審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成17ワ5655不正競争行為差止等請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成18ワ10470不正競争行為差止等請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成19ワ11899不正競争行為差止等請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成17ワ5649不正競争行為差止等請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
平成17ワ11055不正競争行為差止請求事件 | 判例 | 不正競争防止法 |
関連ワード | 周知表示混同惹起行為(2条1項1号) / 顧客吸引力(グッドウィル) / 周知性 / 広く認識 / 商標登録 / 登録商標 / 需要者 / 営業地域 / 全国的に周知 / 顧客層 / 同一の表示 / 商品等表示 / 出所表示性(出所表示) / 類似性(類似) / 外観 / 観念 / 離隔的 / 混同のおそれ(混同) / 表示の使用 / 一般名称(一般的名称) / 誤認混同 / 類似商品 / 差止請求(差止) / 営業上の利益 / ライセンス / デザイン / 侵害 / 代理人 / 代表者 / 識別力 / 混同のおそれ(混同) / 品質等誤認表示(誤認) / 販売数量 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
20年
( )
2305号
不正競争行為差止請求事件
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東京都港区<以下略> 原告株 式会社シエ・ピエール 同訴訟代理人弁護士深澤直之 同 佐藤斉 同 平尾潔 同 石塚大 同 氏家信彦 東京都港区<以下略> 被告訴訟引受 人サントリーワインインターナショナル株式会社 同訴訟代理人弁護士田中克郎 同 宮川美津子 同 波田野晴朗 同 新谷美保子 大阪市北区<以下略> 脱退被告サントリー株式会社 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2009/05/14 |
権利種別 | 不正競争 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1原告の請求をいずれも棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求1被告訴訟引受人は,「CHEZ」,「Chez」,「chez」又は「シ2ェ」と「PIERRE」,「Pierre」,「pierre」又は「ピエール」とを組み合わせた表示をワインの容器,ラベル,宣伝用ホームページ及び宣伝用チラシその他の宣伝広告物に使用し,又はこれらの表示を容器,ラベルに使用したワインを輸入し,販売し,若しくは販売のために展示してはならない。 2被告訴訟引受人は,別紙被告表示目録記載の各表示を使用したワインの容器,ラベル,宣伝用チラシ及びネックハンガーラベルその他の宣伝広告物を廃棄せよ。 第2事案の概要本件は,東京都港区内においてフランス料理店を経営する原告が,その使用する別紙原告表示目録記載1ないし6の表示(以下,別紙原告表示目録記載の各表示を,それぞれに付された番号に従って「原告表示1」などといい,原告表示1ないし6を併せて「各原告表示」という。)が,原告の商品等表示として周知性を有すると主張し,脱退被告において,ラベルに各原告表示と類似する別紙被告表示目録記載1ないし5の表示(以下,別紙被告表示目録記載の各表示を,それぞれに付された番号に従って「被告表示1」などといい,被告表示1ないし5を併せて「各被告表示」という。)を使用したワインを輸入し,「シェピエール」の商品名で一般消費者向けに販売し,あるいは,上記ワインに関する広告に各被告表示を使用することにより,原告の商品又は営業と誤認混同を生じさせているとして,脱退被告のワイン事業に関する権利義務を承継した被告訴訟引受人(以下,被告訴訟引受人と脱退被告とを特に区別せず「被告」ということがある。)に対し,不正競争防止法2条1項1号,3条1項及び2項に基づき,「CHEZ」,「Chez」,「chez」又は「シェ」と「PIERRE」,「Pierre」,「pierre」又は「ピエール」とを組み合わせた表示の使用等の差止め,並びに各被告表示を使用したワイン容器,ラベル,宣伝広告物等の廃棄を求める事案である。 31争いのない事実等(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)(1)当事者(弁論の全趣旨)ア原告は,昭和49年2月15日に設立された,喫茶及びレストラン経営,パン及び菓子等の製造販売等を業とする株式会社である。 原告は,東京都港区内において,フランス料理店(以下「原告レストラン」という。)を経営している。 イ脱退被告は,ウイスキー,葡萄酒,ビール,清酒その他の和洋酒及び酒精の製造売買等を業とする株式会社である。 ウ被告訴訟引受人は,平成21年4月1日をもって,脱退被告のワイン事業に関する権利義務(ただし,平成21年2月16日付け脱退被告及び被告訴訟引受人間の「吸収分割契約書」別紙〔2〕「承継しない権利義務等明細表」記載のものを除く。)を吸収分割により承継した株式会社である。 (2)脱退被告の行為脱退被告は,被告表示1をフロントラベルに使用し,被告表示1ないし3をバックラベルに使用したワインを輸入し,「シェピエール」の商品名で,平成19年3月20日から一般消費者向けに全国で発売した(以下,同商品を「被告商品」という。)。 2争点(1)商品等表示としての各原告表示の使用の有無(争点1)(2)各原告表示の周知性の有無(争点2)(3)商品等表示としての各被告表示の使用の有無(争点3)(4)各原告表示と各被告表示との類似性の有無(争点4)(5)誤認混同のおそれの有無(争点5)(6)営業上の利益の侵害の有無(争点6)第3争点に関する当事者の主張1争点1(商品等表示としての各原告表示の使用の有無)について4〔原告の主張〕(1)原告は,その経営にかかるフランス料理店(原告レストラン)につき,自己の営業であることを示す表示として,各原告表示を使用している。 (2)各原告表示の使用形態原告は,各原告表示を,原告レストランの看板や日除けテント(甲1の1・2,原告レストランの外観の写真),パンフレット(甲2),カード(甲3,4),マッチ(甲5),ハウスワインのラベル(甲6の1・2,甲66),ホームページ(甲67の1・2)などに付して使用している(原告表示1:甲2ないし5,甲67の1,原告表示2:甲67の1・2,甲68,原告表示3:甲1の1・2,甲2ないし5,66,甲67の1・2,原告表示4:甲6の1・2,原告表示5:甲66,原告表示6:甲67の2,甲69の1・2)。 (3)ハウスワインに係る原告表示の使用態様について原告レストランにおいて提供されるハウスワインは,大きく2種類に分けられる。 そのうちの一つは,毎年,原告代表者が多くのサンプルの中から赤・白それぞれ1種類のワインを選び出し,赤ワインについては年に約1200本,白ワインについては年に約1400本ないし1800本程度をまとめてフランスから輸入し,原告レストランにおいて提供していたものである。甲第6号証の1・2の写真に写っているハウスワインがこれに該当し,赤ワイン,白ワインともに,原告表示4が表示されたオリジナルのラベルを付したボトルで提供されていた。なお,このハウスワインについては,平成18年の輸入分をもって,原告レストランにおける提供がいったん休止されている。 もう一つのハウスワインは,原告代表者が各シーズンごとに厳選したワインであり,各シーズンごとに赤ワイン2種,白ワイン1種が選ばれている。 そして,白ワイン(甲66の写真左側)には原告表示5が表示されたラベル5を,赤ワイン(甲66の写真右側及び中心)には原告表示3が表示されたラベルを,それぞれ,ボトルに貼られている当初のラベルとは別に,ボトル上に貼り,原告レストランにおいて提供している。原告は,この態様のラベルを,平成17年ころから,ワインボトルに貼付し始めた。 (4)被告の主張について被告が指摘するように,原告表示1及び3に,片仮名あるいはアルファベットで「カフェ・テラス・レストラン」,「カフェテラスレストラン」等の表示が付記されている(甲1の1・2,甲2ないし5)。 しかしながら,これらの付記表示は,いずれも「気軽な飲食店」を意味する一般名詞であり,「家庭的な雰囲気で気軽に食事を楽しめるレストラン」という原告レストランのコンセプトを表すために,原告表示に付して使用されているにすぎず,原告の商品等表示には含まれない。 また,甲第66号証によれば,原告表示3が表示されたラベル下部には,「SELECTIONNEPARM.PIERRE」との付記表示が,また,原告表示5が表示されたラベル下部には,「SELECTONNEEPARMR.PIERRE」との付記表示が,それぞれ表示されている。 しかしながら,これらの付記表示は,いずれも「A氏(原告代表者)によって厳選された」との意味であり,原告レストランで提供されるハウスワインの説明にすぎず,原告の商品等表示には含まれない。 〔被告の主張〕(1)各原告表示は原告の営業を表示する営業表示であり,原告の商品を表示する機能を有するものではない。 この点,原告表示4はワインボトルのラベルに表示されており(甲6の1・2),また,原告表示5は,元々別のラベルが貼られているボトル上に後から貼られたシールに表示されているものである(甲66)。原告表示4及び5が付されたワインは,いずれも原告レストランで提供されるハウスワイ6ンである。ハウスワインとは,「銘柄を指定されないときに出す通例安価な店用のワイン」であるから(乙8),ワインに貼られた原告表示4及び5は,当該ワインが原告レストランで提供されていることを示す機能を有するに止まるものであって,ワインの出所表示として使用されているものではない。 (2)原告表示2は,甲第67号証の1においては,ウェブサイトの著作権が原告に帰属することを表明するために使用されており,甲第67号証の2においては,原告の営業を紹介する文章の中で使用されており,いずれも原告の営業の出所を示す商品等表示として使用されているものではない。 また,原告表示6についても,甲第67号証の2においては,原告の営業を紹介する文章の中で使用されているにすぎず,原告の営業表示として使用されているわけではない。 なお,甲第68号証及び甲第69号証の1ないし3は,原告表示2又は6を商品等表示として使用しているものではない。甲第68号証には,「Christmas2007inChezPierre」「No□l2007aChezPierre」と表示されているものの,これは「シェ・ピエールのクリスマス2007」というイベント名の一部に「ChezPierre」が使用されているにすぎず,原告表示2を原告の営業表示として使用しているわけではない。また,甲第69号証の1ないし3は,東京メトロ乃木坂駅構内に設置された周辺案内のための地図の写真であり,原告表示6は,周辺案内の地図の設置者において,原告の所在地を地図上に表示するために使用しているにすぎず,原告が自己の営業の出所を示す商品等表示として使用したものではない。 (3)原告は,原告表示1を営業表示として使用する場合には,「カフェテラスレストランシェ・ピエール」,「カフェ・テラス・レストランシェ・ピエール」,「カフェテラスレストランシェ・ピエール」と表示しており(甲3ないし5),原告表示3を営業表示として使用する場合には,「C7AF□ TERRASSERESTAURANT」又は「Caf□TerrasseRestaurant」という表示を付記している(甲1の1・2,甲2ないし5)。 