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関連審決 審判1977-8484
関連ワード 特段の事情 /  他人の営業 /  類似性(類似) /  不正の目的(不正競争の目的) /  差止請求(差止) /  過失 /  因果関係 /  無形損害 /  弁護士費用 /  侵害 /  競業関係 /  代理人 /  代表者 /  得べかりし利益 /  競争関係 /  虚偽の事実 /  損害賠償 /  推定 /  営業上の信用 / 
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事件 昭和 56年 (ワ) 558号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 名古屋地方裁判所
判決言渡日 1984/08/31
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告サンスター文具株式会社は、原告に対し、金二二〇万円及びこれに対する昭和五六年三月二四日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告サンスター文具株式会社は、別紙目録一記載の各新聞に別紙一記載の文案の謝罪広告を各一回五号活字にて掲載せよ。
三 原告の被告サンスター文具株式会社に対するその余の請求及び被告【A】に対する請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、原告と被告サンスター文具株式会社との間で生じたものは被告サンスター文具株式会社の、その余は原告の各負担とする。
五 この判決の第一項は仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求める裁判
一 原告1 被告らは原告に対し、連帯して金一五〇〇万円及びこれに対する昭和五六年三月二四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告サンスター文具株式会社は別紙目録一記載の各新聞に別紙二記載の文案の謝罪広告を掲載せよ。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 被告ら1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者の主張
一 原告の請求原因1 原告は文具類の製造販売を業とする会社であり、被告サンスター文具株式会社(以下「被告会社」という。)と原告は文具類の製造販売において競業関係にある。
2 原告は、昭和四三年頃から別紙物件目録記載の筆入れ(以下、「本件筆入れ」という。)を製造販売していた。
3(一) 被告会社は、本件筆入れが被告会社の有する後記実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)を侵害するとして、昭和五二年二月二五日到達の書面(その内容は別紙三記載のとおり)をもつて、原告に対し本件筆入れが本件実用新案権に抵触する旨の警告をすると共に、同年五月頃、本件筆入れが本件実用新案権を侵害することを理由として本件筆入れの製造販売差止及び損害賠償請求の訴え(東京地方裁判所昭和五二年(ワ)第四一九〇号実用新案権侵害差止等請求事件)を提起し、昭和五四年一二月二四日、同訴訟において請求棄却の判決を受けたのにもかかわらず、同判決に対し控訴(東京高等裁判所昭和五四年(ネ)第三一二〇号実用新案権侵害差止等請求事件ー控訴棄却)し、更に上告(最高裁判所昭和五六年(オ)第三五四号ー上告棄却)した。
(二) また、被告会社は、本件筆入れと同種のマグネツト式筆入れを製造販売している業者一一名に対し、原告に対するのと内容同一の警告をすると共に、昭和五二年三、四月頃、本件筆入れあるいは本件筆入れと同種のマグネツト式筆入れを取り扱つている問屋(岩出産業株式会社ほか)、小売店(西武百貨店、三越百貨店ほか)に対し、被告会社以外のマグネツト式筆入れは本件実用新案権を侵害するものである旨通告し、その仕入れ及び販売の停止を求め、被告会社以外のマグネツト式筆入れを仕入し、販売した場合には損害賠償を求める旨警告した。
(三) 被告【A】(以下「被告【A】」という。)は、被告会社の顧問弁理士であり、被告会社の代理人として右(一)の警告をし、かつ、本件筆入れが本件実用新案権を侵害する旨の鑑定書を作成し、前記各訴訟においても被告会社の輔佐人として訴訟活動を行ない、被告会社の代理人である横山由紘弁護士及び被告会社社員らと帯同して右(二)の問屋、小売店に対する警告をした。
4 しかしながら、次のとおり本件実用新案権は無効であり、かつ本件筆入れは本件実用新案権を侵害しない。
(一) 本件実用新案権(以下、その考案を「本件考案」という。)、及びその実用新案登録請求の範囲、構成要件は次のとおりである(別添実用新案公報参照)。
