審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
---|---|---|
平成16ワ24574商号使用差止等請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成15ワ11512不正競争行為差止等請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成15ワ7208不正競争行為差止請求事件 平成15ワ7993不正競争行為差止請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
関連ワード | 周知表示混同惹起行為(2条1項1号) / 広く認識 / 商標登録 / 登録商標 / 需要者 / 商品等表示 / 類似性(類似) / 外観 / 観念 / 混同のおそれ(混同) / 出所の混同 / 表示の使用 / 誤認混同 / 営業上の利益 / 過失 / 共同不法行為 / 因果関係 / 侵害 / 代理人 / 正当な理由 / デッドコピー / 識別力 / 混同のおそれ(混同) / 品質等誤認表示(誤認) / 損害賠償 / 推定 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|---|
元本PDF | 裁判所収録の別紙1PDFを見る |
事件 |
平成
17年
(ワ)
24370号
損害賠償等請求事件
|
---|---|
原告 株式会社平和 訴訟代理人弁護士 鎌田真理雄 訴訟復代理人弁護士 辻哲哉 被告 ライド株式会社 訴訟代理人弁護士 小林郁夫 |
|
裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2006/04/26 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 被告は,原告に対し,平成17年9月26日ころ被告のサーバにおいて「pro-heiwa.jp」というウェブページを開設していた者につき,次の情報を開示せよ。 (1) 契約者の氏名又は名称及び住所(住所は契約時のもの及び変更後のもの),(2) 契約料金の請求書の送付先の氏名又は名称及び住所(いずれも変更後のもの),(3) 上記契約者の担当者の氏名,住所及び電子メールアドレス(電子メールアドレスは契約時のもの及び変更後のもの)2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを20分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
請求
1 被告は,原告に対し,平成17年9月26日ころ被告のサーバにおいて「pro-heiwa.jp」というウェブページを開設していた者につき,次の情報を開示せよ。 (1) 主文第1項(1)に同じ(2) 主文第1項(2)に同じ(3) 主文第1項(3)に同じ(4) 被告のサーバに別紙ウェブページ目録記載の情報が送信された年月日,時刻及び同送信時におけるIPアドレス2 被告は,原告に対し,1000万円及びこれに対する平成17年9月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
|
事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,被告のレンタルサーバに保存されたウェブページから不特定の者に送信された情報により,原告の有する商標権が侵害され,又は不正競争防止法2条1項1号・2号上の原告の営業上の利益が侵害されたと主張して,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,発信者情報の開示を求めるとともに,原告からの通知後直ちに被告が上記ウェブページからの発信を停止しなかった行為につき,商標権侵害(不法行為)及び不正競争防止法4条に基づく損害賠償を,発信者情報の開示が遅れた行為につき,不法行為に基づく損害賠償をそれぞれ請求した事案である。 1前提事実(1) 当事者ア原告原告は ぱちんこ遊技機 回胴式遊技機(以下 それぞれ パチンコ機 スロッ ,, ,「」 ,「ト機」という。)等の開発・製造・販売等を行う株式会社である。 