上記「カフェテラスレストラン」,「カフェ・テラス・レストラン」,「カフェテラスレストラン」,「CAF□ TERRASSERESTAURANT」,「Caf□TerrasseRestaurant」の表示は,いずれも,原告の営業表示に不可欠な構成要素であって原告の営業表示に含まれる。 また,原告表示3と共に使用されている「SELECTIONNEPARM.PIERRE」の表示,原告表示5と共に使用されている「SELECTONNEEPARMR.PIERRE」の表示についても,これらによって,シールの貼付されたワインが原告の選んだハウスワインであることを示しているから,原告表示3が営業表示として機能するためには不可欠の構成要素である。 2争点2(各原告表示の周知性の有無)について〔原告の主張〕(1)原告レストランの営業地域は東京都港区に限られており,原告はレストランの多店舗展開をしていない。 しかしながら,原告レストランは,30年以上にわたる長年の営業活動と多様な年齢層,社会的階層を対象とした多数の出版物等で紹介されることによって,遅くとも被告商品の販売が開始された平成19年3月20日までには,全国の一般消費者に対する周知性を獲得していた(なお,原告は,各原告表示の周知性が「東京都心部に居住ないし通勤・通学し,フランス料理に関心がある一般人の間でしかない」と主張しているわけではない。したがって,原告が差止めを請求する範囲についても,上記のような範囲に限定する趣旨ではなく,より広い範囲で差止めを請求するものである。)。 8(2)原告レストラン又はそのオーナーシェフである原告代表者は,別紙媒体目録に記載されているとおり,遅くとも平成2年ころから現在に至るまで長期間にわたって間断なく,雑誌やグルメガイド等の書籍,テレビやインターネットなどの多数の媒体で紹介されている。そして,上記媒体において,原告レストランは,各原告表示のいずれかを用いて表記されるか,あるいは,各原告表示のうちの複数の表示を用いて表記されていた(甲7ないし39,72ないし79)。 上記媒体は,別紙媒体目録記載のとおり,発行部数が大量であり,かつ,発行地域も東京都を中心として全国に広がっているのであるから(甲40,41,甲42の1ないし3,甲43ないし47,甲48の1ないし3,甲49ないし55,甲56の1・2,甲57,58,甲59の1・2,甲60,61等),各原告表示が,きわめて多数かつ広範囲の者の目に触れていたことは明らかである。 (3)被告の主張についてア被告は,原告レストランが紹介されている雑誌や書籍の購読者層が限定されていることを理由に,原告レストランの一般消費者に対する周知性を否認する。 原告は,原告レストランが紹介されている雑誌や書籍の購読者層が限定されているとの被告の主張は,否認ないし争う。 仮に,被告が指摘するように,これらの各出版物の購読者層が限定されていたとしても,被告の主張によれば,甲第7号証は流通関係業者を,甲第9号証は20代後半の都会の女性を,甲第10ないし12号証は在住外国人を,甲第13,14号証はフランス料理愛好家を,甲第15,17号証は都会の成年男性を,甲第22号証は首都圏の若者を,甲第29号証は日本生命の会員を,甲第32号証は三菱東京UFJ銀行のカード会員を,甲第35ないし37号証は「フランス大好きな人」を,甲第38号証は590歳から60歳の年齢層を,それぞれ購読者層としているというのであり,購読者層は多様な年齢層・社会的階層に分かれている。 各出版物の購読者層が,多様な年齢層・社会的階層に分かれているということは,全体としてみれば,それは一般の消費者層そのものを構成することにほかならない。 したがって,仮に,原告レストランが紹介されている各出版物ごとの購読者層が限定されているとしても,原告レストランの一般消費者に対する周知性は否定されない。 イフランスにおいては「ビストロ」が居酒屋を意味し,一般消費者が気軽に料理を楽しむ小レストランのことを指すこと,日本におけるビストロの中にはディナーコースが6000円ないし9000円程度の価格帯のレストランが存在すること,原告レストランのディナーコースの価格帯が7000円ないし9000円程度であること,原告レストランが「キング・オブ・グルメフランス料理店」に掲載されていることは認める。 しかしながら,原告レストランは,ディナータイム以外に,ランチタイムとティータイムの営業も行っており,ランチタイムにおいては,1000円以下のサンドウィッチや1650円のセットメニューが提供されており(甲84),また,ティータイムにおいては,デザートやコーヒー・紅茶等の飲み物が,いずれも1000円以下の価格で提供されている(甲85)。また,ディナータイムにおいては,コース料理だけでなく,2000円ないし3000円程度の価格でアラカルト(一品ずつ注文する料理)も提供されており(甲86),これらアラカルトの中から1品を選び,さらに1杯1000円のグラスワイン(甲85)を付けても合計5000円以下の支払に収める組み合わせも十分可能である。 これらのことからも明らかなように,ディナーコースの料金だけで,原告レストランを一般消費者向けの気軽なレストランではないと断ずる被告10の評価は誤りである。 ウ被告は,全国の一般消費者に周知な店であれば,最新の東京旅行ガイドブックに紹介されて然るべきである旨主張する。 しかしながら,旅行ガイドブックに掲載されている店は,あくまでも「観光客向けの店」として掲載されているにすぎず,「観光客向けの店」と「全国の一般消費者に周知な店」とは必ずしも同義ではない。被告の主張は,前提を誤るものである。 〔被告の主張〕(1)各原告表示が,被告商品の需要者である日本全国の一般消費者に周知であるとの点は否認ないし争う。 原告レストランが東京都港区において30年以上の営業活動をしているとの点については知らない。 (2)原告は,購読者層が限定された雑誌や書籍の1冊ないし数冊に原告レストランやこれに関連する記事が掲載されていることをもって,一般消費者に対する周知性を主張するものの,この主張には論理の飛躍があり,合理性が認められない。 また,原告レストランは一般消費者向けの気軽なレストランではなく,その営業地域も東京都港区に限られており,多店舗展開しているわけでもなく,全国の一般消費者を需要者とするものではない。したがって,原告が通常の営業活動によって全国の一般消費者に対する周知性を獲得するとは考え難い。 さらに,最新のレストランガイドブックや一般的な東京の旅行ガイドブックにおいても,原告が紹介されているものは存在しないことからすれば,原告は全国の一般消費者を対象とした書籍などで数多く紹介されているわけでもない。 以上によれば,原告の営業が全国の一般消費者に周知であるとはいえず,各原告表示の周知性も認められない。 11(3)原告の提出する証拠によって周知性を立証することはできないことア原告の提出する雑誌や書籍は,その購読者層や販売地域が限られていること?@甲第7号証の日経流通新聞(現在は「日経MJ」という名称に変更)は,一般紙ではなく,マーケティング情報に特化した新聞であり,その購読者層は一般消費者ではなく,流通関係業者に限定されており(乙9),専門紙であるため販売場所も限定されている(甲40)。 ?A甲第9号証のミス家庭画報(現在は「Miss」という名称に変更)は,「オフィスファッションを中心に28歳からのリアルスタイルを提案」というコンセプトの20代後半の都会の女性を対象とした雑誌である(乙10)。 ?B甲第10ないし12号証の「Wining&DininginTokyo」は,表記が英語であり(甲10ないし12),購読者層は「在住外国人,特に最近東京に移って来た人々のためのレストラン情報を中心としたリビングインフォメーション」とされ,その販売地域も関東地域に限定されている(甲42の3)。 ?C甲第13号証の「エピキュリアン東京・関西フランス料理店ガイド」及び甲第14号証の「東京フランス料理店ガイドエピキュリアン」は,そのタイトルのとおり,フランス料理店のみを扱ったガイドブックであり,フランス料理愛好家を対象としたものであって一般消費者を購読者層とする書籍ではない。 ?D甲第15号証の「BRUTUS」は都会の成年男性を対象とした雑誌である(乙11)。 ?E甲第17号証の「大人のレストラン厳選230店2001年度版」は「BRIO」という雑誌の別冊であり,同雑誌は都会の成年男性を対象としている(乙12)。 12?F甲第18号証の「パンの世界杯」は,一般消費者を広く購読者層とする書籍ではない。 ?G甲第22号証の「東京ウォーカー」は,若者を対象とし,主として首都圏などの一部地域でのみ販売をしており,購読者層もこのような地域の住民に限られている(甲48の1)。 ?H甲第23号証の「日経ベストレストランガイド」は,顧客向け非売品であって首都圏での配布に限られている(甲49)。 ?I甲第24,27号証のチラシは六本木ヒルズでのイベントの紹介チラシであり,配布地域が限定されていることが推察されるし,紹介されたといっても,他の多数のフランス料理人と同列で紹介されたにすぎない。 なお,この点は,甲第25,26号証の日本経済新聞における紹介についても同様である。 ?J甲第28号証は,東京都渋谷区所在の日仏会館及び東京都新宿区所在の東京日仏学院で開催されたブリア・サヴァラン生誕250周年記念のイベントのパンフレットであって配布先は都内及び近県に限られており(甲52),イベント自体が著名なものではないし,他の多数のフランス料理人と同列で紹介されたにすぎない。 ?K甲第29号証の「クォーレ」及び甲第32号証の「SUPERICCARD」は,会報誌であって,購読者層は会員に限定されるのであり,一般消費者を対象とした雑誌ではない。 ?L甲第30号証の「キング・オブ・グルメフランス料理店」は,表紙に「歴史に名を遺す最上級レストラン厳選!」とあることからすれば,高級料理店のみが掲載されており,当該書籍の価格も4725円であることから,一般消費者を対象とした書籍ではないことが推認される(乙13)。 ?M甲第33,34号証の「パティス」の配布地域は東京都心及び神奈川13県の一部に限られている(甲57,58)。 ?N甲第35ないし37号証の「サリュ・ラ・フランス」は「フランス大好きな人のための小さな情報紙」であり(甲59の1),一般消費者を対象としたものではない。 ?O甲第38号証の「百楽」は,50歳から60歳を対象とした雑誌である(乙14)。 イ原告の提出する雑誌や書籍の出版時期が古いこと原告は,各原告表示が口頭弁論終結時において周知性を備えていることを立証することを要する。しかしながら,原告の提出する雑誌や書籍の多くは,出版年が古く,現在における周知性を立証する証拠としてはきわめて不十分である。 すなわち,甲第7ないし20号証及び甲第22号証は,いずれも3年以上前のものであり,その後に発行されたものについては,一部地域で開催されるイベントの広告(甲24ないし28),一部会員のみが手にする会報誌(甲29,32),一部地域でのみ配布されるフリーペーパー(甲33ないし37号証)など,全国の一般消費者を対象としているとはいえない媒体が多い。 上記以外の証拠も,甲第21号証の「ザガットサーベイ2006年度版」(なお,最新版の2008年度版では原告レストランは紹介されていない。),高級店のみが掲載されている甲第30号証の「キング・オブ・グルメフランス料理店」,テレビ番組でのわずか15秒の紹介(甲31),50歳から60歳を対象とした甲第38号証の「百楽」,甲第39号証のキリンビールのホームページなど,その数は限られている。 ウ原告代表者個人やフランス料理を紹介する雑誌や書籍等について原告は,原告代表者個人を紹介した記事や,原告レストランの料理を紹介した記事を,各原告表示の周知性の証拠として提出している。 14しかしながら,これらは,そもそも原告レストランを紹介した記事ではなく,各原告表示の周知性の証拠としては不十分である。 ?