由来する場合であっても,他の形態を選択する余地がある中から客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有する形態を採用し,その商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合には,商品の技術的な機能及び効用に由来することの一事をもって不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当しないということはできない。もっとも,商品の形態が商品の技術的な機能及び効用に由来する場合には,商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していることは稀であり,同種商品の中でありふれた形態であることが多いと思われ,このような場合には,結局,前記@の要件を欠き商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するには至らず,「商品等表示」に該当しないことに帰する。
これに対し,当該形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するため他の形態を選択する余地のない不可避な構成に由来する場合には,これを工業所有権制度によることなく永久に特定の事業者に独占させることは相当ではないから,上記「商品等表示」として保護することはできないと解するのが相当である。
(2) 証拠によれば,以下の事実が認められる。
ア 原告らの特許権 原告三山と原告ハネックスは,特許請求の範囲を「足踏部とその両側に位置する側部とマンホール壁内に挿入される脚部とを有する足掛具において,前記脚部に段部を形成するとともに先端側にねじ部を形成し,該段部と脚部先端との間にカラーと,弾性体でフランジ部と截頭円錐部とを備えた止水パッキンと,ナットとを配置したことを特徴とする足掛具。」とする発明について特許権(特許第3110402号)を有している(甲1)。
この特許発明は,脚部の先端にカラーを別体で設け,その先に止水パッキンをナットで締める構成であり,本件商品等表示の前身となる構成である。本件商品等表示は,この発明の樹脂カラーを筒状部とし,合成樹脂層に一体のものとしたものである。そして,ナットにより止水パッキンの截頭円錐部の先端を脚部の合成樹脂層の筒状部に当接・押圧させて,該止水パッキンの截頭円錐部をマンホール壁に形成した貫通孔に圧着させるとともに止水パッキンのフランジ部を貫通孔の段部に当接・押圧させることにより,止水パッキンによって水密を確実に保持し,コスト安の水密で強固な足掛具取付装置となるという作用効果を奏するものである。
イ 他社製品等 (ア) 平成元年から販売された石田鉄工株式会社のマンホール用足掛具の脚部は,合成樹脂層の断面形状が全体的に円形状であり,脚部に段部を形成するとともに,芯金の先端側にネジ部を形成し,該段部と脚部先端との間に,段部側からリング状の金属ワッシャーとナットをネジ部から挿入固定した形態である(乙3)。
(イ) 昭和52年から販売された日之出水道機器株式会社のマンホール用足掛具の脚部は,合成樹脂層が2段になっているが,脚部に段部を形成するとともに,芯金の先端側にネジ部を形成し,該段部と脚部先端との間に,段部側からリング状の金属ワッシャーとナットをネジ部から挿入固定した形態である(乙4)。
(ウ) 平成10年から販売された被告らのマンホール用足掛け具の脚部は,合成樹脂層の断面形状が全体的に円形状であるが,合成樹脂層に2本の樹脂製リングが嵌められており,脚部に段部を形成するとともに,芯金の先端側にネジ部を形成し,該段部と脚部先端との間に,段部側から順次,弾性体でフランジ部と截頭円錐部とを備え,かつ筒状の中抜けを設けた止水パッキンと,リング状の金属ワッシャーとナットを前記ネジ部から挿入固定した形態である(乙5)。
(エ) 平成9年から販売された被告らのマンホール用足掛具の脚部は,合成樹脂層の断面形状が全体的に円形状であり,脚部に段部を形成するとともに,芯金の先端側にネジ部を形成し,該段部と脚部先端との間に,リング状の金属ワッシャーとナットを前記ネジ部から挿入固定した形態である。脚部の合成樹脂層は,先端部側からの直径が小さく短い筒状部と筒状部より直径が大きいスカート部からなり,スカート部は筒状部より円錐状に広がっている(乙6)。
(オ) 平成9年から販売された原告らのマンホール用足掛具の脚部は,合成樹脂層の断面形状が全体的に円形状であり,脚部に段部を形成しているが,芯金の先端側にはネジ部を形成していない(乙7)。
