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関連ワード 差止請求(差止) /  営業上の利益 /  競業関係 /  代理人 /  秘密管理(秘密管理性) /  秘密であると認識 /  秘密として管理 /  営業秘密 /  2条1項7号 /  損害賠償 / 
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事件 平成 16年 (ネ) 5334号 不正競争行為差止等請求控訴事件
控訴人 A
訴訟代理人弁護士 笹原桂輔
同 笹原信輔
同 富田寛之
同 栢割秀和
同 十亀正嗣
被控訴人 B
被控訴人 C
両名訴訟代理人弁護士 相原佳子
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/02/24
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは,原判決別紙顧客名簿目録記載の者らに対し,面会を求め,電話をし,又は郵便物を送付するなどして,被控訴人らとの間でペットトリミング等の美容を行う旨の契約及び同契約に付随する営業行為を行ってはならない。
3 被控訴人らは,原判決別紙顧客名簿目録記載の者らから,来店を受け,又は電話を受けるなどして,被控訴人らとの間で,ペットトリミング等の美容を行う旨の契約及び同契約に付随する営業行為を行ってはならない。
4 被控訴人らは,その所持する原判決別紙顧客名簿目録記載の顧客の氏名,住所,電話番号,ペットの種類及び愛称が記載された「顧客名簿」並びに原判決別紙「ペットサロンムーお客様カード」と題する用紙に顧客氏名,紹介者,住所,電話,ペット愛称,種類,性別,誕生日及び備考情報が記載された「情報カード」を廃棄せよ。
5 被控訴人らは,控訴人に対し,各自3600万円を支払え。
6 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
7 仮執行宣言
事案の概要
控訴人は,ペットサロン「ムー」(以下「控訴人店舗」という。)を経営する者であり,被控訴人らは,控訴人店舗の従業員であったが,控訴人店舗を退職後,ペットサロン「ココ」(以下「被控訴人ら店舗」という。)を開店し,これを営業する者である。
控訴人は,被控訴人らに対し,@控訴人の営業秘密である「顧客名簿」(以下「本件顧客名簿」という。)及び「情報カード」(以下「本件情報カード」という。)に記載された各顧客情報を,被控訴人らが被控訴人ら店舗の営業活動に使用したことは,不正競争防止法2条1項7号又は4号の不正競争に当たり,A控訴人店舗に在職中から,競業関係に立つ被控訴人ら店舗の開店準備行為を行ったことは,雇用契約上の競業避止義務に違反し,債務不履行に当たり,また,B控訴人店舗に在職中から上記競業行為を行うことを企図し,被控訴人ら店舗を開店して競業行為を行い,控訴人店舗の顧客を勧誘して奪う行為は,自由競争の範囲を逸脱した違法な行為であり,不法行為に当たると主張して,不正競争防止法3条1項,2項に基づき,不正競争の差止め並びに本件顧客名簿及び本件情報カードの廃棄(控訴の趣旨2〜4)を求めるとともに,第1次的に同法4条に基づき,第2次的に民法415条に基づき,第3次的に同法709条に基づき,損害賠償として,各自3600万円の支払(控訴の趣旨5)を求めている。
原判決は,本件顧客名簿及び本件情報カードは,いずれも不正競争防止法2条4項所定の営業秘密に該当するとは認められず,また,被控訴人らに雇用契約上の債務不履行に当たる行為及び不法行為に該当する行為も認められないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。
前提となる事実,本件における争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり訂正,付加するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1〜3のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の訂正 (1) 原判決11頁1行目及び5行目の「ドックバス」を「ドッグバス」にそれぞれ改める。
