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事件 昭和 50年 (モ) 920号
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裁判所 札幌地方裁判所
判決言渡日 1976/12/08
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事仮処分
主文 一 債権者と債務者間の札幌地方裁判所昭和五〇年(ヨ)第二七九号不正競争行為の差止の仮処分申請事件につき、当裁判所が昭和五〇年五月二四日なした仮処分決定は、これを許可する。
二 訴訟費用は債務者の負担とする。
事実及び理由
当事者双方の求めた裁判
一 債権者主文同旨の判決二 債務者 「主文第一項記載の仮処分決定(以下、本件仮処分決定という)を取消す。債権者の本件仮処分申請を却下する。訴訟費用は債権者の負担とする」との判決。
当事者双方の主張
(債権者の申請の理由)一 債権者は、申請外洞口製缶所に製造依頼した別紙表示のステンレス製牛乳缶型容器(以下、単に本件容器という)に債権者製造のバター飴を入れ、ラベルおよび包装箱を使用して「北海道名産バター飴」と記したものを商品として、昭和四七年四月一一日以降販売しているのであるが、その販売区域は、北海道地方全域から更に広く本州観光地まで及んでおり、昭和五〇年三月までの間の総販売数量および総販売価額は、三七万八、九五〇缶、金二億三、三八〇万五、〇〇〇円に達している。
右「北海道名産バター飴」(以下、債権者の本件商品という)は、容器としてステンレス製牛乳缶型容器を使用していることの特徴のために、酪農業の盛んな北海道のイメージを彷彿させ、北海道地域における特色ある観光土産品として広く認識されており、昭和五〇年三月優良道産品推奨協議会から優良道産品として認定されている程であるうえに、右ステンレス製牛乳缶型容器を、菓子たるバター飴の容器として使用していたのは、債権者のみであつたから、債権者の商品として広く認識されていたものである。
二 債務者は、北海道地方で菓子類の製造、販売を業とすることを目的として昭和四八年六月一日設立されたもので、その取締役【A】は、もと債権者に雇われ、菓子販売の業務に従事していたものであるが、昭和五〇年三月頃前記申請外洞口製缶所に対し、ほしいままに債権者斡旋名義で、本件容器を申請外有限会社天喜屋本舗に販売納入させたうえ、同年四月中旬頃申請外有限会社天喜屋本舗から右容器に同会社製造にかかるバター飴を入れたものを商品として仕入れたうえ、これに更に債権者商品のラベル、包装箱などと同一の色を使用し、これに類似したラベル、包装箱を使用し、かつ、「北海道銘菓バター飴」と記したものを商品としてこれをその頃北海道地方において販売するに至つた。
三 債務者が右の如く販売している「北海道銘菓バター飴」(以下、債務者の本件商品という)は、本件容器と全く同様の容器を使用し、更に債権者商品と類似の包装箱、ラベル、名称を使用しているところから、債権者の本件商品の出所につき、
現に北海道千歳、網走方面の問屋、小売店などから債権者に対し、その確認の問合せがあるなど誤認混同を生じ、かつ、債権者の営業上の利益が害されており、これらは将来に向つてもその虞れがある。
四 そうして見れば債務者の右行為は不正競争防止法第1条第1項第1号に該当するので、債権者はその差止を請求し得べきものというべく、債権者はこれを被保全権利として昭和五〇年五月二一日当裁判所に対し債務者を被告として右不正競争行為の差止請求の訴を提起したが、その本案の確定をまつては債権者の蒙る損害が莫大になる虞れがあるので、同日当裁判所に対し債務者の右行為の差止の仮処分申請(当庁昭和五〇年(ヨ)第二七九号事件)をなしたところ、当裁判所は、債権者に金二〇〇万円の保証を立てさせたうえ、昭和五〇年五月二四日に、別紙のとおりの仮処分決定をなしたものである。右決定は相当であるから、前記申請の趣旨記載の判決を求める。
