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事件 昭和 44年 (ワ) 404号
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裁判所 宮崎地方裁判所
判決言渡日 1973/09/17
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 一、原告の請求をいずれも棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第一、本訴請求の趣旨「一、被告は、宮崎市内において、その営業(衣料品・家具・時計・寝具・貴金属・履物類等の販売)のために、商号その他営業の表示として「村上屋」なる名称を使用してはならない。
二、被告は別紙目録の看板中「村上屋」なる名称記載部分を抹消せよ。
三、被告は原告に対し、金六〇〇万円およびこれに対する訴状送達の翌日である昭和四四年九月一四日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。」との判決ならびに仮執行の宣言。
第二請求原因一、(一)、原告会社は代表取締役であるAが昭和三七年一〇月肩書地において「村上屋」なる商号で個人経営の衣料品・家具・時計・貴金属・履物類等の割賦販売店を開業したのが始まりで、その後営業形態を変更して同三九年五月に同所に本店を置く「合資会社村上屋」を設立し、ついで同四三年五月六日に「株式会社村上屋」に組織変更し、その旨の登記を了して引続き前記営業を継続して今日に至つている。
(二)、右開業以来原告会社の売上実績は漸時上昇し、昭和四三年度の年間売上高は開店当初の約三倍の九、〇〇〇余万円で、同年度の広告宣伝費も三〇〇万円以上に達しており、また原告会社の使用する「一〇ケ月払の村上屋」という商号の略称もしくは通称はその名声・信用とともに宮崎市およびその周辺において同業者は勿論一般顧客の間にも周知されてきたものである。
二、被告は肩書地において、「合資会社村上屋」なる商号をもつて衣料品・家具・時計・貴金属・靴・寝具等の割賦販売を業とする合資会社であるが、昭和四三年九月三〇日宮崎市<以下略>に支店(以下「本件支店」という)を開設してその旨の登記を了し、以来その店頭に別紙目録のように「一〇ケ月払の村上屋橘店」などと表示した看板を掲げて、原告会社とまつたく同種商品の割賦販売業を営みはじめた。
三、(一)、原告の商号である「株式会社村上屋」と被告の商号である「合資会社村上屋」とは、「村上屋」という重要部分においてまつたく同一であり、現実に被告の「村上屋橘店」が原告の支店であると混同誤認されている取引の実情からして、原・被告の右商号は商法20条・不正競争防止法1条にいう同一または類似の商号に該当することは明らかである。
(二)、被告が前記のように原告と同一の「村上屋」なる商号を使用して同種の営業を宮崎市において行なうようになつたのは昭和四三年六月原告が従業員のBをして日向市に店舗を開設させたことを目して延岡在被告店の商域を侵されたと曲解し、その仕返しに原告の営業を妨害せんとしたためである。
かかる経緯よりすれば、被告の宮崎市進出は当初から不正競争の目的をもつてなされたことも明白である。
四、被告が不正競争の目的をもつて原告と同一もしくは類似の商号を使用して前記営業をはじめたことにより、原告は少なくとも六〇〇万円の損害を受けた。
原告の損害が六〇〇万円以上であることはつぎの点を考慮すれば明白である。
(一)、右不正競争の目的からすれば、被告が本件支店において得た収益はすべて原告が受けた損害と推定して差支えないものと解すべきところ、右支店の純益は年額四八〇万ないし六〇〇万円(月間売上高四〇〇万ないし五〇〇万円の一割)である。
(二)、原告は開業以来昭和四三年九月末までに一、二一三万九、二六五円の広告宣伝費を費やしているところ、被告は本件支店設置により右広告宣伝費に伴なつて生じた広告宣伝効果の五割を何らの対価を伴なわずして享受しており、従って原告は右広告宣伝費の半額に相当する損害を受けたと解すべきである。
(三)、被告の年間平均純利益は四八〇万ないし六〇〇万円であり、小売商の標準企業利廻りは年一割と考えられるので、これを資本還元法により還元すれば、被告の企業全体の評価額は四、八〇〇万ないし六、〇〇〇万円となる。被告が本件支店開設の際投入した金額は二、五〇〇万円であるから、現在の資産額を三、〇〇〇万円とすれば、営業権の代価は、一、八〇〇万ないし三、〇〇〇万円となる。従つて被告は右金額を不当に利得しているといえる。
