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関連ワード 需要者 /  他人の営業 /  観念 /  記憶 /  ライセンス /  侵害 /  代理人 /  品質誤認惹起表示(2条1項13号) /  営業誹謗行為(2条1項14号) /  品質等誤認表示(誤認) /  競争関係 /  虚偽の事実 /  損害賠償 /  営業上の信用 / 
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事件 平成 15年 (ワ) 25495号 損害賠償請求事件
原告 日本エス・エイチ・エル株式会社
訴訟代理人弁護士 小島秀樹
同 小川浩賢
同 工藤敦子
被告 旧商号HRR株式会社 株式会社リクルートマネジメントソリ ューションズ
訴訟代理人弁護士 田中克郎
同 千葉尚路
同 菊田行紘
同 山本麻記子
同 柴野相雄
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2005/01/20
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求の趣旨
1 被告は,別紙目録記載の文書を配布してはならない。
2 被告は,被告の所有する別紙目録記載の文書を廃棄し,その管理に係る別紙目録記載の文書の電子データ及びその複製を抹消せよ。
3 被告は,既に配布した別紙目録記載の文書を回収し廃棄せよ。
4 被告は,別紙謝罪広告目録記載の謝罪文を同目録記載の掲載条件で同目録記載の新聞に同目録記載の回数掲載せよ。
5 被告は,原告に対し,1億円及びこれに対する平成16年7月1日(訴え変更申立書送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要等
1 原告と被告は,企業向けの人材評価関連事業(アセスメント・サービス)を営む会社であり,いわゆる適性テストの開発,頒布等を業として行っている。本件において,原告は,被告が顧客に対して配布又は提示した文書の表示内容が,不正競争防止法2条1項13号の品質誤認表示又は同項14号の虚偽表示に該当すると主張して,被告に対し,同法3条1項,2項に基づいて上記文書の配布禁止及び廃棄(既に配布した文書を回収した上での廃棄を含む)を,同法7条に基づいて謝罪広告の掲載を,また,同法4条又は民法710条に基づいて1億円の損害賠償を求めている。
2 争いのない事実等(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 当事者 ア 原告は,英国に本社を置き,世界30余か国でアセスメント事業を行うSHLグループの日本法人として昭和62年に設立され,同グループの保有するOPQ(Occupational Personality Questionnaires)をはじめとする適性テストに関するライセンス,商標及び評価ノウハウの提供を受け,企業向けの人材評価関連事業(アセスメント・サービスと呼んでいる)を営んでいるもので,各種適性テストの開発・頒布とテスト結果(測定データ)の分析に基づく人事施策立案支援サービスを行っている。すなわち,一般に適性テストと呼ばれている,個人差,職務差及び組織文化差等を測定するためのテスト・質問紙群の販売である「プロダクトサービス」,原告のプロダクト及びサービスを利用する顧客企業の人事部員を対象とした研修の実施である「トレーニング・サービス」及び顧客企業の依頼に応じて顧客仕様のプロダクトや人材評価手法を開発・提供する「コンサルティング・サービス」を実施している(甲1)。
イ 被告は,昭和38年に株式会社日本リクルートセンター(現在の株式会社リクルート)の一部門として発足し,平成元年に株式会社人事測定研究所として分社,独立し,平成14年にHRR株式会社に商号を変更したところ,平成16年10月1日に更に現商号に商号変更したものであり,原告と同じく適性テスト(検査)の開発・頒布及びその関連の各種コンサルティングサービス事業を行う会社である。
(2) 被告は,2003年7月17日付けの別紙目録記載の「Quality」と題する書面(以下「本件文書」という。)を作成し,そのころ,これを顧客に配布した。 (3) 本件文書の主な記載内容 ア 本件文書2頁 項目として,「適性検査の3大コンセプト」と題し,次の内容が記載されている。
「HRRが適性検査を提供させていただく上で大切にしている3つのコンセプト Usability 機能・利便性 Quality 高い予測力 Reliability 公正・信頼 本資料は,『Quality(品質)』に,特化してご説明させていただきます。」 イ 本件文書4頁 項目として,「適性検査の品質を表す3つの指標」と題し,次の内容が記載されている。
「精度が高い検査とはどのような検査なのか? 適性検査の品質は@妥当性,A信頼性,B標準性の3つの観点から測られます。この3つを高いレベルで満たす検査が精度の高い検査であり,この3つを高いレベルで満たして初めて,採用場面で使用する価値のある検査,面接を補完する情報を提供する検査といえるのです。
妥当性-測りたいものを測っているか? 例:短距離の選手として活躍しそうな人を選抜 100mのタイムと立位体前屈のどちらの成績を見て選べばよいか? 信頼性-正確に測っているか?(測定誤差の大小) 例:信頼性の低い体重計 ある人がある体重計で体重を3度量ったとき,1回目63.5kg,2回目66.8kg,3回目61.1kgだった。この体重計はとても信頼性が悪い。
つまり,誤差が大きい。
標準性-評価基準は正しいか? 例:実力テストの点数 ある中学生が,2日続けて英語の実力テストを受けた。1回目は50点でクラスの順位は12位,2回目は70点でクラスの順位はやはり12位だった。この中学生は,2回目のテストのほうが出来が良かったのだろうか。」 ウ 本件文書5頁 項目として,「適性検査の品質@(妥当性.測りたいものを測っているか?)」と題し,次の内容が記載されている。
(ア) 同頁の左側部分 「S社_(計数)問題形式イメージ@(以下「原告計算問題」という。) ■次の選択肢の中から正しいものを1つ選んでください。
1.39+43 A.71 B.72 C.82 D.83 E.92 2.51×7 ‥‥‥」 「S社_問題形式イメージA(以下「原告表読み問題」という。) 1998年の各工場の状況 生産量(台) 不良品発生率 総コストA工場 185 10.4% 1521万B工場 210 7.1% 1711万C工場 405 15.7% 2684万D工場 71 3.2% 983万E工場 366 6.1% 1963万 不良品を除いたときの生産量が一番多いのはどこか。
A A工場 B B工場 C C工場 D D工場 E E工場 計算能力 ・難易度がやさしい問題を数多く解かせる。
・時間内に多く回答できた方が得点が高くなる。
ややスピード検査的な問題である。
・計数ではほぼ上記2形式しか存在しない。
→形式が少ないため受検者が攻略しやすい。
・論理的思考力を問うような問題形式にはなっていない。」 (イ) 同頁の右側部分 「HRR(論理的思考)問題形式@ 記号□は四則演算のいずれか。すなわち+-×÷のいずれかを表す。では7□4はいくつになるか。
ア 0□1=1 イ 1□0=1 A アだけでわかるが,イだけではわからない。
B イだけでわかるが,アだけではわからない。
C アとイの両方でわかるが,片方だけではわからない。
D アだけでも,イだけでもわかる。
E アとイの両方があってもわからない。
HRR 論理形式A 新製品のアンケートで,100人にP,Q,R,Sの4つの製品の中から最も好きなものを1つずつ選んでもらったところ,P,Q,R,Sの順に人気があった。ただし無回答はなかった。Pを選んだ人が40人だったとすると,つぎの推論ア,イ,ウのうち必ずしも誤りとはいえないものはどれか。AからHまでの中から1つ選びなさい。
ア Qを選んだ人は19人である イ Rを選んだ人は20人である ウ Sを選んだ人は21人である A アだけ B イだけ C ウだけ D アとウの両方‥‥‥ 論理的思考力 ・数量的な能力を問うだけでなく,論理的思考力を確認するための問題が充実している。
・難しい問題から易しい問題まで幅広く出題され,全レベルの受検者にマッチするように作成されている。
・作業の速さを問うスピード検査ではない。
・全部で28形式を用意(新形式も継続検討中) →受検者に攻略させない工夫」 (ウ) さらに,右側部分の記載と左側部分の記載を比較する≪矢印を記載し,矢印中に「特徴が大きく異なります!」と記している。
エ 本件文書11頁 項目として,「適性検査の品質A(信頼性:正確に測っているか?)」と題し,次の内容が記載されている。
「テストの信頼性=テスト結果の安定性や測定内容の一貫性を示す=測定誤差の少なさを示す 信頼性係数はテストの基本的な性能を表すものです。この数値が明示できないテストは科学的なテストとはいえません! 信頼性の高さは項目の質を数に影響をうけます。
HRRテストは吟味に吟味をかさねた質の良い項目を使用しています。
もし,信頼性が0.7程度しかないテストであれば,HRRテストと同等の効果を得るためには2倍近くの項目数が必要となります。」 オ 本件文書13頁 項目として,「性格検査のクオリティー(LEVELとTYPEの違い)」と題し,佐々木投手(プロ)と村上投手(ど素人)の例を挙げ,次の内容が記載されている。
(ア) 同頁の上段 「以下の項目が自分にあてはまる場合は”はい”,あてはまらない場合は”いいえ”を選択してください。」との質問に対し,「ストレートが速い,カーブが良く曲がる,フォークが良く落ちる」の項目が掲げられ,佐々木投手の欄には,すべての項目において「はい」とチェックされ,村上投手の欄には,すべての項目において「いいえ」にチェックされた回答が例示されている。この回答結果については,吹き出しが設けられ,吹き出しの中には,佐々木投手の欄においては,「全部得意なので当然全部YES」,村上投手の欄においては,「全部不得意なので当然全部NO」と記載されている。
そして,佐々木投手と村上投手の回答結果を比較し,「どちらが得意なのか比較可能」と記載されている。
