審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成19ワ11899不正競争行為差止等請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成20 2305不正競争行為差止請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成21ワ16809損害賠償請求事件 平成21ワ33956損害賠償請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成17ワ5649不正競争行為差止等請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成17ワ5655不正競争行為差止等請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
関連ワード | 周知表示混同惹起行為(2条1項1号) / 周知性 / 広く認識 / 需要者 / 市場占有率 / 商品等表示 / 出所表示性(出所表示) / 他人の営業 / 印象 / 混同のおそれ(混同) / 誤認混同 / 商品の形態(商品形態) / 差止請求(差止) / 特別顕著性 / 代理人 / 商品表示性 / 混同のおそれ(混同) / 品質等誤認表示(誤認) / 推定 / 営業上の信用 / |
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事件 |
平成
17年
(ワ)
11055号
不正競争行為差止請求事件
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原告 深江化成株式会社 訴訟代理人弁護士 平尾孔孝 同竹岡富美男 同中嶋勝規 被告エフ・シー・アール・アンドバイオ株式会社 訴訟代理人弁護士 笹野哲郎 同種谷有希子 同関通孝 同貞本幸男 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2006/07/27 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
被告は,別紙第2物件目録記載のサンプリングチューブ(以下「被告商品」という。)の製造,輸入及び販売をしてはならない。 |
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事案の概要
1 本件は,原告が製造販売するサンプリングチューブについて,その円錐状部分の先細先端部分の底面部すなわちゲート部分が平底すなわちフラットゲートのタイプであり,かつバルブゲート金型を用いて製造することにより,ゲート部分に樹脂を注入したピンゲートの跡(以下「ゲートピン跡」という。)がないという特徴を有する形態であり,その形態は周知商品等表示となっているのに,被告が同一もしくは酷似した形態を有する被告商品を製造販売し,原告の商品と混同を生じさせていることが不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当するとして,原告が,被告に対し,同法3条1項に基づき,被告商品の製造,輸入及び販売の差止めを求めた事案である。 2 前提となる事実(証拠により認定した事実は末尾に証拠を掲げた。その余は争いのない事実である。)(1) サンプリングチューブは,主としてミリリットル単位の少量での検査をする試薬等の対象物を入れるプラスチック製のチューブ容器であり,DNA,血液検査などの医療検査,食品検査等の検査用の試験管として,あるいは検査等の対象物を簡易保存,分離撹拌するための容器として使用されている。(少量での検査であることにつき甲17)(2) 原告は,平成13年ころから,別紙第1物件目録記載のサンプリングチューブ(以下「原告商品」という。)を販売している。 (3) 被告は,平成17年1月ころから,被告商品をOEM商品として米国のアキシジェン社より買い入れ,日本国内において販売している。 (4) 原告商品と被告商品は,容量1.5ミリリットルでフラットゲートである点において共通している。また,原告商品と被告商品は,その寸法,形態がほぼ同一である。 3争点(1) 原告商品の,フラットゲートでゲートピン跡がないという形態は,「商品等表示」に該当するか。また,その「商品等表示」は需要者の間で周知になっていたか。 (2) 被告商品は,上記(1)の「商品等表示」とほぼ同一の形態を有しているため,原告商品と「混同」を生じさせるおそれがあるか。 |
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争点に対する当事者の主張
