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関連審決 審判1977-6743
関連ワード 差止請求(差止) /  営業上の利益 /  因果関係 /  信用回復措置 /  消滅時効 /  原状回復 /  不当利得 /  侵害 /  競業関係 /  代表者 /  競争関係 /  虚偽の事実 /  損害賠償 /  損害額 /  営業上の信用 / 
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事件 昭和 63年 (ワ) 3438号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1994/05/13
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告1 被告らは、原告に対し、連帯して金二七六六万二五五六円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、別紙広告目録(一)記載の新聞に、同目録(二)記載の広告を同目録(三)の活字を用いて掲載せよ。
3 被告【A】(以下「被告【A】」という。)は、原告に対し、金八九万六七一八円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 1項及び3項につき仮執行宣言。
二 被告ら 主文同旨。
当事者の主張
一 請求の原因(不正競争防止法(平成五年法律第四七号による改正前のもの。以下同じ。)1条1項6号、同法1条ノ二による請求)1(一) 原告は、食糧調整加工機械等の製造販売を業とする会社である。
原告は、昭和五二年春頃まで、商品名を「ネオストーナー」といい、型式をGA―10M又はGA―10Pとする石抜選穀機(以下順に「原告製品(一)」、「原告製品(二)」という。)を製造販売していた。
(二) 被告【A】は、被告株式会社東洋精米機製作所(以下「被告会社」という。)の代表取締役として、その営業の責任者の地位にあったものである。
(三) 被告会社は、石抜選穀機を含む食糧加工機械等の製造販売を業とする会社である。
(四) 被告財団法人雑賀技術研究所(以下「被告研究所」という。)は、石抜選穀機を含む食糧加工機械等の工業技術の開発及び工業所有権の維持管理等を目的とする法人である。
(五) 被告らは、原告と競争の関係にある。
被告会社は、右のとおり原告と同種の業を営んでおり、原告と競争の関係にある。
被告【A】は、右のとおり被告会社の代表取締役としてその営業の責任者の地位にあり、また、精米機や石抜選穀機等の特許出願、実施許諾等の管理の業務について、原告と競争の関係にある。
被告研究所は、石抜選穀機を含む食糧加工機械等の工業技術の開発、工業所有権の維持管理の業務について、原告と競争の関係にある。
2 被告【A】は、次の(一)及び(三)の特許権を有し、被告会社は、右各特許権につき次の(二)及び(四)の専用実施権を有していた。
(一) 特許第七六九三四八号(以下「本件塵埃回収法の特許権」という。)発明の名称 選穀機における塵埃回収法出願日 昭和三七年一月一八日公告日 昭和四八年八月六日登録日 昭和五〇年五月一六日存続期間満了 昭和五七年一月一八日(二) 本件塵埃回収法の特許権についての専用実施権設定日 昭和五〇年五月一六日登録日 昭和五三年一〇月二五日(三) 特許第四一七五五八号(以下「本件一体駆動装置の特許権」といい、本件塵埃回収法の特許権と本件一体駆動装置の特許権とを「本件両特許権」と総称することがある。)発明の名称 選穀機における選別板及び載置筺一体駆動装置出願日 昭和三六年五月三一日公告日 昭和三八年五月六日登録日 昭和三九年一月一八日存続期間満了 昭和五三年五月六日(四) 本件一体駆動装置の特許権についての専用実施権設定日 昭和三九年二月一日登録日 昭和四一年五月二四日3(一) 被告【A】及び被告研究所は、昭和五二年三月六日に、食糧調整加工機械の販売業者団体である全国食糧事業協同組合連合会(以下「全糧連」という。)に対し、原告製品(一)、(二)を含む原告製造にかかる石抜選穀機が本件塵埃回収法の特許権に抵触していること、したがって、右石抜選穀機の販売の停止及び回収をしなければ、右連合会を含む販売業者やユーザーである米穀業者に対して直接的措置を講ずる旨を記載した内容証明郵便を送付した。
被告らは、右内容証明郵便は原告製造にかかる石抜選穀機GA―50、GA―20についてのもので、原告製品(一)、(二)である型式GA―10MやGA―10Pとは機種が異なる旨主張するが、甲第一号証の一では「株式会社佐竹製作所製造に係る各種石抜選穀機」といい、同号証の二では限定を付さないで単に「石抜選穀機」といっているところから見れば、被告らがこれら書面において、特に型式GA―50、GA―20の石抜選穀機についてのみ述べているものではないことが明らかであるから、被告らの右主張は理由がない。
(二) 被告【A】は、
(1) 昭和五二年五月中旬頃、米穀店、精米業者、農業協同同組合等多数の石抜選穀機等のユーザー等に対して、原告製造にかかる原告製品(一)、(二)は、本件両特許権を侵害するものであるとした上、原告製品(一)、(二)を使用する者にその撤去を求めるとともに購入先、購入日、原告製品(一)、(二)の使用によって得た利益を報告すべき旨の文書を配布した。
(2) 同年六月初旬頃、右ユーザー等に対して、自らの経歴を記載した文書と共に、原告製品(一)、(二)を使用している者を相手として然るべき措置を取らざるを得ない旨及び権利侵害品である原告製品(一)、(二)を悪意で使用する場合には五年以下の懲役刑等の刑事罰が課せられることもあり得る旨などを記載した文書を配布した。
(3) 右(2)と同じ頃、販売業者に対して、被告【A】が原告製品(一)、
(二)を設置する米穀店に内容証明郵便をもってその撤去要求や不当利得の請求の必要性を説明するとして、その事由を記述した文書を送付して配布した。
(三) 被告会社は、
(1) 昭和五二年五月下旬頃、販売業者等に対し、原告は原告製品(一)、
(二)が本件一体駆動装置の特許権に抵触していることを認め数百台を回収することになったので業界は未曾有の大混乱を呈しているなどと記載した文書を配布した。
(2) 同年七月下旬頃、販売業者等に対して、本件両特許権の専用実施権者として原告他一名の相手方として原告製品(一)、(二)の製造販売の禁止並びに謝罪広告を求める訴訟を大阪地方裁判所に提起した旨の文書を配布した。
(四) 被告研究所は、
(1) 昭和五二年三月六日、社団法人日本精米工業会に対し、原告の石抜選穀機等の製品が被告らの特許権を侵害する非合法製品となるので使用できず、したがって、右製品が回収されなければこれらを使用する米穀業者に対して権利行使を行うことを決心した旨、及びその準備の一環として、まず非合法製品を販売している全糧連に対しても内容証明郵便により即時販売停止と販売済みの非合法製品の回収方を請求した旨を記載した添付資料付きの書面を送付した。ちなみに、社団法人日本精米工業会は、精米加工技術の改善及び研究開発、精米工場経営についての技術指導や経営改善指導、精米の自主検査や表示検査等の事業を行う社団法人であって、
多数の会員を擁し、精米機や石抜選穀機等の使用者に対して多大の影響力を有している団体である。
