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事件 |
平成
17年
(ネ)
10060号
損害賠償等請求控訴事件
平成 17年 (ネ) 10064号 損害賠償等請求附帯控訴事件 |
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控訴人・附帯被控訴人(甲事件被告・乙事件原告) 株式会社ボークス 訴訟代理人弁護士 坂田均,草地邦晴,稲山理恵子 被控訴人・附帯控訴人(甲事件原告・乙事件被告) 株式会社オビツ製作所 訴訟代理人弁護士 上野格,田見高秀 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/01/25 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 控訴人・附帯被控訴人の控訴に基づき,原判決主文第1項を以下のとおり変更する。 控訴人・附帯被控訴人は,被控訴人・附帯控訴人に対し,230万円及びこれに対する平成14年11月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 その余の本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを2分し,その1を被控訴人・附帯控訴人の負担とし,その余を控訴人・附帯被控訴人の負担とする。 4 この判決は,主文第1項に限り,仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 控訴人の控訴の趣旨 (1) 原判決中,控訴人の敗訴部分を取り消す。 (2) 被控訴人の請求をいずれも棄却する。 (3) 被控訴人は,控訴人に対し,6696万円及びこれに対する平成14年12月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (4) 被控訴人は,原判決別紙第1目録の女性ドール用素体を製造し,販売し,又は販売のために展示してはならない。 (5) (3)につき仮執行宣言。 2 被控訴人の附帯控訴の趣旨 (1) 原判決を次のとおり変更する。 ア 控訴人は,被控訴人に対し,7480万円及びこれに対する平成14年11月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 イ 控訴人は,「被控訴人のなす原判決別紙製品目録記載の製品の製造販売行為は不正競争行為である」旨を需要者その他の取引関係者に対して口頭又は文書により宣伝し陳述してはならない。 ウ 控訴人は,被控訴人に対し,原判決別紙陳述内容目録記載の陳述をしなければならない。 (2) (1)アにつき仮執行宣言。 |
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事案の概要
本判決においては,原判決と同様に又はこれに準じて「控訴人商品」,「被控訴人商品」,「本件告知行為1」,「本件業務委託契約」,「a」,「ビート」等の略称を用いる。 1 甲事件は,被控訴人が,控訴人に対し,控訴人の取締役であるaが,業務の過程で,被控訴人の取引先の社員に対して,被控訴人商品は控訴人商品に類似するので,被控訴人及び被控訴人と取引をしている者を訴えると告知した行為が,不正競争防止法2条1項14号所定の虚偽の事実を告知し,又は流布する行為に該当すると主張して,同号,3条1項,4条及び7条等に基づき,損害賠償,営業誹謗行為の差止め及び信用回復措置を求めた事案である。 乙事件は,控訴人が,被控訴人に対し,@控訴人商品に類似する被控訴人スタンダード商品を製造,販売する被控訴人の行為が,控訴人と被控訴人との間で締結された契約上の秘密保持義務及び競業避止義務に違反する,A控訴人商品の形態は控訴人の周知な商品等表示であり,これと類似する被控訴人スタンダード商品を被控訴人が製造,販売する行為は,控訴人商品と誤認混同を生じさせるものである,と主張して,民法415条,不正競争防止法2条1項1号,3条1項及び4条に基づき,損害賠償及び同被控訴人商品の製造等の差止めを求めた事案である。 2 原判決は,甲事件について,控訴人の取締役の行為は虚偽の事実を告知し,又は流布する行為に該当すると認め,400万円(有形・無形損害合計300万円,弁護士費用100万円)の限度で,被控訴人の請求を認容するとともに,乙事件について,控訴人の請求をいずれも理由がないとして棄却した。そこで,控訴人は,原判決の甲事件の敗訴部分及び乙事件の全部について控訴を提起し,被控訴人は,甲事件の敗訴部分について附帯控訴を提起した。 3 本件の前提事実,争点,争点に関する当事者の主張は,後記4,5で付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の「1 争いのない事実」,「2 主要な争点」,「3 争点に関する当事者の主張」のとおりであるから,これを引用する。 4 当審における控訴人の主張の要点 4-1 甲事件について (1) 控訴人取締役による虚偽事実の告知流布行為の有無 ア 本件告知行為1について (ア) 控訴人取締役のaと三ツ星商店のbのやり取りに関する原判決の認定は誤りである。 