審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成16ネ4205損害賠償請求控訴事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成17ワ3056損害賠償等請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成18ネ10080債務不存在確認等請求控訴事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成17ワ10073損害賠償請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成16ワ9743損害賠償請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
関連ワード | 需要者 / 印象 / 技術的思想 / 差止請求(差止) / 過失 / 侵害 / 代理人 / 代表者 / 営業誹謗行為(2条1項14号) / 競争関係 / 営業誹謗 / 虚偽の事実 / 営業上の信用 / |
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事件 |
平成
18年
(ワ)
13013号
不正競争行為差止請求事件
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東京都江戸川区<以下略> 原告有限会社ベルテック 訴訟代理人弁護士安原正之 同 佐藤治隆 同 小林郁夫 同 鷹見雅和 補佐人弁理 士豊田正雄滋賀県長浜市<以下略> 被告A 訴訟代理人弁護士久 田 原昭夫 同 久世勝之 補佐人弁理 士永田良昭 同 永田元昭 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2007/12/20 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1原告の請求1被告は,別紙物件目録1記載のプラスチックシート又は同目録2記載のプラスチックシート折曲部用形成刃を製造販売し又は使用する行為が特許第3752035号の特許権を侵害しているとの趣旨を文書若しくは口頭で告知し,流布してはならない。 2仮執行の宣言第2事案の概要本件は,被告が,競争関係にある原告の取引先等に対して,別紙物件目録1記載のプラスチックシート(以下「本件シート」という )及び同目録2記載 。 のプラスチックシート折曲部用形成刃(以下「本件形成刃」という )を製造 。 販売し又は使用する行為が被告の特許権を侵害する旨記載した文書を送付した行為が,不正競争防止法2条1項14号所定の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知する行為に当たると主張して,同法3条1項に基づき,同告知行為の差止めを求めた事案である。 1前提となる事実等(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定される事実をいう。なお,証拠により認定した場合には,当該証拠を該当箇所の末尾に掲げるものとしている )。 ( ) 当事者1ア原告は,プラスチックパッケージングの企画,製造,販売及びノウハウの提供並びにプラスチックパッケージング加工機械の設計,製造及び販売等を目的とする有限会社である。 なお,原告の代表者であるBは,特許第3532183号の特許権を有している(甲11 。)イ被告は,プラスチックの成形加工並びに罫線刃を部品とするプラスチック加工機械の設計,製作及び販売等を目的とする株式会社開伸(滋賀県長浜市<以下略>所在)の代表取締役であり,同社は,被告が経営する個人会社である。 なお,被告は,下記( )のとおり,特許第3752035号の特許権4を共有している(甲1,2 。)( ) 原告の取引先等について2ア株式会社ウイル・コーポレーション,株式会社ジェーピーインク及び有限会社クリアージャパンは,原告が製造した本件形成刃を購入し,これを用いて,本件シートを製造販売している。なお,有限会社クリアージャパンの代表取締役は,原告の代表取締役であるBである(甲3 。)イサンスター株式会社及び株式会社ダイヤケミカルは,株式会社ジェーピーインクが本件形成刃により製造した本件シートを購入して,これを自社製品の包装として使用し,同製品を譲渡している。 ( ) 被告の告知行為について(甲5,6,16ないし19)3被告は,次の各号に掲げる会社に対して,それぞれ当該各号に定める時期, 。 に 本件シートの販売行為等が被告の特許権を侵害するとの内容を告知したア株式会社ウイル・コーポレーション平成18年2月又は3月ころイ株式会社ジェーピーインク平成18年3月10日ころウ有限会社クリアージャパン平成18年3月11日ころエサンスター株式会社平成18年6月14日ころオ株式会社ダイヤケミカル平成18年6月14日ころ( ) 被告の特許権4被告と株式会社フジシールインターナショナルは,次の特許権(以下「本件特許権」という )を共有している(甲1,2 。 。 )ア登 録 番 号第3752035号イ発 明 の 名 称シート,及びシート折曲部用形成刃ウ出願日平成9年1月17日エ登録日平成17年12月16日オ本件特許権に係る明細書(図面を含む。なお,平成19年7月21日訂正後のものである。以下,この訂正を「本件訂正」という )の特許請求 。 の範囲の請求項1及び請求項5の各記載は,次のとおりである(以下,請求項1の特許発明を「本件特許発明1 ,請求項5の特許発明を「本件特 」許発明2」といい,本件特許発明1及び本件特許発明2を併せて「本件特許発明」という。なお,本判決においては,本件訂正前の明細書を「本件特許明細書」という。本判決末尾添付の特許公報参照。。)「【】 ()() 請求項1 プラスチックシート等のシート体 10 に折曲方向 Xに垂直に折曲部(12)が形成されてなる折曲部入りシートであって,前記折曲部(12)は,シート体(10)に形成された多数の凹部(14)と該凹部 14 の間の残部 16 とから構成されてなり 前記凹部 1 ()(),(4)の底部(14a)は,折曲部形成方向(Y)に沿って設けられ,該凹部(14)と残部(16)との境界線(18)が,折曲部形成方向(Y)に対して鋭角で且つ残部(16)を挟んで対向する境界線(18)と同一側に,傾斜せしめられてなることを特徴とするシート 」。 「【】 ()() 請求項5 プラスチックシート等のシート体 10 に凹部 14と残部(16)とからなる折曲部(12)を形成するためのシート折曲部用形成刃であって,刃本体(20)は,凹部(14)を形成するための複数の突出部(24)と,該突出部(24)との間で切欠かれた切欠部(26)とを有してなり,且つ前記切欠部(26)の両側の壁部(18)が,同一側で且つ折曲部形成方向(Y)に対して鋭角に,傾斜せしめられてなることを特徴とするシート折曲部用形成刃 」。 カ構成要件)本件特許発明1についてa,(, 本件特許発明1を各構成要件に分説すれば 次のとおりである 以下「」。)。 各構成要件をその符号に従って 構成要件1-A のように表記する構成要件1-Aプラスチックシート等のシート体(10)に折曲方向(X)に垂直に折曲部(12)が形成されてなる折曲部入りシートであって,構成要件1-B前記折曲部(12)は,シート体(10)に形成された多数の凹部(14)と該凹部(14)の間の残部(16)とから構成されてなり,構成要件1-C前記凹部(14)の底部(14a)は,折曲部形成方向(Y)に沿って設けられ,()()() , 構成要件1-D該凹部 14 と残部 16 との境界線 18 が折曲部形成方向(Y)に対して鋭角で且つ残部(16)を挟んで対向する境界線(18)と同一側に,傾斜せしめられてなる構成要件1-Eことを特徴とするシート。 )本件特許発明2についてb,(, 本件特許発明2を各構成要件に分説すれば 次のとおりである 以下「」。)。 各構成要件をその符号に従って 構成要件2-A のように表記する構成要件2-Aプラスチックシート等のシート体(10)に凹部(14)と残部(16)とからなる折曲部(12)を形成するためのシート折曲部用形成刃であって,構成要件2-B刃本体(20)は,凹部(14)を形成するための複数の突出部(24)と,該突出部(24)との間で切欠かれた切欠部(26)とを有してなり,構成要件2-C且つ前記切欠部(26)の両側の壁部(18)が,同一側で且つ折曲部形成方向(Y)に対して鋭角に,傾斜せしめられてなる構成要件2-Dことを特徴とするシート折曲部用形成刃。 (5) 本件特許発明と本件シート及び本件形成刃との対比についてア本件シートの構成は,別紙物件目録1記載のとおりである。これによれば,本件シートは,プラスチックシートのシート体10に折曲方向Xに垂直に折曲部12が形成されているプラスチックシートであって(構成要件1-A ,シート体10に形成された凹部14の底部は,折曲部形成方向 )Yに沿って設けられている(構成要件1-C 。)したがって,本件シートは,本件特許発明1の構成要件のうち,構成要件1-A,同1-C及び同1-Eを充足する。 イ本件形成刃の構成は,別紙物件目録2記載のとおりである。これによれば,本件形成刃は,プラスチックシート等のシート体に折曲部を形成するためのシート折曲部用形成刃である。 したがって,本件形成刃は,本件特許発明2の構成要件のうち,構成要件2-Dを充足する。 2争点( ) 被告は原告と競争関係にあるか(争点1 。 1 )( ) 被告が告知した事実は何か(争点2 。 2 )( ) 被告が告知した事実は虚偽か(争点3 。 3 ), ()。 ア本件シートは 本件特許発明1の技術的範囲に属するか 争点3-1)本件シートは,構成要件1-Bを充足するか(争点3-1-a 。 a ))本件シートは,構成要件1-Dを充足するか(争点3-1-b 。 b ), ()。 イ本件形成刃は 本件特許発明2の技術的範囲に属するか 争点3-2)本件形成刃は,構成要件2-Aを充足するか(争点3-2-a 。 a ))本件形成刃は,構成要件2-Bを充足するか(争点3-2-b 。 b ))本件形成刃は,構成要件2-Cを充足するか(争点3-2-c 。 c )ウ本件特許発明1には無効理由があるか(争点3-3 。))本件特許発明1には進歩性があるか(争点3-3-a 。 a ))本件特許発明1は記載要件を満たすか(争点3-3-b 。 b )エ本件特許発明2には無効理由があるか(争点3-4 。))本件特許発明2には新規性又は進歩性があるか(争点3-4-a 。 a ))本件特許発明2は記載要件を満たすか(争点3-4-b 。 b )( ) 被告の告知行為は原告の営業上の信用を害するか(争点4 。 4 )( ) 被告の告知行為は違法性が阻却されるか(争点5 。 5 )第3争点に関する当事者の主張1争点1(被告は原告と競争関係にあるか )について。 (原告の主張)( ) 株式会社開伸は,被告を代表者とする家族経営会社である。そうすると,1同社は,実質的に被告と同視すべきであって,被告のように自己が代表者となっている会社のために告知行為をすると認められる者については,競争関係を認めるべきである。 ( ) 被告は,原告と株式会社開伸では需要者がそれぞれ異なるから,原告と競2争関係にないと主張する。 しかしながら,被告の主張は,単に原告と株式会社開伸の商品がその流通段階を異にするというものにすぎず,原告と株式会社開伸は,広く同種の商品である罫線入りプラスチックシートを取り扱うものであるから,被告が原告と競争関係にあることは明らかである。 (被告の主張)原告は,プラスチックシートを自ら製造販売するものではなく,プラスチックシートを製造する装置を製造販売するものである。そのため,本件シートその他のプラスチックシートは,上記装置を購入した株式会社ウイル・コーポレーション,有限会社クリアージャパン及び株式会社ジェーピーインク等が製造販売している。 これに対して,被告を代表者とする株式会社開伸は,現実の業務としては,専らプラスチックシートの製造販売を行っている。 , , そのため 原告の需要者がプラスチックシートの製造業者であるのに対して株式会社開伸の需要者はプラスチックシートの使用者である。 このように,原告と株式会社開伸では需要者が異なるから,被告は原告と競争関係にない。 2争点2(被告が告知した事実は何か )について。 (原告の主張)( ) 本件シートは本件形成刃によって製造されているから,本件シートの製造1販売が本件特許権を侵害すると告知すれば,告知の相手方は,本件形成刃の製造販売も同様に本件特許権を侵害すると理解することは明らかである。 したがって,被告が告知した事実は,本件シート及び本件形成刃が本件特許権を侵害するというものである。 ( ) 被告は,本件シートの罫線に関する事項のみを告知したものであって,本2件形成刃に関する事項を告知したものではないから,被告の告知行為によっては,本件形成刃を製造販売する原告の信用を害するものとはいえないと主張する。 しかしながら,被告は,株式会社ウイル・コーポレーションに対して,次のとおり告知している。 「4)B氏の特許を実施すれば,フジシール,Aの権利に抵触し大変な問題になる可能性がある。 5)B氏の特許は,それ以外の特許にも抵触する可能性が大きく,その権利者は警告書を準備しているとの情報あり ・・・抵触の可能性の特許○ ,特開平2-249626○特開平6-100017○特許3151579号」「B氏特許を実施している会社が透明ケース関係で3社判明しました。国内に200〜400万枚出回っているようですが,今後抵触保障と,特許法による罰金等々で大変なことになる事と思います 」。 これらの告知の内容によれば 「B氏の特許」の実施行為,すなわち,原 ,告が製造販売する形成刃を使用してプラスチックシートを製造販売する行為を特許権の侵害であると警告しているものといえる。 したがって,被告の主張には,理由がない。 (被告の主張)被告は,本件シートに関して本件特許権を侵害すると告知したのであって,本件形成刃に関して本件特許権を侵害すると告知したものではない。 したがって,本件では,本件形成刃が本件特許発明2の技術的範囲に属するか否かについて論ずる意味はない。 3争点3(被告が告知した事実は虚偽か )について。 。 ( ) 争点3-1(本件シートは,本件特許発明1の技術的範囲に属するか )1 。 についてア争点3-1- (本件シートは,構成要件1-Bを充足するか )につa 。 いて(原告の主張))はじめにa本件特許発明1は,構成要件1-Bによれば 「前記折曲部(12) ,,()()() は シート体 10 に形成された多数の凹部 14 と該凹部 14の間の残部(16 」から構成されている。 )これに対して,本件シートは,0.52?o間隔で配置された凹部14の間の湾曲凸部16から構成されているものの,湾曲凸部16は,残部16に相当しない。 )残部の意義についてb?@本件特許明細書の【0006 【発明が解決しようとする課題】に 】は 「何れの従来例のシートも,シートの折曲性を得るために凹溝を ,深く或いは凹溝の凸部分等を小さくすると折曲部の強度に欠け,逆にシートの強度を保つために凹溝の凸部分等を大きくするとシートの折。」,【】, 曲性に欠けるという問題を有するものであった0007 には例えば 従来例3のシートにあっては 補強リブが凹溝に垂直に 折 「, ,(曲方向に沿って)形成されてなるものゆえに,凹溝側にシートを折り曲げた際には補強リブ自体が当接しあい,シートの折曲げを阻害し,折曲性に欠けるという問題を有し,折曲性を確保すべく補強リブを小さくすると,シートの強度が得られないという問題を有していた。一方,シートを凹溝が形成されない側に折り曲げた際には,補強リブには引き裂き方向の力が生じ,該補強リブの破損等のおそれがあり,かかる破損を防止するために補強リブを大きくすると,シートの折曲性を阻害するという問題を生じていた 」とそれぞれ記載されている。 。 また,本件特許明細書の【0028】には 「残部16は,シート ,の厚みをそのまま残存させるものに限定されるものでなく,例えば図4に示すように凹部14より浅い凹みを有し,凹部14よりもシートの厚みが残存されているものも本発明の意図する範囲である「残。」,部16はシートの肉厚をそのまま残存させる構成を採用することにより,シートの強度を維持できるのみならず,折曲部12の形成が容易であるという利点を有する。つまり,図4に示すように残部16にも凹みを形成するならば,凹部14及び残部16の深さを的確に形成しなければ,シート自体の強度の低下或いは折曲性の低下が生ずるおそれがある。