関連ワード | 周知表示混同惹起行為(2条1項1号) / 混同行為 / 記憶 / 混同のおそれ(混同) / 共同不法行為 / 競業関係 / 代理人 / 代表者 / 秘密保持義務 / 混同のおそれ(混同) / 営業秘密 / 2条1項4号 / 損害賠償 / |
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事件 |
平成
16年
(ネ)
4185号
損害賠償請求控訴事件
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控訴人 株式会社東輝 訴訟代理人弁護士 町川智康 被控訴人 有限会社ソエタ 被控訴人 A 被控訴人 B 被控訴人 C 被控訴人 D5名訴訟代理人弁護士 岡内真哉 同 大宮隆志 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2005/03/22 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。 2 被控訴人らは,連帯して,控訴人に対し,1000万円及びこれに対する被控訴人有限会社ソエタ(以下「被控訴人会社」という。)については平成15年9月29日から,被控訴人A,被控訴人B及び被控訴人D(については同月28日から,被控訴人Cについては同年10月4日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
1 本件は,給湯設備機器の販売及び保守点検業を営む控訴人が,被控訴人らに対し,@被控訴人らは,控訴人の顧客ファイルに記載された情報を不正に取得し,これを使用して控訴人の顧客に対して控訴人と同じ営業をすることにより控訴人に損害を与え,不正競争防止法2条1項4号,5号所定の不正競争をした,A被控訴人らは,控訴人の顧客に対して,被控訴人会社の営業を控訴人の営業と混同させるような方法で保守点検業務を行い,控訴人に同様の損害を与え,同項1号所定の営業混同行為をした,B被控訴人らの行為は不法行為等に当たる,などとして,不正競争防止法4条又は不法行為(共同不法行為)等に基づく損害賠償請求をしている事案である。 以下,控訴人の顧客の給湯設備機器の点検保守作業をした際に作成される報告書(顧客の氏名,住所,電話番号,機種名,点検日及び点検保守内容を記載している。)に基づき,控訴人が市町村ごとに作成,集約していた顧客ファイルを「本件顧客ファイル」,本件顧客ファイルに集約された顧客に関する情報を「本件顧客情報」という。 2 原審は,@被控訴人らが本件顧客情報を不正に取得した事実は認められず,これを使用した事実も認められない,A本件顧客情報が不正競争防止法2条4項の「営業秘密」であったとは認められない,B被控訴人B,被控訴人C及び被控訴人Dが,控訴人に勤務していた当時に記憶した顧客情報を被控訴人会社のために使用することについて,何らかの法的制約があるとも考えられないから,それが不法行為(共同不法行為)であるということはできない,C被控訴人らが営業混同行為をした事実を認めることはできない,との理由により,控訴人の請求をいずれも棄却し,これを不服として控訴人が控訴した。 3 当事者間に争いのない事実等,争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄中「第2 事案の概要」の1,2に記載のとおりであるから,これを引用する。 4 控訴人の主張 (1) 被控訴人らによる本件顧客情報の不正取得及び使用 被控訴人Dは,控訴人の従業員であった期間中の平成12年4月中ころから5月上旬ころにかけて,控訴人代表者の許可を得ることなく,本件顧客ファイルを自宅に持ち帰り,これをコピーしたものを被控訴人B,被控訴人C又は被控訴人Aに交付して,被控訴人会社及び被控訴人Bらに本件顧客情報を取得させた。被控訴人会社及び被控訴人Bらは,本件顧客情報が控訴人から窃取されたものであることを知りながら,これを被控訴人Dから取得し,同被控訴人とともに,本件顧客情報を被控訴人会社の営業に使用した。 本件顧客情報が不正に取得され,被控訴人会社の営業に使用されたことは,以下の事実から十分推認することができる。 ア 被控訴人Dによる本件顧客ファイルの持出し 被控訴人Dが,平成12年4月中旬ころから5月上旬ころにかけて,控訴人代表者の許可を得ることなく,控訴人の事務所から1日に3冊程度,少なくとも7回,本件顧客ファイルを自宅に持ち帰ったことは,被控訴人Dも自認している(乙1)ところ,当時,被控訴人Dが本件顧客ファイルを自宅に持ち帰る必要性は全くなかった。