関連ワード | 類似性(類似) / 混同のおそれ(混同) / 誤認混同 / 識別表示 / 過失 / 因果関係 / 混同のおそれ(混同) / 品質等誤認表示(誤認) / |
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事件 |
昭和
57年
(ワ)
4801号
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 1983/10/14 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
一 原告の請求をいずれも棄却する。 二 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 被告らは、原告に対し、各自一〇〇万円及びこれに対する昭和五七年七月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告らの負担とする。 3 仮執行宣言二 請求の趣旨に対する答弁主文と同旨。 |
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当事者の主張
一 請求原因(主位的請求)1 原告は、大阪府下の寝屋川、枚方、交野、高槻の各市を主たる商圏とし、玄関ドア、引戸、窓、サツシ等の交換、外壁吹付、サンルームの設置等の建物修理を主たる営業とする有限会社である。 被告A(以下「被告A」という)は昭和五七年三月三一日から同年五月一四日まで、同B(以下「被告B」という)は同年三月二二日から同年四月三〇日までそれぞれ原告に勤務していた。 被告三協住宅設備工業株式会社(以下「被告会社」という)は、アルミサツシ、 エクステリア諸製品(サンルーフ、カーポート、バルコニー等)の販売を営業とする会社であり、被告A及び同Bは原告退社後、直ちに被告会社に就職した。 2 被告らは故意又は過失により左記不正競争行為をなしたものであり、原告に生じた損害を賠償すべきである。 (不正競争防止法1条1項1号)(一) 従前、建物修理はそれ自体を独立の主力商品として販売されることはなかつたが、原告は「修理の時代」というキヤツチフレーズのもとに、建物修理を独立の商品として販売することを企図し、修理について値段を表示した独特のイメージを持つちらし(甲第一号証の一ないし三)を考え出し、昭和五六年九月ころから同五七年二月にかけて大阪府枚方市など原告の商圏において、右ちらしを新聞折込広告として配布したりあるいは戸別配達したりした。 原告の商品は有体物ではなく、かつ修補という観点に立てば、顧客一人一人の需要によつて商品の内容が異なるという非特異性を有しており、品質機能それ自体の広告はいきおいイメージ化せざるを得ず、かつその様な宣伝広告のイメージの独特性が商品それ自体の独特性を表示する機能を有するものである。 原告配布の右ちらしは十分独特性のあるイメージ広告となつたため、原告の商品の識別表示として周知のものとなり、かつ原告は右宣伝活動を通じ、建物修理専門業者として著名な存在となつた。 (二) 被告らは共謀の上、原告ちらし(甲第一号証の一、別紙(一)と類似したちらし(甲第二号証、別紙(二)以下「被告ちらし」という)を昭和五七年六月ころ作成し、原告の商圏全域に戸別配達して修補を行つた。 (三) 原告ちらしと被告ちらしは別紙(一)、(二)の@ないしRがそれぞれ対応しており、EないしIについては勧誘文言まで同一であり、また、被告ちらし裏面の「ワレの補修方法」の記述は、原告ちらし裏面の「ワレの補修方法」の記述と同一であり、両者が類似することは明らかである。 (四) その結果原告商品と被告商品は誤認混同を生じた。 (不正競争防止法1条1項5号)(五) また、被告らは共謀の上昭和五七年六月ころ原告と同じ商圏内の各戸を戸別訪問して広告する際真実はそうでないのに、「原告が下請に使つている職人と同じだから仕事をやらせてくれ。」と述べて商品の製造方法品質につき誤認を生ぜしめた。 3 被告Aは、原告を退職する際、原告と同一商圏内では、原告の営業上の秘密を他に漏らし、あるいは、営業の妨害となる行為をしないことを約した。それにもかかわらず、被告Aは前項(二)、(五)の行為をなしたものであり原告に生じた損害を賠償すべき義務がある。 (予備的請求)4 被告らの前記2(二)記載の所為は他人により作られた価値の剽窃行為であるから民法709条により不法行為を構成する。 5 原告が被告らの行為により蒙つた損害は前記いずれの場合も一〇〇万円を下らない。 (一) ちらしを戸別訪問して配達する場合、需要があると見込まれる地域を選定して配布するのであるからその効果は高く、少くとも一〇〇〇枚に一、二枚の引合があり契約が成立するのは引合の約八〇パーセントであるから、結局一〇〇〇枚に一件の割合で契約が成立する。 売上げは一件当り平均二〇万円であり、うち純利益は少くとも五パーセントを下らないから一件につき一万円はあることになる。 そして被告らは、共同して少くとも一三万枚のちらしを配布したものであるから、被告会社は一三〇万円の純利益をあげ、同額の損害を原告に蒙らせた。 (二) 被告会社は従前はエクステリア業者であつて建物修理の実績は皆無に近く、被告A及び同Bが入社して以来建物修理に乗り出したものであり、右被告両名の売上高は被告会社が建物修理に社業を拡張したことの結果とみられる。 被告A及び同Bは月間少くとも一二〇万円、両名で二四〇万円の売上げがあり、 倒産に至るまでの約一年間の両名の総売上げは二八八〇万円を下らず、うち少くとも五パーセントの純利益があつたからその純利益は一四四万円を下らない。 そして、被告会社は従前建物修理に実績のなかつたところ、被告ちらしにより修補業界に参入したもので、右純利益は被告ちらしと因果関係を有し、同額の損害を原告に蒙らせた。 よつて、原告は、被告らに対し、主位的に不正競争防止法1条1項一、五号に、 予備的に民法709条に基づき、また被告Aについては右不正競争防止法と選択的に前記契約に基づき、各自損害金一〇〇万円及びこれに対する訴状送達の翌日以降である昭和五七年七月二一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。 二 請求原因に対する認否1 請求原因1の事実は認める。ただし被告会社の営業は販売の他住宅屋外の設備工事一切をも目的とするものである。 2 同2冒頭、(一)、(三)ないし(五)は争う。同(二)のうち被告会社が被告ちらしを配布した点は認め、その余は争う。 3 同3の事実は争う。被告Aが原告あての誓約書をさし入れているが、これは原告主張の趣旨ではない。 4 同4、5の事実は争う。 三 被告らの主張1 原告の商品というのは建物に付属する設備の取り付けであり、この取り付けはドアにせよ、窓サツシにせよ、いずれも工場生産で規格化された完成品を購入し、 他と同じ工法で取り付けるというものにすぎないのであつて、原告のみが独自に商品として取扱い、消費者に知られているということはない。 2 原告のちらしは、他で作られた製品の値段と取付代金を記載しているものにすぎず特異性のあるものではない。そもそもちらしはもつぱら値段と業者名を売り込むために使用されるものであり、原告のみがこれを独占できるものではない。 3 製品自体はどの業者も同じものを使用しており、業者間の優劣はもつぱら取付技術や注文があつたとき直ちに応じられるか等により決まるものであり、原告の売上げが落ちたとしてもそれは原告の職人の腕の悪さによるものであり被告会社の発行したちらしとは何ら因果関係はない。 四 被告ら主張に対する認否被告ら主張1ないし3は争う。 |
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証拠(省略)
理 由一 請求原因1の事実及び被告会社が被告ちらし(甲第二号証、別紙(二))を配布したことは当事者間に争いがない。 (不正競争防止法に基づく請求について)二 成立に争いのない甲第一号証の一ないし三、同第二号証、証人Cの証言に前記一の事実を総合すると、原告は玄関ドア、引戸、窓、サツシ等の交換、外壁吹付、 サンルームの設置等の建物修理を主たる営業とする有限会社であること、原告は昭和五六年九、一〇月ころちらし(甲第一号証の三)を一〇万枚、同年一一月ころちらし(甲第一号証の一、別紙(一))を二〇万枚、昭和五七年二月ころちらし(甲第一号証の二)二〇万枚をその商圏に配布したこと、右ちらしは家の修理、増改築等の注文を勧誘するためのちらしであり、工事の種別に応じ、その取付るべき器材等品物の表示もあるものの、その品物自体は原告の製品ではなく、原告が他から完成品を仕入れて来るもので、右表示された器材等を用いる取付・修理工事を原告がする場合には、他業者よりも廉価になし得ることを訴えているものであつて、実質的には左様な取付や修理工事など役務の提供を宣伝の内容としていること、また、 原告を退職した被告B及び同Aは原告の顧客に対し「原告と同じようなやり方でしているからうちにさせてくれ。」