五、よつて原告は被告に対し、請求の趣旨のとおりの請求をなすものである。
第三、請求原因に対する答弁および被告の主張一、(一)、請求原因一項(一)の事実は認める。同項(二)の事実は不知。
(二)、同二項の事実は認める。
(三)、同三項(一)・(二)の事実は否認する。
(四)、同四項の事実は否認する(ただし被告が本件支店を開設する際二、五〇〇万円以上を投入していることは認める)。
二、(一)、被告の使用する商号は原告のそれと同一もしくは類似のものではない。
また被告は商号の略称もしくは通称として「村上屋橘店」なる名称を用い、かつ開店の広告等にあたつては「全九州二〇店の販売網を持つ村上屋が橘通りに進出」と表示して原告の支店と混同されないように特に配慮したものである。
さらに昭和四五年一月の九州村上屋総会において原告を除く「村上屋」の商号の略称もしくは通称を「クレジツト村上屋」と変更し、同年三月には商標を新設してこれらを看板・広告等に使用することにしたものであつて、もはや原告の商号等との混同誤認を来たすことはなくなつている。
(二)、被告は本件商号等使用につき不正競争の目的を有していない。
そもそも原告代表者A・被告代表者C両名にとつておじに当るDは昭和二九年熊本市において「村上屋」の商号により個人経営の衣料品・家具・時計・貴金属・履物類等の割賦販売店を開設し、その後組織変更して現在の「株式会社村上屋」(以下「熊本本店」という)となつた。
熊本本店は組織の拡大をはかり、Dの親族または親友等を九州一円の主要都市に派遣して「村上屋」の商号を与え、同一営業を営む店舗を設置し、これらの店舗をチエーン化して「村上屋チエーン」を結成し、共同仕入によるコスト・ダウン、共同広告による宣伝効果の発揚、割賦代金の相互集金による共存共栄に努め、現在全九州においてその数二〇店に達し、「一〇ケ月払の村上屋」として著名な存在となつている。
右各店はすべて熊本本店の指導統率のもとに互いに緊密な連絡をとり、相互の発展のためにつぎのような遵守事項を申し合わせている。
(イ)、総会を年一回ないし二回開催する。ただし必要に応じ臨時総会を開き、相互の親睦を兼ね、営業に関する事項を協議する。
(ロ)、会員は村上屋チエーンの品位向上・業務発展のため一致協力し、相互に信用を傷つけ、発展を阻害するような言動をしない。
(ハ)、業績・利益向上のため共同仕入・共同宣伝・販売方法の統一・販売代金集金の相互援助を行なう。
原告および被告はいずれも熊本本店から「村上屋」の商号を与えられたチエーンの一員であつて前示遵守事項を誠実に履行すべき義務を負つているものである。
しかるに原告は最近故なくチエーン店としての協力義務の履行を拒否し、遂に「村上屋チエーン」より脱退することを宣言するに至つた。このことは被告を含む全九州「村上屋チエーン」としては宮崎県の中心である宮崎市にチエーンの拠点を失なう結果となり、チエーン組織にとつて痛手であり、現在および将来にわたり極めて多大の損失を来すことになるので、これが保全のため止むなく本件支店を開設するに至つたものであるから、被告に不正競争の目的はない。
(三)、現在「村上屋」の商号は前記のように熊本本店を中心とする九州全域のチエーンの商号であり、原告の「村上屋」なる商号もその部分的存在であつて、独立した商号と目すべきでなく、商号の取扱いについてもその統制に従うべきところ、
被告は前記チエーンの指示によつて本件支店を設置したものであるから、原告はこれに対する商号使用禁止の請求権を有しない。
(四)、被告は本件店舗を支店として設置したものであり、支店設置の自由の範囲に属するものというべく、その商号使用を禁止することはできない。
(五)、前示のように原告を除く全九州の「村上屋」の通称を「クレジツト村上屋」と変更したところ、昭和四五年九月原告は突如として自らの看板等に「クレジツト村上屋」と表示し、原告自ら故意に被告と同一の通称を使用するに至つた。
これは交通・通信の異常な進展に伴なう経済圏の広域化により生ずる被告を含む全九州「村上屋」の共同宣伝の効果およびチエーンの信用を悪用したものであり、
原告自ら好んで商号の類似性を招いているのであるから、原告は商号占用権を放棄したものというべく、被告に対して本訴請求をなすことを許されない。
(六)、原告の本訴請求は以下の事実によりして、信義則に違反し、権利の濫用というべきである。
