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事件 昭和 59年 (ヨ) 270号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 鹿児島地方裁判所
判決言渡日 1986/10/14
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事仮処分
主文 一 本件仮処分申請をいずれも却下する。
二 訴訟費用は申請人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 申請人1 被申請人らは、その製造または販売にかかる食酢につき、「くろず」、「黒酢」、及び「くろ酢」、その他「くろず」、「黒酢」、及び「くろ酢」を付加して表示する商標を使用し、またはこれを使用した食酢を販売拡布もしくは輸出してはならない。
2 被申請人らの占有する「くろず」、「黒酢」、及び「くろ酢」、その他「くろず」、「黒酢」、及び「「くろ酢」を付加して表示する商標、及びこれらの商標を使用した看板、標識、容器、包装紙、印刷物の占有を解いて、申請人の委任する執行官にこれが保管を命ずる。
3 右執行官はその保管にかかる看板、標識、容器、包装紙、印刷物につき、被申請人らが前項の各商標を末消削除する旨申し出たときはこれを許し、当該物件に対する保管を解くことができる。
4 前二項の場合において執行官は、その保管にかかることを公示するため適当な方法をとらねばならない。
二 被申請人ら主文一項と同旨
当事者の主張
一 申請の理由1 申請人会社の概要 申請人会社は昭和五二年三月設立され、資本金四八〇〇万円、従業員数三〇名、
年商六億七一八〇万円(但し、これは直接製造のほぼ原価に該るもので、営業費、
広告宣伝費、一般管理費等を加算した末端価格は約三〇億円である。)、健康食品、自然食品及び薬品の製造並びに販売を主な業務とする会社で、製品は商品名を「くろず」、「さかもとの天然米酢」及び「薩摩黒酢」とする天然米酢(主力製品は「くろず」)である。
2 今日までの経過及び現状(一) 故【A】は文化五年(一八〇五年)姶良郡<以下略>で天然米酢の生産を始め、申請人会社の代表取締役【B】はその四代目として大正八年頃家業を引き継いだ。
(二) 右【B】の長男【C】は昭和二八年三月九州大学薬学部を卒業、直ちにエーザイ株式会社に勤務し、その後、昭和四一年八月二〇日さかもと薬品株式会社を設立(現在資本金三〇〇〇万円、従業員数五〇名、
以下「さかもと薬品」という。)し、鹿児島市<以下略>で医薬品の製造・販売等の業務を開始した。
同人は右さかもと薬品の開設と同時に家業の天然米酢が生理的に人体に極めて好影響を与えるものと考え、所謂健康食品としての店頭販売を開始した。
(三) 右天然米酢の店頭販売は徐々に成果をあげ、口コミで使用者が増加していき、使用者から極めて高い評価を受けたので、事業としての先行きに自信を得、学術的臨床効果を確認するため次のとおり分析並びに検証の依頼をした。
(イ) 昭和四八年一〇月、九州大学薬学部(【D】教授)に天然米酢の成分分析を依頼(ロ) 昭和五二年、近畿大学医学部東洋医学研究所(【E】教授)に患者に対する臨床データの依頼(ハ) 昭和五四年、愛媛大学医学部(【F】教授)に脂肪代謝の過酸化脂質の抑制効果、並びに降圧作用に関する動物実験の依頼(ニ) 昭和五五年、静岡薬科大学(【G】教授)に過酸化脂質の人体面における抑制効果に関する研究の依頼(ホ) 昭和五七年一二月、九州大学医学部第一内科(【H】講師)に内科的臨床データの依頼(ヘ) その他、一般開業医二〇余名、薬剤師一〇〇〇余名を介して、臨床データの収集(四)(1) 右の各研究機関に対する研究依頼と前後して、昭和四九年に医薬品問屋を通じて九州一円の薬局、薬店に「さかもとの天然米酢」という商品名で卸販売を開始した(月商一〇〇〇本程度)。
(2) 昭和五一年春、新商品「薩摩黒酢」を発売し、その商圏を関西まで伸ばした(月商二〇〇〇本)。