(イ) 同頁の下段 「以下の項目の中でもっとも自分にあてはまるものに”YES"をもっともあてはまらないもに”NO"を1つつけてください。」との質問に対し,佐々木投手の欄には,カーブの「NO」の項目とフォークの「YES」の項目にチェックが入り,村上投手の欄には,ストレートの「YES」の項目とフォークの「NO」の項目にチェックが入れられた回答が例示されている。この回答結果については,吹き出しが設けられ,吹き出しの中には,佐々木投手の欄においては,「全部得意なのだが,YES,NOの数が定められているのでとりあえず1つずつ選択」,村上投手の欄においては,「全部不得意なのだが,YES,NOの数が定められているのでとりあえず1つずつ選択」と記載されている。
そして,佐々木投手と村上投手の回答結果を比較し,「評価が真実と逆転する可能性があるため他者と比較できない(強制選択方式の限界)」と記載されている。
カ 本件文書14頁 項目として,「性格検査のクオリティー(LEVELとTYPEの違い)」と題し,次の内容が記載されている。
(ア) 同頁左側部分 @ LEVELを中心とした採点方式 <尺度得点算出方法> ‥‥‥形式(略) 1つの設問に対して,1尺度しか得点に反映させないのが特徴。
<特徴> 【メリット】 ○対象となる尺度の強度を測ることができる(社交性がどれぐらい強いかを測定することができる) 【デメリット】 ×項目の内容次第では社会的望ましさの影響を受けやすい 各尺度の強度(LEVEL)と個人内のメリハリ(TYPE)の両方を測定することができる。
(イ) 同頁の右側部分 A TYPEを中心とした採点方式 <尺度得点算出方法> ‥‥‥形式(略) 複数尺度の優先順位の結果を得点に反映させるのが特徴 <特徴> 【メリット】 ○等価値のものを比較させることにより,社会的な望ましさを抑止できる。
【デメリット】 ×あくまでの(ママ)個人内での相対比較であり,各尺度の強度を測定しづらい(すべてが高いレベルになることがない) 個人内のメリハリ(TYPE)は測定することができるが,各尺度の強度(LEVEL)を測定することは難しい。
(ウ) 同頁の下側部分 採用選考は,人物を見極めジャッジをすることが目的であることから,LEVELとTYPEの両方を測定することが必要です。
争点及び争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件文書の記載内容が,品質誤認表示又は虚偽表示に該当するか)について (原告の主張) 本件文書中の各表現のうち,品質誤認表示又は虚偽事実の告知に当たる部分について,次のとおり主張する。
(1) 本件文書5頁・「計数ではほぼ上記2形式しか存在しない→形式が少ないため受検者が攻略しやすい」←特徴が大きく異なります!→「全部で28形式を用意(新形式も継続検討中)→受検者に攻略させない工夫」との表示(以下「本件表示@」という。)について ア 本件表示@に記載された内容からすると,2形式しかないテストは形式が少ないために攻略されやすいが,形式を多くしている被告のテストは,攻略されにくく,品質がよいと読み取れる。
したがって,本件表示@は「品質誤認表示」といえる。
イ(ア) 本件表示@のうち「形式が少ないため受検者が攻略しやすい」との表示について 形式が少なければ攻略法が編み出され易く受験生が攻略しやすいことは「経験則上自明」ではない。攻略しやすいものであれば,2回目に受検した際は,攻略された結果,得点が跳ね上がるはずであるが,原告の適性テストについて検証したところ,1回目と2回目とではわずかしか得点が上昇しておらず,その得点結果の違いは極軽微なものであり,適性判断が1回目と2回目のテスト結果により変わるような違いは見られない。つまり,原告の能力テストも攻略することが困難なテストであるといえ,形式の多寡は,適性テストの品質とは無関係であり,形式が少ないゆえに攻略されやすいとはいえない。
したがって,原告のテストについて「形式が少ないため受検者が攻略しやすい」と表示することは原告の適性テストに関する「虚偽の事実の告知」に当たる。
この点について,被告は,根拠のないまま単なる推測のもと,攻略しやすい旨を主張するが,学力検査であれば,形式が少なければ練習範囲が少なくてすみ,攻略しやすいといえるが,適性テストには同様のことは当てはまらない。
(イ) 本件表示@のうち,「計数ではほぼ上記2形式しか存在しない」との表示について 原告の計数に関するテストは,市販テストに限ったとしても5形式(市販テスト「CAB」及び「GAB」参照)ある。さらに,原告は,顧客仕様のオリジナルテストを作成するために様々な形式の計数理解テストを用意しているところ,平成11年当時作成されたオリジナルテスト作成用の問題サンプル(甲16)によれば,(@原告計算問題及びA原告表読み問題)以外に「法則性」,「命令表」,「構造理解」,「数的推理」,「論理」,「計数知識」といった形式の計数理解テストがあり,その他,顧客3社についてのオリジナルテスト(甲17ないし19)のカテゴリーにおける「計数」の分類に掲げられる形式数と上記市販テストの形式数を総合すれば,合計19形式ある。
したがって,計数理解テストに限定しても「計数ではほぼ上記2形式しか存在しない」という表示は虚偽である。
(2) 本件文書5頁・「測りたいものを測っているか?」「論理的思考力を問うような問題形式になっていない」「論理的思考力を確認するための問題が充実している」との表示(以下「本件表示A」という。)について ア 本件表示Aの記載からは,原告のテストでは論理的思考力を測ることができないが,被告のテストは論理的思考力を測ることができるので,原告のテストよりも品質がよいことが読み取れる(そこには,「論理的思考力」と称されるものが適性テストの測定対象として不可欠であること,したがってその「論理的思考力」と称されるものが測定できなければ適性テストとして品質が劣るという被告の前提認識があると思われる。)。
しかし,これは「品質誤認表示」に当たる。
適性テストは,多種多様な能力及び性格を持つ人間という複雑な要素で構成される対象について,「適性(その仕事がその仕事に従事する人に求める性質)」の有無を測定するツールである。人間のいかなる要素を「適性」の有無の判断に影響させるべきかについて確立した基準はない。何を測定対象として適性テストを作成するかは,各テスト業者の独自の判断によるのであり,他者がテストそのものを見ることによって知ることができるものではない。
原告は実際に採用職種に就いている人材のテスト結果を分析するという実証的検証から,その職務に適性が有るか無いかの基準を割り出しており,原告のテストにおける適性判断の基準は,各種職務適性の関連付けにおいて個々に決定されるものである。したがって,原告のテストは,論理的思考力といった抽象的な要素そのものに軸足をおき,その他の基準を総合考慮して,職務適性の有無を判断するものではない。例えば,被告が挙げている「S社_(計数)問題形式イメージ@」(原告計算問題)は,原告のテスト「CAB-1」の問題イメージであるが,「CAB-1」は,原告がコンピュータ職についている人のテスト結果データを分析し,その職務に高い職務適性を示している人の回答傾向及び低い職務適性の人の回答傾向と被検者の回答傾向とを比較することによりダイレクトにコンピュータ職適性を測ることを目的とするテストである。また,同様に「S社_問題形式イメージA」(原告表読み問題)は,原告のテスト「GAB」であるが,「GAB」は,ダイレクトに総合職適性を測るものである。
このように,被告は,本件表示Aにおいて,論理的思考力を測ろうとしているものではない原告のテストを論理的思考力を測ろうとするテストであると決め付け,そのテストと被告の論理的思考力を測ろうとするテストとを比較し,原告のテストでは論理的思考力が測れず,被告のテストでは論理的思考力が測れるから被告のテストの方が品質がよいとする。これは,国語のテストと算数のテストを比較して,国語のテストでは測れない計算能力が算数のテストでは測れるので算数のテストの方が品質がよいといっているのと,同じである。このように測定対象を異にするテストを比較に出して,自らのテストだけが測定対象を測ることができるからといって品質の高さをアピールする表示は,品質について誤認させる表示といえる。適性テストに関しては,一方のテストは○○が測定できるが,他方のテストは○○が測定できない,故に測定できるテストの方が品質が高いという表示はすべて品質誤認表示といえる。
したがって,「測りたいものを測っているか?」「論理的思考力を問うような問題形式になっていない」「論理的思考力を確認するための問題が充実している」との本件表示Aは「品質誤認表示」に当たる。
イ 本件表示Aのうち,「測りたいものを測っているか?」「論理的思考力を問うような問題形式になっていない」との表示について (ア) 上記アのとおり,本件表示Aが記載された本件文書5頁で被告が例示した原告のテストにおいては,原告は,論理的思考力という因子を測ることを目的としていない。原告は,人間の職務適性能力を細かい因子に分けて測定するのではなく,職務適性自体の有無を測定するというやり方をとっているのである。
したがって,本件表示Aのうち,原告のテストが論理的思考力を測ろうとしていると読み取れるような「測りたいものを測っているか?」「論理的思考力を問うような問題形式になっていない」との表示は,原告の適性テストに関する「虚偽の事実の告知」に当たる。
(イ) さらにいえば,問題形式というとき,個々の問題の見かけだけを見るのではなく,そのテストに付けられた条件等を含め,テスト全体を見なければ,そのテストがどういう形式の問題かは分からない。「CAB-1 暗算」の問題も,単なる数値の計算だけのように見えるが,10分間に50問を解くには,できるだけ速く,正しい答えを求めなければならず,回答を探索するためにどのような手順をとるかという戦略の検討が必要なのだから,この点をみれば,論理的思考力を問う問題ともいい得るのである。
被告は,論理的思考力の定義も示さず,「CAB-1 暗算」では論理的思考力を測ることができない旨述べるが,このような主張をするのであれば,その合理的根拠を前提として述べるべきであり,これが示されないのであれば,本件のような表示は被告の推測を述べたにすぎないというべきである。
したがって,本件表示Aのうち,「論理的思考力を問うような問題形式になっていない」と断言する表記は,いずれにしても真実とはいえない。
