審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成18ネ10068損害賠償請求控訴事件 平成18ネ10073附帯控訴事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成17ラ10006不正競争仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成17ワ3056損害賠償等請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成18ワ13013不正競争行為差止請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成14ワ1943営業誹謗行為差止等請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
関連ワード | 需要者 / 特段の事情 / 他人の営業 / 類似性(類似) / 印象 / 不正の目的(不正競争の目的) / 技術的思想 / 差止請求(差止) / 営業上の利益 / 過失 / 逸失利益 / 因果関係 / 利益額(利益の額) / 無形損害 / 弁護士費用 / 侵害 / 代理人 / 有用性 / 営業誹謗行為(2条1項14号) / 競争関係 / 虚偽の事実 / 損害賠償 / 損害額 / 推定 / 販売数量 / 被侵害者 / 営業上の信用 / |
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事件 |
平成
17年
(ワ)
10073号
損害賠償請求事件
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スイス連邦 カイザーアウグスト<以下略> 原告 ディーエスエムニュートリショナル プロダクツ アーゲー 東京都港区<以下略> 原告 ニュートリションジャパン株式会社DSM 原告ら訴訟代理人弁護士 細谷義徳 同 原田芳衣 原告ら補佐人弁理士 津國肇 同 齋藤房幸 同 小國泰弘 東京都港区<以下略> 被告 昭和電工株式会社 訴訟代理人弁護士 吉澤敬夫 同 牧野知彦 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2006/07/06 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 被告は,原告ディーエスエム ニュートリショナル プロダクツ アーゲーに対し,1000万円及びこれに対する平成17年5月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告 ニュートリションジャパン株式会社に対し,700万 DSM円及びこれに対する平成17年5月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 -2-4 訴訟費用は,これを20分し,その19を原告らの負担とし,その余は被告の負担とする。 5 この判決は,1項及び2項に限り,仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告は,原告ディーエスエム ニュートリショナル プロダクツ アーゲーに対し,5億7678万5776円及びこれに対する平成17年5月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告 ニュートリションジャパン株式会社に対し,5000 DSM万円及びこれに対する平成17年5月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要等
本件は,原告らが,被告が原告らの取引先に対し,取引先が扱う製品の中に被告の製品以外の製品が入っており,これは被告が有する特許の技術的範囲に入るものであるなどと記載した複数の文書を送付した行為,及び,被告が原告らの取引先1社に対して仮処分を申し立て,これに関して行った広報活動について,被告が有する特許のうち,3件の特許は無効であることが確定したことから,上記の被告の行為は,不正競争防止法2条1項14号の虚偽の事実の告知・流布に該当し,あるいは不法行為を構成すると主張して,同法5条2項及び民法709条に基づき,損害賠償を求めている事案である。 1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実,該当箇所末尾掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)()当事者1原告ディーエスエム ニュートリショナル プロダクツ アーゲー(旧商号ロシュ ビタミン アーゲー。以下「原告 」という )は,スイス連 DSM。 邦の法律に基づき設立され,存続する法人であり,ビタミン,化学薬品,飼料添加物などの製造,販売等を業とする会社である。 原告 ニュートリションジャパン株式会社(旧商号ロシュ・ビタミン DSM。「 」 。), , ・ジャパン株式会社 以下 原告 ジャパン という は ビタミン DSM化学薬品,飼料添加物などの製造,調合,輸入,輸出,販売等を業とする株式会社である。 ロシュ ビタミン アーゲーは,平成15年9月までスイス連邦所在の医薬品会社であるエフ・ホフマン-ラ ロシュ社が所有・支配する会社であり,ロシュ・ビタミン・ジャパン株式会社は,ロシュ ビタミン アーゲーが株式100パーセントを保有する日本法人であったところ,エフ・ホフマン-ラ ロシュ社がオランダ王国所在の社にビタミンに関わる事業部 DSM門を売却したことに伴い,平成15年9月30日に原告 の株式の全てDSMがオランダ王国所在の 社に譲渡され,それぞれの商号を現在の商号に DSM変更した。 被告は,石油化学事業,化学品事業,エレクトロニクス事業等をおこなう株式会社である。 ( ) 当事者らによる製品の製造,販売等 2原告 は,L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩を含有する DSMDSM 養魚用飼料添加物(以下「原告製品」という )を製造しており,原告 。 ジャパンは,これを「ロビミックス ステイ- 35」の商品名で,日本 C国内において販売している。原告製品については,平成14年4月25日,飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律(以下「飼料安全法」という )に基づき,飼料用添加物として指定がされている。 。 被告は,L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩を含有する養魚飼料用添加物(以下「被告製品」という)を製造し 「ホスピタン 」の商品 。,C名で,日本国内において販売している。 ( ) 被告が有していた特許権とそれらに関する無効審判等 3ア 被告は,平成14年当時, -アスコルビン酸-2-リン酸エステルの L塩を含有する養殖飼料用添加物等に関し,以下の3件の特許権を有していた 以下これらの特許権を総称して 本件各特許権 といい 各別には ) (「」,, aから順に「本件特許権1」というように表記する。また,これらにかかる特許発明を総称して「本件各特許発明 ,各別には, )から順に「本件特 」a許発明1」と,これらの特許発明についての特許を「本件各特許 ,格別」には )から順に「本件特許1」というように表記する 。 a 。)) 特許番号 特許第2139541号 a発明の名称 養魚飼料用添加物) 特許番号 特許第2800116号 b発明の名称 水産養殖用固型飼料の製造方法) 特許番号 特許第2943785号 c発明の名称 養魚粉末飼料用添加物及び養魚用飼料(後に養魚用ペレット飼料と訂正された )。 (「 」 。) イ ) エフ・ホフマン-ラ ロシュ アーゲー 以下 ロシュ社 という aは,平成12年8月31日,本件特許1について,特許庁に対し,無効審判を請求し,特許庁は,平成14年4月8日,特許法29条2項に違反することを理由として,本件特許1を無効とする審決をした(甲7の1。)被告は,東京高等裁判所に対し,上記審決取消の訴えを提起したが,同裁判所は,平成15年6月25日,被告の請求を棄却するとの判決をした(甲7の3,甲40 。)被告は,上記判決に対し,最高裁判所に上告受理の申立てをしたが,同裁判所は,平成16年1月20日,これを受理しない旨の決定をした(甲7の4 。)) 原告 は,平成14年8月27日,本件特許2について,特許庁 bDSMに対し,無効審判を請求し,特許庁は,平成15年6月12日,特許法29条2項に違反することを理由として,本件特許2を無効とする審決をした(甲8の2,甲41 。)被告は,東京高等裁判所に対し,上記審決取消の訴えを提起したが,同裁判所は,平成16年7月29日,被告の請求を棄却するとの判決をした(甲8の2,甲41 。)被告は,同判決に対し,最高裁判所に上告受理の申立てをしたが,同裁判所は 平成16年12月9日これを受理しない旨の決定をした 甲 ,, (8の3 。)) 原告 は,平成14年8月27日,本件特許3について,特許 cDSM庁に対し,無効審判を請求し,特許庁は,平成16年2月19日,特許法29条2項に違反することを理由として,本件特許3を無効とする審決をした(甲10の3 。)被告は,東京高等裁判所に対し,上記審決取消の訴えを提起したが,同裁判所は,平成16年12月27日,被告の請求を棄却するとの判決をした(甲10の4,甲42 。)被告は,同判決に対し,最高裁判所に上告受理の申立てをしたが,同裁判所は 平成17年4月26日これを受理しない旨の決定をした 甲 ,, (10の5 。)( ) 被告による原告らの取引先に対する文書の送付 4ア 被告は,平成14年5月16日ころ,日本農産工業株式会社(以下「日本農産」という ,日本配合飼料株式会社(以下「日本配合飼料」とい 。)う ,日和産業株式会社(以下「日和産業」という ,日清飼料株式会 。)。 )社(以下「日清飼料」という )等合計16社の養魚用飼料製造業者に対 。 し,以下の記載をした文書を送付した(甲1の1ないし4。以下上記文書を総称して「本件文書1」という 。本件文書1記載の特許の は本件 。) 2.特許1, は本件特許2, は本件特許3である。 4. 6.「弊社では,アスコルビン酸-2-リン酸エステル塩の飼料添加物用途等に関して,下記の特許を保有しております。尚,ご承知のことと存じますが,下記の特許2に関しましては,先日,無効審判において審決が,, , 出されましたが 弊社と致しましては審決が妥当でないと考えており本日,東京高等裁判所に審決取消を求めて出訴致しましたのでお知らせ致します。従いまして,当該特許権は現時点で有効に存続しておりますことを申し添えます。 .特許第2137557号:甲殻類養殖飼料用添加物』 1 『.特許第2139541号:養魚用飼料添加物』 2 『.特許第2547400号: 動物用薬剤』 3 『.特許第2800116号:水産養殖用固型飼料の製造方法』 4 『.特許第2874633号:抗コレステロール薬剤』 5 『.特許第2943785号: 養魚粉末飼料用添加物及び養魚用飼 6 『料」』.特許第2943786号: 甲殻類養殖粉末飼料用添加物及び甲 7 『殻類養殖用飼料 」』イ ) 被告は,平成14年6月27日ころ,日本農産に対し,前記アの文 a書に記載された7件の特許を挙げるとともに以下の記載をした文書を送付した(甲2の1。以下「本件文書2の1」という 。。)「・・・弊社が今年6月初旬に九州市場より入手しました貴社飼料製品『みさき2.5 』を分析しましたところ,貴社飼料製品中に弊社 P製品『ホスピタン 』とは異なる他社製品のアスコルビン酸-2-リ Cン酸エステル塩が含まれていることが判明しました。弊社は・・・飼料あるいは飼料用添加物,その製造法等に係る特許を下記の通り保有しており,貴社の飼料製品は弊社保有特許の技術的範囲に入るものと思料されます ・・・。 早急に貴社内で是正いただきたく,また今後かかることが無いようご注意をしていただきますようお願い申し上げます 」。 ) 被告は,平成14年8月9日ころ,林兼産業株式会社(以下「林兼産 b業」という )に対し,前記アの文書に記載された7件の特許を挙げる 。 とともに以下の記載をした文書を送付した(甲2の5。以下「本件文書2の2」という 。。)「・・・弊社が市場より入手しました貴社飼料製品『マリン7号』等を分析しましたところ,貴社飼料製品中に弊社製品『ホスピタン 』Cとは異なる他社製品のアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩が含まれていることが判明しました。弊社は・・・飼料あるいは飼料用添加物,その製造法等に係る特許を下記の通り保有しており,貴社の飼料製品は弊社保有特許の技術的範囲に入るものと思料されます。つきましては,早急に貴社内で是正いただきたく,また今後かかることが無いようご注意をしていただきますようお願い申し上げます ・・・な。 お,蛇足ではございますが,他社製品を一部使用された顧客様よりは従前に戻し,ご使用下さる確約を頂いております 」。 ) 被告は,平成14年8月14日ころ,日本配合飼料,日本水産株式会 c社(以下「日本水産」という ,中部飼料株式会社(以下「中部飼料」 。)という ,日清飼料に対し,前記アの文書に記載された7件の特許を 。)挙げるとともに以下の記載をした文書を送付した(甲2の2ないし2の4及び甲2の6。以下「本件文書2の3」という 。。)「・・・弊社は ・・・飼料あるいは飼料用添加物,その製造法等に ,係る特許を下記の通り保有しています。最近,弊社が市場より入手しました飼料製品を分析しましたところ,一部の飼料製品中に弊社製品『ホスピタン 』とは異なる他社製品のアスコルビン酸-2-リン酸 Cエステル塩が含まれていることが判明しました。弊社は,上記の飼料製品は弊社保有特許の技術的範囲に入るものと思料され,該社に十分な説明を求め,従前に戻し弊社製品『ホスピタン 』を使用するとのC連絡を受けております。貴社におかれましても十分ご検討,ご留意の程お願い申し上げます 」。 ) 被告は,平成14年8月29日ころ,丸紅飼料株式会社(以下「丸紅 d」。), ( 。 飼料 という に対し 以下の記載をした文書を送付した 甲2の7以下「本件文書2の4」という 。。)「弊社は8月14日付書面にて既に御連絡申し上げましたように飼料あるいは飼料用添加物,その製造法等に係る特許を保有しています。 弊社製品『ホスピタンC』とは異なる他社製品のアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩のご使用は弊社保有特許の技術的範囲に入るものと思料されます。貴社におかれましても十分ご検討,ご調査下さいますよう宜しくお願い申し上げます。尚,従来,間断無く御注文いただいておりました『ホスピタンC』の貴社からの御注文が本年7月初旬より途絶えております事をご参考まで申し添えます 」。 ( ) 被告の仮処分申立てとそれに関する広報 5ア 被告は,平成14年9月6日ころ,東京地方裁判所に対し,日本農産を債務者として,原告製品を使用した養魚用飼料の製造・販売が被告の本件特許権2及び3の侵害に当たるとして,原告製品を使用した製品の製造・販売差し止めの仮処分を申立てた(以下「本件仮処分申立て」という 。。)