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事件 昭和 45年 (ワ) 1094号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1974/01/30
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、「株式会社ユアサ」なる商号を使用してはならない。
二 被告は、昭和四五年一月五日東京法務局日本橋出張所において登記した商号「株式会社ユアサ」の抹消登記手続をせよ。
三 訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
請求の趣旨
主文同旨の判決を求める。
請求の原因
一 (当事者) 原告湯浅金物株式会社(以下「原告湯浅金物」という。)は、大正八年六月、それまでの個人企業を株式会社組織に改めて設立され、以来株式会社湯浅七左衛門商店の商号を用いていたが、昭和一五年一〇月湯浅金物株式会社に商号を変更し、ついで、昭和一八年一〇月一時湯浅金属産業株式会社に改め、再び昭和二一年一〇月現商号に変更したものであり、原告湯浅電池株式会社(以下「原告湯浅電池」という。)は、大正七年四月、それまでの個人企業を株式会社組織に改めて設立され、
以来、湯浅蓄電池製造株式会社の商号を用いていたが、昭和二九年九月現商号に変更したものである。
原告湯浅金物の資本の額は二七億八、〇〇〇万円、近時一年間の売上高は約五〇〇億円であり「1次の物品の売買および輸出入の事業、イ工作機械・機械器具・工具・計量器・測定機・試験機・動力伝導装置・軸受け・非鉄金属・産業用電気機械器具・原動機類・コンプレッサ・送風機・油圧機器・建設機械・産業用車両および荷役運搬機械設備・ロ鉄鋼・弁・水道用器具・衛生陶器・ポンプ・ボイラ・冷暖房空気調和機械設備・建築用組立て材料・建築用金属製品・建築用金物・事務用店舗用装備品・家具・ガス機器・石油機器・家庭用金物・民生用電気機械器具・事務用機械器具・農器具および電池、ハ食料品加工機械ならびにその他金属製品およびプラスチック管・板・フィルム等の化成品、二以上の物品の部分品・取付け具および付属品、ホその他各号事業に関連する物品、2前号の物品の賃貸の事業、3第一号の物品の製造および加工の事業、4建設業ならびに建築物の設計および工事監理の事業、5宅地建物取引業および不動産鑑定業、6宅地および工業用地等の造成の事業、7不動産の所有・管理および賃貸の事業、8損害保険および自動車損害賠償保障法に基づく保険の代理の事業、9前各号に付帯または関連する一切の事務」を営業目的とし、また、原告湯浅電池は、資本の額三〇億円、近時一年間の売上高は、
約一九〇億円であり、「1各種の電池・その原料および部分品・整流器・電池応用品ならびに電気機器類の製造・販売、2計量器および付属品の販売、3電気自動車の製造・販売、4各種の合成樹脂製品およびゴム製品の製造・加工および販売、5公害防除機器の製造・販売、6不動産に関する事業、7前記各号に付帯または関連する一切の事業」を営業目的とするものであるところ、原告両会社は、遠く寛文六年(一六六六年)【A】が京都堀川において木炭業を創始したことに端を発し、三百年の歴史をもつわが国屈指の企業である。
被告株式会社ユアサは、明治三一年【B】が開始し、当初【B】商店と称していたが、大正七年八月株式会社組織に改め、湯浅貿易株式会社と称し、昭和二五年六月には、別に【B】が設立した湯浅木材株式会社(昭和一九年一二月湯浅木材工業株式会社と改称したことがある。)を合併し、改めて商号を湯浅貿易株式会社と定めたが、さらに昭和四五年一月五日、株式会社ユアサと商号変更をしたものであり、資本の額一〇億円、昭和四三年一〇月より昭和四四年九月までの一年間の売上高は、約五五〇億円であり、「1下記物品の売買および輸出入業、イ木材・合板・単板・床板・削片板・繊維板・木製品・建築材および家具類、ロ食糧・砂糖・塩・油脂・油脂製品および原料・農産・林産・水産・畜産物・雑穀・加工食品・煙草・酒類・その他の飲料・香辛料および調味料、ハ肥料・飼料およびこれらの原料、ニ鉱礦石・鉄非鉄金属類・非金属土類およびこれらの製品、ホ各種機械器具類・機械設備・プラント類・車両・船舶・航空機およびこれらの部品、ヘセメント・硝子・その他の窯業製品、ト石炭・石油その他の燃料類およびこれらの製品、チゴム・パルプ・紙およびその製品、リ化学製品・医薬品・化粧品・香料・日用雑貨類およびその原料、2前号物品の製造加工業および請負業、3前各号に関する代理業・仲立業および問屋業、4林業・倉庫業および運送業、5機械設備・プラント類および構築物等の設計・修理・据付・建設および工事請負業、6船舶および保険代理業、7船舶・車両その他機械類の所有・賃貸借に関する業務、8不動産の売買・賃貸借および管理業、9当会社の営業に関連ある事業に対する投資、10前各号に関連する一切の事業」を営業目的とするものである。
二 (営業目的の競合) 原告湯浅金物の営業目的は、被告の営業目的のうち、1のイ、ニ、ホ、2、5、
6、9、10と、また、原告湯浅電池の営業目的は、被告の営業目的のうち、1のホ、2、3、5、9、10、と、それぞれ重複する。
原告ら両会社と被告会社とは、いずれも商号中に「湯浅」の文字を表記しながら、沿革上も資本上も全く別な存在であるところ、取引業者の中には、被告の前商号「湯浅貿易株式会社」より、これを原告らの貿易部門とみるなど、営業の主体の誤認混同を生ずることがあつた。しかし、原告らの商号および被告の前商号は、それぞれが長い歴史を有して企業活動を行い、商号中に、いずれも営業活動の範囲を限定する文字を採用していたため、一部に誤認混同を生ずることはあっても、比較的安定した経済分野と秩序とを保ちつつ、企業活動を行つて来た。
三 (被告の商号変更) ところが、被告は、昭和四四年一一月二八日の株主総会において、商号を「湯浅貿易株式会社」から「株式会社ユアサ」に変更し、本店所在地を「東京都中央区」から「東京都千代田区」に改めることを決議した。原告らは、同年一〇月三一日、
被告の右商号変更の計画を知ったが、右変更は不正競争の目的に出たものであるから、変更しないよう、面談または書面をもつて、被告に対し考慮を求めたが、受け入れられなかった。その後、被告は、請求の趣旨第二項のとおり商号変更の登記手続を了するにいたった。
被告の右商号変更は、仮に被告の合板製造部門が急速に伸長し、貿易部門は全取扱高の半分を占めるにすぎなくなり、商号と営業活動の実態が合致せず、商号変更の必要が生じたとしても、その必要性は、右のような商号変更を正当づけるに足りない。商号の選択は、信義則に従い行なわれるべく、既存の経済秩序を混乱させ、