なお、姶良郡<以下略>一帯は前記のとおり歴史的に天然米酢の生産地であったが、その商品は本県内では通商「あまん」と呼ばれていた。福山酢の中で【A】家家伝の天然米酢に「くろず」、「薩摩黒酢」なる商品名を命名したのは申請人会社代表取締役【B】である。
ちなみに、右「くろず」については昭和五八年一〇月商標の登録出願中である。
(3) 昭和五一年暮、新商品「くろず」を全国規模で発売した(月商二〇〇〇本、右「薩摩黒酢」とあわせて月商四〇〇〇本)。
(4) 以上のとおり健康食品としての天然米酢の販路並びに販売量が拡大してゆき、今後の事業の見通しも立つたので、昭和五二年三月申請人会社を設立し、これに天然米酢の製造部門を当たらせることとし、さかもと薬品が卸販売部門を担当することとなつた。
なお、この時点で新商品「くろず」を主力商品として全国規模で販売することとし、「薩摩黒酢」(=黒箱)及び「さかもとの天然米酢」(=赤箱)は従来からこのブランドを服用していた者に限って販売することとした。
(5) 以上の経過を経て、健康食品としての健康酢の地位は徐々に高まっていき、昭和五四年には所謂健康酢ブームが到来し、後記3の広告宣伝、あるいは諸種の健康読本による健康酢の推奨、あるいは科学的裏付けの確立により生産量も飛躍的に増加してきた。
ちなみに、昭和五四年度以降の申請人会社の天然米酢の延びは次のとおりである(単位一本は一〇〇〇cc換算、各年度は四月から翌年三月まで)。
昭和五四年度 売上 八六五〇万円 二一万四四五〇本(このうち「くろず」の占有率は七六パーセントである。)昭和五五年度 売上 一億五八一〇万円 三三万二三九〇本(このうち「くろず」の占有率は八八・三パーセントである。)昭和五六年度 売上 二億二三六〇万円 四五万六七〇〇本(このうち「くろず」の占有率は八五・四パーセントである。)昭和五七年度 売上 四億〇六六〇万円 八〇万一七七〇本(このうち「くろず」の占有率は七五・九パーセントである。)昭和五八年度 売上 六億七一八〇万円 一三二万八五四〇本(このうち「くろず」の占有率は八二・三パーセントである。)昭和五九年度(見込) 売上 一〇億一八〇〇万円 二〇三万六〇〇〇本(このうち「くろず」の占有率は八五パーセントである。)なお、申請人会社の製造販売する商品「くろず」の販売は、次の二つの流通経路によつている。
@ 坂元醸造株式会社(製造元)(イ)→株式会社ベルグ(総販売元)(ロ)→会員である一般の販売店(ハ)A 坂元醸造株式会社(製造元)(イ)→一般の問屋(ニ)→(ハ)以外の一般の販売店(ホ)3 広報活動(周知性)について(一) 申請人会社の主力製品である「くろず」は、継続的且つ広範囲に亘る宣伝広報活動により、全国に遍く知れわたつている。
「くろず」の宣伝は商品供給契約により申請人会社の商品の販売元となつている株式会社ベルグ(以下「ベルグ」という。昭和四九年一〇月一七日設立旧商号日本保健薬品株式会社、資本金四八〇〇万円、年商七二億円、事実上の総卸問屋となるもので、申請人会社の売渡価格はベルグの広告宣伝費を考慮したうえで決定している。)が行うもの、各都道府県別に販売店が共同で行うもの(各都道府県において一店舗当り毎月四、五万円程度の宣伝広告費を拠出して、テレビ、新聞広告を行つている。)、各販売店舗が個別に独自の費用で行うもの(主としてちらし、看板)、及び申請人会社が行うもの(後記(二)のとおり)の四種類に分かれるが、
主たる広告はベルグが行つており、その宣伝対象区域は全国規模に亘るもので、広告方法は次のとおり新聞、テレビ、ラジオ、週刊誌、ちらし、看板、ポスターの多岐に亘つている。
(1) 新聞 読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、東京新聞、西日本新聞、その他全国各県の地方紙(2) 一般週刊誌 週刊読売、週刊サンケイ、週刊新潮、週刊現代、週刊文春、
主婦の友等(3) 健康雑誌 壮快、壮健ライフ、私の健康等(4) テレビ・ラジオ フジテレビ、テレビ朝日等を中心として、全国の各テレビ、ラジオ放送局を通して宣伝を常時、継続的に行つている。
