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事件 平成 15年 (ワ) 27084号 不正競争行為差止等請求事件
原告 三山工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 渡邊敏
同 森利明
同補佐人弁理士 林宏
同 林直生樹
被告 株式会社フレックスシステム
被告 株式会社ステークス
上記両名訴訟代理人弁護士 深井潔
同補佐人弁理士 犬飼新平
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2005/02/15
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告株式会社フレックスシステムは,別紙被告商品目録記載のマンホール用ステップを使用し,販売し,貸し渡し,譲渡又は貸渡しのために展示してはならない。
2 被告株式会社フレックスシステムは,その本店,営業所及び工場に存する前項の物件並びにその半製品,仕掛品を廃棄せよ。
3 被告株式会社ステークスは,別紙被告商品目録記載のマンホール用ステップを製造し,販売し,貸し渡し,譲渡又は貸渡しのために展示してはならない。
4 被告株式会社ステークスは,その本店,営業所及び工場に存する前項の物件並びにその半製品,仕掛品を廃棄し,同物件の製造に必要な金型等の製造設備を除却せよ。
5 被告らは,原告に対し,各自金397万2000円及びこれに対する平成15年12月17日から年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 争いのない事実等 ・ 当事者 原告は,昭和46年1月18日に設立された,コンクリートマンホール及びそれに付随するコンクリート構造物の足場であるステップの販売を業とする会社である。
被告株式会社フレックスシステム(以下「被告フレックス」という。)は,マンホール用ステップの販売等を業とする会社である。
被告株式会社ステークス(以下「被告ステークス」という。)は,建築用金属製品製造を業とする会社である(弁論の全趣旨)。
・ 原告の商品 原告は,昭和59年ころから,別紙原告商品目録記載の構成を備えたマンホール用ステップ(以下「原告商品」という。)を販売している。原告商品は,「ノーブレン ハンド&ソール ステップ」と題するカタログ(甲21の1及び2)に掲載された商品のうちの一部である。
・ 被告らの行為 被告フレックスは,平成14年10月3日,別紙被告商品目録記載のマンホール用足掛具(以下「被告商品」という。)を販売した。これは,被告ステークスが寄託を受け,保管していた被告商品を,西濃運輸3条支店から,東京コンクリート工業株式会社藤岡工場(以下「東京コンクリート」という。)に対し,同被告が発送元となって,発送したものである(甲14,乙21,弁論の全趣旨)。
2 本件は,原告が被告らに対し,別紙原告商品目録記載の構成が周知であり,これと類似する被告商品の販売等の行為が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当すると主張して,同法3条に基づき,被告商品の販売等の差止め及び廃棄を請求するとともに,同法4条に基づき,損害賠償を請求する事案である。
3 争点 ・ 原告商品の形態は,不正競争防止法2条1項1号所定の「商品等表示」に該当するか。
・ 原告商品の形態と被告商品の形態類似するか。
・ 被告商品の販売により,誤認混同を生じるか。
・ 損害の発生及びその額 ・ 差止めの必要性
争点に関する当事者の主張
1 争点・(商品等表示)について 〔原告の主張〕 ・ 原告は,昭和59年ころから,「ノーブレン ハンド&ソール ステップ」と題するカタログ(甲21の1及び2)に掲載されたマンホール用ステップの販売を始め,平成3年ころには,原告の商品は,すべて上記商品に統一された。
・ 原告の上記商品は,別紙原告商品目録記載のとおり,いずれもその形態に次のとおりの構成を備えている。
@ 赤色反射体 全体にU字形の芯金に黄色の合成樹脂層を被覆したマンホール用ステップであり,足踏部及びその両側に位置する脚部を備え,足踏部の上面及び下面の両端部には,円形の赤色反射体(赤色円形反射体の周りにリング状の縁取り)が取り付けられている。
A 足踏部のX字形 足踏部の上面及び下面には,滑止め用の凸部があり,凸部はX字形が多数連続して横方向に並んでいる。足踏部の合成樹脂層の上面と下面は脚部の付け根部分まで平らであって,略鍵括弧状である。
B 握り部 足踏部の内側側面の上下方向の中間部分が水平方向に盛り上がり,平面視二重の多数の波形形状をもつ握り部が左右対称に形成されている。握り部の左右端は,凹部であって,その波形の終端は,足踏部と脚部の角部から,脚部にかけて設けられている。
・ 原告は,平成12年7月から平成14年11月まで,原告商品の形態とは異なる別紙写真・に掲載された商品(以下「八角レンズステップ」という。)を販売しており,その間,平成8年から平成11年まで販売していた原告商品の構成@ないしBを有する別紙写真・に掲載された商品の販売を停止していたが,現在は,これを販売している。
なお,原告は,平成8年ころから,原告商品の形態とは異なる形態の「ノーブレン ハンド&ソール ロフティーステップ」と題するカタログ(甲21の3)に掲載された商品(以下「ロフティーステップ」という。)の販売を始めたが,この間も,原告商品の販売は続けていた。
