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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19ワ27846損害賠償等請求事件 判例 不正競争防止法
平成17ワ2682損害賠償請求事件 判例 不正競争防止法
平成17ワ23171損害賠償等請求事件 判例 不正競争防止法
関連ワード 外観 /  差止請求(差止) /  デザイン /  代理人 /  代表者 /  秘密管理(秘密管理性) /  秘密として管理 /  秘密保持義務 /  有用性 /  非公知性 /  営業秘密 /  2条1項8号 /  不正開示行為 /  損害賠償 /  損害額 / 
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事件 平成 19年 (ワ) 11138号 不正競争行為差止等請求事件
原告株 式会社大木工藝
訴訟代理人弁護 士砂山一郎宮内勉 宮内俊江 水谷恭子 石井龍一 高島章光 築山鮎子
被告高 橋屋根工業株式会社
被告株式会社ティーアールティー
被告ら訴訟代理人弁護士石川敏行
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2008/11/04
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求1被告らは,原告に対し,連帯して,5000万円及びこれに対する平成19年9月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告らは,別紙被告ら製品目録1及び同2記載の各商品を製造し,譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,又は電気通信回線を通じて提供してはならない。
3被告らは,別紙被告ら製品目録1及び同2記載の各商品を廃棄せよ。
4訴訟費用は被告らの負担とする。
5仮執行宣言第2事案の概要等1事案の概要本件は,発熱セメント体に係る別紙営業秘密目録記載の情報(以下,同目録記載の情報につき,各番号を付して「本件情報1」などという。また,これらの各情報を合わせて「本件各情報」ともいう。)につき,被告らが原告従業員から不正に開示を受け,これを利用して別紙被告ら製品目録1記載の融雪瓦及び同目録2記載の融雪歩道板(以下,この融雪瓦及び融雪歩道板を合わせて「本件商品」と総称する。)を製造販売しているところ,かかる被告らの行為が不正競争防止法2条1項8号の不正競争に該当するとして,同法3条1項,2項に基づき本件商品の製造・譲渡等の差止め及びその廃棄を,同法4条に基づき損害賠償として5000万円及びこれに対する不正競争の後である平成19年9月21日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ求めた事案である。
2争いのない事実1原告は,写真,図柄,絵画等を特殊樹脂加工して路面及び壁面に転写する()業務等を目的とする株式会社である。
2被告高橋屋根工業株式会社は,屋根工事の請負業等を目的とする株式会社()である。
3被告株式会社ティーアールティーは,各種セメント瓦の製造販売等を目的()とする株式会社である。
3争点1本件各情報は不正競争防止法2条6項所定の「営業秘密」に当たるか。
()(争点1)ア本件各情報は有用な技術上の情報であるか(有用性)。
イ本件各情報は公然と知られていないものか(非公知性)。
ウ本件各情報は秘密として管理されているか(秘密管理性)。
2本件各情報の不正開示行為及び不正使用の有無(争点2)()3損害額(争点3) ()第3当事者の主張1争点1(本件各情報は「営業秘密」に当たるか。)について1本件各情報の有用性()【原告の主張】本件各情報は,以下の本件情報1ないし7から成るところ,いずれも実用的な製品を製造できるようにするための技術上の有用な情報である。
ア本件情報1の有用性発熱部と表面層が共にセメントベースであるため,それらの熱特性などが共通し,耐用年数が上がる。また,発熱部と表面層が共にセメントベースなので,製造コストを下げられる。さらに,発熱部は炭素を所定割合均一に混合しているので,遠赤外線を放射し,その遠赤外線は表面層を通過して雪を溶かしやすくする。
