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関連ワード 印象 /  差止請求(差止) /  営業上の利益 /  侵害 /  代理人 /  代表者 /  品質誤認惹起表示(2条1項13号) /  営業誹謗行為(2条1項14号) /  品質等誤認表示(誤認) /  競争関係 /  営業誹謗 /  虚偽の事実 /  損害賠償 /  損害額 /  営業上の信用 / 
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事件 平成 18年 (ワ) 17459号 品質誤認表示差止等請求事件
高知県吾川郡〈以下略〉
原告株式会社ソフィ 東京都新宿区〈以下略〉
原告株式会社イムニィ・バランス
原告ら訴訟代理人弁護士杉山朝之進 東京都港区〈以下略〉
被告株式会社キャッツドットコム 東京都港区〈以下略〉
被告株 式会社アウレオ東京都港区〈以下略〉
被告X 東京都港区〈以下略〉
被告Y
被告ら訴訟代理人弁護士大熊政一
同 梅田和尊
同 新村響子
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2008/09/30
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
1被告株式会社キャッツドットコムは,別紙目録1記載の各商品について同目録記載の表示をした広告をし,同表示の内容を記載した書籍,雑誌,カタログなどの文書を配布,送付,展示し,口頭や通信で同表示の内容を伝達,表示,流布してはならない。
2被告株式会社アウレオは,別紙目録2記載の各商品について同目録記載の表示をした広告をし,同表示の内容を記載した書籍,雑誌,カタログなどの文書を配布,送付,展示し,口頭や通信で同表示の内容を伝達,表示,流布してはならない。
3被告株式会社キャッツドットコムは,別紙目録3記載の各文書から,別紙目録1記載の表示の部分を抹消し,既に配布した同各文書の同表示の部分を回収せよ。
4被告株式会社キャッツドットコムは,朝日新聞(全国版),日本経済新聞(全国版),健康産業新聞,被告株式会社キャッツドットコム発行の「ねこしんぶん」に,半2段の大きさで,表題ゴシック体,2倍活字,本文ゴシック体,1倍活字の文字で,別紙目録4記載の謝罪広告を各1回掲載せよ。
5被告株式会社アウレオは,朝日新聞(全国版),日本経済新聞(全国版),健康産業新聞,被告株式会社キャッツドットコム発行の「ねこしんぶん」に,半2段の大きさで,表題ゴシック体,2倍活字,本文ゴシック体,1倍活字の文字で,別紙目録5記載の謝罪広告を各1回掲載せよ。
6被告らは,原告株式会社ソフィに対し,連帯して1000万円及びこれに対する平成18年8月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7被告らは,原告株式会社イムニィ・バランスに対し,連帯して2000万円及びこれに対する平成18年8月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 事案の要旨本件は,原告らが,被告株式会社キャッツドットコム(以下「被告キャッツ」という。)及び被告株式会社アウレオ(以下「被告アウレオ」という。)が自社の健康食品を販売するに当たり,別紙目録1及び2記載の各表示をし,かつ,原告らの健康食品との比較広告をしたことが,不正競争防止法2条1項13号の品質誤認表示及び同項14号の虚偽の事実の告知又は流布(営業誹謗行為)に該当するとともに,別件訴訟において成立した裁判上の和解の和解条項に違反するなどと主張して,被告キャッツ及び被告アウレオに対し,同法3条1項に基づき又は和解条項所定の債務の履行として上記各表示をした広告等の差止請求(被告キャッツに対しては同条2項に基づく表示部分の抹消等請求を含む。)を,同法14条に基づき信用回復の措置として謝罪広告の掲載請求を,さらに,被告ら4名に対し,和解条項違反の債務不履行又は同法4条に基づく損害賠償を求めた事案である。
2争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実である。)(1) 当事者及び競争関係ア原告株式会社ソフィ(以下「原告ソフィ」という。)は,黒酵母培養液(アウレオバシジウム培養液)を原料とする健康食品「天慈のしず久」を製造,販売している。
原告株式会社イムニィ・バランス(以下「原告イムニィ・バランス」という。)は,健康食品「天慈のしず久」を,代理店,特約店等を通じて販売している。
イ(ア)被告キャッツは,黒酵母培養液(アウレオバシジウム培養液)を原料とする健康食品「真宝」,同「真宝スペシャル」,同「真宝SS(スーパースペシャル)」,同「真宝EX」及び同「徐福伝説」を,連鎖販売の会員組織を通じて販売している。
被告アウレオは,黒酵母培養液(アウレオバシジウム培養液)を原材料とする健康食品「黒酵母βグルカン」を,代理店を通じて販売している。
(イ)被告Xは,被告キャッツの代表取締役及び被告アウレオの取締役である。
被告Yは,被告キャッツの代表取締役及び被告アウレオの代表取締役である。
(2) 別件訴訟における裁判上の和解ア被告らと原告らほか6名との間で,平成17年2月24日,東京地方裁判所平成16年(ワ)第2050号事件(以下「第1事件」という。)及び平成15年(ワ)第19555号事件(以下「第2事件」という。)において,次の(ア)ないし(ウ)の内容の和解条項を含む裁判上の和解(以下「本件和解」という。)が成立した(甲1)。
なお,原告ソフィは「第1事件・第2事件被告」,原告イムニィ・バランスは「第1事件被告」,被告キャッツは「第1事件原告」,被告アウレオは「第2事件原告」であり,被告X及び被告Yは「利害関係人」として本件和解に参加した(甲1)。
(ア) 「誹謗中傷行為の禁止」被告らと原告らほか6名は,相互に,自ら又は第三者をして,誹謗中傷したり,互いの信用を害する行為をしたり,互いの商品を誹謗中傷する虚偽の事実を告知,流布しない(和解条項第3項前段)。
(イ) 「商品への虚偽の表示の禁止」被告らと原告らほか6名は,それぞれ,自己の商品に虚偽の表示をしない(和解条項第4項)。
(ウ) 「和解金の支払」a原告イムニィ・バランスは,被告キャッツに対し,平成17年3月31日限り,和解金として2000万円を支払う(和解条項第6項(1)(ア))。
b原告ソフィは,被告キャッツ及び被告アウレオに対し(両名の連帯債権),平成17年3月31日限り,和解金として1000万円を支払う(和解条項第6項(2)(ア))。
イ原告らは,平成17年3月31日までに,被告キャッツ及び被告アウレオに対し,前記ア(ウ)の和解条項所定の債務(原告ソフィにつき1000万円,原告イムニィ・バランスにつき2000万円)の弁済をした。
(3) 被告キャッツによる表示ア カタログ被告キャッツは,平成17年10月ころ,被告キャッツ商品の販売,宣伝のため,「真宝シリーズ」と題するカタログ(甲2。以下「本件カタログ」という。)を作成し,被告キャッツの会員等に配布した。
被告キャッツは,本件カタログに,次のような表示(以下「本件表示1」という。)をした(甲2)。
(ア) 商品名「真宝」について(100gあたり) 成分表エネルギー 5kcalタンパク質 0g脂質 0g炭水化物 1.2gナトリウム 18.1mgβ-1,3-1,6グルカン420mg分析試験結果β-グルカン0.42g/100g試験依頼先(財)日本食品分析センター試験成績書発行年月日平成17年7月5日試験成績書発行番号第105064172-002号(イ) 商品名「真宝スペシャル」について(100gあたり) 成分表エネルギー 6kcalタンパク質 0g脂質 0g炭水化物 1.4gナトリウム 15.4mgβ-1,3-1,6グルカン470mg分析試験結果β-グルカン0.47g/100g試験依頼先(財)日本食品分析センター試験成績書発行年月日平成17年6月8日試験成績書発行番号第105052845-001号(ウ) 商品名「真宝SS(スーパースペシャル)」について(100gあたり) 成分表エネルギー 5kcalタンパク質 0g脂質 0g炭水化物 1.1gナトリウム 16.1mgβ-1,3-1,6グルカン600mg分析試験結果β-グルカン0.60g/100g試験依頼先(財)日本食品分析センター試験成績書発行年月日平成16年12月21日試験成績書発行番号第104120469-001号(エ) 商品名「真宝EX」についてタンパク質 0.4g脂質 0g炭水化物 1.8gナトリウム 19.3mgβ-1,3-1,6540mg グルカン乳酸菌1000mg(1袋につき150mg)分析試験結果β-グルカン0.54g/100g試験依頼先(財)日本食品分析センター試験成績書発行年月日平成17年7月5日試験成績書発行番号第105064172-003号(オ) 商品名「徐福伝説」について(100gあたり) 成分表エネルギー29kcalタンパク質 1.0g脂質 0g炭水化物 6.3gナトリウム 127.0mgβ-1,3-1,6グルカン570mg分析試験結果β-グルカン0.57g/100g試験依頼先(財)日本食品分析センター試験成績書発行年月日平成17年7月27日試験成績書発行番号第105071338-001号イ 会員向け情報誌被告キャッツは,平成17年10月ころ,会員向けの月刊情報誌「ねこしんぶん」平成17年11月号(甲3。以下「本件ねこしんぶん」という。)を発行し,被告キャッツの会員等に配布した。
被告キャッツは,本件ねこしんぶんに,下記のような表示(以下「本件表示2」という。)をした。
記<液状βグルカン・商品別比較>「真宝」A社B社C社D社成分名黒酵母培養液 黒酵母培養液 黒酵母培養液シイタケアガリクス抽出エキス抽出エキス糖鎖分子構造β-1,3-1,6β-1,3-1,6β-1,3-1,6不明不明グルカングルカングルカン1箱あたりの価格9,355円14,490円10,290円37,800円50,400円内容量15g×39袋15g×30袋15g×30袋100g×30 100g×30袋袋1袋あたりの価格240円483円343円1,260円1,680円β-グルカン含有量420?r360?r※220?r15?r30?r(100g中)β-グルカン含有量63?r54?r※33?r15?r30?r(1袋中)「※A社のβ-グルカン含有量は一袋あたり六八?rと表示されておりますが,A社の商品を購入して(財)日本食品分析センターにて測定したところ,表示よりも低い数値だったので実際の測定値で比較しました。」「『真宝』は比較した五社の中で最も価格が低く,内容量が多いことでコストパフォーマンスに優れていることがわかります。また,β-グルカンの含有量も他の商品に比べて最も高いことがわかります。」「『真宝』は,コスト面,品質面ともに非常に優れていることがご理解いただけると思います。」「さらに進化した当社の黒酵母培養液を他の製品と比較してみると,『真宝』は品質・コストパフォーマンスの両面において,トップレベルを示しました。」ウ ホームページ被告キャッツは,遅くとも平成20年7月ころから,自社のホームページ(「・略・」。以下「本件キャッツホームページ」という。)に,下記のような表示(以下「本件表示3」という。)をしている(甲30)。
記「人体に対して吸収効率が高いといわれている液状の水溶性の黒酵母βグルカン,代表的な他社βグルカンと,当社商品の中で最もスタンダードな『真宝(まほう)』を比較してみました。当社『真宝(まほう)』が最もβグルカン含有量が多く,コストパフォーマンスに優れていることがわかります。」ジェル状β(ベータ)グルカン・商品別比較『真宝(まほう)』A社B社C社D社成分名黒酵母培養液 黒酵母培養液 黒酵母培養液シイタケアガリクス抽出エキス抽出エキス糖鎖分子構造β-1,3-1,6 β-1,3-1,6 β-1,3-1,6不明不明グルカングルカングルカン1箱あたりの価格9,355円14,490円10,290円37,800円50,400円内容量15g×39袋15g×30袋15g×30袋100g×30袋100g×30袋1袋あたりの価格240円483円343円1,260円1,680円βグルカン含有量420?r320?r※220?r※15?r※30?r※(100g中)βグルカン含有量63?r48?r※33?r※15?r※30?r※(1袋中)「※A社,B社,D社のβグルカン含有量について当社商品と条件をそろえるため,各メーカーが公表している数値ではなく,各メーカーの商品を当社が依頼している分析センターにて測定をした数値を表示しました。(C社は分析センターの検出限界以下なので測定しませんでした。)」(4) 被告アウレオによる表示ア ホームページ被告アウレオは,平成18年8月ころから,そのホームページ(「・略・」,甲5。以下「本件アウレオホームページ」という。)に,下記のような表示(以下「本件表示4」という。)をしている。