破壊することは許されないからである。被告は、創始者【B】の苗字を商号中に取り入れた歴史ある会社ではあるが、現在は、創始者の一族は、経営にはもちろん、
資本上も無関係であり、「ユアサ」「湯浅」にこだわる理由は全く存しない。被告が以上の諸事情等を知悉しながら、新商号を採用したのは、長い歴史に藉口して、
原告らが築き上げて来た知名度、信用度を自己のために利用しようとしたものというべく、まして、被告が定款上、本店所在地を東京都千代田区に移転したとしても、実質上、本店はなお同都中央区に存するのであるから、原告湯浅金物の本店所在地と同一区となることを合せ考えれば、その意図は一層明らかである(被告が昭和二五年まで二九年間に亘り、その事務所を東京都千代田区に有していたというはない。)。「ユアサ」は、「湯浅」と音が同一であり、ローマ字で表記する国際活動のもとでは、原告らの表記との差異を見出しえないし、なお、「ユアサ」は、原告湯浅電池の登録商標であり、その多数に上る販売会社は全国各地で右表示を使用し、営業表示ともなつている事情も、考え合せられるべきである。
原告らの主張を構成すれば、次のとおりである。
四 原告湯浅金物の選択的請求(一) 商法第20条による商号使用差止および商号変更登記の抹消請求1 (商号の類似性) 原告湯浅金物株式会社と被告株式会社ユアサとの両商号は、その主要部分である「湯浅」と「ユアサ」とにおいて、称呼上同一であり、近時、商号が片仮名文字化される傾向と、仮名文字タイプ・テレックスが一般的に使用される傾向にあることに鑑みれば、きわめて類似するものといわなければならない。
商号の類否は、時間的、場所的な離隔的観察によつて判断されるべきであり、商号における文字の数いかんのごときは考慮に値しないものである。被告が東京都中央区において、商号を株式会社ユアサに変更しようとして許されなかったのは、これが原告湯浅金物の商号との関係で商業登記第27条の「判然区別することができない」商号に該当したからにほかならない。なお、原告湯浅金物の商号のローマ字表示「YUASA HARDWARE CO.,LTD.」と被告のそれ「YUASA LTD.」とはきわめて類似しており、現に誤認混同を生じている。
2 (営業の同一性) 原告湯浅金物とは、ともに総合商社であり、現業に、その営業の重要部門の一である建材部門(原告湯浅金物は、主として金属関係の建材を、被告は、主として木材関係の建材を取り扱つている。)は、たがいに重複しているし、ともに、工業機械、産業機械を重要な取扱商品とし、現実に競合関係にあるのみならず、将来両者の営業拡大にともない、さらに同種または同一の商品の取扱いが増加することは、
必至である。その営業目的の主要部分において重複していることは、第二の二において、述べたとおりである。したがつて、両者の営業は、商法第20条第2項の同一の営業といわざるをえない。
原告湯浅金物は、国内に、二〇支店、六営業所(現在一三営業所)を有し、その営業の地域的範囲は日本全国に及び、一方、被告もまた、国内に、約一二の支店、
出張所を有し、ほぼ全国的に営業を行なつているから、両者の営業活動の範囲は重複しており、営業目的の競合と相まつて、両者の営業は、顕在的にも潜在的にも競合関係にある。
3 (不正競争の目的) 被告は、上述のとおり、東京都中央区において商号変更の登記ができなかつた以上、これのみによつても、原告湯浅金物の存在を十分知り、かつ、両者の営業が顕在的にも潜在的にも競合関係にあることを知つていたということができ、その結果として、原告湯浅金物と被告とが、その商号において誤認混同を生ずるであろうことを意識していたにもかかわらず、原告湯浅金物の登記済み商号の知名度と信用度とを自己の営業に利用すべく、あえて原告湯浅金物の商号と類似した商号「株式会社ユアサ」に商号変更したものである。一般に、同一系列に属する企業グループの商号の共通の表示部分を抽出して、これを新商号とした会社が存する場合においては、この会社は、右グループの一員ないしこれに関係あるものと考えられたり、そのグループの統括的会社であると誤解されるのが通常である。被告は、このような社会的認識と近時の商号片仮名文字化の傾向に便乗して、「ユアサ」という商号表示が、原告湯浅金物、同湯浅電池等の湯浅グループの一員または統括的会社であると、一般に誤解されうることを予見しながら、あえてその商号変更をしたものである(原告らと被告の受電略号は、被告主張のとおりではない。)。
被告は、右商号変更のために、東京都千代田区にその本店移転の登記手続をしたが、同区内のその本店事務所なるものは、わずかに七六平万米の訴外平和通商株式会社の微々たる一事務室に同居し、職員を置かず、そこでは何ら営業活動を行つていない現状にあり、右本店の移転は、仮装的なものにすぎない。被告は、原告湯浅金物の本店所在地である東京都中央区を、依然その本店所在地として、通知、広告に表示し、実質的には、従来どおり同所で営業活動を行つている。したがつて、被告は、原告湯浅金物と商法第20条第2項の「同市町村内ニ於テ」同一の営業を行うものであり、かつ、判然区別し難い商号を使用する者であるから、同項の適用または類推適用によつて、不正競争の目的があるものと推定され、上述1、2の事実と相まつて、原告湯浅金物は、同条第一項の規定により、被告に対し、その「株式会社ユアサ」なる商号の使用差止とその商号変更登記の抹消登記手続と求めうべきものである。商法第19条の「他人ガ登記シタル商号」には、「判然区別することができない商号」が含まれるものと解されるところ、同法第20条第2項の「他人ノ登記シタル商号」も、同法第19条の場合と同様に、「判然区別することができない商号」を含むものと解するのが相当であるからである。
4 要するに、被告の新商号の採用は、原告湯浅金物の商号との誤認混同をあえて顧みず、名原告の犠牲において、既存の経済秩序よりも、自己の個人的利益を優先させたものであつて、被告の旧商号と原告湯浅金物の商号との関連のうえに築かれていた経済秩序を破り、ひいては、一般大衆の利益をも害する反社会的行為であり、信義則に反し、正当性を欠くものである。もちろん、会社が商号選択の自由を有することはいうまでもないが、上述のように仮装的手段を講じて、原告湯浅金物の商号と類似した商号を選択することが許されないことは明らかである。
(二) 商法第19条による商号変更登記の抹消請求 原告湯浅金物と被告との両商号が類似することおよび両者の営業が同一であることについては、上述した。