イ被告被告は,インターネットを利用した情報通信システムの企画,開発,設計,運営管理,ドメイン取得代行,レンタルサーバの提供等を行う株式会社である。 (いずれも争いのない事実)(2) 本件ウェブページア 本件ウェブページの開設(ア) 被告は,インターネット上で不特定の者に対する送信を行うことを目的とするレンタルサーバを保有し,平成17年8月ころ,ある者(以下「本件契約者」という。)とレンタルサーバ契約を締結し,同契約に基づき,被告保有のレンタルサーバに別紙ウェブページ目録記載の情報を送信させ,インターネット上に同目録記載のウェブページ(以下「本件ウェブページ」という。)を開設させた。 (争いのない事実,甲4,5の1〜3,9,38,弁論の全趣旨)(イ) したがって,被告は,本件ウェブページに関し,プロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に該当する。 イ 本件ウェブページの内容本件発信者は,本件ウェブページにおいて 「Project HEIWA 「プロジェクトヘ ,」イワ」(以下,順に「本件アルファベット表示 「本件カナ表示」といい,両者を 」「」。 ,, 「」 併せて 本件各表示 という )との名称で パチンコ機 スロット機の 打ち子を募集し,登録した「打ち子」には「メーカー情報」を含むパチンコ機,スロット機の攻略情報を提供するとの内容を掲載していた。 (争いのない事実,甲4,6,弁論の全趣旨)ウ 技術的可能性被告が本件ウェブページから不特定の者に情報が送信されることを防止する措置を講ずることは,技術的に可能である(プロバイダ責任制限法3条1項柱書)。 (弁論の全趣旨)(3) 本件商標権原告は,以下の商標権(以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本件登録商標」という。)を有する。 商標登録番号 第4128717号登録商標 別紙商標目録のとおり商品及び役務の区分 第41類指定役務 技芸・スポーツ又は知識の教授,(以下省略)登録日 平成10年3月27日出願日 平成8年4月24日(争いのない事実)(4) 原告と被告との交渉経緯等ア 原告から委任を受けた鎌田真理雄弁護士は,被告に対し,平成17年9月26日到達の内容証明郵便で,次の内容の通知をした(以下,この通知書を「本件通知書」という。)。 @原告が本件商標権を有していること,A本件ウェブページが公開され,本件各表示が使用されていること,B本件各表示は,本件登録商標と商標及び指定役務が同一又は類似であり,本件商標権を侵害すること,「」,「」 , C原告の周知・著名な商品等表示である HEIWA 平和 と同一又は類似であり不正競争防止法2条1項1号・2号の不正競争行為に当たること,D被告による本件ウェブページの公開の継続は共同不法行為を構成するから,被告に対し,本件通知書到達後7日以内に,本件ウェブページの閉鎖に応諾する旨の書面による回答,本件ウェブページの閉鎖及び本件発信者についての情報提供を要求すること(争いのない事実)イ 小林郁夫弁護士は,同月29日,被告から本件に関する委任を受け,原告代理人である鎌田弁護士に対し,同日に被告から受任したが,被告との打合せが未, 。 了なので 回答期限を同年10月7日まで延期する旨依頼するファクスを送信した(争いのない事実,乙4,弁論の全趣旨)ウ さらに,小林弁護士は,鎌田弁護士に対し,同月4日ころ到達の内容証明郵便で,被告の行為が商標権侵害,不正競争行為に該当する理由を各法律要件ごとに詳述することを求める旨の通知をした。 (甲18)エ 被告担当者は,本件通知書受領後,直ちに本件発信者と電話で連絡を取ろうと数多く試み,だれも電話に出なかったり,事情が分からない人が応答したりといった理由で,なかなか連絡が付かなかったが,同月6日,本件契約者と連絡を取ることができ,本件ウェブページからの送信を停止することの了承を得た上,直ちに停止の措置を執った。 (争いのない事実,乙4,弁論の全趣旨)(5) 開示を受けるべき正当な理由ア 本件ウェブページに表示された「プロジェクトヘイワ」なる法人は,本件ウェブページに表示された六本木の住所には登記されていない。 (甲6,26の1・2,31)イ 損害賠償請求権の消滅など,開示を受ける正当な理由(プロバイダ責任制限法4条1項2号)の消滅を窺わせる事情は認められない。 (弁論の全趣旨)(6) 被告保有情報,「」 ア 被告は 本件契約者に関する次の情報を保有している(以下 被告保有情報という。)