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事件 |
昭和
45年
(ワ)
2700号
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 1972/03/17 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
被告は、文書または口頭で、原告らの製造販売する別紙物件目録記載の物件が登録第八四六、二八五号実用新案権を侵害し、または侵害するおそれがある旨陳述したり、流布したりしてはならない。 被告は、原告【A】に対し金三〇万円、その余の原告らに対し各金二〇万円、ならびにいずれも右金員に対する昭和四五年三月二九日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。 原告らのその余の請求を棄却する。 訴訟費用は、被告の負担とする。 この判決は、第二項にかぎり仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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当事者の申立
原告ら 主文第一、二項と同旨ならびに 「被告は、原告【A】を除くその余の原告らに対し、社団法人ゴム商業改善協会発行の旬刊紙「ゴム商業」、株式会社日本履物新聞社発行の週刊誌「日本履物新聞」および静岡履物商工業組合連合会発行の月刊紙「静岡履物新聞」に各一回五号活字で別紙一記載の広告をせよ。 訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決ならびに金員支払を求める部分および広告掲載を求める部分についての仮執行の宣言を求める。 被告 「原告らの請求を棄却する。 訴訟費用は、原告らの負担とする。」との判決を求める。 |
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請求の原因
一 原告【A】を除くその余の原告らは、別紙物件目録記載の履物(以下「フイゴ履」という。)その他の履物の製造販売を業とするものであり、「フイゴ会」なるグループを組織している。原告【A】は、他の原告ら一〇名に対し「フイゴ履」に用いるフイゴを業として製造販売しているものである。 被告は、登録第八四六、二八五号の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)の権利者である訴外【B】から本件実用新案権について専用実施権の設定を受け、その旨の登録を了し、その実施品であると称する笛付き履物を業として販売しているものであつて、原告らと競争関係にあるものである。 二 原告らが製造販売する「フイゴ履」は、本件考案の技術的範囲に属さない。すなわち(一) 本件考案の登録請求の範囲は、別添実用新案公報に記載のように、「図面に例示し、本文に詳記する如く、弾力性ある多孔性物質の芯台1に空洞部2を設け、該空洞部より導孔3を外方に開口して鳴笛4を取付け、上記芯台1の下部より底版5を、上部より上版6を接着して成る履物台」である。 (二) 他方、「フイゴ履」は、別紙目録記載のように、「弾力性ある多孔物質の芯台(1)に空洞部(2)を設け、該空洞部(2)より導孔(3)を外方に向つて開口し、またこれとは別個に弾力ある硬質樹脂材料をもつて自力による復元性を有する蛇腹状胴部(7)と通気筒(3)を備えたフイゴ体(A)′を成形するとともに、同通気筒(8)に鳴笛(9)を嵌着してフイゴ型の発鳴装置(A)を構成し、 この発鳴装置(A)を上記の空洞部(2)内に嵌入するとともに、通気筒(8)を上記の導孔(3)より外方に露呈せしめ、上記芯台(1)の下部より底版(5)を、上部より上版(6)を接着してなる履物台に爪掛用ベルト(10)を取り付けて構成したサンダル」である。 (三) そこで、本件考案の構成要件と「フイゴ履」の構成を比較してみると、 1 「フイゴ履」では、鳴笛(9)がフイゴ体(A)′の通気筒(8)に嵌着されているので、鳴笛(9)の発鳴はフイゴ型発鳴装置の蛇腹状胴部(7)内の空気によつてなされ、空洞部(2)内の空気はこれにまつたく関与しないのに対し、本件考案においては、空洞部2から導孔3を外方に開口し、これに鳴笛4を取り付けているので、空洞部2内の空気が鳴笛4を発鳴させる。 2 したがつてまた、「フイゴ履」の空洞部(2)の気密性は、鳴笛の発鳴のためには必須の構成要件ではないのに対し、本件考案においては空洞部2内の気密性を心須の構成要件とするから、たとえば、芯台1と上版6あるいは底版5との相互剥離その他の事態により、空洞部の気密性が失われると、鳴笛4が発鳴不能となる。 3 「フイゴ履」のフイゴ体(A)′は、踵部に踏まれた場合には、芯台(1)とともに押し潰されることはほとんどなく、むしろ、その上面の上版(6)を介して芯台(1)とは無関係に単独に押し潰されて発鳴し、右踏圧が解除されると、フイゴ体(A)′の復旧も芯台とは無関係に、蛇腹状胴部(7)自体の復元力によつて旧状に復するものであるのに対し、本件考案においては、芯台1に設けた空洞部2の上下を上版6および底版5によつて閉塞して気密状態となし、芯台1の踏付を反覆することによつて空洞部2内の空気を同空洞部2から外方に通ずる導孔3から噴出または吸入せしめ、この噴気をもつて導孔3に取り付けた鳴笛4を発鳴せしめるものであるから、踵部による踏付が反復されると、空洞部内に上版が落ち込んで同部の吸気量を低減せしめて発鳴効率を低下させる。「フイゴ履」では、上版がフイゴ型発鳴装置の蛇腹状胴部の復元力によつて常時押し上げられているので、上版の空洞部内への落込みは発生しにくく、このため発鳴効率の低下はほとんどない。 三 前記のとおり、両者は、その構成および作用効果を異にし、したがつて、「フイゴ履」は本件考案の技術的範囲に属しないにもかかわらず、被告は、 (一) 昭和四四年五月一五日付で旬刊紙「ゴム商業」、同月三〇日付で週刊紙「日本履物新聞」および同年七月一日付で月刊紙「静岡履物新聞」に、いずれも、 最近各地で静岡のメーカーグループ「フイゴ会」によつて「フイゴ履」と称する笛付サンダルが製造販売されているが、「フイゴ履」は被告の実用新案に抵触するものであるから注意されたい旨の広告を掲載し、 (二) 原告【C】、同合名会社前田直次郎商店、同合名会社三島屋商店、同【D】に対し、昭和四四年五月二〇日付内容証明郵便で、右原告らの製造販売する「フイゴ履」が被告の有する本件実用新案権を侵害するとして、その販売を停止することならびにその製造依頼先、現在までの販売先、販売数量および仕掛数量を回答することを求め、 (三)1 原告合名会社三島屋商店の「フイゴ履」の下請製造者である訴外【E】に対し、昭和四四年四月一六日付および同月二六日付の、原告株式会社吉崎商店の「フイゴ履」の下請製造者である訴外【F】に対し、同月二六日付の各内容証明郵便で、 前(二)記載と同趣旨の通告をし、 2 原告株式会社吉崎商店の「フイゴ履」の販売先である訴外有限会社壺川商店に対し、同月一六日付の内容証明郵便で、販売の停止と、購入先、購入数量、購入年月日を五日以内に回答することを要求する旨を通告し、 (四) 昭和四四年一一月一一日原告らを実用新案法違反を理由として静岡警察署長に対し告訴し、 もつて、虚偽の事実を陳述し、流布した。 四 被告は、故意またはすくなくとも過失により前項の行為をしたものであり、原告らは、これにより次のとおり営業上の利益を害せられた。 (一) 原告【A】を除くその余の原告ら一〇名は、昭和四四年二月および同年三月中、原告【A】からそれぞれ一か月につきフイゴ二万個(一万足分)ずつを仕入れ、これを使用して、みずから、または下請業者に請負わせて、「フイゴ履」を完成し、一足金一五〇円で販売し、一足につき金三〇円の荒利、金二〇円の純利を得た。 (二) 原告【A】は、昭和四四年一月下旬から他の原告ら一〇名に対し、笛付きフイゴを一個金六円五〇銭(「フイゴ履」一足分で金一三円)で販売しはじめ、同年二月中および三月中、右原告ら一〇名に対してそれぞれ一か月に二万個(一万足分)ずつを販売した。