原告湯浅金物は、同市町村内である東京都中央区においては、「ユアサ」または「湯浅」に商号を変更する登記手続ができず、被告もまた同様に、原告湯浅金物の商号が存したために「ユアサ」に商号を変更する登記手続ができなかつた。このような場合には、両者とも、その商号の変更に当つては、一般大衆または取引者に誤認混同を起させるおそれを助長するような商号に変更することは、信義則上これを回避すべき義務がある。しかるに、被告は、商法第19条の規定により、東京都中央区においては、「ユアサ」の商号に変更する登記手続ができないので、仮装的にその本店を隣接の東京都千代田区に移転する登記手続をしたうえ、商号変更登記手続をしたことも上述のとおりである。
しかも、被告は、従来どおり東京都中央区において営業活動を行つており、被告のした本店所在地移転および商号変更の行為は、商法第19条の規定を潜脱するための行為である。このような作為的行為は、形式的には同市町村内ではないので、
同条に該当しないかのようにみえるが、実質的には、明らかに同条の規定に違背するものであり、かつ、上述のとおり、信義則上も許されないものである。したがつて、原告湯浅金物は、被告に対し、商法第19条の規定の実質的違背を理由として、右商号変更登記の抹消登記手続を求める。
(三) 不正競争防止法第1条第2号による商号使用差止および商号変更登記の抹消請求1 (商号の周知性) 原告湯浅金物は、三百年余の歴史を有し、被告が本件商号変更をした昭和四五年一月当時における資本の額は二二億八、七五〇万円、その株式は東京および大阪の両証券取引所第一部に上場され、一年間の売上高は約五〇〇億円であり、日本全国および海外において営業を行う大規模の総合商社であつて、その商号は、全国に広く認識され、ユアサの通称をもつて呼ばれている。
2 (誤認混同による営業上の利益侵害) 被告の商号が「湯浅貿易株式会社」であつたときにおいても、原告湯浅金物と被告との誤認混同があつたが、被告か商号を「株式会社ユアサ」と変更した後には、
この誤認混同はきわめて多数となり、原告湯浅金物が確認しえたものだけでも昭和四五年中約五五件に達し、すでに各種の営業上の利益を害されているばかりでなく、さらに今後も、被告の新商号の使用は、原告湯浅金物の営業上の施設または活動と誤認混同を生ずることは必至であり、その結果、多大な営業上の利益を害されるおそれがあることは明らかである。
よつて、原告湯浅金物は、右事実および上述の商号の類〜性と営業の競合の事実にかんがみ、被告に対し、不正競争防止法第1条第1項第2号の規定により、その商号の使用差止および商号変更登記の抹消登記手続を求める。
五 原告湯浅電池の選択的請求(一) 商法第21条による商号使用差止および商号変更登記の抹消請求1 (商号の類似性) 原告湯浅電池は、一般に「ユアサ」と略称されている。その商号と被告の商号との類似性については、原告湯浅金物の主張と同様である。
2 (営業の誤認混同) 原告湯浅電池は、バツテリーのメーカーであるところ、「ユアサ」「YUASA」は、同原告の商標であるとともに、その営業表示たる標章であるから、被告の商号「株式会社ユアサ」の使用は、被告の営業を原告湯浅電池の営業であると誤認混同させる結果を生じている。
3 (不正の目的) 被告は、その商号を変更するに当り、法律の禁止を潜脱するために、上述のとおり、不正な方法を用いた。さらに、被告は、ことさら、その商号中「ユアサ」の文字を大きくし、「株式会社」の文字を小さく表示し、または、「ユアサ」の文字の表示力を顕著にするため、特殊な加工を施したり、被告の営業または商品を表示するために、原告湯浅電池の著名な登録商標「YUASA」または標章「ユアサ」「YUASA」と同一の文字を使用したりしている。このような使用は、原告湯浅電池の知名度、信用度を巧みに利用しているものであり、いわゆるフリー・ライドに当り、不正の目的の存することを明らかにしているものといわなければならない。
4 原告湯浅電池が被告の商号「株式会社ユアサ」の使用による誤認混同のために、その営業上の利益を害されるおそれのあることは、次項(二)の3のとおりであるが、原告湯浅電池は、以上の事実にもとづき、商法第21条の規定により、被告に対し、その商号の使用差止および商号変更登記の抹消登記手続を求める。
(二) 不正競争防止法第1条第1項第2号による商号使用差止および商号変更登記の抹消請求1 (商号の周知性) 原告湯浅電池は、大正四年創業の湯浅電池製造所に始まり、会社組織としては、
大正七年四月湯浅蓄電池製造株式会社の設立以来引続いて現在に及び、その間商号を昭和二九年九月現商号に改めたものであるが、昭和四五年一一月現在では資本の額三〇億円、その株主は一万名を超え、その株式は、東京、大阪両証券取引所の各第一部および京都証券取引所に上場され、同年一月から七月までの七カ月間の株式売買出来高は一億一、二六二万株に達し、その製造販売する商品は、蓄電池、乾電池、整流器、携帯用燈具、電球のほか、合成樹脂製品、ゴム製品に及び、電気機器の大メーカーである。また、原告湯浅電池は、全国に五支店、四営業所を有するほか、海外には駐在員事務所三、現地法人二、合弁会社四を有し、国内国外に亘り、
その製品を販売し、昭和四二年および昭和四三年朝日新間社の調査によつても、その知名度の高いことが計数的に示されており、その商号は、きわめて広く認識されている。
原告湯浅電池は、全国の支店、営業所はもちろん、さん下の販売店等に、古くからその営業主体を表示するための標章「ユアサ」「YUASA」を記入した看板を掲げさせ、その数は一万六、〇〇〇余に及んでいる。また、原告湯浅電池は、新聞雑誌等を通じ、その広告に「ユアサ」「YUASA」の標章を使用し、古くから一般大衆に対する周知宣伝に努め、さらに、その発行するパンフレット、リーフレット、ポスターその他の刊行物等には必ず右標章を使用し、その発行部数は、年間三〇万部に達しているし、同原告の使用する封筒、便箋、郵便料金計算機によるスタンプ、職員制服のマークにも、標章「ユアサ」「YUASA」を使用し、その一般への周知宣伝を続けて来た。原告湯浅電池は、その製造販売する年間六〇〇万個を超える蓄電池その他各種製品と併せ、年間一、八〇〇万個を超える商品には、商標「YUASA」、標章「ユアサ」「YUASA」を表示し、それらは、被告が本件商号変更をする以前より、一般に広く知れ渡つている。以上のほか、原告湯浅電池は、その標章等の宣伝のため、各種の施策を講じ、年間約一億七、〇〇〇万円の費用を投じている。その長年の努力の結果、「ユアサ」「YUASA」の標章は、原告湯浅電池の営業主体を表示するものとして、その商号を、少なくとも被告が本件商号変更をするはるかに以前より、一般世人に広く認識されるにいたらしめている。
2 (営業上の利益侵害) 被告の本件商号変更以来、被告と原告湯浅電池との営業上の活動等における誤認混同の事実は、数多く起り、このため、原告湯浅電池は、営業活動の敏速性を妨げられ、また、誤認混同を予め防ぐための営業上の措置を必要とするにいたり、その営業上の利益を害され、今後も害されるおそれがある。被告が新商号として「ユアサ」を使用することにより、原告湯浅電池が従来より使用して来た「湯浅電池株式会社」または「YUASA BATTERY CO.,LTD.」の商号および「ユアサ」の「YUASA」標章の表示力は、稀釈化され、その価値は減少し、そのため、原告湯浅電池が営業上著しい損害を被ることは明らかである。