静岡のホビーショーの直前においては,被控訴人と控訴人との間で,被控訴人商品の販売に関する話合いが継続していた途中であるから,aが,話合いによる解決が行われる可能性があるこの時期に,訴訟に訴えなければ仕方がないなどと発言するはずがない。 控訴人が問題としていたのは,被控訴人が控訴人商品と類似する商品を販売するという行為自体であるから,控訴人は,被控訴人の取引先に対して訴訟を提起するということはおよそ考えていなかった。したがって,aが,被控訴人商品を販売する会社に対して,訴訟に訴えなければ仕方がないなどと発言することは考えられない。 bは,現在,控訴人と競業関係にある被控訴人商品を取り扱う会社に勤務している者であり,その証言にはおよそ信用性がない。 (イ) 三ツ星商店のbとビートのcのやり取りに関する原判決の認定も誤りである。 そもそも,ビートの代表者であるcは,三ツ星商店のbから,原判決が指摘するような内容の報告ないし助言を受けたことはない。このことは,ビートから被控訴人に対して出された回答書(乙1の1)においても明確にされている。 ビートのcが控訴人・被控訴人間の紛争を知るに至ったのは,被控訴人の代表者から直接聞き及んだからである。そのことは,上記回答書の中でも明確にされている。被控訴人代表者は,cに対して,被控訴人と控訴人との交渉経過を逐一報告しており,cは,bから聞くまでもなく,もともと控訴人・被控訴人間の紛争の内容や,話合いが決裂したことを知っていた。したがって,bから事実関係の説明があったとしても,それがcの判断に影響を与えたとは考えられない。 原判決は,上記回答書の存在やcの陳述書を全く無視し,b証言だけを偏重して,事実認定を誤ったものである。 イ 本件告知行為2について aとバニーコーポレーションのdとのやり取りに関する原判決の認定は誤りである。 aが被控訴人を訴えようと思っている旨をバニーコーポレーションのdに話したことはあるが,それは契約書の作成を行う理由を説明する過程で出てきたにすぎない。aは,この時点では,トゥールズがどのような会社であるのか全く知らなかったのであるから,dに対し,トゥールズに訴訟を提起するとか,そのことをトゥールズに伝えて欲しいと明示するはずがない。 dの証言は,細部の記憶に欠け,全体的な流れの記憶しかないもので,同証言に基づき,aの発言やその趣旨を認定することはできない。dは,控訴人がトゥールズに訴訟を提起するなどとは聞いておらず,aの話もトゥールズにそのようなことを伝えて欲しいという意味ではなかったと証言している。 仮に,d証言を前提にしても,aはあくまでも契約書の作成にかかわる会話の中でdの質問にあいまいに答えたにすぎない。aがdに話した内容は,d,e,fと順次話が伝わる過程で,伝言ゲームのように誇張され,ゆがんでいったのである。 ウ 告知内容の解釈について 不正競争防止法にいう虚偽事実の告知,流布に該当するか否かは,告知ないし流布された事実についてその受け手となる者が真実に反する誤解をするかどうかにより判断すべきであり,その際には,当該告知がどのような状況下においてされたか,受け手となる者が告知者,被侵害者とどのような関係にあり,告知された事実の分野における予備知識や分析能力を有するか等の事情を考慮することが必要である。仮に,原判決が認定するような告知行為があったとしても,その状況,受け手となる者の立場,その業者としての専門性等に照らしたときには,aの行為は虚偽事実の告知とは評価できない。 エ 過失について 原判決は,aの過失を認定しているが,前記のとおり,その前提事実を誤っている。 (2) 被控訴人の被った損害等 ア 本件各告知行為と取引中止との因果関係について 仮に本件告知行為1,2があったとしても,被控訴人との取引が中止されたこととの因果関係はない。 ビートが被控訴人商品の取引を中止することにしたのは,被控訴人商品をめぐる控訴人と被控訴人の話合いが決裂したことを被控訴人の代表者自身から聞かされていたこと,そして控訴人から被控訴人に宛てた内容証明郵便を平成14年6月13日に被控訴人代表者から見せられたからである。また,平成14年5月下旬か6月上旬には,すでに被控訴人はアゾンを通じて被控訴人商品の販売を行っていた。 トゥールズが被控訴人商品の取引を中止することにしたのも,aのdに対する発言がe,fとゆがめられて誇張して伝わったことが原因であり,そのような誇張された内容に対応する発言をaが行った事実はない。控訴人は被控訴人からの問い合わせに書面で回答し,被控訴人商品を販売している会社に対して訴訟をするつもりであるとの発言や,トゥールズを訴えるのでトゥールズに伝えて欲しい等の発言をaがした事実がないことを明確にし,その回答書(甲5)は,被控訴人を通じてトゥールズのもとに届けられている。 したがって,ビートやトゥールズが被控訴人商品の取引を中止することにしたのは,それぞれの独自の判断であり,本件各告知行為との間に因果関係はない。 イ 損害額について (ア) 被控訴人は,アゾンの報告書(甲39)の表A及び表Bに依拠するが,その記載は具体的な資料に基づくものではなく,信用できない。表A記載の8品目のうち,胸がソフトビニルタイプ及びスケルトンタイプの商品は控訴人商品には含まれておらず,広告反響率も何ら根拠がない。被控訴人はアゾンはI社と同等の問屋5社との取引を見込めたと主張するが,その根拠は示されていない。 (イ) 被控訴人は,ビートが積極的に販売契約を持ちかけてきたと主張するが,もともと販売契約に積極的であったのは被控訴人の方である。ビートを通じての被控訴人の男性バージョンの売行きは芳しくなかった。また,被控訴人が依拠する甲76〜79の営業報告書は,男性バージョンについての営業を開始したころの報告書であり,女性バージョンに対するものでもなければ,実際の市場の評価でもない。 その内容も評価されているのは価格くらいである。ビートが被控訴人商品(女性バージョン)の注文を受け付けてから締切りまでに注文はあまり集まらず,既に販売していた男性バージョンのときよりも少ない状態であった(乙178)。 (ウ) 被控訴人は,エスイーの売上予測に基づいた主張をしているが,この売上予測には何ら根拠がない。また,被控訴人は誹謗行為がなければエスイーは新たに10店舗と取引をすることができたはずであると主張するが,エスイーはかねてから150店舗で被控訴人商品を販売してきたというのであるから,誹謗行為の影響があるとは考えられない。さらに,エスイーの売上げは,スケルトンタイプやソフトビニルタイプの素体を含んでおり,これらを総合した金額を算定の基礎とすることは誤りである。 (エ) トゥールズを通じての売上予測についても,基礎としているのはエスイーの売上げであり,これに根拠がないことは上記のとおりである。トゥールズは平成14年8月以降も被控訴人商品を販売しているのであり(乙2〜4),被控訴人にはトゥールズとの取引ルートでの損害は発生していない。 (オ) 被控訴人あるいはエスイーは,被控訴人商品の関連商品等について「電撃ホビーマガジン」や「ホビージャパン」に広告を掲載している(乙10〜12)。エスイーの「デリタリードール」は,オビツボディの女性バージョンであるから,被控訴人商品についての広告そのものであり,乙12については27センチオビツボディのオプションパーツの広告が掲載されている。 (カ) 被控訴人は,平成14年度の売上高の低下をもって損害額の主張を裏付けようとしているが,平成13年度の被控訴人の売上高のうち,控訴人との取引による売上げは1億円程度あり,平成14年度については6月以降控訴人との取引を行っていないので,売上げが大きく落ちたにすぎない。 (キ) 被控訴人が主張する東京コカコーラボトリング株式会社(以下「東京コカコーラ」という。),株式会社日本ヴォーグ社(以下「日本ヴォーグ」という。),株式会社メガハウス(以下「メガハウス」という。)との取引については,被控訴人の主張するような時期に各社から申入れが実際になされたとしても,それまでの間に被控訴人との取引を行わなかったのは各社の判断にすぎず,また,日本ヴォーグとメガハウスについては原審判決から半年以上たった後に発出された文書であり,不自然である。また,被控訴人が主張する逸失利益の算定方法も根拠のないものである。 4-2 乙事件について (1) 契約に基づく秘密保持義務及び競業避止義務の有無 原判決は,被控訴人が控訴人に対し,本件の継続的業務受託に関して競業避止義務や営業秘密保持義務を負っていないと判断しているが,誤りである。 継続的な取引関係が長期間継続し契約当事者の一方が相手方を信頼して商品情報を開示,提供しているときは,相手方は,この信頼関係に基づき開示,提供された情報に関して,秘密保持義務を負い,自由にこれら商品情報を使用することはできず,またその情報に関連して同一もしくは競合する商品を製造販売することは許されないとするのが契約当事者の通常の契約意思に合致するだけでなく,信義則上も相当である。控訴人は被控訴人との間で5年間にわたり取引関係にあること,被控訴人は控訴人商品の頭部の接着や控訴人商品の箱詰等の作業を実際に受託しており,控訴人商品のデザイン,販売数量その他の商品情報提供を受けていたことからして,被控訴人が,控訴人商品の情報に関連して,控訴人商品と競合関係に立つ被控訴人商品を製造販売することは,本件業務委託契約締結時の黙示的合意に反するだけでなく,上記信義則上の附随義務にも反している。 (2) 控訴人商品の形態の商品等表示性の有無 原判決は,控訴人商品の胴体部,脚部,肘・膝関節のいずれの部位についても,機能に由来するものであるなどとして,特徴的な形態を有するとはいえないと判断しているが,誤りである。 胴体部の形態は,女性らしい上半身をそらせるポーズ,上半身をねじりながらそらせるポーズ,上半身を折り曲げるポーズを表現するためであり,脚部の形態は,女性らしい下半身のふくらみと,脚をそろえたときや曲げたときの脚線美を表現するためであり,肘関節及び膝関節に関する形態は,女性らしい横座り,あひる座り,また椅子に座った状態で脚を組み,かつその状態をドール自体で維持しているポーズを表現するためである。このように,控訴人商品は,いずれも,女性らしいポーズがとれるという機能的な要請と女性らしい肢体を維持するという美感上の要請という相互に相矛盾した要請を調和させることを目的としている。原判決は,その機能的成果のみを強調しすぎた結果,誤った判断をしたものである。 5 当審における被控訴人の主張の要点 5-1 甲事件について (1) 控訴人取締役による虚偽事実の告知流布行為の有無 ア 本件告知行為1について 控訴人は,証人のbが現在控訴人と競業関係にある会社の従業員であると主張するが,同人の勤務する株式会社さくらやはドール素体を取り扱っているとはいえ,総合小売業者であり,控訴人と競業関係にあるとはいえない。