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関連ワード 周知表示混同惹起行為(2条1項1号) /  顧客吸引力(グッドウィル) /  周知性 /  広く認識 /  需要者 /  商品等表示 /  混同のおそれ(混同) /  誤認混同 /  模倣 /  営業方法 /  差止請求(差止) /  代理人 /  代表者 /  混同のおそれ(混同) /  品質等誤認表示(誤認) / 
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事件 平成 15年 (ワ) 24414号 不正競争防止法に基づく差止請求事件
原告 株式会社シガドライセンター
同訴訟代理人弁護士 松江康司
同訴訟復代理人弁護士 須賀一晴
被告 株式会社ママショップ加納
同訴訟代理人弁護士 船橋茂紀
同 石川雅子
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2004/12/10
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の請求
被告は,商品(原告の製造又は販売に係る商品を除く。)を販売,譲渡又は貸与するに際し,「スーパーフレックス」の名称を使用してはならない。
事案の概要
1 原告は,天然ゴム製でかつ表面をラミネート加工したベッドマット(以下「原告製品」という。)を開発し,「スーパーフレックス」の商品名で販売等している。本件は,原告製品の販売代理店である被告が「スーパーフレックス」の名称を使用して原告製品とは別個の天然ゴム製ベッドマット(以下「被告製品」という。)を販売,貸与等していると主張して,原告が被告に対して不正競争防止法3条,2条1項1号に基づき,被告に対し,商品(原告商品を除く。)の販売等に際して「スーパーフレックス」の名称を使用することの差止めを求めている事案である。
2 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定される事実。証拠により認定した事実については,該当箇所末尾に証拠を掲げた。) (1) 原告は,昭和43年11月に設立されたクリーニング,医療介護に関する機器,介護用品の販売を目的とする株式会社である。
被告は,千葉県下を中心にクリーニング業を営む株式会社である。
(2) 原告代表者Aは,平成9年ころ,表面を非透水性の合成樹脂製フィルムで覆ったベッドマットを発明し,同発明について平成9年9月17日に特許出願し,その後,平成11年7月ころまでに,天然ゴム製マットレスに関する発明,体圧分散マットレスに関する発明等をなし,上記各発明について特許出願した(甲1の1ないし5)。
原告は,平成10年ころまでに,天然ゴム製でかつ表面をラミネート加工したベッドマット(原告製品)を開発し,「スーパーフレックス」の商品名で病院にレンタルを開始し,平成11年12月ころには一般家庭向けにもレンタルするようになった(甲11)。
(3) 原告と被告は,平成12年3月ころ,原告製品について,被告を千葉県における販売代理店(後に関東における販売代理店に変更)とする旨の契約(以下「本件販売代理店契約」という。)を締結した。
(4) 被告は,遅くとも平成15年1月ころまでに,原告製品とは別個の天然ゴム製ベッドマット(被告製品,商品名「リリーフケア」)を,スリランカの製造業者に製造させ,これを日本に輸入して,これまで原告製品を納入していた病院等に,レンタルするようになった。
3 争点 (1) 「スーパーフレックス」が原告の商品等表示として周知性を有するか(争点1) (2) 被告が被告製品を貸与等する際に「スーパーフレックス」の表示を使用した事実の有無(争点2) (3) 誤認混同の有無(争点3) (4) 差止めの必要性(争点4)
争点に関する当事者の主張
1 争点1(「スーパーフレックス」が原告の商品等表示として周知性を有するか) (原告) 原告製品の「スーパーフレックス」という商品表示は,原告の商品表示として需要者の間に広く認識されている。
