関連ワード | 周知性 / 広く認識 / 信義則 / 類似性(類似) / 混同のおそれ(混同) / 表示の使用 / 差止請求(差止) / 非類似 / 営業上の利益 / 稀釈化(ダイリュージョン) / 広告力 / 競業関係 / 著名表示(著名性) / 代表者 / 識別力 / 混同のおそれ(混同) / |
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事件 |
昭和
52年
(ワ)
11872号
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 1981/10/26 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 被告は、その営業について「ヨドバシ」なる文字を使用した表示を使用してはならない。 2 被告は、東京都新宿区<以下略>所在の店舗に掲げた看板中の「ヨドバシポルノ」及び「ヨドバシ百貸」なる表示のうち「ヨドバシ」の部分を抹消せよ。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 二 請求の趣旨に対する答弁主文同旨 |
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当事者の主張
一 請求の原因1 原告の概要(一) 原告は、昭和四二年七月四日、商号を「株式会社淀橋写真商会」、本店所在地を「新宿区<以下略>」として設立されたが、昭和四九年一〇月一日、商号を現在の「株式会社ヨドバシカメラ」と変更し、昭和五〇年一〇月一日、本店を原告肩書地に移転した。なお新本店は旧本店の極近に所在しており、旧本店は新本店と機能上一体の店舗として継続的に使用されている。 (二) 原告の事業目的は、昭和四二年の設立当初は各種カメラと写真及び感光機器材を中心として、アルバム等これに関連した周辺商品の卸売りであつたが、昭和四五年ころからは、「ヨドバシ」ないし「ヨドバシカメラ」の営業表示の下に右各商品の小売り部門も創設し、順次事業規模を拡大し、ついで販売品目も光学機器、 電卓等の事務用品、電気製品、時計その他と多角化し、「より安価なものは、何でも販売する」という営業姿勢を維持して今日に至つている。 2 「ヨドバシ」、「ヨドバシカメラ」の表示の周知性(一) 原告は、卸売り問屋時代の当初から、「現金仕入れと現金卸し」、「大量仕入れによる大安売り」をキヤツチフレーズに薄利多売方式を推し進め、これに格別の人気を集めていたものであるが、昭和四五年の小売り部門創設後、「現金で大量仕入れによる大廉売」、「他の店が当店より安ければ金を返す」等をキヤツチフレーズとして、「ヨドバシ」、「ヨドバシカメラ」なる表示をその営業に使用して左記の如く大衆向に大々的に広告宣伝をなし、右営業表示を関東一円とその周辺県に浸透せしめた。 (1) ラジオ、テレビ各全社における一五秒、三〇秒のスポツト広告及び番組の提供による広告。 (2) 夕刊フジ、東京新聞、日刊スポーツ、報知新聞、日刊ゲンダイ、聖教新聞の各新聞における年間三、四回の広告。 (3) アサヒカメラ等すべてのカメラ誌における広告(月刊誌については毎月広告を掲載している。)。 (4) 都内全私鉄、全国電における年数回の中吊り等のポスターによる電車内広告。 (5) 社屋の外部や屋上における看板、広告塔による広告。 (6) 駅構内その他に常時設置した看板及びチラシによる広告。 (二) 右のとおりの大衆向けの広告宣伝活動に加えて、原告の店舗は、商品の種類と在庫が豊富であり、また商品とその在庫の展示が一つになつた形の「カメラのスーパー」ともいうべき店舗形態であること、及び、何よりも現金仕入れの強さを充分に生かした偽りのない廉価が大衆に受けたことから、原告のこのような商売の仕方は「ヨドバシ商法」と称され消費者に好評を博した。 (三) 原告のカメラ等の売上高の推移は次のとおりであり、原告は、その売上高において、国内カメラ専門店の中で、昭和四八年度で四位、昭和四九年度で三位、 それ以降は常に一、二位の座を保持し続けている。 昭和四七年度 三五億七〇〇〇万円 昭和四八年度 四九億三〇〇〇万円 昭和四九年度 七一億五〇〇〇万円 昭和五〇年度 一二〇億円 昭和五一年度 一七〇億円 なお、昭和五一年から昭和五二年ころの原告の店舗への一日平均の来店者数は一万五〇〇〇人である。 以上より明らかなように、「ヨドバシ」、「ヨドバシカメラ」なる表示は、原告の営業たることを示す表示として、遅くとも昭和五二年九月にはわが国において広く認識されるに至つたものである。 3 被告の営業表示 被告は、和昭五二年一〇月ころより、東京都新宿区<以下略>(原告の本店から一〇〇メートルの直近にある。)に店舗をおき、いわゆる大人のおもちゃと称せられる器具、写真、本等性的刺激を与える低俗な商品を業として販売しているものであるが、同店舗の看板に「ポルノシヨツプ」等の表示と共に「ヨドバシポルノ」及び「ヨドバシ百貨」なる表示を使用し、また雑誌上の広告にも「ヨドバシ百貨」なる表示を使用している。また、被告は、将来その営業につき「ヨドバシポルノ」、 「ヨドバシ百貨」以外にも「ヨドバシ」なる文字を含む表示を使用するおそれがある。 4 営業主体の混同(一) 表示の類似性(1) 前記2のように「ヨドバシ」及び「ヨドバシカメラ」は原告の営業たることを示す表示として周知性を有するものであるが、「ヨドバシカメラ」については、それが営業表示として意識や価値を持つところは普通名詞である「カメラ」の部分ではなく、その主要部分である「ヨドバシ」の部分にある。 (2) 被告が使用している「ヨドバシポルノ」、「ヨドバシ百貨」なる表示のうち、営業表示として意義や価値を持つところは普通名詞である「ポルノ」や「百貨」の部分ではなく、その主要部分である「ヨドバシ」の部分にある。 よつて、右普通名詞が存すると否とにかかわらず、被告の右営業表示は、原告の周知営業表示と同一である。 (3) 仮に、被告の営業表示を「ヨドバシポルノ」、「ヨドバシ百貨」として、 一体としてとらえるべきであるとしても、被告の右営業表示においては「ヨドバシ」が主要部分であることは明白であるから、被告の右営業表示は原告の周知営業表示と類似する。 (二) 営業の同種性 原告も写真パネル(いわゆるヌード写真)等を販売しており、被告の取扱い商品と一部において重なりあう点もあり、しかも、原告は、前記1のとおり、短期間に急成長した若い企業であり、幅広い事業意欲を有し、今後共多角経営化を進めていくことが明らかである。 (三) 混同の事実(1) 原告の代表者、その家族、従業員等に対し、知人から「ヨドバシ」はポルノ屋まで始めたのか等の問合せが多い。 (2) 郵便の誤配がある。 (四) 以上より、被告の前記3の行為は、原告の、あるいは少なくとも原告と共同の営業上の施設又は営業活動と混同を生ぜしむる行為にあたることが明らかである。 仮に、原被告間において営業の同種性が存しない、又は認めにくい場合であつても、将来営業の同種性が生じる可能性があるとき、又は、本件の如く営業表示の周知性が強いときは、被告の前記3の行為は、原告の営業上の施設又は営業活動と混同を生ぜしむる行為にあたるというべきである。 5 営業上の利益を害せられる虞れ 被告が、原告の本店から一〇〇メートルの距離の被告店舗において、原告の周知営業表示と同一又は類似の営業表示をいわゆる大人のおもちやの販売に使用することは、原告の右営業表示の持つイメージを極端に低下させ(通常人をして眉をしかめさせ、かつ、何か暗い陰惨な感じを与え、もしくは低俗として軽くみられる。)て、原告の信用を傷つけ、右営業表示が有する顧客の吸引力や広告力を減殺し、稀釈化することは経験則上明らかである。