1、原告は「村上屋チエーン」の一員として、熊本本店からの信用供与と指導援助ならびにチエーンの恵沢を受けて成長し、今日に至つたものであり、かつ前示協力義務を負いながら、たやすく一人立ちできる状態になるや背信も甚だしく身勝手に振舞い、チエーン店としての協力義務を果さず、自ら脱退宣言をなす始末で、これがため被告はチエーンの自衛のためやむなく本件支店を開設せざるを得なくなつたものである。
2、前(五)項掲記のとおり原告は被告を含む全九州の「村上屋」の通称である「クレジツト村上屋」なる名称を使用している。
3、さらに被告は昭和四〇年九月一日より延岡市<以下略>においてE(Cの義弟)をして「村上屋延岡店」を開業させ、今日に至つているのであるが、原告は昭和四六年二月頃延岡市<以下略>(右「村上屋延岡店」とは三〇〇メートル程度の距離)に「クレジツト・メリー」という名称で衣料品等の割賦販売店を支店として開業しておきながら、同年五月はじめ頃になつて突如として「村上屋本店山下店」と記載した看板をだし、かつ新聞・ラジオ等の広告宣伝にも右名称を使用している。
このことは「村上屋チエーン」の一員であるEないしは被告が延岡市において使用してきた「村上屋」の商号と同一もしくは類似の商号を、原告自ら不正競争の目的をもつて使用するに至つたものというべきである。
一方においてこのような不法を敢行している原告が反面において本訴請求をなすことはいわゆるクリーン・ハンドの原理に反するものである。
第四、被告の主張に対する答弁一、(一)、「クレジツト村上屋」なる通称は原告の方が被告らより先に使用しはじめたものである。なお「クレジツト」なる語は「信用売り」等を意味する普通名詞であつて何人が使用しても差支えないものである。
(二)、被告主張のようなチエーン組織はなく、原告は宮崎市において独力で商域を拡大し、現在に至つているものであつて、主張のようにチエーンの一員として開業したことはなく、その後チエーンの一員となつたこともない。従つて原告が「村上屋チエーン」を″脱退″したということもない。
(三)、原告が延岡市に「メリー」という商号で支店を開設したことは認める。
二、被告の主張はいずれも争う。
理 由一、請求原因一項(一)・同二項の事実はいずれも当事者間に争いがない。
二、商号の類似性の有無について 原告の商号である「株式会社村上屋」と被告の商号である「合資会社村上屋」とは右両商号を特徴づける重要な部分である「村上屋」という名称がまつたく一致しているから、互いに類似し、混同誤認を生ずるおそれがあることは明らかである。
そして被告が商号の略称もしくは通称として「一〇ケ月払の村上屋橘店」とか「クレジツト村上屋」などを使用したり、あるいは広告宣伝に「全九州二〇店の販売網を持つ村上屋」などと表示しても、原告の使用する「一〇ケ月払の村上屋」などと類似し、混同誤認されるおそれのあることは容易に推認し得るところである。
三、不正競争の目的の有無について 前一・二項の事実よりすれば、特段の事情が認められないかぎり、被告は不正競争の目的をもつて商号その他営業の表示として「村上屋」なる名称を使用しているものと推定せざるを得ない。
そこで本件商号等は「村上屋チエーン」の自衛のためやむなく使用するに至つたものであつて、不正競争の目的はないとする被告の主張について検討することとする。
(一)、被告主張の「村上屋チエーン」について 成立に争いのない甲第二三号証(昭和四三年(ヨ)第一五七号事件、原告代表者本人調書)・同第二四号証(同事件、D証人調書)・同第二五号証(同事件、被告代表者本人調書)・乙第三号証(写真)・乙第八号証(証明書)・証人F・同D・同G・同B・同Eの各証言、原告代表者(ただし後記信用しない部分を除く)・被告代表者各本人尋問の結果ならびに前一項の争いない事実を総合するとつぎの事実が認められる。
熊本本店の代表者Dは昭和二九年四国から熊本市に出て「村上屋」の商号で個人経営の衣料品・家具・洋品雑貨等の割賦販売業を開業し、その後右「村上屋」は、
有限会社さらには株式会社と組織変更された。
熊本本店の業績は順調に伸びていつたが、さらに昭和三六年一〇月Dの甥に当る被告代表者(C)が、Dの援助を受けて人吉市で「村上屋」の商号により衣料品等の割賦販売業を営むようになつたのを皮切りに、同年一一月にはDの友人Gが水俣市で、同三七年一〇月にはDの甥であり、かつ熊本本店の創業時からの従業員であつた原告代表者(A)が宮崎市で、いずれもDの承諾・援助を受けて、「村上屋」の商号を使用し、熊本本店と同種の営業を営むようになつた。