@甲第18号証の「パンの世界杯」という書籍は,そもそもレストランを紹介する書籍ではなく,この書籍で紹介されているのは,原告代表者個人のみであり,原告レストランは原告代表者がオーナーを務めるレストランとして,文章中で紹介されているにすぎない。 ?A甲第24ないし27号証の「アペリティフの日」というイベントのチラシで紹介されているのは,原告代表者であり,原告レストランは原告代表者のレストランとして紹介されているにすぎない。 ?B甲第33号証の「パティス」というフリーペーパーにおいても,紹介されているのは原告代表者個人であり,原告レストランは原告代表者が開業したレストランとして紹介されているにすぎない。 ?C甲第29号証の会報誌「クオーレ」,甲第34号証の「パティス」というフリーペーパー,甲第35ないし37号証の「サリュ・ラ・フランス」というフリーペーパーは,そもそもレストランを紹介する雑誌ではなく,ここで紹介されているのは,特定の料理やその作り方である。 甲第29,34号証では,料理の紹介者として原告代表者が紹介され,原告代表者がオーナーであるレストランとして原告レストランが紹介されているにすぎない。甲第35ないし37号証は,フランス料理の紹介が記事の主たる目的であり,料理の提供者として原告レストランが紹介されているにすぎない。 ?D甲第72ないし74号証は,「フランス大好きな人のための小さな情報誌」と題された「サリュ・ラ・フランス」というフリーペーパーであり,料理を紹介したものである。 ?E甲第75号証は,「アペリティフの日」というイベントにおける原告代表者の紹介であり,甲第76号証は,4人のシェフの対談に原告代表者15が参加している記事にすぎず,いずれも原告レストランを紹介する記事ではない。 ?F甲第78号証もフランスの郷土料理としてブイヤベースを紹介する記事であり,原告レストランを紹介する記事ではない。 (4)原告レストランは一般消費者向けの気軽なレストランではなく,その営業地域も東京都港区内に限られていることフランスにおいては,「ビストロ」(bistro)とは,フランス語で居酒屋を意味し(乙15),一般消費者が気軽に料理を楽しむ小レストランのことを指す。 しかしながら,日本では,「ビストロ」と名のつく店であっても,「下手なレストランよりも高級なビストロも登場している」(乙16)といわれるように,ディナーコースが6000円程度から9000円程度という価格帯のレストランが数多くあり(乙17),自称「ビストロ」であっても,高級店である場合は少なくない。原告レストランも,ディナーコースの価格帯は7000円から9000円程度であり,一般消費者が気軽に楽しむというには高額である。原告は高級店のガイドブックである「キング・オブ・グルメフランス料理店」に掲載されており(甲30),このことからも原告が一般消費者向けの気軽なレストランではないことは明らかである。 また,原告の営業は,東京都港区所在のフランス料理店でのレストラン営業であり,同名の系列店は存在しないし,フランチャイズ展開なども行っておらず,その監修した商品を全国的に販売するなどの商品化ビジネスも行っていないから,営業範囲は東京都港区所在の店舗内に限られている。 (5)最新のレストランガイドブックや旅行ガイドブックでは原告レストランは紹介されていないこと原告の顧客は,東京都港区近辺に在住又は勤務するフランス料理愛好家に限られており,通常の営業活動によって原告が全国の一般消費者の周知性を16獲得することは考え難い。全国的な広告宣伝活動を行っている場合や,テレビ,雑誌等で全国的に広く紹介された場合などでない限りは,原告の営業が全国的に周知になることは考えられない。しかし,原告が全国的な広告宣伝活動を行ったとの主張及び証拠はなく,原告が提出する証拠では,テレビ,雑誌等で全国的に広く紹介されたとはいえない。 現在,一般的な書店で販売されている最新のレストランガイドブックでは,原告レストランが紹介されているものは見当たらない(乙18ないし24)。 原告が周知性の証拠として提出する書籍についても,「Wining&DininginTokyo」(甲10ないし12)の最新版(乙25),「ザガットサーベイ」(甲19ないし21)の最新版の2008年度版(乙26)のいずれにおいても,原告レストランは紹介されていない。 また,各原告表示が全国の一般消費者に周知というのであれば,一般的な書店で販売されている最新の東京旅行ガイドブックで,原告レストランが紹介されていて然るべきである。しかし,一般的な書店で販売されている最新の東京の旅行ガイドブックにおいては,原告レストランが紹介されているものは見当たらない(乙27ないし29)。 現在市販され,原告レストランが掲載されている最新のレストランガイドは1冊(甲77)のようであり,口頭弁論終結時において各原告表示が周知性を備えていることを立証するには不十分である。 (6)被告表示2の商標登録が認められたこと等ア被告表示2について,平成19年9月14日に被告を登録名義人とする商標登録(商標登録第5077069号)がされた(乙30)。 被告表示2の出願後,原告は特許庁に対して情報提供(商標法施行規則第19条参照)を行い,この際,「『ChezPierre』の商標とその称呼『シェピエール』は,周知性を有しており,少なくとも東京都及び隣接する他県にまで及んでいる。」として,商標法4条1項10号の規17定により被告表示2は登録することができないと主張した(乙31)。 しかしながら,原告の主張にもかかわらず,被告表示2について,上記のとおり,商標登録がされた。 イ原告は,被告を登録名義人として商標登録(商標登録第5077069号)されている「ChezPierre」(被告表示2)について,商標登録異議の申立てを行った(甲87。以下「本件異議申立て」という。)。 本件異議申立てにおいて,原告は「本件登録商標の出願日である平成18年12月20日までには,『ChezPierre』『シェ・ピエール』の名は,申立人の営むビストロの名として,日本国内において広く認識されるに至っていた。」と主張し,その周知性の根拠として本件と同様の主張及び立証を行った。 しかしながら,特許庁はその判断の中で,「ChezPierre」は,「我が国において広く知られていたとは認められない。」として,原告の営業表示としての周知性を否定し,さらに,「ChezPierre」を,指定商品(日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒,麦および麦芽を使用しないビール風味のアルコール飲料)について使用した場合について,「申立人又は申立人と関係のある者の業務に係るものであるかのように,その商品の出所について混同を生ずるおそれのないものである。」として混同のおそれも否定し,平成20年9月2日付決定により「登録第5077069号商標の商標登録を維持する。」との結論を下した(乙46)。 3争点3(商品等表示としての各被告表示の使用の有無)について〔原告の主張〕被告は,被告表示1を,容器上に貼付したラベル,被告商品の宣伝用ホームページ(甲63の1ないし5),宣伝用チラシ(甲64の1・2),宣伝用ネ18ックハンガーラベル(甲65)に,被告表示2を,容器上に貼付したラベル,被告商品の宣伝用ホームページ(甲63の1ないし3)に,被告表示3を,容器上に貼付したラベル,被告商品の宣伝用ホームページ(甲63の1ないし5),宣伝用チラシ(甲64の1・2),宣伝用ネックハンガーラベル(甲65)に,それぞれ使用している。 また,被告は,被告表示4及び5を,被告商品の中吊り広告(乙42)及び雑誌広告(乙43)に使用している。 〔被告の主張〕(1)被告が,各被告表示を原告の主張するとおり使用していることは認める。 (2)ただし,被告表示2や被告表示3は,被告商品のバックラベルにおいては「ChezPierreRouge」,「ChezPierreBlanc」,「シェピエール赤」,「シェピエール白」と表示されており,「ChezPierre」又は「シェピエール」とのみ表示されているものではない。 また,被告商品に貼付されたラベル,宣伝用ホームページ,チラシ,ネックハンガーラベル,その他広告上には,各被告表示が使用されているものの,それらが単純に表示されているわけではなく,使用態様は様々である。 4争点4(各原告表示と各被告表示との類似性の有無)について〔原告の主張〕被告表示1,2及び4は,原告表示2ないし6と,すべてアルファベット文字により構成されている点,文字の配列順序の点において外観は同一であり(なお,被告表示2及び4は,原告表示2ないし6と,表記が一段である点においても同一である。),称呼も「シェピエール」で同一である。 被告表示3は,原告表示1と,片仮名表記である点において,外観は同一である。被告表示3と原告表示1とは,「シェ」と「ピエール」の間に「・」の記号があるか否かという点において異なるものの,「・」の記号は発音される19ことはないので,両者の称呼は同一である。 被告表示5は,原告表示1と,片仮名表記である点,「シェ」と「ピエール」の間に「・」の記号がある点を含め,外観は同一であり,称呼も同じである。 したがって,被告表示1ないし5は,原告表示1ないし6と類似している。 〔被告の主張〕(1)否認する。 各原告表示と各被告表示には外観及び観念に違いがあるほか,各原告表示と各被告表示について離隔的観察を行うと,取引の実情のもとにおいて,両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれはなく,各原告表示と各被告表示との間には類似性が認められない。 (2)外観が異なること被告表示1は,「CHEZ」と「Pierre」が上下二段に分けられ,「CHEZ」はやや小さく表示され,「Pierre」の「P」の曲線部分が大きく左にはみ出すように装飾され,「i」や「e」に波型の図形の装飾が施されている。他方,原告表示2ないし5は,「ChezPierre」と頭文字だけが大文字となって一段で表示されており,原告表示2は文字に特段の装飾はされていないし,原告表示3ないし5は文字に被告表示1とは全く異なる装飾がされている。また,原告表示6は,すべて大文字で一段に表示されている。このように,被告表示1と原告表示2ないし6とは外観において大きく異なる。 被告表示2は,原告表示2との外観上の共通点は見受けられるものの,文字が装飾されている原告表示3ないし5,すべて大文字で表記されている原告表示6とは外観において異なる。 被告表示3は,「シェ」と「ピエール」の間に「・」がなく,原告表示1とは外観において異なる。 20被告表示4は,「CHEZ」と「Pierre」で構成され,被告表示1と同様の特徴的な装飾がされている。一方,原告表示2ないし5は「ChezPierre」と頭文字だけが大文字となって表示されており,原告表示2は文字に特段の装飾はされておらず,原告表示3ないし5は文字に被告表示4とは全く異なる装飾がされている。また,原告表示6は,全て大文字で一段に表示されている。被告表示4と原告表示2ないし6とは外観において大きく異なる。 被告表示5は,原告表示1と,外観において共通点は見受けられる。 (3)観念が異なることフランス語で,「Chez」は「家」,「Pierre」は一般的な男性の名を意味しており,「ChezPierre」,「シェ・ピエール」は,フランス語で「ピエールの家」を意味する。 しかしながら,被告商品の需要者をはじめとする一般的な日本人は,必ずしもフランス語に精通しておらず,「ChezPierre」,「シェ・ピエール」から特定の観念を想起することは困難である。 また,原告表示の「Pierre」「ピエール」は,原告代表者(A)を意味するのに対し,被告表示の「Pierre」「ピエール」は,Bを意味するものであり,「Pierre」「ピエール」についての観念が異なる。 したがって,仮に被告商品の需要者が各原告表示と各被告表示の意味を理解することができたとしても,その対象とする人物が異なっており,表示から想起される観念が異なるものである。 (4)被告が各被告表示を使用した被告商品を輸入販売等する行為について,全国の一般消費者が,原告の営業であると誤認混同するおそれは全くない。 