と言つて回つたことがあること、以上の各事実が認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。 原告は右のような建物の修理や器材の取付なども、不正競争防止法1条1項1号、五号所定の「商品」に該当すると主張するのでまずこの点について検討するに、役務は法律上一般に商品とは区別され(不当景品類及び不当表示法4条)、不正競争防止法も1条1項1号とは別に二号を設け両者を区別しているとみられ、さらに一、五号は商品につき「容器包装」、「品質、内容、製造方法、用途、数量」という概念を用い、また商品は「販売、拡布、輸出」の対象となるとされているが、役務についてかかることは考え難く、不正競争防止法1条1項一、五号にいう「商品」には役務は含まれないと解するのが相当であり、したがつて、前記役務である建物の修理や器材の取付などは右にいう「商品」に該当しないというべきである。 よつて、その余の点につき判断するまでもなく不正競争防止法に基づく請求は理由がない。 (民法709条に基づく請求について)三 前掲甲第一号証の一によると原告ちらしは別紙(一)のとおりであつて、その表面は、これを縦幅約二・五センチメートルで一〇段に区切り、最上段に原告名とキヤツチフレーズを掲げ、二段目以下を横幅約八・五センチメートルの四列に区切り、二段目には大まかな工事種別の分類項目を掲げ、三段目以下の各枠内に、工事に使う器材及びその取付工事の内容とその値段を、前者は枠内の左上方に寄せて小さく、後者は枠内の下方中央若しくはやや右寄りに大きく表示して一覧表の如くにし、裏面は、この場合サンルーム、別注下駄箱、外壁吹付の三つの工事につき、その内容をやや詳しく紹介する構成をとつている。そして、証人Cの証言によれば、 右ちらしは同人が考案したもので、それまで修補業界ではちらしによる集客はなされていなかつたことが認められる。 一方成立に争いのない甲第二号証によれば被告ちらしは別紙(二)のとおりであつて、その表面は、最上段にキヤツチフレーズを、最下段に大きく被告会社名を表示するほか、これに挟まれた紙面中心部を縦数段、横四列の枠切りとする点、その一枠毎に工事に使う器材や工事の内容とその値段を、前者は枠内の左上方に寄せて小さく、後者は枠内の中央若しくは下方に大きく表示して一覧表の如くにし、裏面には、外壁吹付塗装等の工事を詳しく紹介する構成をとつており、右表面を縦段数はやや異るけれども、横四列に横長の長方形枠が並ぶ形成とし、その一枠毎に取付等工事の内容とこれに用いる器材を簡潔に表わし、その工事価格を含む値段を大きく表示し、裏面を特定の工事種目の詳しい紹介に用いる構成は前示原告ちらしの構成と似かよつており、また、その内容においても、原告主張のとおり、表面については配列は異なるものの@ないしRが原告ちらしの@ないしRに応対し、うち@ないしD、JないしRは品物、値段、付属文言が、EないしIは勧誘文言がそれぞれ同じであり、裏面については「ワレの補修方法」の記述は原告のそれと同じであることが認められる。そして、被告A本人尋問の結果によれば、被告会社は昭和五七年六月一〇日被告A及び同Bらが集り、原告ちらしを参考にして、右被告ちらしを作成配布したことが認められる。 そこで、被告らが、右被告ちらしを作成配布したことが、原告主張のように、原告の創造した価値の剽窃に当るかについて判断する。(一)そもそもちらしの配布は値段と業者名を売り込むための極く一般的な手段であつて、原告が建物修補業界で初めてちらしを作成したとしても、ちらしを配布する宣伝方法自体に独創性を認めることはできず、原告が右宣伝方法自体を独占できるものではない。また、 (二)原告が修理等に用いる器材とその取付費用を含めて一本の値段として売り込んだことは、前掲甲第一号証の二、三とともにこれを窺い得るが、もともと顧客の立場からいえば、別紙(一)(二)のちらしが対象としているような役務については、結局その修補・取付工事全体がいくらで仕上るかに関心があり、器機の単価と工事費用を分別することには意味がないともいえるのであつて、これを顧客に売り込む方法として、右器材とその取付費用を含めて一本の値段として売り込む方法を用いたからといつて、これまた修補業の性質上誰でもが想到し得る一般的方法であつて、これにも独創性を認め、原告の独占を許し得るものではない。