イ本件情報2の有用性コンクリートに馴染むような粒状又は粉状の炭素(黒鉛)とすることで,融雪板を製造する上において実用的に実現可能となる。
ウ本件情報3の有用性原告は,融雪板の知識のなかった被告らに多くのサンプルの試作を依頼し,そのサンプルを評価している。炭素の量が少なすぎると発熱量,熱伝導性が悪くなり,多すぎると強度が低くなる。
サンプルを試作して評価するには多大の費用,労苦,期間を必要とするので,炭素の量の数値をはじめとするサンプルに関する情報は「営業秘密」に該当する。
エ本件情報4の有用性絶縁体で覆うことによって漏電の危険性をなくすことができる。
オ本件情報5の有用性融雪板に4個の端子を設けることにより,実用的に複数の融雪板を並置することができる。
カ本件情報6の有用性融雪板の寸法を一辺約30?pとすることにより,故障時の交換,重量などを考慮してハンドリングし易い実用的な融雪板とすることができる。
キ本件情報7の有用性融雪板としてふさわしい外観とすることができる。
【被告らの主張】ア本件情報1の有用性発熱部と表面層との熱特性などの共通性が耐用年数を上げるという事実は,素材の不均質があるとひび割れなどの問題が発生するという認識を示すものであり,いわば技術的な解決課題を示す当業者の情報であるが,固有の有用性が示されたものではない。
発熱部及び表面部を共にセメントベースとすることによって製造コストを引き下げるという情報も,炭素混入セメント利用の発熱板開発に携わった当業者の共通認識であり,固有の有用情報ではない。
炭素を均一割合で混合すると遠赤外線を放射するという知見情報については不知。仮にかかる知見情報が真であるとしても,固有の有用情報ではない。
イ本件情報2の有用性否認する。
ウ本件情報3の有用性被告らは,原告の求めに応じて試作サンプルを多数回にわたり試作し,原告に提供し続けた。しかし,原告が被告らに対して提供した炭素量と発熱量・熱伝導性との相関関係に関する情報は,コンクリートが非発熱・非熱伝導材であることを考えれば,非公知でも特に有用な情報でもない。
エ本件情報4の有用性絶縁体で覆うことによって漏電の危険性をなくすことは,積水化学工業株式会社が発熱コンクリート板に関する実用新案を公開した昭和55年より,当業者により当然に考慮されていたことであり,固有の有用情報ではない。
オ本件情報5ないし7の有用性本件情報5ないし同7は,いずれも設計的事項に属するものであり,固有の有用情報ではない。
2本件各情報の非公知性()【原告の主張】平成15年10月当時,本件各情報は公知ではなかった。
被告らは,次の各公知文献を根拠に本件各情報は公知のものであったと主張するが,これらに記載されたものは,いずれも本件各情報とは異なるものである。
ア乙第1号証の特許公報(特公昭41-3945号公報以下「乙1公報」という。)被告らは,本件情報1は乙1公報により平成15年10月ころには公知であったと主張するが,そもそも乙1公報は融雪に関するものではない。
イ乙第23号証の公開特許公報(特開2000-110106号公報以下「乙23公報」という。)について被告らは,本件情報1ないし3は乙23公報により平成15年10月ころには公知であったと主張する。しかし,乙23公報では,「導電性粉末」として「カーボン,グラファイト」と特定しているわけではなく,「カーボン,グラファイトまたは金属メッキした中空のガラス球体」(乙23公報【特許請求の範囲】の【請求項5】)と記載しているにすぎない。
この記載は,導電性を有する物質であれば,性質,構造を問わないというものであり,そこでの導電性物質として炭素系の「導電性粉末」を特定したのは,原告が最初である。
また,乙23公報においては,道路形成層を構成する物質を「アスファルト,セメント」に特定したわけではなく,「ゴム,エラストマーまたは合成樹脂である構造材」を含んでおり,道路としての使用に耐え得る構造材であればその種類,内容を問うものではない。よって,乙23公報に取り上げられている構造材は単なる例示にすぎず,この道路構造材を「導電性粉末に適合したセメント系構造材」であると確定したのは,原告が最初である。
このように,本件各情報は,全体として技術的に相関連した構成要件をなすことで初めて確定した技術情報となるものであり,乙23公報には記載されていない。
