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関連ワード 周知表示混同惹起行為(2条1項1号) /  顧客吸引力(グッドウィル) /  周知性 /  広く認識 /  需要者 /  商品等表示 /  類似性(類似) /  外観 /  呼称 /  観念 /  印象 /  記憶 /  連想 /  混同のおそれ(混同) /  表示の使用 /  先使用 /  差止請求(差止) /  営業上の利益 /  侵害 /  代理人 /  代表者 /  混同のおそれ(混同) /  品質等誤認表示(誤認) / 
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事件 平成 17年 (ワ) 966号 商号使用差止等請求事件
東京都中央区〈以下略〉
原告 国際興業株式会社
同訴訟代理人弁護士 石田茂千葉県香取郡〈以下略〉
被告 エヌケーケー株式会社
同訴訟代理人弁護士 伊東章
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2006/03/15
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用については,本件第10回弁論準備手続期日以降に生じた費用を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,「成田国際興業株式会社」との商号を使用してはならない。
2 被告は,雑誌などの広告媒体において,「成田国際興業」その他「国際興業」を含む標章を使用してはならない。
3 被告は,千葉地方法務局八日市場支局平成16年1月27日受付をもってした本店移転登記中,「成田国際興業株式会社」の商号の抹消登記手続をせよ。
事案の概要
本件は,「国際興業株式会社」の商号及び「国際興業株式会社」等の商標を使用する原告が,原告の同商号及び商標は周知な商品等表示であるとして,2「成田国際興業株式会社」の商号及び「成田国際興業」という表示を使用していた被告の行為は,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当し,今後も同様の不正競争行為により原告の営業上の利益侵害されるおそれがある旨主張して,同法3条1項に基づき,被告の上記商号及び表示の使用差止め及び同商号の抹消登記手続を求めたのに対し,被告が,本件訴訟の係属中に,商号を変更するなどして,前記商号や表示の使用をやめたから,不正競争行為の事実はなく,原告の営業上の利益侵害されるおそれもないなどと反論して争う事案である。
1 前提となる事実等(争いがない事実以外は証拠を末尾に記載する。)(1) 原告の商品等表示原告は,「国際興業株式会社」の商号(以下「原告商号」という。)を用いて,一般乗合旅客自動車,一般貸切旅客自動車,一般乗用旅客自動車,特定旅客自動車による各運送事業,不動産の売買,都市計画法に基づく地域開発,旅行業法に基づく旅行業及びホテル業等を営む株式会社である(甲1)。
また,原告は,別紙商標目録記載(1)ないし(5)の各商標権を有し,同目録記載の各商標権に係る標章(以下,別紙商標目録記載の順に,各商標権に係る標章を「原告標章1」「原告標章2」などという。また,原告標章1ないし原告標章5を総称して,「原告各標章」という。)を使用して,上記事業を営んでいる(甲2〜6(各枝番を含む。以下同じ。))。
したがって,原告は,原告商号及び原告各標章を,原告の営業を示す商品等表示として使用している。
(2) 被告の営業表示の使用ア 被告は,昭和61年6月7日の設立時には,商号を「有限会社サン・コスモ」,事業目的を在宅介護サービス,建築物及び庭の清掃要員の派遣,ゴルフ会員権の売買及びゴルフ会員権の募集代理等としていたが,その後,本店を,東京都中央区から千葉県東金市に移転し,「サン・コスモ・サー3ビス株式会社」への組織変更及び千葉県富里市への本店移転を経て,平成16年1月,その商号を「成田国際興業株式会社」とし,その事業目的を,現在のものと同じ,一般旅客自動車運送事業,一般乗用旅客自動車運送事業,一般貨物自動車運送事業,貨物運送取扱事業,旅行業等に変更するとともに,代表者を現代表者の飯田忠光と変更した。また,同月,前記肩書地に本店を移転した。