これに対して,残部16がシートの肉厚をそのまま残存させてなる構成を採用するならば,凹部14の深さに多少のズレが生じても,シート自体の強度並びに折曲性に悪影響を与えず,折曲部12の形成が容易であるという利点を有するものである 」とそれぞれ記 。 載されており 「残部16」について,シートの肉厚をそのまま残存 ,させる構成を採用することの優位性を指摘している。 これらの記載によれば,本件特許明細書では,残部は,従来例3のような浅い凹部をいうものではなく,プラスチックシートの厚さ又はそれより若干低い補強リブ6のようなものを想定して,折曲性の確保及び破損防止を意図するものである。 ,【】,, また 本件特許明細書の 0031 には 図5の実施態様として凹部の「中央部に突部15を有するW字状に形成されてなるもの」が,, 。 記載されており これは 残部16とは別個の構成要素とされているこのような凹部の中の凸部は,従来例3の浅い凹部と同様に,本件特許発明の残部ではないことが明らかである。 以上のとおり 「残部」とは,その通常の用語の意義からして,原 ,則としては,プラスチックシートが凹部を形成するための形成刃で加工されていない部分をいうものであって,従来例3のような浅い凹部や本件特許明細書の第5図のような溝の中の低い凸部を含まないものである。 もっとも,本件特許明細書の【0028】には 「残部16は,シ ,ートの厚みをそのまま残存させるものに限定されるものではなく」と記載されており 【0028】には,このような場合には 「凹部1 , ,4及び残部16の深さを的確に形成」しなければ,作用効果を奏しないという記載もある。しかし,本件特許明細書には,このように「的確に形成」することについては,技術的に開示されていない。 そうすると,当業者は,シートの厚みをそのまま残存させるもの以外の残部を構成することは不可能である。 したがって 「残部」とは,むしろ,シートの肉厚をそのまま残存 ,させてなるものと解すべきである。 ?A本件特許明細書の【0010】には 「該構成からなる本発明に係 ,るシートにあっては,シート体10を折曲部12に沿って折曲方向Xに曲げた際に,両側の境界線18が同一側で傾斜した残部16は捩じれた状態となるので,互いに当接することもなく,また残部16に引き裂き方向に力が生じても,残部16の境界線18が傾斜してなるので前記引き裂き方向の力は分散され,残部16の破損を防止することができる 」と記載されている。これは,残部の構成によってシート 。 の折曲性とシートの強度を同時に確保しようとするものである。 したがって 「残部16」とは,プラスチックシートの元の厚みに ,近く,壁状の薄いものであり,折り曲げた際に重ならないとの効果を奏するものである。 ?B本件特許明細書には 「残部」を形成するための折曲部用形成刃に ,は,残部16を形成する切欠部26の両側に壁部18があるとされている。 したがって 「残部」とは,壁状のものであると解すべきである。 ,)本件シートの湾曲凸部16についてc?@湾曲凸部16は,壁状の立ち上がりがなく,二つの略楕円形の円柱が並列した形状をしており,二つの略楕円形の円柱の間には,ほぼ直線の溝状部16aがある。また,この形状は,扁平であって,凹部14の底部から頂点まで約0.13?o,溝状部16aまで約0.07?oしか隆起していない。 実際には,本件シートは,0.20?o以上の厚さのシートの加工に使用されるから,湾曲凸部16は,元のシートの厚さより顕著に浅く加工されている。 そうすると 上記のとおり このような浅い湾曲凸部16が 残 ,), 「b部」に当たらないことは明らかである。 ?Aまた,本件シートを凹部14が形成された表面側に折り曲げた場合には,凹部14に小さく隆起した湾曲凸部16が互いに当接する。これは,湾曲凸部16が,二つの略楕円形の円柱が並列した形状であって,折曲部12に対して垂直方向の長さよりも,これに沿った方向の長さの方が大きいことによるものである。このような構成によれば,湾曲凸部16を凹部14の形成された表面側に折り曲げた場合には,湾曲凸部16の大部分が重なることが明らかである。 実際には,湾曲凸部16は,立体的に隆起しているから,全体的に押し潰されて,当接せずに捩れた状態になることはない。 例外的に,平面視で観察した場合に重ならない部分があったとしても,本件特許発明の重要な作用効果である折曲性を高めるという観点から,これを当接せずに捩れた状態であるとはいえない。ましてや,このような縦横幅の関係にある湾曲凸部16が横倒れする如く捩じれた状態となることはあり得ないことである。 実験報告書(甲29)によっても,本件シートを表面側に折り曲げた場合には,湾曲凸部16は全体として押しつぶされた状態になっている。 ,, , 他方で 湾曲凸部16は 罫線の無い裏面側に折り曲げた場合には引き裂き方向の力が分散されるというようなことはない。つまり,本件シートでは,湾曲凸部16の形状や大きさの選択により破損を防止しているのであって,本件特許発明とは全く異なるものである。 そうすると,本件シートの湾曲凸部16は,本件特許発明の作用効果を奏しないから,本件特許発明1の残部とはいえない。 , , , なお 本件シートの湾曲凸部16は 湾曲した低い隆起であるから折り曲げると全体的に押しつぶされた状態になり,互いに当接しあうものの,シートの折曲げを阻害することがない。そうすると,このような湾曲凸部16は,そもそも本件特許発明の技術課題と無関係である。すなわち,本件シートは,折曲性については,小さく低い湾曲凸部16の形状により確保し,また,強度については,略楕円形の円柱を二つ並べたような形状により確保している。 したがって,本件シートでは,折曲性や強度の確保は,本件特許発明1とは異なる技術思想によって達成するものである。 (被告の主張))「残部(16 」とは,凹部の底面よりも突出,隆起した部分であっa )て,凹部よりもシートの厚みが残存しているものであると解される。 ,【】,「, このことは 本件特許明細書の 0038 において残部16はシートの厚みをそのまま残存させるものに限定されるものでなく,例えば図4に示すように凹部14より浅い凹みを有し,凹部14よりもシートの厚みが残存されているものも本発明の意図する範囲である 」と記。 載されていることからも,明らかである。 そうすると,本件シートの湾曲凸部16は,凹部であるV字状の溝の表面よりも突出,隆起し,凹部よりもシートの厚みが残存されているから,構成要件1-Bの「残部」に当たる。 したがって,本件シートは,構成要件1-Bを充足する。 なお,構成要件1-Bを規定する文言には,残部がシートの厚みをそのまま残存させるという限定はない上,本件特許明細書の【0028】の記載は,実施例において,残部をシート厚と同じにする場合には利点があることを説明しているにすぎない。このような利点は,追加的な作用効果であって,本件特許発明1の作用効果そのものではない。 そうすると,本件特許明細書の【0028】の記載は,残部とシート厚との関係について限定を加える根拠とはなり得ないものである。 )原告は,本件特許明細書の第5図において,突部15が残部とされてb「」 。, いないことを 残部 についての主張の根拠としている しかしながら突部15に関する記載は,凹部の形状が限定されないことを示すために記載されたものであって,残部を限定するために記載されたものではない。 ,【】「, このことは 本件特許明細書の 0031 において 該凹部14は折曲部形成方向YからみてV字状に形成されてなるものに限定されるものではなく,図5に示すように中央部に突部15を有するW字状に形成されてなるもの,さらには図6に示すように一つの凹部14の傾斜方向からみてV字状になるように形成されてなるものも本発明の意図する範囲である 」と記載されていることからも明らかである。 。 )さらに,原告は,本件シートの湾曲凸部16は,その厚みにより,本c件特許発明1の残部が有する「捻れ」という作用効果を奏しないと主張している。 しかしながら,捻れとは,両端をつかんで,互いに逆の方向に回す,又は,片端を固定して他方を一つの方向に回すことにより起きる状態をいうものであるから,そのような力が加われば,程度の差こそあれ,捻, 。 る対象に厚みがある場合であっても 捻れそのものは生じるものである原告の主張は,捻れの意味を明らかにしない上,捻れの用語について独自な狭い意味に解することを前提とするものである。 これを本件シートの湾曲凸部16についてみると,表面側に折り曲げた場合には,残部の両端が反対方向に回されており,捻れが発生していることは明らかである。このような捻れにより,残部が垂直な場合に比べて,残部が互いに重ならず,当接しないという作用効果が生じているといえる。 したがって,原告の主張には理由がない。 イ争点3-1-b(本件シートは,構成要件1-Dを充足するか )につ。 いて(原告の主張))境界線の主位的定義についてa?@本件特許明細書の【0033】には 「本発明において境界線18 ,とは,残部16を残存させつつ凹部16を形成する際に凹部14と残部16との間に形成が予定される線を意味し,折曲部12を形成した。」 際に明確に線となり表れないものも本発明の意図する範囲内であると記載されている。また,本件特許明細書の実施例の残部16は,いずれも垂直な壁状のものである。 そうすると,境界線18は,折曲部形成方向Yに凹部14と残部16が残部16の壁を境に接している線であるというべきである。 つまり,このような境界線は,残部16の側面が壁状に垂直に立ち上がっていることにより,初めて生じるものである。 また,境界線は,本件特許発明2の構成要件2-Cの「壁部」と裏腹の関係にあるから 「壁部」とは,残部が凹部から立ち上がってい ,る壁状の部分に相当するものである。 これに対して,本件シートの湾曲凸部16は,湾曲面で構成されており,壁状の部分はないから,結局,残部も境界線もないというべきである。 したがって,本件シートは,構成要件Dを充足しない。 ?A仮に,被告の主張するとおり,境界線が折曲方向Xと折曲部形成方向Yで形成される平面(以下「XY平面」という )に投射して把握 。 されるものであるとすれば,残部16の壁部18に対応する壁状の部分は,XY平面に対して垂直なもののみを意味することになり,かえって,本件シートが本件特許発明1の技術的範囲に属さないことが明らかになる。 すなわち,XY平面に投射された境界線18が凹部14と残部16を分けるものであるから,境界線が1本の直線又は曲線としてXY平面に投射されるには,凹部と残部の境界面はXY平面に垂直な面である必要がある。 これに対して,境界面を傾けた場合には,XY平面に投射した境界線は複数存在することになるから,境界線と折曲部形成方向Yとの角度も複数存在することになる。このような場合において,いずれの境界線でその角度を特定するかについては,本件特許発明1の請求項及び本件特許明細書の発明の詳細な説明には記載されていない。 そうすると,結局,本件特許発明1は,境界線が一本の線分又は円弧となるもの,つまり,境界面がXY平面に垂直であるもののみに限定されると解釈すべきである。なお,このような場合において,境界線が円弧状のときは,その角度を特定できない以上,本件特許発明1の技術的範囲に属さないことは明らかである。 ?Bなお,角度については,被告は,形成刃の製造の際におけるワイヤー放電加工の角度である,又は,折曲部形成方向Yの折曲部12,すなわち,境界線と折曲部の線との交点における接線の角度であると主張している。 前者の定義は,本件特許発明1の請求項及び明細書の記載に基づかないものである。また,後者の定義は,構成要件1-Dの「折曲部形成方向(Y)に対して鋭角で」を「折曲部形成方向(Y)の折曲部12に対して鋭角で」と読み替えるものであって,構成要件1-Dの文言を無視するものである。すなわち 「折曲部12」における接線と ,いう概念は,境界線と折曲部形成方向との角度を定義するために被告が作り出した概念にすぎない。 )境界線の予備的定義についてb?@「境界線」について,被告は,残部が凹部に向けて落ち込みを開始する線であると主張する。しかし,このような解釈は,次のとおり,本件特許明細書の記載に反するものである。 すなわち,本件特許明細書には 「該凹部(14)と残部(16) ,との境界線(18(請求項1 【0009 )又は「凹部14と残 )」,】部16との境界線18 ( 0011【0012 )と記載されてい 」【】,】。,, , る これらの記載によれば 境界線は 凹部と残部との境界であって残部のうちの一部分を示すものではない。 この点について,被告は,本件特許明細書の図6を根拠に解釈していると思われる。しかし,図6は,そもそも被告が訂正審判によって削除しているものであって,特許請求の範囲の用語の解釈には当初の図面を用いるものとしても,図6は,特殊な例あるいは統一的な解釈のできない例であって,このような例を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するのは誤りである。 ?A仮に,被告の解釈を採用する場合であっても,本件シートは本件特許発明1の技術的範囲には属さない。なぜなら,本件シートの湾曲凸部16の最も高い部分を「境界線」とするときは,そのような部分は湾曲凸部16において1本しか存在しないことになる。 他方で,構成要件1-Dには「残部(16)を挟んで対向する境界線(18(請求項1)と記載されているとおり,残部とは,2本 )」の境界線によって挟まれている部分をいうものである。 そうすると,本件シートの湾曲凸部16は,2本の境界線によって挟まれている部分がないため,本件シートは 「残部」に相当する構 ,成を有しないことになる。 ちなみに 「残部」とは 「線」ではなく 「体積」を有する概念で ,,,あって,それゆえ,本件特許明細書に記載されているとおり,重なり等の課題が生じるものである。この点からも,被告の解釈では,本件シートが本件特許発明1の技術的範囲に属さないことが明らかである。 (被告の主張))境界線の主位的定義についてa?@「境界線(18 」とは,凹部の底面から,残部の突出,隆起が開 )始した部分と解される。 すなわち 「残部」は,上記アのとおり 「凹部の底面よりも突出, , ,隆起した部分 ,あるいは 「凹部よりもシートの厚みが残存してい 」,」,,,, る部分 であるから 残部か凹部かは 底面からの突出 隆起の有無又は,凹部に比較してシートに厚みが残存しているか否かで区分されることになる。 そうすると,境界線とは,境目となる線である以上,残部と凹部との相違が最初に表れる線ということになるため 本件特許発明1の 境 ,「界線(18 」とは,凹部の底面から残部の突出,隆起が開始した部 )分をいうことになる。 本件シートでは,このような境界線は円弧状の線となるものの,こ,「」。, のような線も 本件特許発明1の 境界線 に該当する このことは本件特許明細書の【0032】において「境界線18は直線であることは要せず,図9に示すように円弧状等であっても良く」と記載されていることからも明らかである。 また,本件特許発明1では,境界線が円弧状である場合には,本件特許明細書の【0032】の「少なくとも残部16を挟んで対向する境界線18同士が同一側に傾斜せしめられてなるものであれば本発明の意図する範囲内である 」という記載及び境界線が円弧状の境界線 。 の接線とされている図9の記載からすれば,境界線の円弧の折曲線との交点における接線が折曲部形成方向Yに対して鋭角で,かつ,残部16を挟んで対向する境界線の接線と同一側に傾斜していれば,構成要件1-Dの構成を充足するということができる。 本件シートの円弧状の境界線の折曲線との交点における接線は,折曲部形成方向Yに対して約45度で鋭角に傾斜している。また,当該接線の湾曲凸部(16)を挟んで対向する円弧状の境界線の接線は,同一側に,傾斜している。 したがって,本件シートは,構成要件1-Dを充足する。 ?Aまた,本件特許発明1における境界線の傾斜とは,残部をなす四角柱や円柱と折曲部とが形成する角度の傾斜を,凹部との境界線に着目して表現したものである。したがって,残部をなす四角柱や円柱が折曲部に鋭角に傾斜している場合には,境界線は,折曲部に鋭角に傾斜しているということができる。 本件シートでは,この傾斜は,形成刃の切欠部を形成するためのワイヤーと形成刃との角度によって定められる。具体的には,シートの凸部を形成するための切欠部を形成刃に作る場合には,形成刃の刃の, , 部分に断面円形のワイヤーを接近させて そのワイヤーを放電させて形成刃の刃の一部の金属を破壊して,切欠部を作ることになる。このような場合において,ワイヤーの角度を刃の長さ方向に対して鋭角にしたときに,シートに形成される残部の境界線が鋭角となる。 本件シートの湾曲凸部16は,2本分のワイヤーにより形成刃に作られた切欠部により形成されたものであり,その結果,二つの円筒形の一部の形状をしている。 