その後除々に熊本本店を中心として、Dの親戚・縁故者らが、主に南九州の主要都市において、Dの承諾・援助を受けて「村上屋」の商号で同種の営業を営むようになり、昭和四三年頃にはその数は約二〇店に達した。
これら「村上屋」店は「村上屋会」を結成し、経費の負担軽減や宣伝効果の増大をはかるため、各県単位で共同して新聞・ラジオ・テレビ等の宣伝広告をし、割賦代金の集金については相互に援助し合い、また仕入価格の低廉をはかるため販売商品の大部分は熊本本店の口ききで同店が取引しているのと同じ問屋から仕入れる(従つて一括共同仕入方式をとつていたわけではない)などの便宜をはかり、会員の間の親睦を兼ねた会合も数回もたれた。
被告は勿論原告も右「村上屋会」の一員であつた。
しかし、右「村上屋会」の組織運営機構・加盟店の選定基準・商号の得喪その他各「村上屋」店の権利義務に関する明確な規約等は存在せず、右「村上屋会」はその構成員たる各「村上屋」店を法的に拘束するまでの性質をもつものではなく、熊本本店を中心とする事実上の相互協力の関係に過ぎなかつた。
(二)、被告の宮崎進出に至るまでの経緯 前掲各証拠によればつぎの事実が認められる。
Cは昭和四〇年九月延岡市に義弟(E)をして同種営業の「村上屋延岡店」を開店させ、ついで同四一年一〇月には小林市に実姉をして同種営業の「村上屋小林店」を開店させた。
右開店に際しCらは「村上屋会」の仲間としては宮崎県における最初の進出者として「村上屋」を営業していたAに対して事前の了解を得なかつた。
もともとDが熊本で「村上屋」を開業する当初から、これに兄事してきたAは、
むしろその後の新参者であるCらのかかる行為に不満をもち、その頃から他店の割賦代金の集金をしないなど、「村上屋会」の一員としての協力を拒むようになつた。
昭和四三年に至り原告会社の従業員であつたBが自立を希望するや、Aは、前記のような経緯もあつて、Cらとの対抗上、延岡市に隣接する日向市に店舗を構えることを強く勧めた。Bとしては、当時、すでに前記「村上屋延岡店」があつたし、
唐津方面を希望していたが、Aの強い勧めによつて結局日向市に衣料品等の割賦販売店をだすことを決定した。
そしてAはこのことの同意を得るためにDに相談したところ、同人は当初これに賛成していた。
ところが前記「村上屋延岡店」への影響をおそれたCはDに働らきかけ、日向店開設はとりやめるよう取りはからいを依頼したため、DはAに対して日向店開設は差控えるよう申入れたが、Aは右申入れを拒絶し、同年六月頃Bをして「村上屋日向店」を開店させた。
右折衝の際DとAとの間で激しいやりとりが交わされ、以後Aは他の「村上屋」店との協力関係から離脱するに至つた。
しかして、その後僅か三ケ月後に被告はDの指示により宮崎市内に本件支店を開設するに至つたわけであるが、叙上認定の事実および弁論の全趣旨によれば、本件支店開設は、前記のような事情で他の「村上屋」店との協力関係を絶つに至つた原告に対する対抗上なされたものであると推認することができる。
宮崎県の中心である宮崎市に協力関係に立つべき原告会社を失なつたことは、他の「村上屋」店の対外的な信用や割賦代金の集金援助などの点で痛手となつたであろうことも認められなくはないが、このことが本件支店開設の主たる動機であつたとまでは認め難い。
(三)、以上(一)・(二)の事実よりすると、冒頭説示の推定を覆えすに足りず、被告に不正競争の目的がなかつたとはいい難い。
四、信義則違反・権利濫用の主張について(一)、1 昭和四六年二月頃原告が支店として延岡市<以下略>(前記「村上屋延岡店」とは約三〇〇メートルの距離)に衣料品・洋品雑貨等の割賦販売を営む「クレジツト・メリー」を開店したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第二四・二五号証の各一・二(いずれも宮崎日日新聞)・同第二八ないし三二号証(いずれも写真)、証人E・同Dの各証言、原・被告代表者各本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によれば、昭和四六年五月頃から原告代表者Aは右「メリー」の店頭に「村上屋本店山下店」・「クレジツトの村上屋メリー」などと表示した看板をだし、また新聞・ラジオ等の宣伝広告にも原告店については「村上屋本店」、右延岡店については「村上屋延岡山下店」などの商号の通称を使用していること、「メリー」は昭和四七年五月Aを代表取締役とする「有限会社村上屋」に組織変更されその旨の登記を了していることの各事実が認められる。