(5) ちらし 八〇〇〇万枚(但し、昭和五六年一二月から二年間分のみ)その他、のぼり、旗、ポスター、看板(野立、構内等)(二) 以上の次第で、北は北海道から南は沖縄県まで、「くろず」の販路は全国に拡がつており、「くろず」のために投入した昭和五五年度から昭和五七年度までの間の広告宣伝費は、ベルグが約三億〇六六六万円、申請人会社が五七四三万円の多額に亘り、これ以外にも各都道府県別の販売店が約七億円(但し「くろず」以外の商品分を含む。)計約一〇億円(年間約三億円程度)をかけて共同広告しているもので、今日、健康酢、醸造酢と言えば「くろず」のことを指すほどで、「くろず」は所謂健康酢の代名詞に近い感すらある。
更に、最近の所謂健康酢ブームを反映して、酢に関する書物は十数種類発刊されている(例えば、筑波大学名誉教授【I】監修「医者がすすめる純粋玄米酢健康法」、【J】著「酢、効用と療法」)が、一部の書物においては健康酢の代表として「くろず」をあげ、その歴史や製造方法、成分等についてまで言及しているものもある(【K】著「あなたは一〇〇歳まで生きられる」)。
4 被申請人らの違法行為と被保全権利 被申請人らはいずれも【C】及び申請人会社が昭和四一年以降、営々と努力を重ね、膨大な金額をその研究費と広告宣伝に打ち込んできて、その結果、今日「くろず」が健康食品として極めて高い評価を受けたことに便乗して、自らの提供する商品と申請人会社の提供する商品「くろず」とを混同せしめることにより利を収めんとして左記のとおり申請人会社の「くろず」と同一の商品名、或いは外観を有する商品を販売しているもので、極めて不正にして悪質な行為というべきである。
したがつて、被申請人らの行為は不正競争防止法(以下「法」という。)1条1項1号に該当するものであるから、申請人は被申請人らに対し右混同行為差止め請求権(法1条1項)及び損害賠償請求権(法1条ノ二)を有するものである。
記(一) 被申請人キツスビー健全食株式会社(以下「被申請人キツスビー」という。)は昭和五九年始め頃から「くろ酢」なる商品名で醸造酢を製造販売している。
(二) (1) 被申請人熊本県醸造酢ソース協同組合(以下「被申請人組合」という)。は昭和五九年始め頃から「くろず」なる商品名で醸造酢を製造販売している。
(2) 被申請人株式会社森産業(以下「被申請人森産業」という。)は右と同じく昭和五九年始め頃から右被申請人組合の製造した「くろず」なる商品名の醸造酢を販売している。
(三) 被申請人福山酢醸造有限会社(以下「被申請人福山酢醸造」という。)は昭和五八年年末頃から「本黒酢」なる商品名で醸造酢を製造販売している。
(四) 被申請人株式会社さつま酢本舗(以下「被申請人さつま酢本舗」という。)は昭和五九年八月頃から「玄米黒酢」なる商品名で醸造酢を製造販売している。
5 仮処分の必要性 申請人会社の製造する「くろず」が、2(四)(5)に述べたとおり飛躍的に高度成長を遂げ、今日あるのは不断の努力と試行錯誤の繰り返しによるもので、一朝一夕にして功なつたものではない。
しかるに、被申請人らは申請人会社の今日の成果にのみ着目し、単に今日需要の増加した健康酢の製造販売による利益にとどまらず、更に申請人会社の「くろず」と誤認せしめることにより大なる利を収めんとするもので、経済人に等しく要請されるフエアプレイの企業倫理を著しく欠くものである。
更にまた、醸造酢自体も古来の静置発酵法に基づく天然米酢ではなく、所謂速成醸造法に基づくものが多く、これを購入した顧客から「全く効果がなかつた」とか「下痢をした」とか「胃酸過多がひどくなつた」とかいうような非難の電話等が相次いでいる。
したがつて、申請人会社が前記2(三)に述べたとおりの再三に亘る諸研究機関を通しての学術的臨床効果の確認と検証、開業医、薬剤師等を介しての膨大な具体的臨床データの収集に基づき、営々として築いてきた信用は、被申請人らの単に利を得れば是とする営業により日々損なわれていくもので、なかんずく、それが「くろず」の薬理作用の否定的評価につながるときは、「くろず」を主力製品とする申請人会社において回復し難い損害を受けることは明らかである。
本事案については、本案訴訟の確定に至るまでの間、極めて長き時間を要することは自明のことであり、かつ被申請人らは昭和五四年来の健康酢ブームにより相当の利を得ることができるにもかかわらず、更に申請人会社の「くろず」と誤認せしめて、これに便乗して不法にして且つ大なる利を収めんとするものである。