そうすると,ワイヤーの形成刃の刃に対する角度は鋭角であり,これにより形成される円筒形も同様に,折曲部に対する角度は鋭角であるから,本件シートの境界線が折曲部形成方向Yに対して鋭角であることは明らかである。 したがって,本件シートは,構成要件1-Dを充足する。 ?B構成要件1-Dによれば,境界線は,折曲部形成方向Yに対して鋭角で傾斜していると定めているから,その傾斜は,折曲部形成方向Yの折曲部12に対するものということになる。 そうすると,境界線の傾斜は,境界線が折曲部の線と交わる点における境界線の接線の傾斜を意味するというべきであるから,本件シートでは,その傾斜は同じ方向に45度の鋭角をもって傾斜している。 したがって,本件シートは,構成要件1-Dの構成を充足する。 )境界線の予備的定義についてb?@境界線とは,上記 )の定義の外に,本件特許明細書の図3ないし a図6に記載されている境界線によれば,境界線は,残部から凹部に落ち込みが開始する線,言い換えれば,残部の凹部に対する最も高い位置を示す線と解することができる。 このような解釈によれば,本件シートの湾曲凸部16の最も高い部分により構成される線とは,湾曲凸部16を構成する略楕円形の円柱の母線である。この線は,折曲部12に対し鋭角に傾斜している。そして,本件シートの湾曲凸部16の境界線は,略楕円形の円柱ごとに2本あり,これらの境界線は,同一側に傾斜している。 したがって,本件シートは,構成要件1-Dを充足する。 ?Aなお,このような解釈を前提とする場合には,境界線が残部を挟んで対向しているか否かが問題となる。 構成要件1-Dは「残部(16)を挟んで対向する境界線(18)と同一側に,傾斜せしめられてなる」として,同一側に傾斜する境界線が残部を挟んでいるという書きぶりを採用している。これは,凹部を挟んで対向する境界線については,同一側に傾斜している必要がないことを示すためのものである。つまり,この記載は,どの境界線とどの境界線とを比較して同一側に傾斜しているかを特定するためのものにすぎない。 このことは,本件特許明細書の【0032】には「境界線18は互いに平行であることを要せず,また,図10に示すように凹部14を挟んで対向する境界線18同士が反対側に傾斜せしめられてなるものであっても本発明の意図する範囲である 」と記載されていることか 。 らも明らかである。つまり 「挟んで」という文言は,本件特許明細 ,書の図10のように,凹部を挟んだ境界線が同一側に傾斜している必要がないという以上の意味はない。 結局のところ,構成要件1-Dの「残部(16)を挟んで対向する(),」, 境界線 18 と同一側に 傾斜せしめられてなる というためには同一側に傾斜していなければならない境界線同士の間に残部があれば足り,残部の全部を境界線同士で挟んでいることまでを要求するものではない。 そうすると,本件シートの湾曲凸部16の二つの楕円形状の円柱の母線の間には残部があるため,このような構成であれば,どの境界線とどの境界線を比較して,同一側に傾斜しているかを特定することができる。 したがって,境界線を最高部にあるものとして解釈する場合であっても,本件シートの境界線は,残部を挟んで同一側に傾斜しているから,本件シートは,構成要件1-Dを充足する。 ( ) 争点3-2(本件形成刃は,本件特許発明2の技術的範囲に属するか )2 。 についてア争点3-2-a(本件形成刃は,構成要件2-Aを充足するか )につ。 いて(原告の主張)本件特許明細書の【0014】には「また,本発明に係るシート折曲部用形成刃としての特徴は,プラスチックシート等のシート体10に凹部14と残部16とからなる折曲部12を形成するためのシート折曲部用形成刃であって,刃本体20が,凹部14を形成するための複数の突出部24と,該突出部24との間で切欠かれた切欠部26とを有してなり,且つ前記切欠部26の両側の壁部18が,同一側で且つ折曲部形成方向Yに対して鋭角に,傾斜せしめられた点にある【0015】には「本発明に係 。」,る形成刃は上記構成からなるので,該形成刃によってプラスチックシート等のシート体10に折曲部12を形成すると,切欠部26に相当する部位を残存させつつ,突出部24によって該残部16間に凹部14を形成することができ,この際切欠部26の両側の壁部18が同一側で且つ折曲部形成方向Yに対して鋭角に傾斜せしめられてなるので,シート体10の凹部14と残部16との境界線18が折曲部形成方向Yに対して鋭角で且つ残部16を挟んで対向する境界線18と同一側に傾斜せしめて折曲部12を形成することか〔ママ〕できる 」とそれぞれ記載されている。 。 また,本件特許発明1の構成要件には 「プラスチックシート等のシー ,ト体(10)に折曲方向(X)に垂直に折曲部(12)が形成されてなる折曲部入りシートであって,前記折曲部(12)は,シート体(10)に形成された多数の凹部(14)と該凹部(14)の間の残部(16)とから構成されてなり,前記凹部(14)の底部(14a)は,折曲部形成方向 Y に沿って設けられ 該凹部 14 と残部 16 との境界線 1 (),()()(8)が,折曲部形成方向(Y)に対して鋭角で且つ残部(16)を挟んで対向する境界線(18)と同一側に,傾斜せしめられてなることを特徴とするシート 」と記載されている。 。 これらの記載から明らかなとおり,本件特許発明2の形成刃は,本件特許発明1のシートを形成するためのものである。 すなわち,本件特許発明2では 「同一側「鋭角に「傾斜」等の用 ,」,」,語の意味が不明瞭のため,形成刃の形状を明確に示しているとはいえないものの,これにより形成されるものは,本件特許発明1のシートである。 そうすると,このような形成刃とシートの関係によれば,本件形成刃によって形成される本件シートが,本件特許発明1の技術的範囲に属さないものであるならば,そのようなシートを形成する本件形成刃も,同様に,本件特許発明2の技術的範囲に属さないことは明らかである。 , ,, したがって 構成要件1-Bにおいて主張したとおり 湾曲凸部16は「残部(16 」とはいえないから,同様に,本件形成刃は 「残部(1 ) ,6)とからなる折曲部(12)を形成する」ためのものではないから,構成要件2-Aを充足しない。 (被告の主張)本件特許発明2は,本件特許発明1と裏腹の関係にある。そうすると,本件シートは本件特許発明1の技術的範囲に属するから,同様に,本件形成刃も本件特許発明2の技術的範囲に属することになる。 したがって,本件形成刃が,構成要件2-Aを充足することは明らかである。 イ争点3-2-b(本件形成刃は,構成要件2-Bを充足するか )につ。 いて(原告の主張)切欠部とは,残部を形成するために,刃が切り欠かれているものであって,その部分には,シートに作用する刃がないことを意味している。 そうすると,本件形成刃の湾曲凹部26は,罫線加工の際にシートに圧力を加えて,湾曲凸部16を形成するものであるから,シートに作用する刃であると認められる。 したがって,本件形成刃には,切欠部がないから,構成要件2-Bを充足しない。 (被告の主張)本件特許発明2は,本件特許発明1と裏腹の関係にある。そうすると,本件シートは本件特許発明1の技術的範囲に属するから,同様に,本件形成刃も本件特許発明2の技術的範囲に属する。 したがって,本件形成刃が,構成要件2-Bを充足することは明らかである。 ウ争点3-2-c(本件形成刃は,構成要件2-Cを充足するか )につ。 いて(原告の主張)本件形成刃の湾曲凹部26は,立体的に湾曲しているから,これには壁部18がない。また,湾曲しているから 「同一側で且つ折曲部形成方向 ,(Y)に対して鋭角に,傾斜せしめられてなる 」という構成ではない。 。 したがって,本件形成刃は,構成要件2-Cを充足しない。 (被告の主張)原告は,湾曲凹部26が断面半円形であって湾曲しているから,これには壁部がないと主張している。 しかしながら,本件特許発明2において壁部が平面でなければならないという文言上の限定はなく,その他壁が平面でなければならないとする根拠はないから,湾曲していても,傾斜していても,壁といえる。 そうすると,壁部18とは,切欠部26の最底面から切欠きのない刃本体表面までの面を意味するものであるから,本件形成刃では,壁部18が同一側で且つ折曲部形成方向Yに対して45度の角度に傾斜していることは明らかである。 したがって,本件形成刃は,構成要件2-Cを充足する。 ( ) 争点3-3(本件特許発明1には無効理由があるか )について3 。 ア争点3-3-a(本件特許発明1には進歩性があるか )について 。 (原告の主張))本件特許発明1の特許出願前に頒布された刊行物である特公昭61-a37092号公報(甲31。以下「甲31公報」といい,これにより開示された発明を「甲31発明」という )の特許請求の範囲には 「複 。,合プラスチックシートを折り曲げるに当り,この複合プラスチックシートの折り曲げ線に相当する部分に直線状に断続して連なる切り込み溝を,これら切り込み溝の間に溝なし部分が介在するように形成し」と記載されている。そうすると,甲31発明には,プラスチックシート等のシート体において折曲方向に垂直に折曲部が形成されてなる折曲部入りシートであって,当該折曲部には,シート体に形成された多数の凹部と該凹部の間の残部とから構成されてなる構造が開示されている。 したがって,甲31公報には,構成要件1-A,同1-B及び同1-Cの構成が開示されている。 なお,甲31公報のFIG.1には,切り込み溝の形状として,両端部が。, 上方に開いた形状の実施例が開示されている このような形状の溝では凹部と残部との境界面は,斜めに傾いたV字状の面となる。また,甲31公報のFIG.1のポンチ4は,プラスチックシート体に凹部と残部を形成する刃であって,複数の突出部とその間の切欠部からなる。また,切欠部の壁部は斜めの平面である。 )本件特許発明1の特許出願前に頒布された刊行物である米国特許第4b642086号の明細書(甲27。以下「甲27明細書」といい,これにより開示された発明を「甲27発明」という )のFIG.4及びその説 。 明によれば,薄いエリア30が熱可塑性プラスチックシートの折り目34に沿って並んでおり,薄いエリア30が,それぞれ折曲線に斜め45度方向に平行に傾斜しているという構成が開示されている。 そして,その効果として,甲27明細書には 「熱可塑性プラスチッ ,クシートに切り口をつけるのにはプレートの溝はどのような角度がつけられても良いが,最も良い結果を得られるのは溝が切り口をつける工具に対し45°で角度がつけられたときである事が発見されている(甲。」27明細書の1欄66行から2欄4行まで「当発明によると最良の ),結果は,FIG.2に示されているように,溝のカットが切り口をつける工具16の縦の軸1に対して45°の角度で配置された際に得られている。そのように配置する事で,折り目はベストの強度と柔軟性のコンビネーションとなる (甲27明細書の3欄14行から22行まで)とそ 」れぞれ記載されている。これは,本件特許発明1の「シートの折曲性及びシートの強度を同時に満たし得るシートを提供する」という効果と同じである。 そうすると,甲31公報に開示されている多数の凹部と残部とからなる折曲部を備えた折曲罫線入りプラスチックシートにおいて,甲27明細書に開示されているように,その残部の形状をこれを挟む境界線が同, 。 一側に傾斜するようにすることは 当業者が容易になし得ることであるしたがって,本件特許発明1は,甲31発明に甲27発明を組み合わせることによって,当業者が容易に想到することができた発明であり,進歩性がない。 (被告の主張)甲31発明のプラスチックシートは,本件特許発明1とは異なり,残部の境界線に該当する部分が折曲部形成方向に対して垂直であるから,境界線が折曲部形成方向に対して傾斜しているという構成(構成要件1-D参照)は開示されていない。 他方で,甲27発明における罫線の反対の面にある斜めの溝は,折曲部形成方向に対して傾斜している。 しかしながら,甲27発明の斜めの溝から,甲31発明の境界線を折曲部形成方向に対して傾斜させるということは,当業者が容易に想到できるものではない。 すなわち,甲27発明は,切欠きのない罫線刃でシートに残部のない罫線(凹部)を形成し,そのシート裏側で,複数の斜めの溝からなる平らなプレートによって複数の溝を形成するものである。そのため,表面には残部のない罫線(凹部)が,裏面には罫線(凹部)のないフラットな面に斜めの溝が形成されているにすぎないものである。このように,甲27発明は,罫線(凹部)に残部を形成することをそもそも想定していない。 これに対して,甲31発明は,罫線(凹部)が形成された面の反対の面には,溝を形成することは全く想定されていない。 そうすると,本件特許発明1及び甲31発明は,罫線(凹部)の形状を工夫することにより,プラスチックシートの強度と柔軟性を共に確保しようとするものであるのに対し,甲27発明は,罫線(凹部)の形状には着目していないため,技術的な思想が全く異なっている。 このように,甲31発明及び甲27発明は,基本的な構成や技術的な思想そのものが異なるものであるから,甲27発明を甲31発明に組み合わせて,甲31発明の境界線を斜めにするということは,当業者が容易に想到できるものではない。 したがって,当業者は,甲31発明に甲27発明を組み合わせることによっては,本件特許発明1を容易に想到することができないため,原告の主張には,理由がない。 イ争点3-3-b(本件特許発明1は記載要件を満たすか )について 。 (原告の主張))境界線について,本件特許発明1の構成要件1-Dには 「凹部(1a ,4)と残部(16)との境界線」と記載されている。しかし,本件特許明細書には,実施例として境界線18を上面から見た図のみしか記載されていないため,境界線18の形状が明らかではない。 仮に,凹部を形成する底部からの立ち上がりの線を境界線と解する場合には,境界線は,直線や折れ曲がった直線,あるいは,曲線や折れ曲がった曲線となる。そうすると,構成要件1-Dには 「折曲部形成方 ,向(Y)に対して鋭角で」と記載されているものの,上述のとおり,境界線が様々な形状を含む3次元の線となり得ることを考慮すると,境界線と折曲部形成方向との関係において 「鋭角」の基準となる空間的位 ,置関係が明らかとはならない。 これと同様に,構成要件1-Dには 「残部(16)を挟んで対向す ,る境界線(18)と同一側に,傾斜せしめ」と記載されているものの,様々な形状を含む3次元の線である境界線と3次元立体である 残部 1 「(6 」を挟んで対向するもう1本の「境界線(18 」との関係におい ) )て 「傾斜」の基準となる空間的配置関係が明らかとはならない。 ,結局のところ,本件特許発明2の形成刃の形状や実施例等をも考慮すると 「境界線」という表現は誤りであって 「境界面」が正しいと思 , ,われる。 )また,本件シートの湾曲凸部16が「残部(16 」の構成を充足すb )るとすれば 「残部」は,発明の作用効果を奏しない範囲をも含むこと ,になる。 以上のとおり,本件特許発明1の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでなく,また,特許を受けようとする発明が明確でもない。 したがって,本件特許発明1は,特許法36条6項1号及び2号に規定する要件を満たさないから,同法123条1項4号に該当し,無効審判により無効にされるべきものである。 (被告の主張)原告は,本件特許発明1の「境界線」は 「境界面」と理解すべきであ ,ると主張している。しかし,線はあくまで線であって,線を面と解釈することはできない。 また,原告は,境界線の傾斜を3次元的に把握することを前提として主張している。しかし,本件特許発明1における境界線の傾きは,XY平面に投射して把握されるもの,つまり,平面視において折曲部形成方向に対して傾斜していることを意味するものである。 これは 「角度」とは,平面上の1点から出る二つの線で分割された領 ,域において,この二つの線の開き具合をいうものであって,このような角度の意味からしても,3次元ではなく平面を前提としている。 そうすると,本件特許発明1における境界線の傾きは,XY平面に投射して把握されるもの,つまり,平面視において折曲部形成方向Yに対して傾斜していることを意味しているのであって,3次元で境界線の傾斜を捉えるものではない。 したがって,本件特許発明1は,特許法36条6項1号及び2号に規定する要件を満たすから,無効審判により無効にされるべきものとはいえない。 ( ) 争点3-4(本件特許発明2には無効理由があるか )について4 。 ア争点3-4-a(本件特許発明2には新規性又は進歩性があるか )に。 