(2) 同16頁13行目冒頭から20行目末尾までを「よって,控訴人は,被控訴人らに対し,不正競争防止法3条1項,2項に基づき,不正競争の差止め並びに本件顧客名簿及び本件情報カードの廃棄(控訴の趣旨2〜4)を求める(争点1,2)とともに,第1次的に同法4条に基づき,第2次的に民法415条に基づき,第3次的に同法709条に基づき,損害賠償として,各自3600万円の支払(控訴の趣旨5)を求める(争点1〜5)。」に改める。
2 控訴人の主張 (1) 争点1(本件顧客名簿及び本件情報カードの不正競争防止法2条4項所定の営業秘密該当性) 不正競争防止法2条4項のいわゆる「秘密管理」とは,従業員,外部者から認識可能な程度に客観的に秘密の管理状態を維持していること,具体的には,当該情報にアクセスした者が営業秘密であると認識できるようにされていること及び当該情報にアクセスできる者が制限されていることが必要であるが,上記要件は,不正競争の防止を図ることで事業者の営業上の利益を図り,かつ,事業者間の公正な競争を確保するという不正競争防止法の立法趣旨に照らし,控訴人と被控訴人らとの関係,控訴人店舗の営業の形態,ペットサロン営業の実態など,本件の具体的事情ないし特殊事情を総合考慮して実質的に判断すべきである。
本件において,送迎サービスを行うために,顧客の名前,住所及び連絡先が記載された本件顧客名簿が必要不可欠であること,トリミングでの事故や顧客とのトラブルを未然に防止するために,控訴人が考案した,ペットの特徴が記載されている本件情報カードは非常に重要なものであることから,本件顧客名簿及び本件情報カードが,控訴人店舗の営業上,極めて重要なものであることが明らかである。そして,被控訴人らは,控訴人店舗に10年間以上勤務していたベテラン従業員であり,本件顧客名簿と本件情報カードが,明確な「部外秘」の表示がなくても,営業秘密であることは,十分認識していたものである。また,本件顧客名簿は,B5版(見開きでB4版)のノートとして,本件情報カードは,A4版クリアファイル帳8冊の中のビニールファイル内に一顧客ごとに収め,いずれも,店舗1階入口から見て右側受付カウンター(レジ台,以下「受付カウンター」という。)下の扉の内側に,常時保管されていたものであり,その扉には鍵が掛けられ,顧客からは見えない状況下で保管されていた。このように,控訴人の管理の下,控訴人のほかには,長年勤務し,控訴人の信頼できる店長クラスの一部のベテラン従業員以外には接することが許されず,従業員全員が接することはできなかったものである。そして,控訴人は,レジを始め受付カウンターには,控訴人が指名した一部ベテラン従業員以外には立ち入らせなかったのであるから,本件顧客名簿及び本件情報カードは,アクセスできる者が十分制限されていたというべきである。
したがって,本件における上記具体的事情ないし特殊事情に照らせば,本件顧客名簿及び本件情報カードは,上記「秘密管理」の要件を満たすことが明らかである。
(2) 争点3(被控訴人らの雇用契約上の競業避止義務違反) 被控訴人Bは約12年間,被控訴人Cは約10年間,それぞれ長期間にわたって控訴人店舗に勤務してきたベテラン従業員であるから,他の勤務歴の少ない若手従業員とは,立場や地位が明らかに異なり,被控訴人らについては,商法41条又は同法48条の規定を類推適用すべきである。そして,被控訴人らは,控訴人店舗を退職後,わずか10日目に,控訴人店舗からわずか500メートルの場所に,控訴人店舗と全く同じ営業形態で,被控訴人店舗を開店しているのであるから,経験則上,被控訴人らは,控訴人店舗に在籍中から,労働時間中,被控訴人ら店舗の開店準備行為や控訴人の顧客に対する勧誘行為を行っていたことは明らかである。控訴人作成の平成15年11月20日付け陳述書(甲6,以下「甲6陳述書」という。)によれば,被控訴人らは,本件顧客名簿及び本件情報カードを書き写し,あるいはコピーし,また,控訴人や控訴人の夫であるDは,被控訴人らが控訴人店舗の上得意客に勧誘活動を行っていたことを目撃しており,しかも,被控訴人らから勧誘を受けた顧客の中には,被控訴人らの強引な勧誘を断れず,ペットサロンを代えざるを得なかったと述べた者もいたのであり,かつ,甲6陳述書は,そこに記載された事実の内容が具体的,詳細であって,十分信用性のあるものである。