イ 被告は,平成14年9月9日,報道機関に対し,日本農産が,生産・販売している養魚用飼料に,従来は被告製品のみを使っていたが,最近海外の類似品を使っていることが判明し,是正を要請したが応じないために上記特許侵害行為差止めの仮処分を申し立てた旨発表し,その内容は,その,( 。),()。 後 新聞 インターネット上のものを含む 雑誌に掲載された 甲3また,被告は,同月9日,被告が開設するウェブサイト(以下「被告ウェブサイト」という )上に,前記( )ア掲記の特許のうち (本件特許 。4 4.,6.2,3)を挙げて,以下の記事を掲載した(甲4。以下上記報道機関に対する発表と被告ウェブサイトへの記事掲載を総称する場合は「本件掲載行為」という 。。)「昭和電工株式会社・・・は,9月6日,東京地方裁判所に対し,日本農産工業株式会社・・・を債務者とする特許権侵害行為差止の仮処分を申請いたしましたのでお知らせいたします。 当社は ・・・安定化ビタミンC・・・を製造,販売しており,この ,物質を使用した養魚用飼料あるいは飼料添加物,並びにその製造法等に係わる特許権を保有しております。 日本農産工業株式会社の飼料製品には,当社が保有する特許権に抵触すると考えられる製品・・・が存在するため,同社に対して是正を要請してまいりました。しかしながら ・・・事態の改善に至らず,当事者 ,間の協議では解決困難との判断に至ったため,司法手続により解決を図ることといたしました。 なお,当社は今後とも特許権侵害案件に対し,断固たる措置を行う所存であります 」。 ウ 被告は,平成15年2月,本件仮処分申立てを取り下げた。 ( ) その後の被告による原告らの取引先に対する文書の送付 6ア 被告は,平成15年6月27日ころ,伊藤忠飼料株式会社(以下「伊藤忠飼料」という )及び日本農産に対し,前記( )ア掲記の7件の特許を 。 4挙げるとともに以下の記載をした文書を送付した(甲5の1。以下「本件文書3の1 という 以下にいう 下記の特許2 は 本件特許1 下 」。)。「 」,, 「記の特許4」は本件特許2である。 「弊社では,既に御案内の通りアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩の飼料添加物用途等に関して,下記の特許を保有しております。 尚 ・・・下記の特許2に関しましては,一昨日6月25日東京高等 ,裁判所において特許無効審決を支持する判決が出されましたが,弊社と致しましては判決を不服とし,最高裁判所に上告する予定です。また特許4に関しましても,特許庁において特許無効審決が出されましたが,審決が妥当でないと考え,東京高等裁判所に審決取消を求めて出訴する予定ですのでお知らせ致します。従いまして,当該特許権は現時点で有効に存続しておりますことを申し添えます 」。 イ 被告は,平成16年3月17日ころ,協同飼料株式会社(以下「協同飼料」という ,日本配合飼料及び日本農産に対し,前記( )ア掲記の7件 。) 4の特許のうち本件特許1を除く6件の特許を挙げるとともに以下の記載をした文書を送付した(甲5の3・6・10。以下「本件文書3の2」という 。以下にいう「下記の特許3」は,本件特許2 「下記の特許5」は 。),本件特許3である。 「弊社では,既に御案内の通りアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩の飼料添加物用途等に関して,下記の特許を保有しております。 尚 ・・・日本特許第2139541号『養魚用飼料添加物』に関し ,ましては,東京高等裁判所の判決を不服とし最高裁判所に上告しましたが,残念ながら1月21日上告不受理の決定が下されました。一方,下記の特許3に関しましては,現在,東京高等裁判所において特許無効審判の審決取消訴訟の審理中であります。また,下記の特許5に関しましては3月1日に特許庁より無効審決の通知を受領しましたが,本件に関しましても弊社と致しましては審決が妥当でないと考え,今後,東京高。」 等裁判所に審決取消を求めて出訴する予定ですのでお知らせ致しますウ 被告は,平成16年8月4日ころ,日本配合飼料及び日本農産に対し,本件文書3の2と同様に6件の特許を挙げるとともに以下の記載をした文書を送付した(甲5の7・11。以下「本件文書3の3」という 。以。)下にいう「下記の特許5」は本件特許3である。 「弊社では,既に御案内の通りアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩の飼料添加物用途等に関して,下記の特許を保有しております。 日本特許第2800116号「水産養殖用固型飼料の製造方法」に関しましては,特許無効審決を不服とし東京高等裁判所に上告していましたが,残念ながら7月29日に審決取り消し請求棄却の判決が下されました。弊社では本判決を不服とし今後最高裁判所に上告する予定ですのでご連絡申し上げます。 尚,本特許の訂正審判を7月16日に特許庁に請求しております。 また,下記の特許5に関しましては,現在,東京高等裁判所において特許無効審判の審決取消訴訟の審理中でありますこともあわせてご連絡申し上げます 」。 ,,,,, エ 被告は 平成17年5月12日ころ 伊藤忠飼料 協同飼料 日本水産日本配合飼料,日本農産及び株式会社ヒガシマルに対し,前記( )ア掲記4の7件の特許のうち本件各特許を除く4件の特許を挙げるとともに以下の記載をした文書を送付した 甲5の2・4・5・8・12・13 以下 本 (。「件文書3の4」という 。以下の記載にいう「下記特許1」は,( )ア掲 。) 4記の7つの特許の 「下記特許3」は, である。 1. 7. ,「弊社では,ご案内の通りアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩の飼料添加物用途等に関して,下記の特許を保有しております。 『』 日本特許第2943785号 養魚粉末飼料用添加物及び養魚用飼料に関しましては,東京高等裁判所の判決を不服とし最高裁判所に上告していましたが,残念ながら4月27日に上告不受理の決定通知を受領致しました。 なお,下記の特許1と特許3に関しましては, ニュートリショDSMンジャパン鞄aより特許庁に特許無効審判請求があり,弊社はこれに対して無効理由がないとの答弁を行っており,今後審理が進む予定であることもあわせてご連絡申し上げます 」。 2 本件における争点( ) 被告による本件文書2の1ないし4の各送付行為,本件仮処分申立て及び 1本件掲載行為は,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当するか(争点1)( ) 被告による本件文書1,本件文書2の1ないし4,本件文書3の1ないし 24の各送付行為,本件仮処分申立て及び本件掲載行為は,不法行為を構成するか(争点2)( ) 損害の額(争点3) 3 |
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争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告による本件文書2の1ないし4の各送付行為,本件仮処分申立て及び本件掲載行為は,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当するか)について()原告ら1ア 本件文書2の1ないし4(甲2の1ないし7)の送付が虚偽の事実の告知に当たること) 文書内容の一部に虚偽があれば足りること a上記各文書は,文書の内容の一部として,送付先飼料製造業者が製造する養魚用飼料に,被告製品以外の『他社製品』を使用した場合には,本件各特許権を侵害することになるとの警告を含んでいる。本件文書2の1及び2(甲2の1及び5)については,被告が養魚用飼料である具体的な製品名を特定していること,本件文書2の3及び4(甲2の2ないし4 6及び7 については後述するとおり 上記各文書にいう 他 ,) , , 「社製品」が養魚用飼料である原告製品を示すことから,原告が上記各文書において専ら養魚用飼料について問題とするものであることは明らかであった。 そして,以下のとおり,養魚用飼料に関する本件各特許の無効審決が確定し,本件各特許が初めから存在しなかったものとみなされる以上,この限度において本件文書2の1ないし4は虚偽である。原告は,養魚用飼料に係る本件各特許に関する虚偽の事実の告知・流布についてのみ,本件請求をする趣旨である。 ) 上記各文書の内容が虚偽であること b@ 本件文書2の1(甲2の1)について上記文書にいう被告が入手したとする「他社製品」を使用した飼料が 「被告保有特許の技術的範囲に含まれる」とは他社製品の使用が ,被告保有特許の特許権を侵害するという意味にほかならない。したが,,( 。) って 上記文書は 他社製品 これは後述するとおり原告製品を指すを使用することは本件各特許権を侵害する行為であるから,直ちにその使用を中止して,被告製品の購入をせよとの要求にほかならない。 しかし,本件各特許は,すべて無効が確定し,初めから存在しなかったものとなっているのであるから,原告製品の使用が特許権侵害行為となることはなく,同文書の内容は虚偽の事実である。 A 本件文書2の2(甲2の5)について上記文書の内容は,他社製品を使用したメーカーが従前に戻し,被告製品を使用すると確約したとの記載があるほかは,本件文書2の1とほぼ同様であり,虚偽の事実である。 B 本件文書2の3(甲2の2ないし4,6)について上記各文書の内容は,被告が問題とする飼料製品が,当該警告の相手方の製品であるか否かという点を除いて,本件文書2の1の内容とほぼ同様であるから,その内容は虚偽の事実である。 C 本件文書2の4(甲2の7)について上記文書には,本件文書2の1ないし3と異なり,本件各特許は列記されていない。しかし,上記文書が丸紅飼料の水産事業部長宛てに送付されていることに鑑みれば,同文書で被告が言及する特許とは本件各特許であると解される。そして,被告が検討,調査を要求し,被告製品の注文が途絶えていることに言及していることに鑑みれば,上記文書中の,他社製品使用が被告保有特許の技術的範囲に含まれるとの記載は,本件文書2の1ないし3と同様,原告製品を購入・使用することは被告の本件各特許権を侵害する行為であるとの意味に他ならず,そのことは,送付先の丸紅飼料にとっても明らかである。 したがって,上記文書の記載も,本件文書2の1ないし3と同様,虚偽の事実に当たる。 イ 原告らの営業上の信用を害するものであること上記各文書が送付された時点で,日本国内において販売されていた,被告製品以外の飼料用アスコルビン酸-2-リン酸エステル塩は,原告製品のみであって,上記各文書にいう「他社製品」は,原告製品を指すものである。そして,このことは,原告 が,本件特許1の無効審決を勝ち DSM取ったことや,飼料安全法に基づく指定がされているアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩の飼料用添加物が被告製品と原告製品のみであったことなどから,日本農産その他の飼料製造業者にとって明らかであった。よって,本件文書2の1ないし4の送付行為は原告らの営業上の信用を害するものである。 ウ 上記各文書の送付行為の違法性被告の上記各文書の送付行為は,真に特許権の行使を目的として行われたものではなく,競業者である原告らの取引先を威嚇することにより,市場において有利に立とうとする不正競争の目的で行われた違法な行為であって,正当な特許権の行使とも認められず,その違法性は阻却されない。 ) 被告は本件各特許の無効を知っていたか 又は容易に知り得たこと 無 a ,(効審決との関係)@ 本件文書2の1ないし4の送付時,既に本件特許1についてこれを無効とする審決がされていた。無効であると審決された特許については,無効の推定がはたらいており,特段の事情がない限り,当該特許を根拠としての特許権侵害警告は行うべきではなく,これを行う場合は,上記審決後に特許の有効性について改めて十分な調査を尽くした上,発見した新証拠や明確な根拠により,無効審決が取消しになることが明らかであるとの確信を得た上で行うべきであり,そうでない限り,当該警告行為は特許権の行使に名を借りた違法行為であるとの評価を免れない。 A 本件特許発明2は,本件特許発明1に係る飼料用添加物を含有する固型飼料の製造方法である点でのみ本件特許発明1と相違するものであり,その製造方法自体は慣用方法である。本件特許発明3(訂正後のもの)は,飼料であり,魚粉を含有する点でのみ本件特許発明1と相違するものである。そして,飼料に飼料用添加物を含有させるのは当然のことであり,魚粉は養魚用飼料の慣用添加成分にすぎない。したがって,本件特許1に関する審決の無効理由は,本件特許2及び3の無効理由ともなるものであり,本件特許発明1が無効とされたからには,本件特許発明2も3も無効とされる蓋然性が高いことが明白であった。仮に,本件各特許の無効原因が被告にとって一見して明白でなかったとしても,被告が,文書送付に先立って本件各特許の有効性について十分な調査を尽くしていれば,容易に知り得たはずである。 ところが,被告は,無効審決からわずか数か月後に本件文書2の1ないし4を送付しており,この間に上記審決を覆す確信を得るに足りる程の調査を行った形跡もなければ,特許の有効性を信ずるに足りる新たな根拠を発見もしていない。被告が,本件特許の有効性を信じるに足りると主張する事情については,本件各特許の無効審決取消訴訟における各判決が,本件各特許の有効性の根拠づけとして全く無力であることを明確に判示しており,いずれも本件各特許の有効性を信じるに足りる事情とはいえない。 したがって,被告の本件文書2の1ないし4の送付は,法律的,事実的根拠を欠いたまま明白に無効な特許に基づいて行われた違法な行為である。被告は,本件文書2の1ないし4の送付に際し,本件各特許の無効を認識していたか,少なくともこれを認識しなかったことについて過失があり,本件文書2の1ないし4の送付行為は,正当な特許権の行使と認められるものではない。 ) 行為の相手方b@ 本件特許1及び訂正前の本件特許3は,養魚用飼料添加物の特許発明であるから,その一次的侵害者となるのは,原告製品を輸入販売する原告 ジャパンである。加えて,原告製品の販売の約7割はプ DSMレミックスの形で行われており,プレミックスは粉末飼料に分類されるので,原告 ジャパンは本件特許権3との関係で直接侵害者と DSMなる。したがって,被告が真に本件各特許権の有効性を信じ,特許権行使の目的をもって本件各特許権を有効かつ適切に行使しようとするならば,原告らにこそ警告すべきであったし,これは可能であった。 また,平成15年1月以降,特許法の改正により本件特許2,3の間接侵害者として原告らに訴求することも可能となった。にもかかわらず,被告は,平成15年7月16日に至るまで,原告らに対する警告等を一切行わず,飼料製造業者のみに対し,上記各文書を送付した。 これは,被告自身が,本件各特許の無効性を認識しながら,その形式的存在による抑止的効果を最大限に利用して利益を上げるという不正競争の目的で,顧客である飼料製造業者らに警告を行い,被告製品の購入を強制していたことの証左である。 