以上、1、2の項に主張の事実と被告の商号が原告湯浅電池の商号と類似することは上述のとおりであることとにより、被告の本件商号の使用は、不正競争防止法第1条第1項第2号の規定に該当するから、原告湯浅電池は、被告に対し、その商号の使用差止および商号変更登記の抹消登記手続を求める。
被告の答弁
「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は、原告らの負担とする。」との判決を求める。
一 請求原因一の項の事実中、原告らについての点は知らない。被告についての点は、商号変更の日の点は否認し、その余は認める。被告は、明治三一年の創業以来七〇余年の歴史をもち、創業二〇年にしてわが国屈指の貿易商社となり、一時日本の政治経済および戦争の歴史とともに、苦難の中に雌伏したこともあるが、終始一貫「湯浅」を商号に用いて来た。被告は、その長い社歴の中で、原告らと事業上何らの関係がなかつたのみならず、たまたま同じ「湯浅」を商号にもつ原告らの名声を利用したことなど全くなく、常に独自の力で伸びて来たのである。
同二の項の事実中、原告らの営業目的と被告の営業目的とが重複することについては知らない。原告らと被告とが沿革上も資本上も別の存在であることは認めるが、その余の点は争う。
同三の項の事実中、被告がその株主総会において原告ら主張の日にその主張のとおり決議をしたこと、原告らが被告に対し面談または書面をもつて商号の変更をしないよう考慮を求め、受け入られなかつたこと、被告が右決議に従い原告主張のとおり商号変更登記手続を了したことおよび被告が創始者【B】の苗字を商号中に取り入れた歴史ある会社であるが、現在は創始者の一族は経営面には関係していないことを認めるが、その余の事実は争う。
被告は、本件商号変更につき、昭和四四年一月から同年九月までの間に、少なくとも七回に亘り、増資説明会、近況報告会その他において、その旨公然と外部に発表し、著名新聞紙にも掲載され、同年九月と一〇月の経営会議、取締役会において意向を確定し、同年一一月二八日の株主総会の決議をもつて「株式会社ユアサ」と商号変更することになつたものであり、その間約一年の準備期間を経ているものである。したがつて、原告らが被告の商号変更計画を昭和四四年一〇月三一日まで知らなかつたとは、とうてい考えられない。被告が右商号変更をした理由は、(一)商号を被告会社の実体に即応させること(被告は、近年、貿易業務のみならず国内においても、住宅関連産業プラントの設計販売、エンジニアリング等の多角的分野に業務を拡張し、特に建材製造部門の急速な伸長をみ、これが貿易部門と比肩するにいたり、その状況のもとでは、「湯浅貿易株式会社」の社名は、実体を表明するにふさわしくなくなつた。)、(二)被告の製造にかかる建材部門について顧客の誤解を避けること(被告製造の建材の販売に当つては、大口取引には、顧客が、貿易にあつては国際入札の方式をとるもの、国内においては官庁納入のものがあり、
このような場合、貿易会社と称していたのでは、顧客から他のメーカーの製品を売りつぐなうことを業とするものと受け取られることから脱しきれず、営業上不利な立場に立つ。)、(三)仮名書きを採用することが適切であつたこと(被告は、現在十二の関連会社を有しているが、そのうち商号に「ユアサ」を冠する七社の五社までが早くから片仮名「ユアサ」を用いている。また、被告の建材部門の販売店の組織を「ユアサ会」と称し、その取扱商品も、「ユアサアートパネル」「ユアサアートフロアー」と称している。)、(四)時代のすう勢に即応すること(近年、社会経済情勢の変遷にともない、商号に片仮名を用い略号化し、その平易化、単純化、近代化をはかろうとすることは、顕著な事実である。)にある。
原告らは、被告について、現在創始者の一族が経営上も資本上も無関係であるから、「ユアサ」「湯浅」に拘でいする必要がないと主張するが、被告は、かつて日本の五大総合商社の一に数えられ、海外顧客から得た「ユアサ」ののれんに対する信用は絶大なものであつた。したがつて、「ユアサ」の商号をのれんとして使用する必要性は、創始者とは関係なく、現在も引続き存するものである。会社の商号が、その大株主または社長の姓と無縁のものとなつている大きな会社は、現に沢山ある。また、商号の知名度については、貿易業界においては、原告らは、被告よりはるかに後発業者であり、海外における知名度は、被告のそれより著しく劣つている。国内市場においても、木材、合板業界、住宅産業界において、被告の知名度、
信用度は、原告らのそれをはるかに凌駕している。
したがつて、被告が原告の知名度、信用度を利用することなど考えられない。
なお、被告は、大正一一年、東京都千代田区に丸の内ビルが竣功した直後、当時の東京支店事務所を同ビル内に設け、昭和二五年まで二九年の長い間、同区に事務所を有していた。そこで、かねてから、右のごとく縁故の深い千代田区に本店を移転したいとの念願をもつていたところ、現在の事務所が業績の拡大にともない手狭となつたので、今般の商号変更に伴い、本店を同区内に移転したものである。
二 原告湯浅金物の請求について(一) 商法第20条関係1 商号の類似性について 原告湯浅金物の商号は、「湯浅」と「金物」とが一体不可分になつたものであり、そのいずれの一つを欠いても、同原告を特定しえないから、同原告の商号の主要部は「湯浅金物」であり、その表記「湯浅金物」発音「ユアサカナモノ」と被告の表記、発音「ユアサ」とは明白に異なる。その英文表記も、原告湯浅金物は「YUASA HARDWARE CO.,LTD.」であり、被告は「YAASA LTD.」であるから、いずれにしても、同原告と主体の混同誤認を生じない。
しかも、被告の顧客は、国内においては、一部特殊の商品を除き、問屋その他一定の流通機構内にある専門的商人またはメーカーであり、国外においては、貿易業者、その他一定の流通業構内の商人である。これらの取引先は、原、被告の区別を十分に知悉しており、誤認混同を生ずるおそれは全くない。また、一部特殊商品についても、被告の顧客たる最終需要家は、特殊専門的業者であつて、両者の誤認混同を生ずるおそれはない。
なお、被告は、東京都中央区において、商号を「株式会社ユアサ」に変更するための登記申請をした事実はなく、また、その意思もなかつた。
2 営業の同一性について 原告の主張は、定款上の営業目的の一部を誇大に取りあげた形式論にすぎない。
