審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成15ワ5711営業差止等請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
昭和60ワ4131秘密保持義務存在確認等請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成15ネ1010損害賠償請求控訴事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成18ワ5172損害賠償請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成10ワ13353損害賠償請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
関連ワード | 差止請求(差止) / 逸失利益 / 競業関係 / 代理人 / 代表者 / 秘密管理(秘密管理性) / 秘密として管理 / 有用性 / 営業上の情報 / 営業秘密 / 2条1項4号 / 営業誹謗行為(2条1項14号) / 不正取得行為 / プログラム / 虚偽の事実 / 損害賠償 / 損害額 / |
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事件 |
平成
15年
(ワ)
26571号
不正競争行為差止等請求事件
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原告 株式会社ファセック 訴訟代理人弁護士 太田治夫 訴訟復代理人弁護士 向山文俊 訴訟代理人弁護士 石田惠美 同 川畑大輔 同 北條将人 被告 株式会社エルテックス 被告A 被告B 被告C 被告D 被告E 被告F 被告ら訴訟代理人弁護士 三木昌樹 同 木原右 同 楠慶 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2005/03/30 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告らは,連帯して金1億円及びこれに対する被告A,被告B,被告C及び被告Eについては平成15年12月27日から,被告株式会社エルテックス(以下「被告会社」という。)及び被告Dについては同月28日から,被告Fについては同月30日から,それぞれ支払済まで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告会社は,別紙データファイル目録記載のデータファイルに基づき,設計,施工,維持管理を行ったり,これに付随する営業行為をしてはならない。 3 被告らは,別紙データファイル目録記載のデータファイルを廃棄せよ。 4 被告らは,自ら以下の行為を行い,又は第三者をしてこれをなさしめてはならない。 (1) 別紙データファイル目録記載のデータファイル及びこれに関する情報を,第三者に開示,漏洩する行為 (2) 第三者に対し,別紙陳述目録記載の文言を陳述し,又は文書中に表現する行為 |
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事案の概要
被告会社を除く被告らは,もと原告の社員であったが,原告を退職し,被告会社に就職した。本件は,原告が,被告らに対し,被告らは共謀して@原告の営業秘密であるデータをコピーして持ち出した,A原告の営業秘密であるデータを削除した,B被告会社及び被告Aがその余の被告らを一斉に原告から被告会社に引き抜き,同被告らはこれに応じた,C原告の取引先等に対し,原告の財務内容が悪く,破綻寸前であるなどと虚偽の事実を告知・流布した,として,不正競争防止法3条及び4条又は不法行為若しくは債務不履行に基づき,連帯して内金1億円の損害賠償金及びこれに対する訴状送達日以降の年5分の割合による遅延損害金の各支払並びに前記請求2ないし4項に記載した差止を求めている事案である。 1 争いのない事実 (1) 原告は,昭和63年に現代表取締役である原告代表者が設立した,食品工業・化学工業・薬品工業関係の自動制御部門に関する設計・施工及び維持管理等を業とする株式会社である。 (2) 被告会社は,電気,計装及び自動制御設備等の工事請負並びに計測機器,自動制御機器等の設計,製作等を業とする株式会社であり,原告と同種の営業を行っている。 (3) 被告Aは,平成6年まで原告の取締役を務め,同年に取締役を辞した後は原告の技術本部長の職にあったが,平成15年3月14日に退職を申し入れ,同年4月15日に退職し,翌16日,被告会社に入社した。 被告B,被告C,被告D,被告E及び被告F(以下,まとめて「被告社員ら」と総称することがある。)