したがって,各原告表示と各被告表示とに関し,離隔的観察を行うと,取引の実情の下において,両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれはなく,各原告表示と各被告表示との間には類似性が認められない。 215争点5(誤認混同のおそれの有無)について〔原告の主張〕(1)一般に,フランス料理を食する際には,飲み物としてワインが飲まれるのが通常であり,原告レストランにおいても,他のフランス料理店と同様に,料理の提供だけでなく,料理と同等の比重でワインの提供も行われていることからすれば,フランス料理店である原告レストランの需要者層とワイン,すなわち被告商品の需要者層とは重なり合っているといえる。 また,原告レストランは,フランス料理店の中では,「ビストロ」(家庭的な雰囲気の中で,気軽に食事を楽しめるレストランを意味する。)と呼ばれる店舗形態に属している(甲13,15,29,33,35ないし38)。 他方,被告商品の宣伝広告物には,「我が家のビストロワイン」(甲65),「今夜,我が家の食卓がビストロになる。」(甲64の1),「親しみやすいネーミングとビストロをイメージしたラベルデザイン。」(甲64の2),「フランスのビストロをイメージしたデザインのシェ ピエールは,・・・」(甲63の1,甲64の2)などと記載されており,「ビストロ」という文言が多用されている。 原告レストランが「ビストロ」であることを勘案すれば,被告商品の需要者層と原告レストランの需要者層は重なり合っているといえる。 以上に加え,各原告表示と各被告表示とが類似していること,各原告表示は周知性が高く顧客吸引力があることから,需要者において,原告と被告との間に,ライセンサーとライセンシー又は監修者と被監修者などの密接な関係があるとの誤認混同が生じるおそれがある。 実際にも,被告商品の発売開始後,原告に対し,「サントリー(被告)と提携したのか」,「サントリーが発売したワイン(被告商品)と何か関係があるのか」,「あんな不味いワイン(被告商品)を,どうして選んだのか」などの問い合わせが寄せられている。 22(2)被告の主張についてア被告は,日本において,フランス料理店の店名に「Chez」や「シェ」を使用することは珍しいことではなく,また,「Pierre」や「ピエール」を店名に使用するフランス料理店が多数あることをもって,「ChezPierre」及び「シェ・ピエール」は,フランス料理店の名称としての識別力が弱く,各被告表示から原告レストランを想起することはない旨主張する。 しかしながら,「Chez」,「シェ」または「Pierre」,「ピエール」を店名の一部に使用するフランス料理店が多数あるとしても,この両者を一連のものとして組み合わせた上,フランス料理店の店名に使用しているのは,原告だけであり,各原告表示のフランス料理店としての識別力は強いといえる。 また,原告レストランは,創業から30年以上を経た老舗レストランであり,かつ,「フレンチレストランのパイオニア」(甲23),「仏家庭料理の日本初のビストロ」(甲29),「日本初のフランス人シェフによるフランス料理店」(甲30),「(原告レストランのオーナーシェフである原告代表者について)日本に現在ある仏料理店のうち,最初に店を始めた仏人の一人」(甲78)と称されるほどの稀少性を有している。他方,被告商品は,平成19年3月の発売開始からわずか1年数か月しか経過しておらず,宣伝広告もホームページへの掲載や電車の中吊り広告,一部雑誌への掲載がされている程度であるから,一般への浸透度合いは非常に低いものと考えられる。 以上によれば,各被告表示から原告レストランが想起されることは明らかである。 イ甲第65号証においては,「SUNTORY」の表示の存在を全く認めることはできず,また,乙第42号証及び乙第43号証(2枚目部分)に23おいては,「SUNTORY」の表示の存在は,広告下部に小さな文字で記載されているホームページのアドレス中にしか認められないのであり,被告商品の販売元が被告であることを一般消費者が明確に認識することはできない。 ウ確かに,商標法における役務と商品との類否の判断基準によれば,被告商品である「ぶどう酒」と原告の営業である「フランス料理の提供」とは類似とされていない。 しかしながら,商標法における類否の判断は,対象となる商標の権利範囲を画するためにされるものであるのに対し,不正競争防止法2条1項1号における類似の判断は,商品の出所・営業の主体について誤認混同を生ずるおそれがあるか否かの観点からされるべきものであるから,商標法上の類否の判断基準と不正競争防止法上の類似の判断基準とは同一ではない。 エ被告は,特定の有名レストランと提携した商品を販売する場合,値段が一般的な商品に比較して高額となるとの一般論を主張している。そして,確かに,被告商品の販売価格は,小売価格で800円程度である。 しかしながら,訴外エスビー食品が販売する有名レストランと提携したパスタソースの価格は250円ないし380円にすぎず(甲91),パスタソースとして特段高価とはいえない。被告の主張する上記一般論は不正確であり,このような不正確な一般論を前提とする被告の主張は,意味がない。 〔被告の主張〕(1)各被告表示を被告商品に使用することにより,被告の商品又は営業と,原告の商品又は営業との間に誤認混同が生じるおそれはない。 「ビストロ」とは,気軽に利用することができる小レストランや居酒屋を意味するフランス語の一般名称であり,被告は,気軽に楽しめるフランスワインという被告商品のコンセプトに合致する「ビストロ」を,商品デザイン24や広告のモチーフに使用したにすぎない。 「ビストロワイン」という言葉は被告の創作であり,「気軽に楽しめるワイン」という被告商品のコンセプトを一般消費者に伝えるために使用したものである。「ビストロ」という用語が気軽に楽しめるワインのコンセプトに合致する商標として使用されている他社の例(乙2)もあり,被告商品の宣伝に「ビストロ」という言葉が使用されているからといって,被告商品の需要者層と原告レストランの需要者層が重なり合っているということにはならない。 (2)原告は,需要者において,原告と被告との間にライセンサーとライセンシー又は監修者と被監修者などの密接な関係があるとの誤認混同が生じるおそれがある旨主張する。 しかしながら,不正競争防止法2条1項1号にいう「混同」があると認められるためには,同一営業主体として誤信させるおそれがあるか,親会社,子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信させるおそれがなければならない。 本件においては,以下のとおり,各原告表示の識別力が弱いこと,各原告表示と各被告表示とは外観,観念及び使用態様が異なること,原告の営業と被告商品とが類似していないこと,原告レストランの顧客層は被告商品の顧客層と異なること,原告はワインの輸入販売や商品化事業をする事業者ではないこと,被告商品が安価な商品であること,被告商品の需要者による混同の事実が存在しないことなどからすれば,被告商品の需要者たる全国の一般消費者において,原告の営業と被告の営業との間に,親会社,子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信するおそれは全くない。 ア各原告表示の識別力が弱いこと25フランス語で,「Chez」は「家」,「Pierre」は一般的な男性の名を意味しており,原告表示の「ChezPierre」,「シェ・ピエール」は,フランス語で「ピエールの家」を意味しているにすぎない。 店名に「Chez」又は「シェ」を使用したフランス料理店は日本にも多数あり(乙32ないし34), フランス料理店の店名に「Chez」又は「シェ」を使用することは珍しいことではない。 また,「Pierre」はフランス人の男性の一般的な名前であり,店名に「Pierre」又は「ピエール」を使用したフランス料理店は日本に多数ある(乙35ないし37)。 以上のとおり,「ChezPierre」及び「シエ・ピエール」はフランス料理店の名称としての識別力は弱く,各被告表示から原告レストランを想起することはない。 イ各原告表示と各被告表示とは使用態様が異なること(ア)各原告表示はフランス料理店の営業表示として使用されているものであって,ワインの商品表示として使用されているものではない(なお,原告レストランのハウスワインであることを示すシールも,ラベルとは別に貼られており(甲第66号証),各原告表示を商品表示として使用したワインを提供しているわけではない。)。 また,各原告表示が営業表示として使用される場合,「カフェテラスレストラン」,「カフェ・テラス・レストラン」,「カフェテラスレストラン」(甲3ないし5)又は,「CAF□ TERRASSERESTAURANT」,「Caf□TerrasseRestaurant」という表示が使用されていることがほとんどである(甲1の1・2,甲2ないし5)。 (イ)各被告表示は,ワインの商品表示として使用されており,レストラン26営業を含め営業表示としては一切使用されていない。 また,各被告表示は商品表示として使用される場合には,盾形の看板の形をした被告商品のロゴマーク(乙39)と共に使用されている(甲62,甲63の1ないし5,甲64の1・2,甲65)。被告表示2及び3は,宣伝広告の際には「『シェピエール』(赤・白)」(甲62),「シェピエール赤」「シェピエール白」(甲63の1ないし3),「シェピエール(赤)」「シェピエール(白)」(甲64の2),「ChezPierreRouge」「ChezPierreBlanc」(甲63の1)のように,「赤」「Rouge」(フランス語で「赤」を意味する。)又は「白」「Blanc」(フランス語で「白」を意味する。)を同時に付して使用されている。 さらに,広告宣伝に際しては被告の営業表示である「SUNTORY」の表示と共に使用されており,被告商品の販売元が被告であることを一般消費者は明確に認識することができる。 他方,被告商品やその広告宣伝物には,被告商品が第三者からライセンスを受けた商品であることや第三者の監修を受けた商品であることを示唆する表示,あるいは,特定のレストランを想起させるような表示は一切ない。 ウ原告の営業と被告商品が類似していないこと原告が提供するのは,フランス料理という役務であって,被告が提供するワインという商品とは異なるから,両者の営業は類似していない。 商標法において,役務と商品との類否の判断基準は,商標審査基準によれば,「類似商品・役務審査基準に掲載される商品と役務については,原則として,同基準によるものとする。」とされ(乙40),「類似商品・役務審査基準【国際分類第9版対応】」では,被告商品である「ぶどう酒」を含む第33類の「洋酒果実酒」は, 第35類の「飲食料品の小27売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供酒類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を類似役務としており,原告の営業である「フランス料理の提供」を含む第43類の「飲食物の提供」とは類似とされていない(乙41)。 エ原告レストランの顧客層は被告商品の顧客層と異なること原告レストランは一般消費者向けの気軽なレストランではなく,その営業地域も東京都港区内に限られていることから,原告の顧客は,都心に居住又は勤務する裕福なフランス料理愛好家を中心とするものであって,全国の一般消費者を顧客層とするものではない。 他方,被告商品は,全国の一般消費者をターゲットとして企画された商品である(乙3)。被告商品は,小売価格で800円程度という,ワインとしてはかなり安い価格で全国に販売され,宣伝広告もホームページや電車の中吊り広告(乙42),レタスクラブ(乙43)のような一般主婦向けの雑誌への掲載など,一般消費者の目に触れる手法により展開している(乙3)。 