記「体内に吸収効率が高いといわれている液状の水溶性β(ベータ)グルカン。代表的な他社βグルカンと当社商品の中でもスタンダードな『黒酵母βグルカン』を比較してみました。」「当社『黒酵母βグルカン』が最もβグルカン含有量が多く,価格も安いことがわかります。」<液状βグルカン・商品別比較>黒酵母βグルA社B社C社D社カン成分名黒酵母培養液 黒酵母培養液 黒酵母培養液シイタケアガリクス抽出エキス抽出エキス糖鎖分子構造β-1,3-1,6グ β-1,3-1,6グ β-1,3-1,6グ 不明不明ルカンルカンルカン価格10,500円14,490円10,290円37,800円50,400円内容量15g×30袋15g×30袋15g×30袋100g×30袋 100g×30袋1袋あたりの価格350円483円343円1,260円1,680円βグルカン含有量420?r320?r※220?r※15?r30?r※(100g中)βグルカン含有量63?r48?r※33?r※15?r※30?r※(1袋中)「※ A社,B社,D社のβグルカン含有量について当社商品と条件をそろえるため,各メーカーが公表している数値ではなく,各メーカーの商品を当社が依頼している分析センターにて測定をした数値を表示しました。(C社は分析センターの検出限界以下なので測定しませんでした。)」イ 業界紙被告アウレオは,CMPジャパン株式会社発行の業界紙「健康産業新聞」第1145号(発行日平成18年4月5日)(以下「本件健康産業新聞」という。)に,「『黒酵母βグルカン』は,製品100g中420?rのβ1,3/1,6グルカンを含有。・・・『βグルカンEX』(100g中β-グルカン540?r含有)等を販売(数値は全て日本食品分析センターの分析値)。・・・」と表示(以下「本件表示5」という。)をした記事を掲載させた(甲6)。
3 争点本件の争点は,本件表示1ないし5は,被告キャッツ又は被告アウレオの各商品の品質について誤認させるような表示(不正競争防止法2条1項13号)に該当するか(争点1),本件表示2ないし4による比較広告(比較表示)は,原告らの営業上の信用を害する虚偽の事実の告知又は流布(同項14号)に該当するか(争点2),原告らの差止請求の可否(争点3),原告らの謝罪広告掲載請求の可否(争点4),被告らが賠償すべき原告らの損害額(争点5)である。
争点に関する当事者の主張
1 争点1(品質誤認表示該当性)について(1) 原告らの主張ア 本件表示1について(ア)本件カタログには,「真宝」,「真宝スペシャル」,「真宝SS(スーパースペシャル)」,「真宝EX」及び「徐福伝説」の各商品について「β-1,3-1,6グルカン」含有量及び「β-グルカン」含有量が表示(本件表示1)されているが,本件表示1は,一般消費者及び被告キャッツの会員等に対し,「β-1,3-1,6グルカン」含有量は財団法人日本食品分析センター(以下「分析センター」という。)の試験成績(分析値)であるかのような認識を抱かせるものであり,その旨の表示をするものである。
しかし,分析センターは,「β-1,3-1,6グルカン」含有量を測定していないから,「β-1,3-1,6グルカン」含有量を分析センターの試験成績(分析値)として表示する本件表示1は,虚偽の表示であって,上記各商品の品質を誤認させる表示である。
(イ)a本件カタログの本件表示1の「成分表(100gあたり)」欄には,「真宝」につき「β-1,3-1,6グルカン420?r」,「真宝スペシャル」につき「β-1,3-1,6グルカン470?r」,「真宝SS(スーパースペシャル)」につき「β-1,3-1,6グルカン600?r」,「真宝EX」につき「β-1,3-1,6グルカン540?r」,「徐福伝説」につき「β-1,3-1,6グルカン 570?r」との表示がある。
しかし,「成分表」欄の上記表示は,β-1,3-1,6グルカンの定量分析成績書などの根拠がない,虚偽の表示であり,上記各商品の品質を誤認させる表示である。
bこれに対し被告らは,「成分表」欄のβ-1,3-1,6グルカン含有量の定量表記は,分析センターによる「β-グルカン」の定量分析と株式会社東レリサーチセンター(以下「東レ」という。)による「β-グルカン」の構造分析の両分析結果を合わせて表記したものであって,虚偽の表示に当たらない旨主張する。
しかし,被告らの主張は,以下のとおり失当である。
(a)一般に,「グルカン」は,グルコースのみから構成される多糖(ホモ多糖)を意味し,「β-1,3-1,6グルカン」は,グルコースの結合様式がβ1↑3,1↑6結合である「グルカン」(ホモ多糖)を意味する(甲16,乙28の2ないし4等)。
そして,分析センターの分析試験成績書の注意書(甲11の3)に,「当センターの分析項目『β-グルカン』はきのこの有効成分といわれるβ-D-グルカンではなく,化学構造的分類に基づくβ-D-グルカンを測定対象としています。したがって,(1,3)(1,6)-β-D-グルカンだけでなく,セルロースやヘテログルカン(ブドウ糖以外の糖を含むグルカン)など,きのこはもとより,多くの天然物に含まれているかなり広範囲のグルカン類を測り込みます。」との記載があるように,分析センターの分析試験項目「β-グルカン」は,ホモ多糖である「β-1,3-1,6グルカン」のみの含有量を示すものとはいえない。
また,東レの結果報告書には,「試料から調製したβ-グルカン画分中に含まれる糖はグルコースが主成分であったが,マンノースも検出された(1559でグルコースの約1/8,AK03008でグルコースの約1/5)。・・・β-グルカン画分中の糖の結合様式は,いずれもβ1↑3結合のグルコースおよびβ1↑3,β1↑6結合のグルコースであることが支持された。」(乙18),「試料から調製したβ-グルカン画分中に含まれる糖はグルコースが主成分であったが,マンノースも検出された(グルコースの約1/6)。・・・β-グルカン画分中の糖の結合様式は,β1↑3結合のグルコースおよびβ1↑3,β1↑6結合のグルコースであることが支持された。」(乙22)との記載がある。
上記記載は,上記β-グルカン画分中に,グルコースのみからなるホモ多糖である「β-1,3-1,6グルカン」由来のグルコースと,グルコース及びマンノースからなるヘテロ多糖である「マンノグルカン」由来のグルコース(マンノースと結合していたグルコース)とが混在していることを示すものである。
そうすると,分析センターによる「β-グルカン」の定量分析と東レによる「β-グルカン」の構造分析の両分析結果を合わせ考慮しても,分析センターが測定した「β-グルカン」含有量にはマンノースと結合していたグルコースをも含むことになるから,分析センターが測定した上記含有量を「β-1,3-1,6グルカン」(ホモ多糖)の含有量として「成分表」欄に表示することは誤りであって,虚偽の表示に当たる。
(b)分析センターの定量分析と東レの構造分析において,分析の対象とする「β-グルカンの画分」の調製方法の原理が同一であったとしても,調製方法の操作自体は同一ではなく,分析センターの定量分析のβ-グルカンの画分と東レの構造解析のβ-グルカンの画分は,全く同じではない。したがって,定量分析と構造分析の結果を合わせて論ずることはできない。
(c)さらに,そもそも定量分析と構造分析の結果を合わせて論ずるのであれば,同一試料を用いなければならないのに,本件表示1の商品「真宝」及び「真宝SS(スーパースペシャル)」については,分析センターの分析試験成績書と東レの構造分析の結果報告書が提出されているが,分析試験及び構造分析の検体に用いられた商品は,同一ではなく,しかも,製造時期も,分析機関も異なるものであり,また,「真宝スペシャル」,「真宝EX」及び「徐福伝説」については,分析センターの分析試験がされているだけで,東レによる構造分析が行われていないから,分析センターが測定した「β-グルカン」の各含有量を「β-1,3-1,6グルカン」含有量として「成分表」欄に表示することは虚偽の表示に当たる。
なお,被告らは,東レの構造分析に用いた検体と分析センターの定量分析に用いた検体とは異なるものであるが,同一の商品であって,その品質は全く同じであるから,同一試料を用いる必要はない,「真宝スペシャル」,「真宝EX」及び「徐福伝説」については分析試験がされていないが,培養時間に違いがあるか又は添加物を加えただけで,β-グルカンの構造は同じである旨主張する。しかし,黒酵母培養液などの微生物を利用した培養及び発酵は,全く同一の培養条件で行われることはありえず,同一培養装置を利用しても,全く同じ品質の製品が製造されることはないことは周知であること,また,乳酸菌の細胞壁に含まれる多糖成分が,β-グルカンとして検出される可能性など添加物によりグルカンの値が変化することを無視するものであり,被告らの主張は失当である。
(d)分析センターは,分析センターの分析結果を広告などに掲載するに当たっては事前に(ゲラ刷りの段階で)掲載の承認を求めているのに(甲7の1ないし3),その承認を得ることなく,本件カタログに分析センターの分析結果である「β-グルカン」含有量の数値を「β-1,3-1,6グルカン」含有量として流用して表示することは許されない。
イ 本件表示2ないし5について本件ねこしんぶんの本件表示2,本件キャッツホームページの本件表示3及び本件アウレオホームページの本件表示4の各比較広告(比較表示)は,分析センターの試験成績を引用し,被告キャッツの商品「真宝」又は被告アウレオの商品「黒酵母βグルカン」が,他社商品よりも,β-1,3-1,6グルカンの含有量が多いことを表示している。
また,本件健康産業新聞の本件表示5は,分析センターの分析値として,被告アウレオの商品「黒酵母βグルカン」の「β-1,3-1,6グルカン」含有量が「100g中420?r」であると表示している。
しかし,本件表示2ないし5における「真宝」及び「黒酵母βグルカン」(「真宝」と商品名が異なる同一商品)の「β-1,3-1,6グルカン」含有量の表示は,前記アと同様の理由により,いずれも虚偽の表示であって,上記各商品の品質を誤認させる表示である。
ウ まとめ以上のとおり,本件表示1ないし5に表示された被告キャッツ及び被告アウレオの各商品の「β-1,3-1,6グルカン」含有量は虚偽であり,本件表示1ないし5は上記各商品の品質を誤認させる表示に該当するから,本件表示1ないし3を表示する被告キャッツの行為及び本件表示4,5を表示する被告アウレオの行為は,不正競争防止法2条1項13号の不正競争に当たる。
(2) 被告らの反論ア 本件表示1について(ア)本件カタログは,「成分表」欄で「β-1,3-1,6グルカン」含有量を表示しているが,この数値が分析センターの試験成績であるとの表示はしていない。
すなわち,本件カタログの本件表示1には,「分析試験結果」欄記載の「β-グルカン」含有量について,分析センターに試験を依頼し,その分析試験の結果であることを明記し,他方で,「β-1,3-1,6グルカン」含有量について,「成分表」欄にエネルギー,タンパク質,脂質,炭水化物,ナトリウムといった各成分と並んで記載されており,一般の消費者が本件カタログを見た場合,分析センターにより分析試験が行われたのは,「β-1,3-1,6グルカン」含有量ではなく,「β-グルカン」含有量であることは明らかである。
そして,本件カタログ(4頁)には,「東レリサーチセンターによるβ-グルカンの分子構造の解析」として,β-グルカンの構造分析は東レに依頼していること,その結果,製品中のβ-グルカンの構造は,β-1,3-1,6グルカンであることが確認されたことが明記されている。
このように本件カタログでは,β-グルカンの含有量については分析センターに依頼したことを明記し,その分析試験結果として「β-グルカン」含有量の定量表記を行い,他方,β-グルカンの構造分析については東レに依頼したことを明記し,この東レの構造分析と分析センターの定量分析を合わせて,「成分表」欄に「β-1,3-1,6グルカン」の含有量の定量表記を行い,その科学的根拠を明示している。
したがって,本件カタログを見た一般の消費者が,「成分表」欄記載の「β-1,3-1,6グルカン」含有量が分析センターの分析値であると誤認することはあり得ないし,「β-1,3-1,6グルカン」の上記含有量の表示は,虚偽の表示ではない。
(イ)a(a)グルカンとは,グルコースが結合してつながり合ったグルコースポリマー(重合体)をいう。グルカンは,グルコース同士の結合方式により,α-グルカンとβ-グルカンに分類され(乙9の1の資料?@),また,グルカンは,他の単糖(例えば,ガラクトース,マンノース)との結合の有無により,ホモグルカン(グルコースだけが結合し合っているもの)とヘテログルカン(グルカンに他の単糖との結合があるもの)に分類される(乙28の3)。
このように,α-グルカンとβ-グルカンの分類と,ホモグルカンとヘテログルカンの分類とは,分類の基準を異にするものであり,ヘテログルカンであっても,ヘテログルカン中のグルコース同士の結合方式がβ結合であれば「β-グルカン」であり,これを「ヘテロ-β-グルカン」(乙35)と言って差し支えないし,その中のグルコースの結合位置が1,3-1,6であれば「ヘテロβ-1,3-1,6グルカン」と言って差し支えない。