また,bの証言は,aとの電話内容及びcとの会話内容のいずれについても明確で信用性は高い。逆に,ビートから被控訴人宛てに送付された回答書(乙1の1)は,甲事件が提訴された後の返答であり,信用性は低い。 イ 本件告知行為2について 本件告知行為2を認定する上で最も重要なのは証人fの証言であり,同証言によれば,原判決の事実認定が正しいことは明らかである。 ウ 告知内容の解釈について 本件告知行為1及び2が虚偽事実の告知流布行為に該当するとした原判決の認定は正当であり,誤りはない。 エ 過失について aの過失を認めた原判決の認定は正当であり,誤りはない。 (2) 被控訴人の被った損害等 ア 本件各告知行為と取引中止との因果関係について 本件告知行為1及び2の事実が認められ,その結果,ビート及びトゥールズは被控訴人との取引を中止したのであるから,取引中止と本件各告知行為との間に因果関係が認められるのは当然である。 イ 損害額について 原判決は,本件告知行為による損害として,無形損害を300万円,弁護士費用を100万円と認定したが,この判断は誤りである。 本件は,一定期間の販売前に営業誹謗行為がなされたために,ほとんどの商品流通が妨げられて被害が拡大したとの特殊性があり,それゆえに逸失利益の算定が困難となっている。このような事例において,原判決のように逸失利益の立証が不十分であると判断することは,被控訴人が一定期間販売した場合より販売前に営業誹謗行為がなされた場合の方が控訴人の責任が軽減されるという矛盾した結果となる。 被控訴人は,原審において,有力な問屋の販売経験と実績に裏打ちされた被控訴人商品の販売予測に関する意見書を提出し,模型問屋ルートと画材問屋ルートについてその損害額を算定した。さらにこの主張を補足すると,以下のとおりである。 (ア) オビツボディは,テレビ番組でも取り上げられ,その独自性・優秀性が評価されていた(甲71,71の2,72)。このオビツボディの独自性・優秀性に着目し,ビートは,平成14年2月19日,被控訴人に対し,積極的に販売契約を持ちかけてきた(甲73)。ビートはオビツボディ男性バージョンに加えて,女性バージョンの広告を行い,積極的に販売しようとし,有力問屋にも営業活動をして良い反応を得ていた(甲74,75)。三ツ星商店は,控訴人の商品以外の人形素体を扱っている問屋であり,オビツボディを扱う可能性が極めて高かった。オビツボディは安価で品質が良かったことから,三ツ星商店はオビツボディの取扱いに積極的であり,光模型教材やイリサワ,宮沢模型等の有力問屋も同様であった(甲76〜79)。 (イ) 東京コカコーラからエスイーを通じて被控訴人に対し,東京コカコーラからオビツボディを販売したいとの申し出があったが,控訴人が類似商品であるとして裁判を提起していることが注目され,その企画が一方的に中止となった(甲80〜82)。この取引が行われていれば,2707万5000円(商品の定価9025円×販売見込み個数2万個×被控訴人の利益率15%)の利益を得たはずである。 また,日本ヴォーグは,オビツボディを使用しての特定のキャラクター人形を製作し,販売しようとしたが,控訴人の営業誹謗行為により計画は一度棚上げとなった。その後,原判決が出されたことにより,再度計画が進められることとなった(甲83)。控訴人の営業誹謗行為がなければ1500万円(一体の定価7500円×一シリーズの売上個数2000個×年4回×被控訴人の利益率25%)の利益を得たはずである。 同様に,メガハウスは,被控訴人の素体を使ってテレビアニメーションのキャラクター人形を製造・販売したいと申し入れてきたが,これは原審で被控訴人が勝訴したために,急遽商談を求めてきたものである(甲84)。控訴人の営業誹謗行為がなければ,メガハウスとの商談により1036万8000円(3種の各商品につき1920円×販売見込み個数1800個=345万6000円)の利益を得ることができたはずである。 以上,上記3社との取引に関する被控訴人の逸失利益は,合計5244万3000円である。 (ウ) 控訴人は,「電撃ホビーマガジン」平成14年10月号に被控訴人商品の広告が掲載されたと指摘するが,それまでは,被控訴人が同誌に広告掲載を求めても断られていた。同誌は「ホビージャパン」に比べて発行部数も少なく,控訴人の影響力も弱いために広告掲載を許可したものと思われるが,新商品を紹介記事で取り上げて欲しいとの被控訴人の要望は断られた。「電撃ホビーマガジン」平成15年5月号に掲載された広告は,画材問屋であるエスイーの「デリータードール」として掲載されたものである。「ホビージャパン」で掲載されたと控訴人が主張する広告は,素体そのものではなく,付属品である。素体そのものの広告については,控訴人の営業誹謗行為によりいまだに掲載されていない。 (エ) 被控訴人の平成13年度の売上金額,平成15年度の売上金額は,約5億5000万円台であったが,平成14年度の売上高は約3億9000万円であり,平成14年度は約1億6000万円余り売上げが落ちている(甲67〜69)。したがって,アゾンルートと画材販売ルートの合計により売り逃したと被控訴人が主張している1億6243万4403円という金額の正確性は,納税申告書からも裏付けられる。 ウ 信用毀損による無形損害 本件における控訴人の主張,立証活動については,信用性に欠け,被控訴人がこのような不当な活動に巻き込まれたことを考慮すると,被控訴人が被った無形損害は,逸失利益以上に大きなものがある。 