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事件 昭和 46年 (ワ) 5852号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1973/09/21
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 本訴原告が大阪市<以下略>でなすホテル営業に「大阪第一ホテル」なる表示を用いることにつき、本訴被告が使用差止請求権を有しないことを確認する。
反訴原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は本訴・反訴を通じ本訴被告(反訴原告)の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
(本訴) 本訴原告(反訴被告)訴訟代理人は主文第一項同旨および「訴訟費用は本訴被告の負担とする。」との判決ならびに右第一項の請求が認められない場合には予備的に「本訴原告が大阪市<以下略>でなすホテル営業に「第一ホテル」なる表示を用いることにつき、本訴被告が使用差止請求権を有しないことを確認する。」との判決を求め、本訴被告(反訴原告)訴訟代理人は「本訴原告の請求を棄却する。訴訟費用は本訴原告の負担とする。」との判決を求めた。
(反訴) 反訴原告(本訴被告)訴訟代理人は「反訴被告は大阪市<以下略>でなすホテル営業につき「大阪第一ホテル」および「第一ホテル」なる表示を用いてはならない。訴訟費用は反訴被告の負担とする。」との判決を求め、反訴被告(本訴原告)訴訟代理人は「反訴原告の請求を棄却する。訴訟費用は反訴原告の負担とする。」との判決を求めた。
本訴原告(反訴被告)の主張
(本訴請求の原因)一、本訴原告(反訴被告、以下単に原告という。)はホテルの経営等を業とする会社であるが、昭和一二年一月九日、肩書地に発起人【A】、【B】、【C】、
【D】および【E】等により資本金一三〇万円をもつて設立され、開業当時より近代的設備を有する画期的なビジネスホテルとして世上の評価を得、戦前において既に全国的に周知著名な会社となつていた。原告およびその系列会社の営む第一ホテルチエーンの投宿人員数は我国の業界第一級に位し、原告の株式は東証第二部に昭和三六年一〇月より上場されており、「第一ホテル」の名は全国的に著名である。
なお、現在資本金は一、二五七、七五〇、〇〇〇円である。
本訴被告(反訴原告、以下単に被告という。
)はホテルおよび旅館経営を業とする会社であるが、昭和一一年三月一五日に設立されて以来同四六年三月一八日商号変更登記までは株式会社大一ホテルという商号であつた。また、被告の営業施設は日本観光旅館連盟の加盟分類では、ホテルではなく旅館の部に属している。なお、現在資本金は九、〇〇〇、〇〇〇円である。
二、原告は大阪市<以下略>(以下大阪駅前という)において「大阪第一ホテル」なる営業表示を用いてホテル業を営むことを計画しているが、右計画が昭和四六年初め頃新聞紙上で報道された。すると、同年三月二七日被告代表取締役より原告に対し右計画にかかるホテル営業につき「大阪第一ホテル」なる表示を用いないようにとの申入れがなされた。そこで、原告は被告に対し同年六月九日右ホテル営業につき「大阪第一ホテル」の表示を用いる予定であること、第二次的には被告との紛争を避けるため「第一ホテル」の表示にすることも考えている旨通知したところ、
被告は原告に対し同月一八日右両表示とも使用しないようにと申入れて来た。
しかし、被告は原告が右ホテル営業につき「大阪第一ホテル」なる表示または「第一ホテル」なる表示を用いることにつき差止請求権を有しない。
三、原告は右ホテル営業計画の実行に既に着手しているが、ホテル営業開始に先立ちパンフレツトその他を作成配付したり、その他種々の宣伝活動をする現実の必要に迫られている。そのためには原告は何よりもまず右ホテル営業についての営業上の表示を決定しなければならないのであるが、原告が予定している前記両表示の使用に対し被告は法律上の理由なくその差止を請求しているので、被告にかかる差止請求権のないことの確認を求める。
(反訴請求原因に対する答弁および抗弁)一、反訴請求原因一の事実中、被告が昭和一一年三月一五日株式会社として設立され、同年以降肩書地で営業を行つて来たことは認めるが、被告ホテルの営業表示として「大一ホテル」および「大阪大一ホテル」が日本国内において広く認識されている(周知である)事実は否認する。その余の事実は不知。
原告の「第一ホテル」は、本訴請求原因において詳記したとおり、その設立経過、設立者、規模等より、その設立時より既に全国的に周知となつている。これに反し被告の「大一ホテル」は周知ではない。仮にそれが現在限られた範囲の者の間において周知となつているとしても、それらの者は既に原告の「第一ホテル」を知つているのであつて、称呼の「ダイイチホテル」としては何人にとつても原告の「第一ホテル」が念頭に浮んでくるのであるから、被告の「ダイイチホテル」は漢字の「大一」ホテルとして制限された者の範囲で周知となつているに過ぎない。
「ダイイチホテル」の称呼としては、原告の「第一ホテル」が既に周知となつていたのであるから、被告の「大一ホテル」が「ダイイチホテル」の称呼の点で周知となる余地はないのである。
二、反訴請求原因二の事実は否認する。「大一ホテル」「大阪大一ホテル」と「第一ホテル」「大阪第一ホテル」とは、文字の外観および観念が相違し、かつ右各表示が具体的営業施設に付された状態を全体的に観察すれば明白に相違するから、結局類似しないというべきである。