・ア 原告商品の形態の特徴である,@反射体,A凸部,B波形握り部について,原告又は原告代表者Aが出願した意匠は,昭和58年から平成13年分まで,別紙公報一覧記載のとおり,54件存在する。特許出願についても,原告商品の構成@ないしBを図面に記載したものが平成7年から平成12年分のものまで42件,実用新案権については1件存在する。
イ また,原告は,環境公害新聞社が発行している業界紙「月間下水道」(発行部数1万2000部),社団法人日本下水道協会が発行している協会誌「下水道協会誌」(平成3年2月号から平成13年9月号までは1万2000部,それ以降は1万0800部),公共事業通信社が発行している週刊誌「週刊ブロック通信」(1回5000部,年間27万部),日本水道新聞社が発行している週刊新聞紙「日本下水道新聞」(年間216万部発行),財団法人建設物価調査会が発行する月刊誌「建設物価」(発行部数は,平成13年1月現在15万部),財団法人経済調査会の発行する月刊誌「積算資料」などに,継続して原告商品の広告を掲載してきた。
さらに,原告は,平成4年5月及び平成11年10月8日に原告商品が掲載されたカタログを発行した。
ウ 原告は,昭和46年に設立されてから,マンホール用ステップのトップメーカーとして,全国のシェアーの半分以上を長年占めてきた。
・ したがって,原告商品の形態は,遅くとも平成4年5月ころまでには,当業者及び需要者の間で広く知られた形態となっていたから,前記・の構成@ないしBは,原告の「商品等表示」ということができる。
〔被告らの主張〕 ・ 原告主張の商品等表示は,原告商品の一部であって,独立して取引の対象となる商品の形態を備えていない。抽象的な構成態様については,商品等表示としては保護されないものと解すべきである。
原告商品においては,原告が主張する特徴のほかにも,埋込部の止水パッキングの形態も重要な要素である。すなわち,埋込部が脚部から直角上方に屈曲している形態が原告商品の特徴であり,原告は,埋込部の形態を「足」に見立てた絵でもって,これを広告宣伝しているから,商品等表示に当たるのは,埋込部を含む全体形状としての形態に限定されるべきである。原告商品の埋込部を除いた部分の形状が周知性を獲得し得たという特別な事情はなく,埋込部の形態をその商品形態の構成から除外する原告の主張は不当である。
・ 原告が主張する原告商品の構成@ないしBは,いずれもありふれたものであり,特別顕著性又は出所表示機能を有するものではない。
@ 上下面両端部に反射体を設けることは,反射体の機能上必然であり,その形状も円形というごくありふれたもので,この種器具を製造するに当たって通常予想される形態選択の範囲を超えるものではなく,個性的な特徴を有するものでない。また,原告が実用新案登録出願しているとおり,技術的,機能的な特徴である。
A 滑止め用凸部を設けることは,ステップとしての機能上必然であり,その形状もX字形というごくありふれたもので,この種器具を製造するに当たって通常予想される形態選択の範囲を超えるものではなく,個性的な特徴を有するものではない。
B 握り部を波形に形成することは,技術的機能に由来する必然的な形態であり,かつ,その形状も波形というごくありふれたもので,この種器具を製造するに当たって通常予想される形態選択の範囲を超えるものではなく,個性的な特徴を有するものではない。波形形状は,握りやすくするための技術的機能に由来するものである。原告も,「波形形状を持つ握り部」を特徴としたものを,発明や考案として登録出願している。
2 争点・(類似性)について 〔原告の主張〕 ・ 被告商品の構成は,次のとおりである。
@’全体にU字形の芯金に黄色の合成樹脂層を被覆することにより,足踏部及びその両側に位置する脚部を備え,足踏部の上面及び下面の両端部には,円形赤色反射体(赤色の円形の反射体とその外周に八角形状の縁取りがあり,最外周部分は肉太の菱形線状の縁取り)が取り付けられており,埋込部がマンホール壁内に挿入されるステップであり,埋込部始端部に鍔を設け,その先端側に弾性パッキンを環装し,埋込部中間部の合成樹脂被覆端に環状面が形成され,埋込部の先端部は芯金で形成され,先端部は先端のねじ部と中間のねじ部より拡径したテーパー部からなり,環状面と埋込部先端部との間に,環状面側から順次,リング状部と円錐台形部からなるゴム製止水パッキング,鋼製のワッシャとナットを配置し, A’足踏部 該合成樹脂層の上下面に滑止め用の凸部があり,凸部は字形, 字形が順次連続して多数横方向に並び,しかも足踏部の合成樹脂層の上面と下面は脚部の付け根部分まで,平らであって,略鍵括弧状であり, B’握り部 足踏部の内側側面の中間が盛り上がり,平面視二重の多数の波形形状をもつ握り部が形成されており,各波形状は頂部と底部から構成されており,各波形状は足踏部において左右対称に設けられており,握り部の左右端は,底部であって,その波形の終端は,足踏部と脚部の角部から,脚部にかけて設けられている。
・ 原告商品の構成@と被告商品の構成@’,原告商品の構成Bと被告商品の構成B’は類似することが明らかである。
原告商品の構成Aと被告商品の構成A’は,凸部がX字形と字形, 字形という違いがあるが,欧文字が連続して横に並んでいることは共通しており,と は,X字形の変形と考えられるから,文字的にも類似している。また,左右傾斜の斜めの凸部により前後左右方向への手足の滑りを防止している点で共通性がある。離れてみたときにも,被告商品は原告商品と非常に紛らわしい形状である。
したがって,被告商品は,原告商品に類似する。
〔被告らの主張〕 ・ 原告は,これまで多数の意匠登録出願をし,意匠権を得ているが,これらを検討してみると,@反射体,AX字凸部模様及びB波形握り部を持ったものでも,コンクリート埋込部の形態が変われば,独立意匠として意匠登録されている。
