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元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 昭和 46年 (ワ) 4803号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1974/09/10
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件本訴請求及び反訴請求は、いずれもこれを棄却する。
本訴の訴訟費用は本訴原告らの負担とし、反訴の訴訟費用は反訴原告(本訴被告)日本チヤコペーパー株式会社の負担とする。
事実及び理由
双方の求めた裁判
一 本訴請求について。
(一) 原告(クロバー株式会社については、反訴被告でもあるが、以下単に原告という。)らの求めた判決1 被告【A】及び被告(反訴原告。以下単に被告という。)日本チヤコペーパー株式会社は、原告らの製造販売にかかる布地転写紙「クロバーチヤコピー」について、これを模造品・粗悪品・特許侵害品等であるかの如き誤解を生ぜしめるような広告・宣伝・文書の配布等をしてはならない。
2 被告日本チヤコペーパー株式会社は、別紙(一)記載の謝罪広告を、日本経済新聞全国版、釦手芸裁縫新聞及び洋装産業新聞に各一回ずつ掲載せよ。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
(二) 被告らの求めた判決1 本案前の申立原告内外インキ製造株式会社及び同内外カーボンインキ株式会社の訴を却下する。
2 本案について(1) 原告らの請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。
二 反訴請求について。
(一) 被告日本チヤコペーパー株式会社の求めた判決1 原告クロバー株式会社は、布地用転写紙の販売につき、布地用転写紙及びその包装に「チヤコピー」の文字を含む商標を使用した商品を販売してはならない。
2 同原告は、布地用転写紙の販売につき、別紙(二)の図案を表示した包装を使用して商品を販売してはならない。
3 同原告は、布地用転写紙の販売につき、「水洗いすればきれいに消えます。」との表示を使用して商品を販売してはならない。
4 同原告は、別紙(三)記載の謝罪広告を、日本経済新聞全国版、釦手芸裁縫新聞、洋装産業新聞、日本毛糸新聞及び日本雑貨新聞に、表題及び会社名を二号活字としてその他を四号活字として、掲載せよ。
5 訴訟費用は同原告の負担とする。
(二) 原告クロバー株式会社の求めた判決1 被告日本チヤコペーパー株式会社の請求を棄却する。
2 訴訟費用は同被告の負担とする。
当事者の主張
一 原告らの主張の本訴請求の原因等(一) 当事者1 原告クロバー株式会社(以下「原告クロバー」という。)は、手芸用具、和洋裁用具等の製造販売を業とするものであり、原告内外インキ製造株式会社(以下「原告内外インキ」という。)は、印刷インキ・カーボンインキ等の各種インキ類及び特殊カーボン紙の製造・販売を業とするものであり、原告内外カーボンインキ株式会社(以下「原告内外カーボン」という。)は、原告内外インキの傍系会社として、右カーボン紙の製造及び各種インキの販売を業とするものである。
2 被告【A】(以下「被告【A】」という。)は、特許番号第二四三三一六号の特許権者であり、被告日本チヤコペーパー株式会社(以下「被告会社」という。)は、被告【A】から右特許権の通常実施権並びに商標「チヤコパー」(登録番号第五一七二四号)及び商標「チヤコペーパー」(登録番号第五九五一四四号)の通常使用権の許諾を得て、布地用複写紙「チヤコペーパー」(商品名)の製造・販売を業とするものである。
(二) 被告【A】の特許権と原告らの製法1 被告【A】の特許権等 被告【A】の有する前記第二四三三一六号特許権はつぎのとおりのものである。
出願 昭和三一年三月一三日公告 昭和三三年三月二六日(特許出願公告昭三三―二〇六六号)登録 昭和三三年六月二六日特許請求の範囲の記載「石鹸を主体としこれにグリセリン及びロート油を混和練合した媒体に耐アルカリ性の顔料を混練して成る粘稠液を八〇〜一〇〇℃の温度に保持しながら原紙の表面に塗布乾燥することを特徴とするチヤコペーパーの製造法」なお、チヤコとは洋和裁において布地裁断のための線引または刺繍等の下地図案を描くために用いられる特種なチヨークであり、チヤコペーパーとは、右「チヤコ」と「ペーパー」とが合成されたものである。
2 原告らの製造・販売等 原告内外インキは、六〇年にわたつて各種インキ(そのうちカーボンインキの販売シエアは全国の八〇%)及び一三年にわたつてカーボン紙を製造している。そして、通常のカーボン紙は、カルナウバワツクス等のワツクス類を基材とし、これに黒・赤・青等の顔料及び不乾燥性の油類等を混練した粘稠液(常温では固形物となる。)を摂氏八〇ないし一〇〇度ぐらいに保温しながら原紙に塗布して冷却させたもので、この製造法については、その大部分は公知の事実とされている。原告内外インキは、右のような粘稠液の塗布剤を別紙(四)記載の要領で製造し、原告内外カーボンにおいて右塗布剤を多少分厚い厚紙に塗布・冷却して布地用転写紙を製造したうえ、原告クロバーに販売し、原告クロバーは右布地用転写紙に「クロバーチヤコピー」という商品名を附して一般に販売しているものである。
なお、「チヤコピー」という名称は、「チヤコ」と「コピー」とを合成したものである。
3 被告【A】の特許とチヤコピーの製法との対比 被告【A】の有する前記第二四三三一六号特許権は、その前記特許請求の範囲の記載からも明らかなように、石鹸を主材料とし水溶性の溶剤を使用した使用後の洗い落しの容易な水溶性粘稠液を塗布する転写紙の製造法である。(ちなみに、石鹸を主材料とした洗い落しの容易な布地用インキの製法は、公知の事実であり、またカルナウバワツクスの代替物として高級脂肪酸の鹸化物すなわち石鹸を主材料として植物油と顔料を混練し、これを紙に塗布して作るカーボン紙の製法については、
大正七年三月一四日特許第三二三七六号及び第三一四三五号が存在している。)したがつてこれにより製造されたチヤコペーパーについては、その塗布された液剤は容易に水に溶け、これに含まれている顔料はほとんど完全に脱落するが、反面布地の汚染等の欠点がある。これに反し、原告らの「クロバーチヤコピー」は、ワツクスを主材料とした公知の方法によつて製造したものであつて、その塗布剤は水洗による脱落は不可能であるが、布地の汚染等はなく、しかも合成洗剤を使用すれば容易に洗い落せる利点がある。
右のとおり「クロバーチヤコピー」と「チヤコペーパー」とは、材料及びその性質をまつたく異にする別物であつて、前記方法による「クロバーチヤコピー」の製造及びその販売が被告【A】の前記特許権の侵害となるものでないことは明らかである。
被告【A】は、原告らの「クロバーチヤコピー」にわずか重量比〇・八%のステアリン酸等の脂肪酸の鹸化物が検出されたことを理由にして、原告らの「クロバーチヤコピー」が石鹸を主材料とするもので被告【A】の右特許権を侵害するものであると称し、原告らに対し、「クロバーチヤコピー」の製造・販売行為の差止請求をしようとし、その準備のために、昭和四六年三月二二日、原告内外カーボンを相手方として、大阪地方裁判所に同庁昭和四六年(モ)第七二八号証拠保全申立事件を提起した。しかし、「クロバーチヤコピー」にステアリン酸等の脂肪酸の鹸化物が含まれていたとしても、それがわずか〇・八%程度であるときは何ら石鹸を用いていることを示すものでないことは明らかである。すなわち、転写紙の紙の原料であるパルプまたは紙のサイズ用樹脂に含まれている樹脂(ロジン‖コロホニウム等)の残留物及び顔料等の不純物等から鹸化作用を生じ、この程度の鹸化物が発生することは容易に推測されるところである。他方、被告【A】の前記特許においては、その発明の詳細な説明の一実施例に記載するとおり、固形脂肪酸石鹸一二グラム、グリセリン三グラム及びロート油〇・三グラムの混練による粘稠液に三・五グラムの顔料を加えて製造するようなものであるから、これに含まれる脂肪酸の鹸化物は五〇%以上にも及ぶものと推測される。この点のみをもつてしても、「クロバーチヤコピー」が、右特許における「チヤコペーパー」とは、まつたく材料を異にし組成においても全然別物であることが容易に明らかになる。