三、反訴請求原因三の事実は否認する。被告が現在経営している宿泊施設と原告が開業準備している宿泊施設とは、営業の規模・性格が著しく異なるうえ、被告の営業表示と原告のそれとは文字の外観および観念が相違するから、右両宿泊施設が相互に誤認混同されることはない。現実具体的に顧客が宿泊施設を決定するに際しては営業表示の称呼のみによつてその営業施設を混同することはないから、たとえ両営業表示の称呼が同一であつても誤認混同は生じない。以下、その理由を詳述する。
1 (第一ホテルの著名)原告の「第一ホテル」は極めて著名であるから、「ダイイチホテル」という称呼を聞いたとき、一般に人は原告の「第一ホテル」を想起し、被告の「大一ホテル」を想定しない。被告の「大一ホテル」を知つている者が「ダイイチホテル」という称呼を聞いたときには、その者は原告の「第一ホテル」をも知つているから、原告ホテルのことか被告ホテルのことかを考え、文字が「第一」か「大一」かによつて両者を判別する。したがつて、両者が誤認混同されることはない。
2 (規模の差)原告が大阪駅前において建設計画しているホテルの施設は、地上約二五階、地下約四階の大ホテルであつて、客室総数その他の設備において被告ホテルと比較にならないくらいの隔差があるから、ホテルの規模という点からみても両者の営業上の施設・活動が誤認混同されることはない。
3 (施設様式の差)原告が開業準備中の宿泊施設はいわゆる純粋のホテルであるが、被告の経営する宿泊施設は、いわゆる登録旅館である事実からもわかるように、純粋のホテルとは差があり、門構えにおいても瓦葺きの日本風の門から入るという建築物である。また原告の右宿泊施設のロビーは典型的なホテルのロビーであるが、被告ホテルではホテルとはいうものの靴を脱いで上るという日本旅館式スタイルのものである等、宿泊施設の様式に著しい差があるから、両者が誤認混同されることはない。
4 (原告の大阪案内所について)現在原告は営業上の宿泊施設こそ大阪に有しないが、日本各地の第一ホテルチエーンのホテル営業のため既に昭和四六年一〇月以降大阪市北区において「第一ホテル大阪案内所」を設置し、予約セールス・予約登録・パンフレツト配布などのホテル営業活動をしており(原告ホテルの宿泊者は東京よりもむしろ大阪その他の地の居住者である)、その営業実績は年間予約客約二万数千名にも上るが、現実に被告ホテルとの間に誤認混同は生じていない。
四、反訴請求原因四の事実は否認する。
五、(違法性の欠如)原告がなす「大阪第一ホテル」または「第一ホテル」なる営業表示の使用には違法性がないから不正競争防止法1条1項2号に該当せず、したがつて被告の右法条に基づく差止請求は許されない。
原告は東京に本店を有するが、その名称は全国的に著名であり、かつホテル業を営んでいるという特質―すなわち、大阪在住の人が東京で宿泊するということ―から、その名称について民法上の氏名権による差止請求権ないし不正競争防止法による差止請求権は、一般的、抽象的には本来大阪にも及んでいたものである。しかし、被告に不正競争の目的がなければ違法性がないことになるから、原告の被告に対する氏名権に基づく差止請求権利の濫用となり、被告の行為は不正競争防止法1条1項2号に該当しないことになる。同様に、被告もまた原告に対して差止請求権を有しない。けだし、本件は両名称の同時併存の許される場合であつて、それの調整は不正競争目的をもつて名称を使用するか否かすなわち実質的違法性の有無にかかつているところ、原告には右の如き目的はないからである。両者のうちの一方が不正競争の目的をもつて名称の使用を始めると、右のバランスはくずれ、他方はその一方に対し氏名権または不正競争防止法によつて差止請求をなしうるという関係に立つているのである。
不正競争防止法は、差止請求権の行使において相手方に「不正ノ競争ノ目的」のあることを主張立証する必要がないものと改正されたが、これは右の目的が無関係とされたものでも、違法性の阻却される場合を認めない趣旨でもない。本件の場合はまさに違法性がない場合であつて、このような場合にまで不正競争防止法1条1項2号を適用することは、同法本来の不正競争防止の理念に反する。
六、(不正競争防止法2条1項4号による使用権)以上の主張が認められないとしても、不正競争防止法2条1項4号の適用により原告は「大阪第一ホテル」および「第一ホテル」なる営業表示を適法に使用し得る。
被告の「大一ホテル」なる営業表示が周知になる以前から、原告は「第一ホテル」という表示を善意で使用して来ている。もちろん、不正競争の目的などはない。そして「大阪第一ホテル」という表示は、原告第一ホテルがその経営するホテルの営業表示として従来「宝塚」第一ホテル、「銀座」第一ホテルなどというようにそのホテルの所在する地名を冠して用いたのと同じ用法であつて、その要部は「第一ホテル」の部分に存するのであるから、同号の法意に鑑みると、「大阪第一ホテル」なる表示についても同号が類推適用されると解すべきである。仮に然らずとも、少くとも「第一ホテル」なる表示については同号の直接適用があり、原告は同号の使用権を有する。
七 (氏名権の行使)「大阪第一ホテル」、「第一ホテル」なる営業表示の使用は、原告の氏名権の行使であつて適法である。すなわち、「第一ホテル」は原告の名称(営業表示)であつて氏名ではないが、民法の判例法上認められたいわゆる氏名権ないし氏名上の利益は企業の名称についてもまた妥当するから、原告は、正当な氏名権の行使として、「大阪第一ホテル」少くとも「第一ホテル」なる表示を使用できるというべきである。もつとも、氏名権の行使には一定の制約があり、不正競争の目的をもつてする使用、混同を生じないような手段を講じない使用は許されないが、原告は不正競争の目的をもつてこれを使用する者でもないし、またホテルマーク、営業上の諸パンフレツトにおいて混同を生じないような手段を講ずるものであるから、正当な氏名権の行使であつて違法ではない。少なくとも、「第一ホテル」なる表示の使用は、原告の商号権のホテル営業における適法な行使であつて、