A 被告は,3500件以上の特許権を有し,その社内に特許部門を有し,特許に関する知識も経験も極めて豊富である。他方,飼料業界においては,添加物や製造技術等について特許を取得することがさほど一般的でなく,これまで大規模な特許紛争などもなかったことから,特許紛争に巻き込まれることを嫌う傾向が極めて顕著であるし,飼料製造業者の大半には特許部門が存在せず,保有する特許の数にも大きな差がある。被告による上記各文書の送付は,こうした特許紛争を嫌う飼料業界の傾向と対応力の圧倒的な差を背景として行われたものである。 ) その他の事情c被告は,本件文書2の1ないし4において,警告の根拠となる特許として,本件特許1を示しながら,同特許の無効審決について何ら触れていない点においても,その違法性は高い。 エ 本件仮処分申立て及び本件掲載行為が虚偽の事実の告知・流布に該当し,原告らの信用を毀損したこと前述のとおり,本件各特許権は,本件各特許に係る無効審決の確定によって,初めから存在しなかったものとなるから,原告製品の使用が本件特許権2及び3を侵害するとの主張を前提とする本件仮処分申立て及び本件掲載行為は,虚偽の事実の告知ないし流布にあたる。これによって,被告は,原告製品を使用することによって特許権侵害のそしりを受けるとの認識を与え,原告製品,ひいては原告らの信用を毀損した。 本件特許1の無効理由が,本件特許2及び3の無効理由となるものである以上,被告は,少なくとも本件特許1についての審決取消訴訟の結論が出るまで,本件特許2及び3についても特段の事情がない限りこれを行使するべきでない。被告は,無効な特許に基づいて本件仮処分申立てをしたことにつき,少なくとも過失が認められ,これを正当な特許権行使の一環であるとして保護するのは妥当ではない。 ()被告2ア 本件文書2の1ないし4の虚偽性) 文書内容の一部が虚偽であるのみでは足りないこと a本件文書2の1ないし4には,6ないし7件の特許権の技術的範囲に属することが記載されているので 「虚偽の事実」の記載があるという ,ためには,これら特許権すべての無効を主張するか,あるいは,上記各文書を送付された会社が製造販売する飼料等のいずれもが,上記各特許権すべての技術的範囲に含まれないことを主張することが必要である。 ) 本件文書2の1ないし4の内容 b本件文書2の1ないし4は,まったくの事実を記載し,被告の意見ないしは希望を表明したものであり,何ら虚偽の事実は記載していない。 イ 原告の営業上の信用を害しないこと本件文書2の1ないし4中には一切原告の名称は出ておらず 「他社製,品」と記載されているのみである。上記各文書の送付当時,飼料製造業者が使用しうるアスコルビン酸リン酸塩として,原告製品の他の外国製品や日本製品が市場に多数存在していたものであるから,飼料製造業者が「他社製品」を「原告製品」と特定することはない。したがって,これらの行為が原告に対する不正競争行為となる余地はまったくない。 ウ 本件文書2の1ないし4の送付の違法性) 被告は本件各特許の無効を知らずまた容易に知り得なかったこと 無 a ,(効審決との関係)@ 被告には,本件文書2の1ないし4の送付時,本件各特許が有効と信じるだけの十分な理由があった。すなわち,被告の保有する特許7件のうち,本件特許1を除く6件については,無効審決さえ出されていなかった。また,本件特許1と本件特許2及び3は,それぞれ独立の特許で,構成要件も発明も異なっているから,一部共通の要件があったとしても,本件特許1を無効とする審決がされたからといって,本件特許2及び3も無効になるとは限らない。 A 本件各特許が無効と判断されたのは「L-アスコルビン酸の2- ,ホスフェート誘導体」は 「アスコルビン酸活性を示す有効成分」と ,して「魚の餌の補充剤」として用いられることが知られている,との特開昭52-136160号公報(以下「第1引用例」といい,その「」。)。 発明を 第1引用例発明 という の記載を根拠とするものであるしかし,本件特許1に対する無効審決の後に,上記の判断根拠に重大な影響を与えると信じ得る多数の証拠が発見された。すなわち,第1引用例の刊行時点までの文献の検索結果,上記の点が知られているとの事実は見いだせなかったし,生物化学の観点から「魚の餌」が記載されているとは認めがたいとの見解が出され,上記公報に係る発明の優先権の基礎となった米国特許明細書の原文の解釈と前後の文脈からすると 「魚の餌」とは明らかな誤訳であり 「 人の)魚料理」であ ,,(ると解すべきであるとの供述が,米国特許事務に精通している著名な弁護士,弁理士から得られたものである。 ) 行為の相手方b@ 本件各特許権との関係では,飼料製造業者こそが直接侵害の相手方であって,原告らは,それに材料を提供している材料メーカーにすぎない。原告らに間接侵害を問うとしても,原告製品である「アスコルビン酸-2-リン酸エステル塩」自体は明らかに多用途のある製品であるため,原告らに対し,直接,警告等を行うことは困難である。また,原告 は日本国外の海外企業であるから,本件各特許権に基 DSMづき,海外での原告 の行為(製造等)を問題とすることは極め DSMて困難である。直接侵害の相手方に通知をしたことによって,その材料若しくは部材メーカーに対する不正競争防止法の適用があるとすれば,権利者としては,権利行使をするに際し,常にその間接侵害者の存在あるいは部材を提供しているメーカーの存在にまで注意を払わなくてはならないことになり,その権利行使を過度に萎縮させる。被告は,本来特許権侵害訴訟を提起すれば被告となるべき者に対し,その製造販売する製品を対象として本件文書2の1ないし4を送付したにすぎず,このことを問題視される理由はない。 A 本件文書2の1ないし4の送付先は,それぞれ自己の責任と判断で特許問題に対処できるだけの規模と能力を備えた会社であり,日本農産等多くの飼料製造業者は特許紛争の経験もある。 加えて,被告は,これらの会社に対し,本件文書2の1ないし4送付以前に本件文書1を送付して,自己の特許が無効と判断された事実を伝えており,これらの会社は,本件文書2の1ないし4に対する自らの行動を自らの責任と判断において決定する材料を被告から提供されていたのである。 エ 本件仮処分申立て及び本件掲載行為の虚偽性) ある者が訴訟(仮処分を含む )を提起するか否かは,基本的にはそ a 。 の者の裁判を受ける権利の範囲内のことであって,訴権の濫用と評価されるような極めて例外的な場合しか,違法とはならないし,そのような場合であっても,被告(ないし債務者)とされた者に対する違法行為の成否が問題となるだけである。原告らの主張は裁判を受ける権利を不当に軽視するもので,成り立ち得ない。 ) 本件掲載行為は,本件仮処分を申し立てたとの事実を公表しているの bみであり,何ら虚偽の事実の流布に該当しない。また,これらの公表内容には原告らの名称を表示していない点からも,原告らから問題視されるいわれはない。 2 争点2(被告による本件文書1,本件文書2の1ないし4,本件文書3の1ないし4の各送付行為,本件仮処分申立て,及び本件掲載行為は,不法行為を構成するか)について()原告ら1本件文書1及び本件文書2の1ないし4の送付,本件仮処分申立てとそれに関する本件掲載行為,その後の飼料製造業者に対する本件文書3の1ないし4の送付という一連の行為は,原告らに対する不法行為を構成する。 ,, ア 被告による上記一連の行為は 本件特許1についての無効審決が出され本件各特許がいずれも無効になることが明白であったにもかかわらず,本件各特許の有効性につき十分な調査を尽くさずになされたものであり,違法である。 イ 本件文書1,本件文書2の1ないし4及び本件文書3の1ないし4の各送付行為について) 被告は,本件文書1,本件文書2の1ないし4及び本件文書3の1な aいし4を,国内の飼料製造業者ではなく,他社製品を製造販売していた原告らに送付すべきであった。被告が飼料製造業者に対し上記各文書を送付した主たる目的は,取引先である飼料製造業者に対し,直接圧力をかけ,原告製品の販売を妨害し,市場において優位な地位を維持することにあった。 ) 被告から飼料製造業者に対する通知・警告行為は,平成14年5月1 b6日から現在に至るまで,計17社,のべ36回と多数回に及び執拗である上,本件各特許に対する無効審決,高等裁判所での棄却判決,最高裁判所への上告受理申立ての不受理決定が出るたびに新たな文書の送付を行い,残存特許の存在を誇示して,飼料製造業者らの被告製品から原告製品への切替の動きに水を差していた。本件各特許が消滅し,被告製品が魚類添加物市場から排除されれば,他の飼料用添加物を販売していない被告は,これらの飼料製造業者と取引関係を継続する必要はなくなる。そのため,被告は,本件各特許すべてについて最高裁判所まで争ったり,各審判及び訴訟手続において無意味な主張を追加したり,又は既に別の手続において排斥された主張をいたずらに繰り返すことによって,審理を長引かせ,本件各特許権をできる限り形式的に延命させようとした。例えば,被告は,本件特許1の上告受理申立てのわずか1週間前の平成15年7月1日になって,当該特許について単に「魚粉」を構成要件に加えたに過ぎない訂正を行ったが,魚粉は養魚用飼料の慣用成分であるから,この訂正により特許要件が具備されることがあり得ないのは明白である(実際,本件特許2について被告によりされた同様の訂正は訂正審判で拒絶審決を受けた 。また,被告は,本件特許2につ 。)いて,上記の訂正審判以外に,当該特許の審決取消訴訟の口頭弁論終結日(平成16年7月20日)のわずか4日前になって,再度の訂正審判を申し立てたが,この訂正は,特定の飼育試験において生存率が対照飼料の46 15倍を達成するという,当該特許発明の水産養殖飼料が本 /来奏する効果を加えたにすぎないもので,当該特許発明の構成要件を何ら限定しない,明らかに無意味な訂正である。その上,被告は,当該特許の無効審決取消訴訟において,平成16年2月2日にいったん弁論準備手続が終了した後3か月以上経過した同年5月28日に,準備手続の継続を申立てたが,その理由は,当該特許の無効審判の理由となった主引用文献の 「魚の餌の補充剤」なる記載は「 」を誤訳し the diet of fishたもので,当該記載は「魚からなる食事の補充剤」を意味するというもので,明らかに失当であった。さらに,被告は,本件特許3の無効審判において,平成15年11月10日に審理終結通知がされているにもかかわらず,平成15年12月10日に第2答弁書を提出するとともに審理再開の申し立てを行った上,平成16年1月9日に上申書を提出している。このような被告の行為は,特許権の存在を口実として各飼料製造業者に対し執拗な警告と嫌がらせを行うことにより,被告製品を高価格で押し付け,あげられるだけの利益をあげた上で逃げ切ろうという意図で行われたものである。 ) 本件文書1及び本件文書3の1ないし4の重点は 「当該特許権は現 c ,時点で有効に存続しておりますことを申し添えます」という部分にこそあり,これらは,特許が無効でないことを伝えるための文書である。しかも,被告は,無効審決について,審決取消訴訟を提起し,さらには上告して,徹底して特許権の形式的効力の維持を図る姿勢を見せている。 したがって,上記各文書の送付を受けた飼料製造業者らは 「被告は特,許権が形式的に存在する限りは,法的手段に出ても被告製品の購入を強制しようとするであろう」と受け取るのが通常である。しかも,いずれの文書も,本件各特許のいずれかの無効が,特許庁または裁判所で確認され,飼料製造業者らが原告製品への切替を検討している中で送られてきたものであり,飼料製造業者らの原告製品の購買意欲に対し与える影響は大きい。特に,日本農産に対する仮処分申立ての後に送付された本件文書3の1ないし4による飼料製造業者に対する威嚇的効果は強い。 上記各文書の送付を含め被告の一連の行為は,争点1に関する主張においても述べたとおり,原告製品の販売を妨害するため,原告らの営業上の信用を毀損し,飼料製造業者に圧力を加える目的で行われ,原告らに損害を与えたものである。 ウ 本件仮処分申立て及び本件掲載行為について被告による一連の行為は,以下の事情からみて,他の飼料製造業者に対する見せしめであり,原告らの信用を毀損し,飼料製造業者に対し心理的圧力をかけて原告らとの取引を妨害する目的で行われたことは明らかであって,違法である。 ) 本件特許1の無効理由が,本件特許2及び3の無効理由となるもので aある以上,被告は,少なくとも本件特許1についての審決取消訴訟の結論が出るまで,本件特許2及び3についても特段の事情がない限りこれを行使するべきでない。被告は,無効な特許に基づいて本件仮処分申立てをしたことにつき,少なくとも過失が認められる。 ) 行為の相手方b@ 被告は,当時,本件文書2の1ないし4の送付の際と同様に,本件仮処分申立てについて,原告らを相手とした手段をとり得たし,そうすべきであった。 本件特許2,3のみについて,その請求項を形式的に見れば,原告製品を直接の対象とするものではないものの,これらの特許が,本件特許1と一体のものであることにも留意すべきである。すなわち,本件各特許の本質は,いずれもL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を養魚用固型飼料の添加物とすることにあり,製造方法特許(本件特許2 ,飼料特許(本件特許3)は,添加物特許(本件特許 )1)と同一の技術的思想に基づくものである。このような関係からすれば,本件各特許は,飼料添加物である被告製品の独占販売という目的に向けられた,実質1件の特許にすぎない。そのような観点からみると,他社の飼料添加物製品が流通することによって本件各特許権を侵害する事態が生じた場合,被告が最も有効かつ適切に本件各特許権を行使しようとするならば,マザーパテントである本件特許権1を根拠として,原告らに対して警告ないし法的手段をとるはずである。被告自身,被告製品の購入以外要求しておらず,事実上行使していたのは本件特許権1のみであったといえる。このような観点からも,警告の相手方とすべきであったのは,原告らであった。 A また,上記一連の行為が,特許紛争を嫌う飼料業界の傾向と特許紛争に対する対応力の圧倒的な差を背景としていることも,本件各文書2の1ないし4の送付について述べたところと同様である。 ) 本件仮処分申立ての必要性がなかったこと c原告製品の使用に関する日本農産と被告との協議が開始されてから本件仮処分申立てに至るまで,1か月半程度しか経過しておらず,しかも当初より日本農産は原告製品の購入を中止し,被告製品を購入することを約束していたのであるから,この仮処分は保全の必要性も緊急性も存在しなかった。 ) その他の事情d@ プレスリリースでは,本件特許1の無効審決には何ら言及されていないが,前述の本件各特許権の関連性から,本件特許1につき無効審決がされているという事実は,他の特許権の有効性,ひいては原告製品及び原告製品を使用することの違法性を判断する上で極めて重要な要素である。にもかかわらず,あえて上記の点に言及せず,特許権侵害の主張のみを展開した被告の行為は公正でなく,違法性が高い。 A 日本農産は,本件仮処分申立て前に,従前に戻して被告製品を購入することを約束していたのであるから 「当事者間の協議では解決困 ,難」との被告の発表は事実に反する。被告のプレスリリースは,故意に事実を歪曲して日本農産が悪質であるかのような印象を与えるものである点からも違法性が強い。 