。 (ア) 契約者の氏名又は名称,住所(契約時のもの及び変更後のもの),携帯電話番号,電話番号(変更後のもの)及びファクス番号(変更後のもの)(イ) 契約料金の請求書の送付先の氏名又は名称,住所,電話番号及び振込元銀行支店名(いずれも変更後のもの),(ウ) 上記契約者の担当者の氏名,住所及び電子メールアドレス(電子メールアドレスは契約時のもの及び変更後のもの)(エ) 「pro-heiwa.jp」ドメインを利用して電子メールが送信された際に利用したプロバイダIPアドレス(弁論の全趣旨)イ 被告保有情報のうち次の情報は,プロバイダ責任制限法4条1項及び特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第1項の発信者情報を定める省令(以下「発信者情報省令」という。)にいう発信者情報に当たる。 (ア) 契約者の氏名又は名称及び住所(契約時のもの及び変更後のもの),(イ) 契約料金の請求書の送付先の氏名又は名称及び住所(いずれも変更後のもの)(争いのない事実)2争点(1) 本件契約者による権利侵害の成否ア 商標権侵害の成否イ 不正競争防止法2条1項1号又は2号違反の成否(2) 開示すべき発信者情報の範囲(3) 権利侵害による被告の損害賠償責任の有無ア 発信者としての責任イ プロバイダ責任制限法3条1項1号又は2号該当の有無ウ損害(4) 発信者情報を開示しないことによる損害賠償責任の有無ア 権利侵害の明白の有無(プロバイダ責任制限法4条1項1号)イ 重過失(同法4条4項)の有無ウ損害3 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)ア(商標権侵害の成否)ア 原告の主張(ア) 役務の類似,。 a 本件ウェブページは パチンコ機・スロット機の攻略情報を提供しているb この情報提供は,パチンコ機,スロット機に係る技芸の教授であり,本件「」。 商標権の指定役務である 技芸・スポーツ又は知識の教授 と同一ないし類似する(イ) 商標の類似a @本件各表示のうち 「Project「プロジェクト」は「企画,計画事業」 ,」等を意味する日常用語であり,特別の識別力を有しないこと,A後記のとおり,パチンコ・スロット遊戯の分野において,原告の名称である「(株式会社)平和」は,メーカーとして周知著名であることを考慮すると,本件各表示の要部は「HEIWA」「ヘイワ」である。 b 本件アルファベット表示の上記要部は,本件登録商標と称呼,外観,観念,,,。 とも同一であり 本件カナ表示の要部は本件登録商標と称呼 観念が同一であるc よって,本件各表示は,本件登録商標に類似する。 (ウ) 取引の実情@本件各表示は,パチンコ・スロットの「打ち子」募集,パチンコ機等の攻略情報提供をうたう本件ウェブページにおいて使用され,A本件ウェブページは,提供する情報が正確であることの根拠として 「メーカー情報」を得ていることを挙げ ,ており しかも Bパチンコ・スロット遊戯の分野において 原告の名称である (株 ,, , 「式会社)平和」は,メーカーとして周知著名である。 (エ) 出所の混同のおそれこれらの事実からすると,本件各表示の使用された本件ウェブページに接した需要者は,本件ウェブページによる役務の提供の主体が原告であると誤認混同するおそれがある。 イ 被告の主張(ア) 役務の類似原告の主張(ア)は否認する。 本件ウェブページは 「打ち子」の募集,情報の提供,軍資金の提供についての ,ものであって,本件商標権の指定役務である「技芸・スポーツ又は知識の教授」に類似しない。 (イ) 商標の類似同(イ)は否認する。 原告は,指定役務を第41類とする登録商標として 「平和」(商標登録番号第 ,4128716号) 「株式会社平和」(同第4128715号)を有している。 ,また,指定役務を41類とする原告以外の登録商標としては 「平和不動産 「平,」」「」「」「」「」「」 和リゾート 平和アルファ HEIWA ALPHA 平和堂 など 平和 又は HEIWAの文字を含むものが多数存在する(乙3)。 このように 「平和」と「HEIWA」は,称呼は同一でも異なる商標として登録さ ,れ,さらに,それらの文字に他の文字が付加された文字商標も商標として登録されていることからすると,本件各表示が本件登録商標に類似しないことは明らかである。 (ウ) 取引の実情同(ウ)は否認する。 (エ) 出所の混同のおそれ同(エ)は否認する。 (2) 争点(1)イ(不正競争防止法2条1項1号又は2号違反の成否)ア 原告の主張(ア) 周知著名な商品等表示パチンコ・スロット遊戯の需要者において,原告の商品等表示である本件登録商標は,著名又は少なくとも周知である。 (イ) 商品等表示の類似本件各表示は,上記(1)ア(イ)のとおり,本件登録商標に類似する。 (ウ) 混同のおそれパチンコ・スロット遊戯の需要者が,本件各表示の使用された本件ウェブページに接すれば,同ウェブページからの情報の提供が原告又は原告と何らかの関係がある者によるものと誤信し,原告の営業と混同を生じさせる。 (エ) 営業上の利益の侵害パチンコに関する「打ち子募集・攻略情報提供」と称するもののほとんどは,登録料などの名目で金銭を振り込ませる詐欺等の犯罪行為であるから,本件各表示の使用により,原告の営業上の利益が侵害されている。 (オ) まとめ以上のとおり,本件各表示の使用は,不正競争防止法2条1項1号又は2号所定の不正競争行為に当たる。 イ 被告の主張(ア) 周知著名な商品等表示原告の主張(ア)は不知。 (イ) 商品等表示の類似同(イ)は否認する。 (ウ) 混同のおそれ同(ウ)は否認する。 仮に,原告がパチンコ機メーカーとして周知著名であれば,そのようなメーカーが「打ち子募集」をすることはあり得ないから,需要者が混同するおそれはない。 (エ) 営業上の利益の侵害同(エ)は不知。 (オ) まとめ同(オ)は否認する。 (3) 争点(2)(開示すべき発信者情報の範囲)ア 原告の主張(ア) 契約者の担当者の氏名等a 本件ウェブページの開設者として同ウェブページに表示されている「プロジェクトヘイワ」(甲4の2枚目最終2行)は,法人ですらない。 b したがって 「担当者」とされる者も,本件発信者に当たるから,契約者 ,の担当者の氏名,住所及び電子メールアドレス(電子メールアドレスは契約時のもの及び変更後のもの)は,開示すべき発信者情報に当たる。 (イ) メール送信時におけるIPアドレスa(a) 被告は,本件発信者が本件ウェブページの情報を被告のレンタルサーバに送信した年月日,時刻及び同送信時におけるIPアドレスの情報を保有している。 (b) 上記情報は,発信者情報省令4号及び5号に当たる。 b(a) 仮に被告が上記aの情報を保有していないとしても,本件契約者は,アクセスプロバイダと別途インターネット接続に係る契約を締結し,この種の契約は,通常半年以上継続すると考えられる。さらに 「pro-heiwa.jp」ドメインの登 ,録が平成17年8月5日であり(甲9),本件ウェブページの公開はそれより後と考えられることから,当該ドメインを利用して電子メールを送信した際に利用したプロバイダIPアドレスは 被告保有のレンタルサーバに本件ウェブページの情報(侵 ,害情報)を送信した時のIPアドレスと同一であると考えられる。 (b) したがって 「pro-heiwa.jp」ドメインを利用して電子メールが送信さ ,れた際に利用したプロバイダIPアドレスは,発信者情報省令4号及び5号に該当する。 イ 被告の主張(ア) 契約者の担当者の氏名等原告の主張(ア)aは不知,bは否認する。 (イ) メール送信時におけるIPアドレスa 同(イ)a(a)は否認する。 b 同(イ)bは否認する。 (4) 争点(3)(権利侵害による被告の損害賠償責任の有無)ア 原告の主張(ア) 発信者としての責任(プロバイダ責任制限法3条1項柱書ただし書)a(a) 被告は,平成17年9月26日に本件通知書を受け取り,登録商標及び商品等表示である原告商標権の商標登録番号と,侵害情報である本件ウェブページを知った。 (b) 商標の類否判断において,指定役務について需要者の間に広く認識された他人の登録商標と他の文字又は図形等と結合した商標は,原則として他人の登録商標と類似すると解されることは,商標侵害の判断における常識であり,このことは,特許庁のホームページでも閲覧可能な商標審査基準にも記載されている。 , ,,, (c) そして パチンコ業界における原告の名称は 周知であり このことは特許庁のホームページの「日本国周知・著名商標検索」で極めて簡単に分かることである。 (d) したがって,被告は,本件通知書受領後直ちに,本件ウェブページにおける本件各表示の使用が本件商標権を侵害し かつ 不正競争防止法2条1項1号・ ,,2号に違反することを知った。 