関連ワード | 混同のおそれ(混同) / 差止請求(差止) / 過失 / 逸失利益 / 因果関係 / 利益額(利益の額) / 競業関係 / 代理人 / 代表者 / 秘密管理(秘密管理性) / 秘密として管理 / 秘密保持義務 / 混同のおそれ(混同) / 営業秘密 / 2条1項7号 / 2条1項8号 / 不正開示行為 / 虚偽の事実 / 不正の利益を得る目的(図利目的) / 損害賠償 / 損害額 / |
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事件 |
平成
16年
(ワ)
25672号
営業行為差止等請求事件
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東京都港区<以下略> 原告 合資会社介護コーディネーション 同訴訟代理人弁護士橘田洋一 東京都港区<以下略> 被告 有限会社トマト東京都渋谷区<以下略> 被告A 東京都港区<以下略> 被告B 上記3名訴訟代理人弁護士 武田昌邦 同 竹澤克己 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2006/07/25 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告らは,別紙利用者目録記載の者に対し,面会を求め,電話をし,又は郵便物を送付するなどして,介護サービスに関する契約の締結,締結方の勧誘をしてはならない。 2 被告らは,各自,原告に対し,金1166万2412円及びこれに対する被告有限会社トマト及び被告Aにつき平成16年12月10日から,被告Bにつき同年12月12日から各支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。 3 第2項につき仮執行宣言 |
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事案の概要
本件は,訪問介護サービス事業を営む原告が,原告の従業員であった被告A及び同Bが被告有限会社トマトを設立して訪問介護サービス事業を営んでいることについて,被告らが原告の営業秘密である利用者名簿を不正に持ち出して使用しているとして,不正競争防止法2条1項7号,8号,3条ないし5条に基づき,前記利用者名簿記載の者に対する被告らによる営業活動の差止め及び損害賠償を求め,また,被告らの行為が不法行為に該当するとして損害賠償を求める事案である。被告らは,原告の利用者名簿が不正競争防止法上の営業秘密に該当すること及び被告らがこれを不正に持ち出して使用したことを否認して争うとともに,不法行為の成立も争っている。 (, 。 ) 1 前提となる事実 当事者間に争いがないか 後掲各証拠によって認められる()当事者1原告は,介護保険法による指定居宅介護支援事業等を目的として平成10年12月25日に設立された合資会社であって,平成12年4月1日,東京都から介護保険法による訪問介護事業所及び居宅介護支援事業所の指定を受け 「芝浦介護サービス」の事業所名で,主として訪問介護サービス事業を ,営んでいる。 被告Aは,昭和40年に生まれ,平成12年12月から原告にヘルパーとして登録し,平成13年3月27日から平成16年6月30日まで原告の従業員として雇用され,原告の営む訪問介護事業所のサービス提供責任者として稼働していた者である。 被告Bは,昭和41年に生まれ,平成13年2月1日から平成16年6月30日まで原告の従業員として雇用され,原告の営む訪問介護事業所のサービス提供責任者として稼働していた者である。なお,以下,被告A及び同Bを総称して 「被告両名」という。 ,被告有限会社トマト(以下「被告会社」という)は,居宅介護サービス 。 事業等を目的として平成16年5月13日に設立された有限会社であって,東京都から介護保険法による訪問介護事業所及び居宅介護事業所の指定を受け 「ぷちとまと☆けあ」の事業所名で,主として訪問介護サービス事業を ,提供している。被告会社の代表取締役は被告A,取締役は被告Bであり,他に役員はいない。 ( ) 介護保険制度の概要(甲10,19,22,弁論の全趣旨) 2(),, , ア 介護保険の利用希望者 被保険者 は まず 要介護認定を受けるため市区町村へ申請する 申請を受けた市区町村の職員又は介護支援専門員 ケ 。(), , アマネージャー は 介護を必要とする人の心身の状況を把握するために家庭又は病院を訪問調査する。そして,介護認定審査会が,訪問調査員による調査結果と医師の意見書に基づき,審査を行う。この審査によって要介護度の判定がなされ,要支援あるいは要介護と認定された場合には,利用希望者は,各種の在宅サービス,施設サービスの中から,自分にあったサービスを選択することになる。こうした一連の仕組みの中で,原告及び被告会社は,在宅介護サービスを提供する事業者として位置づけられる。 イ 介護サービスは,利用者と指定居宅サービス事業者(原告及び被告会社がこれに該当する。以下「サービス事業者」という )との間の契約に基。 づいて,居宅介護支援事業者の作成するケアプランに応じて提供される。 ケアプランは,居宅介護支援事業者に属する介護支援専門員(ケアマネージャー)が作成するものであり,本人や家族の状況や意向,要介護状況を踏まえて総合的な介護や援助の方針が示される。さらに,ケアマネージャーは,利用者本人の状況に応じ,サービス事業者の選択までも行う。 ウ サービス事業者には,主としてケアマネージャーを通じて介護サービス利用の打診がなされ,サービス事業者と利用者の双方が合意に達すれば,介護サービスに関する契約を締結することになる。 ところで,ケアマネージャーが作成したケアプランは,主として介護の要否に主眼をおくものであるから,それのみで直ちに利用者の介護を行うには不十分である。そこで,原告は,利用者を受け入れるに先立って,アセスメントと呼ぶ課題分析を行う。すなわち,サービス提供責任者(コーディネーター)が,ケアマネージャーから提供された情報及び計画(ケアプラン)をもとにして利用者宅を訪問し,改めて家族状況や住居の広狭など周辺の事情から,家事の分担など日常生活のルールなどについて逐一確認して課題分析を行い,訪問介護計画書を作成する。 さらに,サービス提供責任者は,ケアマネージャーから提供された情報及び居宅サービス計画(ケアプラン)と原告の作成した訪問介護計画に基づいて,サービス事業者の各事業所に登録している個々のヘルパー(訪問介護員)に,介護サービスの内容を指示伝達する。 ヘルパーは,上記指示に基づいて,要介護者の居宅を訪問して身体介護等を行うものであって,所定の研修を受けた有資格者である。ヘルパーが複数の事業所に登録する重複登録は,普通に行われている。 エ 介護保険法は次のとおり規定する。 「指定居宅サービス事業者は,次条第2項に規定する指定居宅サービスの事業及び運営に関する基準に従い,要介護者等の心身の状況等に応じて適切な指定居宅サービスを提供するとともに,自らその提供する指定居宅サービスの質の評価を行うことその他の措置を講ずることにより常に指定居宅サービスを受ける者の立場に立ってこれを提供するように努めなければならない (介護保険法73条1項) 。」2争点( ) 不正競争防止法違反を原因とする請求 1ア 原告の利用者名簿が「営業秘密 (不正競争防止法2条6項)に該当す 」るか否か(争点1-1 。)イ 被告両名が,原告の営業秘密を,不正の利益を得る目的又は原告に損害を加える目的で,使用又は開示したか否か(争点1-2 。)ウ 被告会社が,前記イの不正開示行為であることを知って,若しくは重大な過失により知らないで,原告の営業秘密を取得し,又はその取得した営業秘密を使用したか否か(争点1-3 。)エ 損害の額(争点1-4)( ) 不法行為を原因とする請求 2ア 被告らの行為が不法行為に該当するか否か(争点2-1 。)イ 損害の額(争点2-2) |