その使用を差止められるいわれはない。「第一ホテル」は原告の商号であり、かつその著名な名称(営業表示)であり、原告はこれを善意に使用するものであるから、不正競争防止法2条第1項3号の類推適用により、原告は適法に「大阪第一ホテル」少くとも「第一ホテル」なる営業表示の使用をなし得る。原告の名称使用の用法如何によつては、被告が同法2条2項所定の混同防止附加表示請求権を有する場合が生ずるとしても、本件の如き事案において差止請求権まで有するものではない。
八、(権利の濫用)被告が従来の商号株式会社大一ホテルを株式会社大阪大一ホテルに商号変更までして、左記(1)ないし(10)の状況下において、原告の開業準備中のホテルの営業表示を不正競争防止法によつて差止めることは権利の濫用である。
(1) 原告には不正競争目的がない。
(2) 原告の「第一ホテル」なる商号および名称は昭和一二年、すなわち三六年前より全国的に著名である。
(3) 大阪においても、昭和一二年より現在に至るまで、原告の「ダイイチホテル」の方が被告の「ダイイチホテル」より著名である。
(4) ホテル業の顧客は遠隔地より来集するものであるが、遠隔地においては原告の名称のみが周知である。
(5) 原告の営業形態はいわゆるホテル業であり、被告の営業形態は旅館に近いものである。
(6) 建物の規模も原告ホテルは地上約二五階、地下約四階という大ホテルであるから、被告ホテルとの混同の危険性はない。
(7) 「大阪第一ホテル」「第一ホテル」と「大一ホテル」とは文字において相違するから、営業利益を侵すべき混同の危険はない。
(8) 原告は従前より善意で大阪において「第一ホテル」の広告をなし、パンフレツトを多数配布しており、他方被告も善意で東京において顧客を求めている。
(9) 原告は大阪市内に「第一ホテル」の案内所を開設し予約客も多数に上るが被告ホテルとの間に混同の事実がない。
(10) 大阪市内には他に「第一ホテル」が存在しているが、営業の性格、規模等からみて、これと被告ホテルとの混同の危険はない。
以上の諸点を総合して考えると、原告表示と被告表示とが仮に呼び名の点において混同が生じたとしても、多年良質のホテルを経営して来た原告が、被告ホテルの信用を害する危険はないし、また大阪駅前の原告ホテルが被告ホテルと何らかの関係のあるホテルであると考えられる可能性もないから、右混同の点は混同防止附加表示請求またはその都度の処理によつて容易に除去されるものであつて、差止請求を認めなければならない程重要なものではないというべきである。原告に不正競争の目的がなく、他方被告の名称(営業表示)についてダイリユートされる危険を主張し得べき程の営業上の利益侵害もない本件において、被告の差止請求権利の濫用である。
本訴被告(反訴原告)の主張
(本訴請求原因に対する答弁)一、本訴請求原因一の事実中、被告に関する主張事実は認めるが、その余の事実は不知。
二、本訴請求原因二および三の事実中、被告が使用差止請求権を有しないとの点を除き、その余の事実は認める。被告が原告主張の両表示につき使用差止請求権を有する理由は、後記反訴請求原因に記載のとおりである。
(反訴請求の原因)一、被告の周知表示 被告は昭和一一年三月一五日株式会社として設立され、同年四月一日肩書地において「大一ホテル」なる営業表示を用いてホテル業を開始した。被告経営の宿泊施設は、創業時には地下一階地上三階鉄筋コンクリート建二七三坪余の建物で客室は三〇室であつた。第二次大戦末期、右建物は戦災により一部焼失したけれども間もなく復旧し、その後も着実に営業を続け、昭和三二年には別館旅館部を増設する等着実に業務を拡張し現在に至つている。被告の経営する宿泊施設の現状は、大阪駅から東へ三〇〇米余、徒歩一〇分以内の至近距離に位置し、ホテル部・旅館部ともに四階建(外にホテル部地下一階)、耐震耐火鉄筋構造で、完全冷暖房、優れた衛生設備等、宿泊施設として必要な設備を完備し、和洋室五〇有余、旅館部四階には結婚式場・大広間があり、顧客の間に絶大の好評を博している。
被告経営にかかる宿泊施設の営業表示は正式には「大一ホテル」であつたが、大阪のホテルであり大阪駅に近いところから顧客の間でいつの間にか戦前から「大阪大一ホテル」と通称せられるようになり、被告も積極的に「大阪大一ホテル」という営業表示を用いて宣伝広告を続けてきた。その結果、「大一ホテル」および「大阪大一ホテル」という名称は、被告経営の右ホテルを示す営業表示として、昭和一一年創業以来今日に至るまで引続き大阪市内の顧客は勿論、日本全国の旅客の間で広く認識されている。
また、被告ホテルは国際観光旅館に指定せられており、古くから「大一ホテル」または「大阪大一ホテル」という名称で宿泊の予約または予約の斡旋を受けている。今でこそ大阪市内には戦後新設された大ホテルが続々開業しているが、戦前においてはホテルらしいホテルは極めて少数しか存在せず、その中で被告ホテルは大阪市<以下略>所在の新大阪ホテルに次ぐホテルとして広く知られ、新大阪ホテルが満員のときには同ホテル宿泊希望者の多数は被告ホテルに宿泊する例になつていた。
以上で明らかなとおり、被告の営業を表示する「大一ホテル」および「大阪大一ホテル」なる名称は古くから現在に至るまで極めて著名であり、殊に関西地方に見るべきホテルの極めて少なかつた戦前ではこれらの表示で呼ばれるホテルが第一流のホテルであることは広く認識されていたのである。
二、類似の営業表示 原告は大阪駅前においてホテルを開業し、このホテル営業につき「大阪第一ホテル」または「第一ホテル」なる表示を用いることを表明している。右「大阪第一ホテル」なる営業表示は被告の周知表示である「大阪大一ホテル」と称呼において全く同一であり、外観および観念において極めて類似している。また「第一ホテル」なる営業表示は被告の周知表示である「大一ホテル」と称呼において全く同一であり、外観および観念において極めて類似している。