本件実用新案権(1) 考案の名称 ケース(2) 出願日 昭和四五年一一月二〇日(3) 出願番号 実願四五ー一一五五七九(4) 出願公告日 昭和四七年七月一三日(5) 登録日 昭和四八年三月三〇日(6) 登録番号 第九九六六二四号実用新案登録請求の範囲「皿形状のケース本体の壁面に永久磁石を埋着し且つ其の両者に磁極片を当接すると共に同磁極片を壁面外側に貫出せしめ、また上記のケース本体の蓋体に磁極片を取付けこれを上記の磁極片の端面に吸着せしめるようにすると共に磁極片の露出部の幅によつてケース本体の壁部と磁性片との間に指先挿入用の空隙を形成してなるケース。」本件考案の構成要件A 皿形状のケース本体の壁面に永久磁石を埋着し、かつ、その両面に磁極片を当接すると共に同磁極片を壁面外側に貫出せしめてあること。
B 右のケース本体の蓋体に磁性片を取付け、これを右の磁極片の端面に吸着せしめるようにしてあること。
C 磁極片の露出部の幅によつてケース本体の壁部と磁性片の間に指先挿入用の空隙を形成してあること。
D ケースであること。
(二) 本件考案の右各構成要件のうちA、B、Dの各構成要件は本件実用新案権の出願前に公知公用のものであり、右Cの構成要件は、当業者によつて容易に推考しうる新規性のないものであつた。
そのため、本件実用新案権は昭和五五年三月三一日、特許庁の無効審決(昭和五二年審判第八四八四号無効審判事件)を受け、被告会社の提起した同審決の取消訴訟においても同審決の結論は維持され(東京高等裁判所昭和五五年(行ケ)第一四四号審決取消請求事件、最高裁判所(行ツ)第一三号)、本件実用新案権が無効であることは確定している。
(三) 次に、本件考案の構成要件Cは前記のとおり「磁極片の露出部の幅によつてケース本体の壁部と磁性片との間に指先挿入用の空隙を形成してあること。」であるが、本件筆入れのケース壁部と磁性片との間に指先挿入用の空隙は存在しないから、本件筆入れは本件実用新案権の権利範囲に属しない。
このことは、前記3(一)の各訴訟によつて被告会社と原告の間において既に確定している。
5 被告会社は、本件実用新案権出願当時、本件実用新案権に前記4(一)記載の無効原因が存することを当業者として当然認識していたはずであり、かつ、被告会社には右認識をすべき次の事由がある。すなわち、
被告【A】は弁理士として、昭和四三年七月二三日に【B】から、同年一一月三〇日に三和ポリマー株式会社から、それぞれ委任を受け、本件考案と同様あるいは類似する実用新案の登録申請をしたが、被告会社から本件考案の実用新案登録申請の委任を受け、その申請をしたのはその後の昭和四五年一一月二〇日であるから、
本件考案に新規性がないことを当然認識していたところ、被告【A】は、先順位である右【B】の考案及び三和ポリマー株式会社の考案を保留し、後順位である本件考案の登録申請手続を行い、これが登録されるに至つたのである。
被告【A】は被告会社の顧問弁理士として前記3(三)記載の各行為をしているのであるから、被告会社においても本件考案に新規性がないことを当然認識していたというべきである。
6 被告らは前記3(一)ないし(三)記載の各行為をした当時、本件筆入れが本件実用新案権の権利範囲に属するものではないことを認識していたというべきであり、仮にそうでないとしても、前記3(一)記載の第一審訴訟(東京地方裁判所昭和五二年(ワ)第四一九〇号実用新案権侵害差止等請求事件)の判決言渡により被告らの前記3(一)ないし(三)の各行為、就中、控訴及び上告は被告らの悪意によるものであるとの推定を受けるに至るというべきである。
7 したがつて、被告会社の前記3(一)、(二)記載の各行為は不当な警告若しくは不当訴訟であり、いずれも不法行為を構成し、右各行為のうち訴え提起、控訴及び上告を除く行為は、不正競争防止法1条1項6号(虚偽事実の陳述、流布行為)に該当する。
また、被告【A】は被告会社の顧問弁理士として、被告会社を指導し、被告会社の右不法行為、虚偽事実の陳述、流布行為をしないようにするべき義務があるのにもかかわらず、これを怠り、被告会社に協力して前記3(三)記載の各行為をしたのであるから、被告【A】も不法行為の責任を免れない。
8(一) 原告は、被告会社の前記3(一)、(二)の各行為により、昭和五二年三月以降、本件筆入れの販売を停止するの止むなきに至り、その当時の本件筆入れの在庫品二万三〇七〇本は販売不能となつた。右在庫品の総額は金七六一万三一〇〇円である。
(二) 原告は本件筆入れを、当時、年間五万本製造販売していたが、本件筆入れの製造販売によつて原告は少くとも一本当たり金一〇〇円の利益を得ることができたから、昭和五二年三月から三年間に少なくとも金一五〇〇万円の利益を得ることができた。
(三) 被告会社の前記3(一)、(二)記載の各行為と、原告の右(一)、
(二)の損失との間には相当因果関係がある。すなわち、被告会社の右各行為の意図するところは、本件筆入れの製造販売の差止めであり、市場からの追い落しである。被告会社からの警告の後、原告があえて本件筆入れの製造販売を継続すれば、
背徳者の烙印が押され、業界の指弾を受けることは必定であり、損害賠償を請求されるおそれもあるのである。
現に、被告会社の警告は文具業界にいち早く流布され、原告の本件筆入れについての取引は皆無となり、返品も相次いだ。
(四) 原告は前記3(一)記載の各訴訟のうち東京地方裁判所及び東京高等裁判所における訴訟について、原告訴訟代理人を訴訟代理人として選任し、報酬として金八〇万円を支払つた。右各訴訟を追行するには専門的知識、技術を要するのであるから、右訴訟代理人に支払つた報酬は原告の不当訴訟提起による損害である。