(3) 本件文書10頁・「HRR能力検査のその他の工夫点」「HRR能力検査の問題形式は豊富です。Uタイプに使用している言語は10形式 非言語は27形式用意しています。」→「形式が少ないと@対策がたてやすく,受検者に攻略されやすくなります」との表示(以下「本件表示B-1」という。)について ア(ア) 本件表示B-1の記載によれば,形式が少ないと対策がたてやすく,受検者に攻略されやすくなるので,被告は問題形式を豊富にすることによって,受検者の攻略を防止しており,被告のテストは形式の少ないテストに比べ,品質がよいものと読み取れる。これは,本件表示@と全く同じトリックであり,形式を多くすることが受検者にテストを攻略させない工夫となり,品質を高めることにはならない。
したがって,「HRR能力検査のその他の工夫点」「HRR能力検査の問題形式は豊富です。Uタイプに使用している言語は10形式 非言語は27形式用意しています。形式が少ないと,対策がたてやすく,受検者に攻略されやすくなります」との本件表示B-1は「品質誤認表示」に当たる。
(イ) 本件文書10頁・「HRR能力検査のその他の工夫点」「HRR能力検査は同種類の検査を数多く用意しています。例えばUタイプでは,15版の平行版を用意しています。」→「平行版が少ないと@全く同じ冊子を受検者が短期間に複数回受検してしまう可能性が高くなり,受検者の能力を正しく測定できなくなります」との表示(以下「本件表示B-2」という。)について 本件表示B-2の記載からは,平行版が少ないと,受検者の能力を正しく測ることができないから,被告は平行版を多数用意して受検者の能力を正しく測定できるようにしていると読み取れる。しかし,同種のテストを2回受検すれば,1回目と2回目のテスト結果に差異が生じ,平行版が用意されていても,その差異の程度をやや低く抑えることができるに過ぎない。平行版を増やしたからといって,受検者の能力を正しく測定できるわけではなく,品質が高くなるわけではない。
したがって,「HRR能力検査のその他の工夫点」「HRR能力検査は同種類の検査を数多く用意しています。例えばUタイプでは,15版の平行版を用意しています。」「平行版が少ないと,…(中略)…受検者の能力を正しく測定できなくなります」との本件表示B-2は,「品質誤認表示」に当たる。
イ(ア) 本件表示B-1のうち,「形式が少ないと@対策がたてやすく,受検者に攻略されやすくなります」との表示について 被告は,本件文書5頁において,原告のテストは形式が2形式しかないと指摘した上で,本件文書10頁において,「形式が少ないと@対策がたてやすく,受検者に攻略されやすくなります」と表示している。
「形式が少ないと」を黒字に白抜きにして強調すると共にこのページの一番上に持ってくることで,このページでも,形式が少ない原告のテストとの比較をすることを顧客に示している。しかし,前記のとおり,原告のテストの対策本による影響は,無視し得るレベルに留まる。
したがって,本件表示B-1のうち「形式が少ないと,対策がたてやすく,受検者に攻略されやすくなります」との表示は原告の適性テストに関する「虚偽の事実の告知」に当たる。
(イ) 本件表示B-2のうち「平行版が少ないと,‥‥‥受検者の能力を正しく測定できなくなります」との表示について 上記表示のある本件文書10頁における被告テストの比較対象が,原告のテストであることは,上記(ア)で述べたとおりである。この点について,原告は,同一人に同一の原告の適性テストを複数回受けさせて,そのテスト結果の比較分析をするという実験を行い,その結果,1回目のテスト結果と2回以上受けた場合のテスト結果の間に適性判断を揺るがすような顕著な差がでないことを確認している。原告の適性テストでは,受検者が複数回同一のテストを受検することになってもその結果の違いは誤差の範囲に留まっており,受検者の能力を正しく測定できなくなるということはない。
したがって,本件表示B-2のうち,「平行版が少ないと,全く同じ冊子を受検者が短期間の間に複数回受検してしまう可能性が高くなり,受検者の能力を正しく測定できなくなります」との表示は,原告の適性テストに関する「虚偽の事実の告知」に当たる。
(4) 本件文書11頁・被告テストの信頼性係数の詳細な表示とともに「信頼性係数はテストの基本的な性能を表すものです。この数値が明示できないテストは科学的なテストとはいえません!」との表示(以下「本件表示C」という。)について ア 本件表示Cの記載からは,被告のテストは信頼性係数が明示できるので,科学的であり,品質の高いテストであると読み取れる。
しかし,信頼性係数が明示できなくても品質の高い適性テストは存在するのであり,信頼性係数が明示できるかどうかは適性テストの品質を左右するものではない。にもかかわらず,被告のテストの信頼性係数を細かく明示した上で,「信頼性係数...の数値が明示できないテストは科学的なテストとはいえません!」と表示することは,事実と異なり被告の適性検査の品質を誤認させるものであり,「品質誤認表示」に当たる。
イ また,本件文書は5頁,10頁において,原告のテストを比較対象としてきていることから,本件文書を読み進んできた顧客・見込み客は,本件表示Cにおいて,原告と明示されていなくても,ここでも比較対象としているのは原告のテストであると誤導され,原告が大量に頒布する販売用パンフレットにおいては信頼性係数を明らかにしていないことからもこれが助長される。つまり,顧客・見込み客は,「信頼性係数の数値が明示できない原告のテストは科学的なテストとはいえず,そのようなテストは品質が劣る」と理解する。しかし,上記のとおり,信頼性係数が明示できるかどうかは適性テストの品質を左右するものではなく,原告のテストは信頼性係数を明示できるものであるし,仮に明示できないとしてもそのことによって品質が悪いと決めつけることはできない。
したがって,本件表示Cの「信頼性係数...の数値が明示できないテストは科学的なテストとはいえません!」との記載は,原告の適性テストに関する「虚偽の事実の告知」に当たる。
(5) 本件文書13頁・「どちらが得意なのか比較可能」「評価が真実と逆転する可能性があるため他者と比較できない」との表示(以下「本件表示D」という。)について ア 本件表示Dでは,ノーマティブ方式(単純選択方式。単純に当てはまる場合にYesを,当てはまらない場合にNoを回答させる方式。)とイプサティブ方式(強制選択方式。最も当てはまるものと最も当てはまらないものを1つずつ回答させる方式。)の比較として,ノーマティブ方式は「どちらが得意なのか比較可能」であるが,イプサティブ方式では「評価が真実と逆転する可能性があるため他者と比較できない」と決め付けているが,これは誤導である。ノーマティブ方式もイプサティブ方式も,パーソナリティ(性格)に関して,受検者に質問に対する自己評価を答えさせるテスト方法である。ここでの答えはあくまで自己評価であり,自己評価とその人の客体の属性(その人の全体のなかでの客観的位置付け)とは相関しない場合があり,自己評価結果そのものは客観的基準を持たず,他者と比較することは無意味である。この点は,ノーマティブ方式とイプサティブ方式の間で,違いはない。本件表示Dでは,比較対象を性格ではなく能力とし,その上,差が明白なプロ野球選手とど素人の選手としており,ここに被告のトリックがある。すなわち,ノーマティブ方式では,プロ野球投手であれば,実際どの球種についても得意だろうから,すべてに「はい」と答えるだろうし,ど素人はすべてに「いいえ」と答えるだろうという顧客の先入観を利用して,そのテスト結果はプロの方がど素人の投手よりもどの球種においても優れているという評価を示し,その評価が客体の属性(プロ野球選手はすべての球種においてど素人選手よりも優れた投球能力をもっている。これが被告のいうところの「真実」であると推測される。)どおりになっていることから,ノーマティブ方式では客体の属性が測定できると誤導している。しかし,例えば,ストレートとフォークは得意だがカーブに苦手意識をもつプロ選手と,草野球でストレート・カーブ・フォークを得意とするど素人の投手がノーマティブ方式で回答する場合,主観的自己評価である以上,プロ選手はカーブに「いいえ」と答え,ど素人の投手がすべてに「はい」と答えることがあり得る。その回答結果を比較した場合には,比較の結果プロ選手よりど素人の投手が優れているとの判断になり,「評価と(先に述べた被告のいうところの)真実が逆転する」という現象はノーマティブ方式でも生じるのである。受検者が出した回答をそのまま「評価」と考えた場合,その評価だけを単純に比較するというプロセスでは,「評価と真実が逆転する」という現象が生ずる可能性があることは,ノーマティブ方式でもイプサティブ方式でも同様である。ところが,被告は,実際は比較することができないのに,被告が使用しているノーマティブ方式を「どちらが得意なのか比較可能」と表示し,イプサティブ方式を「評価と真実が逆転する可能性があるため他者と比較できない」と表示しているのであるから,ノーマティブ方式を採用する被告の適性検査に関する「品質誤認表示」に当たる。
すなわち,適性テストで何を測り得るかということは,その品質を左右する要素であり,測定できないものを測定できるという表示をすることは,品質を誤認させる表示といえる。
イ(ア) 上記アで述べたとおり,本件文書13頁では,表題において「性格検査のクオリティー」としながら,性格ではなく能力の問題を用いている。ここに被告のトリックがある。能力とは異なり,社交性があるとか責任感が強いというような性格の指標においては,他人と同軸で位置の比較ができる客体の属性という概念は当てはまらない。被告は能力の問題を例にあげて議論をすり替えることにより,その疑問を顧客に抱かせずに,性格について一つの標準軸を設けてそのどの位置に位置するかを測定することが可能であるかのように顧客を誤導している。
性格については他者と同じ評価軸で比較できる客体の属性は測定することができない,あるいは,そのような客観的位置というものは存在しない,つまり,ある集団の中で,より社交性があり,より責任感がある人がより高い職務適性を持つという基準を設けることはできないと考えるべきである。
(イ) 原告のテストは,TYPEを測定して他者と比較するテストである。原告は自己評価がある一定の傾向を示す人は職務適性があるという基準を設けており,この基準を使えば,ノーマティブ方式でもイプサティブ方式でも他者と比較することができる。例えば,実際,営業成績を上げている営業マンの集団に性格テストを受けさせて,その結果が「自分は積極性があり,責任感はさほど強くない,協調性は全くない。」という自己評価をしている傾向が強かった場合に,そのような個人内の傾向(TYPE)をもつ人は職務適性を持つという基準を設け,その基準に近い傾向を持つ人に職務適性としての評価では高い点をつけることにする。このような方法により,TYPEしか測定できなくても,そのTYPEに対する職務適性の評価点を比較することができ,他者との比較が可能である。つまり,原告が顧客に対して提供している「評価」は,「他者と比較ができる」ものである。また,イプサティブ方式の方が,ノーマティブ方式に比べ,被検者が社会的に望ましい性格と考える方向に回答がゆがむ傾向を抑えることができるのである。
