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事件 平成 1年 (ワ) 17170号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1993/02/24
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、その営業に関し、別紙第一目録(一)ないし(七)の各表示を使用してはならない。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求める裁判
一 原告1 被告は、「株式会社ワールドフアイナンス」の商号を使用してはならない。
2 被告は、東京法務局昭和五三年一〇月五日受付をもって商号変更登記された被告の商号「株式会社ワールドフアイナンス」の抹消登記手続きをせよ。
3 被告は、その営業に関し、別紙第一目録(一)ないし(七)の各表示を使用してはならない。
4 訴訟費用は、被告の負担とする。
5 第1、第3、第4項について、仮執行宣言。
二 被告1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 仮執行免脱宣言
請求原因
一 当事者1 承継前の原告「株式会社ワールド」(以下、「旧株式会社ワールド」という。)は、昭和三四年一月一三日神戸市に設立され、主として繊維二次製品である婦人服、紳士服、スポーツ衣料等各種衣料品等の製造販売を目的とする会社であったが、本訴提起後の平成二年四月一日、「株式会社ルイシャンタン」(昭和二四年四月二〇日設立)と合併し、「株式会社ルイシャンタン」が存続会社となって「株式会社ワールド」に商号変更して、解散会社とされた旧株式会社ワールドの権利義務を継承し、本訴における原告の地位を承継した。
2 被告は、昭和二六年四月一〇日、商号を「株式会社斉藤商店」として設立され、その後現在の商号に変更し、金融業その他のサービス業を営んでいる。
二 原告営業表示 旧株式会社ワールドは、その営業表示として、昭和三四年一月の設立当初から、
片仮名の「ワールド」を横書きにしてなる別紙第二目録Aの表示(以下「原告営業表示A」という。)を使用するとともに、昭和五二年頃からは、英文字の「WORLD」を横書きにしてなる別紙第二目録Bの表示(以下「原告営業表示B」という。)及び右Bの表示と変形のWマークを一体としてなる別紙第二目録Cの表示(以下「原告営業表示C」といい、原告営業表示A、B、Cを「原告営業表示」と総称することがある。)を建物の壁面、広告塔、業界紙、パンフレット、商品のタッグ、野球場・スケート場の壁面等に表示する方法で使用してきた。
三 原告営業表示の周知性とその承継1 旧株式会社ワールドは、設立された当初は、資本金二〇〇万円、婦人オールニット製品の製造、卸を営業目的とし、従業員四名であったが、昭和三九年には、東京店を設けて関東方面にも進出し、昭和四三年七月期の年間売上高は二〇億円を突破するなど業績を順調に伸ばし、営業範囲も次第に婦人服飾品全体の製造、販売に及び、昭和四六年三月には千代田区<以下略>に東京店ビルを建設し、昭和五一年七月期の年間売上高は四二三億円(なお神戸本社と東京店の売上比率は、五七対四三であった)、経常利益六四億円という驚異的急成長を遂げ、婦人服飾業界第一位を記録し、その名称と企業としての存在は広く一般の人々にも知られるようになり、昭和五三年頃には紳士服部門に、次いでスポーツ衣料品部門にも進出し、昭和五四年七月期は売上高が六五三億円に達し、経常利益も一〇〇億円を突破、昭和五五年には、従業員一〇〇〇名を擁し、昭和五六年において、売上高九〇五億円、経常利益一五九億円をあげ、ワコールを抜いて、ファッション業界で利益日本一となり、昭和五六年六月には、平凡社の本社ビルを買い取り世間の注目を集めた。
2 旧株式会社ワールドは、原告営業表示による企業イメージを周知徹底させるように努力を行ってきた。
(一) 旧株式会社ワールドは、原告営業表示を、建物の壁面、広告塔、業界誌、
パンフレット、商品のタッグ、野球場・スケート場の壁面等に付するといった各種の宣伝手段によって、原告営業表示を普及させてきた。
(二) 旧株式会社ワールドは、原告営業表示B、Cを全国的規模の各種スポーツ行事の際のテレビ放映を意図した看板、東京銀座四丁目角のビル上や新しい本社ビル壁面等に使用し、更には、前記各営業表示を使用したユニフォームを着る全国社会人ラグビーチーム「ワールド」を保有して宣伝活動の一環としてきた。
(三) 旧株式会社ワールドは、昭和五一年から、FM東京、FM大阪等全国八局ネットで、「ワールド・オブ・エレガンス」という番組を毎週月曜日から金曜日まで、午後一時から一時半までの時間帯に提供しているところ、FM東京ネットワークは関東一円に及び毎日約六〇万人余りの人々がこの番組を聞いていると推察されるほか、昭和五一年には同番組のテーマ曲「ラブ・ワールド」を収めたシングル盤レコードが、また、昭和五四年には同じくLP盤レコードとカセットテープが発売され、これらを通じて、旧株式会社ワールドの名称と企業の存在が広く知られるようになった。
3 このように、旧株式会社ワールドは、遅くとも昭和五二年頃から自社営業表示として、原告営業表示を使用してきたもので、原告営業表示は、昭和五七年頃には、旧株式会社ワールドグループを表すものとして周知かつ著名となっていた。
4 旧株式会社ワールドは、平成二年四月一日、合併後の存続会社である原告の本店所在地における商号登録の手続中に生じる類似商号審査上の問題を避けるため便宜上商号を一旦「株式会社ルイシャンタン」に変更し、合併後の存続会社である原告(旧商号「株式会社ルイシャンタン」)は、平成二年四月一日、「株式会社ワールド」に商号変更するとともに、同日、旧株式会社ワールドはその権利義務一切及び営業を原告に承継させた。それとともに原告は、原告営業表示そのもの及び看板、広告媒体等、全ての使用態様の原告営業表示の使用を旧株式会社ワールドから承継し、引き続き原告営業表示を使用してその営業活動及び広告宣伝活動を継続し、旧株式会社ワールド同様、原告営業表示による原告の企業イメージの周知徹底に努めている。
5 平成四年三月一七日付毎日新聞に掲載された全国大学生就職意識調査・人気企業ランキング、ベスト一〇〇社によれば、原告は、文化総合の部門で第八八位にランクされており、この調査が一九九三年三月卒業見込の全国の大学生三七万人を対象に行われたことも考えれば、この調査結果は、原告が全国的なレベルで人気企業にランクされ、原告営業表示が全国的に周知かつ著名となっている証拠である。
6 なお、被告は原告の営業表示が周知なのは関西地域に限られるかのように主張するが、前記1のとおり、旧株式会社ワールドは、基本的な営業方針として昭和三九年ころから東京店・神戸店の二店化による日本全域に事業展開を行う方針を確立し、その方針に沿って事業を拡大しており、支店という言葉を使用したことがないのである。現に東京店の売上げは四〇数パーセントに及んでおり、東京店の売上げの中で首都圏の売上げは約五〇パーセントを占めており、首都圏において積極的な事業展開をしてきたものである。したがって、原告営業表示の周知性が認められる範囲は、関西地域に限られるものではなく日本全国に及ぶというべきである。