(2) 同年五月下旬頃から六月頃にかけて、石抜選穀機の販売業者に対して、被告【A】や被告会社が配布した前記(二)及び(三)の文書と同趣旨の文書を広く配布した。
4 しかしながら、原告製品(一)及び(二)は、次のとおり、本件塵埃回収法の特許権にも本件一体駆動装置の特許権にも抵触しない。
(一) 本件塵埃回収法の特許権にかかる特許願に添付した明細書の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。
「風車を内装すると共に、側面には窓を有する風車函の開放上面に選別多孔板を位置させ、選別多孔板を揺動させながら風車を回転することによって風車が起風した風を選別多孔板の孔に下から上へ吹抜けさせ、選別多孔板上に供給される穀物中から小石など比重の重い夾雑物を選別する揺動型選穀機において、選別多孔板を吹抜ける風によって吹上げられる穀物中の比重の軽い塵埃などの夾雑物を回収するため、上記選穀機を一部が開放している密閉状のケース内に収納し、風車函の両側外面と、ケースの両側内面と、ケースの上板とで形成された間隔を、上部は選別多孔板から吹上がる含塵排風によって気圧が高く、風車函の側面の窓の臨む位置では風車の回転による函内への吸入で気圧が低い空気の対流通路にして選別多孔板から吹上がる含塵排風をケースの上板下面に当てて対流通路中を圧力を下げさせながら降下させ、これにより含まれている塵埃を自重で通路から更に落下することを許し、
主として空気は側面の窓を通じ風車函内に吸入させて循環させ、塵埃をケースの底に回収することを特徴とする選穀機における塵埃回収法」(二) 本件一体駆動装置の特許権にかかる特許願に添付した明細書の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。
「本文に詳記するごとく選別多孔板とこれを載着した載置筺とを一体に形成し、
両者を同時に、選別多孔板の傾斜角度より大きい角度をもって斜方向に往復運動せしめ、載置筺内に位置させた風車は上記運動と関係無く定位置にと旋廻するように成した選穀機における選別板及び載置筺一体駆動装置」(三) 被告会社は、原告に対し、本件塵埃回収法の特許権に基づく本訴原告製品(一)、(二)の製造差止め、損害賠償等を求めて大阪地方裁判所に訴えを提起し(昭和五三年(ワ)第六六一三号事件)、同訴訟においては、同特許権にかかる発明の特許請求の範囲中の「一部が開放している密閉状のケース」の解釈及び原告製品(一)、(二)の構成が右発明の「一部が開放している密閉状のケース」との要件を充足するか否かが主な争点となって、原告、被告とも主張立証を尽くしたが、
同裁判所は、昭和五八年二月一六日、原告製品(一)、(二)が右の「一部が開放している密閉状のケース」の要件を充足せず、原告の行為が本件塵埃回収法の特許権を侵害するものではないとして被告会社の請求を棄却する判決をした。
被告会社は、これを不服として大阪高等裁判所に控訴したが(昭和五八年(ネ)第四〇八号事件)、同裁判所は、昭和五九年一二月二五日、右同様の理由により被告会社の控訴を棄却する判決をし、昭和六〇年一月一一日右判決が確定した。
(四) 被告会社は、原告に対し、本件一体駆動装置の特許権に基づく本訴原告製品(一)、(二)の製造販売の差止等を求めて大阪地方裁判所に訴えを提起し(昭和五二年(ワ)第二七〇八号事件)、同訴訟においては、同特許権にかかる発明の特許請求の範囲中の「一体に形成」の意味の解釈及び原告製品(一)、(二)の構成が右発明の「一体に形成され」との要件を充足するか否かが主な争点となって、
原告、被告とも主張立証を尽くしたが、同裁判所は、昭和五七年一一月三〇日、原告製品(一)、(二)が「一体に形成する」との要件を充足せず、原告の行為が本件一体駆動装置の特許権を侵害するものではないとして被告会社の請求を棄却する判決をした。
被告会社は、これを不服として大阪高等裁判所に控訴したが(昭和五七年(ネ)第二三三九号事件)、昭和六〇年一二月二日、右控訴を取り下げたので、同日右判決が確定した。
(五) よって、原告製品(一)、(二)が本件両特許権に抵触するとの被告らの流布行為は、虚偽の事実を流布するものであることが確定した。
5(一) 被告らの前記3のような執拗な文書をもってする威嚇的行為により、これらの文書を受領したユーザー等の業者は、その使用する原告製品(一)、(二)が本件両特許権を侵害しているものと誤信し、原告に対して、侵害品を購入させられたとして非難した他、侵害品でない機械との交換を強く求めるに至り、原告は、
営業上多大の打撃を受け、その信用を著しく害された。
(二) 原告は、右のとおり被告らの虚偽の事実を記載した文書の配布行為に対し、何よりもまず取引先であるユーザーや販売業者を被告らの提起する紛争に巻き込ませず、迷惑をかけないようにすることが営業政策の上からも信用維持の上からも必緊のことと思料し、その方法を検討した末、昭和五二年五月頃から同年七月頃までの間に、原告製品(一)及び(二)合計二四一台を回収し、代替品として、型式GA―10Sの石抜選穀機(商品名「ネオストーナー」)を無償で供給設置し、
回収した原告製品(一)及び(二)を全て廃棄した。
(三) 右回収及び廃棄によって原告が被った損害の額は、次のとおりである。
(1) 原告製品(一)及び(二)二四一台の販売相当額 二七八一万四三〇〇円(2) 一般管理費及び販売費(販売額の二三・八%) 六六一万九八〇三円(3) 標準原価総額(一台当たり六万五七〇二円) 一五八三万四一八二円(4) 金型費(廃棄相当分)相当額 一二五三万二一一四円(5) 廃棄による損害額((4)―((1)―(2)―(3)) 七一七万一七九九円(6) ネオストーナーGA―10Sを代替品として無償で供給設置したことによる代金相当の損害額 一五四九万〇七五七円(7) 回収によって被った損害額((5)+(6)) 二二六六万二五五六円(四) 右の他、原告は、その信用失墜による原告製品全般の売上高の減少や販売活動に際して余計な労力を要する等の損害を被り、この損害の額は、五〇〇万円を下回らない。
6 よって、原告は、被告らに対し、不正競争防止法1条1項6号1条ノ二第一項の規定に基づき原告の被った損害額合計金二七六六万二五五六円及びこれに対する本件訴状送達の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払い、並びに、同法1条ノ二第四項の規定に基づき原告の営業上の信用を回復するため当事者の求めた裁判一2のとおりの謝罪広告を求める。
(民法723条に基づく請求)7 仮に不正競争防止法1条1項6号1条ノ二第四項による謝罪広告請求について、原告と被告【A】との間に競業関係がなかったとしても、被告【A】は、前記3(一)、(二)の各行為によって、原告の名誉を毀損した。
よって、原告は、予備的に、被告【A】に対して、民法723条の規定に基づき右6のとおりの謝罪広告を求める。
(不当利得返還請求)8(一) 原告は、昭和五二年四月二〇日、被告らから、一方的に、原告製品(一)、(二)が本件一体駆動装置の特許権に抵触する旨の指摘を受け、また、翌二一日、内容証明郵便をもって、原告製品(一)、(二)を回収廃棄しなければ法的措置を講ずると威嚇され、被告らの言動から、その時点においてもし原告が争うなら、原告製品の販売業者やユーザーに対して法的措置を講じかねない状況であったため、やむなく、同月三〇日、被告【A】に対し、本件一体駆動装置の特許権の実施料相当額の損害金として、原告製品(一)、(二)の販売価額合計二九八九万〇六〇〇円の三%に当たる八九万六七一八円を振込送金して支払った。
