審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成17ワ10073損害賠償請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成18ネ10080債務不存在確認等請求控訴事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成18ワ13013不正競争行為差止請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成17ワ2535損害賠償請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成17ワ3056損害賠償等請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
関連ワード | 特段の事情 / 類似性(類似) / 差止請求(差止) / 営業上の利益 / 過失 / 逸失利益 / 因果関係 / 無形損害 / 弁護士費用 / 侵害 / 代理人 / 営業誹謗行為(2条1項14号) / 品質等誤認表示(誤認) / 虚偽の事実 / 損害賠償 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
18年
(ネ)
10068号
損害賠償請求控訴事件
平成 18年 (ネ) 10073号 附帯控訴事件 |
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控訴人・附帯被控訴人 ディーエスエム ニュートリ (1審原告)ショナル プロダクツ アー ゲー 控訴人・附帯被控訴人 DSMニュートリションジャ (1審原告)パン株式会社 両名訴訟代理人弁護士細谷義徳 同原田芳衣 両名補佐人弁理士津國肇 同齋藤房幸 同小國泰弘 被控訴人・附帯控訴人 昭和電工株式会社(1審被告) 訴訟代理人弁護士吉澤敬夫 同牧野知彦 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2007/05/29 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1本件控訴及び附帯控訴をいずれも棄却する。 2控訴費用は控訴人らの,附帯控訴費用は附帯控訴人の,各負担とする。 |
事実及び理由 | |
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控訴の趣旨(控訴人両名)
1原判決を次のとおり変更する。 2被控訴人は,控訴人ディーエスエムニュートリショナルプロダクツアーゲー(以下「1審原告DSM」という。)に対し,5億7678万5776円及びこれに対する平成17年5月31日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3被控訴人は,控訴人DSMニュートリションジャパン株式会社(以下「1審原告DSMジャパン」という。)に対し,5000万円及びこれに対する平成17年5月31日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 5 仮執行宣言 |
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附帯控訴の趣旨(附帯控訴人)
1 原判決中,附帯控訴人敗訴部分を取り消す。 2 附帯被控訴人らの請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審とも附帯被控訴人らの負担とする。 |
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事案の概要
(注:本判決においては,特に断らない限り,原判決の略語をそのまま用いることとする。)1被控訴人(以下「1審被告」という。)は,下記内容の特許権を有していたところ,1審原告(旧商号:ロシュビタミンアーゲー)又はその前主(エフ・ホフマン-ラロシュアーゲー)から特許無効審判請求がなされ,いずれについても特許庁において無効審決がなされ,1審被告がこれを不服として審決取消訴訟を提起するも請求棄却判決がなされ,最高裁判所においてこれが確定するところとなった。 記@ 本 件 特 許 1特 許 番 号特許第2139541号発 明 の 名 称養魚飼料用添加物出願日昭和61年1月30日登録日平成10年12月18日無効審判請求日 平成12年8月31日審決日平成14年4月8日請求棄却判決日 平成15年6月25日(東京高裁)上告不受理決定日平成16年1月20日( 最 高 裁 )A 本 件 特 許 2特 許 番 号特許第2800116号発 明 の 名 称水産養殖用固型飼料の製造方法出願日昭和61年6月5日登録日平成10年7月10日無効審判請求日 平成14年8月27日審決日平成15年6月12日請求棄却判決日 平成16年7月29日(東京高裁)上告不受理決定日平成16年12月9日( 最 高 裁 )B 本 件 特 許 3特 許 番 号特許第2943785号発 明 の 名 称養魚粉末飼料用添加物及び養魚用飼料(後に「養魚用ペレット飼料」に訂正)出願日昭和61年1月30日登録日平成11年6月25日無効審判請求日 平成14年8月27日審決日平成16年2月19日請求棄却判決日 平成16年12月27日(東京高裁)上告不受理決定日平成17年4月26日( 最 高 裁 )2本件は,養魚用飼料添加物等に関する本件各特許を有する1審被告が,下記のとおり,@1審原告らの取引先に対しその取り扱う飼料製品の中に本件各特許の技術的範囲に入るものが含まれるなどと記載した警告文書等を送付した行為,及び,A1審被告が1審原告らの取引先である日本農産に対し,平成14年9月6日ころ,同社が原告製品を使用して行っている養魚用飼料の製造・販売が本件特許権2及び3の侵害に当たるとして,原告製品を使用した製品の製造・販売差止めの仮処分(本件仮処分)を申し立て,これに関して平成14年9月9日に行った広報活動(報道機関に対し,日本農産が生産販売している養魚用飼料に,従来は被告製品のみを使っていたが最近海外の類似品を使っていることが判明し,是正を要請したが応じないために上記差止めの仮処分を申し立てた旨発表し,その内容は,その後,新聞・インターネット・雑誌に掲載された〔本件掲載行為〕。)について,その後,本件各特許の無効が確定したことから,1審被告のこれらの行為は,不正競争防止法2条1項14号の虚偽の事実の告知・流布に該当し,あるいは不法行為を構成するとして,同法5条2項及び民法709条に基づき,1審被告に対し,1審原告DSMは5億7678万5776円,1審原告DSMジャパンは5000万円,及びこれらに対する遅延損害金の各支払を求めた事案である。 