(b)マンノース等を伴ったヘテロβ-グルカン(ヘテロβ-1,3-1,6グルカン)に抗腫瘍活性を有するとされている例は多くみられる(乙41の1,2,42の1,2,43,44)。また,黒酵母培養液(アウレオバシジウム培養液)から得られたβ-グルカンが,ホモβ-1,3-1,6グルカン及びマンノース等を伴ったヘテロβ-1,3-1,6グルカンのいずれであっても,グルコースがβ1↑3結合を主鎖として,側鎖に1↑6結合しているというβ-1,3-1,6グルカンの構造が維持されていれば,抗腫瘍活性は変わらない(乙36,45)。
したがって,健康食品を購入しようとする消費者にとっては,グルコースがマンノースと結合しているかどうかが重要なのではなく,健康への影響が注目されているβ-1,3-1,6グルカンの量,それを明らかにするためのグルコースの定量とグルコースの結合体の構造が重要である。
(c)ヘテロβ-グルカンとして存在している黒酵母培養液(アウレオバシジウム培養液)を原料とするとする健康食品を販売している他社も,自社商品に含まれるβ-グルカンの含有量を販売のための宣伝物に表示するに当たっては,「ホモ・・・」又は「ヘテロ・・・」と特に区別することなく,すべて「β-1,3-1,6グルカン」含有量として表示しており,これが通例として普通に行われている(乙46,47,48の1,2,49の1,2)。
(d)以上によれば,ヘテロβ-1,3-1,6グルカン由来のβ-1,3-1,6グルカンを含めて,「β-1,3-1,6グルカン」含有量として表示することは,虚偽の表示に当たらない。
b分析センターでは,本件表示1の各商品の試料からβ-グルカン画分を調製した上で,グルコース測定用キット「グルコースC?Uテストワコー」(乙30)を使用して,このβ-グルカン画分内のグルコース同士又はグルコースと他の糖の結合を分離し,グルコース分子だけを定量し,定量されたブドウ糖(=グルコース)から「β-グルカン」含有量を算出している。したがって,このβ-グルカン画分内に「β-グルカン」が,ホモグルカンとしてとして存在していようとヘテログルカンとして存在していようと,「β-グルカン」の定量値(含有量)に違いはない。
一方,東レでは,分析センターと同様の方法で,本件表示1の商品「真宝」及び「真宝SS(スーパースペシャル)」の各試料からβ-グルカン画分を調製した上で,このβ-グルカン画分中の糖の結合様式を決定するため構造分析を行っている(乙18,22)。
東レの構造分析の結果,「真宝」でグルコースの約1/8あるいは約1/5,「真宝SS(スーパースペシャル)」でグルコースの約1/6のマンノースが検出されたが,グルコースの結合様式は,β1↑3,1↑6結合であることが明らかとなり,上記商品中のβ-グルカンの構造は,すべて「β-1,3-1,6グルカン」であることが判明した。
そこで,東レのβ-グルカンの構造分析と分析センターのβ-グルカンの定量分析の両分析結果を合わせて,本件カタログの「成分表」欄に,分析センターが測定した「β-グルカン」の含有量の数値を,「β-1,3-1,6グルカン」の含有量として表示したものであり,上記表示に誤りはない。なお,東レが構造分析をしたβ-グルカン画分からマンノースが検出されたこと自体は,β-グルカン画分中にマンノースが存在していたことを示すにすぎず,何ら問題にはならない。なぜなら,分析センターによる「β-グルカン」の定量分析では,上記のとおり,グルコースC?U-テストワコーにより,β-グルカン画分から他の糖(マンノース)を除いてグルコース分子だけを定量しているからである。
c原告らは,β-グルカンの定量分析と構造分析の結果を合わせて論ずるのであれば,同一試料を用いなければならない旨主張する。
しかし,原告らの主張は,以下のとおり失当である。
(a)本件表示1の商品「真宝」及び「真宝SS(スーパースペシャル)」について東レの構造分析に用いた検体と分析センターの定量分析に用いた検体とは異なるものであるが,両検体は同一の商品であって,全く同じ培養条件及び培養装置を使用して製造されたものであり,その品質は全く同じであるから,原告らがいうように同一試料を用いる必要はない。仮に原告らが主張するように同一の培養装置を使用しても同一の品質の製品ができず,その都度異なった品質の製品ができるというのであれば,原告らもまた,原告ら商品(「天慈のしず久」)について成分の表示自体がおよそできないこととなる。
(b)本件表示1の商品「真宝スペシャル」,「真宝EX」及び「徐福伝説」について被告らの各商品は,いずれもアウレオバシジウムという天然の黒酵母を培養して製造されており,そのうち「真宝」,「真宝スペシャル」及び「真宝SS(スーパースペシャル)」は,アウレオバシジウムの培養時間に違いがあるだけで,培養方法に違いはない。そして,「真宝スペシャル」の培養時間は「真宝」と「真宝SS」の中間であるが,東レの「真宝」及び「真宝SS(スーパースペシャル)」についての構造分析の結果に照らせば,培養時間によってβ-グルカンの構造は変わらないといえるから,「真宝スペシャル」のβ-グルカンの構造も,すべて「β-1,3-1,6グルカン」であることは明らかである。
また,「真宝EX」は,上記培養に係るアウレオバシジウム(黒酵母)培養液に乳酸菌を,「徐福伝説」は,上記アウレオバシジウム(黒酵母)培養液に活性酸素除去物質などを加えて商品化しただけであり,「真宝EX」や「徐福伝説」内のβ-グルカンの構造も,「真宝」などと同様に,すべて「β-1,3-1,6グルカン」である。
dなお,本件表示1の被告キャッツの各商品について,分析センターが分析した分析結果を商品のパッケージに掲載することの承認を得ており(乙2の1ないし4,3ないし6),本件表示1の「β-グルカン」含有量の表示は,分析センターの分析結果により得られたβ-グルカンの含有量の数値を忠実に記載したものであるから,その掲載方法あるいは表示方法に何ら問題はない。
(ウ)以上のとおり,本件表示1における被告キャッツの各商品の「β-1,3-1,6グルカン」含有量の表示は,虚偽の表示ではなく,上記各商品の品質を誤認させるものでもない。
イ 本件表示2ないし5について本件表示2ないし5における被告キャッツの商品「真宝」及び被告アウレオの商品「黒酵母βグルカン」(「真宝」と商品名が異なる同一商品)の「β-グルカン」含有量又は「β-1,3-1,6グルカン」含有量の表示が,虚偽の表示ではなく,上記各商品の品質を誤認させる表示に該当しないことは,前記アと同旨である。
2 争点2(営業誹謗行為該当性)について(1) 原告らの主張ア 原告ら商品のβ-1,3-1,6グルカン含有量の過少表示(ア)本件表示2ないし4の各比較広告(比較表示)は,被告キャッツの商品「真宝」又は被告アウレオの商品「黒酵母βグルカン」と他社(A社ないしD社)の商品とを比較して,被告キャッツ又は被告アウレオの商品の方がβ-1,3-1,6グルカン含有量が多く,品質,金額両面において優れていることを強調している。
上記各比較表示にいう「A社」とは,原告らを指し,「A社」欄に記載された商品が原告らの商品「天慈のしず久」を指すことは,?@「天慈のしず久」の価格が1袋15g×30袋1万4490円(税込)であること,?A「天慈のしず久」の1袋(15g)のパッケージにβ-1,3-1,6グルカン含有量が68?rと印刷されていること(この68?rの表示は,平成17年8月以降,高知県食品衛生課の指導により60?rと変更)に照らし,明らかである。
そして,本件ねこしんぶんの本件表示2では,「A社」(「天慈のしず久」)のβ-1,3-1,6グルカン含有量を「100g中360?r」,「1袋54?r」,本件キャッツホームページの本件表示3及び本件アウレオホームページの本件表示4では,上記β-1,3-1,6グルカン含有量を「100g中320?r」,「1袋48?r」と表示しているが,いずれも「天慈のしず久」のパッケージの表示とは異なる虚偽の事実を記載した過少表示である。
(イ)被告らは,本件表示2ないし4に表示した「天慈のしず久」のβ-グルカン含有量の根拠として,分析センター作成の平成14年9月27日付け分析試験成績書(乙10)及び平成15年11月18日付け分析試験成績書(乙11)記載のβ-グルカンの各分析試験結果(乙10につき「0.31g/100g」,乙11につき「0.32g/100g」)を挙げるが,これらは,真に「天慈のしず久」を検体とする分析試験とはいえない。
このことは,?@乙10の検体名が「培養液天慈」とされているのに対し,乙11の検体名は「Tenji」であること,?A被告らが乙10,11を「天慈のしず久」の分析値として認識していたならば,別件訴訟(第1事件及び第2事件)において乙10,11を提出して,「天慈のしず久」のパッケージの表示と相違することを咎めてしかるべきであったのに,被告らは,これらを提出しなかったこと,?B分析センターでは,他社製品の分析をするに際し,当該他社の承諾書を提出させた上で分析を行っているが(甲28の1,2),原告らは,乙10,11の分析試験について承諾書を提出していないことなどから明らかである。
また,被告らが追加提出した,分析センター作成の分析試験成績書(乙53の1ないし3)には,β-グルカンの分析試験結果として,それぞれ「0.31g/100g」(乙53の1),「0.32g/100g」(乙53の2),「0.33g/100g」(乙53の3)との記載があるが,上記各数値は,原告らが行った「天慈のしず久」のβ-1,3-1,6グルカン含有量の分析結果(甲29(ただし,甲32により一部訂正。以下同じ。))の数値と齟齬するものであり,分析センターの上記分析試験は,「天慈のしず久」を検体とする分析試験とはいえない。
イ本件表示2の比較広告による営業誹謗行為本件ねこしんぶんの本件表示2の比較広告(比較表示)は,?@前記アのとおり,原告らの商品「天慈のしず久」のβ-1,3-1,6グルカン含有量について過少表示をしていること,?A上記含有量は,本件ねこしんぶんの発行時(発行日平成17年10月10日)よりも,かなり古い時期に測定した数値(乙10,11)を引用表示しており,その引用自体許されないこと,?B被告キャッツの商品「真宝」について「比較した五社の中で最も価格が低く,内容量が多い・・・β-グルカンの含有量も他の商品に比べて最も高い・・・」,「さらに進化した当社の黒酵母培養液を他の製品と比較してみると,『真宝』は品質・コストパフォーマンスの両面において,トップレベルを示しました。」と表示して「真宝」が「天慈のしず久」よりも優れていることを誇示していることに照らすならば,本件表示2の比較広告は,原告らの商品「天慈のしず久」のβ-1,3-1,6グルカン含有量について過少表示(虚偽の表示)をすることにより被告キャッツの商品「真宝」が「天慈のしず久」よりも優れていることを誇示するとともに,「天慈のしず久」のβ-1,3-1,6グルカン含有量についての原告らの表示が偽りであると原告らを誹謗するものであるから,原告らの営業上の信用を害する虚偽の事実の告知又は流布に該当する。
なお,本件表示2の比較広告は,公正取引委員会事務局が昭和62年に作成した比較広告に関するガイドライン(「比較広告の景品表示法上の考え方」。甲8)に示された三要素(「広告で主張する内容が客観的に実証されていること」,「実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること」及び「比較の方法が公正であること」)をも,全く無視するものである。
ウ本件表示3,4の比較広告による営業誹謗行為本件キャッツホームページの本件表示3及び本件アウレオホームページの本件表示4は,本件表示2と同様の比較広告であり,前記イと同様に,原告らの商品「天慈のしず久」のβ-1,3-1,6グルカン含有量について過少表示(虚偽の表示)をすることにより被告キャッツの商品「真宝」及び被告アウレオの商品「黒酵母βグルカン」が「天慈のしず久」よりも優れていることを誇示するとともに,「天慈のしず久」のβ-1,3-1,6グルカン含有量についての原告らの表示が偽りであると原告らを誹謗するものであるから,原告らの営業上の信用を害する虚偽の事実の告知又は流布に該当する。
エ まとめ以上によれば,被告キャッツの本件表示2,3による比較広告及び被告アウレオの本件表示4による比較広告は,競争関係にある原告らの営業上の信用を害する虚偽の事実の告知又は流布(営業誹謗行為)に該当するから,不正競争防止法2条1項14号の不正競争に当たる。
(2) 被告らの反論ア 過少表示の主張に対し本件表示2ないし4における「天慈のしず久」(「A社」の商品)のβ-グルカン含有量の表示は,以下のとおり,過少表示ではない。
(ア)被告アウレオは,平成14年9月ころ,分析センターに対し,原告ソフィが製造した商品「天慈のしず久」(市販品)の分析を依頼し,その結果,分析センター作成の同月27日付け分析試験成績書(乙10)により,「100g中0.31g」のβ-グルカンが含まれているとの報告がされた。被告アウレオは,正確を期するため,平成15年10月ころ,再度分析センターに対し,「天慈のしず久」(市販品)の分析を依頼し,その結果,分析センター作成の同年11月18日付け分析試験成績書(乙11)により,「100g中0.32g」のβ-グルカンが含まれているとの報告がされた。上記分析試験結果によれば,「天慈のしず久」には,客観的に100g中約0.32gのβ-グルカンが含まれているといえる。他方で,「天慈のしず久」のパッケージには,平成14年9月当時からβ-1,3-1,6グルカン含有量が1袋15g中68?r(これを100g当たりに換算すると,0.45g)と表記され(乙12の1ないし3),その後,平成17年8月以降の「天慈のしず久」のパッケージでは,β-1,3-1,6グルカン含有量が1袋15g中60?r(これを100g当たりに換算すると,0.4g)と表記が訂正された(乙12の4)。