これにより、原告が営々として築き、管理し、育てあげ、維持してきた右営業表示の無体財産権としての価値が減少し、原告の営業成積が下落し、又はその上昇率が鈍化する等の結果を招くものであり、原告の営業上の利益が害せられる虞れは充分に存する。 また、原告が資金と努力と創造力を傾け序々に着実に築きあげた価値のある営業表示を後から原告の店舗所在地の直近において勝手に使用する被告の「ただのり」行為は信義則違反の甚しいものであり、この点からも許されざるところである。 よつて、原告は被告に対し、不正競争防止法第1条第1項第2号に基づき、「ヨドバシ」なる文字を含む営業表示の使用の差止並びに被告店舗の看板中の「ヨドバシポルノ」及び「ヨドバシ百貨」の表示のうち、「ヨドバシ」の部分の抹消を求める。 二 請求の原因に対する答弁及び被告の主張1(一) 請求の原因1については、原告の設立年月日、新旧商号、新旧本店所在地は認め、その余は不知。 (二) 請求の原因2は不知。 (三) 請求の原因3のうち第一文は認める。 (四) 請求の原因4(一)は否認し、4(二)、(三)は不知。 (五) 請求の原因5は否認する。 2 不正競争防止法における営業主体の混同は、営業の同種性と表示の類似性の相関関係によつて判断すべきである(ただ、営業の同種性がない場合にも営業表示に特別の識別性、著名性が認められる場合、営業主体の混同は生じるとされている。)が、以下にのべるように原告と被告の間においては営業主体の混同は生じない。 (一) 営業の同種性の欠缺 原告の営業はカメラとその機材等の販売であり、被告の営業はいわゆる大人のおもちゃの販売である。したがつて、原告と被告の取扱う商品は全く異なつており、 原告と被告との間には現実の競業関係は全く存しない。よつて、原告と被告との間には営業の同種性はない。 (二) 表示の非類似性 原告が周知であると主張する営業表示は「ヨドバシ」又は「ヨドバシカメラ」であり、被告が使用する営業表示は「ヨドバシポルノ」又は「ヨドバシ百貨」であるが、表示の類似性を判断するにあたつては以下の諸点を考慮すべきである。 (1) 「ヨドバシ」というのは、原告の旧商号の「株式会社淀橋写真商会」にも使用されている「淀橋」という漢字を片仮名で表示したものであつて、「淀橋」は現在の西新宿一帯を示す地名であつたこと(新宿区は戦前の淀橋区、四谷区、牛込区が合併してできた区であり、現在の西新宿という町名は、角筈十二社、淀橋、柏木一丁目が合体して新しくできたものである。)。 (2) 西新宿一帯には淀橋税務署、淀橋保健所、淀橋電話局、淀橋中学校、淀橋第二中学校、淀橋第一、第二、第三、第四、第六、第七小学校等が存在するが、このように官公庁、公立学校の表示においても「淀橋」が多数使用されていること。 (3) 淀橋を使用している商号は東京法務局新宿出張所に登記されているものだけでも一五存在すること。 イ 株式会社登記簿 株式会社淀橋近江屋、淀橋建設株式会社、淀橋食糧販売株式会社、株式会社淀橋精機、淀橋コンピユーターユニオン株式会社、株式会社淀橋税理士会館、淀橋製パン株式会社ロ 有限会社登記簿 有限会社淀橋製作所、淀橋鉄工有限会社、有限会社淀橋モータースハ 合資会社登記簿 合資会社淀橋葬儀社、合資会社淀橋日独商会、合資会社淀橋燃料商会二 商号登記簿 淀橋ホテル、淀橋模範日用品市場(4) 以上により、「ヨドバシ」には特別の識別性はなく、また、「カメラ」並びに「ポルノ」及び「百貨」はいずれも普通名詞であるが、通常人が「カメラ」と「ポルノ」、「百貨」を混同することはありえず、結局「ヨドバシ」、「ヨドバシカメラ」と「ヨドバシポルノ」、「ヨドバシ百貨」とは表示において類似性はないというべきである。 (三) 原告の営業表示の特別の識別性、著名性について(1) 仮に表示の類似性が全くなくはないとしても、「ヨドバシ」は公知の地名である「淀橋」を片仮名書きにしたにすぎず、したがつて、原告の創りだした表示ではなく、また、原告が永年にわたつて使用してきた表示でもないから、原告の「ヨドバシ」及び「ヨドバシカメラ」なる営業表示には特別の識別性・著名性はない。 (2) 仮に原告の「ヨドバシ」及び「ヨドバシカメラ」なる営業表示に周知性があるとしても、それはあくまでもカメラに関するものであり、カメラ以外の商品には及んでいない。「現金で大量仕入れによる大廉売」のキヤツチフレーズも、あくまでもカメラの大量仕入れ大廉売であつて、それ以外の何物でもない。 以上のように、本件においては、営業の同種性、表示の類似性が存せず、しかも原告が主張する「ヨドバシ」、「ヨドバシカメラ」の営業表示には特別の識別性、 著名性は存しないから、被告の行為は原告の営業上の施設又は営業活動と混同を生ぜしむる行為にはあたらないというべきである。 三 被告の主張に対する原告の反論 被告は、「淀橋」は西新宿一帯の地名であり、付近には「淀橋」を使用した名称を有する官公庁、公立学校、会社等が多数存する旨主張する。しかしながら、「淀橋」は三〇年以上も前の昭和二二年に廃止された区名であり(現在は新宿区となつている。)、町名としての「淀橋」は新宿区と中野区の境界を流れる神田上水の沿岸の小地域にあつたにすぎず、原告の本店や被告の店舗所在地からは遠く、隔絶された地点である。すなわち、「旧淀橋」は「旧角筈二丁目」から西(中野区方面)に、「旧柏木一丁目」又は「旧角筈三丁目」という広大な町を超えた先に存したものであり、かつ、それも昭和四五年四月一日施行の住居表示により「淀橋」の町名は廃止になり西新宿五丁目とされているのである。よつて被告の現在の店舗所在地一帯が淀橋といわれたことはない。なお、原告が「ヨドバシ」を称するのは原告の前身である個人商店「淀橋写真商会」が約二〇年前右の旧淀橋町(神田上水の付近)において発足した歴史があるからである。 仮に、「淀橋」には元の地名としての名残があるとしても、漢字の「淀橋」を片仮名書きにした「ヨドバシ」は、多くの者が漢字とは全く異なつたイメージを感じとる、いわば全くの造語表示といえるものである。よつて、「ヨドバシ」は「淀橋」とは異なる独自性のある表示であり、強い識別力を有するものである。被告が、仮に「淀橋ポルノ」、「淀橋百貨」と漢字で表記した営業表示を使用するのであれば、それは原告の営業表示とはイメージが明白に異なるものであるから、営業主体の混同は生じない。従来からの考え方によれば、「淀橋」と「ヨドバシ」は同一か少なくとも極く類似することになるであろうが、かえつて今日では多くの人の意識に右の如き変化が生じていると解すべきである。 |
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証拠(省略)
理 由一 原告が昭和四二年七月四日、商号を「株式会社淀橋写真商会」、本店を「新宿区<以下略>」として設立され、その後商号を「株式会社ヨドバシカメラ」と変更し、本店を原告肩書地に変更したこと、及び被告が昭和五二年一〇月ころより東京都新宿区<以下略>(原告の本店から一〇〇メートルの直近にある。)に店舗をおき、同店舗の看板に「ポルノシヨツプ」等の表示と共に「ヨドバシポルノ」及び「ヨドバシ百貨」なる表示を使用し、また雑誌上の広告にも「ヨドバシ百貨」なる表示を使用していわゆる大人のおもちやと称せられる商品を販売していることは当事者間に争いがない。 