記@平成14年5月16日に日本農産等16社へ送付した文書の内容(本件文書1)「…弊社では,アスコルビン酸-2-リン酸エステル塩の飼料添加物用途等に関して,下記の特許を保有しております。尚,ご承知のことと存じますが,下記の特許2に関しましては,先日,無効審判において審決が出されましたが,弊社と致しましては,審決が妥当でないと考えており,本日,東京高等裁判所に審決取消を求めて出訴致しましたのでお知らせ致します。従いまして,当該特許権は現時点で有効に存続しておりますことを申し添えます。 1.特許第2137557号:「甲殻類養殖飼料用添加物」2.特許第2139541号:「養魚用飼料添加物」3.特許第2547400号:「動物用薬剤」4.特許第2800116号:「水産養殖用固型飼料の製造方法」5.特許第2874633号:「抗コレステロール薬剤」6.特許第2943785号:「養魚粉末飼料用添加物及び養魚用飼料」7.特許第2943786号:「甲殻類養殖粉末飼料用添加物及び甲殻類養殖用飼料」」A平成14年6月27日から同年8月29日にかけて,日本農産・林兼産業・日本配合飼料・日本水産・中部飼料・日清飼料・丸紅飼料に対し送付した警告文書の内容(本件文書2の1〜4)a「…弊社が今年6月初旬に九州市場より入手しました貴社飼料製品「みさき2.5P」を分析しましたところ,貴社飼料製品中に弊社製品「ホスピタンC」とは異なる他社製品のアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩が含まれていることが判明しました。弊社は…飼料あるいは飼料用添加物,その製造法等に係る特許を下記の通り保有しており,貴社の飼料製品は弊社保有特許の技術的範囲に入るものと思料されます。…早急に貴社内で是正いただきたく,また今後かかることが無いようご注意をしていただきますようお願い申し上げます。」(本件文書2の1)b「…弊社が市場より入手しました貴社飼料製品「マリン7号」等を分析しましたところ,貴社飼料製品中に弊社製品「ホスピタンC」とは異なる他社製品のアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩が含まれていることが判明しました。弊社は…飼料あるいは飼料用添加物,その製造法等に係る特許を下記の通り保有しており,貴社の飼料製品は弊社保有特許の技術的範囲に入るものと思料されます。つきましては,早急に貴社内で是正いただきたく,また今後かかることが無いようご注意をしていただきますようお願い申し上げます。…なお,蛇足ではございますが,他社製品を一部使用された顧客様よりは従前に戻し,ご使用下さる確約を頂いております。」(本件文書2の2)c「…弊社は,…飼料あるいは飼料用添加物,その製造法等に係る特許を下記の通り保有しています。最近,弊社が市場より入手しました飼料製品を分析しましたところ,一部の飼料製品中に弊社製品「ホスピタンC」とは異なる他社製品のアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩が含まれていることが判明しました。弊社は,上記の飼料製品は弊社保有特許の技術的範囲に入るものと思料され,該社に十分な説明を求め,従前に戻し弊社製品「ホスピタンC」を使用するとの連絡を受けております。貴社におかれましても十分ご検討,ご留意の程お願い申し上げます。」(本件文書2の3)d「…弊社は8月14日付書面にて既に御連絡申し上げましたように飼料あるいは飼料用添加物,その製造法等に係る特許を保有しています。弊社製品「ホスピタンC」とは異なる他社製品のアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩のご使用は弊社保有特許の技術的範囲に入るものと思料されます。貴社におかれましても十分ご検討,ご調査下さいますよう宜しくお願い申し上げます。尚,従来,間断無く御注文いただいておりました「ホスピタンC」の貴社からの御注文が本年7月初旬より途絶えております事をご参考まで申し添えます。」(本件文書2の4)B平成15年6月27日ころ伊藤忠飼料及び日本農産等に送付した文書の内容(本件文書3の1〜4)a「…弊社では,既に御案内の通りアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩の飼料添加物用途等に関して,下記の特許を保有しております。 尚,…下記の特許2に関しましては,一昨日6月25日東京高等裁判所において特許無効審決を指示する判決が出されましたが,弊社と致しましては判決を不服とし,最高裁判所に上告する予定です。また特許4に関しましても,特許庁において特許無効審決が出されましたが,審決が妥当でないと考え,東京高等裁判所に審決取消を求めて出訴する予定ですのでお知らせ致します。従いまして,当該特許権は現時点で有効に存続しておりますことを申し添えます。」(本件文書3の1)b「…弊社では,既に御案内の通りアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩の飼料添加物用途等に関して,下記の特許を保有しております。 尚,…日本特許第2139541号「養魚用飼料添加物」に関しましては,東京高等裁判所の判決を不服とし最高裁判所に上告しましたが,残念ながら1月21日上告不受理の決定が下されました。一方,下記の特許3に関しましては,現在,東京高等裁判所において特許無効審判の審決取消訴訟の審理中であります。また,下記の特許5に関しましては3月1日に特許庁より無効審決の通知を受領しましたが,本件に関しましても弊社と致しましては審決が妥当でないと考え,今後,東京高等裁判所に審決取消を求めて出訴する予定ですのでお知らせ致します。」(本件文書3の2)c「…弊社では,既に御案内の通りアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩の飼料添加物用途等に関して,下記の特許を保有しております。 日本特許第2800116号「水産養殖用固型飼料の製造方法」に関しましては,特許無効審決を不服とし東京高等裁判所に上告していましたが,残念ながら7月29日に審決取り消し請求棄却の判決が下されました。弊社では本判決を不服とし今後最高裁判所に上告する予定ですのでご連絡申し上げます。 尚,本特許の訂正審判を7月16日に特許庁に請求しております。 また,下記の特許5に関しましては,現在,東京高等裁判所において特許無効審判の審決取消訴訟の審理中でありますこともあわせてご連絡申し上げます。」