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事件 昭和 57年 (ワ) 11358号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1990/08/31
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 被告は、「株式会社アール・エフ・ラジオ日本」の商号を使用してはならない。
2 被告は、「ラジオ日本」の略称を使用してはならない。
3 被告は、「株式会社アール・エフ・ラジオ日本」の商号変更登記の抹消登記手続をせよ。
4 被告は、原告に対し、五〇〇万円及びこれに対する昭和五七年九月二一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は、被告の負担とする。
6 3項を除き仮執行宣言二 訴求の趣旨に対する答弁 主文同旨
当事者の主張
一 請求の原因1(一) 原告は、昭和二九年四月二三日の設立時から、営業表示として、「株式会社ニッポン放送」の商号(以下「原告商号」という。)及び「ニッポン放送」の略称(以下「原告略称」という。)を使用している。
(二) 原告は、会社設立時から、普通には、原告略称を使用しており、これをラジオ放送、新聞紙上広告、番組表、社内文書などに使用しているものである。
(三) 原告は、放送法による一般放送事業を目的とする株式会社であるが、専ら、ラジオ放送を業としており、ラジオ放送を専業とする会社としては日本最大の規模を有し、売上高は昭和五九年度において約二五六億円、従業員は約二八〇人、
放送出力は一〇〇キロワット、放送区域は関東地方及びその周辺の静岡、山梨、長野、新潟、福島の各県の一部、同区域内の世帯数は約一一五三万世帯である。
(四) よって、原告商号及び原告略称は、いずれも原告の営業表示として日本国内において広く認識されている。
2(一) 被告は、昭和三三年八月一五日に設立された株式会社であって、当初の商号は「株式会社ラジオ関東」(以下「旧商号」という。)であったが、昭和五六年八月二五日、「株式会社アール・エフ・ラジオ日本」の商号(以下「被告商号」又は「新商号」という。)に変更し(以下「本件商号変更」という。)、同月二七日その登記をした。
(二) 被告は、営業表示として、当初、「ラジオ関東」の略称(以下「旧略称」という。)を使用していたが、本件商号変更時から、「ラジオ日本」の略称(以下「被告略称」又は「新略称」という。)を使用している。
3 原告略称と被告略称とは、次のとおり類似している。
(一)(1) 原告略称のうち、「放送」の語は、原告の営業がラジオ放送である以上、ラジオ放送を意味し、「ニッポン」の語は、原告の営業区域が日本全国にまたがっていることを意味する。
(2) 原告は、ラジオ放送のみを業とする会社であることを強調するために、昭和三五、六年ころから、「ラジオのニッポン放送」「ラジオはニッポン放送」「ラジオはダイヤル一二四二、ニッポン放送」という宣伝文句を、ラジオ放送にはもちろんのこと、広告等にも毎日使用し、このような宣伝文句も、日本国内において広く認識されている。また、原告は、数十年間、専ら、ラジオ放送を業としており、
テレビ放送に関係したことは全くないから、この点でも、右「放送」の語がテレビ放送の観念を含むことはない。
(二)(1) 被告略称のうち、「ラジオ」の語は、被告の営業がラジオ放送である以上、ラジオ放送を意味し、「日本」の語は、被告の営業区域が日本全国にまたがっていることを意味する。
(2) 被告は、ラジオ放送を業とするものであって、ラジオ機器を製造販売したことはないから、右「ラジオ」の語がラジオ機器の観念を含むことはない。
(三)(1) したがって、原告略称と被告略称とは、その観念において類似するから、類似の営業表示である。
(2) 不正競争防止法における営業表示について類否を判断するに際し、その要素となる観念とは、関係者が、現実に使用されている営業表示から具体的に抱く観念であって、「ラジオ」「放送」の語の有する一般的な観念ではない。原告略称と被告略称とは、このような具体的な観念において類似するものである。
4 原告商号と被告商号とは、次のとおり類似している。
(一) 原告商号の要部は、「ニッポン放送」である。
(二)(1) 被告商号の要部は、「ラジオ日本」である。
「アール・エフ・ラジオ日本」の部分は、冗長であり、「ラジオ日本」が与える印象に比べ、その印象は弱いので、要部とはならない。
(2) 被告は、本件商号変更を行うに当たって、「株式会社ラジオ日本」を新商号に内定したが、その後の郵政省との折衝の際に行政指導を受け、被告商号に最終決定した。しかるに、被告は、右の最終決定にもかかわらず、その後、被告の営業表示として「ラジオ日本」の宣伝広告に努めた。このような商号変更の経緯及び被告の宣伝広告によっても、被告商号のうち「アール・エフ」の部分は、重要性のない部分であって、要部ではなく、要部は、あくまで「ラジオ日本」であるということができる。
(3) 被告は、被告商号の使用を開始した昭和五六年一〇月一日、「ラジオ日本誕生記念特別番組」と銘打って、「決定的瞬間ラジオ日本誕生」と題する番組を五時間にわたって放送し、更に、「決定的瞬間ラジオ日本誕生」と大書した新聞広告、車両の中吊り広告、駅貼ポスターを作成し、「ラジオ日本」の宣伝広告に努めた。その後、被告は、その放送においても、放送の主体を告げる場合、専ら、「ラジオ日本」と告知し、その度数は毎日平均二〇〇回に及んだ。これを受けて、新聞も、その記事又はラジオ番組欄に「ラジオ日本」を被告の略称として使用しており、被告の取引先をはじめとして世人も、被告を呼ぶのにこの表示を使用している。したがって、被告が旧商号の要部である「ラジオ関東」に代えて使用を意図した部分は、被告商号の「ラジオ日本」の部分であり、現にそのように使用されているのである。このような点からみても、被告商号の要部は、「ラジオ日本」である。
(三) 原告商号及び被告商号の各要部は、それぞれ前述のとおり原告略称及び被告略称と同一であるから、両商号は、両略称が類似するのと同様の理由により類似する。
5 原告の営業上の施設又は活動と被告のそれとは、混合のおそれがある。
(一) 被告商号及び被告略称は、原告商号及び原告略称に類似しており、しかも、被告の営業は、ラジオ放送であって、原告の営業と同一であるから、被告が被告商号及び被告略称を使用して営業活動をすると、被告の営業上の施設又は活動が、原告の営業上の施設又は活動と混同するおそれがある。
(二) 被告の放送出力は、昭和五六年八月二五日までは三〇キロワットであり、
その放送区域も、神奈川県とその周辺の数県にすぎなかったが、同日の本件商号変更と同時に出力を五〇キロワットに増強し、放送区域は、関東地方と山梨、静岡、
長野各県に拡大した。かくして、原告と被告の放送区域は、現在ではほとんど重複するに至った。