(ウ) 本件文書13頁における本件表示Dが,被告のテストと原告のテストを比較したものであることは,ここまでの比較対象が原告であったことに加え,市販テストでは原告はイプサティブ方式を採用していることから,ここまで読み進んだ読者にとっては自明である。
(エ) 以上からすると,「評価が真実と逆転する可能性があるため他者と比較できない」との本件表示Dは,原告のテストに関する「虚偽の事実の告知」に当たる。
なお,パーソナリティ測定(性格検査)における「真実」というものを明らかにせずに,原告の採用するイプサティブ方式では「評価が真実と逆転する可能性がある」と表示し,その評価を信頼して他者と比較することができないかのように表示している以上,被告は,まずその合理的根拠を示すべきであり,それができないのであれば,「評価が真実と逆転する可能性がある」という表示も原告の適性テストに関する「虚偽の事実の告知」に当たるというべきである。
また,被告は,本件文書において,S社と表示したのは本件文書5頁のみであるから,5頁以外の部分は,そもそも原告に関連する事実の摘示行為がないとも主張するが,被告は,顧客に対し,「SHLの性格検査であるOPQはタイプは測定できるがレベルは測定することができず,他者と比較できないツールである。」などと本件文書を示した上,口頭で原告を名指しした説明をしているのであるから(甲24ないし26),説明を受けた顧客らが,本件文書5頁以外の表示についても,原告について記載したものであると認識したことは明らかである。
(6) 本件文書14頁・「各尺度の強度(LEVEL)と個人内のメリハリ(TYPE)の両方を測定することができる」「個人内のメリハリ(TYPE)は測定することができるが,各尺度の強度(LEVEL)を測定することは難しい」との表示(以下「本件表示E」という。)について ア 本件文書14頁,ノーマティブ方式は,「各尺度の強度(LEVEL)と個人内のメリハリ(TYPE)の両方を測定することができる」が,イプサティブ方式では「個人内のメリハリ(TYPE)は測定することができるが,各尺度の強度(LEVEL)を測定することは難しい」と表示し,ノーマティブ方式が優れていると述べている。ここでも,被告は議論のすり替えを行っている。被告は,場面場面で自己の都合にあわせて議論を巧みにすり替えて自己のテストについて品質をアピールしている。被告は,本件文書13頁では,「性格検査のクオリティー(LEVELとTYPEの違い)」と題して,被告の採用するノーマティブ方式では被検者の客体の属性が測定できることをLEVELが測定できることとして論じていたのに,14頁では各尺度の強度が測定できることをLEVELが測定できることとして論じている。各尺度の強度は個人がその尺度においてどの程度強く自己を評価しているかということであり,他人との位置関係がわかる客体の属性とは別物である。
イプサティブ方式もノーマティブ方式も一長一短であり,いずれか一方が優れていると断定することは誤りである。
にもかかわらず,予備知識も分析能力も備えない企業の人事担当者が本件表示Eを読むと,本来レベルの違いは測定できないのに,被告のテストはタイプだけでなくレベルも測ることができると読むことができ,また,実際は程度問題であり,測定できる対象に違いはないのにもかかわらず,被告のテストでは,「各尺度の強度(LEVEL)と個人内のメリハリ(TYPE)の両方を測定することができる」が,イプサティブ方式では「個人内のメリハリ(TYPE)は測定することができるが,各尺度の強度(LEVEL)を測定することは難しい」と表示することは,「品質誤認表示」に当たることになる。
イ そして,被告のテストと比較している対象が,原告のテストであることは前述のとおりであるから,それは同時に原告の適性テストに関する「虚偽の事実の告知」に当たることになる。
(7) まとめ 以上のとおり,適性テストの問題の形式の数や平行版の数・存否は適性テストの測定能力には関係ない。その無関係なものを関係があるかのように顧客を誤導する行為は,被告のテストの品質を誤認させる表示である。
また,この点に絡めて原告のテストの性能が劣ると表示すれば,それは原告の信用を害する虚偽の事実の告知である。
論理的思考力の問題,信頼性係数の問題,更にはパーソナリティ測定(性格検査)の回答方式の問題も同様である。
本件文書は,顧客の非科学的な思い込みや感覚をトリックを使って巧妙に誘導して自らのテストの性能の優位性を主張すると同時に,原告の適性テストでは誤った適性判断がなされるとのネガティブキャンペーンの目的で作成され使用されたものであることは明らかである。
そもそも,適性テスト業界においては,その品質基準を行政や業界が定義し,開発・頒布の際に各事業者に表示を義務づける段階に至っていない。品質に関する情報の開示は,それぞれの事業者の自由に委ねられているが,何を不正競争ととらえて禁じていくかは,条文の字面の問題ではなく,その社会の文化,思想が規定することである。個々の比較広告の内容が,法のいう「品質誤認」といえるか,「虚偽の事実」といえるかという語義上の当てはめではなく,本件文書のもっている目的,作られた意図,提供された時の説明内容等が総体として顧客にどのような影響を与えるかが問われるべきである。その結果,多くの企業の人事担当者が誤認誘導(ミスリード)される恐れが高い場合,これを違法と断ずればよい。
したがって,本件文書における本件各表示は,いずれも不正競争防止法2条1項13号の品質誤認表示又は同項14号の虚偽事実の告知に該当する。
(被告の主張) 原告の主張は,不正競争防止法の正当な解釈に基づくものではなく,原告独自の解釈に基づくものである。本件文書の配布行為は,同法2条1項13号の品質誤認表示又は同項14号の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知のいずれにも該当しない。以下,詳述する。
(1) 本件文書5頁の本件表示@及び本件表示Aについて ア 被告は,一度たりとも「被告のテストは形式の多少にかかわらず受検者に攻略されることはない」などと主張したことはなく,これは原告の勝手な決め付けにすぎないのであって,品質誤認表示であるとの主張は争う。
論理的思考力を測る問題の方が,単なる計算問題よりも攻略されにくいことは経験則上自明の理であるし,問題形式が多い方が,問題形式が少ないよりも相対的に攻略されにくいことも歴然としており,経験則上正しいものである。
なお,同頁の「S社の適性テスト」のS社が原告を示唆していることは認める。
イ(ア) 原告は,第2回弁論準備手続期日において陳述された平成16年2月23日付け原告準備書面(1)の「第2 被告の主張に対する認否」の2(1)イにおいて,「『計数』ないし『計数理解』との科目のテスト形式は,@計算問題とA表読み問題のいずれかの形式であること」,「これによれば,テスト項目として『計数』もしくは『計数理解』を挙げているテストは,『GAB(ギャブ)』『CAB(キャブ)』『SAB(サブ)』の3つであり,かつ,これには,テスト形式のサンプルが付いているが,このどこを見ても,やはり計算問題と表読み問題の2形式しか存在しないこと」を認めているのであるから(同準備書面3頁),2形式しか存在しないことについては自白が成立しているというべきである。したがって,「計数ではほぼ上記2形式しか存在しない」との記述が虚偽であることを前提とする原告の主張はすべて理由がない。
なお,原告は,顧客の注文により特別に作成されたオリジナルテストに関する資料を証拠として提出し(甲16ないし19),問題形式数が2形式以上あることを証明するというが,オリジナルテストであれば,顧客の注文に応じて様々問題形式を作成せざるを得ないのであるから,そのような顧客の多様な指示を含めて,問題形式が多様であることの根拠とするのは不合理である。
しかも,原告のオリジナルテストは非公開であって,顧客は守秘義務を負っているものであるから,被告が原告テストの特徴として指摘すること自体不可能である。
さらに,世間一般の認識としても,原告の適性テストにおいて,計数に関する問題形式は2形式であると認識されていることは証拠上も明らかであって(乙15の1ないし4),社会通念としても,適性テストの問題形式数を論じる場合には,市販されている汎用性ある適性テストの問題形式数を念頭において論じるのが一般的である。
(イ) また,原告は,「被告は計数テストを論理的思考力を測るテストであると指摘している。」と主張するが,被告はそのような指摘をしたことは一度もなく,原告の主張は,被告の主張を自らの都合の良いように歪曲した主張である。
原告は,その準備書面(1)8頁から9頁において,原告の計数テストが論理的思考力を測ろうとしていないことを認めているのであって,原告のテストが論理的思考力を測るものではないと被告が指摘しても「虚偽の事実の告知」に該当しない。
適性検査により,「論理的思考力」を有する人材を求めている顧客がいれば,被告のテストを選択するであろうし,計数テストには論理的思考力は不要であるという顧客がいれば,原告のテストを選択するというだけであり,被告は,顧客の測りたいものが論理的思考力であることを想定して,当該思考力を測れる問題を提供している商品であることを営業上アピールしているだけであって,これを非難されるいわれはない。被告は,論理的思考力を測ることができない問題は質が劣るとは一言も述べていない。自社のテストの特徴を顧客にアピールすることは自由競争の範囲内のこととして当然許されることである。
(2) 本件文書10頁の本件表示B-1,B-2について ア(ア) 本件表示B-1のとおり,「HRR能力検査の問題形式は豊富です。Uタイプに使用している言語は10形式 非言語は27形式用意しています。」→「形式が少ないと@対策がたてやすく,受検者に攻略されやすくなります」と表示していることは認めるが,テストの問題形式が多い方が,少ないよりも攻略されにくいことは,上記(1)で述べたとおり,自明の理であり,問題形式を多くすることは攻略されにくくするための一つの工夫である。したがって,この記載が品質誤認表示とは到底いえない。