(二) ところが、原告製品(一)、(二)は、前記4(四)のとおり本件一体駆動装置の特許権に抵触しないばかりでなく、右特許自体が無効となった。
すなわち、原告は、特許庁に対し、本件一体駆動装置の特許を無効とする審判を請求し(昭和五二年審判第六七四三号)、特許庁は、昭和五六年七月二一日、本件一体駆動装置の特許を無効とするとの審決をした。被告【A】は、これを不服としてその取消を求める訴えを東京高等裁判所に提起したが(昭和五六年(行ケ)第二一八号)、同裁判所は、昭和六〇年八月一五日、被告【A】の請求を棄却する判決をし、同年九月五日、右判決が確定した。
(三) 右(二)によって、右(一)の損害金の支払いは、法律上の原因なくして行ったものとなり、これにより被告【A】に対し同額の利益を与えたので、被告【A】は、支払いを受けた右金員の返還義務を負うものである。
9(一) 仮に、右8が認められないとしても、原告は、昭和五二年四月二〇日、
被告らから、一方的に、原告製品(一)、(二)が本件一体駆動装置の特許権に抵触する旨の指摘を受けるなどしたため、昭和五二年四月当時、原告製品(一)及び(二)が本件一体駆動装置の特許権を侵害するか否か明らかになっていなかったが、被告【A】との間で話合いによる円満な解決、すなわち原告の取引先への被告らによる信用毀損文書の配布や、被告らによる本件一体駆動装置の特許権に基づく仮処分等の法的手続がとられないことを条件(解除条件)として、同月三〇日、被告【A】に対し、本件一体駆動装置の特許権の実施料相当額の損害金として、原告製品(一)及び(二)の販売価額合計二九八九万〇六〇〇円の三%に当たる八九万六七一八円を振込送金して支払った。
(二) 被告【A】はその後前記3(二)のとおり原告の取引先へ信用毀損文書を配布し、また、前記4(四)のとおり、被告会社は本件一体駆動装置の特許権に基づき、原告に対し、原告製品(一)、(二)の製造販売禁止を求める訴えを提起した。
(三) 右(二)によって、右(一)の解除条件が成就したのであるから、被告【A】は、支払いを受けた右金員を保持する法律上の原因を欠き、その返還義務を負う。
10 よって、原告の右損害金の支払いは、被告【A】が法律上の原因なくして利益を受け、このため原告が同額の損害を被ったものであるから、原告は、被告【A】に対し、民法703条704条の規定に基づき不当利得の返還として八九万六七一八円及びこれに対する本件訴状送達の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求の原因に対する認否1 請求の原因1(一)ないし(四)は認める。ただし、原告製品(一)、(二)の製造販売の時期は知らない。また、被告【A】は、昭和五二年当時には被告会社の代表取締役ではなかった。
同(五)のうち、被告会社が原告と競争関係にあることは認め、その余は否認する。被告研究所及び被告【A】は、製品の製造販売をしておらず、原告と競争関係になかった。
2 請求の原因2は認める。
3(一) 請求の原告3(一)前段のうち、対象機種に原告製品(一)、(二)を含むとの点、全糧連に対し回収を要求したとの点は否認し、その余は認める。
被告【A】及び被告研究所が全糧連に対し回収を要求したのは、原告製造の石抜選穀機GA―50及びGA―20であり、原告製品(一)、(二)とは機種が異なる。
(二) 同(二)(1)は認める。
同(二)(2)は認める。ただし、配布先は、(1)のユーザーと一部一致するが全部同一ではない。
同(二)(3)は認める。
(三) 同(三)は認める。
(四) 同(四)(2)のうち、被告研究所が昭和五二年六月、石抜選穀機の販売業者に対し、「特許権行使における当方の真意」という文書を配布した点は認め、
その余は否認する。
4 請求の原因4(一)ないし(四)は認め、同(五)は否認する。
5(一) 請求の原因5(一)は否認する。同(二)中被告らの文書配布により原告がネオストーナーの回収を決断したことは否認し、その余は知らない。同(三)、(四)は否認する。
(二) 被告らの行為と原告の損害との間には因果関係が存在しない。
すなわち、原告は、被告【A】から本件一体駆動装置の特許権に抵触している旨の通知を受けるや、原告製品(一)及び(二)が本件両特許権に抵触することを認め、昭和五二年四月二七日付け書面で被告【A】の申出を承諾し、自ら原告製品(一)及び(二)二四一台を回収した上、実施料相当額の損害金として原告製品(一)及び(二)の販売金額の三%の金員を被告【A】宛てに送ってきたものである。したがって、原告の原告製品(一)及び(二)の回収は、本件両特許権抵触問題につき、被告【A】が示した解決提案につき、原告がこれを承諾し、被告【A】に対する回収約束を履行したものであり、原告主張のような被告らの虚偽文書頒布によるものではない。
ちなみに、被告らが配布した書面は、いずれも原告が原告製品(一)及び(二)の回収を約束した昭和五二年四月二七日以降のものであり、右書面の配布により原告がやむなく原告製品(一)及び(二)が本件一体駆動装置の特許権に抵触することを認めこれらを回収したものではないので、被告らの書面の配布と原告の原告製品(一)及び(二)の回収とは因果関係がない。
(三) 原告は、被告らとの間の昭和四九年五月九日付けの合意書で、石抜選穀機の製造を一切止め、被告会社から石抜選穀機の特注品を仕入れて販売する旨の約束をした。
しかし、石抜選穀機の特注品を決めるまで日数がかかることから、同年三月六日付け覚書(ただし、右覚書を作成した時期は、昭和四九年五月九日の合意書作成の後である。)で、原告と被告【A】との間において、被告【A】が、石抜選穀機の特注品を決めるまでの間、原告に対し石抜選穀機の製造販売につき暫定的実施権を付与するとの取決めをした。
ところが、原告は、右覚書の約定に違背し、実施料の支払いを怠ったので、被告【A】及び被告研究所は、昭和五一年一二月四日付け書面で、右覚書にかかる契約を解除した。
したがって、原告は、昭和四九年五月九日付けの合意書の約定に従い、原告が製造する石抜選穀機の販売をすることができないはずであるところ、原告は、右約定に違背して石抜選穀機である原告製品(一)及び(二)を製造販売したのであるから、原告製品(一)及び(二)を回収したことによる損害は原告が負担すべきものである。
6 請求の原因6は争う。
7 請求の原因7は争う。
8(一) 請求の原因8(一)のうち、被告【A】が昭和五二年四月二〇日原告に対し原告製品(一)、(二)は本件一体駆動装置の特許権に抵触する旨の指摘をした点は認めるが、被告会社及び被告研究所もこのような指摘をしたとの点は否認する。被告【A】及び被告研究所が原告に対し昭和五二年四月二一日付け内容証明郵便を送付した点は認めるが、被告会社が送付したとの点および威嚇したとの点は否認する。原告が被告【A】に八九万六七一八円を支払った事実は認めるがこれが損害金であるとの点は否認する。
二 同(二)のうち、本件一体駆動装置の特許の無効が確定したとの点は認める。
(三) 同(三)は否認する。
原告は、原告の製造販売にかかる石抜選穀機が本件一体駆動装置の特許権に抵触することを従前から認めていたが、原告の精米機が被告研究所の自動停止の特許権を実施しているか否かについての交渉過程において、原告製品(一)、(二)が本件一体駆動装置の特許権に抵触することを新たに認め、昭和五二年四月二七日付け書面で、被告【A】が既に示していた解決案を承諾し、和解が成立した。