(三) 一般の聴取者は、ラジオのダイヤルを回して、好みに会った放送を選んで聴取するのであり、各放送局の番組も独自性を持ったものは少ないから、放送の内容によってどの放送局の番組であるかを識別することは困難である。聴取者は、放送中に流される放送局名によってはじめて放送局を識別しているのである。
(四) 混同の実例を挙げると、次のとおりである。
(1) ラジオ放送の聴取者が被告に宛てた郵便物で、原・被告の混同により原告に誤配されたものは、当初原告が被告に転送したものを除いても、数百通に及んでいる。郵便局員の集配ミス、番組内容の誤認及び住所の誤認は、すべて原・被告の混同により生じたものである。被告が旧商号を用いていたときには、原告と被告との間において、同様の誤配は存しなかったし、また、原告と被告以外の放送局との間においても、本件商号変更の前後を通じ、同様の誤配は存しない。これは、右誤記の原因が、原・被告の商号及び略称が類似することに起因する混同にあることを示すものである。誤配された葉書の中には、放送局名を「ラジオ日本放送」とするものがあるが、これは、原・被告の商号及び略称が極めてまぎらわしく混同が生じていることを示している。
被告の発信区域外からの誤配郵便物は、発信区域外の地方放送局も被告略称を放送している以上、原・被告の略称が類似し、混同が生じていることによるものである。また、被告の発信区域外の居住者も、ドライブ等で同区域内に移動して被告放送を聴取することもあり、その点において混同の主体たりうる。更に、被告の放送番組である「ジャイアンツ情報」は、生ネットで各地方局においても放送しており、クイズ等の応募先として「ラジオ日本ジャイアンツ情報係」と放送しているから、同番組に宛てた郵便物も、原・被告の混同により、原告に誤配されているのである。
(2) 聴取者が、被告の番組を聞き又は聞こうとして、これを原告の番組と混同し、原告に電話を掛けてくるという間違い電話が数多くある。間違い電話のうち、
相手を確認しうる例は、稀であり、また、確認することができても、それが総務部に報告されるとは限らないから、報告された例は、実際の間違い電話のごく一部にすぎない。
(3) 報知新聞は、昭和五六年一一月二日付及び昭和五七年一二月一七日付各紙上のラジオ番組欄で、原・被告の番組を混同して、「ニッポン放送」名下に被告の番組を、「ラジオ日本」名下に原告の番組を掲載し、東京新聞及び東京中日スポーツ紙も、昭和六〇年三月七日付紙上において同様の混同をした。
番組表をラジオ番組欄の所定の場所に割り付ける際、番組表の冒頭に放送局名が大きく付されており、この放送局名によって割り付けられるのであるから、右の混同は、割付作業をした者が原・被告を間違えたことによるものであって、右の報知新聞の当日の第六版及び第七版に生じたミスにしても、機械的ミスによるものとは考えられない。このことは、この種の番組欄の誤りが、原・被告の間にのみ生じ、
他の放送局の間には生じていないことからも明らかである。
(4) 横浜市教育委員会及び横浜私立小学校長会は、昭和五六年一〇月三〇日、
合同体育大会を開催したが、開催に先立ち、同委員会から、参加各小学校に対し、
雨天の際実施するか否かについては「ラジオ日本」の放送で確認するようにとの指示を与えたのに、六ツ川小学校では、原・被告を混同し、「ラジオ日本放送」の放送で確認するようにとの注意書を作成し、同校六年生の児童に配付したため、原告放送か被告放送か区別が付かず、混乱が生じた。
(5) 埼玉県牛乳普及協会は、昭和五六年一一月ころ、広告代理店を通じてスポット広告放送を申し込む際、原・被告を混同し、原告に申し込むつもりで被告に申し込んだ。
埼玉県牛乳普及協会事務局長の【A】は、右広告依頼当時、商号に「にっぽん」の付くラジオ放送は原告のみであると信じていたので、「ラジオ日本」と告げられても、原告のことであると信じて疑わなかったのである。
6 原告は、次のとおりその営業上の利益を害されるおそれがある。
(一)(1) 原告は、昭和二九年四月に設立され、専ら、ラジオ放送を業として今日に及んでいるが、その間全国のラジオ放送局との間にネットワークを結び、ラジオ放送を専業とする会社としては、日本最大の規模を誇るに至り、聴取率は全国首位であり、営業収入も毎年首位の好成績を挙げている。このような好成績を挙げているのは、一に放送番組を厳選し、聴取者の好評を博した結果であり、また、スポンサーの選択にも、常に注意を怠らないからである。そのため、原告は、全国の聴取者をはじめとして取引先からも絶大な信用を獲得しており、その名声も全国に及んでいるのである。
(2) これに対して、被告は、昭和三三年八月に設立され、専ら、ラジオ放送を業とするものであるが、横浜市に本社を置くローカル放送局であって、野球と競馬の実況放送で知られている。被告は、他の放送局とネットワークを組んではいても、十局程度であって、それも野球放送が主である。そのため、被告は、その聴取率をみても、電波広告料金をみても、原告とは比較にならず、売上高も原告の五分の一程度にすぎない。
(3) したがって、原告と被告とは、放送局としての格が違い、その営業上の信用名声において格段の差があるのであって、原告が被告と混同されると、原告は、
永年費やして築き上げた営業上の信用名声を毀損されるおそれが大きい。特に、被告は、スポンサーの選択にも十分な注意を払わず、株式会社ユージーコーポレーション、株式会社アイペックのようないかがわしい販売方法を採っている会社をスポンサーとし、そのため、これら会社は、原告と被告とが混同されやすいことを利用して、原告のスポンサーであるかのように振る舞い、原告の信用と名声を著しく傷付けた。
(4) ラジオ放送事業は、聴取者があってはじめて成り立つものであり、その土台の上に、ラジオ放送を広告媒体として利用しようとするスポンサーが生まれるのである。ラジオ放送局にとって最も大切なのは、聴取者から得た営業上の信用名声である。
(二) 郵便物の誤配や間違い電話、苦情や問合せの到来、混同を防止するための対策として従業員を増員するための出費などによって、原告は、営業活動の平穏が阻害されるとともに、不要な出費を余儀なくされている。
(三)(1) 聴取者が、混同によって、ある放送局の放送を聞かないというようなことが起これば、その放送局の聴取率は減少し、それは、直ちにスポット広告のスポンサーの減少という結果を招来し、ひいては、一般放送のスポンサーの減少という結果を招来する。
(2) 放送局のスポンサーは浮動的なものであって、一般聴取者の中にも将来スポンサーとなる者が潜在しているから、一般聴取者が被告を原告と混同するというようなことが起これば、原告は、将来スポンサーを失うおそれがある。
(3) 放送事業者は、聴取者を増やすための宣伝として、イベントと呼ばれる興業を催すが、この場合には、入場料を直接放送事業者に支払うので、正に取引者に当たる。したがって、聴取者が被告を原告と混同することにより、原告は、営業上の利益を害されることになる。