(申請の理由に対する債務者の答弁)一 申請の理由一の事実のうち、債権者が昭和四七年四月ころ本件容器にバター飴を入れ、その主張の如きラベル、包装箱を使用し、「北海道名産バター飴」と表記したものを販売していたこと、債権者がその主張の如く北海道産品推奨協議会から本件商品につき優良道産品の認定を受けたことは認める。
債権者の本件商品の販売区域が広く本州観光地まで及んでいること、債権者の本件商品表示が、債権者の商品として、広く認識されていることは否認し、その余の事実は不知、但し債権者の本件商品名は「バター飴」であつて、「北海道名産」の部分は、産地の特色を出すため修辞的に用いられているに過ぎないというべきである。
二 同二の事実のうち、債務者が北海道地方で菓子類の製造、販売を業とすることを目的として債権者主張の時期に設立されたものであること、債務者が原告主張のころから本件容器にバター飴を入れ、その主張の如きラベル、包装箱を使用し、
「北海道銘菓バター飴」と表記したものを北海道地方で販売を始めたことは認めるが、その余の事実は否認する。
三 同三の事実は否認する。
四 同四の事実のうち、債権者主張の各日時に、本案訴訟の提起及び仮処分申請があり、本件仮処分決定がなされたことは認めるが、その余は争う。
(債務者の主張)一 債権者の商品の包装、ラベル等について見れば、債権者のラベルは、淡黄色の単純な地に、「バター飴」という商品名が黒文字で表示され、またラベルの上下部分にそれぞれ濃いオレンジ色の太線と細線の縁どりがされているのに対し、債務者のそれは、空色と濃黄色の地を上下二段に斜めに分け刷りした地に、牧場の牧舎とサイロ、放牛、牧柵等を画き、「バター飴」という商品名も黒文字を白で縁どりするというデザインを採用しており、そこに何ら類似性は認められない。又、包装箱については、周辺の部分がオレンジ色で縁どりされている点は両商品とも同じであるが、債権者のそれは、黄色の単色の地に、正面には黒字で「バター飴」という表示が、また他の三面には同じデザインの「バター飴」という文字が各々白字で表示され、上蓋にはローマ字で会社名が表示されるという表装となつている。これに対し債務者のそれは黄色と緑色の二色を上下二段にやや斜めに分け刷りした地に、正面は「バター飴」という黒文字を白で縁どりした文字を、また他の三面には「バター飴」という表示はなく、ラベル同様の牧舎とサイロ、放牛、牧棚等を画き、上蓋には「北海道」という文字をオレンジ、緑、黒三色で北海道の地形にデザインした表示がされており、「バター飴」という文字も、債権者のそれは、丸味を帯びた筆文字で周囲に墨がにじんだ感じのデザインとなつているのに対し、債務者のそれは、角張つた肉太の文字で、周囲部分をデザイン的に欠けたような感じで表示しており、文字の大きさ等も、債権者のそれは、わざと文字の配列をはずした感じで箱の面全体をおおうようにデザインされているのに対し、債務者のそれは、文字の配列も通常であり、大きさも比較的小型にまとめられている。
以上、ラベル、包装箱いずれのデザインを比較しても、両商品の類似性は稀薄である。かりに多少の類似性はあるとしても不正競争防止法第1条第1項第1号にいう類似性は認められない。
二 債権者が、本件商品を販売するようになつたのは、昭和四七年四月ころであり、販売後三年を経過しているに過ぎない。しかも本件商品は観光地を中心として売出されているものであり、三年程度の販売実積では、観光客ならびに道民の間で債権者の商品として広く認識されるところまでは到底達しないものといわざるを得ないし、債権者自身の製菓会社としての道内における知名度もそれ程高くはない。
現に債務者は取引先である問屋および小売店に対し自社の製品であることを明示し、品質、数量等の厳密な調査を受けたうえで販売しているものである。観光客ならびに道民の認識の程度としては、牛乳罐型容器に入つたバター飴という一般的イメージの中で、店内にある各社の製品の中から目的に合つた商品を選択購入するのがせいぜいというべきで、債権者の当該商品を結果として購入した場合でも、それはたまたま選択目的に合致したというだけのことで、債権者の当該商品が債権者の商品として広く認識されている結果とは到底いえないのである。
