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関連ワード 周知性 /  広く認識 /  商標登録 /  登録商標 /  営業規模 /  類似性(類似) /  混同のおそれ(混同) /  表示の使用 /  差止請求(差止) /  営業上の利益 /  代表者 /  混同のおそれ(混同) /  品質等誤認表示(誤認) / 
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事件 昭和 63年 (ワ) 479号
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裁判所 静岡地方裁判所
判決言渡日 1990/08/30
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、その静岡営業所ならびに浜松営業所における営業上の施設又は活動に「ジェットスリムクリニック」の表示を使用してはならない。
二 被告は、右各営業所の看板・広告物その他の営業表示物件から「ジェットスリムクリニック」の表示を抹消せよ。
三 被告の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、本訴反訴を通じて、全部被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告主文同旨二 被告1 原告の請求を棄却する。
2 原告は、左記の原告営業所における営業上の施設又は活動に「ジェットスリムクリニック」の表示を使用してはならない。
記ジェットスリム静岡クリニックジェットスリム浜松クリニックジェットスリム沼津クリニックジェットスリム藤枝クリニックジェットスリム富士クリニックジェットスリム掛川クリニック3 原告は、右各営業所の看板・広告物その他の営業表示物件から「ジェットスリムクリニック」の表示を抹消せよ。
4 訴訟費用は、本訴反訴とも、原告の負担とする。
当事者の主張
一 本訴請求の原因1 原告は、昭和五三年八月一八日、健康トレーニング施設及び全身美容サロンの経営等を目的として設立された資本金五〇〇万円の株式会社である。
そして、原告は、昭和五八年七月一二日、静岡市<以下略>(六〇年七月に追手町<以下略>に移転)において、「ジェットスリム静岡クリニック」の名称で営業所を開設し、痩身美容業を開始した。右美容業は、女性を対象として痩身美容機「ジェットスリマー」を使用して、温度四〇度、毎分五〇〇〇リットルの熱風をホースにより脂肪蓄積部分に噴射し、脂肪を分解燃焼させる等により痩身美容の施術を行うというものである。
そして、原告は、左記のとおり、順次静岡県内の各市に営業所を開設した。
記開設年月日(昭和) 名称五八・一〇・二五 ジェットスリム浜松クリニック五八・一一・四 ジェットスリム沼津クリニック五九・九・五 ジェットスリム藤枝クリニック五九・九・一七 ジェットスリム富士クリニック六二・七・一三 ジェットスリム掛川クリニック2 また、原告は、昭和五九年九月一九日、系列関連会社として、訴外ジェットスリムクリニック株式会社(目的は美容に関する一切の業務、資本金三〇〇万円)を設立し、その後同社は、アートビューティクリニック株式会社(以下「アートビューティ」という。)と商号変更して現在に至っている。
原告は、静岡県外においても、「アートビューティ○○クリニック」の名称でジェットスリムクリニックと同一内容の痩身美容業を行っており、原告及びアートビューティによる年間合計売上高は、昭和六一年約一〇億八三〇〇万円、昭和六二年約一二億四二〇〇万円、昭和六三年(六月末現在)約八億六四〇〇万円である。
3 「ジェットスリム○○クリニック」の名称は、「ジェットスリマー」と名付けられた美容器を利用して施術を行うことに由来し、原告は、これに営業所名を付加して使用しているものである。
4(一) 原告は、静岡県内で、静岡新聞・中日ショッパー等への広告掲載、テレビ静岡・静岡けんみんテレビ・静岡放送・静岡第一テレビの各スポットCM、新聞チラシ折込み等で広告・宣伝を積極的に行った。その宣伝広告費の支出状況は、左記のとおりである。
記昭和五八年 七月〜五九年 七月 三九六三万〇七〇〇円五九年 八月〜六〇年 九月 七〇三七万八七〇〇円六〇年一〇月〜六一年一一月 七九一九万九〇〇〇円六一年一二月〜六三年 一月 九二五九万五〇〇〇円六三年 二月〜同 年 九月 五六三一万円合計 三億三八一一万三四〇〇円(二) 右広告・宣伝及び営業努力により、原告の経営するジェットスリムクリニック各店においては各開設以来昭和六三年九月末現在に至るまで、左記の実績をあげている。