そこで,被告キャッツ又は被告アウレオは,本件ねこしんぶんの本件表示2,本件キャッツホームページの本件表示3及び本件アウレオホームページの本件表示4において,メーカーの公表値ではなく,分析センターの測定値であることを示した上で,上記分析試験結果に基づいて,A社の商品(「天慈のしず久」)のβ-グルカン含有量を表示したものである。なお,本件ねこしんぶんには,A社の商品のβ-グルカン含有量が100g中360mgと表示されているが,これは,本件ねこしんぶんを編集・作成する際に実際の含有量(100g中320mg)よりも多い数値を誤って記載した単純な記載ミスであり,しかも,実際の含有量よりも多い数値を記載したのであるから,過少表示に該当しないことは明らかである。
(イ)さらに,被告アウレオは,「天慈のしず久」のβ-グルカン含有量を再度確認するため,平成19年6月29日,分析センターに対し,「天慈のしず久」(賞味期限が平成16年3月4日,平成19年12月20日,平成20年5月11日の市販品。乙52の1ないし3)について分析を依頼し,その結果,分析センター作成の平成19年7月17日付け分析試験成績書(乙53の1ないし3)により,それぞれの市販品につき「100g中0.31g」,「100g中0.32g」,「100g中0.33g」のβ-グルカンが含まれているとの報告がされた。上記分析試験結果に照らしても,「天慈のしず久」には,客観的に100g中約0.32gのβ-グルカンが含まれているといえることは明らかである。
これに対し原告らは,分析センター作成の上記分析試験成績書(乙53の1ないし3)の数値が,甲29記載の「天慈のしず久」のβ-1,3-1,6グルカン含有量の分析結果の数値と齟齬することを理由に,分析センターの上記分析試験は,「天慈のしず久」を検体とする分析試験とはいえないなどと主張するが,甲29は,原告らが自社で行ったそれぞれの製品の分析結果を一方的に示すだけであり,いかなる分析方法を用いた分析結果であるかの点についての記載がないなど何ら客観性のないものであり,そのような客観性のない分析結果の数値と分析センターの上記分析試験の数値結果が異なるからといって,分析センターの上記分析試験が「天慈のしず久」を検体とするものでないとはいえない。
営業誹謗行為の主張に対し(ア)前記1( )イのとおり,本件表示2ないし4における被告キャッツ2の商品「真宝」及び被告アウレオの商品「黒酵母βグルカン」(「真宝」と商品名が異なる同一商品)のβ-グルカン含有量は,虚偽の表示ではなく,また,前記アのとおり,本件表示2ないし4における「天慈のしず久」(「A社」の商品)のβ-グルカン含有量の表示も,過少表示(虚偽の表示)ではないから,上記各商品のβ-グルカン含有量の表示が虚偽の表示であることを理由に,本件表示2ないし4の比較広告が原告らの営業上の信用を害する営業誹謗行為であるとの原告らの主張は,その前提を欠くものである。
(イ)また,原告らは,本件ねこしんぶんの発行時(発行日平成17年10月10日)よりも,乙10,11の測定時期が古いことを理由に,本件ねこしんぶんに乙10,11の「天慈のしず久」のβ-グルカン含有量の数値を引用することは許されない,本件ねこしんぶんの本件表示2の比較広告は,比較広告に関するガイドライン(甲8)を無視しているなどと主張するが,同一の製造方法による同一の商品を対象としている限り,同一の商品についての前の時期のデータを使用することに何ら問題はないし,本件表示2の比較広告は誇大広告ではなく,比較広告に関するガイドラインにも適合しており,原告らの上記主張は失当である。
3 争点3(差止請求の可否)について(1) 原告らの主張ア前記1及び2のとおり,本件表示1ないし5に表示された被告キャッツ及び被告アウレオの各商品の「β-1,3-1,6グルカン」含有量は虚偽であって,本件表示1ないし3を表示する被告キャッツの行為及び本件表示4,5を表示する被告アウレオの行為は,不正競争防止法2条1項13号の不正競争に当たり,また,本件表示2ないし4による比較広告は,原告らの営業上の信用を害する虚偽の事実の告知又は流布(営業誹謗行為)に該当するから,不正競争防止法2条1項14号の不正競争に当たる。
のみならず,被告キャッツ及び被告アウレオの上記各行為は,本件和解の和解条項第3項前段(誹謗中傷行為の禁止。前記第2の2(2)ア(ア))及び和解条項第4項(商品への虚偽の表示の禁止。同(イ))にも違反するものである。
イ被告キャッツ及び被告アウレオによる前記アの不正競争により,原告らの営業上の利益侵害され,又は侵害されるおそれがあるから,被告キャッツに対しては別紙目録1記載の各表示をした広告等の差止め及び被告アウレオに対しては別紙目録2記載の各表示をした広告等の差止めの必要がある。
また,被告キャッツとの関係では,侵害の停止又は予防に必要な行為として,侵害の行為を組成した別紙目録3記載の各文書から,別紙目録1記載の表示の部分を抹消し,既に配布した同各文書の同表示の部分を回収する必要がある。
ウしたがって,原告らは,被告キャッツ及び被告アウレオに対し,不正競争防止法3条1項に基づき,又は本件和解の和解条項所定の債務の履行として,前記イの広告等の差止め(被告キャッツに対しては同条2項に基づく表示部分の抹消等を含む。)を求めることができる。
(2) 被告キャッツ及び被告アウレオの反論本件表示1ないし5は,虚偽の表示ではなく,原告ら主張の被告キャッツ及び被告アウレオの不正競争の事実も,和解条項違反の事実もないから,原告らの本件差止請求は,その前提を欠くものであり,理由がない。
4 争点4(謝罪広告掲載請求の可否)について(1) 原告らの主張原告らは,被告キャッツ及び被告アウレオが行った前記3(1)アの不正競争により営業上の信用が害されたから,不正競争防止法14条に基づき,営業上の信用を回復するのに必要な措置として,被告キャッツに対しては別紙目録4記載の謝罪広告の掲載を,被告アウレオに対しては別紙目録5記載の謝罪広告の掲載を求めることができる。
(2) 被告キャッツ及び被告アウレオの反論本件表示1ないし5は,虚偽の表示ではなく,原告ら主張の被告キャッツ及び被告アウレオの不正競争の事実はないから,原告らの本件謝罪広告掲載請求は,その前提を欠くものであり,理由がない。
5 争点5(原告らの損害額)(1) 原告らの主張ア 和解条項違反による損害額(ア)前記3(1)アのとおり,被告キャッツ及び被告アウレオは,不正競争防止法2条1項13号,14号の不正競争を行うと同時に,本件和解の和解条項第3項前段(誹謗中傷行為の禁止)及び和解条項第4項(商品への虚偽の表示の禁止)に違反する行為を行ったものであるが,上記各行為は,被告X及び被告Yとの協議又は通謀による行為である。
したがって,被告らは,上記和解条項違反により原告らが被った損害を連帯して賠償する義務がある。
(イ)前記第2の2(2)イのとおり,原告らは,本件和解の和解条項所定の債務の弁済として,被告キャッツ及び被告アウレオに対し,合計3000万円(原告ソフィにつき1000万円,原告イムニィ・バランスにつき2000万円)を支払ったが,上記金員は,原告らと被告らとの紛争絶止を期しての解決金として支払ったものであった。
しかし,前記(ア)のとおり被告らが和解条項に違反したことにより,解決金の支払の意味は失われ,原告らは,上記各支払額に相当する損害を被った。
イ 不正競争による損害額被告キャッツ及び被告アウレオが行った前記3(1)アの不正競争により,原告ソフィが被った無形の損害は1000万円,原告イムニィ・バランスが被った無形の損害は2000万円を下らない。
ウ まとめ以上によれば,被告らは,和解条項違反の債務不履行又は不正競争防止法4条に基づく損害賠償として,原告ソフィに対しては1000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成18年8月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を,原告イムニィ・バランスに対しては2000万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成18年8月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金をそれぞれ連帯して支払う義務がある。
(2) 被告らの反論ア本件表示1ないし5は,虚偽の表示ではなく,原告ら主張の被告らの不正競争の事実も,和解条項違反の事実もないから,原告らの損害額の主張は,その前提を欠くものである。
イまた,別件訴訟は,被告キャッツ及び被告アウレオが,原告イムニィ・バランス及びその代表者であるZらが,原告ソフィと共同して,被告キャッツ及び被告アウレオの商品を誹謗中傷する宣伝を行いながら勧誘活動を展開し,被告キャッツの会員を奪ったことなどが不正競争又は不法行為に当たると主張して,原告ら及びZらに対し,損害賠償を請求した事案であって,別件訴訟で成立した本件和解の和解金は,被告キャッツ及び被告アウレオが和解成立時までに被った過去分の損害を填補するための賠償金として支払われたものであり,これを返還すべき理由はない。
したがって,本件和解の和解条項違反を理由に,上記和解金の返還あるいは同額の損害の賠償を求める原告らの損害賠償請求は,法的根拠となり得ない独自の見解に基づくものであって,理由がない。
当裁判所の判断
1 争点1(品質誤認表示該当性)について(1) 本件表示1についてア原告らは,本件カタログの本件表示1は,被告キャッツの商品「真宝」,「真宝スペシャル」,「真宝SS(スーパースペシャル)」,「真宝EX」及び「徐福伝説」について「β-1,3-1,6グルカン」の各含有量を,分析センターの試験成績(分析値)として表示するものであるが,分析センターは,「β-1,3-1,6グルカン」含有量を測定していないから,本件表示1は,虚偽の表示であって,上記各商品の品質を誤認させる表示である旨主張する。
しかし,原告らの主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)前記第2の2(3)アのとおり,本件カタログの本件表示1は,「成分表」欄に「β-1,3-1,6グルカン540?r」などと「β-1,3-1,6グルカン」含有量と,「分析試験結果」欄に「β-グルカン0.42g/100g」などと「β-グルカン含有量」が区別して記載されており,「分析試験結果」欄の「β-グルカン」の項目の下には,「試験依頼先」の項目に「(財)日本食品分析センター」と記載され,更に「試験成績書発行年月日」及び「試験成績書発行番号」の各項目について具体的な年月日及び番号の記載があるから,本件表示1を見た一般消費者は,「分析試験結果」欄の「β-グルカン」含有量は,分析センター(「(財)日本食品分析センター」)の試験成績であると認識するものと認められる。
しかし,一方で,「成分表」欄には,「分析試験結果」欄のような「試験依頼先」等の項目はないが,「成分表」欄記載の「β-1,3-1,6グルカン」含有量の数値と「分析試験結果」欄記載のβ-グルカン」含有量の数値とが各商品についてそれぞれ一致するので,「成分表」欄記載の「β-1,3-1,6グルカン」含有量についても,分析センターの分析値であるかのような認識を抱かせるものであるかどうかが問題となる。