b さらに,被告は,レンタルサーバ契約の申込時に,十分な本人確認をしておらず,しかもそれをことさらに明示していること,多くのパチンコ情報攻略会社のウェブページを掲載していることからすれば,より高度な侵害の有無の確認義務を負う。 c ところが,被告は,平成17年9月26日に本件通知書を受け取った時点で本件商標権侵害等を知りながら,平成17年10月6日まで本件ウェブページからの送信を停止しなかったものであるから,本件ウェブページからの発信者の立場に立つものとして責任を負う(東京高裁平成17年3月3日判決・判例タイムズ1181号158頁(2ちゃんねる小学館事件)参照)。 (イ) プロバイダ責任制限法3条1項1号又は2号該当の有無a 仮に上記(ア)が認められないとしても,上記(ア)a及びbの事実によれば,被告は,本件通知書を受領して直ちに,本件ウェブページにおける本件各表示の使用が本件商標権を侵害し,かつ,不正競争防止法2条1項1号・2号に違反することを知ったか(プロバイダ責任制限法3条1項1号),少なくとも知ることができたと認めるに足りる相当の理由があった(同2号)。 b 上記aの事実によれば,被告が平成17年10月6日まで本件ウェブページからの送信を停止しなかったことにつき,故意又は過失も認められる。 (ウ) 損害a 信用毀損による損害(a) 原告は,昭和24年に創業し,昭和63年にはパチンコ機メーカーとして初めて株式を店頭売買銘柄として登録,テレビCM等の広告宣伝に巨額の費用を投入して,ブランドイメージを構築し維持している。その結果,平成15年にはCM好感度で総合248位,平成16年にはCM効率の部門で9位と認定され,さらに,パチンコ・パチスロ機メーカーとして初めてサッカーJリーグのオフィシャルスポンサーとなった。 (b) 原告は,本件ウェブページから「打ち子」募集,パチンコ機,スロット機の攻略情報提供の情報を送信されたことにより,同ウェブページを利用した詐欺行為が原告の営業ではないかと誤認混同されたため,信用を毀損され,かつ 「平,和」の有するブランドイメージを毀損された。 (c) 原告が年間約20億円の広告宣伝費を投入していることからすると,信用毀損により原告が被った損害は,6027万3972円を下らない。 20億円÷365日×11日(平成17年9月26日から同年10月6日まで)=6027万3972円b 商標法38条2項(a) 従業員5人程度のパチンコ攻略会社は,1か月当たり270万円程度の利益を得ている。 (b) したがって,平成17年9月26日から同年10月6日までの11日間に本件契約者の得た利益は,99万円を下らない。 270万円÷30日×11日=99万円(c) よって,商標法38条2項により,この額が原告の損害と推定される。 c 調査費用(a) 原告は,本件に関する調査費用として,平成17年9月26日以降,少なくとも58万6000円を支出した。 (b) この損害項目も,前記(ア)及び(イ)の不法行為と相当因果関係を有する損害である。 イ 被告の主張(ア) 発信者としての責任(プロバイダ責任制限法3条1項柱書ただし書)a 原告の主張(ア)a(a)は認める。ただし,本件通知書は,本件商標の登録番号と指定役務を記載しながら 「HEIWA」ではなく「平和 「Heiwa」の商標権を有 ,」する旨記載され,商標登録原簿謄本の添付もなく,本件登録商標と本件各表示が同一又は類似する理由の記載もない不十分なものであった。 同(ア)a(b)ないし(d)は否認する。専門家でない被告が本件登録商標と本件各表示との類否等を判断することは,不可能である。 b 同(ア)bは否認する。 c 同(ア)cは否認する。 d 被告は,本件通知書を受領後直ちに,弁護士への相談,本件商標権の登録原簿等の調査,本件契約者との連絡の努力など最大限の努力を尽くし,その結果,本件契約者の承諾を得て,平成17年10月6日に本件ウェブページからの送信を停止したのであり,同日までの行為から,被告が発信者の地位に立つと認めることは,到底できない。 (イ) プロバイダ責任制限法3条1項1号又は2号該当の有無同(イ)は否認する。 (ウ) 損害a 信用毀損による損害同(ウ)aのうち,(a)は不知,(b)及び(c)は否認する。 b 商標法38条2項同(ウ)bのうち,(a)は不知,(b)及び(c)は否認する。 c 調査費用同(ウ)cのうち,(a)は不知,(b)は否認する。 (5) 争点(4)(発信者情報を開示しないことによる損害賠償責任の有無)ア 原告の主張(ア) 権利侵害の明白性の有無前記(4)ア(ア)の事実によれば,本件通知書の到達により直ちに,本件商標権等の原告の権利が侵害されたことは明らかであった(プロバイダ責任制限法4条1項1号)。 (イ) 重過失の有無さらに,前記(4)ア(ア)の事実によれば,被告には,原告が発信者情報の開示請求権を有していることを知らなかったことにつき,少なくとも重過失がある(プロバイダ責任制限法4条4項)。 (ウ) 損害a 原告は,本件に関する調査費用として,平成17年9月26日以降,少なくとも58万6000円を支出した。 b この損害項目は,原告が発信者情報を開示しなかったことと相当因果関係を有する損害である。 イ 被告の主張(ア) 権利侵害の明白性の有無原告の主張(ア)は否認する。 (イ) 重過失の有無同(イ)は否認する。 (ウ) 損害同(ウ)のうち,aは不知,bは否認する。 |
|
当裁判所の判断
1 争点(1)ア(商標権侵害の成否)(1) 役務の類似前提事実(2)イによれば,本件ウェブページによって提供される役務は,パチンコ機 スロット機の攻略情報を提供するというものであるから パチンコ機 スロッ ,,,ト機に係る 技芸の教授 といい得るものであり 本件商標権の指定役務である 技 「」 , 「芸・スポーツ又は知識の教授」と類似していると認められる。 これに反する被告の主張は,採用することができない。 (2) 商標の類似ア要部(ア) 弁論の全趣旨によれば,本件各表示のうち「Project 「プロジェクト」 」は「企画,計画事業」等を意味する日常用語であることが認められる。 (イ) 弁論の全趣旨によれば,本件各表示のうち「HEIWA」の部分は,一般的に,「」 ,「」 は 日本語の 平和 をそのままローマ字表記したものと解されるところ 平和は「やすらかにやわらぐこと,戦争がなくて世が平穏であること」(広辞苑第5版)を意味する日常用語であることが認められる。 しかし,証拠(甲3,7,22)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,株式会社矢野経済研究所の2004年(平成16年)の調査(甲22)によるとパチンコファン全体において73.1%の認知率を有するなど,パチンコ・スロット遊戯の需要者の間では,パチンコ機・スロット機のメーカーとして広く認識されており,本件登録「」, 。 商標 HEIWA も 原告の商品等表示として広く認識されていることが認められる(ウ) さらに,本件アルファベット表示は 「Project」が小文字を含むのに対 ,し 「HEIWA」の部分は,本件登録商標と同様に大文字のみで構成されていること ,が認められる。 (エ) これらの事実によれば,パチンコ機,スロット機の攻略情報を提供する役務との関係で使用されれば,本件各表示のうち「HEIWA「ヘイワ」の部分が識別 」力を有する要部となると認められる。 イ 称呼等の類似(ア) 本件アルファベット表示の要部は,本件登録商標と称呼,外観が同一であ,, , り また パチンコ機・スロット機のメーカーである原告自身の観念が生じる点で観念も同一であると認められる。 (イ) 本件カナ表示の要部は,本件登録商標と外観は異なるが,称呼,観念が同一であると認められる。 ウ まとめよって,本件各表示は,本件登録商標に類似するものと認められる。 (3) 取引の実情ア 前記(1)のとおり,本件各表示は,パチンコ・スロットの「打ち子」募集,攻略情報提供をうたう本件ウェブページにおいて使用されたものである。 イ 証拠(甲4(3枚目下))によれば,本件ウェブページは,提供する情報が正確であることの根拠として 「プロジェクトヘイワ」がメーカー各社から情報を得 ,ていることが記載されていることが認められる。 ウ そして,前記(2)のとおり,パチンコ・スロット遊戯の分野において,原告の名称は周知である。 エ ただし,証拠(甲4(1枚目上))によれば,本件ウェブページには 「最新,機種に内部欠陥発覚のため,各地プロジェクトメンバー緊急募集」と記載されていることが認められる。パチンコ機・スロット機メーカーが自らの欠陥に乗じたプロ,, ジェクトを実施することは通常考えられないから 上記メンバー緊急募集の記載は混同のおそれを減じる方向に働く事実である。 