右二か月では、一か月につき金三九万円の荒利、金二六万円の純利であつた。 (三) しかるに、被告が昭和四四年四月一六日以降前記三記載の行為に出たため、原告【A】を除く原告ら一〇名の下請業者らが「フイゴ履」の下請製造を拒否し、小売業者も仕入れを中止したため、右原告ら一〇名は、同年四月中旬から七月中旬まで三か月間に「フイゴ履」を全然製造、販売することができず、「フイゴ履」の最盛期をむなしく過した。その結果、右原告ら一〇名は、右の期間内にそれぞれ合計金六〇万円の得べかりし利益を失つた。 (四) 原告【A】は、被告の前記三の行為により、昭和四四年四月中旬から同年七月中旬までの間に、同原告を除くその余の原告ら一〇名に笛付きフイゴを販売することができず、合計金七八万円の得べかりし利益を失つた。 五 原告【A】、同【G】を除くその余の原告ら九名は、「フイゴ履」の製造をそれぞれその下請業者に請負わせ、販売していた。しかるところ、被告が前記三の(一)ないし(三)記載の行為をしたため、 (一) 各下請業者は、原告【A】、同【G】を除くその余の原告ら九名が被告の有する本件実用新案権を侵害して「フイゴ履」を販売する不正な業者であると考えるに至り、右原告らの注文にかかる「フイゴ履」の製造を拒絶し、 (二) 原告【A】を除くその余の原告ら一〇名の顧客である「フイゴ履」の小売業者も前記下請業者と同様の考えを持ち、原告らの商品である「フイゴ履」の仕入れを中止するに至つた。 以上の次第で原告らは、被告の行為によりそれぞれ営業上の信用を害された。 六(一) 被告の前記三記載の行為は、不正競争防止法第1条第1項第6号に該当し、原告らはその行為によつて営業上の利益を害される虞があるから、被告に対し、その行為を止めるべきことを求める。 (二) また、原告らは、被告の右行為により前記四記載の営業上の利益を害されたものであるから、被告に対し、損害賠償として、原告【A】を除くその余の原告らはそれぞれ損害額の内金二〇万円、原告【A】は同内金三〇万円ならびにそれぞれ右金額に対する本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和四五年三月二九日から右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (三) さらに、原告らは、被告の前記三の行為により前記五記載のようにその営業上の信用を害されたから、これを回復するために、請求の趣旨記載のとおりの広告をすることを求める。 |
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被告の答弁および主張
一(一) 原告主張の請求原因一は認める。 (二) 同二のうち(一)および(二)は認める。(三)の主張は争う。 (三) 同三のうち(一)ないし(三)を認め、(四)を否認する。 静岡警察署長に告訴したのは被告ではなくて【B】である。 (四) 同四および五は、いずれも否認する。 二 「フイゴ履」は、以下に述べるところにより、本件考案の技術的範囲に属するか、またはこれを利用するものである。 (一) 原告らは、「フイゴ履」のフイゴなる鳴笛装置の考案を強調するが、右フイゴも本件実用新案権の登録請求の範囲にいうところの鳴笛4の一種に過ぎない。 また、原告らは、笛を鳴らす空気が、「フイゴ履」ではフイゴ体に収容された空気であるのに対し、本件考案では芯台空洞部内に収容された空気であると主張するが、両者の鳴笛吹鳴の原理はまつたく同一である。すなわち、笛を鳴らす空気は、 両者とも芯台に負荷する体重により芯台内にある空間が圧縮されて空気が押し出され、次に体重の軽減により右空間が拡大し、それに伴ない外界の空気が芯台導孔部から右空間に流入し、これを繰返すことにより同所に設置された鳴笛を吹鳴する作用を営むものである。 (二) 「フイゴ履」において、鳴笛吹鳴に必要な空気を収納する空間部にことさらフイゴ体を使用する必要性は少いばかりでなく、これを使用することによる原告ら主張のような利点はなく、かえつて、種々の点で不利でさえある。 