これは,コンクリート埋込部の形態が変われば,互いに非類似と判断されたからにほかならない。
・ 「滑止め凹凸」は,コンクリートから露出した大部分の上下面に,多数がほぼ規則的な位置関係で配置されている。しかも,この部分は,足踏部や手握り部となるから,特に注目される部分であり,商品等表示類似判断に重要な要素となる。
原告商品の「略X字形」に対し,被告商品は,「略A字,反A字形」であるから,その違いは明白である。意匠登録例においては,足掛金具のうちほぼ「滑止め凹凸」だけの違いで登録されているものもある。
したがって,凸部の字形の違いのみからしても,原告商品と被告商品は非類似である。
3 争点・(誤認混同)について 〔原告の主張〕 ・ マンホール用足場金具の主な需要先は官公庁であるといわれているが,今日では,官公庁の検査は社団法人日本下水道協会(公益法人)に委託されている。
そして,マンホールの規格は,建設省都市局下水道部監修の「下水道施設計画・設計指針と解説」に掲載されているが,マンホールの足掛金物(ステップ)については,材料が記載されているだけで,一定の規格など存在せず,日本下水道協会の検査対象品でもない。
また,入札の結果落札した工事業者は,役所が定めた工事の概要に具体的にどのような資材を使用するかの承認を受けるが,この際,工事業者はどこの工業会のマンホールを使用するかは自由であり,ステップについては具体的な規格もないので,承認願書にはその内容は記載していない。工事業者は,認定資器材の各工業会のうち17団体中から特定のマンホールを選択でき,ステップはどこのメーカーの製品を付けても問題がないのである。したがって,需要先が官公庁であるとしても,制度上特定のメーカーに対する選択が排除されているとはいえない。
原告は,原告商品を工事関係業者に広く宣伝している。購入者は工事関係業者であり,原告商品と類似する被告商品は,商品の誤認混同を引き起こしているのである。
・ 原告商品の流通ルートとしては,工場取付用ステップルートと現場取付用ステップルートの2通りがある。
ア 工場取付用ステップルートは,工業会で工場生産を行い,完成品を現場に設置する方法による場合である。組立マンホールメーカーからいったん建築土木資材販売商社を経由して建設工事業者に販売する方法が多いが,直接建設工事業者に販売することもある。
イ また,現場取付用ステップルートは,施行現場で直接マンホールのコンクリートを流し込んで建設する「現場打ち」という施工方法による場合であり,カタログに掲載されている標準モデルが使用される。建築土木資材販売商社から,建設工事業者へ販売することが一般的であるが,店頭販売を行うこともある。この流通ルートでは,誤認混同が発生しない場面があり得るが,建設工事業者が建築土木資材販売商社から仕入れるときに,商社の販売の仕方により,十分に誤認混同が起きる可能性がある。
ウ 以上のとおり,工場取付用ステップルートと現場取付用ステップルートともに,建築土木資材販売商社を経由することがあり,この部分で原告商品と被告商品は誤認混同を引き起こしている。
〔被告らの主張〕 ・ ユーザー(地方自治体)は,下水道工事場所を決め,これに基づき,マンホールとそれに付帯する足掛金具ほか各種物品の仕様を決める。そして,この仕様をもって工事業者(ゼネコン等)の入札を行う。工事業者は,工事にかかる費用の見積を行うが,このときマンホールメーカー(東京コンクリート等)に対して,マンホール及びそれに付帯する物品(足掛金具,ステップ等)の価格見積を提出させる。マンホールメーカーは,付帯物品メーカー(原告又は被告フレックス等)に対して,付帯物品の価格見積を提出させる。これにより,被告フレックスは,被告フレックスの明確な出所表示のもとに,材料承認願をマンホールメーカーに提出する。その後,マンホールメーカーから被告フレックスに注文書が送付され,被告フレックスから納期を回答し,出荷案内書・納品書を添付し,顧客に納品しているものである。
したがって,上記の被告商品の流通の実情を見れば,そもそも商品の誤認混同が生じる余地はない。
・ 原告が主張する現場打ちの場合には,上記承認願が事前に工事業者により官公庁に提出されるので,同様である。
・ また,被告商品は上記ルート以外は流通しておらず,かつ,製造者を明示するため,「FLEXSYS」という登録商標を足掛部と脚部との境界部に表示している。
特に,本件における被告商品は,東京コンクリートの注文に基づき製造,販売したものであり,被告フレックスは店頭販売を一切行っていない。したがって,誤認混同が生じる余地はない。
4 争点・(損害)について 〔原告の主張〕 東京コンクリートに対する被告商品の販売総数は1万9000本であり,販売総額は1182万4000円である。
また,通常の被告商品(SS)相当の原告商品(MN155)の単価は680円であり,被告のステンレス製品(SUS)相当の原告商品(SAS-403)の単価は1080円である。
したがって,原告商品の単価で被告の販売総数を売り上げた場合,総売上は,1324万円である。原告商品の利益率は,30%であるから,次のとおり,397万2000円が原告の受けた損害である。
1324万円×0.3=397万2000円 〔被告らの主張〕 通常の被告商品(SS)の販売単価は1本当たり608円であるが,ステンレス製品(SUS)の単価は930円であり,平均販売単価は約623円である。
東京コンクリートに対する被告商品の販売総数は,1万6800本,販売総額は1047万2000円である。