1 争点(1)(周知商品等表示性)について(1) 原告の主張ア 商品の形態が「商品等表示」に該当するための要件について不正競争防止法2条1項1号にいう商品等表示は,商品が自己の商品を表示するものとして出所表示機能をもつことを要件とし,特別顕著性といった特段の主張立証を求めるものではない。周知性の程度も,当該商品の需要者の圧倒的多数が知っているという高度なレベルに達する必要はなく,表示が保護に値する利益としての信用を表象している状態であれば足りる。 イ 原告商品の特徴的な形態について原告商品は,フラットゲートでかつゲートピン跡を残さないようにした点において,他のメーカーの商品にはない特徴的な形態を有している。なお,ピンゲート金型を使用した場合は,底面はフラットになるものの,点状のゲートピン跡が残るので,外側底面は完全にフラットにはならない。 サンプリングチューブは,そのゲート部分に注入されている内容物につき,サンプリングチューブを垂直に立てた状態で斜めから見るため,ゲート部分の外側底面中央にゲートピン跡があると,ゲート部分の内容物の有無,内容がわかりにくくなる。また,フラットゲートではない場合,ゲート部分がレンズの機能を果たし,内容物が微量になればなるほどゲート部分に残された微量の残留物の確認が困難となる。原告商品は,ゲートピン跡がなくフラットゲートであることから,上記のようなレンズ効果が生じることなく,ゲート部分の内容物を鮮明に確認できるという点で視認性に優れている。 ウ 取引の実情と需要者の認識原告は,平成13年から現在に至るまで,フラットゲートでゲートピン跡がない原告商品を販売してきた。 サンプリングチューブの最終需要者は,理工学,医学,薬学部のある全国の大学及び病院,民間企業,検査センター等の各種理化学検査,研究機関等である。このようにサンプリングチューブの需要者層は限定されているので,原告は,新聞,雑誌等の一般のマスコミ等による広告宣伝は特にせず,ディーラーからユーザーへの流通経路を重視した需要者との間のコミュニケーションを通じてユーザーに密着した販売体制をとり,原告社員が常時ディーラーないし需要先に出向いて原告商品を説明するという宣伝広告方法をとっている。このように,原告は,カタログ販売を重視し,需要先に「ワトソン」ブランドのカタログを無償で全国で毎年1万部頒布してきた。 そして,原告のすべての商品カタログにおいて,「フラットゲート」の文言を記載し,うたい文句として,チューブの底部の突起が全くないフラットゲートなので,レンズ効果がほとんどなく,高可視度で見やすく,内容の確認が容易に行えることをうたって宣伝広告しているので,フラットゲート及びゲートピン跡がないことは原告商品の特徴として需要者にも知られている。 したがって,フラットゲートでゲートピン跡がないという形態は,原告の製品であることを示す極めて強い自他識別機能を有している。 なお,カタログのブランド名は商品表示と相まって周知性を基礎づけるものである。また,株式会社アシスト(以下「アシスト社」という。)あるいは株式会社イナ・オプティカ(以下「イナ・オプティカ社」という。)の商品は,いずれも原告が製造していたもので,販売は各社がしていたとしても,製造については原告が独占的に行っていたのであるから,原告商品の出所表示性が否定されるものではない。 エ 販売実績原告が販売する容量1.5ミリリットルのサンプリングチューブの平成16年における年間国内販売数は全体の18パーセントであり,原告商品は,平成14年4月以降,容量1.5ミリリットルのサンプリングチューブの売上額の20ないし25パーセントを占めている。原告商品の宣伝,広告,市場における評価,消費者の認識等により,フラットゲートという形態は,出所表示機能を有している。国内で製造されるサンプリングチューブの約90パーセントは原告が製造しているものであり,それ以外はほとんど外国メーカーが製造したものを輸入している。 オ 展示会等への出展原告は,原告商品を学会等における理化学機器の展示会等に必ず出展しているが,外国製品が展示,紹介されることはない。これまでに原告商品を出展したのは,@平成15年10月15日から18日まで,第76回日本生化学学会(パシフィコ横浜),A平成16年5月19日から21日まで,第3回国際バイオEXPO(東京ビッグサイト),B平成16年10月13日から16日まで,第77回日本生化学学会(パシフィコ横浜),C平成17年10月19日から21日まで,全日本科学機器展 in 大阪2005,D平成17年10月19日から22日まで,第78回日本生化学学会(神戸)である。 このように,平成16年ころには,ゲートピン跡がなくフラットゲートのサンプリングチューブは,全国の市場及び一般消費者の間で,原告商品として広く周知されていた。 (2) 被告の主張ア 商品の形態が「商品等表示」に該当するための要件についてそもそも商品の形態自体は本来商品の出所を表示するものではないが,ある形態が永年継続してある商品に使用され,又は短期間であっても強力に宣伝され,あるいはその形態が極めて特殊独自であることにより,その形態自体が出所表示の機能を備えるに至ったような場合には,それらは商品表示として,不正競争防止の保護対象とされる。