エ 不正競争防止法6条の3に基づく相当な損害額の認定(予備的主張) 不正競争防止法6条の3は,「不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟において,損害が生じたことが認められる場合において,損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるときは,裁判所は,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定することができる。」と定めている。本件において,損害額の立証が十分ではないとしても,同条に基づいて,被控訴人主張の損害額が認定されるべきである。 5-2 乙事件について (1) 契約に基づく秘密保持義務及び競業避止義務の有無 被控訴人と控訴人の取引関係は,通常の製作物供給契約にすぎず,明文による秘密保持条項や競業避止条項もなしに,控訴人が主張するような義務を取引相手方である被控訴人が負担する理由はなく,かかる契約から自動的に秘密保持義務や競業避止義務の黙示的合意が認定できるものでもない。 (2) 控訴人商品の形態の商品等表示性の有無 女性ドール素体では,女性の体型や姿勢としての美観を高める形状は常に必要であり,そのために各社が商品開発に切磋琢磨し,技術競争を行っている。控訴人が自らの商品の美観上の表現が高度の水準であると主張したとしても,それは主観的な評価にすぎず,控訴人商品の形態が自他識別機能又は出所表示機能を有する商品等表示性を有する理由にはならない。 |
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当裁判所の判断
原判決と同様に,乙事件,甲事件の順に判断する。 第3-1 乙事件について 当裁判所も,乙事件に関する控訴人の請求はいずれも理由がなく棄却すべきものと認定判断するものであるが,その理由は,控訴人の主張に対する判断として次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第3 争点に対する判断」〔乙事件〕のとおりであるから,これを引用する。 1 契約に基づく秘密保持義務及び競業避止義務の有無 控訴人は,被控訴人は控訴人に対して秘密保持義務及び競業避止義務を負うと解するのが通常の契約意思に合致するだけでなく,信義則上も相当であると主張する。 しかしながら,控訴人と被控訴人とが継続的な取引関係にあり,被控訴人が控訴人商品の頭部の接着や控訴人商品の箱詰等の作業を控訴人から受託し,控訴人商品に関する商品情報の提供を受けていたとしても,それによって,被控訴人が控訴人に対し,自らの営業活動が制限される競業避止義務や営業秘密保持義務を信義則上当然に負うと解することはできない。 本件証拠を総合しても,本件業務委託契約に際し,控訴人と被控訴人が,書面又は口頭により競業避止義務や営業秘密保持義務について明示的に合意し,又は控訴人と被控訴人の間で黙示的な合意がなされたと認めるに足る証拠はない。 したがって,控訴人の主張には理由がない。 2 控訴人商品の形態の商品等表示性の有無 控訴人は,控訴人商品の胴体部,脚部,肘・膝関節のいずれの部位も,女性らしく美しいポーズを表現したものであり,機能的な面のみを強調すべきではないと主張する。 しかしながら,そもそも商品の形態は本来的に商品の出所を表示することを目的とするものではないところ,控訴人商品は女性ドール用素体であるから,その性質上,商品の形状は女性の人体に限定されるとともに,機能面においては女性の人体にできるだけ近い自然な姿勢や動作を取り得る構造が求められ,商品として選択し得る形態には自ずと制約がある。 控訴人が控訴人商品の特徴点であると主張する胴体部,脚部,肘・膝関節の構成は,原判決も認定判断するように,いずれも女性の人体が取り得る動作を実現するための機能的な理由に基づくものであるか,女性の体型の特徴をできるだけ忠実に表現しようとするものであり,その形態について女性らしく美しく見えるように工夫が凝らされているとしても,控訴人商品が需要者に強い印象を与えるような独自の特徴を備え,その形態自体が商品識別力を有するものとは認められない。 したがって,被控訴人商品の形態が不正競争防止法2条1項1号にいう商品等表示に該当するということはできない。 3 以上によれば,乙事件について控訴人の請求はいずれも理由がない。 第3-2 甲事件について 1 控訴人取締役による虚偽事実の告知流布行為の有無 当裁判所も,本件告知行為1及び2がaによりなされ,同各告知行為は不正競争防止法2条1項14号に該当するとともに,aには過失が認められると判断する。 その理由は,控訴人の主張に対する判断として以下のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第3 争点に対する判断」〔甲事件〕「3 争点(1)(虚偽事実の告知流布行為)について」のとおりであるから,これを引用する。 (1) 本件告知行為1について ア 控訴人は,aとbのやり取りに関し,静岡で開催されたホビーショーの直前に,aがbに対し訴訟に訴えなければ仕方がないなどと発言するはずがない,控訴人が問題としていたのは,被控訴人が控訴人商品と類似する商品を販売するという行為自体である,bは控訴人と競業する会社の従業員であるから,その証言は信用できないなどと主張する。 