他方、申請人が被申請人らに要求していることは、所謂健康酢の製造販売を禁じているものではなく、被申請人らの製造販売する製品に申請人会社の製造する「くろず」と誤認せしめる名称を付すことの停止を求めているものに過ぎず、本件仮処分を容認することによつて被申請人らが致命的損害を受けるものとは到底考えられない(したがつて、健康酢ブームの中での需要の増大による利益は当然に享有できるものである)。
以上の次第であるので、申請の趣旨記載の裁判を求める。
二 申請の理由に対する答弁1 被申請人キツスビー申請の理由1ないし5項はいずれも争う。
2 被申請人組合(一) 申請の理由1ないし3項は不知。
(二) 同4項中、被申請人組合が昭和五九年初め頃から「玄米くろず」なる名称で醸造酢を製造販売していることは認めるが、法1条1項1号に該当するとの主張は争う。
(三) 同5項は争う。
3 被申請人森産業(一) 申請の理由1項については不知。
(二) 同2項中(四)の(2)のくろず命名については争うが、その余については不知。
(三) 同3項は不知。
(四) 同4項中前段は争い、(二)(2)の被申請人森産業が「くろず」を販売していることは認める。その余は不知。
(五) 同5項中仮処分の必要性については争う。
4 被申請人福山酢醸造(一) 申請の理由1項のうち、申請人会社が、健康食品、自然食品及び医薬品の製造、販売を主な業務とする会社であることは認め、その余は不知。
ちなみに、申請人会社は、申請人会社の製品の商品名を「くろず」と主張するが、申請人会社の右商品名は「坂元のくろず」である。
(二) 同2項のうち、(一)、(二)、(三)は、いずれも不知。
(四)・(1)は不知。
(四)・(2)のうち、姶良郡<以下略>一帯が歴史的に天然米酢の生産地であり、その商品が鹿児島県内では通称「あまん」と呼ばれていたことは認め、その余は不知。
(四)・(3)、(4)、(5)はいずれも不知。但し、健康ブームが到来したのは昭和五四年ではなく、昭和五七年以降である。
(三) 同3項(一)のうち、申請人会社の主力製品である「くろず」が全国に遍く知れわたつていることは否認し、その余は不知。
(二)のうち、前半部分につき、今日、健康酢、醸造酢と言えば「くろず」のことを指すほどであり、
「くろず」が所謂健康酢の代名詞に近いとの点は否認し、その余は不知。
後半部分、「更に、」以下は認める。
但し、一部の書物において健康酢の代表として「くろず」をあげているのは、申請人会社が著者に依頼して申請人会社の商品を書いてもらつたからにすぎない。
(四) 同4項のうち、被申請人福山酢醸造の行為が法1条1項1号に該当することは争う。
(三) につき、製造販売の時期を除き認める。
被申請人福山酢醸造が「本黒酢」の商品名で製造、販売を始めたのは昭和五七年七月である。
(五)同5項のうち、被申請人福山酢醸造が申請人会社の「くろず」と誤認せしめることにより大なる利を収めんとしているとの点、被申請人福山酢醸造の「本黒酢」が古来の静置醗酵法に基づく天然米酢ではないとの点、本件仮処分を容認することによつて被申請人福山酢醸造が致命的損害を受けるものとは到底考えられないとの点は否認し、その余は不知。
被申請人福山酢醸造は、昭和四八年一二月一〇日に「もろみ製造免許」を取得している会社であり、その商品である「本黒酢」は、静置醗酵法で製造されているものである。
被申請人福山酢醸造は多大の宣伝費と企業努力により(売上高に対する宣伝費用では、申請人会社よりむしろ被申請人福山酢醸造の方が高い。)、宮崎県内においてその商品「本黒酢」につき独自の信用を確立してきたものであり、その使用を禁止されては、被申請人福山酢醸造の営業が致命的打撃を受けることは明らかである。
5 被申請人さつま酢本舗(一) 申請の理由1項のうち、
(1) 申請人会社が「くろず」との商品名の天然米酢を製造・販売していること及び主力製品が「くろず」であることは認める。
(2) その余は不知。
(二) 同2項のうち、
(1) (一)ないし(三)はすべて不知。
(2) (四)のうち、
(イ) (1)は不知。
(ロ) (2)につき姶良郡<以下略>一帯で昔から天然米酢がよく造られていたことは認める。
