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関連ワード 弁護士費用 /  代理人 /  虚偽の事実 /  損害賠償 /  損害額 /  営業上の信用 / 
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事件 平成 16年 (ネ) 3179号 損害賠償請求控訴事件
平成 16年 (ネ) 4415号 同附帯控訴事件
控訴人・附帯被控訴人(以下,単に「控訴人」という。) 株式会社建築資料研究社
訴訟代理人弁護士 石上 麟太郎
被控訴人・附帯控訴人(以下,単に「被控訴人」という。) 株式会社総合資格
訴訟代理人弁護士 木島 昇一郎
同 堀裕一
同 手島万理
同 丸山央
同 島岡清美
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/11/25
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とし,附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 被控訴人の請求を棄却する。
(3) 被控訴人の附帯控訴を棄却する。
(4) 訴訟費用は第一,二審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 (1) 原判決中被控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 控訴人は,被控訴人に対し,360万円及びこれに対する平成15年11月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 控訴人の控訴を棄却する。
(4) 訴訟費用は第一,二審とも控訴人の負担とする。
事案の概要
1 控訴人と被控訴人は,いずれも,事業として建築士等の資格試験対策の講座を開設等している株式会社である。
本件は,平成15年7月27日に行われた一級建築士試験の学科試験会場付近で,控訴人従業員が被控訴人の営業拠点に至る道路を封鎖するなどして被控訴人の営業活動を妨害したことなどを理由に,被控訴人が,控訴人に対し,不法行為等に基づき,600万円の損害賠償を請求した事案である。
原判決は,控訴人従業員による営業妨害行為を認め,不法行為による損害賠償として240万円の限度で被控訴人の請求を認容したため,これを不服とする控訴人が敗訴部分について控訴を提起し,被控訴人が附帯控訴した。
2 当事者双方の主張は,次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」記載のとおりであるから,これを引用する。
3 当審における控訴人の主張 (1) 控訴人は,道路に10名程度の女性アルバイトを並ばせはしたが,現実には受験者の通行を妨害していないのであり,営業妨害行為には当たらない。
すなわち,当日の一級建築士学科試験において,午後3時40分以降午後5時までの間,中途退席は可能であったが,そうすると試験問題を持ち帰ることができなくなるため,多くの受験者は試験終了時刻の午後5時10分まで退席しなかった。控訴人が被控訴人の営業拠点に通じる道路入り口付近に女性アルバイトを約10名並ばせたのは,受験者の通行がほとんどない時間帯であったのであったから,被控訴人の営業行為を妨害したことにはならない。
(2) 建築士試験の受験指導業界において,控訴人は全国トップのシェアを有している。これに対し,被控訴人は後発の企業であり,控訴人を追い越すために激しい営業活動を行ってきた。そのため,本件以前に,控訴人と被控訴人は,試験会場における混乱を避けるため,建築士会を交えて営業活動の態様について協定を結んだにもかかわらず,被控訴人はこれに反する行動を取ったことがあった。
このような事情が背景にあって本件に至ったものであり,控訴人が,道路に女性アルバイトを並ばせたのは,過去における他の試験会場での被控訴人の強引な営業活動に照らし,これに対する措置が必要であると考えて行ったものであって,積極的な妨害行為とはいえない。
(3) (1)で述べたとおり,被控訴人に営業上の損害は生じていない。また,被控訴人の営業拠点は,本件の場所だけでなく,試験会場内に2か所,試験会場外に2か所あり,それらの営業拠点で,被控訴人はアンケート等の営業活動を問題なく行っていた。
仮に,被控訴人に損害が生じたとしても,極めて僅少であって,原判決の認定額は過大である。
(4) 被控訴人の主張に対する反論 控訴人従業員のAへの電話は,事実を端的に述べただけのものであり,土地を貸さないように圧力をかけたなどということはない。
4 被控訴人の主張の要点 (1) 控訴人従業員が,A(被控訴人に営業拠点の土地を貸した者)宅に電話をかけて,賃貸土地付近に警察が来ている旨話した行為は,自ら警察官が来る事態を招いておきながら,そのことを棚に上げて,あえてトラブルになっていることを告げて,今後再び被控訴人に土地を貸さないよう圧力をかけ,営業活動を妨害するためであることは明らかである。その結果,被控訴人はAに対して事情説明をすることを余儀なくされ,再び土地を借用することができるか否か不確実となった。
したがって,控訴人従業員の上記行為は,電話の内容が虚偽の事実を含むか,恫喝に当たるかを問わず,不法行為になるというべきである。
(2) 本件以前に,訴訟になっただけでも,控訴人は,被控訴人の信用を毀損する内容のビラを配布する事件を2件,控訴人の従業員が被控訴人の従業員に対し暴行を加える事件を1件起こすなど,被控訴人に対する営業妨害を重ねている。
度重なる控訴人の違法行為を抑止するためにも,最低限500万円の損害賠償請求が認められるべきである。