5 争点・(差止めの必要性)について 〔原告の主張〕 被告フレックスは,平成15年9月末に東京コンクリートに対する被告商品の販売を止めたが,その後も治水ヒューム管工業株式会社に対して,販売を続けている。したがって,差止めの必要性も存在する。
〔被告らの主張〕 争う。
当裁判所の判断
1 証拠によれば,以下の事実が認められる。
・ 原告商品の構成について ア 原告は,昭和59年ころから,別紙原告商品目録記載の構成を備えたマンホール用ステップ(原告商品)を販売し始めた(甲59,60の1ないし3)。
原告商品は,平成4年5月及び平成11年1月に発行された「ノーブレン ハンド&ソール ステップ」と題する原告のカタログ(甲21の1及び2)に掲載された商品のうちの一部である。上記カタログには,原告が原告の商品等表示であると主張する前記第3の1〔原告の主張〕・@ないしBの構成を有する商品が複数掲載されている。
イ 別紙原告商品目録には,足踏部及びその両側に位置する脚部を備え,平面視略コの字形のマンホール用ステップが記載されている。原告商品は,具体的構成態様において,以下のような共通の構成を有している。
A-1 足踏部の上面及び下面の両端部に赤色反射体が取り付けられていること。
A-2 赤色反射体の形状は円形であり,赤色反射体の周りにリング状の縁取りがされていること。
B-1 足踏部の上面及び下面に滑止め用凸部が順次連続して多数横方向に並んでいること。
B-2 滑止め用凸部の形状はX字形であること。
C-1 足踏部の内側側面に波形の握り部が形成されていること。
C-2 握り部の形状は左右対称に指掛け用の複数個の谷部と山部を交互に並設した波形であること。
もっとも,上記目録では省略されているが,原告商品は,マンホール用ステップという商品としては,脚部の先にコンクリートに取り付ける埋込部を有している。原告商品は,さまざまな種類のシステムを有するものであるところ,それが有する機能に伴い,埋込部の形態は種々変化し,埋込部を含んだ商品の全体の形状すなわち基本的構成態様にはさまざまな形態のものがある。
ウ 原告商品の足踏部の長さも,長いものから短いものまでさまざまである。
また,「ノーブレン ハンド&ソール ステップ」と題するカタログ(甲21の1及び2)に記載されている「ツーバイステップシステム」「ロングマイティーステップシステム」「ロングサイドポールステップシステム」等は,足踏部の内側側面の形状が波形ではあるものの,足踏部から埋込部にかけての形状が別紙原告商品目録に記載された略コの字形に直角に折れ曲がる形状とは異なり,足踏部から埋込部までが一本の直線であったり,二重に直角に折れ曲がっていたりする。同カタログ中の「ロングサイドポールステップシステム」「サイドポール&リヤガードシステム」は,赤色反射体付近に円形の穴が付加されている。「シグマステップシステム」「オメガステップシステム」は,足踏部が直線状ではなく弓形に反った形状であるし,「ホールアンカステップシステム」「ミニステップシステム」は,足踏部の凸部が-字形であり,X字形の原告商品のB-2の構成を有しない。
このように,上記カタログには,上記AないしCの構成を備えた原告商品が複数掲載されているが,その全体の形状はさまざまであり,また,同カタログに掲載されたすべての商品が上記AないしCの構成を有するわけではない。
エ 原告は,平成8年ころから,「ノーブレン ハンド&ソール ロフティーステップ」と題するカタログ(甲21の3)に掲載された商品(ロフティーステップ)の販売を始めたが,ロフティーステップは,少数の例外を除きいずれも赤色反射体の形状が円形ではなく,足踏部から脚部にかけて,接合部の内側が四半円弧で外側が四半円弧とそれに続く直線部を有する部分全体に設けられており,原告商品のA-2の構成を有しない。
また,原告は,平成12年7月から平成14年11月まで,東京コンクリートに対し,別紙写真・記載の商品(八角レンズステップ)を販売していたが(甲1ないし6,甲7の1ないし6,弁論の全趣旨),八角レンズステップは,赤色反射体の形状が八角形状で,内側に円形の線が挿入されており,その外周に八角形状の縁取りがあり,最外周部分は肉太の菱形線状の縁取りがされている。したがって,上記商品も,原告商品のA-2の構成を有しないものである。
このように,原告が販売したマンホール用ステップの中にも,前記原告商品のAないしCの構成を有しない商品があった。
オ 「ノーブレン ハンド&ソール ステップ」と題するカタログ(甲21の1及び2)には,原告商品の前記AないしCの構成を含む各種のマンホール用ステップについて,埋込部を含む全体の形状が掲載されているが,その埋込部は,脚部から上に向けてほぼ直角に折れ曲がった形態のものが多い。
環境公害新聞社が発行する業界紙「月刊下水道」平成3年6月号ないし平成12年3月号(甲16の1ないし5),社団法人日本下水道協会が発行する協会誌「下水道協会誌」平成11年3月号(甲17の5),日本水道新聞社が発行する週刊新聞紙「日本下水道新聞」平成11年6月22日号(甲19の1),財団法人建設物価調査会が発行する月刊誌「建設物価」昭和62年12月号ないし平成11年5月号(甲20の1ないし13),財団法人経済調査会が発行する月刊誌「積算資料」平成3年12月号ないし平成13年4月号(甲22の1ないし6)には,原告商品のAないしCの構成を備えたマンホール用ステップが掲載されている。そこでは,埋込部を含む全体の形状が掲載され,その埋込部は脚部から上に向けてほぼ直角に折れ曲がった形態である。(なお,「月刊下水道」平成13年9月号(甲16の6),平成12年3月号以降の「下水道協会誌」(甲17の6ないし8),平成12年以降の「日本下水道新聞」(甲19の2及び3),平成12年10月号以降の「建設物価」(甲20の14ないし17)には,原告商品とは赤色反射体の形状が異なるロフティーステップが掲載されている。) このように,原告商品は,埋込部を含むマンホール用ステップの全体の形状がカタログや業界紙に掲載されており,その多くが,埋込部が脚部から上に向けてほぼ直角に折れ曲がった形態のものである。
