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事件 平成 3年 (ネ) 1071号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 1993/11/30
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
全容
一 申立て 控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
二 請求の原因(被控訴人=原告) 以下において、被控訴人を「原告」と表記し、控訴人を「被告」と表記する。
1 原告は、昭和四九年一〇月一四日に有限会社として設立。昭和五二年七月二一日、株式会社への組織変更登記を経た。自動車用品の製造、販売を主な営業目的とする。
2 原告は、自動車用車輪として、エイトスポーク、八本スポークといわれるアルミホイールを製造、販売している。その販売網は、北海道から沖縄まで日本全国に及んでいる。原告製造、販売のアルミホイールは、「RSワタナベ」、「アールエスワタナベ」と呼称されていて、原判決別紙原告商品目録(本判決にも添付)記載のとおりである。その形態(色彩を含む)は、次の(1)〜(4)の点で、原告の商品であることを示す特徴があり、他の業者の商品と識別されている。商品名として、「RSワタナベF8F 14―6」と、「RSワタナベB 14―6」の二種類あるが、空気穴の位置が少し相違するだけで、本質的には同一形態となっている。
以下において、別紙原告商品目録記載の商品を「本件原告商品」と表記する。
(1) 素材がアルミニウム。
従来のホイールは鋳鉄製だったが、アルミニウムは、より軽く強度があるので、
自動車燃料の節約になるという利点がある。
(2) 一体成型。
一般にアルミホイールはいくつかの部分に分けて製造し、これを接合して製品化される。原告の商品は、最初から鋳型にアルミニウムを流し込んで一体に成型して製造されるので、更に軽量で強度も増し、外観もすっきりしている。
(3) カマボコ型のスポークタイプで、スポークが八本。
アルミホイールには、スポークタイプ、メッシュタイプ、ホールタイプ等がある。原告の商品は、スポークタイプである。そのスポークは細いワイヤではなく、
カマボコ型といわれる太いもので、スポークの外形がほぼ均一。内側は空洞となっていて、内側に向かって少し扇形に開いた形となっている。スポークは八本。
(4) 色彩が暗色系の黒。
一般に暗色は派手さがなく、目立たないから落ち着いた感じを与えるが、さらに、汚れが目立たないという特徴を有する。自動車の車輪には、ブレーキ等の作動により細かい金属片等が付着し、汚れとなって表れるが、この汚れを目立たなくさせる。
3 本件原告商品の原形は、その優れたデザインと機能性により、人気商品となった。
本件原告商品は、原告設立前の昭和四七年、原告代表者【A】が個人営業として卸し販売を始めた。原告は設立以来この形態のホイールを製造、販売し、昭和五〇年ごろから日本全国で取引され、売上げが上昇し、原告が株式会社に組織変更となった昭和五二年ごろには、この形態の商品は原告の商品を示すものとして、自動車用品取引業界及び自動車愛好家の間で周知となった。この形態の商品を長期間継続的に販売する業者は原告以外になく、原告だけが、この形態の商品を、エイトスポーク、八本スポークとして強力に広告、宣伝してきた。
最近の原告の売上げは年間一〇億円を超え、この形態の商品が原告の商品を示すことは、現時点でも周知である。
4 被告は、昭和六二年末ごろから、別紙被告商品目録(原判決別紙被告商品目録二)記載のアルミホイールを卸し販売している。
以下において、別紙被告商品目録(原判決別紙被告商品目録二)記載の商品を「本件被告商品」と表記する。
5 本件被告商品は、その形態上、(1) 素材がアルミニウムであること、
(2) 一体成型であること、(3) カマボコ型のスポークタイプで、スポークの内側が空洞となっていて、内側に向かって少し扇形に開いていて、スポークが八本あること、(4) 色彩が暗色系の黒であること、において本件原告商品と同一で、コピー商品である。
6 被告が本件被告商品を卸し販売し始めたため、自動車用品取引業者及び自動車愛好家に、本件被告商品が原告の製造、販売する商品であると誤認混同させている。このため、原告は、アルミホイールの製造、販売につき、営業上の利益を害されるおそれがある。
7 よって、原告は、不正競争防止法1条1項1号により、本件被告商品の販売の差止めを求め、併せて、被告の本支店、営業所、倉庫に存するものの廃棄を求める。
三 被告の主張1 認否 請求の原因1〜3は不知。同4のうち、被告が本件被告商品を卸し販売している事実は認め、その余は否認。同5、6の事実は否認。
2 本件原告商品の形態出所表示機能、周知性(否定) 原判決認定によると、原告(その設立前は【A】個人)は、昭和四六年に本件原告商品の形態による商品の製造販売を開始し、昭和五七年までに周知性を得たというのであるが、その間は、次に示すとおり、八種類もの八本スポークのホイールが入り乱れた期間であり、本件原告商品が商品の出所を示す独自の「出所指示力」を持ち得るような状況にはなかった。
(1) 本件原告商品製造開始まで@ 英国ミニライト社のホイール「ミニライト」のデザインは、本件原告商品と同一であり(丙第二一号証の二、第二三号証の二、第二七号証の四、第二九号証の三、第三〇号証の三)、【A】は、このデザインを参考にして本件原告商品の形態による商品を製造、販売した。したがって、本件原告商品のデザインの商品は、