(本件文書3の3)d「…弊社では,ご案内の通りアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩の飼料添加物用途等に関して,下記の特許を保有しております。 日本特許第2943785号「養魚粉末飼料用添加物及び養魚用飼料」に関しましては,東京高等裁判所の判決を不服とし最高裁判所に上告していましたが,残念ながら4月27日に上告不受理の決定通知を受領致しました。 なお,下記の特許1と特許3に関しましては,DSMニュートリションジャパン鞄aより特許庁に特許無効審判請求があり,弊社はこれに対して無効理由がないとの答弁を行っており,今後審理が進む予定であることもあわせてご連絡申し上げます。」(本件文書3の4)3平成18年7月6日に言い渡された原判決は,1審原告の本訴請求のうち,1審被告が本件文書2の1ないし4を送付した行為は不正競争防止法2条1項14号の不正競争に該当するとして,原告DSMにつき1000万円(信用毀損による損害700万円及び弁護士費用300万円の合計額),原告DSMジャパンにつき700万円(信用毀損による損害),及びこれらに対する遅延損害金の限度で認容し,その余を棄却した。 そこで,1審原告らはこれを不服として本件控訴を提起し,これに対し1審被告は,附帯控訴を提起した。 |
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当事者の主張
1当事者双方の主張は,次に付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第2,第3記載のとおりであるから,これを引用する。 なお,本件における争点1・2・3も,原判決記載のとおりである。 2 控訴人らの当審における主張(1) 争点1についてア 本件仮処分申立てにつき(ア) 原判決は,本件仮処分申立て前に1審被告は日本農産に対し本件文書2の1を送付していることを理由に,本件仮処分申立てを,1審原告らとの関係で違法な不正競争に該当すると解することはできないとしたが,原判決の判断には,事実誤認及び法適用の誤りがある。 (イ) すなわち,1審被告は,本件仮処分申立て前に,本件文書2の1の送付により原告製品が特許侵害品である旨の告知を行っているが,これによって1審原告の取引相手である日本農産に対し同様の告知を行う必要性が消滅することはない。虚偽の事実を告知・流布することにより,競業者の信用を毀損して,市場において有利な地位を確保しようとする場合,必ずしも1度の通知によって十分な効果を上げられるとは限らず,むしろ繰り返しこれを行うことで当該虚偽の事実が,告知・流布した相手方にとって説得力を持つことになる。また,仮処分申立てという裁判所が関与する法的手続によって虚偽の事実が告知される場合には,告知を受けた相手方に与える心理的効果が極めて大きなものとなることは明らかである。 したがって,1審被告が本件仮処分申立て前,日本農産に対して本件文書2の1を送付していたとしても,これは1審被告が本件仮処分申立てによって「ロビミックスステイ-C35」(以下「ステイC」という。)の使用が特許権の侵害となるとの虚偽の事実を告知する必要性を失わせる理由とはならないのであって,この点において,原判決の判断は経験則に違背している。 (ウ) また,原判決は,本件仮処分申立てに至る経緯に不自然な点はないと認定したが,日本農産は1審被告から特許侵害警告の通知を受けた当初より以後ステイCの使用をやめ,1審被告の製造販売するホスピタンCの購入を再開することを約束していたのであり,あえて本件仮処分申立てを行うまでもなく,侵害警告の目的は既に達成されていた。それにもかかわらず,突然に本件仮処分申立てに及んだ1審被告の行為は極めて不自然であって,仮処分の威嚇的効果によって1審原告らとの競争において優位な地位を確保しようとの目的で手続を利用したことは明らかである。 イ 本件掲載行為につき(ア) 原判決は,本件掲載行為について,1審被告が日本農産を相手方として本件掲載行為の内容の仮処分の申立てをしたことは事実であるから,これを虚偽の事実とみることはできず,本件掲載行為が不正競争に該当しないと判断したが,誤りである。 (イ) プレスリリース(甲4)において,1審被告は,「…養魚用飼料あるいは飼料添加物,並びにその製造法等に係わる特許権を保有しております」として,1審被告が本件仮処分申立てとは直接関係のない本件特許1を含む本件各特許を保有している事実まで告知するとともに,日本農産の飼料製品について「当社が保有する特許権に抵触すると考えられる」とした上,「今後とも特許権侵害案件に対し,断固たる措置を行う所存であります」と結んでいる。そして,甲3の1ないし3(日経産業新聞2002年9月10日13頁,日経テレコン21ホームページ〔化学工業日報2002年9月10日4頁〕,「ニュースで追う特許権2003年版」ダイヤモンド社)の各報道内容においては,1審被告の販売するホスピタンC以外のアスコルビン酸の2-リン酸エステル塩である飼料添加物を使用したことが,本件各特許の侵害行為となった旨記載されている。本件各特許権を根拠として1審被告が日本国内における養魚用飼料添加物であるアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩の市場をほぼ独占する状況の中,平成14年4月に1審原告らが飼料安全法(飼料の安全の確保及び品質の改善に関する法律)による指定を受け,安価なステイCの販売を開始した下で本件掲載行為が行われたものであって,本件掲載行為に先立ち本件文書2の1ないし4の各送付が行われていた事実も合わせ考慮すれば,本件掲載行為の内容を読んだ飼料製造業者にとって,日本農産がステイCを使用したこと,及び,これが1審被告の特許権を侵害する行為であるため本件仮処分申立てがなされたものであると理解するというべきである。 そして,本件各特許はいずれも当初より無効であり,ステイCを使用した日本農産の行為は特許権侵害行為とはならないのであるから,本件掲載行為は虚偽の事実を告知したものであるというべきである。 (2) 争点2についてア 本件文書1,本件文書3の1ないし4の各送付行為につき原判決は,本件文書1及び本件文書3の1ないし4は,事実をそのまま伝えている文書である以上,違法な文書と解することができないとして,各送付行為についての不法行為責任の成立を否定したが,誤りである。 単に事実をそのまま伝える行為であっても,それが故意又は過失により,違法に他人の権利を侵害し,損害を与える行為であれば,当該行為について不法行為責任の成立は妨げられるものではない。 