B 被告は,本件仮処分取下げの事実は一切公表しないまま,仮処分申立てのニュースのみを被告ウェブサイト上に残している。 また,被告は,平成16年12月15日付けで原告 ジャパンDSMに対し特許権侵害訴訟を提起しているが,この事実は平成17年11月現在に至るまで被告において公表しておらず,ほとんど報道されていない。被告のいうようにプレスリリースが株主に対する義務であるならば,本件仮処分申立てとこれらとで扱いを異にする理由はない。 さらに,本件仮処分申立てに関する各種報道において,被告がウェブサイト上で公表した以上の情報が記載されており,これらは被告が情報提供したものと考えざるを得ない。このようなことからも,被告が,被告製品による市場独占を維持するために,飼料製造業者を威嚇する目的の下で,報道機関をも利用して本件掲載行為を行っていたことは明らかである。 ()被告2ア 本件文書1,本件文書2の1ないし4及び本件文書3の1ないし4の各送付行為について) 本件文書1及び本件文書3の1ないし4は,いずれも事実を記載した aものにすぎない。本件文書2の1ないし4についても,まったくの事実を記載し,被告の意見ないしは希望を表明したのみであることは争点1に関する主張で述べたとおりである。 以上のとおり,被告は,いずれの文書についても,事実を事実のまま,。 に記載しており これらの送付は何ら違法とされるような行為ではない) 本件各文書において,一切原告の名称は出てこないのであるから,こ bれらの送付行為が,原告に対する不法行為となる余地はない。 ) 特許権者が有効であると信じている自らの特許について,無効審判に cおいて無効とされた場合に,審決取消訴訟を提起するなど,その特許の維持のために最大限の努力を払うことは極めて当然のことであって,原告がこのような行為を問題視すること自体が失当である。 イ 本件仮処分申立て及び本件掲載行為の違法性) 原告らの主張が成り立ち得ないこと aある者が訴訟(仮処分を含む )を提起するか否かは,基本的にはそ 。 の者の裁判を受ける権利の範囲内のことであって,訴権の濫用と評価されるような極めて例外的な場合しか,違法とはならないし,そのような場合であっても,被告(ないし債務者)とされた者に対する違法行為の成否が問題となるだけである。原告らの主張は裁判を受ける権利を不当に軽視するもので,成り立ち得ない。 ) 行為の相手方b仮処分において,現実に使用した発明は,本件特許2の請求項1の発明と本件特許3の請求項2の発明であって,被告は,特許権侵害訴訟を提起すれば相手方となるべき者に対し権利行使をしたものであること,。 は 本件文書2の1ないし4の送付について述べたところと同様である) 本件仮処分申立ての必要性,緊急性 c日本農産が原告製品の購入を中止することを明らかにしたのは,仮処分申立て後であり,上記仮処分申立てに必要性,緊急性は存在した。 ) その他の事情d被告のような上場企業であれば,特許侵害訴訟(仮処分を含む )を。 提起した場合,これを公開することは,株主に対する義務とさえ言えるし,ウェブサイトのニュースリリースについて,一度掲載した記事を後に削除するような取扱いをしていないのは,被告に限らず多くの企業が採用している取扱いで,何ら問題視されるものではない。 3 争点3(損害の額)について()原告ら1被告らの行為によって,原告らは,営業上の信用を毀損され,以下の損害を受けた。なお,原告 は,原告製品を製造し,原告 ジャパンを DSM DSM日本における販売代理店として,日本において販売しているから,日本においては,被告製品に関して被告の競業者であり,被告の不正競争行為及び不法行為のために日本における販売による利益を失い,損害を受けたものである。また,原告らは別法人ではあるが,同グループ内の会社であり,特に日本における原告製品の販売という事業に関しては,原告 ジャパンは,DSM原告 が原告製品を日本市場において販売するための窓口の役割を果た DSMしているにすぎず,経済的には両者は一体として捉えられるべきであり,両者の取り決めで,原告 ジャパンは,販売経費を賄うに足りる利益のみ DSMを受けるとされ,もっぱら原告 が日本における原告らの販売利益を得 DSMている。しかしながら,原告 ジャパンは,被告の本件行為により,そ DSMの信用を著しく毀損され,また,被告の行為の影響を軽減するために顧客及び潜在的顧客に対する,説明その他の種々の活動をせざるを得なかったために,担当役員及び従業員が多大な時間と費用を割いたもので,同原告は,そのような損害の回復のために請求の趣旨記載の請求をしているものである。 ア 原告 についてDSM) 逸失利益a,。, , 逸失利益は 以下のとおりである なお不法行為による損害のうち平成14年7月以降についてのものは,不正競争行為による損害でもあり共通するので,被告の行為による逸失利益として,不正競争行為による損害記載の金額を請求する。 @ 不正競争行為による損害 13億7095万6500円被告の不正競争行為によって侵害された原告らの営業上の利益の額は,同侵害行為によって被告が受けた利益の額と推定される(不正競争防止法5条2項 。)原告製品の顧客及び潜在的顧客は,本件文書2の1ないし4の送付又は日本農産に対する仮処分申立てと本件掲載行為の影響を受けて,原告製品の購入を中止,断念,延期したものである。そして,被告による不正競争行為は,日本農産に対する本件文書2の1(甲2の1)が送付された平成14年6月27日を起点として開始され,これらの行為の影響は,本件各特許のすべての無効が確定した平成17年4月まで継続していた。原告製品と被告製品とは,水産飼料用添加物としての効用は全く同じであるが被告製品の価格は原告製品のそれの約7,, 倍であることからすれば 被告による不正競争行為の影響がなければ被告の顧客である飼料製造業者らは,被告製品の替わりに原告製品を購入していたことは明らかである。したがって,平成14年7月から平成17年4月までの間に被告が被告製品の販売によって得た利益は,被告が上記不正競争行為によって原告の販売を妨害することにより得ることができた利益であると認められる。被告によれば,平成15年に被告製品の販売で得た利益は年間合計4億8386万7000円である。これを被告の年間利益とすると,被告は,平成14年7月から平成17年4月までの間に,不正競争行為による市場独占によって,13億7095万6500円の利益を得ていたことになり,これが,同期間内の原告 の損害であると推定される。 DSMA 不法行為による損害 5億2406万5113円本件は,原告らが原告製品の販売を開始した直後から,これを被告が妨害した事案であるから,被告の違法行為以前の原告製品の正常な販売量の実績を示す数値がない。もっとも,原告らは,平成17年5月以降は被告の行為の影響をほぼ脱した状態で原告製品を販売しており,既に国内飼料製造業者の多くは被告製品を全く購入せず,その分はほぼすべて原告製品に置き換えられている。被告の妨害行為がなければ,本件特許1の無効審決がされ,原告製品の販売が開始された平成14年5月当初より,飼料製造業者らが被告製品から原告製品への切替をはかっていたことは,前記@のとおり明らかである。よって,平成17年5月以降の販売実績が通常の状態における年間販売量と推定されるので,それと実際の販売量との差が原告 が被告の行為DSMDSM により失った販売量である。これに,1sの販売価格から原告における原料その他の変動製造コストを控除した金額(1s当たり利益)を乗じた額は371万4791ユーロである。ところで,上記の逸失販売量の製造に要する燃料,廃棄,保管等の限界固定費用は,総額約5万ユーロであるので,上記の371万4791ユーロからこの限界固定費を控除した366万4791ユーロが原告 の逸失利DSM益である。これは日本円に換算すると5億2406万5113円である(1ユーロ143円で換算 。)) 信用毀損による無形損害 5000万円 b) 弁護士,弁理士費用 1500万円 cイ 原告 ジャパンについて DSM信用毀損による無形損害 5000万円()被告2争う。 ,, , なお 原告らの主張によれば 原告は海外における原告製品の製造者 DSM原告 ジャパンは平成14年4月25日以降,日本で原告製品の販売を行 DSMっている者であり,被告の行為によって原告製品が売れなくなったとして逸失利益を主張するようであるが,仮にそうであるとすれば,当該損害が発生するDSM DSM のは,原告 ではなく,原告製品を日本の顧客に販売している原告ジャパンについてであると考えるのが通常である。このことのみからも,原告の逸失利益の主張には理由がない。 DSM |
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当裁判所の判断
1 争点1(被告による本件文書2の1ないし4の各送付行為,本件仮処分申立て及び本件掲載行為は,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当するか)不正競争防止法2条1項14号は 「競争関係にある他人の営業上の信用を ,害する虚偽の事実を告知し,又は流布する行為」を不正競争行為の一類型として規定する。この規定は,競争関係にある者が,客観的真実に反する虚偽の事実を告知し,又は,流布して,競業者にとって重要な資産である営業上の信用を害することにより,競業者を不利な立場に置き,自ら競争上有利な地位に立とうとする行為が,不公正な競争行為の典型というべきものであることから,これを不正競争行為と定めて禁止したものである。以下,このことを前提として,被告の本件文書2の1ないし4の各送付行為,本件仮処分申立て及び本件,, 掲載行為は 不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当するかまた,被告の上記各行為の違法性,あるいは,被告の故意又は過失について判断する。 ( ) 本件文書2の1ないし4の各送付行為について 1ア 本件文書2の1ないし4は,原告の営業上の信用を害するものか。 ) 不正競争防止法2条1項14号は 「競争関係にある他人の営業上の a ,信用を害する」虚偽の事実の告知・流布行為を不正競争行為とするものであるから,当該告知等の行為によって信用を害される他人が特定されていることが必要である。本件文書2の1ないし4には,通知先の各飼料製品に「他社製品のアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩」が含まれていることが判明したこと,及び,当該飼料製品が被告保有特許の技術的範囲に属するとの記載はあるものの 「他社製品」がどの企業の製 ,品であるかは明示されていない。しかし,当該他人の名称自体が明示されていなくても,当該告知等の内容及び業界内周知の情報から,当該告知等の相手方となった取引先において 「他人」が誰を指すのか理解で ,きるのであれば,それで足りると解すべきである。 @ 被告は,平成13年当時,本件各特許権を有していたことから,日本国内における養魚用飼料添加物であるアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩について,被告が製造販売する被告製品によりその市場をほぼ独占する状態にあった。飼料製造業者は,その当時,海外のメーカーからより低価格のアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩を購入することができず,高価な被告製品を使用せざるを得ない状態であった。しかし,原告らが,平成14年4月に,飼料安全法による指定を得てアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩の販売を開始したため,一部の飼料製造業者が価格の安い原告製品を使用して養魚用飼料を販売するようになった(甲25ないし28 。)特許権者である被告からの警告書である本件文書2の1ないし4は,平成14年6月ないし8月にかけて,上記のような状況の中で各飼料製造業者に対し送付されたのであるから,同文書における「他社製品のアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩」が原告製品を意味することは,各飼料製造業者にとっては明らかなことであった。また,被告も,本件文書2の1を送付する前に,原告らが上記のとおり飼料添加物について,飼料安全法による指定を得たこと,及び,日本農産の飼料製品を市場から入手して分析し,原告製品が使用されていることを確認していたことからすれば(甲38 ,被告も 「他社製品」 ),が原告製品であることを認識しながら,上記文書を送付したものと認められる。 ,, A 被告は 養魚用飼料に用いることができるビタミンC誘導体として原告製品の他の日本製品や外国製品などがあったから 「他社製品」,が原告製品であったと特定することはできなかった旨反論する。しかし,被告が指摘する外国製のアスコルビン酸リン酸塩は,本件文書2の1ないし4の送付当時製造・販売されていたか否か不明なものであるか,当時製造・販売されていたとしても,日本において被告製品の競合品として流通していたかが明らかなものではない(乙7,8,14,17 。また,被告が指摘する日本製品は美白化粧品に用いられ )るものであり(乙9ないし11,15 ,化粧品用のビタミンC誘導 )体を飼料に用いることはその価格から困難であるから,被告が指摘するような日本製品が被告製品の競合品であったとは考え難い(弁論の全趣旨 。)) 本件文書2の1ないし4には 「他社製品のアスコルビン酸-2-リ b ,」, ン酸エステル塩 すなわち原告製品が含まれている相手方の飼料製品が被告保有特許の技術的範囲に属すること,及び,この状態を是正すべきこと,あるいは,従前に戻して被告製品を購入すべきことなどが記載されている(甲2の1ないし7 。これによれば,本件文書2の1ないし )4は,いずれも,原告製品を使用して製造した飼料製品が本件各特許権を侵害する趣旨の文書であると解されるから(その詳細は,次のウのとおりである ,原告製品を製造する原告ないしそれを販売する原 。) DSM告 ジャパンの営業上の信用を害するものと認められる。そして, DSM原告製品と被告製品はともに養魚用飼料用のビタミンC誘導体であり,原告 はこれを製造し,原告 ジャパンが販売する者で,被告 DSM DSMはこれを製造・販売するものであること(前提となる事実( ))からす2,。 れば 原告らと被告とは競争関係に立つものであることは明らかであるしたがって,本件文書2の1ないし4は,競争関係にある他人の営業上の信用を害するものと認められる。 イ 本件文書2の1ないし4は 「虚偽の事実」を告知等するものか。 ,) 「技術的範囲に入るものと思料され」の趣旨について a本件文書2の1には 「貴社飼料製品中に・・・他社製品のアスコル ,ビン酸-2-リン酸エステル塩が含まれていることが判明しました。弊社は・・・飼料あるいは飼料用添加物,その製造法等に係る特許を下記の通り保有しており,貴社の飼料製品は弊社保有特許の技術的範囲に入るものと思料されます ・・・早急に貴社内で是正いただきたく,また 。 今後かかることがないようご注意をしていただきますようお願い申し上げます 」との記載がある。本件文書2の1の趣旨は,単に,通知先の 。 