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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成16ワ18090不正競争行為差止等請求事件 判例 不正競争防止法
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平成28ワ11379 ドメイン名使用差止請求権不存在確認請求事件 判例 不正競争防止法
平成16ネ3846損害賠償請求控訴事件 判例 不正競争防止法
関連ワード 周知表示混同惹起行為(2条1項1号) /  周知性 /  商標登録 /  登録商標 /  信義則 /  商品等表示 /  類似性(類似) /  外観 /  呼称 /  観念 /  混同のおそれ(混同) /  誤認混同 /  差止請求(差止) /  営業上の利益 /  権利濫用(権利の濫用) /  侵害 /  著名表示(著名性) /  代理人 /  代表者 /  類似商標 /  識別力 /  混同のおそれ(混同) /  品質等誤認表示(誤認) /  損害賠償 /  損害額 / 
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事件 平成 17年 (ネ) 3088号 損害賠償等請求控訴事件
控訴人・被控訴人(1審原告)A (以下「1審原告」という。)
同 訴訟代理人弁護 士畑郁夫
同 茂木鉄平
同 岡田さなゑ
同 細野真史
控訴人・被控訴人(1審被告)B (以下「1審被告」という。)
同 訴訟代理人弁護 士中村仁
同 奥田克彦
同 畑中潤
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2006/09/20
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 11審原告の本件控訴(当審における追加的新請求を含む。)に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1)1審原告が華道専正池坊及び日本礼道小笠原流の家元たる地位にあることを確認する。
(2)1審被告は,華道の普及その他これに関連する一切の事業活動において,「華道専正池坊」,「専正池坊」,「華道専正」,「専正」及び「ロイヤルフラワーアレンジメント」の各名称並びに別紙標章目録記載1ないし3の各標章を使用してはならない。
(3)1審被告は,煎茶の普及その他これに関連する一切の事業活動において,「日本礼道小笠原流」の名称を使用してはならない。
2(4)1審被告は,茶道の教授に際し,その名称中に「日本礼道小笠原流」との標章を使用してはならない。
(5)1審被告は,1審原告に対し,300万円及びこれに対する平成16年1月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6)1審原告のその余の請求を棄却する。
21審被告の本件控訴を棄却する。
3訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを5分し,その1を1審原告の負担とし,その余を1審被告の負担とする。
4この判決は,第1項(2)ないし(5)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
第1当事者の申立て1控訴の趣旨(1審原告)(1)原判決を次のとおり変更する。
(2)主文第1項(1)同旨(当審における追加的新請求)(3)同(2)同旨(4)同(3)同旨(5)同(4)同旨(当審における追加的新請求)(6)1審被告は,1審原告に対し,1000万円及びこれに対する平成16年1月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(7)訴訟費用は,第1,2審を通じ1審被告の負担とする。
(8)上記(3)ないし(6)につき仮執行宣言2控訴の趣旨(1審被告)(1)原判決中,1審被告敗訴部分を取り消す。
(2)1審原告の請求(当審における追加的新請求を含む。)をいずれも棄却する。
(3)訴訟費用は,第1,2審を通じ1審原告の負担とする。
3第2事案の概要1事案の要旨本件は,華道の流派である「華道専正池坊」及び煎茶道の流派である「日本礼道小笠原流」(以下,両流派を併せて「本件流派」という。)の四代目家元の1審原告が,1審被告に対し,1審被告が本件流派の五代目家元と称し,本件流派の名称等を使用しているとして,@不正競争防止法(2条1項1号,2号,3条1項。以下,同じ。)又は人格権に基づき本件流派の名称等の使用の差止め,A商標権に基づき別紙標章目録記載1ないし3の各標章の使用の差止め,B不法行為(不正競争行為又は人格権侵害及び商標権侵害)に基づき損害賠償1000万円及びこれに対する平成16年1月17日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審は,1審原告の請求を一部認容(@不正競争防止法に基づく,華道の普及その他これに関連する一切の事業活動における「ロイヤルフラワーアレンジメント」の名称の使用差止め,A商標権に基づく,生け花の教授,造花の教授,花の展示会の企画・運営又は開催における別紙標章目録記載2,3の各標章の使用差止め,B不法行為〈上記不正競争行為及び商標権侵害〉に基づく,損害賠償300万円及びこれに対する上記遅延損害金の支払を求める限度で認容)したため,1審原告及び1審被告の双方が,各敗訴部分について,それぞれ本件控訴を提起し,さらに,1審原告は,当審において,1審原告が本件流派の家元であることの確認請求及び商標権に基づく「日本礼道小笠原流」との標章の使用差止請求を追加した。
2前提事実(末尾に証拠を掲記した事実以外は,当事者間に争いがない。)(1)本件流派「華道専正池坊」は,昭和5年3月1日,華道の流派である「池坊」の当時の華務課長であったCによって,「池坊」から分派する形で創流された華4道の流派である。
「日本礼道小笠原流」は,「華道専正池坊」と一体として運営されている煎茶道の流派である。(甲1,65,乙3,9)(2)本件流派の家元ア本件流派の家元は,初代はCが就任し,昭和25年5月30日に同人が死亡した後は,Cの孫であるDが跡を継いで二代目家元になった。(甲1)イ昭和47年1月14日,Dは本件流派の総裁になり,その妻であるEが三代目家元になった。(甲1,65)ウ平成15年1月1日,Eは本件流派の会長になり,DとEの長女である1審原告が四代目家元になった。(甲3の1,甲65)(3)本件流派の活動ア本件流派は,家元制度をとり,一定の技能を有する会員に家元名義の免状を交付して教授の名を付与し,教授になった者に生徒の稽古をさせている。そして,免状を交付された教授のうち技能の優れた者が講師となり,全国各地で講習会を行うことなどにより,華道及び煎茶道の技能の普及,発展を図っている。
本件流派には,全国各地に約100の支部があり,約2万人の教授者,生徒等の会員がいる。そして,本件流派の支部及び会員の多くは,中国・九州地方に集中している。(甲7,8,65,乙29,32)イ本件流派のうち「華道専正池坊」においては,毎年1月中旬,各地の支部長及び講師らが出席して,全国代表者会議が行われるのが恒例であり,同会議において1年間の方針,行事及び日程等が話し合われる。また,「日本礼道小笠原流」においては,毎年1回,各地の支部長らが出席して全国支部長会議が行われ,1年間の方針,行事及び日程等が話し合われる。
(甲1,44,乙22)5ウ「華道専正池坊」は,昭和8年8月から,「大道」という名称の機関誌の発行を開始し,昭和18年12月,戦局急迫により廃刊したが,昭和26年1月からは,名称を「花泉」に変更して機関誌の発行を再開した。同機関誌は,現在まで継続して発行されており,7000名以上の購読者がいる。(甲1,7,65)(4)本件流派の事務局及び専正華道協会本件流派は,免状の申請代(以下「免状発行料」ともいう。),年会費,教本や機関誌の出版収入等により運営が成り立っている。そして,免状の発行,機関誌等の出版及び金銭の管理等の事務手続は,華道専正池坊華務局(通常の組織でいう事務局のことであり,昭和38年までは「華務課」,以後は「華務局」と呼称している。),日本礼道小笠原流事務局(以下,両者を併せて「本件事務局」という。)及び財団法人専正華道協会(昭和33年設立。以下「専正華道協会」という。)によって行われている。(甲1,65,乙4,乙5の1〜3,乙35)(5)本件事務局の事務局長及び専正華道協会の理事長アCの娘婿のFが,本件事務局のトップである初代華務課長になり,昭和34年6月3日に同人が死亡した後は,同人の息子のGが,その後を引き継ぎ,華務局に改称後の昭和38年以降,事務局長になった。そして,遅くとも平成7年ころには,Gの息子の1審被告が後任の事務局長になった(以下,本件事務局の事務局長を「本件事務局長」という。)。(甲1,65)イ専正華道協会の当初の理事長はGであったが,平成14年8月27日に同人が死亡した後は,1審被告が理事長に就任している。(Gの死亡日につき乙39の1・2,乙40〜44,46)(6)1審原告は,以下の商標権(以下,その登録商標を「本件登録商標1」,「本件登録商標2」,「本件登録商標3」,「本件登録商標4」といい,こ6れらを一括する場合等には,「本件登録商標1ないし3」,「本件登録商標2,3」,「本件登録商標1ないし4」などという。)を有している。(甲46〜48の各1・2,甲82)ア本件登録商標1登 録 番 号第4392479号出願年月日平成10年11月25日登録年月日平成12年6月16日指 定 役 務第41類生け花の教授,造花の教授,花の展示会の企画・運営又は開催登 録 商 標別紙標章目録記載1のとおりイ本件登録商標2登 録 番 号第4447345号出願年月日平成10年12月2日登録年月日平成13年1月19日指 定 役 務第41類生け花の教授,造花の教授,花の展示会の企画・運営又は開催登 録 商 標別紙標章目録記載2のとおりウ本件登録商標3登 録 番 号第4447344号出願年月日平成10年12月2日登録年月日平成13年1月19日指 定 役 務第41類生け花の教授,造花の教授,花の展示会の企画・運営又は開催7登 録 商 標別紙標章目録記載3のとおりエ本件登録商標4登 録 番 号第4926436号出願年月日平成15年3月10日登録年月日平成18年2月3日指 定 役 務第41類茶道の教授登 録 商 標別紙標章目録記載4のとおり3争点(1)1審原告は本件流派の家元たる地位にあるか。