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争点に関する当事者の主張
1 不正競争防止法違反を原因とする請求(「」() ( ) 争点1-1 原告の利用者名簿が 営業秘密 不正競争防止法2条6項 1に該当するか否か )。 (原告の主張)ア 原告保有の利用者名簿(以下「本件利用者名簿」という )は,原告の。 利用者に関する情報や書類を利用者ごとにファイルしたものであり(紙媒),() 。 体 その一部はパソコンデータとして保管されている 電磁的記録情報本件利用者名簿には,原告の利用者について,契約日(サービス開始年月日 ,氏名,性別,生年月日,住所,電話番号,被保険者番号,保険者 )番号,保険者名,要介護度,認定日,認定有効期間,保険給付率,請求区分といった事項が記載され,また,ケアプラン,アセスメントシート,訪問介護計画書,担当者会議記録が添付されている。 イ 本件利用者名簿は,以下のとおり,不正競争防止法上の営業秘密(同法2条6項)に該当する。 ) 本件利用者名簿は,秘密として管理されている。 a@ 物理的管理状況原告の事業所の入口は二重に施錠されるようになっており,室内にサービス提供責任者などの管理責任者がいない限り,施錠されていて入室できない。本件利用者名簿の一部は,サーバーPCのハードディスク内に保存され,その余のPCとはLANで繋がれている。各パソコンは,各自の事務机では利用できない。ファイルされた本件利用者名簿は,施錠可能なキャビネット内で保管し,管理されている。同キャビネットの鍵は,原告代表者が所持している。 A アクセス権者本件利用者名簿は電磁的記録情報,紙媒体いずれについても,事業所内でサービス提供責任者4名,同候補1名,ケアマネージャー3名の合計8名に利用が限定されていた。ヘルパーは,常にサービス提供者を通じて必要な情報を得ることになっていた。また,利用者に押印してもらうことが必要な業務実績表や訪問介護計画書は,サービス提供責任者の管理下でヘルパーに交付されていた。これらの書類については,ヘルパーに対する利用者名簿等の業務の秘密保持に関する講習や,1年毎にヘルパーから取り付ける守秘義務に関する誓約書によって,秘密保持が担保されていた。 介護保険法の規定に基づき定められた「指定居宅サービス等の事業の人員,設備及び運用に関する基準」33条は,1項により,介護事業所の従業員に対し,業務上知り得た利用者又は家族の秘密保持を定め,2項では,介護事業者にも秘密保持に必要な措置を求めている。 医師や看護師など医療関係者に対するのと同様に,介護事業従事者に対しても法令を設けて秘密保持を求めるのは,患者や利用者のプライバシーに関わることだからである。また,本件利用者名簿に記載された情報それ自体からして,高度な秘密保持を求められる性質のものであることは,介護事業者であればもとより,そうでなくとも万人が納得するところである。 これに加えて,原告は,常々,サービス提供責任者にはもとより,登録ヘルパーに対しても,利用者に関する事項は,極めて秘密性の高いものであるから,取扱いには万全を求めるよう指導していた。ヘルパーを対象とする講習の講師は,原告代表者,被告A及び同Bらであり,原告の利用者に関する秘密の管理を周知徹底させるべく,再三にわたり強調してきた。 さらに,登録ヘルパーからは,1年ごとに守秘義務に関する誓約書を取り付けていた。また,被告A及び同Bからは,2年ごとに同書面を取り,秘密保持を徹底させる措置を講じていた。 ) 本件利用者名簿は,原告が事業を遂行する上で有用である。 b) 本件利用者名簿は,前記 )のとおり従業員や登録ヘルパーに対し秘 ca密保持を徹底させた上で使用されてきたのであって,非公知である。 (被告らの主張)ア 本件利用者名簿は,原告の事業所内において,パソコンのハードディスク内に電磁的記録情報として保存されているほか,これをプリントアウトしたA4版の紙媒体のファイルとしても存在していた。 イ 本件利用者名簿は,秘密として管理されておらず,不正競争防止法上の営業秘密(同法2条6項)に該当しない。 ) 電磁的記録情報としての本件利用者名簿 a電磁的記録情報としての本件利用者名簿は,サーバーPCのハードディスク内に保存されており,これとLANで繋がれた事務所内にある4台のクライアントPCのいずれからも同じ情報にアクセスすることが可能であった。こうした事業所内のパソコンは,基本的には,当日最も早く出勤してきた者がすべての電源をオンにして起動し,当日,最後に帰宅する者がすべての電源をオフにするまで起動した状態のままとなっていた(サーバーPCは終日起動したままである 。パソコンの電源を 。)オンにした際には,パソコンのシステムを起動させるためにパスワードの入力を求められるようになっていたものの,そのパスワードは極めて簡易なものであり,原告に勤務していたすべての者に周知されていた。 そのため,誰であっても,この電磁的記録情報に自由にアクセスすることが可能だったのであり,実際,当日最も早く出勤してパソコンの電源をオンにした者が,その時点でこのパスワードまで入力することとなっていたのであって,その後は誰もが直ちにサーバーPCのハードディスク内の本件利用者名簿を含む電磁的記録情報に自由にアクセスすることができるようにされていた。また,こうした電磁的記録情報をプリントアウトすることは全く禁じられていなかったし,必要となれば実際に自由にプリントアウトすることが可能であった。 ) 紙媒体としての本件利用者名簿 b紙媒体としての本件利用者名簿は,顧客ごとにファイルに綴られていた。このファイルは事業所内のキャビネットに収納され,キャビネットは機能的には施錠が可能なものではあったものの,実際に施錠されていたことは一切なく,事業所内の誰もがいつでも自由にファイルを取り出して使用できるようになっていた。また,プリントアウトされた紙媒体そのものや,これが綴られているファイル,さらにこのファイルが収納されているキャビネットのいずれにも,そこに記録,保管されている情報が秘密として管理されているものであることをアクセスした者に認識させるような表示等( マル秘 「社外秘」等の表示等)は何ら施され 「」,ていなかった。 キャビネット内のファイルは,パートタイム勤務のヘルパー(訪問介護員)たちが自由にこれを取り出して閲覧したり,自ら作成した報告書を編綴するなどしていたし,このファイルを執務のために事業所外に持ち出そうとすればそれも可能であり,その際に持ち出しの有無やファイルの所在がチェック,記録されるというようなシステムには全くなっていなかった。なお,訪問介護計画書はサービス提供責任者からヘルパーに対する指示書としての役割も果たしていたものの,同計画書が後に回収されたり,シュレッダーにかけられることはなかった( ) 争点1-2(被告両名が,原告の営業秘密を,不正の利益を得る目的又は 2原告に損害を加える目的で,使用又は開示したか否か )。 (原告の主張)被告両名は,平成16年6月30日付けで原告を退職する際,本件利用者名簿を不正に持ち出した上,これを利用して別紙被害一覧記載のとおり,原告と介護契約を締結していた利用者を次々と勧誘し,原告から被告会社への契約の切替えを断行した。 原告の行う介護サービスが利用者あるいは利用者とその家族の毎日の生活を補完し合う関係にあるため,利用者らは,介護サービスを織り込みながら活動している。そこで,利用者らの生活に必要な介護サービスの提供について不安をあおれば,原告と締結している介護サービス契約を切り崩すことは極めて容易であって,介護サービス契約はこのような脆弱な構造をそもそも有している。登録ヘルパーは,利用者と日々接触し,利用者から信頼を受けて介護する立場にあるため,本件では,登録ヘルパーの移動を交えて利用者争奪行為が行われたのであり,原告の営業秘密を利用した不正な競争によって不正な利益を求め,原告に損害を加えることは明らかである(不正競争防止法2条1項7号 。)(被告らの主張)被告両名が原告を退職する際,本件利用者名簿を不正に持ち出したこと及びこれを使用又は開示したことは否認する。 ( ) 争点1-3(被告会社が,前記( )の不正開示行為であることを知って, 32若しくは重大な過失により知らないで,原告の営業秘密を取得し,又はその取得した営業秘密を使用したか否か )。 (原告の主張)被告会社の役員は被告A及び同Bのみであって,被告会社が不正開示行為であることを知って原告の営業秘密を取得し,その取得した営業秘密を使用したことは明らかである(不正競争防止法2条1項8号 。)(被告らの主張)被告会社が不正開示行為であることを知って原告の営業秘密を取得したこと及びその取得した営業秘密を使用したことは否認する。 ( ) 争点1-4(損害の額) 4(原告の主張)原告は,別紙被害一覧の被害利益額欄記載のとおりの損害を受けた。同被害利益額は,被告らの不正競争行為に直近する平成16年4月以降の利用金額(原告の売上額)の平均値及びその期間にヘルパーに対して支払った人件費の平均値をそれぞれ算出し,平均利用金額から平均人件費額を差し引いた金額をもって,原告の被った1か月あたりの損害額(原告の逸失利益額)とし,被告会社に契約が切り替わった各利用者について,契約切替え時から向こう1年間の集計額を,原告の被った損害として主張するものである。 (被告らの主張)原告の主張は争う。 2 不法行為を原因とする請求( ) 争点2-1(被告らの行為が不法行為に該当するか否か ) 1 。 (原告の主張)被告両名は,原告の訪問介護サービス事業においてサービス提供責任者として,同事業の中心的な地位にあり,かつ在職中に知り得た利用者に関する秘密や情報を漏えいしない義務を負っていながら,同じ義務を負うヘルパー,。 共々 利用者に働きかけて原告と契約した多数の利用者を奪ったものであるこうした被告らの行為は,自由競争や職業選択の自由の枠外にあって,もはや保護に値しない。 ア 被告両名は,原告事業所においてサービス提供責任者であった。その役割は,原告との間で介護サービス契約を締結するにあたり,自ら利用者宅を訪ねるなどして利用者の具体的なニーズを把握するためアセスメントを実施し,利用者との契約後は,訪問介護計画を策定してヘルパーに対する介護手順を示して具体的な指示を与えるなど,まさに原告の訪問介護事業の中枢を占めるものである。サービス提供責任者の立場にあれば,個々の利用者とその家族の具体的な事情について,すべてを把握することが可能であった。これ以外にも,被告両名は,ヘルパーとしても稼働して利用者と接してきた。そして,サービス提供責任者はもとより,ヘルパーについても,在職中に知り得た利用者と家族に関する秘密は,退職後といえども口外しない秘密保持義務を原告に対し負担していた。 イ 被告両名は,以下のような手段を用いて,原告と利用者との間の介護サービス契約を解約させ,被告会社との間で介護サービス契約を新たに締結させた。 ) 被告会社を設立した平成16年5月13日ころ,原告に登録して稼働 aしているヘルパーに対して説明会を開催し,かつ,個々のヘルパーに対して電話を架けるなどして,被告会社の登録ヘルパーとして現在の利用者に対してサービス提供をしてもらいたいとの勧誘を行った。 ) 被告両名自らあるいはヘルパーを介して,利用者に対し,同年5,6 b月ころ,現在のヘルパーは被告会社に移籍することになっており,この結果原告に残るのは質の悪いヘルパーとなってサービスが低下するなどと述べ,利用者の不安をあおり,動揺を誘った。 ) 被告両名は,同じころ,一部の利用者に対して,原告代表者には愛人 cがいて信用できないなどの虚偽の事実を述べて,原告離れを仕掛けた。 ) 被告両名は,退職するかなり前から,その担当する利用者に対し,被 d告会社立ち上げの挨拶・説明を行い,7月以降はヘルパーが替わることを説明した。かかる挨拶は,単なる儀礼的なものとは到底いえない。すなわち,利用者及びその家族は,馴れたヘルパーによるサービスの提供を受けることができなくなれば,直ちに日々の生活に支障を来すのであって,同じヘルパーによるサービス提供を受けるために,ケアマネージ。, ャーを介して被告会社に契約を切り替えるほかない 被告両名の行為は利用者心理に巧みに働きかける違法な行為にほかならない。 ) 被告両名は,平成16年6月15日,Cヘルパーに対し,既に事業所 eとして確保していた被告会社に誘って原告代表者に対する人格攻撃を行った上,ヘルパーを大切にする新事業所の設立を伝え,利用者共々被告会社へ移籍するように執拗に説得した。 ) 被告両名は,同じころ,Dヘルパーに対し,前記 )と同様の働きか feけを行った。 ) 被告両名は,同じころ,Eヘルパーに対し,前記 )と同様の働きか geけを行った。 ) 被告両名は,平成16年6月15日ころ,Fヘルパーを通じて,原告 hの利用者Kに対し,現在のヘルパーは被告会社に移籍し,原告に残るヘルパーは質の悪い者ばかりとなるなどと申し向け,被告会社への契約切替えを迫ったものの,切替えには至らなかった。 ) 被告両名は,その他にも様々な働きかけを行った。とりわけ,特定の iケアマネージャーと結託して,被告会社への契約切替えを行ったことが窺える。 ウ そもそも,介護サービス契約では,サービス事業者と利用者とがサービス提供契約を結んでいるのであり,ヘルパーはサービス事業者から派遣されサービスを提供するというもので,契約当事者ではない。その一方で,ヘルパーは,利用者と長期間にわたって接することにより,一定の人間関係を築き上げ,利用者との信頼関係ができてくる。心身が必ずしも健常でない利用者及びその家族にしてみれば,いったんできあがったヘルパーと,。 の継続的な関係を崩したくないと考えることは 無理からぬところである被告両名は,原告のサービス提供責任者として,あるいは自らヘルパーとして,利用者と頻繁に接触しており,利用者のこうした事情は熟知し,これを逆手にとって被告会社への契約切替えを断行したものである。従来のヘルパーを利用できる点を利用者に対する最大のセールスポイントとし,他のヘルパーに替わることの不安をあおって利用者を奪取したものである。 翻って考えると,介護サービスに関する契約は,サービス事業者と利用者との間の契約である。利用者はサービス事業者からサービスの提供を受けるのであって,ヘルパーは特定人に限られるものではない。かかる制度設計からすれば,多くの利用者がヘルパーのあとを追ってサービス事業者を替えるということは考えがたいことである。 