飼料製品が被告保有特許の技術的範囲に入ることを述べるのみならず,現在の状態を是正することを求めるものであることからすると,本件文書2の1は 「他社製品のアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩」す ,なわち原告製品を使用して飼料製品を製造すると,被告が保有する本件各特許権を侵害するものであることを意味しているものと認められる。 また,前記前提となる事実認定のとおり,本件文書2の2ないし4にも,本件文書2の1と同趣旨の記載がなされていることからすれば,本件文書2の2ないし4においても 「他社製品のアスコルビン酸-2- ,」, リン酸エステル塩 すなわち原告製品を使用して飼料製品を製造すると被告が保有する本件各特許権を侵害するものであることを意味しているものと認められる。 なお,本件文書2の4(甲2の7)においては,本件各特許は列記されていない。しかし,上記文書には 「8月14日付書面にて既にご連 ,絡申し上げましたように」という記載があり,これが本件文書2の3と同様の文書を前提としたものと推認されること,及び,同文書が丸紅飼料の水産事業部長宛てに送付されており,被告が検討,調査を要求し,被告製品の注文が途絶えていることに言及していることに鑑みれば,同文書で被告が言及する特許とは本件各特許であると解されるし,上記文書中の,他社製品使用が被告保有特許の技術的範囲に含まれるとの記載は,本件文書2の1ないし3と同様,原告製品を購入・使用することは被告の本件各特許権を侵害する行為であるとの意味にほかならず,この,。 ことは 送付先の丸紅飼料にとっても明らかなことであると認められる,「」 b) 複数の特許権を侵害するとの記載がある文書について 虚偽の事実は,各特許権毎に判断すべきか,対象製品毎に判断すべきか。 本件文書2の1ないし4は,いずれも,被告の有する本件各特許権を含む合計7件の特許権を列挙した上で 「他社製品であるアスコルビン ,酸-2-リン酸エステル塩」すなわち原告製品を使用した飼料製品が,被告の有する本件各特許権を侵害することを述べたものであることは前記認定のとおりである。そして,本件文書2の1,2及び3のいずれにも,養魚用飼料に係る本件各特許権とそれ以外の甲殻類養殖用飼料添加物に関する特許権2件及び動物用薬剤に関する特許権2件が列挙されており,本件文書2の4においても,特許番号の記載はないものの 「・,・・8月14日付書面にて既にご連絡申し上げましたように・・・」との記載から,本件文書2の3と同様に被告保有の特許権の記載があるものと同視することができる。 ,, 原告らは 本件文書2の1ないし4に記載された7件の特許権のうち一部の特許権について虚偽であれば,虚偽の事実の告知ないし流布に当たるのであり,原告らの請求は,被告が各飼料製造業者に送付した本件文書2の1ないし4のうち,養魚用飼料に係る本件各特許権3件に関する記載についてのみ,虚偽の事実の告知ないし流布であるとして,損害の賠償を請求する趣旨である旨主張するのに対し(第7回弁論準備手続調書 ,被告は,本件文書2の1ないし4に記載されたすべての特許権 )について非侵害であることがいえなければ,虚偽の事実の告知ないし流布に該当しないと反論する。 不正競争防止法2条1項14号は「他人の営業上の信用を害する虚 ,偽の事実」の告知ないし流布を不正競争行為とするものであるから,1通の書面において 「他人の営業上の信用を害する」複数の「虚偽の事 ,実」の記載がある場合は,各「事実」ごとに虚偽か否かを判断すべきである。すなわち,本件書面2の1ないし4のように,1通の書面で,7件の特許権を侵害することを述べる場合は,1件の特許権の侵害でも当該製品の製造販売が困難となるものであるから,各特許権毎に,当該製品が特許権を侵害するものであるとの,営業上の信用を害する事実の記,「」 , 載があるというべきであり 各特許権毎に 虚偽の事実 であるか否かすなわち,当該製品について特許権侵害が成立するか否かが決定されなければならない。したがって,本件文書2の1ないし4のように,7件の特許権が記載されている場合には,7件の特許権毎に,当該製品が各特許権を侵害するか否かが争点となり得るものであるものの,原告は,そのうち本件各特許権に関する記載のみを,本訴の対象とするものであるから,本件においては,本件各特許権に関する記載が「虚偽」であるか否かのみを判断することとする。 もっとも,本件各特許発明は,いずれも養魚用飼料又は養魚用飼料添加物に関する特許であるから,原告らの取引先である被通知人が原告製品を使用して養魚用飼料を製造販売する行為は,いずれも本件各特許発明の実施行為の対象となり得る行為である。したがって,仮に,被通知人の行為が本件特許権1のみを侵害し,何らかの理由で本件特許権2及び3の侵害にならない場合には,本件特許権2及び3の関係では,虚偽事実の告知ないし流布に該当するものの,被通知人の飼料製品が本件各特許権のうちの一つを侵害するものであるため,被通知人が当該製品を,, 製造販売し得ないことに変わりはないことになり このような場合には特許権者の通知書の送付行為が本件特許権2及び3の関係でのみ不正競争行為に該当するとしても,被通知人に営業上の信用を害する何らかの損害が生じたと認めることができないことが多いと思料される。したがって,対象製品が同一の場合,複数の特許のうち,一つの特許権の侵害が認められれば,他の特許権の侵害が認められない場合でも,損害賠償請求が棄却されることはあり得ることである。 ) 本件文書2の1ないし4は「虚偽の事実」を記載したものか。 c ,,, 本件各特許について これを無効とする審決がいずれも確定したことすなわち,本件各特許のいずれについても特許庁がこれを無効とする審決をし,同審決取消訴訟において,特許権者である被告の請求が棄却され,各判決が確定したことにより,無効審決が確定したことは,前提となる事実において認定したとおりである。したがって,本件文書2の1ないし4における,前記の記載すなわち,各飼料製造業者が原告製品を飼料添加物として使用し製造販売した養魚用飼料が本件各特許権を侵害するとの趣旨の記載は 「虚偽の事実」であると認められる。 ,以上によれば,被告が競業者である原告の取引先に対し本件文書2の1ないし4を送付した行為は,原告らの営業上の信用を害する虚偽の事実の告知又は流布に該当するものと認められる。 ウ 本件文書2の1ないし4の送付行為について,被告には故意又は過失が認められないと解すべきか。 ) 本件文書2の1ないし4の被通知人は,いずれも養魚用飼料の製造業 a者であり,原告らから原告製品を購入し,これを使用して養魚用飼料を製造し,販売する行為は,被告が保有する本件各特許権の侵害となり得る行為であった。したがって,被告が本件文書2の1ないし4を送付した行為は,本件各特許権を現に侵害している可能性がある者に対する警告であり,特許権者として,被通知人を相手方として,本件各特許権侵害を理由として,その養魚用飼料製品の製造販売行為の差止めの訴えを提起する前になされるべき事前の警告行為でもある。そのため,特許権者の権利行使の一環としての警告書の送付行為は,それが特許の無効あるいは技術的範囲の解釈により,最終的に侵害行為とは認められないとの判断が確定し,不正競争防止法上の虚偽事実の告知又は流布に当たると解されるとしても,特許権者の権利行使を不必要に萎縮させないことと,営業上の信用を害される競業者の利益の保護との両方の要素を考慮しながら,その故意又は過失の有無については,事案に応じて適切に判断すべきである。 ) 特許権者が,競業者の取引先を相手方として,その行為が特許権を侵 b害するものであるとして,仮処分を申し立てたり,特許権侵害訴訟を提起したりすることは,特許権の行使であり,裁判を受ける権利の行使であるから,特許権者が,事実的,法律的根拠を欠くことを知りながら,又は,特許権者として,特許権侵害訴訟の提起,あるいは,仮処分の申立てをするために通常必要とされている事実調査及び法律的検討をすれば,事実的,法律的根拠を欠くことを容易に知り得たといえるのにあえて訴訟等を提起し,あるいは,仮処分を申し立てた場合には違法となるが,そうでない場合には,特許権者としての裁判を受ける権利の行使であり,正当行為として違法性を阻却されるものと解すべきである(最高裁昭和63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁 。そし)て,訴訟に要する費用,労力等,事前の話合いによる解決の可能性を考慮すると,いきなり訴えを提起するのは望ましくはなく,まずは,相手方に対し,特許権を侵害しているとの警告等を行うべきであることは一般に考えられているところである。したがって,特許権者が侵害行為を行う者に対し,特許権侵害の警告書を送付する行為は,これを訴えを提起する行為と同一視することはできないとしても,それとの比較からいっても,その行為が,警告書送付行為時においては,相応の事実的,法律的根拠に基づいてなされ,かつ,警告書の内容,配布先の範囲,枚数等の送付行為の態様などから,特許権等の正当な権利行使の一環としてなされたものと認められる場合には,当該行為について,故意はもちろん過失も否定されるべきであると解すべきである。これに対し,特許権侵害について,事前の事実的,法律的調査が不十分なまま,警告書を送付するに至った場合については,当該不正競争行為について過失が認められるべきであるし,また,競業者の取引先に対する警告等が,特許権者の権利行使の一環としての外形をとりながらも,その目的が競業者の信用を毀損して特許権者が市場において優位に立つことにあり,その内容,態様等において社会通念上必要と認められる範囲を超えたものとなっている場合などには,当該不正競争行為について,故意ないしは少なくとも過失が認められ得るものというべきである。 ) 特許権者による特許権侵害であるとの警告書の送付行為が,特許権が c後に無効となり,遡及的に消滅したことにより,競業者の「営業上の信用を害する虚偽の事実」の告知又は流布となった場合には,警告書送付当時に,相応の事実的,法律的調査をすれば,特許権に無効の理由があることが明らかであったかどうかにより,特許権者の過失の有無を判断すべきである。すなわち,警告書送付時に,既に無効審判が申し立てられ,それによれば,特許が無効となることが容易に予想し得た場合,あるいは,警告書送付時に既に無効審決がなされており,無効審決を取り消し得ると考える合理的な根拠があったとはみられない場合などには,警告書送付行為について過失責任を肯定することが多いと考えられるし,逆に,警告書送付時には,無効審判も提起されておらず,後日に判明した無効理由が明らかではなかった場合には,警告書送付についての過失責任は否定されることが多いと思料される。また,無効審判が提起されており,相手方から無効理由を構成する理由(具体的な公知文献や明細書の記載不備等の理由)の指摘を受けていたとしても,最終的な無効の判断が特許庁や裁判所による高度に専門的な判断となるため,特許権者としては,無効となることが容易に予想し得ない場合などには,後に当該特許が無効となったとしても,警告書送付行為についての過失責任は否定されることもあると考えられる。 ) 本件文書2の1ないし4の送付行為の事実的,法律的根拠について d@ 本件特許1についてこれを無効とする審決がなされたのは平成14年4月8日であり,これについて被告が本件文書1を送付したのは平成14年5月16日である。そして,被告が本件文書2の1ないし4を送付したのは,平成14年6月27日から同年8月29日までの間。, , である したがって 被告が本件文書2の1ないし4を送付したのは本件特許1について無効審決がなされた後であるから,被告においては,本件特許1を無効とする審決が取り消され,本件特許1が無効とはならないと考え得る合理的根拠を有していたことが必要であり,そうでなければ,相応の事実的,法律的根拠をもって,本件文書2の1ないし4を送付したということはできない。そこで,被告がこのような合理的根拠を有していたか否かを次に判断する。 A 本件特許1の無効審決(甲7の1,2)本件特許1については,ロシュ社により,平成12年8月31日に無効審判請求がされ,被告は,平成12年11月28日に答弁書及び訂正請求書を提出した。訂正請求は,請求項1の記載「1.アスコルビン酸活性を示す有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有することを特徴とする,ニジマス,ヒメマス,シロザケ,アユ,アマゴ,ヤマメ,ハマチ,タイ,コイ,またはウナギの飼料中に配合する養魚用ペレット飼料用添加物 」を,ペレット飼。 料用添加剤の飼料への配合形態を明瞭にするために 「1.アスコル,ビン酸活性を示す有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有することを特徴とする,ニジマス,ヒメマス,シロザケ,アユ,アマゴ,ヤマメ,ハマチ,タイ,コイ,またはウナギのペレット飼料の中に配合する養魚用ペレット飼料用添加物 (下。」線は当裁判所による )と訂正し,それに伴い明細書も訂正するとい 。 うものであった。 本件特許1の無効審判請求事件において,ロシュ社は,本件特許発明1は第1引用例に記載された発明であるから,特許法29条1項3号の発明に該当し,また,第1引用例発明とその他の公知文献(そのうちの一つは本件の甲9である )に記載された発明に基づき当業者 。 が容易に想到し得たものであり,同法29条2項の発明に該当するなどと主張した。これに対し,被告は,第1引用例発明の出願の優先権主張の基礎となった米国出願の特許明細書(米国特許第4179445号明細書 1979年 昭和54年 12月18日特許 以下 本 (() ) 。「件米国特許明細書」という )などを引用しつつ,第1引用例発明で 。 魚の餌の補充剤として用いられることが知られていると記載されている「L-アスコルビン酸の2-ホスフェートおよびサルフェート誘導」,, 体類 が具体的にどのような化合物を指すのか判然としないし また「魚」とは具体的にどのような魚種を指すのか,また 「魚の餌の補,充剤」とは,どのような形態のものか不明であって,その記載は非常に概括的かつ舌足らずであって明瞭でなく,さらに,L-アスコルベート2-ホスフェートの塩が熱及び酸素に対して安定であり,また,L-アスコルベート2-ホスフェートがほとんどすべての動物中で活性を示すであろうと示唆されているとしても,当業者には,L-アスコルベート2-ホスフェートを塩としてペレット飼料中に配合したときの有用性は全く見通せないなどとして,本件特許発明1は,第1引用例発明に基づいて当業者が容易になし得た発明でもなく,また,第1引用例発明にロシュ社の挙げる公知文献の記載を組み合わせてみても容易に想到できるものではないと主張した。 特許庁は,上記訂正を認めた上で,次のとおり判断し,本件特許1を無効とする審決をした。 ( ) 第1引用例には 「アスコルビン酸活性を示す有効成分としてL i,-アスコルベート2-ホスフェートの塩を含有する,魚の飼料の補充剤」が記載されているものと認められる。 ( ) 本件特許発明1と第1引用例発明とは 「アスコルビン酸活性 ii ,を示す有効成分としてL-アスコルベート2-ホスフェートの塩を含有する,魚の飼料の補充剤」である点で一致するものの,本件特許発明1は,対象とする魚を「養魚」とした上でさらに特定しているのに対し,第1引用例発明は,対象とする魚を単に「魚」としか記載していない点 相違点1 本件特許発明1は 飼料形態を ペ (),,「レット飼料」とし,飼料に補充する際の態様を「ペレット飼料の中に配合するペレット飼料用添加物」としているのに対し,第1引用例発明は,飼料形態,飼料に補充する際の態様について何も記載していない点が相違する(相違点2及び3 。)しかし,相違点1については 「L-アスコルベート2-ホスフ ,ェートの塩類」を含有する魚の飼料の補充剤を使用する対象魚種として,養魚として日本においてよく知られた,ニジマスなどを想定することは当業者であれば容易に想到し得る範囲内のことである。 また,相違点2及び3については 「ペレット飼料」は養魚用の飼 ,料の形態としては広く使用されているもので,その製造工程ではビタミンCがペレット飼料の中に配合され添加されること,製造するときにも飼料保存時にもビタミンCの損失があることは,本件特許1出願前によく知られた事項であるから,従来配合されているビタミンCに代えて「L-アスコルベート2-ホスフェートの塩類」を魚の飼料の補充剤として使用する際に 「ペレット飼料の中に配合 ,するペレット飼料用添加物」として使用することも当業者であれば普通に採用する使用態様にすぎない。 ( ) 本件米国特許明細書の被告指摘箇所の英文記載がどうあれ,同 iii明細書は,第1引用例とは別の刊行物であるから,第1引用例の記載自体から,(@)の点が把握できることに変わりはない。本件特許発明1は,使用対象魚種においても,添加飼料及び配合添加形態においても,極く普通の構成であって,第1引用例発明及び請求人が提出したその他の公知文献に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。 B 被告による本件各特許に関する調査被告は,本件文書2の1ないし4の送付後の平成14年8月31日ころ, 及び による国内外の特許に関する調査, に PATOLIS WPI CASよる国内外特許文献の調査,その他の調査を行い,第1引用例に係る特許出願当時にL-アスコルビン酸-2-ホスフェートを魚に与えることを記載した公知文献は,第1引用例以外に存在しないとの調査結果を得た(乙21 。)C 本件特許1の無効審決取消訴訟における被告の主張(甲7の3)被告は,本件特許1の無効審決取消訴訟において,第1引用例について「魚の餌の補充剤として用いられることが知られている」とされているのは「L-アスコルビン酸-2-サルフェート」であって,本件特許発明1と第1引用例発明とは,L-アスコルベート-2-ホスフェートの塩を含有する,魚の飼料の補充剤である点で一致するとした審決の認定には誤りがあり,また,第1引用例の「L-アスコルビン酸の2-ホスフェートおよび2サルフェート誘導体類は動物中でビタミン活性を示し・・・このものは例えば魚の餌の補充剤として用いられることが知られている」との記載は,本件米国特許明細書の「L-アスコルビン酸の2-ホスフェートおよび2-サルフェート誘導体類は動物中でビタミン活性を示すことが知られており,そのことによって,それらは,例えば魚の餌の補充剤として用いられる可能性がある有用かつ安定なビタミンC誘導体となる (同明細書の抄訳)との 」記載中の「それらは」との表現とは異なっており 「このもの」と単,数形で表示することで 魚の餌の補充剤として知られているのが L ,, 「-アスコルビン酸の2-サルフェート誘導体」であることを示しており,第1引用例の記述は客観的な事実に反するから,当業者がこれを信頼し,みずからの発明の基礎とするに足りるものではなく,これを容易想到性の判断の基礎とすることは誤りである,さらに本件特許1発明における「L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩」は,魚の飼料の補充剤として他の誘導体とは比較にならない顕著な選択的作用効果を奏するものであり,特定の -アスコルビン酸の誘導体 Lが特定の動物に対して有効であるかどうかは実際に実験をして確かめなければ分からないものであることを看過して容易想到性を肯定した審決の判断は誤りであるなどと主張した。 D 本件特許1の無効審決取消訴訟における東京高等裁判所の判決(甲7の3)東京高等裁判所は,平成15年6月25日,次のように判示して,本件特許1について前記無効審決を維持する旨の判決をした(甲7の3,甲40。なお,以下にいう「被告」は,本件の被告をいう 。。)( ) 第1引用例の記載,殊に「L-アスコルベート2-ホスフェー i ,トを合成するいくつかの方法が過去に提案されてきておりまた該ホスフェートエステルが期待通り高ビタミンC効力を有することが示されている。例えば ・・・L-アスコルベート2-ホスフェート ,マグネシウム塩を」の記載 「2-ホスフェートモノエステルは, ,・・・塩の形で単離することができる」の記載 「単離されたマグ,ネシウム塩は実質的に純粋なL-アスコルベート2-ホスフェートであり」の記載によれば,第1引用例における「L-アスコルベート2-ホスフェート」が「L-アスコルベート2-ホスフェートの塩」をも意味する用語として用いられていることは明らかであり,加えて第1引用例の実施例において実際に製造されているのが「L-アスコルベート2-ホスフェートの塩」のみであることからすれば,第1引用例においては 「L-アスコルベート2-ホスフェー ,トの塩」が「魚の餌の補充剤に用いられる」ものとして位置付けられていると認めるのが相当である。 ( ) 第1引用例に「ホスフェートエステル基を開裂することが知ら iiれている酵素が動物の消化系に存在するから,かかる2-ホスフェートエステルは,殆ど全ての動物中で活性を示すと考えられる」との記載があるところ 「ホスフェートエステル基を開裂することが ,知られている酵素」である酸性ホスファターゼ及びアルカリ性ホスファターゼが,魚類にも広く存在することは,第1引用例の頒布時において技術常識であったことが認められる。 ( ) 以上のような第1引用例の記載及びその頒布時における技術常 iii識を勘案すれば,第1引用例において「L-アスコルベート2-ホスフェートマグネシウム塩」が期待どおりモルモットの体内において「L-アスコルベート (L-アスコルビン酸)の形に活性化さ 」れることが確認されているのと同じように 「L-アスコルベート ,2-ホスフェートの塩」が,ホスファターゼを有する魚の体内でも「L-アスコルビン酸」に開裂されて活性を示すことは,実際にこれを確認した試験例や魚の餌の補充剤として必要な技術的事項等まで具体的に記載されていなくとも,当業者においてこれを合理的に理解し得ることであって,第1引用例の「魚の餌の補充剤」に係る記載が,たまたま引用した単なる例示にすぎないとはいえず,実体を伴った用途として当業者に把握されるものというべきである。 ( ) 被告は,第1引用例発明の出願当時,魚に投与することが知ら ivれていたのは「L-アスコルビン酸の2-サルフェート」であると主張し,その根拠として 「L-アスコルビン酸のリン酸エステル ,の塩類」を魚に投与することを示す文献が存在しないこと,魚の餌の補充剤として用いられるビタミンC誘導体に関する第1引用例の記載が第1引用例発明に係る優先権基礎明細書の記載とは異なることなどを主張するが,これらの点は,上記認定を左右しない。 E 上記認定事実によれば,被告が本件文書2の1ないし4を送付した当時,同文書送付後の調査結果及び審決取消訴訟における被告の主張をも考慮しても,被告が,本件特許1を無効とした審決について,この判断が誤りであり,本件特許1を無効と判断すべきではないと考え得る合理的理由ないし根拠を有していたものと認めることはできない。 F 本件文書2の1ないし4に記載されている本件特許2及び3については,平成14年8月27日に無効審判が請求され,本件特許2については,平成15年6月12日に,本件特許3については,平成16年2月19日に,各特許を無効とする旨の審決がなされている(甲8の2,10の3 。したがって,被告は,本件文書2の1ないし4を )送付した当時,未だ本件特許2及び3について,無効審判が申し立てられたこと自体を知らなかったものである(前提となる事実 。)しかし,本件特許発明2の特許請求の範囲は 「1.水産養殖用飼,料にL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩を添加し,得られた混合物を加圧加熱し造粒することを特徴とするアスコルビン酸活性を有する水産養殖用固型飼料の製造方法 」であり,本件特許発明3 。 の特許請求の範囲(訂正後のもの)は 「有効成分としてL-アスコ ,ルビン酸-2-リン酸エステルの塩類と魚粉を含有することを特徴とするアスコルビン酸活性を有するニジマス,ヒメマス,シロザケ,アユ,アマゴ,ヤマメ,ハマチ,タイ,コイ,またはウナギの養魚用ペレット飼料」である(甲8の2,10の3 。),(), 「. そして 本件特許発明1の特許請求の範囲 訂正後のもの は 1アスコルビン酸活性を示す有効成分としてL-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類を含有することを特徴とする,ニジマス,ヒメマス,シロザケ,アユ,アマゴ,ヤマメ,ハマチ,タイ,コイ,またはウナギのペレット飼料の中に配合する養魚用ペレット飼料用添加物 」である(甲7の1 。上記の各特許請求の範囲を比較すれば, 。)本件特許発明1は 「L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩 ,類」を有効成分とする養魚用ペレット飼料添加物であり,本件特許発明2は 「L-アスコルビン酸-2-リン酸エステル塩」を添加した ,水産養殖用固型飼料の製造方法であり,本件特許発明3は 「L-ア,スコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類」を含有する養魚用ペレット飼料であり,いずれも「L-アスコルビン酸-2-リン酸エステルの塩類」を飼料添加物とすることを発明の特徴とする点で共通しており,本件特許発明1は 「養魚用飼料添加物」の発明,本件特許発明 ,2は,養魚用固形飼料の製造方法の発明,本件特許発明3は,養魚用ペレット飼料の発明である点が異なるのみである。したがって,本件特許発明1を第1引用例発明と公知技術から容易想到であるとして,本件特許1を無効とした審決がなされた以上,特許権者である被告としては,本件特許2及び3についても,第1引用例発明にその他の公知技術に基づき,これを無効とする審決がなされることは容易に予想されたことであるというべきである。 G 以上によれば,被告は,本件文書2の1ないし4を送付した当時,本件特許1を無効と判断した審決がなされたことにより,本件特許2及び3も,第1引用例発明とその他の公知技術により,同様に容易想到との判断を受ける高い蓋然性があったことを知り得たはずである。 そして,被告が本件特許1を無効と判断した審決に対し,その判断を覆し得る合理的な根拠を有していなかったことは,前記認定のとおりであるから,被告は,本件文書2の1ないし4を送付したことについて,過失責任を負うというべきである。 H なお,本件特許2及び3については,本件文書2の1ないし4送付後に無効審判が申し立てられ,無効審決がなされ,東京高等裁判所における審決取消訴訟においても無効審決の判断を維持するとの判決が()。, , なされている 前提となる事実すなわち 本件特許2については平成15年6月12日,本件特許発明2は,第1引用例発明と「魚類の栄養と飼料 (荻野珍吉編・昭和55年11月15日発行,本訴甲 」9)に基づいて容易に発明をすることができたものである,との審決がなされ,被告は,その審決取消訴訟において,米国特許実務に携わる米国弁護士らの意見書(本訴乙23の1ないし3)を提出して,第1引用例における「魚の餌の補充剤」なる記載は本件米国特許明細書の対応部分について 「魚からなる食事の補充剤 (魚を用いたヒト ,」の食事の補充剤)と訳すべきを誤って訳したものであること,及び,化学者の意見書(本訴乙22の1・2)を提出して,モルモットに関する知見をもとにL-アスコルビン酸の2-ホスフェート誘導体は魚を含むほとんどすべての動物中で活性を示すとするのは非科学的で合理性を欠くなどの主張をしたが,東京高等裁判所は,平成16年7月29日,本件米国特許明細書の解釈は,第1引用例の記載の解釈に直接的に影響を与えるものではない,本件特許2の出願前に頒布された刊行物によれば,魚の消化管内には,基質特異性が低く,広範囲のリン酸モノエステルを加水分解できるアルカリ性ホスファターゼが存在することは周知であったことが認められるなどと判示して,本件特許2を無効とした審決を維持した(甲8の2 。また,本件特許3につ )いては,平成16年2月19日,本件特許発明3は,第1引用例発明と上記文献(本訴甲9)ほか二つの公知文献から,容易に発明をすることができたものであるとして,本件特許3を無効とするとの審決がなされ,被告は,その審決取消訴訟において,本件特許2の審決取消訴訟と同様の主張をしてこれを争ったが,東京高等裁判所は,平成1,() 。 6年12月27日 被告の主張をいずれも排斥した 甲10の3・4,,, 被告は 本件特許2及び3の審決取消訴訟において 上記のとおり新たに意見書を提出して,本件特許1に関する審決取消訴訟における被告の主張とは異なる新たな主張をなしている。しかし,被告がこれらの意見書等を得たのは,いずれも本件文書2の1ないし4の送付から約2年後,本件特許1に対する無効審決を維持する旨の東京高等裁判所の判決言渡の約1年後である平成16年5ないし6月であり,時期的に見ても,本件文書2の1ないし4の送付時に被告がなした事実的,法律的調査の範囲に含まれる資料とみることはできず(現に,被告は,本件特許1の審決取消訴訟においては,第1引用例における記載が,魚の餌の補充剤に関する記載であることを前提にその主張を構成していた ,また,いずれの主張も,前記のとおり,東京高等裁 。)判所において排斥され,本件特許2及び3を無効とした審決が維持されているものであるから,本件特許2及び3を無効とする審決取消訴訟における被告の主張立証の資料をみても,被告が本件特許1を無効とした審決を覆し得る合理的な根拠を有していたとみることはできないとの前記認定判断に影響はない。 エ 以上によれば,被告が本件文書2の1ないし4を送付した行為は,不正競争防止法2条1項14号の競争関係にある原告らの営業上の信用を害する虚偽の事実の告知又は流布に該当し,被告は,過失により,これらの行為をなしたものであるから,原告らに対し,これにより被った損害を賠償すべき義務を負う。 ( ) 本件仮処分申立て及び本件掲載行為について 2ア 本件仮処分申立てと本件掲載行為の経緯被告の本件文書2の1(甲2の1)の送付は,需要者から日本農産の飼料製品を入手し,分析を行ったところ,原告製品が使用されていることが判明したことに基づくものであった(甲38 。本件文書2の1の送付を )受けた日本農産は,これに対する返答として,平成14年7月24日,被告に対し,調査の結果,日本農産の一部製品については,被告指摘のとおり他社製品のアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩を使用していたこと,今後は従前に戻し,被告製品「ホスピタンC」を使用することを記載した文書を送付した(甲17 。