四 被告商号及び被告営業表示 被告は、昭和五三年九月二〇日に「株式会社ワールドフアイナンス」の商号(以下「被告商号」という。)に変更登記して以来、現在までこれを商号として使用しており、また、被告の営業表示として、昭和五一年七月以来「ローンズワールド」の表示を統一的に使用していたが、平成元年初め頃から別紙第一目録(一)ないし(七)記載の各表示(以下、順に「被告営業表示(一)」ないし「被告営業表示(七)」といい、被告営表表示(一)ないし(七)を「被告営業表示」と総称することがある。)を看板、広告塔、各店舗に、自らの営業を表示するものとして使用するようになり、今日に至っている。
五 原告営業表示と被告商号、被告営業表示の類似性 原告営業表示A、B、Cの要部は片仮名の「ワールド」、英文字の「WORLD」である。
被告営業表示は、片仮名の「ワールド」の文字からなるもの又は「世界のワールド」の文字からなるものであって、後者にあってもその要部は「ワールド」の部分にあり、更に、被告商号の要部も「ワールド」の部分にあると認められるから、これを原告営業表示と対比すると、その外観観念、称呼のいずれにおいても、原告営業表示の全部又は要部と同一であるか類似している。
六 原告の営業上の施設又は活動と混同を生じさせ、原告の営業上の利益が害されるおそれ1 原告営業表示と被告営業表示及び被告商号の同一性又は類似性に、原告と被告の営業区域の同一ないし近接性、原告営業表示の著名性顧客吸引力、原告の複合企業としての広範な事業範囲等を考慮した場合、取引者又は需要者において、原告と被告が同一営業主体であるとか、両社間に親会社、子会社の関係あるいは系列会社関係などの緊密な営業上の関係が存するものと誤信し、混同を生じ、原告の営業上の利益が害されるおそれがある。
2 被告は、原告と被告の営業内容が異なり、また被告営業表示は原告営業表示より周知かつ著名であるから狭義、広義を問わず混同はありえないと主張するが、原告営業表示は単に原告会社の営業表示に止まらず原告を中核とするグループ企業群全体の営業表示である。そしてその事業活動は、ファッションを単に衣服に止まらず、食・住・サービス含む生活文化全般の新たな価値として認識し、衣食住(遊)の生活全般にかかわる産業をファッション産業として位置付けているため、広範な分野に広がっている。そして、一定の消費者金融も部分的にこの中に組み込まれる可能性が高まっており、特にクレジットカードやローン付き割賦販売による商品販売が拡大して、現実に競合状態が一部生じているといえる。
七 よって、原告は、不正競争防止法1条1項2号に基づき、被告商号の抹消登記手続と被告商号及び被告営業表示の使用差止めを請求する。
請求原因に対する認否及び被告の主張
一 請求原因一のうち、1は、旧株式会社ワールドが、主として繊維二次製品である婦人服、紳士服、スポーツ衣料等各種衣料品等を製造販売する株式会社であったことは認め、その余の事実は知らない。
2は認める。
二 請求原因二は知らない。
三 請求原因三の1ないし4はいずれも原告営業表示が周知ないし著名になったとの主張を争い、その余はすべて知らない。
原告営業表示には周知性は認められない。
1 旧株式会社ワールドないしこれを承継した原告の営業表示は、関西ことに阪神地区を中心として周知性が認められているに過ぎず、被告の営業地域である関東一円(東京都を中心に神奈川県、埼玉県、千葉県、群馬県、静岡県等)では周知性がない。
(一) すなわち、不正競争防止法1条1項2号周知性の程度については、営業地域が他社から区別される優越的地位を獲得している程度に知られていることが要件であると解すべきであるところ、原告営業表示は関東一円では、せいぜい女性の間で婦人服のメーカーとして知られている程度で、その商品はデパート等の小売店で販売されているため、わざわざ原告の店舗に出向くのは極めて限られた人々である。原告の支店は、東京都においては、麹町に一店しかないし、あまりに地味な地域にあって、小売りをしているかどうかも一般の人々にはわからないほどである。
営業所等を含めても数箇所に原告主張の営業表示が示されているにすぎないが、銀座の貸しビルにおける原告の店舗の青の細い英文字の表示は、華やかな広告の氾濫する銀座においては、殆ど見落とすほどである。
原告主張の野球場の広告については、野球場には周知性のない営業広告も沢山出ているから、野球場に広告をしたからといって周知性があるとはいえないし、見ているといっても高々数万人であり、野球に夢中で広告を記憶して帰る人もまれであろう。ラグビー場等の広告も、テレビ放送するときのみで、常設のものではない。
(二) 他方、被告営業表示は、昭和五六年までに設置された広告等、大型看板類は実に一二四個に達しており、また現在は以前よりも支店数は減少しているものの、かって三〇七の支店には必ず大型の看板を掲示しており、高速道路から目立って見える巨大な広告塔も数多く常設している。昭和五一年に店舗展開をスタートしたときから、被告は必ず駅前で、屋上の看板が取れる場所に支店を開設してきたものであり、主要な駅で下車すれば、必ず被告の看板が大きく目に入るという状況になっている。被告営業表示は、東京を中心とする関東一円において、毎日何十万、
何百万という人々の目に触れている。
被告は、同業種間で第一位の知名度があるほど一般大衆に知られており、関東地区、消費者金融の営業分野において原告営業表示が周知性を取得し得る余地はない。
(三) また昭和五七年頃についてみると、甲第三一号証の二ないし四によれば、
この当時、原告は未だ東京都においては知名度が低く、せいぜい「関西急成長衣料品メーカーで平凡社ビルを買った、こんど東京へ進出する」という程度にしか一般に認識されていなかったことが明らかである。昭和五七年一二月現在の五〇音別企業名電話帳によると、旧株式会社ワールドのものと見られるのは一ないし二か所、
電話が数本であるのに対し、被告の店舗として数一〇か所、八〇本以上の電話が掲載されている。関東一円では更に多数の被告の支店があるが、東京二三区内に限っても、被告の方が原告よりも圧倒的に大規模な営業活動をしていた。
(四) 以上のとおりであるから、原告がアパレル分野で関西においては原告営業表示についての周知性を獲得しているとしても、被告の営業地域である関東一円においては、原告営業表示が被告を含めた他社から区別されるべき優越的地位を獲得している程度に知られているとは到底認められないから、不正競争防止法1条1項2号周知性の要件を充足していない。
2 また不正競争防止法の立法趣旨は、すでに周知性を取得している企業の商号を、無名の後発企業が不正競争の意思をもってあえて一般人をして混同せしめるような商号を用い、先発企業の周知商号に「ただ乗り」して利益を得ることを防止しようとするものであるから、不正競争防止法1条1項2号の適用を受けるためには、原告の方が先発で、被告の方が後発の営業主体でなければならないところ、そのような証明がない。
かえって東京都を中心とした関東地区においては、被告営業表示が既に周知性を取得していたのであり、これに対し原告は、例え関西地区では周知企業であったとしても、被告営業表示が周知となった時期において、原告営業表示が東京都を中心とした関東地区においては周知性を取得していたとは認められないから、周知性を有していた被告営業表示を排除ないし浸蝕する形で関東地区に進出してきた原告の請求を認めることは法の本旨に反し、許されないというべきである。