1 「フイゴ履」においても、本件考案においても、芯台の材質は、弾力性ある多孔性物質である。弾力性ある多孔性物質は、それ自体気密性があり、さらに両者とも底版・上版で上下を被覆することにより芯台内空洞部は、いづれも鳴笛吹鳴に必要な空気の収納排出に必要にして十分な程度の気密性を保持しているのである。しかるに、これにさらに気密性を増大させるためにフイゴ体を使用することは屋上屋を重ねるに等しい。 原告らは、また、本件考案の場合、底版・上版の剥離等により気密性が喪失するおそれがあると主張するが、仮りに剥離したとしても、体重の負荷の際、右剥離個所は密閉され、鳴笛吹鳴に支障を来たすことはない。 2 原告らは、また、「フイゴ履」のフイゴの押潰には芯台の押潰を必要とせず、 したがつて、芯台踵部における踏付の反覆により上版が落ち込むようなことがあつても、フイゴ型発鳴装置の蛇腹状胴部の復元力によつて常時上版が押し上げられ、 このため発鳴効率の低下がないと主張するが、弾力性ある多孔性物質を用いる芯台じたいの復元力は、フイゴ体の復元力より大であることは明らかであり、またフイゴ体の押潰にはかならず芯台の押潰が伴うものであり、原告らの右主張は、弾力性のない木製等の芯台を使用するものにしてはじめていいうることである。 (三) 「フイゴ履」には、次のような不利な点がある。 1 フイゴ体を取り付けることによつて、当然それに相応する材料費、加工賃が増大し、製品の価格が高くなる。 2 製品の履物の重量が、フイゴ体が入つただけ増加し、特に小児用履物の場合には適当でない。 3 フイゴ体自体の破損、特に凹みが生じた場合には、その特徴たる笛吹履物の価値を喪失する。 三 以上のように、「フイゴ履」は、本件考案とその目的、外観、材質、製造原理を同じくし、ただ製造においてフイゴなる無用物を添加したに過ぎないものであつて、本件実用新案権に抵触するものである。 また、仮りに、右フイゴが新規の考案であるとしても、その余の要件はすべて被告の考案を利用していることは明らかであつて、本件実用新案権を侵害するものであることは明瞭である。 四 被告の行為は、正当な行為であり、不正競争防止法第1条第1項第6号に該当しない。 (一) 本件紛争の経過は、大略次のとおりである。すなわち、昭和四二年七月頃から昭和四三年二月頃までの間に「ピツコロ履」と称する子供用サンダルが、静岡カツコ会という履物業者グループによつて大量に製造販売されたが、右ピツコロ履の構造は、本件考案の技術的範囲に属し、前記カツコ会のメーカーの行為は明らかに権利侵害行為であつた。そこで、権利者たる【B】は、その侵害行為の差止めを請求したところ、昭和四三年三月二三日に至り、カツコ会の会長は権利侵害の事実を全面的に認め、両者間に示談が成立した。右カツコ会所属の有力なる業者の中には、原告株式会社赤堀商店、同【G】、同合名会社三島屋商店、同株式会社吉崎商店、同マルヨ工業株式会社、同株式会社望米商店があり、以上の原告に関するかぎり本件実用新案権侵害の前歴があつた。 そうして、昭和四四年春頃、再び本件実用新案権に抵触する子供用サンダルが製造販売されるという情報が入つてきたので注意したところ、被告は、同年三月末日頃東京都内で「フイゴ履」が販売されている事実を確認、これを入手した。そして、その構造につき慎重に調査し、かつ、権利侵害の有無について専門家の判断を求めたところ、結論は「フイゴ履」の構造もまた本件実用新案権に抵触する製品であるということであつたので、さらに製造販売ルートを確認したうえ、原告らが主張する請求原因三のような行為に及んだのである。 (二) 不正競争防止法第1条第1項第6号は、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を陳述し流布する行為の差止めを求めうべきことを規定しているが、右陳述・流布とは、虚構の事実を陳述・流布することであり、また、その陳述・流布の中には、学術的技術的批判、主観的見解・批評・抽象的推論のような価値判断の陳述・流布は入らない。 