(三) 被告らの不正競争行為 被告会社は、原告らが昭和四五年五月ごろ「クロバーチヤコピー」の製造・販売に着手すると同時に、別紙(五)のとおりの謹告と題する書面を同年六月ごろ及び八月ごろの二回にわたつて、「クロバーチヤコピー」を取り扱おうとしている全国の洋装手芸用品販売店二万余軒に配布したほか、その後も、原告らの「クロバーチヤコピー」の製造・販売に対し、何らの根拠もないのに、これを模造品・粗悪品であつて特許侵害品であると一方的に決めつけ、昭和四五年七月五日付及び同年八月一五日付洋装産業新聞にも右別紙(五)と殆んど同一の大きな広告を掲載し、また被告会社の使用人である訴外【B】の名で「模造品の出現に思う」との題の寄稿文を同年八月二一日付釦手芸裁縫新聞に掲載し、その中で某社の模造品として「クロバーチヤコピー」を暗示し、その販売を「反道徳的商業行為」であるとして原告クロバーの名誉・信用を毀損して、原告らの営業を妨害し、また昭和四六年八月には、さらに、「謹告」と題する広告文を同月二一日付釦手芸裁縫新聞及び同月二五日付洋装産業新聞に掲載するとともに、各小売販売店等に郵送して、「クロバーチヤコピー」が特許侵害品であり、被告会社において証拠保全の申請をしさらに特許権侵害を理由として製造中止・販売中止及び損害賠償等の請求をしようとしており、「クロバーチヤコピー」を取り扱えば「迷惑を及ぼす」虞があるとの威圧的文言をもつて購入者らの購入を抑止し、原告らの営業を妨害して来たものである。
被告【A】は、被告会社の創立(昭和三一年七月大和商事株式会社の商号を現商号に変更したとき)以来、ごく短い一時期を除き現在まで一貫して被告会社の代表取締役の地位にあり、その間、自己の有する特許・商標を前記のように被告会社に使用させ、被告会社の本店を自己の住所に置く等して、被告会社の業務全般を自ら主宰して来たものであつて、被告会社の実際の経営状況は被告【A】の個人経営と同視すべき状態にあるが、被告【A】は、被告会社の代表者として職務上被告会社の右各行為を指示命令したほか、自らも被告会社の右妨害行為を根拠ある如く仮装する目的で、「クロバーチヤコピー」の製造方法が前記被告【A】の特許権を侵害するとして前記のとおり証拠保全の申立をしており、さらに、本訴においても、何らの根拠もなく、原告らが水溶性クロバーチヤコピーを製造・販売しており、この水溶性クロバーチヤコピーは石鹸を主体とするもので被告【A】の右特許権を侵害するものであると主張して、もつて被告会社の前記一連の虚偽の宣伝、広告における特許権侵害の記載を正当化しようとしている。被告【A】の前記一連の行為は、
明らかに被告会社と共同して原告らの製造・販売する「クロバーチヤコピー」の製造販売行為を妨害しているものである。
(四) 差止等の請求 被告らの前記一連の行為は、不正競争防止法第1条第1項第6号に該当するので、原告らは、同法第1条に基き被告らに対し右の行為の差止請求をし、同時に同法第1条の2に基き原告らの営業上の信用を回復するために必要な別紙(一)のとおりの謝罪広告を日本経済新聞全国版、釦手芸裁縫新聞及び洋装産業新聞に各一回宛掲載することを求める。
(五) 被告らの本案前の主張について。
前記のとおり、「クロバーチヤコピー」については、原告内外インキが塗布液を製造し、その紙面への塗布・裁断・包装工程は、原告内外インキがその子会社である原告内外カーボンに委託し、完成した製品はすべて原告内外インキから原告クロバーに販売され、原告クロバーより広く一般に販売されているものである。したがつて、原告内外インキと原告内外カーボンは、「クロバーチヤコピー」を共同して製造しているものである。右の事実は、被告らにおいて早くからこれを知悉していたことは勿論、カーボン紙業界のみならず和洋裁具業界においても、遅くとも昭和四五年八月二五日には、洋裁産業新聞に掲載された被告会社の広告等によつて周知となつていたものである。以上の理由により、被告らの本案前の主張は理由がない。
二 本訴請求の原因に対する被告らの主張(一) 本案前の主張1 原告らの主張によれば、「クロバーチヤコピー」は、原告内外インキにおいてその塗布剤を製造し、原告内外カーボンにおいて右塗布剤を用いて布地用転写紙を製造してこれを原告クロバーに販売し、原告クロバーにおいて「クロバーチヤコピー」という商品名を附して一般に販売しているとのことであるから、商品としてのクロバーチヤコピーは、原告クロバーの手によつて初めて商品化されたものにほかならない。しかもその商品中には、原告内外インキが塗布剤を製造したこと、原告内外カーボンが布地用転写紙を製造したことにつき何らの表示もなく、ただクロバー株式会社の名称が附されているにすぎないことからすれば、一般顧客においては原告クロバーの製品と推察するのが当然であつて、原告内外インキ及び原告内外カーボンの右のような事情は、一般顧客においては意識外の問題である。そして、原告ら主張の被告らの行為は原告クロバーのみに向けられており、他の原告らには向けられていないのであるから、これについては、原告クロバーが営業上の利害関係に立つことは当然としても、原告内外インキ及び原告内外カーボンは、経済上の利害関係はともかく法律上の利害関係を持つことはないから、同原告らは、請求の趣旨第一項については、当事者適格を欠くものである。
2 請求の趣旨第二項の謝罪広告の請求は原告ら全員に対する営業上の信用を回復する措置として求めるものと解されるが、原告らの主張自体から、その主張にかかる営業妨害の行為は、前述のとおり商品の営業主体たる原告クロバーに対するものと解される。したがつて、原告内外インキ及び原告内外カーボンは、その法律関係については無関係であるから、同原告らは右請求について当事者適格を有しない。
(二) 本案に対する主張1 請求原因(一)の1のうち、原告クロバーが手芸用具、和洋裁用具等の製造・販売を業とするものであることは認めるが、原告内外インキ及び原告内外カーボンに関する主張事実は、いずれも知らない。
同(一)の2の事実は認める。
2 請求原因(二)の1の事実は認める。
同(二)の2のうち、原告内外カーボンが布地用転写紙を製造したうえ原告クロバーに販売し、原告クロバーがこれにクロバーチヤコピーという商品名を付して販売していることは認めるが、原告内外インキが右のような粘稠液の塗布剤を別紙(四)記載の要領で製造し、原告内外カーボンが右塗布剤を用いて布地用転写紙を製造しているとの事実は否認する。
その余の事実は知らない。
同(二)の3のうち、被告【A】の有する特許番号第二四三三一六号特許権の製造法が原告ら主張の如きものであること、「チヤコペーパー」は塗布された溶剤が容易に水に溶けること、改良複写紙について特許番号第三二三七六号及び同第三一四三五号の特許権が存在すること、クロバーチヤコピーに〇・八四%(原紙を含めた全重量に対する比率を示す。)の粗脂肪が検出されたこと、被告【A】が原告内外カーボンを相手方として大阪地方裁判所に対し証拠保全の申立をしたこと、被告【A】の前記特許について原告ら主張のような実施例の記載のあること並びに別紙(四)の製造方法が右特許の技術的範囲に属しないことは認める。チヤコペーパーに原告ら主張の欠点のあること、及びクロバーチヤコピーの材料・性質・利点に関する原告ら主張の事実は否認する。クロバーチヤコピーとチヤコペーパーとが材料をそれぞれ異にし、組成においても別物であるとの主張は争う。その余の事実は知らない。