記売上金額 顧客数(実数)静岡 二億七三〇四万一〇八〇円 二四九一名浜松 一億八三四九万三二八〇円 一五〇〇名沼津 二億六八一八万〇七一五円 一五七三名藤枝 二億三八二九万二二〇〇円 九一三名富士 一億七一九五万二七七〇円 一〇一九名掛川 九二一八万四二八〇円 一八二名右合計 一二億二七一四万四三二五円 七六七八名(三) 「ジェットスリム」は、原告の登録商標にもなっており、登録内容は次のとおりである。
記登録番号 第一九五九一四七号出願 昭和五九年一〇月一五日登録 昭和六二年六月一六日指定商品 治療用機械器具登録商標 ジェットスリム(四) 以上から、「ジェットスリムクリニック」なる名称は、静岡県内においておそくとも昭和六二年九月以前には、原告の営業表示として広く認識されていた。
5 被告は、昭和五八年六月ころ、名古屋市千種区において、「ジェットスリム千種クリニック」の名称で、痩身美容を業とする営業所を開設した。原告及び被告は、ほぼ同時期に同一営業を同一名称で行うことになったため、営業開始にあたり、静岡県内では原告が「ジェットスリム」の名称を使用し、その他地域においては被告が右名称を使用するとの合意がなされた。
被告は、「ジェットスリムクリニック」の名称により約五〇店舗の直営又は加盟店を展開しているが、本件の紛争が発生するまでは静岡県内には、営業所・加盟店を出店していなかった。
6(一) ところが、被告は、昭和六二年九月二一日、浜松市<以下略>において、「ジェットスリム浜松駅南クリニック」の名称で、ついで昭和六三年六月二四日、静岡市<以下略>において、「ジェットスリム静岡駅前クリニック」の名称で各々痩身美容業を開始した。
(二) 被告の浜松・静岡各営業所の右各名称は、原告の本県内における営業表示「ジェットスリム○○クリニック」と、地名該当部分が相違するのみで、主要構成部分である「ジェットスリムクリニック」は全く同一であり、営業表示として同一もしくは類似するものであることが明白である。
(三) 被告は、右「ジェットスリム浜松駅南クリニック」及び「ジェットスリム静岡駅前クリニック」の各表示を各営業所の標章として用い、店頭に看板を掲げ、
新聞折込みチラシに右標章を印刷し、これを配布するなどして使用し、現に顧客等の第三者をして、静岡県内において広く認識された原告の営業上の施設又は活動と混同誤認せしめて原告の営業上の利益を害している。
7 よって、原告は、被告に対し、不正競争防止法1条1項2号の規定による差止請求権に基づき、被告の静岡・浜松各営業所における営業上の施設又は活動に「ジェットスリムクリニック」の表示を使用してはならないことを求めるとともに、被告の右各営業所の看板・広告物その他の営業表示物件から「ジェットスリムクリニック」の表示を抹消することを求める。
二 本訴請求の原因に対する認否1 本訴請求の原因1の事実は認める。
2 同2の事実は不知。
3 同3の事実は否認する。
4 同4の事実は不知。
5 同5の事実のうち、原告及び被告がほぼ同時期に同一営業を同一名称で行うことになったため、営業開始にあたり静岡県内では原告が「ジェットスリム」の名称を使用しその他地域においては被告が右名称を使用するとの合意がなされたことは否認し、その余は認める。
6(一) 同6の(一)の事実のうち、ジェットスリム浜松駅南クリニックが昭和六二年九月に被告の加盟店として開店したこと、ジェットスリム静岡駅前クリニックが昭和六三年六月に被告の加盟店として開店し同年一二月一日に被告がジェットスリム静岡駅前クリニックの営業を譲受け、以後直営店として経営していることは認めるが、その余は否認する。
(二) 同(二)の事実は否認する。
(三) 同(三)の事実のうち、被告が「ジェットスリム浜松駅南クリニック」及び「ジェットスリム静岡駅前クリニック」の表示を使用していることは認め、その余は否認する。
7 同7の主張は争う。
三 抗弁1(一) 被告は、昭和四五年一〇月二九日、資本金五〇〇万円、美容材料の卸売・美容業等を目的として設立し、昭和五三年一一月二二日には、資本金を二〇〇〇万円に増資した株式会社である。
被告は、昭和五八年初めころから、モンロープロポーションレディスの名で美容教室を開設し、美容痩身業を開始した。
