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関連ワード 記憶 /  模倣 /  補助参加 /  因果関係 /  弁護士費用 /  侵害 /  代理人 /  得べかりし利益 /  営業誹謗行為(2条1項14号) /  虚偽の事実 /  損害賠償 /  損害額 /  営業上の信用 / 
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事件 平成 16年 (ネ) 229号 損害賠償等請求控訴事件
控訴人兼被控訴人(一審原告,以下,単に「一審原告」という。) パンチ工業株式会社
訴訟代理人弁護士 山田敏夫
同 馬場和佳
補佐人弁理士 小林保
同 大塚明博
同 小島猛
被控訴人兼控訴人(一審被告,以下,単に「一審被告」という。) 日本デイトン・プログレス株式会社
訴訟代理人弁護士 渡部敏雄
同 檜垣直人
同 新保克芳
一審被告補助参加人(以下,単に「補助参加人」という。) 株式会社プレスセンター
訴訟代理人弁護士 山下江
同 目片浩三
同 田中伸
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/11/11
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 一審原告の控訴及び一審被告の控訴をいずれも棄却する。
2 一審原告が当審で拡張した請求を棄却する。
3 控訴費用は,一審原告の控訴に関する部分は一審原告の,一審被告の控訴に関する部分は一審被告の各負担とし,参加によって生じた部分は補助参加人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 一審原告 (1) 原判決中一審原告敗訴部分を取り消す。
(2) 一審被告は,一審原告に対し,3879万1693円及びこれに対する平成10年12月27日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3) 一審被告の控訴を棄却する。
(4) 訴訟費用は第一,二審とも一審被告の負担とする。
(5) 第2項につき,仮執行宣言 2 一審被告 (1) 原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。
(2) 一審原告の請求を棄却する。
(3) 一審原告の控訴(当審で拡張した請求を含め)を棄却する。
(4) 訴訟費用は第一,二審とも一審原告の負担とする。
事案の概要
本件は,一審被告が,一審原告の取引先である三菱自動車工業株式会社及び富士重工業株式会社に対し,一審原告の製造・販売する製品(CR)が実用新案権(実用新案登録番号1872007号)を侵害すると告知した行為が不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当するとして,一審原告が一審被告に対し,損害賠償と謝罪広告の掲載を請求した事案である。
原判決は,一審原告の製品は上記実用新案権を侵害せず,一審被告の告知行為は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当するとして(平成15年1月30日言渡しの中間判決),損害賠償請求の一部(1106万1962円及び遅延損害金)を認容し,その余の損害賠償請求及び謝罪広告掲載請求については棄却した。
そこで,これを不服とする一審原告及び一審被告の双方が,それぞれ自己の敗訴部分について控訴を提起した。一審原告は,原審において4190万5655円及び遅延損害金を請求していたが,当審において,新たに794万8000円の損害を追加し,請求を拡張した。
1 当事者双方の主張は,次の2ないし9のとおり当審における主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」及び「第3 争点に関する当事者の主張」(原判決引用に係る中間判決「事実及び理由」の第3の1を含む。)のとおりであるから,これを引用する(以下,当裁判所も,「本件実用新案権」,「本件考案」,「原告製品」,「本件告知」など原判決中で用いられている略称を,原判決の用法に従って用いることとする。)。