ウ 意匠公報等 (ア) 昭和58年に出願され,昭和59年に登録された意匠登録第645665号公報のマンホール用足掛具の脚部は,合成樹脂層の断面形状が全体的に円形状であり,脚部に段部を形成するとともに,芯金の先端側にネジ部を形成し,ナットを前記ネジ部から挿入固定した形態である。脚部の合成樹脂層は,先端部側の直径が小さく,そこから円錐状に広がるスカート部からなり,スカート部と側部の間は,スカート部の膨らんだ頂部より,スカート部の端部が内側に丸まった段差になっている(乙8)。
(イ) 昭和59年に出願され,昭和63年に登録された意匠登録第645665の類似1号公報のマンホール用足掛具は,合成樹脂層の断面形状が全体的に円形状であり,脚部に段部を形成するが,芯金の先端側にはネジ部を形成していない。脚部の合成樹脂層は,先端部側が直径が小さく,そこから円錐状に広がるスカート部からなり,スカート部と側部の間は,スカート部の膨らんだ頂部より,スカート部の端部が内側に丸まった段差になっている(乙9)。
(ウ) 平成3年に出願され,平成6年に登録された意匠登録第645665の類似2号公報のマンホール用足掛具は,合成樹脂の断面形状が全体的に円形状であり,脚部に段部を形成するとともに,芯金の先端側にネジ部を形成し,ナットを前記ネジ部から挿入固定した形態である(乙10)。
(オ) 意匠権に関しては,マンホール用足掛具の脚部が全く同一の形状であっても,足踏部の形状が異なれば,登録が認められている(乙11,12)。
エ カタログ等 (ア) 昭和金属工業株式会社のカタログ(乙14)には,脚部の形状がさまざまなマンホール用足掛具が掲載されているが,脚部の合成樹脂の断面が円形状のもの,脚部に段部を形成するもの,芯金の先端側にネジ部を形成しているもの,リング状の金属ワッシャーとナットを前記ネジ部から挿入固定したもの(フィックスタイプツバ固定型)が開示されている。また,段部側から順次,弾性体でフランジ部と截頭円錐部とを備え,かつ筒状の中抜けを設けた止水パッキンと,金属ワッシャーとナットを前記ネジ部から挿入固定した形態を使用している製品もある(フリータイプツバ自在型)。
(イ) 原告三山のカタログ(甲6,乙15)には,脚部の形状がさまざまなマンホール用足掛具が掲載されているが,本件の原告商品以外にも,脚部の合成樹脂の断面が円形状のもの,脚部に段部を形成するもの,芯金の先端側にネジ部を形成しているもの,リング状の金属ワッシャー又は樹脂ワッシャーとナットを前記ネジ部から挿入固定したものが開示されている。また,先端部側から円錐状に広がるスカート部を有するもの,スカート部と側部の合成樹脂層の間は,スカート部の膨らんだ頂部よりスカート部の端部が内側に丸まった段差になっているものもある(MZS300-RF等)。また,クミホール工業会向けの製品では,段部側から順次,弾性体でフランジ部と截頭円錐部とを備え,かつ筒状の中抜けを設けた止水パッキンと,リング状の金属ワッシャーとナットを前記ネジ部から挿入固定したものも開示されている。
(ウ) 石田鉄工株式会社のカタログ(甲16の2,乙16)には,脚部の形状が様々なマンホール用足掛具が掲載されているが,脚部の合成樹脂の断面が円形状で,脚部に段部を形成するもの,芯金の先端側にネジ部を形成し,リング状の金属ワッシャーとナットを前記ネジ部から挿入固定したものが開示されている(ボルト固定式)。
(エ) 被告本宏のカタログ(甲16の5,乙19)には,脚部の形状がさまざまなマンホール用足掛具が掲載されているが,本件の被告製品以外にも,脚部の合成樹脂の断面が円形状で,脚部に段部を形成するもの,芯金の先端側にネジ部を形成し,リング状の金属ワッシャーとナットを前記ネジ部から挿入固定したもの,段部側から順次,弾性体でフランジ部と截頭円錐部とを備え,かつ筒状の中抜けを設けた止水パッキンと,リング状の金属ワッシャーとナットを前記ネジ部から挿入固定したもの(フリータイプツバ自在型)も開示されている。
(3) 以上を前提に本件について判断する。
ア 本件商品等表示は,前記3(2)アのとおり,もともと特許第3110402号(甲1)に係る特許発明の樹脂カラーを筒状部とし,合成樹脂層に一体のものとしたものであるから,ナットにより止水パッキンの截頭円錐部の先端を脚部の合成樹脂層の筒状部に当接・押圧させて,該止水パッキンの截頭円錐部をマンホール壁に形成した貫通孔に圧着させるとともに止水パッキンのフランジ部を貫通孔の段部に当接・押圧させることにより,止水パッキンによって水密を確実に保持し,コスト安の水密で強固な足掛具取付装置となるという機能及び効用を有する。