(四) 原告は、その作成番組をネットワークを組んでいる地方の放送事業者に売り渡すことがあり、その代金は、直接地方の放送事業者から受け取るのである。この場合には、地方の放送業者が取引者となるが、聴取者が原、被告を混同することにより、原告は、番組販売先を喪失するおそれがある。
7 原告は、被告の混同行為により、次の損害を被った。
原告は、被告の混同行為差止めを求めるためには、訴訟を提起するよりほかに途はないが、この種の訴訟は、その主張立証が難しく、弁護士に訴訟を委任せざるをえないので、原告訴訟代理人に本件訴訟を委任し、本件訴訟の着手金として、原告訴訟代理人に五〇〇万円を支払った。この金額は、日弁連報酬等基準規定の範囲内のものであって、相当な額であり、したがって、この出費は、原告の損害というべきである。
8 よって、原告は、被告に対し、不正競争防止法1条1項2号の規定に基づき、
被告商号及び被告略称の使用の差止め並びに被告商号の商号変更登記の抹消登記手続を、同法1条の2第1項の規定に基づき、損害賠償金五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五七年九月二一日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求の原因に対する認否1(一) 請求の原因1(一)の事実は認める。
(二) 同1(二)のうち、原告が原告略称を使用することがある事実は認め、その余の事実は知らない。
(三) 同1(三)のうち、原告の放送区域内の世帯数は知らないが、その余の事実は認める。
(四) 同1(四)の事実は否認する。
(五) ネットワーク先の各地方において、放送主体として営業しているのは、当該地方を放送区域とする各地方放送局である。ネットされた番組においては、ネットワーク先の各地方放送局が、放送主体として自局の呼出符号、呼出名称を必ず放送するのであり、ネットワークを行う原告の名称が、放送主体として放送されることはない。原告のネットワーク先では、各地方の新聞のラジオ番組欄に、原告の名称は、記載されていない。したがって、ネットワーク先の各地方において、原告商号及び原告略称は、周知ではない。
2 同2の事実は認める。
3(一)(1) 同3(一)(1)のうち、原告の営業がラジオ放送である事実は認め、その余の事実は否認する。「放送」の語は、ラジオ放送のみならず、テレビ放送等をも含む広い概念を有するものであり、また、「日本」の語も、放送区域を表すものに限られないのであって、これらの語から、原告主張の観念が直ちに生ずるものではない。
(二) 同3(一)(2)の事実のうち、「放送」の語がテレビ放送の観念を含むことはないとの事実は否認し、その余の事実は知らない。
(二)(1) 同3(二)(1)の事実は否認する。「ラジオ」の語は、ラジオ放送のみならず、ラジオ機器の意味も有する。
(2) 同3(二)(2)のうち、被告がラジオ放送を業とするものであって、ラジオ機器を製造販売したことはないとの事実は認め、その余の事実は否認する。
(三)(1) 同3(三)の事実は否認する。
(2) 営業表示における観念とは、これに接する者誰もが、一見して直ちに、一定の意義として自然発生的に抱く観念をいう。原告略称は、日本国たることを示す「ニッポン」の語と、ラジオ放送及びテレビ放送等の放送を示す「放送」の語とが結合してなる造語であり、他方、被告略称は、ラジオ放送あるいはラジオ機器を意味する「ラジオ」の語と、日本国たることを示す「日本」の語とが結合してなる造語である。このように、両者は、いずれも造語であって、一見して直ちに、一定の意義としての特定の観念を生じない。両者に接する者は、「ニッポン放送」、「ラジオ日本」という一つのまとまった一連の表示としてこれらを理解するだけであり、特別の観念を抱かないから、両者においては観念類似を論ずる余地はなく、
両者は、観念において類似しない。
(3) 両略称は、ともにごく普通の一般に用いられる用語から構成され、これら用語の広い観念を共通にするものであるが、このような場合に観念類似を認めると、必要以上に被告の自由を拘束することになって妥当ではなく、観念非類似とされるべきである。
(4) 営業区域が日本全国にまたがっているとの観念は、原、被告によって提供されるサービス自体を示す観念であるから、これを原告が独占することは許されない。
(5) 両略称は、外観、称呼においても全く相違する。
4(一) 同4(一)の事実は認める。
(二)(1) 同4(二)(1)の事実は否認する。被告商号の要部は、「アール・エフ・ラジオ日本」であって、「ラジオ日本」ではない。
(2) 同4(二)(2)のうち、被告が、本件商号変更を行うに当たって、「株式会社ラジオ日本」を新商号に内定したが、その後の郵政省との折衝の際に行政指導を受け、被告商号に最終決定した事実は認め、その余の事実は否認する。商号の要部は、現実の使用態様により決まるものであり、被告の主観的意図とは関係がない。
(3) 同4(二)(3)のうち、被告が、被告商号の使用を開始した昭和五六年一〇月一日、「ラジオ日本誕生記念特別番組」と銘打って、「決定的瞬間ラジオ日本誕生」と題する番組を五時間にわたって放送し、更に、「決定的瞬間ラジオ日本誕生」と大書した新聞広告、車両の中吊り広告、駅貼ポスターを作成し、「ラジオ日本」の宣伝広告に努め、その後、被告は、その放送においても、放送の主体を告げる場合、専ら、「ラジオ日本」と告知し、その度数は毎日平均二〇〇回に及び、
これを受けて、新聞も、その記事又はラジオ番組欄に「ラジオ日本」を被告の略称として使用しており、被告の取引先をはじめとして世人も、被告を呼ぶのにこの表示を使用している事実は認め、その余の事実は否認する。
(三) 同4(三)の事実は否認する。
5(一) 同5(一)のうち、被告の営業が、ラジオ放送であって、原告の営業と同一である事実は認め、その余の事実は否認する。
(二) 同5(二)の事実は認める。
(三)(1) 同5(三)の事実は否認する。
(2) ラジオ放送においては、放送局ごとに放送周波数が特定されており、聴取者は、特定の周波数の放送局を選局して、ラジオ放送を聴取している。しかも、これら放送局は、独自の番組編成を行っており、その番組内容は毎朝夕の新聞等に掲載され、聴取者は、これら記事も参照のうえ放送局を選択するのである。したがって、聴取者が、原、被告の間において営業主体を混同するようなことは、およそありえないことである。
(3) 聴取者は、単に放送のサービスを受けるものであり、放送事業者と取引関係に立つものではないから、不正競争防止法にいう混同の主体たりえない。
(四) 同5(四)の事実は否認する。
(1) 原告に郵便物が誤配された原因は、聴取者又は郵便局員が原、被告を混同したためではなく、郵便局員の集配ミス、番組内容の誤認、住所の誤認、単純な記載ミス等、一般の誤配と同一の原因によるものである。原告主張の誤配例中にも、