(イ) 原告は「平行版が用意されていても,その差異の程度をやや低く抑えることができるにすぎない」と述べるが,若干でも受検者間の不公平が生じるとすれば,それを回避するために平行版の数を増やすことは,テスト事業者の責務である。つまり,被告は,平行版を増やすことにより,受検者が全く同じテストを複数回受検して点数が上昇する可能性を低下させようとしているのであって,これをもって「品質誤認表示」とする原告の主張も妥当ではない。
イ 本件文書10頁の「HRR能力検査のその他工夫点」という表題からも分かるとおり,同頁は,被告の工夫点をアピールするための内容となっており,また,そもそも,同頁において,原告に関する記載は全く存在せず,原告に関する「事実の告知」自体が存在しない。したがって,ここでも「虚偽の事実の告知」に該当する余地はない。
(3) 本件文書11頁の本件表示Cについて ア 本件表示Cは,信頼性係数に対する被告の基本的な考え方を述べているものであり,原告に関する事実の指摘ではない。
心理学的検査のテスト方式には,@質問紙法,A投影法,B作業検査法の3種類がある。そして,原告及び被告が提供しているテストは,いずれも質問紙法に当たる。質問紙法とは,多くの質問項目を与えて,自分で自分を内省させ,その結果を統計的に処理してその人の性格を客観的にとらえようとするテスト方式であるが,信頼性係数とは,このような方式を用いて測定結果を得点化するテストについて,その安定性や一貫性を定量的に評価するために考え出されたものである。
したがって,信頼性係数という概念を用いる場合には,ここでいう質問紙法を念頭に置いていることは当然である。一方,内田・クレペリンテストは,作業検査法と呼ばれる全く別のテスト方式を用いている。これは,受検者に一定の作業(単純な足し算)を課し,その経過や結果から性格を類型的に判定しようとするものである。また,ロールシャッハテスト(左右対称のインクのしみ模様を刺激として与え,それに対する反応に基づいて性格診断がなされる)などは,投影法と呼ばれるテスト形式を用いている。この作業検査法及び投影法については,結果を得点化しないため,そもそも信頼性係数という概念が当てはまらない。したがって,原告は,信頼性係数の概念が当てはまらないテスト方式を引き合いに出して主張を行っており,その主張は的外れである。 イ 被告が,本件文書において,原告に言及した箇所は,本件文書5頁のみであり,原告が認めているように,その他の箇所で原告のテストと比較し,言及したものはない。つまり,その余の本件文書には,「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知」(不正競争防止法第2条1項14号)に該当する事実は存在しない。また,原告は「信頼性係数が明示できるかどうかは適性テスト品質を左右するものではない。」と述べるが,原告自ら作成した「TEXTBOOK」と題する甲第9号証には「信頼性」なる表題の項が存在し,その7頁において,「テストの信頼性の測定は,信頼性係数とよばれる数値の比較によって行われます」と明示した上で,「通常は0.7以上の水準が要求されます」と説明しているのであって,原告も信頼性係数の重要性を前提として,その数値についての説明をしているものにほかならない。
したがって,被告は,本件文書11頁において,自社テストの長所を訴えるために,質問紙法を用いた適性テストに関する自らの意見を述べているにすぎず,信頼性係数という概念を用いた被告に対し,原告がこれを非難し,これを「虚偽」と断定する資格はない。また,何ら原告に関する事実を摘示しているわけではないのであるから,不正競争防止法第2条1項14号の問題は生じ得ない。
(4) 本件文書13頁の本件表示Dについて ア イプサティブ方式と呼ばれる方式によって得られたスコアは,イプサティブ・スコアと呼ばれるが,受検者に対し,自らの特性についていくつかの要素を相対的に比較して回答を必ず選択させることが特徴であり,その受検者個人の中で相対的な尺度を用いて回答するものとなるため,この結果については,「個人差の比較は無意味である」と言われている(乙18)。したがって,「評価が真実と逆転する可能性があるため,他者と比較できない」という表記は正しく,これをもって「強制選択方式の限界」と説明することは何ら問題はない。したがって,本件文書13頁の本件表示Dの表示について,品質誤認の問題が生ずるという原告の主張は誤りである。
イ また,被告は,同頁において,原告に関する事実の記述は一切しておらず,原告のテスト「OPQ」について失格宣言なるものを行っているわけでもない。そもそも,イプサティブ方式とノーマティブ方式の優劣は,学説上争いのある議論であり,明らかに価値判断の問題であるから,不正競争防止法2条1項14号の該当性の問題も発生し得ない。
(5) 本件文書14頁の本件表示Eについて 被告は,本件文書14頁の本件表示Eにおいて,原告が主張するようにノーマティブ方式の方が優れていると断定したことはない。
したがって,本件表示Eにつき,品質誤認表示あるいは虚偽事実の告知に当たるということはできない。
(6) まとめ ア 適性テストのうち,計数に関する問題形式が2形式しか存在しないことは真実であり,不正競争防止法2条1項14号の「他人の営業上の」「虚偽事実の告知」には当たらないから,同号に基づく原告の主張は理由がない。
イ また,不正競争防止法2条1項13号では,商品や役務の品質等について,消費者を「誤認させるような表示をし」たことが要件であるところ,品質について消費者が誤認するという事態は,実際には違うのに,当該商品又は役務が特定の水準,品質又は等級のものであると表示された場合に生ずる。つまり,商品・役務の品質について,一定の基準が現に存在し,その基準に一定の信用が形成されている状況であることを前提とした上,当該商品・役務について,事実は異なるのに,その水準・品質の基準をあたかも満たしていると消費者が誤解するような状態を作出したことに関して,本号が定められているものである。これを本件に当てはめてみると,本件のような適性テストでは,どのようなテストが高水準の品質であるのか,等級が高いものであるかという基準は必ずしも確立されていない。
被告は,適性テストに関し,@問題形式が多いテストは受検者による攻略を困難にさせる面を有するので,形式を増やすことが必要である,A重要な人材を選考するためのテスト問題は,単に計算のスピードではなく論理的思考力も確認するための問題であるべきである,B形式は同じでも平行版と呼ばれる異なる問題で構成されるテストを用意することにより,複数回受検者でも回答の記憶等による極端な得点上昇が生じにくくなる,C質問紙法と呼ばれるテストにおいては,信頼性係数がテストの品質を評価するための重要な指標になる,かつ,D強制選択方式という手法を採用した際には,被告が適性テストで測るべきものと考えている事項を調べる上では不都合が生ずる場合がある,と考えている。そこで,被告が重要であると考える点を,なぜ重要と考えるかという説明と共に,それらを備えている被告テストの特長を通してアピールをしているのである。このように,自社の商品や役務の他社にない特徴をアピールして,他の事業者より業績を上げることの試みは,健全な企業努力であり,むしろ自由かつ公正な競争に属するものとして保護される必要がある。各企業が,自己の商品・役務の特徴について,それぞれ自由な意見を述べて,最終的には,ユーザーの側で,各社の適性テストの特徴を把握し,自己の意思に基づいてどの適性テストを採用するかの判断をするということが法の予定している自由かつ公平な競争であり,品質誤認という抽象的な言葉で競合会社の営業活動を制限する行為は断じて許されない。
したがって,品質誤認観念することのできない商品に関する品質誤認の主張は失当であり,本件での原告の品質誤認に関するすべての主張はいずれも理由がない。
ウ 以上のとおり,本件文書には虚偽の事実の記載がない上に,原告の品質誤認に関するいずれの主張も,原告の独自の解釈に基づくものである。
2 争点2(本件文書の配布先と謝罪広告の必要性)について (原告の主張) 被告から本件文書を配布又は提示された企業は,平成16年10月16日現在,原告が把握しただけでも17社あり,その地域も北海道から大阪にまたがっている。人事採用関連の情報は,企業秘密とするところがほとんどであり,情報が公開されない領域であるため,情報を得ることが容易でない等の事情にかんがみると,被告から本件文書を配布又は提示された企業の数は,少なくとも原告の把握した数の4倍以上の68社に上っているとみるべきである。
原告が,被告から本件文書が配布又は提示されたことが判明した顧客に対し,総力を上げて信用を取り戻す努力をしたにもかかわらず,17社のうち8社が原告のテストの採用を止めたり,規模を縮小したこと,68社以上の企業に本件文書が配布等されたことなどにかんがみれば,原告の営業上の信用を回復するために,全国紙において謝罪広告を掲載することは必須である。
(被告の主張) 被告による本件文書の配布先は,東京の6社にとどまる。本件文書の元となる文書は,社内勉強会向けに作成された社内資料であったが,6社に対し配布されたものである。
そもそも本件文書の配布行為は不正競争行為に該当しないものであるが,上記のとおり,本件文書の配布先はわずか6社であり,その人事採用担当者に限られたものである上,各会社の秘密事項である人事採用にのみ関係する文書であるという性質からも本件文書が広く伝播する可能性は皆無であり,謝罪広告の必要性はない。
3 争点3(損害)について (原告の主張) 被告の本件文書の頒布行為により,原告が,創業以来16年にわたって築き上げてきた適性テストに対する評価は一気に破壊され,原告の名誉・信用は著しく毀損された。被告の行為による原告が蒙った無形の損害は1億円を下らない。
すなわち,原告は,オリジナルテスト開発当初からこれまでの間,景気の低迷にもかかわらず,着実に売上げを伸ばしていたが,原告のオリジナルテストの売上げは,前年比1億円規模で減少している。これは,本件文書の配布等による原告の信用侵害以外に合理的な原因はない。また,適性テストは顧客がその問題を見ても,それが何をどのくらい正確に測定できるかということについて分析能力を有していない商品であるため,一度失った信用を回復することも至難の業である。したがって,これまでに原告が受けた無形の損害は1億円を優に超えており,このままでは将来にわたって増え続けることも必至である。
