運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ワ23171損害賠償等請求事件 判例 不正競争防止法
平成18ワ14569不正競争行為差止請求事件 平成18ワ20189損害賠償請求事件 判例 不正競争防止法
平成17ワ27477損害賠償請求事件 平成18ワ7539損害賠償請求事件 判例 不正競争防止法
平成17ワ2682損害賠償請求事件 判例 不正競争防止法
平成17ワ4418損害賠償請求事件 判例 不正競争防止法
関連ワード 差止請求(差止) /  営業上の利益 /  代理人 /  代表者 /  秘密保持義務 /  営業秘密 /  2条1項4号 /  2条1項7号 /  営業誹謗行為(2条1項14号) /  競争関係 /  虚偽の事実 /  損害賠償 /  営業上の信用 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 20年 (ネ) 10006号 損害賠償等請求控訴事件
控訴人グレートインフォメーション株式会社
訴訟代理人弁護士工藤勇治
同 田中敏夫
同 西口徹
同 横山康博
同 安部井上
同 川上詩朗
同 杉浦正敏
同 茶谷豪
被控訴人株 式会社テレパーク
訴訟代理人弁護士柏木薫
同 松浦康治
同 今井浩
同 柏木秀一
同 福井琢
同 黒河内明子
同 小林利男
同 古屋正典
同 黒田貴和
同 遠山秀
同 山縣敦彦
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/06/24
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
全容
第1控訴の趣旨1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人に対し,1億2000万円及びこれに対する平成17年12月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被控訴人は,別紙文書内容目録記載の各内容を含む文書を頒布してはならない (ただし,原判決別紙文書内容目録1.に「本件特許」とあるのを 「特願 。 ,平11-248617号及び特願2001-361236号の特許出願に係る発明」と訂正する )。
4訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
5第2項につき仮執行宣言第2事案の概要及び争点に関する当事者の主張(原判決の略語表示は当審においてもそのまま用いる )。
1事案の概要本件は,控訴人(原審原告。以下「原告」という )が,被控訴人(原審被 。
告。以下「被告」という )に対し,( )被告が原告の営業秘密を不正に使用し 。
1た行為が原被告間の秘密保持契約等に違反するとともに,不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為に当たり(下記?@ないし?C ,( )被告が原告と競合す )2るサービスを開始する意図を秘して原告の営業秘密の開示を受けた行為が不正競争防止法2条1項4号の不正競争行為に当たるとともに,情報の詐取として不法行為に当たり(下記?D,?E ,( )被告が原告と競合するサービスを開始す )3る意図を秘して秘密保持契約を合意解除して業務提携交渉を打ち切った行為が継続的な契約関係の不当な破棄として不法行為に当たり(下記?F ,( )被告が )4文書を配布して虚偽の事実を告知した行為が不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に当たるとともに,原告の信用を毀損する不法行為に当たる(下記?G,?H)と主張して,損害賠償金の一部として1億2000万円の支払及び上記虚偽の事実を記載した文書の配布の差止を求めた事案である。