三1 本件容器は既に菓子販売業者間において一般的に自由に使用せられているものである。既ち、本件容器は、東京都墨田区所在の申請外有限会社富士野金属(旧商号有限会社富士野製作所。以下富士野製作所という)と、アメリカミズーリ州セントルイス市所在のアルミニウム・ハウスウエアーズ社(以下、A・H・C社という)とが、共同で昭和三八年ころ開発した容器であり、以後富士野製作所はこれを製造し、一部はA・H・C社を通して、食品容器として広くアメリカ国内で販売し、又一部は直接国内で販売していたものである。そして冨士野製作所は昭和四五年頃申請外洞口製缶所に対し、本件容器の蓋部分を販売するとともに、その胴部分の製作及び本件容器の販売を許容した。その後申請外有限会社富士野製缶が設立されるや、同会社は本件容器を製造し、昭和四八年以降申請外洞口製缶所に対し容器完成品を販売し、更に申請外洞口製缶所はこれを広く転売していたものである。又申請外A・H・C社と同冨士野製作所とは昭和四〇年二月に本件容器に関し、特許庁に対して意匠登録出願をなしたところ、昭和四二年四月既存の牛乳の集配に使用されているミルク缶に類似するという理由で出願を拒絶されたもので、本件容器自体は既に広く知られた意匠に属するものである。
更に申請外雪印乳業株式会社、同池田製菓株式会社等の業者は、債権者が本件商品を販売するに至つた時期より約一〇年程前から、本件容器とは型式を異にするが、やはり牛乳缶型容器にバター飴を入れたものを商品として販売しており、千葉県所在の申請外マザー牧場は、既に本件容器と同型式の容器にバター飴を入れたものを商品として販売していたものである。債権者は、昭和四六年秋ころたまたま本件容器を入手し、かつ、前記申請外マザー牧場において本件容器にバター飴を入れたものを商品として販売していることを知つたことが契機となつて、本件容器にバター飴を入れて販売するようになつたに過ぎない。したがつて、本件容器にバター飴を入れたものを商品として販売することは、何ら商品表示の混同とはならないというべきである。
2 又「北海道名産バター飴」なる表記についても、商品の一般的な名称として使用せられているものである。既ち、バター飴自体は債権者の創造開発になる製品ではなく、古くからバターを原料の一部とする独特の風味をもつ飴として、北海道内はもとより広く日本各地の観光地を中心に販売されていたもので、製造所、地域によつて、その品質、風味に若干の差異はあるものの、それほど大きな差異はない。
「バター飴」という名称も、バターを原料の一部とする飴の商品に広く慣用せられている普通名称に過ぎない。
更に、債権者の「北海道名産」なる表示も、地域の特殊性を出すため、道内観光地で販売されている土産品に広く慣用されている表示であり、殊に「北海道」と「バター」というつながりから連想される牧歌的イメージ現出のため、特にバター製品などに広く慣用されている一般的用法であるに過ぎない。
四 本件仮処分決定は、包装箱に入れられてラベルを貼つた本件容器のみならず、
ラベルを貼らない本件容器をも対象としているが、仮に本件仮処分の必要性があるとしても、本件商品を構成する本件容器、ラベル、包装箱、バター飴のどの部分にどのような仮処分の必要があるのか厳密に判断すべきであり、一律に仮処分の対象とした本件仮処分決定は、その限りで不適法というべきである。
五1 本件仮処分の執行により債務者の倉庫に保管中の本件商品一二個入りの段ボール箱四九九ケースが執行官保管となり、債権者倉庫に移された。
2 しかし、右執行官保管となつた容器中には、いずれもバター飴が詰められており、春に販売する予定でバター飴の包装は〇・〇六ミリの厚さの薄手ビニール袋を使用している。したがつて、一か月半より長期の保存がきかず、このまま仮処分執行が継続されると、バター飴が変質して、販売不能となる。
3 また、執行官保管となつた四九九ケースのうち、三〇〇ケースについては既に他との売買契約が成立しているが、このまま仮処分執行が続行されると右契約の履行が不能となるほか、右売買代金によつて本件容器の仕入先に支払うことになつていた右容器代の支払も困難となる。