したがって,原告は,被告に対し,1億円の損害賠償を求めるものである。
(被告の主張) 原告のテストのうち,「計数」に関し,原告の問題の形式数がほぼ2形式であったことについては,市販されている書物においても広く紹介されており,世間一般の共通認識となっていたものであるから,被告が本件文書を頒布した行為に起因して,原告に損害が生じることはない。
当裁判所の判断
1 争点1(本件文書の記載内容が,品質誤認表示又は虚偽表示に該当するか)について (1) 前記の「争いのない事実等」(前記第2,2)に後掲の各項目に掲げた各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の各事実を認めることができる。
ア 原告が販売する適性テスト (ア) 原告が販売するマークシートベースの主な適性テストとして,次の6種類があり,その内容は,次のとおり紹介されている(甲1,乙5)。
@OPQ(パーソナリティ質問紙)職務を遂行する際にとる行動には個人差があります。個人が好む行動スタイルから,最適な職務を予測する質問紙です。
AGAB<ギャブ>(総合適性テスト)BIMAGES<イメジス>(総合適性テスト)言語理解テスト,計数理解テスト等の知的能力テストとOPQで構成された総合適性テストです。
CCAB<キャブ>(コンピュータ職適性テスト)DSAB<サブ>(営業職適性テスト)EOAB<オーエービー>(事務職適性テスト)システムエンジニア,プログラマー,営業職,事務職の職務適性を知的能力面とパーソナリティ面から測定するテストです。
(イ) また,原告は,インターネットを使用しウェブサイト上で受検するシステムも採用しており,「Webテスト」として,次の2種類のテストのほか6種類を紹介,販売している(乙5)。
a 玉手箱 新卒採用応募者の母集団形成ツールです。膨大なネット・エントリー層を効率的に選別します。
b 玉手箱U 好評の玉手箱から中途採用対応版が登場。お金をかけないで,すばやく簡単に求める人材を採用できます。
イ 原告が販売する各テストの詳細 (ア) CAB(COMPUTER APTITUDE TEST BATTERY)(乙12) @ CAB-1 暗算-計数理解テスト(甲4) 計算問題を多く解かせる原告計算問題と同形式のテスト。
A CAB-2 法則性-直観的推理テスト(甲20) B CAB-3 命令表-プログラミング言語テスト(甲21) C CAB-4 暗号-構造理解テスト(甲22) (イ) GAB(甲5,乙16の2) @ 言語理解テスト A 計数理解テスト-原告表読み問題と同じ形式のテストと原告計算問題と同じ形式のテストがある。
(ウ) 玉手箱(乙15の1,16) SPIノートの会編著の「8割が落とされる『Webテスト』完全突破法!」と題する書籍において,「『玉手箱U』には,計数・言語・性格・意欲の4つの分野が出題されます。『計数』は2種類あり,一次方程式の問題と,表やグラフを用いて計算をする問題です。」(乙15の1)と紹介されている。また,同会編著の「この業界・企業でこの『採用テスト』が使われている!」(乙16の1)においては,「CABの能力テスト」の解説について,「‥‥‥面白いことに,計算能力のテストとして「暗算」だけを50問も出題しています。」とも紹介されている。
ウ 原告は,平成6年3月から,顧客の使用目的,要望等に応じるオリジナル適性テストの開発サービスを開始していた。原告作成の「オリジナルテスト問題 分野・カテゴリー別サンプル集1999年度版」(甲16)には,分野として,「言語,計数,英語,一般教養」などの記載があり,「計数」の分野の中に,「計数理解,暗算,法則性,命令表,構造理解,数的推理,論理,計数知識」のカテゴリーが掲げられていた(甲16,30)。
原告がこれまでに作成したオリジナルテストのうち,「総合適性テスト」(甲17)においては,「計数」の項目として,原告計算問題及び原告表読み問題以外の形式の問題が掲載されている。また,「IT総合基礎能力テスト」(甲19)には,「構造理解テスト」,「数的推理テスト」が含まれており,原告計算問題及び原告表読み問題以外の形式の問題が使用されている。
なお,原告は,当該適性テスト等は非公開の著作物であるとして,オリジナルテストを販売した各顧客には守秘義務を課していた(甲31参照)。
エ 被告が販売する適性テスト(乙22,23,弁論の全趣旨) 平成15年当時,被告が販売していた主力の適性テスト(検査)は,総合検査の「SPI2」と呼ばれる商品であり,コンピュータ職向けに特化した適性テストは保有していなかった。「SPI2」の前身である「SPI(Synthetic Personality Inventory)」は,1974年にリクルート社の人事測定事業部(現株式会社人事測定研究所)によって開発された総合的な適性検査である(甲2)。
SPIは,どのような仕事においても必要とされる基本的能力の分析を行うものであり,基本的能力として,言語的能力(国語力。文章を読み,書き,理解し,整理・説明するなど,仕事をしていくうえで必要な基礎力。)と非言語的能力(数学的能力。数字を扱うために必要な基礎的計算力,論理的思考能力などを判定。)に分けて,その能力を測定するものである。
なお,被告のパンフレット(乙22)には,「SPI2」の紹介として,「SPI2総合検査-面接だけでは捉えにくい人物の特徴を,基礎能力と性格特性(行動,意欲,情緒の3側面)から総合的・客観的に測定する検査。従来のSPIを改訂し,性格面の特徴,面接などで確認しておきたいポイントをコメントで表示すると共に,職務に対する適応性を判定する機能を強化。採用選考,配置・配属,昇進・昇格,教育研修など,さまざまな人的資源管理の場面で幅広く利用されている。」と記載されている。
オ 本件文書の配布先等 被告は,平成15年7月ころ,本件文書を作成し,そのころ,東京にある取引先6社に対し,本件文書を配布又は提示し,被告が販売する適性テストを宣伝した。しかし,被告は,原告から本件文書の頒布について苦情を受けたため,同年9月19日以降,原告との無用な紛争を避ける目的で本件文書の頒布を中止した(乙23,弁論の全趣旨)。
なお,本件文書5頁における「S社_‥‥‥」が原告を指すことは,当事者間に争いがない。
カ 企業における各適性テストの採用状況等 (ア) 被告の適性テストは,企業における採用テストのほぼ100%のシェアを占めると評されていた時期もあったが,近年はそのシェアは40〜50%と評価され,原告の適性テストは30%程度となっている(甲3)。
(イ) 被告は,本件文書配布当時,幅広い職種で求められる一般的な能力を測定する適性テストのみを販売しており,特定の職種の採用のための適性テストを被告の商品として保有していなかった(乙22,23)。
したがって,原告の適性テストと被告の適性テストとで競合関係が生じるのは,原告の販売する「GAB」及び「IMAGES」,ウェブページテストの「玉手箱U」であった。
(2) 判断 前記の「争いのない事実等」(前記第2,2)及び上記(1) で認定した事実に基づき,本件文書を顧客に配布する行為が,不正競争防止法2条1項13号,14号に該当するかどうかについて判断する。
ア(ア) 不正競争防止法2条1項13号は,「商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地,品質,内容,製造方法,用途若しくは数量若しくはその役務の質,内容,用途若しくは数量について誤認させるような表示をし,又はその表示をした商品を譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,輸入し,若しくは電気通信回線を通じて提供し,若しくはその表示をして役務を提供する行為」を不正競争行為と規定し,同項14号は,競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,又は流布する行為を不正競争行為と規定している。
不正競争防止法の上記各規定は,虚偽又は誤認を生じる表示を用いて需要者の需要を不当に喚起し,あるいは虚偽の事実を告知することにより競業者の信用を不当に低下させて競争上有利な立場に立つ行為について,公正な競争秩序を害するものとして禁ずるものである。
しかるところ,同法2条1項13号が「誤認させるような表示」と規定し,同項14号が「虚偽の事実」と規定するのは,いずれも証拠等をもって該当性の有無が判断できるような客観的な事項をいうものであって,証拠等による証明になじまない価値判断や評価に関する記述を含まないものと解するのが相当である。けだし,そのような記述は,意見ないし論評の表明として,市場における自由な競争行為の一環として許容されるものというべきだからである。このことは,同法2条1項13号が商品に係る表示の例示のなかに「原産地」「製造方法」「用途」「数量」といった,評価的な観点を離れて極めて客観的に真実か否かが判断できる事項を掲げていることからも裏付けられるところである。
(イ) これを本件についてみるに,原告が本件文書において不正競争防止法2条1項13号の「誤認させるような表示」又は同項14号の「虚偽の事実」に該当すると主張する記述部分(本件表示@ないしE)は,いずれも適性試験における一定の類型の問題について受検者の能力・適性を判定するための手段として適切なものかどうかを論ずるものである。
適性テストとは,被検者に一定の設問等に対する対応行動をさせ,その結果について一定の方式を適用することにより被検者の適性・能力等についての評価を行うもので,当該テストを用いることによって各企業がその従業者等に対して求める能力・適性を被検者が備えているかどうかを的確に判断できることを目的として様々な工夫をして作成されるものである。しかるに,人間の能力・適性を判断する観点は様々なものがあり,これを評価するための手法も,また,古来から種々の方法が試みられてきたものであって,被検者の能力・適性を判定するための適性テストとしてどのような形式のものが適切かについては,論者によって様々な見解があり,一定の基準があるものではなく,適性テストとして通常備えるべき品質というものも観念し得ない。