また、原告は、本件訴訟を提起するについて原告訴訟代理人に金七〇万円の支払いを約した。
(五) 原告は、被告の前記3(二)記載の不法行為により著しく信用を失墜した。
その無形損害を金銭に見積ると金三〇〇万円を下廻ることはない。
9 よつて、原告は被告らに対し、不法行為又は不正競争防止法1条1項6号1条ノ二第一項に基づき、連帯して損害賠償として右金員合計二七一一万三一〇〇円の内金一五〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五六年三月二四日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めると共に、被告会社に対し、民法723条、不正競争防止法1条ノ二第三項に基づき、別紙目録一記載の各新聞に別紙二記載の文案の謝罪広告を掲載すべきことを求める。
二 請求原因に対する被告らの認否1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は知らない。
3(一) 同3(一)の事実は認める。
(二) 同3(二)のうち、被告会社が本件筆入れと同種の筆入れを製造販売している業者に対し原告に対するのと同様の警告をしたことは認めるが、その余は否認する。
被告会社は、原告主張の問屋、小売店に対し、本件実用新案権及び本件実用新案権を侵害すると思料される業者への警告を説明したにすぎない。
(三) 同3(三)のうち、被告【A】が請求原因3(二)の警告をしたことは否認し、その余は認める。
4 同4はすべて認める。
5 同5のうち、被告【A】が原告主張の各日時に原告主張の各申請をしたこと、
本件考案が【B】の考案及び三和ポリマー株式会社の考案より先に登録されたことは認めるが、その余は否認する。
6 同6は否認ないし争う。
7 同7は争う。
8 同8は争う。
原告主張の各損害と被告らの各行為との間には因果関係がない。
三 被告らの主張(被告会社) 被告会社が原告に対して警告をし、訴えを提起することは、何ら不法行為又は不正競争防止法1条1項6号に該当するものではない。すなわち、
1 実用新案権を有する者が当該実用新案権を侵害する者に対して警告をし、訴えを提起することは当然許されるものである。本件実用新案権は最終的には無効と判断されたが、その理由は公知性にあるのではなく、本件実用新案権は当業者の技術水準からすると容易に想到しうるというにある。そして、右「容易に想到しうる」か否かの判断には極めて微妙な点が多く、一律な基準によつて判断される間題ではない。右無効理由からすれば、被告会社が原告に対して提起した訴えが被告会社の敗訴に終わつたというだけの理由でこれを不当訴訟と即断することは、本来保護すべき工業所有権者の正当な権利行使を萎縮させ、多くの侵害行為を見逃し、放任し、ひいては工業所有権制度自体の存在意義を没却する虞れなしとしない。
したがつて、本件実用新案権の無効が確定する前に、被告会社がした警告及び訴えの提起は、違法な行為とはいえず、また、虚偽の事実の陳述、流布ではない。
2 また、不正競争防止法1条1項6号は、他人に対する不当な攻撃により、その者の競争条件を不利にし、営業上の競争により有利な地位に立とうとするもの、換言すれば不当競争性があるかどうかの判断によらなければならないと解されるところ、右のとおり「容易に想到しうる」か否かの判断には極めて微妙な点が多く、一律な基準によつて判断される問題ではないことからすると、被告会社に不当競争性があるとはいえないし、被告会社の販路、取引先とも原告のそれと競合していないから、この点からも被告会社に不当競争性があるとはいえない。
3 さらに、原告は、被告会社が敗訴判決を受けたことにより被告会社の悪意が推定される旨主張するが、不正競争防止法は過失推定規定を何ら置いていないのであるから、原告の右主張は失当である。
(被告【A】)被告【A】の行為は不法行為に該当しない。すなわち、
1 【B】の考案は、昭和五二年二月二八日登録(登録番号一一六一二九七号)されている。また、三和ポリマー株式会社の考案は、昭和五〇年一二月一九日に実用新案出願公告(実公昭五〇ー四四八七二七)されたが、昭和五一年二月一八日、
【B】申立の実用新案登録異議によつて昭和五二年六月二八日に拒絶査定されている。そして、その実用新案登録請求の範囲は、いずれも、本件実用新案権の実用新案登録請求の範囲とは異なるのであるから、右各考案が存するからといつて、本件考案が公知のものであつたということはできない。
なお、原告は被告【A】が【B】及び三和ポリマー株式会社の各考案の登録を保留し、本件考案を順位を変更して登録する権利若しくは能力を有するかの如き主張をするが、特許庁における工業所有権の登録出願の審査は独立官たる審査官によつて行なわれるものであり、出願公告の決定及び決定時期も審査官の専断であつて、
出願人代理人がこれに介入する余地は全くない。ましてや、審査官が個々の出願の審査について費す時間は、出願の内容、審査官の個性、公知例の探索の難易、拒絶理由通知の回数その他種々の要因によつてまちまちであり、審査の結果が出る順と、出願順とは一致しないのが常識である。