1審被告が,本件特許1を無効とする審決の判断を覆し得る合理的な根拠を有していなかったこと,また,本件特許1を無効とする審決がなされたことにより,本件特許2,3も,第1引用例発明(特開昭52-136160号公報)とその他の公知技術により,同様に容易想到との判断を受ける高い蓋然性があったことを知り得たはずで,かかる本件各特許の無効の明白性にもかかわらず,本件文書1及び本件文書3の1ないし4の送付をもって,飼料製造業者らに対し,本件各特許が有効であり,あたかもその判断に合理的根拠があるかのように通知した1審被告の行為には,少なくとも重大な過失が認められるというべきである。上記各送付行為が通知を受けた飼料製造業者らに対し与えた威嚇的効果は大きく,これによって,1審原告らは日本国内におけるステイCの販売の妨害を受け,信用及び営業上の利益を違法に侵害され,損害を受けた。 イ 本件仮処分申立てにつき原判決は,本件仮処分申立てに違法性がないとして,同行為についての不法行為責任の成立を否定した。 しかし,本件仮処分申立てに違法性が認められることは,上記(1)アのとおりであり,この点についての原判決の判断は誤りである。 ウ 本件掲載行為につき原判決は,本件掲載行為は事実をそのまま伝えているだけであるから,違法な行為とみることはできないとして,同行為について不法行為責任の成立を否定した。 しかし,本件掲載行為が虚偽の事実の告知を含むものであることは,上記(1)イのとおりであり,この点についての原判決の判断は誤りである。 エ 1審被告の一連の不法行為につき(ア) 原判決は,本件文書1及び本件文書2の1ないし4の送付,本件仮処分申立てとそれに関する本件掲載行為,その後の飼料製造業者に対する本件文書3の1ないし4の送付という一連の行為が,1審原告らに対する不法行為を構成するとの1審原告らの主張に対し,これら各行為が個別に違法な行為とはいえないこと,一連の行為としてみた場合でも,本件文書2の1ないし4の送付行為を除いて考えれば,特許権者の権利の行使として,行き過ぎたものとみることはできないことを理由にこれを排斥した。 (イ) しかし,上記各行為が個別に不正競争ないし不法行為を構成することは,既に述べたとおりであり,また,仮に個々の行為が直ちに違法性が認められない行為であっても,これらが1つの目的に向けて累積すれば,一体として違法な行為となり得ることは当然である。そして,上記各行為は,いずれも1審被告において,事実上無効の本件各特許をあくまで有効なものとして行使することを国内飼料製造業者らに示すという同一の目的に向けられて行われた行為であり,これらは一連の行為として繰り返されることによって信ぴょう性が生じ,より大きな威嚇的,抑止的効果を生じることになるのである。 原判決は,これら一連の行為が同一の目的に向けられた行為であって,繰り返されること自体に重要な意味があることを看過している点に誤りがある。 (3) 争点3についてア 本件文書2の1ないし4の各送付行為との因果関係につきステイCがホスピタンCの7分の1程度の低価格であったこともあって,ステイCが飼料安全法の指定を受けた平成14年4月から1審被告による本件文書2の1ないし4の各送付行為が行われた同年6月までのわずかな間に,数社の飼料製造業者が同製品の購入を開始し始めていたところ,上記各送付行為の行われた後,購入を中止し,あるいは購入量を減少させている。したがって,本件文書2の1ないし4の各送付行為がステイCないしホスピタンCの販売量の増減に何ら因果関係がないとする原判決の認定は,上記のような購入量の推移にかんがみれば,誤っていることは明らかである。また,このように本件文書2の1ないし4の各送付行為が,既にステイCの購入を開始していた飼料製造業者の購入量の減少に与えた影響に照らせば,いまだ購入を開始していなかった業者に対しても,購入をちゅうちょさせたことは容易に推認できる。 イ その他の不正競争及び不法行為との因果関係につき上述したとおり,本件仮処分申立て及び本件掲載行為,本件文書1及び本件文書3の1ないし4の各送付行為も,それぞれ不正競争ないし不法行為に該当するものであって,これら各行為による逸失利益を認定していない点で,原判決には誤りがある。 3 被控訴人(附帯控訴人)の当審における主張(1) 争点1についてア 本件仮処分申立てに関する主張に対し1審原告らは,日本農産に対し本件文書2の1を送付していたとしても本件仮処分申立てによってステイCの使用が特許権の侵害となるとの虚偽の事実を告知する必要性を失わせる理由とはならないので,原判決の判断は経験則に違反していると主張する。 しかし,原判決は,仮処分申立てをする行為は,特段の事情がない限り違法な行為とはならないところ,本件では特段の事情はないというものであり,それ自体なんの誤りもない上,そもそもこのような認定に異論を述べたところで原判決の結論には全く影響しないから,1審原告らの主張には理由がない。 イ 本件掲載行為に関する主張に対し1審原告らは,本件掲載行為が虚偽である旨主張するが,原判決の認定するとおり,これは事実の記載であるから理由がない。 仮に1審原告らが主張するように,情報の受け手において日本農産が特許権侵害を行っているものと理解したとしても,本件掲載行為のような事実を客観的に公表する行為が違法だとすると,仮処分申立ての事実について公表のしようがないということになってしまう。 ウ 本件文書2の1ないし4につき(ア) 原判決は,本件各特許が無効となったことから,本件文書2の1ないし4には虚偽の事実が記載されているとした。 しかし,送付された文書の内容が虚偽かどうかは,その受け手が,陳述ないし掲載された事実について真実と反するような誤解をするかどうかによって決すべきである。これを本件についてみれば,1審被告は,本件文書2の1ないし4の送付前に本件文書1(甲1)を発送していることからも明らかなとおり,文書の受送付先は,既に本件各特許権の存在を熟知しており,被告製品以外の製品を使用した場合には,当該特許権との関係で問題となること,及び,本件特許1について無効審決がなされたことを理解していたものである。このように受送付先が,本件文書2の1ないし4を見れば,そこに記載されている内容は,「本件文書2記載の各特許権が無効とならなければ,被告製品以外のアスコルビン酸2リン酸塩の製品を使用すれば本件各特許権との関係で抵触の問題が発生する」というものであることを当然に理解する。 そうであるとすれば,本件文書2の1ないし4の内容は全くの事実の記載であって,これを受け取った送付先が,真実と反するような誤解をすることはあり得ないから,何ら虚偽の事実を記載したものとはいえない。 (イ) また,原判決は,本件文書2の1ないし4には,合計7件の特許権が記載されているところ,各特許権ごとに「虚偽の事実か否かを判断すべきであるとした。 