三、混同のおそれ 原告が「第一ホテル」または「大阪第一ホテル」なる表示を用いようとする営業はホテル業であり、被告が「大一ホテル」および「大阪大一ホテル」なる表示を用いて営んでいる営業もまたホテルおよび旅館業である。そのうえ、原告が右営業表示を用いて開業を準備しているホテルは大阪駅前であつて、地理的に被告の営業場所と極めて近接している。
このように、地理的に極めて近接している場所で、被告と同一のホテル営業について、原告が被告の営業表示と称呼において全く同一であり、かつ外観および観念において類似する「第一ホテル」または「大阪第一ホテル」なる表示を用いて営業をすれば、被告の営業上の施設および活動と混同が生ずることは必至である。
現に、大阪駅から遠く離れてはいるが、約一〇年前大阪市<以下略>に訴外大阪観光事業株式会社が小さいホテルを開業し、これに「第一ホテル」および「OSAKA DAIICHI HOTEL」という営業表示を用いたため、一般には右ホテルが「南の第一ホテル」または「八幡筋の第一ホテル」と呼ばれたにもかかわらず、これが被告の営業上の施設、活動と誤認混同を来し、被告は甚大な迷惑を被つたのである。例えば、電話の間違い、郵便物の誤配が少なくなく、またタクシー運転手や日通の取扱者の感違いのために被告の顧客やその荷物が誤つて「南の第一ホテル」に送り込まれたことやその逆の場合もあり、被告・顧客ともに大変迷惑したことも稀ではない。ことにクーポン客の場合、クーポンの発行者が被告の「大一ホテル」の名称・所在地を訴外大阪観光事業経営の右「南の第一ホテル」のそれと誤認混同または誤記したため非常な混乱を惹起したこともある。「南の第一ホテル」は規模も比較的小さく、被告ホテルと距離的にも相当離れているにもかかわらず、両者間に営業上の誤認混同が生じているのである。
原告が大阪駅前において開業しようとしているホテルは規模も大きく、かつ距離的にも被告ホテルと近接しているから、原告がそのホテル営業につき「第一ホテル」または「大阪第一ホテル」という営業表示を用いるときは、被告ホテルとの間に誤認混同が生じることは明らかである。
原告は、現在大阪市北区に「第一ホテル大阪案内所」を設置し、予約セールス、
パンフレツト配布などのホテル営業活動をしているが、被告ホテルとの混同は生じていない旨主張する。被告はその事実を知らない。しかし、仮にそれが事実であるとしても、宿泊施設はその所在場所と密接不可離の関係に立つものであつて、新橋第一ホテル、秋田第一ホテル等他都府県に所在する原告経営のホテルと大阪市北区に所在する被告ホテルと混同が生じないということは、原告の大阪案内所が東京や秋田で宿泊を希望する顧客を誤つて大阪市北区所在の被告「大一ホテル」に案内するというミスを犯さないというだけのことであつて、原告の右主張は全く意味がない。
四、営業上の利益を害せられるおそれ 被告は、昭和一三年以来三十有余年にわたつて、肩書地において「大一ホテル」または「大阪大一ホテル」の営業表示で宿泊施設を営み、最も良心的かつ誠実なサービスによつて全国から集る旅客および大阪市内の得意先の間に確固たる信用と名声を築き上げて今日に至つている。現在大阪市内、なかんずく北地区において「ダイイチホテル」または「オオサカダイイチホテル」と指名する宿泊客は、すべて被告の顧客である。これに反し、原告は現在大阪市において「ダイイチホテル」または「オオサカダイイチホテル」と指名する旅客を一名も顧客として有していない。
したがつて、原告が被告の周知営業表示と称呼において同一、外観および観念において酷似の「第一ホテル」または「大阪第一ホテル」という営業表示を用いてホテルを開業した場合、前記のとおり両者間に営業上の施設および活動の混同を生ずることは不可避であるから、その場合混同によつて原告の失うところは皆無であるのに反し被告の失うところは甚大であり、しかも被告の失うところのものはすべて原告の不当利得となるのである。
例えば、上司が部下に大阪市内のホテルの手配を命ずることは極めて多いが、口頭で「ダイイチホテル」または「オオサカダイイチホテル」と指示した場合、今日ならば部下は間違いなく被告の「大一ホテル」に手配するであろうし、電話を受けた交通公社その他の旅行斡旋業者も間違いなく被告の「大一ホテル」を予約手配するであろう。しかし、もし原告が大阪駅前において「第一ホテル」または「大阪第一ホテル」という営業表示を用いてホテルを開業したならば、上司から被告の「大一ホテル」の予約を指示された部下が感違いして原告ホテルを予約したり、電話注文を受けた交通公社その他の旅客斡旋業者が間違つて原告ホテルに予約したりする場合が生じる。また、被告ホテルの所在を尋ねられた人が感違いして原告ホテルの所在を教えたり、タクシー運転手が被告ホテルに宿泊予定の顧客を原告ホテルに送り届ける場合が生じるが、その場合未予約の宿泊者のうちの何割かは間違いに気付いても面倒くさがつてそのまま原告ホテルに宿泊してしまうであろう。このように、世人の誤認混同によつて被告は顧客を次から次へと奪取され、営業上の利益を大いに害せられることになる。
以上は、顧客を奪取されるおそれという面のみから見た損害であるが、サービス面から見た有形、無形、直接的、間接的損害も無視できない。電話の混乱、誤配郵便物や荷物の返送・回送等の手数、誤認に基づく問合せや苦情等に対する返事・弁解などの物質的精神的直接の損害はもとより、顧客が受けるであろう迷惑等の間接的損害も無視できない。このような有形無形の損害が発生することは「南の第一ホテル」との関係からみて疑いを容れない。
原告の主張するところによれば、原告は一二億円余の資本金を擁する大会社である。これに反し、被告は僅か資本金九〇〇万円の小さな会社であつて、その有する有形資産の大部分は肩書地所在のホテルおよび旅館と、三十数年にわたつて営々と築き上げて来た「大一ホテル」および「大阪大一ホテル」という周知表示に化体された信用・名声・のれんだけである。被告のこの何物にも代えがたい貴重な周知表示が、原告によつて近所に開設される同種のしかも巨大な営業に用いられる識別しがたい程類似した表示の出現によつて希釈化され、押し潰されて、営業の混同により粒々として確保して来た得意先が続々と第三者の感違いのために失われていくということは、被告にとつて堪えがたい苦痛である。