また,パチンコ機・スロット機メーカーが「打ち子募集」やパチンコ機等の攻略情報の提供を行うことも通常考えられないから,本件ウェブページにおいて上記のような募集,情報提供を行っていることも,混同のおそれを減じる方向に働く事実である。 (4) 結論以上の事実によれば,上記(3)エの混同のおそれを減じる方向に働く事実の存在を考慮しても,本件各表示の使用された本件ウェブページに接した需要者が,本件ウェブページによるパチンコ機等の攻略情報の提供の主体は原告であると混同するおそれがあると認められる。 これに反する被告の主張は,採用することができない。 2 争点(1)イ(不正競争防止法2条1項1号又は2号違反の成否)(1) 周知著名な商品等表示,, , 前記1(2)のとおり 本件登録商標はパチンコ・スロット遊戯の需要者の間で原告の商品等表示として広く認識されているものと認められる。 (2) 商品等表示の類似前記1(2)のとおり,本件各表示は,原告の商品等表示である本件登録商標に類似するものと認められる。 (3) 混同のおそれ前記1(2)及び(3)によれば,パチンコ・スロット遊戯の需要者がパチンコ機等の攻略情報の提供を行う本件ウェブページに接し,パチンコ・スロット遊戯の需要者の間で原告の商品等表示として広く認識されている本件登録商標に類似する本件各表示を見つければ,当該パチンコ機等の攻略情報を提供する営業が原告又は原告と何らかの資本関係,系列関係などの緊密な営業上の関係がある者によるものと誤信するおそれがあり,広義の混同を生じるおそれがあると認められる。 (4) 営業上の利益の侵害証拠(甲10〜13 20 27 40)及び弁論の全趣旨によれば パチンコ機・ ,,, ,スロット機の「打ち子募集・攻略情報提供」と称する営業の大部分は,登録料などの名目で金銭を振り込ませる詐欺であることが認められるから,上記(3)の混同のおそれは,原告の営業上の利益を侵害するものと認められる。 (5) まとめよって,本件契約者による本件各表示の使用は,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当し,原告の営業上の利益を侵害する。 3 争点(2)(開示すべき発信者情報の範囲)(1) 契約者の担当者の氏名等ア 証拠(甲6,26の1・2,31)及び弁論の全趣旨によれば,本件ウェブページに使用されている「プロジェクトヘイワ」という法人は登記されておらず,複数の者が共同して本件ウェブページから不特定の者に送信を行っている可能性が高いと認められるから,被告に契約者として把握されている者のみならず,契約者の「担当者」として被告に登録された者も,他の者と共同して本件ウェブページから不特定の者に送信する意思を有している者として,発信者情報省令にいう「発信者その他侵害情報の送信に係る者」に該当するものと認めるべきである。 イ したがって,被告保有情報のうち,契約者の担当者の氏名,住所及び電子メールアドレス(電子メールアドレスは契約時のもの及び変更後のもの)は,開示すべき発信者情報(プロバイダ責任制限法4条1項柱書,発信者情報省令1号ないし3号)に当たり,原告の発信者情報の開示を求める請求のうちこれらの開示を求める部分は,理由がある。 (2) メール送信時におけるIPアドレスア 本件発信者が本件ウェブページの情報を被告のレンタルサーバに送信した年月日,時刻及び同送信時におけるIPアドレスの情報を保有していることを認めるに足りる証拠はない。 イ 原告は,本件契約者が「pro-heiwa.jp」ドメインを利用して電子メールを送信した際に利用したプロバイダIPアドレスは発信者情報省令4号及び5号の情報に該当する旨主張する。 しかしながら,このメール送信時のプロバイダIPアドレスは,原告が自認するとおり,本件契約者が被告のレンタルサーバへ侵害情報である本件ウェブページの情報をアップロードした時のIPアドレスそのものではない。 そして,発信者情報は個人のプライバシーに深くかかわる情報であって,電気通信事業法も 「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は,侵してはならない 」 ,。 (4条1項)と規定し,罰則(179条1項)も定めていることにかんがみ,プロバイダ責任制限法4条1項柱書及び発信者情報省令が開示されるべき発信者情報を限定したことを考慮すると,上記メール送信時のプロバイダIPアドレスが発信者省令4号又は5号の情報に該当するものと解することはできない。 