ウ乙第24号証の公開実用新案公報(実開昭55-129398号公報以下「乙24公報」という。)について被告らは,本件情報1及び同2は,乙24公報により平成15年10月ころには公知であったと主張する。しかし,乙24公報においては,「コンクリート板に面状発熱体を挟み込む」方式を採っている上に,非導電性コンクリート板内に鉄棒製の格子枠を内蔵させており,非導電性コンクリート板のみによる構造体の維持については全く考えられていない。また,「導電性体」については,「導電性炭素粉末」を単体で利用するものではなく,その実施例にあるとおり,「炭素繊維などの導電性繊維を混練して成形した」発熱コンクリート板とするものであって,本件情報1のような裏面層発熱部(本件発熱体)とこれを取り巻く表面層非発熱部とからなる融雪板でも,本件情報2のような粒状又は粉状の炭素を使用するものでもない。さらに,その耐性についても,乙24公報では,持続的に長期の耐性を有するものではなく,この点でも本件情報1及び同2とは著しく異なる。
【被告らの主張】ア乙1公報について炭素素を混入したコンクリートに通電させると発熱することは,少なくとも昭和41年段階で公表されていた(乙1公報)。
イ乙23公報について「融雪道路および融雪道路構造材」に関する発明として,乙23公報では,「上部道路形成層と下部道路形成層との間に面状導電性発熱体を介在させ,該面状導電性発熱体をマトリックス材と導電性粉末との混合体からなる導電性発熱層の上下両面にそれぞれ電極を面状に分布するように配置して構成し,かつ前記上部道路形成層,面状導電性発熱体,下部道路形成層を一体の単位ブロックに形成した融雪道路用構造材」が開示されている(乙23公報【特許請求の範囲】の【請求項4】)。
また,「導電性粉末」として「カーボン,グラファイト」という炭素からなる元素鉱物が挙げられており(同【特許請求の範囲】の【請求項5】及び同【発明の詳細な説明】の【0009】),「マトリックス材」として「セメント」が挙げられている(同【特許請求の範囲】の【請求項6】及び同【発明の詳細な説明】の【0010】)。また「導電性粉末の割合が少ないと抵抗値が増加して印加電圧を高くしなければならない」こと,逆に「導電性粉末の割合が多いと,融雪道路の発熱量が過剰になる」ことの認識の上に,好ましい導電性粉末の割合に関して,グラファイトを用いた場合は「7〜15重量%」とする記載がある(同【特許請求の範囲】の【請求項6】及び同【発明の詳細な説明】の【0013】)。さらに「上部道路形成層と下部道路形成層との間に面状導電性発熱体を介在させる」ことの構造的特質に関する記載がある(同【特許請求の範囲】の【請求項6】,同【発明の詳細な説明】の【0017】及び同【0018】)。
よって,本件情報1ないし3は,乙23公報(公開日:平成12年4月18日)により,平成15年10月ころには既に公知であった。
ウ乙24公報について「発熱コンクリート板」に関する考案として,乙24公報では,「周囲に鉄筋の配設された面状発熱体がコンクリート板中に埋設されてなる発熱コンクリート板」が開示されている(乙24公報「実用新案登録請求の範囲」の1)。そして,「面状発熱体」として,「導電性炭素粉末や炭素繊維などの導電性繊維を混練して成形した合成樹脂又はコンクリート板等が好適に使用される」ことが開示されている(乙24公報の明細書2頁17〜19行)。また当該「発熱コンクリート板Aはリード線12を電源に接続すると表面が均一に発熱する。又鉄筋2が配設されているので強度があるため,道路の凍結防止用,融雪用として特に危険な交叉点,踏切り等の敷石として好適に使用される」ことが開示されている(同4頁6〜10行)。
乙24公報の明細書添付図面における導電性炭素粉末を使用した面状発熱体1の周囲に配されたコンクリート板3が,面状発熱体1の上側で表面層を形成しているといえることを考慮するならば,融雪に関係し,炭素粉末を使用し,セメントをベースとし,裏面層発熱部に積層して設けられた表面層を備えることは,昭和55年当時において,既に公知の技術情報であった。
よって,本件情報1及び同2は,乙24公報(公開日:昭和55年9月12日)により,平成15年10月ころには既に公知であった。