その趣旨はあくまでもそのような商品表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと顧客に誤認混同させて顧客を獲得する行為を不正競争行為として防止することにある。したがって,商品形態に商品表示性があるというためには,@特別顕著性,A周知性の2要件を満たす必要がある。 イ サンプリングチューブ一般の形態について原告や被告が取り扱っているプラスチック製理化学器材は,日本のみならず世界各地でも製造販売されているが,そのサイズは各社でほぼ同一である。 容量1.5ミリリットルのサンプリングチューブは,これを置くラックやこれを入れて使用する遠心機の構造,仕様が世界でほぼ同一であり,ゆえにサンプリングチューブのサイズも必然的に世界でほぼ同一(径が10ないし13ミリメートル,長さが40ミリメートル前後)にならざるを得ない。また,各社は,プラスチック製理化学器材の製造に関する世界の先駆的会社であるエッペンドルフ社の製品を基本としている状況もある。このように,プラスチック製理化学器材は,同じ種類のものであれば,基本的には同じサイズである。 ウ フラットゲートの特別顕著性についてサンプリングチューブは,もともと丸底タイプのものが販売されていたが,その後平底タイプも販売されるようになり,現在では,丸底,平底の両タイプが流通している。遅くとも平成5年には原告以外のメーカーの平底タイプのサンプリングチューブが多数流通していた。したがって,原告商品のフラットゲートという形態に特別顕著性はない。 エ ゲートピン跡がないことの特別顕著性についてサンプリングチューブの製造工程においては,ゲート部分に必ず樹脂注入の跡(以下「ゲート跡」という。)が残るところ,そのゲート跡は指摘されなければ気が付かないほどごく小さなものであり,特別顕著性足りえない。 現に,販売会社各社も,カタログにおいて,丸底か平底かという明記はしているものの,それに加えて底に樹脂注入の跡が存在するか,存在する場合どのような形状なのかについてまで明記したものはない。ユーザーの興味もせいぜい丸底か平底かという程度にとどまるのであって,さらに,底にゲート跡が存在するかどうか,存在する場合どのような形状なのかという点にまで及ばないためである。ゲート跡は,標章等と同様の非常に印象的,特徴的なものであるという特別顕著性の要件を満たさない。また,原告以外のメーカーすなわちエッペンドルフ社及びアシスト社でも,平底タイプのサンプリングチューブでゲートピン跡が残っていない商品を製造販売している。 オ 需要者の認識と取引の実情についてサンプリングチューブは消耗品であるから,取引者及び需要者が注意するのは製品として価格,性能,性能の保証となる製造会社名及び商標である。 取引者及び需要者は,数あるカタログの中から特定のメーカーのカタログを選び出し,そのカタログの中から必要な商品を購入しているのであり,形態については,どこの会社のものであってもほぼ同一であるから,取引者及び需要者が形態によって購入の意思を左右されるようなことはない。 カ 周知性について原告の主張する平成16年における約18パーセントという市場占有率は,平底,丸底を含めた市場占有率であるし,原告が指摘する会社以外においても,平底,丸底を含めた容量1.5ミリリットルのサンプリングチューブが販売されており,その2社だけでも3000万本は販売されている。そして,原告商品に限定した平成16年の市場占有率は更に小さい数値(約1.04パーセント)となる。 原告は,ワトソンブランドで商品を流通させ,認知周知されていると主張するが,これは原告商品の形態ではなく,むしろ「ワトソン」というブランド名が商品の出所表示機能を有していることを裏付けるものである。 2 争点(2)(「混同」のおそれの有無)について(1) 原告の主張被告商品が販売されるようになってから原告商品と混同する者がおり,その結果,西日本地域のユーザーに混乱が生じ,原告に対して,原告商品の製造販売はしなくなるのかという問い合わせがあったり,被告商品の説明を求めてくる事態が生じた。 (2) 被告の主張西日本地域のユーザーに混乱が生じた点は否認する。混同のおそれは単に混同の可能性があるというのでは足りず,混同する蓋然性が高いことを要する。 原告商品はカタログ販売が主流であるところ,カタログ販売においては販売会社名が取引において重視され,原告はWATSON,被告はLab Stuffという標章を付して販売していることからすれば,混同する蓋然性はまったくない。 |
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当裁判所の判断
