関連ワード | 逸失利益 / 代理人 / 代表者 / 得べかりし利益 / 営業誹謗行為(2条1項14号) / 虚偽の事実 / 損害賠償 / 損害額 / 営業上の信用 / |
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事件 |
平成
16年
(ワ)
4080号
損害賠償請求事件
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原告 株式会社トリニティコンサルタンツ 同訴訟代理人弁護士 満田繁和 被告 株式会社ホームリペッティー(以下「被告ホームリペッティー」という。) 同訴訟代理人弁護士 飯田幸光 被告 有限会社柳堂(以下「被告柳堂」という。) 同訴訟代理人弁護士 市毛由美子 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2004/11/29 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告ホームリペッティーは,原告に対し,金1905万円及びこれに対する平成16年3月11日から支払済みに至るまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 2 被告柳堂は,原告に対し,金1785万円及びこれに対する平成16年3月11日から支払済みに至るまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
原告は,原告の元役員又は元従業員が代表者を務める被告らが,原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知又は流布をしたため,原告の従業員が大量に退職し,これによって損害を被ったと主張して,被告らに対して,不正競争防止法2条1項14号,4条に基づいて,損害賠償金の支払を求めた事案である。 1 前提となる事実等(争いがない事実以外は証拠を末尾に記載する。) (1) 原告は,室内装飾及び建物の修繕(その中心は補修)に関する業務を主たる目的とする会社である。 その具体的な業務は,マンション,ビル,一般の建物の建築に際して,その建築がほぼ完成に近づいたときに,施工の過程で発生した建築物の内外装のキズの補修を行うことを業務の中心としている。原告は,新しく採用した従事員に対して10日間の教育を実施し,採用後も,習熟度に応じて約10日間の再教育を実施した上,自己の業務に従事させていた。 (2) 被告ホームリペッティーは,建築工事,内外装工事の設計,施工及び請負を主たる目的とする会社であり,平成15年8月ころから,原告と同一の業務である,建築物の内外装に発生したキズの補修の業務を行っている(弁論の全趣旨)。 被告ホームリペッティーの代表者A,取締役B,監査役Cは,原告の元従業員であり,いずれも,平成15年8月ころに原告を退職した。 被告柳堂は,内装工事業を主たる目的として,平成15年8月8日に設立された会社であり,そのころから,原告と同一の業務である,建築物の内外装に発生したキズの補修の業務を行っている(弁論の全趣旨)。被告柳堂の代表者Dは,平成15年6月30日に辞任するまで原告の取締役であった。 2 争点 (1) 被告らによる不正競争行為の有無(争点1) (2) 原告の損害(争点2) 3 争点についての当事者の主張 (1) 争点1(被告らによる不正競争行為の有無)について (原告の主張) ア 被告ホームリペッティーの代表者であるAは平成15年7月末に原告を退社するまで原告の業務課長として,被告ホームリペッティーの取締役であるBは同年8月末日に原告を退社するまで原告の作業員教育の中心となるインストラクターとして,被告ホームリペッティーの監査役であるCは同年7月下旬ころ原告に出社しなくなるまで原告の業務主任として,それぞれ,原告の業務に従事していた。 被告柳堂の代表取締役Dは,平成15年6月30日に辞任するまで,原告の常務取締役であった。 イ 被告らは,平成15年6,7月ころから,原告業務と競合する補修業務の準備として,原告の下で就業している作業員を退職させて,被告らに転職させるための工作を開始した。 D,A,Bらは協議し,被告らそれぞれにおいて,原告の下で就業している作業員に対して転職を働きかける者として,被告柳堂ではE及びFを,被告ホームリペッティーではB及びGを当てた。 ウ D,E,F,A,B,Gらは,原告の下で就業している作業員の退職を促すことにより,原告を倒産させることを計画し,以下のような原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を,原告に帰属する作業員らに対して,告知し,流布させた。 @ 平成15年5月30日まで原告の取締役であったHが,原告を辞める際に1億円の金を持ち逃げしたようだ。 A 原告には,近い時期に税務調査が入る。税金の支払ができていない。 B 資金繰りがうまくいっていないので,働いても給与の支払いを受けられない。9月一杯で倒産する。 エ 被告らは,原告の取引先であった丸石商事株式会社,株式会社カルテル,株式会社ビスムカンパニー,山田建設株式会社に対し,平成15年9月以降,以下の内容の原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知した。 C 原告の資金繰りが危険であり,近いうちに倒産する。 D 注文しても工事の完成まで会社がもつとは思えない。 E 作業員がどんどん辞めていて,仕事を注文しても処理できない。 F 被告らに優秀な作業員を集めている。 (被告ホームリペッティーの認否) ア 原告の主張アは認める。 イ 原告の主張イからエまでは否認する。 ウ 原告の前社長のI(現代表者の父親)は,Hが原告を辞める際に1億円を持ち逃げしたことを原告の社内で吹聴していた。また,原告の資金繰りができず,会社の存続自体が危ないことを言明していた。さらに,原告の社内では,近い時期に,原告会社に税務調査が入る,税金の支払ができていないということが噂として広まっていた。 しかし,被告ホームリペッティーの代表者などがそのような事実を原告の下で就業している作業員や原告の取引先に告知したことはない。 (被告柳堂の認否) ア 原告の主張アのうち,被告ホームリペッティに係る事実は不知,被告柳堂に係る事実は認める。 イ 原告の主張イからエまでは否認する。 ウ Dは,平成15年1月ころ,原告の資金繰りに窮したことから,原告に対して300万円を貸し付けたが,その際,資金不足の原因を調べたところ,原告からHの経営する会社に対して,数百万円の金員が振り込まれていたことを知り,Iに報告したが,Iは取り合わなかった。 同年4月から5月ころ,Dは,Iから,原告に税務調査が入ること,原告からHの経営する会社に対して多額の金員が流れていることを聞いた。 また,Iは,平成15年5月ころ,原告の事務所において,経理担当者に対して,Hが原告を辞めた際に金員を持ち逃げしたこと及び原告に税務調査が入ることを大声で話していたので,その際事務所にいたその他の従業員にはIの話の内容が聞こえていた。このように,Iは,Hが持ち逃げしたこと等を秘密として扱うような対応をしていなかった。 (2) 争点2(原告の損害)について (原告の主張) ア 被告ホームリペッティーの前記行為により,@平成15年8月から9月にかけて,原告の下で就業していた別紙目録記載1の作業員が原告を辞めて被告ホームリペッティーに就職した,A平成15年9月ころから,株式会社カルテル,株式会社ビスムカンパニー,丸石商事株式会社が,原告との補修業務の取引を中止し,被告ホームリペッティーと取引を開始した。 イ 被告柳堂の前記行為により,@平成15年8月から9月にかけて,原告の下で就業していた別紙目録記載2の作業員が原告を辞めて,被告柳堂に就職した,A平成15年9月ころから,丸石商事株式会社及び山田建設株式会社が,原告との補修事業の取引を中止し,被告柳堂と取引を開始した。 ウ 前記のとおり,原告の下で就業していた作業員合計36名が辞めたため,原告は,平成15年9月から同年12月までの間,以下の得べかりし利益を失った。 作業員1人当たりの売上高は1日当たり3万円であり,36人の作業員が1か月当たり作業し得た日数は,平成15年9月及び同年10月が各15日,同年11月及び同年12月が各20日であり,作業員1人当たりに支払うべき報酬は1日当たり平均1万5000円である。そうすると,上記の原告の逸失利益は以下のとおりとなる。 (3万円-1万5000円)×36人×(15日+15日+20日+20日)=3780万円 被告らは,各被告に就職した作業員の人数の割合に応じて,上記損害額を賠償すべきである。したがって,被告らそれぞれが負担すべき金額は,以下のとおりである。 @ 被告ホームリペッティー 3780万円×19名/36名=1995万円 A 被告柳堂 3780万円×17名/36名=1785万円 (被告ホームリペッティーの認否) ア 原告の主張アのうち,別紙目録記載1の作業員が,原告の下請作業員を辞めて被告ホームリペッティーの外注発注先となったこと及びAの主張は認めるが,その余は否認する。 イ 原告の主張ウは否認する。 (被告柳堂の認否) ア 原告の主張イのうち,別紙目録記載2の作業員(ただし,Jは,被告柳堂の作業に従事したことはない。)が,原告の下請作業員を辞めて被告柳堂の作業に従事したこと及び被告柳堂が山田建設株式会社と補修業務の取引を行ったことは認め,その余は否認する。 イ 原告の主張ウは不知ないし争う。 |