エ融雪板の分野において,炭素粒又は炭素粉をコンクリートやセメントに混入させることについては,以下の文献が言及しており,本件情報2は,平成15年10月ころには既に公知であった。
「融雪用ブロックヒーター」に係る公開特許公報(特開2002-(ア)242118号公報,公開日:平成14年8月28日,乙26)「普通コンクリート材に0.5〜3重量%のカーボンを混入して」「ブロック表面への熱伝導効率向上させること」及び「ブロックヒーターのコンクリート部分を形成すること」が開示されている(同公報【発明の詳細な説明】の【0011】及び同【0015】)。
「融雪システム」に係る公開特許公報(特開2003-96740(イ)号公報,公開日:平成15年4月3日,乙27)「道路上に敷設するセメントに,粉末カーボンを混入させて,発熱体と舗装とを兼用させること」が開示されている(同公報【発明の詳細な説明】の【0007】)。
「床板」に係る公開特許公報(特開2000-160503号公報,(ウ)公開日:平成12年6月13日,乙28)「主原料たるコンクリートに,ゴム製品焼却による残灰であるところの粉末状カーボンを3〜5%添加した原料を固めて板体を形成すること」が開示されている(同公報【特許請求の範囲】の【請求項7】)。
3本件各情報の秘密管理性()【原告の主張】原告は,平成15年当時,龍谷大学のレンタル研究室を賃借して,研究開発を行っていた。原告が借りていた一室の入口は,電子キーにより施錠されるものであり,その電子キー3本のうち1本は施設管理者としての龍谷大学が,うち1本は原告顧問のP1教授が,残り1本は原告代表者がそれぞれ所持していた。なお,電子キーは,合鍵を作成することが容易でない。
よって,これらの者以外の者が同研究室に入室するには,これらの者のいずれかと同行するよりほかにない。
本件各情報が記載された甲第3号証及び甲第17号証(以下,これらを合わせて「P2起案」という。)は,同研究室内にある原告代表者のXの引き出し付執務机の鍵付き引出しに保管されていた。そして,同引出しの鍵は,Xのみが所持していた。
以上より,本件各情報は秘密として管理されていた。
【被告らの主張】不知2争点2(本件各情報の不正開示行為及び不正使用の有無)【原告の主張】1被告らの代表者であるYは,平成15年10月ころ,原告が電気技師とし()て雇用していたP2を石巻まで呼ぶなどして,同人から本件各情報を聞き出した。また,Yは,原告が同年12月15日にP2を技術指導として被告高橋屋根工業株式会社に出張させた際にも,P2から本件各情報を聞き出した。
P2は原告の従業員として本件各情報を外部に漏洩しない義 このように,務を負う立場であったにもかかわらず,被告らに対し,本件各情報を不正に開示した。
2被告らは,P2が本件各情報を不正に開示したことを知りながら,被告ら()が製造,販売及び販売広告を行っている本件商品(別紙被告ら製品目録1の融雪瓦及び同目録2の融雪歩道板)について,本件各情報を使用している。
すなわち,以下のとおり,本件商品において,本件各情報が使用されている。
ア被告ら作成にかかる本件商品のパンフレット(甲4,5)中,「この度,新たに開発された“融雪歩道板”はリサイクル素材で作った歩道板(30?p四方)の裏に,発熱板を組み込み,電流を通すことで発生する遠赤外線によって融雪する画期的な商品です。」とあること,及び同パンフレット中の「発熱板(正式名称「遠赤外線面状発熱板」特許出願中)は,セメントに導電性の高い極微量のカーボン(炭素)を均一に混合させたもの(新素材「ナノカーボンセメント」)で,表面温度はカーボンの割合を変えることで,自由に変化させることができます。」とある。
イ同パンフレット中の主な使用「カーボン発熱体およびセメント板」とある。
3なお,被告らは,P2及びYらを発明者として,平成15年12月26日()及び平成16年12月17日に,それぞれ特許出願を行っているところ(特願2003-433365,特願2004-365911),これらは,いずれも本件情報1及び同2を備えたものであり,技術情報を冒認出願したものである。
【被告らの主張】平成15年10月ころに石巻までP2を呼び出した事実はない。ま Yが,た,Yは,同年12月15日に,P2からP2起案の開示を受けたこともない。その余の事実については不知。