原告が被告【A】宛てに原告製品(一)、(二)の実施料相当額の損害金との名目で支払った八九万六七一八円は、本件一体駆動装置の特許権の実施料として被告【A】との右記和解を承諾し、その履行として支払った金員であり、被告【A】が不当利得したものではない。
9(一) 請求の原因9(一)のうち、原告が被告【A】宛てに八九万六七一八円を支払った事実は認めるが、その余は否認する。
(二) 同(二)は認める。
(三) 同(三)は否認する。
なお、仮に、右金員について、原告製品(一)、(二)が本件一体駆動装置の特許権に抵触していないが、被告【A】との円満な解決を条件として被告【A】に支払った性質の金員であれば、原告は、非債弁済として返還請求をなしえない。
10 請求の原因10は争う。
三 抗弁(不正競争防止法に基づく請求及び民法723条に基づく請求について)1 消滅時効(一) 原告は、原告製品(一)及び(二)を昭和五二年四月末頃から同年七月末頃までに回収したが、他方、昭和五二年四月二七日付け回答書で原告製品(一)、
(二)の構造と本件塵埃回収法の特許権とを比較検討した結果、被告らに対し、原告製品(一)、(二)は、本件塵埃回収法の特許権に抵触していない旨の回答をしていたものである。したがって、被告らの、文書配布の時点及び原告が原告製品を回収し終えた時点において、原告自身、原告製品(一)、(二)が本件塵埃回収法の特許権に抵触していないことを認識していたものであり、原告は、被告らの文書配布時及び原告製品の回収時において加害者及び損害を知っていたものである。
そうすると、被告らに対する損害賠償請求権の消滅時効は、原告が原告製品(一)及び(二)を回収した時点から、謝罪広告請求権の消滅時効は、原告が文書配布を知った時点から進行する。
(二) 仮に(一)が認められないとしても、原告は、本件塵埃回収法の特許権についての大阪地方裁判所昭和五三年(ワ)第六六一三号事件、本件一体駆動装置の特許権についての大阪地方裁判所昭和五二年(ワ)第二七〇八号事件につき被告として応訴して争い、原告製品(一)、(二)が本件両特許権に抵触しないことの主張、立証を尽くしてきた経緯からすれば、少なくとも被告らの配布文書が虚偽であることに関し損害賠償請求が可能な程度の認識を有していた。
そうすると、原告は、右各事件の第一審判決の言渡しにより、原告製品(一)、
(二)が本件両特許権に抵触しておらず、被告らの頒布した文書が虚偽のものであることを認識したのであり、被告らに対する損害賠償請求権及び謝罪広告請求権の消滅時効は、遅くとも各第一審の判決言渡しの翌日、すなわち、本件塵埃回収法の特許権に関する虚偽の事実の流布の関係では昭和五八年二月一七日から、本件一体駆動装置の特許権に関する虚偽の事実の流布の関係では昭和五七年一二月一日からそれぞれ進行する。
(三) 仮に(二)が認められないとしても、本件一体駆動装置の特許権に対する無効審判請求について、特許庁は、昭和五六年七月二一日右特許を無効とする審決をし、昭和六〇年九月五日これが確定した。そうすると、原告は、昭和五六年七月二一日には被告らの頒布文書が虚偽であることにつき認識可能であったものであり、被告らに対する損害賠償請求権及び謝罪広告請求権の消滅時効は、本件一体駆動装置の特許権に関する虚偽の事実の流布の関係では遅くとも無効審決の翌日である昭和五六年七月二二日から進行する。
(四) 右(一)ないし(三)の起算点から三年が経過したので、被告らは、消滅時効を援用する。
(五) 原告は、被告らの文書配布の当時は、被告らが配布した文書が虚偽であることを原告が主観的に知っただけであるから、これらの時点で客観的に損害(その発生の事実及び違法性)を知ったことにはならず、原告製品(一)、(二)が本件両特許権に抵触していないことが判決確定により公権的に確定した時点が消滅時効の起算点であると主張する。
しかし、民法724条は、「被害者……カ損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」という被害者の主観的な認識に基づき、被害者の損害賠償請求の機会を確保し、併せて被害者の主観的な認識時点から三年の経過により被害者の請求権を失効させ、加害者の保護をも定めた規定である。
民法724条で規定されている被害者が損害及び加害者を知ることについての主観的な認識の程度は、普通の不法行為の場合、損害賠償請求が事実上可能な程度の認識で足り、公権力による客観的な法的評価まで必要ないものである。本件においても、原告は、右(一)のとおり文書配布という事実及び原告が原告製品を回収し終えたという事実によって、被告らの行為の違法性を認識しえたのであり、損害賠償の請求が可能であったというべきである。
また、短期消滅時効の規定は、不法行為による損害賠償請求等の法律関係をできるだけ速やかに確定する必要があること、加害者を知って三年以上も権利行使をしない者は、権利の上に眠る者として保護に値しないという趣旨からも規定されたものである。原告が主張するように、損害及び加害者との要件につき公権力による確定を必要とするならば、判決確定まで時効が進行しないので、当事者間の法律関係はそれまで不確定のままとなり、短期消滅時効を規定した趣旨に反し、明らかに不合理である。
原告は、消滅時効の起算点を、加害者の行為の違法性が公権力の判断により確定した時点とする例として、不当訴訟の場合及び検察官の不当公訴の場合を挙げる。
しかし、本件請求は、不当訴訟を理由とするものではなく、不当訴訟や不当公訴の場合と同様に考えることはできない。
したがって、原告の請求権の消滅時効の起算点は、訴訟によって、違法性が公権的判断により確認された時点とする必要はない。
なお、原告は、原告製品である原告製品(一)、(二)及びその他の原告製品についての特許権等の侵害問題について、原告自身がその都度抵触するかどうかを判断していたことからしても、虚偽性の認識については、右のような原告の判断で足り、何も公的客観的判断を必要としない。
さらに、原告の主張によれば、本件一体駆動装置の特許権に基づく差止請求事件の当事者でなかった被告研究所、本件塵埃回収法の特許権に基づく差止請求事件の当事者でなかった被告【A】及び被告研究所についても右各訴訟の判決確定時が消滅時効の起算点となるが、これでは時効の進行は不確定なものとなり、短期消滅時効を規定した意味が失われることは明らかである。
2 原告は、昭和五二年四月一九日及び二〇日の被告【A】との話合いで、原告製品(一)、(二)が本件一体駆動装置の特許権に抵触することを認め、これらを回収し、実施料相当の損害金を支払うことにより、和解収拾を図ったものであり、原告製品(一)、(二)についての被告【A】の行為については損害賠償請求や謝罪広告請求をしないことを前提としていたものである。したがって、原告は、原告製品(一)、(二)についての被告【A】の行為については、損害賠償請求権及び謝罪広告請求権を放棄したものであり、甲第九号証の一ないし六はその趣旨を含むものである。
(不当利得返還請求について)3 消滅時効(一) 本件不当利得返還請求は、原告が昭和五二年四月三〇日に支払った金員の返還を求めるものであるが、この請求権の消滅時効の起算点は原告の損害賠償請求権の場合と同一に理解すべきところ、その起算日は昭和五二年五月一日であるから、
同日から一〇年の経過により時効消滅している。