五、よつて、被告は原告に対し不正競争防止法1条1項2号に基づき「大阪第一ホテル」および「第一ホテル」なる営業表示の使用差止を求める。
(原告主張に対する反論)一 (違法性欠如の主張について)原告は不行競争の目的がないから違法性を欠如し、その結果不正競争防止法1条1項2号に該当しない旨主張する。しかし不正競争目的の存在は不正競争行為差止の要件ではないから右主張は主張自体失当である。
それはさておき、原告が被告の営業場所と近接の地に被告の営業と同一の営業であるホテル業を営み、これに被告の周知表示と同一または酷似の表示を用いるときは、原告の営業上の施設および活動と被告のそれとの間に混同を生じ、これによつて被告の営業上の利益を著しく害するであろうこと、およびその反射的利益として原告が旅客または斡旋業者の善意の錯誤を媒介として被告の顧客を多数継続的に奪取することを期待し得ることは、常識上原告の当然認識しているところである。しかるに、被告の再三の懇請や異議にもかかわらず、原告がこれを無視し強硬に大阪市北区に建設開業を企画中の宿泊施設に「第一ホテル」または「大阪第一ホテル」なる表示を用いることに固執するのは、被告のしにせに便乗する不正競争の目的に出たものといわざるを得ない。
原告は「第一ホテル」が極めて著名である旨主張するが、東京においてならばいざ知らず、大阪市北区所在の宿泊施設の名称としては未知であつて、決して著名ではない。株式会社第一ホテルの株式が東証第一部市場に上場されているとすれば、
「株式会社第一ホテル」という商号は東京に本社のある会社としては一応知られているといえるかも知れない。しかしそれはあくまでもある会社の表示としてであつて、そのことから直ちに「第一ホテル」という名称の宿泊施設が原告の経営にかかる宿泊施設として周知であることにはならないことはいうまでもない。
しかも、本件で重要なことは、「株式会社第一ホテル」という会社の名前(商号)が周知であるか否かということではなく、大阪市北区に所在するホテルの名称として「第一ホテル」が周知か否かということである。大阪市北区には未だ原告経営にかかるホテルは存在しないし、また原告が将来経営する予定のホテルの表示として「第一ホテル」という名称を用いることを一般に宣伝広告したという事実もない。原告が大阪市北区に開設を計画しているというホテルについては、どのような名称をつけるかということすら未決定の現在、そのホテルの表示として「第一ホテル」なる表示が著名はもちろん周知であり得るはずがない。
二 (法2条1項4号の主張について)原告には不正競争防止法2条1項4号の使用権はない。
被告はホテル経営等を目的として設立された株式会社であつて、設立以前から(設立中の会社として)「大一ホテル」の宣伝広告を大々的に行つていたから、大阪市北区所在の被告ホテルの表示として「大一ホテル」「大阪大一ホテル」なる名称が周知になつたのは、遅くとも昭和一一年四月一日開業と同時である。宿泊施設の営業表示が日本国内において周知になっていなければ、ホテルを開業しても宿泊客がほとんど来ないであろうし、少くとも営業として成り立つはずがない。
他方、被告ホテルの営業表示としての「大一ホテル」「大阪大一ホテル」が日本国内に広く認識されるに至つた昭和一一年四月当時、原告は未だ存在すらしていなかつたのである。恐らく設立の企画さえ具体化されていなかつたであろう。原告がこの世に現われたのは、原告の主張によつても昭和一二年一月になつてからであるが、当時は原告の営業にかかる表示として「第一ホテル」という名称はもちろん、
これを一部に用いた表示すら存在しなかつた。原告がその経営にかかるホテルに「第一ホテル」を含む表示を初めて用いたのは、ようやく設立後三年を経過した昭和一五年になつてからのことである(甲第六号証の一)。しかもその表示は東京市(現在は東京都港区)の新橋に新設したホテルの表示として「新橋第一ホテル」という名称である。「第一ホテル」という名称を含んだ表示が原告の独占的営業表示であり得るはずがない。
以上で明らかなとおり、原告の用いようと企画している「第一ホテル」または「大阪第一ホテル」なる表示が、大阪市北区に開設を企画しているホテル営業の表示として、被告ホテルの表示である「大一ホテル」「大阪大一ホテル」が日本国内において広く認識される以前から使用されていたという事実は絶対になく、したがつて不正競争防止法2条1項4号の要件を欠いている。
三 (氏名権行使の主張について)「第一ホテル」なる名称が原告の氏名ではないことは、原告の自認するとおりである。被告は、原告が「株式会社第一ホテル」という商号を使用すること自体の差止めを求める権利もなければその意思もない。被告が原告に対して差止めを求めているのは、原告が大阪市北区に開設を企画しているホテルに「第一ホテル」または「大阪第一ホテル」という表示を用いることだけであるから、原告のなす氏名権行使の主張は理由がない。
不正競争防止法2条1項3号の適用は「自己ノ氏名」に限られ、会社の商号には及ばないことは条文の明記するとおりである。いわんや東京都に本店を有する「株式会社第一ホテル」(原告)が、「第一ホテル」または「大阪第一ホテル」という略称を、他人の営業上の施設または活動と混同を生ぜしめるように使用することについて、同号が適用されないことはいうまでもない。のみならず、原告が大阪市北区において経営するホテルに「第一ホテル」または「大阪第一ホテル」なる表示を用いるときは、