さらに,被告両名は,原告在職中から,自らあるいは誘い出しに成功したヘルパー共々,利用者に声をかけ,地道な営業活動を行わずに,事業立ち上げ後,2,3か月のうちに,大量の利用者を確保している。 原告に対し秘密保持義務を負っている被告両名は,業務上知り得た利用者などの秘密を他言することを禁止されるほか,顧客情報等について,たとえ業務としてでも使用を禁止されているのであって,原告事業所の利用者については,原則として競業を禁止されていることと実質的に同義である。 エ 以上のとおり,被告らの行為は,自由競争や職業選択の自由の枠外にあって,不法行為に該当する。 (被告らの主張)ア 原告の主張イに対する認否反論)記載の主張について,被告両名が原告に登録して稼働しているヘルパ aーに対して電話を架けて,被告会社への登録を勧誘したことは認めるが,。, , 説明会を開催したことはない 被告両名は 原告の登録ヘルパーに対して原告を辞めるよう慫慂したことや,被告会社の登録ヘルパーとしてサービス提供してもらいたいと勧誘したこともない。被告両名は,あくまでも被告会社への重複登録を勧誘したにすぎない。なお,原告の登録ヘルパーは約50名であったところ,被告両名はうち23名に対し勧誘を試み,うち14名が被告会社を訪問した。 )記載の主張は否認する。被告両名は,自らヘルパーとして担当してい bた利用者の一部に対して,原告を退職するので,これに伴って担当ヘルパーが替わることを説明したにすぎない。 )記載の主張は否認する。利用者に対し,このような発言をしたことは cない。 )記載の主張は否認し,争う。 d)記載の主張は否認する。被告会社において,被告会社への重複登録を e勧誘したにすぎない。 )記載の主張は否認する。 f。。 g)記載の主張は否認する 被告会社への重複登録を加入したにすぎない)記載の主張は否認する。電話で被告会社への重複登録を勧誘したにす hぎない。 ,, i)記載の主張について 被告両名が特定のケアマネージャーと結託して被告会社への契約切替えを行ったことは否認する。 イ 被告両名が新規事業を立ち上げた経緯被告両名は,原告でサービス提供責任者ないしヘルパーとして訪問介護サービスに従事してきた経験を踏まえて,自ら独立して訪問介護サービス事業を立ち上げることを計画し,平成16年5月13日に被告会社を設立した。そのころまでに,被告両名は原告に対し,同年6月末日限りで退職する旨を申し出た。原告はこれを了承し,被告両名の後任を2名採用するなどして,被告両名退職後の態勢を整える手配をした。 被告両名は,平成16年6月ころから,原告の登録ヘルパー約50名のうち23名に電話を架けるなどして,被告両名が原告会社を退職した後,新規事業を立ち上がることを話し,一度,被告会社の事務所を見に来てもらいたいと誘った。上記23名の内14名のヘルパーが被告会社の事務所を訪れ,被告両名は,被告会社でも登録ヘルパーとして働いてもらいたいと勧誘した。しかし,説明会を開催したことはない。また,ヘルパーが複数の事業所に重複登録すること自体は,普通に行われていることである。 被告両名は,同じころ,担当する利用者宅を訪問した際,6月末で原告を退職する旨挨拶した。その際,利用者から今後の身の振り方を質問されたときには,新規事業を立ち上げる旨話した。しかし,被告両名が利用者らに対して,被告会社への契約切替えを勧めるなどということは一切していない。 被告両名は,平成16年6月17日,原告代表者から呼出しを受け,原告の事務所で面談した。その際,原告代表者は,被告両名が原告の登録ヘルパーと利用者を奪取しようとしている旨非難してきた。被告両名はそのような意図のないことを釈明し,新規事業は,被告両名とGの3名で始め,。, ること 既に勧誘したヘルパーには勧誘を撤回することを約束した なお被告両名は,自らヘルパーとして担当している利用者の一覧表を持参し,引継ぎのために原告代表者に提出したところ,同席していた原告の管理者Hは,原告代表者に対して「被告両名が担当していた利用者は,被告両名。」, 。 が持っていっても良いですよねと発言し 被告両名への理解を示した17日の面談の際,被告Bの利用者の1名が原告の行く末に不安を抱いて問い合わせをしたことが判明した。被告Bは,翌18日,当該利用者に連絡をとり,説明不足で無用の心配をかけたことを詫びた上で,同被告が退職した後も,原告が責任をもって訪問介護サービスを継続することを説明した。 さらに,被告両名は,平成16年6月18日,前日の原告代表者との約束に従って,勧誘をしたヘルパーに連絡を取り,事情を説明した上で,被告会社への勧誘を撤回した。以後,被告両名は,原告の登録ヘルパーに対して,被告会社に重複登録することを自ら進んで勧誘していない。 ところが,原告は,平成16年6月18日,原告の全利用者(被告両名が関与していない利用者を含む )を始め,登録ヘルパーやケアマネージ 。 ャーに対し,被告両名を犯罪者扱いする内容の文書を送り付けた。これを見たヘルパーや利用者らは非常に驚き,被告両名に対して,かかる原告の行動への不審や不快感を露わにする人も少なくなかった。なお,被告両名が新規事業を立ち上げる事実は,従前,勧誘したヘルパーと一部の利用者しか知らなかったものの,これらの文書により,原告の関係者全員が同事実を知ることとなった。 被告Bは,平成16年6月30日,原告代表者から 「今後,営業活動,をしない 」というような内容の誓約書に署名することを求められた。し 。 かし,被告Bは 「被告Aと相談する必要がある 」と応えて,その場で ,。 の署名を拒んだ。後刻,被告Aは原告代表者に対して 「通常の流れでケ,アマネージャーから依頼があった場合には,東京都指定訪問介護事業所として断るわけにはいかないので,その一文を付け加えてもらえば,誓約書に署名します 」と応えた。これに対して,同席したHは,被告らの主張 。 に理解を示し,原告代表者に対して「誓約書はもういいですね 」と促し。 た。 被告両名は,翌7月1日,原告代表者との約束に従い,Gを含む3名で被告会社の事業を開始した。その後,原告の登録ヘルパーのうち11名が(,, 。 ), 被告会社に重複登録し うち3名はその後 原告への登録を抹消したまた,4名が被告会社に登録替えをした。この点について,被告両名が自ら進んで,原告の登録ヘルパーらに被告会社への登録を勧誘した事実はなく,あくまでも,ヘルパーが積極的に被告会社への登録を希望した結果である。また,原告と契約していた利用者のうち33名が,被告会社と契約するに至った。かかる契約切替えについても,被告両名が,あるいは,被告両名が担当ヘルパーを介して,被告会社への契約切替えを慫慂した事実はない。 ウ 被告らの行為が不法行為に該当しないこと確かに被告両名は,平成16年6月17日以前に原告の登録ヘルパーらに対し,被告会社への登録を勧誘した。しかし,これはあくまでも原告との重複登録を前提とする勧誘である。ヘルパーが複数の事業所に重複登録することは広く行われており,また,そのこと自体が原告に不利益を及ぼすことは有り得ないのであって,重複登録を勧誘する行為は,およそ違法性が問題になる性格のものではない。 原告の登録ヘルパーのうち15名が被告会社にもヘルパーとして登録したものの,かかる登録と被告両名による勧誘行為との間には因果関係も存在していない。被告両名は,平成16年6月17日に原告代表者から非難を受けたことから,それまでに重複登録を勧誘したすべてのヘルパーと連絡を取り,事情を話して勧誘を撤回している。被告両名は,以後,一度も原告の登録ヘルパーに対し,自ら進んで被告会社への登録を勧誘していない。 