(2)1審被告は不正競争行為を行っているか。
(3)1審被告は人格権侵害行為を行っているか。
(4)1審被告は商標権侵害行為を行っているか。
(5)1審被告が本件流派の名称等を使用する権限を有するか。
(6)1審原告による本件差止請求権利の濫用であるか。
(7)1審原告の損害4争点に関する当事者の主張(1)争点(1)(1審原告は本件流派の家元たる地位にあるか。)について【1審原告の主張】ア本件流派においては,家元の継承(選任方法)について何らの成文の規則や多数決の原理などを導入しておらず,初代家元であるCから二代家元であるDへの継承については,Cが孫の一人であるDを戸籍上実子としたことによって二代目家元就任の指名がされていたのであり,二代目以降は,先代の家元が次の家元を直接選任(指名)している。そして,1審原告は,平成15年1月1日,本件流派の三代目家元であるEから家元たる地位を承継し,本件流派の四代目家元たる地位に就任した。
8ところが,本件事務局長であった1審被告は,同年12月5日,突如として「専正池坊緊急役員会」なる会合を開き,同会において,実際には本件流派の家元を辞任していない1審原告について辞任決議を行った挙句,四代目家元たる1審原告に対し何らの了解を得ることのないまま,自らを本件流派の五代目家元に選出させた。そして,1審被告は,1審原告は本件流派の「前家元」であり,現在は「家元」ではないなどと主張して,1審原告が本件流派の家元たる地位にあることを争っている。
上記のとおり,1審被告の家元就任は,1審原告の四代目家元辞任を前提とするものであるが,1審原告は,1審被告の本件事務局長の地位を解任し,本件事務局を北九州市小倉北区から1審原告の居住地である神戸市に移すと述べただけであり,辞任の意思表示をしたことはないから,上記会合における家元選出(1審被告の五代目家元就任)は,その前提を欠くものであって無効である。
イ家元制度を採用する流派における「家元」は,対内的には流派を統率する権限を有し,対外的には流派を代表する権限を有するのであるから,家元たる地位は法律上の地位である。
ウよって,1審原告は,1審被告に対し,1審原告が本件流派の家元たる地位にあることの確認を求める。
【1審被告の主張】ア1審原告は,平成15年11月に自らの意思で,本件流派を離れ独立しているので「前家元」である。一方,1審被告は,同年12月5日,緊急役員会で,本件流派の五代目家元に選任された。
イ本件流派の家元と本件事務局長の関係は特殊であり,一般の流派とは大幅に異なっている。すなわち,本件流派の家元は二代目以降1審原告に至るまで経理を中心とする本件流派の運営を本件事務局に任せきりであり,家元は名目的存在にすぎなくなっていた。
9ウ上記のとおり1審被告は,本件流派の五代目家元に選出されており,本件流派を去った1審原告こそが家元を僭称しているのである。
(2)争点(2)(1審被告は不正競争行為を行っているか。)について【1審原告の主張】ア1審原告の事業表示1審原告は,「華道専正池坊」の家元として,華道の教授,普及その他の活動を行っているところ,その事業活動を表示する名称として,「華道専正池坊」という正式名称のほか,「華道専正」及び「専正池坊」との省略名称も使用し,また,「ロイヤルフラワーアレンジメント」という名称を用いて花形(花型)の指導などを行っている(以下,これらの名称を併せて「本件華道事業表示」という。)。
また,1審原告は,「日本礼道小笠原流」の家元として,煎茶道の教授,普及その他の活動を行っているところ,その事業活動を表示する名称として,「日本礼道小笠原流」という名称を使用している(以下「本件茶道事業表示」という。)。
イ1審被告の事業表示1審被告は,平成15年12月5日ころから,本件流派の五代目家元と称して華道及び煎茶道の教授,普及その他の活動を行いつつあり,その活動において,「華道専正池坊」,「華道専正」,「専正池坊」及び「ロイヤルフラワーアレンジメント」並びに「日本礼道小笠原流」の各名称を使用している。
また,華道で「専正」といえば「華道専正池坊」のことであるから,「華道専正池坊」の名称の中で「専正」という部分は,他流との識別機能の面で要部といえる。したがって,1審被告が,華道の普及活動において,「専正」という名称を使用するおそれも極めて高い。
ウ1審原告の本件華道事業表示が著名又は周知であること101審原告の本件華道事業表示は,遅くとも平成3年2月(雑誌CLASSYで2回目の連載が始まった時期)には,1審原告の華道の教授,普及その他の活動の表示として著名となり,あるいは,少なくとも華道をたしなむ者の間で周知となった。そして,その後も,以下のとおり,著名性及び周知性は維持されている。
(ア)1審原告は,平成7年5月,NHKの全国放送に出演し,平成11年1月7日から平成13年6月15日までの間は,NHK大阪放送局に出演した。
(イ)1審原告の執筆した記事が,平成13年3月31日から平成15年3月1日までの間,日本経済新聞に連載されている。また,E及び1審原告は,取材を受けることが度々あり,その記事が新聞に掲載された。
(ウ)三代目家元のころから,「華道専正池坊」に関する記事が,各有名雑誌に頻繁に掲載された。
(エ)Eは,「華道専正池坊」の教える生け花についての書籍を精力的に出版した。
(オ)Eは,その業績により,勲五等瑞宝章を受章した。
(カ)「華道専正池坊」は,NHK神戸文化センターで講座を開いている。
エ1審原告の本件茶道事業表示が著名又は周知であること1審原告の本件茶道事業表示は,遅くとも昭和53年11月(「日本礼道小笠原流」の教本上下巻が市販された時期)には,1審原告の煎茶道の教授,普及その他の活動の表示として著名となり,あるいは,少なくとも煎茶道をたしなむ者の間で周知になった。そして,その後も,以下のような活動を通じて,著名性周知性は維持されている。
(ア)「日本礼道小笠原流」においては,昭和46年ころから,教授者のために全国規模の講演会を行い,また,研究会を年2回,家元茶会を年111回,全国茶会を年1回,黄檗山万福寺における全日本煎茶道連盟の茶会を年1回行っている。これらは,Eの発案により,1審原告が中心となって行っているものである。
(イ)1審原告は,平成12年4月26日,NHK大阪放送局に出演した。
(ウ)1審原告の執筆した記事が,平成13年3月31日から平成15年3月1日までの間,日本経済新聞に連載された。また,E及び1審原告は,取材を受けることが度々あり,その記事が新聞に掲載された。
(エ)三代目家元のころから,「日本礼道小笠原流」に関する記事が,各有名雑誌に頻繁に掲載された。
(オ)Eは,「日本礼道小笠原流」の教える煎茶道の書籍を精力的に出版した。
(カ)Eは,その業績により,藍綬褒章及び勲五等瑞宝章を受章した。
(キ)「日本礼道小笠原流」は,NHK神戸文化センターで講座を開いている。
誤認混同及び1審原告の営業上の利益が害され,又は害されるおそれがあること1審被告が使用し又は使用するおそれのある前記イの各事業表示は,1審原告の事業表示(本件華道事業表示及び本件茶道事業表示)と同一又は類似する。また,1審被告がかつて本件事務局長であったことからすると,1審被告が上記の各事業表示を使用することにより,本件流派の会員及び関係者が,1審被告を本件流派の家元と誤認混同することは多言を要しない。
そして,1審被告は,本件流派の生徒や指導陣に対し,本件流派の五代目家元と称して,積極的に1審被告が本件流派の正統な家元であるかのような働きかけをしている。実際,本件流派の生徒や指導陣の中には大きな12混乱が生じており,1審原告の営業上の利益が害され,また,今後も害されるおそれがあることは明らかである。
【1審被告の主張】上記【1審原告の主張】を争う。後記(3),(6)【1審被告の主張】のとおり,本件流派の運営は,本件事務局が専属的に行ってきたものであり,本件流派における二代目以降の家元は,本件流派の実技を学んだことはなく,伝統的花形(花型)を生けることも指導することもできない名目的な存在にすぎず,本件事務局の作成したスケジュールに基づいて行動してきただけである。本件流派の事業活動の主体は,本件事務局長である1審被告であり,1審原告は,本件流派を統率する存在でもなければ,本件流派の発展に貢献したものでもなく,何らの権限のない存在でしかなかった。
(3)争点(3)(1審被告は人格権侵害行為を行っているか。)について【1審原告の主張】ア本件流派は,創流当時より,日本の伝統的な制度である家元制度によって成り立っており,代々家元が本件流派を統率し,華道及び煎茶道の教授,普及その他の活動を行ってきた。1審原告も,四代目家元に就任して以来,家元としてその活動を行っているものである。