(イ)そこで,本件カタログ(甲2)を全体としてみると,?@本件カタログは,A3版の用紙1枚を中央から折ってA4版(4頁)としたカタログであり,表表紙(1頁目)には「真宝(まほう)シリーズ黒酵母β-グルカン健康補助食品」との表題が記載されていること,?A本件カタログの2頁目及び3頁目には,「真宝」,「真宝スペシャル」,「真宝SS(スーパースペシャル)」,「真宝EX」及び「徐福伝説」の各商品について,左側に商品の写真が掲載され,右側に「商品名」欄,「成分表」欄及び「分析試験結果」欄が掲載され,「商品名」欄には内容,希望小売価格(税込)等の項目についての記載があり,「成分表」欄及び「分析試験結果」欄には本件表示1(前記第2の2(3)ア)のような記載があること,?B本件カタログの裏表紙(4頁目)には,「黒酵母β-グルカンとは」との見出しが記載さ・・・れ,「1.健康を支えるβ-グルカン」との小見出しの下に「β-グルカンは,多糖類(食物繊維)の一種で,健康を支える機能性成分として,アメリカを始めとする健康先進国で大きな注目を集めています。」,「3.優れているのはβ-1,3-1,6グルカン」との小見出しの下に「β-グルカンの中にも様々な種類がありますが,黒酵母β-グルカンはβ-1,3-1,6という特長的な分子構造(右図参照)をもっており,各研究機関で大変注目されています。」と記載され,また,「黒酵母β-グルカンはゆるやかなジェル状の液体です。この中に,今注目のβ-1,3-1,6グルカンがたくさん含まれています。」,「β-グルカンの中にも様々な種類があります。当社の黒酵母β-グルカンは,図のように「1,3」の幹(主鎖)に「1,6」の枝(側鎖)が連結した複雑な分子構造をもっています。」との説明文とともに,グルコース(ブドウ糖)が結合したβ-1,3-1,6グルカンの分子構造図が記載されていること,?Cさらに,本件カタログの裏表紙(4頁目)には,「各機関によって証明された「真宝シリーズ」の安全性・信頼性」との小見出しの下の「 東レリサー●チセンターによるβ-グルカンの分子構造の解析」の項目に,「黒酵母β-グルカンに含まれるβ-グルカンの構造解析は,世界トップレベルの分析機関である(株)東レリサーチセンターに依頼しています。その結果,製品中のβ-グルカンの構造は,ブドウ糖がβ-1,3-1,6で結合した理想的な形のグルカンであることが再確認されました。」との記載があること,?D他方で,本件カタログ中には,本件表示1の「成分表」欄の「β-1,3-1,6グルカン」含有量が分析センターが測定した数値であることを明記した記載はないことが認められる。
上記?@ないし?Dの認定事実に照らすならば,本件カタログを見た一般消費者は,本件表示1の「分析試験結果」欄の「β-グルカン」含有量は,分析センター(「(財)日本食品分析センター」)の試験成績であること,本件表示1の各商品に含有されている「β-グルカン」の種類はβ-1,3-1,6グルカンであり,その分子構造の解析は,東レ(「(株)東レリサーチセンター」)に依頼して行われたことを認識するにとどまり,「成分表」欄記載の「β-1,3-1,6グルカン含有量」の数値と「分析試験結果」欄記載の「β-グルカン」含有量の数値とが各商品についてそれぞれ一致するからといって,「成分表」欄記載の「β-1,3-1,6グルカン」含有量についても分析センターが測定した分析値であるものと認識することはないものと認められる。
(ウ)したがって,本件表示1が被告キャッツの各商品の「β-1,3-1,6グルカン」含有量を分析センターの試験成績(分析値)として表示するものであることを理由に,本件表示1が上記各商品の品質を誤認させる虚偽の表示であるとの原告らの主張は,理由がない。
イ原告らは,本件表示1の「成分表」欄記載の被告キャッツの各商品の「β-1,3-1,6グルカン」含有量の表示は,β-1,3-1,6グルカンの定量分析成績書などの根拠がない,虚偽の表示であり,上記各商品の品質を誤認させる表示である旨主張するのに対し,被告らは,上記表示は,分析センターによる「β-グルカン」の定量分析と東レによる「β-グルカン」の構造分析の両分析結果を合わせて表記したものであって,虚偽の表示に当たらない旨主張するので,この点について判断する。
(ア) 前提事実前記第2の2の事実(争いのない事実等)と証拠(甲2ないし6,乙1ないし9,13ないし20,22ないし27,29ないし31,37,38(いずれも枝番のあるものは枝番を含む。))及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
a被告キャッツ及び被告アウレオの各商品被告キャッツの商品「真宝」,「真宝スペシャル」,「真宝SS(スーパースペシャル)」,「真宝EX」及び「徐福伝説」並びに被告アウレオの商品「黒酵母βグルカン」は,いずれも,β-グルカンを含有する黒酵母(アウレオバシジウム)を培養した黒酵母培養液を原料とする健康食品であり,原料の黒酵母培養液は,被告アウレオによって製造されている。
上記各商品のうち,「真宝EX」は乳酸菌が配合されている点で,「徐福伝説」は抗酸化酵素SOD,キチンオリゴ糖及びキトサンオリゴ糖が配合されている点で,他の商品との違いがある。
また,「真宝」と「黒酵母βグルカン」は,商品名が異なる同一製品である。
b分析センターによる分析(a)被告アウレオは,分析センターに対し,平成16年12月2日に「真宝SS(スーパースペシャル)」を検体とする分析試験を依頼し,分析センター作成の同月21日付け分析試験成績書(乙1の3)で分析結果の報告を受け,平成17年5月20日に「真宝スペシャル」を検体とする分析試験を依頼し,分析センター作成の同年6月8日付け分析試験成績書(乙1の2)で分析結果の報告を受け,同月23日に「真宝」及び「真宝EX」を各検体とする分析試験を依頼し,「真宝」につき分析センター作成の同年7月5日付け分析試験成績書(乙1の1)で,「真宝EX」につき同日付け分析試験成績書(乙1の4)でそれぞれ分析結果の報告を受け,さらに,同月8日に「徐福伝説」を検体とする分析試験を依頼し,分析センター作成の同月27日付け分析試験成績書(乙1の5)で分析結果の報告を受けた。
上記各分析試験成績書の分析試験項目「β-グルカン」の「結果」欄には,「真宝」につき「0.42g/100g」(乙1の1),「真宝スペシャル」につき「0.47g/100g」(乙1の2),「真宝SS(スーパースペシャル)」につき「0.60g/100g」(乙1の3),「真宝EX」につき「0.54g/100g」(乙1の4),「徐福伝説」につき「0.57g/100g」(乙1の5)との記載があり,上記各記載は,本件カタログの本件表示1の「分析試験結果」欄の「β-グルカン」含有量と合致し,また,「分析試験結果」欄の他の項目の記載事項も,上記の各分析試験成績書の記載内容と合致している。
上記各分析試験成績書には「β-グルカンについて」と題する書面が添付され,上記書面には,「グルカンとは,ブドウ糖(D-グルコース)がたくさん繋がってできた多糖類の一種(分類)です。・・・ブドウ糖がα型の構造で結合した多糖類をα-D-グルカン,β型の構造で結合した多糖類をβ-D-グルカンと言います。・・・きのこ類に含まれるβ-D-グルカンには免疫賦活作用があると言われていますが,この場合の『β-D-グルカン』とは具体的には(1,3)(1,6)-β-D-グルカンという特定のβ-D-グルカンのことを指しています。当センターの分析項目『β-グルカン』はきのこの有効成分といわれるβ-D-グルカンではなく,化学構造的分類に基づくβ-D-グルカンを測定対象としています。したがって,(1,3)(1,6)-β-D-グルカンだけでなく,セルロースやヘテログルカン(ブドウ糖以外の糖を含むグルカン)など,きのこはもとより,多くの天然物に含まれているかなり広範囲のグルカン類を測り込みます。」との内容(甲11の3)の記載があった。
(b)分析センターにおける「β-グルカン」の分析は,検体から採取した試料から分析用の「β-グルカン画分」を調製し,調製した「β-グルカン画分」中のβ-グルカン量をグルコース測定用キット「グルコースC?U-テストワコー」(乙30)を用いて定量分析するというものであり,その概要は次のとおりである。
まず,「β-グルカン画分」の調製は,?@試料にリン酸緩衝液(pH6.0)及び耐熱性アミラーゼを添加してインキュベート(培養)し,試料中のα-グルカンを低分子化し,?A放冷後,アルカリで約pH7.5に調整し,プロテアーゼを添加してインキュベートし,試料中のタンパク質を分解し,?B放冷後,酸で約pH4.3に調整し,アミログルコシダーゼを添加してインキュベートし,試料中のα-グルカンの分岐を切断し,?C95%のエタノールを添加して室温で放置し,試料をろ過した後,その残留物を洗浄(80%のエタノール,アセトン)し,分析用の「β-グルカン画分」を調製する。
次に,上記調製した「β-グルカン画分」に硫酸及び水を添加して加水分解して,「β-グルカン画分」中の多糖を単糖化し,中和後,ろ過したろ液に,β-D-グルコースにのみ特異的に作用するグルコースオキシダーゼを利用した「グルコースC?U-テストワコー」を用いて,ろ液中のグルコース(ブドウ糖)を定量する。
そして,「β-グルカン」の含有量を,「β-グルカン(g/100g)=ブドウ糖(g/100g))×0.9」の計算式で算出する。
(c)上記(b)の方法により調製された「β-グルカン画分」には,グルコースのみが結合した多糖(高分子)とともに,グルコースと他の糖(マンノース等)が結合した多糖(高分子)も存在し得る状態にあるが,「β-グルカン画分」内のグルコース同士又はグルコースと他の糖の結合を分離(加水分解)して単糖化し,「グルコースC?Uテストワコー」により,単糖化したグルコースのみを定量している。
c東レによる分析(a)被告アウレオは,東レに対し,「真宝」(検体名「AK03008」)及び「真宝SS(スーパースペシャル)」(検体名「AK04004」)を検体とするβ-グルカンの分析をそれぞれ依頼し,「真宝」につき東レ作成の平成16年3月1日付け結果報告書(乙18)で,「真宝SS(スーパースペシャル)」につき同年6月17日付け結果報告書(乙22)で分析結果の報告を受けた。
(b)東レにおけるβ-グルカンの分析は,検体から採取した試料から「β-グルカン画分」を調製し,調製した「β-グルカン画分」中の中性糖の分析をし,また,「β-グルカン画分」のメチル化分析及びNMR測定によりグルコースの結合様式を解析するというものであり,その概要は次のとおりである。
まず,「β-グルカン画分」の調製は,?@試料に,0.08Mリン酸緩衝液及びα-アミラーゼを添加して100℃で攪拌し,試料中のα-グルカンを低分子化し,?A室温まで戻し,水酸化ナトリウムによりpH7.5に調整し,プロテアーゼを添加して60℃で一晩置くことを2回行い,試料中のタンパク質を分解し,?B室温まで戻し,酸(6N塩酸)でpH4.3に調整し,アミログルコシダーゼを添加して60℃で一晩置いて,試料中のα-グルカンの分岐を切断し,?C室温に戻し,エタノールを添加して一晩放置して,試料をろ過した後,その沈殿物を純水に懸濁させて透析(2日間)し,凍結乾燥させて,分析用の「β-グルカン画分」を調製する。
次に,「β-グルカン画分」中の中性糖の分析は,「β-グルカン画分」を酸加水分解し,低分子化した後,高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法により糖組成及び糖含量を測定する。
さらに,「β-グルカン画分」のメチル化分析は,「β-グルカン画分」を粉末NaOH存在下でヨウ化メチルにより完全メチル化し,生成したメチル化多糖を加水分解し,得られたメチル化単糖(部分メチル化単糖)を還元アセチル化して部分メチル化糖アルコールのアセチル誘導体(部分メチル化アルジトールアセテート)の形にしてGC(ガスクロマトグラフ),GC/MS(ガスクロマトグラフ/質量分析計)測定し,グルコースが結合していた位置を解析する。また,「β-グルカン画分」についてNMR測定によりグルコースの結合構造(アノマー炭素原子の配置等)を解析する。
(c)「真宝」の上記結果報告書(乙18)には,「試料から調製したβ-グルカン画分中に含まれる糖はグルコースが主成分であったが,マンノースも検出された(1559でグルコースの約1/8,AK03008でグルコースの約1/5)。β-グルカン画分中の糖の結合位置をメチル化分析により解析した結果,両試料とも主要な結合は1↑3結合のグルコースおよび1↑3,1↑6結合のグルコースであった。β1↑3結合のグルコースを切断する酵素で消化した結果,グルコースとゲンチオビオースが検出されたことからβ-グルカン画分中のグルコースの結合はβ結合が主であることが推測された。CNMRおよび HNMR測13 1定の結果からも,2つのβ-グルカン画分中の糖の結合様式は,いずれもβ1↑3結合のグルコースおよびβ1↑3,β1↑6結合のグルコースであることが支持された。」(13頁)との記載がある。
また,「真宝SS(スーパースペシャル)」の上記結果報告書(乙22)には,「試料から調製したβ-グルカン画分中に含まれる糖はグルコースが主成分であったが,マンノースも検出された(グルコースの約1/6)。β-グルカン画分中の糖の結合位置をメチル化分析により解析した結果,主要な結合は1↑3結合のグルコースおよび1↑3,1↑6結合のグルコースであった。β1↑3結合のグルコースを切断する酵素で消化した結果,グルコースとゲンチオビオースが検出されたことからβ-グルカン画分中のグルコースの結合はβ結合が主であることが推測された。CNMR測定の結果からも,β-グルカン画分中の糖の13結合様式は,β1↑3結合のグルコースおよびβ1↑3,β1↑6結合のグルコースであることが支持された。」(10頁)との記載がある。