Yは,平成15年12月5日,Xから「京都大学元教授」としてP2を紹介された。Yは,同月14日,P2から「工場訪問」の予告を受け,翌15日にP2が訪問した。そして,P2から被告らの技術開発への協力の申し出があったことから,Yはこれを了承した。
なお,原告が主張する特許出願は,同月19日,P2の指示に従って行ったものであるが,結局,先行公開技術の存在により特許拒絶された。
3争点3(損害額)について【原告の主張】本件各情報は,P2により被告らに対して不正に開示され,被告らはこれを知りながら本件各情報を使用するところ,これにより原告に損害が生じた。
その額について,原被告間の交渉過程で作成された秘密保持契約書案(甲9)の定めによれば,秘密保持義務違反について,被告らは,損害賠償基本費用として5000万円の賠償義務を負う旨定められていることからすると,少なくとも,本件における原告の損害も5000万円を下回らない。
【被告らの主張】原告の主張は争う。原告は,署名捺印がされていない秘密保持契約書の文案を根拠に損害額を主張するが,全く根拠がないものである。
第4当裁判所の判断1争点1(本件各情報は「営業秘密」に当たるか。)について原告は,本件情報1ないし7をもって不正競争防止法2条6項にいう「営業秘密」であると主張する。同主張の趣旨は,本件情報1ないし7それぞれが個別的に営業秘密であるとともに,これらの各情報が組み合わされた本件各情報が全体として営業秘密性を有すると主張するものであると解される。そこで,以下,本件情報1ないし7が個別的に「営業秘密」に該当するか否かを検討し,その後に本件各情報が全体として営業秘密性を有するか否かを検討することとする。
1本件情報1及び同2の営業秘密該当性()原告は,「発熱部とその周りに表面層を有し,発熱部と表面層はともにセメントをベースとし,発熱部は導電性を高くするよう炭素を所定割合均一に混合している融雪板の構造」(本件情報1)及び「粒状又は粉状の炭素(黒鉛)を使用すること」(本件情報2)をもって,「営業秘密」に該当する情報であると主張する。これに対し,被告らは,本件情報1及び同2は乙23公報により公知であると主張するので,まず本件情報1及び同2と乙23公報との関係について検討する。
ア乙23公報に記載された発明乙23公報の【特許請求の範囲】には以下の記載があることが認めら(ア)れる。
上部道路形成層と下部道路形成層との間に面状導電性 【請求項4】発熱体を介在させ,該面状導電性発熱体をマトリックス材と導電性粉末との混合体からなる導電性発熱層の上下両面にそれぞれ電極を面状に分布するように配置して構成し,かつ前記上部道路形成層,面状導電性発熱体,下部道路形成層を一体の単位ブロックに形成した融雪道路用構造材。
【請求項5】前記導電性粉末がカーボン,グラファイト,または金属メッキした中空カラス(判決注:「ガラス」の誤記と解される。)球体である請求項4に記載の融雪道路用構造材。
【請求項6】前記マトリックス材がアスファルト,セメント,ゴム,エラストマー,または合成樹脂である請求項4または5に記載の融雪道路用構造材。
乙23公報の【発明の詳細な説明】には以下の記載があることが認め(イ)られる。
【0017】本発明の融雪道路は,上記の面状導電性発熱体を上部道路形成層と下部道路形成層との間に介在して構成されている。この上部道路形成層と下部道路形成層としては,舗装用セメント,舗装用アスファルト等,道路の舗装に使用される路面舗装用材料に,各種の混和材,骨材等を混合して層状に形成した層である。この上部道路形成層と下部道路形成層は,前記導電性発熱層に使用した路面舗装用材料と同一の材料から形成することができる。この場合,各層間の結合が強くなるので,得られる道路の強度を向上できる。なお,上部道路形成層の厚さは,2〜4?pとするのが好ましく,特に3?pとするのが好ましい。上部道路形成層が薄いと十分な路面強度が得られず,厚いと発熱体層の発熱量が不足するからである。
乙23公報の上記【請求項4】の「上部道路形成層」及び「下部道路(ウ)形成層」は,その構造から,両者を合わせて本件情報1にいう「表面層」に,上記【請求項4】の「面状導電性発熱体」及び「融雪道路用構造材」は,その構造から,それぞれ本件情報1にいう「発熱部」及び「融雪板」に相当するものと認められる。