イ1審被告は,専正華道会館の補修資金名目で,「華道専正池坊」の教授らから,合計1億0200万円を借り入れたが,専正華道会館にその金額に見合った補修は見当たらない。それどころか,1審被告は,借入金のうち5000万円を株式投資等に流用し,残りを銀行からの借入金の返済等に充てていた。1審原告は,平成15年10月ころ,この事実を知り,1審被告に対し,同年11月10日,口頭で本件事務局長の地位を解任する旨の意思表示をした。なお,この解任は,同年12月5日付けの内容証明郵便(同月7日に1審被告に到達)で再確認されている。
ウところが,1審被告は,上記解任の事実を認めず,平成15年12月513日,専正華道会館において,1審原告に無断で「専正池坊緊急役員会」なる会合を開き,1審原告が四代目家元を辞任したとして,自らが,本件流派の五代目家元であると称するに至った。
エしかし,四代目家元である1審原告は家元を辞任しておらず,また,その地位を五代目家元と称する1審被告に承継した事実もない。
1審被告は,単に,本件事務局長であったにすぎず,本件流派の家元を称することはもちろん,本件事務局長の地位を解任された以上は,本件流派の名称たる「華道専正池坊」,「華道専正」,「専正池坊」,「専正」及び「日本礼道小笠原流」の各名称を使用する権限を全く有しない。
オ1審被告が本件流派の家元と称していることにより,全国に2万人ほどいる本件流派の生徒や指導陣等の関係者,その他華道・煎茶道をたしなむ者の間に,あたかも1審被告が本件流派の正統な家元であるかのような誤解が生じ,混乱及び動揺が起きている。1審原告は,家元の正統性をいたく傷つけられ,ひいては人格権を害され,名誉と信用を著しく毀損されている。そして,1審原告の損害は金員の支払のみでは回復し難く,1審原告の救済には,1審被告の上記人格権侵害行為の差止めが不可欠である。
【1審被告の主張】ア1審原告は,平成15年11月,自らの意思で本件流派を離れて独立した。
イ本件流派の家元に関しては,初代家元のCと二代目以降の家元とは性格を異にする。Cは,本件流派の創流者であり,名実ともにカリスマ的指導者であったが,二代目以降の家元は名目的存在である。したがって,本件流派を家元が統率していたのは初代に限られ,二代目以降の家元が本件流派を統率した事実はない。本件流派の運営は,本件事務局が専属的に行ってきたのであり,二代目以降の家元は,本件事務局の作成したスケジュールに基づいて行動してきただけである。
14ウ1審被告は,平成15年12月5日,緊急役員会で,本件流派の五代目家元に選任された。
エ1審原告は,本件流派の会計に疑義があると主張するが,全く根拠のないものである。また,1審原告に1審被告の本件事務局長の地位を解任する権限などあり得ない。
オ本件流派の会員は,1審原告の乱心ともいえる行動に心を痛めているが,これまでの経緯を理解する会員の方が多く,1審原告の分派活動に賛同する教授者,会員等は少数に止まっている。
(4)争点(4)(1審被告は商標権侵害行為を行っているか。)について【1審原告の主張】ア別紙標章目録記載1ないし3の各標章(以下「本件標章1」,「本件標章2」,「本件標章3」といい,これらを一括する場合等には,「本件標章1ないし3」,「本件標章1,2」などという。)1審被告は,1審原告が平成15年12月8日をもって本件事務局を神戸に移転した前後から本件流派の五代目家元を僭称しており,現在に至るまでその活動を継続し,生け花の教授その他の場面において,本件標章1,2を使用し,本件流派家元名義の免状に本件標章3を使用している。
1審被告が使用している本件標章1ないし3は,本件登録商標1ないし3と同一であり,1審被告が行う役務は,本件登録商標1ないし3の指定役務と同一であるから,1審被告による本件標章1ないし3の使用行為は,本件登録商標1ないし3に係る1審原告の商標権を侵害するものとして差止請求の対象となる。
また,華道で「専正」といえば本件流派(華道専正池坊)のことであるから,「専正」も本件登録商標1の類似商標として,1審被告によるその使用行為は,本件登録商標1に係る1審原告の商標権を侵害するものとして差止請求の対象となる。
15イ「日本礼道小笠原流」との標章上記アと同様に,1審被告は,茶道の教授に際し,本件流派名の一つである「日本礼道小笠原流」との標章を使用しているものと考えられる。また,仮に,同標章が使用されていないとしても,本件流派の五代目家元を僭称する1審被告が将来これを使用するおそれは極めて高い。
ところで,本件登録商標4(日本礼道小笠原流煎茶宗家)のうち,「煎茶」は「葉茶を湯で煎じ出すこと。また,その飲料。その葉茶。」を意味する普通名詞であり,「宗家」は「宗主たる家。本家。家元。」を意味する普通名詞であって,いずれも格別の自他識別力を有するものではない。
そうすると,本件登録商標4の要部は「日本礼道小笠原流」という文字部分であるというべきところ,当該要部と1審被告が現に使用し又は使用するおそれがある「日本礼道小笠原流」との標章は,そのいずれもが,「ニホンレイドウオガサワラリュウ」という同一称呼を有していることに加え,需用者をして「ある分野に関する流派の名称」という同一の観念を生じさせるものであるから,同標章及び本件登録商標4が全体として類似することは明らかである。
したがって,1審被告による「日本礼道小笠原流」との標章の使用行為は,本件登録商標4に係る1審原告の商標権を侵害するものとして差止請求の対象となる。
【1審被告の主張】ア本件登録商標1ないし3は,いずれも本件流派の関係者に何の相談もなく登録されたものである。それらはいずれも,C(初代家元)に端を発するものであり,本来1審原告が独占すべきものではない。
1審原告の商標権に基づく請求は,後記(6)【1審被告の主張】のとおり,明らかな権利濫用である。
イ上記【1審原告の主張】イについては争う。原審口頭弁論終結(平成1167年7月21日)後に,1審原告が本件登録商標4を登録したからといって,1審原告と1審被告の関係に新たな変動を生じさせるものではない。
(5)争点(5)(1審被告が本件流派の名称等を使用する権限を有するか。)について【1審被告の主張】ア業務委任契約に付随する名称の使用権限(ア)本件流派の二代目以降の家元は,F,G及び1審被告を中心とする本件事務局に対し,50年以上もの間,本件流派の会費などの金銭管理,免状の発行,郵便物管理などの業務を委ねていた。
そして,本件流派の二代目以降の家元は,本件事務局長を中心とする本件事務局に対し,上記業務委任契約に付随するものとして,本件流派の名称を使用することを許諾していた。
したがって,1審原告と1審被告との間には,本件流派の名称等の使用許諾契約が成立していたというべきであるから,1審被告は,同名称使用許諾契約に基づき,本件流派の名称等を使用することができる権限を有している。
(イ)1審原告は,上記業務委任契約を解除したと主張する。しかし,同業務委任契約は,受任者である1審被告の利益をも目的とするものであり,50年以上もの長期間にわたるものであるから,当然に解除できるものではなく,相当の解除事由が必要である。そして,本件では,上記業務委任契約を解除し得るような事由は存在しない。
イ名板貸類似の双務契約に基づく名称等の使用権限(ア)従前の免状発行事務1審被告は,本件流派の免状発行事務のすべてを行っており,免状発行料もすべて取得した上で経理処理し,これに沿う形で税務申告も行っていた。また,1審被告は,免状用紙を印刷するための紙型を作成する17ために必要となる家元の印鑑も所持し,保管していた。
(イ)家元への給料の支払1審被告は,本件流派の家元に対し,毎月定額の給料を支払い,1審被告の事業経費として経理処理していた。
(ウ)事業経費の負担本件事務局長は,本件事務局の事務局員の人件費や免状印刷代などの細々な経費を支出し,また,専正華道会館の建設資金の借入れや本件流派の各支部の活動拠点に必要な建物の賃借などもしており,本件流派の事業活動に必要な経費をすべて負担していた。
そして,本件事務局長は,本件流派の事業経費の収支について,家元に許可を求めたことも報告したこともない。
(エ)家元の活動本件流派の二代目以降の家元は,その程度に濃淡はあっても,本件流派の事業活動に積極的に参加したことはなく,年1回の家元役員会,その他のセレモニーに流派の顔として参加する程度であった。また,本件流派の二代目以降の家元は,本件流派の実技を学んだことはなく,伝統的花形(花型)を生けることも指導することもできない。
(オ)以上のとおり,本件事務局長の指示の下,本件流派の事業活動が行われ,家元がその活動にほとんど関与していなかったこと,本件流派の事業活動の収支は全て本件事務局長に帰属したこと,すなわち,本件流派の事業活動の主体が本件事務局長であったこと,それにもかかわらず,本件流派の免状の発行名義は家元であったこと,本件事務局長は,家元に対し,給料,賞与及び家元経費の名目で一定額の金銭を支払っていたことからすると,1審原告と1審被告との間には,暗黙のうちに,@1審被告において,四代目家元の名称を使用して自己の計算で本件流派の事業活動を行う,Aその対価として,1審被告は,1審原告に対し,毎18月定額の給料等を支払う旨の名板貸類似の双務契約が成立したと考えるのが相当である。
(カ)1審原告は,上記契約を解除する旨の意思表示をしたが,1審被告には同契約における債務不履行は何ら存しないのであるから,未だ同契約は解除されたことにはならない。
また,1審被告は,本件流派の活動を維持するために多額の借金をするなどの負担を負っているのであるから,1審原告の自由な意思により上記契約を解約することは許されない。1審原告が上記契約を解約する旨の意思表示をしたとしても,それは,信義則に反する権利の濫用であって,解約の意思表示は無効である。
したがって,上記契約は現時点でも存続しており,1審被告は,同契約に基づき,本件流派の名称を使用することができる。