イ 被告は,平成16年1月ころから,その営む一般旅客自動車運送事業等の営業を表示する商品等表示として,登記された商号である「成田国際興業株式会社」(以下「被告旧商号」という。)を使用するとともに,インターネットのウェブサイト等の広告媒体において「成田国際興業」という表示(以下「被告旧表示」という。)を使用し,これらの使用は,後記(3)のとおり商号の変更をするまで続けられた(以下,被告による被告旧商号及び被告旧表示の使用を「被告表示行為」という。)。
(3) 本件訴訟の提起とその後の経過原告は,被告に対し,平成17年1月20日,前記第1記載のとおりの判決を求めて本件訴訟を提起し,同月29日,被告に訴状が送達された。被告は,同年2月28日の第1回口頭弁論期日において,請求棄却を求める旨の答弁書を擬制により陳述した。その後,本件は,弁論準備手続に付されたが,同年3月30日の弁論準備手続期日において被告が準備書面に基づく主張を陳述した後は,弁論準備手続期日での主張や書証の取調べはされずに推移し,和解に向けた話合いや検討が行われ,被告に対し,被告旧商号や被告旧表示を変更する方向で検討するように伝えられるなどした(当裁判所に顕著な事実)。
被告は,本件訴訟の係属中である平成17年10月4日に,「成田国際興業株式会社」の被告旧商号を現商号である「エヌケーケー株式会社」に変更し,同日,変更登記手続をした。また,被告は,インターネット上で,従来4使用していた「成田国際興業株式会社」の被告旧表示を「エヌケーケー株式会社」に変更したほか,タクシー及びバスの車両並びに営業所建物に付していた「成田国際興業株式会社」の表示を同年10月中に抹消し,同年11月中には,関東運輸局長に対し,一般乗用旅客自動車運送事業及び一般貸切旅客自動車運送事業の商号変更の届出を行い,所有又は使用する車両の登録の所有者又は使用者の名称についても「エヌケーケー株式会社」に変更した(乙1〜5(乙4及び5は枝番を含む。以下同じ。))。
被告は,同年10月20日の第9回弁論準備手続期日において,被告旧商号の変更の事実を,さらに,同年11月11日の第10回弁論準備手続期日において,事業車両等の表示の抹消等,すべての被告旧商号及び被告旧表示の抹消又は変更の事実を,それぞれ明らかにするとともに,平成18年1月23日の第11回弁論準備手続期日において,営業上の利益侵害されるおそれがないとして,原告の請求を棄却するよう主張した(当裁判所に顕著な事実)。
2争点(1) 被告表示行為が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当するか(争点1)。
(2) 原告の営業上の利益侵害されるおそれ(同法3条1項)があるか(争点2)。
3 争点についての当事者の主張(1) 争点1(被告表示行為が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当するか)について(原告の主張)ア 周知性(ア) 原告は,昭和12年の設立以来,原告商号を原告の営業を示す商品等5表示として用いて事業を営んでいるが,平成15年7月の時点で,事業用車両として,乗合バス838台,貸切バス101台,タクシー563台を有し,路線バス事業においては,東京都北部及び埼玉県南部を運行エリアとして300近い系統を有し,利用者は,1日当たり約24万人に達し,タクシー業を含む年間輸送人員は,9171万人となっている。
ホテル事業では,八重洲,甲府,大阪にホテルを有している。
さらに,ゴルフ場事業では,三島,勝沼に,不動産開発事業では,福岡,盛岡,八千代にその事業を広げている。
原告の平成15年3月期の年間売上高は,511億3500万円である。
(イ) 原告は,「株式会社国際興業大阪」,「株式会社国際興業神戸」等とともに国際興業グループを形成し,原告標章3及び4を用いているが,同グループを構成する会社は約50社に及び,グループ各社は,北海道,東北,関東,近畿地方に所在し,日本全国に広がっている。
原告を除く国際興業グループ各社の事業用車両の保有台数は,平成15年7月の時点で乗合バス1081台,貸切バス335台,タクシー427台,電車7両,遊覧船4隻となっている。