2 本件実用新案権の侵害について (1) 一審被告(補助参加人)の主張 本件考案が解決しようとした課題が,@従来のCRにおいて,パンチを突出させた状態で使用中,衝撃や振動によってカム板が後退し,誤作動することがあったので,この課題を解決するため,カム板が正確にプレス位置に保持され,パンチの誤作動を避けることができるようにし,A市販されているJIS規格の鍔付きパンチを利用できるようにした,というものであることは,原判決認定のとおりである。
しかし,原判決が,本件考案の特徴は構成要件Cにあり,原告製品は,構成要件Cを充足していないから,本件実用新案権に抵触するものではない,と判断したのは誤りである。
原判決は,上記判断の理由として,本件考案と同様の課題を解決するためのものとして,実願昭59-178636号が公開されていたというが,同実用新案は上記@,Aを解決することを目的としたものではない。
また,原判決は,構成要件Cの「パンチ用嵌合孔1bの仮想中心軸とカム板3の移動方向によって決まる仮想中立面」(以下「仮想中立面」という。)に左右対称にバネ用有底孔が設けられていることにより,バネの弾力が左右均一に働き,もってパンチが左右にぶれることなく正確かつ安定して押し下げられることになり,その結果誤作動が防止できるものであるから,構成要件Cは本件考案の特徴である,としている。
しかし,本件考案において,カム板の後退という誤作動が防止できるのは,カム板及びパンチ両移動方向と直方する深横溝をリテーナーブロックの上面に凹設し(構成要件B),この深横溝に長方形状パンチセットブロックを上下動のみ可能に嵌合配置し(構成要件D),当該パンチセットブロックに鍔付きパンチの段付孔を設けて(構成要件E)パンチを同ブロックに完全に嵌め込むことができるようにし,パンチをパンチセットブロックと一体的に上下動できるようにしたためである(構成要件F)。すなわち,このようにすることにより,パンチは,それが突出した際 ,パンチ用嵌合孔のみならず,パンチの鍔(大径頭部)が上部に出ないように嵌め込まれたパンチセットブロック,それをがっちり嵌め込む深横溝,さらにはパンチセットブロックを上面から押さえ込むカム板により,完全に固定されることになる。このような構成を備えているために,バネの弾力が左右不均等に働いたとしても,パンチの突出時の固定は確実なものとなるのである。
したがって,本件考案が解決しようとする課題の解決において,構成要件Cは必須のものではないから,それは本件考案の特徴とはいえず,厳格に解する必要はない。構成要件C中の「仮想中立面に対し対称」は,深横溝の溝底の複数個のバネ用有底孔の位置が仮想中立面に対し対称であれば足り,有底孔の形状までが対称である必要はないと解すべきである。そうすると,原告製品は,構成要件Cを充足し,本件考案の技術的範囲に属することになる。
以上のとおり,原告製品は,本件実用新案権を侵害するものであるから,本件告知の内容は虚偽ではなく,不正競争防止法に違反するものではない。
(2) 一審原告の主張 原告製品が,構成要件Cを充足しないことは,東京地裁平成13年(ワ)第14488号事件及びその控訴事件である平成15年(ネ)第1127号事件の判決で明確に認定され,既にこの判決は確定している。
3 完成済み及び仕掛かり中の原告製品が納入できなかったことによる損害について (1) 一審原告の主張 ア 原判決は,一審原告が,富士重工業及び三菱自動車から,それぞれ原告製品200台の納品を予定している旨の通知を受けていたとの事実を認めることはできないとした。
しかし,自動車業界においては,特定のプロジェクト(新車開発)で使用する部品(本件ではチェンジリテーナー(CR))の数量を割り出して事前に準備しておくという業界特有の発注方法の慣行(予備発注)があり,このような予備発注があった上で,現実に使用する部品の数量が明確になった段階で,本発注を行うという手順が踏まれることになっている。
本件でも,一審原告は,富士重工業から,「準工日程表」(甲第36号証,以下「日程表」という。)及び「型製作課型彫職場型換算表」(甲第37号証,以下「換算表」という。)を見せられ,当該プロジェクトで必要となる原告製品の数量を200台と予測して製造を開始し,また,三菱自動車の購買担当者から,前のプロジェクトに使用された数量と一般的な数量として大まかにいって200台位と聞いたことに基づいて製造を開始したものであって,このような日程表・換算表の提示及び購買担当者からの概算の提示は,それぞれ200台の原告製品の発注(予備発注)を,間接的かつ概算的に指示したものと考えるべきである。