(二) 被告は、その後、スーピロデインという機械を改良して温度約四五度、毎分五〇〇〇リットルの熱風をホースから噴出させる機械を開発し、これを「ジェットスリマー」と名付けた。また、被告は、このジェットスリマーとコンセランという空気圧を利用して伸縮できるようになっている衣服を併用して美容痩身を行うシステムを考案し、このシステムを「ジェットスリムシステム」と名付けた。被告は、昭和五八年五月三一日に、「ジェットスリマー」につき、一一類(指定商品・電気機械器具等)についての商標登録を出願し、昭和六〇年九月二七日には右登録を受けた。また、被告は、昭和五八年一〇月七日に、「ジェットスリムクリニック」につき、二六類(指定商品・雑誌新聞)についての商標登録を出願し、昭和六〇年八月一三日に登録を受けている。
(三) 被告は、昭和五八年五月二〇日に大阪市北区で「ジェットスリム梅田クリニック」の名で、同年六月二九日に「ジェットスリム千種クリニック」の名で、それぞれ美容痩身の店舗を開店し、その後はフランチャイズシステムにより加盟店を募集することを計画した。
(四) そして、被告は、原告との間で、昭和五八年七月初めころ、原告が被告の加盟店になる旨の加盟店契約を締結し、同時に原告が静岡市において「ジェットスリム静岡クリニック」という営業表示を用いて美容痩身業を行うことを許諾した。
その後も被告は、原告が浜松・沼津・福岡・藤枝・富士と店舗を出す際に、原告との間で静岡の場合と同様の加盟店契約を結んだ。
(五) 昭和五九年一二月に、被告と各加盟店との間には、各加盟店が一店舗につき一か月一〇万円のロイヤリティを払う旨の合意がなされたが、原告は、右ロイヤリティを払うことを拒絶した。また、原告が被告との加盟店契約により取得した美容痩身業のノウハウを無断転用して、アートビューティの名でフランチャイズシステムをとっていることが被告に判明したため、被告と原告は話合いの上、昭和六〇年三月二五日に、左記条件のもとに加盟店契約を合意解約した。
記(1) 原告は、各クリニック店につき加盟店から脱退する。
(2) 原告は、「ジェットスリム○○クリニック」という営業表示の使用を停止する。
(六) したがって、原告には「ジェットスリムクリニック」の営業表示を使用する権利がない。
2(一) 被告は、関東、東海、中部、北陸、近畿、中国、四国、九州の各地方に、直営店三一店、加盟店四一店を持っている。
(二) 被告は、フランチャイズ制採用後、当初チラシによる宣伝の他、新聞・雑誌による宣伝、電車の車内広告などを行っていた。被告は、昭和五九年八月からは、関西地区において読売テレビで広告を開始し、昭和六〇年二月には女優の【A】を、昭和六一年八月には女優の【B】を起用したコマーシャルをそれぞれ作成し、昭和六〇年三月から関西地区で関西テレビ、中部地区において東海テレビ、
同年九月から関東地区においてテレビ東京、昭和六一年八月から関西地区において朝日テレビ、読売テレビ、毎日テレビ、中部地区において愛知テレビ、名古屋テレビ、関東地区においてテレビ朝日で右コマーシャルを放映した。また、昭和六〇年三月からは前記タレントの登場する広告をヤングレディ、クロワッサン、週刊女性、ノンノン、プレゼントマガジン等の週刊誌に掲載した。
被告のジェットスリムシステムによる直営店、加盟店のための共同宣伝費は、昭和五八年が二三九五万二二四〇円、五九年が一億二八六二万二〇一一円、六〇年が四億三一〇〇万六二七五円、六一年が六億二一〇五万二一八二円、六二年が六億三七四四万二五円、六三年が六億八九六万九八九四円、合計二四億五一〇四万二六二七円である。
(三) 被告の直営店における決算期(毎年九月末日)毎の売上高は、昭和五八年度が五億六五三〇万三八五一円、五九年度が一〇億五九七六万八一一五円、六〇年度が一四億六一〇三万七七六三円、六一年度が一九億九二七九万六六三一円、六二年度が二七億一六一一万八〇二九円である。
(四) このように、被告の「ジェットスリムクリニック」の名称は、宣伝・広告を通じて全国に知れ渡っており、被告の営業も全国に渡って大規模なものである。
被告の「ジェットスリムクリニック」の名称は、全国に周知なものとして原告の同名称の周知性を凌駕するものであり、これによって原告の「ジェットスリムクリニック」の名称の周知性は著しく減殺されるというべきである。
四 抗弁に対する認否1(一) 抗弁1の(一)の事実は不知。
(二) 同(二)の事実のうち、被告がスーピロデインという機械を改良し美容痩身システムを考案したこと、被告が右機械をジェットスリマーと名付けたことは否認し、美容痩身システムの内容については認め、その余は不知。
(三) 同(三)の事実のうち、「ジェットスリム梅田クリニック」及び「ジェットスリム千種クリニック」の各店舗の開店は認め、その余は不知。
(四) 同(四)の事実は否認する。
(五) 同(五)の事実は否認する。
2 抗弁2の(一)ないし(三)の事実は不知。同(四)の事実は否認し、その主張は争う。