ヘルパーの中には,原告への登録を打ち切って被告会社へ登録した者もいるものの,それは被告両名がそのように働きかけたことが原因となったわけではない。例えば,@突如としてヘルパーや利用者に被告両名を名指しで非難する文書を送りつけ,その後も詳しい説明をしようとせず,後任の手配や引継ぎについても連絡しなかった原告の姿勢に対して,少なからぬヘルパーが不信感や不快感を抱いた。A原告あるいは被告両名の後任者が,ヘルパーの立場を理解してこれを十分にフォローアップしようとしなかったため,原告の登録ヘルパーとして責任をもって継続して働くことに不安を抱く人もいた。Bヘルパーとして,こうした問題点を原告に指摘しても,一向にこれを改善しようとする姿勢が見られず,原告に対する信頼を失ったヘルパーもいた。これら諸事情が,ヘルパーが原告への登録を打ち切って被告会社で仕事をするようになった真の原因である。 エ 被告会社が比較的短期間のうちに相当数の利用者を確保できた原因は,利用者の不安をあおる方法によってこれを奪取した結果ではない。被告会社が立ち上げ当初から軌道に乗ったのは,被告両名がサービス提供責任者ないしヘルパーとして実績を積み,これをケアマネージャーらが高く評価していたからに他ならない。被告会社には平成17年2月までの7か月の間に,原告からの契約切替えとは別に,40名の利用申込みがあった。被告会社の陣容では全員について対応することが困難なため,うち26名と契約した。 ( ) 争点2-2(損害の額) 2前記1の( )と同旨4 |
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争点に対する判断
1 争点1-1(原告の利用者名簿が「営業秘密(不正競争防止法2条6項) 」に該当するか否か)について( ) 本件利用者名簿について 1(, , ,) , 証拠 甲10 11の1ないし18 18の1ないし5 19 によれば以下の事実が認められる。 本件利用者名簿は,ケアマネージャーの作成した居宅サービス計画書(ケアプラン ,原告のサービス提供責任者の作成したアセスメントシート,原 )告と利用者との間の訪問介護事業所契約書,重要事項説明書,秘密取扱いに対する同意書,介護保険被保険者証写し,ケアマネージャーの作成したサービス提供票,訪問介護計画書,サービス業務実績表,利用者に関する記録等の複数の文書をまとめたものである。これらの文書中には,契約日(サービス開始年月日 ,利用者氏名,性別,生年月日,住所,電話番号,被保険者 )番号,保険者番号,保険者名,要介護度,認定日,認定有効期間,保険給付率,請求区分等が記載されている。本件利用者名簿は紙媒体として存在するほか,介護保険料の請求手続をパソコンで行う関係上,その一部は電磁的記録情報として保存されている。 ( ) 本件利用者名簿の秘密管理性について 2ア ) 証拠(甲8,9の1ないし11,10,乙8,被告A本人尋問の結 a果)によれば,以下の事実が認められる。下記認定事実に反する甲10の記載部分は採用できない。 原告事業所は,入口の扉に鍵が2個付されていて,従業員が全員退出する際には施錠される。事務室を訪問した者とは,入口を入ってすぐのカウンターの所で応対するようになっている。そして,電磁的記録情報としての本件利用者名簿はサーバーパソコンのハードディスクに保存されており,同パソコンとLANで繋がれた事務所にある残り3台のクライアントパソコンからもアクセスすることが可能である。この4台のパソコンは,執務用の机とは別の専用机に設置されていて,起動時には簡易なパスワードを入力することが求められていたものの,このパスワードは従業員すべてに知らされていた。なお,電磁的記録情報としての本件利用者名簿の入力作業及び介護保険料請求手続を行うのは,サービス提供責任者である。 ,, また 紙媒体としての本件利用者名簿は顧客ごとにファイルに綴られ。, 事務所の奥にあるキャビネットに収納されていた このキャビネットは施錠可能であるものの,実際には施錠されていなかった。また,プリントアウトされた紙そのものや,これが綴られているファイル,ファイルが収納されているキャビネットのいずれにも,当該情報が秘密として管理されていることを示す「マル秘 「社外秘」などの表示はされてい 」,。, , , なかった また 業務実績表については 利用者の押印を得る必要からヘルパーに交付されており,月末にサービス提供責任者に提出されていた。さらに,訪問介護計画書は,ヘルパーに対する指示書としての役割も果たしていたことから,担当のヘルパーに手渡され,後に回収する仕組みにはなっていなかった。 本件利用者名簿は,サービス提供責任者3名(被告両名を含む ,。)同候補1名及びケアマネージャー3名が利用することができた。パソコ,。, ンについては 被告2名を含む常勤社員6名がアクセスしていた また紙媒体としての本件利用者名簿は,担当する利用者の分については,サ,。 ービス提供責任者の管理の下 ヘルパーもこれを閲覧することができた) 証拠(甲6の1・2,7の1・2,10,12の1ないし3,13の b,,,, 1ないし3 14の1ないし4 15の1ないし4 16の1ないし317の1ないし3)によれば,以下の事実が認められる。 ,, 被告両名は 業務上知り得た利用者又は家族の秘密は退職後も保持し口外しない義務を負っていた。かかる義務は入社時の労働契約書に記載され,平成15年4月1日付けの労働条件通知書に記載されている。また,ヘルパーを対象として秘密保持に関する講習を何度か開催し,登録,。 ヘルパーからは 1年ごとに守秘義務に関する誓約書を取り付けていたイ 前記ア認定事実を前提に,本件利用者名簿の秘密管理性を判断する。 不正競争防止法上の「営業秘密」は「秘密として管理されている」こ ,とを要するところ(不正競争防止法2条6項 ,事業者の事業経営上の秘 )密一般が営業秘密に該当するとすれば,従業員の職業選択・転職の自由を過度に制限することになりかねず,また,不正競争防止法の規定する刑事罰の処罰対象の外延が不明確となることに照らし,当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていること,及び,当該情報にアクセスできる者が制限されていることを要するものと解するのが相当である。 本件においては,本件利用者名簿の電磁的記録情報及び紙媒体のいずれにおいても,当該情報及び媒体自体並びにその収納場所に 「部外秘」等,の秘密であることを示す表示が何ら付されていない。また,事務室の扉の施錠は防犯上当然行われる事柄にすぎず,これを理由として原告社員に秘密であることが表示されているとは到底いえない。そして,電磁的記録情報へのアクセスは,専用のパソコンを使用しているとはいうものの,パソコンを起動する際の簡易なパスワードが設定されているにとどまり,そのパスワードも広く社員に知られている。また,紙媒体は,施錠することなくキャビネットに保管されていて,登録ヘルパーも,担当する利用者のファイルは,サービス提供責任者の管理のもと,閲覧することができ,一部の書類は,事業所内から持ち出すことも認められていた。 ところで,原告は,介護に関する事項を秘密として扱うべきことは特段の措置を講じていなくても当然に認識できることであり,また,被告両名ら原告の従業員及び登録ヘルパーは,業務上知り得た利用者又は家族の秘密を口外しない旨の雇用契約上の義務を負担し,原告は秘密保持に留意するよう指導教育を行ってきたのであるから,秘密管理性は認められる旨主張する。