主要取引商品と会社との結びつきについてのイメージは、それぞれの顧客の間で確立されており、たとえば、建材部門については、原告湯浅金物のそれは金属関係を主体とし、被告のそれは、木材および木質建材関係を主体としているのであり、実質的にみれば、営業の類以ないし競争関係は存しない。なお、産業機械(コンプレッサー)の販売をしたことがあるが、その購入者は、原告湯浅金物と被告とが別個のものであることを知悉しており、そのうえで特に被告に販売の依頼をして来たものであり、そこには営業主体の混同は全く存しなかつた。また、原、被告両会社は、いずれも、総合商社であるから、全国的に支店、出張所等を有することは当然であるところ、その営業活動の範囲の重複の判断に当つては、形式的に地域的に範囲を問題にすることなく、その取扱商品、顧客等の実質的要素を考慮して、その重複の有無を判断すべきであるが、その重複はみられない。
3 不正競争の目的について 被告が東京都中央区において、商号変更の登記申請をした事実も意思もないことは上述のとおりであるから、その存することを前提とする主張は失当である。被告は、本訴が提起されるまで、原告のいわゆる「湯浅グループ」の存在を知らなかつたのみならず、独自の伝統、経歴、業績、知名度等を有するユニークな総合商社として、貿易、商事部門等において、被告の後発業者である原告ら(被告の受電略号「YUASA」と原告らの受電略号「HIOHI YUASA」「YUASA BATRY」とを比較すれば、明らかである。)のいわゆる知名度、信用度を利用する意思など全くなく、その必要性もないのである。
被告は、その本店を東京都千代田区におき、職員も配置しているのであり、その本店移転を仮装的であるとするのは、原告の不当な推測にすぎず、同都中央区にいかなる規模の営業事務所を有するとしても、それはあくまで営業所であり、本店ではない。
4 原告には、既存の経済秩序を混乱破壊させる意図がないのはもちろん、原、被告両社の商号は、もともとは、ともに漢字四字より成り、その中に「湯浅」になる共通の文字があつたところ、被告の商号変更により、両者の差異は、一層明瞭になつたのであるから、経済秩序に貢献こそすれ、それを損なつたり、一般大衆の利益を害したり、信義則に反するようなことは、ありえないことである。
(二) 商法第19条関係1 原告湯浅金物と被告との商号が類似せず、営業が競争関係にないこと、被告には原告主張のような随意はなく、被告の商号変更が信義則に反するものではないことは、上述したとおりである。
被告の本店は、東京都千代田区に存在するところ、本店と営業所との所在地の異なる大会社の事例は、枚挙にいとまがなく、また、被告の商号変更は、自己の従来の商号、受電略号にもとづくものであり、これを千代田区において登記したのであるから、商法第19条違背とならないことは明らかである。
(三) 不正競争防止法第1条第1項第2号関係1 商号の周知性について 原告湯浅金物の株式が東京、大阪両証券取引所の各第一部上場銘柄であることは認めるが、その余の事実は争う。原告湯浅金物の商号は、業界において若干知られているとしても、不正競争防止法第1条第1項第2号にいう「広ク認識セラルル」商号ではない。一方被告は、商号として、もともと「湯浅」なる文字を使用していたものであり、本件の変更にかかる商号も、上述のとおり自己の商号、受電略号等に一致ないしもとづくものであるから、同法にいう「他人ノ」商号と類似するものを使用したことにはならない。
2 営業上の利益侵害について 原告が誤認混同の事例として証拠上挙示するものは、いずれも、ありふれた宛先誤記か、郵便配達人の単純な誤配または取引に関係のない者の無責任な表明の類にすぎず、被告の商号変更によるものではないから、誤認混同による営業上の利益侵害も、これを認めるに由ないものである。
三 原告湯浅電池の請求について(一) 商法第21条関係1 商号の類似性について 原告湯浅金物の主張についての反論と同様である(原告湯浅電池の英文表記は「YUASA BATTERY CO.,LTD.」である。)。
2 営業の誤認混同について 原告湯浅電池は電池等のメーカーであるが、被告は同原告とは業種を全く異にしており、その製造部門としては木材合板部門があるにとどまり、電池の製造販売をしていないから、原告湯浅電池が、電池につき「ユアサ」「YUASA」の標準を使用しているからといつて、商号について営業上誤認混同を生ずることはない。
3 不正の目的について 被告の本件商号変更について法律の禁止を潜脱する意図も行為も存しないことは、上述のとおりであり、また、被告がその商号を表記するに当り、文字を若干の大小の差をつける等したのは、その方がデザインとして優れていると考えたからにとどまり、上述のとおり、被告は長い歴史と伝統を有し、かつ、その取扱商品の分野においても独自のものをもっているので、原告湯浅電池の標章や業界における知名度、信用度等を利用する必要性もないものである。
4 原告湯浅電池と被告とは、企業の性質が全く異なるから、顧客により営業主体が誤認混同されるはずがなく、したがつて、その誤認混同により原告湯浅電池の利益が侵害されることはありえない。
(二) 不正競争防止法第1条第1項第2号関係1 商号の周知性について 原告湯浅電池の株式が東京、大阪両証券取引所の各第一部および京都証券取引所の上場銘柄であることは認めるが、その余の事実は争う。原告湯浅電池の商号が広く論議されていたといえるほどのものではないことは、原告湯浅金物の商号について述べたと同様である。
2 営業上の利益侵害について 争う。原告が誤認混同の事例として証拠上挙示するものは、いずれも、ありふれた宛先誤記か、単純な誤配にすぎない。稀釈化の主張についても、原告湯浅電池と被告とは、その営業について競争関係がなく、製造部門をもつ特異な総合商社としての被告の知名度、信用度の方が、単なる蓄電池のメーカーである原告湯浅電池のそれより勝るとも劣らないこと、被告の商号は七〇余年の歴史に由来し、従来から取引者需要者により、通常単に「ユアサ」と略称されていたことからして、その理論の適用されるべき場合でないことが明らかである。
先使用の抗弁 仮に原告らの不正競争防止法第1条第1項第2号の規定による主張が認められるとしても、被告は、明治三一年以来「湯浅」を冠した商号および受電略号「YUASA」を使用しており、原告湯浅金物が昭和二一年一〇月その商号変更により現商号を採用し、また、原告湯浅電池が昭和二九年九月同様にその現商号を採用し、これらの商号が日本国内において広く論議されるにいたる以前より、これらと類似の商号「湯浅貿易株式会社」を善意で使用して来たものであるから、被告がその商号を原告らの商号に類似する「湯浅貿易株式会社」から「株式会社ユアサ」に変更し、これにより、原、被告の商号がより類似するにいたつたとしても、被告の行為は不正競争防止法第2条第1項第4号の規定による先使用の行為に該当し、原告らは、被告の商号「株式会社ユアサ」の使用差止および商号変更登記の抹消登記手続を求めることをえないものである。