2 また、被告会社主張のとおり、本件実用新案権の権利行使として、警告し、訴えの提起をすることは何ら不法行為を構成するものではないのであるから、被告【A】が被告会社の代理人として右警告をし、被告会社から委任を受けて訴えの提起に伴い、鑑定書を作成し、補佐人として訴訟活動をすることは不法行為に該当するものではない。
証拠関係(省略)
理 由一1 請求原因1、3(一)、4の各事実は当事者間に争いがない。
2 同3(二)のうち、被告会社が本件筆入れと同種の筆入れを製造販売している業者に対し原告に対するのと内容同一の警告をした事実は当事者間に争いがなく、
弁論の全趣旨により成立を認める甲第一六号証の一及び証人【C】の証言によれば、昭和五二年三、四月頃、被告会社が、本件筆入れあるいは本件筆入れと同種のマグネツト式筆入れを取り扱つている問屋(岩出産業ほか)、小売店(西武百貨店、三越百貨店ほか)に対し、前記警告書の写し(但し宛名のないもの)と本件実用新案権の公報の写しを示し、被告会社以外のマグネツト式筆入れのうちケース本体と蓋体の間に指先が挿入できるものは本件実用新案権に抵触するものである旨告知したことが認められる(右認定に反する証拠はない。)が、更に進んで、その仕入れ及び販売の停止を求めたとか、被告会社以外のマグネツト式筆入れを仕入れ、
販売した場合には損害賠償を求める旨警告したとかの事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
3 同3(三)のうち、被告【A】が請求原因3(二)の警告をした事実は、これを認めるに足りる証拠はなく(前掲甲第一六号証の一中には、右事実に沿う記載部分が存するが、右部分は被告【A】本人尋問の結果に照らし、これを採用しない。)、その余の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、被告会社及び被告【A】の右各行為が不法行為若しくは不正競争防止法1条1項6号に該当するか否かについて以下順次検討する。
1 被告会社が原告に対してした警告及び訴えの提起について まず、被告会社が原告に対してした警告について考えるに、実用新案権の権利者が、当該実用新案権を侵害するものと思料する物品の製造者に対して、当該実用新案権の存在及び権利者において当該物品が当該実用新案権を侵害するものと思料していることを知らしめることは、実用新案権者が当該実用新案権の侵害差止請求権を有すること(実用新案法27条)、右警告が相手方の製造、販売を差止める法律上の効果を何ら有するものでなく、相手方自らの判断により当該物品の製造を継続するか否かの選択をなしうること(原告は、実用新案権者が相手方に対してなす警告は、差止めの効果を有する旨主張するが、そのように解すべき根拠は何ら存しない。)に徴すれば、客観的には侵害の事実が存しない場合であつても、警告当時、
権利者においてそのことを認識した上で右警告に及んだとか、あるいは、権利者において、右認識はなかつたものの、その点に過失があり、かつ、右警告の内容、態様が公序良俗に反する等の特段の事由のない限り、これを違法ということはできず、不法行為を構成しないものと解するのが相当である。
そこで、本件についてこれをみるのに、成立について争いのない乙第一号証の一、第二号証の一、第三号証及び証人【C】の証言並びに被告【A】本人尋問の結果によれば、原告の請求原因4(一)の本件考案の構成要件A、B、D、すなわち、A皿形上ケース本体の壁面に永久磁石を埋着し且つ其の両者に磁極片を当接すると共に同磁極片を壁面外側に貫出せしめてあること、B右ケース本体の蓋体に磁極片を取付けこれを右磁極片の端面に吸着せしめるようにしてあること、Dケースであることは、本件実用新案権出願当時パチツク筆入れとして公知のものであつた(右が公知であつたことは当事者間の争いがない。)が、本件実用新案権は、右公知の筆入れに存する、ケース本体の壁部の蓋体との間に指先挿入用の空隙が存しないために蓋体側に指先の引掛部を形成したり同部牽引用の金具を附設しない限り蓋体の開被を簡単にすることができないという欠陥を除去する目的で、前記磁極片の露出部の幅によつてケース本体の壁部と磁性片の間に指先挿入用の空隙を形成すること(原告の請求原因4(一)の本件考案の構成要件C)を、右各構成要件に加えてその構成要件としたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。
原告は、右Cの構成要件を備えた筆入れは本件実用新案権出願当時公知であつた旨の主張をするかの如くであるが、甲第七号証の一、二、四ないし六に示されている筆入れはいずれも右Cの構成要件を備えているものと認めることはできないし、
成立について争いのない乙第二号証の一、第三号証によれば、原告主張の【B】の考案及び三和ポリマー株式会社の考案には、右Cの構成要件が含まれていないことは明らかである。
なお、本件実用新案権出願以前に右【B】の考案及び三和ポリマー株式会社の考案が実用新案権の出願をしていたにもかかわらず、本件実用新案権が右各考案よりも先に登録された事実は、右のとおり右各考案が右Cの構成要件を含まないものであつて、かつ、実用新案権の登録順序を出願代理人たる弁理士が変更する権能を有するものでないことに照らせば、右Cの構成要件が公知であるか否かの判断に何らの影響を及ぼすべきものではない。