【A】が日本で最初に製造、販売したものではない。
A (株)神戸製鋼所の製造、販売に係る「ニッサンレーシングチームのマグネシウムホイール」が存在した。それは、右「ミニライト」とほぼ同じデザインで、ブラックに似ているガンメタリック色であった。【A】は昭和四三年ないし四七年の間に、それと同一デザインで色彩をゴールドに変えたものを発売し始め、その後、
右の色彩をゴールドから黒に変え発売したものが本件原告商品である(丙第七号証、第九号証の二、第一〇号証の二)。
したがって、本件原告商品は結局「模倣模倣」であり、独創性がない。
B (株)ヤマコの「シルバースター」の存在(甲第七号証の二、丙第八号証の二)。
(2) 昭和四六年から五七年まで右@〜Bのほかに、
C 原告商品、
D (株)神戸製鋼所の「マグロード」(丙第七号証、第二六号証の二、
第二七号証の二ないし四、第三二号証の二、第三五号証の三、第三七号証の二、第三九号証の二、第四一号証の二)、
E (株)ユーピーの「FORMULA‐ONE」(丙第七号証、第三〇号証の二、第三四号証の二、第三五号証の二、第三六号証の二、第四〇号証の二、第四二号証の二)、
F 遠州軽合金(株)の「ENKEI コンペ」(丙第二二号証の二、第二四号証の二、第二七号証の三、第三八号証の二、第四〇号証の三、第四二号証の二)、
G 米国製「タイナスター」(丙第一五号証の二)が相次いで登場した。いわば「第一次戦国時代」である。
(3) 昭和五七年以降 このように、海外で周知著名の「ミニライト」が輸入されて以来、約数十年にわたって、以上のAないしGなど、数多くの同一品又は類似品が日本市場に入り乱れた結果、八本スポークにも陰りが見え始め、各社の販売も急激に減少し(丙第七号証)、原告は倒産にまで追い込まれた。しかし、昭和六一年ごろになって、再び八本スポークの流行が現れ、「第二次戦国時代」が出現した。しかし、この第二次流行は、原告の貢献によって形成されたのではなく、被告を含む数社が一斉に製造、
販売した結果のものである。
以上のとおり、八本スポークのデザインは、【A】が創作したものではなく(【A】自身、意匠登録出願ができなかった)、八本スポークのホイールは、自動車ホイール業界の共有財産であるところ(丙第七号証)、本件原告商品は、前記@ないしBなどの模倣商品なのであるから、単に「出所指示力」がないにとどまらず、原告は、そもそも裁判所に対し法的救済を求め得る立場にもない。
3 他の類似品の存在(一) 商品表示性を認めるに当たっては、形態が特異、新規なものであることは要しないが、競合する同種の商品が存在する場合には、独自に開発されたものか、
他社製品と識別し得る程度の特異性を要する。しかるに、本件原告商品はそうではない。
不正競争防止法1条1項1号における「商品形態」については、「侵害判断における類似性」と、「周知商品表示性の発生を妨げるために必要な類似性」との間で、判断基準に違いがある。前者は、外観が同一又は極めて酷似している場合にのみ類似性を肯定すれば足りるが、後者は、他の工業所有権特に意匠権との調整を考慮する必要がある。そうでないと、その保護法益が、表示としての使用が記述的であるか否かを問わず、当該形態の製造一般にまで及んでしまうという、高度の競争制限効果が与えられるところまで保護法益が確立される。そのために、唯一的存在であることが必要で、ほかに類似商品が存在することによって、表示性の確立は妨げられる。
本件においては、原告の周知性が確立したとされる時期に、前記六種類のほか、
さらに、@ゴーグコーポレーションの「メイストームポロ」、AAMEコーポレーションの「AME Be―1ホイール」、Bパスタスポーツの「パスタニューホイール」、C共豊コーポレーションの「グラッツェ・エイト」、D(株)オートメカニカの「フラッグ」、Eトピー実業(株)の「ストラスストーム」、F(株)ユーピーの「パナスポーツ G7―2R」、G同社の「パナスポーツ C8R」、H同社の「パナスポーツ C8S」、Iイフコーポレーションの「スーパーブレイズ」、J同社の「ブレイズ」、K(株)オートメカニカの「アタック」、L(株)ブリジストンの「フォルテイル」、Mモアプロフェショナル プロジェクトの「モア エイト スポーク」、Nニッサンモータースポーツ インターナショナルの「NISMO NEW‐8」、O(株)ミルボーンの「TRS ラリー」、P東洋ゴム工業(株)の「トラッツアR8」など(甲第一三一号証の一ないし一二、第一三二号証の各別紙写真)、少なくとも一七種類の類似品が市場に存在していた。したがって、本件原告商品について、原告主張の形態上の特徴について周知商品表示性が成立する余地はない。
(二) 仮に、本件原告商品の形態が表示性を取得したことがあったとしても、その後倒産などにより、表示性を主張し得ない少量販売となったりしたので、表示性保持の継続性を欠くに至り、かつまた、被告の盛業並びに他の類似商品の存在により、少なくとも現在においては、表示性を喪失している。すなわち、原告は、昭和五六年半ばから資金繰りが悪化し、昭和五七年には事実上の倒産をし、宣伝どころではない状態が約五年間続き、その間無印(メーカー不明)の八本スポークが散発的に市場に流れ、昭和六一年ごろのレトロ感覚の流行を迎えた(丙第七号証)のである。
他方、本件原告商品の周知商品表示性の発生を妨げる類似品の形態は、同一、酷似の必要はなく、特徴部分の他存在を示すのみで十分である。多数の類似商品が発売されては短期で市場から姿を消すような場合においても、その周知商品表示性は十分妨げられる(オレンジ戸車事件の大阪地判昭和四一年六月二九日・判例時報四七七号三二頁参照)。