原告は,スーパーフレックスを数多くの展示会に出展して商品の普及に努め(甲22の2,5,6,8,9,11,13),日本褥瘡学会の賛助会員となり(甲22の3,7,19),全国1500以上の病院・老人保健施設等にスーパーフレックスを納入してきた(甲3,22の1)。その他,原告は,スーパーフレックスについて学会誌に広告を掲載している(甲22の19,20)。
(被告) 「スーパーフレックス」の表示が需要者の間に周知であるというためには,スーパーフレックスが原告の商品であることが客観的に広く知られている必要があるが,医療関係者は「シガドライ」という名称も「スーパーフレックス」という名称も知らない。顧客は,「被告のマットレス」という程度の認識をしていたにすぎない。
原告は,周知性の立証資料として甲3(スーパーフレックス取り扱い企業一覧)を提出し,展示会への出展や日本褥瘡学会における紹介等を主張する。しかし,甲3は4年以上前のものであり,同資料に記載された企業で現時点まで原告製品「スーパーフレックス」を取り扱っている企業は2社しかない。また,展示会への出展や日本褥瘡学会での紹介は,需要者が「スーパーフレックス」の表示を認識していることの証明となり得ないものである。
2 争点2(被告が被告製品を貸与等する際に「スーパーフレックス」の表示を使用した事実の有無) (原告) 被告は,被告製品を販売又は貸与する際に,「スーパーフレックス」の表示を使用した。
すなわち,被告は,@原告製品「スーパーフレックス」の納品先に対し,被告製品を販売又は貸与するに当たって,原告製品「スーパーフレックス」のパンフレット等を模倣して作成したパンフレット(甲17,21)を用いてあたかも被告製品が原告製品「スーパーフレックス」と同一の製品であるかのような言動をとり,A原告製品「スーパーフレックス」をデモ使用した結果,原告製品「スーパーフレックス」の納品を申し込んできた顧客に対し,被告製品を原告製品「スーパーフレックス」であるかのように装って納品し,B被告製品について原告製品「スーパーフレックス」と異なるのではないかとの問い合わせを受けた際には,「同一商品です」と答えていた。被告の上記行為は,原告の商品等表示の「使用」に当たる。
また,被告は,原告製品「スーパーフレックス」の販売代理店であり,原告製品と同種製品である被告製品を原告製品「スーパーフレックス」の納品先に納品する場合には,積極的に品物が異なることを説明しない場合には,納品先が,被告製品を原告製品「スーパーフレックス」であると誤認するのは明らかであったから,被告は,両製品が異なる商品であることを明示的に説明すべきであったのにこれをしなかった。かかる状況においては,このような不作為も商品等表示の「使用」に当たるというべきである。
(被告) 被告は被告製品の販売又は貸与にあたって,スーパーフレックスと同一商品ですなどと述べたことはなく,むしろ,被告製品が原告製品以上に優良で安価であることを強調していた(乙5)。
また,被告が被告製品に用いたパンフレット等には,「スーパーフレックス」とは記載されておらず目立つ方法で「リリーフケア」と記載されているのであるから,被告が被告製品を販売又は貸与するに当たって,「スーパーフレックス」という表示を使用したということはできない。
被告が,原告製品のパンフレットに掲載されている写真等を使用して被告製品のパンフレットを作成して使用していたことがあったことは事実であるが,このことをもって,被告が被告製品を販売又は貸与するに当たって「スーパーフレックス」の商品等表示を使用したということはできない。
3 争点3(誤認混同の有無) (原告) 被告の納品先の病院等は,被告製品を原告製品と混同している。
(被告) 原告製品と被告製品では色,厚み(原告製品は青で8.5cm。被告製品は緑で10cm)と一見して違いが明らかであり,各商品に商品名が表示されているのであるから,需要者が両製品を混同するおそれはない。