五 反訴請求の原因1 前記のとおり、原告は、被告との前記加盟店契約を合意により解約する際、被告に対し、原告が「ジェットスリム○○クリニック」という営業表示の使用を停止する旨約した。
2 よって、被告は、原告と被告間の右特約に基づき、原告の営業上の施設又は活動に「ジェットスリムクリニック」の表示を使用することの差止めを求めるとともに、原告の営業所の看板・広告物その他の営業表示物件から「ジェットスリムクリニック」の表示を抹消することを求める。
六 反訴請求の原因に対する認否1 反訴請求原因1の事実は否認する。
2 同2の主張は争う。
証拠関係(省略)
理 由一 本訴請求に対する判断1 原告が昭和五三年八月一八日健康トレーニング施設及び全身美容サロンの経営等を目的として設立された資本金五〇〇万円の株式会社であること、原告が昭和五八年七月一二日静岡市<以下略>(六〇年七月に追手町<以下略>に移転)において「ジェットスリム静岡クリニック」の名称で営業所を開設し痩身美容業を開始したこと、右美容業は女性を対象として痩身美容器「ジェットスリマー」を使用して温度四〇度、毎分五〇〇〇リットルの熱風をホースにより脂肪蓄積部分に噴射し脂肪を分解燃焼させる等により痩身美容の施術を行うものであること、原告が昭和五八年一〇月二五日、同年一一月四日、五九年九月五日、五九年九月一七日、六二年七月一三日に、それぞれ静岡県内の浜松市、沼津市、藤枝市、富士市、掛川市に、
順次「ジェットスリム浜松クリニック」、「ジェットスリム沼津クリニック」、
「ジェットスリム藤枝クリニック」、「ジェットスリム富士クリニック」、「ジェットスリム掛川クリニック」を開設したことについては当事者間に争いはない。
2(一) 成立に争いのない甲第五号証の一ないし三、乙第一及び第二号証、原告代表者本人尋問の結果によって成立の認められる甲第四号証の一ないし一四、同第六号証の一及び二、同第一三ないし一六号証、被告代表者本人尋問の結果によって成立の認められる乙第二〇号証、同第二一号証の一ないし三、同第二二、第二三、
第二六ないし第二八号証並びに原告代表者本人尋問及び被告代表者本人尋問の各結果によれば、以下の事実が認められる。
(1) 原告は、「ジェットスリム」の商標の登録(指定商品・治療用機械器具)を、昭和五九年一〇月一五日に出願し、昭和六二年六月一六日に登録の許可がなされた(登録番号・第一九五九一四七号)。
(2) 原告は、静岡県内で、静岡新聞、中日ショッパー等への広告掲載、テレビ静岡・静岡けんみんテレビ・静岡放送・静岡第一テレビの各スポットCM、新聞チラシ折込み等で広告・宣伝等を積極的に行い、その宣伝・広告費は、昭和五八年七月の営業開始以来六三年九月までで約三億三八〇〇万円にのぼっている。
(3) また、「ジェットスリム静岡クリニック」開設以来の原告の静岡、浜松、
沼津、藤枝、富士、掛川各クリニックの昭和六三年九月末までの売上合計は約一二億二七〇〇万円に及んでおり、その顧客数は実数で七六七八名にのぼっている。
(4) 一方、被告は、昭和五八年五月二〇日に大阪市北区で「ジェットスリム梅田クリニック」を開設し、その後直営店の開設、加盟店契約等を行い、平成二年三月現在では直営店を四〇店舗、加盟店を五五店舗有している。
(5) 被告は、昭和五八年五月三一日に、「ジェットスリマー」につき、一一類(指定商品・電気機械器具等)についての商標登録を出願し、昭和六〇年九月二七日には右登録をうけ、昭和五八年一〇月七日に、「ジェットスリムクリニック」につき、二六類(指定商品・雑誌新聞)についての商標登録を出願し、昭和六〇年八月一三日に登録を受けている。
(6) 被告は、ジェットスリムクリニックにつき、当初チラシによる宣伝の他、
新聞・雑誌による宣伝、電車の車内広告等を行っていた。その後、昭和五九年八月から関西地区でテレビコマーシャルをするようになり、その後は【A】、【B】などのタレントを起用して、関西地区だけでなく昭和六〇年三月からは中部地区、同年九月から関東地区においてもテレビで宣伝するようになった。その他、昭和六〇年三月からは女性を対象とするヤングレディ、クロワッサン、週刊女性、ノンノン、プレゼントマガジン等の週刊誌にも広告を掲載し、被告のジェットスリムクリニックの直営店・加盟店のための共同宣伝費は昭和五八年から六三年に至るまで合計約二四億五一〇〇万円にのぼっている。
(7) また、被告のジェットスリムクリニック直営店の売上は、昭和五八年一〇月から昭和六三年九月に至るまで、合計約七七億円に及んでいる。