しかし,本件のように1つの文書中に複数の特許権が記載されている場合であっても,社会的な事実としてみれば,当該文書の配布行為という1つの行為があるにすぎないのであるから,不正競争防止法2条1項14号の虚偽性の判断は,当該当該文書の記載内容全体として虚偽性が認められるか否かが総合的に判断されるべきである。これを本件についてみると,1審被告が行った行為は,本件文書2の1ないし4の送付行為であるから,それぞれの文書に記載された各特許権すべてについて非侵害であることがいえなければ,文書全体としては虚偽であるといえない。 (ウ) 原判決は,1審被告が文書を送付したことにつき,本件各特許権が無効とならないと信じる根拠を有していなかったと認定したが,誤りである。 1審被告は,本件文書2の1,2の2,2の3,2の4の送付当時(本件文書2の1の送付時期は平成14年6月27日,以下順に,同年8月9日,同年8月14日,同年8月29日),無効審決が取り消されるべきであるとの相当な根拠を得ていた。すなわち,乙29(弁理士A〔以下「A弁理士」という。〕作成の平成18年11月15日付け報告書。以下「乙29報告書」という。)は,本件各特許の無効審判を担当したA弁理士の報告書であり,乙30(1審被告技術本部・安全性試験センター長B作成の平成18年11月21日付け報告書。以下「乙30報告書」という。)は,乙29報告書に記載されているSTNによる検索についての会社の担当者の報告書である。本件文書2の1は,平成14年6月27日に送付されたものであるが,1審被告は,これに先立つ平成14年5月21日ころから審決(甲7の1)の引用する第1引用例の「…L-アスコルビン酸の2-ホスフェート及び2-サルフェート誘導体類は動物中でビタミン活性を示し,動物によって有用な安定なビタミンC誘導体とされ,このものは例えば魚の餌の補充剤として用いられることが知られている」(甲7の1・6頁下第2段落)との記載が本件発明と一致するとの点について,これが事実か否かの調査を開始し,遅くとも,平成14年6月20日に行われたA弁理士と1審被告社員による会議において,調査結果から判明した事実を基に,「L-アスコルビン酸の2-ホスフェートおよび2-サルフェート誘導体類は動物中でビタミン活性を示し,動物によって有用な安定なビタミンC誘導体とされ,このものは例えば魚の餌の補充剤といて用いられることが知られている」ことが事実に反するものであること,及び,それを基にした無効審決に対する取消事由の論旨を確認している。 また,本件特許1が無効かどうかの判断は,公知文献に事実に反する記載がなされている場合において,そのような刊行物は引用例の適格性に欠けると判断するのかという極めて難しい法律的な判断が要求されるのであって,特許庁において本件特許1についての無効の判断がなされたからといって,審決取消訴訟において同様な判断がなされるとはいえない。そうであれば,1審被告としては,本件文書2の1の送付前に,世界で最も信頼性のある科学技術情報検索システムであるSTNを使用して,「L-アスコルビン酸の2-ホスフェートおよび2-サルフェート誘導体類は動物中でビタミン活性を示し,動物によって有用な安定なビタミンC誘導体とされ,このものは例えば魚の餌の補充剤といて用いられることが知られている」ことが事実に反するとの調査を行い,これを基に弁理士との検討を行っているのであるから,本件特許1を無効とする審決が取り消され本件特許1が無効とならないと考え得る合理的根拠を有していたというべきであり,本件文書2の2以下についても同様である。 (エ) 本件のような文書の送付行為は,訴訟提起の可能性のある侵害行為に対する訴訟の前段階としての準備行為であり,かつ,訴訟行為については,正当行為か否かが問題とされるのであるから,その準備段階である文書の送付行為についても,正当行為といえるか否かを判断すべきであり,このように解することが,本件のように侵害者自身に対する文書の送付が,その材料メーカに対する不正競争となるか,という利益考慮的な要素の強い判断になじむものというべきであり,原判決はその法律構成において誤っているというべきである。 また,原判決は,その実際の判断において本件の特殊性を考慮していない点で誤りである。すなわち,,本件各特許発明の特許請求の範囲の記載からすれば,その直接侵害者は文書の送付先の企業であって,1審原告はその材料メーカーにすぎない上,本件で問題となっているアスコルビン酸2リン酸エステル塩は他用途がある製品であるから,1審原告に間接侵害の責任を問うことはもとより困難である。そして,原告製品を製造している1審原告DSMは外国の企業であるから,この者に対し,日本国特許権である本件各特許権に基づいて警告を行うことは事実上不可能といってよい。したがって,1審被告の送付行為は,一方において,侵害者となるべき者に対する権利行使の一環であり,他方において,1審原告らに権利行使することが不可能ないしは著しく困難であるから,1審被告としては,実際の侵害者である飼料製造業者に対し権利行使をするよりほかに現実的な解決方法はなかったのである。そうであれば,1審被告の行為は,特許権者による権利行使の保護の観点及び我が国憲法が保障する裁判を受ける権利の趣旨に照らし,正当行為として,不正競争とはならないものというべきであり,これを違法性阻却事由と考えるのであれば,正当行為として違法性を阻却されるというべきである。 (2) 争点2についてア本件文書1,本件文書3の1ないし4の各送付行為に関する主張に対し本件文書1,本件文書3の1ないし4に記載されている事項は,全くの客観的な事実である上,1審被告が有する本件各特許権について無効審決や上告不受理の決定通知を受領したという,1審被告にとって不利となる事実である。このような文書を送付したことが不法行為になるはずがないことは明らかであり,むしろ,このような事情は,本件において不正競争はなかったことの証左というべきである。 イ 本件仮処分申立てに関する主張に対し本件仮処分の申立ては,1審被告が有する裁判を受ける権利の範囲内の行為であって,このような行為に不法行為が成立しないことは明らかである。 ウ 本件掲載行為に関する主張に対し1審原告は,本件掲載行為について不法行為が成立する旨を述べているが,これは全くの事実の告知であるから,不法行為が成立する余地はない。 エ 1審被告の一連の不法行為に関する主張に対し1審原告は,仮に個々の行為が不法行為には該当しないとしても,1審被告の一連の行為は不法行為に該当すると主張する。 しかし,1審被告の一連の行為をまとめてみるのであれば,上述したとおり,1審被告は,自らの不利な事実を隠さず正直に取引先に伝えていたのであるから,本件について,不正行為などなかったことを裏付ける事情であって,このような一連の行為に不法行為が成立する余地はない。 (3) 争点3について仮に,本件において信用毀損による無形損害及び弁護士費用相当額の損害が発生するとしても,無形損害として合計1400万円,弁護士費用300万円もの損害が発生するはずがない。 本件では,そもそも告知行為と損害の発生との間の相当因果関係さえ認められない事案というべきであり,また,現実には何らの逸失利益の発生も認められない事案なのであるから,仮に損害の発生が認められるとしても,告知行為と相当因果関係の認められる無形損害は多くとも数十万円程度というべきであり,そうである以上弁護士費用についても同額程度というべきである。 |
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当裁判所の判断
1当裁判所も,1審原告らの1審被告に対する本訴各請求は,原判決が認容した限度で正当として認容し,その余は棄却すべきものと判断する。その理由は,次に付加訂正するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第4に記載のとおりであるから,これを引用する。 2争点1(1審被告による本件文書2の1ないし4の各送付行為,本件仮処分申立て及び本件掲載行為は,不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するか)に関する当事者の主張に対する判断(1) 1審原告らの主張(1)ア(本件仮処分の申立て)についてア1審原告らは,1審被告が本件仮処分申立て前,日本農産に対して本件文書2の1を送付していたとしても,これは1審被告が本件仮処分申立てによってステイCの使用が特許権の侵害となるとの虚偽の事実を告知する必要性を失わせる理由とはならないから,原判決が,本件仮処分申立て前に1審被告は日本農産に対し本件文書2の1を送付していることを理由に,本件仮処分申立てを,1審原告らとの関係で違法な不正競争に該当すると解することはできないとしたことは誤りであると主張し,これに対し1審被告は,原判決は正当である旨主張する。 しかし,原判決は,本件仮処分申立て前に1審被告が日本農産に対し本件文書2の1を送付していることのみを理由に,本件仮処分申立てを違法な不正競争と認めなかったものではない。 法的紛争の当事者が当該紛争の終局的解決を裁判所に求めうることは,法治国家の根幹にかかわる重要な事柄であるから,裁判を受ける権利は最大限尊重されなければならず,本件のように損害賠償義務の有無を判断するにあたっては,裁判制度の利用を不当に制限する結果とならないよう慎重な配慮が必要とされるというべきである。そして,特許権者が,競業者の取引先を相手方として,その行為が特許権を侵害するものであるとして,仮処分を申し立てたり,特許権侵害訴訟を提起したりすることは,特許権の行使であり,裁判を受ける権利の行使であるから,これが不正競争防止法における不正競争として違法な行為といえるのは,特許権者が,事実的,法律的根拠を欠くことを知りながら,又は,特許権者として,特許権侵害訴訟の提起,あるいは,仮処分の申立てをするために通常必要とされている事実調査及び法律的検討をすれば,事実的,法律的根拠を欠くことを容易に知り得たのにあえて訴訟を提起し,あるいは,仮処分を申し立てたなど,これが裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁昭和63年1月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁参照)。 これを本件についてみると,本件仮処分申立てに至る経緯は,原判決50頁最終段落ないし52頁第6段落記載のとおりであり,これらの経緯及び本件仮処分申立ての内容にかんがみれば,本件仮処分申立てが裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠き,違法であるとすることはできない。 イ1審原告らは,日本農産は1審被告から特許侵害警告の通知を受けた当初より以後ステイCの使用をやめ,1審被告の製造販売するホスピタンCの購入を再開することを約束していたにもかかわらず,突然に本件仮処分申立てに及んだ1審被告の行為は極めて不自然であって,仮処分の威嚇的効果によって1審原告らとの競争において優位な地位を確保しようとの目的で手続を利用したことは明らかであるとも主張する。 しかし,日本農産は原告製品の使用をやめ1審被告の製造販売するホスピタンCの購入を再開することを回答(甲17)したにもかかわらず,原告製品を使用した養魚用飼料の販売を継続していたことは上記原判決認定のとおりであり,1審被告は,突然に本件仮処分申立てに及んだというものではなく,その経緯に特に不自然な点は認められないから,1審原告らの上記主張も採用することができない。 (2) 1審原告らの主張(1)イ(本件掲載行為)についてア1審原告らは,本件掲載行為の内容を読んだ飼料製造業者にとって,日本農産がステイCを使用したこと,及び,これが1審被告の特許権を侵害する行為であるため,本件仮処分申立てがなされたものであると理解するものと認められるところ,本件各特許はいずれも当初より無効であり,ステイCを使用した日本農産の行為は特許権侵害行為とはならないのであるから,本件掲載行為は,虚偽の事実の告知に該当する旨主張し,これに対し1審被告は,原判決は正当である旨主張する。 イ本件掲載行為とは,@1審被告が,平成14年9月9日,報道機関に対し,日本農産が生産・販売している養魚用飼料に,従来は被告製品のみを使っていたが最近海外の類似品を使っていることが判明し,是正を要請したが応じないため上記特許侵害行為差止めの仮処分を申し立てた旨発表したこと,及び,A1審被告が,同日,同被告ウェブサイト上に,本件特許2,3を挙げて,「昭和電工株式会社…は,9月6日,東京地方裁判所に対して,日本農産工業株式会社…を債務者とする特許権侵害行為差止の仮処分を申請いたしましたのでお知らせいたします。当社は,…安定化ビタミンC…を製造,販売しており,この物質を使用した養魚用飼料あるいは飼料添加物,並びにその製造法等に係わる特許権を保有しております。日本農産工業株式会社の飼料製品には,当社が保有する特許権に抵触すると考えられる製品…が存在するため,同社に対して是正を要請してまいりました。しかしながら,…事態の改善に至らず,当事者間の協議では解決困難との判断に至ったため,司法手続により解決を図ることといたしました。なお,当社は今後とも特許権侵害案件に対し,断固たる措置を行う所存であります。」との記事(甲4)を掲載したこと,を総称していうものである(原判決9頁第2段落)。 確かに,本件特許2,3は,その後いずれも特許庁の審決により無効とされた(特許無効審決は,本件特許2については平成16年12月9日に〔甲8の3〕,本件特許3については平成17年4月26日に〔甲10の5〕,それぞれ最高裁の上告不受理決定により確定した。)ものであるから,ステイCを使用した日本農産の行為は結果として特許権侵害とはならないものであるが,1審被告が日本農産を相手方として本件仮処分申立てをしたこと自体は事実であるから,本件掲載行為の内容を読んだ飼料製造業者が,日本農産がステイCを使用したことを理由に1審被告の特許権を侵害するとして本件仮処分申立てがなされたものであると理解するとしても,上記@に発表された内容及びAに掲載された内容に虚偽の事実があると認めることはできず,これを不正競争防止法2条1項14号の虚偽の事実の告知ないし流布ということはできない。 (3) 1審被告の主張(1)ウ(本件文書2の1ないし4の配布)についてア1審被告は,本件文書2の送付前に本件文書1(甲1)を発送していることから,文書の受送付先は,本件特許1について無効審決がなされていることを理解していたものであり,このように受送付先は,本件文書2の内容を,「本件文書2記載の各特許権が無効とならなければ,被告製品以外のアスコルビン酸2リン酸塩の製品を使用すれば本件各特許権との関係で抵触の問題が発生する」というものであると当然理解し,そうであれば,本件文書2は全くの事実の記載であって,何ら虚偽の事実を記載したものとはいえない旨主張する。 しかし,本件文書2の1ないし4(甲2の1ないし7)の内容は,原判決6頁最終段落ないし8頁第3段落記載のとおりであり,そこには,「他社製品のアスコルビン酸-2-リン酸エステル塩」すなわち原告製品が含まれている相手方の飼料製品が,1審被告の有する特許の技術的範囲に属すること,及び,この状態を是正すべきこと,あるいは,従前に戻して被告製品を購入すべきことなどが記載されており,いずれも,原告製品を使用して製造した飼料製品が本件各特許権を侵害するという趣旨の文書であると解される。そして,上記各文書には,「本件文書2記載の各特許権が無効とならなければ」との記載は一切ないのであるから,これらの文書の趣旨を1審被告主張の内容のものということはできない。 イまた,1審被告は,本件文書2の1ないし4のように1つの文書中に複数の特許権が記載されている場合,不正競争防止法2条1項14号の虚偽性の判断は,当該当該文書の記載内容全体として虚偽性が認められるか否かが総合的に判断されるべきであり,それぞれの文書に記載された各特許権すべてについて非侵害であることがいえなければ,文書全体としては虚偽であるといえない旨主張する。 しかし,不正競争防止法2条1項14号の「虚偽の事実」とは,客観的な事実に反する事実をいうものと解されるから,本件各特許についてこれを無効とする審決がいずれも確定した以上,各飼料製造業者が原告製品を飼料添加物として使用し製造販売した養魚用飼料が本件各特許権を侵害するとの記載を含む本件文書2の1ないし4の記載は,「虚偽の事実」を記載したものというべきであり,1審被告の上記主張は採用することができない。 ウ1審被告は,乙29報告書及び乙30報告書を引用し,審決(甲7の1)の引用する第1引用例(特開昭52-136160号公報)の「L-アスコルビン酸の2-ホスフェート及び2-サルフェート誘導体類は動物中でビタミン活性を示し,動物によって有用な安定なビタミンC誘導体とされ,このものは例えば魚の餌の補充剤として用いられることが知られている」(甲7の1・6頁下第2段落)との記載が本件発明と一致するとの点について,これが事実か否かの調査を開始し,遅くとも,平成14年6月20日に行われたA弁理士と1審被告社員による会議において,調査結果から判明した事実を基に,「…L-アスコルビン酸の2-ホスフェートおよび2-サルフェート誘導体類は動物中でビタミン活性を示し,動物によって有用な安定なビタミンC誘導体とされ,このものは例えば魚の餌の補充剤といて用いられることが知られている」ことが事実に反するものであることを確認していたから,1審被告は,本件文書2の1ないし4の送付当時(本件文書2の1の送付時期は平成14年6月27日〔甲2の1〕,以下順に,同年8月9日〔甲2の5〕,同年8月14日〔甲2の3〕,同年8月29日〔甲2の7〕),無効審決が取り消されるべきであるとの相当な根拠を得ていたものである旨主張する。 乙29報告書は,本件各特許の無効審判を担当したA弁理士作成の報告書であり,乙30報告書は,乙29報告書に記載されているSTNによる検索についての会社の担当者(技術本部・安全性試験センター長)であるB作成の報告書である。しかし,これらの報告書により「L-アスコルビン酸の2-ホスフェート」を魚に与えることを記載した公知文献が第1引用例の出願当時に第1引用例以外には存在しなかったことが認められるとしても,第1引用例の記載及び当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)の技術常識を参酌すれば,第1引用例において「L-アスコルベート2-ホスフェートマグネシウム塩」が期待どおりモルモットの体内において「L-アスコルベート」(L-アスコルビン酸)の形に活性化されることが確認されているのと同じように,「L-アスコルベート2-ホスフェートの塩」が,ホスファターゼを有する魚の体内でも「L-アスコルビン酸」に開裂されて活性を示すことは,当業者においてこれを合理的に理解し得ることであって,第1引用例の「魚の餌の補充剤」に係る記載が実体を伴った用途として当業者に把握されるものというべきであることは,原判決44頁第2段落ないし46頁第1段落記載のとおりである。 したがって,乙29報告書及び乙30報告書を根拠に,第1引用例の「…L-アスコルビン酸の2-ホスフェート及び2-サルフェート誘導体類は動物中でビタミン活性を示し,動物によって有用な安定なビタミンC誘導体とされ,このものは例えば魚の餌の補充剤として用いられることが知られている」(甲7の1・6頁下第2段落)との記載が事実に反するものとすることはできないから,1審被告が本件文書2の1ないし4の送付当時,無効審決が取り消されるべきであるとの相当な根拠を有していたものと認めることはできない。 エさらに,1審被告は,実際の侵害者である飼料製造業者に対し権利行使をするよりほかに現実的な解決方法はなかったのであるから,1審被告の行為は,特許権者による権利行使の保護の観点及び我が国憲法が保障する裁判を受ける権利の趣旨に照らし,正当行為として,不正競争とはならないとも主張する。 