d被告キャッツによる本件カタログの表示被告キャッツは,?@「真宝」を検体とするβ-グルカンの分析についての東レ作成の平成16年3月1日付け結果報告書(乙18)及び分析センター作成の平成17年7月5日付け分析試験成績書(乙1の1)の各分析結果,「真宝SS(スーパースペシャル)」を検体とするβ-グルカンの分析についての東レ作成の平成16年6月17日付け結果報告書(乙22)及び分析センター作成の同年12月21日付け分析試験成績書(乙1の3)の各分析結果から,分析センターが定量分析した「真宝」及び「真宝SS(スーパースペシャル)」の「β-グルカン」は,すべて「β-1,3-1,6グルカン」であると判断し,?A「真宝スペシャル」,「真宝EX」及び「徐福伝説」についても,「真宝」及び「真宝SS(スーパースペシャル)」と同様に,原料の黒酵母培養液が被告アウレオによって同一の培養装置で製造されていることなどから,分析センターが定量分析した「β-グルカン」は,すべて「β-1,3-1,6グルカン」であると判断し,?B平成17年10月ころに作成した本件カタログにおいて,上記各商品の「成分表」欄に,分析センターが定量分析した「β-グルカン」含有量と同じ数値を「β-1,3-1,6グルカン」含有量として表示した。
(イ) 品質誤認表示該当性a本件表示1の商品「真宝」及び「真宝SS(スーパースペシャル)」について(a)前記(ア)認定の前提事実に基づいて,被告キャッツの商品「真宝」及び「真宝SS(スーパースペシャル)」を検体とするβ-グルカンの分析について,分析センターの定量分析と東レの構造分析とを対比すると,検体から採取した試料から,α-グルカン及びタンパク質を除いて,分析用の「β-グルカン画分」を調製するまでの原理はほぼ同様であるので,調製された「β-グルカン画分」には,グルコースのみが結合した多糖(高分子)とともに,グルコースと他の糖(マンノース等)が結合した多糖(高分子)も存在し得る状態にあることも同様であるが,分析センターの定量分析では,調製された「β-グルカン画分」を加水分解して単糖化し,「グルコースC?U-テストワコー」を用いて,単糖化したグルコース(ブドウ糖)のみを定量し,一方,東レの構造分析では,調製された「β-グルカン画分」のメチル化分析及びNMR測定を行って「β-グルカン画分」中のグルコースの結合様式を解析している点で相違していることが認められる。
そして,東レの構造分析の結果,「β-グルカン画分」中の糖の結合様式はβ1↑3結合及びβ1↑3,1↑6結合のグルコースと解析されたこと(前記(ア)c),分析センターの定量分析では,単糖化したグルコースのみを定量していること(前記(ア)b)に照らすならば,分析センターの定量分析により定量されたグルコースが単糖化する前の結合様式はβ1↑3結合及びβ1↑3,1↑6結合であることが認められる。もっとも,東レの構造分析の結果,「β-グルカン画分」中の糖はグルコースが主成分であったが,マンノースが検出(「真宝」の検体「AK03008」につき約5分の1,「真宝SS(スーパースペシャル)」の検体につき約6分の1)されたのであるから(前記(ア)c(c)),分析センターが定量分析した「β-グルカン」含有量には,グルコース同士が結合した高分子(グルコースポリマー)に由来するものだけではなく,グルコースとマンノースが結合した高分子に由来するものも含まれていたことになる。
(b)そこで,グルコース同士が結合した高分子であって,その結合様式がβ1↑3結合及びβ1↑3,1↑6結合であるもののみならず,マンノースと結合したグルコースの高分子を構成するグルコース部分がβ1↑3結合及びβ1↑3,1↑6結合であるものをも含めて,分析センターが測定(定量)した「β-グルカン」含有量を,本件カタログの「成分表」欄に「β-1,3-1,6グルカン」含有量として表示することが虚偽の表示に当たるかどうかが問題となる。
そこで検討するに,?@甲15の1ないし3(「生化学事典第3版(東京化学同人)」)には,「グルカン」の項目に「D-グルコースから構成される多糖の総称・・・グルコース残基のアノマー炭素原子(C-1)の配置によりα-グルカンとβ-グルカンに分かれる。」,「ホモ多糖」の項目に「ホモグリカンともいう。1種類の単糖から構成されている多糖をいう。構成糖の種類および構造により多種存在する。代表的な直鎖状ホモ多糖としては,1)グルカン(グルコースポリマー)であるセルロース・・・などがある。またおもな分枝状ホモ多糖としては,1)グルカンであるアミノペクチン,グリコーゲン・・・などがある。」,「ヘテロ多糖」の項目に「ヘテログリカンともいう。数種類の単糖から構成されている多糖でホモ多糖に対応する。・・・中性糖から成るものとしては,D-グルコースとD-マンノースが互いにβ1↑4結合したグルコマンノグリカンであるコンニャクマンナン・・・などがある。」との記載があること,?A甲16(浜田信威作成の論文「微生物多糖」・昭和63年)には,「・・・これらの多糖は1種類の糖からなるホモ多糖と2種類以上の糖からなるヘテロ多糖に類別される。・・・微生物のホモ多糖にはD-グルコースのみからなるグルカンが圧倒的に多く・・・」(1頁目右欄),「・・・ホモ多糖のうちでD-グルコースがα-結合によって重合した多糖をα-グルカンとよび,その一つにデキストランがある。・・・」(2頁目左欄),「・・・一方,D-グルコースがβ-結合によって重合した多糖をβ-グルカンとよび,その代表的なものにβ-1,3-グルカンがある。
β-1,3-グルカンは酵母,かびなどの細胞壁多糖として知られているが,細胞外に生産されるものもある。属のAureobasidium1菌株は細胞外にβ-1,3-グルカンを生産する。・・・」との記載があること(2頁目右欄),?B甲17の3(水野卓,川合正允編著「キノコの化学・生化学」・平成4年)には,「・・・活性多糖の基本構造は,いずれもβ-(1↑6)分岐したβ-(1↑3)-D-グルカンそのものか,これを主体としたヘテログリカン・・・などであった。・・・」(左欄)との記載があること,?C分析センターの試験成績書添付の「β-グルカンについて」と題する書面(甲11の3)には,「グルカンとは,ブドウ糖(D-グルコース)がたくさん繋がってできた多糖類の一種(分類)です。・・・当センターの分析項目『β-グルカン』はきのこの有効成分といわれるβ-D-グルカンではなく,化学構造的分類に基づくβ-D-グルカンを測定対象としています。したがって,(1,3)(1,6)-β-D-グルカンだけでなく,セルロースやヘテログルカン(ブドウ糖以外の糖を含むグルカン)など,・・・グルカン類を測り込みます。」との記載があることを総合すれば,生化学の技術分野においては,一般に,グルカンとは,グルコースから構成されるホモ多糖(グルコースポリマー)をいい,「β-1,3-1,6グルカン」とは,グルコース同士が互いにβ1↑3,1↑6結合によって重合したホモ多糖(グルコースポリマー)をいうものと解される。そうすると,生化学の技術分野において,グルコースと他の糖(例えば,マンノース)で構成されている多糖であるヘテログルカン(ヘテログリカン)におけるグルコース部分の結合様式が互いにβ1↑3,1↑6結合であるからといって,当該グルコース部分を「β-1,3-1,6グルカン」というのは一般的ではないものと解される。
(c)しかし,一方で,?@乙35(水野卓,川合正允編著「キノコの化学・生化学」・平成4年。甲17の3と同一文献)には,「表11」(2枚目)中の「3マンネンタケ(霊芝)」欄に「ヘテロ-β-グルカン(F?V-2b)」,「4マイタケ(舞茸)」欄に「ヘテロ-β-グルカン(F?V-2c)」との記載が,「3.ヘテロ多糖,糖タンパク質」の項(3枚目右欄)に「キノコには,水溶性β-D-グルカンのほかに,塩やアルカリで抽出されるキシロース,マンノース,ガラクトース,ウロン酸などをヘテロ糖鎖とするβ-グルカンおよびそのタンパク質複合体が乾物当たり10〜50%も存在する。」との記載があるように,グルコースと他の糖が結合した多糖であるヘテログルカンであっても,グルコース部分の結合様式が互いにβ結合したものについて「β-グルカン」の表記を用いて「ヘテロ-β-グルカン」と表記した例もみられること,?A本件カタログには,「1.健康を支えるβ-グルカン」,「3.優れているのはβ-1,3-1,6グルカン」との記載があるが(前記ア(イ)?B),「β-1,3-1,6グルカン」がなぜ健康を支えるのか,なぜ優れているのかなどについての具体的な記載はないことに鑑みると,本件カタログを見た一般消費者や被告キャッツの会員等にとって,「β-1,3-1,6グルカン」が健康を支える成分であることを認識し,その成分を含有していることやその含有量の大きさが商品を購買する動機付けや誘因になるということはいえても,その成分がグルコース同士が結合した高分子(グルコースポリマー)に由来するものか,グルコースとマンノースが結合した高分子に由来するものかについて特段の関心を持つものとは言い難いこと,?B乙44(水野卓,川合正允編著「キノコの化学・生化学」・平成4年。甲17の3と同一文献)には,「マイタケ菌糸体にはβ-D-グルカン,グルコマンナン・・・のほかにウロン酸を含むヘテログリカンなども存在する。顕著な抗腫瘍活性を示す画分は,・・・β-(1↑6)分岐鎖をもつβ-(1↑3)-D-グルカンであることが確認された。」との記載があり,「表3」中に示されたサンプル「NMF-1」(構成糖グルコース,マンノースのヘテログルカン),「NMF-5」(構成糖グルコースのホモグルカン)及び「NMF-7」(構成糖グルコース,マンノース,キシロースのヘテログルカン)の画分はいずれも抗腫瘍活性を示していること,乙36,41の1,2,42の1,2,43,45にも,マンノース等とβ-1,3-1,6グルコースが結合したヘテログルカンが抗腫瘍活性を示した例が記載されていることに鑑みると,マンノース等とβ-1,3-1,6グルコースが結合したヘテログルカンにおいても,ホモ多糖であるβ-1,3-1,6グルカンと同様に,抗腫瘍活性がみられること,?C本件カタログが作成された当時(平成17年10月ころ),黒酵母培養液中のホモ多糖(グルコースポリマー)である「β-1,3-1,6グルカン」の含有量を直接測定あるいは分析する方法や検査機関は一般的に知られていなかったこと(弁論の全趣旨)が認められる。
上記?@ないし?Cの事情に照らすならば,生化学の技術分野において,ヘテログルカンにおけるグルコース部分の結合様式が互いにβ1↑3結合及びβ1↑3,1↑6結合であるからといって当該グルコース部分を「β-1,3-1,6グルカン」というのは一般的ではないとしても,一般消費者等向けの健康食品のカタログである本件カタログに,東レの結果報告書及び分析センターの試験成績書記載の両分析結果とを合わせて,グルコース同士が結合した高分子であって,その結合様式がβ1↑3結合及びβ1↑3,1↑6結合であるものと,マンノースと結合したグルコースの高分子を構成するグルコース部分がβ1↑3結合及びβ1↑3,1↑6結合であるものとを含めて分析センターが測定した「β-グルカン」含有量を,「真宝」及び「真宝SS(スーパースペシャル)」の「β-1,3-1,6グルカン」含有量として「成分表」欄に表示したこと(本件表示1)は,商品の品質を誤認させる虚偽の表示であるとまで認めることはできない。
b本件表示1の商品「真宝スペシャル」,「真宝EX」及び「徐福伝説」について前記(ア)a認定のとおり,「真宝スペシャル」,「真宝EX」及び「徐福伝説」の原料である黒酵母培養液は,「真宝」及び「真宝SS(スーパースペシャル)」と同様に,被告アウレオによって同一の培養装置によって培養されているのであるから,黒酵母培養液に含有されている「β-グルカン」(ヘテログルカンにおけるグルコース部分を含む。)の結合様式も「真宝」及び「真宝SS(スーパースペシャル)」と同様であることを推認することができ,上記推認を妨げる証拠はない。
したがって,前記aと同様の理由により,本件カタログに,分析センターが測定した「β-グルカン」含有量を,「真宝スペシャル」,「真宝EX」及び「徐福伝説」の「β-1,3-1,6グルカン」含有量として「成分表」欄に表示したこと(本件表示1)は,商品の品質を誤認させる虚偽の表示であるとまで認めることはできない。
(ウ) 原告らの主張に対する判断a原告らは,分析センターによる「β-グルカン」の定量分析と東レによる「β-グルカン」の構造分析の両分析結果を合わせ考慮しても,分析センターが測定した「β-グルカン」の含有量にはマンノースと結合していたグルコースをも含むことになるから,分析センターが測定した上記含有量を「β-1,3-1,6グルカン」(ホモ多糖)の含有量として「成分表」欄に表示することは誤りであって,虚偽の表示に当たる旨主張する。
しかし,前記(イ)aで検討したとおり,グルコース同士が結合した高分子であって,その結合様式がβ1↑3結合及びβ1↑3,1↑6結合であるものと,マンノースと結合したグルコースの高分子を構成するグルコース部分がβ1↑3結合及びβ1↑3,1↑6結合であるものとを含めて分析センターが測定した「β-グルカン」含有量を,被告キャッツの各商品の「β-1,3-1,6グルカン」含有量として「成分表」欄に表示したこと(本件表示1)は,商品の品質を誤認させる虚偽の表示であるとまで認めることはできず,原告らの上記主張は理由がない。
b原告らは,分析センターの定量分析と東レの構造分析における「β-グルカンの画分」の調製方法の原理が同一であったとしても,調製方法の操作自体は同一ではなく,分析センターの定量分析のβ-グルカンの画分と東レの構造解析のβ-グルカンの画分は,全く同じではないから,両分析結果を合わせて論ずることはできない旨主張する。