イ 上記のような取引慣行は,当初予測された数より少ない数しかCRの発注(本発注)がされなかったとしても,在庫となったCRは,次回の別な車種のモデルチェンジのプロジェクトの際に,同一業者に在庫のCRを発注するという形で手当てするという不文律によって,そのことが自動車メーカーとCRの納入業者との間の暗黙の約束事として了解されていることを前提として成り立っているものである。
したがって,本件告知により,このような形での手当てがなされず,在庫部品の発注を得られないことになれば,その在庫となったCRの分が損害となることは当然である。
ウ 以上のとおりであるから,一審原告が三菱自動車及び富士重工業から予備発注を受けて製造し,納入できずに在庫として抱え,最終的に廃棄した完成済み原告製品146台及び仕掛かり中であった原告製品254台(予備発注400台のうち完成品146台を除いたもの)全てについて,本件告知と相当因果関係のある損害として認められるべきである。
(2) 一審被告の主張 ア 原判決は,一審原告が,本件告知よりも前に,富士重工業及び三菱自動車に対して,原告製品の納入を中止する措置をとった事実は認められないとした。
しかし,一審原告は,平成10年9月に補助参加人から警告を受けた後,補助参加人との円満和解解決を図ろうとしていたものであり,少なくとも補助参加人との初交渉が行われた平成11年3月16日までの間は,原告製品の販売を自粛していたことが明らかである。
現に,一審原告は,三菱自動車宛の平成10年12月17日付け「チェンジリテーナ販売実績について」と題する書面(乙27号証)において,本件実用新案権の侵害を明確に自認すると共に,原告製品の販売を中止する旨申し出ているのである。
したがって,原告製品が納入できなかったことと本件告知との間に相当因果関係はなく,少なくとも平成10年12月から平成11年3月までの一審被告のCRの販売実績(三菱自動車分30台,富士重工業分23台)に基づく損害については,本件告知との間の因果関係がないというべきである。
イ また,原判決は,原告製品を納入できなかったことによる損害額をその販売価格によって算定している。しかし,原告製品の製造には2か月程度もあれば十分であるから,一審原告が,正式発注前に原告製品を製造し,予め在庫を保有する必要はないし,そもそも一審原告の主張する在庫損害は架空のものである。
したがって,仮に原告製品について一部損害が認められる余地があるとしても,その損害額は,消極損害(得べかりし利益)に限られるべきである。
ウ なお,一審原告が主張する,予備発注などという方式は存在しないし,自動車メーカーが,部品業者の在庫リスクを軽減するために,あるプロジェクトで採用しなかった製品を次回プロジェクトで採用するなどという不文律なるものも存在しない。
4 新タイプのCRを開発・製造したことによる損害について (1) 一審原告の主張 一審原告が開発した新タイプのCRは,従来品(原告製品)と異なり,使用実績がないから,採用するか否か三菱自動車及び富士重工業に検討してもらう必要がある。しかし,両社から,本件実用新案権の問題がなければ購入してもよい,試作品は早く持ってくるようになどといわれており,採用される見込みは極めて高かった。そして,採用されてから量産を開始したのでは,納期に間に合わないから,前もってまとまった数を製造するのは当然であり,一審原告としては,三菱自動車及び富士重工業との取引関係を維持するために,新製品の開発・製造を余儀なくされたものである。
したがって,開発費用のみならず,製造費用についても損害賠償が認められるべきであり,製造費用について損害を否定した原判決は不当である。
(2) 一審被告の主張 ア 原判決が新タイプのCRの開発費用を損害として認定したのは不当である。
原告製品について本件実用新案権侵害の問題が発生している状況の下で,一審原告が新タイプのCRを開発したとしても,公権的な判断等が示されない限り,三菱自動車及び富士重工業がそれを採用するはずはなく,両社が,一審原告に対し,新しい製品ができたら持ってくるようになどと述べることは考えられないのであって,一審原告が,新タイプのCRの開発に着手した経緯として述べるところは,不自然である。