4 争点4(差止めの必要性) (原告) 被告は,平成15年に,原告が被告を相手方として被告製品販売方法等について,千葉地方裁判所に仮処分(千葉地方裁判所平成15年(ヨ)第174号。平成15年11月28日付で却下決定がなされた。乙7)を申し立てた後,販売方法を変更した。
しかし,上記販売方法の変更の経緯も,当初,新しいパンフレットとして甲21を作成したが,これには,未だ原告製品のパンフレットに掲載されているゴムの木の写真が掲載されていたことから,さらに,乙4を作成するなど,場当たり的である。これまでの被告の行為の悪性や上記のような経緯にかんがみると,被告は,被告製品の販売が低迷してきた際に,スーパーフレックスと同一品又は姉妹品であるなどと称して販売する可能性が高い。
また,被告が,スーパーフレックスの表示を用いて販売した被告製品が医療事故などの発生原因になった場合に,需要者が被告製品と原告製品を混同した結果,原告製品の品質評価に悪い影響が生じるなど,原告に重大な害悪がもたらされるおそれがある。
(被告) 被告は,原告製品のパンフレットに掲載されている写真等を使用したパンフレットを使用する等原告製品と被告製品の相違に疑義が生じるような販売方法を既に止めている。
原告は,上記事実を認めながらも,被告が,またいつ問題のある販売方法を再開するかわからないとして差止めの必要性がある旨主張するが,スーパーフレックスという表示には,何ら顧客吸引力がないからそのような表示に固執する必要性はない。むしろ,被告は,現在,被告製品を原告製品と区別してより優良で安価な商品であると宣伝している。
当裁判所の判断
1 争点1(「スーパーフレックス」が原告の商品等表示として周知性を有するか) (1) 証拠(甲3ないし5,6の1,2,7,8の1,11,22の1ないし14,15の1ないし4,16ないし21)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 平成10年ころから平成16年ころまでの原告の活動状況及び原告製品の広告等は,次のとおりであった。
(ア) 大阪大学医学部保健学科看護学専攻の学生の作成に係る平成10年度の「エアマットレスの褥瘡予防効果の検討ーエアマットレスと4種類のマットレスの体圧・寝心地比較からー」と題する卒業論文に,原告製品は5種類のマットレスの一つとして採り上げられ(論文名では4種類とされているが,実際に実験に用いたマットレスは5種類であった。),接触圧はエアマットレスより優れている等と分析された。ただし,同卒業論文には,「シガ・ドライ製マットレス」又は「シガドライ」と記載されたのみで,「スーパーフレックス」の商品名は記載されていない(甲4)。なお,当該研究結果の一部は,原告に提出されている(甲8の1)。
(イ) 原告は,平成11年11月ころ,日本褥瘡学会の賛助会員になった。(甲22の3,7)。
(ウ) 原告は,平成11年7月から平成15年までの間,毎年2ないし5回の頻度で合計17回,看護フェアや国際モダンホスピタルショウ,日本褥瘡学会等で,原告製品の展示会を開催した。この際,「スーパーフレックス」の表示が掲示された(甲22の2,5,6,8,9,11,13,14,15の1ないし4,16,17)。
(エ) 平成11年12月10日付け産経新聞に,「病院用衛生マットレス一般向け販売開始 シガドライセンター在宅介護に対応」との見出しで,原告製品の一般家庭向け販売の開始を伝える記事が掲載された。なお,当該記事において,「スーパーフレックス」の名称は,見出し等には使用されず,本文の中に1回記載されているだけである(甲11)。
(オ) 大阪厚生年金病院において,原告製品の使い心地アンケートが実施され,平成12年6月6日ころアンケート結果が提出された(甲5)。
(カ) 平成13年ころ,日本褥瘡学会誌や第9回京都府老人保健施設大会の大会誌に原告製品の広告が,「スーパーフレックス」の表示を用いて掲載された(甲22の19,20)。
(キ) 原告及び原告製品は,平成13年8月21日に開催された全国介護老人保健施設東京大会「福祉・医療機器展 東京21」のガイドブックに掲載された(甲22の21)。この際,「スーパーフレックス」の名称も掲載された。
