関連ワード | 周知性 / 広く認識 / 需要者 / 類似性(類似) / 外観 / 商品の形態(商品形態) / 模倣 / 技術的機能 / 差止請求(差止) / 稀釈化(ダイリュージョン) / 代表者 / 識別力 / |
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事件 |
昭和
55年
(ヨ)
1797号
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 1980/09/19 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事仮処分 |
主文 |
本件仮処分申請を却下する。 申請費用は申請人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
(申請人)(1) 被申請人らは別紙目録(二)の(イ)および(ロ)記載の物件を販売してはならない。 (2) 前項記載の物件に対する被申請人らの占有を解き、申請人の委任する執行官にその保管を命ずる。 (被申請人ら)主文同旨 |
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当裁判所の判断
1 疎明によると、申請人は昭和四七年頃から業として商標名を「ボトル・キヤビネツト」という別紙目録(一)の(A)および(B)記載のような薬品瓶、薬品容器の保管庫(A、B号品)の販売をしてきたことが一応認められる。そして、右A、B号品の外観上の特徴を記述すると別紙目録(三)(比較表)中段記載のとおりとなることは当事者間に争いがない(ただし、被申請人らはその七、安全ボタンの項の「上端部に」の次に「小さめの目立たぬ」を挿入すべきである旨主張しているが、その当否は暫らくおく。)。 一方、被申請人樋口金庫株式会社も昭和五一年春から業として商標名を「セフテイキヤビネツト」という別紙目録(二)の(イ)および(ロ)記載のような薬品瓶、薬品容器の保管庫(イ、ロ号品)を製造しこれを相被申請人株式会社井内盛栄堂に販売し、同被申請人はこれを他に販売していること、および右イ、ロ号品の外観上の特徴を記述すると前掲別紙目録(三)(比較表)下段記載のとおりとなることは当事者間に争いがないか、または互いに明らかに争わないところである(ただし、被申請人らは右記載中、七、安全ボタンの項の「木のこ状の」の次に「大きく目立つ」を挿入すべきである旨主張しているが、その当否は暫らくおく。)。 2 申請人は、本件仮処分申請において、A、B号品には前記のような商標が付され自他識別されているにもかかわらず、これとは別に、その形態自体も不正競争防止法1条1項1号所定の「商品タルコトヲ示ス表示」であり自他識別力(表示力)を有し、かつ、その形態はおそくともイ、ロ号品の発売がなされた昭和五一年春頃にはほかならぬ申請人の商品であることを示す形態として本邦内で広く認識されるに至つた旨主張して、同法条項号に基き、これと類似する形態を有するイ、ロ号品の販売差止等の仮処分を求めるというのである。 一 思うに、商品と商標その他の商品表示とは元来別個の概念ではあるが、もし商品の形態自体が商品表示と同じように自他識別機能を有している場合にはこれを前記法条項号にいう表示として所定の保護を与えるべきこと申請人所論のとおりである。しかし、商品の形態自体がこのような識別力を有しているかどうかを考えるさいには、その形態が極めて特殊かつ独自なものであるか否か、またその形態が特定の商品形態として永年継続的かつ独占的に使用されてきたか否か、あるいは形態自体が強力に宣伝されたか否か等の諸要素を慎重に総合判断して決するのが相当で、 形態がありきたりのものであるような場合は考慮の外に置くべきである。けだし、 もともと形態は当該商品の果す目的機能からして必然的に定まる要素も多いのであつて、このような技術的機能に由来する形態要素は多くは公知公用であるためこれに当該商品の自他識別力を付与するのは相当でないからである。換言すると、もともと形態が表示力を有するというのはその二次的機能(セカンダリミーニング)を認めることであつて安易に認めるべきものでないと考えるのが本筋であると思われるからである。また、不正競争防止法は競業の自由を認め、工業所有権による保護のない製品や外観の模倣を原則的に自由であることを建前としていることにも留意すべきである(登録制度をとる工業所有権ですら終期があり、その後は自由利用が予定されているのに、不正競争防止法による保護は永久的になりうる点も参照)。 