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争点に対する判断
1 争点1(被告らによる不正競争行為の有無)について (1) 原告の下で就業していた作業員に対する虚偽事実の告知等について ア 原告は,原告の役員や従業員であった,D,E,F,A,B,Gら(以下「Dら」という。)が,@平成15年5月30日まで原告の取締役であったHが,原告を辞める際に1億円の金を持ち逃げしたようだ,A原告には,近い時期に税務調査が入る,税金の支払ができていない,B資金繰りが上手くいっていないので,働いても給与の支払を受けられなくなる,9月一杯で倒産する,との虚偽の事実を,原告の下で就業していた作業員らに,告知し,あるいは流布させたと主張し,陳述書(甲1ないし5)には,これに沿った記載がある。 イ しかし,以下のとおりの理由により,原告主張に係る事実を認定することはできない。 すなわち,証拠によれば,確かに,原告の社内では,平成15年7月ころ,Hが1億円を横領したことや,同年9月に税務署の査察が入り,追徴金が課せられるなどしてすぐに倒産し,作業員に対する給与も支払われなくなることなどから,原告の経営が危ないとの噂が流れ,原告の下で就業していた作業員の間に広まっていたことが伺われる(甲2〜4,丙2)。 しかし,本件全証拠によるも,これらの事実がDらによって告知又は流布されたことを認めるに足りる証拠はない。かえって,同年6月ころまでには,原告の取締役であったHによる金員流用が原告内で問題となっており(甲1),原告の前社長のIが,原告の事務所内で,原告の従業員に対し,Hの金員流用によって給与支払や原告の経営に問題が生じているというような内容を話していたこと(乙19,丙1,2),その際,Hの流用した金員が1億円であると言及された可能性があること(丙2)が認められ,これらの事情に照らせば,I自身の言動等によって前記の噂が広まっていたことも推認される。さらに,前記の事情を前提とすれば,前記@からBまでの事実は,同年7月ころの原告の客観的状況を基礎にすれば,あながち不自然な内容とまではいえないので,他の者から広まったことも伺える。 以上のとおり,本件全証拠によるも,Dらが作業員らに対して,前記@からBまでの虚偽事実を告知し,又は流布されたとの事実を認定することできない。原告の主張は理由がない。 (2) 原告の取引先に対する虚偽事実の告知等について ア 原告は,Dらが,C原告の資金繰りが危険であり,近いうちに倒産する,D注文しても工事の完成まで会社がもつとは思えない,E作業員がどんどん辞めていて,仕事を注文しても処理できない,F被告らに優秀な作業員を集めている,との虚偽の事実を,原告の取引先であった丸石商事株式会社,株式会社カルテル,株式会社ビスムカンパニー,山田建設株式会社に対して告知したと主張し,陳述書(甲1ないし5)には,これに沿った記載がある。 イ しかし,以下のとおりの理由により,原告主張に係る事実を認定することはできない。 すなわち,原告の役員が次々に辞めたとの経緯があるため,取引先からも,原告の状況について,関心が持たれ,注視されていたこと(丙5),資材業者等からも,原告の経営状況の悪化が懸念されていたこと(乙19),取引先の中には,原告の作業内容や作業員の習熟度,配置等に関して不満を抱く者もいたこと(丙1),D及びAは,前記CないしFに係る事実を原告の取引先に対して告知したことはない旨,陳述していること(乙17,丙1),上記CないしFの事実は,その性質上,原告の取引先が知っていたとしても不自然ではなく,原告の作業員らの間で広まっていた噂が作業員らを通して伝搬したものと推測することも考えられること等の諸事実に照らすならば,本件全証拠によるも,Dらが,前記各事実を原告の取引先に告知した事実を認定することは到底できない。原告の主張は理由がない。 (3) 小括 以上のとおり,被告らが,原告の主張に係る不正競争行為を行ったとの事実を認めることはできない。 |
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結論
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の主張はいずれも理由がない。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 榎戸道也 |
裁判官 | 山田真紀 |