4 本件形態と模倣、クリーンハンドの原則 本件原告商品の形態は、「ミニライト」の模倣である。そもそも、このように、
他人の形態を模倣して製造販売した者が、第三者に対して差止請求をするのは、アン・クリーンハンドで許されない(仙台高判平成四年二月一二日・判例タイムズ七九三号二三九頁参照)。「ミニライト」の形態は、原告ほか多くの者がこれを模倣した結果、「慣用表示」となっていたものであり、この慣用の形態がはやらなくなった後、リバイバルの波に乗って原告がたとえこの慣用の形態に重点をおいて再び製造販売し始めても、もはや、このような慣用形態(慣用表示)の使用差止請求をすることはできない。
また、原告は、本件原告商品が財団法人日本車両検査協会の検査に合格していないのに、この合格品にだけ付することが許される「JWLマーク」を、本件原告商品の包装箱に付した。この行為は、不正競争防止法1条1項5号、不当景品類及び不当表示防止法4条1号に違反するおそれが濃厚である。クリーンハンドの原則に照らし、このような場合、原告が不正競争防止法に基づく差止請求をすることは許されない(前掲仙台高判参照)。
5 本件被告商品と本件原告商品との非類似点(一) ディスク板の接合の有無 本件被告製品では、アルミホイールが自動車の走行に耐える強度を得るために、
その裏面にアルミ製のディスク板を接合させている。これは、ホイールの内側のドーナツ状の部分(スポークの付け根部)のことである。被告の原審主張での表現にも問題があったが、「ディスク板」という独立の部品があるわけでなく、いわば「ディスク面」のことである。本件被告商品は、ディスク面が塗装されておらず、
きれいに研磨されたアルミの地金が、黒に塗装されたほかのホイール部と美しいコントラストをなしているのに対し、本件原告商品の内側は、ディスク面を含むすべてが塗装されていて、本件被告商品のようなコントラストの美しさがないので、裏面ではあるが、外観上の相異が明らかである。
(二) スポークの湾曲の有無 本件被告製品では、アルミホイールが自動車の走行に耐える強度を得るために、
スポークの湾曲を極端にせずに、直線的にした。
本件原告商品には、その湾曲度のきついもの(別紙原告商品目録の(1))と、
ほぼ直線的なもの(同(2))とがある。本件被告商品は、前者ほど湾曲していないし、後者よりは湾曲している。原判決は、本件原告商品の二種類の違いを指摘しながら、これを「形態上の特徴に関係しない」としたが、それは、原告代表者自身が甲第一三二号証の陳述書でいうところと矛盾する。原判決の論法だと、同証添付写真の各併存商品の存在は、正に、「本件原告商品の周知商品表示性」不成立の根拠となる。
(三) ハンプの有無 ハンプとは、タイヤの空気が減少したとき、タイヤが内側に落ち込んで外れることがないようにする隆起であり、その有無は、商品選択上極めて重要な特徴である。別紙ハンプ図面に示すように、本件被告商品には明瞭な二本のハンプが存するが、本件原告商品には一本しかなく、それも不明瞭である。
(四) 車軸貫通孔(ホイール中央の穴)の径 本件被告商品のものは、六〇ミリなのに対し、本件原告商品の「RSワタナベF8F」のは六三ミリ、「RSワタナベB」のは七〇ミリである。そのため、被告のキャップは本件原告商品に装着できないし、原告のキャップは本件被告商品に装着できない(ホイールとキャップを相互に共通に使用できない)。これまた、商品選択上重要な特徴である。
このように、相違点があり、先行商品ミニライトの存在した本件においては、到底両者の形態が同一又は酷似するものとはいえない。アルミのホイールを購入する者は、一八〜二五才くらいのマニアであって、商品知識が豊富である。各種の違いには敏感なので、本件原告商品と本件被告商品とを混同して購入することはあり得ない。原告は、本件被告商品が、広告記事などに「ワタナベタイプ」などとして掲載されたことを問題とするが、それは、一時期本件原告商品の広告が多かったころ、販売業者が、他意なく便宜上用いていたにすぎず、被告自らがこれを使ってしたことは一度もない。
6 本件原告商品と本件被告商品との誤認混同(否定)(一) 販売方法の違い 本件原告商品には「ワタナベ」と、本件被告商品には「ブラックレーシング」とそれぞれ明示した大きな値札(「ポップ」)が、各商品の直下に載置されている。
よって、購入者が両商品を混同することはない。
(二) キャップ 小売り店の店頭では、ほとんどの場合、キャップを装着してホイールを販売している。このキャップには各社のマークが記されている。被告のマークは、大きい「Black Racing」の文字と小さい「Spirit of Circuit」の文字にマトリックス(地)が黒であり、原告のは、三つの鶴のマークと小さい「RACING」の文字にマトリックスが赤で、キャップの違いは明らかである。購入者が両商品を混同することはない。
(三) 包装箱の違い 被告の包装箱は、茶色の段ボールで、文字は黒一色。「Black Racing」の文言が箱の横四周に印刷されている。原告のは、白色の段ボールで、文字は赤色と黒色が混在し、「レーシングサービス ワタナベ」との文言が横二面に印刷されている。
(四) 刻印の違い 本件被告商品に打ち込まれている刻印は、BRを楕円形で囲んだもの。本件原告商品のは、三つの円形マーク(元々は鶴のマークのようだが、小さくかつ鋳物のため、単に円形に見える)と横一文字(元々は「Racing」の文字と思われるが、小さくかつ鋳物のため、単に横一文字としかみえない)を真円で囲んでいる。