(3) 争点4(被控訴人らの不法行為) 被控訴人らは,控訴人店舗からわずか500メートルの場所に,ペットの美容(トリミング)とペットホテルを中心に,業務用のワゴン車によるペットの送迎サービスを行い,個々のペットの状態に応じたシャンプー,薬品等を使用し,控訴人が独自に考案したドッグバスを使用するなど,控訴人店舗と全く同じ営業形態でペットサロンを開店している事実に照らせば,被控訴人らの顧客と控訴人が獲得する顧客とは,当然重なり合うものであり,被控訴人店舗の開店により,控訴人店舗の売上が減少し,控訴人に営業上の損害を及ぼすことを容易に認識することができることは,経験則上明らかである。それにもかかわらず,被控訴人らは,控訴人店舗を退職後,わずか10日目に,被控訴人ら店舗を開店したのであり,しかも,被控訴人らは,控訴人店舗に在職中から,本件顧客名簿及び本件情報カードを書き写し,あるいはコピーし,控訴人店舗の重要な秘密情報を盗み出した上,これらの情報を基に,控訴人店舗の上得意客に,執ようともいえる勧誘を行っていたのであるから,被控訴人らが,控訴人に対し,殊更損害を加える意図があったことは容易に推認できるものである。控訴人が独自に考案し,他店に先駆けて導入した,本件情報カード,ドッグバス,動物病院とのタイアップ,送迎サービスなどは,ペットショップ業界の従来の常識を変える画期的な営業アイディアであり,オリジナル性が極めて高く,その営業ノウハウは,保護すべき必要性も極めて高いものである。
したがって,本件顧客名簿及び情報カードが不正競争防止法2条4項所定の営業秘密に該当しないとしても,被控訴人らの上記行為は,不法行為に該当することが明らかである。
3 被控訴人らの反論 (1) 争点1(本件顧客名簿及び本件情報カードの不正競争防止法2条4項所定の営業秘密該当性)について 本件顧客名簿は,単なる住所録にすぎず,多くの既に死亡したペットや転居した顧客も,特段整理されることなく掲載されているものであり,本件情報カードも,重要なのは,個々のトリマーの腕であるから,いずれも,重要な情報ではない。また,本件顧客名簿は,特段,営業秘密であることは表示されていないし,保管場所が施錠されて,立ち入る者が制限されているわけでもなかったものであり,本件情報カードは,一頭の犬を作業別で複数人で担当する場合には,すべての従業員が見られるように,ホワイトボードに貼って作業することもあり,しかも,その内容が必要不可欠なのは,被控訴人らではなく,むしろ,新人やパートの従業員であった。
(2) 争点3(被控訴人らの雇用契約上の競業避止義務違反)について 被控訴人らが,控訴人主張に係る雇用契約上の競業避止義務違反に該当する行為をした事実はない。
(3) 争点4(被控訴人らの不法行為)について 被控訴人らが,控訴人主張に係る不法行為に該当する行為をした事実はない。
当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人の被控訴人らに対する請求は,いずれも失当として棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり補正,付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1〜3のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の補正 (1) 原判決18頁6行目の「主張し」から14行目末尾までを「主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。」に改め,同頁下から8行目冒頭から19頁1行目末尾までを削る。
(2) 同20頁1行目の「父親」の次に「E」を加え,同頁14行目及び15行目の「ドックバス」を「ドッグバス」にそれぞれ改める。
(3) 同21頁11行目の「親族」を「E」に改める。
2 控訴人の当審における主張に対する判断 (1) 争点1(本件顧客名簿及び本件情報カードの不正競争防止法2条4項所定の営業秘密該当性)について 控訴人は,本件顧客名簿及び本件情報カードは,控訴人店舗の営業上,極めて重要なものであることが明らかであり,被控訴人らは,明確な「部外秘」の表示がなくても,営業秘密であることを十分認識していたものであり,また,本件顧客名簿及び本件情報カードは,いずれも,受付カウンター下の扉の内側に,扉に鍵を掛けて保管され,控訴人の管理の下,長年勤務し,控訴人の信頼できる店長クラスの一部のベテラン従業員以外には接することが許されなかったものであるから,アクセスできる者が十分制限されていたというべきであると主張する。しかしながら,本件顧客名簿及び本件情報カードが,受付カウンター下の扉の内側に,扉に鍵を掛けて保管され,控訴人の管理の下,長年勤務し,控訴人の信頼できる店長クラスの一部のベテラン従業員以外には接することが許されなかったものであるとの事実については,これを認めるに足りる証拠は全くない。