「フイゴ履」が本件実用新案権を侵害するか否かは、当事者間に争いがある以上、最終的には裁判所の公権的判断によつて決せられることになるが、それまで権利者がその判断に基づき権利侵害行為に対処し、社会生活上認容される方法により権利主張に及ぶことは、適法な行為であるといわねばならない。本件において、原告の大半は、過去に権利侵害行為をなし、「フイゴ履」も本件考案に基づく製品と酷似し、弁理士等専門家の有力な見解もその技術的範囲に属するという判断をしている以上、原告らが被告の行為として指摘する程度の行為は、その記載内容その他からみて、特に反社会的なものとは認められない違法行為というべきである。 五 原告らが請求する信用回復措置については、原告らは、すでに乙第九、一〇号証のような新聞広告文書によつて、原告らが東京地方裁判所から得た差止の仮処分決定を巧みに利用し信用回復の措置を構じているのであつて、いまさらこれを認める必要はない。 |
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立証(省略)
理 由一 原告【A】を除くその余の原告らは、「フイゴ履」その他の履物の製造販売を業とするものであること、原告【A】は、他の原告ら一〇名に対し「フイゴ履」に用いるフイゴを業として製造販売しているものであること、被告は、本件実用新案権の権利者である【B】から本件実用新案権について専用実施権の設定を受け、その旨の登録を了していること、被告は履物を業として販売しているものであつて、 原告らと競争関係にあるものであることについては、当事者間に争いがない。 二(一) 成立に争いのない甲第一号証(本件実用新案公報)の記載によれば、 本件考案の構成要件は、 (1) 弾力性ある多孔性物質の芯台1を備え、 (2) 右芯台1に空洞部2を設け、 (3) 該空洞部2より導孔3を外方に開口し、 (4) 右導孔3に鳴笛4を取り付け、 (5) 芯台1の下部より底版5を、上部より上版6を接着して成る(6) 履物台であることが認められる。 (二) 「フイゴ履」が別紙物件目録記載のとおりの構造のものであることは当事者間に争いがなく、右目録の記載によれば、「フイゴ履」の構成は、 (1)′ 弾力性ある多孔性物質の芯台(1)を備え、 (2)′ 右芯台(1)に空洞部(2)を設け、 (3)′ 該空洞部(2)より導孔(3)を外方に開口し、 (4)′ 弾力ある硬質樹脂材料をもつて自力による復元性を有する蛇腹状胴部(7)と通気筒(8)を備えたフイゴ体(A)′を成形するとともに、同通気筒(8)に鳴笛(9)を嵌着してフイゴ型の発鳴装置(A)を構成し、その発鳴装置(A)を空洞部(2)内に嵌入するとともに、通気筒(8)を導孔(3)より外方に露呈せしめ、 (5)′ 芯台(1)の下部より底版(5)を、上部より上版(6)を接着して成る(6)′ 履物台に爪掛用ベルト(10)を取り付けて構成したサンダルであることが認められる。 (三) そこで、本件考案の構成要件と「フイゴ履」の構成とを比較すると、前者の構成要件のうち(1)ないし(3)および(5)、(6)が後者の構成の(1)′ないし(3)′および(5)′、(6)′の構成とまつたく同じであることは明瞭であり、両者の相違するところは、ただ(4)と(4)′、すなわち、前者においては、導孔3に直接鳴笛を取りつけるようになつているのに対し、後者においては、弾力ある硬質樹脂材料をもつて自力による復元性を有する蛇腹状胴部(7)と通気筒(8)を備えたフイゴ体(A)′を成形するとともに、同通気筒(8)に鳴笛(9)を嵌着してフイゴ型の発鳴装置(A)を構成し、この発鳴装置(A)を空洞部(2)内に嵌入するとともに通気筒(8)を導孔(3)より外方に露呈せしめており、この(4)または(4)′が、他の前記構成部分と結合して履物台を構成している点にあるものと認めることができる。 (四) そうすると、「フイゴ履」が本件考案の技術的範囲に属するか否かは、前記「フイゴ履」の構成のうち(4)′が、他の両者において一致する構成部分と結合した履物台として考察したとき、本件考案の構成要件(4)と、技術思想的に同一であると認めうるか否かの判断にかかつているものということができる。そこで、この点について考えてみる。 