(二) 被告【A】の文書頒布により円満な解決が図れなくなったというのであれば、被告【A】の文書頒布の時点において円満な解決は困難になったのであるから、その文書頒布の時点から不当利得返還請求権の消滅時効は進行するものであり、少なくとも文書頒布の最終日たる昭和五二年六月末日頃から一〇年間の経過により、原告の被告【A】に対する不当利得返還請求権は消滅している。
(三) よって、被告らは消滅時効を援用する。
四 抗弁に対する原告の認否及び反論1(一) 抗弁1は争う。
(二) 本件では、原告製品(一)、(二)の回収の時点や被告らの頒布した文書が虚偽であることを主観的に知った時点で客観的に損害の発生とその違法性を知ったことにはならない。この理は、不当訴訟の提起を受けた場合の損害賠償請求権の消滅時効の起算点は訴訟確定の時からとする裁判例、検察官の違法な公訴提起による損害賠償請求権の消滅時効の起算点はその公訴についての裁判の確定した時であるとする裁判例等と共通するものである。
したがって、原告の損害賠償請求権の消滅時効の起算点は、誹謗文書の内容の虚偽性、すなわち原告製品(一)、(二)が本件両特許権に抵触しないことが公権的に確定した時点であると解すべきである。
(三) 被告らは、不当訴訟や検察官の違法な公訴の場合には、判決確定するまでは法律上の障害が存するため違法性を主張できない場合に当たり、本件の場合と異なると主張する。
しかし、本件の場合、被告らが、原告製品(一)、(二)は本件一体駆動装置の特許権や本件塵埃回収法の特許権を侵害しているとの文書を頒布するとともに、一連の文書頒布行為と合わせて、被告らが原告を相手として本件両特許権に基づく侵害差止請求訴訟を相次いで提起し、問題の文書頒布だけに止まらず、裁判の場においてその主張を貫こうとしたという特別の事情があった。
すなわち、原告が、原告製品(一)及び(二)が本件両特許権を侵害していないことを前提として被告らに対して損害賠償等の訴訟を提起する以前に、被告らによる訴訟が提起されたのである。
原告は、被告らに対して損害賠償等の訴訟を提起する以前に、否応なくこれに応訴せざるをえなかった。そして、被告らが右のとおり訴訟を提起していたから、当該訴訟が配布文書の虚偽性を客観的に知りうる唯一の手段と考えられた。
このような場合には、これらの訴訟において侵害のないことが判決によって確定して初めて、被告らの行為の違法性が明らかになるというべきである。右侵害差止訴訟において、もし被告らが勝訴しておれば、被告らの配布した文書の内容は正当で虚偽ではなかったことになったはずであって、右の理は、不当訴訟や不当公訴の場合と何ら異なるものではない。
(四) また、被告らは、民法724条の被害者が損害及び加害者を知ることについての主観的認識の程度について、通常の不法行為の場合、損害賠償請求が事実上可能な程度の認識で足り、少なくとも公権力による客観的な法的評価まで必要ないものであると主張する。
しかし、この主張も一般的に妥当なものではなく、それぞれの事案によって個別的に判断されるべき問題である。
すなわち、虚偽文書の配布によって損害を被った場合、通常、文書の虚偽性は、
その記載内容から一義的、客観的に知ることができるが、本件のように文書の虚偽性が特許権侵害の有無にかかるような場合は、必ずしも文書の記載自体から客観的に知りうるものではない。原告としては、被告らが原告を相手に提起した本件両特許権による侵害差止訴訟において、必ず勝訴しうると確信していたわけではなく、
原告内部の検討結果や社外の弁理士等の意見においても、必ずしも原告製品(一)、(二)が本件両特許権に抵触しないとの結論は得られていなかった。
また、原告は、第一審が請求棄却の判決をしたものの、控訴審において第一審判決がそのまま維持されるか否かについて、危惧の念を持っており、たとえ第一審が特許権の侵害を認めず、請求棄却の判決をしたとしても、該判決は、上級審で覆されるおされがないとはいえなかった。
したがって、右侵害差止訴訟において被告らの特許権に抵触しないことが確定されるまでは、
原告による損害賠償請求訴訟の提起は不可能であったといわざるをえない。
(五) そうすると、被告らに対する原告製品(一)、(二)についての損害賠償請求権及び謝罪広告請求権の消滅時効は、本件塵埃回収法の特許権の侵害という虚偽事実の記載された文書の配布については、本件塵埃回収法の特許権に基づく訴訟が確定した日の翌日である昭和六〇年一月一二日から、本件一体駆動装置の特許権の侵害という虚偽事実の記載された文書の配布については、本件一体駆動装置の特許権に基づく訴訟が確定した日の翌日である昭和六〇年一二月三日からそれぞれ進行する。
(六) ところで、原告は、昭和六三年一月七日付け翌八日到達の内容証明郵便で、被告らに対し、本件塵埃回収法の特許権に関し不正競争防止法1条1項6号及び1条の2の規定に基づき損害賠償として五〇〇万円を支払うよう催告し、同年三月一八日本件訴訟を提起した。
(七) したがって、被告らに対する損害賠償請求権及び謝罪広告の消滅時効は、
本件塵埃回収法の特許権に関する虚偽の事実の流布の関係では昭和六三年一月八日に中断し、本件一体駆動装置の特許権に関する虚偽の事実の流布の主張の関係では昭和六三年三月一八日に中断しているものというべきである。
2 被告らの抗弁2は争う。
3 被告らの抗弁3は争う。
証拠関係(省略)
理 由
不正競争防止法に基づく請求及び民法七二三条に基づく請求について。
不正競争防止法(平成五年法律第四七号による改正前のもの。以下同じ。)1条1項6号に該当する行為をしたことを理由とする、同法1条の2第1項の規定に基づく損害賠償請求権及び同法1条の2第4項の規定に基づく信用回復措置としての謝罪広告請求権並びに民法723条に基づく謝罪広告請求権の成立の有無についての判断に先立って、消滅時効の抗弁について判断する。
一 民法724条前段が不法行為による損害賠償請求権の消滅時効について、特別の定めをした趣旨は、不法行為に基づく法律関係が、通常、未知の当事者間に、予期しない偶然の事故に基づいて発生するものであるという特質に照らし、被害者がその損害又は加害者を直ちに知ることができない場合もあることから、加害者に対する賠償請求が可能な程度に損害と加害者を知った時を消滅時効の起算点とすることによって被害者を保護すると共に、加害者は、損害賠償の請求を受けるかどうか、いかなる範囲まで賠償義務を負うかが不明である結果、極めて不安定な立場におかれるので、被害者において損害及び加害者を知りながら相当の期間内に権利行使に出ないときには損害賠償請求権が時効にかかるものとして加害者を保護することにあると解される。右のような、不法行為に基づく法律関係の特質は、金銭賠償による損害賠償の場合であろうと、民法723条に基づく名誉を回復するための謝罪広告請求の場合であろうと差異はないから、民法724条にいう「損害賠償」は、金銭賠償による損害賠償と謝罪広告による原状回復とを含む広義の損害賠償を意味するものと解するのが相当である。
したがって、民法724条前段の消滅時効の規定は、民法723条に基づく名誉を回復するための謝罪広告請求権についても適用されるものである。
また、不正競争防止法のうち、私法的請求権について定めた部分は、民法の不法行為についての一般規定に対する特別規定と解されるから、不正競争防止法に基づく損害賠償請求権、信用回復措置としての謝罪広告請求権の消滅時効については、