3 原告は、被告営業表示が周知になったことがあったとしても、あくまでも「ローンズワールド」という営業表示として周知になったに過ぎない旨主張する。
しかしながら、片仮名文字の「ローンズ」とは金融を示すものであり、「ローンズワールド」という営業表示の主要部分は「ワールド」であるのであって、この「ワールド」という表示が、昭和五三年までに首都圏において、被告の営業表示として広く一般に知られるようになっていたのである。
原告は、被告が「ローンズワールド」の表示から「ローンズ」を削除したことを非難するが、被告が「ローンズワールド」という営業表示から、小文字の「ローンズ」という表示を削除した理由は、昭和五〇年前後には「ローンズ」という語には新規性、流行性があり、また被告の営業内容を示す必要もあったから付けたのであるが、その後ローンあるいはローンズという語は著しく普及してもはや日常用語となり、何ら新規性、流行性が感じられなくなる一方、東京を中心とする関東一円では「ワールド」といえば、消費者金融として被告が容易に認識される状況になったため、特に「ローンズ」を冠する必要がなくなったこと、更に被告の店舗に来訪する顧客は被告の営業を十分承知してくるのであるから、かえって「ローンズ」と書いてない方が顧客が店に入りやすいということもあって、「ローンズ」という表示を削除したもので、不正競争目的等はない。「ローンズ」という表示を取ったからといって、消費者金融と婦人服店を間違えて来る客はないであろう。
そもそも被告において「ローンズ」という小文字を付記しなければならない義務は存在しないのであり、原告は「ワールド」という言葉を独占的に営業表示として使用できる権利を持っているものではない。関東一円において、原告営業表示には、周知性も認められないから、被告が「ローンズ」という小文字を看板等から削除したか否かにかかわりなく、原告は、被告の営業表示の使用差止めを求める理由はない。
四 請求原因四は、認める。
被告が被告営業表示の使用を開始したのは昭和六三年頃である。
五 請求原因五は争う。
原告営業表示と被告商号、被告営業表示が類似しないことは次のとおり明らかである。
1 まず営業表示を認識する取引者、需要者についてみると、原告の場合、衣料品の専門業者ないしは衣料品の消費者であるのに対し、被告の場合は、サラリーマンを中心とする、年齢、性別、職業、階層を問わない幅広い一般大衆で、両者は異なる。
2 次に営業表示の外観についてみると、原告営業表示は、明朝体の「ワールド」ないし、すべて大文字のアルファベットの「WORLD」、または「W」の字らしきものを円形に図案化したものと大文字のアルファベットの「WORLD」を組み合わせたものであり、色は青が多いのに対し、被告営業表示は赤地に片仮名文字の斜体太ゴチック体で、「ワールド」の白文字であり、外観が異なる。
また営業表示の使用の態様や印象についてみても、原告営業表示は、衣料品や原告の経営する店舗に掲示されているのに対し、被告営業表示は、金融を受けるために来店する一般人にすぐわかるように被告の多数の支店に掲示されたり、高速道路に掲示されているのであり、その態様を異にするため、印象記憶連想等は当然異なる。また被告営業表示は関東地区においては金融のワールドとして周知かつ著名であるので、原告の服飾品を中心とした営業表示としてのブルーを基調としてアルファベットの営業表示とは印象記憶連想等において明らかに異なったものといえる。
原告営業表示Aは、片仮名文字であるという意味で被告営業表示と共通する点はあるが、原告はこの片仮名文字の「ワールド」という営業表示は、ほとんど使用していない。そして原告が「ワールド」という営業表示を使用するときは、必ずアルファベットの「W」の文字を図案化したものと、「WORLD」という英文字とを併用し、青地に「株式会社ワールド」と商号を記載しているものであり、被告商号である「株式会社ワールドフアイナンス」とも、営業表示として用いている赤字に太い白文字の「ワールド」とも、一目で異なった印象記憶連想等を与えるものであって、両者は類似しない。
3 原告営業表示の主要部分である「ワールド」は、世界という意味の、非常にありふれた普遍的な語である。このように普遍的、一般的な名称はそれだけ識別性が低く、普遍的・一般的な語を営業表示としている場合、その権利の範囲は自ずから狭くなるのであり、他の営業主体が、その商号の一部に同じ単語を用いても、「××ワールド」あるいは「ワールド××」のごとく他の単語ないし表示と合わせて一つの商号を構成し、しかもその複合部分により、その営業主体の事業目的が異なることが明らかに示されている場合、類似性は否定されなければならない。
現に、被告の本店登記場所であり、原告の支店登記場所である千代田区において、「ワールド」を含む商号を有する企業で電話帳に記載されているものだけでも約四五社あり、もし原告営業表示が周知であるとして、差止請求が認められるなら、多数の企業の犠牲のうえに原告という一企業のみを不当に保護し、ワールドという普遍的、一般的な語による表示を一企業主体に独占させる結果となるから、かえって不公平なこととなる。
本件についていえば、被告商号は「ワールド」という表示を一部に使用しているが、合わせて「フアイナンス」という表示を使用し、この二つの表示の複合により一つの商号としているのであって、しかも「フアイナンス」という単語が金融ないし融資を意味するものであることは、日常に定着して一般人がその意味を容易に理解し得ることは明らかであるから、被告の「株式会社ワールドフアイナンス」という商号は、原告営業表示とは類似性がないと解すべきである。
六 請求原因六の1、2は争う。
1 原告及び被告の営業内容、営業形態からして、両者の営業の混同は有り得ない。
即ち、原告の営業は衣料品の卸売業であり、洋服という商品を販売しているのに対し、被告の営業内容は消費者金融であり、一般消費者が自ら被告の店舗に赴いて融資を申し込むもので、商品の販売は一切ない。このような営業形態、営業内容の違いからすれば、営業の混同はありえない。
2 また「ワールド」という称呼は普遍的であるから、原告と被告以外にも多く使われている。
JRのキオスクにも「WORLD」という営業表示で営業している店舗もあり、電話帳を見ても、「ワールド」の表示を使用している企業は少なくない。このような状況下では、単に営業表示が「ワールド」だからといってすぐに子会社等であると一般人が誤信する可能性があるとは認められない。
そして本件においては、被告は消費者金融という事業分野で二五年余り努力を重ね関東一円において第一級の知名度を得るに至って久しいが、原告は婦人服を初めとするアパレル事業分野が主で、事業分野を異にしてきたもので、ごく最近になってカードによる金融の分野に手を染めた模様であるが、それは被告とは明らかに事業の態様が異なり、利用者の混同のおそれは考えられない。
更に関東地区においては被告は周知性を獲得しているから、金融関係に関し原告が被告の子会社と誤解されることはあっても、被告が原告の子会社と誤解されるおそれはない。原告は、消費者金融の分野では、明らかに被告よりも遅れてきた企業である。
3 なお、原告は、現実に混同が起こっているというが、婦人服を並べて売っている原告の売場に、一般人が金融の申込みにくるとは考えられない。いずれにしても、一、二の事例で大きな問題を左右することはできない。