ついて(原告の主張)甲27発明は 「熱可塑性プラスチックシートに対して柔軟な折り目を ,つけるための器具」であって,高周波加工を前提とし,溝をつけたプレート22と工具16により行われる これに対して 本件特許発明2はシ 。,,「ート折曲部用形成刃」である。 他方で,本件特許発明においては,シートの折曲部の形状とこれを形成する刃とは裏腹な関係にあり,本件特許発明2は,本件特許発明1のシートを形成する以上の効果を有しないものである。 そうすると,甲27明細書のFIG.4により示されたプラスチックシートの形状に合わせた形成刃を作成することは,当業者にとって極めて容易かつ当然のことであって,そのような形成刃は,実質的に甲27明細書に開示されているものといえる。 したがって,本件特許発明2は,特許法29条1項1号又は同条2項に違反して特許を受けたものであり,無効審判により無効とされるべきものである。 (被告の主張)甲31公報のFIG.1には,切欠きのある形成刃が開示されている。しかし,切欠部の両面の壁部は,折曲部形成方向に対して鋭角的に傾斜していない点で,本件特許発明2と相違している。 他方で,甲27発明の形成刃は,そもそも切欠きがなく,切欠部の両側の壁部が存在しうる余地はない点で,本件特許発明2と相違している。 そうすると,本件特許発明2は,甲31発明及び甲27発明により公然知られたものではない。 また,甲27発明においては,甲31発明の形成刃の刃先を加工して切欠部を形成しようとする動機付けはなく,それゆえ,その壁部を折曲部形成方向に対して鋭角的に傾斜させるという動機付けもないため,当業者が甲31発明に甲27発明を組み合わせて本件特許発明2を容易に想到することはできないものである。 したがって,原告の主張には,いずれも理由がない。 イ争点3-4-b(本件特許発明2は記載要件を満たすか )について 。 (原告の主張))本件特許発明2の構成要件2-Cには 「切欠部(26)の両側の壁a ,部(18)が,同一側で且つ折曲部形成方向(Y)に対して鋭角に,傾斜せしめ」と記載されている。また,本件特許明細書の詳細な説明や図面によれば,壁部18は,平面だけでなく,曲面をも含むものとされている。 ,, ,「」, そうすると 特に 壁部18が曲面の場合には傾斜せしめ とはどの部分の傾斜を意味するのか,また 「鋭角に,傾斜せしめ」とは, ,どのような空間的配置を意味するのか,明らかではない。 )仮に,本件シートの湾曲凸部16が「残部(16 」の構成を充足すb )るとすれば 「残部」は,発明の作用効果を有しない範囲をも含むこと ,になる。 )以上のとおり,本件特許発明2の記載は,特許を受けようとする発明cが発明の詳細な説明に記載したものでなく,また,特許を受けようとする発明が明確でない。 したがって,本件特許発明2は,特許法36条6項1号及び2号に規定する要件を満たさないから,同法123条1項4号に該当し,無効審判により無効にされるべきものであることは明らかである。 (被告の主張)本件特許発明2の構成要件には,壁部が平面でなければならないという文言上の限定はなく,その他平面でなければならないとする根拠はないから,湾曲凹部26は,断面半円形であって湾曲しているものの,壁部18を構成しているといえる。 そうすると,湾曲凹部である壁部18は,切欠部26の最底面から切欠きのない刃本体表面までの面であって,切欠部の両側の壁部18が,同一側で且つ折曲部形成方向Yに対して45度の角度に傾斜していることは明らかである。 したがって,本件特許発明2は,特許法36条6項1号及び2号に規定する要件を満たすから,無効審判により無効にされるべきものとはいえない。 以上のとおり,原告の主張には理由がない。 4争点4(被告の告知行為は原告の営業上の信用を害するか )について 。 (原告の主張)( ) 本件特許発明では,シートと形成刃の関係は裏腹である。これと同様に,1本件シートは,本件形成刃により製造されるため,本件シートと本件形成刃の関係も裏腹である。 , , そうすると 本件シートの製造販売が本件特許権を侵害すると告知すれば告知の相手方は,本件形成刃の製造販売も同様に本件特許権を侵害すると理解するといえる。そのため,告知の相手方は,原告製造に係る本件形成刃を購入しても,これを使用してプラスチックシートを製造販売することができ, 。 ないと理解して 客観的事実に反する誤解をしてしまうことは明らかであるしたがって,被告の告知行為が,原告の営業上の信用を害することは明らかである。 ( ) 被告は,告知文書において原告を特定していないから,告知の相手方にお2いてその告知の内容が原告に関するものであると理解することはないから,被告の告知行為は,原告の営業上の信用を害するものではないと主張する。 しかしながら,信用毀損行為をもたらす文書等には,信用毀損を受ける他人の氏名又は名称が具体的に明示されている必要はないというべきである。 本件についてみると,告知文書に原告の会社名が挙げられていなかったとしても,株式会社ウイル・コーポレーションは,自らの取引先である原告が製造販売する本件形成刃が本件特許権を侵害しているという客観的事実に反する印象を持ち,同様に,その他の会社についても,本件シートと裏腹の関係にある本件形成刃につき,客観的事実に反する印象を持つことは明らかである。 したがって,被告の主張には理由はない。 (被告の主張)( ) 不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為は,告知等の行為が他人の1営業上の信用を害することを要件とする。そして,営業上の信用が害されるといえるためには,告知等の相手方において,少なくともその告知等の内容が当該他人に関するものであることを認識することが必要となる。 したがって,告知の相手方においてその告知等の内容が当該他人に関するものであることを認識しない場合には,不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為は成立しない。 ( ) 本件についてみるに,被告の告知等の内容は,訴外会社が製造販売するプ2ラスチックシートに関するものであって,原告が製造販売する本件形成刃に関するものではない。 このような事実によれば,告知の相手方は,その告知の内容が原告に関するものであることを認識することはない。 以上によれば,被告による告知等の行為は,原告の営業上の信用を害するものではないから,不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為には該当しない。 5争点5(被告の告知行為は違法性が阻却されるか )について 。 (原告の主張)( ) 被告は,被告の告知行為が競争関係にある直接の相手方に対するものであ1って,本件特許権の権利行使としてしたものであると主張する。 しかしながら,告知文書で指摘している本件特許権の侵害行為が成り立たない場合には,虚偽の事実を告知したことに他ならないのであって,被告が告知した内容につき真実であると確信していたという主観的事情は関係がない。 そもそも不正競争防止法2条1項14号所定の営業誹謗行為の差止めには,故意又は過失は要件とされていない。これは,虚偽の事実を告知された者にとっては,これ以上の被害の拡大を防ぐために,差止請求が認められる必要性が極めて大きいからである。 したがって,特許権者等において指摘する対象製品が侵害品ではない,又は,特許権者等の権利に無効事由が存在する場合には,もはや,違法性阻却事由を考慮する余地はなく,差止請求が認められるべきである。 ( ) また,被告は,本件形成刃を使用して本件シートを製造販売する会社のみ2ではなく,本件シートを購入して自社製品の包装資材としてこれを使用しているサンスター株式会社や株式会社ダイヤケミカルに対してまでも警告をしているのであって,これらの行為は,権利行使として到底正当化することはできない。 ( ) 以上のとおり,被告の告知行為は,実質的にみれば,原告の取引先に対す3る信用を毀損し,これにより,当該取引先が原告との取引を手控えたり,在庫品を返却するなどして,原告に致命的な打撃を与えるものとなりかねないものであり,極めて違法性の高いものである。 したがって,被告の告知行為は,正当な権利行使といえるものではなく,違法性は阻却されない。 (被告の主張)( ) 被告が告知した内容は,主として株式会社ウイル・コーポレーション,有1限会社クリアージャパン,株式会社ジェーピーインクその他のプラスチックシートの製造業者(以下「訴外シート製造会社」という)が製造したプラスチックシートを対象とするものである。 このような意味では,訴外シート製造会社への告知行為は,被告と競争関係にある直接の相手方に対するものである。 そうすると,仮に,特許権侵害が認められない場合であっても,侵害者と思われる者に対して特許権侵害について直接警告することは,虚偽の事実の告知には当たらない。 したがって,被告の訴外シート製造会社に対する告知行為は,不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に当たらない。 ( ) 仮に,訴外シート製造会社以外のプラスチックシートを使用する会社に対2する告知行為があったとしても,これは特許権の権利行使としてされたものであって,違法性が阻却されるから,不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為は成立しない。 すなわち,プラスチックシートを単に使用する会社であっても,本件特許発明1を使用するものであるから,本件特許権を侵害するものである。 したがって,これらの会社に対する告知行為も,同様に,特許権侵害の直接の相手方に対するものとして,( )と同様に,不正競争防止法2条1項114号の不正競争行為に当たらない。 ( ) また,被告は,告知するに際して,訴外シート製造会社が本件シートを製3造販売する行為が本件特許権を侵害し,かつ,本件特許権には無効事由がないと確信していた。 このような場合には,被告の告知行為は,後日,本件特許権の無効が審決等により確定し,又は本件シートが侵害品ではないことが判決により確定した場合であっても,このような告知行為は,特許権者による特許権の正当な権利行使の一環としてされたものというべきである。 ,, 。 したがって 被告による告知行為は 正当行為として違法性が阻却される第4当裁判所の判断1事実関係前記争いのない事実等に証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の各事実が認められる。 ( ) 原告と被告の業務について1原告は,専ら本件形成刃を製造し,株式会社ウイル・コーポレーション,株式会社ジェーピーインク,有限会社クリアージャパンその他の取引先に対して,本件形成刃を販売している。これらの取引先は,本件形成刃を使用して本件シートを製造し,サンスター株式会社,株式会社ダイヤケミカルその他の取引先に対して,本件シートを販売している。 これに対して,被告を代表取締役とする株式会社開伸は,専らプラスチックシートを製造販売している。なお,株式会社開伸は,被告が経営する個人経営会社である。 ( ) 本件訴訟に至る経緯について2ア被告による告知行為について被告は,平成18年2月又は3月ころ,株式会社ウイル・コーポレーションに対して,次の内容を記載した文書を送付した(甲5 。)「私は,最近貴社がPPシートを使用したダイレクト用の封筒を製造される等々の情報を東京出張時,小耳にはさみました。 PPシートの折り曲げ部分に特許の折り曲げ罫線を採用される等々でした。 私は,40年前よりプラスチックシートの折り曲げ罫線の研究開発を行っており,この道では業界(透明ケース加工業)で知らない人は居ないと人々は言っておりますぐらい折り曲げ罫線には精通しております。 今回の情報を私なりに調査致しました結果をまとめましたので一読願い貴社の益々の発展に微力ながらご協力できれば幸いであり,少なからずや貴社の株主としまして義務が果たせればと失礼をかえりみずにご一報させて頂きました。 特許調査結果●貴社が実施権を購入された特許(別紙参照)特許第3532183号「折り曲げ罫線入りプラスチックシートおよびプラスチックシート用罫線刃」登録,発明者B)本特許は,早期審査制度を利用して出願後,約2年で権利登録されて1いる。 )本特許の出願日(平成13年12月3日)以前に株式会社フジシール2インターナショナルと,Aが同様の基本特許(出願日平成9年1月17日)を約4年前に出願しており,この基本特許が平成17年12月16日に特許第3752035号として権利登録された。 )大阪の特許事務所で見解書を作製願った結果,早期審査時,先願の特3許を全く調査していないため,B氏の特許が通ってしまった経過が判明,)B氏の特許を実施すれば,フジシール,Aの権利に抵触し大変な問題4になる可能性がある。 )B氏の特許は,それ以外の特許にも抵触する可能性が大きく,その権5利者は警告書を準備しているとの情報あり ・・・抵触の可能性の特 ,許○特開平2-249626○特開平6-100017○特許3151579号)B氏特許は,現在無効審判の手続きを行っている会社があります。 6以上の調査結果から判断致しますと,B氏特許を実施して,国内に製品が出てしまってからの抵触保障と,貴社のイメージダウンは計り知れないものになる可能性が大と見ております。 B氏特許を実施している会社が透明ケース関係で3社判明しました。国内に200〜400万枚出回っているようですが,今後抵触保障と,特許法による罰金等々で大変なことになる事と思います 」。 イ上記アに対する原告の対応について原告及び原告代表者であるBの代理人弁護士佐藤治隆(以下「佐藤」という )らは,平成18年3月8日ころ,被告に対して,次の内容を記載 。 した申入書を送付した(甲12 。)「当職らは,依頼人有限会社ベルテック及び同社代表者でもあるBの依頼により,次のとおり申し入れ致します。 依頼人Bは特許第3532183号(以下「依頼人特許 )の特許権者 」であり同有限会社ベルテックは当該特許発明を実施して,折り曲げ罫線入りプラスチックシートの加工及び装置並びに罫線刃の製造,販売等を行っております。 ところで貴社は,最近依頼人らの得意先である株式会社ウイル・コーポレーション等に対し書簡を送り,前記特許を実施した場合,貴殿が有する特許第3752035号(以下「貴殿特許 )を侵害する虞があるかのご 」とき主張をされておられます。 しかしながら貴殿特許にかかる発明と依頼人特許とは明らかに形状,構成が相違し,相互に技術的範囲を異にするものであります。例えば貴殿特許は,明細書【0010】項に記載されているように「シート体10を折曲部12に沿って折曲方向Xに曲げた際に,両側の境界線18が同一側で, , 傾斜した残部16は捩じれた状態となるので 互いに当接することもなくまた残部16に引き裂き方向に力が生じても,残部16の境界線18が傾斜してなるので前記引き裂き方向の力は分散され,残部16の破損を防止することができる 」といった記載がありますが依頼人特許を実施した場 。 合そのようなことはありません。 従って前記貴殿書簡は事実に反するものであり,このような書簡を依頼人会社得意先に配布することは,不正競争防止法第2条第2項14号に該当する不正競争行為と言わねばなりません。 ついては貴殿に対し前記書簡の配布先に書簡を撤回する旨を通知して頂くと共に,今後再び第三者に対しこのような事実に反する主張をされないよう申し入れします。 貴殿の本申入に対する対応を本書受領後1週間以内に当代理人弁護士佐藤治隆宛てにご連絡頂きますようお願い申し上げます 」。 ウ上記イに対する被告の対応について被告は,原告及び原告代表者であるBの代理人弁護士佐藤らに対して,平成18年3月8日ころ,上記イに対して,次の内容を記載した書面を送付した(甲13 。)「さて,今回貴事務所より思いがけない申入書をいただき果敢〔ママ〕に思っております。 まず,ウイル・コーポレーション社に対しては,一株主として透明ケース業界で話題になっております事を,申し上げて調査される事をお願いした事であり,B氏より申入書が来る事が全く理解できません。 また,ウイル・コーポレーション社が,一株主の情報をB氏に流した事の方が,個人情報規制において大問題と考えます。 及び,B氏特許と,私の特許について特許の権利範囲以外のことが,記,, , 載されていますが 特許権とは 権利範囲に含まれているかどうかで抵触非抵触が判断されるのではないかと考えます。 及び,本「申入書」の中に,ウイル・コーポレーション等に対し書簡を送り,と記入されていますが,平成18年3月8日までに,その他会社に書簡を送付したし〔ママ〕事実は全く有りません。 今後は,警告書等で本件に関する特許の,一切の抵触問題を明確にさせて頂きます。 