両者は全く異なっている。両者の刻印は、ホイール正面の目立つ箇所に存在するから、購入者が両商品を混同する可能性はない。
四 原告の反論1 被告は、本件原告商品販売の前後を問わず、類似の商品が存在したことをもって、本件原告商品に周知性がないとし、商品の形態が周知表示たり得るためには、
独自に開発され、あるいは、他社製品と識別し得る格段の特異性を有するものに限定すべきように主張する。この主張は、実定法の解釈として、商品形態表示と、ほかの商品表示との間で、商品表示性周知性の存否について差異を設けること自体に誤りがあるが、そもそも、被告挙示の先行商品をもって、本件原告商品の類似商品であるとする主張自体も誤りである。すなわち、不正競争防止法1条1項1号にいう「類似」とは、周知商品表示を、誤認混同による不利益から保護するという法の目的からすれば、商品主体の誤認混同を生ずる程度に類似でなければならず、誤認混同を生ずべき主体は、当該商品の取扱業者、需要者である。
そして、アルミホイールにおける類似か否かは、そのどの部分について比較検討すべきかが問題となる。すなわち、アルミホイールの場合、どの製品でも、@ 外周部は必ず真円形となる、A 中心部は、車軸を通すための穴が必ず開けられ、サイズは一定している、B その穴の周辺にボルト用の小さな穴が開けられる、ことまでは、技術上、必ず同一形態となる。右部分には個性がないから、業者は、外周部(タイヤ装着部)と中心部をつなぐ、中間部分に独自のデザインを凝らし、これをセールスポイントとする。本件において、それはスポークであり、スポークの形状や配置を中心にして、全体的観察により、類否を判断しなければならない。
以上の観点によると、被告挙示の他の八本スポークは、いずれも本件原告商品とは別形態の八本スポークであって、現に取引界においても、別種系統のものと認識されている(甲第七号証の二、三)。その相違点の詳細は、別紙他商品との相違一覧のとおりであるが、更に敷衍すれば、(1)「ミニライト」は、【A】がデザインの参考にはしたけれども、真似たものではない。当時、アルミホイールを一般車に取り付けること自体珍しいことで、【A】は、「ミニライト」のデザインを更に改良して、独自の商品を完成させたもので、全く別種のものであり、その別種であることは、ホイール関係者には、一見して明らかである(甲第七号証の二、三、丁第七号証)。(2)「ニッサンマグネシウムホイール」は、その用途がレーシング車専用であり、一般車には装着できない。サイズも異なり、本件原告商品と市場で競合することは全くない。(3) また、右両商品とも、遅くとも昭和五〇年代前半までに製造販売が中止されている。要するに、本件原告商品の形態は、被告を始めとする他社の商品が本件原告商品の形態を真似て出回るまではほかに存在せず、
原告のみが、この形態の商品を一貫して製造販売してきたものである。
2 仮に、被告挙示の「ミニライト」等が、不正競争防止法1条1項1号の「類似」形態となるとすれば、次のように主張する。
被告の主張によれば、同一又は類似の形態を持つほかの商品が市場に出回った場合、その商品形態が商品出所表示機能や周知性を獲得することはあり得ないこととなるが、かような考え方は、法解釈として誤りであるばかりか、現実の取引界の実情をも無視している。すなわち、不正競争防止法にいう「広ク認識セラルル」とは、現実の取引界における認識の状態をいうものであるから、ほかに同様の商品が存在したか否かが重要なのではなく、当該商品表示自体が、取引界で、どう認識されているかが重要なのである。同一又は類似の形態を持つほかの商品が市場に出回っていることは、その商品形態が商品出所表示機能や周知性を獲得することの困難性ではあり得ても、その否定要素にはつながらない。
ところで、前記のとおり、被告挙示の「ミニライト」等はそれぞれ本件原告商品とは別形態の商品として認識されているが、仮にそうでないとしても、これら商品は、次のとおり、その販売時期が、ある一定期間で、現在は販売されていないか、
現在は極めて少量で、広告宣伝もほとんどされていないものなどであって、本件原告商品のように、昭和四〇年代後半から今日まで、一貫して製造し、全国規模で販売を継続し、広告宣伝も長期にわたり、継続的かつ強力になしてきたものは皆無である。
以上によれば、被告挙示の「ミニライト」等の存在は、本件原告商品の形態が、
商品出所表示機能及び周知性を獲得することの障害となるものではない。
@ ミニライト 昭和四五年ごろから五一年ごろまでの販売で、一般車向けでなく、ラリー用であって、需要者層も限られ、極めて少数の販売にとどまり、宣伝広告も、原告に比べ、単発的で、継続性がなく、はるかに劣っていた。
A シルバースター 昭和四五年ごろ、極く短期間販売されただけである。
B ニッサンマグネシウムホイール レース車専用であり、製造販売は昭和四五年ごろから五一年ごろまでで、広告宣伝も単発的であった。
C FORMULA‐ONE これは、当初は本件原告商品と全く同一形態で売り出されたことから争いとなり、形態を変えることで和解が成立したもので、形態が全く違うし、販売実績、広告宣伝において、本件原告商品がはるかに優勢であり、現在はほとんど売れていない。
D ENKEI コンペ 本件原告商品とスポークの形態が全く違っており、販売実績、広告宣伝においても、Cと同程度である。
E マグロード 前同様スポークの形態が全く違い、昭和五〇年代前半以降製造販売されておらず、販売実績、広告宣伝においても本件原告商品にはるかに劣る。
F タイナスター その製造販売の事実は知らない。