3 請求原因(三)のうち、被告会社が、原告ら主張のころその主張の各新聞に、
模造品について注意するようとの趣旨の広告をしたこと及び証拠保全の申請をした旨の広告をしたこと等はこれを認める。しかしながら、これらの広告は原告らが特許権を侵害していることを断定した趣旨のものではなく、購入者らの購入を抑止しようとする趣旨のものではない。したがつて、原告らのクロバーチヤコピーの製造・販売行為を被告らが妨害しているとの主張は、すべて争う。
4 本訴請求の原因に対する被告らの主張 原告クロバーは、後記三反訴請求の原因記載のとおり不正競争行為を行つて来たので、被告会社はこれを黙視することができず、積年の努力の結果を防衛するため、また一般消費者に対し商品の誤認混同につき注意を喚起するために新聞等を利用してその旨を広告したのであるが、これら被告会社の行為は、何ら不正競争行為にあたるものではない。また、他方被告会社は、原告クロバーの「クロバーチヤコピー」の表示に「水洗いすればきれいに消えます」なる表示があり、かつ新聞記事中に当社の製品でも水洗いすれば消える旨の記事があり、さらにまた原告クロバーから訴外某会社に対する「クロバーチヤコピー」の商品売込みの交渉に水で消える種類があるとし、その試験結果の分析表を提出した事実を探知したところから、被告会社が通常実施権を有する被告【A】の前記特許権が侵害されているのではないかとの疑いを抱き、前記新聞広告等において特許権侵害の疑いがある旨を併せて掲げたことがある。また、被告会社において原告クロバーの「クロバーチヤコピー」の分析依頼の結果、石鹸の存在を疑わしめる化学成分が検出されたことから、被告【A】が大阪地方裁判所に証拠保全の申請をし、被告会社がこれを新聞に掲載したことがあるが、これらの行為は原告クロバーの商品表示又は販売活動自体に疑わしい点があつたればこそ被告会社においてとつた当然の措置であつて、何ら不正競争行為に該当するものではない。
三 被告会社主張の反訴請求の原因(一) 不正競争防止法第1条第1項第1号に基く請求1 被告会社は、布地用複写紙の製造・販売を業とする会社であつて、被告【A】が昭和三三年六月二日特許第二四三三一六号をもつて特許権設定登録を受けたチヤコペーパーの製造法につき、同人から許諾による通常実施権を取得し、この製造法により昭和三三年七月ごろから布地用複写紙の製造を開始し、これを包装し、「チヤコペーパー」という商標を附して販売し、引き続き今日に至つているものである。
そして、「チヤコパー」の右商標については、昭和三三年三月二五日、被告【A】が、登録番号第五一七一二四号、指定商品旧第五〇類(手芸品)の「チヤコパー」の文字と図形の結合商標として登録を受け、また「チヤコペーパー」の商標については、昭和三七年八月一五日、被告【A】が登録番号第五九五一四四号、指定商品第二五類(紙)として商標登録を受けたものであるが、被告会社は、それぞれその登録のころ、被告【A】から許諾による通常使用権を取得したもので、この事情から右商品の商標としてこれらの使用を継続しているものである。
2 ところで、被告会社が右布地用転写紙の製造・販売をするについては、常に製品の品質改善をはかり一般需要者からの要望にそうことに努めて来たが、その商品についてはつぎのように考案した。すなわち、右複写紙を片面用・両面用の二種としたが、両面用については被告【A】が洋裁の場合における裁断に外表裁断法なる方法を考案したことに基いて、従来に例のない両面にチヤコでしるしを付ける方法を商品化したものである。また複写紙の色別については、布地の傾向を考えて片面用のものにつき青・黄・白・赤・緑の五色とし、これを一組として一商品としたが、両面用のものについては、消費者が選択できるようにするため、青・黄・白の三色として色ごとに一商品とした。そして、複写紙の規格を、使用上の便を考えて、片面用は小さく、両面用は大きくし、片面用の裏面には「チヤコペーパー」という商標を随所に表わして複写紙のみでも商品名を認めうるようにし、両面用の紙質については、耐久性につき幾多の失敗を重ねた結果、紙質をようやくクラフト紙に特定したのである。原告は、右のようにして布地用複写紙を商品化したが、これを収納する包装についても、格段の苦心をした。すなわち、右布地用複写紙は、紙面に塗布剤が塗布されていて、粗雑な取扱いをすれば塗布剤が他に附着してその効果が薄れるものなので、その包装、容器についてはこれを防止できるものが適切である。このような事情の下に価格その他の点から硬質の封筒紙を使用しているが、
これとても発売当時数か月間においてはビニール袋を使用したものを、使用方法の説明の困難、出し入れの不円滑、保管中の不便等を考えて改めたものである。そして右包装における表示については、表面の上部に商標「チヤコペーパー」又は「チヤコパー」の文字を横書きで大書して、一見して布地用転写紙であることを理解されるようにしたが、裏面には、布地用転写紙が新しい製品で、商品の性質、効用及び使用法の説明がとくに必要であるため、その表示として片面及び両面用を通じて横書で商品の「特徴」を掲げ、また片面用のものには横書で洋裁、手芸の欄を設けて二つないし四つの図案によつて使用上の説明をし、両面用のものには横書で洋裁、和裁、手芸の欄を設けて三ないし六つの図案によつて使用上の説明をしている。
3 被告会社は、右布地用複写紙の製造・販売を開始した昭和三三年七月ごろから前記「チヤコパー」を、その後約一年して「チヤコペーパー」又は「チヤコパー」の商標を附し、前記包装を使用して東京、大阪、京都、名古屋、広島、福岡等各地の和、洋裁用具の卸小売業者に販売したが、旧来の和洋裁及び手芸の技法に捉われる婦人層においては容易に布地用転写紙の特性を理解しようとせず、被告会社が、
発売以来六、七年の間各地にわたつてチヤコペーパーなる商品としての布地用転写紙の性質、効用及び使用法について講習会を開き、又はデパートで実演し、あるいは手芸・服飾業界の新聞又は婦人雑誌に広告したりして、右商品の普及宣伝に努めた結果、昭和三八、九年ごろに至つてようやく婦人層の認識を得るとともに、右各都市における卸小売業者からの注目を集めるに至つた。
そして、その後、被告会社は、昭和四〇年に東京及び大阪においてテレビ放送による宣伝をするなど需要の拡大に絶えざる努力をしたため、一般婦人層から服飾、
手芸について唯一かつ特殊な商品として認識され、年とともに需要が増大したが、
これに加えて、被告【A】が、昭和四一年「チヤコペーパーの発明」につき東京都知事賞を、昭和四三年に「チヤコペーパーの開発、普及」の功により藍綬褒章をそれぞれ受け、また国民百科事典及び手芸事典に「チヤコペーパーの発明」として掲載されるに及んで、前記商標及び包装が原告の製造・販売にかかる右布地用複写紙を示すものとして社会一般に認識されるに至り、とくに前記の都市地方における婦人層及び和洋裁・手芸用具の卸小売業者間に周知され、その需要はますます期待される状況に至つた。
4 原告クロバーは、婦人手芸用品、和洋裁用具等の製造・販売を業とするものであるが、被告会社の製造・販売する「チヤコペーパー」なる布地用複写紙が服飾手芸業界において需要が増大していることに着目して、昭和四四年中被告会社にその取引の交渉をして来たが、被告会社がその条件を承認しないため、その交渉は不調に終つた。ところが、原告クロバーは、翌昭和四五年五月ごろ、突如として被告会社の布地用複写紙が意図するところと同一目的をもつ布地用転写紙を「クロバーチヤコピー」という商品名を付して一般に売り出した。そして、その販売の経路は東京、大阪、名古屋、京都、広島、福岡等の主要都市における服飾、手芸の卸問屋及び小売業者であつて、被告会社の販売経路とまつたく同一である。