グループ全体の平成15年3月期の年間売上高は,2246億円である。
また,原告を含むグループ全体で宿泊施設数27か所,宿泊室数8371室を有し,年間輸送人員は,1億3200万人,年間宿泊人員は,465万人となっている。
(ウ) このように,原告商号及び原告各標章は,日本国内において広く知られ,原告の営業又は役務を表示するものとして,需要者の間に広く認識されている。
類似性6被告旧商号及び被告旧表示のうち,重要部分は「国際興業」であるから,原告商号及び原告各標章と,被告旧商号及び被告旧表示との類似性は明白である。
混同のおそれ原告には,「株式会社国際興業大阪」や「株式会社国際興業神戸」というグループ会社が存在しているところ,被告は,原告の知名度,顧客吸引力を利用し,自らの収益を増大させるため,「成田国際興業株式会社」との類似商号を用い,一般人に原告のグループ会社であるかのような誤認,混同を招いている。
そのため,被告と取引する者は,被告が原告のグループ会社であると誤認するおそれがある。
また,被告のこれまでの商号及び営業表示の使用状況によれば,被告は,「成田国際興業株式会社」以外にも,「国際興業」を含む表示を使用するおそれがある。
(被告の反論)ア 周知性原告の主張によっても,「国際興業」の名称,表示は,東京と埼玉の一地域及び大阪,神戸において周知されている程度のものであって,それが全国規模で周知性を有するものとは到底いえない。
特に,千葉県内においては,原告の社名,「国際興業」なる表示はほとんど知る者もいない状況である。
イ(ア) 原告の商号・商標として使用されている「国際興業」の表示自体は,格別固有の意味を有する名称ではない。同表示のうち,「国際」という表示は,いわゆる国内を越えた世界という空間を表す一般用語であり,「興業」という名称も,業務の種類を表現する一般的な名称にすぎない。
「国際興業」なる名称は,単にそのような一般的概念を組み合わせた7だけの表示であり,それに「東京」あるいは「成田」等の固有名詞がつくことによって初めて特定の固有名詞となるものであって,「国際興業」の表示のみで,法が万能の権利を付与する名称というにはほど遠い。
(イ) 被告が,会社名を「成田国際興業株式会社」としたのは,以下の経緯による。
被告の関連会社に「大功自動車興業株式会社」というバス会社があるが,同社の営業の本拠地が成田国際空港近辺であったため,同社の所有するバス18台すべての車体には「成田国際空港」という標章が付されていた。
「大功自動車興業株式会社」は,千葉県富里市を基盤とする会社であったが,新たに被告代表者の出身地である千葉県香取郡多古町を本拠地とする運送会社が必要になったため,同社の有していたバス18台のうち,小型バス5台及びハイヤータクシーを利用した新会社を設立することとした。
そこで,商号を選択するに当たって,「成田国際空港」という標章のうちの「成田国際」と「大功自動車興業株式会社」の「興業」をそれぞれ流用して,「成田国際興業株式会社」と命名したものである。
(ウ) 被告は,このような経緯から「成田国際興業株式会社」の商号を選択したものであり,千葉県内においては「国際興業」なる名称を有する企業も存在していないこと,専ら成田空港周辺での顧客運送営業を念頭においていること等からしても,原告の営業上の利益侵害する意図など全くなく,将来そのようなおそれが生じる可能性も全くない。
(エ) 不正競争防止法2条1項1号の目的は,主として国内外で幅広く活動 する事業者間の公正な競争を確保するために,商号に関して,商法で定められている同一市町村内という制約を取り払い,場所的には無制約に商号の先使用者の利益を擁護しようというものである。
8そうすると,不正競争防止法の同規定の効力は,商法の規定(商法19条ないし22条)よりも強力なものであるから,ここで不正競争というためには,その違法性が相当強いことが求められる。また,不正な目的というのは,文字どおり「不正な」ものである必要があるのであって,単に表面的に商号が類似しているというだけで不正目的を認めるべきではなく,明らかに既存の事業者の使用する商号と同一又は類似の商号使用が,不正,不法な目的を有している場合に限定されるべきである。