なお,本特許に関する件は,昨年12月に電話でB氏とお話をして,昨年中にB氏と顧問弁理士の二人と,私と話し合う約束ができておりましたが,その後,全くこの件に関し連絡がなかった事を御伝えします 」。 エ被告による再度の告知行為について)株式会社ジェーピーインクに対する告知行為についてa被告は,平成18年3月10日ころ,株式会社ジェーピーインクに対して,次の内容を記載した警告書を送付した(甲18 。)「特許権の侵害についての抗議前略取り急ぎ貴社で製造販売されている製品「クリアケース」においてお尋ねいたします。 貴社製品「クリアケース」におきまして,私の調査の結果,私の特許権(特許3752035号)に折り曲げ罫線の構造が抵触し,特許権が侵害している恐れがあると認められます。 慎重を期するため第三者である専門家の手をわずらわせ判断いたしました。 特許権者のもう一社とも,連絡を取り合い,貴社の抵触,侵害につきましては私が窓口となり全ての処置を取らせていただきます。 つきましては至急にご検討いただき,しかるべき処置を取られますよう要望いたします。 ご検討結果を私あてに平成18年3月21日までにご回答いただきたく,ここにお願い申し上げます。 何らかの意思表示がない場合は 当方としても所定の法手続きをを マ 『 , 〔マ〕せざるをえません」。』)有限会社クリアージャパンに対する告知行為についてb被告は,有限会社クリアージャパンに対して,平成18年3月11日ころ,上記 )と同一の内容を記載した警告書を送付した(甲6 。 a )オ上記ウの書面及びエの各警告書に対する原告の対応について原告,有限会社クリアージャパン及び両社の代表者の代理人弁護士佐藤らは,平成18年4月28日ころ,被告に対して,次の内容を記載した回答書兼警告書を送付した(甲14 。)「当職らは,依頼人有限会社ベルテック(以下「ベルテック」といいます ,有限会社クリアジャパン(以下「クリアジャパン」といいます)及 )び両社代表者でもあるB(以下「B」といいます)の代理人であります。 貴殿は,ベルテック及びBを代理して3月8日付(実際の差し出し期日と相違すると思われます)で当職らが差し出した内容証明郵便による申入書に対し,同日付の書面を当職らに郵送されております。しかしその内容は,申入書で当職らが指摘した事項に「権利範囲 ( 特許請求の範囲」 」「の誤りと思料されます)以外のことが書かれているというのみで,実質的な反論をされておりません。言うまでもなく「特許発明の技術的範囲は,。」 願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない(特許法第70条1項)が,その際は「願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする(前同2項)と定められていることは特許実務に詳しい貴殿は 。」充分承知されていることと思われます。従って,当職らが指摘した明細書の記載は,本件発明の作用効果の部分であって,特許請求の範囲に記載された構成はそのような作用効果を奏するものとして理解しなければなりません。 貴殿の書面は,この点について何ら反論をされることなく 「今後は, ,, 。」 警告書で本件に関する特許の 一切の抵触問題を明確にさせて頂きますとするのみであります。そしてベルテックの製造・販売した罫線刃を使用しプラスチックシートに罫線加工しているクリアジャパン外に3月10日付けで(この日付も実際の差し出し期日と相違しております ,本件特許 )権の侵害の虞がある旨の書面を郵送されております。 貴殿の行為は,明らかに不正競争防止法第2条1項14号に該当する不正競争行為であります。 よって,本書を持ってかかる違法行為を中止するよう警告すると共に,差し出し先に対し文書を撤回する旨の文書を,本書受領後1週間以内に発送するよう求めます。 貴殿が誠意ある処置を取らないときは,裁判上の手続きにより,貴殿の不正競争行為の責任を追及せざるを得ないと考えます 」。 カ上記オの回答書兼警告書に対する被告の対応について被告は,平成18年5月1日ころ,上記オの原告らの代理人弁護士佐藤らに対して,次の内容を記載した書面を送付した(甲15 。)「さて,今回貴事務所により不正競争防止法第2条1項14号に該当する不正競争行為がありその責任追及についてと,B氏特許(特許第3235183号)と私の特許(特許第3752035号)との関係についての反論がなされていない等の件につき,回答する前にお聞きしたい事が御座いますので,今回の一週間の〔ママ〕以内の回答発送を遅らせていただく事をお願いしまして,お聞きしたい事の回答をお願いします。 お聞きしたい事)特許の抵触関係の話し合いは,3月17日10時30分ごろより,弁1理士豊田正雄様(貴事務所の一員)と滋賀県長浜市内で,約3時間お会いして話し合いました。 3月11日に発信しました有限会社クリアジャパンのB社長に抗議した「特許の侵害についての抗議」について,の内容で抗議の検討結果についての回答がいただけるのであればお会いしましょう。それも抵触していると認めるのであれば会いましょうと,電話で約束して会いました。 その話し合いの内容は,全く抗議の内容からかけ離れたもので,私の, , 方の出方と 抵触のポイントを聞きに来たとしか取れない内容のため検討期日の3月21日の回答をお待ちしていますとお願いして別れました。 3月21日が大幅に過ぎていますが,全く回答が無いのが現実です。 貴方から回答を頂くまでは,当方からの反論は差し控えます ・・豊。 田正雄様のお話では,私の特許とB氏の特許の見解書をB氏に提出しているとも聞きましたが,それが事実であればそれを私に見せていただければ今回の全体の事件は,早くスッキリとするものと思いますがいかがでしょうか,)B氏特許の出願前に同様の発明があることが証明されれば,その特許2は無効となりますし,B氏特許は私の特許に抵触することは明らかです。 今回の事件は,ここにあるわけですから,なぜ後発の発明が特許登録されたか,権利範囲,目的等々が何処が違っているのかを貴方側は,私に回答する義務があろうかと思いますので文書で回答願います。 長々と書きましたが,元々B氏と私は同じ会社で私の今回の特許「特許第3752035号」を使用して何百万枚もの透明ケースを製造していたなかでした。 今日の特許法では,知っている技術を隠してよく似た発明(私は発明とは認めませんが)を出しても登録されません。 たまたま,今回の出願日は,特許法改正日以前の出願であり,早期審査制度で,審査官が私の特許を見過ごしたのでは ・・・・,貴方側は,この事件を「不正競争防止法」の責任云々で解決方向を生み出そうとお考えであれば,そのむねハッキリ〔ママ〕とお書き下さい。 近頃,B氏特許を用いた透明ケースが一流会社で採用され,あらゆる大型店舗で販売されています。 私の関係する同業者からも,毎日の様に貴方の特許抵触品が何処何処のメーカーから出ている等々の電話が入ってきます。 一流メーカーからも問い合わせがある今日です。 不正競争防止法の擦れ擦れの判断はだれにも分かりませんが,B氏にも,私にも迷惑な事だと思いますので,先生方の正しい理解と,経験で早期解決が図れるようお願いします 」。 キ被告による再々度の告知行為について)サンスター株式会社に対する告知行為についてa被告は,平成18年6月14日ころ,サンスター株式会社に対して,次の内容を記載した警告書を送付した(甲16 。)「特許侵害についての抗議前略取り急ぎ貴社で販売されております製品の包装に用いられています「透明ケース」においてお尋ね致します。 貴社販売製品「ステインクリアポリッシュ ・・の透明ケースの折 」り曲げ罫線部分が,私の特許「特許3752035号」を侵害している恐れがあると認められます。 貴社としましては,その様な部分に色々の特許が絡んでいるとは思っておられないかと思いますが,一度ご検討いただき,6月26日までに誠意あるご回答いただきたくお願い申し上げます。 先ずは取り急ぎお知らせまで。 (特許3752035号は,私ともう一社の協同の権利ですが,本件に関しましては,全て私が全権を持って対応する事で,合意しておりますので御了解願います」。))株式会社ダイヤケミカルに対する告知行為についてb被告は,平成18年6月14日ころ,株式会社ダイヤケミカルに対して,次の内容を記載した警告書を送付した(甲17 。)「特許侵害についての抗議前略取り急ぎ貴社で販売されております製品の包装に用いられています「透明ケース」においてお尋ね致します。 貴社販売製品で車用芳香剤「ブルースカッシュ ・・の透明ケースの 」折り曲げ罫線部分が,私の特許「特許3752035号」を侵害している恐れがあると認められます。 貴社としましては,その様な部分に色々の特許が絡んでいるとは思っておられないかと思いますが,一度ご検討いただき,6月26日までに誠意あるご回答いただきたくお願い申し上げます。 先ずは取り急ぎお知らせまで。 (特許3752035号は,私ともう一社の協同の権利ですが,本件に関しましては,全て私が全権を持って対応する事で,合意しておりますので御了解願います」。)ク本件訴訟の提起について原告は,被告に対して,平成18年6月20日,上記告知行為の差止め |
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2争点1(被告は原告と競争関係にあるか)について。 上記認定事実1()によれば,原告は,専ら形成刃を製造販売するものであ1るのに対して,被告を代表取締役とする株式会社開伸は,専らシートを製造販売するものである。 しかしながら,シートは形成刃を用いて製造されるものであるから,原告及,。び被告が認めるとおりシートと形成刃はいわば裏腹の関係にある製品であるすなわち,原告の製品である形成刃を使用して製造されたシートの製造販売業者のシートに係る信用が毀損されれば,ひいては,これを形成する形成刃に係る原告の信用が毀損されることになるから,事業者間の公正な競争を確保するという不正競争防止法の目的に照らすと,形成刃の製造販売業者である原告とシートの製造販売業者である株式会社開伸は,不正競争防止法2条1項14号に規定する競争関係にあるというべきである。 また,被告は,その個人経営に係る株式会社開伸の代表取締役であるから,被告の告知行為は,実質的には,株式会社開伸の告知行為とみなすことができる。 したがって,被告は,原告と競争関係にあると認めるのが相当である。 3争点2(被告が告知した事実は何か)について。 ()上記認定事実1()ア,エ及びキによれば,被告が告知した事実は,株式12会社ウイル・コーポレーション,株式会社ジェーピーインク及び有限会社クリアージャパンに対しては本件シートの製造販売行為が,サンスター株式会社及び株式会社ダイヤケミカルに対しては本件シートを包装に使用する行為が,それぞれ本件特許権を侵害するという事実であると認められ,この点については,当事者間に争いがない。 (2)また,上記認定事実1()アによれば,被告は,本件シートを製造販売す2る株式会社ウイル・コーポレーションに対して「最近貴社がPPシートを,使用したダイレクト用の封筒を製造される等々の情報を東京出張時,小耳にはさみました「貴社が実施権を購入された特許(別紙参照)特許第35。」,32183号『折り曲げ罫線入りプラスチックシートおよびプラスチックシート罫線刃「B氏の特許を実施すれば,フジシール,Aの権利に抵触し』」,大変な問題になる可能性がある」等として,実施許諾された特許の内容と。 して,プラスチックシートのみならず,プラスチックシート罫線刃をも示した上で,この特許を実施した場合には,本件特許権を侵害する旨指摘している。 そうすると,告知の相手方である株式会社ウイル・コーポレーションは,本件形成刃を使用して本件シートを製造販売する者であるから,その普通の注意と読み方を基準として判断すれば(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照,本件)シートの製造販売行為と同様に,本件形成刃を使用する行為も本件特許権を侵害すると理解すると認められる。 この点について,被告は,本件特許権侵害については,本件シートについて告知したのであって,本件形成刃については告知していないと主張する。 しかしながら,前記のとおり,被告は,実施許諾された特許の内容としてプラスチックシート罫線刃に言及した上で,その実施行為が本件特許権を侵害すると告知している以上,本件形成刃を使用して本件シートを製造販売する告知の相手方が,本件形成刃の使用行為も本件特許権を侵害すると理解するのは自然である。 したがって,被告の主張には理由がない。 ()以上のとおり,被告が告知した事実は,本件シートを製造販売若しくは使3用し又は本件形成刃を使用する行為が本件特許権を侵害するというものであると認められる。 4争点3(被告が告知した事実は虚偽か)について。 ()争点3-1(本件シートは,本件特許発明1の技術的範囲に属するか)1。 についてア争点3-1-a(本件シートは,構成要件1-Bを充足するか)につ。 いて構成要件1-Bは「前記折曲部(12)は,シート体(10)に形成,された多数の凹部(14)と該凹部(14)の間の残部(16)とから構成されてなり」と定めている。 本件シートの折曲部12において,シート体10に多数の凹部14が形成されていること,及び,湾曲凸部16が多数の凹部14の間に残存していることは,別紙物件目録1の記載と図面1から明らかである。そこで,本件シートの湾曲凸部16が構成要件1-Bの「残部(16」に該当す)るかどうかを判断する。 )本件特許明細書には「残部」に関し,次の記載がある(甲2。 a,)「0006】【【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記何れの従来例のシートも,シートの折曲性を得るために凹溝を深く或いは凹溝の凸部分等を小さくすると折曲部の強度に欠け,逆にシートの強度を保つために凹溝の凸部分等を大きくするとシートの折曲性に欠けるという問題を有するものであった。 【0007】つまり,例えば,従来例3のシートにあっては,補強リブが凹溝に垂直に(折曲方向に沿って)形成されてなるものゆえに,凹溝側にシートを,,折り曲げた際には補強リブ自体が当接しあいシートの折曲げを阻害し折曲性に欠けるという問題を有し,折曲性を確保すべく補強リブを小さくすると,シートの強度が得られないという問題を有していた。 一方,シートを凹溝が形成されない側に折り曲げた際には,補強リブには引き裂き方向の力が生じ,該補強リブの破損等のおそれがあり,かかる破損を防止するために補強リブを大きくすると,シートの折曲性を阻害するという問題を生じていた。 【0008】そこで,本発明は,このような問題を解決すべくなされたものであり,シートの折曲性及びシートの強度を同時に満たし得るシートを提供することを課題とする」。 「課題を解決するための手段・・・【】【0010】該構成からなる本発明に係るシートにあっては,シート体10を折曲部12に沿って折曲方向Xに曲げた際に,両側の境界線18が同一側で傾,,斜した残部16は捩じれた状態となるので互いに当接することもなくまた残部16に引き裂き方向に力が生じても,残部16の境界線18が傾斜してなるので前記引き裂き方向の力は分散され,残部16の破損を防止することができる」。 「0013・・・【】,.しかも残部16を折曲部形成方向Yの長さL2がシートの肉厚Hの03倍以上となるよう残存させることが好ましい。該残部16の長さL2が0.3倍未満ならば強度が極端に弱くなり,折曲部12からシートが破れる問題を有し,これに対して0.3倍以下〔ママ〕とすることにより折曲部12からのシートの破れを防止できる利点を有する。 さらに,残部16を折曲部形成方向Yの長さL2がシートの肉厚Hの3倍以下となるよう残存させることが好ましい。該残部16の長さL2が3倍よりも大きいと腰の弱いケースとなり折曲部12の破損が易く,これに対して3倍以下とすることにより折曲部12におけるシートの破損を防止できる利点を有するのである。 なお,シートの折曲性及び強度を調整するには,境界線18の折曲部形成方向Yに対する傾斜角度,凹部14の折曲部形成方向Yの長さL1,残部16の折曲部形成方向Yの長さL2,凹部14の深さ,残部16の,,,肉厚等により変更することができ上記数値はシートの肉厚及び材質並びにシートの用途に応じて決定されることとなる」。 「0015】【本発明に係る形成刃は上記構成からなるので,該形成刃によってプラスチックシート等のシート体10に折曲部12を形成すると,切欠部26に相当する部位を残存させつつ,突出部24によって該残部16間に凹部14を形成することができ,この際切欠部26の両側の壁部18が同一側で且つ折曲部形成方向Yに対して鋭角に傾斜せしめられてなるので,シート体10の凹部14と残部16との境界線18が折曲部形成方向Yに対して鋭角で且つ残部16を挟んで対向する境界線18と同一側に傾斜せしめて折曲部12を形成することか〔ママ〕できる」。 