3 本件原告商品と本件被告商品の非類似点の反論 被告主張の、形態の違う理由は事実に反する。まず、本件被告商品のアルミ製のディスク板接合については、本件被告商品(検証物)に、そのようなディスク板は接合されていない。次に、強度を得るためスポークを直線的にしたとの主張も誤りである。本件被告商品は、本件原告商品と同様、湾曲している(強度は、直線より湾曲の方が増す)。さらに、ハンプと呼ばれる隆起は、本件原告商品にも付いており、本件被告商品に特有のものではない。本件被告商品は、明らかに本件原告商品のコピー商品にほかならない。
理 由一 本件原告商品についての前提事実証拠及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
証拠(省略)(一) 原告は、昭和四九年一〇月一四日に有限会社として設立され、昭和五二年七月二一日、株式会社への組織変更登記を経た会社であり、自動車用品の製造、販売を主な営業目的としている。その主力商品は、アルミ製で内側を空洞にしたカマボコ型の八本のスポークからできているエイトスポーク、八本スポークと称される一体成型のアルミホイールである。
(二) 原告が製造、販売している八本スポークのアルミホイールは、原告代表者の【A】が英国から輸入されたアルミホイール「ミニライト」を参考にして、個人営業によって、昭和四六年に日本で初めて製造、販売を開始した。原告は、これを昭和四九年以来、「RSワタナベ」、「RSオリジナルホイール」等の商品名で日本全国で販売してきた。これが本件原告商品ないし同じ形態を有する原告商品である。
(三) 八本スポークタイプのホイールは、「ミニライト」以外にも、「ヤマコオリジナル」、「ENKEI コンペ」、「ダイマグ」、「サイクロン」、「FORMULA‐ONE」、「マグロード」、「トマホーク」などが他社から発売されたことがある(ただし、本件原告商品との間には、例えば、別紙他商品との相違一覧にみられるような相違が存する)が、いずれも【A】の製造、販売開始より後の発売で、しかも周知性を獲得するに至らなかった。当初から現在まで一貫して継続的に製造、販売されてきたのは、原告の「RSワタナベ」、「RSオリジナルホイール」(本件原告商品)以外にはなかった。
【A】が前記アルミホイールを製造、販売し始める前には、ニッサンレーシングチームが八本スポークのアルミホイールを使用したことがあり、また、昭和四五年には、(株)ヤマコの「シルバースター」が八本スポークとして販売されていたが、これらの形態は、別紙他商品との相違一覧に指摘されているように、本件原告商品とは全体的な印象が異なっている。
(四)「RSワタナベ」、「RSオリジナルホイール」の商品の形態は、別紙原告商品目録記載のとおりであるが、その形態上の特徴は、(1) 素材がアルミニウム、(2) 一体成型、(3) 内側が空洞で、内側に向かって少し扇形に開いた形のカマボコ型のスポークタイプで、スポークが八本、(4) 色彩が暗色系の黒(つや消しの黒)、というところにある。本件原告商品には、同目録記載のように、商品名として、「RSワタナベF8F 14―6」と、「RSワタナベB 14―6」の二種類あるが、前者のスポークの撓みが顕著で、撓みがホイールの外側面よりもやや突出しているのに対し、後者は、ホイールの外側面との関係でみればスポーク撓みがないという相違はみられるものの、この相違は、右の(1)〜(4)の形態上の特徴に影響を与えるものではない。
(五) 色彩を除けば、原告の八本スポークタイプのホイールは昭和四九年当時からほぼ別紙原告商品目録記載のとおりであった(ただし、甲第一号証に示されるように、原告の八本スポークの商品には、スポークの先端がフレームのフランジ(外枠)近くまで届いていない形態のものもある)。色彩も含めて原告の商品が本件原告商品のような特徴を全部備えたのは昭和五七年ごろのことであり、カマボコ型のスポークをシンプルにあしらっているという、独特の統一的な形態上の印象を与えるものとなった。このころから昭和六二年ごろに至るまでの間、右の形態上の印象を備えたアルミホイールは、ほかから販売されていなかった。
(六) 原告は、昭和四九年から昭和五七年までほぼ継続的に、自動車用品雑誌「オートスポーツ」に、「RSワタナベ」、「RSオリジナルホイール」の広告を掲載してきた。近年には、自動車用品雑誌「ヤングオート」、「ホリデーオート」、「auto technic」などに、自動車用品販売業者の広告として原告の商品が絶えず掲載されており、また、近年は、右の各雑誌に加え、「OPTION」、「OPTION2」、「PicCARS」などの雑誌や隔日刊の「交通毎日新聞」に、製造者である原告自身の広告が頻繁に掲載されるようになっている。
さらに、自動車用品販売店の店頭においても、商品の説明として「RSワタナベ」、「RSオリジナルホイール」の表示がされてきている。
(七) 昭和六二年ごろから、原告の商品に酷似しているアルミホイールが他社から販売されるようになり、これらの商品の表示として、「RSワタナベタイプ」、
「RSワタナベ風」と、自動車用品雑誌の広告に表記されていたことがある。
(八)「RSワタナベ」との名称のホイールは、昭和六二年、ある問屋で売上げナンバーテン内に入ったこともあり、「PicCARS」という自動車趣味誌の平成元年一〇月号には、一番欲しいアルミホイールの二番目として、「ワタナベ」ブランドが挙げられた。