カ 原告は,「ノーブレン ハンド&ソール ステップ」の販売開始後,円形の赤色反射体を目に,直角に折れ曲がった埋込部を足に模したキャラクターの絵を使用して,マンホール用ステップを宣伝している(甲16の1ないし6,甲18の1ないし6,甲59)。
・ 原告商品のAないしCの構成について ア 原告商品のA-1の構成(足踏部の上面及び下面の両端部に赤色反射体が取り付けられていること)は,深く暗いマンホール内でわずかな光を受け止めて光ることにより,ステップの昇降を安全に誘導するために設けられたものである(甲21の1及び2,甲59)。
原告は,昭和58年10月14日,足踏部の両端近傍に表面が突出しかつ前記足踏部の限界を表示する反射板を設け,該反射板の裏面にプリズム状の凸面を形成したことを特徴とするマンホール等用足掛具について,実用新案登録を出願した(乙18)。この考案の反射板は,足踏部の位置が正確に特定表示され,急いで昇降する場合等に足踏部以外の箇所を踏み身体のバランスを崩したりすることがなく,安全で汚れることの少ないものであり,足踏部の水平方向の取付位置の正確な確認ができるという作用効果を奏するものである。
足踏部の両端部に赤色反射体を設けることは,株式会社オカグレート作成のパンフレット(乙3)に記載されているジェットトップマンホールステップ(甲49)にも採用されており,平成8年2月26日に意匠登録された岡島工業株式会社のマンホール用足場金具にも同様の反射体が設けられている(乙4)。ただし,これらの反射体は,円形ではない。
足踏部の上面及び下面の両端部に円形の反射体が設けられた形状は,平成元年4月5日ないし同年7月13日に登録された石田鉄工株式会社の登録意匠に見られる(乙9ないし11,弁論の全趣旨)。また,上記原告の考案に係る実用新案公報(乙18)においては,実施例に係る図面に円形の反射体が示されているものの,円形であることは考案の特徴とはされていない。
イ 原告商品のB-1の構成(足踏部の上面及び下面に滑止め用凸部が順次連続して多数横方向に並んでいること)は,靴の滑りによる危険を抑えるために設けられたものであり,B-2の構成(滑止め用凸部の形状はX字形であること)は,最大の摩擦抵抗力を示し,どのような環境状況においても水や泥の滞留がなく,結氷のおそれもないようにするために設けられたものである(甲21の1及び2,甲59)。
足踏部に滑止め用凸部を並べることは,株式会社オカグレート作成のパンフレット(乙3)に記載されているジェットトップマンホールステップ(甲49)にも採用されているが,その凸部は小さな丸い突起状である。また,平成8年2月26日に意匠登録された岡島工業株式会社のマンホール用足場金具にも同様の形態のものがある(乙4)。さらに,平成元年4月5日に登録された石田鉄工株式会社の意匠公報には,足踏部に凹凸を設けたマンホール用ステップが記載されているが,その凸部は「。/ °」を斜めにした模様が左右対称に現れる形状である(乙9ないし11)。なお,平成15年7月25日に公開された株式会社ハネックスの公開特許公報には,その説明図に足踏部にX字形の凸部を設けたマンホール用ステップが記載されている(乙7)。
ウ 原告商品のC-1の構成(足踏部の内側側面に波形の握り部が形成されていること)は,ステップに手を掛けたときに握りやすく,滑止めの機能を果たすために採用され,安全に昇降を行えるように,付加されたものである(甲21の1及び2,甲59)。
原告は,昭和57年2月16日,把持部の指が掛かる部分に指の太さに近似させた凹部を複数個並設し,指掛部に凹凸を設けた昇降用足掛金具について,特許を出願し(乙13),同様に,昭和57年2月16日ないし昭和60年2月22日に,握り部を波形に形成することを特徴の一部とする昇降用足掛金具について,実用新案登録を出願した(乙14ないし17)。これらの発明ないし考案において握り部を波形に形成することは,手の横滑りを防ぎ,手許を確実にして,昇降時の体の安定を保持するため動作が確実性を増し,昇降を容易にして滑り落ちる等の事故の減少に寄与するという作用効果を奏する。
握り部の内側側面を波形に形成することは,株式会社オカグレート作成のパンフレット(乙3)に記載されているジェットトップマンホールステップ(甲49)にも採用されており,平成8年2月26日に意匠登録された岡島工業株式会社のマンホール用足場金具にも同様の形態のものがある(乙4)。また,平成12年9月5日ないし平成15年9月19日に公開された公開特許公報には,その説明図に握り部の内側側面が波形のマンホール用ステップが記載されているものがある(乙5ないし8)。
・ 原告商品の販売状況について ア 原告商品は,ロフティーステップが販売されるようになった平成8年より前には,マンホール用ステップの中で一定の販売量を占めていたものと推認されるものの,これを裏付けるに足りる証拠はない。
イ 他方,原告商品と形態が異なるロフティーステップが販売されるようになった平成8年以降の原告における出荷数は,ロフティーステップが全体の半数を上回り,特に平成12年以降は,ロフティーステップの出荷割合が全体で約89%,工業会が工場で取り付けるケースでは約95%を占めるようになっている(甲48の1ないし3)。