六 よつて、申請の趣旨に対する答弁記載の判決を求める。
(債務者の主張に対する債権者の答弁)一 債務者の主張一および二の事実は争う。
二 同三の1の事実のうち、申請外雪印乳業株式会社および同池田製菓株式会社が債務者主張の如く牛乳缶容器にバター飴を入れて販売していたことは認めるが、その余は不知。但し、両社が使用した容器は本件容器と全くその型状を異にしているうえ、現在では両社とも牛乳缶型容器を使用して販売していない。
同2の事実は争う。
三 同四及び五の事実は争う。
証拠(省略)
理 由一1 債権者が昭和四七年四月ころ本件容器にバター飴を入れたものに、ラベル、
包装箱を使用し、「北海道名産バター飴」との名称を付したものを、債権者の商品として販売するに至つたことは、当事間に争いがない。
2 証人【B】の証言により真正に成立したものと認められる疎甲第一号証、成立に争いのない疎甲第三号証、第一八ないし二〇号証、対象物につき争いのない疎乙第七、八号証の各一、二、証人【B】、同【C】、同【D】の各証言、債務者代表者本人尋問の結果を総合すると債権者は申請外洞口製缶所に対し本件ステンレス製牛乳缶型容器の製造を依頼し、これを仕入れたものであること、債権者は、昭和四七年四月ころの本件商品の発売以来同五一年三月ころまでの三年間、本件商品を販売し、既にその販売数量は合計三七万八、九五〇缶、卸総額は金二億三、三八〇万五、〇〇〇円に達し、債権者の中心的商品となつていたこと、そして、債権者の本件商品は、昭和五〇年三月優良道産品推奨協議会から優良道産品として推奨を受けた外(このことは当事者間に争いがない)雑誌やパンフレツトに北海道の代表的土産物として写真付で掲載されたり、有名デパートにおいても販売されるに至つており、北海道内においては、ほとんどの土産品店で販売されるに至つていたこと、昭和四七年四月ころ当時、既に申請外池田製菓株式会社、同北海道牧場株式会社は、
着色したブリキ製牛乳缶型容器にバター飴を入れたものを商品として販売していたが、これに比し、債権者の本件容器は胴体部分にステンレスを使用していたことなどから好評を博していたことを認めることができる。ところで、債権者の本件商品は、右容器の表示を以つてしては、未だ一般観光客、小売店の段階でこの出所が債権者であることを想起させる程度に周知のものであつたということはできない。しかし、前記証人【B】、同【D】の各証言によれば、本件商品は、容器としてステンレス製牛乳缶型を使用している特徴を有していたため、少くとも問屋の段階では債権者の商品として広く認識されていたことが認められるうえ、前示のような販売実績等からみれば、一般観光客、小売店層においても、債権者の本件商品が特定の出所より出たものであることの認識は、かなりの程度で広まつていたものと推認することができる。そうしてみれば、債権者の本件商品は、殊にバター飴の容器にステンレス製牛乳缶型を使用していることにおいて、少なくとも北海道地方では広く認識されていたもの即ち周知性を有する商品表示を有していたものということができる。
二1 債務者は北海道地方で菓子類の製造、販売を業とすることを目的として昭和四八年六月一日設立されたものであり、債務者が昭和五〇年四月中旬ころ本件容器にバター飴を入れたものに、「北海道銘菓バター飴」と表示して北海道地方において販売するに至つていたことは、当事者間に争いがない。そして、成立に争いのない疎甲第一五号証、第一六号証、証人【B】の証言及びこれにより成立の認められる疎甲第四号証の一、二、第五号証、第六号証、第一七号証、証人【C】の証言、
債務者代表者本人尋問の結果によれば、債務者代表者(以下、単に【A】という)は、昭和四六年二月から同四八年二月までの間債権者に雇われ、殊にその間昭和四七年四月以降からは債権者の本件商品の販売に従事していたこと、【A】は昭和四八年二月に債権者から退社したが、その後債務者が前示の如く菓子類の製造、販売を目的として設立されるや、その取締役に就任し、以来実質的に債務者の業務の運営に当つていたこと、【A】は昭和四九年八月ころ前示申請外洞口製缶所に対し、