二 「ヨドバシカメラ」及び「ヨドバシ」の営業表示の周知性について1 いずれも成立に争いのない甲第二、第三号証、第四、第五号証の各一・二、第六、第七号証、第一〇号証の二、第一一号証の一ないし四、第一二号証の一ないし五、第一三号証の一ないし六、第一六ないし一八号証及び電車内における原告のポスターの写真であること当事者間に争いのない甲第一〇号証の一及びいずれも本件口頭弁論の全趣旨により成立の認められる甲第八号証、第九号証の一・二並びに本件口頭弁論の全趣旨によれば、 (一) 原告のカメラ及びその関連商品の年間売上高は、おおよそ、 昭和四八年度 三六億円 昭和四九年度 七一億二〇〇〇万円 昭和五〇年度 一一七億円であり、右売上高は国内のカメラ専門店において、昭和四八年度で第五位、昭和四九年度で第三位、昭和五〇年度で第三位であつたこと、 (二) 原告は、遅くとも昭和四九年ころより昭和五一年、昭和五二年にかけて、 テレビ、ラジオを通じ、又は、日刊ゲンダイ、夕刊フジ、聖教新聞等の新聞、又はカメラ誌、又は電車内の中吊りポスター、チラシ、本店社屋外部の広告看板、広告塔によつて、原告の商号の略称である「ヨドバシカメラ」なる営業表示を、カメラ等の商品の廉価販売のキヤツチフレーズの下に、積極的に広告宣伝してきたこと、 及び右広告宣伝は今日に至るまで継続的になされてきたこと、 以上の各事実が認められる。 右各事実によれば、原告の商号の略称である「ヨドバシカメラ」なる表示は、遅くとも昭和五二年九月ころには、少なくとも東京都及びその周辺県において、原告の営業たることを示す表示として広く認識せられる表示となつていたことが認められる。 2(一) 前掲甲第二、第三号証、第四、第五号証の各一・二、第六ないし第八号証、第九、第一〇号証の各一・二、第一一号証の一ないし四、第一二号証の一ないし五、第一三号証の一ないし六によれば、少なくとも昭和五二年九月ころまでは、 (1) 前記1(二)のラジオ、新聞、カメラ誌その他の原告の広告において、 「ヨドバシ価格」、「ヨドバシローン」、「ヨドバシのアフターサービス」、「ヨドバシは駅の前」、「ヨドバシのフイルム」、「ヨドバシの超特価表」、「便利なヨドバシ」等の「ヨドバシカメラ」以外の文言が使用されている事実は認められるが、しかしながら、右いずれの広告においても右文言と共に「ヨドバシカメラ」なる表示が特別大きい活字体を使用する等の方法により営業表示として強調されて広告宣伝されており、これに対し「ヨドバシ」なる表示を「ヨドバシカメラ」なる表示と同程度に強調した広告宣伝は全く見受けられないこと、 (2) 新聞、雑誌等の記事において、第三者が原告を特定する場合に、「ヨドバシカメラ」と表示することはあつても、単に「ヨドバシ」だけで原告を特定した例は存しないこと、 以上の事実が認められ、右認定を覆す証拠はない。 (二)(1) いずれも成立に争いのない甲第一四号証、乙第一号証の一・二及び本件口頭弁論の全趣旨によれば、現在の新宿区は戦前の淀橋区、四谷区、牛込区が合併してできた区であること、戦後も、「淀橋」は、昭和四五年四月一日住居表示が施行されるまで、現在の西新宿二丁目一一番の若干部分、同四丁目一番ないし五番、同五丁目全体、及び同六丁目一一番ないし二六番を含む地域を示す町名として存続していたこと、並びに西新宿一帯(西新宿一丁目ないし六丁目)とその近辺には現在においても淀橋税務署、淀橋電話局、淀橋中学校、淀橋第二中学校、淀橋第一、淀橋第二、淀橋第三、淀橋第四、淀橋第六、淀橋第七小学校なる名称の官公庁、公立学校が存在することが認められる。 (2) いずれも成立に争いのない乙第三ないし第一七号証及び本件口頭弁論の全趣旨によれば、東京法務局新宿出張所には昭和五三年五月二三日の時点で、被告の主張2(二)(3)のイないしニ記載のとおり、「淀橋」を使用した商号が少なくとも一五登記されていることが認められる。 以上(1)、(2)の事実によれば、「淀橋」なる名称は少なくとも戦前までは、原告の本店及び被告店舗が所在する現在の西新宿一帯を包含する地域を示す地名であつたものであり、現在においても、西新宿一帯及びその近辺に存する官公庁、公立学校の名称、民間企業の商号に多数使用される等地名としての名残を強く留めており、一般によく知られている旧地名であることが認められる。よつて、右のような現在でも一般によく知られている旧地名「淀橋」を単に片仮名書きにしたにすぎない「ヨドバシ」なる表示は、表示としての独自性を有しないものといわざるをえない。 