なお,原告が八角レンズステップを販売していたことや「ノーブレン ハンド&ソール ステップ」と題するカタログ(甲21の1及び2)に掲載されたすべての商品が上記AないしCの構成を有するわけではないことに照らせば,上記ロフティーステップの出荷割合を除いたものがすべて原告商品であるとはいえないし,甲50及び51の1ないし4において「旧タイプ丸レンズ」として集計されている中にも,原告商品の構成AないしCの構成を有しないものが含まれていると推認され,結局,原告商品の販売数量を認めるに足りる証拠はない。
・ 意匠権の取得状況 原告及び原告代表者であるAは,マンホール用ステップに関し,別紙公報一覧記載のとおり,意匠権を有しているが,そのうち,同番号1ないし22及び54の3ないし5(登録日昭和59年11月12日ないし平成7年8月24日)は,原告商品のAないしCの構成をその一部として有するマンホール用足場金具であり,その余は,いずれも赤色反射体の形状が異なるか,物品がマンホール用ステップとは異なる商品である。上記原告商品のAないしCの構成をその一部として有するマンホール用足場金具の登録意匠の埋込部の形状はさまざまであり,埋込部の形状が異なる意匠が独立して登録されている(甲15の1,2及び4,34の1,39の1ないし5,乙19の1ないし53)。
2 争点・(商品等表示)について ・ 不正競争防止法2条1項1号は,他人の周知な商品等表示と同一又は類似商品等表示を使用することをもって不正競争行為と定めたものであるところ,その趣旨は,周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するため,周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより,事業者間の公正な競争を確保することにある。
同号にいう「商品等表示」とは,「人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」をいう。商品の形態は,商標等と異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが,商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして,このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し,不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するためには,@商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,Aその形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により(周知性),需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていることを要すると解するのが相当である。
他方,不正競争防止法2条1項1号の趣旨は前記のとおりであり,商品の形態自体やそれによって達成される商品の機能を当該事業者に独占させることを目的とするものではないものの,商品の形態自体が上記「商品等表示」に該当し,当該商品の販売行為が同号に該当するとすると,その場合には,当該形態を有する商品の販売そのものが禁止されることになる。このような場合であっても,その商品の形態が商品の技術的な機能及び効用と関係がないか,又は商品の技術的な機能及び効用に由来はするが他の形態を選択する余地があるときには,商品の形態を変更することにより,同一の機能及び効用を奏する商品を販売することが可能となる。
これに対し,商品の形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するため他の形態を選択する余地のない不可避な構成に由来するときは,結果的に,特許権等工業所有権制度によることなく,永久にその形態によって実現されるのと同一の機能及び効用を奏する同種の商品の販売が禁じられ,第三者の市場への参入を阻害し,これを特定の事業者に独占させることになる。このような形態が商品等表示に該当するとすると,結果的に,周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するというにとどまらず,商品の技術的な機能及び効用を第三者が商品として利用することを許さず,当該商品についての事業者間の公正な競争を制約することとなる。
したがって,商品の形態が商品の技術的な機能及び効用に由来する場合であっても,他の形態を選択する余地がある中から客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有する形態を採用し,その商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合には,商品の技術的な機能及び効用に由来することの一事をもって不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当しないということはできない。もっとも,商品の形態が商品の技術的な機能及び効用に由来する場合には,商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していることは稀であり,同種商品の中でありふれた形態であることが多いと思われ,このような場合には,結局,前記@の要件を欠き商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するには至らず,「商品等表示」に該当しないことに帰する。