5 ところで、原告クロバーの販売する布地用転写紙及びその包装並びにこれらについての名称及び表示は、被告会社の布地用転写紙及びその包装並びにこれらについての名称及び表示ときわめて類似しているが、これを挙げればつぎのとおりである。
(1) 布地用転写紙を片面用、両面用の二種としているが、これは被告会社の商品と同一である。
(2) 色別につき片面用を青、黄、白、赤、緑の五色としていること、両面用を青、黄、白の三色としていることは、いずれも被告会社の色別と同一である。
(3) また五色の紙を一組として一商品とし、両面用は一色ごとに一商品としていることは、被告会社の商品と同一である。
(4) また前記色別の色調が被告会社のそれと類似している。
(5) 片面用の紙の裏に「チヤコピー」の文字が随所に表示されているが、これは被告会社の片面用の裏に「チヤコペーパー」の文字を随所に表示しているのと同一形式である。
(6) 両面用の紙にクラフト紙を用いているが、これは被告会社のそれと同一である。
(7) 包装に硬質の封筒紙を用いているが、これは被告会社の封筒紙と同一である。
(8) 封筒表面には、上部に「クロバーチヤコピー」の文字を横書で表示しているが、その配置は、被告会社の「チヤコペーパー」及び「チヤコパー」の配置と同一である。
(9) 右の表示について「クロバー」の文字を小さく「チヤコピー」の文字を大書しているが、これは被告会社の「チヤコペーパー」及び「チヤコパー」に外観及び称呼においてきわめて類似している。
(10) 封筒裏面の上部に「クロバーチヤコピーの特徴」の文字を横書しているが、これは被告会社の封筒裏面の記載と同一形式である。
(11) 片面用の右封筒裏面には、横書で、手芸、洋裁の順に二つの図案を表わし使用上の説明をしているが、これは被告会社の封筒裏面の洋裁、和裁の欄及び二つの図案についての説明の記載と同一形式である。
(12) 両面用の封筒裏面には、横書きで、洋裁、和裁、手芸の順に四つの図案を表わし使用上の説明をしているが、これは被告会社の封筒裏面の洋裁、和裁、手芸の欄及び四つの図案についての説明の記載と同一形式である。
(13) 片面用及び両面用の図案中別紙(二)記載の図案は、被告会社の図案と対比した別紙(六)により明らかなように、被告会社の図案を取り入れて、きわめて類似したものにしている。
6 以上のように、原告クロバーが被告会社の製造・販売にかかる商品の名称及び表示に類似した名称及び表示を使用した商品を販売することは、原告クロバーの商品の目的、用途が被告会社のそれと同一であり、かつ消費者及び販売経路が同一であることに照して、商品の混同を生じさせようとするものであり、これは不正競争防止法第1条第1項第1号に該当するものといわなければならない。
ことに原告クロバーの片面用の商品の裏印刷に「チヤコピー」と表示され、封筒表面に「チヤコピー」と大書されて表示されていること及び封筒の裏面に別紙(二)の図案が掲げられていることは、一般消費者をして商品の誤認混同を生じさせるものである。
7 被告会社は、原告クロバーの右行為により商品の売上高が減少し、営業上の利益を害されているが、このような行為は少なくとも被告会社の営業上の利益を害する行為といわなければならない。よつて、前記第一の二の(一)の1及び2記載の判決を求める。
(二) 不正競争防止法第1条第1項第5号に基く請求1 原告クロバーの販売する前記「クロバーチヤコピー」なる商品の封筒裏面には、「水洗いすればきれいに消えます」という文字が掲げられている。
これは被告会社の商品の封筒裏面の特徴についての記載中の文句と同一趣旨のものであるが、果して水洗いで消えるかどうかの点について、原告クロバーは、本訴において、水洗いでは消えないと主張している。したがつて、原告クロバーの右主張が正当であるならば、右のような表示をした商品を販売することは、一般消費者をして商品の品質、内容に誤認を生ぜしめるものであり、虚偽の表示をした商品の販売にほかならない。
2 そして、それは、被告会社の製造・販売する水洗いすれば消えるチヤコペーパーなる商品との混同を意図しているものというべきであつて、一般消費者がこれにより商品の混同を生ずるときには、被告会社の商品についての信用を害するに至るものである。したがつて、被告会社は原告クロバーの右の行為による営業上の利益を害せられ又は害せられる虞があるものとして、前記第一の二の(一)の3記載の判決を求める。
(三) 不正競争防止法第1条ノ二に基く請求 被告会社は、原告クロバーの前記(一)記載の行為により、営業上の信用を著しく害されている。よつて、これを回復するに必要な処置として、前記第一の二の(一)の4記載の判決を求める。
四 反訴請求の原因に対する原告クロバーの認否(一) 反訴請求原因(一)の1のうち、被告会社が布地用転写紙の製造・販売を業とする会社であること、被告【A】が特許第二四三三一六号の特許権を有すること、右特許権につき被告会社が許諾による通常実施権を取得していること、被告会社がその製造にかかる布地用転写紙に「チヤコペーパー」又は「チヤコパー」なる商標を附していること並びに被告【A】が第五九五一四四号の登録商標を有していることは認めるが、その余の事実は知らない。
(二) 同(一)の2の事実は知らない。
(三) 同(一)の3記載の事実中「チヤコパー」の販売の時期を除くその余の事実は知らない。被告会社が「チヤコパー」なる商標を附した商品を現実に販売したのは、昭和四五年八月以降である。
(四) 同(一)の4のうち、原告クロバーが婦人手芸用品、和洋裁用具等の製造・販売を業とする会社であること、被告会社と原告クロバーとの間に布地用転写紙の取引について交渉があつたこと(ただし、右交渉は二回なされており、最初、
被告会社から原告クロバーに対し布地用転写紙の販売をしてほしい旨の依頼があつたものである)、原告クロバーが昭和四五年五月ごろから布地用転写紙「クロバーチヤコピー」(商品名)を販売したことは認めるが、その余の事実は知らない。
(五) 同(一)の5のうち、冒頭記載の原告クロバーの販売する布地用転写紙及びその包装が、名称及び表示において被告会社の商品にきわめて類似しているとの主張は争う。事実に関する認否はつぎのとおりであるが、各項目にわたり類似・同一・同一形式等の評価に関する主張はすべて争う。
(1) 原告クロバーの布地用転写紙に片面用と両面用の二種類あることは認める。
(2) 原告クロバーの商品のうち、片面用に青・黄・白・赤・緑の五色があることは認める。両面用は三色でなく青・黄・白・赤の四色である。
(3) 原告クロバーの商品には、片面用に五色五枚入、両面用に一色一枚入があることは認めるが、そのほかに同色五枚入も販売している。
(4) 原告クロバーの商品の色調が被告会社のそれと類似しているとの主張は争う。「クロバーチヤコピー」の色調は、被告会社の商品よりも艶があり鮮明である。
ところで、右(1)は商品それ自体の形態であり、(2)ないし(4)は商品それ自体の色彩の問題であるが、これらは、もつぱら布地用の転写紙という商品の技術的な機能に必然的に由来するものであり、不正競争防止法第1条第1項第1号にいわゆる商品表示にはあたらない。
(5) 原告クロバーの布地用転写紙の裏面に記載されている文字は、「クロバーチヤコピー」であつて、単なる「チヤコピー」ではない。しかも、その文字の色彩はオレンジ色であり、被告会社の文字が緑色であるのと明確に区別されている。
(6)、(7)原告クロバーがその両面用の布地用転写紙及び包装にクラフト紙を用いていることは認める。ただし、これら商品の紙質については、商品の技術的機能に必然的に由来するものであり、商品表示とは無関係である。
(8) 原告クロバーの包装用封筒の上部に「クロバーチヤコピー」の文字が横書きされていることは認める。ただし、正確には横上部である。