は,いずれも原告の社員であったが,被告B,被告C,被告D及び被告Eは平成15年4月30日付けで,また,被告Fは,同年5月19日付けでそれぞれ原告を退職し,その後,被告B,被告C,被告D及び被告Fは,いずれも上記退職日の翌日,被告会社に入社し,被告Eは,同年5月20日,被告会社に入社した。 2 争点 (1) 被告らは,共謀して以下の行為を行ったかどうか。 @ 原告の営業秘密に対する不正取得行為及び違法な削除行為(争点1) A 社会的相当性を逸脱する被告社員らの引き抜き行為(争点2) B 虚偽事実の告知・流布行為(争点3) (2) 原告の損害額(争点4) 3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点1(営業秘密の不正取得及び削除)について (原告の主張) ア 原告が保有する別紙データファイル目録記載のデータファイル(以下「本件情報」という。)は,以下に述べるとおり,不正競争防止法2条4項にいう「営業秘密」に該当する。 (ア) 秘密管理性について 本件情報は,原告の顧客の工場における制御盤その他のシステム等の根幹にかかわるデータとして,きわめて重要な内容を含んでいるものであり,原告の社員しかアクセスし得ず,パスワードの設定等により,原告社員しか処理できないようにされていた。また,データファイル等については,企業秘密として社外秘,持ち出し禁止とされていた。このように,本件情報は,原告の重要な情報として,「秘密」として管理されていた。 (イ) 有用性について 本件情報は,前記(ア)のとおり,原告の全顧客の工場システム等に関する設計図面やエンジニアリング図書等が記録されていたものであり,長年にわたり,各顧客ごとの特徴に合わせて改善改良等を加えて蓄積されてきた技術,ノウハウの集積である。 原告は,各顧客との取引を継続して行ってきており,過去に納品したシステム等のメンテナンス,改良,改造などの業務に当たり,これまでのデータ等が必要不可欠となるものである。 したがって,本件情報は,原告の設計,施工,メンテナンス等の事業活動を行うに当たり,有用な技術上及び営業上の情報である。 (ウ) 非公然性について 本件情報は,原告の担当社員しか知り得ない情報であり,公然とは知られていないものである。 イ 被告らは,原告の営業秘密である本件情報を使用し,被告会社において味の素株式会社(以下「味の素」という)ほかの原告の顧客を奪取して取引先の拡大を図ることを画策し,次のとおり,本件情報を不正な手段により取得した。 すなわち,被告Fは,平成15年4月6日,原告事務所に出社し,自分が使用していたパソコン内のデータを,パソコンのデスクトップに作成したコピー用フォルダに集約した上,原告の備品であった空のCD-Rにコピーして持ち出した。また,被告F及び被告Dは,同月13日,原告事務所に出社し,他の社員使用のパソコンのデータを被告Dが使用していたパソコンに集約した上で,同パソコンから会社の備品であったCD-Rにコピーして持ち出した。また,同日,被告Dは,被告A使用のパソコン内に保管されていたデータをCD-Rにコピーして持ち出した。被告Fらが同月13日に持ち出した上記データのうち,被告Dのパソコンから持ち出したデータは,別紙データファイル目録記載2のデータファイルである。さらに,被告Dは,同月14日,同様にデータをコピーして持ち出した。 被告F及び被告Dが持ち出した上記データファイルには,原告の営業秘密である本件情報が含まれていた。 ウ 被告らの上記イの行為は,不正な手段により営業秘密を取得する行為として,不正競争防止法2条1項4号及び不法行為(民法709条)に該当する。また,被告A及び被告社員らについては,原告在籍中に,原告の営業秘密である本件情報を持ち出して競業関係にある被告会社に持ち込んだものであって,雇用契約上の債務不履行にも該当する。 エ 被告D及び被告Fは,平成15年4月13日,前記イのとおり,データを持ち出した直後に当該データを削除したが,この削除行為は,不法行為(民法709条)に該当する。また,被告A及び被告社員らについては,原告在籍中に,競業関係にある被告会社にデータを持ち込むことと相俟って原告のデータを削除したものであって,雇用契約上の債務不履行にも該当する。 (被告らの主張) ア 本件情報が原告の営業秘密であることは争う。 原告が顧客から受注して作成するデータファイルは,シーケンサのラダープログラム,制御盤の設計図,計装工事(配線)の設計図などが主なものであるが,これらは,顧客の要求仕様によって決定され,作成されるものであるから,個別的なものであって汎用性がなく,原告が独自性を発揮する余地もほとんどない。 しかも,最終的には,原告が作成したラダープログラムのソース,制御盤の設計図,計装工事の設計図など一切の内容は,完成図書(メディアも含むデータファイル)として顧客に引き渡される。 したがって,本件情報は顧客に帰属し,原告の独自の情報となるものではないから,原告の営業秘密ではない。 