二 そこで、これを本件A、B号品について考えるに、疏明によると、(イ)A、 B号品は箱型ステンレス銀色のキヤビネツト本体に五個または三個の縦長抽出を設けたことを形態上の特徴とするもので、発売当時他の有力業者の同種商品には戸棚式のものが多かつた点を考えるとかなりその形態が異つていたこと、(ロ)申請人はA、B号品について相応の販売成績を挙げ(ただし、その当業界におけるシエア率は不明)、また相応の宣伝広告もしていること(ただし、同業他社に比し極立つて広範多量に宣伝したと認められる疎明はない。なおまた、主張にかかる大阪国際貿易センタービルでの常設展示等昭和五一年春以降の活動は本件では資料とすることはできないからこれは捨象すべきである。)が一応認められる。 しかし、他方、疏明および当裁判所に顕著な事実によると、(イ)′キヤビネツト本体の箱型形態は薬品瓶その他の保管庫としてはそれほど特異なものではなく(従来の飲料水用瓶とコカコーラの瓶とを対比参照)、むしろ、その形態は室内におく保管庫としての目的機能から必然的に由来する要素部分も多いと考えられること(申請人は、A、B号品はこの種薬品保管庫としてはパイオニヤ的なものであるとしてその優秀性を強調するが、その主張中には形態以外の機能に関する部分が多く含まれていること明らかである。)、(ロ)′にA、B号品発売前すでに周知といえないまでも公知公用の保管庫としてこれと類似する別紙目録(四)のTU記載のような形態のものが存したこと、(ハ)′申請人代表者は申請人においてA、B号品がその実施品であるという意匠権(昭和五〇年八月一五日登録の第四一一九九八号)を被保全権利として別途被申請人らを相手方とする仮処分申請をし(当庁昭和五五年(ヨ)第一〇六九号意匠権仮処分申請事件)、同じイ、ロ号品の製造販売禁止等の仮処分を求めたが被保全権利を欠く(類似性なし)として却下されていること、すなわち、イ、ロ号品の形態は、別件仮処分事件で、申請人自からA、B号品がその実施品であるという登録意匠権に基く差止請求の認められる範囲にすら該当しないと一応判断されていること、(ニ)′申請人は昭和四八年当業界の大手企業である島津理化器械株式会社にA、B号品と同一の商品を「フローベルキヤビネツト」と称し販売することを認め、また同五〇年には和光純薬工業株式会社にもA、B号品をその発売元として販売することを認め、以後両社は申請人と並行してこれらを販売し宣伝しており、これらの市場現象は少なからずA、B号品の形態がほかならぬ申請人販売にかかる商品の形態であることを示す力を減殺し、その自他識別力を稀釈化していること、(ホ)′この種商品はいわゆる消耗品ではないから当然のことながら需要者は単にその形態を一見しただけで選択購入をするのではなく、その機能やその出所等を相応に検討してこれを決するのが通常で(A、B号品、イ、ロ号品ともにその正面に自社名、商標を付している点も参照)、そのため形態自体の出所識別力は相対的に低いと思われること等の事実が一応認められる。 三 しかして、これらの事情を彼此総合して考えると、本件A、B号品の形態自体について申請人主張のような自他識別力ひいては周知性を肯認するにはいまひとつ資料が不足であるというほかない(申請人の主張を通覧すると、申請人としてはA、B号品の商品としての優秀性を自負し、被申請人らのイ、ロ号品の発売をいわゆる只乗り行為ーフリーライデイングーであると考えていることも一定の限度で肯けないではないが、当裁判所としては、結論的には、前記法条の上来説示の趣旨、 疏明事実に照らし前示のとおり解するほかないと考える。なお、四角い容器に関する前橋地判昭五〇・一〇・二九インスタント焼そば事件無体集七巻二号四一一頁参照)。 3 はたしてそうだとすると、本件仮処分申請は爾余の判断をなすまでもなくその被保全権利の疏明を欠き理由がない(のみならず、本件仮処分申請が被申請人らのイ、ロ号品販売開始約四年後である昭和五五年四月二五日に提起されたものであること等諸般の事情に照らすと、当裁判所は、本件については、いま申請人が求めるような断行の仮処分をなす必要性についてもなお疏明が不十分であると考える。)。 そして、本件は事案に照らし被保全権利の疏明にかえて保証を立てさせてその申請を認容することも相当でない。 よつて、本件仮処分はこれを却下し、申請費用の負担につき民訴法89条を適用して主文のとおり決定する。 |
裁判官 | 畑郁夫 |
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