しかし,かかる雇用契約上の秘密保持義務や指導教育は,利用者のプライバシー保護を念頭におくものと解するのが相当であって,これによって不正競争防止法上の営業秘密性が直ちに導かれるものではなく,原告の主張は採用することができない。 したがって,本件利用者名簿に記載された情報の内容や従業員らが秘密保持義務を負担していることを考慮しても,本件利用者名簿の実際の管理状況やアクセスできる者に照らせば,秘密管理性に欠け,これを不正競争防止法上の営業秘密に該当するものということはできない。 ()結論3よって,本件利用者名簿は,不正競争防止法上の営業秘密には該当しないのであるから,その余の点について判断するまでもなく,同法違反を原因とする原告の請求は理由がない。 2 争点2-1(被告らの行為が不法行為に該当するか否か)について( ) 証拠(甲1の1・2,2ないし4,5の1・2,23,24,乙1ないし 13,6ないし10,証人C及び同I(以下「I」という )の各証言,原告。 代表者(一部 ,被告A及び同Bの各本人尋問の結果)によれば,次の事実 )が認められる。 ア 被告両名は,原告において,サービス提供責任者及びヘルパーとして稼働していた。平成16年4月当時,原告事業所のサービス提供責任者は被告両名,Gほか1名の合計4名であった。 被告両名は,原告のサービス提供責任者として,利用者と介護サービス契約を締結するに先立って,自ら利用者宅を訪ねるなどして利用者の具体的なニーズを把握するためのアセスメントを実施し,原告と利用者の間で契約締結に至った場合は,訪問介護計画を策定してヘルパーに対する介護手順を示して具体的な指示を与えるなどしていた。また,被告両名自身がヘルパーとして介護に当たることもあった。被告両名は原告との雇用契約において,在職中に知り得た利用者と家族に関する秘密は,退職後といえども口外しない旨の義務を負担し,ヘルパーとしても,同旨の義務を負担していた。 イ 被告両名は,平成15年秋ころから,原告を独立して新たな訪問介護サービス事業を立ち上げることを計画し始めた。 原告の登録ヘルパーとしてヘルパー業務を専業で行っているIは,平成16年初めころ,被告両名から,被告両名による新規事業所の立ち上げを知らされ,同事業所のヘルパーとして稼働することを勧誘された。Iは,原告を紹介してくれたヘルパー仲間のCに対し 被告両名が 仕事ごと 利 ,,(用者ごとの意)新会社に移ってしまったら困ったことになってしまうという趣旨の相談をした。Cは,原告代表者に対し,そのようなことができるのか尋ねたところ,原告代表者は,利用者が移籍することはないと説明した。 ウ 被告Bは,平成16年4月末ころ,原告に対し,同年6月末日で原告を退社したいと申し出た。被告Aは,同年6月初めころ,原告に対し,同年6月末日で原告を退社したいと申し出た。また,主に支援費制度上のサービス提供を行うGも,同年5月末ころ,同年6月末日で原告を退社したいと申し出た。被告両名及びGの退社願は受理され,原告は後任を2名採用するなどして,被告両名の退職に備えた。なお,被告両名は,原告代表者からの妨害をおそれて,新規事業を立ち上げることは一切告げなかった。 被告Aは,平成16年4月ころ,被告会社の事務所となる部屋を賃借した。そして,同年4月下旬,会社設立手続を行政書士に依頼し,同年5月13日に設立登記手続が完了した。また,同年5月下旬,介護事業所として東京都の指定書類を作成・提出し,同年5月から6月にかけて,什器備品類を調達していった。 エ 被告両名は,平成16年6月ころから,原告の登録ヘルパー約50名のうち23名に電話を架けるなどして,被告両名が原告を退社した後,新しく事業を立ち上げることを話し,一度,被告会社の事務所を見に来てもらいたいと事務所訪問を勧誘した。被告両名が勧誘した23名のうち14名のヘルパーが,被告会社の事務所を実際に訪れ,被告両名は,訪問してきたヘルパーに,被告会社を立ち上げる理念や被告両名の考える介護のあり方等を話して,被告会社でも登録ヘルパーとして働いてもらいたいと勧誘した。 被告両名は,同じころ,自ら担当している利用者の居宅を訪問した際,同年6月末日に原告を退社するとの挨拶をした。その際,利用者から今後の身の振り方を質問されたときには,新しい事業を立ち上げることを話した。そして,被告両名にヘルパーを続けてもらいたいと強く希望する利用者に対しては,ケアマネージャーにその旨相談することを勧めた。 ,, オ 被告Bは 平成16年6月10日ころから残りの有給休暇の取得に入り被告Aも原告事業所に出勤しなくなった。原告代表者はそのころ,前記エ,, ,, の動きを知り 同年6月15日 被告会社設立の件について Gを介して電話で被告両名を呼び出した。そこで,被告両名及びGは,同年6月17日夕刻,原告代表者及び原告の管理者Hと面談した。 原告代表者は,面談の場で,被告両名が,原告の利用者と登録ヘルパーを奪取しようとしていると非難した。被告両名は,これに対し,不当な奪取と非難されるようなことは行っておらず,既に勧誘したヘルパーに対しては勧誘を撤回する旨話した。また,被告Aは,自らがヘルパーとしても担当していた利用者の一覧表(乙1)を持参し,引継ぎのために原告代表者に提出した。また,被告両名は,この面談当時,原告事業所を外出して,,, いる時にも円滑な業務遂行ができるように 担当する利用者の氏名 住所電話番号,要介護度が記載された一覧表(本件利用者名簿の一部をコピーしたもの)を所持しており,被告Aは,担当顧客に関する訪問介護計画書()。, 本件利用者名簿の一部をコピーしたものを所持していた 被告両名は,。, 面談の後すぐに これら一覧表や訪問介護計画書をすべて破棄した また被告両名及びGは,今回の件を理由として,平成16年の夏季ボーナスは支給しないと告知された。 カ 被告Bは,前記6月17日の面談の際に,被告Bが担当していた利用者の1名が,被告Bの退社に伴ってヘルパーも来なくなってしまうのではないかと不安を抱き,原告に問い合わせをしてきた旨を聞かされた。そのため,被告Bは,翌18日,この利用者に連絡を取り,説明不足で無用の心配をかけたことを詫びた上で,被告Bが退社した後も,原告が責任を持って訪問介護サービスを継続することを説明した。 被告両名は,平成16年6月18日,前日の原告代表者との約束に従って,勧誘をしたヘルパーに連絡を取り,被告会社にも登録してもらうということをお願いすることができなくなった事情を説明し,被告会社への重複登録の勧誘を撤回した。ヘルパーの中には,被告会社への登録を強く希,, 。 望する者もいたものの 被告両名は 勧誘の撤回を伝えるだけにとどめた,, , キ 一方 原告代表者は 前記6月17日の面談結果は信用できないと思い平成16年6月18日,被告両名の担当する利用者だけでなく,原告のすべての利用者に対し,また,原告の登録ヘルパーやケアマネージャーに対しても,被告両名が,一部の利用者に対して,原告についての虚偽の風説を流し,原告との契約を打ち切り,被告両名と直接介護契約をするよう強要したという苦情があったところ,調査の結果,苦情通りの事実関係が確認されたこと,及び,被告両名の行為は,原告に対する競業避止義務に反するのみならず,業務妨害罪に該当し,不正競争防止法にも該当する旨の文書を郵送した(甲1の1・2,2,3。また,被告両名が原告の正社 )員でありながら,平成16年6月10日ころから,原告に所属するヘルパーの引き抜きを図り,さらに原告の顧客に対して 「今サービスしている ,ヘルパーは7月から新規事業所へ移転するので,原告に残るヘルパーは質の悪いヘルパーばかりとなる 」などと虚偽の風説を流布し,顧客の引き 。 