当裁判所の判断
当裁判所も,被控訴人の請求は原判決が認容した限度で理由があり,その余は棄却されるべきであると認める。その理由は,次のとおり付加訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決13頁14行目から15行目の「進行を妨げる行為」を「進行を妨げ,さらにその後,受験者が同営業拠点に入っていかないように立ち塞がる行為」に改める。
2 控訴人の妨害行為について (1) 控訴人は,道路に女性アルバイトを並ばせたことは,受験者の通行を現実に妨害しておらず,被控訴人の営業行為を妨害したことにはならないと主張する。
しかし,上記行為が行われた時間帯においても,退席する受験者がいたことは,甲第4号証及び第5号証(枝番省略)から明らかであって,その程度はともかく,上記行為が被控訴人と受験者との接触を妨げ,被控訴人の営業活動に対して悪影響を与えたことは否定できない。
そして,乙第5号証の1ないし8(甲第10ないし第12号証)及び弁論の全趣旨によれば,建築士試験の会場近辺における営業活動について,本件以前にも控訴人と被控訴人との間でもめ事があったことなどから,埼玉建築士会は,毎年,試験の度毎に,両社に対し,店舗前・住宅前での営業活動は行わず,大きな声は出さないこと,歩行者や受験者の迷惑にならないよう公道での営業員の数を制限することや配置について要請するとともに,近隣住民から苦情が出ないよう配慮を求める文書を出していたことが認められる。
このような状況の下で,控訴人の前記行為は,引用に係る原判決認定のとおり,被控訴人の営業拠点に通じる道路への進入口付近に,10数名もの人を横一列に並べ,矢印を書いたパネルを所持するなどして,受験者に対し,別の道に迂回するよう案内するという異様なものであって,実際に誰に非があるかにかかわらず,受験者や近隣住民の非難が控訴人及び被控訴人双方に向けられることは必至であり,それは,結局,被控訴人の営業上の信用を毀損することになるものということができる。
以上のとおりであるから,控訴人の前記行為により,被控訴人がその営業拠点における営業活動を妨害されたこと及び営業上の信用を毀損されたことは明らかであり,控訴人の主張は失当である。
(2) 控訴人は,道路に女性アルバイトを並ばせたのは,過去における他の試験会場での被控訴人の強引な営業活動に照らし,これに対する措置が必要であると考えて行ったものであって,積極的な妨害行為とはいえないと主張する。
しかし,被控訴人が,従前違法ないし不適当な営業活動をしたとの事実が仮にあったとしても,だからといって,控訴人がした妨害行為に違法性がないということになるとはいえないし,また,本件において,被控訴人が違法な営業活動を行うおそれがあったと認めるに足りる証拠はなく,まして,本件における控訴人の妨害行為が,そのような違法な営業活動の排除に適切かつ相当な範囲のものであったと認めることもできない。
3 控訴人の地主宅への電話について 被控訴人は,控訴人従業員がA宅に電話をかけて,賃貸土地付近に警察が来ている旨話した行為は,あえてトラブルになっていることを告げて,今後再び被控訴人に土地を貸さないよう圧力をかけ,営業活動を妨害するためであり,不法行為になると主張する。
確かに,本件において警察が現場に出動したのは,控訴人の妨害行為に端を発したものであり,控訴人として,あえて地主であるAに知らせる必要があったとも考えられないのに,控訴人従業員が,A宅に電話し,具体的な事実経過を抜きにして,警察が来ている旨話したことは,自分の貸した土地で警察が出動するトラブルが起きたことを知った地主の,近隣に対する配慮やトラブルに巻き込まれたくないといった思い,さらにはトラブルを防止できなかった借り手に対して抱く不信や不満などを利用して,今後被控訴人が土地を借りることを困難にしようとする意図によるものといわれても仕方ない行為である。
しかし,控訴人従業員の上記行為は,不特定多数人に対して向けられたものではなく,地主に対し事情説明をすることで理解を得ることも可能であって,現に被控訴人は事情説明をしていること(弁論の全趣旨),また,将来Aから土地を借りることができず,他に適切な代替地を確保することが困難であるか否かは,不確実なものであることからすると,控訴人の従業員の上記行為により,被控訴人の営業活動が阻害されたとか,営業上の信用が毀損されたとまでは認めることができない。
4 損害額について 被控訴人が,控訴人の妨害行為が行われた営業拠点以外にも,営業拠点を有していたことは,乙第1号証や弁論の全趣旨により,これを認めることができる。
しかし,控訴人の妨害行為により,上記営業拠点に立ち寄らなかった者に対し,被控訴人がその他の営業拠点においてほぼ漏れなく接触できたと認めるに足りる証拠はなく,被控訴人の営業活動に対する影響がなかったということはできない。
他方,本件で,営業成果の比較等に基づく,営業行為の阻害の有無及び程度の具体的な主張立証があるわけではなく,将来における違法行為の抑止のために,賠償額を増額するなどということは,損害賠償請求の趣旨を逸脱するものであり,認められない。
結局,本件に現れた一切の事情を斟酌すると,控訴人の妨害行為による被控訴人の損害は200万円(及び弁護士費用40万円)と認めるのが相当である。
5 結論 以上のとおり,原判決は相当であって,控訴人の控訴及び被控訴人の附帯控訴はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法67条1項,61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 若林辰繁
裁判官 高瀬順久