しかも,被控訴人Dは,同年6月に控訴人を退職して被控訴人会社に就職し,以後,控訴人に在職していたときと同様に,顧客に対する給湯設備機器のメンテナンスの提供業務に従事している。これらの事情に照らすと,被控訴人Dが本件顧客ファイルを控訴人の事務所から持ち出したのは,本件顧客情報を不正に取得し,被控訴人会社の営業に使用させるためであったとしか考えられない。 イ Eの陳述 Eは,平成12年5月ころ,被控訴人会社の事務所を訪れた際,3人の従業員が積み重ねられた紙に書かれた本件顧客情報とおぼしきデータをひたすらパソコンに入力している状況を目撃している(甲4,Eの陳述書)。 ウ 被控訴人会社の顧客管理カード等 被控訴人会社の顧客管理カード(乙15)は,@そこに記載された情報が,電話帳等に記載された情報と必ずしも一致せず,むしろ,控訴人の顧客調査票(甲3,控訴人の顧客に対する被控訴人会社の営業活動の実態を調査したものであり,そこに記載された顧客の情報は,本件顧客ファイルのものである。)に記載された情報と一致していること,A被控訴人らが主張するような方法によっては,乙15のような顧客管理カードを短期間の間に作成することは不可能であること,また,B被控訴人会社の顧客管理カードに記載され,被控訴人会社がメンテナンス業務を行った顧客は,本件顧客ファイルに記載された顧客がほとんどであることから見て,被控訴人会社において独自に作成したものではあり得ない。 (2) 不法行為等 一般的に,雇用契約に基づく付随義務として,従業員は,使用者の営業上の秘密を保持すべき義務,すなわち,秘密保持義務を負担している(ここでいう「秘密」とは,不正競争防止法上の「営業秘密」とは異なる概念である。)。従業員が在職中に使用者の顧客情報を持ち出して,これを競業他社に提供する行為は,顧客のさん奪につながり,使用者の利益に著しく反する行為である。また,就業先に対して秘密保持義務を負担している競業他社の従業員を利用して競業他社の顧客情報を提供させる行為は,自由取引社会における秩序を逸脱する行為である。 本件では,被控訴人Dが,控訴人の従業員であった時期に,控訴人の事務所に保管されていた本件顧客ファイルを持ち出し,これに記載されていた本件顧客情報を,控訴人と競業関係にある被控訴人会社の利益のために用いて,控訴人に損害を与えているから,被控訴人Dは雇用契約上の秘密保持義務違反又は不法行為に基づき,また,不正取得された本件顧客情報を利用した被控訴人会社,被控訴人B,被控訴人A及び被控訴人Cは不法行為(被控訴人Dを含めた共同不法行為)に基づき,連帯して控訴人の被った損害を賠償すべき責任を負う。 5 被控訴人らの主張 (1) 被控訴人らによる本件顧客情報の不正取得及び使用について 被控訴人らが本件顧客情報を不正に取得し,使用したとの控訴人の主張は,すべて争う。 ア 被控訴人Dによる本件顧客ファイルの持出しについて 被控訴人Dは,平成12年4月中旬から5月上旬ころにかけて,本件顧客ファイルを自宅に持ち帰ったことがあるが,これは,控訴人の電話営業を一人で担当していた被控訴人Cが同年3月に控訴人を退職し,電話営業の経験のないF,G及び被控訴人Dの3名で電話営業をすることになったため,連日残業が続き,電話営業の効率を上げるために,電話をかける顧客を前日のうちに本件顧客ファイルから選び出す作業をしておく必要が生じたからである。被控訴人Dは,そのころ,Fから本件顧客ファイルを持ち帰って翌日電話をかける顧客を特定しておくよう指示を受けており,当時,Fも,翌日の準備のために本件顧客ファイルを持ち帰っていた。同年5月中旬以降は,電話営業の経験が豊富な従業員が入社し,本件顧客ファイルを被控訴人Dが持ち帰る必要もなくなったため,本件顧客ファイルの持ち帰りはしていない。 イ Eの陳述内容について Eは控訴人代表者と親しい知人である上,同人が被控訴人会社の事務所で3人の従業員が3台のパソコンにひたすら入力作業をしているのを目撃したという平成12年5月には,被控訴人会社には1台しかパソコンがなかったから,同人の陳述書(甲4)は信用性がない。 ウ 被控訴人会社の顧客管理カード等について 被控訴人会社では,徒歩や自動車による実地調査によって給湯設備を設置した家屋を探し出し,当該家屋に関して電話帳や住宅地図等を参照するという方法によって,顧客に関する情報を集め,これに基づき,顧客管理カードを作成している。被控訴人会社の顧客管理カードは,被控訴人会社において独自に収集した情報に基づき作成したものである。 (2) 不法行為等について 控訴人の主張はすべて争う。 |