そして,上記【請求項4】の面状導電性発熱体は,マトリックス材と導電性粉末との混合体からなる導電性発熱層と,その上下両面にそれぞれ電極を面状に分布するように配置して構成されるところ,上記【請求項5】には,導電性粉末の例として「カーボン」が記載されており,上記【請求項6】には,マトリックス材の例として「セメント」が開示されていることが認められる。また,上記【0017】には,「上部道路形成層」と「下部道路形成層」の材料の例として,「舗装用セメント」が開示されていることが認められる。なお,上記【0017】は,直接的には乙23公報【特許請求の範囲】の【請求項1】の融雪道路に係る記載であるが,同【請求項4】の融雪道路用構造材は融雪道路と同じ構造を採っており,単にこれを一体の単位ブロックに形成したにすぎないものであるから,上記【0017】の記載に接した当業者は,同記載を融雪道路用構造材に係る記載とも読むと解される。
そうすると,乙23公報には,「導電性発熱体とその周りに上部道路形成層及び下部道路形成層を有し,導電性発熱体と上部道路形成層及び下部道路形成層はともにセメントをベースとし,導電性発熱体は導電性を高くするよう炭素を所定割合混合している融雪道路用構造材の構造」及び「粉状の炭素を使用すること」が記載されているものと認められる(以下,乙23公報に記載された上記発明を「乙23発明」という。)。
イ乙23発明と本件情報1との対比乙23発明と本件情報1とは,「発熱部とその周りに表面層を有し,(ア)発熱部と表面層はともにセメントをベースとし,発熱部は導電性を高くするよう炭素を所定割合混合している融雪板の構造」という点において一致することから,本件情報1のうち上記一致点に係る情報は,遅くとも乙23公報により乙23発明が公開された後である平成15年10月当時には公知であったと認められる。
この点,原告は,乙23公報では導電性物質として炭素系であることを特定しておらず,また,道路形成層を構成する物質を「セメント」にも特定していないとして,これらを特定したことにつき技術情報としての非公知性があると主張する。
確かに,乙23公報において開示されているマトリックス材と導電性物質に係る材料の組合せは複数通りあるところ,乙23公報にはマトリックス材の例としてセメントが,導電性物質の例としてカーボン(すなわち炭素)が明示されているから,マトリックス材としてセメントを,導電性物質として炭素を組み合わせる技術的知見が開示されていることが明らかである。したがって,マトリックス材及び導電性物質の中から特にセメントと炭素とを組み合わせた場合に他の組合せとは異なる特段の優れた作用効果を奏するというのであれば,いわゆる選択発明と同視し得る新規な技術的知見が含まれるものとして非公知性ないし有用性を肯定し得る余地が全くないわけではないと解される。
この点について,原告は,セメントベースであるから耐用年数が上がるとか,製造コストを下げられると主張する。しかし,これらはセメントベースである以上,当然に予測できる範囲内の事項にすぎない。そして,他に炭素とセメントとを組み合わせた場合に,上記の特段の優れた作用効果を奏すると認めるに足りる証拠はない。
よって,炭素とセメントに特定したことについて非公知性(さらには有用性)を肯定することはできず,上記組合せに係る情報は,乙23発明の域を出るものではないと認められるので,乙23公報により公知であったというべきである。
他方で,本件情報1では,炭素の混合が均一であるとされているのに(イ)対し,乙23発明ではその点が明確でないことにおいて一応相違するということができる。そこで,かかる相違点に係る情報の有用性について検討する(上記相違点に係る情報が非公知か否かはしばらく措く。)。
この点について,原告は,発熱部は炭素を所定割合均一に混合しているので,遠赤外線を放射し,その遠赤外線は表面層を通過して雪を溶かしやすくすると主張する。しかしながら,炭素を均一に混合していることと,遠赤外線を放射することを因果的に裏付ける証拠はない。また,仮にこのような効果があるとしても,乙23発明において,セメントに炭素を混合することが開示されている以上,炭素を混合するに当たり,偏りのないよう均一に混合するというのは,当業者であれば通常の創意工夫の範囲内において適宜に選択する設計的事項にすぎない。また,上記相違点に係る情報には炭素を均一に混合するための特別な方法が具体的に開示されているわけでもない。したがって,単に均一に混合するという上記相違点に係る情報は,それだけでは到底技術的に有用な情報とは認め難い。