他に、右Cの構成要件が本件実用新案権出願当時公知であつたことを窺うべき証拠は本件においては何ら存しない。
そして、右Cの構成要件が当業者によつて容易に推考しうる新規性のないものであつたことは前記のとおり当事者間に争いがないが、容易に推考しうるものであるか否かは、評価の問題であつて、かつ、考案の出願人にとつて、当該考案が実用新案登録されれば、当該考案が公知のものであることを知悉している等の特段の事由の存しない限り当該実用新案権が無効原因を有するものと認識すべき理由が存しないことからすれば、一旦登録された実用新案権が、後に容易推考性を理由として無効とされたということのみで、被告会社において、特許庁の無効審判の確定以前に当該実用新案権に無効原因が存することを認識していたものと推認することはできないし、認識しなかつたことに過失があつたということもできない。
他方、本件筆入れが前記Cの構成要件を備えていないことは当事者間に争いがないが、本件筆入れが前記A、B、Dの構成要件を備えていることは弁論の全趣旨によつて明らかであり、かつ、本件筆入れの壁版4(壁部)と磁性片13との間には磁極片11、11′の露出部の幅によつて空隙14が形成されているのであつて、
成立について争いのない甲第一、二号証によれば、東京地方裁判所昭和五二年(ワ)第四一九〇号事件及び東京高等裁判所昭和五四年(ネ)第三一二〇号事件の各判決において、本件筆入れが前記構成要件Cを備えていないと判断されたのは、
本件筆入れの空隙14が構成要件Cにいう指先挿入用の空隙というに至つていないものと判断されたことによるものであることが明らかである。
右各判決の判断内容からすると、本件筆入れが本件実用新案権を侵害しないものであることが、一見して明白であるとまでいい難いことは明らかであるから、右各訴訟において被告会社が敗訴したことの一事のみで、被告会社において本件筆入れが本件実用新案権の権利範囲に属しないことを認識していたものと認めることはできない。
もつとも、証人【D】の証言及び成立について争いのない甲第七号証の一、二、
四ないし六並びに弁論の全趣旨によれば、本件実用新案権出願当時、指先挿入用の空隙というには至らないが、壁部と磁性片の間の磁極片の露出部の幅によつて空隙を形成し、前記A、B、Dの各構成要件を備えた筆入れは公知のものであつたことが認められ、被告会社は、当業者として当然そのことを認識していたものというべきであるから、右公知の筆入れと同様の筆入れについては、被告会社は、本件実用新案権を侵害していないことを認識していたというべきである。
しかし、本件筆入れであることに争いのない検乙第二号証、三菱製品であることに争いのない検乙第三号証及び被告【A】本人尋問の結果によれば、本件筆入れは、前記公知の筆入れに比して、前記空隙の間隔がやや広いことが認められ、かつ、証人【D】の証言によれば、原告が本件筆入れの製造販売を開始したのは本件実用新案権出願後である昭和五〇年頃であること(同証人の証言により原告は昭和四三年頃から前記公知の筆入れと同様の筆入れの製造販売をしていたことが認められるが、右筆入れが本件筆入れと同程度の空隙を有していたことを認めるに足りる証拠はない。)からすれば、被告会社において、本件筆入れが前記公知の筆入れと異なるものとして本件実用新案権を侵害するものと思料することに何らの合理性がないものと断ずることはできない。したがつて、少なくとも、前記公知の筆入れの存在によつて、被告会社において本件筆入れが、本件実用新案権を侵害していないことを認識していたものと推認することはできない。
そして、右認識しなかつたことに被告会社に過失があるとしても被告会社が原告に対してした警告は、その内容(別紙三のとおり)、態様(内容証明郵便によりされたものであることは、弁論の全趣旨により明らかである。)において公序良俗に反するものではない。
以上説示のとおり、前記警告当時、被告会社は本件実用新案権が無効原因を有することを過失なくして認識していなかつたというべきであり、また、本件筆入れが、本件実用新案権を侵害しないものであることを認識せず、かつ、右警告の態様において公序良俗に反する等の特段の事由の存在も窺われないのであるから、右警告は不法行為を構成するものではない。
次に、不正競争防止法一項六号は、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を陳述し又はこれを流布する行為を掲げているところ、競争関係にある他人に対して警告をする行為は、第三者に対してする場合と異なり、外部的評価である信用を害する行為ということはできないから、被告会社が原告に対してした警告が右同号に該当しないことは明らかである。