また,一審原告の新タイプCRは,補助参加人が何年もかけて開発したスーパーチェンジリテーナー(被告新製品)とほぼ同じ程度に小型化・軽量化されており,一審原告の主張によれば,その設計は,平成11年3月から同年7月までの僅かな期間に完了したというのであるが,そのようなことが可能なはずがない。
したがって,一審原告による新タイプのCRの開発が事実であるとしても,それは,補助参加人のスーパーチェンジリテーナー(被告新製品)が市場に広まった後に,対抗上,これを模倣して製作したものと強く推認されるのであって,一審原告の開発行為は,本件告知と相当因果関係のないものである。
イ 原判決は,新タイプのCRの製造費用の損害賠償請求を棄却している。
その理由の骨子は,具体的に受注する見込みがない時点で,一審原告独自の判断で製造に踏み切ったものであるから,三菱自動車等に採用されなかったことと本件告知との間に因果関係がないとするものである。この論理は,開発そのものについても当てはまるものであり,新タイプのCRの開発費用についての損害賠償も棄却されるべきである。
また,新タイプのCRは,スーパーチェンジリテーナーに,株式会社ミスミのセレクトリテーナーの構造を参考にして変更を加えた程度のものに過ぎず,原判決が認定したような過大な開発費用を要するものとは考えられない。
5 原告製品以外の自動車プレス金型用製品を納入できなかったことによる損害について (1) 一審原告の主張 ア 原判決は,甲第40号証(富士重工業の購買担当者であるAからの聞き取り内容を記載した小林保弁理士の報告書)について,聞き取りの時期が本件告知から4年半以上経過していることや,本件告知の時点までプレゼンテーションが行われなかったことを理由として,これを採用しなかったが,Aの記憶は正確であり,また,プレゼンテーションの実施が延期されたのは,原告製品に不具合が相次いで発生し,その対応に追われた等の事情があったことによるものである(甲第70号証,第71号証)。
イ 一審被告が,平成10年12月に,富士重工業に対し本件告知を行ったため,プレゼンテーションを行う話は白紙撤回され,鋳込みフックなどの自動車プレス金型用製品の販売ができなくなったものである。自動車業界は,知的財産権の侵害について極めて厳格な意識を有しているから,たとえ一つであっても,製品について知的財産権を侵害しているとのクレームが出れば,会社の信用が傷つき,他の製品の発注にも悪影響が出るのであって,本件告知と原告製品以外の金型用製品を納入できなかったこととは相当因果関係がある。
それらの金型用製品は,富士重工業の製品規格に合ったもので,転用はできないのであり,これを納入できなかったことに基づく損害賠償が認められるべきである。
(2) 一審被告の主張 Aの陳述書(甲第70号証)などは信用性に疑問があるのみならず,そもそも一審原告が主張するように,富士重工業専用品をプレゼンテーション実施前に大量生産して在庫を持つなどということは,到底考えられない。
しかも,一審原告が,鋳込みフック等の製品を富士重工業に納入できなくなったということはない。仮に上記製品を納入できなくなったとしても,そのことと本件告知との間に相当因果関係はなく,それは,平成10年ころ相次いで生じた原告製品のトラブルのためと考えられる。
6 製品カタログ製作による損害(当審において追加された請求)について (1) 一審原告の主張 一審原告は,平成10年7月,富士重工業向けに,原告製品以外の自動車プレス金型用部品(鋳込みフック等)を掲載した「プレス金型用標準部品 '98自動車型用」(以下「本件カタログ」という。)約5000部を完成させた。
本件カタログは,主に富士重工業向けに営業を行うために特に作成したものであるが,本件告知により,上記金型用部品の採用の見込みがなくなったため,使用されないままになってしまい,その製作が無駄になった。その損害額は,本件カタログの製作費用として第三者に支払った額のうち,富士重工業及びその関連会社に配付した約1800部に対応する部分224万8000円と,製作に携わった一審原告の社員の人件費500万円の合計724万8000円である。
(2) 一審被告の主張 本件カタログは,富士重工業向け製品だけでなく,他の自動車メーカー向けの自動車部品を集めて掲載したものであり,富士重工業向けのものであるとはいえない。また,本件カタログに掲載されている部品数は100アイテムを超えており,そのうち,一審原告が採用される見込みがなくなったと主張する鋳込みフック等は,僅か4〜5アイテムに過ぎないのであって,それらの鋳込みフック等が購入されないことになったからといって,本件カタログ全体が使いものにならなくなるなどということはあり得ない。