七 請求原因七は争う。
権利濫用の抗弁1 旧株式会社ワールドは、昭和六一年九月一日から、クレジットカード「ワールド・カード」を発行し、日本信販加盟店約二四万店で利用できるようにし、六か月間をキャンペーン期間として一〇万人の会員の獲得を目指し、金融市場に参入を図り、原告はこれを引き継いだ。これは既に一〇年以上前から被告が培ってきた金融市場に「ワールド」の名をもって被告の後から乱入してきたものであり、旧株式会社ワールド及び原告の右行為こそ不正競争防止法1条1項2号に該当するものである。旧株式会社ワールド及び原告が、被告商号及び被告営業表示が既に広く知られている金融市場に、被告商号や被告営業表示と同一ないし類似営業表示をもって後から侵入してきて、先発企業の被告商号や被告営業表示を不正競争防止法により排除しようとしていることは、権利の濫用である。
2 仮に原告営業表示が周知性を有していたとしても、被告商号及び被告営業表示もまた関東地区においては周知性を有している。このような場合、たまたま自己の営業表示が周知性を有していることを理由として、不正競争防止法1条1項2号により差止めを求めることは、権利の濫用であって許されない。
被告の主張に対する原告の認否反論
1 被告は、被告の営業表示が関東一円で周知となったと主張しているが、被告の表示が周知になったことがあったとしても、あくまでも「ローンズワールド」という営業表示としてである。被告営業表示は、昭和五一年七月以来、平成元年初めに突然「ローンズ」を削除するまで「ローンズワールド」であり、したがって需要者、取引者には「ローンズワールド」として記憶されてきたのである。
また被告の主張する駅前の看板の点についてみても、一般に多数の人の来集する駅周辺には非常に多くの看板、表示類が集中し、人目を集めることを競っているのであって、被告の看板は、その中の一つにしか過ぎない。
2 被告は、須告営業表示が周知となっている消費者金融の分野に原告が参入してきたことを論難するが、被告が従前使用してきた営業表示は「ローンズワールド」であり、原告営業表示とは「ローンズ」を冠することによって、観念上相違し、これを強調することによってある程度識別可能であったが、被告が前記のように平成元年初頭頃から看板や店舗の営業表示から「ローンズ」を削除したことにより、観念稀釈化が生じ、著名表示たる原告営業表示と同一ないし類似となり、旧株式会社ワールドと被告間の関係について、取引者、需要者誤認混同を生じるおそれが生じたため、旧株式会社ワールドは、訴え提起前に再度にわたって被告に話し合いを求めた上、本件提訴に及び、原告が同訴訟を承継しているものであって、何ら権利の濫用に該当する事由はない。
証拠関係(省略)
理 由一 請求原因一1(当事者・原告)のうち、旧株式会社ワールドが主として繊維二次製品である婦人服、紳士服、スポーツ衣料等各種衣料品等を製造販売する株式会社であったことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証に、乙第七〇号証、乙第七一号証によれば、同社が本訴を提起した後である平成元年四月一日商号を「株式会社ルイシャンタン」と変更し、同年四月二日その旨の登記をした上、同年六月二九日、旧商号が「株式会社ルイシャンタン」で、同年四月一日「株式会社ワールド」に商号を変更し、同年四月二日その旨の登記をしていた原告と合併し、原告が存続会社となって、解散会社とされた旧株式会社ワールドの権利義務を承継し、本訴における原告の地位を承継したことが認められる。
同2(当事者・被告)については、当事者間に争いがない。
二 請求原因二(原告営業表示)について判断する。
成立に争いのない甲第ニニ号証ないし甲第ニ四号証、甲第三ニ号証、甲第三三号証、甲第三八号証、証人【A】の証言により成立を認める甲第一〇号証ないし甲第一三号証(但し、甲第一一号証の撮影者、撮影年月日は当事者間に争いがない。)、甲第一五号証の一ないしニ五、甲第一六号証の一ないし九、甲第五〇号証の一、ニ、甲第五一号証の一、ニ、甲第五ニ号証の一ないし三、甲第五三号証の一ないし三、甲第五四号証の一ないし三、甲第五五号証、甲第五六号証の一ないし五、甲第五七号証の一、ニ、甲第五八号証の一、ニ、甲第五九号証の一、ニ、甲第六〇号証、甲第六一号証の一、ニ、甲第六ニ号証、証人【B】の証言により成立を認める甲第六七号証並びに証人【B】及び同【A】の各証言によれば、旧株式会社ワールドは、昭和三四年一月の設立当初から原告営業表示Aを、昭和五二年頃からは原告営業表示B及びCを、それぞれ同社所有又は入居のビルの壁面や屋上、広告塔、東京ドーム球場の外野フェンスや秩父宮ラグビー場のグラウンドの周囲の壁面等に掲示したり、商品タッグ、大手全国紙や業界紙の広告欄に掲載したり、自社パンフレットに付したりして使用してきたことが認められる。
三 請求原因三(原告営業表示の周知性とその承継)について判断する。
1 前記甲第一〇号証ないし甲第一三号証、甲第一五号証の一ないしニ五、甲第一六号証の一ないし八、甲第ニニ号証ないし甲第ニ四号証、甲第三ニ号証、甲第三三号証、甲第三八号証、甲第五〇号証の一、ニ、甲第五一号証の一、ニ、甲第五ニ号証の一ないし三、甲第五三号証の一ないし三、甲第五四号証の一ないし三、甲第五五号証、甲第五六号証の一ないし五、甲第五七号証の一、ニ、甲第五八号証の一、
ニ、甲第五九号証の一、ニ、甲第六〇号証、甲第六一号証の一、ニ、甲第六ニ号証、甲第六七号証、成立に争いのない甲第一八号証、甲第一九号証、甲第ニ一号証、甲第ニ五号証、甲第ニ六号証、甲第ニ七号証の一ないし四、甲第ニ八号証、甲第ニ九号証、甲第三〇号証の一ないし七、甲第三一号証の一ないし四、甲第三四号証ないし甲第三七号証、甲第三九号証、甲第四〇号証の一、ニ、甲第四一号証ないし甲第四八号証、甲第七四号証、甲第八九号証、証人【B】の証言により成立を認める甲第一七号証、甲第ニ〇号証、甲第六八号証、証人【A】の証言により成立を認める甲第六三号証ないし甲第六六号証、甲第七五号証並びに証人【B】及び同【A】の各証言によれば、
(一) 旧株式会社ワールドは、昭和三四年の創業以来神戸市を本店として婦人用オールニット製品の製造、卸売業を営み、昭和三七年頃から急成長を遂げ、昭和三九年には東京店を設け、昭和四三年七月期に年間売上高が二〇億円に達し、その後子供服、布帛分野へ進出し、昭和五一年七月期には年間売上高が四二三億円に達したこと、昭和五三年には紳士服、スポーツウェアの分野へ進出し、昭和五四年七月期には年間売上高六五三億円、経常利益一〇二億円に達し、昭和五六年度には年間売上高九〇五億円、経常利益一五八億円に達し、この昭和五六年度において、ファッション業界での利益日本一となったこと、昭和五七年には売上額が一〇〇〇億円を越え、経常利益は約一六八億円に達し、右のような急成長ぶりは、昭和五四年頃から業界紙のみでなく大手新聞にも取り上げられたこと、
(二) 旧株式会社ワールドは昭和三九年には東京店を設け、昭和四六年に東京店第一ビルを、昭和四九年に東京店第二ビルをいずれも千代田区<以下略>に建設した外、昭和五六年には平凡社から千代田区<以下略>所在の同社の本社ビルを買収し、昭和五七年には、中央区<以下略>に関連会社銀座リザを出店させて大手新聞に報道されたこと、昭和五四年七月から平成三年三月にかけて、旧株式会社ワールド及び原告の売上げのうち東京店の占める割合は、最低でも昭和五七年七月期で四三・四%あり、平成元年三月から平成三年三月期については、常時四八%を維持してきたこと、現在、原告は東京において二十数か所の事業所を有するに至ったこと、