したがって,被検者について特定の分野の能力・適性の有無を評価するためにどのような問題を設定すればよいかは,適性テストを作成する各事業者がそれぞれ独自の見解に基づいて作成するほかはなく,現にそのように行われている。このことは,原告自身においても,認めているところである(前記3,1(2)アにおいて,原告は,人間のいかなる要素を「適性」の有無の判断に影響させるべきかについて確立した基準はないこと,及び,何を測定対象として適性テストを作成するかは各テスト業者の独自の判断によることを,自ら主張している。)。
そうすると,原告が本件文書において不正競争防止法2条1項13号の「誤認させるような表示」又は同項14号の「虚偽の事実」に該当すると主張する記述部分(本件表示@ないしE)が,いずれも適性試験における一定の類型の問題について受検者の能力・適性を判定するための手段として適切なものかどうかを論ずるものであることは既に述べたとおりであるところ,このような点については,各事業者がそれぞれ独自の見解により自由に論ずべきものであって,一定の見解を採り挙げてそれが誤認表示であるか,あるいは虚偽事実であるかを証拠等により客観的に判断し得るようなものではない。
上記のとおり,原告が不正競争防止法2条1項13号,14号に該当すると主張する本件文書中の記述部分は,いずれも,被告の意見ないし論評の表明として,市場における自由な競争行為の一環として許容されるものというべきであり,この点において,原告の本訴請求は,既に,その前提を欠くものとして,理由がないが,念のため,原告の主張に係る記述部分(本件表示@ないしE)を個別に検討しても,次に述べるとおり,当該記述が前記不正競争行為に該当することをいう原告の主張は,採用できない。
イ 本件文書5頁・「計数ではほぼ上記2形式しか存在しない→形式が少ないため受検者が攻略しやすい」←特徴が大きく異なります!→「全部で28形式を用意(新形式も継続検討中)→受検者に攻略させない工夫」との表示(本件表示@)について (ア) 原告は,本件表示@について,2形式しかないテストは形式が少ないために攻略されやすいが,形式が多い被告のテストは攻略されにくく,品質がよいと読み取れる旨を主張する。
しかし,本件表示@は,同頁冒頭に掲げられた「適性検査の品質@(妥当性:測りたいものを測っているか?)」の項目において記載された表現であり,形式数の多寡は,原告と被告の問題形式の特徴として掲げているにすぎず,原告が主張するように,品質の高低を表現しているものとは認められない。
したがって,上記表示@を品質誤認表示に該当するということはできない。
(イ) 「形式が少ないため受検者が攻略しやすい」との表示について,原告は,形式が少ないゆえに攻略されやすいとはいえないから,虚偽の事実の告知に当たる旨主張し,現に原告の適性テストを2回受検した場合でも,1回目と2回目とで,その得点結果には,ほとんど差異はみられないことが実証されているとし,形式の多寡と攻略のしやすさは関係ないものであるとする。
しかし,仮に,原告が主張するように,原告の適性テストにおいては,複数回受検しても当該テストに関して点差がみられなかったとしても,同種のテストが多数存する場合と少数しかない場合とを比較すれば,形式が少ない方が対策を立て易いというべきであるから(一般的に,形式が多ければ,受検者もその対応策に追われるものであり,形式が少なければ受検者において検討すべき対応策が少なくて済むものということができる。),これを攻略しやすいと表現することが誤っているということはできず,上記表示が虚偽であるということはできない。
なお,心理学者の元東京大学教授P1の鑑定意見書(甲23。以下「P1鑑定」という。)は,原告の同一の適性テストを2回受検した場合の得点差が余り生じていない結果が得られていることを理由として,原告のテストは攻略しやすいとはいえないと述べているが,同鑑定の結論は,当該テストが攻略しやすいか否かを,1回目に受検した場合と2回目に受検した場合の得点差が大きいか否かで判断することを前提とするものである。しかし,この前提は,テストの形式の多様性を何ら反映するものではなく,同一のテストを複数回受検した場合の得点差により,当該テストに対する慣れの影響を判断することができるにすぎない。したがって,P1鑑定の結論を採用することはできない。
(ウ) 原告の販売する適性テストにおいて,計数の分類では2形式しか問題形式が存在しないかどうかについて 前記の「争いのない事実等」(前記第2,2)及び上記(1) で認定した事実によれば,原告が,一般に市販している適性テストにおいて,「計数」ないし「計数理解」として掲げた問題形式は,原告計算問題か,あるいは,原告表読み問題の2つの形式のいずれかであったことが認められる。
この点,原告は,「法則性」や「命令表」などの形式は,「計数」の分野に属するものであるから,市販のテストにおいても,計数の分野には2形式以上の問題形式があるといえること,また,実際にオリジナルテストにおける計数の分野に属する問題形式には,上記の2種類以外の形式も作成されていた旨を主張し,オリジナルテストのサンプル問題(甲16)や実際に作成されたオリジナルテスト(甲17ないし19)などを提出し,原告の適性テストのうち,「計数」に属する形式の問題は,2形式以上存する旨の意見を述べたP1鑑定,P2の鑑定意見書(甲33の1)などを提出する。
しかし,原告の適性テストでは,乙15の1,16の2の記載にみられるように,計数関連の問題形式としては2種類あるものとして一般的にも紹介されている上,原告が,オリジナルテストにおいて,適性テストにおける「計数」の分野に属するものとして,「計数理解,暗算,法則性,命令表,構造理解,数的推理,論理,計数知識」のカテゴリーを掲げていたことは,個々の顧客に秘密保持契約がなされていたオリジナルテストのサンプル問題(甲16)における分類を見て初めて明らかになる事項である。
したがって,原告が主張するように一般には知り得ない形式を含め,原告作成の計数テストが2形式以上存するものとすることは妥当でない。このことは,原告から提出されたP1鑑定においてさえ,「テストの形式の数え方に確たる決まりはない。テスト項目の形式の数え方はさまざまである。測定する因子で分類する方法や,問い方の形式で分類する方法などさまざまな形式分類方法がある。」,「『計数』とは,狭義には数字を使ったテスト形式をいうが,広く,図形を含む数学的要素を使ったテストの形式をいうこともある。」(同・2頁)と記述しているのであって,個々の問題形式が「計数」の分野に属するか否かについて一定の評価を得られるものではない。
以上を総合すれば,本件表示@において被告が使用した「計数」の用語を,P1鑑定における狭義の意味に解釈すれば,本件表示@は虚偽ではないのであるから,本件表示@を虚偽の事実ということはできない。
ウ 本件文書5頁・「測りたいものを測っているか?」「論理的思考力を問うような問題形式になっていない」「論理的思考力を確認するための問題が充実している」との表示(本件表示A)について (ア) 本件表示Aを,同頁冒頭に掲げられた「適性検査の品質@(妥当性:測りたいものを測っているか?)」との表示及び「特徴が大きく異なります!」との表示と併せて読めば,被告の問題形式は論理的思考力を問うための問題が充実していることを示すために,計算能力を測ることを目的とする原告計算問題や原告表読み問題とはその特徴を異にすることを表しているものと認められるにすぎず,原告の主張するように被告の適性テストの方が品質が高いということを意味しているものとは到底認められない。
したがって,上記表示Aを品質誤認表示に該当するということはできない。
この点,原告は,計算能力を測ることができない国語のテストと,計算能力を測ることができる算数のテストを比較していることが品質誤認表示に当たる旨主張するが,本件表示Aは,上記のように,被告のテストの特徴を分かりやすく説明するために,原告計算問題等を例として挙げているにすぎないのであって,原告の主張は採用できない。
(イ) 本件表示Aのうち,「論理的思考力を問うような問題形式になっていない」との表示が,虚偽の事実といえるかについて 原告は,上記表示のうち,「論理的思考力」の意味が不明瞭なまま,上記のように表示することは,合理的根拠に基づかず,単に被告の推測を記載したものであるから,虚偽事実の告知に当たると主張する。
しかし,上記の「論理的思考力」に通常と異なる特別の意味が存するものとは考えられず,論理の法則にかなった判断や考える力のことを示すと解されるから,不明瞭とはいえず,原告の上記主張は採用できない。
また,原告計算問題は,四則を用いた簡単な演算の問題形式であり,原告表読み問題は,表等に掲げられたデータを正確に読み取ることによって回答する問題形式であることにかんがみれば,これらが,上記の通常の意味での論理的思考力を測るための問題とは認められない。
この点,原告は,原告計算問題等については回答を探索するためにどのような手順をとるかなどという戦略の検討が必要であるとして,原告計算問題等も論理的思考力を問う問題とも評しうる旨を主張する。
しかし,いかにして問題を速く正確に解くかというのは,およそすべてのテストにおいて受検者に課せられた当然の課題であり,これをもって論理的思考力を問う問題であるということはできない(このような考えでは,設問の内容にかかわらず,どのような問題であってもすべて論理的思考力を問う問題ということになってしまう。)。上記の原告の主張は,原告独自の解釈といわざるを得ず,採用し得ない。
エ 本件文書10頁・「HRR能力検査の問題形式は豊富です。Uタイプに使用している言語は10形式 非言語は27形式用意しています。」→形式が少ないと「@対策がたてやすく,受検者に攻略されやすくなります」,「HRR能力検査は同種類の検査を数多く用意しています。例えばUタイプでは,15版の平行版を用意しています。」→「平行版が少ないと@全く同じ冊子を受検者が短期間の間に複数回受検してしまう可能性が高くなり,受検者の能力を正しく測定できなくなります」との表示(本件表示B-1及びB-2)について (ア) 原告は,本件表示B-1の記載によれば,形式が少ないと対策を立て易く,受検者に攻略されやすくなるのに対し,被告は問題形式を豊富にすることによって受検者の攻略を防止しているから,被告のテストは形式の少ない原告のテストに比べて品質がよいものと読み取れる旨を主張し,本件表示B-2の記載によれば,平行版が少ないと,受検者の能力を正しく測ることができないから,被告は平行版を多数用意して受検者の能力を正しく測定できるようにしていると読み取れるとも主張する。