被告会社のした訴えの提起、控訴、上告について考えるに、訴えの提起や控訴ないし上告は、客観的にその理由のないものであつても、それのみで違法性を帯び不法行為を構成するものでないことは明らかであつて、その提起時において理由のない訴えや控訴であることを認識していながら提訴に及んだ等の、その訴えが目的その他において公序良俗に反する特段の事情が存することを要する(一審において敗訴したからといつて控訴提起時において理由がないことを認識していたものと推認することができないことは勿論である。)と解される。もとより、実用新案権者の有する差止請求権あるいは損害賠償請求権は、これを侵害していない者に対して行使し得べき筋合のものではないから、実用新案権者において軽々に侵害品であるとして訴えを提起することは厳に慎むべきことではあるが、客観的に理由がないというのみで実用新案権者の差止めあるいは損害賠償請求の訴えが不法行為を構成すると解することは、本来保護すべき実用新案権者の正当な権利行使を萎縮させ、その侵害行為を見逃す結果となることもまた多言を要しないところであつて、到底、採用することはできない。
したがつて、前記のとおり被告会社において、本件実用新案権の無効原因及び本件筆入れが本件実用新案権の権利範囲に属しないことを認識して前記各訴訟を遂行したものとは認められず、その他、右各訴訟が目的等において公序良俗に反する等の特段の事情も認められないので、被告会社が原告に対してした訴えの提起、控訴、上告は、不法行為を構成するものとはいえない。
2 他の業者に対する警告について 原告は、原告以外の業者に対する警告も被告会社の不法行為若しくは不正競争防止法1条1項6号に該当する旨の主張をするかの如くであるが、原告以外の他の業者に対してその製造、販売する本件筆入れ以外の筆入れについて警告をすることが、原告に対する不法行為若しくは不正競争防止法1条1項6号に該当すべき理由は何ら存しないから、原告の右主張は失当というほかはない。
3 問屋、小売店に対する告知について 被告会社が、本件筆入れあるいは本件筆入れと同種のマグネツト式筆入れを取り扱つている問屋(岩出産業ほか)、小売店(西武百貨店、三越百貨店ほか)に対し、原告に対してしたのと内容同一の警告書の写し(但し宛名のないもの)と本件実用新案権の公報の写しを示し、被告会社以外のマグネツト式筆入れのうちケース本体と蓋体の間に指先が挿入できるものは本件実用新案権に抵触するものである旨告知したことは前認定のとおりであるところ、原告と被告会社が競争関係にあること、本件実用新案権が無効原因を有するものであること、本件筆入れが本件実用新案権の権利範囲に属しないことはいずれも当事者間に争いがない。
右事実によれば、被告会社が具体的に特定の製造者名あるいは商品名を挙示しなかつたといえども、被告会社は競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を陳述し、流布したものというべきである。
ところで、競争関係に立つ者が、営業者の営業上の信用を害する行為を陳述し、
流布する行為は、競争関係に立つ者が虚偽の事実をあげて営業者にとり最も重要な営業上の信用を直接的に攻撃するものであつて、営業を誹謗された営業者にとつては、ときに致命的な打撃ともなることもあり得るのであるから、これは典型的な不正競争行為であつて、典型的な違法行為である。
したがつて、実用新案権の権利者が、当該実用新案権を侵害するものと思料する物品の製造者に対して警告をなす行為と、その製造者以外の取引先等の第三者に右物品が当該実用新案権を侵害する旨告知する行為とは、その行為の性質において大きく異なるというべきであつて、その製造者以外の取引先等の第三者に対する場合には、その製造者に対して警告をなす場合に要求される注意義務に比して、当該物品が当該実用新案権を侵害するか否かの判断には、より一層の慎重さ、すなわち高度の注意義務が要求されることは明らかである。
そこで、これを本件についてみるに、まず、被告会社において本件実用新案権が無効原因を有することを認識しなかつたことに過失がなかつたことは前記のとおりである(不法行為におけるそれよりも高度の注意義務を負担すべきことは右のとおりであるが、右注意義務を前提としても、被告会社に右認識をしなかつたことに過失を認めることはできない。)。
次に、本件筆入れが、本件実用新案権を侵害するものと判断した点であるが、本件考案が前記公知の筆入れに前記Cの構成要件を加えたものであることは前記のとおりであるところ、本件考案と前記公知の筆入れとの違いは、要するに磁極片の露出部の幅の広さにあるのであるから、結局のところ、いわば程度問題にすぎない。
したがつて、本件筆入れが前記のとおり前記公知の筆入れに比して空隙14の間隔がやや広いところから、本件筆入れが本件実用新案権を侵害するか否かの判断は、何よりもまず本件筆入れの空隙14の程度で前記Cの構成要件を備えるに至つているか否かのいわば程度問題の判断にかかるものであろうことは、前記のとおり当業者として前記公知の筆入れの存在を認識している被告会社において当然予測すべき事柄である。そして、右のとおり程度問題である以上、のちの公権的判断によつて右構成要件を備えるに至つていないものと判断される可能性が存することは否定し得ないのであつて、右判断がされた場合には、被告会社が問屋、小売店に対してなす告知は、当然に不正競争防止法1条1項6号に該当する違法行為となることも、また被告会社において当然に予測すべき事柄である。