(三) 旧株式会社ワールドは、広告宣伝面では、昭和五七年四月に前記銀座リザを出店した際CMキャンペーンとして有名女優【C】を我が国で初めて起用してテレビ、新聞による広告宣伝を行い、かつ、そのこと自体が各種全国紙により報道されたこと、昭和五一年からFM東京など全国八局ネットで「ワールド・オブ・エレガンス」という番組を提供したり、昭和五九年に実業団ラグビーチームを創立し、
維持して来たこと、
(四) 旧株式会社ワールドは、テレビ視聴者や直接来場した観客を対象に東京ドーム球場の外野フェンスに原告営業表示Bと原告営業表示C中の図形をならべた広告を掲示したり、秩父宮ラグビー場のグラウンドの周囲に同様の広告を臨時に設置し、各新聞購読者を対象に、大手全国紙や業界紙に原告営業表示を付した新聞広告を掲載したこと、
(五) 旧株式会社ワールドは、広く生活関連事業をトータルファッションとしてとらえて積極的に経営の多角化を推進し、昭和五九年三月頃には、飲食業分野に進出し、ファッション性の高いレストランやカフェテラスを開店する等し、昭和六一年九月頃には、日本信販株式会社と提携し、主に旧株式会社ワールドの顧客を対象に、「ワールドカード」と称するクレジットカードの発行を開始しており、このカードの会員は、日本信販のCD機によるキャッシュサービス等を受けることができ、現在ではカード会員は一〇万人以上に達していること、その他旅行代理店、保険代行業等衣、食、住サービスの生活関連分野において幅広く営業活動を展開していたこと、
(六) 旧株式会社ワールドは、平成元年には、資本金約三〇億円、売上高約一五一二億円、経常利益約一八二億円、社員数約三〇〇〇名、系列会社二〇余社、海外の子会社八社となっていたこと、
(七) 前記一認定のとおり旧株式会社ワールドは株式会社ルイシャンタンと商号変更の上、平成二年六月二九日原告と合併し、原告が存続会社となって旧株式会社ワールドの権利義務を承継し、旧株式会社ワールドの営業及び原告営業表示を全て引き継ぐと共に、旧株式会社ワールドと同様に営業活動、広告宣伝活動を継続していること、右のような商号変更、合併が行われたのは、旧株式会社ワールドの株式が一株一〇〇〇円であったことが、将来上場された場合に不利であるということから、子会社で休眠状態にあり、株式が一株五〇円である原告を存続会社とするためであったこと、
(八) 株式会社毎日コミュニケーションズが、平成四年一月から同年二月までの間に、平成五年三月卒業見込みの全国大学生三七万人に対して行った就職意識調査において、原告は文系総合部門で人気企業の第八八位にランクされたこと、原告は、現在ではアパレル業界の四大会社の一つに数えられていることがそれぞれ認められる。
2 右認定の事実によれば、遅くとも旧株式会社ワールドの年間売上額が一〇〇〇億円を越えた昭和五七年末の時点において、旧株式会社ワールドの存在自体及び原告営業表示が旧株式会社ワールドの営業表示であることが、全国的に広く認識されるに至ったもので、平成元年頃までにはその認識の程度は更に高まったと認められ、その後原告は、旧株式会社ワールドと合併し、その権利義務、営業を承継し、
原告営業表示を引き続き使用し、営業活動を行っているもので、原告営業表示は合併のときから、原告の営業表示として全国的に広く認識されていたものと認めるのが相当である。
3 被告は、原告営業表示の関東地区における周知性を否定し、その根拠として、
周知性を取得するためには、他の営業表示と比べて優越的地位を獲得している必要があるところ、関東地区においては被告営業表示が周知となっていたから、原告営業表示は右の優越的地位が認められるほど周知ではないとし、そのことは昭和五七年頃において「関西急成長衣料品メーカーで平凡社ビルを買った、こんど東京へ進出する」との旧株式会社ワールドについての新聞記事の程度にしか一般に認識されていなかったことや当時の原被告の電話回線数等からも明らかであるなどと主張している。
しかしながら前記1に認定したように、原告営業表示は、遅くとも昭和五七年末の時点において、関東地区を含む全国で周知性を取得したものであり、他方後記のように、被告がその営業表示である「ローンズワールド」により周知性を取得していたとしても、右営業表示は原告営業表示とは類似しないものであったと認められるから、被告の営業表示として「ローンズワールド」が関東地区で周知であることが原告営業表示が周知となることの支障となったものとは認められない。
また、昭和五七年二月当時の新聞記事である甲第三一号証の二ないし四も前記認定を左右するものではなく、更に、成立に争いのない乙第七八号証によれば、被告主張のように、当時、電話帳に記載された東京都二三区内の店舗数は被告の方が旧株式会社ワールドよりもはるかに多かったことが認められるが、これは旧株式会社ワールドは各種衣料品類の卸売りが中心であるのに対し、被告は支店を数多く設けていわゆるサラリーマン金融を行うという両者の営業形態の違いを反映しているものにすぎず、このような電話帳に記載された店舗数の多少によって、前記の旧株式会社ワールド及び原告営業表示の周知性の獲得についての認定が左右されるものではない。
四 請求原因四(被告営業表示)は、当事者間に争いがない。
五 請求原因五中原告営業表示と被告商号の類似性及び請求原因六中被告商号の使用による原告の営業上の施設又は活動との混同のおそれについて検討する。
1 原告営業表示Aは、片仮名の「ワールド」を横書きにしたものであり、この「ワールド」の語が英語の「WORLD」に由来する「世界」、「世界の」等の意味を有する語であることが我が国一般社会において広く知られていることは当裁判所に顕著である。また営業表示Bについては、アルファベットの「WORLD」を横書きにしたものであり、これが、「ワールド」と発音し、「世界」、「世界の」等の意味を有する英語であることが我が国一般社会において広く知られていることは当裁判所に顕著である。更に、原告営業表示Cは、原告営業表示Bの上部に「W」を図案化したものとも解されないではない図形を付け加えた結合標章であることがその表示から明らかであり、その文字部分が、要部となり得ることが認められる。
従って、原告営業表示のそれぞれが、「ワールド」の称呼を生じ「世界」、「世界の」等の観念を有するものと認められる。
2 他方、被告の商号、「株式会社ワールドフアイナンス」中の、「株式会社」の部分は、会社の種類を示すものにすぎず営業表示の要部とはいえない。また、被告の商号中の「フアイナンス」という部分は、「財務」、「金融」、「融資する」等を意味する英語「finance」に由来することは当裁判所に顕著であるから、
金融業等を営む被告の営業の内容自体を意味するものである。