このように原告と被告とはその顧客層を大きく異にしているのであるから,被告の顧客層である全国の一般消費者が原告の営業を被告の営業と混同するおそれは全くない。 オ原告はワインの輸入販売や商品化事業をする事業者ではないこと被告商品は,「VindePays(ヴァン・ド・ペイ)」というフランスワインの格付けを有しており,ラベルも全てフランス語で記載されていることから,輸入ワインであることは明らかである。 他方,原告は,日本において,国内の一般消費者に対するワインの輸入販売業を行っていないし,各原告表示をライセンスした商品や,原告が監修した商品を発売したこともない。 原告の営業は,東京都港区所在のフランス料理店でのレストラン営業で28あり,フランスはもちろんのこと日本においても同名の系列店は存在しない。 以上のとおり,原告は,東京都港区において地元に密着してレストラン営業のみを営む事業者であって,レストラン営業以外の事業に国際的に関与しているものではないから,全国の一般消費者が,被告商品について,原告がライセンス又は監修した商品であると誤認するおそれはない。 カ被告商品が安価な商品であること一般に,特定の有名レストランと提携した商品を販売する場合には,商品のブランド価値が高まるため,値段も一般的な商品と比較して高額となるのが通常である。 しかしながら,被告商品の販売価格は,全国の一般消費者が気軽に楽しむことができるフランスワインというコンセプトの商品であって,小売価格で800円程度というワインとしてはむしろ安い価格で販売されている(乙44)。 したがって,全国の一般消費者が,被告商品が特定の有名レストランと提携した商品であると考えることはない。 キ被告商品の需要者による混同の事実が存在しないこと被告に対する被告商品と原告との関係についての問い合わせは,1件しかなく,この問い合わせの内容も,原告レストランの顧客と思われる人から,「このワインですが,乃木坂のフレンチレストラン『シェピエール』と関係があるのでしょうか。よく行くお店なので気になって質問させていただきました。」という原告との関係性を尋ねられたものであって,被告の営業を原告の営業と混同しているものではない(乙45)。 なお,原告は,被告商品の発売開始後,被告商品と原告との関係について問い合わせが寄せられている旨主張する。仮に,原告の上記主張が事実であるとしても,これは,被告による大規模な宣伝活動によって,各被告29表示が周知性を獲得した結果,原告の一部の顧客が原告と被告との関係を誤解したにすぎないから,不正競争防止法2条1項1号にいう「混同」とはいえない。すなわち,被告の行為が不正競争行為に該当するというためには,需要者に対する原告表示の周知性を利用して,被告商品の販売を伸ばすというような実態がなければならない。被告商品の需要者は全国の一般消費者であるから,全国の一般消費者から問い合わせがあったのであればともかく,原告の一部の顧客から問い合わせがあったというだけでは,上記のような実態があることは立証されていないのである。 (3)被告商品の開発経緯被告は,被告商品の開発に当たって,「ご家庭で気軽に楽しんでいただくワイン」という商品コンセプトを設定し,これに合わせて国際的なワインの製造輸出業者であるカステル社(乙4の1・2)からワインを輸入することにした。 そこで,フランスと日本の両国で商標上問題のない名称を付けるために,カステル社がフランスで保有する登録商標リストの提示をうけ,この中から今回の商品コンセプトに最も合致し,かつカステル社の会長であるB氏(乙5)の名前にちなんだ「CHEZPIERRE」との商標を選択した。 上記商標は,カステル社が平成5年(1993年)にフランスにおいて登録し,現在に至るまで長年保有しているものである(乙6)。 6争点6(営業上の利益の侵害の有無)について〔原告の主張〕(1)被告の行為は,不正競争防止法2条1項1号に該当する行為であり,これにより,原告は営業上の利益を侵害されるおそれがある。 (2)被告は,被告表示1,2及び4において,使用するアルファベット文字の基本的構成も称呼も同一のまま,その前半部分(「CHEZ」と「Chez」)のみを,大文字のみで構成したもの(被告表示1,4)と,大文字と30小文字とで構成したもの(被告表示2)とを使い分け,さらに,被告表示1と4とでは,二段の表記と一段の表記とを使い分けることで,3種類の表示を使用している。 そうすると,被告が,これらと同様の手法により,前半部分の「CHEZ」,「Chez」又は「chez」と,後半部分の「PIERRE」,「Pierre」又は「pierre」とを様々な形で組み合わせることで,被告表示1,2及び4と称呼は同一であるものの,表記方法が異なる多数の別表示を使用する可能性が高い。 また,被告表示3及び5では,アルファベット文字ではなく,片仮名文字が使用されている。被告が,前半部分をアルファベット文字とし,後半部分を片仮名文字とする,あるいはその逆の組み合わせとすることで,称呼は同一でありながら,表記方法の異なる表示を使用する可能性も高い。 被告が各原告表示と称呼が全く同じでありながら,その表記方法が異なる5種類の表示を既に使用していることからすれば,被告において,被告表示1ないし5を被告商品に付する等して使用するおそれがあるにとどまらず,さらに「CHEZ」,「Chez」,「chez」又は「シェ」と「PIERRE」,「Pierre」,「pierre」又は「ピエール」とを,様々な形で組み合わせた表示を使用するおそれがある。 〔被告の主張〕(1)被告が各被告表示を被告商品に使用することによって,原告の営業上の利益が侵害されることはなく,また,侵害されるおそれもない。 (2)原告は,被告の実際の使用態様とは異なる使用態様についても被告が将来使用するおそれがあると主張するものの,かかる主張の根拠を何ら示していない。原告は,差止めの対象となる行為を特定せずに,使用のおそれのない行為についてまで差止請求をするものであり,かかる差止めの必要性は認められない。 31第4当裁判所の判断本件では,事案に鑑み,争点2(各原告表示の周知性の有無)から判断する。 1争いのない事実等に証拠(甲1の1・2,甲2ないし5,甲6の1・2,甲7ないし39,62,甲63の1ないし5,甲64の1・2,甲65,66,甲67の1・2,甲68,甲69の1ないし3,甲72ないし79,84ないし86,92,乙3,乙4の1・2,乙5,6,15,25,26,30,32ないし38,42ないし46)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。 (1)原告の営業活動についてア原告は,昭和49年2月に設立された,レストラン経営等を業とする株式会社であり,乃木坂(東京都港区南青山1-23-10)において,「シェ・ピエール」との名称のレストラン(原告レストラン)を経営している。 原告の代表者であり,原告レストランのシェフを勤めるAは,昭和43年(1968年)に来日し,昭和48年(1973年)に青山に「シェ・ピエール」との名称のレストランを開店した。同レストランは,昭和60年(1985年)に現在の店舗(乃木坂)に移転し,それ以降,同店舗において営業をしている(甲7,14,23,30,32,67の2等)。 原告が経営する「シェ・ピエール」との名称のレストランは上記乃木坂の一店舗のみである。 イ原告レストランは,フランスの家庭料理をくつろいだ雰囲気で提供するスタイルのレストランであり,「ビストロ」(フランス語で「料理居酒屋」の意味。甲29,乙15等)と評されることもある(甲13,15,29,33,35ないし37等)。 原告レストランでの料理代金については,昼食時のコース料金が1650円,2500円,3000円,夕食時のコース料金が7000円,803200円,9000円である(甲84ないし86)。 原告レストランにおいては,料理と共に,ワインも提供されている。 (2)各原告表示の外観,使用態様等ア各原告表示の外観は,別紙原告表示目録記載1ないし6のとおりであり,原告表示2ないし6は,飾り文字を使用しているか否かの差異はあるものの,いずれも,フランス語の単語である「Chez」(又は「CHEZ」)と「Pierre」(又は「PIERRE」)とを横一列に表記したものであり,原告表示1は,上記単語の称呼を片仮名で「シェ」,「ピエール」と表記し,両者の間に「・」を配して,横一列に表記したものである。 イフランス語で「Chez」とは,「〜の家」,「〜の店」という意味であり,「Pierre」とは,フランス人男性の名前である(乙45。原告代表者の名前も「PIERRE」である。)。 東京都渋谷区や東京都港区内には,原告レストランのほかにも,名称に「Chez」,あるいは「シェ」を含むフランス料理のレストランがある(乙32ないし34)。また,東京都港区や中央区内等には,原告レストランのほかにも,名称に「ピエール」,「Pierre」,あるいは「PIERRE」を含むフランス料理のレストランや洋菓子店がある(乙35ないし38)。 ウ昭和60年ころ以降,原告レストランの看板や日除けテントには原告表示3が表記されている(甲1の1・2)。また,平成15年ころに作成された原告レストランのパンフレットやカード(甲2,3),平成19年ころに作成された原告レストランのカード(甲4),並びに昭和60年ころに作成された原告レストランのマッチ(甲5)には,原告表示1及び原告表示3が表記されていた。 また,原告代表者が原告レストランでハウスワインとして提供するため33に選定し,輸入していたワインには,原告表示4が表記されたフロントラベルが貼付されていた(甲6の1・2。なお,上記フロントラベルの貼付は,平成18年までに輸入されたワインについて行われており,それ以降は行われていない。)。他方,原告レストランにおいて,ハウスワインとして提供されるワインには,平成17年ころ以降,原告表示3や原告表示5が表記されたシールが,元々ワインに貼付されているフロントラベルとは別に,貼付されている(甲66)。 原告のウェブサイト上のホームページには,平成19年3月20日当時,原告表示1,原告表示2,原告表示3及び原告表示6が表記されており(甲67の1・2),平成19年12月ころに作成された,原告レストランのクリスマスイベントの告知ポスターには,原告表示1,原告表示2及び原告表示3が表記されており(甲68),東京メトロ乃木坂駅の周辺案内表示板には,平成20年6月当時,原告レストランの案内が掲示されており,原告表示1,原告表示3及び原告表示6が表記されている(甲69の1ないし3)。 なお,本件全証拠によっても,上記事実のほかには,原告による各原告表示の使用開始時期や使用継続の状況を,詳細に認定することはできない。 (3)レストランガイドや雑誌等における原告レストランに関する記述等ア平成2年1月16日付け日経流通新聞の「異食店人と経営」というタイトルの付された欄には,「シェ・ピエール仏料理」,「Aさんがフランスから来日して20年以上,オーナーシェフとして独立したのはすでに16年も前のことだ。日本語もすっかり板に付き,現在は地下鉄千代田線・乃木坂駅の南青山口そばにフランス料理店「シェ・ピエール」を構える。 人通りもまばらな寂しい立地ながら家庭的なフランス料理が味わえることや,Aさんの親しみの持てる人柄が好感を呼び,連日常連客などでにぎわう店だ。」などと原告レストランに関する記述があるものの,記事全体と34しては,原告代表者に対するインタビュー内容を織りまぜながら,来日後平成2年当時までの間の原告代表者の経験談や原告代表者の考え方などを紹介する内容となっている(甲7)。 イ平成5年12月1日発行の雑誌「’94東京のうまいもの屋555店」の158頁に約3分の1頁大の大きさで,「シェ・ピエール(乃木坂)」,「フランス人シェフの惣菜料理に舌鼓」,「シェフは来日25年を迎えるAさん。フランス人シェフの最古参の一人だ。開店以来21年間変わらぬ味は,フランス家庭料理が基本。」