しかし,同頁は,「HRR能力検査のその他の工夫点」として,「問題形式の豊富さ」「選択肢数の設定」「平行版の多さ」として,上記の各表示を記載しているのであって,前記イのとおり,形式数の多寡は,原告と被告の問題形式の特徴として掲げているにすぎず,適性テストの品質に関わる表現をしているものと認めることはできない。また,平行版の多さについても,問題形式の特徴を事実として挙げているにすぎない。
したがって,本件表示B-1及び同B-2のいずれも,品質誤認表示に該当するということはできない。
(イ) また,同頁においては,原告を示す表示は一切なく,一般的に,被告が販売する適性テストの特徴と反対の特徴を同頁の右側に示して,それによる一般的な不都合性を述べているにすぎないから,同表示をもって,原告のテストを表示しているものとは認められない。
この点,原告は,本件文書を読み進んできた者には,本件文書5頁の記載とあいまって,原告の適性テストのことを示していることは明らかであるというが,本件表示B-1等が記載されている本件文書10頁の構成全体を見ても,ある特定の者のテストを前提としてこれと比較する形式で被告が広告しているものと認めることはできないから,原告の上記主張は失当というべきである。
オ 本件文書11頁・被告テストの信頼性係数の詳細な表示とともに「信頼性係数はテストの基本的な性能を表すものです。この数値が明示できないテストは科学的なテストとはいえません!」との表示(本件表示C)について (ア) 原告は,本件表示Cの記載からは,被告のテストは信頼性係数が明示できるので,科学的であり,品質の高いテストであると読み取れるが,信頼性係数が明示できなくても品質の高い適性テストは存在するのであるから,信頼性係数が明示できるかどうかは適性テストの品質を左右するものではない旨を主張する。
たしかに,信頼性係数のみで当該適性テストの品質が左右されるわけではないとしても,適性テストの信頼性を客観的に表すため,信頼性係数を用いることは,原告自身,自らのウェブサイトにおいて,「OPQは,30尺度,30分の回答時間という制約のもとで,全尺度平均で0.7の信頼性(係数)の水準を獲得している」(甲11・原告ウェブサイト上の「投資家からの質問」のコーナーにおいて)などと記載し,適性テストの信頼性を判断する際に信頼係数を用いることを自認していることに照らせば,信頼係数の高低により適性テストの品質について紹介することが,需要者の品質についての判断を誤らせるものとはいえず,本件表示Cが品質誤認表示に当たるということはできない。
(イ) また,同頁においても,原告のことを示す表示は一切認められないのであって,虚偽事実の告知に当たる前提を欠くというべきであるから,前述のとおり,虚偽事実の告知に該当するとの原告の主張も,また失当である。
この点,原告は,本件文書を通して読んできた者には原告のテストを示すことは明らかというべきと主張するが,本件表示Cが,特定の者のテストを前提として表現したものとは認められないから,原告の主張は採用できない。
さらに,上記のとおり,信頼係数の高低により適性テストの信頼性を測る方法も一般的に認められている以上,信頼性係数を明示できない適性テストや信頼性係数の低い適性テストは品質が悪いと記載することは,虚偽の事実であるということはできない。
カ 本件文書13頁・「どちらが得意なのか比較可能」「評価が真実と逆転する可能性があるため他者と比較できない」との表示(本件表示D)について (ア) 原告は,ノーマティブ方式(単純選択方式。単純に当てはまる場合にYesを,当てはまらない場合にNoを回答させる方式)とイプサティブ方式(強制選択方式。最も当てはまるものと最も当てはまらないものを1つずつ回答させる方式)の比較として,ノーマティブ方式は「どちらが得意なのか比較可能」であると表示し,イプサティブ方式では「評価が真実と逆転する可能性があるため他者と比較できない」と表示することは,被告の適性検査に関する品質誤認表示である旨主張する。
ノーマティブ方式とイプサティブ方式については,中島義明ら編集の「心理学辞典」(有斐閣)(乙18)において,「イプサティブ・スコア」は,「通常のテスト・スコアがある特性についての個人間の比較を目的とするのに対して,さまざまな特性の個人内での差異を表現することを目的とする場合に使われるスコアのこと。イプサティブ・スコアは個人ごとに構成された尺度上で分布するため,個人についての尺度の原点は任意でもかまわない。逆に,すべての個人に対して共通な尺度が存在しないため,このスコアによる個人差の比較は無意味である。」と記載されている上,原告が販売する「OPQ COURSE」のテキスト中においても(甲12参照),イプサティブ方式とノーマティブ方式については学者の間でも評価が異なることが紹介されている。すなわち,同テキストには,ジョンソン,ウッド,ブリンクホーン(1988)は,イプサティブ検査は個人の比較に使用できないこと,信頼性が人為的に誇張され,職務の成功の妥当や予測に使用できないことを主張したのに対し,サビルとウィルソン(1991)は,上記の主張が間違っていることを現実のデータとコンピュータでシミュレーションしたデータで示し,イプサティブ検査は,信頼性を誇張することなく,職務の成功を非常によく予測できるものであることが記載され,さらに,「検査の選択と比較についての統計的な議論は非常に複雑である。‥‥‥ノーマティブ検査は(社会的望ましさのような回答バイアスの可能性のため),こじわまで描き込まない油絵のように,実物以上に良く見せるところが少しある。イプサティブ検査は,個人の最も重要な側面の優先順位をつけるので,新聞の風刺漫画に似ている。どちらの絵も完全に正確ではない。‥‥‥」などとも記載されている。さらに,P1鑑定(甲23・9〜10頁)においても,「強制選択方式は‥‥‥自己の特性(タイプ)について求めるものであり,その限りで有効である。単純選択方式は‥‥‥社会的に共通した判断基準が認められる場合には,大まかな傾向を知るのに役立つであろうが,判断基準が異なる個人間では比較は不可能である。」と述べられている。
上記によれば,イプサティブ方式とノーマティブ方式については,それぞれの方式により何を測定することができるのか,何を測定するのに適切なのかは,心理学者によって見解が分かれるところであり,ノーマティブ方式であれば,他者との比較をすることができるが,イプサティブ方式は,個人内の諸特性の相対的評価に有効な方式であり,他者との比較には限界があるというのも,ひとつの可能な論評を示したにすぎないというべきである。
したがって,本件表示Dの「どちらが得意なのか比較可能」「評価が真実と逆転する可能性があるため他者と比較できない」というのは,品質に関する表示と認めることはできず,品質誤認表示に該当するということはできない。
(イ) 原告は,本件文書13頁における本件表示Dについて,ここまでの比較対象が原告であったことに加え,市販テストにおいて原告がイプサティブ方式を採用していることから,ここまで読み進んだ読者にとって,これが被告のテストと原告のテストを比較したものであることが明らかであると主張し,また,実際に本件文書を提示し,原告を名指しした上で説明を受けたことを聞いたという原告従業員の陳述書(甲24ないし26)を提出する。
しかし,本件表示Dにおいて,特定の者を念頭において比較していることはうかがわれず,一般的な比較をしているにすぎないから,原告の主張はその前提を欠く。また,原告従業員の陳述書は,そのように顧客から聴き取ったというにすぎず,他にこれを裏付ける客観的合理的な証拠もないからこれらを直ちに措信することはできない。仮に,原告が主張するように,各顧客が,原告のテストにおいてはイプサティブ方式を採用しているとの説明を受けたことが真実だとしても,イプサティブ方式とノーマティブ方式に関する当該説明は,論評の表明に当たるものであって,これをもって虚偽の事実ということができないことは上記(ア)で述べたとおりである。
したがって,いずれにせよ,本件表示Dが「虚偽の事実」に該当するとは認められない。
キ 本件文書14頁・「各尺度の強度(LEVEL)と個人内のメリハリ(TYPE)の両方を測定することができる」「個人内のメリハリ(TYPE)は測定することができるが,各尺度の強度(LEVEL)を測定することは難しい」との表示(本件表示E)について (ア) 原告は,本件表示Eを読むと,本来レベルの違いは測定できないのに,被告の適性テストはタイプだけでなくレベルも測ることができると読めるから,本件表示Eは,「品質誤認表示」に当たる旨主張する。
この点は,本件表示Eが記載された本件文書14頁では,@LEVELを中心とした採点方式として,ノーマティブ方式の質問と回答が例に挙げられており,ATYPEを中心とした採点方式として,イプサティブ方式の質問と回答が挙げられているが,上記カ(ア)で述べたとおり,イプサティブ方式であれば,LEVELとTYPEの両方を測定できるとする考え方もあり得るところであり,これは論評を表明する記述というべきであるから,本件表示Eが品質に関する誤った事実を表示しているとはいえない。
したがって,本件表示Eについて,これが品質誤認表示に当たるという原告の主張は採用できない。
(イ) 同様の理由により,本件表示Eが,虚偽の事実に当たるといえないことも明らかであるから,本件表示Eを表示することは,虚偽の事実の告知に当たらない。
ク 小括 以上のとおり,本件各表示については,いずれも品質誤認表示ないし虚偽の事実に当たるものではないから,これらの記載をもって不正競争防止法2条1項13号,14号所定の不正競争行為に該当することをいう原告の請求は,いずれも理由がない。
なお,原告は,本件文書の受け手がミスリードするおそれがある以上,違法と判断すべきであり,本件各表示は品質誤認あるいは虚偽の事実の告知に当たる旨も主張しているが,上記に述べたとおり,原告がミスリードと主張する理由は,原告の主張する基準によってみればミスリードと判断されるというだけであり,そもそも適性テスト一般に共通する標準的な基準というものが存在しない現在の状況の下においては,原告の上記主張は失当といわざるを得ない。
2 結論 以上によれば,原告の本訴請求は,その余の点を判断するまでもなく,いずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 鈴木千帆
裁判官 荒井章光
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