(ク) 日本食品分析センターは,平成14年9月11日,アプリード株式会社の依頼により,原告製品の抗菌力試験を実施し,ポリエチレンフィルムに比して抗菌効果が大きい旨の実験結果の報告書が作製された(甲6の1,2)。
(ケ) 北里大学名誉教授Bは,原告代表者の依頼で原告製品について研究を始め,平成14年4月19日付けの「クリーニングと公衆衛生に関する研究報告書」と題する論文において,原告製品について,抗菌性に優れている旨を記載した。ただし,同論文では,「シガドライスーパーマットレス」とのみ記載され,「スーパーフレックス」の名称は記載されなかった(甲7)。
(コ) 平成14年度の福祉機器企業要覧に原告が掲載されており,その取扱品目・製品名として「スーパーフレックス」の名称が掲載されている(甲22の10)。
(サ) 原告製品は,平成15年7月11日付のシルバー新報に広告付きで紹介されている(甲22の18)。
(シ) 原告製品の納入先は,平成16年4月現在で,全国で1500施設,関東圏で約200施設ほどである(甲22の1)。
(ス) 日本褥瘡学会理事長のCのホームページには汎用タイプマットレスの分類がなされており,その中の「天然ゴム系」の箇所には原告製品の商品名及び原告の会社名が記載されている(甲22の4)。
(セ) 保健・医療・福祉のWeb Expo2004のアクセスログレポートによると,平成16年2月20日から同年3月19日までの間,原告ないし原告製品関係のホームページにアクセスしたユーザーは,のべ102人であった(甲22の12)。
イ 原告は,平成12年5月30日現在,原告製品について,関東においては被告を含む6社と,その他の地域においては,12社と,それぞれ販売特約店契約を締結していた(甲3)。
被告は,原告製品の販売特約店として,平成12年3月ころから千葉県内の病院等に対し,その後は,関東圏の病院等に対し,甲2の原告製品のパンフレットを利用するなどして,「スーパーフレックス」の表示を用いて原告製品を貸与等した。
(2) 商品表示が需要者の間に広く認識されているかどうかは,当該商品の種類,取引実態,宣伝活動の態様等を総合的に勘案して判断するのが相当である。
本件における原告製品及び被告製品は,ベッドマットであり,主に病院や要介護者が居住する一般家庭向けに,販売店を通じて販売又は貸与されている。
原告は,前記(1)のとおり,原告製品の宣伝活動として,大学関係者等に依頼して原告製品の品質分析データ等を収集するとともにその結果を文献等に発表させ,販売代理店を通じてパンフレット(甲2)を配布し,その他,病院が参加する学会や介護用品の展示会に参加し,一般家庭向けには,一般家庭向けにレンタルを開始することについて,プレス発表を1回実施するなどした。さらに,原告は,関東圏において約200件の病院に原告製品を納入している。
しかし,上記のような宣伝活動において,大学関係者等の論文発表では「シガ・ドライ製マットレス」等と記載されるにとどまり,「スーパーフレックス」の名称が記載されておらず,プレス発表の際も,これに対応する新聞記事中には「スーパーフレックス」の名称は見出しに使用されておらず,本文中に1回使用されているにすぎないなど,必ずしも,「スーパーフレックス」の表示に重点をおいた宣伝がなされていなかったことが窺われる。また,原告製品のようなマットレスは,耐久年数が比較的長いことから,取引は数年に1度程度であると推認され,また,使用期間中もシーツに覆われており,関東圏において200件の病院に納入実績があるとしても,「スーパーフレックス」の表示が使用者等の目に触れることは少ないものと認められる。
(3) 上記のような事情を総合すれば,「スーパーフレックス」が,原告の商品等表示として需要者の間で広く認識されているとまでは認めるに足りない。