「発明の実施の形態・・・【】【0026】,,上記構成からなるシートにあっては折曲部12に沿って折曲方向Xに折曲部12が形成された表面側にシート体10を曲げた際に,境界線18が同一側に平行に傾斜してなる残部16は捩じれた状態となり,互いに当接することがなく,容易に折り曲げることができ且つシート自体の強度も保つことができる。 ,,また折曲部12が形成されない裏面側にシート体10を曲げた際には残部16に引き裂き方向に力が生ずるが,該残部16の境界線18は傾斜してなるので前記引き裂き方向の力は分散され,残部16の破損を防止することができる。 更に,シート体10を曲げた際には,境界線18が同一側に平行に傾斜してなる残部16は横倒れする如く捩じれた状態となるので,容易に曲げることができる。 【0027】上記実施形態の形成刃及びシートは上記構成からなり,上述の如き利点を有するが,本発明は上記実施形態の如き構成に限定されるものではなく,本発明の意図する範囲において適宜設計変更可能である。 【0028】つまり,残部16は,シートの厚みをそのまま残存させるものに限定さ,,れるものでなく例えば図4に示すように凹部14より浅い凹みを有し凹部14よりもシートの厚みが残存されているものも本発明の意図する範囲である。 但し,残部16はシートの肉厚をそのまま残存させる構成を採用することにより,シートの強度を維持できるのみならず,折曲部12の形成が容易であるという利点を有する。つまり,図4に示すように残部16にも凹みを形成するならば,凹部14及び残部16の深さを的確に形成しなければ,シート自体の強度の低下或いは折曲性の低下が生ずるおそれがある。これに対して,残部16がシートの肉厚をそのまま残存させてなる構成を採用するならば,凹部14の深さに多少のズレが生じても,シート自体の強度並びに折曲性に悪影響を与えず,折曲部12の形成が容易であるという利点を有するものである」。 「0032】【しかも,境界線18は直線であることは要せず,図9に示すように円弧状等であっても良く,少なくとも残部16を挟んで対向する境界線18同士が同一側に傾斜せしめられてなるものであれば本発明の意図する範囲内である。 また,境界線18は互いに平行であることを要せず,また,図10に示すように凹部14を挟んで対向する境界線18同士が反対側に傾斜せしめられてなるものであっても本発明の意図する範囲である。 【0033】また,上記何れの実施形態においても,境界線18によって凹部14と残部16とが明確に仕切られ,境界線18がシート体10の表面上より明確に線となり表れている場合について説明したが,本発明において境界線18とは,残部16を残存させつつ凹部16〔ママ〕を形成する際に凹部14と残部16との間に形成が予定される線を意味し,折曲部12を形成した際に明確に線となり表れないものも本発明の意図する範囲内である」。 これらの記載によれば,残部とは,形成刃の突出部により形成される多数の凹部の間に残存するもの(形成刃の切欠部26に対応する部分)であり,かつ,その形状は,残部を挟んで対向する境界線が折曲部形成方向Yに対し鋭角で,同一側に傾斜する(構成要件1-D参照)ということ以外には,特段の限定はされていないものであって,その機能は,シートの折曲げの容易性及びシート折曲部の強度維持の要請を同時に満たすということにあることが認められる。 )本件シートの湾曲凸部16と構成要件1-Bの「残部」との対比b本件シートの湾曲凸部16が多数の凹部14の間に残存するものであることは,前記のとおりである。また,本件シートにおいて,残部を挟んで対向する境界線が,折曲部形成方向Yに対して鋭角で,同一側に傾,()斜しているといえるかどうかは次の争点3-1-b構成要件1-Dにおいて検討する。そこで,本件シートの湾曲凸部16がシートの折曲げの容易性及びシートの強度維持の要請を同時に満たし得るものか否かを検討するに,湾曲凸部16は,その形状を端的に表現すれば,二つの円柱を斜めに配置してその一部を並列に合体した構成のものであり,当該各円柱の円柱曲面上の頂部の各母線は,いずれもこれらの間に形成されている溝状部16aの直線と同一方向に,折曲部形成方向Yに対して45度に傾斜しているものと認められる(より正確には,別紙物件目録1の図面1のE-E線断面図及び別紙拡大図3から明らかなように,湾曲凸部16は,二つの円柱の側面同士を削って合体した形状となっているため,全体としては,折曲部形成方向Yに対し斜め45度に配置された円柱曲面状の両側面を有するひとかたまりのものであり,その上面に同じく斜め45度に溝状部16aを形成したものとみることも可能な構成である。後記争点3-1-b(構成要件1-D)参照。。)そうすると,本件シートを内側に折り曲げた場合には,同一側で45度に傾斜した湾曲凸部16の各円柱曲面の頂部の母線付近は,捩れた状態となり,構造上,互いに当接しないことになるから,その母線以外の部分で互いに当接する部分が生じ得るとしても,その構造により,シートの折曲げの容易性の効果を奏するものであり,また,図面1から明らかなように,湾曲凸部16の折曲部形成方向Yの長さも十分に存在するため,シート折曲部の強度維持の要請も同時に満たし得るものと認めることができる。 なお,本件特許発明1の残部の折曲部形成方向Yの長さL2は,シートの厚さHの3倍以下とすることとされているところ(本件公報【0013】参照,図面1からすれば,本件シートの湾曲凸部16の折曲部)形成方向の長さは,シートの厚さの3倍以下であることが明らかであると推認される。また,本件特許発明の実施例においても,本件特許明細書の図4ないし図6,図9及び図10に記載された実施例から明らかなようにシートを内側に折り曲げた場合には残部のうち折曲部の線本,,(。「」。)件特許明細書の図4の14aに相当するもの以下折曲線というとその周辺の上部に存在する残部は,平面視で幅があるため,捩れて折曲しても互いに当接して潰れる部分も生じるのに対し,折曲線から遠い方向にある残部は,捩れて折り曲げられるため,互いに当接しない部分が生じる構造となっているものである(本件特許明細書には「残部1,6は捩れた状態となるので,互いに当接することもなく【0010,」】同旨【0026】とあるものの,図4ないし6,図9及び図10からすれば,このことは,残部のうち折曲線上から少し離れた部分について述べている記載であると認められる。そして,本件シートにおける湾。)曲凸部16もこれと同様に,折曲線方向で幅があるため,折曲時に,折曲線上部付近の部分で一部当接し合い,折曲線から離れた部分で一部当接し合わない部分を含む構造のものである。 したがって,本件シートの湾曲凸部16は,多数の凹部14の間に形成されるものであり,シートの折曲げの容易性及びシートの強度維持の要請を同時に満たし得るものであるから,仮に残部を挟んで対向する境界線同士が折曲部形成方向Yに対し鋭角で,同一側に傾斜しているものということができれば(この点は争点3-1-bにおいて検討する,。)構成要件1-Bの「残部」の要件を充足するものであると認められる。 )原告は,?@構成要件1-Bの「残部」とは,シートの厚みをそのままc残存させるものであると解すべきであるのに対し,本件シートの湾曲凸部16は,本件シートの厚みをそのまま残存させるものではなく,浅いものであること,?A構成要件1-Bの「残部」とは,これを形成する本件形成刃には壁部18(構成要件2-C参照)があるから,必然的に壁状のものとなるのに対し,本件シートの湾曲凸部16は二つの楕円形状の円柱で構成されており,壁状のものではないこと,?B構成要件1-Bの「残部」とは,折り曲げた場合には互いに当接しないことによってシートの折曲げの容易性とシートの強度維持を同時に確保するという作用効果を奏するものであるのに対し,本件シートの湾曲凸部16は,本件シートを折り曲げた場合には大部分で重なり合い全体的に押し潰されるから,本件特許発明1の作用効果を有しないこと,を理由として,本件シートの湾曲凸部16は,本件特許発明1の「残部」とはいえないと主張する。 しかしながら,原告の?@の構成要件1-Bの「残部」に関する主張については,本件特許明細書の上記【0028】の「残部16は,シートの厚みをそのまま残存させるものに限定されるものでなく,例えば図4に示すように凹部14より浅い凹みを有し,凹部14よりもシートの厚みが残存されているものも本発明の意図する範囲である」との記載及。 。,び図4の実施例から採用し得ないものであることは明らかであるまた原告の?Aの主張については,)のとおり,本件特許発明1の「残部」とaは,多数の凹部の間に残存し,これを挟んで対向する二つの境界線同士が折曲部形成方向Yに対し鋭角で,互いに同一側に傾斜しているものであれば,その形状は限定されていないものであって,シートの折曲げの容易性及びシートの強度維持の要請を同時に満たし得るものであれば足りるのであるところ,本件シートの湾曲凸部16は,別紙物件目録の図面1の形状のものであり,その壁面が平面状ではなく,曲面状のものであっても,上記のとおり,多数の凹部間に形成され,シートの折曲げの容易性及びシートの強度維持の要請を同時に満たし得るものであるから,争点3-1-bで検討するとおり,これを挟んで対向する境界線が折曲部形成方向Yに対し鋭角で,互いに同一側に傾斜するものであるとすれば,構成要件1-Bの「残部」に当たるというべきである。 さらに,原告の?Bの主張については,原告は,実験結果報告書(甲29)に基づいて,本件シートを折り曲げた場合には,湾曲凸部16は,重なり合って潰れているとも主張する。 しかし,本件特許発明の構成要件1-Bの「残部」は,シートの折曲げの容易性とシート折曲部の強度維持の要請を満たすものであれば足りるのであり,その実施例をみても,上記のとおり,シートの折曲時に,捩れてはいるものの,その一部が当接し合い,一部が当接しないものが示されているのであるから,本件シートの湾曲凸部16の一部が当接し合って潰れているとしても,そのことから直ちに本件シートの湾曲凸部16が本件特許発明の「残部」に該当しないということはできない。そして,本件シートの湾曲凸部16の円柱曲面の頂部の母線が,折曲部形成方向Yに対し45度に傾斜し,互いに同一側に傾斜しているため,折曲時に,この頂部の母線付近は捩れた状態となり,構造上,互いに当接しないことになることは前記のとおりである。また,仮に,上記実験報告書において,湾曲凸部16の全体が変形しているように見えるとしても,別紙物件目録1の記載と図面1から明らかなように,本件シートの湾曲凸部16は,ひとかたまりのものであるから,実際に折り曲げられた場合には,当接しない部分であっても,その余の部分が当接することにより,変形することがあり得るのである。したがって,上記実験報告書は,本件シートの湾曲凸部16のすべてが当接し合って潰れることを示すものとみることはできない。 以上のとおり,原告の主張は,いずれも理由がないから,採用することができない。 イ争点3-1-b(本件シートは,構成要件1-Dを充足するか)につ。 いて,「()()()構成要件1-Dは該凹部14と残部16との境界線18が,折曲部形成方向(Y)に対して鋭角で且つ残部(16)を挟んで対向する境界線(18)と同一側に,傾斜せしめられてなる」という構成を定めている。 同構成要件では「境界線」の折曲部形成方向Yに対する角度と他の境,界線に対する角度がそれぞれ問題となるものの「境界線」の用語の意義,が明らかではないから,次のとおり,本件特許明細書の記載及び図面を考慮して解釈するものとする。 )本件特許明細書の【0032】には「しかも,境界線18は直線であaることは要せず,図9に示すように円弧状等であっても良く,少なくとも残部16を挟んで対向する境界線18同士が同一側に傾斜せしめられてなるものであれば本発明の意図する範囲内である。また,境界線18は互いに平行であることを要せず,また,図10に示すように凹部14を挟んで対向する境界線18同士が反対側に傾斜せしめられてなるものであっても本発明の意図する範囲である」と【0033】には「ま。,た,上記何れの実施形態においても,境界線18によって凹部14と残部16とが明確に仕切られ,境界線18がシート体10の表面上より明確に線となり表れている場合について説明したが,本発明において境界線18とは,残部16を残存させつつ凹部16〔ママ〕を形成する際に凹部14と残部16との間に形成が予定される線を意味し,折曲部12を形成した際に明確に線となり表れないものも本発明の意図する範囲内である」と,それぞれ記載されていることは前記のとおりである。。 本件特許明細書の上記記載によれば,本件特許発明1における「境界線」とは,残部を残存させつつ凹部を形成する際に凹部と残部との間に形成が予定される線を意味し,折曲部12を形成した際に明確に線となり表れないものも含むものであると認められる。 また,本件特許明細書の図3ないし図6,図9及び図10には,実施形態を示すものとして,境界線18がそれぞれ記載されている。 これらの記載のうち,図3ないし図5,図9及び図10では,シート(「」。)が押圧されて凹部が形成されている空間以下凹部空間ともいうと残部が立体的に隣接している壁面(以下「境界面」という)がシー。 トの底面に対し垂直な面により構成されているため,凹部と残部との間に形成される境界面は,平面視では一本の線となり,この線を境界線と定めている(甲2及び別紙拡大図1参照。)他方で,図6では,凹部空間と残部との間の境界面がシートの底面に対し斜めの面により構成されているため,平面視では,底面においていわゆる残部隆起開始線が,シートの表面(残部の頂部)においていわゆる凹部空間形成開始線が,それぞれ形成されており,これらの線のいずれも,残部と凹部との境界線と見得るものであるものの,図6においては,このうちシートの表面(残部の頂部)における凹部空間形成開始線()。に相当する線18を境界線と定めている甲2及び別紙拡大図2参照すなわち,凹部空間と残部との境界面が底面に対して傾斜している面により構成されている場合には,底面から残部が隆起し始める底面上の地点を結んだ線を境界線とみることも可能であるし,残部の頂部においてシートの押圧による凹部空間の形成が開始され始めた地点を結んだ線,すなわち,残部と凹部空間の境界面のうち,底面からみて最も高い位置にある点を結んだ線を境界線とみることも可能であるところ,本件特許明細書の図6においては,後者を境界線と図示しているのである。このことは,本件特許発明においては,形成刃の突出部により凹部空間を形成するものであるから,凹部空間形成開始線を凹部空間と残部との境界線とみるということであり,境界線の解釈としても自然である。 また,本件特許明細書の「残部16は,シートの厚みをそのまま残存させるものに限定されるものでなく,例えば図4に示すように凹部14より浅い凹みを有し,凹部14よりもシートの厚みが残存されているものも本発明の意図する範囲である【0028】の記載からも明らか。」なとおり,図4の実施例における残部16のように,シートの高さより低い頂部を有するものも残部であり,かつ,その残部の上方に形成される空間は,凹部14(凹部空間)とは異なる「浅い凹み」として理解さ。,,れるものであるまた図4の実施例における凹部と残部との境界面は別紙拡大図1のとおり,残部と凹部空間とが立体として隣接する面である。 ,,「」以上のとおり本件特許明細書の記載及び図面を考慮して境界線の意義を解釈すれば,境界線とは,凹部を形成する際に凹部と残部との間に形成が予定される線であり,明確には線となり表れないものも含むものであり,かつ,この線は,凹部と残部との間の境界面が底面に垂直な壁面により構成されている場合には,平面視で境界面を表す1本の線であり,また,凹部と残部との間の境界面が傾斜面により構成されている場合には,底面においてみられる残部隆起開始線ではなく,シートの(),,表面残部の頂部において形成される凹部空間形成開始線すなわち残部と凹部との境界面のうち,底面からみて最も高い位置にある点を結んだ線をいうものである。また,境界面が傾斜面により構成されている場合において,残部の頂部がシートの高さよりも低いときは,残部と凹部との境界線は,同様に,残部と凹部空間の境界面のうち,底面からみて最も高い位置にある点を結んだ線であると解するのが相当である。 )これを本件シートについてみるに,別紙物件目録の図面1によれば,b湾曲凸部16は,多数形成される凹部14の間に残存するものであり,二つの円柱の側面が削られた状態で並列に合体させた形状であって,その円柱曲面上の頂部はシートの高さより低く,また,別紙拡大図3に明らかなように,円柱曲面上の頂部の母線からシートの押圧(凹部空間の形成)が緩やかに開始されて,底面に至り,これにより隣接する残部との間に凹部空間が形成されているものであるから,湾曲凸部16と凹部14との間の境界面は,円柱曲面上の頂部の母線から底面に至るまでの円柱曲面であると認められる。