これに対し,当該形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するため他の形態を選択する余地のない不可避な構成に由来する場合には,これを工業所有権制度によることなく永久に特定の事業者に独占させることは相当ではないから,上記「商品等表示」として保護することはできないと解するのが相当である。
・ 本件についてこれをみるに,前記1・認定のとおり,原告商品のA-1の構成(足踏部の上面及び下面の両端部に赤色反射体が取り付けられていること)は,深く暗いマンホール内でわずかな光を受け止めて光ることにより,ステップの昇降を安全に誘導するために設けられたものであり,B-1の構成(足踏部の上面及び下面に滑止め用凸部が順次連続して多数横方向に並んでいること)は,靴の滑りによる危険を抑えるために設けられたものであり,C-1の構成(足踏部の内側側面に波形の握り部が形成されていること)は,ステップに手を掛けたときに握りやすく,滑止めの機能を果たすために採用されたものであり,いずれもマンホール用ステップという商品において,安全に昇降を行うという技術的な機能及び効用を実現するため他の形態を選択する余地のない不可避な構成に由来するものである。
よって,原告商品の上記A-1の構成,B-1の構成及びC-1の構成は,いずれも技術的な機能及び効用を実現するため他の形態を選択する余地のない不可避な構成に由来するものであり,かつ,いずれも他社製品にも存在するありふれたものであることも前記1・認定のとおりであるから,これらの点をもって不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するということはできない。
もっとも,このような技術的な機能及び効用を実現するための具体的構成である前記A-2の構成,B-2の構成及びC-2の構成は,他の形態を選択する余地がないとまではいえず,原告商品の上記具体的構成が不可避なものということはできない。
原告商品のB-2の構成(滑止め用凸部の形状はX字形であること)は,商品の技術的機能及び効用に由来する形態ではあるが,滑止め用凸部の形状としてはさまざまな形態を選択する余地がある中でこれを選択したものということができ,被告商品の販売の時点では原告以外に使用した者がいることを認めるに足りる証拠はなく,客観的に他の同種商品とは異なる特徴を有する形態であったものということができる。
他方,原告商品のA-2の構成(赤色反射体の形状は円形であり,赤色反射体の周りにリング状の縁取りがされていること)のうち,赤色反射体の形状が円形であることは,他社製品にも従来から存在するありふれたものであって,他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているとはいえない上,平成8年にロフティーステップの販売が開始されてからは,出荷割合の点でも業界紙への広告の点でも,原告商品のA-2の構成を有しないロフティーステップが主力商品となって,A-2の構成を有する商品が原告の出所を表示するものとまでは認め難い状況となった。また,原告商品のC-2の構成(握り部の形状は左右対称に指掛け用の複数個の谷部と山部を交互に並設した波形であること)は,他社製品にも従来から存在するありふれたものであって,他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているとはいえない。
なお,商品の形態は,その全体が不可分な有機的結合として成り立つものであるところ,「ノーブレン ハンド&ソール ステップ」というシリーズのマンホール用ステップの一部に共通の形態として使用されている原告商品のAないしCの構成を有する商品は,各種のマンホール用ステップの埋込部の形状の相違により,埋込部を含んだ全体の形状はさまざまな形態のものがあり,カタログや業界紙への広告に掲載された原告商品は,埋込部が脚部から上に向けてほぼ直角に折れ曲がった形態のものが多い上,原告は,円形の赤色体を目に,直角に折れ曲がった埋込部を足に模したキャラクターの絵を使用して原告商品を宣伝しており,埋込部が異なる意匠が独立して登録されていることは,前記1・・認定のとおりであるから,これらの事実によれば,本来,原告商品の形態の特徴としては,埋込部の形状を含んだ全体の形状を考慮した上で判断すべきものである。よって,埋込部の形状を度外視して,マンホール用ステップの一部の形状であるAないしCの構成のみを商品等表示と認めるのは相当でない。
このように,原告商品のAないしCの構成は,B-2の構成を除き,いずれも商品の形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するため他の形態を選択する余地のない不可避なものであり,又は商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているとはいえないから,そもそも,これをもって不正競争防止法2条1項1号にいう「商品等表示」に該当するということはできない。
・ また,原告自身,原告商品のAないしCの構成を有しないマンホール用ステップを多数販売しており,平成8年にロフティーステップの販売が開始されてからは,出荷割合の点でも業界紙への広告の点でも,原告商品のA-2の構成を有しないロフティーステップが主力商品となり,被告商品が販売された平成14年には,原告商品のAないしCの構成を備えたマンホール用ステップの出荷割合はわずかとなっていることは,前記1・・認定のとおりである。