1 争点(1)(周知商品等表示性)について(1) 商品の形態が「商品等表示」に該当するための要件商品の形態は,必ずしも商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが,@商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており,かつ,A長期間継続的かつ独占的に特定の営業主体の商品に使用されるか,又は短期間でも強力に宣伝されたような場合などには,商品等表示として需要者の間に広く認識されることがあり得るというべきである。 (2) 証拠(各事実の末尾に記載した。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア サンプリングチューブの基本的な形態原告商品及び被告商品のような容量1.5ミリリットルのサンプリングチューブは,いくつもの会社(日本国内で有力なものは数社ないし10社)から発売されているが,その基本的なサイズ,形状は,世界で共通しており,各社の製品についてもほぼ同じである。(甲1の2,甲2,5,6,9,14,16,乙1ないし6,7,9の1ないし14の3,乙17ないし21)イ フラットゲートとゲートピン跡サンプリングチューブを成形加工する手段としては,底部より樹脂を高温液体の状態で高圧で注入する方法が一般的であり,ピンゲート(樹脂出口の直径が0.5ないし0.7ミリメートル程度)の場合もバルブゲート(樹脂出口の直径が1ないし2ミリメートル程度)の場合も,射出成形機から金型に液体が注入され,注入された液体が固体となった段階で,金型と射出成形機が互いに反対方向に移動して,ゲート部分が切断される。ピンゲート方式の場合は,ゲート部分が引きちぎられるようにして切断されるが,バルブゲート方式の場合は,ゲート部分がバルブ(棒)で蓋をするように切断される点が異なる。いずれの場合も外側底面にゲート跡が残るが,その直径は,各樹脂出口の直径に対応したものとなる。ピンゲート方式により作成されたものは,小さなゲートピン跡がごく僅かに出っ張るため,わざと外側底面の円周を高くしてゲートピン跡を保護することがある。この円周の高さも僅かなものである。(乙22)1.5ミリリットルのサンプリングチューブの底面は,直径5ミリメートル前後のものであり,その外側底面がフラットゲートであるか否かは,更にそれより小さい面積における相違である。このことと,一般にサンプリングチューブは透明であることが相まって,外側底面にゲート跡があるのかどうか,またそのゲート跡がゲートピン跡であるかバルブゲート方式によるゲート跡であるかは,よく見なければ識別できない製品もある。(乙1ないし6,17,18)ウ サンプリングチューブの販売形態と需要者サンプリングチューブの需要者は,大学,病院,民間企業,検査センターなどの各種理化学検査,研究機関等であり,商品カタログにより販売されることが多い。原告は,ディーラーを通じて需要者に「ワトソン」のブランドを付した商品カタログを毎年約1万部頒布し,原告商品もディーラーを通じて需要者に販売している。原告は,サンプリングチューブを紹介するリーフレット等を不定期に作成頒布したこともある。(甲1の1ないし3,甲6ないし17)原告の商品カタログにおいては,表紙を始めとして随所に「WATSON」「ワトソン」の記載があり,品番,容量,材質,形状ないしスタイル(平底等),キャップタッチ(柔らかいか硬いか),仕様(滅菌の有無,カラーの有無等),1袋あたりの入数,定価が記載されている。原告の総合カタログ及びダイジェストカタログには,原告商品を紹介する頁において,「フラットゲートチューブは底面の突起がなく肉厚も側面と同じになっている為,レンズ効果が少なく」との記載とともに,「フラットゲート」と「従来品」を対比した写真が掲載されているが,その「従来品」の写真からは,外側底面にゲートピン跡があるかどうかも,円周が高くなっている等の凹凸があるかどうかも確認することができない。「WATSON サンプリングチューブ(フラットゲート)」とするリーフレット(平成13年に5000部作成)及び「WATSON SCREW CAP TUBES」とするチラシ(平成15年500部作成)には,原告商品について「チューブの底部の突起が全くないゲートフリーなので高可視度で見やすく」との記載があり,「従来の底部」と「フラットゲート」として,「従来の底部」は外側底面の円周が高くなっているのに対し,「フラットゲート」は外側底面が平らであるように,サンプリングチューブの底面付近を拡大し,色付けして模式的に図示した絵が記載されている。もっとも,その「従来の底部」でも,ゲートピン跡の有無は確認できない。また,「WATSON サンプリングチューブ」とするチラシ(平成13年に5000部作成)では,冒頭の原告商品の紹介では「レンズ効果がほとんど無く,内容物の確認が容易におこなえます。」とあるものの,底面の突起についての記載はない。