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当裁判所の判断
1 不正競争防止法2条1項4号,5号所定の不正競争に基づく請求について (1) 被控訴人らによる本件顧客情報の不正取得及び使用の有無について ア 控訴人は,被控訴人Dが本件顧客ファイルをコピーしたものを被控訴人B,被控訴人C又は被控訴人Aに交付し,これによって被控訴人らによる本件顧客情報の不正取得及び使用が行われた旨主張し,その具体的な事情として,@被控訴人Dは,平成12年4月中旬から5月上旬ころにかけての時期に本件顧客ファイルを自宅に持ち出しているが,同被控訴人には本件顧客ファイルを持ち出す必要性がなかったこと,A同年5月ころ,被控訴人会社の事務所を訪問したEは,3人の従業員が積み重ねられた紙に書かれた本件顧客情報とおぼしきデータをパソコンに入力している状況を目撃していること,B被控訴人会社の顧客管理カード(乙15)は,(ア)記載された情報が電話帳に記載された情報と必ずしも一致せず,むしろ控訴人の顧客調査票(甲3)と一致していること,(イ)これを被控訴人らが主張するような方法で短期間の間に作成することは不可能であること,また,(ウ)記載された顧客は,本件顧客ファイルに記載された顧客がほとんどであることからみて,被控訴人会社において独自に作成したものではあり得ないことなどを指摘し,被控訴人らが本件顧客ファイルの持ち出し,コピーという方法によって,本件顧客情報を不正に取得したことは十分に推認されると主張する。 イ そこで,控訴人の指摘する点について順次検討すると,まず,@の点について,乙1(被控訴人Dの陳述書)及び原審における控訴人代表者尋問の結果によれば,平成12年3月に被控訴人B及び被控訴人Cが控訴人を相次いで退職したため,電話営業を担当する従業員が同年6月に控訴人に入社するまでの間,電話営業は,その経験に乏しいF,G及び被控訴人Dが担当することになり,そのため,同人らは,電話をかける顧客を本件顧客ファイルから選び出すための作業に手間取り,残業が続いていたことが認められる。このように本件顧客ファイルの持帰りを必要とするような状況があったことは,「特例で,Fの場合には,どことどこと決まって持っていっているのが分かっていましたから,次の日のために二,三冊持って帰っていました」との原審における控訴人代表者の供述(控訴人代表者本人調書,25頁)からもうかがわれるところである。そうすると,被控訴人Dが一日に3冊程度本件顧客ファイルを自宅に持ち帰ったということから,直ちに,その目的が,控訴人主張のように,本件顧客ファイルをコピーして被控訴人B,被控訴人C又は被控訴人Aに提供し,被控訴人会社の営業に使用させることにあったとみることはできない。 ウ 次に,控訴人の指摘するAの点について,被控訴人会社の事務所において本件顧客情報とおぼしきデータをパソコンに入力している状況を目撃したとするEの陳述書(甲4)は,被控訴人Aの陳述書(乙19),被控訴人会社の事務所についての平成12年3月15日付け賃貸借契約書(乙20),ラオックス株式会社(以下「ラオックス」という。)が被控訴人会社にあて発行したパソコン代一式の領収書(乙21),ラオックスの従業員であるHの陳述書(乙32),パソコン関連業者であるIの陳述書(乙33),株式会社ソフマップが被控訴人会社に発行した平成13年2月7日付け領収書(乙34),ラオックスが被控訴人会社にあて発行した平成15年6月14日付け領収書(乙35)及び原審における被控訴人Bの供述に照らして,にわかに信用することはできない。すなわち,Eの陳述書(甲4)によれば,同人が被控訴人会社の事務所を訪問したのは,「Aが事務所を開いた2日後くらい」であり,その際に,被控訴人会社の事務所で「A以外の3人が,一心にパソコンの入力作業をしていた」とされており,訪問の時期が「事務所を開いた2日後くらい」であるとする点は,原審における控訴人代表者の供述とも一致しているところ,被控訴人会社の事務所が開設されたのは,平成12年3月である(乙20)であるから,Eが目撃したという状況は,同年3月におけるものであると考えるほかない。そうすると,同人が目撃したという状況は,被控訴人Dが本件顧客ファイルを持ち出しコピーしたと主張される時期よりも前のことであるから,本件顧客情報の不正取得についての控訴人の主張を何ら裏付けるものではない。