また,上記データファイルは,原告社員のパソコンで作成され,最終的には社内LANのサーバーに保存されるが,作業中は社員のパソコンに保存されていた。社内LANのサーバーは,パスワードが設定されておらず,各パソコンから自由にアクセス可能であり,原告社員のパソコンも,被告B以外はパスワードを設定しておらず,誰でも使用可能であった。 さらに,上記データファイル自体もパスワードで保護されておらず,社外秘で情報の取扱いについて他に漏洩することのないようになどという指導はなかった。 このように,本件情報は,秘密として管理されていなかった。 イ 原告の主張イのうち,被告Fが,平成15年4月6日及び同月13日に出社し,自己が使用するパソコンに作成したコピー用フォルダに同パソコン内のデータを集め,これらのデータを自分で用意したCD-Rにコピーして持ち出したこと,被告Dが,同月13日に出社し,サーバー内のデータを自分の使用していたパソコンにコピーし,自ら購入したCD-Rにコピーして持ち出し,その後,当該パソコンにコピーしたフォルダを削除したことは認めるが,その余は争う。 (2) 争点(2)(引き抜き行為)について (原告の主張) ア 被告会社による被告社員らの引き抜き行為に関しては,以下のような事実が存在する。 すなわち,@平成14年12月ころ,被告Aは,被告会社に対し,原告の社員名簿を郵送したこと,A被告Aは,原告在籍中,被告会社の代表取締役(以下「被告代表者」という。)及び被告会社の取締役Gとの間で何度か電子メールのやり取りを行ったこと,B平成15年3月20日ころ,味の素エンジニアリング株式会社(以下「AJEC」という。)社員であるHが,味の素川崎工場において,被告A,被告B,被告F,被告D及び被告Cが原告を辞めて被告会社に入社すると述べたこと,C平成15年4月4日,原告代表者がAJEC取締役であるIと打合せをした際,Iは,被告社員らが原告を辞めると述べたこと,D平成15年4月7日,原告代表者が前記Gと会談した際,原告代表者がGに対し,被告Aが既に辞表を提出している旨を伝えると,Gは,「Aが被告会社に入るなら歓迎する」などと述べたこと,E平成15年4月11日,被告Fが,被告B,被告D及び被告Cに対して「源泉徴収表と給料明細書(カット前,カット後)を用意して下さい」という内容の電子メールを送ったこと,F平成15年4月15日ころ,被告Cは,被告Aに誘われて被告会社に就職すると原告の社員に話したこと,G平成15年4月28日,原告の社員は,被告Cから「エルテックス入社後はフランスに行くことになっている」と聞いたこと,以上の事実が存在し,これらの事実によれば,被告会社は,遅くとも平成14年末には,被告Aと共謀し,被告A及び被告社員らの引き抜きを画策し,被告Aが被告社員らをそそのかして一斉に移籍させたことが推認できる。 イ 原告においては,専門的知識や技能を有する技術者等の人材が極めて重要な財産であるが,被告会社に移籍した被告社員らは,いずれも原告において主要な役割を果たしてきていたメンバーであり,このような社員を一挙に6名も引き抜けば,すぐには代替要員の確保ができず,取引先からの需要に応ずることも難しくなるなど,直ちに原告の業務に重大な支障をきたすことは明らかである。 以上のとおり,被告社員らの一斉移籍が直ちに原告の存亡に影響を及ぼすことを充分認識しながら被告社員らの一斉移籍を謀った被告らの行為は,社会的相当性を逸脱するものであり,不法行為(民法709条)に該当する。また,被告A及び被告社員らは,原告在籍中に,原告の全データを持ち出したり,原告の信用を貶める行為を行いつつ,原告の営業を不能ならしめる態様にて被告会社への移籍を謀ったものであり,雇用契約上の債務不履行にも該当する。 (被告らの主張) 原告の主張を争う。 被告社員らは,説明なしに平成14年1月から給料を1割減額され,しかも,当初はこの減額は3か月程度の期間限定ということであったが,後に無期限とされたこと,平成14年夏の賞与はなく,同年冬の賞与も10数万円程度であり,これらの支給なし等の連絡が支給日の2,3日前になって初めて通告されたこと,さらに,平成15年3月ころ,給料の2割減額を通告されたこと,同じころ,原告が,各社員にかけていた保険の解約返戻金をもって社員に対する同年4月分の給料の代わりとするとして,当該各保険を解約したこと,数年前から原告の経営状況が悪化していたにもかかわらず,原告代表者が明確な経営方針を持たず,有効な業績回復の手段を講じてこなかったことなどから,原告の先行きに不安を感じ,それぞれ個々の判断に基づき,自分自身の将来を考えて原告を退職し,被告会社に入社したのであり,決して結託して転職したのではない。 (3) 争点(3)(虚偽事実の告知流布)について (原告の主張) 被告Aは,平成15年3月以前より,被告会社に対し,原告の経営に関して,財務内容が悪く危機的状況にあるかのように吹聴した。