ところで、「ワールド」という語は、「世界」、「世界の」という意味の英語に由来する広く知られた言葉であり、その気宇壮大な、あるいは、発展的な意味から、少なからぬ営業者によって営業表示そのものあるいはその一部として使用されている語であることは当裁判所に顕著であり、現に東京二三区内を見ても前記乙第七八号証、成立に争いのない乙第七ニ号証によれば、相当数の企業が「ワールド」の語そのものを営業表示とし、あるいは「ワールド」の語を含む営業表示を使用していることが認められる。このような状況の中で、原告営業表示が周知性を備えるに至ったことは前記認定のとおりであるが、「ワールド」の語の右のような性質に鑑みれば、「ワールド」の語と営業内容、取扱品目等通常は営業表示の要部となりにくい語が結合した営業表示の場合でも、両者があいまってはじめて独自の識別力を生ずるものとして一般社会に認識されることも認められることであり、そのような場合には両者は不可分のものと認識されるものと認められる。被告商号も、「ワールド」の語と営業内容を示す「フアイナンス」の語が結合した「ワールドフアイナンス」として独自の識別力を有しているのであり、被告商号の要部を認定するに当たって、原告が主張するように「フアイナンス」の部分を除いて、「ワールド」の部分のみを要部と認めるのは相当でない。
即ち、被告商号の要部は「ワールドフアイナンス」の部分にあるものと認められる。
3 そこで、原告営業表示A及びB並びにCの要部と被告商号の要部とを対比する。
原告営業表示A及びB並びにCの要部からは「ワールド」の称呼が生ずるのに対し、被告商号の要部からは一体不可分の「ワールドフアイナンス」の称呼を生じ、
後者は前者を含むけれども、右2に判断したような事情に照らせば両者の間に類似性はないものと認められる。
次に、原告営業表示A及びB並びにCの要部からは「世界」、「世界の」等の観念を生ずるのに対し、被告商号からは「世界の財務」、「世界的金融」等の観念を生じ、両者は類似しないものと認められる。また、原告営業表示Aは「ワールド」という片仮名からなり、被告商号の要部は「ワールドフアイナンス」という片仮名からなり、後者は前者を含むけれども両者の外観の間には類似性はないものと認められ、原告営業表示B及びCの要部と被告商号の要部の外観の間に類似性のないことは自明である。
更に、原告営業表示AないしCと被告商号のそれぞれの全体を対比しても両者の間に類似性は認められない。
4 被告商号の要部である「ワールドフアイナンス」が独自の識別力を有することは前記2に判断したとおりであり、「ワールド」の語が多くの営業者によって営業表示あるいはその一部として使用されている社会の実情に照らせば、被告商号の使用が、取引者は勿論、一般国民もその点を留意して取引に臨むことが予想され、原告の営業上の施設又は活動との混同を生じさせるものとは認められない。
5 そうしてみるとその余の点について判断するまでもなく、原告の請求中、被告商号についてその使用の差止め及び商号登記の抹消を求める部分は理由がない。
六 請求原因五中原告営業表示と被告営業表示の類似性及び請求原因六中被告営業表示の使用による原告の営業上の施設又は活動との混同のおそれについて検討する。
1 原告営業表示のそれぞれが、「ワールド」の称呼を生じ、「世界」、「世界の」等の観念を有することは五1認定のとおりである。
2 被告営業表示(一)は、片仮名の「ワールド」を横書きにしてなるもの、同(二)は、片仮名の「ワールド」を縦書きにしてなるものであり、同(三)ないし(七)は、いずれも「世界のワールド」という文言からなる営業表示であるが、そのうちの(三)は、縦書きの「ワールド」の文字の右肩部分に「ワールド」という文字よりもやや小さい文字で縦書きの「世界の」という文字を加えたもの、(四)は、横書きの「ワールド」という文字の上部に、横書きの「世界の」という文字を「ワールド」とほぼ同じ大きさの文字で加えたもの、(五)は、「世界のワールド」という一連の文字をほぼ同じ大きさで横書きしたもの、(六)は、「世界のワールド」という一連の文字を横書きにしたもので、そのうちの「世界の」という部分が「ワールド」の部分よりもやや小さめの文字で表示されているもの、(七)は、(五)とほぼ同様の表示であり、その文字が(五)よりは肉細のゴチック体であるものである。
右事実によれば、被告営業表示(三)ないし(七)はいずれも「世界のワールド」という文言を様々の態様で表記したものであり、「世界のワールド」という文言がこれら表示の基本的部分であると認められる。
そして「世界のワールド」のうち、「世界の」という部分が、その後に続く「ワールド」という語を修飾する関係にあることは日本語の解釈として何人にも素直に理解できるところであり、しかも、後に続く「ワールド」という語が同じく「世界」という意味を有することも明らかであるから、「世界のワールド」という文言が営業表示として使用された場合、「世界の」という部分は世界的規模の、世界的に知られた、あるいはそのようになることを目指しているという修飾語として付されているに過ぎず、被告営業表示(三)ないし(七)の要部、即ち識別力を有する部分は、「ワールド」の部分にあるものと一般に認識されることが認められる。
そして、被告営業表示(一)及び(二)を構成し、かつ(三)ないし(七)の要部である「ワールド」からは、その文字とおりの称呼を生じることは自明であり、
「世界」、「世界の」等の観念を有することは前記のとおりである。
3 そこで原告営業表示A及びB並びにCの要部と被告営業表示(一)及び(二)並びに(三)ないし(七)の要部とを対比すると、その称呼「ワールド」及び「世界」、「世界の」等の観念が同一であることは明らかである。
次に原告営業表示Aと被告営業表示(一)とはいずれも「ワールド」の片仮名を横書きにしてなるものであって外観においても極めて類似しているものと認められ、被告営業表示(二)は、原告営業表示Aと、「ワールド」の文字を縦書きにしたか横書きにしたかの違いしかなく外観において類似性が認められる。
また、被告営業表示(三)の要部は縦書きにした「ワールド」の部分であり、被告営業表示(四)ないし(七)については、いずれもその要部は横書きにした「ワールド」の部分であり、いずれもこの要部が原告営業表示Aと外観において類似しているものと認められる。
なお、原告営業表示B及びCと被告営業表示(一)ないし(七)との間に外観上の類似性は認められない。
以上のような、原告営業表示と被告営業表示との対比の結果を総合すれば、被告営業表示(一)ないし(七)は、いずれも、原告営業表示AないしCのそれぞれに類似するものと認められる。
4 被告は、原告営業表示は、被告営業表示と外観が異なるとし、更に原告と被告の両者の取引者、需要者の違いや営業形態の違いから、具体的な取引の実情の下において、両者の営業表示の間には類似性がないと主張する。
原告営業表示B及びCと被告営業表示(一)ないし(七)との間に外観類似性が認められないことは右3に判断したとおりである。また、成立に争いのない甲第一四号証の五の三、同号証の六の六、同号証の七の七、乙第一号証ないし乙第六号証の各一、撮影対象は当事者間に争いがなく、証人【B】、同【D】の各証言及び弁論の全趣旨によって提出者主張通りの撮影者、撮影年月日のものと認められる甲第六号証ないし甲第九号証、甲第一四号証の一のニ、三、同号証のニのニ、三、同号証の三のニ、同号証の四のニ、三、同号証の六のニ、三、同号証の七のニ、三、
乙第一号証ないし乙第六号証の各ニ、成立に争いのない乙第七六号証の一、ニによれば、被告営業表示はそのほとんどが、赤地に白抜き文字で表示されており、原告営業表示Aとは色彩、字体において相違しているものと認められるが、被告営業表示自体又はその要部と、片仮名の「ワールド」という文字が共通である以上、両者の外観類似するものと認められる。