なお,原告は,工業所有権を取得していることを周知商品等表示の根拠として主張するが,商品等表示周知性を獲得するためには,実際に当該商品を販売等することが必要であり,工業所有権の保有のみの事実をもって周知商品等表示の根拠とすることはできない。
・ 以上の事実に,原告商品は,マンホールの中で使用される商品であって,その用途上,全体的に形態よりも材質や安全性等を重視して取引されるものであることに照らせば,被告商品が販売された平成14年当時,需要者において原告商品のAないしCの構成を有する商品が原告の出所を表示するものとして周知であったということはできない。
3 争点・(類似性)について ・ 被告商品は,足踏部及びその両側に位置する脚部を備え,平面視略コの字形のマンホール用ステップであり,原告商品のAないしCの構成に対応させると,次のとおりのものと認められる(甲12,13)。
A’-1 足踏部の上面及び下面の両端部に赤色反射体が取り付けられていること。
A’-2 赤色反射体の形状は円形であり,赤色円形反射体とその外周に八角形状の縁取りがあり,最外周部分は肉太の菱形線状の縁取り)がされていること。
B’-1 足踏部の上面及び下面に滑止め用凸部が順次連続して多数横方向に並んでいること。
B’-2 滑止め用凸部の形状は字形, 字形であること。
C’-1 足踏部の内側側面に波形の握り部が形成されていること。
C’-2 握り部の形状は左右対称に指掛け用の複数個の谷部と山部を交互に並設した波形であること。
・ 原告商品と被告商品を対比すると,以下のとおりである。
ア 原告商品と被告商品は,いずれもA-1及びA’-1(足踏部の上面及び下面の両端部に赤色反射体が取り付けられていること)において共通するが,A-2とA’-2が相違する。すなわち,赤色反射体の形状は,原告商品が赤色円形反射体の周りにリング状の縁取りがあるものであるのに対し,被告商品は赤色円形反射体とその外周に八角形状の縁取りがあり,最外周部分は肉太の菱形線状の縁取りがあるものであって,その形状が異なる。
イ 原告商品と被告商品は,いずれもB-1及びB’-1(足踏部の上面及び下面に滑止め用凸部が順次連続して多数横方向に並んでいること)において共通するが,B-2とB’-2が相違する。すなわち,足踏部は,原告商品の構成が「略X字形」の滑止め用凸部であるのに対し,被告商品は,字形, 字形」の滑止め用凸部であり,その形状が異なり,両者は類似しない。なお,被告らは,「字形, 字形」の滑止め用凸部を有するマンホール用ステップを意匠登録している(乙20)。
ウ 原告商品と被告商品は,C-1及びC’-1(足踏部の内側側面に波形の握り部が形成されていること)並びにC-2及びC’-2(握り部の形状は左右対称に指掛け用の複数個の谷部と山部を交互に並設した波形であること)がほぼ同一である。
エ 原告商品は,埋込部を含む全体の形状がカタログや業界紙の広告に掲載され,その多くが脚部から上に向けてほぼ直角に曲がったものであり,取引の際にも埋込部の形状が無視されることはないところ,被告商品の埋込部は,上記のような原告商品に多く見られる埋込部とは異なる。
商品の形態の類否の判断に当たっては,商品等表示に該当する形態として客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有している部分を中心に全体を観察すべきであり,商品の形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するため他の形態を選択する余地のない不可避な構成に由来する場合にはその部分が類似することをもって両商品が類似であるということはできないと解するのが相当である。
本件についてこれをみるに,前記1・で認定したとおり,原告商品のA-1の構成(足踏部の上面及び下面の両端部に赤色反射体が取り付けられていること),B-1の構成(足踏部の上面及び下面に滑止め用凸部が順次連続して多数横方向に並んでいること)及びC-1の構成(足踏部の内側側面に波形の握り部が形成されていること)は,いずれも他社製品にも存在する特徴であり客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しているとはいえないものである上,かつ技術的な機能及び効用を実現するため他の形態を選択する余地のない不可避な構成に由来するものであるから,この点について共通するところがあるとしても,それをもって被告商品が原告商品に類似しているということはできない。他方,具体的構成については,上記・のとおり,原告商品と被告商品は,C-2及びC’-2(握り部の形状は左右対称に指掛け用の複数個の谷部と山部を交互に並設した波形であること)がほぼ同一であるが,少なくともA-2とA’-2(赤色反射体の形状)及びB-2とB’-2(滑止め用凸部の形状)が異なるものである。そして,A-2とC-2の構成は他社製品にも見られるありふれた形態であって,B-2(滑止め用凸部の形状)のみが他の同種商品とは異なる特徴を有するものであることにかんがみると,この点において相違する原告商品と被告商品が類似するということはできない。加えて,埋込部を含む全体の形状を考慮すると,両商品が類似するということはできない。
4 結論 以上の次第で,その余の点につき判断するまでもなく,被告らの行為は,不正競争防止法2条1項1号に該当しない。
したがって,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 ・部眞規子
裁判官 東海林保
裁判官 瀬戸さやか