また,被控訴人会社の事務所の開設当時,パソコンは1台しか設置されていなかったと認められる(乙1,21,32〜35)から,被控訴人会社の事務所で目撃した状況に関するEの供述は,正確な記憶に基づくものであるとは認め難い。 エ さらに,Bの点について見ると,証拠(甲6,7,11,14,乙1,10,16,17)によれば,(a)被控訴人Bは,平成6年3月から平成12年3月に控訴人を退職するまでの間,控訴人の従業員として,営業及び現場での保守・点検作業に従事し,被控訴人Cは,控訴人の設立当初から平成12年3月に退職するまで控訴人の営業管理を担当し,被控訴人Dは,平成8年に控訴人に入社した後,主として現場の保守・管理を担当するほか一時期は営業を担当しており,いずれも,顧客宅に設置された給湯機器のメンテナンス業務及び同業務に係る営業について長い経験を有していたこと,(b)特に,被控訴人B及び被控訴人Dは,地域を回って給湯設備の設置状況を確認し,顧客を開拓する経験が長かったこと,(c)控訴人の本件顧客ファイルは,地域を自動車,徒歩等によって回り,給湯設備機器が設置された家屋を発見して住宅地図に印を付け,表札等から電話番号を調べて,電話でメンテナンスの要否を質問し,そのようにして得た情報を集約してファイル化するという方法で作成されてきたものであり,被控訴人B,被控訴人D及び被控訴人Cは,上記のような作業にも習熟していたことが認められる。そうすると,被控訴人会社においても,被控訴人B,被控訴人D及び被控訴人Cが,上記と同様の方法によって,メンテナンスを必要とする顧客を特定したり,給湯設備機器を設置している顧客の情報を記載したカードを作成することは十分可能であったと認められる。 また,乙36〜41によれば,被控訴人会社の顧客管理カードに記載された顧客の住所,氏名等は,本件顧客ファイルに依拠しなければ得られない類の情報ではないことがうかがわれる上,甲3(控訴人の顧客調査票)と乙15(被控訴人会社の顧客管理カード)とを対比しても,記載された情報は両者の間で必ずしも一致しておらず,さらに,甲14(控訴人代表者の平成16年4月6日付け陳述書)に添付された給湯設備設置家屋の所在を示す地図と乙24(被控訴人Bの平成16年3月15日付け報告書)に添付された同様の地図とを対比すると,前者には記載されておらず,後者にのみ記載されているものがあることが認められるから,被控訴人会社の顧客管理カードに記載された顧客の多くが本件顧客ファイルに記載された顧客と重複していても,そのことを根拠に,被控訴人らが本件顧客ファイルに記載された顧客情報を不正取得したと推認することは困難である。 (2) 以上によれば,本件顧客情報が,被控訴人Dによる本件顧客ファイルの持出しによって不正取得されたとする控訴人主張の事実は,本件全証拠によっても,これを認めるに足りない。したがって,本件顧客情報が本件顧客アイルの持出しによって不正取得されたことを前提とする控訴人の不正競争防止法2条1項4号,5号所定の不正競争に基づく請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。 2 不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に基づく請求について 当裁判所も,控訴人の上記請求は理由がないものと判断する。その理由は,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の2のとおりであるから,これを引用する。 3 不法行為等に基づく請求について 控訴人の上記請求は,本件顧客情報が本件顧客ファイルの持出しによって不正取得されたことを前提として,被控訴人Dについて雇用契約上の義務違反又は不法行為による責任,また,被控訴人ら全員について共同不法行為による責任があるとするものであるところ,その前提を欠くことは上記判示のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく理由がないというべきである。 4 以上のとおり,控訴人の請求はいずれも理由がないから,これを棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理由がない。 よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 古城春実 |
裁判官 | 岡本岳 |