(二) 以上認定の事実からすれば、原告は、静岡県内で営業活動や宣伝活動を積極的に行い、また、実際相当数の顧客に対し痩身美容を行ってきたというべきであるから、「ジェットスリムクリニック」の名称は、昭和六二年九月以前において、
痩身美容を行う原告の営業表示として、静岡県内の美容痩身に関心をよせる女性の間で相当程度に周知となっていたものと推認できる。
これに対し、被告の方も全国に渡り営業活動と宣伝活動を積極的に行い、被告の直営店・加盟店が北海道を除いて全国に展開されていること、被告の宣伝に費やす費用、営業規模等が原告のそれに比べてかなり大きいことなどから、全国的には被告の「ジェットスリムクリニック」の方が原告のそれより著名であると推認されるが、本件では、被告の静岡県内における「ジェットスリムクリニック」の名称使用が問題となっており、その周知性は、静岡県内の、美容痩身に関心のある女性を基準として判断すべきものであるから、この観点からすると、静岡県内においては、
「ジェットスリムクリニック」という名称は、痩身美容を行う原告の営業を指すものと一般に受けとめられていると推認される以上、被告の「ジェットスリムクリニック」の全国的な知名度にかかわらず、静岡県内においては、原告の営業表示として周知性は認め、保護されるべきものである。
したがって、原告の「ジェットスリムクリニック」の名称の周知性は認められ、
被告の抗弁2には理由がない。
3 被告の加盟店が昭和六二年九月に浜松市<以下略>に「ジェットスリム浜松駅南クリニック」の名称で開店したこと、ついで被告の加盟店が昭和六三年六月に静岡市<以下略>に「ジェットスリム静岡駅前クリニック」の名称で痩身美容店を開店し、その後の同年一二月に被告がその営業を譲受け、以後直営店として経営していること、被告が右「ジェットスリム浜松駅南クリニック」及び「ジェットスリム静岡駅前クリニック」の各表示を各営業所の標章として用い、店頭に看板を掲げ、
新聞チラシに右標目を印刷してこれを配布するなどして使用していることについては当事者間に争いがない。
4 そして、被告が営業の表示として使用する「ジェットスリム浜松駅南クリニック」、「ジェットスリム静岡駅前クリニック」の各名称が、原告が静岡県内において営業の表示として使用している「ジェットスリム○○クリニック」と、地名該当部分が相違するのみで、主要構成部分である「ジェットスリムクリニック」は同一であるから、原告の右営業表示と被告の右営業表示は類似ないし同一であると解するのが相当であるところ、原告代表者本人尋問の結果及びこれによって成立の認められる甲第九号証によれば、被告が原告の浜松・静岡各営業所の直近で原告と全く同種の痩身美容業を営んでいるため、原告の顧客が原告の新しい支店が開店されたものと軽信して営業内容を問い合わせしたり、原告と誤認して被告の店舗に申込みをするなどのことがあって、原告の営業上の施設又は活動と被告のそれとが現に混同誤認せしめていることが認められるほか、原告と被告の営業場所の近接と営業内容が同一であること等に照らすと、右混同誤認の存在とこれによる原告の営業上の利益を害される虞れがあるものと認めるのが相当である。
5 被告は、昭和五八年七月初めころ、原告との間で加盟店契約を締結したうえ、
原告が「ジェットスリム静岡クリニック」という営業表示を用いて美容痩身業を行うことを許諾したが、昭和六〇年三月二五日加盟店契約を合意解約した際原告が右営業表示の使用を停止する旨約したと主張し、被告代表者は、その本人尋問において、原告と被告間において加盟店契約が、昭和五八年六月ころに成立した旨供述しているが、右供述部分は、証人山中清一の証言及び原告代表者本人尋問の結果に照らして、たやすく信用することができず、他に被告主張の右事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって、その余の点について判断するまでもなく、被告の抗弁1も採用することができない。
6 以上認定判断したところによれば、不正競争防止法1条1項2号により、被告に対し、「ジェットクリニック」の表示の使用差止と抹消を求める原告の本訴請求は理由がある。
二 反訴請求に対する判断1 原告と被告との間において被告主張のような加盟店契約が締結されたと認めることができないことは、本訴に対する判断において認定判断したとおりである。
2 よって、被告の反訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
三 結論 以上の次第であるから、原告の本訴請求は正当として認容するが、被告の反訴請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。