また,被告らは,被告A及び被告社員らが被告会社に一斉移籍し,原告の顧客を奪うことを企図し始めたころ以降,原告の主要顧客であったAJECをはじめとする顧客,下請先等に対し,原告の財務内容が極めて悪く,あたかも破綻寸前の状況にあるかのように吹聴した。 以上のとおり,被告らは,虚偽の事実を流布して原告の信用を毀損しており,上記行為は,不正競争防止法2条1項14号及び不法行為(民法709条)に該当する。また,被告A及び被告社員らが原告在籍中に行った上記行為については,雇用契約上の債務不履行にも該当する。 (被告らの認否) 原告の主張を争う。 (4) 争点4(原告の損害額)について (原告の主張) ア 被告らの前記違法行為により,原告は特定の顧客(AJEC,日本テトラパック株式会社,株式会社サンコー,クノール食品株式会社,明治乳業株式会社)に対して全く営業活動ができなくなり,上記顧客について原告の平成15年度の新規売上がゼロとなった。この売上減少分は,被告らの違法行為に基づく原告の損害である。 イ 被告らの一斉引き抜き・移籍行為により,原告の技術関係部門の人材が奪われたが,専門的知識・技能を有する人材の育成には長期間を要し,かつ,業界内の人材の移動も活発でないため,技術関係部門の社員を失った場合には,代替人材の確保及び従前の営業体制の回復に相当な時間を要する。原告が,従前と同等の技術関係部門の状態を回復させ,奪われた顧客との取引関係を取り戻すために要する期間は5年を下らない。 ウ したがって,過去3年間の平均的粗利益より算定した別紙計算書(注:訴状訂正の上申書の別紙)のとおり,原告は,5年分の逸失利益として,少なくとも5億2998万1351円の損害を被ったものである。 よって,原告は,被告らに対し,上記損害の一部として1億円の損害賠償を請求する。 (被告らの認否) 原告の主張を争う。 |
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当裁判所の判断
1 争点1について (1) 原告は,被告らが原告の営業秘密である本件情報を不正な手段により取得し,また,これを違法に削除したと主張する。 しかしながら,本件情報は,別紙データファイル目録記載のとおり,コンピュータの画面上のフォルダ名及びファイル名によって特定されているにすぎず,原告が本件情報のサンプルとして提出する甲18(枝番を含む。以下同じ。)を除いては,証拠上,その個々の内容がいかなるものであるかは全く不明である。 したがって,原告の上記主張は,その前提となるべき営業秘密の内容が特定されていないから,主張自体失当というべきである。 なお,原告が本件情報のサンプルであるとして提出した前記甲18は,多数の図面からなり,完成した味の素川崎工場の制御盤図及びラダープログラム図面と認められるが,これらの各図面について,不正競争防止法2条4項にいう営業秘密の要件である有用性及び非公然性が存することは,原告の主張自体からも不明というほかないから,営業秘密であると認めることはできない。したがって,甲18を前提としても,原告の上記主張は理由がない。 (2) 以上のとおりであるから,原告の主張のうち,本件情報が営業秘密であることを前提とするものは失当であるが,この点を別とし,仮に本件情報が,原告の主張する顧客の工場における制御盤その他のシステム等に関するデータ一般であると解したとしても,以下に述べるとおり,これが営業秘密であるとは認められない。 すなわち,証拠(乙5)及び弁論の全趣旨によれば,原告が顧客から工事を受注した場合,原告社員は,原告から貸与を受けたパソコンを使用して業務遂行のためのデータやプログラム等のファイルを作成すること,原告社員の使用するパソコンは,社内LANを構築しており,完成したデータ等のファイルは最終的にはサーバーに保存されるが,作成途中のファイルは各自のパソコンに保存されること,各自のパソコン及びサーバーは,被告Bの使用していたパソコンを除き,パスワードが設定されておらず,社員の誰もが各自のパソコン及びサーバーに保存されたファイルにアクセス可能であったこと,各自のパソコン及びサーバーには種々のファイルが保存されていたが,営業秘密となるべきファイルとそうでないファイルとは,保存の場所,名称の付し方などにより明確に区別し得るように保存されていなかったこと,以上の事実が認められ,これらの事実によれば,本件情報が上記のようなシステム等に関するデータ一般であると解したとしても,これが秘密として管理されていたものと認めることはできない。 したがって,本件情報は,不正競争防止法2条4項にいう営業秘密であるとは認められない。 (3) 以上によれば,被告らが原告の営業秘密を不正に取得し,削除したことを理由とする原告の不正競争防止法3条に基づく差止請求及び同法4条に基づく損害賠償請求は,その余の点につき判断するまでもなく,理由がない。 