しかしながら,証拠(乙7,a証人)を子細に検討すれば,上記ホビーショーにおけるaと被控訴人代表者との交渉は最終的なものであり,それ以前に被控訴人が被控訴人商品の販売を中止することに同意したことはなく,結果的にその交渉は決裂したとの事実が認められる。同事実に照らすと,上記ホビーショーの直前には,aは被控訴人代表者と合意し得る可能性が低いことを認識していたというべきであり,被控訴人との交渉が決裂することを念頭に置いて,bに対し,被控訴人及び被控訴人商品を販売する会社を訴えるとの発言をしたとしても,何ら不自然ではない。 また,被控訴人は,控訴人商品と類似する商品を販売するという行為自体を問題としていたというが,被控訴人商品に関して販売差止めや損害賠償を求める訴訟は,まさに当該行為に対する救済手段であるから,aが被控訴人商品を販売する者に対して訴訟を提起することは考えていなかったとの控訴人の主張は採用できない。 さらに,控訴人はb証言の信用性は低いというが,同証人の現在の勤務先が控訴人と競合する商品を扱っているからといって,その従業員であるb証人の証言の信用性が一概に低いということはできない。同証言は明確で合理的であり,その信用性は決して低くはないというべきである。 イ 控訴人は,cとbのやり取りに関し,cが,bから,原判決が指摘するような内容の報告ないし助言を受けたことはない,cは,控訴人・被控訴人間の紛争の内容等を被控訴人代表者から聞いて知っていたのであるから,bの話がcの判断に影響を与えたとは考えられないなどと主張する。 しかしながら,証拠(甲10,b証人)によれば,bは,平成14年5月末ころ,cに対して,被控訴人商品に関し,控訴人が被控訴人及び被控訴人商品の販売会社に対し訴訟を提起するという動きがあるので,被控訴人商品の取扱いは慎重にした方がいいとの話をしたものと認められる。 これに対し,c作成に係る陳述書(乙6,178)には,被控訴人と控訴人との交渉が決裂し,控訴人が被控訴人の取引先を訴える動きがあることをbから聞いたことはないなど,控訴人の主張に沿う記載がある。しかしながら,ビートの代表者であるcから被控訴人に宛てた平成14年6月25日付け通知書(甲2の2)には,「本件商品については,株式会社ボークス…より,同社製造にかかる人形と類似している旨の抗議がされていることを聞き及びました。貴社からも,ボークス社の代理人弁護士から貴社に内容証明郵便が届いているとお聞きしております。」との記載がある。この記載によれば,cは被控訴人以外の者から控訴人が被控訴人商品について抗議していることを聞いて知っていたのは明らかであり,それにより,被控訴人との取引を中止するに至ったものというべきである。したがって,cの陳述書の上記陳述部分は採用できない。 また,控訴人は,ビートの被控訴人宛て平成14年12月24日付け回答書(乙1の1)の記載も指摘するが,同回答書は,ビートが被控訴人商品の取引中止を決めてから約半年後のものであり,その発出の経緯も明らかでないのであって,証拠価値を認めることはできない。 (2) 本件告知行為2について 控訴人は,aはdと話をした時点でトゥールズがどのような会社か知らなかった,d証言は細部の記憶に欠けて信用できない,aは契約書作成の過程でdの質問に答えたにすぎない,dからe,fと話が伝わるにつれて内容が誇張されたものであるなどと主張する。 しかしながら,証拠(甲6の3,11,f証人,d証人)によれば,控訴人がトゥールズを訴えるとの話があると上司から聞いたfは,平成14年8月21日,dに自ら電話し,aがdに対し控訴人はトゥールズと出荷元を訴えるつもりであり,その旨をトゥールズに伝えて欲しいと述べた旨を確認したとの事実が認められる。 また,トゥールズが被控訴人に宛てた平成14年8月22日付けの文書(甲6の3)にも「(株)バニーコーポレーションのdが(株)ボークスのa専務と商談中,…a専務より「トゥールズと出荷元を訴えるので,トゥールズにお伝えください。」という話が出たことがこの度の問題の始まりです。」と記載され,dとaの名前を明示した上で両者の話の内容が明確に記載されている。 以上によれば,f証言は控訴人の主張するような伝言ゲームにより誇張されたものとは到底いうことができず,その信用性は高いというべきであり,これに沿うd証言も信用できるというべきである。また,aとdの上記会話が契約書作成過程でなされ,またaがdの質問に答える形で話をしたとしても,そのことは上記認定を左右するものではない。 (3) 告知内容の解釈について 以上によれば,aは平成14年5月半ばころ,三ツ星商店のbに対し,被控訴人が控訴人商品と類似した商品を売り出したので,被控訴人と被控訴人商品の販売会社に対し訴訟を提起するつもりであると伝え,その旨をbがビートの代表者であるcに伝えたことから,ビートは,同年6月25日,被控訴人商品の取引を中止するに至ったものと認められる。 また,aは,平成14年8月20日,dに対して,電話で,被控訴人が控訴人商品と類似した商品を売り出したので,被控訴人及び被控訴人と取引関係にあるトゥールズを訴えるつもりであり,トゥールズにもその旨伝えるように依頼し,dからその旨の連絡を受けたトゥールズは,同月22日ころ,被控訴人商品の取引を中止するに至ったものと認められる。 