被告は,これを受けて,同年8月2日, ), ,,, 日本農産に対し 他社製品の採用に至った経緯 他社製品名 メーカー名製品価格,他社製品購入数量等について,同月9日までに回答してほしいこと,他社製品のサンプルを提供してほしいことを記載した文書を送付した(甲18 。これに対し,日本農産は,同年8月20日,他社製品が飼 )料添加物の認定を得たことを受け,収益性改善のため,一部製品に使用したこと,他社製品はロビミックス ステイ-C35(原告製品)であること,その他の事項については内部機密により回答できない旨返答した(甲19 。)被告は,同年8月23日,被告が調査したところ,上記7月24日付け日本農産の文書にもかかわらず,他社のアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩製品を使用した日本農産の飼料製品が未だに市場に流通していることが判明したこと,また,上記8月20日付け日本農産の文書の 送FAX信を依頼した際,日本農産の社員の話では作り貯めもあるので2か月位の目で見て欲しいとの要望があったことから推察するに,日本農産においては,製造行為のみならず販売行為自体も被告の本件各特許発明の実施に当たることを理解していないのではないかと思われること,このような状況に鑑み,日本農産において,直ちに購入済みの他社製アスコルビン酸-2-リン酸エステル塩製品の使用中止と在庫品の被告への提出,他社製アスコルビン酸-2-リン酸エステル塩製品を使用した飼料製品の製造,使用及び販売の中止(在庫品の販売の中止を含む ,既に販売済みの他社製ア )スコルビン酸-2-リン酸エステル塩製品を使用した日本農産飼料製品の回収,製造,使用及び販売以下の措置を講じるとともに,その経過及び結果について同月28日までに書面で連絡して欲しいこと,被告の8月2日付け文書で尋ねた事項についても同日までに書面で回答して欲しいことを要望した上 「上記の期限内にご連絡,ご回答いただけない場合には,弊 ,社といたしましては被っております損害の大きさから,やむを得ず至急法的措置を講じざるを得ないとの結論に至ることがあり得ますことを念のため申し添えます」と記載した文書を送付した(甲20 。)日本農産は,同年8月28日,被告に対し,上記文書に対する回答として,8月8日に,被告社員から,日本農産に対して訴訟・損害賠償請求等を行うつもりはないとの回答と,被告の8月2日付け文書に対する回答は8月20日付け日本農産の文書の内容で発信することについて了解をもらっており,それと被告の8月23日付け文書の内容が乖離しているので,被告の真意を聞かせて欲しいと記載した文書を送付した(甲21 。)これに対し,被告は,同年8月29日,日本農産に対し,同月8日に被告社員が日本農産の回答内容について了解したとは理解していないとして,重ねて8月23日付け被告文書に対し回答を求める旨の文書を送付した(甲22 。)そして,被告は,前提となる事実( )記載のとおり,平成14年9月6 5日に日本農産に対する本件仮処分申立てをし,その旨を報道機関と被告ウェブサイトに公表した。 日本農産は,同年9月18日,原告に対し,購入していた原告製品を返品した(乙1 。)被告は,平成15年2月,本件仮処分申立てを取り下げた。しかし,本件仮処分申立ての取下げについては,報道機関に公表せず,また,被告ウェブサイトにも掲載していない。また,被告ウェブサイトには,その後も本件仮処分申立て時のプレスリリースが残存している。 なお,被告が原告に対し特許権侵害訴訟を提起したことについては,新聞報道はされているものの,被告ウェブサイト上では公表していない(甲23,24,乙24 。)イ 本件仮処分申立て及び本件掲載行為は,原告との関係で,虚偽の事実の告知又は流布に当たり,違法な行為となるか。 ) 本件仮処分申立ては 被告が日本農産を債務者として 他社の製品 原 a,,(告製品)を使用して養魚用飼料を製造,販売していることが,本件特許権2及び3の侵害に当たるとして,その養魚用飼料の製造販売の差止めを求めるものである(前提となる事実( )ア,イ 。原告らは,本件仮 5)処分申立ては,原告らとの関係では,原告らの取引先である日本農産に対し,原告製品を使用して養魚用飼料を製造販売すると本件特許権2及び3の侵害となることを告知するものであり,本件特許2及び3が後日無効となった以上,虚偽事実の告知に当たると主張する。確かに,不正競争防止法2条1項14号における「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知」する行為とは,他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を,特定人に対し,個別的に口頭により又は文書により伝達することをいい,被告の日本農産に対する本件仮処分申立ては,原告らとの関係で,, 。 は 形式上 虚偽事実の告知行為に該当すると考えることも可能であるしかし,特許権者が特許権侵害行為の相手方に対し,侵害行為の差止めを求めて訴える行為,あるいは,仮処分の申立てをする行為は,特許権者としての裁判を受ける権利の行使であり,その訴訟活動の中で,本件特許発明2及び3における最も重要な構成である飼料添加物について,相手方が購入し,使用している飼料添加物の内容を明確にするために,これが原告製品であることを主張し疎明することは,正当な訴訟活動の一環として保護されるべき行為であり,この行為が直ちに,公正な経済秩序の維持発展を目的とする不正競争防止法における不正競争行為として,違法な行為となると解するのは相当ではない。したがって,特許権者が正当な訴訟活動の範囲,目的を逸脱して,ことさらに原告らの営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,流布することを目的として,訴訟活動をしたなどの特段の事情がない限り,訴訟活動として正当になされた行為を不正競争防止法に定める不正競争行為に当たり,違法な行為となるものと解することはできない。また,本件においては,被告は,本件仮処分申立ての前に,日本農産に対し,本件文書2の1を送付しており,他社製品すなわち原告製品の使用が本件各特許権の侵害となることを既に告知し,同文書を契機とした日本農産との交渉の過程で,原告製品を使用した養魚用飼料の回収等を要望しているのであり,ことさらに本件仮処分を申し立てることにより,原告製品の使用が本件特許2及び3の侵害になることを告知する必要性もないこと,また,日本農産に対する本件仮処分の申立ては前記ア認定の経緯によりなされたものであり,その申立てに至る経緯について不自然な点はないことからすれば,被告が,本件仮処分の申立てにおいて,本件特許権2及び3の侵害の主張・疎明のために必要な範囲で,原告製品について主張・疎明したとしても,この訴訟活動が,原告らとの関係で,違法な不正競争行為に該当すると解することはできない。 ) 本件掲載行為は,被告が,平成14年9月6日、東京地方裁判所に対 bし,日本農産を債務者として,同社の養魚用飼料「みさき 「ファイ」,ブプラス」の製造・販売が被告の本件特許権2及び3の侵害に当たるとして,原告製品を使用した製品の製造・販売差し止めの仮処分を申立てたことを公表するものである(甲4 。)被告が日本農産を相手方として,本件掲載行為の内容の仮処分の申立をしたことは事実であるから,これを不正競争防止法2条1項14号の「虚偽の事実」とみることはできない。 ) 以上によれば,本件仮処分申立てにおいて,被告が原告製品について cなした主張疎明活動は原告らとの関係で,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に一応該当するとしても,本件特許権2及び3の行使としてされた仮処分申立てにおける訴訟活動において必要な範囲内の行為であり,その違法性が阻却されるものである。また,本件掲載行為は,事実をそのまま伝えるものであり 「虚偽の事実」の告知又は流 ,布には該当しない。 2 争点2(被告による本件文書1,本件文書2の1ないし4,本件文書3の1ないし4の各送付行為,本件仮処分申立て及び本件掲載行為は,不法行為を構成するか)( ) 本件文書1,本件文書2の1ないし4及び本件文書3の1ないし4の送 1付行為についてア 本件文書1について被告は,平成14年5月16日ころ,日本農産等合計16社に対し,被告が「アスコルビン酸-2-リン酸エステル塩」の飼料添加物に関して7件の特許を有していること,及び,本件特許1を無効とする審決が出されたものの,これについて審決取消訴訟を提起したため,本件特許1は現時点で有効に存続していることを述べた本件文書1を送付している(前提となる事実( )ア 。本件文書1の内容は,虚偽の内容ではなく,事実をそ 4)のまま伝えているだけであり,これを違法なものとみることはできない。 イ 本件文書2の1ないし4について本件文書2の1ないし4の送付行為が,原告らとの関係で,原告らの営業上の信用を害する虚偽の事実の告知ないし流布に該当する行為であると認められることは,前記認定のとおりである(この行為による損害については,後記3において,不正競争防止法に基づいて損害額を算定することにする 。。)ウ 本件文書3の1ないし4について被告は,平成15年6月27日ころ,日本農産ほかの飼料製造業者に対し,本件特許1について無効審決を維持する判決が出されたものの,最高裁判所に上告する予定であること,及び,本件特許2についてこれを無効とする審決が出されたものの,東京高等裁判所に審決取消の訴えを提起する予定であることを述べた本件文書3の1を送付し,平成16年3月17日ころ,協同飼料ほかの飼料製造業者に対し,本件特許1に関する判決が上告不受理となり確定したこと,及び,本件特許3についても,これを無効とする審決が出されたものの,東京高等裁判所に審決取消訴訟を提起する予定であることを述べた本件文書3の2を送付し,平成16年8月4日ころ,日本配合飼料ほかの飼料製造業者に対し,本件特許2の審決取消訴訟において被告の請求を棄却する判決がなされたが,同判決について上告する予定であることを述べた本件文書3の3を送付し,平成17年5月12日ころ,伊藤忠飼料ほかの飼料製造業者に対し,本件特許3を無効とする審決の取消訴訟における東京高等裁判所の判決を不服として上告していたものの 上告不受理となったことを述べた本件文書3の4を送付した 前 ,(提となる事実( ) 。本件文書3の1ないし4の上記内容は,虚偽の内容 6)ではなく,事実をそのまま伝えているだけであり,これを違法なものとみることはできない。 エ 原告らの主張について) 原告らは,被告による上記一連の行為は,本件特許1についての無効 a審決が出され,本件各特許がいずれも無効になることが明白であったにもかかわらず,本件各特許の有効性につき十分な調査を尽くさずになされたものであり,違法である,と主張する。しかし,本件文書1及び本件文書3の1ないし4が事実をそのまま伝えている文書であり,これらを違法な文書と解することができないことは前記のとおりである。 ) 原告らは,被告が,本件文書1,本件文書2の1ないし4及び本件文 b書3の1ないし4を,国内の飼料製造業者ではなく,他社製品を製造販売していた原告らに送付すべきであった,と主張する。しかし,本件特許発明2及び3は,養魚用飼料とその製造方法の発明であることからすれば,被告が,養魚用飼料を製造販売している飼料製造業者に対し,本件文書1及び本件文書3の1ないし4を送付したことを違法と認めることはできない。 ) 原告らは,被告から飼料製造業者に対する通知・警告行為は,平成1 c4年5月16日から現在に至るまで,計17社,のべ36回と多数回に及び執拗である上,本件各特許に対する無効審決,高等裁判所での棄却判決,最高裁判所への上告受理申立ての不受理決定が出るたびに新たな文書の送付を行い,残存特許の存在を誇示して,飼料製造業者らの被告製品から原告製品への切替の動きに水を差していた,と主張する。しかし,飼料製造業者は,原告製品を使用して養魚用飼料を製造販売することにより,被告が保有する本件特許権2及び3が無効にならない限り,いずれもこれら特許権を直接侵害することになるものであるから,これらの行為を行う者に対し,被告が警告をなすことは,特許権の権利行使の一環であり,それが17社存在すれば,17社に対し警告をしたとしても,社会通念上,直ちに違法な行為となるわけではない。また,本件各特許につき,無効審決が出されたこと,及び,同審決を維持する旨の東京高等裁判所の判決あるいは最高裁判所の上告不受理決定がなされたことは,いずれも被告に不利益な事実をそのまま通知するものであり,これをもって,残存特許の存在を誇示する違法な通知とみることもできない。 ) 原告らは,被告は,本件各特許すべてについて最高裁判所まで争った dり,各審判及び訴訟手続において無意味な主張を追加したり,又は既に別の手続において排斥された主張をいたずらに繰り返すことによって,審理を長引かせ,本件各特許権をできる限り形式的に延命させようとした,と主張する。 しかし,被告が,本件各特許の無効審決を取り消すべく最高裁判所まで争ったとしても,これをもって違法といえないことは明らかである。また,特許権者が特許請求の範囲を訂正して,これを減縮し,その特許が無効となることを防止することは,特許法上認められている手続であり,被告がこのような手続を取ったとしても,これを違法ということができないことも当然である。さらに,特許権者が,自己の保有する特許が無効となることを防ぐために,自己に最大限有利な訴訟活動を行うことは当然のことであり,被告が無意味な主張を追加したりして審理を長引かせたことを認めるに足りる証拠もない。 ) 原告らは,本件文書1及び本件文書3の1ないし4の送付行為が,飼 e料製造業者らの原告製品の購買意欲に対し与える影響は大きい,特に,日本農産に対する本件仮処分申立ての後に送付された本件文書3の1ないし4による飼料製造業者に対する威嚇的効果は強い,と主張する。 しかし,本件文書1及び本件文書3の1ないし4のいずれも,単に事実を伝えるものであり,これを違法なものということができないことは前記認定のとおりである。特許を無効とする審決が確定するまでは,特許権が有効に存続することは,特許法が定めるところであり,特許権が存続する以上は,独占的排他権を有するものである。したがって,飼料製造業者が,本件各特許のいずれについても無効審決が確定することが明確に予想される時点まで,それぞれの判断により,原告製品の購入を控えたとしても,このことから直ちに本件文書1及び本件文書3の1ないし4の送付行為が違法となると解することはできない。 ( ) 本件仮処分申立て及び本件掲載行為について 2ア 本件仮処分申立て及び本件掲載行為について本件仮処分申立てにおける被告の原告製品に関する訴訟活動が,原告らの営業上の信用を害する虚偽の事実の告知に一応該当するとしても,違法性がないと解すべきことは前記認定のとおりである。また,本件掲載行為は,虚偽の内容ではなく,事実をそのまま伝えているだけであるから,これを違法なものとみることはできないことも前記認定のとおりである。 