先使用の抗弁に対する原告らの答弁
被告がその設立以来「湯浅」の文字を冠した商号を使用して来たことは認めるが、そのことからただちに、「湯浅」の二字を冠したすべての商号または単に「湯浅」または「ユアサ」の商号について、不正競争防止法第2条第1項第4号の規定にもとづく先使用の権利を有するとすることは、誤りである。同条項の規定により先使用の権利が認められるのは、周知商号が周知となる以前から引続き使用された商号(「株式会社ユアサ」の商号は、これに当らない。)についてのみであり、その商号に類似する他の商号にまで及ばないことは、同条項が、「其ノ表示ヲ使用スル行為」と規定し、前段の「之ト同一若ハ類似ノ表示」とは表現を区別していることから明らかである。もつとも、商標、標章等については、時代の推移に応じ、その一部についてごくわずかずつ変化を加える必要があることもあろうが、その変化によつて、その表現上の同一性を失わしめない限度においてのみ、引続き先使用の保護が与えられるというべきであろう。たとえば、商標、標章中の文字の書体を近代化したり、図形、記号の一部を修正したりする場合のごときである。しかし、商号については、そのような文字の書体、図形、記号とは関係がないから、同一性の範囲内での変化が与えられることは、稀なことであり、たとえば、当用漢字の字体にする場合とか、現代かなづかいにより文字が廃止された場合とかなどに限られる。ところが、「湯浅貿易株式会社」から「株式会社ユアサ」への変化には、表現上の同一性が認められず、このような範囲の類似商号は、右条項にいう他人の商号が広く認識される以前より使用していた商号ということはできない。
証拠関係(省略)
理 由一 証人【C】、同【D】の各証言および弁論の全趣旨とこれらにより真正な成立の認められる甲第一号証、同第二号証、同第四号証の一、二、成立に争いのない甲第四号証の五、同第五号証の一、二、一四、一五によれば、原告両会社の来歴、資本の額、年間売上高、営業目的についての請求原因一の項の事実および資本の額、
年間売上高は増加の傾向にあることが認められる。被告会社の来歴、資本の額、年間売上高、営業目的についての同項記載の事実は、現商号への変更の日の点を除き、被告の認めるところである。また、被告がその株主総会において原告ら主張の日にその主張のとおりの決議をしたことおよび被告が右決議に従い原告ら主張のとおり商号変更登記手続を経たことは、当事者間に争いがない。
二 原告湯浅金物は、まず、商法第20条の規定にもとづいて、被告の現商号使用の差止およびその商号変更登記の抹消登記手続を請求する。
商法第20条第1項は、商号の登記をした者は不正の競争の目的をもつて同一または類似の商号を使用する者に対してその使用をやむべきことを請求しうると規定し、同条第二項は、同市町村内において同一の営業のために「他人ノ登記シタル商号」を使用する者は、不正の競争の目的をもつてはこれを使用するものと推定している。この「他人ノ登記シタル商号」は、同法第19条の「他人ガ登記シタル商号」は同一の営業のためにこれを登記することをえずとする規定を受けているものであり、両者は、同義に解するのが相当である。そして、この第19条の「他人ガ登記シタル商号」は、同条が商号登記した者の権利を保護する目的に出たものである以上、商業登記第27条の規定する「同一の営業のため他人が登記したものと判然区別することができない」商号を含むものないしはこれと同義と解すべく、さらに、この「判然区別することができない」商号は、同条の見出しに「類似商号登記の禁止」とあることからも明らかなとおり、「類似の商号」というに同じいものと解される。したがつて、商法第20条第2項の「他人ノ登記シタル商号」とは、
他人が登記した商号と全く同一のもののみならず、「他人が登記したものと判然区別することができない商号」すなわち「類似の商号」をも含んだものというべきである。そして、この「類似の商号」と商法第20条第1項の「類似ノ商号」とは、
理論的には、同義と解されるが、ただ、その具体的適用に当っては、商業登記第27条適用の場合は、登記官が、商業登記事務における商号の類似性判断に際して、考慮に入れるべき取引の実情を知るに十分な手段が備わっていないので、商法第20条第1項、第二項適用の場合に、裁判所が取引の実情の立証を受けて判断する場合と異って、事実上、判断の結果に差異を生ずることもありうるだけである。
ところで、商法第20条第2項にいう「同市町村内ニ於テ……他人ノ登記シタル商号ヲ使用スル者」とは、その者が会社である場合、その登記簿上の本店所在地が、同市町村内にある場合に限らず、少なくともその者の主要な営業所が同市町村内にある場合をも含む趣旨に解すべきことは、その規定自体からも明らかである。
本件において、被告が、原告湯浅金物の本店所在地たる東京都中央区内に、現に主要な営業所を有し、「株式会社ユアサ」の商号を使用するにいたつていることは、
証人【D】の証言により真正な成立の認められる甲第一三〇号証、昭和四五年一月一六日当時の被告会社の写真であることに争いのない甲第二八、第二九号証の各一、二および弁論の全趣旨に徴し明らかである。とすれば、被告が原告湯浅金物と同一の営業のために、前説明の意義における「他人ノ登記シタル商号」を使用する者に当るかどうかによつて、商法第20条第2項推定を受けるか否かが定まるものといわなければならない。
(一) 商号の類似性について 原告湯浅金物株式会社と被告株式会社ユアサとの両商号は、多様な表記態様の用いられる商号使用の実情をも合せ考えれば、結局、「湯浅金物」と「ユアサ」とを具体的に対比して、その類否を決すべく、その類否は、一般取引の場において世人が彼此混同誤認をするおそれがないか含かを商号自体について観察し、あわせて取引の実情を参しやくして定むべきものであることは、まず疑をいれないであろう。
原告湯浅金物と被告とは、いずれも、古い歴史をもち、前認定のとおり、きわめて広範な営業目的のもとに、国内国外において多様大量な営業活動を行つて来た総合商社であり、将来もますますその傾向は拡大されるであろうところ、「湯浅金物」は、そのうち「金物」が総合商社としての営業活動の範囲のうちの一部を表示するにすぎないものである一方、湯浅姓の個人に由来するその長い歴史と広範な営業活動と相まつて、一般に「湯浅」「ユアサ」の部分に大きい印象を生じ、ひいて、「ユアサカナモノ」のみならず、その上位概念的ないし包括的把握として、簡明に「湯浅」「ユアサ」の呼称および観念をも生じ包蔵することは見やすいところである。このことは、原告湯浅金物が、加入電信番号のほか、テレツクスの加入者略号として単に「YUASA」と表示されていることが成立に争いのない甲第一三四号証の三ないし一七により認められることおよび原告湯浅金物と営業目的こそ異なるが、同系列に属する原告湯浅電池がその社員章として「ユアサ」「YUASA」を用いており、そのように表示されていることが証人【D】の証言によりその社員章の写真であることの明らかな甲第二五号証の一、二によつて認められることに徴しても明らかである。