控訴人は,以上の各告知行為が認められるとしても,その状況,受け手の立場,業者としての専門性等に照らすと,虚偽事実の告知とは評価できないと主張するが,控訴人が,被控訴人商品が何ら控訴人の権利を侵害していないにもかかわらず,被控訴人商品が自らの商品と類似するなどと主張して,控訴人の権利を侵害する商品を販売しているとの告知をすれば,当該告知を受けた第三者はその主張する事実が真実であると誤解するものというべきであり,本件各告知行為は営業上の信用を害する虚偽の事実を告知する行為に当たるということができる。 (4) 過失について 控訴人は,aの過失を認めた原判決はその前提となる事実認定を誤ったものであると主張するが,当該前提事実の認定に誤りはないことは前記判示のとおりであり,控訴人の主張には理由がない。 2 被控訴人の被った損害等について 当裁判所は,被控訴人が被った損害額について,有形・無形損害として合計200万円,弁護士費用として30万円と認めるのが相当であると判断する。その理由は以下のとおりである。 (1) 本件各告知行為と取引中止との因果関係について 控訴人は,ビートやトゥールズが被控訴人商品の取引を中止することにしたのは,それぞれの独自の判断であり,損害との間に因果関係はないと主張する。 しかしながら,前記のとおり,ビートから被控訴人への前記通知書(甲2の2)の記載内容や,bからcへの連絡の時期(平成14年6月13日)と上記通知書発出の時期(同月25日)の近接性等に照らすと,ビートが被控訴人との取引を中止したことと本件告知行為1との間には因果関係があるものと認められる。控訴人は,ビートが被控訴人との取引を中止したのは,被控訴人から控訴人との紛争について聞いていたためであると主張するが,この主張が採用できないことは前記判示のとおりである。 また,控訴人は,控訴人から被控訴人宛てに送付した文書(甲5)などを根拠にして,トゥールズが被控訴人との取引を中止したのは独自の判断であるなどと主張するが,トゥールズから被控訴人に宛てた平成14年8月22日付けファックス(甲6の3),平成14年8月30日付け連絡文書(甲9),平成15年1月31日付け連絡文書(甲13),fからの聴取書(甲11),f証人の証言によれば,トゥールズがaのdに対する告知行為を原因として被控訴人との取引中止を決意するに至ったことは明らかである。 したがって,本件各告知行為と被控訴人との取引中止には因果関係があるというべきである。 (2) 損害額について ア 逸失利益の算定に関し,被控訴人は,これを模型問屋ルートと画材問屋ルートに分けた上で,模型問屋ルートについては,取引先であるアゾン作成に係る「オビツボディー販売実績と予測数量」(甲39)に依拠し,控訴人の不正競争行為がなければ,アゾンはI社以外に問屋5社と取引ができ,十分な広告もできたであろうし,あるいはビートとの取引が継続していた場合には,アゾンを通じて販売した金額の2倍は売り上げることが可能であったなどとして,約1億4700万円の販売額を上げることができたはずであると主張する。 しかしながら,上記報告書(甲39)が基礎とするオビツボディー女性胸ノーマルなど8商品の平成14年6月から平成16年1月6日までの販売実績(表A及び表B)については,その数字を裏付けるに足る具体的な資料は提出されておらず,また販売予測も一方的な推測を記載したものというほかなく,合理的・客観的な根拠に基づくものとは認められない。 また,被控訴人は,画材問屋ルートについては,同様に取引先であるエスイー作成に係る「デリータードール販売実績報告書」(甲42)及び「デリータードール販売実績報告書の詳細について」(甲47)に依拠し,控訴人の不正競争行為がなければ,エスイーとの取引を開始した平成15年3月1日以降は10店舗分多く取引することができ,それ以前にはトゥールズとの取引により売上げを得ることができたなどとして,約6400万円の売上げを得ることができたと主張する。 しかしながら,上記報告書の販売予測についても,単なる推測の域を出ず,合理的・客観的な根拠を欠くものであって,到底採用できない。 イ 損害額についての当審における被控訴人の補足的な主張について,以下,判断する。 (ア) 被控訴人は,オビツボディは,その独自性・優秀性が評価されており,ビートは被控訴人商品の販売に積極的であり,三ツ星商店,光模型教材,イリサワ,宮沢模型等の有力問屋もオビツボディを扱う可能性が極めて高かったなどと主張する。 しかしながら,ビート作成に係る三ツ星商店,光模型教材,イリサワ,宮沢模型に関する訪問営業の営業報告書(甲76〜79)は,いずれも被控訴人の男性バージョンの売込みに関するものであり,本件の被控訴人商品の営業見込み等を推認することはできない。また,ビートが被控訴人商品の販売に積極的である根拠として被控訴人が挙げる甲73〜74は,取引条件や注文書の形式に関するもので,被控訴人の主張を裏付けるものとはいえない。 (イ) 被控訴人は,エスイーを通じて,東京コカコーラ,日本ヴォーグ,メガハウスなどから被控訴人商品を販売したいとの申入れがあったが,本件訴訟のために中止又は延期となっており,この点でも被控訴人は損害を被ったと主張する。 