(2) 争点2(原告の営業上の利益侵害されるおそれ(不正競争防止法3条1項)があるか)について(原告の主張)被告による被告旧商号及び被告旧表示の使用により,原告の営業上の利益侵害され,又は侵害されるおそれが存在した。
そして,被告は,被告旧商号を変更し,自己の営業を示す商品等表示として使用していた被告旧商号及び被告旧表示の各表示を変更したが,被告は,裁判所の勧告に応じて和解をする素振りを見せながら,原告が和解協議に応じたことを奇貨として,不正競争防止法に基づく敗訴判決を避けることに腐心し,事実上,登記手続等を履践したものにすぎない。
加えて,被告が,「成田国際空港」との営業表示を用いるなど,第三者の権利に無頓着で遵法精神を持ち合わせていないことにかんがみれば,今後,原告商号及び原告各標章と類似商品等表示を使用することによって,原告の営業上の利益侵害されるおそれは非常に大きく,その予防を請求することが認められるべきである。
(被告の反論)被告は,前記1(3)記載のとおり,現在,原告商号及び原告各標章に類似する商号,標章は,一切使用していない。
このため,原告が本件で請求している被告の作為義務は,既に履行され,9不作為義務についても,事実上義務が履行されたのであって,現時点において,原告の営業上の利益侵害されておらず,また,将来侵害されるおそれもない。
当裁判所の判断
1 争点1(被告表示行為が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当するか)について(1) 原告商号及び原告各標章の周知性ア 前記前提となる事実並びに証拠(甲1ないし8(甲2ないし8はいずれも枝番を含む。))及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
(ア) 原告は,昭和12年9月に設立され,昭和15年の創業後,原告商号をその営業を示す商品等表示として用いている(甲7,8(いずれも枝番を含む。以下同じ。))。現在の原告の事業目的として登記されているものは,一般乗合旅客自動車,一般貸切旅客自動車,一般乗用旅客自動車,特定旅客自動車による各運送事業,不動産の売買,都市計画法に基づく地域開発,旅行業法に基づく旅行業及びホテル業,及びゴルフ場,ゴルフ練習場等の経営等である(甲1)。
また,原告は,原告各標章に係る商標権を有し,その営業を示す商品等表示として,原告各標章を使用している(甲2ないし6)。
(イ) 原告は,一般乗合旅客自動車等の運送事業に当たり,事業用の車両として,乗合バス838台,貸切バス101台,タクシー563台,ハイヤー42台を保有し,路線バス事業においては,東京都北部及び埼玉県南部地域において300近い系統を運行しており,利用者は,1日当たり約24万人に達し,タクシー業を含む年間輸送延人員は,9171万人に及んでいる。
10また,原告は,本店所在地が東京都中央区八重洲であるが,全国に事業を展開しており,ホテル事業では,上記八重洲,甲府市,大阪市において,ホテルを経営している。さらに,ゴルフ場事業では,静岡県駿東群長泉町,山梨県東山梨郡勝沼町(現甲州市勝沼町)において,それぞれゴルフ場を所有し(なお,原告は,海外においても,複数のホテルや,ゴルフ場を経営している。),不動産開発事業では,福岡市,東京都八王子市,盛岡市,千葉県八千代市などにおいて,住宅地の開発・分譲,あるいは土地区画整理事業などを行っている。
原告の平成15年3月期の年間売上高は,511億3500万円である。
(いずれも平成15年7月時点。甲7,8の2)(ウ) 原告を中心とする国際興業グループは,「株式会社国際興業大阪」,「株式会社国際興業神戸」等を始めとして約50社で構成され,グループ各社は,北海道,東北,関東,近畿地方に所在している(平成16年3月時点。甲8の3。なお,海外に所在している会社もある。)。
原告を含む国際興業グループ全体では,平成15年7月の時点で,乗合バス1919台,貸切バス436台,ハイヤー・タクシー1032台,トラック850台,教習車87台(うち原告42台),電車7両,遊覧船4隻を有しており,年間輸送延人員は,1億3200万人(うち原告9171万人)となっている。また,国内宿泊施設数19か所(海外8か所),国内宿泊室数2115室(海外6256室)を有し,国内年間宿泊人員は,109万人(海外356万人)である(甲8の1,2)。