そうだとすると、被告会社が前記問屋、小売店に対する告知をなすにあたつては、本件実用新案権の内容からして、のちの公権的判断によつて本件筆入れが本件実用新案権を侵害しないものとされる可能性が存することを十分考慮してこれをなすことが要請されるというべきであり、被告会社において既に公権的判断を経ている(例えば、本件実用新案権に基き、本件筆入れの製造販売禁止の仮処分を得たとか、その本案事件の第一審勝訴判決を得た等)、あるいは本件筆入れの製造者である原告自身が本件実用新案権を侵害していることを認めている等の相当高度の蓋然性をもつて本件筆入れが本件実用新案権を侵害すると後に判断されるに至るであろうと考えられる事情の存しない本件においては、被告会社には、本件筆入れが、本件実用新案権を侵害しないものであることを認識しなかつた過失があるといわざるを得ない(なお、被告会社の判断に合理性がないと断ずることができないことは前記のとおりであり、かつ被告会社が専門家である弁理士【A】の判断に依拠したものであることは、弁論の全趣旨により明らかであるが、右説示のとおり、本件考案の内容、問屋、小売店に対する告知の重大性等に鑑みると、右程度の事由をもつて、被告会社に過失がないということはできない。)。
したがつて、被告会社は、不正競争防止法1条ノ二により、原告に対し、損害賠償の責に任ずるものというべきである。
被告会社は、被告会社には不当競争性がないとか、原告と被告会社の販路、取引先とも競合していないから不正競争防止法1条1項6号に該当しない旨主張するが、不正競争防止法1条1項6号の行為は、その行為者に不正の目的があること、
あるいはその行為が不当競争行為であることをその要件とせず、かつ、証人【C】の証言によれば、被告会社において前記の告知をした問屋、小売店の中には原告の製品を取り扱つているものが存した事実を認めることができる(右認定に反する証拠はない。)から、被告会社の右主張は失当たるを免れない。
4 被告【A】の行為について 被告会社の原告に対する警告及び訴えの提起は前記のとおり、いずれも不法行為若しくは不正競争防止法1条1項6号に該当するものではないから、原告の主張はその前提を欠き失当である。
なお、付言するに、前記問屋、小売店に対する告知を被告【A】がなしたと認めることができないことは前記のとおりであるが、自ら告知しないとしても、被告【A】において被告会社に問屋、小売店に対し警告をするよう指示ないし指導したとすれば、被告【A】について責任の生ずる余地もないではないが、本件証拠上、
被告【A】において積極的に被告会社に対し、問屋、小売店に対し警告をするよう指示ないし指導したことを窺うことはできないから、被告【A】には前記問屋、小売店に対する告知について責任はない。
三 以上のとおり、被告会社は、被告会社が問屋、小売店に対して前記警告書の写しと、本件実用新案権の公報の写しを示し、被告会社以外のマグネツト式筆入れのうちケース本体と蓋体の間に指先が挿入できるものは本件実用新案権に抵触するものである旨告知した行為について原告に対して損害賠償責任があるから、以下右行為により原告の被つた損害について判断する。
1 販売不能となつた在庫品及び得べかりし利益について 原告主張の販売不能となつた在庫品及び得べかりし利益(原告の請求原因8(一)、(二))について考えるに、前記告知が法律上原告が本件筆入れを販売するについての障碍となるものではないことは明らかであり、本件において、事実上、本件筆入れの販売が不可能となつたことを認めるに足りる証拠はない。
もつとも、証人【D】の証言及び原告代表者本人尋問の結果によれば、右告知により、本件筆入れが返品されたことがあつたことが認められるが、右返品の数量も明らかでなく、本件証拠上、原告において取引先に対し本件筆入れが本件実用新案権を侵害するものでないことを充分説明し、その取引の継続を求め、にもかかわらず、本件筆入れの引取方を拒否され、あるいは返品されたということを窺うことはできないのであるから、右返品の存した事実のみをもつて、事実上、本件筆入れの販売が不可能となつたと認めることはできない。
そうとすると、被告会社の前記告知と原告の被つた右損害との間に相当因果関係を認めることはできないのであつて、右返品を受けたことによる損害は後記営業上の信用を害されたことによる損害の一部として評価されるにとどまるというほかはない。
2 弁護士費用について 前記東京地方裁判所及び東京高等裁判所における弁護士費用(応訴費用)については、被告会社による訴え、控訴の提起により、その支出を余儀なくされたものであつて、被告会社がした問屋、小売店に対する前記告知と右応訴費用の支出との間に相当因果関係が存するものとは認め難い(右各訴えが不法行為に該当しないことは前記のとおりである。)。
本件訴訟における弁護士費用について考えるに、原告代表者本人尋問の結果及びこれにより成立を認め得る甲第一七号証の二によれば、原告は、原告代理人に対し、本件訴訟委任の弁護士報酬として金七〇万円の支払いを約し、うち金三〇万円を既に支払つたことが認められるところ、本件訴訟の難易度、後記認容額等を総合考慮すると、右のうち金三〇万円は被告会社の前記不正競争防止法1条1項6号該当の行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