, ( ) 原判決は ?@ 不正競争防止法2条1項7号所定の不正競争の成否について被告において,本件営業秘密(技術上,営業上の秘密情報)を使用したことを認めるに足りる証拠はなく,不正競争防止法2条1項7号所定の不正競争があったものと認めることはできず,この主張に基づく原告の請求は理由がない,?A(本件秘密保持契約違反の成否について)被告において本件営業秘密を使用したことを認めるに足りる証拠はないから,被告において本件営業秘密に包含される本件秘密保持契約(原告と被告が平成16年2月16日ころ同日付け秘密保持契約書(甲8)によって締結した秘密保持契約)上の本秘密情報(株式会社ココストア並びに九州コンビニエンスシステムズ株式会社におけるバーコード・タッチパネルによるプリペイドカードのカードレス発券事業に関する事業提携の可能性につき検討を行うために開示された情報)を本件被告サービス(カードレスプリペイドサービス)のために目的外使用したことを認めることはできず,被告が本件秘密保持契約に違反したとの主張に基づく原告の請求は, ( ) 理由がない ?B 原被告間の黙示の合意に基づく守秘義務違反の成否について原被告間に,本件秘密保持契約上の本秘密情報に該当しない本件営業秘密についても被告が本件秘密保持契約と同様の守秘義務に服するという黙示の合意が成立したことを認めるに足りる証拠はなく,原被告間の黙示の合意による守秘義務違反の主張に基づく原告の請求は理由がない,?C(本件売買基本契約違反の成否について)被告が本件売買基本契約(原被告間で平成17年2月15日ころ,平成16年12月1日付け商品売買基本契約書(甲50)によって締結された商品売買基本契約)上の秘密保持義務その他の義務に違反したことを認めることはできず,本件売買基本契約違反の主張に基づく原告の請求は理由がない,?D(不正競争防止法2条1項4号所定の不正競争の成否について)被告, , による本件秘密保持契約の締結が 原告の有する本件営業秘密を不正に取得し将来自らが行う同種サービスにこれを使用することを目的としたものであるとは認めることができず,被告が架空の事業提携を持ち出し,原告から本件営業秘密を詐取したとの不正競争防止法2条1項4号に基づく原告の主張は理由がない,?E(情報の詐取としての不法行為の成否について)被告が本件営業秘密を使用したことを認めるに足りる証拠はなく,情報の詐取による不法行為の主張に基づく原告の請求は理由がない,?F(継続的な契約関係の破棄としての不法行為の成否について)被告に競業の意図があったとしても,被告が本件秘密保持契約を原告と合意して終了させ,原告との事業提携交渉を打ち切ったことが違法であるということはできないから,原告の継続的契約の破棄としての不, , 法行為の主張は採用することができず これに基づく原告の請求は理由がない?G(不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争の成否について)被告が平成17年4月28日,サークルKサンクスのAに,原告による本件先行特許出願及び本件特許出願について特許性がなく,特許査定がされる見込みがない旨記載された本件文書( プリペイドPINデータ販売における商材・商流・ベ 「ンダー選定に関します件」と題する文書,甲10)を手渡したことは,少なくとも本件先行特許出願について,競争関係にある原告の営業上の信用を害し得る虚偽の事実の告知であったものと認められるが,本件先行特許出願については既に特許登録がされているため,特許登録される見込みがないとの本件文書と同趣旨の記載をした文書を第三者に配布するおそれは認められず,したがって本件先行特許出願に関する本件文書の頒布行為の差止請求は理由がなく,また,被告による本件文書の交付が原告の営業上の利益を害し,原告に具体的な損害を与えたものと認めることはできないから,損害賠償請求も理由がない,?H(信用毀損としての不法行為の成否について)被告による本件文書の交付によって,原告の社会的評価を低下させたとの損害を生じたことを認めることはできない,として,原告の請求をいずれも棄却した。
原告は,原判決を不服として,本件控訴を提起した。
2前提となる事実及び本件における争点次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の「1前提となる事実等」ないし「2本件の争点 (原判決2頁2」5行〜11頁1行)記載のとおりであるから,これを引用する。
( )原判決9頁9行目の後に行を改めて次のとおり加える。
1「ケ請求項の数7」( )原判決10頁16行目の後に行を改めて次のとおり加える。
2「( )本件先行特許権については,平成19年8月8日,株式会社ローソ 8ンが無効審判を請求したが,特許庁は,平成20年3月24日,本件先行特許権に係る特許の請求項1ないし7に係る発明についての特許を無効とするとの審決をした(乙23」)。
3争点に関する当事者の主張(当審における当事者の補足的主張を含む )。