同法に特別の定めのないかぎり、一般法である民法724条前段の規定が適用されるものであるところ、本件は、不正競争防止法1条1項6号に該当する行為をしたことを理由とする、同法1条の2第1項の規定に基づく損害賠償請求及び同法1条の2第4項の規定に基づく信用回復措置としての謝罪広告請求であり、同法には右各請求権についての消滅時効の定めはないから、民法724条前段の規定が適用される。
二 次の事実は当事者間に争いがない。
1 原告は、食糧調整加工機械等の製造販売を業とする会社であり、原告製品(一)及び原告製品(二)を製造販売していた。
2 被告【A】は、本件塵埃回収法の特許権及び本件一体駆動装置の特許権を有し、被告会社は、本件両特許権について、請求の原因2(二)、(四)のとおりの専用実施権を有していた。
3 被告【A】及び被告研究所は、昭和五二年三月六日に、食糧調整加工機械の販売業者団体である全糧連に対し、原告製造に係る石抜選穀機が本件塵埃回収法の特許権に抵触しており、右石抜選穀機の販売の停止及び回収をしなければ、全糧連を含む販売業者やユーザーである米穀業者に対して直接的措置を講ずる旨を記載した内容証明郵便を送付した。(但し、右石抜選穀機に原告製品(一)及び(二)が含まれるか否かは、争いがある。)4 被告【A】は、
(一) 昭和五二年五月中旬頃、米穀店、精米業者、農業協同組合等多数の石抜選穀機等のユーザー等に対して、原告製造にかかる原告製品(一)、(二)は、本件両特許権を侵害するものであるとした上、原告製品(一)、(二)を使用する者にその撤去を求めるとともに購入先、購入日、原告製品(一)、(二)の使用によって得た利益を報告すべき旨の文書を配布した。
(二) 同年六月初旬頃、右ユーザー等に対して、自らの経歴を記載した文書と共に、原告製品(一)、(二)を使用している者を相手として然るべき措置を取らざるを得ない旨及び権利侵害品である原告製品(一)、(二)を悪意で使用する場合には五年以下の懲役刑等の刑事罰が課せられることもあり得る旨などを記載した文書を配布した。
(三) 右(二)と同じ頃、販売業者に対して、被告【A】が原告製品(一)、
(二)を設置する米穀店に内容証明郵便をもってその撤去要求や不当利得の請求の必要性を説明するとして、その事由を記述した文書を送付して配布した。
5 被告会社は、
(一) 昭和五二年五月下旬頃、販売業者等に対し、原告は原告製品(一)、
(二)が本件一体駆動装置の特許権に抵触していることを認め数百台を回収することになったので業界は未曾有の大混乱を呈しているなどと記載した文書を配布した。
(二) 同年七月下旬頃、販売業者等に対して、本件両特許権の専用実施権者として原告他一名を相手方として原告製品(一)、(二)の製造販売の禁止並びに謝罪広告を求める訴訟を大阪地方裁判所に提起した旨の文書を配布した。
6 被告研究所は、
(一) 昭和五二年三月六日、社団法人日本精米工業会に対し、原告の石抜選穀機等の製品が被告らの特許権を侵害する非合法製品となるので使用できず、したがって、右製品が回収されなければこれらを使用する米穀業者に対して権利行使を行うことを決心した旨、及びその準備の一環として、まず非合法製品を販売している全糧連に対しても内容証明郵便により即時販売停止と販売済みの非合法製品の回収方を請求した旨を記載した添付資料付きの書面を送付した。社団法人日本精米工業会は、精米加工技術の改善及び研究開発、精米工場経営についての技術指導や経営改善指導、精米の自主検査や表示検査等の事業を行う社団法人であって、多数の会員を擁し、精米機や石抜選穀機等の使用者に対して多大の影響力を有している団体である。(被告らは明らかに争わない。)(二) 同年六月に、石抜選穀機の販売業者に対して、「特許権行使における当方の真意」という文書を配布した。
7 被告会社は、原告に対し、本件一体駆動装置の特許権に基づき原告製品(一)、(二)の製造販売の差止等を求めて大阪地方裁判所に訴えを提起した(昭和五二年(ワ)第二七〇八号事件)。同訴訟においては、同特許権にかかる発明の特許請求の範囲中の「一体に形成」の意味の解釈及び原告製品(一)、(二)の構成が右発明の「一体に形成され」との要件を充足するか否かが主な争点となって、
原告、被告会社とも主張立証を尽くしたが、同裁判所は、昭和五七年一一月三〇日、原告製品(一)、(二)が「一体に形成する」との要件を充足せず、原告の行為が本件一体駆動装置の特許権を侵害するものではないとして被告会社の請求を棄却する判決をした。
被告会社は、これを不服として大阪高等裁判所に控訴したが(昭和五七年(ネ)第二三三九号事件)、昭和六〇年一二月二日、右控訴を取り下げたので、同日右判決が確定した。
8 被告会社は、原告に対し、本件塵埃回収法の特許権に基づき原告製品(一)、
(二)の製造差止め、損害賠償等を求めて大阪地方裁判所に訴えを提起した(昭和五三年(ワ)第六六一三号事件)。同訴訟においては、同特許権にかかる発明の特許請求の範囲中の「一部が開放している密閉状のケース」の解釈及び原告製品(一)の構成が右発明の「一部が開放している密閉状のケース」との要件を充足するか否かが主な争点となって、原告、被告会社とも主張立証を尽くしたが、同裁判所は、昭和五八年二月一六日、原告製品(一)、(二)が右の「一部が開放している密閉状のケース」の要件を充足せず、原告の行為が本件塵埃回収法の特許権を侵害するものではないとして被告会社の請求を棄却する判決をした。
被告会社は、これを不服として大阪高等裁判所に控訴したが(昭和五八年(ネ)第四〇八号事件)、同裁判所は、昭和五九年一二月二五日、右同様の理由により被告会社の控訴を棄却する判決をし、昭和六〇年一月一一日これが確定した。
9 原告は、特許庁に対し、本件一体駆動装置の特許を無効とする審判を請求し、
本件一体駆動装置の特許は無効となった。
三 原告は、前記のとおりの被告らの虚偽の事実を記載した文書の配布行為に対し、取引先であるユーザーや販売業者を被告らの提起する紛争に巻き込んで迷惑をかけることのないようにするために、昭和五二年五月頃から同年七月頃までの間に、原告製品(一)及び(二)合計二四一台を回収し、代替品として型式をGA―10Sとする石抜選穀機(商品名「ネオストーナー」)を無償で供給設置し、回収した原告製品(一)及び(二)を全て廃棄した他、信用失墜による売上高の減少や販売活動に際して余計な労力を要する等の損害を被ったとして、これによる損害の賠償及び信用回復措置、名誉回復措置を求めている。
四 成立について当事者間に争いのない甲第一号証の一、二、甲第二号証の一ないし九の各一、二、甲第二号証の一〇ないし一二、甲第二号証の一三ないし一六の各一、二、甲第二号証の一七、甲第三号証の一ないし四の各一、二、甲第三号証の五、甲第四号証の一ないし九の各一ないし三、甲第四号証の一〇及び一一の各一、
二、甲第五号証の一の一、二、甲第五号証の二ないし六の各一ないし三、甲第六号証の一及び二の各一、二、甲第六号証の三の二、甲第七号証及び甲第八号証の各一、二、甲第九号証の一及び二の各二ないし六、甲第九号証の三の一ないし五、甲第九号証の四の一ないし六、甲第一〇号証の一ないし五の各一、二、甲第一二号証、甲第一四号証、甲第一九号証の一、三、四及び六、甲第二〇号証の一、三ないし五、甲第二一号証の一ないし四、乙第四号証、乙第五号証、乙第四三号証、証人【B】の証言、被告【A】本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