ウ乙23発明と本件情報2との対比乙23発明と本件情報2とは,「粉状の炭素を使用すること」という(ア)点において一致し,本件情報2では使用する炭素が「粒状」のものも含むのに対し,乙23発明には「粒状」に係る明確な記載がない点で一応相違するということができる。
しかしながら,乙23発明における導電性「粉末」の大きさについて,(イ)乙23公報【発明の詳細な説明】の【0009】では,「平均粒径0.5〜500μmの球状,貝殻状,鱗状,針状,繊維状等の粒子からなる粉末である」旨記載されている。これによれば「粉末」が「粒子」からなるものとされ,両者が異なるものとして記載されているものではない。
他方,本件情報2においても「粒状」と「粉状」とが異なる径を持つものであるものとして明確に定義されて使い分けられているものではない(P2起案にも,炭素の大きさについて何らの記載もない。)。そうすると,乙23発明にいう「平均粒径0.5〜500μm」の粉末は,本件情報2にいう「粒状」と実質的に同一の概念として使用されているものと認められ,乙23発明は,実質的に「粒状」に関する記載がされているものといえる。
そうすると,乙23発明の「粉状の炭素」と本件情報2の「粒状又は粉状の炭素」とは実質的に同一というべきである。
よって,本件情報2は,乙23公報により,遅くとも乙23発明が公(ウ)開された後である平成15年10月当時には公知であったというべきである。
エ小括以上のように,本件情報1は,炭素を均一に混合するという点を除いて,乙23公報により平成15年10月当時において既に公知であったものであり,炭素を均一に混合するという点についても,有用な技術情報とはいい難いことからすれば,不正競争防止法2条6項にいう「事業活動に有用な技術上…の情報であって,公然と知られていないもの」ということはできず,同項にいう「営業秘密」に該当するとは認められない。
また,本件情報2は,乙23発明と実質的に同一であるから,平成15年10月当時,公知であったと認められるので,上記条項にいう「公然と知られていないもの」に該当せず,同項にいう「営業秘密」には該当しない。
なお,原告は,「油抜き」した炭素を使用することを「付加価値的要件」であるなどと主張するところ,このことを営業秘密の要件との関係でどのように位置づけるかなど,その主張の趣旨は明らかでなく,裁判所による求釈明にもかかわらず原告はこの点を明らかにしない。仮に「油抜き」した炭素を使用することを営業秘密の要件として主張するものと解したとしても,原告が秘密管理性の基礎とするP2起案には「油抜き」に係る記載は一切見受けられず,「油抜き」に係る情報が秘密として管理されていたのか不明である上,「油抜き」の具体的内容も不明であることから,その有用性についてもまた不明というほかない。よって,いずれにしても,本件情報1及び同2が「営業秘密」に該当するとの原告の主張が失当であることに変わりはない。
2本件情報3の営業秘密該当性()原告は,「セメントベースに対する炭素の重量割合」(本件情報3)をもって「営業秘密」に該当すると主張し,その有用性について,炭素の量の数値を初めとするサンプルに関する情報は「営業秘密」に該当すると主張する。
しかし,原告は,本件情報3の内容として,単に「重量割合」と主張するにすぎず,それがどの程度の割合であるかについて何ら特定していないのであるから,このような主張では,真に有用性がある情報かどうか不明といわざるを得ない。
よって,本件情報3の有用性にかかる原告の主張は失当であり,本件情報3は「営業秘密」に該当しない。
なお,原告は,セメントに対する炭素の重量割合を「10%ないし20%」にすることをもって「付加価値的要件」であるなどと主張するところ,裁判所による求釈明にもかかわらず,この主張の趣旨を明らかにしない。仮に炭素の重量割合を「10%ないし20%」にすることを本件情報3の有用性を基礎づけるものとして主張するものと解したとしても,原告が秘密管理性の基礎とするP2起案には,炭素の重量割合がどの程度であればよいのかについて何ら記載されていないのであるから,同情報が秘密として管理されていたのか不明といわざるを得ず,いずれにしても本件情報3が「営業秘密」に該当するとの原告の主張が失当であることに変わりはない。