原告代表者本人の供述中には、「メリー」の店頭に「村上屋」なる名称を記載した看板をだしたのは同店の責任者であるH(Aの義兄)が勝手にやつたもので、A自身はまつたく関知していない旨の供述部分があるが、右は到底信用することはできない。
ところで右「有限会社村上屋」の商号および同店の使用する前記商号の通称等はすでに延岡市に存在したEの主宰する「クレジツト村上屋延岡店」なる商号と類似し、混同誤認されるおそれがあることは容易に推認し得るところである。
そして前三項(二)掲記の認定事実ならびに弁論の全趣旨に照らすと、Aの延岡市進出と「村上屋」なる商号等の使用行為は、CらがAに断りなく延岡市および小林市に「村上屋」を開設したこと、ならびに被告が本件支店を開設したことに対する対抗手段としてなされたものと推認することができ、原告代表者たるAの右行為は不正競争の目的を有するものといわざるを得ない。
2 前1項掲記の各証拠および成立に争いのない乙第二七号証(写真)によれば、
原告を除く「村上屋」店は昭和四五年一月頃の総会で原告の営業との混同誤認をさけるため、「一〇ケ月払の村上屋」なる商号の略称ないし通称を「クレジツト村上屋」と改称する旨決定し各「村上屋」店の看板、宣伝広告等にも右通称を使用するようになつたこと、本件支店およびEの「村上屋延岡店」においても間もなく右通称を使用するようになつたこと、ところが原告はこれに符節を合せるように同年九月頃に至り自らの店舗の看板を「村上屋」から「クレジツトの村上屋本店」と書き変えたことが認められる。そして延岡市の「有限会社村上屋」においても看板・広告等に「クレジツト」なる語を使用していることは前記認定のとおりである。
ところで「クレジツト」なる語は「信用売り」等を意味する外国語であるが、わが国においては右外国語が日常生活上普通名詞化して使用されていることは原告の主張のとおりであるけれども、右語が商号等の名称と併せ使用されることによつてその商号等がある程度個性化されることも否定し得ないところである。
そして本件においては、その使用時期および前示認定の原・被告間の紛争の経緯に徴すれば、原告は、南九州の諸県にわたつて商域を拡大しつつある「村上屋」の名声・信用を自らも利用すべく、敢えて右「クレジツト」なる語を使用するに至つたものであることが十分窮い知れるのである。
そうするとこれまた原告は不正競争の目的をもつて、被告らの「クレジツト村上屋」と混同誤認されるおそれのある状態をみずから招来しているものといわざるを得ない。
(二)、ところで、同一・類似の商号等の使用差止の請求権を認める法の趣旨は、
公正な営業行為を保護するためにこそ、信義・公平の原則に反する競争を排除しよう、というにある。従つて他人が不正競争の目的で自己の商号等と混同誤認される恐れのある商号等を使用しているからといつても、一方においてその冒用を難ずる主体みずからが、その他人(冒用者)を目し、不正競争の目的で商号等を不正に使用している事実があるときには、信義則にてらし、保護の資格を欠き、少なくとも右他人(冒用者)に対し、その商号等使用の差止を請求することは権利の濫用として許されない、と解すべきである。
しかるに前記認定のとおり、原告自身(延岡市の「有限会社村上屋」は名実ともにAの経営にかかるものであるから原告と同視すべきである。)延岡市において、
被告らを目し、不正競争の目的をもつて商号等を使用しているし、いわゆる「村上屋」の冒用関係においては、まさに「とがめて、これにならう」のそしりにおちいつていまや互いに他を難じ得ない泥試合の態にいたつているから、この点において、原告の行為自体信義誠実の原則に反し、その権利の行使は法の保護に値しないといわざるを得ない。
よつて被告に対し本件商号等の使用の禁止を求める原告の本訴請求は許されないものと解すべきである。
五、被告の本件商号使用により原告が受けたと主張する損害およびその額については、これを認めるに足る十分な証拠はない。
六、以上のとおりであるから、その余の点については判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がなく、棄却を免れない。
訴訟費用については民訴法89条を適用した。
裁判官 舟木信光
裁判官 武内大佳
裁判官 浜崎浩一