1 被告らと原告及び原告代表者は、昭和四九年三月六日付で、両者間における特許権等をめぐる年来の係争を一括して解決するための協定書等を作成し、その中で、原告と被告【A】は、原告において本件塵埃回収法の特許権にかかる出願公告(特公昭四八―二六一四七)についてされた特許異議申立てを取り下げ、被告【A】において原告に対し本件塵埃回収法の特許権の通常実施権を許諾し、これに対して原告の所定の実施料を支払う等の内容の合意をし、また、原告と被告研究所は、被告研究所においてその有する特許第六九五四〇五号(発明の名称「精米機の自動停止装置」)の特許権の通常実施権を許諾し、これに対して原告が所定の実施料を支払う旨の合意をした。
原告は被告らを競争関係にある者と認識していた。
2 被告研究所と被告【A】は、原告が右1の合意で定めた特許第六九五四〇五号の特許権及び本件塵埃回収法の特許権の実施品の売上明細の報告義務、実施料支払義務を怠っているとして、昭和五一年一一月一八日付内容証明郵便で履行の催告をした上、同年一二月四日付内容証明郵便で、右合意を解除する旨通知し、右郵便は遅くとも同月六日に原告に到達した。
3 被告【A】及び被告研究所は、昭和五二年三月六日、全糧連に対し、前記二3のとおりの内容証明郵便を送付し、原告はその直後頃その事実を知った。
4 被告【A】は、昭和五二年四月二〇日、原告本社を訪れて、原告の専務取締役【C】及び取締役兼開発室長【D】との間で、原告製品(一)、(二)における本件塵埃回収法の特許権抵触の問題等について話し合い、特許権を侵害しているとの前提で、原告の責任を追及したが、【C】及び【D】は、非侵害を主張していたため、物別れに終わった。右話合いの際、被告【A】は、原告が被告【A】に提示した原告製品(二)を見て、これが本件一体駆動装置の特許権にも抵触するとして原告の責任を追及したが、【C】及び【D】は明答を避けた。
5 被告研究所と被告【A】は、同月二一日付の内容証明郵便で、原告に対し、原告製品(一)、(二)が本件塵埃回収法の特許権及び本件一体駆動装置の特許権に抵触しているとの前提で、非合法製品とする原告製品(一)、(二)の製造販売行為の廃止、販売済の右製品の回収と廃棄等を要求し、同要求に応じない場合、返答のない場合には、民事上及び刑事上の責任を追及する可能性がある旨通知した。
6 原告は、被告研究所及び被告【A】からの原告製品(一)及び(二)販売差止め等の要求に対し、昭和五二年四月二六日頃までに、特許専門の弁護士や弁理士の鑑定意見を聞いたが、見解が分かれ、原告製品(一)、(二)が本件塵埃回収法の特許権、本件一体駆動装置の特許権の抵触しないとの確信が得られなかったため、
被告らにより、ユーザーに対する原告製品(一)、(二)の使用差止め等の仮処分申請をされてこれが認容され、原告の信用が失墜することを恐れ、このような事態を回避するために、同月二六日、ユーザーのもとにある原告製品(一)及び(二)を自社の同種製品と交換することに決した。
7 原告は、同月二七日、被告ら三名に対し、原告製品(一)、(二)は本件塵埃回収法の特許権に抵触しないが、本件一体駆動装置の特許権に抵触することを認める、原告製品(一)、(二)の製造販売を停止し、既に販売した分を回収する、損害賠償金相当額として既販売分の販売総額二九八九万〇六〇〇円の三%を送付する、との趣旨の書面を送付し、その直後頃、既に販売した分についての損害賠償相当額として既販売分の販売総額二九八九万〇六〇〇円の三%に当たる八九万六七一八円を被告【A】に銀行送金し、同年五月二日被告【A】の銀行口座に入金させるとともに、昭和五二年五月初め頃から同年七月頃までの間に、原告製品(一)、
(二)合計二四一台を回収し、代わりに、小型石抜選穀機であるネオストーナーGA―10Sを提供した。
8 被告【A】及び被告会社は、昭和五二年五月二七日、大阪地方裁判所に、前記二7の訴えを提起したところ、原告はこれに応訴し、同年七月六日以降に開かれた口頭弁論期日に、右二7のとおり争った。
9 原告は、被告らが前記二の4ないし6のとおりの文書を配布又は送付した事実を、それぞれ、その直後頃知った。
10 被告【A】及び被告会社は、昭和五三年一〇月三〇日、大阪地方裁判所に、
前記二8の訴えを提起したところ、原告はこれに応訴し、同年一二月一二日以降に開かれた口頭弁論期日に、右二8のとおり争った。
五 右認定の事実によれば、原告は、競争関係にある被告らの前記二3ないし6のとおりの文書の配布又は送付を、それぞれその直後頃知ったものの、昭和五二年四月二六日頃の時点では、専門の弁護士や弁理士の鑑定意見を聞いても、原告製品(一)、(二)が本件塵埃回収法の特許権、本件一体駆動装置の特許権に抵触しないとの確信が得られず、右四7のとおり損害金相当額を被告【A】に送金したり、
原告製品(一)、(二)を回収するなどしたが、同年五月二七日に提起された前記二7の訴訟では、同年七月六日以降に開かれた口頭弁論期日において、原告製品(一)、(二)は本件一体駆動装置の特許権にかかる発明の要件を充足しない旨争い、また、昭和五三年一〇月三〇日に提起された前記二8の訴訟では、同年一二月一二日以降に開かれた口頭弁論期日において、原告製品(一)、(二)は、本件塵埃回収法の特許権にかかる発明の要件を充足しない旨争ったのであるから、遅くとも昭和五二年八月頃には原告製品(一)、(二)が本件一体駆動装置の特許権を侵害するものではなく、前記二3ないし6の文書中の原告製品(一)、(二)が本件一体駆動装置の特許権を侵害する旨の記載が虚偽であることを知り、また遅くとも昭和五四年一月頃には原告製品(一)、(二)が本件塵埃回収法の特許権を侵害するものではなく、前記二3ないし6の文書中の原告製品(一)、(二)が本件塵埃回収法の特許権を侵害する旨の記載が虚偽であることを知ったものと認められる。
また、製造業者の製品が他人の特許権を侵害するものでないのに、他人の特許権を侵害する旨表現することは、その製造業者の営業上の信用を害し、営業上の利益を害するものと認識できることは明らかである。
したがって、原告は、前記二3ないし6の文書中の、原告製品(一)、(二)が本件一体駆動装置の特許権を侵害する旨の記載については遅くとも昭和五二年八月頃に、原告製品(一)、(二)が本件埃回収法の特許権を侵害する旨の記載については遅くとも昭和五四年一月頃にその損害及び加害者を知ったものと認められる。
右昭和五二年八月頃及び昭和五四年一月頃から民法724条前段所定の三年の期間が経過し、被告らが同条前段所定の消滅時効を援用したことは本件記録上明らかであるところ、原告が時効の中断事由として主張するのは、昭和六三年一月八日の催告及び同年三月一八日の本件訴訟の提起であるから、主張自体失当である。
六 原告は、右消滅時効の起算点は、前記二3ないし6の文書の内容の虚偽性、すなわち原告製品(一)、(二)が本件両特許権に抵触しないことが、公権的に確定した前記二7及び8の訴訟の確定した時である旨主張する。