このように,本件シートの湾曲凸部16,(),は上記図6の実施例に相当する残部境界面が斜め傾斜面の残部を図4の実施例のように,その頂部をシートの高さより低くしたものに対応するものである。したがって,本件シートにおける境界線を定めるには,まず本件シートにおける湾曲凸部16の頂部をシートの高さと同じにした場合について考えると,図6の実施例から明らかなように,凹部形成開始線である湾曲凸部16の円柱曲面上の頂部の母線,すなわち,この湾曲凸部16と凹部14との境界面のうち,底面からみて最も高い位置にある点を結んだ線が境界線であることが明らかとなる。そして,残部の頂部がシートの高さより低い本件シートにおいても,残部と凹部との境界線は,図4の実施例からも明らかなように,湾曲凸部16と凹部14との境界面のうち,底面からみて最も高い位置にある点を結んだ線である湾曲凸部16の円柱曲面の頂部の母線であると解するのが相当(,,であるこの線は仮に残部の頂部がシートと同じ高さにあるとすれば凹部空間形成開始線となる線を残部の頂部におろした線に相当するものである。なお,境界線には,明確には線となり表れないものも含むことは前記のとおりであるから,本件シートの湾曲凸部16の円柱曲面の頂部の母線が境界線に当たるとみることに支障はない。。),,,なお本件シートの湾曲凸部16は別紙拡大図3に明らかなようにその中央部には溝状部16aがあるため,二つの円柱がその側面を一部削って合体したような形状であるものの,その中央の溝状部16aも底面から十分な厚みを有していることからすれば,折曲線に対し斜め45度に配置された円柱曲面状の両側面(境界面)を有するひとかたまりのものであり,その上面に同じく折曲部形成方向Yに対し斜め45度の角度に溝状部16aを形成したものと見得るものである。このような湾曲凸部16における溝状部16aは,湾曲凸部16の上方の空間(浅い「凹み」に含まれるもの)を形成するものにすぎず,湾曲凸部16を挟んでその左右に形成された凹部14とは異なるものである(図4の実施例において,残部の上方に形成される空間が,凹部14とは異なる「浅い凹み」であることは前記のとおりである。。)))を前提に検討すれば,本件シートにおける「境界線」に相当する二cbつの円柱曲面上の頂部の母線は,溝状部16aにおける直線に平行に形成されているから,折曲部形成方向Yに対して45度の角度に傾斜しているものである。また,溝状部16aが底面から十分な厚みを有していることから明らかなように(別紙拡大図3参照,湾曲凸部16の二つ)の並列した円柱曲面上の頂部の各母線は,その間に残部に相当する湾曲凸部16を挟んで対向するものであり,そのうちの一つの母線は,湾曲凸部16を挟んで対向する他の母線と同一側に傾斜している。 したがって,本件シートの境界線に当たる母線は,折曲部形成方向Yに対して鋭角であり,かつ,残部16を挟んで対向する他の母線に対して同一側に傾斜しているから,本件シートは,構成要件1-Dを充足すると認められる。 d)原告は,残部が傾斜面により構成されている場合には,境界線は平面図では構造上複数形成されるものの,本件特許発明1の構成要件及び本件特許明細書には,このような場合の境界線の特定の仕方について記載がないため,結局,本件特許発明1は,残部が垂直に直立しているものに限られるものであると主張している。 しかしながら,前記)のとおり,本件特許明細書の図6によれば,b凹部と残部との間の境界面が傾斜面であっても,残部の頂部(境界面の頂部)に形成される線を境界線と定めているから,本件特許発明1は残部が垂直に直立しているものに限られるという原告の主張は,その前提を欠くため,採用することはできない。 また,原告は,仮に,境界線を円柱曲面の頂部の母線と解する場合には,?@湾曲凸部16の円柱曲面上の母線の外側は凹部14となり,湾曲,,凸部16と凹部14は一部重なることになるからこのような場合には,,「」母線は凹部と残部との間に形成が予定される線とはいえず境界線に当たらない,?A湾曲凸部16は二つの母線に挟まれていないことになるから,他の母線は「挟んで対向する境界線」に当たらないとそれぞ,れ主張して,結局,本件シートは,構成要件1-Dを充足しないと主張している。 しかし,本件特許明細書の図6によれば,残部と凹部との境界面が傾斜面により構成されている場合には,残部16と凹部14との関係は,その上方に存在する空間が凹部であり,その下方に存在するシート残部が残部であり,平面図上は一部重なっているものの,断面図上は境界面()。,によって明確に区分されているのである別紙拡大図2参照そしてこのような場合であっても,境界線18は,凹部14と残部16との間の境界面上に形成される線であって,より具体的には,境界面上の線のうち,底面からみて最も高い位置にある点を結んだ線が境界線であるから,凹部と残部との間に形成が予定される線ということができ,原告の上記?@の主張は採用し得ない。 また,本件シートの湾曲凸部16においては,二つの円柱曲面上の頂部の母線である2本の境界線に挟まれて残部に相当する湾曲凸部16が存在することは前記のとおりであるから,原告の上記?Aの主張も採用し得ない。なお,円柱曲面上の頂部の母線と凹部14との間には,凹部空間とその下方に存在する湾曲凸部16の一部とが平面視で重なる部分もあるが,二つの境界線の挟まれた部分に湾曲凸部16が存在することに変わりはない。 もっとも,本件特許明細書の図6の実施例と本件シートとは,図6の残部16の頂面が境界線と同一の高さであるのに対して,本件シートの湾曲凸部16は,その頂面が平坦ではなく,円柱曲面の頂部の母線の内側である溝状部16a付近が境界線である母線よりも低い点において,相違する。 しかしながら,別紙拡大図3からも明らかなように,湾曲凸部16の溝状部16aは,湾曲凸部16を全体としてみれば,相対的に若干凹んでいる程度であり,底面から相当程度の厚みを有するものであるから,湾曲凸部16はひとかたまりのものであって,全体として構成要件1-Dの「残部」に相当すると解すべきことは前記のとおりである。 したがって,上記の相違は,本件シートにおける円柱曲面の頂部の母線が残部である湾曲凸部16を挟んでいるという解釈を左右するものではない。 そうすると,原告の主張は,いずれも本件特許明細書の図面を考慮しない解釈を前提とするものであり,特許法70条2項の趣旨に照らして相当ではなく,これを採用することはできない。なお,図6とその実施例は,本件訂正により削除されたものであるものの,図6の実施例が特許登録後に削除されたとしても,本件特許明細書の「境界線」は,この図6の実施例をも前提として記載されていたのであるから,図6の実施例がその解釈の資料となるものであることはいうまでもない。 ウ小括以上のとおり,本件シートは,本件特許発明1のすべての構成要件を充足するから,本件特許発明1の技術的範囲に属するものと認められる。 ()争点3-2(本件形成刃は,本件特許発明2の技術的範囲に属するか)2。 についてア争点3-2-a(本件形成刃は,構成要件2-Aを充足するか)につ。 いて)構成要件2-Aは「プラスチックシート等のシート体(10)に凹部a,(14)と残部(16)とからなる折曲部(12)を形成するためのシート折曲部用形成刃であって」という構成を定めている。 「」「」b)構成要件2-Aの残部を形成するためのシート折曲部用形成刃に関連して,本件特許明細書には,次の記載がある。 「0014】【また,本発明に係るシート折曲部用形成刃としての特徴は,プラスチックシート等のシート体10に凹部14と残部16とからなる折曲部12を形成するためのシート折曲部用形成刃であって,刃本体20が,凹部14を形成するための複数の突出部24と,該突出部24との間で切欠かれた切欠部26とを有してなり,且つ前記切欠部26の両側の壁部18が,同一側で且つ折曲部形成方向Yに対して鋭角に,傾斜せしめられた点にある。 【0015】本発明に係る形成刃は上記構成からなるので,該形成刃によってプラスチックシート等のシート体10に折曲部12を形成すると,切欠部26に相当する部位を残存させつつ,突出部24によって該残部16間に凹部14を形成することができ,この際切欠部26の両側の壁部18が同一側で且つ折曲部形成方向Yに対して鋭角に傾斜せしめられてなるので,シート体10の凹部14と残部16との境界線18が折曲部形成方向Yに対して鋭角で且つ残部16を挟んで対向する境界線18と同一側に傾斜せしめて折曲部12を形成することか〔ママ〕できる。 【0016】【発明の実施の形態】以下,本発明の実施形態として,図1に示す如く商品等の包装用容器として組立てられるべくシート体10に折曲方向Xに夫々垂直に折曲部12が形成されてなるシート,及び該シートに折曲部12を形成するための形成刃について説明するが,まず図2を参酌しつつ本発明に係る形成刃の一実施形態について説明する」。 また,本件特許明細書の【0016】が参酌する図2には,形成刃の構成が示されており,図3には,当該形成刃により形成されたシートの。,【】,構成が示されている当該シートの構成については0022には「上記形成刃により,該シート体10には,刃本体20の突出部24によって所定間隔ごとに複数の凹部14が穿設され,該凹部14の間には()平面視平行四辺形の残部16刃本体20の切欠部26に相当する箇所が残存され,該凹部14と残部16とにより前記折曲部12は構成されてなる」と記載されている。。 )本件特許明細書の上記記載及び図面によれば,本件特許発明2の形成c刃は,本件特許発明1のシートを形成するためのものであって,原告及び被告が主張するとおり,本件特許発明に係る形成刃とシートは,いわば裏腹の関係にあることが認められる。 このような本件特許発明1と本件特許発明2との関係に加えて,本件特許明細書では,本件特許発明1の「残部(16」と本件特許発明2)の「残部(16」の各用語を区別せずに同一の意義を有する用語とし)て統一して使用していることからすれば,構成要件2-Aの「残部」の構成とは,構成要件1-B及び同1-Dの「残部」の構成と同一であると解するのが相当である。 したがって,前記()アb)のとおり,本件シートの湾曲凸部16は,1シートの折曲げの容易性及びシートの強度維持の要請を同時に満たし得るものであって,構成要件1-B及び同1-Dの「残部」の要件を充足すると認められるから,同様に,本件湾曲凸部16は,構成要件2-Aの「残部」の構成を充足するというべきである。 ,,「()」d)同様に原告は本件特許発明1と本件特許発明2の残部16は,同一の構成であることを前提とするものの,本件シートの湾曲凸部16は,構成要件1-B及び同1-Dの「残部(16」とはいえない)から,同様に,構成要件2-Aの「残部(16」とはいえず,結局,)本件形成刃は,本件特許発明2の技術的範囲に属さないと主張する。 しかしながら,前記のとおり,本件シートの湾曲凸部16は,構成要「()」,件1-B及び同1-Dの残部16に相当すると認められるから原告の主張は,その前提を欠くものであり,これを採用することができない。 イ争点3-2-b(本件形成刃は,構成要件2-Bを充足するか)につ。 いて)構成要件2-Bは「刃本体(20)は,凹部(14)を形成するたa,めの複数の突出部(24)と,該突出部(24)との間で切欠かれた切欠部(26)とを有してなり」という構成を定めている。 別紙物件目録2の記載及び図面2によれば,本件形成刃は,刃本体20には,凹部14を形成するために等間隔で設けられた複数の先端部24と,当該先端部24同士の間に設けられた湾曲凹部26を有しているから,構成要件2-Bを充足するものと認められる。 )原告は,構成要件2-Bの「切欠部」とは,シート体に作用する刃でbはないことを意味するという解釈を前提として,本件形成刃の湾曲凹部26は,シート体10に圧力を加えて湾曲凸部16を形成するものであるから,シート体に作用する刃であるとして,湾曲凹部26は,構成要「」。,件2-Bの切欠部に相当しないと主張している原告のこの主張は要するに,本件特許発明2の構成要件2-Bの「切欠かれた切欠部」という構成について,シート体に作用しない刃であり,形成される凹部14の深さと同じかそれ以上に切欠かれているものと解するものである。 この点について,構成要件2-Bでは「切欠かれた」の用語の意義,が明らかではないから,次のとおり,本件特許明細書の記載及び図面を考慮するものとする。 本件特許明細書の図2(イ(ロ(ハ)には,形成刃の説明図が示))されており【0017】には,図2に関する説明として「図2にお,,いて,20は側面視略長方形状の刃本体を示し,該刃本体20は図2().ハに示すように折曲部形成方向Yからみて先端部22がV字状に03(図に示すD1)突設された形状からなる。該先端部22には所mm望間隔をもって図2(イ)に示すように平面視平行四辺形で,深さ0.2(図に示すD2)の切欠部26が複数形成されてなる」と記載mm。 されている。 また,本件特許明細書の【0028】には「つまり,残部16は,,シートの厚みをそのまま残存させるものに限定されるものでなく,例えば図4に示すように凹部14より浅い凹みを有し,凹部14よりもシートの厚みが残存されているものも本発明の意図する範囲である」と記。 載されており,図4には,凹部14より浅い凹みを有する残部が示されている。 これらの本件特許明細書の記載及び図面によれば,本件特許発明は,凹部14より浅い凹みを有してシート体の表面よりも低い残部をも含むものであって,このような場合には,切欠部がシート体の表面を押圧して残部を形成しているものと認められる。 したがって,本件特許明細書の記載及び図面を考慮すれば,構成要件2-Bの「切欠部」は,シート体に作用する刃を含むものであるから,同構成要件の「切欠かれた」とは,形成される凹部14の深さ以上に切欠かれているとまで限定するものと解するのは相当ではない。 以上のとおり,構成要件2-Bの「切欠部」とはシート体に作用する,,刃ではないという解釈を前提とする原告の主張はその前提を欠くため採用することはできない。 ウ争点3-2-c(本件形成刃は,構成要件2-Cを充足するか)につ。 いて)構成要件2-Cは「切欠部(26)の両側の壁部(18)が,同一a,(),」側で且つ折曲部形成方向Yに対して鋭角に傾斜せしめられてなるという構成を定めている。 本件形成刃の切欠部である湾曲凹部26の両側の湾曲した内面のうち,湾曲凹部26の底部から先端部24までの面は,折曲部形成方向Yに対して45度に傾斜する直線の突起状の刃16bを挟んで並んで向かい合い,湾曲凹部26の円柱曲面上の底部の母線(湾曲凸部16の円柱曲面上の頂部の母線に対応するものをいう)が折曲部形成方向Yに対。 して45度に傾斜しているものであるから,これらの面は,同一側で折曲部形成方向Yに対して45度に傾斜しているということができる。 ,,。したがって本件形成刃は構成要件2-Cを充足すると認められる)原告は,湾曲凹部26は立体的に湾曲しており,このような曲面を構b成要件2-Cの「壁部」ということはできないと主張する。 しかしながら,壁部とは,通常の用語の意味からすれば,曲面を含むものであると認められる上,本件特許明細書においても,壁部を平面状のものに限定するような記載は認められない。 したがって,原告の主張には理由がない。 エ小括以上のとおり,本件形成刃は,本件特許発明2のすべての構成要件を充足するから,本件特許発明2の技術的範囲に属するものと認められる。 ()争点3-3(本件特許発明1には無効理由があるか)について3。 ア争点3-3-a(本件特許発明1には進歩性があるか)について。 )本件特許発明の特許出願前に頒布された刊行物である甲31公報にaは,次の記載がある(甲31。)「,特許請求の範囲1複合プラスチックシートを折り曲げるに当りこの複合プラスチックシートの折り曲げ線に相当する部分に直線状に断続して連なる切り込み溝を,これら切り込み溝の間に溝なし部分が介在するように形成し,これら切り込み溝にそって前記プラスチックシートを折り曲げ,前記切り込み溝を折り曲げ角度に応じて拡開させると共に前記切り込み溝に隣接する前記溝なし部分を折り曲げ部分の補強部分としてのリブとして存在させることを特徴とする複合プラスチックシートの折り曲げ方法」。 「発明が解決しようとする問題点)従来使用されている複合プラ(,,スチックシートにおいては該シートを構成する積層素材の相違によりいわゆる腰の強いものと,腰の弱いものとがあり,このような相違によって折り曲げ易さが違ってくる。一般には,この種のシートを折り曲げ易くするため,該シートを加温して折り曲げやすくするか,または,プレス加工により,前記シートの折り曲げ線にそい,該シートの折り曲げ強度を弱める線状部を形成して,これにそい折り曲げるようにしているが,前者の場合は,折り曲げるシートを加熱する煩しさがあり,また,,。,,後者にあって前記線状部を脆弱化しすぎる傾向があるこの点特に該線状部の強度,換言すれば,どの程度にプレス加工で該線状部をいじめ,折れ易くするかを決定するのが非常に難しい。これは,前記シートが複合構造であって,構成素材がバラエテイに富んだものであることから,一概にこれを決めることができないからである」。 「問題点を解決するための具体的手段)この発明は,前記従来に(おける問題点を解消するために発明されたもので,複合プラスチックシートを折り曲げるに当り,この複合プラスチックシートの折り曲げ線に相当する部分に直線状に断続して連なる切り込み溝を,これら切り込み溝の間に溝なし部分が介在するように形成し,これら切り込み溝にそって前記複合プラスチックシートを折り曲げ,前記切り込み溝を折り曲げ角度に応じて拡開させると共に前記切り込み溝に隣接する前記溝なし部分を折り曲げ部分の補強部分としてのリブとして存在させる点を具体的手段とする。 この発明は,前記具体的手段によって,複合プラスチックシートを加温状態または室温のような冷間状態のいずれにおいても,前記切り込み溝の存在により,折れ曲げやすくされており,これと同時に,前記溝なし部分の介在により折り曲げ部分が補強される一石二鳥の効果をもって複合プラスチックシートの折り曲げを可能とする」。 )本件特許発明1と甲31発明との対比についてb甲31公報には,塩化ビニル層,接着層及びポリエステル層からなるシート体に,折曲方向に垂直に折曲部が形成されてなる折曲部入りシートであって,当該折曲部には,多数の切り込み溝と,当該切り込み溝の間の溝なし部分であって,その底部が折曲部形成方向に沿って設けられている複合プラスチックシートが開示されている。 ,,,そうすると甲31発明の構成は本件特許発明1の構成要件1-A同1-B及び同1-Cの構成と一致するのに対し,甲31発明の溝なし部分(リブ)がいずれも折曲部形成方向に対して垂直である点において相違する。なお,この点について当事者間に争いがない。 )本件特許発明1の進歩性についてc?@本件特許発明の特許出願前に頒布された刊行物である甲27明細書の発明の簡潔な要約(1欄45行目以下)には,次の記載があり,図4には,折り目34に沿って多数の薄いエリア30とこれらの薄いエリアの間の厚いエリア32から構成されている熱可塑性プラスチックシート20が開示されている(甲27。)「(i)当発明は熱可塑性プラスチックシートに対して柔軟な折り目をつける事によって,折りたたみ可能な箱の半加工品を成型する器具に関連している。その器具には熱可塑性プラスチックシートを支える溝のある平らなプレートの上に,複数の切り口をつける工具が配置されている。また,熱可塑性プラスチックシートには上表面と下表面がある。溝のつけられた平らなプレート上には数セットの溝が,切り口をつける工具の反対側に掘られており,そこで折り目が成形される。更にその器具は,熱可塑性プラスチックシートが溶けだす温度以下で,切り口をつける工具を熱することができる。このようにして熱された切り口をつける工具を熱可塑性プラスチックシートにかけると,熱が熱可塑性プラスチックシートを柔らかくする作用を〔ママ〕働き,熱可塑性プラスチックシートの上表面が切り口をつける工具によって,下表面が溝のつけられたプレートによって変形される。 ()加えて,熱可塑性プラスチックシートに切り口をつけるのにiiはプレートの溝はどのように角度がつけられても良いが,最も良い結果を得られるのは溝が切り口をつける工具に対して45°で角度がつけられたときである事が発見されている。これにより,うってつけの強さで折り目をつける事ができる。 ()操作の際,熱せられた切り口をつける工具によって圧力が与iiiえられた時,溝を付けられたプレートの溝の高い位置は熱可塑性プラスチックシートに薄いエリアを作る。 ()有利な点としては,当発明の結果として器具は熱された切りiv口をつける工具とそれの下に配置された平らなプレートのコンビネーションによって,効果的に且つ経済的に柔軟な折り目を熱可塑性プラスチックシートに成形することを提供した。そのプレートには柔らかくされたプラスチックに一致した複数の溝があり,そこで切り口をつける工具の圧力によって柔軟な折り目が成形される。その柔軟な折り目は薄いエリアと厚いエリアからなり,熱可塑性プラスチックシートが容易に折れるようにしながらも,依然として折れ目にそって十分な強さを持つようにしている」。 ?A甲27明細書には,折り目34に沿って,かつ,これに対して斜めに傾斜するものであって,その底部が折曲部形成方向に沿って設けられていない多数の薄いエリア30と,これらの薄いエリアの間の厚いエリア32から構成されている熱可塑性プラスチックシート20が開示されている。 ?B本件特許発明1と甲31発明の上記)の相違点を踏まえて,当業b,,,者が本件特許発明1の出願時において甲31発明を出発点としてこれに甲27発明を組み合わせて,本件特許発明1の構成に想到することが容易であったか否かについて検討する。 甲31発明は,従来はシートを折り曲げ易くするためにシートを加熱する煩わしさや複合シートである故のプレス加工の難しさを回避してこれを解決するための発明であって,プラスチックシートのシート体の折曲部に切り込み溝と溝なし部分を形成するのは,ポンチ(たがね)のみである。 これに対して,甲27発明は,そもそも熱を利用してシートをプレス加工することにより熱可塑性のシートに折り目をつけるものであって,複数の溝のある平らなプレートの上にシートを置いて,切り口をつける工具によってこのシートの上から熱と圧力を加えるという方法。,,を用いるものであるこのような方法によればシートの上表面には切り口をつける工具によって断面半円形状の窪みが形成されるのに対し,シートの下表面には,薄いエリアと厚いエリアからなる折り目が形成される。このような方法によれば,薄いエリア30は平らなプレートに設けられた斜めの複数の溝の方向に形成されることになるため,薄いエリア30の底部が折曲部形成方向に沿って設けられるという構成には構造上なり得ないものである。 そうすると,甲31発明はポンチ(たがね)を圧接することによって折曲部を形成するものであるのに対し,甲27発明は熱された切り口をつける工具と溝のつけられたプレートのコンビネーションによって折曲部を形成するものであるから,そもそも技術的思想や折曲部を形成する構成が異なるため,甲31発明の形成刃に甲27発明の切り口をつける工具その他の器具を組み合わせて,本件特許発明1の構成に想到しようとする動機付けを欠くことになる。 したがって,当業者にとって,甲31発明に甲27発明を組み合わせて本件特許発明1の構成に想到することが容易であったということができないから,本件特許発明1には,進歩性があると認められる。 ?C原告の主張について原告は,甲27明細書には,多数の薄いエリア30が折り目方向に対して約45度に平行して傾斜している発明が開示されているから,当業者にとって,甲31発明のプラスチックシートの境界線を折曲方向に対して同様に鋭角に傾斜させる構成に想到することは容易であったと主張する。 しかしながら,前述のとおり,甲31発明と甲27発明では折曲部を形成する技術的思想が異なる上,甲31発明が,構成要件1-Cの「凹部(14)の底部(14a)は,折曲部形成方向(Y)に沿って設けられ」という構成を備えていることを前提とすれば,甲27発明の薄いエリア30の底部が折曲部形成方向に沿って設けられるという構成になり得ない以上,甲31発明に甲27発明を適用することはできない。 ,,。したがって原告の主張には理由がなく採用することができないイ争点3-3-b(本件特許発明1は記載要件を満たすか)について。 )原告の主張についてa原告は?@構成要件1-Dの境界線はもとより同構成要件の鋭,「」,「角で「傾斜」という構成が明確でないこと,?A本件シートの湾曲凸」,部16が構成要件1-B及び同1-Dの「残部」に当たると解する場合には「残部」が本件特許発明1の作用効果を奏さない範囲を含むこと,になるから,本件特許発明1が発明の詳細な説明に記載したものではなくなることをそれぞれ理由として,本件特許発明1は記載要件を満たさないものであると主張している。 )?@についてb前記()イ)のとおり,境界線とは,凹部を形成する際に凹部と残部1aとの間に形成が予定される線であり,明確には線となり表れないものも含むものであり,かつ,この線は,凹部と残部との間の境界面が底面に垂直な壁面により構成されている場合には,平面視で境界面を表す1本の線であり,凹部と残部との間の境界面が傾斜面により構成されている場合には,底面においてみられる残部隆起開始線ではなく,残部の頂部において形成される凹部空間形成開始線,すなわち,残部と凹部との境界面のうち,底面からみて最も高い位置にある点を結んだ線をいうものである。また,このような場合において,残部の頂部がシートの高さよ,,りも低いときは上記凹部空間形成開始線をそのまま下方におろした線すなわち,残部と凹部空間の境界面のうち,底面からみて最も高い位置にある点を結んだ線が境界線である。そして,傾斜とは,この境界線と折曲部形成方向Yの両線が形成する角度を意味するものであるから,構成要件1-Dの「鋭角で「傾斜」という構成は明らかである。」,したがって,原告の上記?@の主張は理由がない。 )?Aについてc前記()ア)のとおり,湾曲凸部16は,シートの折曲げの容易性及1bびシートの強度維持の要請を同時に満たし得るものであるから,本件特許発明1の作用効果を奏するものであると認められる。 そうすると,本件特許発明1が発明の詳細な説明に記載したものであることは明らかである。 したがって,本件特許発明1が記載要件を満たさないとの原告の上記?Aの主張も理由がない。 )まとめd以上のとおり,原告の主張はいずれも理由がなく,これらを採用することはできない。 ウ以上によれば,本件特許発明1には進歩性があり,かつ,本件特許発明1は記載要件を満たすから,これに無効理由があるとは認められない。 ()争点3-4(本件特許発明2には無効理由があるか)について4。 ア争点3-4-a(本件特許発明2には新規性又は進歩性があるか)に。 ついて)甲27発明についてa甲27明細書の発明の簡潔な要約1欄45行目以下には前記()(),3ア()?@の記載がある。c)本件特許発明2と甲27発明との対比についてb甲27明細書には,上記のとおり,熱可塑性プラスチックシートに対して柔軟な折り目をつけるための器具が開示されており,この器具は,複数の斜めの溝のある平らなプレートと,切り口をつける工具から構成されている。このプレートと工具のうち,薄いエリアと厚いエリアからなる折り目を形成するものは,プレートであって,切り口をつける工具は,シートに熱を加えてこれにプレートが折り目を形成するために圧力を与えるものである。 そうすると,本件特許発明2と甲27発明とは,本件特許発明2の器具は,突出部と切欠部がある折曲部形成刃であるのに対し,甲27発明の切り口をつける工具は,そもそも折曲部を形成する形成刃ではなく,これには突出部と切欠部がないという点において相違する。 )本件特許発明2の新規性についてc上記)のとおり,本件特許発明2と甲27発明との間には,一方はb突出部と切欠部がある折曲部形成刃であるのに対し,他方はそもそも形成刃ではないから,両者は実質的に同一であるとはいえない。 したがって,本件特許発明2には,新規性があると認められる。 )本件特許発明2の進歩性についてd,(),,?@甲31公報には次の記載があり3欄27行以下第1図には突出部と切欠部を有する形成刃の発明が開示されている(甲31。)()シートを折り曲げ可能にするためには,該シートを好ましくは,i,,冷間状態または加温状態でナイフの刃の形状になっているポンチまたは,たがね4を用いて,直線状に断続的に連なる断面がV字状になっている切り込み溝5を形成すればよく,該溝は,例えば,前記シートの厚さの75〜80%程度の厚さとする。 ()前記切り込み溝5を断続的に形成するには,ポンチまたは,たiiがねの刃の部分に,例えば,1の長さの切欠部6を断続してmm設け,前記切り込み溝形成の際,ポンチ(たがね)を前記シートに圧接すれば,刃の部分が前記シートに食い込んで前記V状〔ママ〕の切り込み溝5が形成されると同時に前記切欠部6は,前記シートに食い込まず,これによって前記シートの各溝5の間は,溝が入らない状態の溝なし部分7として残される。 ?A本件特許発明2と甲27発明の上記)の相違点を踏まえて,当業b,,,者が本件特許発明2の出願時において甲27発明を出発点としてこれに甲31発明を組み合わせて,本件特許発明2の構成に想到することが容易であったか否かについて検討する。 甲27発明では,熱可塑性プラスチックシートのシート体に薄いエリアである凹部と厚いエリアである残部とからなる折り目を形成するのは,複数の溝のある平らなプレートであって,これに圧力等を加える切り口をつける工具ではない。 そうすると,甲27発明では,切り口をつける工具に突出部と切欠部を設けようとする動機付けをそもそも欠くことになるから,当業者にとって,甲27発明に甲31発明を組み合わせて本件特許発明2の構成に想到することが容易であったということができない。 したがって,本件特許発明2には,進歩性があると認められる。 )原告の主張についてe原告は,甲27明細書には,薄いエリアと厚いエリアからなる折り目が形成されている熱可塑性プラスチックシートが開示されているから,このシートを形成する形成刃は実質的に開示されており,また,この形成刃に想到することが当業者にとって容易であったというべきであると主張している。 しかしながら,上記)のとおり,甲27発明では,薄いエリアと厚bいエリアは,切り口をつける工具によって形成されるものではなく,複数の溝のある平らなプレートによって形成されるものである。 そうすると,甲27発明と本件特許発明2では折曲部の形成方法が技術的に異なる以上,甲27発明のシートの折り目から,形成方法が技術的に異なる本件特許発明2の形成刃が実質的に開示されているとは到底認められず,また,形成方法が技術的に異なる本件特許発明2の形成刃に想到することが当業者にとって容易であったとは認められない。 したがって,原告の主張は,いずれも採用することはできない。 イ争点3-4-b(本件特許発明2は記載要件を満たすか)について。 )原告の主張についてa原告は,?@本件形成刃の湾曲凹部26の曲面が構成要件2-Cの「壁部」に当たると解する場合には,構成要件2-Cの「鋭角に,傾斜」という構成が明確ではなくなること,?A本件シートの湾曲凸部16が構成要件2-Aの「残部」に当たると解する場合には「残部」が本件特許,発明2の作用効果を奏さない範囲を含むことになるから,本件特許発明2が発明の詳細な説明に記載したものではなくなることをそれぞれ理由として,本件特許発明2は記載要件を満たさないものであると主張している。 )?@についてb前記()ウ)のとおり,湾曲凹部26の壁部とは,湾曲凹部26の底2a,,部から先端部24までの両面の部分を意味するものであって傾斜とはこれらの両面の折曲部形成方向Yに対する傾きを意味するものであるから,構成要件2-Cの「鋭角に,傾斜」という構成は明らかである。 したがって,原告の上記?@の主張は理由がない。 )?Aについてc前記()ア)のとおり,本件シートの湾曲凸部16は,シートの折曲1bげの容易性及びシートの強度維持の要請を同時に満たし得るものであるから,本件特許発明の作用効果を奏するものであると認められる。 そうすると,本件特許発明2が発明の詳細な説明に記載したものであることは明らかである。 したがって,本件特許発明2が記載要件を満たさないとする原告の上記?Aの主張も理由がない。 )まとめd以上のとおり,原告の主張はいずれも理由がなく,これらを採用することはできない。 ウ以上によれば,本件特許発明2には新規性及び進歩性があり,かつ,本件特許発明2は記載要件を満たすから,これに無効理由があるとは認められない。 ()小括5本件シート及び本件形成刃は,いずれも,本件特許発明の技術的範囲に属するものと認められ,かつ,本件特許発明には無効理由がないから,被告が告知した事実は虚偽であるとは認められない。 5まとめ以上によれば,被告が告知した行為は,その余の点について判断するまでもなく,不正競争防止法2条1項14号に規定する不正競争行為とは認められない。 第5結論よって,原告の請求は,理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部裁判長裁判官設樂隆一裁判官中島基至裁判官古庄研 |