【1審原告の主張】ア業務委任契約について(ア)1審被告が主張する業務委任契約は,準委任契約と解されるので,委任者は,民法656条,651条1項により,いつでも業務委任契約を解除することができる。
そして,1審原告は,1審被告に対し,平成15年12月7日,上記業務委任契約を解除する旨の意思表示をした。
(イ)仮に,上記業務委任契約を解除するために正当事由が必要であるとしても,相互の信頼関係を基礎とする継続的契約である以上,その信頼関係が破壊された場合には,直ちに解除が可能となる。
1審被告は,平成15年11月10日,本件事務局を神戸に移す旨の1審原告の発言を受け,1審原告に対し,「そうであれば,家元は従業員でなくなるので1週間以内に退職届を出してほしい。」,「B(1審被告)が,雇用主であり,経営者であり,社長である。」などと,本件19流派の家元制度を根本的に覆すような暴言ともいうべき発言をしており,また,同年12月5日には,自らを五代目家元であると僭称するに至った。したがって,1審原告と1審被告との間の信頼関係は,1審原告による上記業務委任契約の解除の時点では,完全に破壊されていたものである。
(ウ)また,そもそも,上記業務委任契約では,1審被告は,本件事務局の事務処理の範囲において本件流派の名称等を使用することができるにすぎず,委任の趣旨に背いて,権限なく家元を名乗る場合にまで本件流派の名称等を使用できるものではない。
イ名板貸類似の双務契約について(ア)1審被告が主張する名板貸類似の契約の存在を裏付ける証拠は全くない。家元制度の根幹にも関わる契約を書面を交わすこともなく締結するというようなことは,通常の経験則を持ち出すまでもなく,およそ観念することは困難である。
(イ)本件事務局は,事務員の給料などの諸経費を支出し,稽古場等の賃貸借契約を締結していたのは事実であるが,これは本件流派の家元の受任者として行っていたにすぎない。ただし,家元の管理監督不十分により,本件事務局長が,経理や事務の一部を私物化するようになったが,だからといって,受任者である本件事務局長が委任者である家元の地位を取得するなどということにはならない。
(ウ)F及びGは,本件流派の普及活動に要する諸費用を「華務局長F」あるいは「華務局長G」の名前で支出しており,「家元D」の名前を使用してこれらの諸費用を支出していたのではない。1審被告が主張する名板貸契約が存したのであれば,F及びGは,本件流派の事業活動のすべてにおいて「家元D」の名前を用いるべきである。
(エ)仮に,1審被告が主張するような名板貸契約類似の契約が存すると20しても,現時点では,双方の信頼関係が根底から覆っているので,1審原告は,同契約を解除する。
(6)争点(6)(1審原告による本件差止請求権利の濫用であるか。)について【1審被告の主張】ア本件流派の家元(ア)二代目家元のDは,商社に勤務していたので,本件流派の家元業に専念できる状況ではなく,昭和40年から45年ころにかけては,英国に勤務しており,本件流派との関係を完全に絶っていた。
Dが家元であった当時の本件流派の運営は,実技については,初代家元のCから指導を受けた教授者らが担当し,流派の活動の企画,運営や事業計画,財務等一切については,本件事務局長であったF及びGが行ってきた。
(イ)二代目家元のDが商社勤務を継続し,名目上も家元にとどまることが困難となったので,D,G及び両名の母であるIの三名が話し合い,Dの妻であるEが三代目家元に就任することになった。
本件流派の幹部は,流派内部では家元が名目的存在であり,本件事務局が中心となって流派の運営を行っていくことから,Eが三代目家元に就任することについて異論を唱えなかったのである。
そして,三代目家元のEは,華展におけるテープカット等のセレモニー的な活動しか行っておらず,本件流派の運営に関わる重要な事項などには全く関与していない。また,Eは,専正池坊の生け花については,古典花も現代花も習ったことがなく,弟子が生けた作品を家元作として展示していた。
(ウ)1審原告は,家元に就任する前は,名目上は副家元であったが,約2120年間,子育てのためと称して本件流派の活動には関わっていなかった。1審原告が,本件流派の活動に多少なりとも顔を出すようになったのは,平成4年ころからのことであり,しかも,専正池坊の生け花を習ったことがないので,生けることも指導することもできない。
(エ)以上のとおり,本件流派における二代目以降の家元は名目的な存在にすぎない。このように,1審原告は,本件流派を統率する存在でもなければ,本件流派の発展に貢献したものでもなく,何らの権限のない1審被告の従業員にすぎない存在でしかなかった。
イ本件流派の運営本件流派においては,本件事務局長が,「生花家元」との肩書きで確定申告を行い,家元に給与を支払っている。また,本件流派の会館建設のための不動産の提供や建設資金の借入れは,本件事務局長であったF,G及び1審被告が個人で行ってきたものである。
本件流派の家元であったD,E及び1審原告は,本件流派のために資産を提供したこともなく,個人で借入れを行ったこともない。
組織において,財務及び会計は最も基本的かつ重要な事項であり,これが本件事務局長の個人名で行われているということは,実質上の家元は本件事務局長であったといえるのである。
ウ以上によれば,本件紛争の実態は,1審原告による分派,独立に端を発するものというべきである。本件流派の分派にすぎない1審原告が,1審被告やその他の本件流派の会員に対し,本件流派の名称等の使用の差止めを求めることは,明らかに権利の濫用である。
【1審原告の主張】ア本件流派の家元(ア)初代家元初代家元のCは,単に華道及び煎茶道に関して卓越した技量を有して22いたにとどまらず,本件流派の主宰者であって,その事業活動の主体であった。
(イ)二代目家元二代目家元のDは,初代家元Cの地位を包括的に継承しているのであって,初代家元の地位と変化はない。
Dは,商社に勤務しながらの家元であったので,華道及び煎茶道の指導などの実務面は,初代家元のCの下で学んだ教授者達に任ねていたが,家元の中心的活動(@華道及び煎茶道の型の保存及び開発,A自己の名において免状を下付すること,B流派の顔として,対外的に芸の魅力を伝えることなど)を本件事務局に任ねたことはない。
そして,Dは,兼業家元でありながらも,新年会,全国代表者会議等にできる限り出席しており,その席上では,芸術論に関するあいさつをするなどの家元としての実質的な活動を行っていた。
(ウ)三代目家元三代目家元のEは,二代目家元のDからその地位を譲り受け,家元の中心的活動である上記(イ)@ないしBの活動を全て自ら積極的に行った。
なお,Eは,免状の発行事務を本件事務局に委任していたが,これは家元組織の運営として当然のことである。
そして,Eは,副家元時代のロンドンでの生活を生かし,洋風のフラワーアレンジメントを「ロイヤルフラワーアレンジメント」として本件流派に導入するなどの成果を残した。
(エ)四代目家元1審原告は,昭和51年ころに本件流派の副家元に就任して以来,多数のメディア出演,執筆,講習会などの活動を精力的に繰り広げ,平成15年に四代目家元に就任してからも,家元としても中心的活動を自ら行ってきた。
23(オ)以上のとおり,本件流派の歴代の家元は,本件流派の主宰者であり事業活動の主体であった初代Cの地位を順次承継し,家元の中心的活動を行っている。したがって,本件流派の二代目以降の家元が名目的な存在であったとする1審被告の主張は事実に反する。
イ本件流派の運営本件流派の家元は,本件流派の事務処理及び経理処理を本件事務局に委任していただけである。そして,1審被告が本件事務局長として行ってきた活動は,いずれも本件流派程度の規模の組織において通常見られる事務的な活動の域を超えるものではない。
ウ以上によれば,本件流派の家元である1審原告が,1審被告に本件流派の名称等の使用の差止めを求めることが権利の濫用であるとの1審被告の主張は全く理由がない。
(7)争点(7)(1審原告の損害)について【1審原告の主張】1審被告による不正競争行為又は人格権侵害及び商標権侵害の不法行為により1審原告が受けた名誉及び信用毀損に基づく損害は,本件流派の規模,門弟の動揺の程度などからして,少なくとも1000万円を下らない。
本件において,1審原告は,1審被告に対し,上記損害のうち1000万円の支払を求める。
【1審被告の主張】争う。
第3当裁判所の判断1事実関係前記第2,2の前提事実(以下,単に「前提事実」という。),証拠(甲54,65,66,81,乙35,50,原審1審原告本人,同1審被告本人)及び各項末尾掲記の証拠等並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認めら24れる。
(1)初代家元Cの活動Cは,華道及び煎茶道に関して卓越した技量を有しており,創流(昭和5年3月1日)当初の本件流派の活動は,同人にすべて依存していた状態であった。そして,同人の活躍により,本件流派は全国的に広まった。
(2)二代目家元Dの活動Dは,昭和18年から,商社に勤務するようになり,昭和25年5月30日に死亡したCの遺志と同人から直接指導を受けた本件流派の長老的会員の推挙により本件流派の二代目家元に就任した後も,商社への勤務を継続し,昭和40年から昭和45年にかけて,ロンドンで勤務していた。このように,Dは,本件流派の家元業に専念できる状況になかったので,Dが二代目家元であった間は,本件流派の会員のうち技能の優れた者が,Dに代わって実技の指導をしていた。(甲1,乙8,10)(3)三代目家元Eの活動ア上記の事情で,家元のDが本件流派における対内外的活動が困難な立場にあるため,Eは,昭和34年ころ,本件流派の副家元になり,そのころから,積極的に技術指導及び地方巡回をした。