しかし,前記(イ)a(a)で検討したとおり,分析センターの定量分析と東レの構造分析とを対比すると,検体から採取した試料から,α-グルカン及びタンパク質を除いて,分析用の「β-グルカン画分」を調製するまでの原理はほぼ同様であり,調製された「β-グルカン画分」には,グルコースのみが結合した多糖(高分子)とともに,グルコースと他の糖(マンノース等)が結合した多糖(高分子)も存在し得る状態にあることも同様であることに照らすならば,分析センターの定量分析した「β-グルカン画分」と東レが構造解析した「β-グルカン画分」とが同一のものでないからといって,両分析結果を合わせて論ずることが不合理であると断ずることはできず,原告らの上記主張は採用することができない。
c原告らは,?@分析センターの定量分析と東レの構造分析の結果を合わせて論ずるのであれば,同一試料を用いなければならないのに,被告キャッツの商品「真宝」及び「真宝SS(スーパースペシャル)」については,検体に用いられた商品が,製造時期等が異なるもので同一ではなく,また,「真宝スペシャル」,「真宝EX」及び「徐福伝説」については,分析センターの分析試験がされているだけで,東レによる構造分析が行われていないこと,?A黒酵母培養液などの微生物を利用した培養及び発酵は,全く同一の培養条件で行われることはありえず,同一培養装置を利用しても,全く同じ品質の製品が製造されることはないことは周知であり,また,乳酸菌の細胞壁に含まれる多糖成分が,β-グルカンとして検出される可能性など添加物によりグルカンの値が変化することなどに照らすならば,分析センターの定量分析と東レの構造分析の結果を合わせて,分析センターが測定した「β-グルカン」の各含有量を,被告キャッツの各商品の「β-1,3-1,6グルカン」含有量として「成分表」欄に表示することは虚偽の表示に当たる旨主張する。
しかし,原告らの上記主張は,以下のとおり理由がない。
(a)商品又はその広告等の表示が,当該商品の品質について「誤認させるような表示」(不正競争防止法2条1項13号)に該当するというためには,当該表示が「誤認させるような表示」に該当すると主張する者において,当該表示が客観的事実に反すること及び当該表示により表示の受け手において客観的事実に反する認識を持つことを相当程度立証することを要するものと解するのが相当である。
しかるに,原告らは,上記?@及び?Aのような理由を挙げるだけで,被告キャッツの各商品について,同一試料の検体を用いた場合には,分析センター作成の試験成績書あるいは東レ作成の結果報告書に記載された分析結果と異なる結果となることを具体的な実験結果等の証拠による裏付けを示して立証するものではなく,被告キャッツの各商品の「β-1,3-1,6グルカン」含有量の表示が客観的事実に反することを相当程度立証するに至っていないというべきである(一方で,被告キャッツの上記各商品は,原料の黒酵母培養液が被告アウレオによって同一の培養装置によって培養された商品であり,上記各商品は市販されている商品であるから,同一商品であれば,製造時期が異なるものであっても,個々の商品の品質は同一であると推認することができること,また,「真宝スペシャル」,「真宝EX」及び「徐福伝説」については,東レによる構造分析が行われていないが,「β-グルカン」(ヘテログルカンにおけるグルコース部分を含む。)の結合様式が「真宝」及び「真宝SS(スーパースペシャル)」と同様であることを推認することができることは,前記(イ)bのとおりである。)。
(b)したがって,分析センターの定量分析と東レの構造分析の結果を合わせて論ずることはできず,被告キャッツの各商品の「β-1,3-1,6グルカン」含有量の表示は虚偽の表示であるとの原告らの上記主張は,理由がない。
d原告らは,分析センターは,分析センターの分析結果を広告などに掲載するに当たっては事前に掲載の承認を求めているのに(甲7の1ないし3),その承認を得ることなく,本件カタログに,分析センターの分析結果である「β-グルカン」含有量の数値を「β-1,3-1,6グルカン」含有量として流用して表示することは許されない旨主張する。
しかし,分析センターの掲載承認手続を経由したかどうかは,分析センターとの関係における手続上の問題であって,本件カタログにおける被告キャッツの各商品の「β-1,3-1,6グルカン」含有量の表示が客観的事実に反するかどうかと直接結びつくものではなく,上記「β-1,3-1,6グルカン」含有量の表示が品質誤認表示に該当するかどうかの結論に影響を及ぼすものではない。
(エ) 小括以上によれば,本件表示1の「成分表」欄記載の被告キャッツの各商品の「β-1,3-1,6グルカン」含有量の表示は,虚偽の表示であって,上記各商品の品質を誤認させる表示であるとの原告らの主張は理由がない。
(2) 本件表示2ないし5についてア 本件表示2ないし4について原告らは,本件ねこしんぶんの本件表示2,本件キャッツホームページの本件表示3及び本件アウレオホームページの本件表示4の各比較広告(比較表示)は,分析センターの試験成績を引用し,被告キャッツの商品「真宝」又は被告アウレオの商品「黒酵母βグルカン」(「真宝」と商品名が異なる同一商品)が,他社商品よりも,β-1,3-1,6グルカンの含有量が多いことを表示するものであるが,被告キャッツ及び被告アウレオの上記各商品のβ-1,3-1,6グルカン含有量の表示は,いずれも虚偽の表示であって,上記各商品の品質を誤認させる表示である旨主張する。
しかし,原告らの主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)本件表示2ないし4(前記第2の2(3)イ,ウ,(4)ア)には,「真宝」又は「黒酵母βグルカン」,「A社」ないし「D社」の各商品について,「β-グルカン含有量(100g中)」欄及び「β-グルカン含有量(1袋中)」欄に各含有量が表示されているが,上記「真宝」及び「黒酵母βグルカン」のβ-グルカン含有量は,本件カタログの本件表示1中の「真宝」についての「分析試験結果」欄の「β-グルカン含有量」と合致するものであり,また,「黒酵母βグルカン」は「真宝」と商品名が異なる同一製品である。したがって,上記「真宝」及び「黒酵母βグルカン」の各β-グルカン含有量は,分析センターの分析試験成績書(乙1の1)に基づくものであって,虚偽の表示であるとはいえない。
また,本件表示2ないし4中には,「β-1,3-1,6グルカン含有量」欄はなく,「真宝」又は「黒酵母βグルカン」についての上記各含有量が,分析センターの「β-1,3-1,6グルカン含有量」であることを明記する記載もないから,本件表示2ないし4が,分析センターの試験成績を引用して,「真宝」又は「黒酵母βグルカン」についての「β-1,3-1,6グルカン含有量」を表示したものと認めることはできない。
(イ)したがって,本件表示2ないし4が,被告キャッツ及び被告アウレオの上記各商品の品質を誤認させる虚偽の表示であるとの原告らの上記主張は,理由がない。
イ 本件表示5について原告らは,本件健康産業新聞の本件表示5は,分析センターの分析値として,被告アウレオの商品「黒酵母βグルカン」のβ-1,3-1,6グルカンの含有量が「100g中420?r」であると表示しているが,虚偽の表示であって,上記商品の品質を誤認させる表示である旨主張する。
しかし,原告らの主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)本件健康産業新聞(甲6)には,「黒酵母・βグルカン・企業動向」,「可溶性がポイント,市場形成はこれから」との見出しの下に,被告アウレオ,「旭電化工業」及び「ダイソー」の3社の紹介記事が掲載されており,「アウレオ」(被告アウレオ)の欄には「(株)アウレオ(東京都港区)は,『黒酵母βグルカン』,『βグルカンEX』などの末端の商品展開のほか,黒酵母培養液の原料供給・OEM展開に注力。・・・また液状だけでなく,β-グルカンの純度が極めて高い粉体の開発に成功した。同社は黒酵母の培養技術を向上させ,各商品におけるβ-グルカンの含有量を大幅に上げることに成功した。『黒酵母βグルカン』は,製品100g中420?rのβ1,3/1,6グルカンを含有。黒酵母を培養して得られるアウレオバシジウム培養液そのままの,手を加えないジェル状の商品となる。またアウレオバシジウム培養液にEF乳酸菌を加えた『βグルカンEX』(100g中β-グルカン540?r含有)等を販売(数値は全て日本食品分析センターの分析値)。・・・」と記載されている。
上記記事中の「『βグルカンEX』(100g中β-グルカン540?r含有)等を販売(数値は全て日本食品分析センターの分析値)」との記載は,『βグルカンEX』についての「100g中β-グルカン540?r含有」との数値が分析センターの分析値であること示していることを自然に読み取ることができる。
さらに,「数値は全て」の「全て」の文言に注意を払えば,上記記載部分の数行上に記載された,『黒酵母βグルカン』についての「製品100g中420?rのβ1,3/1,6グルカンを含有」との部分についても分析センターの分析値であるかのような印象を与えるものである。しかし,分析センターは,β-1,3-1,6グルカン含有量を測定していないから,「数値は全て」の「全て」の文言は不適切な表現であるといわざるを得ない。
しかし,?@上記記事は,本件健康産業新聞の記者が,被告アウレオを取材し,その取材内容を編集して作成したものであり(甲6,弁論の全趣旨),被告アウレオが自ら作成したものではないこと,?A上記記事は,被告アウレオが「黒酵母・βグルカン」の製品の開発,販売に取り組んでいることを紹介することに主眼を置いたものであって,『黒酵母βグルカン』についての「β-1,3-1,6グルカン」含有量の数値が分析センターの分析値であることを強調し,宣伝効果を上げようとする内容のものではないこと,?B「黒酵母βグルカン」と商品名が異なる同一製品である「真宝」についての本件カタログ中の「成分表」欄の「β-1,3-1,6グルカン」含有量の表示(100g当たり420?r)が虚偽の表示に当たらないこと(前記(1)イ(イ)a(c))からすれば,「『黒酵母βグルカン』は,製品100g中420?rのβ-1,3-1,6グルカンを含有」との部分の記載内容自体も,虚偽の表示に当たらないこと,以上の?@ないし?Bに照らすならば,「数値は全て」の「全て」の文言は不適切な表現であるとはいえても,上記記事中の「『黒酵母βグルカン』は,製品100g中420?rのβ1,3/1,6グルカンを含有。・・・『βグルカンEX』(100g中β-グルカン540?r含有)等を販売(数値は全て日本食品分析センターの分析値)。・・・」との部分(本件表示5)が,被告アウレオによって表示された,被告アウレオの商品『黒酵母βグルカン』の品質を誤認させる虚偽の表示であるとまで認めることはできない。
(イ)したがって,本件表示5が,被告アウレオの上記商品の品質を誤認させる虚偽の表示であるとの原告らの上記主張は,理由がない。
(3) まとめ以上によれば,被告キャッツによる本件表示1ないし3及び被告アウレオによる本件表示4,5は,被告キャッツ及び被告アウレオの各商品の品質についての虚偽の表示に当たらず,原告らが主張する被告キャッツ及び被告アウレオによる品質誤認表示の不正競争の事実は認めることはできない。
2 争点2(営業誹謗行為該当性)について(1) 原告ら商品に関する過少表示の有無についてア原告らは,本件表示2ないし4の各比較広告(比較表示)は,被告キャッツの商品「真宝」又は被告アウレオの商品「黒酵母βグルカン」と他社(A社ないしD社)の商品とを比較するものであり,上記他社の「A社」とは,原告らを指し,「A社」欄に記載された商品が原告らの商品「天慈のしず久」を指すものであるところ,本件表示2では,「A社」(「天慈のしず久」)のβ-1,3-1,6グルカン含有量を「100g中360?r」,「1袋54?r」と,本件表示3及び本件表示4では,「A社」(「天慈のしず久」)のβ-1,3-1,6グルカン含有量を「100g中320?r」,「1袋48?r」とそれぞれ表示しているが,いずれも「天慈のしず久」のパッケージの表示とは異なる虚偽の事実を記載した過少表示である旨主張する。
しかし,原告らの主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)前記1(2)ア(ア)認定のとおり,本件表示2ないし4(前記第2の2(3)イ,ウ,(4)ア)には,「真宝」又は「黒酵母βグルカン」,「A社」ないし「D社」の各商品について,「β-グルカン含有量(100g中)」欄及び「β-グルカン含有量(1袋中)」欄に各含有量が表示されているが,「β-1,3-1,6グルカン含有量」欄はなく,また,上記各含有量が,分析センターの「β-1,3-1,6グルカン含有量」であることを明記する記載もないこと(本件表示2ないし4の注意書中にも,「※A社のβ-グルカン含有量」(本件表示2)あるいは「※A社,B社,D社のβグルカン含有量」(本件表示3,4)との記載があるにとどまり,「β-1,3-1,6グルカン含有量」との記載はない。)に照らすならば,本件表示2ないし4において,「A社」欄に記載された商品(「天慈のしず久」)のβ-1,3-1,6グルカン含有量が表示されているものと認めることはできない。