次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「3争点に関する当事者の主張 (原判決11頁2行〜48頁23行)記載のとおりである 」から,これを引用する。
( )原判決22頁21行目の後に行を改めて次のとおり加える。
1「 )本件では,原告から直接本件営業秘密の開示を受けたE自身が,被告 qによるカードレスプリペイドサービスの開始に携わっている。また,新規事業に参入するか否かを判断するためには,売上,コスト,利益等を試算し,市場の競争環境,新規開拓の余地などを検討するマーケティング分析をしなければならないところ,その際,既に同一のサービスを開始していて参入後は直接の競争相手となる原告の販売実績や商品別の利益率,コンビニエンスストアチェーンとの交渉状況などを現に知っていながら,これらを一切判断の材料とせずにマーケティング分析を行うことはあり得ない。さらに,被告が提供しているカードレスプリペイドサービスのシステムを初めから開発するには数か月の期間を要するはずであるところ,Eが 「被告はカードレスプリペイドサービスを開始する ,平成17年春ころまで一切システム開発を行った事実はない」と証言する一方で,被告は,平成16年12月までにイ号システム,ロ号システムを策定しており,被告がイ号システム,ロ号システムを策定することができたのは,本件営業秘密を目的外に使用したためである。これらの事情に照らすと,仮に,本件営業秘密が,それらを使用しなければ被告が提供しているカードレスプリペイドサービスを構築することが絶対に不可能であるというものではないとしても,被告が本件営業秘密を被告が提供するカードレスプリペイドサービスのために使用したことは明らかである 」。
( )原判決28頁20行目の後に行を改めて次のとおり加える。
2「 )原告は,本件営業秘密の内容を具体的に特定していないし,本件営業 q秘密の開示を受けたEらの本件営業秘密の使用行為につき何ら具体的な事実を主張していない。
Eは 「被告はカードレスプリペイドサービスを開始する平成17年 ,春ころまで一切システム開発を行った事実はない」と証言したことはなく 「サーバ開発前にイ号システム及びロ号システムを設定した」旨を ,述べたにすぎない。イ号システム及びロ号システムは,シンプルな仕組みであって,当業者であればこれを容易に設定することができる。被告は,原告から得た何らかの秘密情報又は営業秘密を使用してイ号システム及びロ号システムを設定したものではない 」。
( )原判決37頁18行目の後に行を改めて次のとおり加える。
3「 )サークルKサンクスがカードレスプリペイドサービスを開始するに当 gたり,既に導入していたウェルネット社の「ケータイ決済」のシステムを利用することは当初から決定されていたことであり,それ自体は,PINコードの仕入窓口を被告に一本化することの理由とはならない。そして,サークルKサンクスと原告の関係は良好であったこと,PINコードの仕入窓口を被告に一本化することは被告の利益にはなるがサークルKサンクスの利益にはならないこと,サークルKサンクスは携帯電話のPINコード以外の商材の仕入先を原告にする旨決めていたことからすると,PINコードの仕入窓口を被告に一本化する話は,サークルKサンクスの方から被告に持ちかけたものではなく,被告が原告を外して利益を独占するためにサークルKサンクスに働きかけたことによるものである。
Fは原告の担当者として被告との窓口業務を行っており,退職前に被告に開示された営業秘密をすべて知っていた。Fは契約社員として被告に雇用され,契約社員の採用権限はEが有していたこと,Fは被告への入社後短期間内に正社員になったこと,被告がFの採用を原告に秘匿していたことに照らすと,被告は,EがFに対して被告への入社を勧誘した平成16年9月の時点で,カードレスプリペイドサービスを開始する意図を有していたものである。したがって,被告が平成16年9月以降原告から情報の開示を受けたことは,情報の詐取に当たる 」。
( )原判決40頁7行目の後に行を改めて次のとおり加える。
4「 )原告代表者とサークルKサンクスの担当者であるAとの間に密接な関 e係があったとしても,サークルKサンクスと原告の関係が良好であったとは直ちにはいえない。PINコードの仕入窓口を被告に一本化することは,サークルKサンクスの利益にもなることであり,また,サークルKサンクスが携帯電話のPINコード以外の商材を原告から仕入れることとは関係がない。