原告は、町名としての「淀橋」は新宿区と中野区の境界を流れる神田上水の沿岸の小地域にあつたにすぎず、原告の本店及び被告店舗所在地からは遠く隔絶された地点であり、右所在地一帯が「淀橋」といわれたことはない旨主張するが、前掲甲第一四号証、乙第一号証の一・二によれば、原告の本店及び被告店舗が所在する西新宿一丁目において、前記淀橋第二小学校が存在していることが認められ、この事実によれば、「淀橋」の地名を旧淀橋町のみに限定せんとする原告の右主張は採用しえない。また、原告は片仮名の「ヨドバシ」は漢字の「淀橋」とは全く異なるイメージの造語表示である旨主張するが、前記のように地名の「淀橋」を単に片仮名書きにしただけでは独自性のある表示とはいえないこと明らかであり、原告の右主張は採用しえない。 右(一)、(二)の事実によれば、1(一)、(二)の事実を掛酌しても、「ヨドバシ」なる表示は、昭和五二年九月ころにおいて、原告の営業たることを示す表示としてわが国において広く認識せられた表示であるとは認めることができず、他に右事実を認めるに足る証拠はない。 三 営業主体の混同の有無1 表示の類似性について 原告の周知営業表示は前記二のとおり「ヨドバシカメラ」であり、被告が使用する営業表示は前記一のとおり「ヨドバシポルノ」及び「ヨドバシ百貨」である。原告の右表示と被告の右表示とを各対比するに、「ヨドバシ」の点においては共通性を有するものの、「カメラ」に対し「ポルノ」、「百貨」の点でいずれも相違することは明らかである。 ところで、原告は、原告の「ヨドバシカメラ」なる表示及び被告の「ヨドバシポルノ」、「ヨドバシ百貨」なる表示について、営業表示として意義や価値を有する部分はそれぞれ普通名詞たる「カメラ」、「ポルノ」、「百貨」の部分ではなく、 その主要部分である「ヨドバシ」の部分にあり、被告の「ヨドバシポルノ」、「ヨドバシ百貨」なる表示は原告の、「ヨドバシカメラ」なる表示と同一又は類似である旨主張する。 しかしながら、前記二2(二)のとおり、「ヨドバシ」は、原告の本店及び被告店舗が所在する西新宿一帯についての現在でもよく知られている旧地名である「淀橋」を単に片仮名書きにしたもので、独自性を有しない表示であることからすれば、原告及び被告の右各表示の主要部分を「ヨドバシ」としてとらえるのは妥当ではなく、原告の「ヨドバシカメラ」なる表示はあくまでも「ヨドバシカメラ」として、被告の「ヨドバシポルノ」、「ヨドバシ百貨」なる表示はあくまでも「ヨドバシポルノ」、「ヨドバシ百貨」としてとらえ、両者を対比すべきである。 してみれば、被告の「ヨドバシポルノ」、「ヨドバシ百貨」なる表示は原告の「ヨドバシカメラ」なる表示と比べ、前記のような差異が存するものであり、類似しないことが明らかである。 2 営業の同種性について 原告は請求原因4(二)において営業の同種性について主張する。しかしながら、前掲甲第一二号証の二・三によれば、原告が販売する商品はカメラ、八ミリ撮影機、映写機及びフィルム、暗室用品等のカメラ関連商品並びに時計等であることが認められ、被告が販売する商品は前記一のとおりいわゆる大人のおもちやと称される商品である。右事実によれば、原被告間に営業の同種性が存しないことが明らかである。 3 以上のように、原告の周知営業表示である「ヨドバシカメラ」と被告の「ヨドバシポルノ」及び「ヨドバシ百貨」なる表示とは表示の同一性及び類似性がなく、 かつ、原被告間には営業の同種性もないものであるから、被告が右表示を使用して前記被告店舗においていわゆる大人のおもちゃを販売する行為は、原告の営業上の施設又は営業活動と混同を生ぜしむる行為ということはできない。 四 以上によれば、原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条の規定を適用して主文のとおり判決する。 |