さらに,上記の事情にかんがみ家元内部で協議した結果,昭和47年1月14日をもって,家元であるDが本件流派の総裁になり,副家元であるEが家元になって,対内外的に第一線に立って陣頭指揮をとることとなった。そして,Eは,三代目家元に就任してからも,家元講習会等を開き,本件流派の会員に華道及び煎茶道の指導をしてきた。(甲1,7,44,乙22)イEは,Dとともにロンドンに滞在していたころ,洋風のフラワーアレンジメントに興味を持ち,日本に帰国してからは,本件流派の活動とは別に「ロイヤルフラワーアレンジメント」という名称で洋風生花の技術指導な25どを行った。そして,Eは,「ロイヤルフラワーアレンジメント」を指すものとして,本件登録商標3を発案して使用するなどしてその普及活動を行い,その結果,「ロイヤルフラワーアレンジメント」は若年層の間で人気となった。
Eは,昭和60年ころ,本件事務局長のGらと相談し,本件流派の華道の一部門として「ロイヤルフラワーアレンジメント」を導入し,「ロイヤルフラワーアレンジメント」の免状を本件流派の免状として発行することとした。(甲1,乙10,34の2)ウ雑誌への掲載・テレビ出演等(ア)Eは,昭和58年11月2日,NHKの「婦人百科壁面の花」という番組に出演した。(甲1,乙22)(イ)日本IBMのイメージ広告の中に「専正池坊」が利用され,新聞(朝日新聞,西日本新聞,日本経済新聞〈昭和59年6月15日〉,日本経済産業新聞〈同月20日〉),週刊誌(週刊ポスト〈同年7月23日発売,同年8月号〉,週刊文春〈同年7月21日発売,同月28日号〉,週刊現代〈同年7月30日発売,同年8月11日号〉),テレビスポット(TBS系列,同年8月から放送)などを通し,華道家元としてEが紹介された。(甲1)(ウ)「CLASSY」に,昭和59年7月号から同年12月号までの計6回,「専正池坊家元」としてEが紹介され,「英国スタイルの花」,「RoyalFlowerArrangement」と題する記事が連載で掲載された。(甲80の1〜5,弁論の全趣旨)(エ)「TIMEMELTDOWN」(昭和61年5月12日発行)という雑誌で,IBMの広告の中に「専正池坊」が利用され,Eの写真が掲載された。(甲26の1・2)(オ)「週刊朝日」(平成元年11月24日発行)の「気の合う仲間と味26な店」という座談記事に,「専正池坊」の家元の肩書でEが掲載された。
(甲21の1)(カ)Eは,平成2年4月5日,NHKの「婦人百科淡色の春をいける」という番組に出演した。(甲1)(キ)「CLASSY」に,平成3年2月号から平成5年1月号までの計24回,「専正池坊家元」としてEが紹介され,「英国スタイルの花」(連載再開),「ROYALFLOWERARRANGEMENT」と題する記事が連載で掲載された。(甲23の1〜24,弁論の全趣旨)(ク)「婦人画報」(平成8年2月1日発行)に,「日本礼道小笠原流家元」としてEが紹介され,「煎茶の花趣向」と題する記事が掲載された。
同誌(平成9年11月1日発行)に,「専正池坊家元」及び「日本礼道小笠原流煎茶宗家」としてEが紹介され,「花寄せ,花屏風」と題する記事が掲載された。
同誌(平成10年12月1日発行)に,「専正池坊家元」及び「日本礼道小笠原流煎茶宗家」としてEが紹介され,「アール・ヌーボー調の花飾り」と題する記事が掲載された。(甲19の1〜3)(ケ)「家庭画報」(平成11年1月1日発行)に,「華道専正池坊流」及び「日本礼道小笠原流」の家元としてEが紹介され,a家の正月に関する記事が掲載された。(甲20)エ書籍の出版Eは,「日本礼道小笠原流煎茶上巻」(昭和52年11月18日発行),「日本礼道小笠原流煎茶下巻」(昭和53年11月8日発行),「専正池坊のいけばな自然花」(昭和58年4月26日発行),「英国スタイルの花」(昭和62年9月30日発行),「初めての頼まれ仲人」(平成元年7月8日発行),「訪問とおもてなしのマナー」(平成元年1272月16日発行),「英国スタイルの花(2)」(平成5年11月30日発行),「新訂専正池坊の生花」(平成6年11月18日発行),「専正池坊の新生花と立華」(平成9年5月30日発行),「専正池坊のいけばな・彩花・」(平成11年5月12日発行),「日々の暮らしに一枝一花」(平成14年1月1日発行)という名称の各書籍をそれぞれ出版した。
(甲27〜30,36〜41,79)オ書籍への作品の掲載Eは,「いきいきいけばな・・4」(平成8年9月30日発行),「人気の洋花草花」(平成10年10月10日発行),「行事と節句の迎え花」(平成10年11月25日発行),「万葉四季の名花譜」(平成12年5月23日発行)という名称の各書籍に,「専正池坊」の家元として作品を掲載した。(甲31〜33,35)カ上記メディア(雑誌,テレビ等)出演料は,Eが収受していた。
キEは,平成8年4月29日,煎茶道の普及に努めた業績が認められて藍綬褒章を受章し,平成13年4月29日には,勲五等瑞宝章を受賞した。
(甲42,43)ク商標登録の出願(ア)Eは,平成10年11月25日,本件標章1について商標登録の出願をした。(甲46の1)(イ)Eは,平成10年12月2日,本件標章2,3について商標登録の出願をした。(甲47,48の各1)(4)1審原告の活動ア1審原告は,Eから,本件流派の家元に就任するよう求められ,平成15年1月1日,四代目家元に就任した。
イ本件流派(華道専正池坊)の機関誌「花泉」(平成15年1月号・発行所花泉社〈専正池坊華務局花泉社〉・発行人1審被告)には,同月1日28をもって,Eが本件流派の会長に,Aが同家元に,Aの長女であるHが同副家元にそれぞれ就任したことを表明したE名の「会長就任のご挨拶」及びA名の「家元継承ご挨拶」との記事と上記3名の写真が掲載された。
(甲2)平成15年10月6日,1審原告が「華道専正池坊」及び「日本礼道小笠原流煎茶宗家」の四代目家元に就任したことについて,家元継承記念祝賀会がリッツカールトン大阪で開催され,500名近くの会員が参加した。
(甲3の1〜4)ウテレビ出演1審原告は,平成7年5月8日,NHKの「おしゃれ工房」という番組に,平成11年1月から7回,NHKの「関西おひるまえ」という番組に出演した。(甲14の1〜7,甲15)エ雑誌への掲載(ア)NHKの「おしゃれ工房」(平成7年5月1日発行)という雑誌に,1審原告が「華道専正池坊副家元」として紹介され,1審原告の生けた花の写真が掲載された。(甲16)(イ)「婦人公論」の「季節を彩るきもの」シリーズ(平成10年11月7日,平成10年11月22日,平成10年12月7日,平成10年12月22日,平成11年1月22日発行)に,1審原告が「華道専正池坊」及び「日本礼道小笠原流煎茶宗家」の副家元という肩書でその着こなし振りが紹介された。
同誌(平成12年6月22日発行)では,1審原告が同じ肩書で,英国スタイルの簡単美味なもてなしを紹介,解説し,同誌(平成14年8月7日発行)では,同様に,洋食器でもてなす夏の茶事を紹介,解説した。(甲22の1〜7)(ウ)「家庭画報」(平成11年1月1日発行)に,a家の正月に関する29記事が掲載された中で,1審原告が「華道専正池坊」及び「日本礼道小笠原流」の副家元として紹介された。(甲20)(エ)「週刊朝日」(平成13年1月26日発行)の「こんな時こんな店」という記事に,1審原告が「華道専正池坊流」及び「日本礼道小笠原流」の副家元の肩書で掲載された。(甲21の2)(オ)「婦人画像」(平成16年1月1日発行)の家元と家元夫人のきもの姿を紹介する記事に,1審原告が「華道専正池坊家元」及び「日本礼道小笠原流宗家」を継承したと紹介された。(甲18)オ書籍への作品の掲載Aは,「人気の洋花草花」(平成10年10月10日発行),「伝統の和花枝もの」(平成10年10月10日発行),「行事と節句の迎え花」(平成10年11月25日発行),「万葉四季の名花譜」(平成12年5月23日発行)という名称の各書籍に,「専正池坊」の副家元として作品を掲載した。(甲31,33〜35)カ新聞記事の掲載(ア)中日新聞(平成10年2月17日発行)に,1審原告が「華道専正池坊副家元」としてJA郡上本店でフラワーアレンジメントの実演をしたという記事が掲載された。(甲17の2の2)(イ)日本経済新聞の朝刊(平成13年3月2日発行)に,1審原告が「華道専正池坊」及び「日本礼道小笠原流煎茶宗家」の副家元として,華道及び煎茶道を教えてきた実感について述べた記事が掲載された。
(甲17の2の1)(ウ)沖縄タイムス(平成15年5月16日発行),琉球新報(平成15年5月19日発行),南日本新聞の夕刊(平成15年7月25日発行)及び秋田さきがけ(平成15年8月4日発行)に,1審原告が「華道専正池坊」及び「日本礼道小笠原流煎茶宗家」の四代目家元に就任したと30いう記事が掲載された。(甲17の2の5,甲17の2の7〜9)キ1審原告は,NHKの神戸文化センターにおいて,「ロイヤルフラワーアレンジメント」及び「茶花・茶趣の花」と題する講座(平成16年1月期〈同年1月〜3月〉)を開いている。(甲45)ク上記メディア(雑誌,テレビ等)出演料は,1審原告が収受していた。
ケ(ア)1審原告は,平成15年3月10日,別紙標章目録記載4の標章(日本礼道小笠原流煎茶宗家)について商標登録の出願をした。(甲82)(イ)1審原告は,Eから,平成15年12月から平成16年1月にかけて,本件登録商標1ないし3についての商標権の移転を受けた。(甲46〜48の各2)(5)本件事務局,本件事務局長及び専正華道協会の活動ア本件流派の華道(華道専正池坊)における免状の段階は,概略,「入門,初伝,中伝,奥伝,脇教授,准教授,正教授,日本華督,日本副総華督,日本総華督」であり,煎茶道(日本礼道小笠原流)における免状の段階は,概略,「入門,初伝,中伝,奥伝,奥義相伝,師範補,準師範,師範,総師範,師範門標,宗家師範,宗家総師範」である。そして,本件流派の免状は,原則として,礼録において事前に設定された単位数を満たせば,実質的な判断を行うことなく,上記段階の低位から高位へ順を追って,免状取得希望者に付与される仕組みとなっている。