(9) 右の表示について、従前「クロバー」の文字が若干小さいものがあつたことは認める。ただし、昭和四六年五月ごろ以降「クロバー」と「チヤコピー」の文字は同じ大きさにしている。
(10) 原告クロバーの商品の封筒裏面上部に「クロバーチヤコピーの特徴」との文字を記載していることは読める。
(11)及び(12)のうち、原告クロバーの商品の封筒裏面の記載に関する部分は認める。ただし、図案とあるのは、正確には使用方法の説明図である。
(13) 原告クロバーの包装用封筒裏面に別紙(二)記載の「図案」が使用されていることは認める。
(六) 同(一)の6、7はすべて争う。
(七) 同(二)の1のうち、原告クロバーの販売する商品の封筒裏面に従前「水洗いすればきれいに消えます」なる文字が記載されていたことは認めるが、その余は知らない。なお、昭和四五年一一月ごろ以降、右の記載は、「洗濯すれば、きれいに消えます」と改められて今日に至つている。
(八) 同(二)の2の事実はすべて争う。原告クロバーがかつて使用した右の「水洗いすればきれいに消えます」との表示は、「お湯洗い」あるいは「ドライクリーニング」等の表示と対比される用法であり、家庭における通常の洗浄方法を指し、石鹸又は洗剤をまつたく不要とする意味ではない(洗剤を使わず水のみで洗うことは「すすぎ洗い」という。)いずれにしても品質を誤認させるということはない。
(九) 同(三)はすべて争う。
(一〇) 反訴請求原因に対し、原告クロバーは、つぎのとおり主張する。
1 原告クロバーは、大正一四年一〇月創立の岡田慶七商店を前身とする会社で、
現在では資本金一億一千万円、月揚二億円を越す我国最大の手芸・裁縫用具の製造・販売業者である。そして、すでに昭和二三年三月ごろから、その販売する商品に「クロバー」の商標を使用し(商標権としては昭和二四年九月登録番号第三一一六五七号指定商品旧第八類として取得)、また図案化した数種類のクロバーのマークをその商品の表示として使用してきたものであり、一方、手芸専門誌、婦人雑誌・週刊誌新聞等マスコミを通じ巨額の費用を投じて宣伝広告に努めた結果、手芸・裁縫用具の需要対象たる婦人層はもとより一般世人においても、「クロバー」の文字と図案化されたクロバーのマークをみれば、一見して原告クロバーの商品であると認織されるほどに周知性を獲得しているものである。このように、原告クロバーのあらゆる商品は、その著名かつ独自の商品表示によつて他社の製品と明確に区別されており、その間に出所の混同を生ずる余地はまつたくないのである。
2 「クロバーチヤコピー」の包装と「チヤコペーパー」の包装とを全体として対比すれば、「クロバーチヤコピー」の包装用封筒の表面には、もつとも人目につき易い上部中央に「クロバーチヤコピー」と黒色の特殊ゴチツク体で横書してあつて「クロバー」の文字が明瞭に読みとれるばかりでなく、左上には「clover」の英文字と三ツ葉図形との結合商標が、下端にはやはり「clover」の英文字と三ツ葉図形との結合商標及び「クロバー株式会社」の文字が横書に表示してあり、さらに、封筒表面の大部分には、図案化された四ツ葉のクロバー一六葉が空色地(又は黄色・黄緑地)に白抜きで整然と配置されていてこれが看者に強い印象を与えるものであり、しかも「クロバーチヤコピー」の封筒は「チヤコペーパー」のそれよりも一廻り大型であつて、右の如き「クロバーチヤコピー」の包装の表面全体を眺めた場合がそれが原告クロバーの商品であることは一目瞭然であり、消費者において「チヤコペーパー」の包装と混同を生ずる虞などはまつたくない。
3 原告クロバーの製造・販売にかかる布地用転写紙の商品名の表示は、すべて「クロバー」と「チヤコピー」とが連結して一体となつた「クロバーチヤコピー」であつて、これと「チヤコペーパー」(商品名)とは呼称上も外観上もまつたく非類似であることは明らかである。そして、右「クロバーチヤコピー」の一部分である「チヤコピー」なる名称は「チヤコ」と「コピー」とを合成したものであつて、
「チヤコ」と「ペーパー」の合成よりなる「チヤコペーパー」と非類似であることはもとより、「チヤコペーパー」の短縮形である「チヤコパー」とも類似するものではない。
4 被告会社が、商品及びその包装が類似しているとして主張している前記第二の三の(一)の5の(1)ないし(13)の事実のうち、(1)、(2)、(3)、
(4)、(6)、(7)については商品それ自体の本来的な機能から必然的に由来する商品の形態・色彩・材質等であつて、これらは不正競争防止法第1条第1項第1号所定の商品表示とはいい難いものであり、また、(5)、(8)、(9)の主張については、商品及び包装のごく一部分における記載をもつて全体の類似をいうばかりでなく、原告クロバーのもつとも基本的な表示である「クロバー」の文字及び呼称を故意に無視するか、あるいは過少に評価して殊更に類似を強調しているのであつて、表示の全体を観察した場合に到底要部が類似しているとはいえないことは明らかである。また(10)ないし(13)の主張については、これらは一般の需要家に対し商品の特徴とその使用方法を説明するために掲げられた記載であつて、いわゆる商品表示とは異るものであり、しかも包装裏面の一部分における記載であつて、全体として観察した場合、決して要部をなすものではない。
証拠関係(省略)
理 由
本訴請求について。
一 被告らの本案前の主張について。
被告らは、原告内外インキ及び原告内外カーボンが差止請求につき法律上の利害関係を有しないとしてその当事者適格を争うので、この点について判断する。
原告らの主張によれば、「クロバーチヤコピー」については、原告内外インキが塗布液を製造し、その紙面への塗布・裁断・包装工程は、原告内外インキがその子会社である原告内外カーボンに委託し、完成した製品はすべて原告内外インキを経て原告クロバーに販売され、原告クロバーより広く一般に販売されているのである(以上の事実は後記二の(二)の2のとおりこれを認めることができる。)。
ところで成立に争いのない甲第一一号証(昭和四六年八月二五日付洋装産業新聞)及び弁論の全趣旨によれば、被告会社の広告により、少なくとも同日以降は、原告内外カーボンが「クロバーチヤコピー」の生産者であることが洋裁関係者等の間に相当広く知れわたつたものと認められ、これと密接な関係にある原告内外インキについても同様の関係を生じたものと推認される。そうすると、原告らが被告らの不正競争行為と主張する虚偽の事実の陳述等は、なるほど直接には原告クロバー関係のみを暗示ないしは指示するにすぎなくても、それはとりも直さず原告内外インキ及び原告内外カーボンの営業上の信用にも密接な関係をもつものといわざるをえない。そして、原告内外インキ及び原告内外カーボンは、「クロバーチヤコピー」の製造・販売によつて被告会社と競合関係にあり、被告らの前記行為により営業上の利益を害される虞のあることは明らかであるから、同原告らは被告の右行為の差止請求をなしうるものというべく、被告の右抗弁は採用できない。
二 本案について。
(一) 原告クロバーが手芸用具、和洋裁用具等の製造・販売を業とするものであること、被告【A】が、特許番号第二四三三一六号の特許権者であり、被告会社が、被告【A】からその有する右特許権の通常実施権並びに商標「チヤコパー」(登録番号第五一七二四号)及び商標「チヤコペーパー」(登録番号第五九五一四四号)の通常使用権の許諾を得て、布用複写紙「チヤコペーパー」(商品名)の製造・販売を業としていること、被告【A】の有する右特許権が、昭和三一年三月一三日出願、昭和三三年三月二六日公告(特許出願公告昭和三三―二〇六六号)、同年六月二六日登録にかかるもので、その特許請求の範囲の記載は、