2 争点2(被告が被告製品を貸与等する際に「スーパーフレックス」の表示を使用した事実の有無) (1) 証拠(甲2,10,15,16の1,2,17,19,21,23,乙4,7,15ないし17,18の1ないし5,24の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 被告は,遅くとも平成15年1月ころまでに,被告製品を,スリランカの製造業者に製造させ,これを日本に輸入して,これまで原告製品を納入していた病院等に,貸与等するようになった。
被告製品は,緑色で厚さは10cmであり(原告製品は青色で8.5cm),その側面には「リリーフケア」と商品名が表示されている(甲10)。
被告は,被告製品の営業に用いるパンフレットを作成したが,その際,原告製品のパンフレット(甲2,18)に掲載された写真や実験データ,グラフ,イメージ写真等をそのまま掲載した。なお,上記被告製品のパンフレットには「リリーフケア」と明記されており,「スーパーフレックス」の表示は記載されていない(甲17)。
イ 医療法人社団光仁会第一病院事務局長Dは,同年6月2日,原告に対し,説明していたものと実際に納入されたものが違っていた旨の苦情及び商品の交換を求める書面を提出した(甲16の1,2)。
ウ 原告は,同年6月ころ,被告を相手方として,千葉地方裁判所に「スーパーフレックス」の名称の使用差止めを求める仮処分を申立てた(千葉地方裁判所平成15年(ヨ)第174号。乙7)。
エ 被告代表者Eは,同年7月23日付で,東京厚生年金病院理事長に宛てて「弊社としましては『リリーフケア』の商品的優位性についてご了解頂いた上で『リリーフケア』を採用していただいたものと考えておりましたが,弊社の販売員の説明に至らない点があり,その結果として貴病院に多大なるご迷惑をお掛けいたしましたとのことですので,重ねてお詫び申し上げる次第です。」旨記載して,納品した被告製品と原告製品を交換する,または,全商品について契約解除するなどいずれの要望も受け容れる旨の書面を提出した(甲19)。
オ 被告は,原告から上記仮処分の申立てがされた後,被告製品の販売方法を見直し,同年8月には,被告製品のパンフレットを原告製品のパンフレットで使用しているデータや写真等を用いないものに作り替えた。
また,同年11月11日付けで,千葉地方裁判所の仮処分手続において,原告製品と被告製品との間に疑義が生じないよう徹底する旨の誓約書を提出し,同日付で「原告製品と被告製品が別商品であることを十分に説明することなく納品したことによりお客様から誤解を受けたケースがあること,今後は,原告製品と被告製品の違いを十分に説明する必要がある」旨記載した書面を,被告メディカル事業部の営業担当各位に配布した(甲21,乙4,16,17,24の1ないし3)。また,被告社員F,G,H,I,Jは,同日付で,被告代表者に対し,原告製品と被告製品の違いについて十分に説明し,誤解を生じさせない旨の誓約書を提出した(乙18の1ないし5)。
(2) 上記のとおり,平成15年1月ころから同年7月ころまでの間,被告が,被告製品を販売する際に原告製品のパンフレット(甲2,18)に掲載された写真や実験データ,グラフ,イメージ写真等をそのまま掲載したパンフレットを用いた事実は認められるが,原告が主張するように,「スーパーフレックス」の表示を用いて被告が被告製品を販売した事実は認められない。
原告は,被告が原告製品の販売代理店である以上,原告製品と同種の競合商品を販売する場合には,当該競合商品が原告製品ではないことを積極的に説明する作為義務があり,被告は被告製品の販売に当たって,被告製品が原告製品ではないことを説明していないから,当該不作為をもって不正競争防止法2条1項1号の「使用」行為というべきであると主張する。
たしかに,営業行為が同号にいう「使用」に該当するかどうかを判断するに当たっては,営業行為の具体的内容のみならず,営業行為のなされた具体的状況や経緯等をも考慮する必要があるが,本件においては,被告が被告製品の貸与等を原告主張のような状況,態様で行った事実を認めるに足りる証拠はない。