したがって,本件商品等表示の形態は,技術的な機能及び効用に由来する形態であるといえる。
もっとも,前記3(2)ウで認定したとおり,マンホール用足掛具の脚部は,具体的形態のレベルではさまざまな形態があり,原告商品と全く同じ形態の脚部を有する商品は,他に見当たらない。したがって,原告商品の脚部は,商品の技術的な機能及び効用を実現するため他の形態を選択する余地のない不可避な構成に由来するとまではいえないから,それだけで商品等表示性が排斥されるわけではない。
イ しかしながら,原告らが主張する本件商品等表示の構成をみると,前記3(2)イ,ウ,エで認定したとおり,脚部に段部を形成するとともに芯金の先端側にネジ部を形成する形態は,原告三山や被告らの外にも多数の会社が採用している(甲16の2及び5,乙3ないし6,8,10,14,16,19)。
また,段部と脚部先端との間に,ナットを挿入固定した他社の製品(乙8,10),段部側から順次,リング状の金属ワッシャーとナットをネジ部を挿入固定した形態の被告らや他社の製品(甲16の2及び5,乙3,4,6,14,16,19)が存在する。原告商品のように,「弾性体でフランジ部と截頭円錐部とを備え,かつ筒状の中抜けを設けた止水パッキンと,中央が部分的に肉厚化したリング状の樹脂ワッシャーとナットを前記ネジ部から挿入固定した足掛具の形態」と同一の製品は見当たらないものの,弾性体でフランジ部と截頭円錐部とを備え,かつ筒状の中抜けを設けた止水パッキンと,リング状の金属ワッシャーとナットを前記ネジ部から挿入固定した足掛具の形態は,被告らの製品及び他社の製品に存在する(甲16の5,乙5,14,19)。
さらに,脚部の合成樹脂層の形態については,全体的に断面形状が円形状であり,先端部側からの直径が小さく短い筒状部と筒状部より直径が大きいスカート部からなり,スカート部は筒状部より円錐状に広がっている形態は,被告らの製品として使用されている(乙6)。また,合成樹脂層の後端部,すなわちスカート部と側部の合成樹脂層の間について,スカート部の膨らんだ頂部より,スカート部の端部が内側に丸まった段差になっている形態は,他社の製品に使用されている(乙8,9)。
ウ 以上のとおり,原告らが主張する本件商品等表示の形態は,それぞれの部分について,被告らの製品及び他社製品において従来から存在するありふれたものであり,客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているとはいえない。
原告商品における中央が部分的に肉厚化したリング状の樹脂ワッシャーを使用している製品は見当たらないが,同樹脂ワッシャーの形態は,ありふれたリング状の金属ワッシャーの中央が部分的に肉厚化しただけであって,客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているとはいえない。
全体の組み合わせを見ても,止水パッキンと金属ワッシャーとナットを組み合せた他社製品が存在することから,原告商品の組合せはありふれたものであり,客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているとはいえない。
合成樹脂層の形態についても,筒状部を有する他社製品が存在することと,スカート部の形態が類似する他社製品が存在することから,いずれもありふれた形態であって,客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているとはいえない。
エ このように,原告らの主張する本件商品等表示は,商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているとはいえないから,これをもって不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するということはできない。
(4) 小括 以上のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく,原告らの不正競争防止法2条1項1号に基づく請求は理由がない。
4 結論 以上の次第で,その余の点につき判断するまでもなく,被告らの行為は,不正競争防止法2条1項1号及び3号のいずれにも該当しない。
したがって,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官 東海林保
裁判官 瀬戸さやか
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