「石鹸を主体としこれにグリセリン及びロート油を混和練合した媒体に耐アルカリ性の顔料を混練して成る粘稠液を八〇〜一〇〇℃の温度に保持しながら原紙の表面に塗布乾燥することを特徴とするチヤコペーパーの製造法」というものであること、
「チヤコ」が洋和裁において布地裁断のための線引または刺繍等の下地図案を描くために用いられる特殊なチヨークであり、「チヤコペーパー」とは、右「チヤコ」と「ペーパー」とを結合したものであること、原告内外カーボンが布地用転写紙を製造して原告クロバーに販売し、原告クロバーがこれにクロバーチヤコピーという商品名を付して販売していること、被告【A】の前記特許権は、石鹸を主原料とし、水溶性の溶剤を使用した使用後の洗い落しの容易な水溶性粘稠液を塗布する転写紙の製造法であり、これにより製造された「チヤコペーパー」は塗布された溶剤が容易に水に溶けるものであること、被告【A】が原告内外カーボンを相手方として大阪地方裁判所に証拠保全の申立をしたこと、被告会社が昭和四五年七月五日付及び同年八月一五日付洋装産業新聞、昭和四六年八月二一日付釦手芸裁縫新聞及び同月二五日付洋装産業新聞等に模造品について注意するようにとの趣旨を含む広告または証拠保全の申請をした旨の広告をしたこと、まず以上の事実は本件当事者間に争いがない。
(二) 以上の争いのない事実に、いずれもその成立に争いのない甲第一号証。同第三ないし第一一号証、同第一三号証、同第一四号証の一、二、同第一五、一六号証、同第一八号証、同第二〇号証、丙第一号証、同第八号証、同第九、一〇号証の各一、二、証人【C】の証言、原告代表者【D】及び被告【A】各本人尋問の結果(本人尋問の結果はいずれもその一部)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、つぎの1ないし3の事実が認められる。
1 被告【A】は、昭和二八年ごろ、たまたま趣味でしていたローケツ染の図案の転写が相当繁雑であることから、布地用転写紙で水で消えるものの必要性に思いつき、さらにその原料として従来手芸、和洋裁等に使用されていたチヤコと石鹸を用いることに想到した。そして、それ以来種々試作品を作るなど苦心を重ねていたが、昭和三〇年ごろになつて漸く一応所期の目的にそう製品の製造に成功したので、昭和三一年三月一三日右布地用転写紙の製法について特許出願するとともに、
同年七月二四日被告会社(当時の商号大和商事株式会社)を現商号に変更し、自ら取締役となりその後代表取締役となつて、被告会社で右布地用転写紙の製造・販売をすることとし、昭和三三年に前記特許権の登録を得るや、被告会社にその通常実施権を与え、本格的に製品の販売を始めた。しかしながら、右のような布地用転写紙は、わが国ではまだ知られていなかつたうえ、従前数時間を要した図形の転写等が初心者でも数分で可能であることから洋和裁関係者の一部の反感を買つたこともあり、関係婦人層等の理解を得ることは容易でなかつた。しかし、被告【A】は、
自らデパートの宣伝にも立ち、特約店、代理店を廻り、デパートや学校で講習会を開き、業界紙、和洋裁雑誌、テレビで多数回にわたつて広告をする等の努力をしたばかりでなく、その間、世界でもまだ行なわれていなかつた両面用転写紙を使用する外表(そとおもて)裁断法を案出して前記布地用転写紙とともにその普及を図つた結果、昭和三八年ごろ中学校の教科書にとり上げられ、また百科事典にも掲載されたため、そのころから売り上げも飛躍的に増大し、昭和四〇年ごろからは営業の採算もとれるようになつた。そして、被告【A】は右布地用転写紙の発明等に対し、昭和四〇年度特許庁長官奨励賞を、昭和四一年度発明功労により東京都知事賞を、さらに昭和四五年には藍綬褒章を受賞した。被告会社では、右布地用転写紙について、発売当初は「チヤコペーパー」という商標を使用し、ついで昭和三二年ごろからは、あわせて「チヤコパー」という商標を使用して来たが、遅くとも昭和四四年ごろには右「チヤコペーパー」の商標は被告会社の製品を表示するものとして、全国の取引者・需要家の間に認識せられるに至つていた。
2 原告クロバーは、大正一四年に開業した岡田慶七商店を前身とする会社で、昭和四五年八月には資本金一億一、〇〇〇万円となり、昭和四八年四月には同一億五、〇〇〇万円となつて現在に至つているわが国最大の手芸、裁縫用具の製造・販売業者であり、昭和二四年ごろから「クロバー」の文字及びクロバーの図案の商標を使用して来ているもので、遅くとも昭和四五年ごろ当時には、「クロバー」の商標は原告クロバー商品を表示するものとして全国の取引者・需要家の間に著名となつていた。ところで、原告クロバーは、昭和三三、四年ごろ、被告会社から前記布地用転写紙「チヤコペーパー」の販売を引き受けてくれるようにとの申出を受けたが、取引条件が好ましいものでなかつたのでこれを辞退したこともあつたけれども、昭和四四年ごろ、布地用転写紙の有利性に着眼し、原告クロバーでもこれを販売したいと考え、被告会社にその旨申し入れたが、被告会社の方で諾否の返事をするのが遅れたため、同年八月下旬ごろ被告会社との交渉は打ち切つた。すると、たまたま同年九月上旬に、出入りの太陽製版株式会社の方から、原告内外インキが布地用転写紙をかつて製造し、輸出したことがある旨の話が持ち込まれたので、原告クロバーの代表者らと原告内外インキのカーボンインキ研究部長【C】らとが会合した結果、原告内外インキにおいて布地用転写紙の製造を引き受けることとなり、
右【C】らにおいて、被告【A】の有する前記特許権の存在も十分考慮したうえ昭和四五年四月ごろまで研究した結果、右特許権の侵害とならないと考えられた大部分公知の方法である別紙四記載の方法で布地用転写紙を作成することとし、原告内外インキにおいて右記載の塗布剤を製造し、原告内外カーボンが原紙への塗布及び裁断をし、原告内外インキが前記太陽製版を経て原告クロバーに納入することとなつたが、原告クロバーは、これを同年六月上旬ころ「クロバーチヤコピー」の名で販売し始めた。右以外の水溶性チヤコピーについては、原告内外インキで試作したことはあるが、商品とはしなかつた。
3 被告【A】は、そのころ、原告クロバーが布地用転写紙を販売することを聞知すると、ただちにこれが被告【A】の有する前記特許権の侵害となるものと即断し、いずれも被告会社名義で同年六月一日ごろ、同日付の謹告と題する別紙(五)のとおりの書面を取引先多数に送付し、同年七月五日付及び同年八月一五日付洋装産業新聞に、原告クロバーと明示せずに某社としてではあるが、それが、水で消える複写紙の模造品を販売しており、その行為は被告会社の特許に触れる虞があり、
商業道徳上も許し難いが、権利侵害になると販売した者にも迷惑をかける虞がある旨、または、右製品が洗滌性のない粗悪品である旨等広告し、また、被告会社の営業部長名で同年八月二一日付の釦手芸裁縫新聞に「模造品の出現に思う」との題の寄稿文を掲載し、その中で某社がチヤコペーパーの模造品を販売しているとして、
その販売を「反道徳的商業行為」であるとし、さらに、以下いずれも被告会社名で、昭和四六年八月二一日付釦手芸裁縫新聞に、某株式会社が模造品である布用転写紙某を販売しているので、被告会社が証拠保全の申請をし、さらに特許権侵害を理由として製造中止販売中止及び損害賠償の請求をしようとしているから、右模造品を取り扱っている販売業者に迷惑を及ぼす虞がある旨広告し、また同月二五日付洋装産業新聞には、販売業者として原告クロバー、模造品として「クロバーチヤコピー」、生産者として原告内外カーボンを明記したうえ、右と同様の広告を掲載した。
前記各本人尋問の結果中認定に反する部分は前掲各証拠と対比して採用できず、
他に右認定を左右するに足る証拠はない。