同地区において同種営業を営んでいる被告ホテルとの間に誤認混同をもたらし、これによつて被告および被告の顧客が多大の迷惑を被るのみならず、被告はその顧客を多数かつ継続的に原告に奪取され、その反面原告が不当に利益を得るであろうことが確実に予測され、原告はこれを十分認識しながらこれを強行しようとしているのであるから、明らかに悪意であり、したがつて同号にいわゆる「善意ニ使用スル」という要件をも欠いている。
四 (権利濫用の主張について)原告が大阪駅前において開設を予定しているホテルの名称は、原告の主張によれば未だ決定されているわけではない。今からどんな立派な名称でも自由に選択できるはずである。原告の資本力と人材をもつてすれば、被告のような弱小のホテルや旅館にこのような不安と打撃を与え、営業の混同と第三者の感違いによる(被告にとつては甚大であるが原告にとつては小さな)旅客の不当な獲得と利益を期待しなくても、十分採算のとれる営業が可能なはずである。被告の請求が権利濫用に該当するといわれはない。
証拠関係(省略)
理 由
本訴請求について
一 (訴の利益) 原告が大阪駅前(大阪市<以下略>)において「大阪第一ホテル」なる営業表示を用いてホテル業を営むことを計画していること、右原告の計画が昭和四六年初め頃新聞紙上で報道されたところ、同年三月二七日被告代表取締役より原告に対し右計画にかかるホテル営業につき「大阪第一ホテル」なる表示を用いないようにとの申入れがなされたこと、そこで原告が被告に対し同年六月九日右ホテル営業につき「大阪第一ホテル」の表示を用いる予定であるが、第二次的には被告との紛争を避けるため「第一ホテル」の表示を用いることも考えている旨通知したところ、被告は原告に対し同月一八日右両表示とも使用しないようにと申入れたこと、原告は右ホテル営業計画の実行に着手しているが、ホテル営業開始に先立ちパンフレツトその他の作成配付等種々の宣伝活動をする現実の必要に迫られていること、および右宣伝活動をするためには何よりもまず右ホテル営業についての営業上の表示を決定する必要があること、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。
したがつて、原告の第一次的請求および予備的請求はいずれも訴の利益があると認められる。
被告は右各営業表示につき不正競争防止法1条1項2号に基づく差止請求権を有する旨主張するので、以下右差止請求権の有無について判断する。
二 (大阪大一ホテルの周知表示) 成立に争いのない乙第一号証の二、同第二号証、同第三号証の一、四、六、同第四ないし第九号証、同第一一号証、同第一三号証、同第一五号証、同第一六号証、
同第一八号証、同第一九号証、同第二〇ないし第二九号証、証人【F】および同【G】の各証言ならびに弁論の全趣旨を総合して考えると、つぎの事実が認められる。
被告は昭和一一年三月一五日株式会社として設立され、その頃大阪駅から東へ約三〇〇米余の距離に位置する肩書地において「大一ホテル」なる営業表示でホテルを開業し、創業時の施設は地下一階地上三階鉄筋コンクリート建物で客室は三〇室であったところ、第二次大戦末期戦災により一部焼失したので間もなく復旧し、昭和三三年八月には旅館部を増設する等着実に営業を拡張し、現在の宿泊施設は国際観光旅館に指定されており、ホテル部・旅館部ともに四階建(外にホテル部地下一階)、耐震耐火鉄筋構造で完全冷暖房、客室は和洋室あわせて五〇余を有している。今でこそ大阪市内には戦後新設された大ホテルが続々開業したため次第に被告ホテルの地位が低下してきているが、戦前にはホテルらしいホテルが極めて少数しか存在しなかったため、関西地方において被告ホテルは一流ホテルと一般に認識されていた。被告はその経営にかかる右宿泊施設(以下単に「被告ホテル」という)の営業表示として、当初は「大一ホテル」なる表示のみを用いていたが、被告ホテルが大阪市に所在するところから大一ホテルに大阪を冠した「大阪大一ホテル」なる表示を漸次併用し、遅くとも昭和三五年には営業表示として「大一ホテル」「大阪大一ホテル」を完全に併用して現在に至つているものであつて、少なくとも被告が原告に対し「大阪第一ホテル」「第一ホテル」なる営業表示使用差止を請求した昭和四六年三月当時においては「大一ホテル」および「大阪大一ホテル」なる表示は被告ホテルの営業表示として大阪市を中心とした関西地方において広く認識せられるに至っていた。資本金は現在九、〇〇〇、〇〇〇円である。
以上の事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。そうすると、被告の「大一ホテル」および「大阪大一ホテル」なる営業表示はいずれも不正競争防止法1条1項2号のいわゆる周知営業表示であると認めることができる。
三(第一ホテルの著名性ならびに大阪第一ホテルとの関係) 証人【H】の証言により真正に成立したと認められる甲第三号証、成立に争いのない甲第四号証の一、二、同第五号証の一ないし三、同第六号証の一ないし五、同第七ないし第一一号証、同第一三ないし第一八号証、第二〇ないし同第二三号証ならびに証人【H】、同【I】(第一、二回)および同【F】の各証言を総合して考えると、つぎの事実が認められる。
原告はホテルの経営等を業とする会社で昭和一二年一月九日発起人【A】、
【B】等により資本金一三〇万円をもつて設立され、同一三年四月頃東京新橋において客室六五〇を有するホテルを開業したが、右ホテルは開業当時より近代的設備を有する大ビジネスホテルとして有名となり、原告経営にかかる右ホテルは「第一ホテル」という営業表示で戦前において既に全国的に周知著名になつていた。原告はその後も着実に発展を続け、原告およびその系列会社の営む第一ホテルチエーンのホテル投宿人員数は我国ホテル業界の第一級に位し、原告の株式は昭和三六年より東証第二部に、現在は同第一部に上場されており、現在の資本金は一、二五七、