(イ)a証拠(乙10ないし12,52,53(いずれも枝番のあるものは枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(a)被告アウレオは,平成14年9月12日ころ,分析センターに対し,「天慈のしず久」(市販品)を検体とする分析試験を依頼し,分析センター作成の同月27日付け分析試験成績書(乙10)で分析結果の報告を受けた。上記分析試験成績書の分析試験項目「β-グルカン」の「結果」欄には,「100g中0.31g」との記載がある。
その後,被告アウレオは,平成15年10月30日ころ,分析センターに対し,「天慈のしず久」(市販品)を検体とする分析試験を依頼し,分析センター作成の同年11月18日付け分析試験成績書(乙11)で分析結果の報告を受けた。上記分析試験成績書の分析試験項目「β-グルカン」の「結果」欄には,「100g中0.32g」との記載がある。
(b)平成14年9月当時,「天慈のしず久」のパッケージには,β-1,3-1,6グルカン含有量が1袋15g中68?rと表記されていたが,平成17年8月以降の「天慈のしず久」のパッケージには,β-1,3-1,6グルカン含有量が1袋15g中60?rと表記されるようになった。
(c)被告アウレオは,本件訴訟が提起された後の平成19年6月29日,分析センターに対し,「天慈のしず久」(賞味期限が平成16年3月4日,平成19年12月20日,平成20年5月11日の市販品)を検体とする分析試験を依頼し,分析センター作成の平成19年7月17日付け各分析試験成績書(乙53の1ないし3)で,分析結果の報告を受けた。上記各分析試験成績書の分析試験項目「β-グルカン」の「結果」欄には,「100g中0.31g」(乙53の1),「100g中0.32g」(乙53の2),「100g中0.33g」(乙53の3)との記載がある。
b以上の認定事実を前提に検討する。
(a)まず,本件表示2(前記第2の2(3)イ)には,「A社」欄に記載された商品の「β-グルカン含有量(100g中)」欄に「360?r※」,「β-グルカン含有量(1袋中)」欄に「54?r※」との記載があり,また,注意書の「※」の項には,「※A社のβ-グルカン含有量は一袋あたり六八?rと表示されておりますが,A社の商品を購入して,(財)日本食品分析センターにて測定したところ,表示よりも低い数値だったので実際の測定値で比較しました。」との記載があり,β-グルカン含有量が分析センターの測定値であることを明示している。
そして,本件表示2の「A社」欄に記載された商品の「β-グルカン含有量(100g中)」欄の「360?r※」の表示は,「天慈のしず久」についての分析センター作成の分析試験成績書記載の「β-グルカン」含有量の分析結果「100g中0.31g」(乙10,乙53の1),「100g中0.32g」(乙11,乙53の2),「100g中0.33g」(乙53の3)をいずれも上回るものであるから,過少表示であると認めることはできない。また,100g中360mgを1袋15gで換算すると約54mgであるから,本件表示2の「β-グルカン含有量(1袋中)」欄の「54mg※」の表示も過少表示であるとはいえない。
(b)次に,本件表示3,4(前記第2の2(3)ウ,(4)ア)には,「A社」欄に記載された商品の「βグルカン含有量(100g中)」欄に「320?r※」,「βグルカン含有量(1袋中)」欄に「48?r※」との記載があり,また,注意書の「※」の項には,「※A社,B社,D社のβグルカン含有量について当社商品と条件をそろえるため,各メーカーが公表している数値ではなく,各メーカーの商品を当社が依頼している分析センターにて測定をした数値を表示しました。(C社は分析センターの検出限界以下なので測定しませんでした。)」との記載があり,β-グルカン含有量が分析センターの測定値であることを明示している。
そして,本件表示3,4の「A社」欄に記載された商品の「βグルカン含有量(100g中)」欄の「320?r※」の表示は,「天慈のしず久」についての分析センター作成の分析試験成績書記載の「β-グルカン」含有量の分析結果「100g中0.31g」(乙10,乙53の1),「100g中0.32g」(乙11,乙53の2),「100g中0.33g」(乙53の3)の中間値を示したものであり,しかも,分析結果の最大値よりも100g当たり0.01g下回っているにすぎないことに照らすならば,過少表示であるとまで認めることはできない。また,100g中320mgを1袋15gで換算すると約48mgであるから,本件表示3,4の「βグルカン含有量(1袋中)」欄の「48mg※」の表示も過少表示であるとはいえない。
(c)以上によれば,本件表示2ないし4中の「天慈のしず久」(「A社」の商品))のβ-グルカン含有量(β-1,3-1,6グルカン含有量)の表示は,虚偽の事実を記載した過少表示であるとの原告らの主張は理由がない。
cこれに対し原告らは,?@乙10の検体名が「培養液天慈」とされているのに対し,乙11の検体名は「Tenji」であること,?A被告らは,別件訴訟(第1事件及び第2事件)において乙10,11を提出していないこと,?B分析センターでは,他社製品の分析をするに際し,当該他社の承諾書を提出させた上で分析を行っているが(甲28の1,2),原告らは,乙10,11の分析試験について承諾書を提出していないこと,?C分析センターの各分析試験結果は,原告らが行った「天慈のしず久」のβ-1,3-1,6グルカン含有量の分析結果(甲29)の数値と齟齬することなどからすれば,分析センターの各分析試験(乙10,11,53の1ないし3)は,いずれも「天慈のしず久」を検体とする分析試験とはいえない旨主張する。
しかし,分析センターの各分析試験結果が,「天慈のしず久」を検体とするものであることは,上記aで認定したとおりであり,上記?@ないし?Bは,上記認定を左右するものではない。
また,上記?Cについても,甲29の分析結果が,分析センターの分析方法と同一又は実質的に同一の分析方法によるものであることを認めるに足りる十分な証拠はないから,分析センターの各分析試験結果と甲29の分析結果の数値が異なるからといって,分析センターの各分析試験が「天慈のしず久」を検体とするものではないことの根拠にはならない。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
(2) 営業誹謗行為該当性についてア原告らは,本件表示2ないし4の比較広告は,原告らの商品「天慈のしず久」のβ-1,3-1,6グルカン含有量について過少表示(虚偽の表示)をすることにより被告キャッツの商品「真宝」及び被告アウレオの商品「黒酵母βグルカン」が「天慈のしず久」よりも優れていることを誇示するとともに,「天慈のしず久」のβ-1,3-1,6グルカン含有量についての原告らの表示が偽りであると原告らを誹謗するものであるから,原告らの営業上の信用を害する虚偽の事実の告知又は流布に該当する旨主張する。
しかし,前記(1)で検討したとおり,?@本件表示2ないし4は,「β-1,3-1,6グルカン含有量」を表示するものではなく,分析センターの測定値として「β-グルカン含有量」を表示するものであること,?A本件表示2ないし4に表示された「真宝」及び「黒酵母βグルカン」(真宝と商品名が異なる同一商品)の「β-グルカン含有量」は分析センターの分析試験結果と合致すること,?B本件表示2ないし4に表示された「天慈のしず久」(「A社」の商品))のβ-グルカン含有量は,分析センターの分析試験結果と整合するものであって,虚偽の事実を記載した過少表示であるものとは認められないことに照らすならば,本件表示2ないし4の比較広告は原告らを誹謗するものであるから,原告らの営業上の信用を害する虚偽の事実の告知又は流布に該当するとの原告らの主張は,その前提を欠くものであり,理由がない。
イ以上によれば,被告キャッツによる本件表示2,3及び被告アウレオによる本件表示4は,「天慈のしず久」の品質についての虚偽の事実を記載した過少表示に当たるものではなく,また,原告らが主張する被告キャッツ及び被告アウレオによる営業誹謗行為の不正競争の事実は認めることはできない。
3 結論以上によれば,被告キャッツによる本件表示1ないし3及び被告アウレオによる本件表示4,5は,虚偽の表示に当たらないから,原告らが主張する被告キャッツ及び被告アウレオによる品質誤認表示及び営業誹謗行為の不正競争の事実を認めることはできず,また,原告らが主張する被告らによる本件和解の和解条項違反の事実も認めることができない。
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)目録1(1)被告株式会社キャッツドットコムの下記の商品(健康食品)について,β-1,3-1,6グルカン含有量が下記の数値であることの表示。
記「真宝」β-1,3-1,6グルカン含有量「100g中420?r」,「1袋15g中63?r」「真宝スペシャル」β-1,3-1,6グルカン含有量「100g中470?r」「真宝スーパースペシャル」β-1,3-1,6グルカン含有量「100g中600?r」「真宝EX」β-1,3-1,6グルカン含有量「100g中540?r」「徐福伝説」β-1,3-1,6グルカン含有量「100g中570?r」(2)原告らの下記の商品(健康食品)について,β-グルカン含有量又はβ-1,3-1,6グルカン含有量が下記の数値であることの表示。
記「天慈のしず久」・β-グルカン含有量「100g中360?r」,「1袋15g中54?r」・β-1,3-1,6グルカン含有量「100g中360?r」,「1袋15g中54?r」(別紙)目録2(1)被告株式会社アウレオ商品の下記の商品(健康食品)について,β-1,3-1,6グルカン含有量が下記の数値であることの表示。
記「黒酵母βグルカン」β-1,3-1,6グルカン含有量「100g中420?r」,「1袋15g中63?r」(2)原告らの下記の商品(健康食品)について,β-グルカン含有量又はβ-1,3-1,6グルカン含有量が下記の数値であることの表示。
記「天慈のしず久」・β-グルカン含有量「100g中320?r」,「1袋15g中48?r」・β-1,3-1,6グルカン含有量「100g中320?r」,「1袋15g中48?r」(別紙)目録31黒酵母βグルカン製品のカタログ「真宝シリーズ」(被告株式会社キャッツドットコム作成)2「ねこしんぶん平成17年11月号」(被告株式会社キャッツドットコム発行)(別紙)目録4謝罪広告株式会社キャッツドットコム(弊社)は,平成17年10月発行の「真宝シリーズ」に,弊社の取扱商品「真宝」,「真宝スペシャル」,「真宝スーパースペシャル」,「真宝EX」,「徐福伝説」などのβ-1,3-1,6グルカンの含有量について,財団法人日本食品分析センターの試験成績であるとして,「真宝??100g中0.42g」,「真宝スペシャル??100g中0.47g」,「真宝スーパースペシャル??100g中0.6g」,「真宝EX??100g中0.54g」,「徐福伝説??100g中0.57g」と記載し,ホームページ(・略・)にも同様の表示をしましたが,これらの表示は虚偽数値です。また,「ねこしんぶん平成17年11月号3頁」の比較広告の「液状βグルカン商品別比較表」の「天慈のしず久」を「A社」として,そのβ-グルカン含有量「100g中360?r」,「1袋(15g)中54?r」とする記載も虚偽数値であり,「真宝が,品質,コストパフォーマンスの両面において,トップレベルを示しました」との記載も正しくありません。
弊社は,上記の虚偽の表示や,不正競争行為を行って,消費者に誤認をさせたり,株式会社ソフィ,株式会社イムニィ・バランスに対して,多大なご迷惑をかけ「天慈のしず久」の信用を損ねたことを謝罪し,今後,かかる行為は絶対にしないこと,また,上記不正競争を組成した,「真宝シリーズ」や「ねこしんぶん11月号」の虚偽事実記載部分を,早期に回収することを誓約します。
(別紙)目録5謝罪広告株式会社アウレオ(弊社)は,健康産業新聞2006年(平成18年)4月5日号に,弊社の販売する「黒酵母βグルカン」β-1,3-1,6グルカン含有量について,日本食品分析センターの分析値であるとして,「黒酵母βグルカン」は100g中420?rと記載し,また,弊社のホームページ(・略・)の比較広告に,「天慈のしず久」をA社として,そのβ-グルカンの含有量「100g中360?r」,「1袋15g中54?r」とする記載も虚偽数値の表示です。
弊社は,これらの虚偽表示や,不正競争行為を行い,消費者を誤信させたり,株式会社ソフィ,株式会社イムニィ・バランスに対して,多大なご迷惑をかけ,「天慈のしず久」の信用を損ねたことを謝罪し,今後,かかる行為は絶対にしないことを誓約します。
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 関根澄子
裁判官 杉浦正典