原告がFが知っていたと主張する原告の営業秘密は特定されていないし,被告がFを正社員でなく時給制の契約社員として雇用したことは,被告が原告の情報を詐取する目的でFを雇用したことと相容れないから,被告が,Fに被告への入社を勧誘した平成16年9月の時点でカードレスプリペイドサービスを開始する意図を有していたことはない。
() , 被告が平成16年9月以降に原告から開示を受けた情報 甲28 は単に,原告と被告が事業提携を行うこととなった場合に予定される将来の費用・収益の分配条件を商品別に示したものであり,原告が被告に対して原告の希望を告知・提案したものにすぎず,上記情報の内容及び送付の趣旨に照らせば,被告がこれを取得したことにより不法行為が成立することはない。
Fが被告に入社したのは平成16年11月1日であるが,正社員となったのは1年8か月後の平成18年7月1日付けであり,所定の手続に沿ってFの能力と資質を評価した結果,Fは被告の正社員となったものである。
Fは,カードレスプリペイドサービスのシステム開発ではなく営業に携わっていたにすぎず,また,原告が被告に開示した情報はもともと限られたものであった 」。
( )原判決40頁10行目の冒頭に「 )」と加える。
5 a( )原判決40頁24行目の後に行を改めて次のとおり加える。 6「 )被告は,既に単独でカードレスプリペイドサービスを開始していた原 b告に共同事業を持ちかけ,ほぼ一方的に情報の開示を受け,見込み顧客に対して共同事業であることをアピールして営業活動を行っていた。ところが,被告は,本件秘密保持契約の効力が存続し,サークルKサンクスに対して共同事業として売り込みを行っている最中であるにもかかわらず,原告に何ら断ることなく,サークルKサンクスに対してカードレスプリペイドサービスを採用させるための交渉を行っており,カードレスプリペイドサービスに関する事業を開始していた。そして,被告は,サークルKサンクスから,PINコードの仕入窓口を被告に一本化するという連絡を受けると,それを秘した上で原告に本件秘密保持契約の終了を持ちかけ,原告との事業提携交渉を打ち切った。被告は,サークルKサンクスから単独でPINコードの仕入を受注できなければ原告との共同事業を継続しようとする意図を有していたため,カードレスプリペイドサービスを開始する意思をもった後も直ちには本件秘密保持契約を終了することはなかった。被告は,単独で受注できるという確信を得た, 。, 後になって ようやく本件秘密保持契約を終了させるに至った 原告は仮にこのような事情を知っていたならば,本件秘密保持契約の終了に合意することはなかった。
原告と被告の継続的な契約関係は,本件秘密保持契約書に定められた「株式会社ココストアならびに九州コンビニエンスシステムズ株式会社におけるバーコード・タッチパネルによるプリペイドカードのカードレス発券事業」に関する「事業提携の可能性につき検討を行うこと」という目的を超えて,ココストアについては本件売買基本契約を締結し,サークルKサンクスにも共同で売込みをしていた。このような経緯に照らすならば,本件秘密保持契約は,被告が競業行為を行わない趣旨と解するのが自然であり,終了後3か月が経過すれば,当然に本件営業秘密を自由に使用して単独で競合事業を始めることが許される趣旨と解することはできない。したがって,被告が本件秘密保持契約を発端とする継続的契約関係を破棄してカードレスプリペイドサービスを開始した行為は,不法行為を構成する。
被告は,原告のビジネスに関心があるように装って共同事業を持ちかけておきながら,他方で自ら単独で同一のビジネスを計画し,原告から情報を取り,更には担当者も引き抜くなどして準備を整えた上で,その事実を秘したまま共同事業を一方的に破棄した。しかも,共同事業を破棄するや,それまで一緒に営業活動を行っていたサークルKサンクスに虚偽の本件文書を送るなどして被告の信用を毀損したものであり,被告の一連の行為は,ビジネスの世界における信義誠実の原則を逸脱するものである。
( )原判決40頁26行目の冒頭に「 )」と加える。
7 a( )原判決41頁7行目の後に行を改めて次のとおり加える。 8「 )本件秘密保持契約は競業避止義務を当事者に課していないから,被告 bがカードレスプリペイドサービスを開始することは,不法行為を構成しない 」。