1 本件考案は、前掲甲第一号証の記載によれば前記(1)ないし(5)の構造をもつた履物台であるから、歩行に際して履物台に体重がかかると多孔性物質の芯台1は弾性変形し、空洞部内2の空気は圧縮されて導孔3から勢よく噴出し、その際、導孔に取り付けられた鳴笛4を吹鳴させるものであつて、空洞部2そのもの内の空気を鳴笛吹鳴に利用するものであるということができ、この意味で、いわば履物台じたいが鳴笛装置を備えている考案であるということができる。 一方、「フイゴ履」における鳴笛吹鳴用の空気は、フイゴ体(A)′の中にある空気であり、フイゴ体(A)′の拡縮によりその通気筒(8)に誘導案内されて吸排され、これによつて、通気筒(8)に嵌着された鳴笛を吹鳴させるものであつて、空筒部(2)内の空気はなんら鳴笛吹鳴には作用しない。「フイゴ履」においては、フイゴ体(A)′が鳴笛を鳴らすのであつて、本件考案におけるようにいわば履物台じたいが鳴笛を鳴らすものとその構成を異にしているものというべきである。したがつて、「フイゴ履」においては、導孔(3)に、鳴笛(9)を嵌着した通気筒(8)を備えたフイゴ型発鳴装置(A)が取りつけられていても、それは、 本件考案におけるように導孔3に鳴笛4を取り付けたことにならないものというべきである。 2 被告は、本件考案においても「フイゴ履」においても、笛を鳴らす空気は、芯台に負荷する体重により芯台内の空間の圧縮・拡大に伴い右空間に流入・流出し、 これが導孔に設置された鳴笛を吹鳴する作用をするもので、「フイゴ履」のフイゴも本件考案にいうところの鳴笛4の一種にすぎない、と主張するが、「フイゴ履」におけるフイゴ型発鳴装置(A)を本件考案における鳴笛4と同一視することができないことは、「フイゴ履」においては、その鳴笛の吹鳴が、本件考案におけるように芯台1の空洞部2内の空気により行なわれず、フイゴ体(A)′の空気により行なわれる構成になっていることに徴して明らかであるから、被告の主張は、理由がない。 3 被告は、また、「フイゴ履」においても芯台内空洞部は、鳴笛吹鳴に必要にして十分な程度の気密性が保持されているのであるから、そのうえさらに気密性を保持させるためにフイゴ体を使用する必要はないというが、フイゴ体は、単に芯台内空洞部の気密性を強化させるためのものではなく、鳴笛(9)の吹鳴に必要な空気の吸入・排出を行うものであるから、被告の右主張も理由がない。 4 その余の被告の主張、すなわち、弾力性ある多孔性物質を用いた芯台じたいの復元力はフイゴ体の復元力より大であることは明らかであり、また、フイゴ体の押潰にはかならず芯台の押潰が伴うものであるとの主張および「フイゴ履」には種々の不利な点があるとして主張するところは、「フイゴ履」が本件考案の技術的範囲に属するか否かという点に関しては関係のない事柄である。 5 被告は、さらに、「フイゴ履」におけるフイゴが新規の考案であるとしても、 その余の要件は、すべて被告の考案を利用していることは明らかであるから、「フイゴ履」は本件実用新案権を侵害していることになると主張するが、「フイゴ履」におけるフイゴ型吹鳴装置(A)を設けた構成をもつて本件考案において導孔3に鳴笛4を取り付けた構成と同一視することはできないこと前説明のとおりであるから、被告のこの主張もまた理由がない。 三 以上説明したところから明らかなように、「フイゴ履」は、本件登録実用新案の技術的範囲に属さない。 ところで、被告が、「請求の原因」三の(一)ないし(三)で原告らが主張するような行為をしたことについては、当事者間に争いがなく、右争いのない事実によれば、右行為は、原告らの「営業上ノ信用ヲ害スル……事実ヲ陳述シ又ハ之ヲ流布スル行為」であることは明らかであり、また、前説明のところから、右行為は、 「虚偽ノ事実」を陳述しまたはこれを流布する行為であることもまた明らかである。しかして、右行為によつて原告らがその営業上の利益を害せられる虞れのあることは容易に推定することができるから、原告らは、被告に対してそのような行為を止むべきことを請求できるものといわなければならない。 