福山町で生産された天然米酢が特に「あまん」と呼ばれたことは否認する。
(「あまん」とは鹿児島地方の方言であつて酢のことを一般的に称するのであり、
天然米酢とか福山産とかに限られたものではない。)その余は不知。
(ハ) (3)ないし(5)はすべて不知。
(三) 3項のうち、
(1) (一)の事実はすべて不知。
(2) (二)のうち、「今日、健康酢、醸造酢と言えば「くろず」のことを指すほどで、「くろず」は所謂健康酢の代名詞に近い感すらある」との点は否認。
その余はすべて不知。
(四) 4項のうち、
(1) 被申請人さつま酢本舗が昭和五九年八月頃から「玄米黒酢」の商品名で醸造酢を製造販売しているとの点は否認する(被申請人さつま酢本舗が昭和五九年八月頃から製造販売しているのは「さつま玄米黒酢」という商品名の醸造酢である。)。
(2) 他の被申請人らが、製造販売、もしくは販売している商品については不知。
(3) その余の事実はすべて否認する(ことに、「さつま玄米黒酢」は「くろず」と混同のおそれはなく、まして、「くろず」と同一の商品名でも、同一の外観を有する商品でもない。)。
(4) 被申請人さつま酢本舗の行為が、法1条1項1号に該当し、申請人に法1条1項差止め請求権及び法1条ノ二の損害賠償請求権があるとの主張は、いずれも争う。
(五)5項について、
仮処分の必要性は争う。
三 被申請人らの主張1 被申請人福山酢醸造(一) 「黒酢」、「くろず」は当該商品の普通名称である。
申請人会社が「くろず」なる名称を付し、被申請人福山酢醸造が「本黒酢」なる名称を付して販売している商品は、いずれも黒味を帯びた酢である。
この黒味を帯びた酢は、約二〇〇年前に中国からその製法が伝えられたものであり、我国では特に鹿児島県福山地方でその定着をみたものである。そして、我国にその製法を伝えた中国では、もともとこの黒味を帯びた酢を「黒酢」と呼んでいた。こうした由来と、それが本来黒つぽい色をしていることから我国でもこの種の食酢は、古くから「黒酢」、「くろず」と呼ばれてきたものであり、近時の健康食品ブームから「黒酢」、「くろず」の名称は専門業者のみならず一般需要者においても、黒味を帯びた食酢の普通名称として認識されるに至つている。右のとおり、
「くろず」なる名称は昭和五一年頃、申請人会社の代表取締役である【B】が初めて命名したものではなく、古くから、この種の黒味を帯びた酢は、「黒酢(くろず)」とよばれてきたものであり、現に、昭和五一年以前に、有限会社重久盛一酢醸造場では、「玄米黒酢」という表示を使用して食酢を製造・販売しており、この「玄米黒酢」は昭和四七年に鹿児島で開催された太陽国体の際、県の指名を受け天覧にも供された。
(二) 「黒酢」、「くろず」が当該商品の普通名称であることは特許庁も認めている。
(1) 申請人会社は昭和五五年六月一二日、指定商品及び商品の区分を「第三一類、調味料、香辛料、食用油脂、乳製品」(但し、その後に「食酢」のみに補正)、商標を代表取締役の名を冠して「海蔵くろず」とする商標登録出願を特許庁に対して行つた。
(2) 右出願は一旦出願公告され公衆審査にかけられたところ、ダイオー株式会社及び有限会社薩摩商会の二者から本願商標は拒絶されるべきである、との異議申立がなされた。その理由とするところは、いずれも、出願商標「海蔵くろず」のうち「くろず」の部分は、黒味を帯びた食酢の普通名称であるから、この商標を指定商品である食酢のうち、くろず以外の商品に使用するときは、商品の品質誤認を生じさせる、したがつて、本願商標は商品の品質誤認を生ずるおそれがある商標の登録を禁止した商標法第4条1項16号の規定に該当する、というものであつた。
(3) これに対し、特許庁は、この異議申立てを理由あるものと認め、「本願商標構成中の『くろず』は、鹿児島県福山地方で玄米から作られる醸造酢は、玄米から作られるところから、その原料名を付して玄米酢と呼ばれると共に、黒味を帯びていることからその色合を付して黒酢(くろず、くろす)と呼ばれていることは、