7 営業上の信用・名誉毀損による損害について (1) 一審原告の主張 原判決は,一審被告において,本件告知の内容が虚偽であることを明確に認識して行ったとまではいえないとしているが,一審被告は,実用新案権者でないにもかかわらず,そうであるかのように装って,その旨三菱自動車及び富士重工業に誤信させているから,本件告知の内容が虚偽であることを明確に認識していたというべきである。
その他,一審被告が,一審原告を刑事告訴し,富士重工業に対しても刑事告訴する予定であるなどと通知していること,同社に対し,一審原告との取引内容を開示するよう執拗に求め,その結果一審原告との取引関係が消滅したこと,本件の一審判決後も,依然として一審原告と三菱自動車及び富士重工業との取引関係は復活せず,一審被告が両社と取引を継続していることなどの事実関係を前提とすれば,営業上の信用毀損に基づく損害額を500万円とした原判決の認定は,相当ではない。
一審原告が,両社との取引関係を復活させるためには,5人程度の営業社員を投入して営業活動をする必要がある。一人当たりの年俸を500万円とすると,取引関係復活までに1年間かかるとした場合2500万円,2年間かかるとした場合5000万円の費用がかかることになる。2000万円という損害額は,決して過大なものとはいえない。
(2) 一審被告の主張 一審原告は,平成11年12月2日に特許庁が最初の判定結果(甲第3号証)を出すまでは,原告製品の販売を自粛するとの姿勢をとっていたから,本件告知は,一審原告に特段の財産上の損害を与えたわけではない。
CRは,もともと大量かつ継続的に需要がある製品ではないから,それに関して実用新案権の侵害の問題が発生したとしても,会社の信用に大きな影響を与えることはない。加えて,もともと一審原告は,他社製品のコピーないしフォローアップによる製品を安価に提供することで知られていたという事情があり,本件のような権利侵害が問題となっても,一審原告の信用に対する深刻な打撃とはならない。
原判決が営業上の信用毀損に基づく損害額を500万円と認定したことは,本件における具体的事情を考慮しておらず,過大である。
8 弁護士費用(当審において一部増額)について (1) 一審原告の主張 控訴審において追加したカタログ製作による損害724万8000円を加えた一審原告の損害額4535万3655円を基にすると,450万円が相当である。
(2) 一審被告の主張 争う。
9 謝罪広告の必要性 (1) 一審原告の主張 本件告知の内容は,三菱自動車及び富士重工業の2社だけでなく,両社に出入りしている部品メーカーにも伝わっており,実際には,これらの会社ばかりでなく,マツダ株式会社,株式会社オギハラ(日本最大の金型メーカー)等にも知られている。
自動車の製造において,部品の一つにでも知的財産権の問題が生じ,その使用が差し止められるようなことになれば,製造ライン全体がストップすることになるため,自動車業界は,知的財産権の侵害について厳しい意識を有している。また,プレス金型部品の業界は,極めて狭い業界であり,そこにおいて生じた事件の内容は,容易に業界全体に広まる。
本件告知により,一審原告は営業上の信用を失い,未だにそれは回復していない。これを回復させるためには,一審被告に早期に謝罪広告を掲載させることが必須である。
(2) 一審被告の主張 本件告知は,あくまで三菱自動車及び富士重工業の二社に対して行ったものである。
一審原告は,間接的・波及的に本件告知の内容が他社に広まったと主張するが,それを証明する証拠はない。まして,一審被告が,不特定多数人に対し,本件告知をしたと同視し得る事情は何ら存在しない。
当裁判所の判断
1 当裁判所も,本件告知は不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争行為に該当し,一審被告はこれにより一審原告が被った損害を賠償する義務を負うものと判断する。その理由は,次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第4 当裁判所の判断」の1(原判決引用に係る中間判決「事実及び理由」の第4を含む。)と同一であるから,これを引用する。
(1) 一審被告(補助参加人)は,カム板の後退という誤作動の防止において,構成要件Cは必須のものではない,と主張する。
上記引用に係る原判決認定のとおり,上記作用効果に関し,本件明細書には「・・・従来のリテーナー装置では,パンチ9を突出させた状態で使用中,衝撃や振動によってカム板3が後退し,誤作動し,不良品を出すことがあった。この考案は,カム板が正確にプレス位置に保持され,緩衝によるパンチの誤動作を避けることが出来るようにしたプレス用のパンチリテーナー装置を提供しようとするものである。」と記載されている。
この記載からは,上記作用効果は,カム板が正確にプレス位置に保持されること,換言すると,パンチが正確かつ安定的に本来のプレス位置にまで押し下げられ,かつその状態が維持されることにより発揮されるものと理解することができる。
そして,従来技術である甲第11号証に,パンチを確実に変位させるため,パンチの周回り方向にリターンスプリングを配設する構成が開示されており,このことからすると,本件考案の構成要件Cの「仮想中立面に対し対称」とは,これをさらに一歩押し進めたもの,すなわち,仮想中立面に対し,面対称の位置に,同一のバネを有するバネ用有底孔を設けるものと解すべきである。なぜなら,カム板は,仮想中立面に直交しつつこれを分断するように前進してパンチ(パンチセットブロック)を押し下げるものであるから,上記のような意味でバネ用有底孔を設けるときは,押し下げに抗するバネの反発力が左右均等となり,まさに左右均等に,正確かつ安定的にパンチが押し下げられることになるからである。また,カム板に向かってパンチを押しつける力が左右均等に働くことは,そうでない場合に比較して,押し下げ状態をより安定して維持できるものと認められる。 したがって,一審被告(補助参加人)の上記主張は採用できない。
(2) また,後記本件補正の経緯からは,次のように説明することもできる。
本件考案の出願過程において,特許庁が発した拒絶理由通知を受けて,補助参加人は,平成2年5月14日付け手続補正書を提出し,本件考案の請求項の従前の記載である 「カム板3が前進したときはパンチ8がリテーナーブロツク1の下面からストローク分突出し,且つカム板3が後退したときはパンチ8がリテーナーブロツク1内にストローク分引込む如く構成したプレス用のパンチリテーナー装置において, リテーナーブロツク1に圧縮バネ10を配してパンチセツトブロツク2を上下動のみ可能に嵌合配置し, 該パンチセットブロツク2に鍔付きパンチ8の段付孔2aを設け, カム板3に対応する傾斜面2cをパンチセツトブロツク2に設けたことを特徴とするプレス用パンチリテーナー装置。」(甲第6号証) を, 「カム板(3)が前進したときはパンチ(8)がリテーナーブロツク(1)の下面からストローク分突出し,且つカム板(3)が後退したときはパンチ(8)がリテーナーブロツク(1)内にストローク分引込む如く構成したプレス用のパンチリテーナー装置において カム板(3)及びパンチ (8)両移動方向 と直方 する 方向 の深横溝 (1a) をリテーナーブロツク (1)の上面 に凹設 すると 共に該深横溝 (1a) 中にパンチ 用嵌合孔 (1b) を設け, パンチ 用嵌合孔 (1b) の仮想中心軸 とカム 板3の移動方向 によつて 決まる 仮想中立面 に対し対称 な位置 に当る深横溝 の溝底 に複数個 のバネ 用有底孔 (1c) ・・・ (1c) を設け, 圧縮バネ(10)を配して長方形状 パンチセットブロツク(2)を上下動のみ可能に深横溝(1a) に嵌合配置し, 該パンチセツトブロツク(2)に鍔付きパンチ(8)の段付孔(2a)を設け, カム板(3)に対応する傾斜面(2c)をパンチセツトブロツク(2)に設けたことを特徴とするプレス用パンチリテーナー装置。」(判決注・下線部が,補正により付加された部分である。) と補正し,また,これに対応して,考案の詳細な説明の記載も一部訂正した(甲第12号証,以下「本件補正」という。)。
構成要件Cは,本件補正により新たに付け加えられたものであり,しかも,その文言をみれば,圧縮バネを配置する位置を,「仮想中立面に対し対称な位置」に限定するものであることは,明らかである。