(三) ところで被告【A】の前記特許権の前記争いのない特許請求の範囲の記載に、前記甲第一号証(右特許の公報)の記載及び証人【C】の証言によれば、右特許は、原料として石鹸を主体とするものであり、この特許方法によって製造されたチヤコペーパーによる線等は、水洗いによつて簡単に除去できるという作用効果を有するものであるところ、別紙(四)記載のとおりの前認定のクロバーチヤコピーの製法は、原料として石鹸を使用せず、したがつて、クロバーチヤコピーによつて画かれた線等は、洗剤等を使用しなければ除去できないという相違があると認められ、乙第二ないし第四号証の各一、二によつては右認定をくつがえすに足りず、他に右認定に反する証拠はない。してみれば、原告らにおける前認定の別紙(四)の方法によるクロバーチヤコピーの製造・販売は、被告【A】の右特許権の侵害となるものではないといわなければならない。また、クロバーチヤコピーを格別粗悪品であると認むべき証拠もない。
(四) そうすると、被告会社の前認定の広告等における模造品・粗悪品・特許侵害品との記載は、いずれも競争関係にある原告らに関する虚偽の事実というべきであり、原告らは被告ら(被告【A】としては、被告会社の代表取締役としての職務を行うについて前記広告等をしたと同時に被告【A】としても被告会社の名を使用して不正競争行為に及んだものとして責任を負うべきである。)に対し、右の如き虚偽の事実の陳述・流布により営業上の利益を害される虞があるときは、その予防として右行為の差止を求めうべきものである。
(五) しかしながら、被告らが前記の如き行為に及ぶに至つた前認定の経過、前記甲第四号証及び同第一三号証によつて認められる前記証拠保全の際原告内外カーボンから提出された塗布剤及び転写紙には石鹸及びロート油などが含まれていないと被告らの前記行為の後に鑑定された事実、被告【A】の前記特許権が出願公告後一五年である昭和四八年三月二六日の経過とともに存続期間が終了したこと(弁論の全趣旨により当事者双方はこの事実を主張したものと認められる。)並びに本件口頭弁論の全趣旨によれば、被告らが今後前記のような虚偽の事実を陳述又は流布し原告らの営業上の利益を害する虞はないものと認めるのが相当であるから、原告らの本訴差止請求は、その理由がないといわなければならない。
(六) つぎに、原告らの本訴謝罪広告の請求について考えるに、右(五)に掲記した各事実に、前認定のとおり、原告クロバーは、被告らの長期にわたる苦心の末開発したチヤコペーパー及びこれに対する評価に預ろうとして一たんはその販売の申し入れをしながら、話し合いができないとなると、別個に別紙(四)の方法により布地用転写紙を採用したのであるが、弁論の全趣旨によれば右の方法による布地用転写紙を発売するについて被告らの側に誤解を避けるための連絡等はしなかつたと認められること、いずれもその成立に争いのない乙第五号証の一、二、原告クロバーの製品の包装封筒であることに争いのない検甲第一、二号証及び原告クロバー代表者尋問の結果により、「クロバーチヤコピー」発売から暫くの間とは言え、その包装封筒及び広告等に「水洗いすればきれいに消えます。」という事実に反する説明の記載をなしていたこと(「水洗い」は字義のとおりとみるべきで、原告ら主張のように解するのは困難である。)並びに右乙第五号証の二及び被告本人尋問の結果うかがわれる原告側においても、被告らと同程度に業界紙・雑誌等において、
被告らの攻撃に反論し、あるいは彼我両製品の得失を論じ、その結果少なくとも業界においては双方の言分は周知となつていると推認される事実をあわせ考えれば、
すでに特許期間も終了した本件においては、謝罪広告の掲載を命ずるのは相当でないというべきであり、したがつて、原告らの本訴謝罪広告の請求も失当といわざるをえない。
反訴請求について。
一 「チヤコピー」の商標を附した商品の販売差止について。
被告会社は、原告クロバーに対し、布地用転写紙自体またはその包装に「チヤコピー」の文字を含む商標を使用した布地用転写紙の販売を差し止める旨を求め、請求原因として、被告会社の製造・販売にかかる布地用転写紙及びその包装並びにこれらについての名称及び表示として被告会社主張のものが被告の商品表示として周知であり、原告クロバーの販売する布地用転写紙及びその包装並びにその名称及び表示は被告会社主張のとおりであつて、両者は類似している旨主張する。
しかしながら、被告の差止めを求めているのは、その主張するような特徴をすべてを備えた原告クロバーの布地用転写紙及びその包装ではなく、前記のように「チヤコピー」を含む商標のみに関するものである。そこで、被告会社主張の商品表示をみるに、「チヤコピー」に類似すべきものとしては、「チヤコペーパー」及び「チヤコパー」の各商標があるのみで、他は類似しないことが明らかである。
そして、「チヤコペーパー」の商標が、原告クロバーの布地用転写紙が発売された昭和四五年当時、被告会社の商品を表示する商標として広く認識されていたことは前認定のとおりであるから、これと「チヤコピー」との類否について考える。まず、両者が外観及び称呼において類似するものでないことは明らかである。つぎに観念については、この種商品の取引者・需要者が、「チヤコペーパー」からは一見して「チヤコ」(和洋裁用の特種なチヨーク)と「ペーパー」(紙)との結合と考えそのような観念を抱き、「チヤコピー」からは同様ただちに「チヤコ」と「コピー」(複写)との結合と考えそのような観念を抱くであろうことは推認するに難くないところ、両者が観念として類似するものでないことは言をまたないところである。してみると、「チヤコペーパー」は「チヤコピー」に商標として類似しないものというべきである。
また、「チヤコパー」との対比については、仮に「チヤコパー」が前記当時周知であつたとしても、「チヤコピー」とは外観において類似しているとはいえず、称呼においても、いずれも三音の短い構成からなり、そのうち二音は同じであつても、とくに比較的強勢のかかると認められる第三音がア列とイ列とに異つている点をみれば両者は類似しているとはいい難い。そして観念については、「チヤコピー」については前示のとおりであり、「チヤコパー」については、まれに「チヤコペーパー」との関連からその省略したものとの観念を持つ者もあるかも知れないが、多くは前記の「チヤコ」と無意味な「パー」と結合したものととると考えられるから、両者は相違するものと認めるべきである。
以上のとおりであるから、「チヤコピー」という商標が、「チヤコペーパー」、
「チヤコパー」その他被告会社の商品表示と類似することを前提とする被告会社の前記請求は、その余について判断するまでもなく失当である。
二 別紙(二)の図案の使用差止について。
右についても一において判示したところと同じく、使用差止を求める別紙(二)の図案に対比すべきものは別紙(六)の下段(同上段は別紙(二)と同一)の被告会社の図案のみであり、他に類似した商品表示のないことは一見して明らかである。
そして、被告会社の布地用転写紙の封筒であることに争いのない検丙第一号証の二、同第二号証の一と、原告クロバーの布地用転写紙の封筒であることに争いのない検甲第三号証によれば、被告会社の主張(事実第二の三の(一)の5の(13))のとおり別紙(六)が示す各図(図案というより説明図というべきものと認められる。)が、原告クロバー及び被告会社の布地用転写紙の封筒裏面に表示されていることが認められ、原告クロバーが用いる各図が被告会社の用いる各図に類似している点があることは否定し難いところであるが、右各図の大きさ、位置、説明文との関係等をみれば、これらは、原告クロバー主張のとおり、一般の需要者に対し、商品の特徴とその使用方法を説明するために掲げられた記載であつて、商品を他から識別するに足るいわゆる商品表示とはとうてい考えられない。被告会社は、
右図面のうち被告【A】の案出にかかる外表裁断法を示す特別の図面が存在することと関連させて、右図面が商品表示としての機能を有すると主張する如くであるが、たとえ外表裁断法が従来行なわれなかつたところであつても、これを説明する図面に、他の説明図に比し、図面としてのさしたる顕著性も認められない本件の場合、右外表裁断法の新規性によつて、前記判断を左右することはできない。