「別府市所在の申請外有限会社天喜屋本舗が、九州地方に限り本件容器を使用して菓子販売を行うので、本件容器を同会社に販売、納入してもらいたい」旨申入れたうえ、そのころ申請外洞口製缶所をして、申請外有限会社天喜屋本舗に対し本件容器を販売、納入させたこと、そして、債務者は昭和五〇年三月ころ申請外有限会社天喜屋本舗から債務者に対し、右本件容器計一二、四四四缶の転送仕入を受け、債務者はこれにバター飴をつめたものに、ラベル、包装箱を施し、「北海道銘菓バター飴」と名称を付した右商品を同年三月末ころ以降北海道内で販売を開始するに至つたこと、以上の事実を認めることができる。
2 対象物につき争いのない疎甲第二号証の一ないし六、第八号証の一ないし六、
疎乙第六号証の一ないし七によれば、債権者の商品と債務者の商品とはその牛乳缶型容器が前示のようにいずれも申請外洞口製缶所製であり、ただ債権者の容器の胴体部分に北海道の地図と牛のマークを組合せた打出しがあるのに、債務者のそれにはこれがないことの外は外見上は全く同じであり、ラベルについてみると、債権者のそれにおいては、淡黄色の単純な地に「バター飴」という商品名が黒文字で表示され、またラベルの上下部分にそれぞれ濃いオレンジ色の太線と細線の縁どりがされているのに対し、債務者のそれは、空色と濃黄色の地を上下二段に斜めに分け刷りした地に、牧場の牧舎とサイロ、牧牛、牧柵等を画き、「バター飴」という商品名も黒文字を白で縁どりするというデザインを採用しているものであり、又包装箱については、周辺の部分がオレンジ色で縁どりされている点は両商品とも同じであり、債権者のそれは、黄色の単色の地に、正面には黒字で「バター飴」という表示が、また他の三面には同じデザインの「バター飴」という文字が各々白字で表示され、上蓋にはローマ字で黒で会社名が表示されるという表装となつているのに対し、債務者のそれは黄色と緑色の二色を上下二段にやや斜めに分け刷りした地に、
正面は「バター飴」という黒文字を白で縁どりしたものを、また他の三面には「バター飴」という表示はなく、ラベル同様の牧舎とサイロ、牧牛、牧柵等を画き、上蓋には「北海道」という文字をオレンジ、緑、黒三色で北海道の地形にデザインした表示がなされており、「バター飴」という文字も、債権者のそれは、丸味を帯びた筆文字で周囲に墨がにじんだ感じのデザインとなつているのに対し、債務者のそれは、角張つた肉太の文字で、周囲部分をデザイン的に欠けたような感じで表示しており、文字の大きさ等も、債権者のそれは、わざと文字の配列をはずした感じで箱の面全体をおおうようにデザインされているのに対し、債務者のそれは、文字の配列も通常であり、大きさも比較的小型にまとめられていることを認めることができる。そうしてみると債務者の本件商品表示は、バター飴の容器としてステンレス製牛乳缶型を使用したことにおいて債権者の商品表示と同一のものを使用したものというべく、又ラベル、包装箱の点において債権者のそれと類似のものを使用したものということができ、かつ債務者の右表示の使用は、債権者の本件商品と混同を生ぜしめるものということができる。両商品が、ラベル、包装箱において全く同じ外見を有しているとはいえないが、しかしながら、不正競争防止法第1条第1項第1号においていう「他人の表示と同一若しくは類似のもの」とは、商品の出所につき誤認混同を生ずる虞があるか否かによつて決すべきであり、それには商品に使用された表示がその外観、称呼、観念等によつて取引者に与える印象記憶連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とするのである。従つて、右類似のものというには、商品表示が細部にわたるまで完全に一致することが必要とされるわけではない。即ち、需要者は、一般的に商品購入の態度として商品を詳細に比較して購入するものではないし、又、必ず両商品が同時に販売されているわけでもないので、常に細部にわたり比較ができるわけのものでもない。そして、需要者は通常記憶している商品表示のイメージに基づいて商品の選択、購入をなすものであるから、商品表示の類似の判断に際しては、取引事情を全体として観察したうえ、一般需要者ないし取引者において、これを同一又は類似のものと考えるのが通常であるか否かによつて決すべきであるからである。そして、又、その商品表示のイメージを構成する主要な部分で共通のものがあれば、その商品表示は全体として類似があるものとみることができる。