3本件情報4の営業秘密該当性()原告は,「発熱部の周囲を絶縁体で覆うこと」(本件情報4)をもって「営業秘密」に該当すると主張し,その有用性として,絶縁体で覆うことによって漏電の危険性をなくすことができると主張する。
しかし,原告は,本件情報4の内容として,単に「絶縁体で覆うこと」と主張するにすぎず,どのような方法で絶縁するかについて何ら特定していない。そして,本件情報4の有用性に係る原告の上記主張は,単に絶縁を施した際の作用効果を述べるものにすぎず,具体的な有用性を主張するものではない。
よって,本件情報4には有用性が認められず,「営業秘密」には当たらない。
4本件情報5の営業秘密該当性()原告は,「融雪板が4個の端子を有するのがよいこと」(本件情報5)をもって「営業秘密」に該当すると主張し,その有用性として,実用的に複数の融雪板を並置することができると主張する。
しかし,端子の数を4個にすることと融雪板を並置できることとの関連性は不明であり,他に端子の数を4個にすることによる特段の作用効果は主張されていない。そもそも,端子を何個にするかは,融雪板をどの程度の大きさにするのかとの関係において,当業者の通常の創意工夫の範囲内において適宜に選択される設計的事項にすぎないというべきである。
よって,本件情報5には有用性が認められず,「営業秘密」には当たらない。
5本件情報6の営業秘密該当性()原告は,「融雪板の適切な具体的な寸法が,一辺が約30?pがよいこと」をもって「営業秘密」に該当すると主張し,その有用性として,ハンドリングしやすい実用的な融雪板とすることができると主張する。
しかし,融雪板をどのような寸法にするかは,まさに当業者の通常の創意工夫の範囲内において適宜に選択される設計的事項にすぎないというべきであり,一辺が30?pであることについて,特段の作用効果も認められない。
よって,本件情報6には有用性が認められず,「営業秘密」には当たらない。
6本件情報7の営業秘密該当性()原告は,「融雪板の適切な表面デザイン」をもって,「営業秘密」に該当すると主張し,その有用性として,融雪板としてふさわしい外観とすることができると主張する。
しかし,原告は,かかるデザインの内容を何ら具体的に特定していない。
また,P2起案にも融雪板のデザインは見受けられない。そうすると,原告の本件情報7の主張では,真に有用性がある情報かどうか不明といわざるを得ない。
よって,本件情報7は「営業秘密」には当たらない。
7本件各情報全体の営業秘密該当性()以上のとおり,本件各情報は,個別的に検討していずれも不正競争防止法2条6項にいう「営業秘密」に該当するとは認められない。そして,本件各情報を全体としてみても,上記のとおりそれぞれ公知か又は有用性を欠く情報を単に寄せ集めただけのものであり,これらの情報が組み合わせられることにより予測外の特別に優れた作用効果を奏するとも認められない(そのような主張立証もない。)。したがって,本件各情報が全体としてみた場合に独自の有用性があるものとして営業秘密性が肯定されるものでもないというべきである。
2結論以上より,本件各情報は,個別的にみても,また,一体のものとしてみても,いずれも不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に該当するとは認められないので,原告の請求は,その余の争点について判断するまでもなくいずれも理由がない。
よって,原告の請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
田中俊次裁判長裁判官西理香裁判官北岡裕章裁判官別紙営業秘密目録1発熱部とその周りに表面層を有し,発熱部と表面層はともにセメントをベースとし,発熱部は導電性を高くするよう炭素を所定割合均一に混合している融雪板の構造。
2粒状又は粉状の炭素(黒鉛)を使用すること。
3セメントベースに対する炭素の重量割合。
4発熱部の周囲を絶縁体で覆うこと。
5融雪板が4個の端子を有するのがよいこと。
6融雪板の適切な具体的な寸法が,一辺が約30?pがよいこと。
7融雪板の適切な表面デザイン
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