出願人(これは異議申立人の誤記である)の提出に係る証拠(甲第1号証〜甲第6号証)に明らかである。してみれば、『くろず』は黒味を帯びた食酢を表す名称であるから、これを本願の指定商品(食酢)中、くろず以外の商品に使用するときは商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものと認める。」と判示して、
「海蔵くろず」の出願を拒絶した。
右の判示から明らかなように、特許庁も「黒酢」、「くろず」は黒味を帯びた食酢の普通名称であると認めているのである。
(4) ところで、申請人会社は、特許庁のこの拒絶査定に対し、不服の審判を請求したが、その請求の理由中において、もはや「黒酢」がこの種商品の普通名称であることは否定できないとみて、「本願出願人も、黒味を帯びた食酢が存在し『黒酢』と一般に呼ばれていることまでをも否定するものではない」と述べ、漢字で表示された「黒酢」は普通名称であることを認めるに至つている。
しかるうえで、申請人会社は、出願した商標は平仮名の「くろず」であり、これは出願人(申請人)のみが使用している名称であつて、これまで、平仮名で「くろず」と表示されたことはないから登録が認められるべきである、と主張している。
しかしながら、漢字を平仮名に直しただけでは特別顕著性の有無には何らの影響も与えず、それによつて、普通名称性を脱することにはおよそならない。のみならず、平仮名の「くろず」が出願人(申請人会社)以外の者においても普通名称として使用されているのであるから、出願人(申請人会社)の主張は事実にも反している。
なお、この審判請求については、右の請求の理由を記載した書面(補正書)の提出が指定期間を徒過してなされたため、この請求の理由を記載した補正書は不受理処分とされた。
(三) 以上から明らかなように、「黒酢」、「くろず」は黒味を帯びた食酢の普通名称であり、本来、何人にも開放され、特定人が独占することの許されない名称である。被申請人福山酢醸造は、この普通名称である「黒酢」に、その商品が古来の静置醗酵法に基づく本物の天然米酢であることから、本物のという意味を示す意味で「本黒酢」という表示を使用しているものである。また、その表示の使用方法、態様も何ら特殊なものではなく、申請人会社使用の「くろず」の文字とは外観においても明らかに非類似である。
したがつて、被申請人福山酢醸造の「本黒酢」の使用は、商品の普通名称を普通に使用せらるる方法をもつて使用する行為であり、法2条1項1号により法1条1項1号の適用はないものである。
2 被申請人キツスビー、同組合、同森産業 くろずというのは玄米酢を含む食酢の普通名称である。すなわち、普通名称かどうかは業界の問題であつて、特定の業務(業者)の商品でないことを意識しない名称で一般的に普通に用いられている名称であれば足りるところ、くろず、くろ酢、
黒酢というのは、鹿児島を含む九州地方のみでなく、新潟、東京、京都、大阪、神戸などの広い地域において、この種業界で一般的に使用されている玄米酢を含む食酢の普通名称であり、格別申請人会社の考案した名称とは意識されていない。
3 被申請人さつま酢本舗 米(玄米)を原料とした酢は、原料が米であるところから必ず黒味を帯びた色あいとなるので、その色あいに着目して古来米酢のことを黒酢と称している。すなわち、黒酢というのは米を原料とした酢の汎称であつて、申請人会社が考え出したものではない。また辞書などによると、黒酢というのは昆布又は椎茸を黒焼きにして酢に合わせた「合わせ酢」のことをいう旨の記載がある。
四 被申請人らの主張に対する申請人の答弁 被申請人らの主張のうち「くろず」が普通名称であるとの点は否認する。国内で販売されている国語辞典及び百科辞典をみても、「くろず」について説明がなされているのは僅かであり、およそ鹿児島県内において一般大衆が購入する辞典のほとんどは「くろず」なる用語を取り上げておらず、一般大衆が知り得べき用語ではない。被申請人らは特殊な辞典(日本国語大辞典)あるいは料理の書物の中の極めて特殊なもの(料理早指南大典)に若干の記載のあることを奇貨として、一般大衆から見れば死語に等しいものを普通名称と強弁するものである。