本件流派では,Dが二代目家元に就任したころから,免状取得希望者が直接師事する教授者(本件流派内では「親先生」と呼ばれている。以下「親先生」ともいう。ちなみに,家元が直接指導している会員にとっては,家元自身が親先生ということになる。)が,華道の場合は「華道家元専正池坊華務局(当初は華道家元専正池坊華務課)御中」との申請書を,煎茶道の場合は「日本禮道小笠原流煎茶宗家(当初は小笠原流煎茶宗家)御31中」との申請書を作成して,これを本件事務局宛てに送付して免状の申請をし,本件事務局において,家元名義の免状を発行するようになった。
本件流派では,免状発行料のうち,親先生(教授者)や支部に対する手当(配分)を除く部分が「冥加金」として家元に帰属することとされており,上記免状の申請書には,その旨が記載されている。
上記免状には,家元の印鑑による印影が印刷されているが,その家元名義の印鑑は,本件事務局が印章店に依頼して作製させたものであり,本件事務局がこれを保管していた。また,免状取得希望者が単位を修得したとして,上記段階の順を追わずにいきなり高位の免状を求めたり,低位の免状から高位の免状まで一括して付与するよう求めたりする場合には,本件事務局長が,親先生の意見を聞いた上で,免状取得希望者の経験等を考慮して,一括付与するか否かを決定し,経験が浅い場合は低位の免状は付与するが,高位の免状については時期を置いて再申請するように指導しており,家元の意見を求めることはしなかった。そして,本件流派における免状発行名簿は,本件事務局が保管し,免状の発行状況は,本件事務局のみが把握しており,本件事務局がこれを家元に報告することはなかった。
本件流派におけるこのような免状発行の体制は,三代目,四代目家元の時代になっても継続した。(甲44,76,乙34の1・2,乙48)イ昭和33年,本件流派の普及を目的として専正華道協会(主たる事務所の所在地は北九州市小倉北区清水3丁目4番9号〈当時は小倉市清水町3丁目570番地〉)が設立された。専正華道協会設立の際の発起人には,F,G,その他本件流派の会員が就任し,設立後は,Fが理事長に,Gが監事に就任したが,家元が発起人や役員に就任することはなかった。専正華道協会は,本件流派の会員の納める年会費・講習料及び出版収入を収受し,本件流派の普及活動費を負担していた。(乙4,5の1〜3,乙20,21,74)32ウ専正華道協会は,昭和34年,北九州市小倉北区(当時は小倉市)に専正華道会館を建設した。Gは,専正華道会館の敷地とするために,その所有地を提供した。建築資金は,専正華道協会設立の際に,F,G及び本件流派の高弟によって寄付された基本財産が充てられた。(乙40〜47)エGは,個人名義で,本件流派の各支部における活動拠点となる事務所建物を購入したり,賃借するなどして,本件流派の事業活動の基礎を作るために尽力した。(乙17,18,39の1・2)オGは,昭和56年,専正華道会館再築の際に,銀行から約3億円を,本件流派の教授者から約2億円を借り入れて建設資金を調達した。その後も,G及び1審被告は,定期的に銀行から借入れを行い,本件流派の運転資金に充てた。本件流派の教授者に対する借入金は平成12年ころまでに返済されたが,銀行からの借入金は完済されておらず,平成15年10月27日現在,約7800万円の債務が存在する。DやEは,銀行借入の際に,保証人になったり,物的担保を提供するなどの特別な協力をしていない。
(乙15,16,36〜38)カ昭和34年6月3日から平成7年ころまで本件事務局長等であったGやその後継者で本件紛争発生当時の本件事務局長であった1審被告は,本件流派の会員の納める免状発行料を個人の収入として受け入れ,免状発行等の本件流派の事業活動に必要な経費のほかに,後記のとおり家元に対し給与等との費目で金員を支払ってきた。その収支について,1審被告は,業種名を「生花家元」,屋号を「専正池坊華務局」として所得税の確定申告をしている。(乙11〜14,25,26の1〜3,乙27)キGや1審被告は,Dに対して昭和63年から平成14年まで1年間の給与及び賞与として128万円ないし180万円を,Eに対して昭和63年から平成14年まで1年間の給与,賞与,家元経費及び講師料として734万7991円ないし1800万円を,1審原告に対して1年間の給与,33賞与及び講師料として平成4年から平成14年まで480万円ないし825万円を支払ってきた。(乙27)(6)本件流派の事業活動の表示ア本件華道事業表示本件流派では,創流以来,華道の教授,普及その他の活動を行う際,その事業活動を表示する名称として「華道専正池坊」という正式名称のほか,「華道専正」及び「専正池坊」との省略名称も使用し,また,昭和60年ころ以降は,「ロイヤルフラワーアレンジメント」という名称も用いている。(甲1,乙3)イ本件茶道事業表示本件流派では,創流以来,煎茶道の教授,普及その他の活動を行う際,その事業活動を表示する名称として,「日本礼道小笠原流」という名称を使用している。(乙3,9)(7)本件紛争の経緯アGは,銀行からの借入金を返済することが困難となったので,本件流派の教授者から無利息で金銭を借り入れて銀行への弁済に充てることを考えた。そこで,G及び1審被告は,平成13年3月ころ,専正華道会館の補修費用が約1億円必要であるとして,本件流派の会員に対し,金銭の貸付けを依頼し,平成14年2月4日の時点で,合計1億0265万円を借り入れた。(甲5,6の1〜5,甲7,8)イ平成15年10月6日,1審原告の家元継承記念祝賀会がリッツカールトン大阪で開催されたが,その際,1審原告は,本件流派の会員から,本件事務局の経理状態の調査を求められた。そこで,1審原告は,税理士である笹倉宣也(以下「笹倉税理士」という。)に対し,本件事務局の経理状態についての調査を依頼した。(甲9)ウ1審原告は,笹倉税理士から調査報告を受け,上記教授者からの借入金34が実際には専正華道会館の補修のために使用されずに,そのうち約5000万円が株式等の購入に充てられ,残りが上記銀行からの借入金の返済や税金の支払等に充てられていたことを知り,1審被告によって本件流派の経理が不正に処理されているのではないかとの疑いをもった。
エその結果,1審原告は,1審被告に本件事務局を任すことはできないと考え,平成15年11月10日,1審被告に対し,本件事務局を北九州市小倉北区から1審原告の居住地である神戸市に移転させると告げたところ,1審被告は,1審原告に対し,「そうだとすれば,1審原告は従業員でなくなるので,1週間以内に退職届を出してほしい。」,「事務局を移転させるのであれば,専正池坊の名を名乗らないように。」と告げた。
オ1審原告は,平成15年11月付けで,本件流派の会員に対し,同年12月8日から本件事務局を神戸市内に移転し,移転後の事務所において,本件流派の免状の申請の受付や,教授の会費の徴収等の事務を扱う旨の通知をした。(乙6)カ1審被告は,上記の通知がされたことを知り,平成15年11月14日付けで,本件流派の会員に対し,北九州市小倉北区にある本件事務局で,免状の申請の受付や,教授の会費等の徴収の事務を従前どおり継続する旨の通知をした。(甲11)キそこで,1審原告は,1審被告に対し,平成15年12月5日付けの通知書(同月7日到達)をもって,本件事務局への業務委任を一切解消する旨の通告をした。(甲10の1,2)ク1審被告は,平成15年12月5日,専正池坊緊急役員会(以下「役員会」という。)を開いた。役員会の議事内容を記載した議事録には,概ね以下の記載がある。(甲12,乙7)(ア)1審被告から,本件流派の民主的な運営を目指すため,家元選出規約を策定したい旨の提案がなされ,質疑を経た上,出席者の賛成多数に35より,以下のとおり家元選出規約が制定された。
第1条家元は初代家元のCの子孫が継承する。
第2条家元の選出及び解任は,家元顧問,家元相談役,家元名誉講師,家元理事,指導部,連合会長及び全国支部長で構成する役員会で決議の上決定する。
第3条初代家元のCの子孫に家元の適任者がいない場合は,家元候補者を理事会で推薦し,役員会で決議の上家元を決定することができる。
第4条家元は,死亡又は本人の希望により家元職を辞任する。
第5条家元の選任に関して,当規定にない事項については役員会で決定する。
(イ)1審原告,E会長,H副家元は,本件事務局に何の連絡もなく,平成15年12月8日に神戸市内に本件事務局を開設する予定であることから,同日付けで専正池坊を辞任してもらうべきではないかとの提案がなされ,出席者の賛成多数により,同3名の辞任が了承された。
(ウ)1審被告が,本件流派の新家元に立候補し,出席者の圧倒的多数の賛成により,本件流派の五代目家元に選任された。
ケ1審被告は,平成15年12月5日以降,本件流派の五代目家元(J)と称して華道及び煎茶道の教授,普及その他の活動を行いつつあり,その活動において,本件華道事業表示と同一の「華道専正池坊」,「華道専正」,「専正池坊」及び「ロイヤルフラワーアレンジメント」との名称,本件茶道事業表示と同一の「日本礼道小笠原流」との名称を使用し,また,生け花の教授その他の活動において本件標章1,2を使用し,本件流派家元(J)名義のロイヤルフラワーアレンジメント部門の免状に本件標章3を使用している。(甲13,56〜64,67〜72,75,77の1・2)362争点(1)(1審原告は本件流派の家元たる地位にあるか。)について一般に,家元制度の基本構造は,@固有の技能,芸能等の型を保存し,技術水準を保持することを存立の基礎とし,A師匠と弟子との主従関係(師弟関係)の連鎖によってピラミッド型の階層集団(家元を頂点とする技芸集団)を構成すること,B家元が,対内的には当該技芸集団を統率し,対外的には当該技芸集団を代表することにあるものと解される。そうすると,家元制度を採用する流派における家元は,対内的には当該流派を統率する権限を有し,対外的には当該流派を代表する権限を有するものであるから,家元たる地位は法律上の地位であるというのが相当である。