そして、右3に判断したとおり、原告営業表示Aと被告営業表示(一)及び(二)並びに(三)ないし(七)の要部とは外観において類似し、称呼、観念において同一であり、原告営業表示B及びCの要部と被告営業表示(一)及び(二)並びに(三)ないし(七)の要部とは称呼、観念において同一である以上、後記6のとおりの原告と被告の主たる営業分野、営業形態の違いを考慮しても、原告営業表示と被告営業表示とは類似の範囲内にあると認めるのが相当であり、被告の主張は採用できない。
5 次に被告営業表示(一)ないし(七)の使用による、原告の営業上の施設又は活動との混同の事実及び混同を生じさせるおそれの有無について判断する。
原告営業表示AないしCは、昭和五七年末当時において全国的に周知の営業表示となっていたものと認められること、原告の営業表示は現在では周知性の程度はより高度になっていると認められることは、前記三1及び2で認定したとおりである。
また、原告営業表示と被告営業表示とが類似するものであることは、右3で判断したとおりであるが、同所で検討したとおり、
その類似の程度は、原告営業表示Aと被告営業表示(一)及び(二)自体並びに(三)ないし(七)の要部の部分とは、文字自体は同一で外観類似しており、称呼、観念は同一であり、原告営業表示B及びCの要部と被告営業表示(一)及び(二)並びに(三)ないし(七)の要部とは、外観においては異なるものの、称呼及び観念の両面において同一である。
そして前記三1認定のとおり旧株式会社ワールド及びこれを承継した原告は、広く生活関連事業をトータルファッション産業としてとらえたうえで、経営の多角化に乗り出し、グループ企業二十数社を有して、飲食業、旅行代理店、保険代行業といった諸事業を行っており、金融に関連する業務として昭和六一年から日本信販株式会社との提携で、金二〇万円を限度としての小額貸付(キャッシング機能)を持つ「ワールドカード」というクレジットカードを発行し、現在はカード会員が一〇万人に達しているものであり、原告を中心とするグループ企業の営業活動の範囲は、各種衣料品の製造販売を中心とするものであるが、単にそれだけに止まらず、
生活関係の広範な事業分野に及んでいるものである。
以上のような原告営業表示の全国的な高度の周知性と原告の営業対象業種の広範な広がり、原告営業表示と被告営業表示との類似性を併せ考えれば、一般的な取引関係者及び需要者としては、時と場所を異にして原告営業表示と被告営業表示に接した場合、両営業表示を使用する営業主体の間にいわゆる広義の混同、即ち、原告と被告との間に親会社子会社の関係や系列関係があるのではないかとの誤解を生じさせるという意味での混同のおそれがあると認めるのが相当である。
証人【A】の証言により成立が認められる甲第七九号証ないし第八六号証及び証人【A】の証言によれば、一般人や営業者で、原告を被告と誤信したり、原告と被告が関連会社であるかと誤信したり、原告がサラリーマン金融の営業をしていると誤信した者が少なからず存在したことが認められ、この事実も、右判断に沿うものである。
6 従って、被告の被告営業表示の使用により、原告の営業上の施設又は活動と混同を生じさせ、これにより原告の営業上の利益が害されるおそれがあるものと認められるから、本訴請求中、被告営業表示の使用差止めを求める部分は理由がある。
7 被告は、原告及び被告の営業の混同のおそれがないと主張する。なるほど被告が主張するように、原告の営業の中心は、各種衣料品の製造、卸売業であり、一部関連会社の経営する小売店以外には一般消費者が来店するものではないのに対し、
被告の営業は、消費者金融であり、首都圏の各支店に金融を求める顧客が来訪するものであるという中心的営業分野の違い、一般消費者の営業への関わり方の差異があることは認められるが、右5で認定したような広義の営業活動の混同については、営業分野や、営業形態の相違を越えての混同を包含するものであるから、被告が主張するような営業分野、一般消費者の営業への関わり方の差異は、原被告間に親会社子会社あるいは系列関係にあるなどとの混同が生じるおそれがあることと否定するものではなく、右のような差異を論拠とする被告の主張は採用できない。
また被告は、「ワールド」という称呼は普遍的であり原告と被告以外にも多く使われているから、そのような状況下では単に営業表示が「ワールド」だからといってすぐに子会社等であると一般人が誤信する可能性があるとは認められないと主張し、相当数の企業が「ワールド」の語そのものを営業表示あるいは営業表示の一部としていることは、前記五2認定のとおりである。
しかしながら、本件全証拠によっても、それらの企業の中に原告と同程度がそれ以上に広く社会に認識された企業があることも、原告程度までには及ばないにしても広く社会に認識されているといえる企業があることも認められないのであり、
「ワールド」の営業表示に接した取引者、需要者は、「ワールド」が一般用語ではなく営業表示を示す状況や表現の文脈の中で、例えば原告の営業表示として不自然な小規模な企業の営業表示であるなど原告以外の企業を示すことが明白であるような特段の事情がある場合を除けば、全国的に高度に広く認識された原告を想起するものと認められる。したがって、首都圏の主要駅、繁華街に支店を設け、大きな看板を掲げている被告の営業表示に接した者は、通常、それが原告の営業表示として不自然な小規模な企業の営業表示でないことを認識した上、5に判断したとおり、
原告と被告の営業表示が、称呼、観念の点において同一であるなど類似性の程度が高いこと、グループ企業としての原告の事業の広がりを考慮すれば、被告営業表示を原告と親会社、子会社あるいは系列の関係にあるものと認識するものと認められ、いわゆる広義の混同を生じるおそれがあるというべきである。
また、前出甲第六号証ないし甲第一三号証、甲第一四号証の一のニ、三、同号証のニのニ、三、同号証の三のニ、同号証の四のニ、三、同号証の六のニ、三、甲第一五号証の一ないしニ五、甲第一六号証の一ないし九、甲第五〇号証及び甲第五一号証の各一、ニ、甲第五ニ号証ないし甲第五四号証の各一ないし三、甲第五五号証、甲第五六号証の一ないし五、甲第五七号証ないし甲第五九号証の各一、ニ、甲第六〇号証、甲第六一号証の一、ニ、甲第六七号証、甲第八七号証、甲第八八号証、乙第一号証ないし乙第六ニ号証の各一、ニによれば、原告営業表示と被告営業表示との間には使用されている文字の種類や書体に差がある外、原告の営業表示は、青地または緑地に白抜き、白地に青、設置場所の背景の色の地に白、図形は青、文字は白等の配色であるのに対し、被告営業表示は、ほとんどが赤地で白抜き文字であること、原告営業表示は、原告や関連会社の所有又は入居するビルの屋上、壁面、入口付近や近隣の街路、スポーツ施設の壁面に掲示されているのに対し、被告営業表示は、主として駅近くの支店が入居したビルの屋上、壁面、窓、袖看板や店舗の扉や入口付近に掲示されたり高速道路周辺のビルの屋上に掲示されているものであることが認められるが、このような外観上の差異、設置場所の違いがあっても、5に判断したように、原告営業表示と被告営業表示は、称呼、観念の点において同一であるなど類似性の程度が高いこと及び原告のグループ企業全体の事業内容が広範に及んでいることなどに照らせば、被告営業表示に時と場所を異にして接した取引関係者、一般需要者において、原告の営業活動といわゆる広義の混同を生じさせるものと認められるというべきである。