仮に「合わせ酢」としての「くろず」が死語ではないとしても、右の古来存した「くろず」が正に調味料としての用語であるのに対し、申請人会社の使用する「くろず」はいわゆる健康食品であり、主たる目的は健康の維持ないし疾病の治療にある。したがつて、申請人会社が今日使用している商品名としての「くろず」は、古来存した「合わせ酢」の「くろず」とは言葉の用法を全く異にし、異なるテリトリーで機能しているものである。
申請人会社の使用している商品名としての「くろず」に法的保護を与えるべきであることは、例えば「くるま」という日常語を利用して「キツチンくるま」というレストランのチエーン店を作つた場合、右は「くるま」という日常語に「くるま」の本来の用語の用法と異なつた意味合いを持たせたものであるから、「キツチンくるま」を冒用する者に対し差し止め請求権等の法的保護が与えられるものと同様の理である。
証拠関係(省略)
理 由一 成立に争いのない疎甲第一号証、第二号証の一、二によれば、申請人会社は昭和五二年三月一六日設立され、資本金四八〇〇万円(昭和五八年九月二七日時点)、健康食品、自然食品の製造栽培並びに販売等を目的とする株式会社であり、
「坂元のくろず」、「薩摩黒酢」の名称で醸造酢である天然米酢を製造販売していることが一応認められる。
二 右一掲記の各証拠、成立に争いのない疎甲第三号証、第四号証の五ないし七、
第一五号証の二ないし一九、第一七号証の一、二、第一九号証の一ないし一一、第二〇号証の一ないし四、第二一号証、第二二号証の一ないし三、第二三号証、証人【L】の証言によって成立の認められる疎甲第七号証の一、第一四号証、第一五号証の一、第一六、第一八号証、弁論の全趣旨によつて成立の認められる疎甲第四号証の一ないし四、第七号証の二、証人【E】、同【L】の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、申請人会社の代表取締役の一人である【B】は、江戸時代より鹿児島県福山地方で【A】家の家業として営まれてきた米を原料とした醸造酢である天然米酢の製造販売に従事していたこと、その長男である【C】は、昭和四一年八月二〇日、鹿児島市内にさかもと薬品を設立し、医薬品の製造、販売等の業務を始めたが、その後、右米酢をいわゆる健康食品として店頭販売するようになったこと、同人は、昭和四八年頃から近畿大学医学部教授【E】の指導助言のもとに九州大学薬学部等に右米酢の成分分析、薬理効果の研究等を依頼し、その結果、右米酢に一定の評価が得られたことから、昭和五一年一〇月、前記有地の命名により「くろず」の商品名を付して右米酢を健康食品として各薬局を通して一般に販売することとしたこと、右有地は右米酢が他の酢と異なり黒つぽい色をしていたことから「くろず」と名づけることを思いついたこと、【C】は昭和五二年初め頃、ベルグに右米酢の販売を依頼し、以後、ベルグがその総販売代理店となつたこと、【C】はその頃別途「薩摩黒酢」の商品名で米酢の製造販売をするようになつたこと、昭和五二年三月、申請人会社が設立され、【B】及び【C】が代表取締役に就任し、「坂元のくろず」及び「薩摩黒酢」の商品名で米酢を製造販売していること、「坂元のくろず」は申請人会社からベルグに納入され、同社から全国の系列店舗に配送され、
右各店舗で小売りされるのと、一般の問屋を経て右以外の一般の店舗で小売りされるのとの二つの流通経路からなつて右くろずの生産量及び販売量は毎年増加し続け、昭和五八年度においてベルグでの右くろずの販売高は約金一三億三八〇〇万円に達したが、昭和五九年度は類似商品の影響もあつてその販売高は約金一四億八三〇〇万円にとどまつたことを一応認めることができる。
三1 成立に争いのない疎甲第九号証並びに弁論の全趣旨によれば、被申請人キツスビーは昭和五九年初め頃から「九州玄米くろ酢」の商品名で米を原料とする醸造酢を製造販売していることを一応認めることができる。
2 被申請人組合が昭和五九年初め頃から醸造酢を製造販売していること、被申請人森産業がその頃から右被申請人組合の製造した右醸造酢を販売していることは申請人と右各被申請人との間で争いがなく、成立に争いのない疎甲第一〇号証によれば、右醸造酢は米を原料とするもので、「玄米くろず」という商品名が付されているものであることを一応認めることができる。