五七〇、〇〇〇円である。原告ホテルの営業表示である「第一ホテル」は全国的に周知著名であつて、著名度においては被告の「大阪大一ホテル」「大一ホテル」とは比較にならない程に大である(なお、被告は新橋所在の右原告ホテルの営業表示は「新橋第一ホテル」であつて「第一ホテル」ではない旨主張するが、右ホテルの営業表示としては「新橋第一ホテル」「第一ホテル」が併列的に使用されており、
一般には新橋(所在)の「第一ホテル」として周知著名であると認められるから、
被告の右主張は採用できない)。
そして、原告は大阪駅前にホテルを新設するにつき開業前より数千万円の費用を投じてテレビ・ラジオ・新聞・雑誌広告をなし、開業にあたつては旅行はエイジエントを中心とする約二千人の招待レセプシヨンを行う計画が決定されている。原告の「第一ホテル」が周知著名であるため、これらの宣伝広告およびマスコミの報道等によつて右新設ホテルが開業と共に原告「第一ホテル」のチエーン店として開設された事実ならびにその営業表示が大衆に周知となるであろうことが容易に推認される。
四(大阪第一ホテルの営業表示と被告の営業上の施設又は活動との混同のおそれ) 「大阪第一ホテル」と「大阪大一ホテル」とはいずれも、「オオサカダイイチホテル」と発音され、三字目の「第」と「大」を除けば文字も全く同一である。したがつて、全体観察においては大阪第一ホテルの営業表示は大阪大一ホテルの営業表示に類似していることは否定できないというべきである。
そこで、進んで原告が大阪駅前に新設するホテルに大阪第一ホテルとの営業表示を用いることが、被告の大阪大一ホテルの営業上の施設又は活動と混同を生ぜしめるものであるかどうかにつき検討する。
(営業規模の差) 原告が「大阪第一ホテル」ないし「第一ホテル」という営業表示を用いて大阪駅前において開業せんとしているホテルの規模は、地上二四、五階、地下四階、客室数七〇〇の大ホテルである。他方、被告ホテルは既に認定したとおり地上四階地下一階の建物であつて、旅館部とホテル部を合計しても客室数五〇余を有するに過ぎず、戦前ならばともかく、現在においては中規模の宿泊施設であつて、両者の営業規模の差は著しい。
(宿泊施設様式の差) 原告が開業予定の右ホテルはいわゆる純粋のホテルであるが、被告ホテルは旅館部とホテル部とが連結している建物で、宿泊者は和風旅館でも洋風ホテルでも自由に選択できることになつており、ホテル部といつても宿泊者は玄関で靴を脱ぎスリツパに履き替えて中に入るという日本旅館式スタイルである等宿泊施設の様式にも著しい差がある。
このように、原告が大阪駅前に新設開業せんとするホテルは、現に存する被告のホテルとは比較にならない程営業規模が大きく、その間に著しい格差があり、また宿泊施設の様式においても質的な相違があるのに加え、「大阪第一ホテル」の営業表示は現在我国ホテル業界の第一級に位する程著名な原告のホテルの名称に「大阪」の二字を冠しただけであるから、この二字を除くと原告の営業表示と全く同一であり、そのうち「第一」の文字は序数として極めて広く用いられる語であるのに対し、被告ホテルの営業表示中の「大一」は普通用語としては一般には用いられない造語であつて、文字において前者と全く異るから、原告が大阪駅前に新設する前記ホテルに「大阪第一ホテル」の営業表示を用いても、大衆において、そのホテルが被告の大阪大一ホテルの系列に属するのではないか等、右二つのホテル間に経営上何らかの関係が存するものとの誤解を招くおそれは先ずないものと認めるべく、
却つて、右の事情によれば原告が大阪に進出した第一ホテルチエーン店の一つであると一般に認識されることが必至であろうと推測されるのである。
つぎに、原告の「大阪第一ホテル」が新設された暁、その施設と被告の「大阪大一ホテル」の施設との間に施設の上で具体的混同を生じるものであるかどうかにつき考えるに、経験則によれば、二つの同一に発音される営業表示が何れも周知であるときは、例えば、その所在地、営業表示の文字その他について特別の注意が払われ、これら施設の特定に役立つそれぞれの特徴を簡潔に表現する語を附加して用いるところにより両者を区別するのが一般に行われているところであるということができる。そうだとすれば、大衆は「大阪第一ホテル」と「大阪大一ホテル」の各施設を、それぞれの所在地の通称、略称又は営業表示中の差異にあたる文字その他適当な言葉を適宜附加することにより容易かつ確実に区別するものと考えられる。これは大衆にとり煩わしい一面であるが、この程度のことは同一発音の固有名詞の場合通常行われていることであつて、本件の場合堪えられない苦痛であるということはできない。
そうすると、原告が大阪駅前に新設せんとするホテルに「大阪第一ホテル」なる営業表示を使用する行為は、被告ホテルの営業上の施設又は活動と混同を生ぜしめる不公正な競業行為ではないと認めるのが相当である。
被告は、現に大阪市<以下略>に訴外大阪観光事業株式会社が小さいホテルを開設し、これに「第一ホテル」および「OSAKA DAIICHI HOTEL」という営業表示を用いたため、一般には右ホテルを「南の第一ホテル」または「八幡筋の第一ホテル」と呼ばれたにかかわらず、これが被告の営業上の施設、活動と誤認混同を来し、被告は主張の如く甚大な迷惑を蒙つた旨主張し証人【F】(第一回)は被告の主張に副う供述をしている。しかし、文字その他明確に区別し得る場合でも被告主張の如くタクシー運転手や日通の取扱者の感違いによる間違い、電話の間違い、郵便物の誤配等が生じるのは相当の注意力を欠いている人の場合であつて、このような不注意な人が間違える事例があるからと言つて、これを不正競争防止法1条1項2号にいわゆる混同が生じるということはできない。