次に、昭和五七年当時、消費者金融業者として被告の「ローンズワールド」という営業表示が首都圏において周知であったことは後記七に認定するとおりであるが、右「ローンズワールド」という営業表示は不可分一体のものとして認識されており、これから「ワールド」の部分を要部として認識できず、当時、「ワールド」を要部とする営業表示が被告の営業表示として周知であったとは認められないことも七に判断するとおりである。「ローンズワールド」という過去における被告の営業表示が周知であったことを理由に、現在の被告営業表示の使用によっても、原告の営業活動と広義の混同を生じないとすることはできない。
また、被告が昭和六三年から平成元年にかけて、順次右「ローンズワールド」という営業表示から現在の被告営業表示に切り替えて今日に至ったものであり、切り替え当初はともかく今日では、被告営業表示は、東京、神奈川、千葉、埼玉のいわゆる首都圏において一般にかなり認識されるようになっていることは後記七のとおりであるが、「ワールド」の語が多くの営業者によって営業表示そのものあるいは営業表示の一部として使用されていることを考慮しても、被告営業表示が、全国的に高い周知性を有する原告営業表示と混同を生じないほどまでに広く認識されるに至ったと認めるに足りる証拠はなく、ましてや全国各地と首都圏との人的往来の活発な今日、被告営業表示がほとんど知られていない首都圏以外から首都圏を訪ねるきわめて多数の人が被告営業表示に接したときは、原告営業表示と広義の混同を生ずるおそれがあることは明らかであり、被告営業表示が周知であるとして、原告の営業活動と混同を生ずるおそれはないとの被告の主張は採用できない。
七 被告の権利の濫用の抗弁について検討する。
1 前記甲第六号証ないし甲第九号証、甲第一四号証の一のニ、三、同号証のニのニ、三、同号証の三のニ、同号証の四のニ、三、同号証の五の三、同号証の六のニ、三、六、同号証の七のニ、三、七、乙第一号証ないし乙第六ニ号証の各一、
ニ、乙第七六号証の一、ニ、成立に争いのない乙第六三号証ないし乙第六五号証、
乙第七四号証、証人【A】の証言により成立を認める甲第七〇号証、弁論の全趣旨により成立を認める乙第六六号証、乙第六八号証言並びに証人【D】の証言によれば、
(一) 被告は、その前身の会社が昭和四一年頃から営んでいた金融業から出発し、昭和五一年七月頃から「ローンズワールド」の営業表示を使用して、いわゆるサラリーマン金融を営むようになったが、当時の支店は五店舗であったこと、
(二) その後支店数は急速に増え、昭和五四年には五〇店舗、昭和五六年には一〇〇店舗、昭和五七年末には二〇〇店舗、昭和五八年末には三〇〇店舗にまで達したが、そのほとんどが、東京都内を中心とし、神奈川、千葉、埼玉各県の首都圏に位置し、その他は群馬県に二店、茨城県と北海道に各一店舗ある程度で、関東地区の支店数は同業他社の中で最多であったこと、
(三) 被告は、遅くとも昭和五三年頃から営業表示として、赤地に白抜き文字で横書きにした「ワールド」の左上の部分にそれよりも小さい白抜き文字で「ローンズ」と記載した「ローンズワールド」という文字、赤字に白抜き文字で縦書きにした「ワールド」の右上の部分にそれよりもやや小さい白抜き文字で「ローンズ」と記載した「ローンズワールド」という表示の大きな看板を支店の入居しているビルの屋上や壁面、窓、高速道路の近くのビルの屋上などに順次設置していったこと、
(四) 右のような被告の支店数の増加による営業活動や宣伝広告により遅くとも昭和五七年末には、東京都と神奈川、千葉、埼玉三県の首都圏において右の「ローンズワールド」なる文字を表した営業表示は、消費者金融業の分野における被告の営業表示として周知となっていたこと、
(五) 被告は、昭和六〇年に至って、消費者金融業界全体の支店数整理の傾向に沿って、支店を首都圏の六〇店舗以下に削減し、それに伴い支店の入居しているビルに掲示されている営業表示も減ったこと、
(六) 被告は、昭和六三年頃、従前の「ローンズワールド」という営業表示から現在の被告営業表示(一)ないし(七)に変更することとし、同年春頃から平成元年頃にかけて、順次従前の営業表示から「ローンズ」の部分を除去して、被告営業表示(一)、(二)に変更して行ったこと、
(七) 現在の被告の資本金は二億八〇〇〇万円、支店(営業店)数四四店、従業員約三三〇名で消費者金融業界の大手六社と呼ばれる同業者と比べると企業の規模は小さいこと、
が認められる。
2 ところで、五に判断したとおり「ワールド」と言う語は、多くの営業者によって営業表示そのもの、あるいはその一部として使用されている語であり、「ワールド」の語と、営業内容、取扱品目等通常は営業表示の要部となりにくい語が結合した営業表示の場合、両者があいまってはじめて独自の識別力を生ずるものとして一般社会に認識されることも認められることであり、そのような場合には両者は不可分のものと認識されるものであるところ、被告が元使用していた「ローンズワールド」という営業表示も「ワールド」の語と営業内容を示す「ローンズ」が結合した「ローンズワールド」として独自の識別力を有し、周知となっていたものであり、
「ローンズ」を除いた「ワールド」のみが当時の被告の営業表示として識別力を有していたとも、「ワールド」の部分が被告営業表示として周知であったとも認められない。
従って、被告が「ローンズワールド」の営業表示を使用していた段階では、原告の営業活動と混同を生じていなかったものである。
その後、昭和六三年頃から現在の被告営業表示の使用を開始して今日に至ったことは右認定のとおりであるが、使用開始から間もない本件訴訟提起の当時被告営業表示が一般に認識されていたとは認められず、その後は被告の支店自体昭和五〇年代後半に比べると五分の一以下に激減していること、前記のような「ワールド」の語自体の性質に加えて、「ローンズ」あるいは「フアイナンス」等の営業内容を示す語を伴わないことによる識別力の低下、消費者金融業者が競って極めて活発な営業活動、広告宣伝活動を行い、良くも悪しくも社会の注目を集めていた昭和五〇年代のような社会状況にないことを併せ考えれば、今日でも首都圏においては被告営業表示は一般にかなり認識されているものの、全国的に周知な原告の営業表示と混同を生ずる余地がないほどに独自の識別力を有するものとして広く認識されているものとはいうことができず、更に、首都圏以外の地域においては被告営業表示はほとんど知られていないものという外はない。
そうすると、被告が昭和六三年から平成元年三月にかけて現在の被告営業表示に変更したことが、原告の営業活動との間に広義の混同をもたらしたものであるとはいえても、被告商号及び被告営業表示が広く知られている金融市場に原告が類似の営業表示をもって乱入してきたとも、被告営業表示が関東地区において周知性を有しているものとも認められないので、権利濫用の抗弁は採用できない。
八 以上によれば、原告の本訴請求は、被告営業表示(一)ないし(七)の使用の差止めを求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法89条92条本文を適用し、仮執行宣言は相当でないから付さないこととして、主文のとおり判決する。
第一目録 (被告の営業表示)<9235-001><9235-002><9235-003><9235-004>第二目録<9235-005>