かえって,甲6陳述書の「今まで担当していた技術者がお店を辞めた場合にも,この『お客様カード』(注,本件情報カード)があることによって,次の技術者にそのペットに関する情報が引き継がれて,そのペットに合った美容の施術をすることが出来るようになります。従来のペットサロンでは担当だった技術者がお店を辞めると,新しい技術者がそのペットに関してまた一からやり直さなくてはならず,ひいては顧客の満足度が満たされないということが起こっていました。しかし,『お客様カード』があれば,技術者が交替してもそのペットに関する情報が引き継がれるのでそのような心配はなく,顧客に対するサービスが満たされることになるのです」(6頁最終段落)との記載によれば,本件情報カードは,控訴人店舗の日常の業務において,ベテランの従業員よりは,むしろ新たに採用された従業員に利用されていたものであると認められる。また,本件顧客名簿に記載された情報は,顧客番号,顧客の氏名,住所,電話番号,ペットの種類及びその愛称であるところ,これらの情報は,すべて本件情報カードにも記載されている情報であるから,本件情報カードの上記利用状況に照らすと,本件顧客名簿についても,これにアクセスできる者が制限されていたとは認め難い。
以上検討したところによれば,本件顧客名簿及び本件情報カードは,いずれも秘密として管理されていたものであるとは認めることができず,不正競争防止法2条4項所定の営業秘密に該当するということはできない。
(2) 争点3(被控訴人らの雇用契約上の競業避止義務違反)について 控訴人は,被控訴人らについては,商法41条又は同法48条の規定を類推適用すべきであり,被控訴人らは,控訴人店舗に在籍中から,労働時間中,被控訴人ら店舗の開店準備行為や控訴人の顧客に対する勧誘行為を行っていたことは明らかであると主張する。しかしながら,被控訴人らは,控訴人店舗において,商法41条ないし同法48条を類推適用することを相当とする立場にあったものと認めることはできない上,被控訴人らが,控訴人店舗に在籍中から,労働時間中,被控訴人ら店舗の開店準備行為や控訴人の顧客に対する勧誘行為を行っていたことを認めるに足りる証拠は全くない(控訴人の引用する甲6陳述書にも,控訴人の上記主張に沿う記載はない。)。
したがって,被控訴人らに雇用契約上の債務不履行に当たる行為を認めることはできない。
(3) 争点4(被控訴人らの不法行為)について 控訴人は,被控訴人店舗の開店により,控訴人店舗の売上が減少し,控訴人に営業上の損害を及ぼすことを容易に認識することができるにもかかわらず,被控訴人らは,控訴人店舗を退職後,わずか10日目に,被控訴人ら店舗を開店したのであり,しかも,被控訴人らは,控訴人店舗に在職中から,本件顧客名簿及び本件情報カードを書き写し,あるいはコピーし,控訴人店舗の重要な秘密情報を盗み出した上,これらの情報を基に,控訴人店舗の上得意客に,執ようともいえる勧誘を行っていたと主張する。しかしながら,被控訴人らが,控訴人店舗の在職中から,本件顧客名簿及び本件情報カードを書き写し,あるいはコピーし,控訴人店舗の重要な秘密情報を盗み出したとの事実を認めるに足りる証拠は全くなく,被控訴人らが,控訴人店舗を退職後10日目に被控訴人ら店舗を開店したこと自体は,何ら違法ということはできない。また,控訴人は,本件情報カード,ドッグバス,動物病院とのタイアップ,送迎サービスなどは,画期的な営業アイディアで,オリジナル性が極めて高く,その営業ノウハウは,保護すべき必要性も極めて高いとも主張するが,上記ノウハウ自体は,控訴人が独占できるものではないから,被控訴人らがこれらのノウハウを使用する行為も,何ら違法ということはできない。
したがって,被控訴人らに自由競争の範囲を逸脱した違法な行為があるということはできず,不法行為に該当する行為を認めることはできない。
3 結論 以上によれば,本件顧客名簿及び本件情報カードは,いずれも不正競争防止法2条4項所定の営業秘密に該当するとは認められず,また,被控訴人らに雇用契約上の債務不履行に当たる行為及び不法行為に該当する行為も認められないのであるから,控訴人の被控訴人らに対する請求をいずれも棄却した原判決は相当である。
よって,控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 早田尚貴
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