周知性1 右の事実によれば、本件原告商品の独特の形態上の特徴を有する商品は、日本国内では、【A】が最初に製造、販売を始め、これを引き継いだ原告だけが、一貫してこれを製造、販売を継続してきたものであり、昭和六二年には、前記の形態上の特徴を備えたアルミホイールが原告の商品であることは、日本国内の自動車用品取引業者及び自動車愛好家には周知となっていたものということができる。この形態は、不正競争防止法1条1項1号にいう「他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」に該当する。
丁第一二号証及び原審の相被告ユーピー(株)の代表者の供述中には、現在日本国内で年間約三六〇〇億円ものホイールが販売されているので、仮に原告の販売高が年間一〇億円としてもその三六〇分の一にすぎない、との部分がある。しかし、
本件はホイール全般の不正競争に関するものではなく、前記の特徴を有する形態の八本スポークのアルミホイールの出所表示機能及び周知性が問題となっているので、右の販売高の多寡の点をもって、本件原告商品が有する形態の周知性についての判断を左右することはできない。
なお、原告代表者尋問の結果によると、原告は昭和五七年ごろ、資金難から一時経営が行き詰まったことがあると認められるが、営業が中断されたことまでは認められず、同尋問の結果によれば、その後業績は回復し、現在に至るまで、本件原告商品を継続的に製造、販売していることが認められるのであるから、周知性に関する前記判断は左右されない。
2 被告は、商品の形態による商品表示性が成立し得るためには、競合する同種商品が存在しないことが要件であるかのように主張する。
しかし、商品の形態そのものに、商品表示性を認めても、それによって、不正競争防止法1条1項1号の禁止権を及ぼし得る対象は、その商品表示性が認められた商品の形態の特徴と同一又は類似の形態を持つものに限られ、被告が危惧するように、その同種商品の製造一般にまで及んでしまうことにはならないものと考えられる。確かに、被告の主張するように、当該商品が、いわゆるパイオニア商品ではなく、その形態においても、相当に似通った商品が既に出回っている場合、当該商品が、その形態における商品表示性を獲得し得ることは、相当に困難であり、裏からいえば、その認定には、十分に慎重でなければならないことはそのとおりであるけれども、そうかといって、競合同種商品のあるときには、商品表示性の成立そのものを排除すべきであるかのようにいう被告の主張は、これを一般論として受け入れることはできない。
そしてこの点では、商品の形態商品表示性を獲得するためには、同時に当該商品の周知性の生成との関連もこれを無視することはできないものと考えられる。当該商品が形態において顕著な特異性を有していれば、表示性の獲得は容易であるとともに、周知性の生成もまた容易であろうが、形態の特異性の程度が極めて顕著というまでに至らないものにおいても、広告宣伝その他の企業努力において当該商品の形態表示性と周知性とが相補的に同時に醸成されていく現実は無視できないものであり、不正競争防止法は正に、そうして醸成された商品形態表示性と周知性を保護法益としたものであって、新規で創作が容易でない形態を創造した者にその独占権を付与しようとする工業所有権(意匠権)とは、その保護法益を異にするものであるから、両者の領域が事実上重なり合うことは多いとは思われるが、これが当然に一致しなければならないとか、法の適用上前者を後者に合わせるように解釈すべき拘束を受けるべきものではない。
被告も、競合する同種商品が存在する場合にも、他社製品と識別し得る程度の特異性がある場合には、これに商品表示性を認めることに必ずしも異論はないようである。そして、被告が、本件原告商品に右特異性がないとするのは、アルミホイールにおいて、先行ミニライトが八本スポーク型の嚆矢であり、そして、八本スポーク型ということは、アルミホイールの形態における極めて大きな特徴であるから、
この八本スポークという枠の中で、各種商品が競い合っても、その形態上の特徴は、その優れた特異性を有する八本スポークであるという点に吸収されてしまい、
商品表示性としての識別特異性を獲得し得るだけの特徴とはなり得ないというのである。しかし、スポークタイプのアルミホイールの外観上の特徴は、スポークの本数もさることながら、スポークの型(その形状と配置)や色彩等の他の要素にも多く依存するものであるところ、前認定のとおり、本件原告商品のの外観上の特徴は、(1) 素材がアルミニウムで、(2) 一体成型で、(3) 内側を空洞にし内側に向かって少し扇形に開いた形のカマボコ型のスポークタイプで、(4) 色彩が暗色系の黒(つや消し)となっているのであり、カマボコ型のスポークをシンプルにあしらっているという独特の統一的な形態上の印象を与えるのである。被告挙示の昭和五七年ごろまでの八本スポーク型のものと比べてみても、本件原告商品の有するスポークの型は、別紙他商品との相違一覧に示すような相違があり、ほかの商品は、右特徴を示していないことは原告主張のとおりであり、そのほか被告の挙示する一七種類のものについても、同様と認められる。