してみると、前記図面(被告会社のいわゆる図案。別紙(六)の上下)が、いわゆる商品表示であることを前提とする被告会社の前記請求は、その前提を欠き失当というべきである。
三 「水洗いすればきれいに消えます。」との表示の差止請求について。
被告会社は、原告クロバーが、その販売する布地用転写紙について、「水洗いすればきれいに消えます。」との表示を使用することの差止を求め、原告クロバーが右のような表示を使用したことから今後もなおそのような使用をする虞があることを前提として主張するところ、原告クロバーがその布地用転写紙の発売当時暫くの間右のような表示(それがいわゆる前記商品表示に当るかどうかは暫く措く。)を使用したことは前認定のとおりであるが、原告クロバー代表者本人尋問の結果によれば、原告クロバーは、右発売後三、四か月で、右表示をやめて「洗濯すれば、きれいに消えます。」との文言に改めたことが認められ、この事実と本件口頭弁論の全趣旨とをあわせ考えれば、原告クロバーが今後再び右のような表示を用いるとは認められないから、その虞があることを前提とする被告会社の請求は排斥せざるをえない。
四 謝罪広告の請求について。
被告会社は、原告クロバーの事実第二の三の(一)の1ないし7記載の行為により営業上の信用を著しく害されているとして、それを回復するに必要な処置たる謝罪広告の請求をしている。
そして、前判示の判決理由第一の二の(二)冒頭掲記の資料によれば、右第二当事者の主張の三の(一)の1ないし4記載の事実は、ほぼこれを認めることができる。また、右(一)の5の(1)ないし(13)事実については、(2)の両面用が三色でなく四色であること(検甲第七号証により認められる。)、(4)の色調が類似していることはなく原告クロバーの方が艶があり鮮明であること(検甲第二〇号証と検丙第一号証の一、二各在中の複写紙の対比により認められる。)(5)の裏面は「チヤコピー」でなく、オレンジ色の「クロバーチヤコピー」であること(検丙第四号証の一、二在中の複写紙により認められる。)等の細かな点を除いて、原告クロバーの販売する布地用転写紙及びその包装の形状及びそこに附された表示等がほぼ被告会社主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
しかしながら、いずれも被告会社の布地用複写紙の封筒であることに争いのない検丙第一、二号証の各一、二、同第六ないし第八号証といずれも原告クロバーの布地用複写紙の封筒であることに争いのない検丙第三、四号証の各一、二、検甲第一ないし第八号証、同第二〇号証とを対比して考えると、前記(一)の5の(1)、
(2)、(3)、(4)、(6)、(7)は、布地用複写紙という商品それ自体の本来的な機能に必然的に由来する商品の形態・色彩・材質等であつて商品を識別する機能を有するものではないと認められ、また同じく(10)ないし(12)は、
同(13)について前示したところと同様の理由により、いずれもいわゆる商品表示とみることはできないものである。しかして、同(5)、(8)、(9)については、前示のとおり「チヤコピー」は「チヤコペーパー」又は「チヤコパー」と類似するものとはいえない以上(5)、(8)程度その配置が同じであつても両者が商品の表示として類似するものとは考えられない。のみならず、前掲検各号証によれば、原告クロバーの布地用転写紙の封筒に附されている「チヤコピー」の表示には、つねに、前認定のとおり右布地用転写紙発売の際すでに原告クロバーの商品を示す表示として日本全国に著名となつていた「クロバー」という文字が附加されて「クロバーチヤコピー」と表示されており、また封筒の表には、鮮明なクロバーの図案がほとんど全面に印刷されていることが認められ、これとまつたく異なり人物の絵や他の図案を印刷した表紙を有する被告会社の封筒とを混同することは通常ありえないものと認められるのである。
右に判示したところによれば、商品表示の類似による混同又はその虞を前提とする被告会社の謝罪広告の請求は認容することができない。
結語
以上のとおりであつて、原告らの本訴請求及び被告会社の反訴請求は、いずれもその理由がないものといわざるをえないから、これらをいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条第93条を適用して、主文のとおり判決する。
追加
別紙(一)謝罪広告弊社は、昭和四五年八月ごろから、貴社らの製造・販売にかかる「クロバーチヤコピー」について、何らの根拠もなく、これを模造品・粗悪品・特許侵害品であると称して、新聞広告、談話の発表及び書状の発送等により虚偽の事実を流布し、貴社らの営業を妨害し、信用を毀損する言動をいたしましたことについて、深くお詫びいたします。
「クロバーチヤコピー」は、貴社らの独自の研究開発にかかる商品であり、その製造・販売行為について弊社が苦情を述べる権利のないことを確認し、今後は、右商品の製造・販売を妨害し、または貴社らの信用を毀損する虞のあるような一切の行為をしないことを誓約します。
昭和年月日東京都台東区<以下略>日本チヤコペーパー株式会社クロバー株式会社御中内外インキ製造株式会社日本経済新聞全国版については二段三分の一釦手芸裁縫新聞については六段二分の一洋装産業新聞については半六段<11850-001><11850-002>別紙(三)謝罪広告弊社は、布地用転写紙をクロバーチヤコピーと命名してきましたが、その名称及び表示を貴社の布地用複写紙であるチヤコペーパー及びチヤコパーに類似させておりますことは、貴社の利益を害するもので、深くお詫びいたします。またこれにより一般消費者に対して商品を誤認させ貴社に対して多大の御迷惑をおかけしていることについてもまつたく同様であります。
これは不正競争防止法違反の行為でありますので、今後右のような不正行為を絶対にしないことを誓約します。
ここに深く陳謝の意を表します。
昭和年月日大阪市<以下略>クロバー株式会社東京都台東区<以下略>日本チヤコペーパー株式会社御中別紙(四)「クロバーチヤコピー」の製造方法カルナウバ、ポリエチレン、パラフインなどからなるワツクス及びワセリン四〇―六〇重量部、モーター油である鉱物油二五―三五重量部、酸化チタン、紺青、黄鉛、群青、レーキレツドCなどからなる顔料二〇―三〇重量部を均一に混練した粘稠塗布液を、摂氏八〇―一〇〇度に保温しながら紙面に塗布し、冷却固着させる製造方法別紙(五)謹告かねて御愛用頂いております弊社特許品(特許第二四三三一六号)チヤコペーパーにつきまして最近某社が当社の水で消える複写紙の模造品を販売するという事を聞いております。此の製品は当社が過去十数年に渉り苦心研究の結果完成したものでありまして御承知の如く前記の特許により製造したものでありますので某社の行為は弊社の特許に触れる恐れもあり又商業道徳上も誠に許し難いものと存じます。
もちろん本件に就きましては法的手続を準備致しておりますが、布に使用する複写紙を御入用の節は御間違いなく、完全に水で消えるチヤコペーパーを御指名下さいますよう御願い申し上げます。
なお念のために申上げますが権利侵害になりますと特許法第100条及び第101条の規定に違反し販売した人についても御迷惑をおかける恐れもありますので充分御注意下さいますよう併せて御願い致します。
昭和四五年六月一日(特許第二四三三一六号)日本チヤコペーパー株式会社東京都台東区<以下略>TEL△△△-△△△△(代)<11850-003><11850-004><11850-005><11850-006>
裁判官 大江健次郎
裁判官 楠賢二
裁判官 庵前重和
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