( )原判決42頁15行目の後に行を改めて次のとおり加える。
9「 )本件文書を被告から交付されたサークルKサンクスがその内容を鵜呑 cみにすることがなかったとしても,本件文書は,一見して虚偽であることが明らかなものではなく,弁理士による鑑定書を引用したもっともらしいものであって,本件文書を被告から交付されたサークルKサンクスも,原告に対する疑念を生じ,原告に対して事実確認をしたから,被告が本件文書をサークルKサンクスに交付したことにより,原告の営業上の利益は害され,原告に具体的な損害が生じた。
本件文書に記載された事項は,本件先行特許出願及び本件特許出願の登録可能性に関するものであり,被告が弁理士に依頼して作成した鑑定書の鑑定事項である,イ号システム,ロ号システムがそれらの出願に係る発明の技術的範囲に属するか否かということとは無関係である 」。
( )原判決43頁25行目の後に行を改めて次のとおり加える。
10「 )本件文書の主眼は,特許出願をしていることを理由に原告に対して便 d宜を図る必要はないという結論部分にあること,本件文書は,原告が特許出願の存在を理由にサークルKサンクスに対して行っていた営業上の働きかけに対する牽制として交付されたものであること,本件文書は,イ号システム及びロ号システムが本件先行特許出願に係る発明の技術的範囲に属さないという弁理士の意見書を前提として作成されたこと,本件先行特許出願に係る特許については,設定登録がされたが,進歩性がないとの理由で無効審決がされたことからすれば,本件文書に記載された事実は,原告の営業上の信用を害するおそれがあるということはできない。また,サークルKサンクスのAから本件文書の内容について真偽を尋ねられた原告代表者が,Aに対し,それが真実でない旨を説明し,99.9%という数字などについて互いに笑ったというのであるから,被告が本件文書を原告に交付したことによって原告に具体的な損害が発生したことはない 」。
第3当裁判所の判断当裁判所も,原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却すべきものと判断する。
その理由は,次のとおり訂正付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3当裁判所の判断 (原判決48頁24行〜64頁11行)に記載の 」とおりであるから,これを引用する。
1( )原判決55頁14行目の後に行を改めて次のとおり加える。
1「もっとも,Eは,原告から本件営業秘密の開示を受けた後の時期に本件被告サービスの開始に携わっていた(乙17,22,証人E 。また,一 )般的に,新規事業に参入するか否かを判断するために,売上,コスト,利益等を試算し,市場の競争環境,新規開拓の余地などマーケティング分析をする場合のあることは否定し得ない。
しかし,前記のとおり,本件営業秘密中の営業に関する情報のうち,契約条件や商品別販売手数料率・利益率などの情報は,契約の当事者により変動するものであり,また,原告は既にカードレスプリペイドサービス事業を開始しているのに対し,被告は事業への参入の可否を検討している段階であって状況が異なることや,原告と被告とでは,会社の規模,経営状態,経済的環境,顧客との関係,事業展開の予定等において大きく異なるなどの諸事情を考慮すると,原告の販売実績や商品別の利益率,コンビニエンスストアチェーンとの交渉状況などの情報は,それ自体が,被告にとって,マーケティング分析を行う際に,常に必要な情報であるとまで解することはできない。
上記の事実,及び被告が,既に,カードレス方式ではないもののプリペイドサービス事業を実施して,ある程度の知識経験を持っていたものと考えられることに照らすならば,原告から本件営業秘密の開示を受けたEが本件被告サービスの開始に携わることによって,原告の販売実績や商品別の利益率・コンビニエンスストアチェーンとの交渉状況などを知ったとしても,そのような情報を活用することなく,マーケティング分析を行うことは十分あり得るといえる。したがって,原告の主張は採用することができない。また,被告が原告から開示された営業秘密のうち,どの部分をどのように使用したかについていずれも具体的な主張立証があるとはいえない以上,被告が本件営業秘密を本件被告サービスのために使用したと認めることはできない。