ところで,前提事実及び上記1の認定事実によれば,@本件流派は家元制度がとられている華道及び煎茶道の流派であるところ,本件流派では,創流以来,家元の継承(選任方法)について何らの成文の規則等を設けないまま,初代家元であるCから二代目家元であるDへの継承,二代目から三代目家元であるEへの継承,三代目から四代目家元である1審原告への継承は,いずれも先代の家元が次の家元を実質的に直接選任(指名)し,これを本件流派の内部的手続に従って高弟が形式的に承認するという形で行われてきたこと,Aこのようにして,1審原告は,平成15年1月1日,本件流派の四代目家元たる地位に就任し,1審被告が発行人である本件流派(華道専正池坊)の機関誌「花泉」にも,上記四代目家元就任に係る記事が掲載されたこと,Bその後,1審原告は,本件事務局の経理状態について調査した結果,不正経理を疑い,1審被告に本件事務局を任すことはできないと考え,本件事務局を1審被告の下(北九州市)から1審原告の下(神戸市)に移転する旨を表明し,さらにこれに反対する1審被告に対し,本件流派に係る業務委任を一切解消する旨の通告をしたこと,Cこれに対し,本件事務局長であった1審被告は,四代目家元である1審原告から何らの了解を得ることのないまま,同年12月5日,専正池坊緊急役員会を開催し,同役員会においては,出席者の賛成多数により,本件流派の家37元選出規約を制定した上で,1審原告が四代目家元を辞任したことを前提に,1審被告が新家元に立候補して,1審被告を本件流派の五代目家元に選出したこと,Dそして,1審被告は,1審原告は本件流派の「前家元」であり,現在は「家元」ではない旨主張して,1審原告が本件流派の家元たる地位にあることを争っていることが認められる。
しかしながら,上記認定のとおり,四代目家元である1審原告は,本件紛争発生当時,本件事務局長であった1審被告に対する業務委任を解消する旨の通告をし,本件事務局を神戸市に移転する旨を表明しただけであり,本件全証拠によっても,1審原告が本件流派の家元を辞任する旨の意思表示をし,本件流派を離れて独立したことを認めるに足りないから,1審原告の四代目家元辞任,独立を前提とする上記役員会における五代目家元選出は,その前提を欠いており無効である。
したがって,1審原告が本件流派の家元であることの確認請求は理由がある。
3争点(2)(1審被告は不正競争行為を行っているか。)について(1)不正競争防止法上の「営業」は,経済上の収支計算に基づいて行われる活動をいい,営利を目的とするか否かを問わないと解すべきところ,初代のCから四代目の1審原告に至る本件流派の家元が行っている前記1認定の活動は,文化・芸術活動というべき側面を有する一方で,経済上の収支計算に基づいて行われている事業活動でもあるから,同法2条1項1号,2号所定の「営業」に該当する。そして,上記事業活動(華道及び煎茶道の教授,普及その他の活動)の主体は家元の地位にある者であり,家元の地位が承継されることにより,当該事業活動も承継されるものと認められる。
(2)前記1の認定事実によれば,「華道専正池坊」,「華道専正」,「専正池坊」及び「ロイヤルフラワーアレンジメント」との名称は,いずれも同認定に係る1審原告の活動のうち,華道の教授,普及その他の活動を表示するものであるから,不正競争防止法1項1号,2号所定の「商品等表示」(以下,38「営業表示」という。)に該当することは明らかである。
また,前記1の認定事実によれば,「日本礼道小笠原流」との名称は,同認定に係る1審原告の活動のうち,煎茶道の教授,普及その他の活動を表示するものであるから,上記「営業表示」に該当することは明らかである。
(3)前記1の認定事実によれば,「華道専正池坊」,「華道専正」,「専正池坊」及び「ロイヤルフラワーアレンジメント」との各名称は,遅くとも,雑誌「CLASSY」でEが「専正池坊家元」として紹介され,「英国スタイルの花」と題する記事の2回目の連載が始まった時期である平成3年2月ころには,本件流派(華道)家元の地位にある者の営業表示として,少なくとも華道をたしなむ者の間で周知となり,その後も,E及び1審原告の活動を通じて周知性が維持されているものと認めるのが相当である。
また,前記1の認定事実によれば,「日本礼道小笠原流」との名称は,遅くとも,E著作に係る「日本礼道小笠原流」の市販教本「日本礼道小笠原流煎茶」の上巻・下巻が揃った時期である昭和53年11月ころには,本件流派(煎茶道)家元の地位にある者の営業表示として,少なくとも煎茶道をたしなむ者の間で周知になり,その後も,E及び1審原告の活動を通じて周知性が維持されているものと認めるのが相当である。
(4)1審被告は,本件流派の運営は本件事務局が専属的に行ってきたものであって,本件流派における二代目以降の家元は,本件流派の実技を学んだことはなく,伝統的花形(花型)を生けることも指導することもできない名目的な存在にすぎず,本件事務局の作成したスケジュールに基づいて行動してきただけで,本件流派の事業活動の主体は本件事務局長である1審被告であり,1審原告は本件流派を統率する存在でもなければ,本件流派の発展に貢献したものでもなく,何らの権限のない存在でしかなかったと主張する。
しかしながら,家元の地位の承継は当該流派の内部的手続によってされれば足りるというべきであり,その効力を芸道(華道・煎茶道)や流派運営・39事業活動の実質的内容にかからせる理由はないし,そもそも,上記2認定のとおり,1審被告は1審原告の四代目家元就任を認めていたのであるから,1審被告の上記主張は採用することができない。
(5)前記1認定のとおり,1審被告は,平成15年12月5日以降,本件流派の五代目家元(J)と称して,華道及び煎茶道の教授,普及その他の活動を行いつつあり,その活動において,本件華道事業表示と同一の「華道専正池坊」,「華道専正」,「専正池坊」及び「ロイヤルフラワーアレンジメント」との各名称を,本件茶道事業表示と同一の「日本礼道小笠原流」との名称をそれぞれ使用している。
また,証拠(甲1,2,67,69,70,72,乙23,24)及び弁論の全趣旨によれば,華道で「専正」といえば「華道専正池坊」のことであることが認められるから,「華道専正池坊」の名称の中で「専正」という部分は,他流との識別機能の面で要部といえる。したがって,1審被告が,華道の普及活動において,「華道専正池坊」を想起(観念)させる「専正」という名称を使用するおそれがある。
1審被告がその事業表示として使用し又は使用するおそれのある上記各名称は,1審原告の営業表示(本件華道事業表示及び本件茶道事業表示)と同一であるか又は類似している。そして,前記1認定のとおり,かつて本件事務局長であった1審被告が,本件流派の会員(生徒・教授者等)及び関係者に対し,本件流派の五代目家元と称して,積極的に1審被告が本件流派の正統な家元であるかのような働きかけをしていることからすると,1審被告が上記各名称を使用することにより,本件流派の会員及び関係者,その他華道・煎茶道をたしなむ者が,1審被告を本件流派の正統な家元であると誤認混同するおそれがある。
また,前提事実及び証拠(甲65,75,78,81,乙35,原審1審原告本人,同1審被告本人)によれば,1審被告がその事業表示として上記40各名称を使用していることにより,約2万人いる本件流派の会員間に1審原告と1審被告のどちらを正統な家元として支持するかとの混乱及び動揺が生じていることや,1審原告の主宰する本件流派に属する会員が作品写真を華道・茶道関係の新聞(日本女性新聞)に掲載できない事態や作品を華道・茶道関係の諸団体(西日本華道連盟等)開催の華展に出展できない事態が起きていることが認められる。
さらに,一審被告が本件流派名等の使用を継続することによって,外観的に同一名称の華道団体・煎茶道団体が併存することになれば,需用者の間に誤認混同が生じ,「華道専正池坊」・「日本礼道小笠原流」への入門を希望する者が,誤って,1審原告の主宰する本件流派ではなく,1審被告の主宰する「華道専正池坊」・「日本礼道小笠原流」に入門するおそれがあり,1審原告が新入会員を失い収益を減少させる等,営業上の利益を害されるおそれがあるというべきである。
4争点(4)(1審被告は商標権侵害行為を行っているか。)について(1)前記1の認定事実によれば,1審被告は,1審原告が平成15年12月5日以降,生け花の教授その他の活動において,本件標章1,2を使用し,本件流派家元(J)名義の免状に本件標章3を使用していることが認められる。
1審被告が使用している本件標章1ないし3は,本件登録商標1ないし3と同一であり,1審被告が行う役務は,本件登録商標1ないし3の指定役務と同一であるから,1審被告による本件標章1ないし3の使用行為は,本件登録商標1ないし3に係る1審原告の商標権を侵害するものである。
また,前記3(5)認定のとおり,華道で「専正」といえば「華道専正池坊」のことであるから,本件登録商標1(華道専正)のうち自他識別力を有する要部は「専正」という文字部分である。したがって,1審被告が,華道の教授その他の活動において,「専正」という標章を使用するおそれがある。