被告は、被告の前記行為は不正競争防止法第1条第1項第6号に該当しないというが、仮りに被告主張のような事実があつたとしても、その論拠は採るを得ず、被告の主張は理由がない。 四 前項記載の経過によれば、被告は少くとも過失により前項記載の行為をしたものであると認定するのが相当であり、原告【A】、同【H】、原告会社代表者【I】、同【J】、原告【D】、同【C】、原告会社代表者【K】各本人尋問の結果を総合すると、原告らは、それぞれ原告らが請求の原因四で主張する営業上の利益を害せられた事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。 そうすると、右損害の範囲内で原告【A】は金三〇万円、その余の原告らはいずれもおのおの金二〇万円、ならびにこれらに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日であることが記録上明らかである昭和四五年三月二九日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告らの請求部分もまた理由がある。 五 原告【A】を除くその余の原告らは、また被告に対し、害された営業上の信用を回復するに必要な措置として、謝罪広告を命ずべきことを求めているが、成立に争いのない乙第九、一〇号証ならびに原告会社代表者【K】本人尋問の結果を総合すると、原告らは、昭和四五年一月一日付の静岡履物新聞に、東京地方裁判所から被告に対し、原告らの製造販売する「フイゴ履」が本件実用新案権を侵害し、または侵害するおそれがある旨陳述したり、流布したりしてはならない旨の仮処分決定がなされた旨を掲載し、また、その頃、原告らの各得意先に対しその旨記載した文書を送付して、害された信用を回復するための処置をとつたことが明らかであり、 その上さらに、信用回復の措置として被告に別紙一記載のような広告をさせる必要はないものと認める。 六 そこで、原告らの被告に対する請求のうち、不正競争行為の差止を求める部分ならびに損害賠償を求める部分は、これを正当として認容するが、広告の掲載を求める部分は失当として棄却することにし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第89条、第92条但書、仮執行について同法第196条を各適用して、主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
別紙一当社は、『貴殿(社)等が「フイゴ履」と称して販売している笛付きサンダルは、当社の有する実用新案権登録第八四六、二八五号を侵害し、又侵害するおそれがある』旨を陳述し、また流布し、貴殿(社)等に多大の御迷惑をおかけしましたことを深く陳謝します。 昭和年月日東京都台東区<以下略>有限会社ミツクラ代表取締役【B】株式会社赤堀商店殿、【G】殿【H】殿、【C】殿合資会社前田直次郎殿、マルヨ工業株式会社殿合名会社三島屋商店殿、【D】殿株式会社望米商店殿、株式会社吉崎商店殿物件目録弾力性ある多孔性物質の芯台(1)に空洞部(2)を設け、該空洞部(2)より導孔(3)を外方に向つて開口し、また、これとは別個に弾力ある硬質樹脂材料をもつて自力による復元性を有する蛇腹状胴部(7)と通気筒(8)を備えたフイゴ体(A)′を成形するとともに、同通気筒(8)に鳴笛(9)を嵌着してフイゴ型の発鳴装置(A)を構成し、この発鳴装置(A)を上記の空洞部(2)内に嵌入するとともに、通気筒(8)を上記の導孔(3)より外方に露呈せしめ、上記芯台(1)の下部より底版(5)を、上部より上版(6)を接着してなる履物台に、爪掛用ベルト(10)を取り付けて構成したサンダル(別紙第一図はサンダルの側面図、第二図は一部切載平面図、第三図は中央線縦断面図、第四図は芯台の斜視図、 第五図はフイゴ型発鳴装置の斜視図である。)<11711-001><11711-002><11711-003><11711-004> |
裁判官 | 荒木秀一 |
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裁判官 | 高林克己 |
裁判官 | 元木伸 |