本件においてこれをみると、債権者、債務者の両商品とも、その商品のイメージを構成する主要な部分は、バター飴の容器としてステンレス製牛乳缶型容器を使用していることであり、債権者の本件容器の胴の部分に牛と北海道の地図のマークを組合せた打出しがあることは細部の違いに過ぎず、全体的にみれば、全く同一と考えてよいのである。そして、右ラベルについては、その色、デザインに前示程度の違いがあるが、このラベルが本件容器に付けられた場合、本件容器の特徴ある形態および素材からして、債権者と債務者の商品につき、混同が生じなくなるとは考えられない。更に包装箱についてみると、周辺の部分がオレンジ色で縁どりされている点、地に黄色が使われている点は両商品とも同じであり、ただ債務者の商品の場合には、側面の地の上方部分に緑色が使用されているに過ぎないのであるから箱全体のイメージそのものは同一に近いものとみることができる。そして、箱における他の部分における違いも、右の全体的イメージを変換させるものとはいえないうえ、そもそも、ステンレス製牛乳缶型容器入りバター飴を購入しようとする観光客等の需要者は、その包装箱によつてではなく、本件容器そのもので債権者の商品を選択しようとすると見るのが相当であるから、箱のデザインが多少異なつていたとしても、直ちに本件の商品においてその混同が生じなくなるものとは解せられない。したがつて、以上のように本件容器、ラベル、包装箱を含めて全体として、債権者、債務者の商品表示を比較すると、この間に商品表示の類似が存し、その出所につき何らかの関係が存するのではないかと思わしめる混同の虞を生じたものというのが相当である。
三1 ところで、債務者は、債権者の本件商品の容器がステンレス製牛乳缶型であるところ、これを菓子の容器としたことについては、既に他の菓子製造業者において牛乳缶型容器入りバター飴を売出していたから、債権者の本件商品の容器及び販売方法に何らの独創性、新規性もなく、一般に慣用され自由に使用されていた表示である旨主張する。申請外池田製菓株式会社及び同北海道牧場株式会社が夫々当時牛乳缶型容器にバター飴を入れたものを販売していたことは、前示のとおりであるが、しかしながら、同じ牛乳缶型容器とはいつても、一方はブリキ製の着色缶であり、他方はステンレス製の缶であるなど容器の形態、外見が全く異なつており、その間に混同を生ずるものということはできず、したがつて、本件商品はその容器において自他商品の識別力を十分そなえていたものということができるのであるし、
又、菓子の容器として本件容器を使用することが慣用せられた表示であると認めるに足りる証拠は存しない。そして不正競争防止法第1条第1項第1号にいう周知商品表示は必ずしも新規性、独創性のあるものであることを要しないと解するのが相当である。
2 又、証人【C】の証言によれば、申請外有限会社洞口製缶所は昭和四五年ころから本件容器を千葉県所在の申請外マザー牧場に対し年間三、〇〇〇ないし四、〇〇〇個程納入し、申請外マザー牧場においてこれにバター飴を詰め販売していたことが認められるが同証言によれば、その販売区域は千葉県下の申請外マザー牧場所在地に限られていたことが認められるから右の申請外マザー牧場製の牛乳缶型容器入りバター飴の商品表示が、日本国内ないし関東地方において周知性を有するに至つていたものとはいえないところであり、債権者の本件商品表示の周知性の妨げとなるものではないのみならず、これが未だ慣用表示であるということはできない。