前記(1)イに記載のとおり,医療法人社団光仁会第一病院事務局長Dが,同年6月2日,原告に対し,説明していたものと実際に納入されたものが違っていた旨の書面を提出しているが,簡易な書面である上,内容が抽象的であり,かかる書面のみから原告が主張するような営業経緯を認定することはできない。また,原告は,被告の元従業員であったK(以下「K」という。)及びLの陳述書を提出するが(甲14,20,24),両者の内容は食い違っており(Kの陳述書には,「従来どおり原告製品の営業を行っていたところ,平成15年1月ころ,自らが担当する病院に納品したマットレスの中に原告製品ではない商品が混入していたことがあり,また,そのころ,自らが担当していない病院で,原告製品ではない商品が納入されていた旨の苦情があったことから,自発的に自らが営業した医療法人社団光仁会病院及び愛世会愛誠病院に納品した商品を調査したところ,各1枚ずつ被告製品が納品されていた」旨記載されているが,Lの陳述書には「平成15年1月ころ,被告から,今後被告製品を販売するように指示されて,その後,商品の一切を被告製品にした」旨記載されており,被告製品の納品について会社から指示があったか否か,納品する枚数等について大きく食違っている。),それぞれ,裏付けとなる客観的な証拠もなく,信用することができない。さらに,原告は,原告代表者の陳述書も提出するが(甲15,23),これを裏付ける客観的証拠はない。また,被告代表者が,東京厚生年金病院理事長に対し,被告製品について販売員の説明に至らない点があった旨の謝罪文書を提出している事実が認められるが,同病院への被告製品納入経緯については,被告従業員F作成の書面(乙15)が提出されており,同書面によれば,同病院への営業は,Fが同病院の会計担当のM(以下「M」という。)に対して行ったこと,Fは,「被告製品が原告製品と異なり,被告作成の新商品であること,原告製品より厚いため体圧分散効果が優れているにもかかわらず,原告製品と同じ価格であること,不都合があった場合には直ちに交換する」旨の説明を行い,Mは,当初,前回と同じ商品でないと困る旨述べていたが,Fの説明を聞いて,看護部に電話で確認した上,問題があれば直ちに交換する旨を念をおした上で納品したと認められる。乙15の内容は,具体的であり,甲19の内容とも矛盾しないから,信用することができる(被告は,被告製品を原告製品と異なる色,厚さの製品に仕上げ,被告製品に「スーパーフレックス」とは全く異なる「リリーフケア」という商品名をつけて表示しているのであるから,被告が,原告の主張するような販売方法を採用していたとは考え難い。)。
(3) 上記のとおり,被告が被告製品を貸与等する際に「スーパーフレックス」の表示を使用した事実は認めるに足りない。 3 争点4(差止めの必要性) 上記のとおり,被告が,被告製品を販売するに際して「スーパーフレックス」の表示を使用していたとは認められない(なお,被告製品のパンフレットについては,原告主張のとおり,当初,原告製品のパンフレットに掲載された写真や実験データ,グラフ,イメージ写真等をそのまま掲載したパンフレットを使用し,その後変更したパンフレットには原告製品のパンフレットに掲載してある写真の一部が残っており,さらに変更して独自のパンフレットを作成した経緯が認められるが(甲21,乙4),上記のような事実に鑑みれば,被告が,今後,被告製品の販売に際して「スーパーフレックス」の表示を使用するおそれがあるとはいえない。また,前記2(1)オ記載のとおり,被告は,現在,独自のパンフレットを作成して営業しており,営業方法においても,被告製品が原告製品と異なる商品であることを丁寧に説明するよう指導し,従業員が宣誓書を作成している。
したがって,本件については,差止めの必要がないことも明らかである。
4 以上によれば,「スーパーフレックス」の名称が原告の商品等表示として需要者の間で広く認識されていると認めるに足りないし,加えて,被告が被告製品を販売するに際して「スーパーフレックス」の表示を使用していた事実も認められないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 古河謙一
裁判官 吉川泉