なるほど、特許権侵害の有無が訴訟で争われるような事件においては、特許権侵害の成否の判断は微妙な場合が少なくなく、特許関係訴訟の処理の経験の深い弁護士、弁理士の間でも見解が分かれ、明確な鑑定が得られない場合があるものと推認することができ、そのような場合には、特許権侵害の成否を確定的に認識するには、判決の確定をまたなければならないことになる。しかし、民法724条前段の「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」とは、加害者によってなされた加害行為の違法性を確定的に知ったときであることを要するものではなく、被害者にその意思があれば加害者に対し損害賠償等の請求をできる程度に加害行為が違法である蓋然性を認識したときを指すものと解するのが相当である。これを本件についてみると、右五のとおり、原告は、当初、原告製品(一)、(二)が本件塵埃回収法の特許権、本件一体駆動装置の特許権に抵触しないとの確信が得られず、右四7のとおり損害金相当額を被告【A】に送金したり、原告製品(一)、(二)を回収するなどしたが、その後前記二7及び8の訴訟では、原告製品(一)、(二)は、本件両特許権を侵害しない旨争ったのであるから、遅くともそれらの訴訟で本件両特許権の侵害を争った時には、前記二3ないし6の文書中の原告製品(一)、(二)が本件両特許権を侵害する旨の記載が虚偽であるとして損害賠償等の請求ができる程度に被告等の行為が違法である蓋然性を認識していたものと認めるのが相当であり、被告らの主張は採用できない。
七 よって、不正競争防止法1条1項6号に該当する行為をしたことを理由とする損害賠償請求及び信用回復措置としての謝罪広告請求並びに民法723条に基づく謝罪広告請求に対する消滅時効の抗弁は理由がある。
不当利得返還請求について
一 被告【A】が、昭和五二年四月二〇日原告に対し原告製品(一)、(二)は本件一体駆動装置の特許権に抵触する旨の指摘をしたこと、被告【A】及び被告研究所が原告に対し昭和五二年四月二一日付け内容証明郵便を送付したこと、原告が被告【A】に八九万六七一八円を送金して支払ったことは、当事者間に争いがなく、
被告【A】及び被告研究所が、右昭和五二年四月二一日付け内容証明郵便をもって、原告に対し、原告製品(一)、(二)が本件塵埃回収法の特許権及び本件一体駆動装置の特許権に抵触しているとの前提で、非合法製品とする原告製品(一)、
(二)の製造販売行為の廃止、販売済の右製品の回収と廃棄等を要求し、同要求に応じない場合、返答のない場合には、民事上及び刑事上の責任を追及する可能性がある旨通知したこと、これに対して、原告は、原告製品(一)、(二)が本件塵埃回収法の特許権、本件一体駆動装置の特許権に抵触しないとの確信が得られなかったため、被告らにより、ユーザーに対する原告製品(一)、(二)の使用差止め等の仮処分申請をされてこれが認容され、原告の信用が失墜することを恐れ、このような事態を回避するために、同年四月二七日、被告ら三名に対し、原告製品(一)、(二)は本件塵埃回収法の特許権に抵触しないが、本件一体駆動装置の特許権に抵触することを認める、原告製品(一)、(二)の製造販売を停止し、既に販売した分を回収する、損害賠償金相当額として既販売分の販売総額二九八九万〇六〇〇円の三%を送付する、との趣旨の書面を送付し、その直後頃、既に販売した分についての損害賠償金相当額として既販売分の販売総額二九八九万〇六〇〇円の三%に当たる八九万六七一八円を被告【A】に銀行送金し、同年五月二日、被告【A】の銀行口座に入金させたことは、前記第一、四5ないし7認定のとおりである。
二 本件一体駆動装置の特許の無効が確定したことは、当事者間に争いがなく、成立について当事者間に争いのない甲第二九号証及び甲第三〇号証によれば、原告が特許庁に対して、本件一体駆動装置の特許を無効とする審判を請求し(昭和五二年審判第六七四三号)、特許庁は、昭和五六年七月二一日、本件一体駆動装置の特許を無効とするとの審決をし、被告【A】は、これを不服として右審決の取消を求める訴えを東京高等裁判所に提起したが(昭和五六年(行ケ)第二一八号)、同裁判所は、昭和六〇年八月一五日、被告【A】の請求を棄却する判決をし、同年九月五日、右判決が確定したことにより本件一体駆動装置の特許は無効となったことが認められる。
これにより、原告の原告製品(一)、(二)の製造販売行為は、本件一体駆動装置の特許権の侵害に当たる余地のないことが昭和六〇年九月五日に公権的に確定した。
右事実によれば、原告が、被告【A】に対し、原告製品(一)、(二)の製造販売により本件一体駆動装置の特許権を侵害したことについての損害賠償金相当額として送金して支払った八九万六七一八円は、法律上の原因のないものであることが、昭和六〇年九月五日に確定したかのようである。
しかしながら、原告の原告製品(一)、(二)の製造販売行為が、本件一体駆動装置の特許権の侵害に当たらないことは、第一、二7のとおり判決で確定しているから、原告が損害賠償金として被告【A】に送金して支払った右八九万六七一八円は、被告【A】の銀行口座に入金した昭和五二年五月二日当時から法律上の原因のないものであった。
三 被告【A】の消滅時効の抗弁について検討する。
右に判断したとおり、原告から被告【A】に対する八九万六七一八円の支払は、
本件一体駆動装置の特許権を無効とする審決が確定した昭和六〇年九月五日に法律上の原因がないことが確定したものではなく、被告【A】の銀行口座に右金額が入金した昭和五二年五月二日当時から法律上の原因のないものであった。
したがって、右八九万六七一八円の不当利得返還請求権は、右入金の日から発生し、行使することができたものであるから、その消滅時効の起算日は昭和五二年五月三日である。同日から一〇年の経過により右不当利得返還請求権は時効消滅したものであり、被告【A】が右消滅時効を援用したことは、本件記録上明らかである。
原告が右金員を被告【A】に送金した当時、損害賠償金相当額として右金員を同被告に支払う義務があるものと信じており、したがって、不当利得として返還請求権を有することを知らなかったとしても、権利を行使するについての事実上の障害にすぎず、被告【A】の銀行口座に右金額が入金した日が消滅時効の起算点としての「権利ヲ行使スルコトヲ得ル時」に当たるものである。
よって、被告【A】の消滅時効の抗弁は理由がある。
四 原告は、請求の原因9(一)のとおり、前記八九万六七一八円は、原告の取引先への被告らによる信用毀損文書の配布や、被告らによる本件一体駆動装置の特許権に基づく仮処分等の法的手続がとられないことを条件(解除条件)として支払われたものである旨主張する。
右主張は、信用毀損文書の配布や、仮処分等の法的手続がされることを解除条件とするとの趣旨と解されるが、前記八九万六七一八円の支払が、右主張のような解除条件にかかるものであることを認めるに足りる証拠はない。そのうえ、被告らは昭和五二年五月から六月にかけて、原告主張のような文書を配布したことは前記第一、二4ないし6のとおりであり、また、被告【A】及び被告会社が、同年五月二七日、本件一体駆動装置の特許権に基づく訴訟を提起したことは前記第一、二7、
四8のとおりであるから、仮に原告主張のような条件を認めるとしても、遅くとも昭和五二年六月末日には条件が成就して、不当利得返還請求権を行使できたものと認められる。よって、右時点から一〇年の経過により右不当利得返還請求権は時効により消滅したものであり、被告【A】は右消滅時効を援用した。したがって、原告の請求の原因9の主張も認められない。
以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することと
し、訴訟費用の負担について民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 西田美昭
裁判官 宍戸充
裁判官 櫻林正己
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