3 更に、債務者は、そもそも本件容器を開発したのは、申請外有限会社富士野製作所とA・H・C社であり、かつ広く知られた意匠であつて、本件容器の使用は債権者の商品表示として周知性はないのみならず、その使用は慣用表示である旨主張する。
証人【E】の証言およびこれにより成立の認められる疎乙第二号証、第三号証、
第一三号証、第一四号証、証人【C】の証言、対象物につき争いのない疎乙第五号証の一ないし四によれば申請外有限会社富士野製作所とA・H・C社とは共同で昭和三八年頃本件容器を開発したうえ、申請外洞口製缶所に対し、本件容器の胴の部分の製作を依頼し、又申請外【E】(後に申請外有限会社富士野製缶)に対しその蓋の部分の製作を依頼し、これを家庭用食品容器としてA・H・C社を通じて主にアメリカに輸出販売していたこと、ところで、この間申請外富士野製作所とA・H・C社は昭和四〇年二月にA・H・C社の日本総代理店をしていた【F】を出願人として本件容器につき意匠登録出願をなしたが、昭和四二年四月に最終的に登録を拒絶されたこと、以上の事実を認めることができる。したがつて、本件容器は、
既に申請外富士野製作所とA・H・C社との開発によるもので、かつ意匠登録出願を拒絶されたものであるから、債権者において本件容器について意匠権等の独占的権利を有するものではないが、しかしながら、本件は、債権者の本件商品が広く販売され、本件容器のため広く認識せられ周知性を獲得した場合に、これが不正競争防止法上保護されるかという問題であるから、債権者において本件容器の意匠権等の独占的権利を有することが前提となるものではないので、債権者が本件商品につきこれを有しないことは何ら債権者の本件商品の周知性の存在につき、その妨げとなるものではない。
4 次に債務者は、バター飴自体が債権者の創造による製品でないこと、「バター飴」という名称も一般に広く慣用されている普通名称であること、「北海道名産」「北海道名菓」という表示も一般に慣用されているものである旨主張しているが、
債権者は本件においてバター飴自体の販売及び「バター飴」「北海道名産」なる表示の使用自体を独立のものとして、その差止を求めているものではないのであるから、債務者の主張は採用することができない。
四 証人【B】の証言によれば債務者が債務者の本件商品を販売した昭和五〇年三月末から四月にかけて、問屋筋から債権者に対し本件商品の出所についての問合せが、現実に殺到し、債権者と債務者との商品の出所に現に混同が生じていることが認められるから債務者の本件商品の販売がなお行なわれた場合に債権者が営業上の損害を受けることは明らかであり、したがつて、債権者は、不正競争防止法第1条第1項第1号により、債務者の本件容器を使用した商品の製造、販売、販布の差止を求めうるものということができ、又、右差止を仮処分によつてなす必要性もこれを肯認することができる。
五 なお、債務者は本件仮処分の必要性があつたとしても、包装箱、ラベルを貼つた本件容器、ラベルを貼らない本件容器等に分けてその必要性が異なる結果、その仮処分の対象となるか否かに差が生ずる旨主張し、すべて一律に仮処分の執行の対象にした本件仮処分決定は不適法である旨主張するが、商品主体混同行為のあるときは混同を惹起する一切の行為の差止を請求し得るものと解すべきであるから、これを実効あらしめる行為についてもこれを求めうべく、しからば、未だラベルを貼らない本件容器についても本件仮処分の必要があるものということができるから、
この点の債務者の主張は採用し得ない。
六 更に、債務者主張のような特別事情は未だ本件仮処分を取消すべき事情にあたるものとはいえない。
七 よつて、債権者の本件仮処分申請は理由があり、これを認容してなされた本件仮処分決定は相当であり、又これを取消すべき事情はないから、これを認可することとし、民事訴訟法第89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 磯部喬
裁判官 畔柳正義
裁判官 平澤雄二
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