このように、同じ八本スポークタイプにおいても、スポークの型や色彩に、様々なものが存し、各業者が、その外観上の特徴をカタログに示して宣伝しているということは、とりもなおさず、当業者並びに顧客が、その選択の幅を、単に八本スポークの点だけに求めるのではなく、更にその下位基準たるスポークの型(その形状と配置)、あるいはスポークの型とは別の、全体として受けるデザインのシンプル性、重厚性(場合によってはこの逆の意味のデザイン性)や色彩にも求めていることを物語るものにほかならない。したがって、本件原告商品の前記特徴も、確かに、八本スポークタイプという点では、ほかの商品と同列であるけれども、顧客が、八本スポークタイプの中からいずれかを選択しようとするときの重要な識別基準となり得るのであり、さらには、前認定のような原告の販売努力によって、右特徴において他を圧し、商品表示性並びに周知性を獲得したと認め得るのである。前記一で認定したように、昭和六二年ごろから、本件原告商品に酷似しているアルミホイールが他社から販売されるようになり、これらの商品の表示として、「RSワタナベタイプ」、「RSワタナベ風」と、自動車用品雑誌の広告に表記されたことがあり、このことはとりもなおさず、本件原告商品の独特の形態が、自動車用品取引業者及び自動車愛好家の間で周知性を獲得していたことを十分に裏付ける。
被告の主張は採用できない。
3 被告は、本件原告商品の周知商品表示性の発生を妨げる類似品の形態は、同一、酷似の必要はなく、特徴部分の他存在を示すのみで十分であると主張する。一般論としてこのようにいうことに疑問なしとすることはできないが、要するに、商品形態が周知のものであることの認定の間接事情を主張するものと理解することができる。しかし、本件原告商品には、さきにみたような独特の形態上の特徴が存し、この形態が周知となった時期までに、この特徴を有する商品は存在しなかったのであるから、被告の右主張も前提を欠く。丙第七号証によれば、昭和五七年以降いったん八本スポークスの流行が廃れた後、昭和六〇年ごろから、再度の流行が見られるに至ったことが認められ、したがって、本件原告商品が一貫して市場で受け入れられていなかった事情はあるかもしれないが、反面において、本件原告商品は、八本スポークの流行時には必ず製造、販売されていたのであり、また、現に製造、販売されているのであるから、右のような事情があったところで、その周知性を否定することはできない。
三 本件被告商品と誤認混同1 被告が本件被告商品の卸し販売をしていることは被告も認めるところであり、
原告代表者及び被告代表者の各供述によると、被告は昭和六二年八月ごろから本件被告商品を販売していることが認められる。
2 甲第一三二号証、検甲第一、第二号証、第四号証、原告代表者並びに弁論の全趣旨によると、本件被告商品は、いずれも、(1) 素材がアルミニウム、(2) 一体成型、(3) 内側が空洞で、内側に向かって少し扇形に開いた形のカマボコ型のスポークタイプで、スポークが八本、(4) 色彩が暗色系の黒(つや消しの黒)となっていて、その形態上の特徴において、本件原告商品のアルミホイールと同一であるばかりでなく、カマボコ型のスポークをシンプルにあしらっているという独特の統一的な形態上の印象も同一であって、両者は一見しただけでは、その相違を識別することが困難な酷似商品であることが認められる。
3 もっとも、丙第五六号証、検丙第五号証の一、二、第六号証の一〜四並びに弁論の全趣旨によると、本件被告商品は、強度保持のため裏側にディスク面を接合し、タイヤの破裂に備えてリムに顕著なハンプ(隆起)を設けている点で、本件原告商品と形態上の相違があること、車軸貫通孔(ホイール中央の穴)の径が、本件被告商品のものは、六〇ミリなのに対し、本件原告商品の「RSワタナベF8F」のは六三ミリ、「RSワタナベB」のは七〇ミリであるという相違が認められる。
しかし、これらの差異は、裏側ないし横側面におけるものであり、正面からの観察における、前記の共通する形態上の特徴に比べると微差にすぎない。これらの相違をもってしても、2で認めた酷似商品であるとの認定を左右するものではない。
被告は、本件原告商品には、その湾曲度のきついもの(別紙原告商品目録の(1))と、ほぼ直線的なもの(同(2))とがある。本件被告商品は、前者ほど湾曲していないし、後者よりは湾曲している、と主張する。しかし、被告の主張自体によっても、本件被告商品のスポークの湾曲は、二種類の本件原告商品の湾曲度の中間程度であるというのであるから、この相違は形態上の特徴に影響を与えるものでないことは明らかである。
4 したがって、本件被告商品は、その形態において、周知の本件原告商品と酷似のもので、自動車用品取引業者及び自動車愛好家に、その間の誤認混同を生じさせるものというべきである。
5 丙第一号証、検丙第一〜三号証の各一〜三、第七、第八号証の各一〜三、丁第一三、第一四号証の各一、二、原審相被告ユーピー(株)及び被告各代表者の供述によると、八本スポークのホイールは中央の部分(車軸の先端部分)にキャップを取り付ける仕組みになっていて、キャップには製造、販売会社のマークが記され、
また、自動車用品販売店におけるホイールの商品展示では、ホイールの商品名の表示がされることも多いことが認められる。しかしながら、ホイールとキャップとは別個のものであり、キャップによってホイールが識別されるものとは限らず、必ずホイールと同じ会社を示すキャップが取り付けられるとは限らない。また、すべての自動車用品販売店で商品名の表示がされるとは限らないし、その表示も明確かつ適切にされるとは限らない。したがって、キャップの存在や商品名の表示がされることのあることをもって、本件被告商品が本件原告商品と誤認され、混同されるのが避けられるものということはできない。
検丙第九〜第一一号証(枝番を含む)によれば、本件被告製品の包装箱は、茶色の段ボールで、文字は黒一色であること、本件原告商品は白色の段ボールで、文字は赤色と黒色が混在し、当然ながら印刷されている商品名も異なっていること、本件被告商品に打ち込まれている刻印は、BRを楕円形で囲んだものなのに対して、