抜きを図っていること,及び,被告両名の上記行為は,原告に対する競業避止義務(就業規則25条)に反するのみならず,刑法上業務妨害罪に該当する違法な行為であることは明らかである旨を記載した警告書を送付した(甲4,5の1・2 。この手紙に接し,かえって原告に不信感や不快 )感を抱く利用者やヘルパーもいた。 被告Bは,平成16年6月30日,原告代表者から 「今後,営業活動,をしない 」というような内容の誓約書に署名することを求められた。し 。 かし,被告Bは,被告Aと相談する必要があるとして,その場での署名を拒絶した。そして,被告Aは原告代表者に対し 「通常の流れでケアマネ ,ージャーから依頼があった場合には,東京都指定訪問介護事業所として断るわけにはいかないので,その一文を付け加えてもらえれば,誓約書に署名する 」と応えたところ,結局,誓約書作成には至らなかった。 。 被告両名は,予定どおり,同年6月末日で原告を退職した。同年7月以降,被告両名の後任のサービス提供責任者がいたものの,ヘルパーの派遣の段取り,仕事上のトラブルの処置やヘルパーへの気遣い等について,不満を抱くヘルパーや利用者も現れた。 ク 被告両名及びGは,平成16年7月1日,被告会社の営む「ぷちとまと☆けあ」の事業を開始した。そして,同年7月,原告に登録する2人のヘルパーが被告会社に重複登録した。そのうちの1人は,別紙被害一覧の番号3の利用者の強い希望による登録であり(後記ケ参照 ,もう1人は,)同年7月2日に被告会社への登録を強く希望してきたという事情によるものである。さらに,同年8月,原告に登録する3人のヘルパーが,同年9月,同じく2人のヘルパーがいずれも自主的に被告会社に重複登録した。 また,同年8月,2人のヘルパーが原告への登録を抹消して被告会社に登録した。結局,平成17年3月現在,原告の登録ヘルパーのうち11名が原告と被告会社に重複登録し(うち3名は,その後,原告への登録を抹消した ,また,うち4名が被告会社に登録替えをした。一方,このほか 。),,() 。 に 原告とは無関係のヘルパーが合計10名 被告会社に登録した 乙3Iヘルパーは,平成16年6月半ば以降は被告両名から勧誘されなかったものの,同年8月から被告会社にヘルパー登録した。そして,Iの担当していた利用者について,Iに連絡することなく,別のヘルパーを充てようとする動きが原告であったことを契機に,同年9月いっぱいで,原告への登録を抹消した。なお,Iが担当していた利用者約15名のうち,約半数は被告会社に契約を切り替えた。 ケ 原告は,平成16年6月末日現在,139名の介護サービス利用者(契約者)を有していたところ,うち14名(別紙被害一覧の番号3,10ないし12,14,16,20,22,25,28,30,33,36,38)が同年7月末日までに被告会社に契約を切り替え,結局,平成16年11月までに,原告と契約していた利用者のうち33名(別紙被害一覧の番号1ないし7,10ないし12,14ないし20,22ないし31,33ないし38)が,被告会社と契約した。原告から被告会社に平成16年7月末日までに契約替えした利用者をみると,別紙被害一覧の番号3と12のほかは,被告両名及びGのいずれかが原告在職当時にヘルパーとして関与していた利用者である(乙2 。また,別紙被害一覧の番号2の利用 )者は,しばしば介護拒否を起こす利用者で,親族も仕事を抱えていることから,同じヘルパーを派遣してもらいたいという強い希望を持っていた者であり,原告が同じヘルパーを派遣できないというので,サービス提供責任者(コーディネーター)として関与していた被告Bに利用者側から相談して,同じヘルパーの派遣を要請し,新たにケアマネージャーとなったJが,かかる意向を受けて被告会社との契約に至ったというものである(甲24,乙7 。)( ) 原告は,前記( )認定事実のほかにも,被告両名が原告の利用者を奪取す 21るために様々な行為を行った旨主張する。しかし,次に述べるとおり,原告の各主張を認めるに足りる証拠はない。 ア 原告は,被告両名が原告の登録ヘルパーに対して被告会社の説明会を開催した旨,原告へのヘルパー登録を取り消して被告両名に登録するよう勧誘した旨主張する。しかし,前記認定のとおり,被告両名は,多人数のヘルパーを同じ日時に集めて被告会社の事業所について説明をするという意味での説明会を開催したわけではないし,また,一部のヘルパーに対し,原告に加えて被告会社にも重複登録することを勧誘したにとどまる(被告両名から被告会社への訪問を誘われ,実際に訪問したものの被告会社への登録を行わなかった証人Cでさえも,被告会社への重複登録を勧誘されたにすぎず,原告への登録を抹消するよう言われたことはなかった旨証言するところである(C証人調書20頁 。被告両名が原告への登録を抹消 )。)することをも勧めたことを認めるに足りる証拠はない。 イ 原告は,被告両名が原告の登録ヘルパーに対し,その担当する利用者について,被告会社との契約に切り替えるような働きかけを依頼した旨主張し,原告代表者は,原告には質の悪いヘルパーしか残らないと言って登録ヘルパーが契約切替えを勧めてきたとの話を利用者から聞いた旨供述する(原告代表者本人調書10,11,21,22頁 。しかし,原告代表者 )は,被告両名の思いを受け止めたFヘルパーが上記発言をしたのではないかと自らの供述が推測に基づくものであることを認めている(同調書28頁 。そして,被告両名から被告会社への訪問を誘われ,実際に訪問した )ものの被告会社への登録を行わなかった証人Cも,利用者に契約切替えの働きかけをするよう言われたことはなかった旨証言するのである(C証人調書20頁 。したがって,原告代表者の上記供述では,前記主張を認め )るには足りず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 ウ 原告は,被告両名が,平成16年5,6月ころ,利用者に対し,現在のヘルパーは被告会社に移籍することになっており,この結果,原告に残るのは質の悪いヘルパーとなってサービスが低下するなどと述べたり,あるいは,ヘルパーをしてその旨言わしめた旨主張する。原告代表者は,被告両名は,同年6月15日ころ,Fヘルパーを通じて,利用者Kに対し,ヘルパーの質の低下を告知した旨供述する(原告代表者本人調書27,28)。, , , 頁 しかし 前記イのとおり この供述は推測の域を出ないのであって被告らが上記告知を行わしめたことを認めるには足りず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。 エ 原告は,被告両名が,平成16年5,6月ころ,一部の利用者に対し,原告代表者には愛人がいて信用できないなどと原告代表者を誹謗中傷する発言をしたり,あるいは,ヘルパーをしてその旨言わしめた旨主張する。 しかし,証人Cの証言及び被告B本人尋問の結果によれば,Cが平成16年6月に被告会社の事業所を訪問した際に,被告Bが原告代表者は公私混同をしているのではないかという話をしたことは認められるものの,それ以上の話をしたことを認めるに足りる証拠はなく,前記原告の主張を認めることはできない。 オ 原告は,被告両名が,原告を退職する以前に,その担当する利用者に対し,被告会社との契約に切り替えなければ担当ヘルパーが交替となるなどと述べた旨主張する。しかし,これを認めるに足りる証拠はない。 