さらに,乙5の1,2及び弁論の全趣旨によれば,弁理士による鑑定の対象となったイ号システム,ロ号システムは,POSレジを用いたプリペイドサービスの構成の概要を抽象的に示したにとどまるものであり,その内容に照らすと,当業者であれば,その作成にはそれほど多くの時間を要しないものであると認められ,平成16年12月の時点で上記のイ号システム,ロ号システムが作成されていたとしても,そのことから,イ号システム,ロ号システムや,本件被告サービスに実際に使用されたシステムの作成のために本件営業秘密が使用されたものと認めることはできない 」。
( )原判決58頁22行目の後に行を改めて次のとおり加える。 2「( )ア前記( )のとおり,被告は,平成16年12月13日ころ本件覚書 32により本件秘密保持契約を終了させる以前から,原告と事業提携することなくサークルKサンクスのカードレスプリペイドサービスのPINコードの仕入窓口となるために,同社と情報交換を行ったり,同社に営業活動を行っていた。また,PINコードの仕入窓口を被告に一本化することは,被告がPINコードの販売による利益を得られるので,被告にとって利益になるものと認められる。さらに,前記1( )1セのとおり,サークルKサンクスは,実際は最終的に携帯電話のPINコードを被告から仕入れ,それ以外の商材を原告から仕入れることにした。加えて,Eの証言によれば,Fは契約社員として被告に入社し,Eが契約社員の採用権限を有していたことが認められ,Fの証言によれば,EがFの再就職に関して最初にFと接触したのは平成16年9月中旬以降であったことが認められる。
イしかし,被告が本件被告サービスの開始について会社として明確な意思決定をした時期や,本件被告サービスに実際に用いられているシステムの開発を行った時期は明らかではなく,それらが平成16年9月以前であったと認めるに足りる証拠はなく,前記アの事実を考慮しても,被告が同月の時点で本件被告サービスを開始する意図を有していたことは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。したがって,被告が平成16年9月以降原告から情報の開示を受けたことが情報の詐取に当たるという原告の主張は,採用することができない 」。
( )原判決58頁23行目冒頭の「( )」を「( )」と改める。
3 34( )原判決59頁10行目の後に行を改めて次のとおり加える。 4「原告と被告は,カードレスプリペイドサービスの事業提携を検討することとし,平成16年2月16日,本件秘密保持契約を締結し,コンビニエンスストアチェーンに同行して営業活動を行うなどし,被告は原告から本件営業秘密の少なくとも一部の開示を受けた。しかし,被告は,平成16年10月ころ,サークルKサンクスから,既にウェルネットがサークルKサンクスに導入している「ケータイ決済」の仕組みを使ってカードレスプリペイドサービスを行うことを検討している旨の情報を取得し,その後同年12月13日ころ本件覚書によって本件秘密保持契約を終了させるまでの間に,原告と事業提携することなくサークルKサンクスのカードレスプリペイドサービスのPINコードの仕入窓口となるために同社と情報交換を行ったり,同社に営業活動を行っていた。また,被告は,原告においてカードレスプリペイドサービスの営業を担当していたFを,平成16年11月1日付けで採用し,Fは,被告においてもカードレスプリペイドサービス事業に関与していた。そして,原告は,上記の被告によるサークルKサンクスに対する営業活動等やFの転職などの事情を知らされることなく,これらの事情を知らないまま,被告との間の本件秘密保持契約を終了させ,事業提携は成立するに至らなかった。
このような経緯に鑑みると,原告として,事業提携に対する期待が裏切られ,被告のビジネスの進め方が原告の抱いた信頼に背くものと感じるのは無理からぬ面があり,商道徳上,被告の行為に問題があると解する余地のあることは否定し得ない。
しかし,本件秘密保持契約(甲8)には,その目的について,カードレスプリペイドサービス事業に関する原被告間の事業提携の可能性につき検討を行う旨規定されており(第1条 ,本件秘密保持契約の締結により相 )互にカードレスプリペイドサービス事業を行う義務を何ら負うものではないことを確認する旨規定されている(5条)から,本件秘密保持契約を締結することによって被告が事業提携をする義務を負うものではない。そして,その後の経緯に鑑みても,被告が事業提携をする義務を負い,また競業避止義務を負うと認めるに足りる根拠はないし,原告の期待に反して事業提携が成立しなくても,そのことをもって被告の違法行為と認めるに足りる根拠はない。Fについても,原告に対して競業避止義務を負っていたとは認められず,被告がFを採用したことについて,違法と認めるに足りる根拠はない。したがって,この点からしても,原告の継続的契約の破棄としての不法行為の主張は採用することができず,これに基づく原告の請求は理由がない 」。