ウ よって,原告の発信者情報の開示を求める請求のうち,メール送信時におけるプロバイダIPアドレスの開示を含め,本件発信者が本件ウェブページの情報を被告のレンタルサーバに送信した年月日,時刻及び同送信時におけるIPアドレスを求める部分は,理由がない。 4 争点(3)(権利侵害による被告の損害賠償責任の有無)(1) 発信者としての責任ア 原告は,本件通知書受領後直ちに,本件ウェブページにおける本件各表示の使用が本件商標権等を侵害することを知りながら,平成17年10月6日まで本件ウェブページからの送信を放置したから,被告は本件ウェブページからの発信者として責任を負う旨主張する。 ,,「」 イ(ア) しかしながら 本件ウェブページでは デッドコピーのように HEIWAや ヘイワ そのものが使用されていたものではなくProject HEIWA プロジェ 「」 ,「」「クトヘイワ」の形で使用されていたものであるから,本件商標権侵害及び不正競争防止法違反の成否の判断には,それなりの困難さがあったものと認められる。 (イ) しかも,前提事実(4)エのとおり,被告は,本件通知書の到達から10日以内である平成17年10月6日に本件ウェブページからの送信を停止する措置を講じたが,その間も手をこまねいていたものではなく,小林弁護士に事件処理を委任し,かつ,本件発信者との電話連絡を数多く試み,さらに,委任を受けた小林弁護士は,原告の鎌田弁護士に対し,侵害と主張する法的根拠を明らかにすることを求めていたものである。 ウ また,証拠(甲16の1)及び弁論の全趣旨によれば,本件通知書においては,本件各表示を本件ウェブページで使用する行為が商標権侵害,不正競争防止法違反に該当する理由が詳しく述べられておらず,また,本件商標権の登録原簿謄本が添付されていなかったことが認められ,この点は,開示関係役務提供者である被告が原告の権利侵害があったか否かを判断するために時間を要したことに影響する事情であるといわざるを得ない。 エ これらの事実からすると,被告のレンタルサーバ契約締結時の本人確認に不十分な点があり,本件ウェブページの記載内容自体から詐欺の疑いが十分うかがわれること等を考慮しても 被告は 平成17年9月26日に本件通知書を受け取っ ,,た時点で本件商標権侵害等を知ったものと認めることはできず,平成17年10月6日まで本件ウェブページからの送信を停止しなかったことをもって,被告が本件ウェブページから送信をしていることと同視することはできない。 オ よって,発信者としての責任をいう原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。 (2) プロバイダ責任制限法3条1項1号又は2号該当の有無ア 前記(1)に説示の事実によれば,被告が平成17年10月6日までに,本件ウェブページからの送信により本件商標権等が侵害されていることを知ったとか(プロバイダ責任制限法3条1項1号),知ることができたと認めるに足りる相当の理由があった(同2号)と認めることはできない。 イ よって,プロバイダ責任制限法3条1項1号又は2号該当をいう原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。 5 争点(4)(発信者情報を開示しないことによる損害賠償責任の有無)(1) 前記4(1)に説示の事実によれば,裁判所の第一審判決も出されていない現段階において,本件ウェブページから不特定の者に対する送信により本件商標権等が侵害されたことが明らかである(プロバイダ責任制限法4条1項1号)と認めることはできず,また,原告が発信者情報の開示請求権を有していることを知らなかったことにつき,被告に重過失がある(プロバイダ責任制限法4条4項)と認めることもできない。 (2) よって,発信者情報を開示しないことによる損害賠償責任をいう原告の請求は,その余の点を判断するまでもなく理由がない。 6結論よって,原告の請求は,発信者情報の開示を求める請求のうち主文第1項に掲記の限度で理由があるから認容し,発信者情報の開示を求める請求のうちその余の部分及び損害賠償請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 市川正巳 |
---|---|
裁判官 | 杉浦正樹 |
裁判官 | 頼晋一 |