1審被告によるその使用行為は,本件登録商標1の類似商標の使用行為とし41て,本件登録商標1(華道専正)に係る1審原告の商標権を侵害するものである。
(2)前記1の認定事実によれば,1審被告は,茶道の教授に際し,本件流派名の一つである「日本礼道小笠原流」との標章を使用しているものと推認される。また,仮に,現時点で同標章を使用していないとしても,本件流派の五代目家元を称する1審被告が将来これを使用するおそれがある。
ところで,本件登録商標4(日本礼道小笠原流煎茶宗家)のうち,「煎茶」は「葉茶を湯で煎じ出すこと。また,その飲料。その葉茶。」を意味する普通名詞であり(広辞苑第五版),「宗家」は「宗主たる家。本家。家元。」を意味する普通名詞であって(前同),いずれも格別の自他識別力を有するものではないから,本件登録商標4の要部は「日本礼道小笠原流」という文字部分である。そして,当該要部と1審被告が現に使用し又は使用するおそれがある「日本礼道小笠原流」との標章とは,そのいずれもが,「ニホンレイドウオガサワラリュウ」という同一称呼を有していることに加え,需用者をして「ある分野に関する流派の名称」という同一の観念を生じさせるものであるから,同標章及び本件登録商標4が全体として類似することは明らかである。したがって,1審被告による「日本礼道小笠原流」との標章の使用行為は,本件登録商標4に係る1審原告の商標権を侵害する。
5争点(5)(1審被告が本件流派の名称等を使用する権限を有するか。)について(1)1審被告は,本件流派の二代目以降の家元は,本件事務局長を中心とする本件事務局に対し,本件流派の会費などの金銭管理,免状の発行,郵便物管理などの業務を委ねており,上記業務委任契約に付随するものとして,本件流派の名称を使用することを許諾していた旨主張する。
しかし,そもそも1審被告主張の業務委任契約付随の契約によっても,1審被告の地位はあくまでも本件事務局長の地位であって,1審被告は,本件42事務局の事務処理の範囲において本件流派の名称等を使用することができるにすぎず,家元の本件事務局に対する上記業務委任の趣旨に背いて,1審被告が家元を名乗る場合にまで本件流派の名称等を使用できるものではないというべきである。
したがって,1審被告の上記主張は採用することができない。
(2)1審被告は,1審原告と1審被告との間には,暗黙のうちに,1審被告において,四代目家元の名称を使用して自己の計算で本件流派の事業活動を行い,その対価として,1審被告は,1審原告に対し,毎月定額の給料等を支払う旨の名板貸類似の双務契約が成立した旨主張する。
そして,前記1の認定事実及び証拠(甲81,原審1審原告本人)によれば,@本件流派の事業活動の根幹は,華道及び煎茶道の普及であり,そのため具体的活動としては,(a)華道・煎茶道それぞれの形(型)の保存及び開発,(b)会員(生徒・教授者等)又はその他一般人に対する芸道(華道・煎茶道)の講習,(c)会員に対する免状の下付(発行),(d)メディア等を介した流派の芸道(華道・煎茶道)の魅力の伝達及び広報などがあること,Aこれらの活動に伴い,年会費,講習料,免状発行料及びメディア出演料などの対価が発生すること,B昭和34年6月3日から平成7年ころまで本件事務局長であったGやその後継者で本件紛争発生当時の本件事務局長等であった1審被告は,本件流派の会員の納める免状発行料を個人の収入として受け入れ,免状発行等の本件流派の事業活動に必要な経費のほかに,家元に対し給与等との費目で金員を支払ってきたこと,Cその収支について,1審被告は,業種名を「生花家元」,屋号を「専正池坊華務局」として所得税の確定申告をしていることが認められる。
上記認定事実に,前記1認定の本件流派における免状発行状況,本件流派は法人格を有さないこと,一般に,家元制度における免状発行の権限は,当該流派を統率する権限と不可分一体のものであって,その性質上家元に帰属43するものであるとされていることを併せ考慮すると,本件流派では,本件紛争が発生するまで,代々の家元が本件事務局(本件事務局長)に対し,免状発行に係る事務手続全般と経理処理全般を委ねていたため,免状発行料が経理上,1審被告の収入として処理されていたものと認めるのが相当であって,それがために免状発行権限が1審被告に帰属していたとはいえない。もっとも,前記1認定のとおり,低位の免状から高位の免状まで一括して付与する場合,高位の免状発行について猶予期間を置くか否かの判断を本件事務局長が行っていたことが認められるが,本件事務局長が免状発行自体の可否について判断していたのであればともかく,その付与時期をいつにするかといった程度の判断は,受任者である本件事務局長が有する裁量の範囲内に属するものあるから,1審被告がそのような判断を行っていたからといって,免状発行権限が1審被告に帰属していたとはいえない。
そうすると,上記B,Cの事実は,本件流派が法人格を有さないがために,本件事務局長が本件流派の経理処理全般を家元の受任者として行っていたにすぎないものであって,同事実をもって,1審原告と1審被告との間に,1審被告が,四代目家元の名称を使用して自己の計算で本件流派の事業活動を行い,1審原告にその対価を支払う旨の名板貸類似の双務契約が成立していたと認めることはできない。そして,他に上記双務契約成立の事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって,1審被告の上記主張は採用することができない。
6争点(6)(1審原告による本件差止請求権利の濫用であるか。)について1審被告は,本件流派における二代目以降の家元は,名目的な存在にすぎず,1審原告は,本件流派を統率する存在でもなければ,何らの権限のない1審被告の従業員にすぎない存在でしかなく,本件流派の実質上の家元は,組織において基本的かつ重要な事項である財務及び会計を個人名で行ってきた本件事務局長であったから,本件紛争の実態は,1審原告による分派,独立に端を発す44るものであり,本件流派の分派にすぎない1審原告が,1審被告に対し,本件流派の名称等の使用差止めを求めることは権利の濫用であると主張する。
しかし,上記5認定のとおり,本件流派の家元は,本件流派の事務処理及び経理処理を本件事務局(本件事務局長)に委任していただけである。そして,前記1認定の1審被告が本件事務局長として行ってきた活動は,いずれも法人格を有さない本件流派程度の規模の組織において通常見られる事務処理活動の域を出るものではないと考えられる。もっとも,前提事実,前記1の認定事実及び証拠(乙40〜47)によれば,G及び1審被告は,専正華道会館の敷地を提供し,その再築資金に係る債務(銀行借入れ及びこれを返済するための教授者からの借入れ)を負っているものの,他方,再築された専正華道会館を所有するなどして相応の対価を得ているものと考えられるから,上記敷地の提供や借入れがあることをもって,本件事務局長である1審被告が本件流派の家元と同等視できる地位にあり,本件流派の事業活動の実質的な主体であったとまではいえない。また,前記1の認定事実によれば,本件流派が法人格を有さないため,本件流派の運転資金等の管理は本件事務局長の個人名義でされていたところ,G及び1審被告は,実際には別の用途に充てることを秘して,本件流派の教授者から専正華道会館の補修資金名目で金員を借り入れ,これを別の用途に使っていたのであるから,上記本件流派の運転資金等の管理状況を考慮しても,1審原告が1審被告による経理処理の不正を疑ったのは無理からぬものがあり,1審原告が上記業務委任を解消した理由が不合理であるとはいえない。
そうすると,本件流派の家元であり,本件登録商標1ないし4に係る商標権を有する1審原告が,1審被告に本件流派の名称等の使用差止めを求めることが権利の濫用であるとはいえない。これに対し,1審原告の上記差止請求権の行使が権利の濫用であるとすると,同一名称の華道団体及び煎茶道団体が併存し,1審被告が「華道専正池坊」・「日本礼道小笠原流」の家元と称して本件流派と同じ事業活動を続けることとなり,その結果,1審原告は,1審被告主宰の45組織が同一名称を使用することによる混乱に伴う不利益を被ることとなる。
したがって,1審被告の上記主張は採用することができない。
7争点(7)(1審原告の損害)について以上のとおり,1審被告には,不正競争行為及び商標権侵害の不法行為が認められ,1審原告は,本件流派の家元としての正統性を毀損され,これまで築いてきた本件流派の家元としての名誉・信用を傷つけられるなど,有形無形の損害を被ったものと認められる。そして,1審被告の不法行為による1審原告の損害額は,本件紛争の経緯,本件流派の規模等の本件に現れた一切の事情を考慮すると,300万円と認めるのが相当である。
1審原告は,不正競争行為と選択的に人格権侵害の不法行為による損害賠償を求めているが,仮に,人格権侵害の不法行為が認められるとしても,1審原告の損害額が同額を超えるものであるとは認められない。
8結論その他,原審及び当審における当事者提出の各準備書面等に記載の主張に照らし,原審及び当審で提出,援用された全証拠を改めて精査しても,前記認定判断を覆すに足りるものはない。
以上の次第で,1審原告の請求(当審における追加的新請求を含む。)のうち,1審原告が本件流派の家元の地位にあることの確認請求,不正競争防止法及び商標権に基づく事業表示及び標章の使用差止請求はいずれも理由があり,不法行為(不正競争行為及び商標権侵害)に基づく損害賠償請求は上記7の限度で理由がある。
よって,1審原告の本件控訴(当審における追加的新請求を含む。)に基づき,これと一部結論を異にする原判決を変更し,1審被告の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(当審口頭弁論終結日平成18年5月19日)