3 被申請人福山酢醸造が「本黒酢」との商品名で醸造酢を製造販売していることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない疎甲第一一号証によれば、右醸造酢は米を原料とするものであること、弁論の全趣旨によって成立の認められる疎乙B第一号証の一、二並びに弁論の全趣旨によれば、その時期は昭和五七年八月頃であることが一応認められる。
4 成立に争いのない疎甲第一二号証並びに弁論の全趣旨によれば、被申請人さつま酢本舗は昭和五九年八月頃から「さつま玄米黒酢」との商品名で米を原料とする醸造酢を製造販売していることを一応認めることができる。
四 右二、三に認定した事実並びに弁論の全趣旨によれば、申請人及び被申請人らはいずれも米を原料とする醸造酢を「くろず」、「くろ酢」あるいは「黒酢」という文字(以下、これらを総称して「クロズ」という。)を要部とする商品名を付し、いわゆる健康食品用の食酢として製造販売もしくは販売しているものということができる。
五 被申請人らは、同人らの使用するクロズという名称はいわゆる普通名称の普通使用である旨主張するので、これについて判断する。
2条1項1号にいう普通名称とは取引界において商品の一般的名称であるとして通用しているものをいい、言語構成上性状、品質、機能等を説明的に表現するものは、誰が最初にそれを使用し始めたかを問わず、普通名称と認めるべきものであり、また普通に使用せられる方法とは普通名称使用の態様が一般取引上普通に行われる程度のものであることを指すというのが相当であるところ、成立に争いのない疎乙B第三号証、第一五ないし第一八号証、第二一ないし第二三号証、第二六号証の一、二、第二七号証の一ないし五、証人【M】の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる疎乙B第八号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる疎乙B第九号証の一、二、第一〇ないし第一四号証、第一九、第二〇号証、官署作成部分の成立について争いがなく、その余の部分は弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる疎乙B第二四、第二五号証の各一、二、及び被申請人福山酢醸造代表者尋問の結果によれば、被申請人福山酢醸造が事実摘示欄第二、三1(二)で主張する事実、すなわち、申請人会社は昭和五五年六月一二日、
特許庁に対し、指定商品及び商品の区分を「第三一類、調味料、香辛料、食用油脂、乳製品(その後「食酢」のみに補正)、商標を代表取締役の名を冠して「海蔵くろず」とする商標登録出願をしたこと、右出願は一旦出願公告され公衆審査にかけられたところ、「くろず」は黒味を帯びた食酢の性状を表現する普通名称であることなどを理由にダイオー株式会社外一名から異議申立がなされたこと、特許庁は右異議申立を理由あるものと認め、「海蔵くろず」の出願を拒絶したこと、これに対し申請人会社は不服の審判を請求し、その理由中において黒味を帯びた食酢が存在し「黒酢」と一般に呼ばれていることまでをも否定するものではなく、これまで平仮名で「くろず」と表示されたことはないから申請人の出願は認められるべきであると主張したが、請求の理由を記載した補正書が指定期間を徒過して提出されたため不受理処分とされたことを一応認めることができる。
右事実によれば、「クロズ」は黒味を帯びた食酢性状を表現する普通名称であり、被申請人らはこれを食酢に普通に用いる方法でもって使用していると認められるから、法2条1項1号により、法1条の適用が排除され、申請人会社は被申請人らの右使用を妨げることができないものといわなければならない。
六 よつて、その余の点を判断するまでもなく、申請人会社の本件仮処分申請はいずれも理由がないのでこれを却下することとし、訴訟費用の負担について民訴法89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 下村浩蔵
裁判官 法常裕
裁判官 田中俊次
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