3 営業上の信用を害されたことによる損害について 証人【C】及び証人【D】の各証言によれば、被告会社は、筆入れに特に力を入れ、筆入れ製造業者中では全国でもトツプランクに属するものであること、原告は、筆入れについてはそれ程ではないものの文具の製造、販売業者の中では大手に属するものであることが認められ(右認定に反する証拠はない。)、前記のとおり被告会社の前記告知によりその取引先から返品を受けたことによること、その他本件において顕われた一切の事情を総合考慮すると、被告会社が前記告知において具体的に原告を指称しなかつたとしても、右告知により原告が営業上の信用を害されたことによる損害は金二〇〇万円と認めるのが相当である。
4 謝罪広告について 被告会社の前記告知により原告の営業上の信用が害されたことは右のとおりであり、被告会社において、原告の右信用回復のための措置を何ら執つていないことは証人【C】の証言によつて明らかというべきであるから、原告が被告会社に対して謝罪広告をなすべきことを求めることは相当であるが、被告会社の前記告知の内容等を勘案すると、信用回復のための措置としては別紙一の内容の謝罪広告をなすべきことを被告会社に対して命ずることが相当である。
四 以上の次第であるから、原告の被告会社に対する請求は金二三〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五六年三月二四日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払い並びに別紙目録一記載の各新聞に別紙一記載の文案の謝罪広告を各一回五号活字で掲載を求める限度で理由があるからこれを認容し、被告会社に対するその余の請求及び被告【A】に対する請求はいずれも失当であるからこれを棄却することとして、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条92条を各適用して、原告と被告会社との間に生じた訴訟費用については被告会社の負担とし、その余は原告の負担とすることとし、仮執行の宣言について同法196条を適用して主文のとおり判決する。
追加
実用新案公報(省略)別紙一当社は、「当社以外のマグネツト式筆入れ(パチツクペンシルケース)のうちケース本体と蓋体の間に指先が挿入できるものは当社の有する登録実用新案権第九九六二四号を侵害する」旨を陳述し、また流布し、貴社に多大の御迷惑をおかけいたしましたことを深く陳謝します。
昭和年月日東京都台東区<以下略>サンスター文具株式会社名古屋市<以下略>株式会社大和殿別紙二謝罪公告貴社が昭和四三年九月より昭和五二年五月まで名古屋地区において製造販売したパチツクペンシルケースは当社登録の実用新案権第九九六二四号品名ケース(昭和四五年ー一一五五七九出願)の権利範囲を侵害したとして、貴社を相手取り東京地方裁判所に製造販売の差止め及び損害賠償請求の訴を提起したところ、審理の結果、権利侵害なしとして請求棄却され、東京高等裁判所においても同一理由で敗訴した。一方、貴社外数社より提起された無効審判事件においては当社の前示登録が公知、公用として無効の審決があり、両々相俣ち、当社の権利主張が誤りであることが証明された。
このため貴社に長期間多大の御迷惑をかけ、かつ信用を傷けたことを深謝し、貴社の名誉回復のためここに陳謝いたします。昭和五六年三月東京都台東区<以下略>サンスター文具株式会社名古屋市<以下略>株式会社大和殿別紙三拝啓時下益々御清祥の段大賀奉ります。
陳者貴社販売に係る鉛筆の容器(皿形状のケース本体の壁面に永久磁石を埋着し且つ其の両面に磁極片を当接すると共に同磁極片を壁面外側に貫出せしめ、
また上記のケース本体の蓋体に磁性片を取付けこれを上記の磁極片の端面に吸着せしめるようにすると共に磁極片の露出部の幅によつてケース本体の壁部と磁性片との間に指先挿入用の空隙を形成してなるケース)(例えば「Rainbow・Festival」)は当方所有の登録第九九六六二四号実用新案の権利に抵触するものであると思料されます。
就而この件につき当書到達後、一週間以内に貴社の見解並びに具体的処置等について回答を賜わり度く此段御通告に及びます。
昭和五二年二月二五日東京都台東区<以下略>サンスター文具株式会社代表取締役【E】東京都台東区<以下略>代理人弁護士【A】名古屋市<以下略>株式会社大和代表取締役【F】殿物件目録硬質芯板1を熱可塑性軟質合成樹脂シート2、3を以て被包して底版5、背版6、蓋板7及び端板8を連続して一体に構成し、この合成樹脂シート2、3の延長部を以て底版5に連続する壁版4を構成すると共に熱可塑性硬質合成樹脂板を以て壁面を中空状とした皿形状のケース本体9を形成し、その周壁の下縁を前記の底版5に、また前方の壁面を前記の壁版4に溶着すると共にこの前方の壁面にフエライト磁石10及びその両面に当接した磁極片11、11′を装入し、同磁極片11、
11′の外端を壁版4に透設した通孔12を経て外方に貫出させ、上記の端版8に磁性片13を取付けてこれを磁極片11、11′に吸着させるようにし、かつ、磁極片11、11′の露出部の幅によつて壁版4との間に空隙14を形成した筆入れ。
目録一一東京都中央区<以下略>日本文具新聞二名古屋市<以下略>名古屋文具新聞三東京都中央区<以下略>産業新聞(東京支社)
裁判官 加藤義則
裁判官 高橋利文
裁判官 綿引穣