宛先番組が原、被告以外の放送局のものや放送局不明のものが少なくないのは、その証左である。また、被告が旧商号を用いていたときにも、被告と原告との間において同様の誤配が存したし、被告と原告以外の放送局との間においても、本件商号変更の前後を通じ、同様の誤配が存したのである。これは、被告の現商号の下において存する右誤配の原因が、原、被告の商号及び略称と関係ないことを示すものである。更に、聴取者が放送局に宛てて発送するこの種の郵便物の量に鑑みれば、右の誤配率は、〇・〇〇三%にすぎず、極めて低率であるから、この程度の混同例により、混同のおそれがあるとは認められない。更にまた、原告主張の混同例中には、放送局名を「ラジオ日本放送」とするものがあるが、これは、原、被告のいずれの略称でもない以上、混同例とはいえない。
なお、被告発信区域外からの誤配郵便物は、そもそも混同を証する資料足りえない。すなわち、当該地方放送局は、被告略称を放送していないのであるから、本訴において問題とすべき混同とは関係がないのである。被告発信区域外の居住者が、
ドライブ等で同区域内に移動して被告放送を聴取することがあっても、そのような聴取者は、もともと原、被告の略称に対する知識を欠くので、混同は生じえないのである。被告の放送番組である「ジャイアンツ情報」については、クイズ等の応募先として「お聞きの放送局へ」と放送するのみで、被告略称を放送していないから、同番組に宛てた郵便物に関しては、誤配があっても、被告略称とは関係がない。
(2) 原告主張の間違い電話は、昭和五七年一二月ないし昭和五八年九月までの一〇月間にわずか一四件、昭和五八年一〇月以降は皆無であるが、原告には一日二〇〇〇件の電話が掛かるのであるから、この間違いは、およそ問題にならない数である。また、その内容をみても、原、被告は区別していても、単純なミス等で掛け違えたもの、通話したい個人の帰属会社を誤認したものなどであり、これらは、
原、被告を混同したことによる間違いとは到底認められない。
(3) 原告主張のラジオ番組欄の誤りは、原、被告の混同によるものではなく、
番組表を所定の箇所に割り付ける際の機械的ミスによるものである。番組表は、割付けを行う際、放送局名は付されておらず、コード番号表により割り付けられるから、放送局名により原、被告の混同が生ずることはありえない。
原告の主張する報知新聞のミスは、当日の第六版及び第七版に生じ、同日付の第五版には生じていないのであるが、かかる誤りが原、被告の混同によるものであるとすると、同時に作成される複数の版のうち、その一部についてのみミスが生じるということは、およそ考えられないことである。同種のミスは、原、被告以外の放送局間においても生じているのであって、このようなミスは、機械的ミスによるものであることが明らかである。
(4) 六ツ川小学校の担当者は、「ラジオ日本放送」という、原、被告のどちらの名称でもない名称を注意書に記載したというのであって、原、被告を混同したものではない。
(5) 埼玉県牛乳普及協会の【A】事務局長は、被告にスポット広告を依頼した際、原告と混同して依頼したのではなく、被告である旨を明確に確認したうえ、依頼したものである。同人は、その一年後、広告代理店の担当者から、被告のほかにニッポン放送という放送局もあると説明を受け、原、被告を認識したうえ、今度は原告に依頼したものである。
6(一)(1) 同6(一)(1)の事実は知らない。
(2) 同6(一)(2)のうち、被告が昭和三三年八月設立され、専ら、ラジオ放送を業とし、横浜市に本社を置く事実は認め、その余の事実は否認する。
(3) 同6(一)(3)の事実は否認する。
(4) 同6(一)(4)の事実は認める。
(二) 同6(二)の事実は否認する。
(三) 同6(三)の事実は否認する。
(四) 同6(四)のうち、原告が番組販売先を喪失するおそれがあることは否認し、その余の事実は認める。ただし、番組を買い受ける地方放送局が、原、被告を混同することはありえないから、地方放送局は、混同の主体たりえない。
7 同7の事実は否認する。
三 被告の主張 被告商号及び被告略称は、以下の事実に鑑みれば、原告商号及び原告略称と混同するおそれはない。
1(一) 被告は、昭和三三年一二月開局以来、本件商号変更に至るまで二三年間、旧商号及び旧略称を使用してきた。被告は、本件商号変更時である昭和五六年当時、資本金五億円、売上高四三億円に達していた。また、被告は、この二三年間、関東一円に配達された日刊紙、スポーツ紙等のラジオ欄に、旧略称のもとに被告の番組を掲載し、放送中も「ラジオかんとう」の呼出名称を放送してきた。したがって、旧商号及び旧略称は、本件商号変更当時、被告の営業表示として、既にその放送区域内において周知であった。
(二)(1) 被告は、新商号を公募によって決定することとし、次のとおり新商号の公募をした。
イ 自社の放送の中で、昭和五六年七月一日から同月一九日までの間、一日約一〇回、合計一八四回にわたって新商号を公募する旨告知した。
ロ 同月一三日付「電通報」に、広告業界への告知として、一頁の公募広告を掲載した。
ハ 同月一六日付東京タイムスのラジオ・テレビ欄に、公募広告を掲載した。
ニ 被告会社編成部発行の「ラジオ関東週間トピックス」に、公募内容を掲載し、
配布した。
(2) 被告が新商号を賞金五〇〇万円で公募したことは、当時、ニュース性を持つ記事として、読売新聞、東京中日スポーツ、日経流通新聞、電波タイムス、報知新聞、週刊サンケイ、週刊現代等に掲載された。
(3) 被告は、新商号の決定後、これを次のとおり告知広告した。
イ 昭和五六年八月二五日、NHKのラ・テ記者クラブにおける記者会見により発表した。
ロ 商号変更の挨拶状を、新聞社、代理店、スポンサー等に五〇〇〇部配布した。
ハ 被告発行の「ラジオ関東週間トピックス」に掲載し、配布した。
ニ 自社の番組の中で、同年九月一一日以降一日約一五回、新商号に変更する旨を告知し、同月三〇日は、一時間に一回、翌日から新商号に変更する旨を告知した。
ホ 新聞、業界紙のラジオ・テレビ欄の番組枠の社名変更をするために、テレビ・ラジオ記者会加盟一三社、東京放送記者会加盟一六社等に、「社名変更に伴うお願い」と題する文書を配布した。
(4) 被告が、新商号を決定し、本件商号変更をすることは、読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、東京新聞、サンケイ新聞、日本経済新聞、報知新聞、東京タイムズ、デイリースポーツ、サンケイスポーツ等に、報道記事として掲載され、特に、
読売新聞は、昭和五六年九月五日付特集記事で、本件商号変更を取り上げた。
(5) 被告は、昭和五六年一〇月一日以降、次のとおり、本件商号変更の宣伝広告を行った。