さらに,グループ全体の平成15年3月期の年間売上高は,2246億円である(甲8の1,2)。
イ 上記認定事実を総合すれば,原告は,多様な事業を日本国内のみならず海外においても展開する日本でも有数の規模の大企業であって,原告が自11己の営業を示すものとして使用している商品等表示である原告商号及び原告各標章は,原告の営業又は役務を表示するものとして,需要者の間に広く認識されている周知の商品等表示であると認められる。
被告は,千葉県内において,原告商号や原告各標章を知る者はほとんどいない旨主張するが,前記認定事実に照らせば,同主張を採用することはできない。
(2) 原告商号及び原告各標章と被告旧商号及び被告旧表示の類否商品等表示類似性は,取引の実情のもとにおいて,取引者又は需要者が,両者の外観,呼称,又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるか否かを基準として判断すべきものである(最高裁昭和58年10月7日第二小法廷判決・民集37巻8号1082頁参照)。そして,その場合の比較対照は,双方の商品等表示において自他識別機能を有する要部を抽出して行われるべきであると解される。
そこで,検討するに,原告商号並びに原告標章1及び5のうち,「株式会社」という部分は,会社の種別を示す部分であり,原告標章2のうち,「Bus」という部分は,当該標章が登録されている指定役務が「バスによる輸送」であるから,当該指定役務を英語で示すものということができる。そして,原告標章3及び4のうち,「グループ」という部分も,企業グループであることを示すための一般的な用語である。そうすると,原告商号及び原告各標章については,自他識別機能を有する要部は「国際興業」の部分(原告標章2については「Kokusai Kogyo」の部分)であるということができる。
他方,被告旧商号である「成田国際興業株式会社」のうち,「株式会社」という部分は,会社の種別を示す部分であって,自他識別機能を有するものではない。また,被告旧商号及び被告旧表示の「成田」の部分は,被告の本店所在地近傍の「成田」という地名を想起させ(被告の関連会社が用いていた「成田国際空港」という表示の一部を利用したという被告説明によっても,12「成田」の部分が地名を示すものということができる。),本店所在地や営業場所の地名を商品等表示に付すことは,一般的に多く行われており,同様に,自他識別機能を有するものではない。これらのことに照らせば,被告旧商号及び被告旧表示の要部は,「国際興業」という部分というべきである。
そこで,原告商号及び原告各標章と,被告旧商号及び被告旧表示を比較対照すると,それぞれの要部である「国際興業」の部分が同一であり(原告標章2の「Kokusai Kogyo」と比較しても,呼称及び観念に基づく印象は同一である。),類似するものと認められる。
(3) 混同のおそれ不正競争防止法2条1項1号にいう「混同を生じさせる行為」とは,自己と他人を同一営業主体と誤信させる行為のみならず,両者の間にいわゆる親会社,子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係が存するものと誤信させる,いわゆる広義の混同を生じさせる行為をも含むものである。
被告旧商号である「成田国際興業株式会社」との表示は,原告商号及び原告各標章の「国際興業」に,会社の種別である「株式会社」及び地名を想起させる「成田」が付されている点以外は同一(原告標章2についても,前記(2)のとおり,類似するものと認められる。)であって,原告の事業内容が前記(1)のとおり多岐にわたり,被告と同様の運送事業をも対象としていることも併せて考慮すれば,一般人に,被告が,「原告と何らかの関係を有する成田地域における企業」であるかのような誤認,混同を招くものと考えられる。
したがって,被告が,商品等表示として,被告旧商号である「成田国際興業株式会社」及び被告旧表示である「成田国際興業」を使用する被告表示行為は,原告の営業と「混同を生じさせる行為」に該当する。