カ 原告は,被告両名が,特定のケアマネージャーと結託して,被告会社への契約切替えを行わせた旨主張する。この点,乙2によれば,原告から被告会社に契約替えとなった33名のうち,10名は,同一のケアマネージャーが担当していたことが認められ,乙9によれば,被告Bがこのケアマネージャーから仕事ぶりを評価されていたので,新規の利用者を紹介してもらうことも少なくなかったことが認められる。しかし,このような事実から,このケアマネージャーがケアマネージャーの権限を濫用して契約切替えを行わせたことを認めることは到底できず,他に原告の上記主張事実を認めるに足りる証拠はない。 ( ) 前記( )認定事実を前提に,被告両名の行為が不法行為に該当するか否か 31を判断する。 ア 被告両名は,原告と競業関係に立つ事業を,原告と同一の地域で始めることを計画し,かかる計画を原告代表者に秘して,原告在職中から,その準備に着手している。とりわけ,原告の登録ヘルパーに個別に連絡して,被告会社の事業所を見学させて,原告と被告会社に重複登録するように勧誘している。このような勧誘活動は,原告在職中に行われており,被告B,。 が有給休暇を取得していたことを考慮しても 問題性のある行為といえるしかし,その勧誘活動の内容をみると,原告と被告会社に重複登録することを求めたにとどまり,原告への登録を抹消することを求めたり,あるいは,原告の利用者に対し被告会社への契約替えを勧めるよう働きかけたりしたものではない。また,被告両名は,原告での職務遂行を通じて知り合った原告の登録ヘルパーに対し勧誘を行っているにすぎず,被告両名と仕事上の関係の全くない登録ヘルパーに対し幅広く勧誘を行ったりとか,被告両名が通常の業務遂行の過程においては知り得ないような情報を用いて勧誘を行ったといった事情はない。さらに,被告両名は,上記勧誘行為が原告代表者に発覚して原告代表者と面談した後は,被告会社の事業所を見学させることを停止し,既に勧誘した登録ヘルパーに対しては重複登録の勧誘を撤回する旨を連絡している。 このような登録ヘルパーに対する勧誘の時期,内容,原告代表者との面談後に被告両名が講じた措置を考慮すると,原告の登録ヘルパーに対する被告両名の働きかけは,一連の行為を全体として評価すれば,正当な競争秩序の枠を超えるものとまではいえないというべきである。 イ 被告両名は,前記認定のとおり,担当する利用者の一部に対し,原告を退社することになった旨挨拶をしており,その際,被告両名による介護サービスの提供の継続を希望する者にはケアマネージャーと相談することを勧めている。しかし,退社時に自ら担当していた顧客に対し,単に退社の挨拶を行うことは,継続的に関係を有していた利用者に対する行為として社会通念上も許容されるところである。そして,前記認定事実によれば,退社の挨拶に際し,被告両名が積極的に新規事業の立ち上げの説明及びそれへの利用者の勧誘を行ったという事情はない。したがって,被告両名の行為は,社会通念上許される退社の挨拶の域を超えないものというべきである。 ところで,原告は,介護サービスの提供において,継続的に派遣されていたヘルパーの交替が示唆されれば,当該ヘルパーの派遣の継続を望む利用者は,そのために必要な措置,すなわち,ケアマネージャーに対し当該ヘルパーの派遣の継続を可能とするような事業所の紹介・あっせんを希望するという措置を講じざるを得ないのであって,かかる利用者の行為を誘発する被告両名の行為は,許されるものではないと主張する。確かに,継続的に派遣されていたヘルパーが他の事業所に移籍した場合には,当該ヘルパーの派遣の継続を最優先する利用者が,当該事業所の属するサービス。, 事業者に契約替えするということは十分にあり得るところである しかし介護サービスが,利用者と実際にサービスを提供するヘルパーとの間の人的信頼関係に基づいて提供されるものであり,契約当事者であるサービス事業者の提供するサービス内容は結局のところ個々のヘルパーの提供するサービス次第といえるものであることからすれば,従前のヘルパーの派遣を強く望む利用者が,そのために,契約の相手方であるサービス事業者を変更するということは無理からぬところがある。本件においては,そもそも被告両名が退職挨拶と性質を異にする被告会社の宣伝・勧誘を行ったわけではないし,契約替えの原因をみても,被告両名のいずれか又はGがヘルパーとして派遣されていた利用者について継続的利用を希望する者が多かったものと推認されること,原告が全利用者に対し被告両名を名指しで批判する文書を送付したことによって,原告の内部に紛争があることを周知してしまい,かえってサービス事業者としての原告の評判をおとしめてしまった面が影響していること,サービス提供責任者4名のうち3名が退職したという状況の下で,ヘルパーの派遣や苦情処理など介護サービス提供に関する様々な事項について原告の提供するサービスが従前とは異なったものとなったこと等の要因が作用しており,利用者の移籍は,被告両名の行った退職挨拶を決定的な要因として行われたということはできない。 ,,, したがって 原告の上記主張は採用できず 被告両名の行った退社挨拶は社会通念上許される退社の挨拶の域を超えないものというべきである。 ウ 本件では,数か月のうちに,原告から被告会社に対し,少なからぬヘルパー及び利用者の移動が生じている。しかし,ヘルパーは,いずれの事業所に登録するか決定する自由を有しており,前記認定事実のもとでは,かかるヘルパーの意思決定に対し,被告らが不当な働きかけを行ったものとはいえないし,原告が平成16年6月18日にヘルパーに送付した文書や被告両名の退職後の原告におけるヘルパーへの接し方等を考慮すれば,ヘルパーが専ら原告に損害を加える目的で被告会社に登録したものともいえない。また,ヘルパーの移籍に伴って利用者の契約替えが生じることは致し方ない面があることは既に述べたとおりである。とりわけ,被告会社が事業を開始した平成16年7月に契約替えした利用者のほぼ全員は,被告両名が原告在籍当時に担当していた者であり,前記イのとおり,これらの者に被告両名が不当な働きかけをしたとはいえないことを考慮すれば,被告両名による介護サービスの提供の継続を望む利用者が契約替えを行うのは介護サービスの実情を考慮すれば致し方ないところであり,また,被告両名がかかる契約替えをある程度当てにして新規事業を立ち上げることは,社会通念上許される退社の挨拶の域を超えない限り,やむを得ないところである。 エ 被告両名は,雇用契約上,職務上知り得た利用者及びその家族についての情報を退職後も口外しない秘密保持義務を負担していた。しかし,かかる義務は,利用者及びその家族のプライバシー保護を目的とした定めであると解するのが相当であって,かかる義務を負うことから,直ちに一般的な競業避止義務を導くことはできない。そして,本件においては,被告らは,原告の利用者全般に対し,広く勧誘行為を行ったわけではないのであるから,その行為について秘密保持義務違反があったものということはできない。 オ 以上述べた各点を総合的に考慮すれば,被告らの一連の行為は,正当な競争秩序の枠を超える違法な行為とはいえないというべきである。 したがって,その余の点について判断するまでもなく,不法行為を原因とする請求は理由がない。 3結論よって,原告の請求はその余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないのでこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |