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関連ワード 周知表示混同惹起行為(2条1項1号) /  需要者 /  商品等表示 /  類似性(類似) /  印象 /  混同のおそれ(混同) /  出所の混同 /  商品の形態(商品形態) /  模倣 /  差止請求(差止) /  デザイン /  代理人 /  混同のおそれ(混同) /  商品形態模倣行為(2条1項3号) /  損害賠償 / 
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事件 平成 16年 (ネ) 4018号 不正競争行為差止等請求控訴事件
控訴人 株式会社良品計画
控訴人 リス株式会社
控訴人ら訴訟代理人弁護士 伊藤真
補佐人弁理士 峯唯夫
被控訴人 株式会社伸和
訴訟代理人弁護士 石川悌二
補佐人弁理士 黒田勇治
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/01/31
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人ら (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は,原判決添付の被告商品目録1ないし6記載の各収納ケースを,製造し,譲渡し,貸し渡し,譲渡又は貸渡しのために展示し,輸出し,又は輸入してはならない。
(3) 被控訴人は,その所有する前項記載の各収納ケースを廃棄せよ。
(4) 被控訴人は,その所有する上記(2)記載の各収納ケースを製造するための金型を廃棄せよ。
(5) 被控訴人は,控訴人株式会社良品計画に対し,金1690万円及びこれに対する平成15年12月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 被控訴人は,控訴人リス株式会社に対し,金1690万円及びこれに対する平成15年12月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(7) 訴訟費用は第一,二審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 主文同旨
事案の概要
本件は,被控訴人が製造販売する商品(ポリプロピレン製収納ケース)の形態が,控訴人リス株式会社が製造し,控訴人株式会社良品計画が販売している商品(ポリプロピレン製収納ケース)の形態と同一又は類似するものであり,被控訴人の上記商品の製造販売行為は不正競争防止法(以下「法」という。)2条1項1号及び3号所定の不正競争行為に該当するとして,控訴人らが,被控訴人に対し,法3条,4条に基づき,その製造販売等の差止め等及び損害賠償を求めた事案である。
原判決は,控訴人らの商品の形態は,独特の特徴的な形態とはいえず,「商品等表示」とはいえないなどとして,被控訴人の製造販売行為の法2条1項1号及び3号該当性を否定し,控訴人らの請求を棄却したため,これを不服とする控訴人らが控訴したものである。
1 当事者双方の主張は,次のとおり当審における主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」記載のとおりであるから,これを引用する。
(以下,本判決においても,原判決の用法に従って,「原告商品」,「被告商品」,「ケース本体」,「収納ケース」,「共通形態」,「共通形態(ア)」などの語を用いることとする。) 2 当審における控訴人らの主張 (法2条1項1号に基づく請求に関して) (1) 原告商品の形態商品等表示性を備えていることについて ア 商品を構成する個々の形態がありふれたものであったとしても,商品全体の形態から受ける印象需要者にとって特徴的であれば,それにより他の商品と識別し得ることになり,その形態に類似する他の商品との間で,出所の混同が生じ得る。
原告商品の形態は,「ノーデザイン」と称されるものであり,ことさらに装飾を付加しているものではないが,物の本質を追求した上で,何をどのようにそぎ落とし,全体をいかに美しく統一感のあるものとしてバランスさせるかを考え抜いてデザインされており,その結果としての形態には,個性が表れている。このようなノーデザインに係る商品形態は,構成の一つ一つを取り出して抽象的に対比すれば必ずしも新しいものとはいえないものの,全体として今までにない斬新な形態であるとの印象を,需要者に与えるものである。
現在の商品デザインにおいてノーデザインは一つの潮流であり,その中で,原告商品が優れたデザインであり,斬新で,特徴的なものであることは,原告商品がグッドデザイン賞を受けたことからも明らかである。
また,ノーデザインは決してデザインしないことではなく,ノーデザインも,デザイン開発に対する投資やリスクの負担という点において,そうでないデザインと何ら異なるものではない。もし,これを模倣する行為が許されるならば,デザインの保護の公平を欠くことになる。現に,原告商品の形状は,限りなく凹凸がなく,スクエアでシャープな形状を追求したものであり,このような形状の製品を量産するために,新しい金型構造を採用するなど,多くの技術的課題をクリアすることが必要であったものである。
イ 原告商品の形態 原告商品に共通する形態の特徴として,控訴人らは原審においてaないしgを主張し(原判決12頁〜13頁),原判決もこれに対応して共通形態(ア)ないし(キ)を認定している(原判決21頁〜22頁)が,控訴人らは,そのうちg(原判決認定の共通形態(キ))を次のとおり訂正し,また,原判決認定の共通形態に加え,原告商品の共通の形態として,次のク,ケ,コ,サを追加して主張する。なお,原審において主張したd(「ケース本体,引き出しは,共に乳白色半透明である。」・原判決認定の共通形態(エ))の「乳白色半透明」は素材の色彩としてのものではなく,透明素材で成形後,表面をシボ加工して形成された「形状」に関するものである。
@ g(原判決認定の共通形態(キ))の訂正 引手部の態様は,下部に指の挿入部となる窪みを全幅に亘り形成し,その上方に指の係止部を形成してなり,前記係止部の上下寸法は前記ケース本体の正面帯状面(下記ク)と同等(約12ミリ)としてあり,前記係止部は側面からは見えない。(以下「訂正共通形態キ」という。) A 共通形態の追加 ク ケース本体の正面は,側板,底板及び蓋の端面で構成され,すべて等幅(約12ミリ)の帯状平坦面である。(以下「追加共通形態ク」という。) ケ 蓋の上面は平坦である。(以下「追加共通形態ケ」という。) コ 正面視において,ケース本体及び蓋の端面で得られる方形の枠(上記ケ)と,引手部の係止部(上記ク)が略「日」字状の幅狭な帯として柔らかに透けて見え,前記係止部の下方には上下約18ミリないし30ミリの窪みが見える。
(以下「追加共通形態コ」という。) サ 上記構成の結果,商品複数個を積み重ねたり並べたりしたとき,複数個の商品は正面視において融合して視覚的に一体化し,面的な連続感,広がりを感じさせる形態として認識される。そして,幅狭な帯が縦横に帯状に連なりうっすらとした直線の連続を表出する。(以下「追加共通形態サ」という。) ウ 原告商品の形態上の印象 原告商品は,原判決認定の共通形態(ア)ないし(カ),訂正共通形態キ,追加共通形態クないしサを備えることにより,@乳白色半透明,A出入りのない直方体,B隅は角張っている,C正面視においてケース本体の端面及び引き手が同等寸法の幅狭の帯状平坦面で構成されており,この部分が略「日」状に淡く透けて見える,という形態上の印象を与えるものである。
これら形態上の印象が相まって,原告商品は,「無駄のないスッキリとした印象」,「どこにおいても馴染む商品」,「多数個を積み重ねたり並べたときにも目障りにならない商品」と認識されることになる。また,複数の商品を積み重ねたり並べたりしたときに,正面視において融合して視覚的に一体化し,面的な連続感,広がりを感じさせる形態として認識される。さらに,幅狭な帯が縦横に帯状に連なりうっすらとした直線の連続を表出するのである。
このような原告商品の形態は,部屋に露出させて置く場合,第1に存在感が希薄で目障りでないこと,第2に中身が見えにくいことを条件として設定し,追求したものである。
エ 原告商品の形態は,特徴あるものである。
原告商品の形態上の特徴(共通形態(ア)ないし(カ),訂正共通形態キ,追加共通形態クないしサ)をすべて備えた商品は存在しない。原告商品は,これらの特徴をすべて備えることにより,全体として既存のものとは全く異なるものとして認識されるだけの形態上の特徴を有しているのである。
原判決は,共通形態(エ)ないし(キ)のうちのいくつかを備えた収納ケースが存在していたとするが,その認定は,以下のとおり,需要者が受ける印象に対する認識を欠如しているものである。
(ア) 登録意匠第763951号公報(乙第5号証・共通形態(キ)について) そもそも,乙第5号証の意匠の商品は,市場に存在しておらず,原告商品の特徴点の有無を判断する根拠とはなり得ない。また,同意匠は,蓋の上面に環状の溝が形成されており,「部屋において目障りでない,存在感が希薄なデザインの商品」を希望する需要者にとって,目障りに写る形態である。
(イ) 登録意匠第969631号公報(乙第3号証・共通形態(オ)について) この意匠も,市場に存在する商品のものではなく,また,蓋の上面周縁に環状の凸条が形成されている。
(ウ) 株式会社吉川国工業所製の商品(乙第4号証の1ないし4,第21号証・共通形態(エ),(オ)について) これらの商品は,金属製のカード差しを兼ねた把手がついており,蓋の上面には,縁取り状に凸条が形成されている。さらに,指を入れる窪みや係止部はなく(共通形態キがない。),正面視において略「日」字状の帯も看取されない(共通形態コがない。)のであり,原告商品とは形態全体から受ける印象の差が歴然としている。乙第21号証の商品の形態もほぼ同様である。
(エ) 株式会社ヨシカワ製の商品(乙第6号証の1ないし4,乙第7号証の1ないし4・共通形態(キ),(カ),(エ)について) これらの商品は,正面左右が約20ミリと幅広であり,これが側縁にRを描いて側面に回り込んでおり,さらにこの部分と側面のパネル部との間に大きな段差がある。そのため,正面左右部分が「重厚な柱」と認識されるようなものとなっており,ケース本体と引き出しとが視覚上明瞭に区別されている。
また,蓋の端面も,約20ミリの幅を持ち,上縁にはRが形成されているため,やはり,ケース本体と引き出しとの独立性が際だつものとなっており,蓋の上面に凹凸があるなど,原告商品とは形態全体から受ける印象の差が歴然としている。
しかも,原告商品が持つ,ケース本体と引き出しとが視覚的に融合・一体化しているという特徴を備えてはいないので,複数の製品を積み重ねたり並べたりした場合,面的な連続感・広がりを感じさせることがない。
(オ) 大林化学工業株式会社製の商品(乙第19号証,第20号証の各1,2・共通形態(エ),(オ)について) 乙第19号証の商品は,金属製のカード差しを兼ねた把手がついている点,乙第20号証の商品は,把手が丸い透孔で構成してある点などに特徴がある点で,原告商品とは異なる。
オ 被控訴人は,訂正共通形態キ及び追加共通形態クないしコを,それぞれ備えた商品が存在していると主張するが,そのようなことはない。
(ア) 訂正共通形態キについて 乙第7号証の1ないし4の収納ケースは,その引手部の形態が,引き出しは左右に傾斜面があり,パネルは深く凹入していると共に,引き手の係止部は幅広で,上記左右の傾斜面と共に縁取りを形成しており,また,指の挿入部となる窪みの奥に,隅が丸い2本のリブが明瞭に表れており,原告商品とは明らかに異なる。被控訴人の主張は,商品の形態ではなく構成ないし構造をいうものに過ぎない。
(イ) 追加共通形態クについて 乙第4号証の1ないし4の収納ケースは,底板の上面は傾斜面であって,原告商品のような平坦面ではなく,蓋の両側にはRが形成されていて原告商品のような直角ではなく,加えて,蓋の両端部は側板より外側に突出して段差が形成されている。
(ウ) 追加共通形態ケについて 蓋の上面を平坦としたものは,被控訴人が提出した証拠の中にはほとんどなく,きわめてありふれた形態ということはできない。
(エ) 追加共通形態コについて 乙第7号証の1ないし4の収納ケースの引き出しは,その左右に傾斜面がありパネルが深く凹入し,その結果,引手部の係止部左右両端部は上記パネルの傾斜面で区切られており,引き出し前面の全幅にわたるものとは認識されない。
その結果,引手部は,ケース本体の端面とではなく上記パネルの傾斜部と一体的に認識され,引き出し部におけるU字状の枠の下縁を構成している。加えて,底板上面も傾斜面をなしており,同一平面上に略「日」字状が表れている原告商品とは異なっている。
(2) 原告商品と被告商品との類似性 被告商品は,共通形態(ア)ないし(カ),訂正共通形態キ,追加共通形態ク,ケを有し,その結果,正面視において,追加共通形態コ(略「日」字状の淡い透け)を有しているものであって,被告商品に共通する形態は原告商品と同一であり,各商品の個別の形態も一致している。被控訴人が,原告商品の市場での成功に便乗し,これを模倣したことは明らかであって,被控訴人の行為には悪性がある。
(法2条1項3号に基づく請求に関して) (1) 「通常有する形態」の解釈 先行商品の形態模倣することにより,商品化のためのコストやリスクを大幅に低減することができ,これを認めると,先行者との競業上著しく不公平が生じ,その結果,個性的な商品開発,市場開拓への意欲が阻害されることになるという認識の下に,法2条1項3号が規定されたものである。
したがって,法2条1項3号において「通常有する形態」が保護対象から除外されている趣旨は,開発者が特段何の努力もせず,時間や費用もかけずに容易に作り出せるような,同種の商品に共通する何の特徴もないごくありふれた形態が保護に値しないこと,その商品の機能及び効用を発揮するために,どうしてもその形態を採らざるを得ないような場合にまで,完全な独占を許すことが不当であることによるものである。
(2) 原告商品の形態は,同種の商品に共通するものではなく,時間も費用もかけずに容易に作り出せたものでもないし,また,原告商品と同じ「出入りのない直方体で可及的にシンプルな造形」というコンセプトに基づきデザインを行っても,様々な形態が考えられるのであって,原告商品の形態は,法2条1項3号における「通常有する形態」に該当するものではない。
3 当審における被控訴人の主張 (法2条1項1号に基づく請求に関して) (1) 控訴人らの主張(1)に対して ア 訂正共通形態キ及び追加共通形態コは,乙第7号証の1ないし4の収納ケースが備えている。
追加共通形態クは,乙第4号証の1ないし4の収納ケース(「デスクトップチェスト」)が備えている。
追加共通形態ケは,それ自体何ら特徴的とはいえない,きわめてありふれたものである。
追加共通形態サは,控訴人らの希望する印象ないし感情の表出に過ぎず,商品形態の分説とはいえない。
イ 控訴人らがいう,原告商品の4つの形態上の特徴は,他の商品と識別し得る独特のものではない。開発上の苦労等は,商品等表示性の判断に全く影響しない。
ウ 乙第3号証ないし第21号証,第23号証は,原告商品の個別の共通形態を備えている既存の商品があり,共通形態がありふれたものであることを示すための証拠である。控訴人らの主張は,当を得ていない。
(2) 控訴人らの主張(2)に対して 原告商品や被告商品のような収納ケースは,用途及び規格が不可避的に一部共通するものであり,その寸法,商品構成等が一部共通するのは必然である。
(法2条1項3号に基づく請求に関して) 控訴人らの主張は争う。
当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人らの請求は理由がなく棄却されるべきであると判断する。その理由は,次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」のとおりであるから,これを引用する。
2 法2条1項1号に基づく請求について (1) 原告商品の形態の「商品等表示性」の有無について ア 控訴人らは,共通形態(エ)ないし(キ)のうちのいくつかを備えた収納ケースが存在していたとの点に関し,それらの存在を示す乙第3号証ないし第7号証(枝番を省略する。以下同じ),第19号証ないし第21号証の意匠あるいは商品の形態と原告商品の形態との違いについて縷々主張している。
しかし,前記引用に係る原判決認定のとおり,上記意匠あるいは商品が共通形態(エ)ないし(キ)のうちの一つ又は複数のものを備えていることは明らかであり,それらの意匠あるいは商品が,控訴人らの主張するような点において,それぞれ原告商品と異なるところがあるとしても,そのことは,それらの意匠あるいは商品が原告商品の有する共通形態(エ)ないし(キ)のうちのいくつかを備えたものであるとの認定を妨げるものでないことはいうまでもない。
また,控訴人らは,乙第3号証及び第5号証の意匠の商品は市場に存在しておらず,原告商品の特徴点の有無を判断する根拠とはなり得ないと主張する。
しかし,仮にそうであるとしても,そのような意匠が登録され公開されることにより,そこで示されている形態は,この種商品(収納ケース)が採り得る形態の一つであると広くその製造者・取引者等が認識するものとなることはいうまでもなく,上記各号証の意匠が有する共通形態(キ),(オ)を備える実際の商品が存在していること(乙第4号証,第6号証,第7号証,第19ないし第21号証)とも相まって,そのような形態が独特の特徴的なものといえるか否かを判断する一つの資料となることは明らかであり,控訴人らの上記主張は理由がない。なお,乙第5号証の意匠については,平成3年10月ころから,この意匠(少なくとも,共通形態(キ)に係る意匠)を採用した商品が市場で販売されていたことが認められる(乙第6号証)。
イ 控訴人らは,当審において,原告商品に共通の形態として,訂正共通形態キ,追加共通形態クないしサを主張するが,以下のとおり,それらの形態(追加共通形態サについては,後記ウのとおり。)についても,既にこれを備えた商品が存在していたことが認められ,その個々の形態自体は,独特の特徴的なものということはできない。
(ア) 訂正共通形態キについて 乙第7号証の収納ケースは,その下部に指の挿入部となる窪みを全幅にわたり形成し,その上方に指の係止部を形成してなり,上記係止部の上下寸法は上記ケース本体の正面帯状面とほぼ同じにしてあり,上記係止部は側面から見えない,という形態を備えており,したがって,同収納ケースが,訂正共通形態キを備えていることは明らかである。
同収納ケースが,控訴人らの主張するように,部分的に原告商品とは異なる形態を備えているとしても,そのことは,上記認定を左右するものではない。
(イ) 追加共通形態クについて 乙第4号証の収納ケースは,その正面が,側面,底板及び蓋の端面で構成され,それら端面はすべて等幅の帯状平坦面であるから,追加共通形態クを備えている。
同収納ケースが,控訴人らの主張するように,部分的に原告商品とは異なる形態を備えているとしても,そのことは,上記認定を左右するものではない。
(ウ) 追加共通形態ケについて 蓋の上面が平坦なものとしては,乙第4号証の収納ケースのほか,乙第19号証,第24号証(1999年8月31日発行のカタログ)の収納ケースがあり,控訴人らが主張するように,追加共通形態ケがほとんどない形態であるとはいえない。
(エ) 追加共通形態コについて 乙第7号証の収納ケースは,正面視において,ケース本体及び蓋の端面で得られる方形の枠と,引手部の係止部が略「日」字状の幅狭な帯として柔らかに透けて見え,上記係止部の下方には窪みが見えるものであり,追加共通形態コを備えている,といえる。
同収納ケースは,控訴人らが主張するとおり,原告商品と具体的な形態に違いがあり,受ける印象が多少異なることは事実であるが,乙第7号証の4の写真によれば,引手部が引き出し前面の全幅にわたるものと認識し得るし,引手部がケース本体の端面と一体的に認識されるか否かはともかく,それとケース本体の端面及び蓋の端面とが相まって,略「日」字状に認識し得るものであるということができるのであって,原告商品との具体的な形態の差異等は,同収納ケースが,追加共通形態コを備えているとの認定を妨げるものではない。。
なお,原告商品においても,引手部分より,ケース本体及び蓋の端面(枠)の方がより鮮明に視認される写真もあり,かつ,引手部分は底板(の端面)のごく近くに存在することから,略「日」字状に認識し得るとしても,共通形態コはそれほど強い印象を取引者・需要者に与えるものではない,と認められる(甲第42号証)。
(オ) 追加共通形態サについて 控訴人らが主張する追加共通形態サは,形態そのものというより,形態から受ける印象を内容とするものであるから,この点については,後記エにおいて検討する。
ウ ノーデザイン論等について 控訴人らのいう「ノーデザイン」のコンセプトに基づくデザインが,常に商品等表示性を獲得するに値する形態であるといえるか否かはともかく,物の本質を追求して様々な部分をそぎ落としたものも,たとえそれがごくシンプルな形に帰着するものであったとしても,商品等表示性を獲得し得る場合があることは否定されないし,また,商品の形態商品等表示性を有するか否かの判断が,個々の可分な形態要素だけではなく,商品の形態全体をも観察してなされるべきことは当然であって,個々の形態要素が周知のありふれたものであったとしても,そのことのみから当然に,当該形態が,他の商品と識別し得る独特の特徴あるものと評価されることが否定されるものではない。
エ そこで,以下,当審における控訴人らの主張も踏まえて,原告商品の商品等表示性の有無について検討する。
(ア) 共通形態(ア)ないし(オ),(キ)を備えた既存の商品が存在していたことは,前記引用に係る原判決認定のとおりであり,また,控訴人らが当審で主張する訂正共通形態キ及び追加共通形態クないしコを備えた既存の商品もあったことは前記のとおりであって,これらの個々の形態は,いずれもこの種の収納ケースにおいて普通に見られる周知の形態であったと認められるから,それらをもって,他の商品と識別し得る独特の特徴ある形態ということはできない。そして,共通形態(カ)は特徴的な形態ということができないことは,前記引用に係る原判決説示のとおりである。
なお,控訴人らは,共通形態(エ)について,「乳白色半透明」は素材の色彩ではなく形状に関するものであると主張しているが,それが,素材の色彩ではなく,シボ加工に基づくものであるとしても,取引者・需要者は,まずこれを色彩ないしは収納物をうっすらと見せるという機能として把握するのが普通であるから,この「乳白色半透明」が素材の色彩によるかシボ加工によるかという点は,他の商品と識別し得る独特の特徴ある形態であるかどうかの判断を左右するものではない。
また,共通形態(オ)については,原告商品の角部がR処理されておらず,そのことからスクエアでシャープな印象を与えるといっても,その角部の角度はあくまでほぼ90度というものであり,素手で扱っても怪我をしない程度の丸みは帯びているものと窺われる。すなわち,そのスクエアでシャープであるという印象の強さの程度は,他の直方体の収納ケースが通常有するそれを大きく上回るものではないのであり,例えば乙第8号証(株式会社ヨシカワの1993年版カタログ)のB-9017・9020・9025・9027の収納ケースと,甲第42号証の原告商品とを比べても,後者につき特に顕著なものがあるとまでは認められない。
(イ) 控訴人らの主張する,原告商品の形態が全体として取引者・需要者に与える印象とは,@無駄のないスッキリとした印象,Aどこにおいても馴染む,B多数個を積み重ねたり並べたときにも目障りにならない,C複数の商品を積み重ねたり並べたりしたときに,正面視において融合して視覚的に一体化し,面的な連続感,広がりを感じさせる(追加共通形態サの一部),D幅狭な帯が縦横に帯状に連なりうっすらとした直線の連続を表出する(追加共通形態サの残部),というものである。その程度の大小はともかく,原告商品が,これを見る取引者・需要者に対し,そのような印象を与え得ることは,甲第42号証や,検甲第1号証ないし第6号証により,これを認めることができる(もっとも,AないしCについては,背景色などその置かれる環境や,収納される物等,その使用態様等にもよるものであり,原告商品が常に発揮する印象とは必ずしも認められない。)。
そして,控訴人らのいう上記各印象は,要するに,原告商品が幾何学的な直方体にごく近いものであり,R処理を含めた形状の変更が少なく,また,(乳白色半透明という点を除いた)色彩・飾り・模様も付加されていないこと,そして複数個を集積するときに,個々の収納ケースの上下左右の各辺が隣接する収納ケースのそれらと密着し両端が一致するように,整然と積み重ね,並べ得ること,に基づくものであると認められる。
(ウ) ところで,物を収納するケースとして,直方体は,最も基本的な形状の一つであり(最もよく用いられるものであるともいえる。),かつ,R処理を含めた形状の変更が少なく,(乳白色半透明という点を除いた)色彩・飾り・模様をほとんど付加しないシンプルなものも,またありふれたものであるといえる(例えば,前記乙第8号証のB-9017・9020・9025・9027の収納ケース,乙第20号証の1(乙第23号証の6及び7)の収納ケース,あるいは前記乙第24号証3枚目の「5クリアケース RH-50」の収納ケースが該当する。)。そして,これらを複数個積み重ねたり並べたりするとき,上下左右の辺が隣接するもののそれらと密着し両端が一致するように,整然と集積することもまた,スペースの有効利用,安定性,美感等の観点から,ごく日常的に見られることといえるから(そのように集積する例を示すものとして,上記乙第8号証の上欄の写真がある。),控訴人らのいう上記各印象は,結局,この種の商品ないしはその通常の使用状態が,取引者・需要者に与えるごく普通のものである,ということができる。すなわち,原告商品の形態全体に基づく印象は,上記乙第8号証等の収納ケースないしはそれらを集積したものからも看取される印象である,と認めることができる(乙第20号証の1(乙第23号証の6及び7)の収納ケースは,その引手部の形が原告商品と異なっているものの,そのほかはほぼ凹凸がなくスクエアでシャープであるなどの形態上の特徴を満たしており,また,その材質が乳白色半透明のものに統一されていることから,これらを積み重ねたり並べたりした場合に,その引手部の形(丸い透孔)は,収納ケースが正面視において融合して視覚的に一体化し,面的な連続感,広がりを感じさせるという印象を必ずしも損なうものではないと認められる。)。
なお,原告商品が,その正面視において略「日」字状を示すものである(追加共通形態コ)としても,前記のとおり,もともと引手部の印象は側板・蓋・底板の端面(すなわち,方形状の枠を構成するもの)より弱いものであるから,そのことが全体の視覚的印象において強い影響を持つものとは認められない。
以上のとおりであるから,原告商品の形態全体(及びその印象)を考慮しても,なお,原告商品が,他の商品と識別し得る独特の特徴的な形態を持つということはできない。
(エ) 商品の形態商品等表示性の判断は,一般的な取引者・需要者にとって,その形態から商品の出所等を認識し得るほどに,他の商品と識別され得る独特の特徴的な形態を有しているか否かの観点から判断されるべきものであるから,控訴人らが主張するように,原告商品がグッドデザイン賞を受け(甲第14号証),そのデザインが,良いものか,優れたものか,未来を開くものか等の観点から,専門家等により高く評価されているとしても(甲第43号証,第50号証及び第51号証),そのことは,必ずしも商品等表示性を肯定する根拠となるものでないことはいうまでもない。
また,控訴人らが主張するように,「ノーデザイン」も,デザイン開発に対する投資やリスクの負担という点において,そうでないデザインと異なるものではなく,また,原告商品の形状を製作する過程で,多くの技術的課題をクリアする必要があったとしても,だからといって,その商品のデザインが他の商品と識別し得る独特の特徴的な形態を有することになるものでないことはいうまでもなく,デザイン開発や商品製作などに費用等を要したことは,原告商品の形態が独特の特徴的な形態であるか否かの判断に何ら影響するものではない。
(2) 以上のとおり,原告商品の形態は,この種の収納ケースにおいて,普通に見られる,ありふれた形態の集積であり,その形態全体が与える印象も,この種商品として普通のものといえる以上,法2条1項1号商品等表示性を備えていると認めることはできない。したがって,その余の点について判断するまでもなく,同条項に基づく控訴人らの請求は成り立たない。
3 法2条1項3号に基づく請求について (1) 法2条1項3号にいう「通常有する形態」とは,文字どおり,同種商品において一般的に見られる形態であり,本件において,原告商品の共通形態(ア)ないし(オ),(キ),控訴人らが当審で主張する訂正共通形態キ及び追加共通形態クないしコは,いずれも収納ケースにおいて見られる周知の形態であり(共通形態(カ)は特徴的な形態とはいえない。),また,それらをすべて兼ね備える原告商品が取引者・需要者に与える形態全体の印象も,普通のものと認められることは,前記のとおりである。したがって,原告商品3及び4の形態は,収納ケースが通常有する形態であると認めることができる。
(2) 控訴人らは,原告商品の形態は,時間も費用もかけずに容易に作り出せたものでないと主張するが,デザインを決定するにあたり,相当の時間と費用を投入するなどしたことは,結果としたできあがった原告商品の形態が,この種商品が通常有する形態に該当しないことを根拠付けることになるものではない。
また,原告商品と同じ「出入りのない直方体で可及的にシンプルな造形」というコンセプトに基づく形態として,様々なものが考えられるとしても,この種収納ケースの「通常有する形態」は必ずしも一つに限られるわけではなく,いくつあってもよいのであるから,原告商品の形態が考えられる様々な形態のうちの一つであることは,それが「通常有する形態」に該当すると認定することの妨げとなるものでないことはいうまでもない。
4 結論 以上のとおり,原判決は相当であって,控訴人らの控訴はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法67条1項,61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久