しかしながら,上記各社からの申入れを示すものとされる文書(甲80,81,83,84)は,いずれもその前後の経緯を示す文書や具体的な裏付けとなる文書がないために,軽々に採用し難いが,仮に各社が本件訴訟により被控訴人商品の販売の中止又は延期したとしても,それは各社の判断にすぎず,本件各告知行為と因果関係のある損害ということはできない。また,被控訴人の主張する逸失利益も,客観的,合理的な根拠に基づくものとはいえない。 (ウ) 被控訴人は,平成14年度の被控訴人会社の売上高は,平成13年及び平成15年と比べ,約1億6000万円余り落ちているが,これは,本件告知行為により被控訴人が失った売上高を示すものであると主張する。 しかしながら,被控訴人の平成13年度から平成15年度にかけての売上げについてはその具体的な明細が明らかではない上,平成14年度における売上高の低下は控訴人との取引が終了したことも影響していると考えられ,さらに被控訴人商品の販売が開始されたのは平成14年5月であるから,平成13年度の売上げには被控訴人商品の売上げは含まれておらず,平成15年度と平成14年度の売上げの差をもって控訴人の行為により失った売上げであると解すべき合理的な理由もない。 したがって,被控訴人の主張には理由がない。 ウ 以上によれば,被控訴人の主張する損害について,本件告知行為1及び2と因果関係を有する損害額を確定することができない。しかしながら,当事者間に争いのない事実,虚偽事実の告知流布行為に関する前記認定事実,その他の証拠(甲44,45,73,74)によれば,@被控訴人は,女性ドール素体等の被控訴人商品を平成14年5月24日から製造,販売したこと,Aビートは,被控訴人との商品基本取引契約に基づき,被控訴人商品を取り扱うことになっており,注文の締切日は同年4月8日に設定されていたこと,Bトゥールズは,被控訴人と取引関係があり,同年8月ころから被控訴人商品の販売を開始したこと,Cしかしながら,控訴人の本件告知行為により,ビートは同年6月25日に,トゥールズは同年8月22日に被控訴人との取引を中止したこと,D被控訴人は,同年7月ころ,「ホビージャパン」から広告掲載を拒否され,「電撃ホビーマガジン」には紹介記事の掲載を断られたことの各事実が認められる。 上記各事実によれば,被控訴人は,被控訴人商品の製造,販売を開始して間もない時期において,被控訴人商品を取り扱って販売を行うことが予定されていたビート及びトゥールズとの取引を失い,雑誌への広告掲載依頼が拒否されるなどして十分な広告宣伝の機会を得られなかった上,人形素体の製造業界における被控訴人の信用は毀損された結果,有形,無形の財産上の損害を被ったことは否定できない。 他方,争いのない事実及び証拠(甲13,19,乙10〜12,b証人)によれば,@被控訴人は,模型問屋ルートについては,同年6月ころからアゾンを通じて,また画材問屋ルートについては,平成17年3月1日からエスイーを通じて被控訴人商品の販売を行うようになり,トゥールズも被控訴人商品の取引を中止した時点で既に完成していた被控訴人商品の販売は継続したこと,A被控訴人は,被控訴人商品の販売を開始する以前には,男性ドール素体等を販売したことはあるものの,女性ドール素体は製造,販売したことはなく,女性ドール素体の販売実績はなかったこと,B本件各告知行為がなければ取引が見込めたと被控訴人が主張する三ツ星商店にとって控訴人は重要な取引先であり,他方,被控訴人との取引はなかったこと,C「電撃ホビーマガジン」平成14年10月号には被控訴人製品の,同誌平成15年5月号にもエスイーを広告主として被控訴人製品の,「ホビージャパン」平成16年3月号には被控訴人の女性素体のオプションパーツなどの広告が掲載していること,の各事実が認められる。 これらの事実に加え,本件告知行為の態様や,被控訴人製品の形状や機能,従前の商品との対比や競合可能性,当事者が主張する利益率も含め,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果を考慮に入れると,本件告知行為と因果関係のある損害としては,有形・無形損害を含めて200万円であると認めるのが相当である。 エ 本件訴訟の内容,認容額,難易度その他一切の事情を考慮すれば,本件告知行為1及び2と相当因果関係のある弁護士費用は30万円が相当である。 (3) 営業誹謗行為の差止め及び信用回復措置の必要性 本件証拠を総合しても,控訴人が営業誹謗行為を現に反復して行い,又は行うおそれがあると認めることはできない。したがって,営業誹謗行為の差止めを求める被控訴人の請求には理由がなく,また侵害回復措置を求める請求についてはその必要が認められない。 |
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結論
以上のとおりであるから,甲事件についての被控訴人の請求は,230万円及びこれに対する平成14年11月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があり,その余はいずれも理由がなく,乙事件についての控訴人の請求は,いずれも理由がない。 よって,控訴人の控訴に基づき,原判決主文第1項を掲記主文第1項のとおり変更し,控訴人のその余の控訴及び被控訴人の附帯控訴についてはいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 高野輝久 |
裁判官 | 佐藤達文 |