また、証人【C】の証言とこれにより真正な成立の認められる甲第三二号証の二の一、二、同第三四号証の一ないし四、同第三五号証の一ないし三、同第三六号証の一、二、同第四〇、第四一号証の各一、二、同第四二号証、同第四三号証の一、
三の各一、同合第六九号証の一、同第七三号証。同第七四号証の一、同第八六号証の一、二、同第八七号証の一ないし三、同第八八号証、同第九〇号証の一ないし三、同第九一号証、同第九二号証の一、二、同第九三号証、同第九四号証の一、
二、同第一〇九号証ないし第一一二号証、同第一一四号証、同第一一五号証、同第一一八号証、同第一二一号証および成立に争いのない甲第三三号証の一、二、同第四三号証の一、三の各二、同第六九号証の二、同第七〇号証ないし第七三号証、同第七四号証の二、同第七五号証ないし第八三号証、同第八四、第八五号証の各一、
二、同第九九号証ないし第一〇三号証、同第一〇七号証、同第一〇八号証、同第一一三号証、同第一一六号証、同第一一七号証、同第一一九、第一二〇号証の各一、
二によれば、実際上も、営業上両営業主体について種々の誤認混同を生じていることを認めることができる。被告は、具体的な誤認混同の事例について、いずれも単なる誤記、誤配などにすぎないと主張するが、肯認することができない。
被告は、その従前の商号「湯浅貿易株式会社」と現商号「株式会社ユアサ」とが類似するものであることを自認する。このように、「湯浅貿易株式会社」の商号が、そのうち営業活動の分野を表示する部分「貿易」を除いた包括的な表示より成る商号「株式会社ユアサ」と互いに類似するということは、被告が「株式会社ユアサ」なる商号を使用した場合、世人は、「ユアサ」したがつてまた観念としての「湯浅」を主要部とするこの商号と、これに原告湯浅金物の営業活動の一つの分野を表示する「金物」を附加した商号「湯浅金物株式会社」とについても、互いに誤認混同を生ずるであろうことを推認させるに十分である。
右によれば、被告の商号「株式会社ユアサ」は、原告湯浅金物の商号と誤認混同を生ずるおそれがあり、類似する商号であるというのが相当である。
(二) 営業の同一性について 被告の営業目的を原告湯浅金物のそれと対比するに、少なくとも、鉄鋼、非鉄金属類、各種機械器具工具類、機械設備、建築材料、家具類、化学製品、これらの部品等の売買および輸出入の事業、右物品の製造および加工の事業、建設業ならびに建築物の設計および工事請負の事業、機械類の賃貸の事業、不動産の売買、管理および賃貸の事業、保険代理の事業、これらに関連する一切の事業において、競合一致していること、また、前掲甲第四号証の五および成立に争いのない乙第一号証の一によれば、原告湯浅金物の主要商品には、工業機械((1)数値制御工作機械、
旋盤、フライス盤その他鍛造機械を含む工業機械、(2)切削工具、工具保持器、
治具その他工場用機械を含む工具、(3)電気機器、内燃機関、空気圧機器、油圧機器、変・減速機、工場用機器を含む工業機器)、産業機械((1)基礎・土木用機械、道路用機械、建築機械および資材、公害防除用機器、動力源、一般機械器具を含む建設機械、(2)昇降揚重機、コンベア、産業車両、総合荷役設備、その他を含む運搬機械)(以上の諸商品のシステム的販売も行う。)、環境設備((1)管工資材、構造用鋼管、管工器具、給排水機器、計器、浄化槽、水タンクその他を含む管材機器、(2)蒸気ボイラー、温水ボイラー、温風暖房機、冷却塔、燃焼機器、自動制御機器その他を含む空調機器)、建築資材・住宅機器((1)構造用建築資材、建造物、温室その他を含む建築資材および土地造成、住宅分譲等のハウジング、(2)炊事用具、冷蔵庫、事務用機器、家庭用家具その他を含む住宅機器)(以下の諸商品のユニット的な販売も行う。)が含まれ、同原告は、そのほか土木建築の請負業も行つていること、被告の取り扱う商品には、(1)輸入品として、
南洋材、ソ連材、米材、工業用家庭用空調設備、内燃機関、食料加工機械その他各種機械類、天津栗、カシューナット、動植物性および化学飼料一般、(2)国内販売品として、北海道材、チップ、合板、床材その他木質系建材、金属性各種建材、
組立ハウス他各種特殊建材、産業用車両、運搬荷役機械、骨材生産機械、セメント製造機械設備および装置、合板・木工機械およびプラント、化学装置および除塵装置、各種金属加工機械、鍛造機械、普通鋼製品、特殊鋼製品、小豆その他の豆類、
植物油、(3)輸出品として、合板、床材その他木質建材、各種工作機械、切削工具、内燃機関、ボイラー、鋼材切断および折曲機械、運搬荷役機械、工業用電気機器、鋼製品、非鉄地金、食料品その他が含まれていることが、それぞれ認められる。右認定の事実によれば、被告は、原告湯浅金物と広い範囲で営業を同一にしているものと認めることができる。
右のとおりである以上、被告は、商法第20条第2項の規定により、不正競争の目的をもつて、その商号を使用するものとの推定を受けるものといわざるをえない。被告は、原告湯浅金物とは、その取扱商品について流通機構を別異にするから、両者が商号について誤認混同を生ずることがないし、また、主要取引商品と会社との結びつきについてのイメージが、それぞれの顧客の間で確立され、たとえば、建材部門についても、金属建材関係と木質建材関係に区別されているので営業の競合はない旨主張するが、しかく明確にこれらを認めうる資料はないし、その採用しえないことは、前掲各証拠に徴し明らかである。そして、右推定を覆えすに足りる事実についての立証はない。
そうであるとすれば、ひいてまた、原告湯浅金物の被告に対する商号「株式会社ユアサ」の使用差止および商号変更登記の抹消登記請求は、商法第20条第1項の要件を充たすものということができるから、理由があるものといわなければならない。
三 原告湯浅電池は、不正競争防止法第1条第1項第2号の規定にもとづいて、被告の現商号使用の差止およびその商号変更登記の抹消登記手続を請求しているので、順次その要件について検討する。
(一) 商号の周知性について 前掲甲第二号証および証人【D】の証言ならびに原告湯浅電池の来歴、資本の額、年間売上高についての前認定の事実に弁論の全趣旨を合わせ考えるときは、同原告の商号「湯浅電池株式会社」は、少くとも被告が本件商号変更をした当時すでに、日本国内において取引者らの間に広く認識されていたものと認めるに十分である。