イ 新聞掲載新聞 読売新聞、毎日新聞、東京タイムズ、報知新聞、スポーツニッポン、日刊スポーツ、電通報掲載日 昭和五六年一〇月一日サイズ 全段広告ロ 駅貼ポスター枚数 国鉄一二二枚、営団地下鉄五二枚、都営地下鉄五八枚、小田急三五枚、京王線五二枚、東急八八枚、西武四八枚、京浜急行四一枚、東武四四枚、京成六二枚、
相模線三二枚、合計六三四枚掲載期間 昭和五六年一〇月一日ないし同月七日サイズ 一・三m×七三cmハ 車両の中吊り広告枚数 国鉄一四九四〇枚、首都圏国電三九四〇枚、地下鉄銀座線九七〇枚、地下鉄丸の内線九五〇枚、都営地下鉄一五六〇枚、東急二七〇〇枚、小田急一三〇〇枚、
京王線一二〇〇枚、京浜急行一八六〇枚、東武線二八八〇枚、東上線一五三〇枚、
京成一二〇〇枚、新京成四二〇枚、西武両線一九六〇枚、横浜地下鉄四八〇枚、相模鉄道九九〇枚、合計三八八八〇枚掲載期間 昭和五六年一〇月一日ないし同月七日サイズ 三六cm×一・三cmニ テレビ使用局 日本テレビ、TBS、テレビ朝日、テレビ東京本数 一五秒スポットを各社二一本、合計八四本期間 昭和五六年一〇月一日ないし同月七日ホ ラジオ使用局 TBS本数 二〇秒スポットを計七〇本期間 昭和五六年一〇月一日ないし同月七日ヘ 自社の特別番組昭和五六年一〇月一日に、本件商号変更を記念する特別番組を、午後一時から五時間にわたり放送した。
(6) 以上の広告宣伝費は、懸賞金一〇〇〇万円を含め、総額一億円を超えるものであった。
(7) 被告が本件商号変更を行ったことは、重ねて一般報道記事として、日刊スポーツ、スポーツニッポン、サンケイスポーツ、デイリースポーツ、東京中日スポーツ紙等に掲載された。
(8) 昭和五六年一〇月一日の読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、日本経済新聞、
東京新聞、神奈川新聞、東京タイムズ、報知新聞、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、デイリースポーツ等の各新聞のラジオ番組欄に、被告番組の表示として、一斉に新略称が使用され、以後、毎日、各新聞のラジオ番組欄に同表示が使用されている。
(9) 被告は、懸賞金一〇〇〇万円の当選者を被告発行の「RFラジオ日本週間トピックス」に掲載し、配布したほか、昭和五六年一一月二〇日付の読売新聞、毎日新聞及び報知新聞に、新商号の表示とともに、当選者発表の告知広告を行った。
(三) 以上に述べたとおり、被告は、周知であった旧商号及び旧略称を、新商号及び新略称に変更する旨強力に広告宣伝するなどして、これを広く知らしめたので、被告の新商号及び新略称は、その使用開始と同時に、旧商号及び旧略称の周知性を承継し、被告の営業表示として、被告の放送区域内において直ちに周知性を獲得した。
2(一) 放送法による一般放送事業は、電波法に基づく無線局の施設免許事業となっており、この施設免許は、主務官庁である郵政大臣の指定により与えられ、免許を受ける際には、電波の形式及び周波数、呼出符号又は呼出名称、放送出力、放送区域、運用許容時間がすべて郵政大臣の指定により定められる。東京地区における中波放送の民間事業者は、わずか四社であるが、これら四社は、指定放送区域について各自異なる周波数、呼出符号、呼出名称を郵政大臣から指定されて、この指定に基づいて放送事業を行っている。したがって、このような少数の営業主体間で混同が生ずることはありえず、また、スポンサー、聴取者等が、放送事業者を識別する際、これを周波数、呼出符号、呼出名称等のみによっても明確に識別することが可能になっている。
(二) 放送においては、無線局運用規則に基づき、一日の放送の開始及び終了に際し、自社の呼出符号又は呼出名称を放送しなければならず、また、放送時間中は、毎時一回以上自社の呼出符号又は呼出名称を放送しなければならないため、被告は、一日の放送の開始及び終了に際し、「アール・エフ・ラジオ日本」と、また、放送時間中にも、適宜、「アール・エフ・ラジオ日本」又は「ラジオ日本」と告知している。
(三) 放送事業は、放送を広く大衆に知らせることを目的とするものであり、毎日の新聞に放送局名が掲載され、自局放送でも局名を一日数百回放送するので、放送局名そのものが周知著名となる特異性を有する。
3 スポンサーは、放送局に宣伝広告の放送を依頼しようとするときには、通常、
特定の広告代理店を通じて依頼を行う。放送事業の実情を熟知している専門業者である広告代理店が、東京に四局しかない民間の中波放送局のうちの二局である原、
被告を混同するというようなことはありえない。また、広告代理店は、スポンサーとの取引に当たって、スポンサーに番組企画書及び番組表を示し、放送番組の内容、特色、独自性、放送料金等を説明する。そして、原、被告の放送料金は、価額体系を含め全く異なっている。スポンサーは、このような説明を広告代理店から受け、放送申込書に放送内容、放送日時、放送回数等を記載し、広告代理店を通じてこれを被告に提出するのであるから、スポンサーが原、被告を混同するようなことはありえない。
四 被告の主張に対する原告の反論1 被告の主張1について(一) 同1(一)について、仮に被告の旧商号及び旧略称が被告主張のとおり使用されてきたとしても、それが、本件商号変更当時、既に被告の放送区域内において周知であったという事実はない。
(二) 同1(二)及び(三)について 仮に被告が主張するような新商号の公募広告、公募の報道、新商号の告知広告、新商号の報道、本件商号変更の宣伝広告などが行われたとしても、被告の新商号及び新略称が、その使用開始と同時に、被告の営業表示として、被告の放送区域内において直ちに周知性を獲得したという事実はない。
2 同2について(一) 同2(一)について、放送事業の内容は、被告の主張するとおりであるが、そうであるからといって、四社間で混同が生ずることはありえないとはいえず、また、スポンサー及び聴取者等が、放送事業を識別する際、これを周波数、呼出符号、呼出名称等のみによっても明確に識別することが可能になっているともいえない。
(二) 同2(二)について 放送においては、無線局運用規則に基づき、一日の放送の開始及び終了に際し、自社の呼出符号又は呼出名称を放送しなければならず、また、放送時間中は、毎時一回以上自社の呼出符号又は呼出名称を放送しなければならないが、そうであるからといって、被告商号及び被告略称が、原告商号及び原告略称と混同するおそれがないとはいえない。
(三) 同2(三)について 放送事業は、被告の主張するとおりであるが、放送局名そのものが周知著名となる特異性を有するということはない。
3 同3について(一) スポンサーが放送局に宣伝広告の放送を依頼しようとするときには、通常、広告代理店を通じて依頼を行い、また、広告代理店が放送事業の実情をある程度知っているのは、被告の主張するとおりであるが、そうであるからといって、広告代理店が、原、被告を混同するようなことはありえないということはできない。