( )原判決60頁13行目から17行目を次のとおり改める。
5「ア本件文書(甲10)には,本件先行特許出願,本件特許出願の出願後の具体的な審査状況を摘示した上で,これらの特許出願について特許査定や設定登録がされるかどうかについて 「上記2件の特許申請は,審 ,査過程だけを見ても,各々拒絶通知を受け,それに対し補正を入れるという,極めて苦しい状況にあります。また,その補正及び意見書内容に目を向けると,各々刊行物提出書(所謂第三者による情報提供)の存在により,審査官の判断を待たずとも,特許性が無きものであることが誰の目にも明白であります。また,特許事務所からは最も信頼性のある,,, 延べ100頁以上にも渡る特許鑑定書を作成して戴き その内容からも同社の特許申請が取得は99.9%以上と表現出来る程に不可能であること。また,補正・意見書提出が,審査中という実態を営業に生かすための時間引き延ばし策であるとの結論に至りました 」と記載されてい 。
る。特許査定や設定登録がされるかどうかは,特許庁による具体的な処分等がされるまでは明らかでないから,出願の手続や内容が一見して不適法であるような場合は別として,本件のような場合に,特許査定や設定登録がされるかどうかについて見解を述べることは,事実を述べるものではなく,供述者の予想や評価を述べるものであると認められる。したがって,本件文書の上記部分は,本件先行特許出願,本件特許出願について特許査定や設定登録がされる可能性が乏しいという被告による予想や評価を記載したものであり,事実を記載したものではないと認められる。
ところで,本件先行特許出願については,平成18年3月17日に設定登録がされたが(原判決第2,1( ) ,上記のとおり,本件文書は,6 )特許査定や設定登録がされるかどうかについて,その可能性が乏しいことなど被告の予想や評価を記載したものにとどまるから,実際に設定登録がされたとしても,その記載が虚偽の事実であるとは認められない。
そうであるとすると,被告が本件文書をサークルKサンクスに交付したことは,虚偽の事実の告知には該当しないものと認められる 」。
( )原判決61頁12行目から15行目を次のとおり改める。
6「しかし,前記のとおり,被告が本件文書をサークルKサンクスに交付したことは,虚偽の事実の告知には該当しないものと認められるから,競争関係にある原告の営業上の信用を害し得る虚偽の事実の告知があったとは認められない 」。
( )原判決61頁24行目から25行目を次のとおり改める。
7「前記のとおり,本件文書は,本件先行特許出願,本件特許出願について特許査定や設定登録がされる可能性が乏しいという被告による予想や評価を記載したものであり,事実を記載したものではないと認められ,本件先行特許出願について設定登録がされたことを考慮しても,被告が本件文書をサークルKサンクスに交付したことは,虚偽の事実の告知には該当しないものと認められる。しかし,仮に本件文書が,本件先行特許出願に特許性がなく,特許取得の見込みがないとの虚偽の事実を記載したものであるとして,被告が本件文書をサークルKサンクスに交付したことにより原告に損害が生じたか否かについて,更に検討する 」。
( )原判決61頁26行目の冒頭の「しかし 」を削除する。 8 ,( )原判決63頁10行目から11行目にかけての「以上によれば,本件文9書の前記記載は,本件先行特許出願については原告の営業上の信用を害し得る虚偽の事実の告知に当たるものであるものの」との部分を 「以上によれ ,ば,仮に本件文書の前記記載が,本件先行特許出願について原告の営業上の信用を害し得る虚偽の事実の告知に当たるものであるとしても」と改める。
2結論以上によれば,原告の被告に対する本訴請求をいずれも棄却すべきものとし, ,, た原判決は相当であり 本件控訴は理由がないから これを棄却することとし主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 中平健
裁判官 上田洋幸