などと原告レストランが紹介されている(甲8)。 ウ平成7年2月1日発行の雑誌「Missミス家庭画報2月号」の176頁に1頁大の大きさで,「青山近辺にフランス田舎家庭料理のお店が集中しているなんて意外!!(中略)交通量の多い青山通りではなく,少し路地を入ったところにあるのがポイント。のんびり散歩をする気分でお店を探してみて!!」との記述の下に,原告レストランが「乃木坂・青山墓地下シェ・ピエール」と表記されて紹介されており,店舗内の写真の下に,同写真の約6分の1程度の大きさの,原告レストランの外観の写真(同写真には原告表示3が小さく写っている。)が掲載されている(甲9)。 エ平成7年6月ころ発行の外国人向けレストランガイド「Wining&DininginTokyo」7号の41頁に2分の1頁大の大きさで,平成8年1月ころ発行の同8号の41頁に2分の1頁大の大きさで,平成14年6月ころ発行の同12号の45頁に2分の1頁大の大きさで,それぞれ,英語表記で原告レストランが紹介され,上方に「CHEZPIERRE」又は「ChezPierre」,下方に原告表示3が記載されている(甲10ないし12)。 なお,平成20年発行の「Wining&DininginT35okyo」(乙25)には原告レストランは掲載されていない。 オ平成8年6月5日発行のレストランガイド「エピキュリアン’96〜’97東京・関西フランス料理店ガイド」の150頁に2分の1頁大の大きさで,原告レストランが紹介されており,左端部に「シェ・ピエールCHEZPIERRE」と表記されている(甲13)。 カ平成13年11月30日発行のレストランガイド「東京フランス料理店ガイドエピキュリアン」の122頁に2分の1頁大の大きさで,原告レストランが紹介されており,上部に「カフェテラス・レストランシェ・ピエールCHEZPIERRE」と表記されている(甲14)。 キ平成9年6月1日発行の雑誌「BRUTUS」の「在日フランス人88人にアンケート私たちが認める「日本のフレンチ」はこれだ!」とのタイトルの特集記事のうち,「普段着感覚で気軽に行ける日本のビストロはどこですか?」との質問に対する回答の第1位として,58頁に約3分の1頁大の大きさで,「ChezPierreシェ・ピエール」「創業24年の貫禄を見せ堂々の1位。」などと原告レストランが紹介され,「日本で人生最後の日を迎えるとしたら,その日のディナーはどこへ行きますか?」との質問に対する回答の第3位として,61頁に約6分の1頁大の大きさで,「ChezPierreシェ・ピエール」,「気楽に田舎料理を食べたいから。」などと原告レストランが紹介され,原告レストランの店舗の外観の写真(同写真には原告表示3が小さく写っている。)が掲載されている(甲15)。 ク平成10年7月11日に放映された情報番組「出没!アド街ック天国乃木坂編」(テレビ東京系)内において,「乃木坂BEST20」の第11位として原告レストランが紹介され,「シェ・ピエール」の表示と共に原告レストランの外観の映像(同映像には原告表示3が小さく映っている。)が放映された(甲16)。 36ケ平成12年12月20日発行のレストランガイド「別冊BRIO東京・大阪・神戸大人のレストラン厳選230店2001年度版」に,原告レストランが「シェ・ピエール」と表記されて紹介されており,原告レストランの店舗内の写真や料理の写真が掲載されている(甲17)。 コ平成14年6月11日発行の書籍「パンの世界杯4人の応援団の美味しいレシピ」の「世界の舞台に立つ日本のパンベーカリー・ワールドカップへの道」とのタイトルの記事中には,「(日本フランスパン友の会)会員のフランス人パン職人で在日歴の長いA氏(レストラン「シェ・ピエール」オーナー)」と原告代表者を紹介する記述があるものの,記事全体としては,そのタイトルにあるとおり,ベーカリー・ワールドカップに日本が参加するまでの経緯を紹介する内容となっている(甲18)。 サ平成14年12月10日発行のレストランガイド「ZAGATSURVEY2003TOKYORESTAURANTS」の94頁に6分の1頁大の大きさで,平成15年12月20日発行の「ZAGATSURVEY2004TOKYORESTAURANTS」の98頁に6分の1頁大の大きさで,平成17年9月13日発行の「ZAGATSURVEY2006TOKYORESTAURANTS」の105頁に5分の1頁大の大きさで,それぞれ,「シェ・ピエールChezPierre」と原告レストランが紹介されている(甲19ないし21)。 なお,平成19年10月23日発行の「ZAGATTokyoRestaurants2008」(乙26)には,原告レストランは掲載されていない。 シ平成16年3月30日発行の雑誌「TokyoWalker」の「東京で桜を楽しむ桜さんぽ」と題する記事のうち,青山周辺を紹介した57頁には,他のレストランと共に,原告レストランが紹介されており,原告レストランの店舗内の写真の横に「RestaurantChez37Pierre」と表記されている(甲22)。 ス平成16年12月1日発行のレストランガイド「日経ベストレストランガイド2005第一線で活躍する大人の女性が選びました」の96,97頁に見開き2頁にわたって,原告レストランが「シェピエールしぇぴえーる」と表記されて紹介されており,原告レストランの店舗内の写真,料理の写真のほか,96頁右下に小さく原告レストランの外観の写真(同写真には原告表示3が小さく写っている。)が掲載されている(甲23)。 セ平成17年6月2日に六本木ヒルズアリーナにおいて開催された,フランス政府が提唱する「アペリティフの日」にちなんだイベントに,原告代表者は,飲食を提供するシェフ14人のうちの1人として参加した。そのため,上記イベントに関するチラシ(甲24)や新聞広告(甲25,26)には,他のシェフと共に,原告代表者が「シェ・ピエール」のシェフとして紹介されている。 平成18年6月1日に六本木ヒルズアリーナにおいて開催された,フランス政府が提唱する「アペリティフの日」にちなんだイベントに,原告代表者は,飲食を提供するシェフ18人のうちの1人として参加した。そのため,上記イベントに関するチラシ(甲27)には,他のシェフと共に,原告代表者が「シェ・ピエール」のシェフとして紹介されている。 平成19年6月7日に六本木ヒルズアリーナにおいて開催された,フランス政府が提唱する「アペリティフの日」にちなんだイベントに,原告代表者は,飲食を提供するシェフ18人のうちの1人として参加した。そのため,上記イベントに関するチラシ(甲75)には,他のシェフと共に,原告代表者が「シェ・ピエール」のシェフとして紹介されている。 ソ平成17年10月から12月にかけて,日仏会館及び東京日仏学院によって開催された,「飲むことと食べること」に関するチラシ(甲28)に,同イベントに協力した東京・横浜の30軒のフランス料理店のうちの1軒38として,原告レストランが,レストラン名「シェ・ピエール」,シェフが原告代表者であると記載され,原告代表者の写真と共に紹介されている。 タ平成17年9月ころ発行のニッセイネットワーク会報誌である「Cuore[クオーレ]2005年秋号」の「世界食堂」というコーナーで,原告代表者が「シェ・ピエール」のオーナーとして紹介され,原告レストランが「フランス家庭料理シェ・ピエール」,「東京青山に32年。「シェ・ピエール」は気取らぬフランス家庭料理を供するビストロだ。」などと紹介されているものの,記事全体としては,フランス料理である「コック・オ・ヴァン(鶏の赤ワイン煮込み)」を紹介する内容となっており,料理の写真や説明が大部分を占めている(甲29)。 チ平成17年11月15日発行のレストランガイド「KingofGourmetFrenchキング・オブ・グルメフランス料理店」の34ないし37頁に,原告レストランが「ChezPierreシェ・ピエール」と表記され,「日本初のフランス人シェフによるフランス料理店。」などと紹介されており,原告レストランの店舗内の写真,料理の写真と共に,原告レストランの外観の写真(同写真には,原告表示3が小さく写っている。)も掲載されている(甲30)。 ツ平成17年12月に放映された番組「トリビアの泉」(フジテレビ系)内において,「フランス料理の一流シェフが最も美味しいと認めるフランスパンに合うカップラーメンの残り汁は何か」を調査判定する者として,原告代表者を含めフランス料理のシェフ4名が出演し,その際,「「シェ・ピエール」オーナーシェフ」という肩書きの表示と共に,原告代表者が紹介された(甲31)。 テ平成18年3月ころ発行された東京三菱UFJVISAゴールドカード会員の会報誌「SUPERICCARD2006年春夏号」の「この店の居心地フレンチ特集」とのタイトルの下,2分の1頁大の大き39さで,原告レストランが「シェ・ピエールChez-Pierre」と表記されて紹介されている(甲32)。 ト平成18年4月25日発行のフリーペーパー「Patis2006年5月号」の3ないし5頁には,原告代表者を紹介する記事が掲載されており,その中で,原告代表者について「「シェ・ピエール」オーナーシェフ」との記述があり,原告レストランの店舗内の写真や料理の写真と共に,「カフェテラスレストラン「シェ・ピエール」」と原告レストランが紹介されているものの,記事全体としては,原告代表者の半生や経験談,あるいは考え方などが,原告代表者に対するインタビュー形式で記述されているものである(甲33)。 また,平成19年1月30日発行のフリーペーパー「Patis2007年2月号」の2ないし5頁に,「A氏に習うブイヤベース」とのタイトルの記事が掲載されており,原告代表者の肩書きとして「シェ・ピエール」と記載され,原告レストランの店舗内の写真と共に,「シェ・ピエール」と原告レストランが紹介されているものの,記事全体としては,上記タイトルのとおり,原告代表者による料理教室の模様や料理のレシピを紹介する内容となっている(甲34)。 ナ平成18年10月10日発行のフリーペーパー(「フランス大好きな人のための小さな情報紙」)「SalutLaFrance創刊号」の見開き2頁の記事中に,「モンサンミッシェルのムール貝を乃木坂シェ・ピエールで,という至福」とのタイトルの下,料理と共に原告レストランが紹介されており,原告レストランの外観を写した小さな写真が掲載され,その横には原告表示3が小さく表記されている(甲35)。 平成18年12月10日発行のフリーペーパー(「フランス大好きな人のための小さな情報誌」)「SalutLaFrance2号」の見開き2頁の記事中に,「ジビエ・・・,野趣がぬくもりと芳醇に変わる40とき」とのタイトルの下,料理と共に原告レストランが紹介されており,原告レストランの外観を写した小さな写真が掲載され,その横には原告表示3が小さく表記されている(甲36)。 平成19年2月10日発行のフリーペーパー(「フランス大好きな人のための小さな情報誌」)「SalutLaFrance3号」の見開き2頁の記事中に,「スプーンからの海のシンフォニーピエールさんのブイヤ・ベース」とのタイトルの下,料理と共に原告レストランが紹介されており,原告レストランの外観を写した小さな写真が掲載され,その横には原告表示3が小さく表記されている(甲37)。 平成19年6月10日発行のフリーペーパー(「フランス大好きな人のための小さな情報誌」)「SalutLaFrance5号」の見開き2頁の記事中に,「ルバーブは初夏の驚き。エメラルドグリーンで,さわやかで。」とのタイトルの下,料理と共に原告レストランが紹介されており,原告レストランの外観を写した小さな写真が掲載され,その上には原告表示3が小さく表記されている(甲72)。 平成19年8月10日発行のフリーペーパー(「フランス大好きな人のための小さな情報誌」)「SalutLaFrance6号」の見開き2頁の記事中に,「過ぎゆく夏とそこに来ている秋のたわむれ生ハム,イチジク,ホロホロチョウ,ブドウ」とのタイトルの下,料理と共に原告レストランが紹介されており,原告レストランの外観を写した小さな写真が掲載され,その上には原告表示3が小さく表記されている(甲73)。 