本件原告商品のは、三つの円形マークと横一文字を真円で囲んでいるものであることが認められる。しかし、一般購入者が段ボール箱に詰めてアルミホイールを購入することが多いとは限らないから(販売店が自動車に取り付けて段ボール箱は廃棄される結果、購入者は段ボール箱を目にしないのが通例であろう)、取引業者にとっては識別可能といえるかもしれないが、段ボール箱の相違があることから、一般購入者及び使用者にとって、両商品の間の誤認混同が避けられるとは認め難い。
また、刻印の相違は、果たして製造者の識別なのかは一般消費者にとって必ずしも明らかでないといえるから(製造番号に類した標識のようにも見受けられるものである)、これも、誤認混同のあり得ることを左右するものではない。
四 不正競争防止法の請求権1 以上に判断したところによると、原告は、本件被告商品の販売によって、営業上の利益を害されるおそれがあるものと認められる。
2 被告は、本件原告商品の形態は、「ミニライト」の模倣で、原告の本訴差止請求はアン・クリーンハンドだと主張する。
なるほど、本件原告商品が「ミニライト」にヒントを得て開発されたことは想像に難くない。しかし、前説示のとおり本件原告商品は、ミニライトに触発されて創案されたにしても、スポークタイプホイールにおいて識別上重要な基準となるスポークの型と色彩及び全体の印象において同商品にない特徴を備えたことにより、その点において、独創的なものとなり、商品表示性周知性を獲得したと認められるのであるから、それに基づく本訴請求が、ミニライトの持つ特徴そのものに騎乗した不当なものということはできない。被告の主張は理由がない。
3 クリーンハンドの原則に関する被告の主張について判断する。
検丙第一一号証の二、五、六、丙第五七号証、第六〇〜第六二号証、第六五号証の一、二並びに弁論の全趣旨によれば、全国のアルミホイールの発売会社で組織された「ジャパン・ライトアロイ・ホイール・アソシエーション」が昭和五三年に制定した「自動車軽合金鋳物製ディスクホイールの技術基準」(略称・JWL基準)があり、社団法人日本車両検査協会の検査でこの技術基準を充足しているとされたホイールには、「JWLマーク」を付することが許されていること、本件原告商品は昭和五四年、五六年、平成三年の試験で右基準に適合しないとの結果を得たのに、原告は、本件原告商品の包装(段ボール箱)に「JWLマーク」をデザイン化して付したことが認められる。
しかし他方、丙第六四号証によれば、本件被告商品は右基準に適合していることが認められるので、本件原告商品及び本件被告商品が共通して有する形態に技術的欠陥があって右基準に適合することができないものではないことが明らかである。
現に、甲第三七九〜第三九四号証によれば、平成四年には、本件原告商品も右基準の適合試験に合格していることが認められる。そして、本訴請求は、商品形態が周知であり、これと誤認混同を生じさせる商品の販売の差止め等を求めるものであるところからすると、その品質表示に誤解を与えるものであったとしても、このことだけから、原告の請求が許されないとすることはできないというべきである。もちろん、クリーンハンドの原則あるいは権利の濫用法理によって、請求権の行使が許されないことのあり得ることは否定できないとしても、「JWLマーク」が私的な取決めに基づくものであって、その意味が一般にどの程度知れ渡っているかは疑問であり、また本件原告商品の表示が商品そのものに付されたのではなく、包装に付されたにとどまること、本件原告商品の周知性が、JWLマークによって獲得されたものと認めるべき証拠はなく、前記認定事実によれば、形態によって取得されたものといえること(あるいは、本件原告商品の標章によるものとみる余地もある)、他方、本件被告商品の形態は、本件原告商品の独特の形態に酷似していることなどを総合勘案すると、原告の本訴請求権の行使が許されないとすることはできない。
五 結論 そうすると、本件被告商品による本件原告商品との誤認混同を除去するには、
本件被告商品の販売を禁止するほか、違法行為を組成する本件被告商品を廃棄させる必要があり、不正競争防止法1条1項1号により、本訴請求は認容されるべきである。これを認容した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担につき、民訴法95条89条を適用して、主文のとおり判決する。
追加
別紙一覧1原告商品目録2原告商品図面(1)3原告商品図面(2)4原告商品写真(1)5原告商品写真(2)6被告商品目録7被告商品図面8被告商品写真9ハンプ図面(被告主張図面)(一)〜(三)10他商品との相違一覧(原告主張)原告商品目録軽合金製自動車専用車輪品名アルミホイール商品名(1)RSワタナベF8F14―6(2)RSワタナベB14―6色彩黒形状及び構造別紙原告商品図面(1),(2)及び原告商品写真(1),(2)のとおり<26783-001><26783-002><26783-003><26783-004><26783-005><26783-006><26783-007><26783-008>被告商品目録軽合金製自動車専用車輪品名アルミホイール商品名ブラックレーシング14―6色彩黒形状及び構造別紙被告商品図面及び被告商品写真のとおり<26783-009><26783-010><26783-011><26783-012><26783-013><26783-014><26783-015><26783-016><26783-017><26783-018><26783-019><26783-020><26783-021><26783-022>
裁判官 潮久郎
裁判官 山崎杲
裁判官 塩月秀平