(甲6ないし11,14,16)エ 被告商品を紹介するリーフレット被告が被告商品を紹介するリーフレットでは,商品を「ラベリングや書込み可能のフラットキャップ 目盛付 突起のないフラットな底」として説明し,従来品と対比して「従来品に比べフラットゲートチューブは均一の厚さで設計されているため・・・試薬を最後まで無駄にしません」として「従来品」と「フラットゲート」が図示されているが,「従来品」の外側底面にゲートピン跡や,円周が高くなっている等の凹凸があるかどうかを確認することができない。(甲2)オ 他社の製品と商品カタログイナ・オプティカ社は,遅くとも平成5年から現在まで,アシスト社も,現在は平底のサンプリングチューブを販売している。イナ・オプティカ社は,現在自らの販売するサンプリングチューブについて,2005/2006総合カタログで「平底」として底面付近の拡大図を図示しており,アシスト社もカタログ(時期不明)で,サンプリングチューブの絵の底部に「平底」と記載しているが,いずれも,外側底面にゲートピン跡,突起や凹凸があるかどうかを確認することができない。その他,両社の商品カタログにおいて,その掲載されているサンプリングチューブの各写真から外側底面のゲートピン跡の有無や凹凸を確認することは困難である。(乙7,8,16,19ないし21)この点に関し,原告は,上記イナ・オプティカ社とアシスト社の平底のサンプリングチューブは,いずれも原告会社が製造して上記両社に販売していたものであると主張する。しかし,上記両社のカタログには,上記各サンプリングチューブはいずれもそれぞれ上記両社の自社ブランドとして記載されており,これらと原告商品に共通の製造者が存在するということを認識できる記載はないし、需要者がそれを認識しているとも認めがたい。したがって,仮に上記各サンプリングチューブの製造者が原告であるとしても,需要者が,上記各サンプリングチューブの出所を原告と結びつけるとは認められない。 (乙20,21)カ 原告商品の販売年数及び市場占有率原告商品は,平成13年から販売が開始され,500本を一袋に入れて販売され,平成13年には960袋(48万本),平成14年には9760袋(488万本),平成15年には1万0840袋(542万本),平成16年には1万1860袋(593万本),平成17年には1万3800袋(690万本)が販売された(平成14年以降の販売数については,原告商品と形状が同じである品番131-5155Cを含む。以下同じ。)。他方,1.5ミリリットルのサンプリングチューブの販売数は,被告商品の販売が開始される直前である平成16年には,原告が約2651万本,原告以外が約1億4100万ないし1億5000万本で,合計約1億7000万本であった。 したがって,原告商品の市場占有率は,平成16年には,3.5パーセント前後であった。平成13年から15年まで及び平成17年の容量1.5ミリリットルのサンプリングチューブの販売数を平成16年と同量と推定すると,原告商品の市場占有率は,平成13年には0.3パーセント弱,平成14年には3パーセント弱,平成15年には3.2パーセント前後,平成17年には4パーセント前後となる。(甲5,17,乙23)(3) 「フラットゲート(外側底面が平底)で」「ゲートピン跡がない」ことの「商品等表示」該当性についてア 前記(2)イにおいて認定した「フラットゲートで」「ゲートピン跡がない」点の物理的サイズ及び認識判別の難易に加えて,同ウ,エ,オにおいて認定した各社カタログ等の記載における取扱われ方によれば一般にサンプリングチューブの外側底面の小さな凹凸やゲート跡が注目される程度はさほど高くないと推認されることを総合考慮すると,「フラットゲートで」「ゲートピン跡がない」ことは,需要者に対し,従来のものと隔絶した顕著な印象を与えるものと認めることはできない。 イ また,前記(2)ウにおいて認定したサンプリングチューブの販売態様及び原告のカタログ等の記載内容と配布数と,前記(2)カにおいて認定した原告商品の販売年数及び市場占有率からすれば,原告商品の「フラットゲートで」「ゲートピン跡がない」という形態は,原告商品に使用されたのが長期間であったとも,強力に宣伝されたとも,認めることができない。原告は,原告商品を学会等における理化学機器の展示会等に5度出展したと主張するが,仮にそうだとしても,やはりこれを認めるに足りるものではない。 ウ フラットゲートでゲートピン跡がないという形態は,前記ア説示のとおり従来のものと隔絶した顕著な印象を与えるとはいえない商品形態であって,これについて前記イの程度の期間の独占的使用と宣伝がされたとしても,これによって,商品等表示として需要者の間に広く認識されるようになったと認めることはできないし,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 2結論よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山田知司 |
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裁判官 | 西理香 |
裁判官 | 村上誠子 |