平成20年4月10日発行のフリーペーパー(「フランス大好きな人のための小さな情報誌」)「SalutLaFrance10号」の見開き2頁にわたって,原告代表者へのインタビュー記事が掲載されており,その中で,原告代表者を「“シェ・ピエール”オーナーシェフ」と紹41介し,原告レストランの外観を写した小さな写真が掲載され,その上には原告表示3が小さく表記されている(甲74)。 ニ平成19年2月1日発行の雑誌「百楽2007年2月号」において,6頁にわたって原告レストランや原告レストランのレシピが紹介されており,その中で,「東京・青山に最初に誕生したフレンチレストランシェ・ピエール」などと原告レストランが紹介され,原告レストランの店舗内の写真,原告代表者の写真,料理の写真と共に,原告レストランの外観を写した小さな写真(同写真には原告表示3が小さく写っている。)が掲載されている(甲38)。 ヌ平成19年3月当時,キリンビールのホームページのうち,飲食店を紹介するページに,原告レストランが「カフェレストランシェ・ピエール」と表記されて紹介されていた(甲39)。 ネ平成19年7月1日発行の雑誌「料理王国」には,原告代表者を含むフランス人シェフ4人による座談会の記事が掲載されており,その中で,原告代表者がシェフを勤めるレストランとして,原告レストランが「シェピエール」と表記されて紹介されているものの,記事全体としては,座談会形式で,4人のフランス人シェフの「日本のフレンチの変遷」についての考え方を紹介するものである(甲76)。 ノ平成19年12月30日発行のレストランガイド「青山・表参道・六本木上等なランチ」の40,41頁に,原告レストランが,「シェピエールChezPierre」と表記されて紹介されている(甲77)。 ハ平成20年2月5日発行の朝日新聞(夕刊)の「味の地球儀@tokyo」というコーナーの記事中には,原告代表者が「東京・南青山のフランス料理レストラン「シェ・ピエール」のオーナーシェフ」であると紹介されているものの,記事全体としては,タイトルにあるとおり,料理である「ブイヤベース(フランス)」を紹介するものである(甲78)。 42マ平成20年6月1日発行の雑誌「散歩の達人」の84頁に,2分の1頁大の大きさで,原告レストランが「シェピエール」と表記されて紹介されている(甲79)。 (4)被告商品の販売等ア被告は,被告商品の開発に当たって,「ご家庭で気軽に楽しんでいただくワイン」という商品コンセプトを設定し,店頭での販売価格を700円から1000円の間に設定することができる商品の開発を進めることとし,これらの条件に合うものとして,カステル社(乙4)からワインを輸入することにした。 被告は,フランスと日本の両国で商標法上問題の生じない商品名を付けるため,カステル社がフランスで保有する登録商標リストの提示を受け,この中から,フランス語で「ピエールさんの家」,「ピエールさんのレストラン」という意味であり,商品コンセプトに最も合致し,かつカステル社の会長である「B」(B。乙5)の名前にちなんだ「CHEZPIERRE」との名称を付けることにした。 カステル社は,上記「CHEZPIERRE」との商標を,平成5年(1993年)にフランスにおいて登録し,それ以降保有しているものである(乙6)。 被告は,商品名が決定した後,日本において,「ChezPierre」の文字を標準文字で書して成る商標について商標登録出願をし,平成19年9月には,第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒,麦および麦芽を使用しないビール風味のアルコール飲料」を指定商品として,同商標が設定登録された(商標登録第5077069号。乙30,46)。 イ被告は,商品名を「シェピエール」といい,被告表示1をフロントラベルに使用し,被告表示1ないし3をバックラベルに使用したワインを,平成19年3月20日から全国的に販売し始めた。 43被告商品のカタログ価格は,1本870円である(乙44)。 ウ被告は,被告商品の発売後,雑誌広告,交通機関の駅構内における広告,ホームページにおける宣伝広告などを行った(甲62,甲63の1ないし5,甲64の1・2,乙42,43)。 エ上記発売日から平成19年12月末日までの間の被告商品の販売数量は,1万3000ケース(1ケース当たり12本入り)である(乙3)。 (5)その他の実情等ア被告は,平成19年5月1日,原告レストランの顧客と思われる人物から,被告商品について,原告レストランとの関連性の有無についての問い合わせを受けたことがある。しかしながら,上記の問い合わせのほかには,被告商品と原告レストランとの関連性を尋ねるなどの問い合わせを受けたことはない(乙45)。 イ原告は,これまでに,原告レストランの顧客から,被告商品と原告レストランとの関連性の有無を尋ねられたことが3回あり,原告レストランの顧客等から,被告商品が原告レストランと関係のある商品だと思った旨の話をされたことが3回ある(甲92)。 2上記事実に基づき,各原告表示の周知性について検討する。 (1)被告商品は,「家庭で気軽に楽しむワイン」という商品コンセプトの下に,開発された商品(ワイン)であり,その価格(カタログ価格)は,ボトル1本当たり870円と安価である。そして,被告は,平成19年3月20日から,被告商品の全国販売を開始し,雑誌広告,交通機関の駅構内における広告,ホームページにおける宣伝広告の下で,同年12月末日までの間に1万3000ケース(15万6000本)を販売したのであるから,被告商品は,全国的な(特定の地域に限られない),かつ,フランス料理やフランス料理のレストランに格別の興味を持っている者に限られない一般的な消費者を需要者とする商品であると認められる。 44そうすると,本件において,各原告表示が周知であるというためには,被告商品の需要者である,全国的な一般消費者の間に広く認識されているものであることを要するというべきである(不正競争防止法2条1項1号。なお,原告は,「東京都心部に居住ないし通勤・通学し,フランス料理に関心がある一般人の間」における各原告表示の周知性を問題とするのではなく,各原告表示が全国の一般消費者に対する周知性を獲得している旨を主張しており,この点において原告の立場は上に説示したところと異ならないといえる。)。 (2)原告レストランは,昭和48年(1973年)に青山で開業し,昭和60年(1985年)に現在の乃木坂の店舗(東京都港区南青山1-23-10)に移転した後は,現在に至るまで,同所において営業を継続しており,開業以来現在に至るまで,レストラン名として,「シェ・ピエール」を使用している。しかしながら,原告が経営する「シェ・ピエール」との名称のレストランは上記乃木坂の一店舗のみであり,多店舗経営の営業形態をとっていない。また,原告は,原告レストランにおいて,ワインを料理と共に提供することがあるものの,原告レストランにおける顧客への提供以外に,ワインを市販しているなどの事情はうかがわれない。これらの事実に照らせば,原告レストランの営業地域は,原告レストランの所在地及びその周辺地域に限られるものというべきである。 (3)原告レストランの名称は,「〜の家」,「〜の店」という意味を有するフランス語単語の「Chez」の称呼である「シェ」と,フランス人男性の名前である「Pierre」の称呼である「ピエール」とを組み合わせたものであって,前記認定のとおり,原告レストランのほかにも,名称に「Chez」,あるいは「シェ」を含むフランス料理のレストランや,名称に「Pierre」,「PIERRE」,あるいは「ピエール」を含むフランス料理のレストランや洋菓子店があることに照らすと,顕著な特徴を有する語ではなく,むしろ,レストラン名としてはありがちな名称であるということがで45きる。 加えて,各原告表示の外観は,別紙原告表示目録記載1ないし6のとおりであり,原告表示2ないし6は,いずれも,フランス語の単語である「Chez」(又は「CHEZ」)と「Pierre」(又は「PIERRE」)とを横一列に表記したものにすぎず(なお,原告表示3ないし4は,アルファベットが飾り文字になっているものの,当該文字が顕著な特徴を有するとまではいえない。),原告表示1は,上記単語の称呼を片仮名で「シェ」,「ピエール」と表記し,両者の間に「・」を配して,横一列に表記したものにすぎないのであって,それ自体,特に顕著な特徴を有するものであるとも,あるいは,新規なものであるともいえない。 (4)レストランガイドや雑誌等における原告レストランに関する記述等についてア原告は,各原告表示の周知性を立証する証拠として,別紙媒体目録記載の各媒体(甲7ないし39)及び甲第72ないし79号証への原告レストランの掲載を挙げるので,これらについて検討する。 イ原告レストランの紹介が主たる内容となっているとは認められないもの(ア)「日経流通新聞」の記事(甲7)には,原告レストランの名称(原告表示1)を記載し,紹介する部分が一部含まれるものの,全体としては,原告代表者の経験談やその考え方などを紹介する内容となっている。 (イ)「パンの世界杯4人の応援団の美味しいレシピ」の記事(甲18)には,原告代表者の紹介を目的として,原告レストランの名称(原告表示1)を記載した部分が一部含まれるものの,全体としては,ベーカリー・ワールドカップに日本が参加するまでの経緯を紹介する内容となっている。 (ウ)「アペリティフの日」にちなんだイベントのチラシ又は新聞広告(甲24ないし27,75)は,原告レストランを紹介することを目的とす46るものではなく,他の多数のシェフと共に,原告代表者が紹介されているにすぎない。 「飲むことと食べること」のイベントチラシ(甲28)も,イベントに協力した30軒のフランス料理店の1軒として,原告レストランが紹介されているにすぎない。 (エ)「Cuore[クオーレ]2005年秋号」の記事(甲29)には,原告代表者と共に原告レストランが紹介され,原告レストランの名称(原告表示1)を記載した部分があるものの,全体としては,フランス料理である「コック・オ・ヴァン」を紹介する内容となっている。 (オ)「Patis2006年5月号」の記事(甲33)や「Patis2007年2月号」の記事(甲34)には,原告代表者と共に原告レストランが紹介され,原告レストランの名称(原告表示1)を記載した部分があるものの,全体としては,原告代表者の半生や経験談を紹介するもの,あるいは,原告代表者による料理教室の模様や料理のレシピを紹介するものとなっている。 (カ)「料理の王国」の記事(甲76)には,原告レストランが「シェピエール」と表記されて紹介されている部分があるものの,全体としては,座談会形式で,4人のフランス人シェフの「日本のフレンチの変遷」についての考え方を紹介するものである。 (キ)「朝日新聞」の記事(甲78)には,原告代表者を紹介するに当たって,原告レストランの名称(原告表示1)が記載されている部分があるものの,全体としては,料理(ブイヤベース)を紹介するものである。 上に述べたこれらの各記事の内容に照らすと,これらの記事の中において各原告表示が読者の注意を強く惹くということはできないから,上記各記事は,いずれも各原告表示の周知性を立証するに足りる証拠であるとはいえない。 47ウレストランガイドにおける紹介について(ア)「’94東京のうまいもの屋555店」(甲8)には,原告レストランが,その名称(原告表示1)の表記と共に紹介されているものの,本件口頭弁論終結時よりも相当前の時期である平成5年に発行されたものである。 また,上記レストランガイドにおいては,原告レストランは,多数の飲食店のうちの一つとして紹介されているにすぎず,同ガイドは,読者が必要に応じてレストランを検索するという用いられ方をするのが通例であるといえるから,これに掲載されたからといって,必ずしも原告レストランや各原告表示が読者の注意を惹くものであるとはいえない。 (イ)「Wining&DininginTokyo」の7,8,12号(甲10ないし12)には,原告レストランが,その名称(原告表示2,3,6)の表記と共に紹介されているものの,本件口頭弁論終結時よりも相当前の時期である平成7年,平成8年,平成14年に発行されたものである。 また,上記は外国人向けのレストランガイドであり,その表記も英語でされているものであるから,本件における周知性立証の証拠としては不適当である。 さらに,上記レストランガイドにおいては,原告レストランは,多数の飲食店のうちの一つとして紹介されているにすぎない。 (ウ)「エピキュリアン’96〜’97東京・関西フランス料理店ガイド」(甲13),「東京フランス料理店ガイドエピキュリアン」(甲14)には,原告レストランが,その名称(原告表示1,6)の表記と共に紹介されているものの,本件口頭弁論終結時よりも相当前の時期である平成8年,平成13年に発行されたものである。 また,上記レストランガイドにおいては,原告レストランは,多数の48飲食店のうちの一つとして紹介されているにすぎない。 (エ)「別冊BRIO東京・大阪・神戸大人のレストラン厳選230店2001年度版」(甲17)には,原告レストランが,その名称(原告表示1)の表記と共に紹介されているものの,本件口頭弁論終結時よりも相当前の時期である平成12年12月に発行されたものである。 また,上記レストランガイドにおいては,原告レストランは,多数の飲食店のうちの一つとして紹介されているにすぎない。 (オ)「ZAGATSURVEY2003TOKYORESTAURANTS」(甲19),「ZAGATSURVEY2004TOKYORESTAURANTS」(甲20),「ZAGATSURVEY2006TOKYORESTAURANTS」(甲21)には,原告レストランが,その名称(原告表示1,2)の表記と共に紹介されているものの,これらは,いちばん新しいものでも本件口頭弁論終結時よりは3年前のものである上,平成19年10月に発行された「ZAGATTokyoRestaurants2008」(乙26)には,原告レストランが掲載されていない。 また,上記レストランガイドにおいては,原告レストランは,多数の飲食店のうちの一つとして紹介されているにすぎない。 (カ)「日経ベストレストランガイド2005第一線で活躍する大人の女性が選びました」(甲23)には,原告レストランが,その名称(「シェピエールしぇぴえーる」)の表記,原告レストランの外観の写真の掲載と共に紹介されているものの,上記レストランガイドにおいては,原告レストランは,多数の飲食店のうちの一つとして紹介されているにすぎない。 また,上記原告レストランの外観の写真には,原告表示3が写っているものの,小さくしか写っていないため,読者の注意を強く惹くとも考49え難い。 (キ)「KingofGourmetFrenchキング・オブ・グルメフランス料理店」(甲30)には,原告レストランが,その名称(原告表示1,2)の表記,原告レストランの外観の写真の掲載と共に紹介されているものの,上記書籍の販売部数は6000部にすぎない(甲54)。また,上記書籍は,「歴史に名を残す最上級レストラン」として10店を紹介するものであり(甲30,乙13),その購読者層も,一般消費者を対象とするというよりは,フランス料理又はフランス料理店に格別の関心を有する層を対象とするものと考えられる。 また,上記原告レストランの外観の写真には,原告表示3が写っているものの,小さくしか写っていないため,読者の注意を強く惹くとも考え難い。 (ク)「青山・表参道・六本木上等なランチ」(甲77)には,原告レストランが,その名称(「シェピエールChezPierre」)の表記と共に紹介されているものの,上記レストランガイドにおいては,原告レストランは,多数の飲食店のうちの一つとして紹介されているにすぎない。 上に述べたところによれば,原告が提出したレストランガイドは,本件口頭弁論終結時より相当以前の時期に発行されたものであるか,購読者層や発行部数が限られているものであること,原告レストランが多数の飲食店のうちの一つとして紹介されているにすぎず,これに接する読者の注意を強く惹くものとは認められないこと等に照らすと,いずれも各原告表示の周知性を立証するに足りる証拠であるとはいえない。 エ雑誌記事における紹介について(ア)「Missミス家庭画報2月号」の記事(甲9)には,原告レストランが,その名称(原告表示1)の表記と共に紹介されているものの,50本件口頭弁論終結時よりも相当前の時期である平成7年2月に発行されたものである。 なお,上記記事には,原告レストランの外観の写真が掲載されており,同写真には,原告表示3が写っているものの,小さくしか写っていないため,読者の注意を強く惹くものであるとは考え難い。 (イ)「BRUTUS」の記事(甲15)は,在日フランス人88人に対するアンケート結果に基づくランキングを記載したものであり,当該記事の内容からみて,上記雑誌が発行された平成9年6月当時,原告レストランが全国的な一般消費者に対して周知であったと認めることはできない。 また,上記のとおり,上記雑誌は,本件口頭弁論終結時よりも相当前の時期である平成9年6月に発行されたものである。 なお,上記記事には,原告レストランの外観の写真が掲載されており,同写真には,原告表示3が写っているものの,小さくしか写っていないため,読者の注意を強く惹くものであるとは考え難い。 (ウ)「TokyoWalker」の記事(甲22)は,「東京で桜を楽しむ桜さんぽ」と題する記事であり,原告レストラン(原告表示2)は,青山周辺を紹介したページの一部分に,他のレストランと共に紹介されているにすぎないから,これに掲載されたからといって,原告レストランや各原告表示が読者の注意を強く惹くものであるとはいえない。 (エ)「SUPERICCARD2006年春夏号」(甲32)は,東京三菱UFJVISAゴールドカード会員の会報誌であり,日本全国の会員に向けて,約5万1000部発送されたものと認められる(甲56の1)ものの,読者層は,上記カード会員に限られ,また,カード会社から自動的に送付されてくるものであるから,会報誌を受領した会員は,必ずしも全体を読むとも限らない。 51(オ)「SalutLaFrance創刊号」(甲35),「SalutLaFrance2号」(甲36),「SalutLaFrance3号」(甲37),「SalutLaFrance5号」(甲72),「SalutLaFrance6号」(甲73),「SalutLaFrance10号」(甲74)は,フリーペーパーであり,日本各地において,合計5万部配布されているものと認められる(甲59)ものの,「フランス大好きな人のための小さな情報誌」と付記されているように,フランスに関心を有する人を読者層とするものであると考えられる。 また,上記各記事においては,原告レストランが紹介されているものの,料理の紹介(甲74については,原告代表者へのインタビュー記事)が大部分を占めており,原告レストランの外観を写した写真や原告表示3の表記は小さく,読者の注意を強く惹くものとは考えにくい。 (カ)「百楽2007年2月号」(甲38)は,日本全国を販売エリアとし,15万部発行されており(甲60),そのターゲットとする購読者層については,「健康で快適で美的なライフスタイルを追求し,提案するアッパーミドルのご夫婦のための月刊誌です。」などと紹介されている(乙14)。 上記雑誌の購読者層は,上記のとおり,相当限定されたものであり,上記掲載内容も原告表示に焦点が当てられたものとはいえない。 (キ)「散歩の達人」(甲79)は,東京都,千葉県,埼玉県,神奈川県内を販売エリアとし,10万部発行されているものと認められる(甲83)。 上記雑誌の購読者層は,上記のとおり,首都圏エリアに限定されたものであることや,上記掲載内容も原告表示に焦点が当てられたものとはいえない。 52上に述べたところによれば,これらの雑誌記事等については,その掲載時期が本件口頭弁論終結時より相当以前のものであったり,購読者層が限定されたものであったり,その内容自体からみて,原告レストラン名や各原告表示が読者の注意を強く惹くとは認められないものであることに照らすと,各原告表示の周知性を立証するに足る証拠であるとはいえない。 オテレビ番組における紹介等について(ア)「出没!アド街ック天国乃木坂編」(甲16)において,「乃木坂BEST20」の第11位として原告レストランが紹介され,原告レストランの名称(原告表示1)の表示や原告レストランの外観の映像が放映されたものの,上記番組が放送されたのは本件口頭弁論終結時より相当前の時期である平成10年7月である。 また,上記番組がランキング形式で紹介していく番組であることに照らし,同番組内において原告レストランに係る事項が放映された時間は短時間にすぎなかったものと推認することができるから,上記番組は,各原告表示の周知性を立証するに足りるものではない。 (イ)「トリビアの泉」(甲31)の内容は,前記1(3)ツで認定したとおりであり,その内容からみて,原告レストラン名が視聴者の注意を強く惹くものとはいえない。 (ウ)キリンビールのホームページのうち,飲食店を紹介するページ(甲39)に,原告レストランがその名称(原告表示1)の表記と共に紹介されているものの,上記ページへのアクセス数は,平成18年は月平均70件程度,平成19年は月平均55件程度にすぎない(甲61)。 上に述べた上記テレビ番組の放映時期や内容,ホームページのアクセス数に照らすと,これらが各原告表示の周知性を立証するに足る証拠であるとはいえない。 カ以上のとおり,本件において原告が挙げる上記各証拠は,それのみでは53各原告表示の周知性を立証するに足りる証拠とはいえず,また,これらを併せ考慮しても,各原告表示の識別力が弱いこと,各掲載における各原告表示の表記の大きさ,表記方法等に鑑みれば,各原告表示が全国的な一般消費者に周知であることを認めるに足りないといわざるを得ない。 (5)原告が原告レストランの営業表示として使用している旨主張する各原告表示は,前記認定のとおり,原告レストランの看板や日除けテント,原告レストランのパンフレットやカード,原告レストランのマッチ,あるいは,原告レストランで提供されるハウスワインに貼付されるラベルやシールといった,原告レストランにおいて,その顧客に提供されるものに表示されているか(ただし,看板等については,原告レストランの前を通る人が目にする可能性がある。),あるいは,原告のウェブサイト上のホームページに表示されているにすぎず(なお,甲第68号証のクリスマスイベントの告知ポスターは,どこに掲示されたものであるかは判然としないものの,少なくとも,広範囲にわたって多数掲示されたものであることを認めるに足りる証拠はない。 また,乃木坂駅の周辺案内板の表示も,同駅を利用する人が目にする可能性があるにすぎない。),これらの形で使用されている各原告表示に接する者の範囲はきわめて限定されている。 そして,上述のとおり,原告が各原告表示の周知性の立証として提出する証拠は,いずれも,原告自身が広告宣伝活動を行ったというものではなく,上記各媒体からの取材に応じるなどして,原告レストランが紹介されたというものにすぎないから,一定期間にわたって継続的に各原告表示が多数の一般消費者に認識される形態で広告宣伝活動が行われたわけでもない。 (6)以上検討したところによれば,本件全証拠によっても,各原告表示が,被告商品の需要者である,全国的な一般消費者の間に広く認識されているものであることを認めるに足りない。 3結論54よって,原告の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,いずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 阿部正幸 |
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裁判官 | 山門優 |
裁判官 | 柵木澄子 |