(二) 広告代理店が、スポンサーに対し、取引先の放送局及びその番組等についてどの程度説明するかは、場合によって異なり、また、放送業界に通じていないスポンサー、特に、新規のスポンサーの場合には、広告を出す放送局のことを十分知らされないまま契約してしまうこともありうる。
証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因1(一)及び同2の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、請求の原因3について判断する。
1 当事者間に争いのない原告略称によれば、原告略称は、「ニッポン」の語と「放送」の語との結合からなる表示であると認められる。そうすると、原告略称に接する者は、まず、「ニッポン放送」という一連の表示としてこれを理解するものと認められるところ、更に進んで、原告が主張するように、「ニッポン」の語から、営業区域が日本全国にまたがっているという観念を、また、「放送」の語から、ラジオ放送という観念をそれぞれ抱くか否かについて検討する。原告は、原告略称のうち、「放送」の語は、原告の営業がラジオ放送である以上、ラジオ放送を意味すると主張するが、「放送」の語は、一般に、ラジオ放送のみならず、テレビ放送、有線放送等をも含む広い概念の言葉として用いられているのであるから、営業表示としての原告略称に接する者が、「放送」の語から直ちにラジオ放送の観念を抱くとは認められない。また、「ニッポン」の語も、放送区域のみならず、国家としての日本国等を含む広い概念の言葉として用いられているのであるから、原告略称に接する者が、「ニッポン」の語から直ちに営業区域が日本全国にまたがっているとの観念を抱くとも認められない。
2 右の点に関して、原告は、原告がラジオ放送のみを業とする会社であることを強調するために、「ラジオのニッポン放送」等の宣伝文句を毎日使用し、このような宣伝文句も、日本国内において広く認識されており、また、原告は、数十年間、
専ら、ラジオ放送を業としており、テレビ放送に関係したことは全くないから、この点でも、「放送」の語が「テレビ放送」の観念を含むことはない旨主張するので、審案するに、仮に、「ラジオのニッポン放送」等の宣伝文句が、日本国内において広く認識されており、また、原告が、数十年間、専ら、ラジオ放送を業とし、
テレビ放送に関係したことは全くなかったとしても、そのことは、右の宣伝文句を聞き、又は「ニッポン放送」を略称とする原告が専らラジオ放送を業としてきたことを知っている者にとって、「ニッポン放送」の語は、ラジオ放送を業とする営業主体を意味し、また、「ニッポン放送」にいう「放送」の語は、ラジオ放送を意味するものと認識されていることを示すものと認められる。しかしながら、このことは、その反面、「ニッポン放送」の語と切り離した「放送」の語が、単独で、ラジオ放送のみを意味するものと認識されていることを示すものではないといわざるをえない。「放送」の語も、「ニッポン放送」という一連の表示の一部として用いられることによってはじめて、「テレビ放送」の観念を含むものではないと認められるにとどまり、単独では、「ラジオ放送」のみを意味し、「テレビ放送」を含むものではないと認めることは困難である。したがって、原告の右主張は、採用することはできない。
3 そうすると、「ニッポン放送」の語を「ニッポン」の語と「放送」の語とに分離し、それぞれに原告主張の観念が生じることを前提とする原告の観念類似の主張は、その前提を欠くものであるから、被告略称から生ずる観念について判断するまでもなく、理由がないものといわなければならない。
三 次に、請求の原因4について判断する。
原告商号の要部が「ニッポン放送」である事実は、当事者間に争いがないところ、原告は、原告略称についての主張と同様、「ニッポン放送」の語を「ニッポン」の語と「放送」の語とに分離し、「日本」の語は、原告の営業区域が日本全国にまたがっていることを意味し、「放送」の語は、ラジオ放送を意味することを前提として、原告商号と被告商号とは、その観念において類似する旨主張する。しかしながら、原告の右主張は、前二の認定判断に照らし、その前提を欠くものであるから、被告商号の要部いかん等について判断するまでもなく、理由がないものといわざるをえない。
四 前項までの認定判断によれば、原告の本訴請求は、既に理由がないものというべきであるが、前項までの認定判断とも関連を有するものであるから、更に、請求の原因5について判断するに、以下に認定判断するとおり、原告の営業上の施設又は活動と被告のそれとは混同のおそれがあるとも認められない。
1 被告の営業は、ラジオ放送であって、原告の営業と同一であること、被告の放送出力及び放送区域は、原告主張のとおりであって、原、被告の放送区域は、現在ではほとんど重複するに至っていることは、当事者間に争いがない。また、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六二、第六三号証によれば、ラジオの聴取者の中には、旅行、通勤、通学など移動の途上において、ラジオのダイヤルを回して、好みに合った放送を選んで聴取している者が相当数あることが認められ、右認定の事実によれば、そのような聴取者の中には、放送中に流される放送局名によってはじめて放送局を識別する者もいるであろうことが推認される。しかしながら、右甲号各証によっても、聴取者のうち、このようにして放送局を識別する者がどの程度の割合でいるのかは必ずしも明らかではなく、かえって、成立に争いのない甲第七号証の一、ないし三、乙第一九号証、承人【B】の証言及び同証言により真正に成立したものと認められる乙第二〇ないし第二二号証によれば、ラジオ放送局は、独自に番組編成を行い、その番組内容を毎朝夕の新聞に掲載している事実が認められ、右認定の事実によれば、聴取者の中には、右新聞掲載の番組内容を参照のうえ、特定の周波数の放送局を選局してラジオ放送を聴取している者も少なくないものと認められる。
2 次に、被告商号及び被告略称について、次のような事実が認められる。
(一) 被告は、昭和三三年一二月開局以来、本件商号変更に至るまで二三年間、
旧商号及び旧略称を使用してきたこと、被告は、本件商号変更時である昭和五六年当時、資本金五億円、売上高四三億円に達していたこと、被告は、この二三年間、
関東一円に配達された日刊紙、スポーツ紙等のラジオ欄に、旧略称のもとに被告の番組を掲載し、放送中も「ラジオかんとう」の呼出名称を放送してきたことは、当事者間に争いがなく、右事実を総合すれば、被告の旧商号及び旧略称は、本件商号変更当時、被告の営業表示として、その放送区域内において広く認識されていたものと認められる。