しかし,本件文書2の1ないし4(甲2の1ないし7)の送付行為が不正競争防止法2条1項14号に該当することは上記アのとおりであり,1審被告の上記主張も採用することができない。 3争点2(1審被告による本件文書1,本件文書2の1ないし4,本件文書3の1ないし4の各送付行為,本件仮処分申立て及び本件掲載行為は,不法行為を構成するか)に関する当事者の主張に対する判断(1) 1審原告らの主張(2)ア(本件文書1,本件文書3の1ないし4の各送付行為)について1審原告らは,本件文書1及び本件文書3の1ないし4の送付をもって飼料製造業者らに対し,本件各特許が有効でありあたかもその判断に合理的根拠があるかのように通知した1審被告の行為は,不法行為に該当する旨主張する。 しかし,本件文書1(甲1の1ないし4)の内容は,原判決6頁第1段落認定のとおりであり,そこには,1審被告が「アスコルビン酸-2-リン酸エステル塩」の飼料添加物に関する本件各特許を含む7件の特許を有していること,及び,本件特許1を無効とする審決が出されたものの,これについて審決取消訴訟を提起したため本件特許1は現時点で有効に存続していることが記載されているにすぎず,その記載内容は虚偽ではなく事実をそのまま伝えているものであるから,これを違法なものということはできない。 また,本件文書3の1ないし4(甲5の1〜13)の内容は,原判決9頁最終段落ないし12頁第2段落認定のとおりであり,そこには,本件各特許に関する審判及び訴訟の経過等が記載されているにすぎず,その記載内容は虚偽ではなく事実をそのまま伝えているものであるから,これを違法なものということはできない。 (2) 1審原告らの主張(2)イ(本件仮処分申立て)・ウ(本件掲載行為)について1審原告らは,本件仮処分申立ては違法性があり,また,本件掲載行為が虚偽の事実の告知を含むものであるから,これらの行為につき1審被告の不法行為責任を否定した原判決の判断は誤りであると主張する。 しかし,本件仮処分申立てを違法とすることができないこと,及び,本件掲載行為に虚偽の事実があると認めることができないことは,上記2(1),(2)のとおりであるから,1審原告らの上記主張は前提において失当である。 (3) 1審原告らの主張(2)エ(1審被告らの一連の不法行為)について1審原告らは,1審被告の上記各行為が個別に不正競争ないし不法行為を構成し,また,仮に個々の行為が直ちに違法性が認められない行為であってもこれらが1つの目的に向けて累積すれば一体として違法な行為となり得ると主張する。 しかし,1審被告の上記各行為は,本件文書2の1ないし4の各送付行為を除き違法ということができないことは上述のとおりであり,これらの行為を一連の行為としてみても,本件文書2の1ないし4の送付行為とは別個に不法行為を構成するものと認めることはできない。 4 争点3(損害の額)に関する当事者の主張に対する判断(1) 1審原告らの主張(3)ア(本件文書2の1ないし4の各送付行為との因果関係)についてア1審原告らは,本件文書2の1ないし4の各送付行為がステイCないしホスピタンCの販売量の増減に因果関係がないとした原判決の認定は誤りであると主張する。 イしかし,1審被告が本件文書2の1ないし4を飼料製造業者に送付した当時(平成14年6月27日〜同年8月29日),飼料製造業者は,海外で安価なビタミンC誘導体が使用されていたこと,ロシュ社が本件各特許について無効審判請求をし,本件特許1については既に無効審決(甲7の1)がなされていたことを認識していたこと,その後,平成15年6月12日には本件特許2を無効とする審決がなされ,同年6月25日には,本件特許1を無効とした審決を維持する東京高等裁判所の判決(甲7の3)が言い渡されたこと,並びに,平成16年1月20日には,同判決が上告不受理(甲7の4)となり,本件特許1の無効審決が確定したこと,及び,平成16年2月19日には,本件特許3を無効とする審決(甲10の3)がなされたこと,平成16年7月29日には,本件特許2を無効とした審決を維持する旨の東京高等裁判所の判決(甲8の2)が言い渡されたこと,平成16年12月9日には,最高裁判所の上告不受理決定(甲8の3)により本件特許2を無効とした審決及びこれを維持した判決が確定し,同年12月27日には,本件特許3を無効とした審決を維持する東京高等裁判所の判決(甲10の4)が言い渡され,平成17年4月26日には,最高裁判所の上告不受理決定(甲10の5)により同判決が確定し,本件特許3が無効となったことは,原判決認定(62頁第2段落〜64頁第1段落)のとおりである。そして,飼料製造業者は,本件各特許に関するこれらの経緯についても把握していたことも推認できる。 これらの事実関係にかんがみれば,国内の飼料製造業者が原告製品の購入を差し控えた時期があったとしても,それは,1審被告による本件文書2の1ないし4の各送付行為によるものというよりも,特許庁や裁判所により本件各特許が無効とされるか否かについて,その様子を見ていたためであり,無効審決が確定するまでは有効に存続する本件各特許権の抑止力によるものと認められるとして1審原告らの逸失利益を認めることができないとした原判決64頁第2段落ないし65頁第3段落の認定は,相当というべきである。 (2) 1審原告らの主張(3)イ(その他の不正競争及び不法行為との因果関係)についてまた,1審原告らは,本件仮処分申立て及び本件掲載行為,本件文書1及び本件文書3の1ないし4の各送付行為も,それぞれ不正競争ないし不法行為に該当するものであって,これら各行為による逸失利益を認定していない点で原判決には誤りがあるとも主張するが,本件仮処分申立て及び本件掲載行為,本件文書1及び本件文書3の1ないし4の各送付行為が不正競争ないし不法行為に該当しないことは上述したとおりであるから,1審原告らの上記主張も採用することができない。 (3) 1審被告の主張(3)(信用毀損による無形損害及び弁護士費用相当額)について1審被告は,本件において信用毀損による無形損害及び弁護士費用相当額の損害が発生するとしても,告知行為と相当因果関係の認められる無形損害は多くとも数十万円程度というべきであり,そうである以上弁護士費用についても同額程度というべきであると主張する。 しかし,本件文書1の1ないし4の受送付先,文書の内容,原告製品と被告製品の市場規模等,その他一切の事情を総合考慮すれば,信用毀損による損害を1審原告らにつき各700万円,本件の弁護士・弁理士費用相当の損害を原告DSMにつき300万円とした原判決の認定を不相当とすることはできない。 5 結論以上のとおり,原判決は結論において相当であって,本件控訴及び附帯控訴は理由がないので,いずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 今井弘晃 |