イ 原告らの主張について) 原告らは,被告は,無効な特許に基づいて本件仮処分申立てをしたこ a,,。,, とにつき 少なくとも過失が認められると主張する しかし 被告は原告らを相手方として本件仮処分申立てをしたのではなく,日本農産を相手方として本件仮処分申立てをしたものである。被告は,本件特許権2及び3を,直接侵害するおそれのある養魚用飼料を製造販売していた日本農産を相手方として,特許権者の権利行使の一環として本件仮処分申立てをしたものであり,そのことが原告らに対する違法な行為となると解することはできない。 ) 原告らは,被告は,原告らを相手方とした仮処分の申立てをすべきで bあったと主張する。しかし,本件特許発明2及び3は,養魚用飼料とその製造方法の特許発明であり,養魚用飼料添加物である原告製品を製造販売している原告らを相手方とせずに,養魚用飼料を製造している製造業者を相手方として,仮処分の申立てをすることについては,何ら不合理な点はない。原告らの上記主張も採用し得ない。 ) 原告らは,本件仮処分申立てに必要性,緊急性がなかったとも主張す cる。しかし,本件仮処分申立てに先立ち,被告は,日本農産との間で,原告製品の使用に関し何度か交渉しており,その過程で,日本農産は原告製品の使用を中止して被告製品を使用すると回答していたにもかかわらず,原告製品を使用した養魚用飼料の販売を継続していたこと,交渉過程における双方の相手方に対する回答ないし要求の内容について,認識の齟齬がみられたことなどから本件仮処分申立てに至ったことは前記1( )ア認定のとおりであり,これらの経緯からすれば,本件仮処分申 2,。 立てに必要性 緊急性すらなかったとする原告らの主張も採用し得ない) 原告らは,日本農産は,本件仮処分申立て前に,従前に戻して被告製 d品を購入することを約束していたのであるから 「当事者間の協議では ,解決困難」との被告の本件掲載行為は事実に反する,と主張する。しか,,, し 前記1( )ア認定の交渉経過に鑑みれば 従前に戻すことについて 2当事者間で異なる認識を有していたのであり「当事者間の協議では解 ,決困難」との被告の発表は事実に反するものではないと解される。原告らの上記主張は採用し得ない。 ) 被告は,前記1( )ア認定のとおり,本件掲載行為において,本件特 e2許1の無効審決に言及しておらず,本件仮処分申立て取下げ後も被告ウェブサイト上に本件仮処分申立てに関する記事を掲載したままであり,他方,原告らを相手方として被告が提起した特許権侵害訴訟については被告ウェブサイト上で広報していない。原告らは,これらの事実を挙げて,本件仮処分申立てや本件掲載行為は飼料製造業者に圧力をかけて原告らとの取引を妨害する目的で行われたものである旨主張する。 ,, , しかし 被告は 各飼料製造業者に対し送付した本件文書1において本件特許1を無効とする審決がされたことを記載している 前提事実( )(4ア)のであるから,本件仮処分申立てに関する記事に接し,そこにいう他社の製品が原告製品であることを理解し得る飼料製造業者は,上記審決について既に承知していたものということができる。そうすると,本件仮処分申立てに関する記事において上記審決に触れていないことをもって,原告らの取引先である飼料製造業者らに原告らとの取引や本件文書1や本件文書2の1ないし4のような被告から送付される文書に対する対応について判断を誤らせることとなるとか,そのような効果を意図してことさら審決について秘匿したものであるなどということはできず,被告の不公正さや被告が不当に原告らと飼料製造業者との取引を妨害する意図を有していたことの表れとみることもできない。 また,被告が本件仮処分申立て取下げ後も同申立てに関する記事を掲載したままにしていることや,原告ジャパンを相手方とする別件 DSM訴訟について被告ウェブサイト上では広報していないことについても,ウェブサイトの閲覧者に対する情報提供の観点からは好ましくないものであるとしても,原告 ジャパンを相手方とする別件訴訟は本件各 DSM特許自体に関わるものではないので(当裁判所に顕著な事実である ,。)本件各特許に係る権利行使の当否を検討する際に考慮すべき事情でもない。 ( ) 原告らは,本件文書1及び本件文書2の1ないし4の送付,本件仮処分 3申立てとそれに関する本件掲載行為,その後の飼料製造業者に対する本件文書3の1ないし4の送付という一連の行為は,原告らに対する不法行為を構成する,と主張する。 しかし,本件文書1の送付行為,本件仮処分申立てとそれに関する本件掲載行為,その後の飼料製造業者に対する本件文書3の1ないし4の送付行為, 。 は 個々の行為として違法な行為といえないことは前記認定のとおりである本件においては,これらの行為を一連の行為としてみた場合でも,本件文書,, 2の1ないし4の送付行為を除いて考えれば 特許権者の権利の行使として行き過ぎたものとみることはできない。 3 争点3(損害の額)( ) 原告 について 1DSMア 営業上の利益の侵害により受けた損害) 不正競争行為による利益の額 a,, 前記認定のとおり 被告による本件文書2の1ないし4の送付行為は原告らの営業上の信用を害する虚偽の事実の告知ないし流布に当たり,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当する。原告が被告の上記不正競争行為によって営業上の利益を侵害された場 DSM合,同法5条2項により 「その者がその侵害の行為により利益を受け ,」。 ているとき にその利益の額が被侵害者の受けた損害の額と推定されるしたがって,原告らが,被告の上記不正競争行為により営業上の利益を侵害された場合には,被告が同侵害行為により得た利益の額を認定する必要がある。本件の場合,被告が従前から本件各特許権を有し,これらに基づきほぼ独占的に被告製品を製造販売していたものであることからすれば,被告が上記の不正競争行為を行うことによって得た利益とは,被告の上記不正競争行為がなかったならば,低価格の原告製品が市場に急激に流入することにより,被告製品の販売額が急激に減少したはずであるのに,上記不正競争行為により,被告製品の販売減少額が本来の減少額より少なかったことにより得た利益の額であると考えられる(本件においては,後記のとおり,被告製品の販売減少額が本来より少なかったことが,上記不正競争行為によるものか,他の原因によるものかが争点となる 。。)) 養魚用飼料添加物市場の客観的状況 b養魚用飼料にビタミンCを高濃度に添加することは,養殖魚の健康維持に重要であり,飼料製造業者は,養殖業者等から,養魚用飼料にビタミンCを高濃度添加をすることを強く求められていた(甲25 。ビタ)ミンC誘導体について,海外では特許が成立していなかったものの,日本においては,被告の本件各特許が成立していたことから,被告製品が国内市場を独占している状態にあり,その価格は国際価格の6ないし10倍であった(甲26,27,28 。また,飼料製造業者は,海外で )は,安価なビタミンC誘導体が使用されていたこと,ロシュ社が被告保有特許に対し,無効審判を行っているということも把握していた。このような事情から,飼料製造業者の中には,平成14年4月に原告製品が飼料添加物として飼料安全法による指定を受け,本件特許1についても同時期に無効審決がされたのを契機に,被告製品より安価な原告製品を養魚用に段階的に採用することを予定していた企業も少なくはなかった(実際,原告製品が平成14年4月に飼料添加物として飼料安全法による指定を受けたことを契機として,平成14年7,8月には原告製品の販売数量が短期的に伸び始め(甲44の1・2 ,被告製品の販売数量 )は減少していた(甲38 。しかし,平成14年6月から8月にかけ )。)て,国内の飼料製造業者に対し,本件文書2の1ないし4が送付された,, , , こと 被告が 平成14年9月に原告製品を採用した日本農産に対し本件仮処分申立てをしたことが報道されたことなどから,飼料製造業者は,同年から平成15年にかけて,本件各特許が無効になるかどうか,その様子を見ながら,被告製品から低価格の原告製品への切替を先延ばしにしていた状態であった(甲25 。)) 原告製品の販売状況 c原告 ジャパンは,平成14年4月に飼料安全法に基づく飼料添 DSM加物の指定を受け,そのころから日本国内において原告製品を販売している(甲44の1・2,弁論の全趣旨 。同原告の販売実績は,平成1 )4年,平成15年は,本件各特許権が有効に存続していたこと,及び,本件文書2の1ないし4が送付され,本件仮処分申立てがなされたことなどから,あまり伸びず,いずれも年間約7.5トン程度であった(原告製品が平成14年4月に飼料安全法による指定を受けたため,平成14年7,8月に原告製品の売上げが伸び,同年9月にその売上げが落ち込んでいるのは,同年9月に本件仮処分申立てがなされたためと推認される 。しかし,平成15年6月12日には本件特許2を無効とする 。)審決が出され,同月25日には,本件特許1を無効とした審決を維持する東京高等裁判所の判決が言い渡されたこと,並びに,平成16年1月20日には,同判決が上告不受理となり,本件特許1の無効審決が確定したこと,及び,平成16年2月19日には,本件特許3を無効とする審決が出されたこと,さらには,平成16年7月29日には,本件特許2を無効とした審決を維持する旨の東京高等裁判所の判決が言い渡されたことなどから,平成16年には原告製品の売上げが年間20.9トンまで伸びた。また,平成16年12月9日には,最高裁判所の上告不受理決定により本件特許2を無効とした審決及びこれを維持した判決が確定し,同月27日には,本件特許3を無効とした審決を維持する東京高等裁判所の判決が言い渡され,平成17年4月26日には,同判決が確定し,本件特許3が無効となったため,平成17年には,原告製品の売.。 , 上げが年間46 1トンと急激に増加した日本国内の飼料製造業者は被告製品の価格と比べ,原告製品の価格が極めて低いため,平成17年あるいは平成18年には,被告製品の購入を完全に打ち切り,原告製品のみを購入している状況にある(前提となる事実,甲44及び45の各1・2,46の1ないし6 。)) 以上によれば,原告製品が平成14年4月に飼料安全法による指定を d受けてから,平成14年,同15年と,被告製品に比べ,価格が低い原告製品の売上げがそれ程伸びなかったのは,基本的には,被告が本件各特許権を有していたためであり,国内の飼料製造業者は,本件各特許権について無効審決がなされ,その審決が東京高等裁判所において維持されるのを確認し,本件各特許が無効となるのを待ちながら,徐々に被告製品から原告製品に切り替えていったものと認められる。すなわち,平,, 成16年に原告製品の販売量が急激に増加したのは 前記認定のとおり平成16年2月までに本件特許1の無効が確定し,本件特許2と本件特許3について無効審決が出されたためであり,平成17年に原告製品の販売量がさらに急激に増加したのは,前記認定のとおり,平成16年12月までに,本件特許2の無効審決が確定し,本件特許3の審決を維持する東京高裁の判決が言い渡されたためであると推認するのが最も合理的である。したがって,被告製品に比べ価格が低廉な原告製品の販売が平成14年及び15年において伸び悩んだのは,被告が本件各特許権を保有し,その独占的排他権を保持していたためであり,これにより,国内飼料製造業者は,本件各特許発明の技術的範囲に属する原告製品の大規模な購入を差し控えていたものであり,国内の飼料製造業者が原告製品の購入を差し控えた時期があったとしても,それは,被告による本件文書2の1ないし4の送付行為によるものというより,特許庁や裁判所により本件各特許が無効とされるか否か,その様子を見ていたためであり,換言すれば,無効審決が確定するまでは有効に存続する本件各特許権の抑止力によるものと認められるのである(なお,原告製品の販売額,, ,, が 平成14年7月 8月と伸び始めたにもかかわらず 同年9月には本件仮処分申立てがなされたため,その販売額が減少していることは,前記認定のとおりであるものの,平成14年及び15年において原告製品の販売額が伸びなかった理由は,基本的には,被告が本件各特許権を有していたことによる独占的排他権によるものであり,飼料製造業者が本件各特許が無効となることを待っていたためであることは,前記認定のとおりである 。。)したがって,被告は,本件各特許権の独占的排他権によって,被告製品の販売額の急激な減少を抑制し,これにより利益を得ていたものであって,単に被告が本件文書2の1ないし4を送付したことによって,被告製品の販売額の急激な減少を抑制したものと認めることは相当ではない。よって,被告がその不正競争行為(本件文書2の1ないし4の送付行為)により得た利益の額についてはこれを認定することはできず,不正競争防止法5条2項に基づく原告らの損害の主張は採用し得ない。 ) 不法行為による逸失利益 e上記認定判断によれば,被告の本件文書2の1ないし4の送付行為と相当因果関係にある原告らの逸失利益については,これを認めることができない。 イ 信用毀損による無形損害について被告の本件文書2の1ないし4の送付行為(不正競争行為)により,被告が得た利益の額を認定することができないとしても,これにより原告らの信用が害されたことは否定し得ない。この原告らの毀損された信用(無形損害)を金銭に評価することは極めて困難であるものの,本件文書2の1ないし4の送付先の数,文書の内容及び原告製品と被告製品の市場規模その他前記認定のすべての事情を総合考慮すれば,原告らが被告の本件文書2の1ないし4の送付行為によりその信用を毀損されたことによる損害としては,原告ら両名合計で1400万円と認めるのが相当である(不正,)。, , 競争防止法9条 民訴法248条 また 原告 は原告製品を製造 DSM輸出し,原告 ジャパンは原告製品の日本における販売行為を行って DSMいるものであって,日本の市場における原告製品の製造,販売に係る原告らそれぞれの信用は分かちがたく関連しており,いずれの信用毀損の程度がより重いとも言えないことも併せ考慮すれば,上記信用毀損による損害は,原告らそれぞれについて各700万円と認めるのが相当である。 ウ 弁護士,弁理士費用本件に現れた諸事情を総合考慮すれば,本件の弁護士費用及び弁理士費用としては合計300万円が相当である。 エ小括以上によれば,被告による本件の不正競争行為ないし不法行為による原告 の損害は,弁護士,弁理士費用も加えて,合計1000万円と認 DSMめられる。 ( ) 原告 ジャパンについて 2DSM上記( )イによれば,被告による本件の不正競争行為ないし不法行為によ 1る原告 ジャパンの信用毀損による損害は,700万円と認められる。 DSM4結論以上によれば,原告 の請求は1000万円の限度で,原告 ジャパ DSM DSMンの請求は700万円の限度で理由があるから認容し,その余の請求は,いずれ,, , も理由がないので 棄却することとし 訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条64条本文,65条1項本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 設樂隆一 |
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裁判官 | 間史恵 |
裁判官 | 荒井章光 |