二 また、成立に争いのない乙第一、第二号証、第八号証の七、第一〇、第一五号証、証人【C】の証言並びに同証言及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第三号証の一ないし六、第四号証の一ないし七、第六、第七号証、第八号証の一ないし六、八ないし一〇、第九、第一一、第一二号証、第一三号証の一ないし五、第一四、第八一号証、公証人の認証部分について成立に争いがなく、その余の部分について右認証部分により真正に成立したものと認められる乙第八三号証によれば、被告主張のとおり、被告は、新商号の公募広告をしたこと、そのことが新聞紙、週刊誌などに報道されたこと、被告は、本件商号変更をし、そのことを記者会見、挨拶状、自社の番組などで告知したこと、被告が本件商号変更をすることは、各新聞において報道されたこと、被告は、新聞、駅貼ポスター、車両の中吊り広告、テレビ、他のラジオ局、自社の特別番組等において、本件商号変更の宣伝広告をしたことが認められ、右認定の事実によれば、被告の新商号は、本件商号変更後、右の報道、広告などに接したであろう多くの人達の知るところとなったものと認められる。
3 更に、放送事業に関して、次のような事実が認められる。
(一) 放送法による一般放送事業は、電波法に基づく無線局の施設免許事業となっており、この施設免許は、主務官庁である郵政大臣の指定により与えられ、免許を受ける際には、電波の形式及び周波数、呼出符号又は呼出名称、放送出力、放送区域、運用許容時間がすべて郵政大臣の指定により定められること、東京地区における中波放送の民間事業者は、わずか四社であり、これら四社は、指定放送区域について各自異なる周波数、呼出符号、呼出名称を郵政大臣から指定されて、この指定に基づいて放送事業を行っていることは、当事者間に争いがなく、右事実によれば、原、被告を含む放送事業者は、周波数、呼出符号、呼出名称等によって識別することができるようになっていることが認められる。
(二) 放送においては、無線局運用規則に基づき、一日の放送の開始及び終了に際し、自社の呼出符号又は呼出名称を放送しなければならず、また、放送時間中は、毎時一回以上自社の呼出符号又は呼出名称を放送しなければならないことは、
当事者間に争いがないところ、前掲乙第八三号証及び証人【B】の証言によれば、
被告は、一日の放送の開始及び終了に際し、「アール・エフ・ラジオ日本」と、また、放送時間中にも、適宜、「アール・エフ・ラジオ日本」又は「ラジオ日本」と告知していることが認められ、右認定の事実によれば、被告商号及び被告略称は、
右放送の聴取者において、ラジオ放送を業とする一つの営業主体の表示と認識されているものと認められる。
(三) 放送事業は、放送を広く大衆に知らせることを目的とするものであり、毎日の新聞に放送局名が掲載され、自局放送でも局名を一日数百回放送することは、
当事者間に争いがなく、右事実によれば、放送局名は、本来、一般に良く知られるようになっていることが認められる。
4 また、スポンサーの混同のおそれについて、次のような事実が認められる。
スポンサーは、放送局に宣伝広告の放送を依頼しようとするときには、通常、特定の広告代理店を通じて依頼を行うこと、広告代理店が放送事業の実情をある程度知っていることは、当事者間に争いがなく、また、証人【B】の証言及び同証言により真正に成立したものと認められる乙第一七、第一八、第二三号証、前掲乙第一九ないし第二二号証、第二四号証、第二五証。第二六号証の一、二、第二八号証の一、二並びに第二九号証の一、二を総合すれば、広告代理店は、専門業者であって、東京に四局しかない民間の中波放送局のうちの二局である原、被告を混同するということは、通常考え難いことであること、広告代理店は、スポンサーとの取引に当たって、スポンサーに番組企画書及び番組表を示し、放送番組の内容、特色、
独自性、放送料金等を説明すること、原、被告の放送料金は、価額体系を含め全く異なっていること、スポンサーは、このような説明を広告代理店から受け、放送申込書に放送内容、放送日時、放送回数等を記載し、広告代理店を通じてこれを被告に提出することが認められ、右認定の事実によれば、スポンサーが放送局を混同するようなことは、ほとんどありえないものと認められる。
5 前二及び三のとおり、両略称及び商号の類似に関する原告の主張が理由のないことに加え、右1ないし4の認定事実によれば、被告の営業は、ラジオ放送であって、原告の営業と同一であること、原、被告の放送区域は、現在ではとんど重複するに至っていること、ラジオの聴取者の中には、放送中に流される放送局名によってはじめて放送局を識別する者のいることが認められるものの、そのようにして放送局を識別するのが一般的であるとは認められないばかりか、被告の旧商号及び旧略称は、本件商号変更当時、被告の営業表示として、その放送区域内において広く認識されていたこと、被告の新商号は、本件商号変更後、本件商号変更の報道、広告などに接したであろう多くの人達の知るところとなったこと、原、被告を含む放送事業者は、周波数、呼出符号、呼出名称等によって識別することができるようになっていること、被告商号及び被告略称は、被告の放送の聴取者において、ラジオ放送を業とする一つの営業主体の表示と認識されていること、放送局名は、本来、
一般に良く知られるようになっていること、スポンサーが放送局を混同するようなことは、ほとんどありえないこと、以上の事実が認められるというのであり、右事実を総合すれば、スポンサー及び聴取者において、被告が被告商号及び被告略称を使用することにより、被告の営業上の施設又は活動を原告のそれと混同するおそれがあるとは認められない。
6 なお、原告は、現に混同の実例がある旨主張するので、この点について検討する。
(一) 証人【D】の証言並びに官署作成部分について成立に争いがなく、その余の部分について右官署作成部分及び右証言により真正に成立したものと認められる甲第一号証の一ないし、五、七、第二号証の一ないし二五、二六の一、二、二七ないし三六、第三号証の一ないし一七、第四号証の一ないし五、第一二号証の一ないし五、第一三号証の一ないし九、第一四号証の一、二、第一五号証の一ないし一三、右証言により真正に成立したものと認められる甲第五五号証の一ないし一一六によれば、ラジオ放送の聴取者が被告に配達されることを意図して投函した郵便物で、結果的に原告に配達されたものが、かなりの数に及んでいること、その原因が、郵便局員の集配ミス、聴取者の番組内容誤認及び住所誤認等によるものであることが認められる。しかしながら、他方、右証拠に加え、成立に争いのない乙第六〇号証、証人【B】の証言並びに同証言により真正に成立したものと認められる乙第三二号証の一ないし三、第三三号証の一、二、第三四号証の一ないし七、第三五号証の一ないし二九、第三六ないし第三八号証、第三九号証の一ないし五、第四〇ないし第四四号証、第四五号証の一、二、第四六、第四七号証、第七三号証の一、