(二) 商号の類似性について 原告湯浅電池株式会社と被告株式会社ユアサとの両商号は、多様な表記態様の用いられる商号使用の実情をも合わせ考えれば、結局、「湯浅電池」と「ユアサ」とを具体的に対比してその類否を決すべく、その類否は、一般取引の場において世人が彼此混同誤認をするおそれがないか否かを商号自体について観察し、あわせて取引の実情を参しやくして定むべきものであることは、まず、疑をいれないであろう。
原告湯浅電池と被告とは、いずれも古い歴史をもち、前認定のとおり、広範な営業目的のもとに国内国外において多様大量な営業活動を行つて来た総合商社であり、将来もますますその傾向は拡大されるであろうところ、「湯浅電池」は、そのうち「電池」がメーカーとして営業活動の範囲を表示するものである一方、湯浅姓の個人に由来するその長い歴史と広範な営業活動と相まつて、一般に「湯浅」「ユアサ」の部分に大きい印象を生じ、ひいて、「ユアサデンチ」、バッテリーの「ユアサ」のみならず、その上位概念的ないし包括的把握として、簡明に「湯浅」「ユアサ」の呼称および観念をも生じ包蔵することは見やすいところである。そして、
そのことが実際上も認められることは、原告湯浅金物の商号と被告のそれとの対比について説明したところである(二の項(一))。
また、証人【D】の証言とこれにより真正な成立の認められる甲第四六号証、同第五一号証、同第九五号証、同第九六号証の一、同第九七号証、同第一二三号証の一、二、同第一二四号証の一ないし三、同第一二五号証の一、同第一二六号証の一、二、同第一二八号証の一および成立に争いのない甲第四七号証、同第九六号証の二、同第一二二号証の一、二、同第一二五号証の二、三、同第一二七号証、同第一二八号証の二、原本の存在と成立に争いのない甲第五〇号証の一、二によれば、
実際上も、営業上両営業主体について種々の誤認混同を生じていることを認めることができる。被告は、具体的な誤認混同の事例についていずれも単なる誤記、誤配などにすぎないと主張するが、肯認することができない。
被告は、その従前の商号「湯浅貿易株式会社」と現商号「株式会社ユアサ」とが類似するものであることを自認する。このように、「湯浅貿易株式会社」の商号が、そのうち営業活動の分野を表示する部分「貿易」を除いた包括的な表示より成る商号「株式必社ユアサ」と互いに類似するということは、被告が「株式会社ユアサ」なる商号を使用した場合、世人は、「ユアサ」したがつてまた観念としての「湯浅」を主要部とするこの商号と、これに原告湯浅電池の営業活動の分野を表示する「電池」を附加した商号「湯浅電池株式会社」とについても、互いに誤認混同を生ずるであろうことを推認させるに十分である。
右によれば、被告の商号「株式会社ユアサ」は、原告湯浅電池の商号と誤認混同を生ずるおそれがあり、類似する商号であるというのが相当である。
(三) 営業の競合について 被告の営業目的を原告湯浅電池のそれと対比するに、少なくとも、ゴム製品、化学製品、機械器具、自動車の製造、加工、販売の事業、不動産に関する事業、これらに付帯または関連する一切の事業において競合一致しており、前掲甲第二号証および弁論の全趣旨により真正な成立の認められる甲第四号証の二、四によれば、原告湯浅電池の取扱商品には、各種電池のほか、整流器、充電器、交換品、半導体素子、電気自動車、燈具類、ボートが含まれていることが認められる。
右認定の事実に、被告の取扱商品につき前に認定したところ(二の項(二))を合わせ考えれば、被告会社、原告湯浅電池と競合する営業を行つているものと認めるのが相当である。
(四) 被告の使用する商号「株式会社ユアサ」がその使用以前より周知の原告湯浅電池の商号と類似し、両者の営業が競合する関係にあり、両者が右商号の使用により営業上の活動において誤認混同を生じていることは、右のとおりであり、そして、このようなときには、原告につきその営業上の利益が害せられるおそれのある場合であると認めらに何らの妨げがない。
とすれば、原告湯浅電池の被告に対する本件商号使用の差止および商号変更登記の抹消登記手続を求める本訴請求は不正競争防止法第1条第1項第2号の規定にもとづくものとして、理由があるというべきである。
四 被告の先使用の抗弁について 被告は、原告会社の商号が日本国内において広く認識される以前から、これと類似の商号「湯浅貿易株式会社」を善意で使用して来たものであり、これをさらに類似する「株式会社ユアサ」に変更したのであるから、右「株式会社ユアサ」の商号についても、不正競争防止法第2条第1項第4号の規定により、その使用を継続しうべきものである旨主張する。しかしながら、同条の規定により使用の継続が認められる商号は、原告の商号が広く認識される以前から引続き使用された商号だけであり、他の商号、すなわち、本件では「株式会社ユアサ」の商号は含まれないと解すべく、それは、同条項が「広く認識セラルル以前ヨリ之ト同一若ハ類似表示ヲ使用スル者」に対し「其ノ表示」を使用することを例外的に許容していることに徴し明らかである。もつとも、特定の商号についてみるとき、時勢の推移に適切に即応し、その表現を漸次変化させる必要のある場合もあるであろうが、それは、商号を固定したものとすることにより、その商号に対する実際社会上の要請に応じられない結果を生じ、不当にその商号の生命を失なわせることを防ぐに必要であり、かつ、周辺の商標権者に予見できないような支障ないし不利益を及ぼさず、成立している秩序を損なうことがない限度で認められるものと解するのが相当である。したがつて、その変化の許容される範囲は、結局、社会通念上商号の同一性を損なわない限度が基準となるであろう。被告の商号「株式会社ユアサ」は、「湯浅貿易株式会社」の商号から営業活動の分野についての識別表示部分である「貿易」を取り除いたため、商号の中に「湯浅」「ユアサ」を用いる他のものとの関係においては、
もつとも包括的な商号となり、その結果、原告湯浅電池の商号をも観念において包摂したものとして、「湯浅貿易株式会社」の表示の時よりきわめて同原告の商号と近似し、誤認混同を生じやすいものとなつている。商号「株式会社ユアサ」は、商号「湯浅貿易株式会社」とたとえ類似するものであるとはいえ、これが上に説明した限度内の変化にかかる商号と認めえないことは、多く説明を要しないところである。被告の右抗弁は、採用することができない。
五 以上のとおりであつて、被告に対する本件商号の使用差止および商号変更登記の抹消登記手続を求める原告らの本訴請求は、理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条を適用し、主文のとおり判決する。
裁判官 荒木秀一
裁判官 野澤明
裁判官 元木伸
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