(4) 以上からすれば,被告表示行為は,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当する(なお,被告は,同号の不正競争行為に該当するというためには,商品等表示類似性等の前記各要件を満たすことに加えて,更に不13正な目的を有することを要すると主張するが,そのように限定を付すべき合理的根拠はなく,上記主張を採用することはできない。)。
2 争点2(原告の営業上の利益侵害されるおそれ(不正競争防止法3条1項)があるか)について(1) 前記1で述べたところからすれば,被告が,被告旧商号である「成田国際興業株式会社」及び被告旧表示である「成田国際興業」を,その営業を表示する商品等表示として使用していた被告表示行為は,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当するものであり,その類似性の程度や,原告及び被告の事業内容の類似性に照らせば,前記前提となる事実(3)記載の,被告旧商号の変更等がされる前においては,被告の同行為により,原告の営業上の利益侵害され,又は,侵害されるおそれがあったと認められ,原告の請求は認容されるべきものであったといえる。
(2) しかし,前記前提となる事実(3)記載のとおり,被告は,平成17年10月4日,その商号を現商号である「エヌケーケー株式会社」に変更し,同日,変更登記手続をし,その後,使用していた被告旧商号及び被告旧表示をすべて抹消し,あるいは,「エヌケーケー株式会社」に変更したことが認められる。
(3) そこで,被告が被告旧商号等を変更した後の状況において,商号の抹消登記手続を求める請求については,対象となる登記が存在していないことから理由がないことになるが,その余の差止請求の可否について,原告の営業上の利益侵害されるおそれがあるといえるか否かが問題になるところ,前記前提となる事実(3)のとおり,被告による表示等の変更は,被告旧商号や被告旧表示を一時的に取りやめたとか,表示を暫定的に隠す手だてを施したというものではなく,商号の変更登記手続や,運送事業に関する運輸局長への届出を行い,事業車両等の表示も抹消し,インターネットのウェブサイト上の表示も変更したというものであって,今後,被告表示行為が行われる蓋然性14が高いとはいえないから,原告の営業上の利益侵害されるおそれがあるということはできないと解される。
原告は,被告の訴訟手続(特に和解協議時)における対応や,被告が「成田国際空港」との営業表示を用いるなど,被告が,第三者の権利に無頓着であること等からすれば,今後も,被告が原告の商品等表示類似商品等表示を使用することによって,原告の営業上の利益侵害されるおそれは大きいと主張する。
しかし,訴訟上の和解に応じるか否かなど,訴訟手続における対応は,双方の当事者が,それぞれ種々の事情を総合的に考慮して判断するものであるから,本件で,被告が和解に応じず,和解協議が始められて半年程度が過ぎた後に自ら被告旧商号及び被告旧表示を抹消又は変更するに至ったことをもって,被告が再び原告の商品等表示類似する商品等表示を使用する可能性が大きいということはできないし,被告の関連会社(被告は被告の関連会社による使用であると主張する。)が,従前,他社の商品等表示類似する商品等表示を用いていたとしても,そのことが前記可能性に直ちに影響するものではない。
また,既に商号の変更登記手続を行うなどの作業を行った被告が,再度こうした手間と費用をかけて被告表示行為に及ぶということはにわかに想定し難いところである。
したがって,原告の営業上の利益侵害されるおそれがあるとまで認めることはできず,この点に関する原告の主張は採用できない。
3 以上のとおりであるから,原告の請求は,いずれも理由がないから棄却し,訴訟費用については,前記前提となる事実(3)の経緯にかんがみ,民事訴訟法62条を適用して,本件第10回弁論準備手続期日以降に生じた費用は原告の負担とし,その余の費用は被告に負担させることが相当であると認め,その旨定めることとして,主文のとおり判決する。
15
裁判長裁判官 清水節
裁判官 山田真紀
裁判官 片山信