官署作成部分について成立に争いがなく、その余の部分について右証言により真正に成立したものと認められる乙第七一号証の一ないし一一七、第七三号証の二、三によれば、右の誤配された郵便物は、原告に郵送される郵便物のごくわずかにすぎないことが認められ、しかも、被告が旧商号及び旧略称を使用していたときにも、
原告との間で同様の誤配が存したこと、被告と原告以外の放送局との間においても、本件商号変更の前後を通じ、同様の誤配が存したことが認められ、右認定の事実によれば、右の誤配された郵便物の多くは、郵便局員の集配ミス、聴取者の番組内容の誤認若しくは宛先の住所の誤認、又は単純な記載ミスなど、一般の誤配と同一の原因によるものと認められるところであって、被告が被告商号及び被告略称を使用して原、被告を混同せしめたことによるものとは認められない。
(二) また、証人【D】の証言並びに同証言により真正に成立したものと認められる甲第五号証の一ないし一四、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五八号証の一ないし八によれば、聴取者が、被告の番組を聞き又は聞こうとして、これを原告の番組と混同し、原告に電話を掛けてくるという間違い電話があること、間違い電話のうち、相手を確認することができない例、確認することができても総務部に報告されない例があることが認められる。しかしながら、右の間違い電話の件数は、昭和五七年一二月ないし昭和六〇年三月までの二年四カ月間に二二件であるが、弁論の全趣旨によれば、原告には一日二〇〇〇件近い電話が掛かることが認められるので、右の間違い電話は、全体の電話数に比べれば、極めてわずかであるばかりか、右証拠によっても、右電話のうち、かなりの数は、原、被告の区別はしていても、単純なミス等で掛け違えたもの、通話したい個人の帰属会社を誤認したものなどであることが認められ、右認定の事実によれば、右の間違い電話は、原、被告の混同とは無関係に生じた電話である可能性を否定することができないものといわなければならない。
(三) 更に、前掲第七号証の一ないし三、第九号証の一ないし三、原本の存在及び成立に争いのない甲第三〇号証の一、二、第三一号証の一、二、証人【D】の証言並びに同証言により真正に成立したものと認められる甲第一〇号証によれば、報知新聞は、昭和五六年一一月二日付及び昭和五七年一二月一七日付各紙上のラジオ番組欄で、「ニッポン放送」名下に被告の番組を、「ラジオ日本」名下に原告の番組を掲載したこと、右の報知新聞のミスは、当日の第六版及び第七版に生じたものであること、東京新聞及び東京中日スポーツ紙も、昭和六〇年三月七日付紙上において同様のミスをしたこと、番組表をラジオ番組欄の所定の場所に割り付ける際、
番組表の冒頭に放送局名が大きく付されていることが認められる。しかしながら、
成立に争いのない乙第三〇号証の一、二、第七九号証の一、二、証人【B】の証言ならびに同証言により真正に成立したものと認められる乙第七四号証によれば、番組表をラジオ番組欄の所定の場所に割り付ける際、番組表の冒頭の放送局名は途中で取り外され、その後の割付け作業はコード番号表により行われること、原告の主張する報知新聞のミスは、当日の第六版及び第七版に生じているものの、同日付第五版には生じていないこと、同種のミスは、原、被告以外の放送局間においても生じていることが認められ、右認定の事実によれば、原告主張のラジオ番組欄の誤りは、番組表を所定の箇所に割り付ける際の機械的ミスによって生じたものであって、原、被告の混同とは無関係である可能性を否定しえないものである。
(四) また、証人【D】の証言ならびに同証言により真正に成立したものと認められる甲第八号証によれば、横浜市教育委員会及び横浜私立小学校長会は、昭和五六年一〇月三〇日、合同体育大会を開催したが、開催に先立ち、同委員会から、参加各小学校に対し、雨天の際実施するか否かについては「ラジオ日本」の放送で確認するようにとの指示を与えたのに、六ツ川小学校では「ラジオ日本放送」の放送で確認するようにとの注意書を作成し、同校六年生の児童に配付したため、原告放送か被告放送か区別が付かず、混乱が生じたことが認められる。しかしながら、他方、右証拠によれば、六ツ川小学校の担当者は、「ラジオ日本」の放送で確認するようにとの指示を受けたのに、「ラジオ日本放送」という名称を注意書に記載したものであることが認められ、右認定の事実によれば、右の担当者は、原、被告を混同したものではなく、被告略称を誤認した可能性を否定しえないものである。
(五) なお、証人【E】の証言並びに同証言により真正に成立したものと認められる甲第六号証の一、二、第五一号証の一、二によれば、埼玉県牛乳普及協会の【A】事務局長は、昭和五六年一一月ころ、広告代理店を通じて被告にスポット広告放送を申し込み、その一年後、原告にスポット広告放送を申し込んだ事実が認められるところ、【A】作成の陳述書である甲第六号証の二には、右協会が被告にスポット広告放送を申し込んだのは、原、被告を混同したためである旨記載され、右野澤の上申書である甲第五一号証の一には、甲第六号証の二の書面は、同人が【A】の話をまとめて書き、【A】がその内容を確認したうえ押印した旨記載されており、そして、証人【E】は、右と同旨の証言をしている。しかしながら、他方、証人【E】の証言によれば、野澤は、【A】に対し、甲第六号証の二の陳述書の作成を依頼する際、スポット広告放送を破格の条件で引き受けるための、原告社内での説明用の文書であると述べて右依頼をしたこと、本訴提起後、右河原及び野澤は、【A】に対し、原、被告を混同していた旨の陳述書の作成を依頼したが、
【A】から断られた事実が認められ、更に、証人【B】の証言により真正に成立したものと認められる乙第八〇号証の二によれば、【A】の陳述書である同号証には、【A】は、原、被告の区別を認識していたのであって、甲第六号証の二の記載内容は事実と違っている旨記載されていることが認められ、右認定の事実によれば、【A】は、被告にスポット広告を依頼した際、原告と混同して依頼したのではなく、依頼先が被告であることを明確に認識したうえで依頼した可能性が高いものと認められるところであって、甲第六号証の二及び甲第五一号証の一の右記載内容は、直ちに採用することができない。
(六) 右(一)ないし(五)の認定判断によれば、原告主張の混同の実例をもって、スポンサー又は聴取者が、被告の被告商号及び被告略称の使用により、被告の営業上の施設及び活動を原告のそれと混同せしめられたことによるものであると認定することは、困難であるといわなければならない。
五 以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よって、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 清永利亮
裁判官 設楽隆一
裁判官 長沢幸男
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