また,同様に,本件情報が原告の営業秘密であることを前提とする原告の不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求も,その前提を欠き,理由がない。 2 争点2(一斉引き抜き行為)について (1) 原告は,前記第2の3(2)(原告の主張)ア@ないしGの事実(以下「原告主張移籍事実」という。)から,被告会社は,遅くとも平成14年末には被告Aと共謀し,被告A及び被告社員らの引き抜きを画策し,被告Aが被告社員らをそそのかして一斉に移籍させたことが推認できると主張する。 (2) 証拠(甲15ないし17)及び弁論の全趣旨によれば,Gから被告Aに対し,平成15年2月25日及び同年3月17日,「川崎メンテ対応の件」及び「イビデンフランス要員派遣の件」と題する電子メールが送信されたこと,被告代表者から被告Aに対し,同年3月13日,「お礼とお願い」と題する電子メールが送信されたこと,被告Fが被告B,被告D及び被告Cに対し,同年4月11日,「源泉徴収書(最近)と給料明細書(カット前,カット後)を用意をして下さい」という内容の電子メールを送信したこと,平成15年4月7日,Gが原告代表者と会談した際,Gが原告代表者に対し,被告Aが再就職先の選択肢の一つとして被告会社を考えてくれることはうれしいことであり,入社の意思がされば働きかけたい旨話したこと,被告Cは,平成15年4月15日ころ,被告会社に就職することを原告の社員に話したこと,被告Cは,平成15年4月28日ころ,被告会社に入ったらフランスに行くかもしれないと話したこと,以上の事実が認められる。 (3) 原告は,原告主張移籍事実が存在した旨主張し,原告社員Jの陳述書(甲20,42),同Kの陳述書(甲21)及び原告代表者の陳述書(甲22)には上記主張に沿った記載部分があるが,これを裏付けるに足りる客観的な証拠はない。かえって,被告取締役Gの陳述書(乙4)及び被告Aの陳述書(乙5)のみならず,原告の従前の取引先であったAJECの取締役であるIの陳述書(乙1)及び同社社員Hの陳述書(乙2)にも,上記主張に反する記載が存することに照らすならば,前記各甲号証の記載部分により,前記(2)に認定した以上に原告主張移籍事実を認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 (4) 前記(2)認定の事実を総合しても,被告会社が遅くとも平成14年末には被告Aと共謀し,被告A及び被告社員らの引き抜きを画策し,被告Aが被告社員らをそそのかして一斉に移籍させた事実を推認することはできず,他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。 (5) 以上によれば,被告らが共謀し,被告A及び被告社員らを被告会社に一斉に引き抜き,これが社会的相当性を欠く不法行為又は債務不履行に当たることを理由とする原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 3 争点3(虚偽事実の陳述流布)について (1) 原告は,被告Aが平成15年3月以前より,被告会社に対し,原告の経営に関して,財務内容が悪く危機的状況にあるかのように吹聴し,その後,被告らが原告の主要顧客であったAJECをはじめとする顧客,下請先等に対し,原告の財務内容が極めて悪く,あたかも破綻寸前の状況にあるかのように吹聴したと主張し,前記甲21及び22には,上記主張に沿った記載部分があるが,前記同様,これを裏付けるに足りる客観的な証拠はなく,また,上記主張に反する前記乙1,2及びAJEC社員Lの陳述書(乙3)などに照らすならば,前記甲号証の記載部分により,直ちに上記主張に係る事実を認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 (2) 以上によれば,被告らが共謀して原告の信用を毀損する虚偽の事実を陳述流布したことを理由とする原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 4 結論 以上の次第で,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
別紙データファイル目録1平成15年4月6日,被告Fが原告から貸与されていたパーソナルコンピューターにコピーされた別紙1ファイルフォルダの全て2平成15年4月13日,被告Dが原告から貸与されていたパーソナルコンピュータにコピーされた別紙2ファイルフォルダのうち,下線を引いて示したデータファイルの全て(別紙1「ファイルフォルダ」,別紙2「ファイルフォルダ」及び別紙「陳述目録」省略)計算書 |
裁判長裁判官 | 清水節 |
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裁判官 | 榎戸道也 |
裁判官 | 一場康宏 |