被告は、原告が大阪駅前に新設するホテルに「大阪第一ホテル」の営業表示を用いると、被告が永年にわたり営々として築き上げて来た被告ホテルに化体された信用名声や、のれん等が希釈化され押し潰されて、粒々として確保して来た得意先が原告の新設ホテルを被告のホテルと混同して利用されることにより失われ、営業上の利益を害される旨主張する。しかし、既に認定したところによれば、原告の「第一ホテル」は被告ホテルより一〇ケ月許り遅れ昭和一二年一月九日設立したのであるが、開業当初から近代的な設備を有する大ビジネスホテルとして世上の評価を得、たちまち周知となつたものであり、被告ホテルが原告ホテルより先に周知となつたと認めるべき証拠はない。「大一ホテル」と「第一ホテル」は共にダイイチホテルと発音され併存して来たのであつて、被告ホテルが今迄ある程度信用名声を築き上げて来たとしても、世人が「ダイイチホテル」と聞けば、それが話されている場所のいかんを問わず、先ず被告ホテルが念頭に浮ぶ程右の称呼が被告を意味するものとして全国的に著名な営業表示であると認めるべき証拠はない。被告は昭和四六年三月一八日現在の商号に改めたのであるが、旧称が「株式会社大一ホテル」であつた当時、被告経営のホテルにつき「大一ホテル」のほか「大阪大一ホテル」の営業表示を用いていた事実に照らすと、それが単に大阪所在のホテルであることを示すだけではなく、被告は大衆が東京における同一発音の原告ホテルの存在を意識することに想到し、それと区別あるいは誤解をさけるために、大一ホテルの正規の営業表示に大阪の二字を冠して併用していたものと推測されるのである。そして、
被告ホテルは資本金九、〇〇〇、〇〇〇円であるが、原告ホテルは資本金一、二五七、五七〇、〇〇〇円の我国ホテル業界において第一級に位するものであることに鑑みると、原告が大阪駅前に進出し、ホテルを新設開業するにつき、被告ホテルの名声信用に「ただ乗り」し、そのグツドウイルを盗用するため被告ホテルと同一称呼の営業表示を選んで使用するものであるとは到底認められず、これを肯認すべき事情並に証拠は全くない。
このような事情のもとに、原告の新設ホテルが開業した暁、かりに開設前ならば被告ホテルを利用したであろうと思われる顧客が原告の新設ホテルに宿泊し、被告がそのため不利益を蒙ることがあるとしても、それを被告主張のように原告の新設ホテルを被告のホテルと誤認混同の結果がもたらしたものであると推断することはできないであろう。また、かりに被告の従来の顧客が原告の新設ホテルを利用する事実が生じ、原告がこれにより何らかの利益を得るとしても、この原告の利益は法律上の原因なくして被告の財産又は労務により受けるものではないから、被告との間で、原告が不当に利得するという不公正な関係にあるものではない。したがつて、原告の新設ホテルの開業により、被告と同一称呼のホテルが現われ、被告の営業表示の表示力がその限りにおいて事実上希釈化するとしても、既に判示したとおり、被告の営業表示の中核をなす「ダイイチホテル」との称呼が他に存在することなく被告ホテルを意味するものとして全国的に著名であつたとは認めることができず、原告の大阪駅前の新設ホテルに「大阪第一ホテル」の営業表示を使用する行為が違法又は不公正な競業行為であると認めることができない以上、己むを得ない結果であつて、被告において右希釈化の防止のためには適当な自衛の方法を講ずるの外なきものといわざるを得ない。
また、被告は被告ホテルの所在を尋ねられた人が感違いして原告ホテルの所在を教えたり、タクシー運転手が被告ホテルに宿泊予定の顧客を原告ホテルに送り届ける場合が生じる旨主張する。原告ホテルと被告ホテルの両者の存在を知つている人であればかかる間違いは通常生じない。問題は被告ホテルの存在を知らず原告ホテルのみを知つている人の場合には右の如き場合が生じると考えられるが、これはむしろ被告「大阪大一ホテル」の周知度が低いことに起因する結果であるというべきであるから、仮にこのような結果が生じるとしてもこのことの故をもつて周知表示そのものを基礎とする差止請求権発生の理由とすることはできない。
五 以上で明らかなとおり、原告が大阪市<以下略>でなすホテル営業に「大阪第一ホテル」なる表示を用いても、その表示は被告ホテルとの間に混同を生ぜしめるものではないと認められるから、その余の点について判断するまでもなく、被告は原告の右営業表示使用に対し差止請求権を有していないといわざるをえない。したがつて原告の被告に対する本訴第一次的請求は理由がある。
反訴請求について
一、被告の周知営業表示「大阪大一ホテル」に基づく原告の「大阪第一ホテル」なる営業表示使用差止請求が認められないことは、本訴第一次的請求について判断したとおりである。
二、被告の営業表示「大一ホテル」がいわゆる周知と認められることは前記第一、
二において認定したとおりである。
そして、前記第一、三における説示と同様の理由により、「大一ホテル」と「第一ホテル」とは外観および観念上相違するが、称呼において同一であるから、総合的に判断すると結局両者は類似すると認めざるを得ない。
しかし、原告が新設ホテルに「第一ホテル」という営業表示を使用したとしても、前記第一、四における認定ないし説示と同様(「第一」と「大一」との区別がより鮮明化されるうえ、原告の著名表示「第一ホテル」そのままを使用することになるから、「大阪第一ホテル」の場合よりも両者の区別が強化される)、原告新設ホテルと被告ホテル間において不正競争防止法1条1項2号にいわゆる営業上の施設または活動の混同を生じるおそれはないと認められる。
したがつて、被告の周知営業表示「大一ホテル」に基づく反訴請求も理由がない。
三、結局、被告の原告に対する反訴請求はすべて理由がない。
結語
よつて、原告の被告に対する本訴第一次的請求は理由があるからこれを認容し、
被告の原告に対する反訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 大江健次郎
裁判官 楠賢二
裁判官 庵前重和
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