更に、(三)前示原告ちらしの構成と、被告ちらしの構成とでは一部に似かよつたところがあるけれども、その構成上の似かよつた点である表面に品物の名前とその取付費用を含めた値段を一覧表の如く見やすくし、裏面に特定の工事を詳しく紹介する体裁にしても、通常みられるちらしと比較してもありふれたものであり、特に工夫を凝らした斬新な構成であつて、その記載方法が原告の企業イメージとして原告と個性的に結びつくほどの創作性や独自性を認めることは困難である(因みに、原告自身の配布した他のちらしについても、前掲甲第一号証の二については、前示別紙(一)の構成とほぼ似かよつているけれども、甲第一号証の三については、その構成にはやや異るものが見られるなど、原告自身も別紙(一)のちらしにおける前示構成を固定的に用いているわけではない)。(四)しかして、前示別紙(一)(二)の各表面@ないしR及び裏面「ワレの補修方法」において、その両者の文言が一致する点においても、その一致する文言は、いずれも当該事項を訴えるにつき何人も想到し得る一般的文言であつて独創性を認めることはできず、またその価格自体を原告が独占し得ないことはいうまでもない。 そうすると、原告の宣伝方法は、その宣伝の方法及びこれに用いた原告ちらしの構成のいずれの点からみても、これを対世的に独占し得るだけの創作性を認めることは困難であつて、被告らが原告ちらしと同一部分のある被告ちらしを作成配布することは違法ということはできず、他に違法性を認めるに足りる事情もみあたらない。 (被告Aに対する契約責任に基づく請求について)四 成立に争いのない甲第三号証、証人Cの証言、被告A本人尋問の結果によれば、被告Aは昭和五七年五月一四日原告を退職し、しばらく兄の仕事を手伝つた後、同月二五日被告Bの紹介で被告会社に就職したこと、被告Aが同月三一日それまでの給料を取りに原告方へ来た際、原告専務Cは先に原告を退職した被告Bが同Aと一緒に仕事をして原告の商圏を荒すことをおそれ、被告Aに「私しAは一身上の都合により退社致しましたが、今後一切貴社に御迷惑をかけないことを誓約致します。万が一それに反する行為及言動があつた場合いかなる場合でもその責任を負うことを約束致します。」との記載のある誓約書を書かせたこと、当時被告Aは被告会社に就職していたがそのことは右Cには言わず、また、右誓約書が特別な意味を持つものとは考えていなかつたこと、被告会社はエクステリア関係及び修理を営業とする会社であること、以上の各事実が認められる。 そうすると、右誓約書作成時被告Aはすでに被告会社に入社しており、右誓約書で、被告Aが被告会社の従業員として、原告の営業と競業する業務に携わらないことまでも約束したものとは認め難く、結局右誓約書は被告Aが原告に対し単に営業妨害行為をしないことを約したものと認めるのが相当である。 しかして、被告Aが昭和五七年六月一〇日被告Bらと一緒に被告会社の業務として別紙(一)の原告ちらしを参考にしてその構成に似かよつたところがあり、かつ一部に同一の文言を含む別紙(二)の被告ちらしを作成して配布したこと及び原告の客に対し、「原告と同じやり方でしているからうちにさせてくれ。」と言つて回つたことはいずれも前記認定のとおりであるが、被告会社が被告ちらしを作成した際原告ちらしはすでに各戸に配布され営業上の秘密ではなく、また、被告会社の従業員として被告Aがちらしの配布、売り込みをすることは通常の営業活動であることを考えると、前示被告会社が被告ちらしを配布することが違法とされない以上、 右被告ちらしの作成配布に被告Aが加わり、売り込みの際原告の名前を出したことを目して直ちにこれを営業妨害行為と認めることはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。 五 よつて、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 潮久郎 |
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裁判官 | 鎌田義勝 |
裁判官 | 徳永幸蔵 |