この補正に関し,補助参加人は,同日付意見書(甲第74号証,以下「本件意見書」という。)において, 「(イ) 実開昭61-117328号のマイクロフイルム(引用例1)の第4頁第3〜4行目「ホルダブロツク5の摺動孔6に摺動自在となしたポンチリテーナ7」の記載されており,ポンチリテーナ7は円柱状の形状をしています。それ故,打分け作動部材11によつて,ポンチリテーナ7を下方に押出すとき,打分け作動部材11は円柱の端面の一点から当ることになり,早期に摩耗するのが避けられません。
これに対し,本願考案のものはパンチセツトブロツク2が長方形なので,カム板3が前進するとき,斜面2c,3aが面接触又は線接触するので,引用例のものに比べて耐久性があります。
(ロ) 本願考案のものにおいて,カム板3が第2図の状態から第1図の状態に移動するとき,パンチセツトブロツク2を圧縮バネ10に逆つて下方向に押下げると共に左方向に押します。このため鍔付きパンチ8とパンチセツトブロツク2の結合体には反時計回わりの回転モーメントを受けます。この回転モーメントに対して生じる抵抗モーメントは,リテーナーブロツクの深横溝1a部の左上隅と,パンチ用嵌合孔1bの右下隅とに最大の圧縮応力を生じますが,抵抗モーメントの腕の長さが最大応力を生じる2点間のリテーナーブロツクの高さだけありますので,最大圧縮応力値はそれ程大きくありません。
引用例1のものは,打分け作動部材11を押込むときポンチリテーナ7に生じる回転モーメントを,ホルダブロツク5と接触しているポンチリテーナ7だけで受けますので,抵抗モーメントの腕の長さが短く,ポンチリテーナ7がこじられるのが避けられません。
(ハ) 引用例2のものはパンチ7の大径頭部7aが円形で,且つ移動バツキングプレート15の押込みが生じるモーメントをパンチ中径部7bとリテーナ5のパンチ取付孔11の間のみで受けるため大径頭部7aが摩耗し易く,パンチ取付孔11よりも上側に突出しているところのパンチ部分が大きいので,取付孔11が大きくこじられ,取付孔11及び中径部7bの早期摩耗が避けられません。
(イ)で述べた如く,本願考案においては,パンチセツトブロツク2が長方形なので摩耗量が少なくなります。また(ロ)で述べた如くパンチセツトブロツク2と鍔付きパンチ8に生じる抵抗モーメントは,最大応力間の腕の長さが長いので,最大応力値が低く摩耗量を少なくすることが出来ます。」 と述べている。
(3) 本件意見書の上記記載からは,そこに言及されている早期摩耗の機序は,要するに,パンチ及びパンチセットブロックが,カム板により下方に押されて突出する際,カム板に近い部分が先に押され,そこに強い力がかかることにより,カム板の進行方向に向かって少し傾いた(あるいはゆがんだ)状態で,不均等に沈降することにより,早期摩耗が発生する,というものと解される。
このことから,構成要件Cの「仮想中立面」に対して面対称にバネ用有底孔が設けられていない場合,すなわち,例えば仮想中立面の片側の孔にのみ圧縮バネが設けられている場合や,片側の孔の圧縮バネによる付勢力が他方の側のそれより大きい場合には,パンチセットブロックやパンチには,これを押し込もうとするカム板に抵抗する力が左右不均等にかかるから,これにより,パンチセットブロックが沈む動きに不均衡が生じ,ゆがみや傾きが生じ得ること,ひいては,これが摩耗につながることも,また明らかである。そうすると,仮想中立面に対し対称に,同じバネを有するバネ用有底孔を設ければ,カム板がそれらを押し下げる力,動きに左右で不均等が生じず,その結果,早期摩耗を防止できることは明らかである。
(4) 以上のとおり,構成要件Cには,カム板の後退という誤動作の防止に加え,本件意見書で挙げられている早期摩耗の防止という技術的意義がある。すなわち,構成要件Cは,本件考案の本質的部分の一つであると解することができる。
構成要件Cが本件考案の特徴ではないとし,「仮想中立面に対し対称」との文言を厳格に解釈する必要はないとする一審被告(補助参加人)の主張は,採用できない。
2 損害について 当裁判所も,本件告知により一審原告が被った損害は原判決が認容した限度でこれを認めることができ,その余の請求は,当審で拡張した部分を含め理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり付加訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の「第4 当裁判所の判断」の2及び4と同一であるから,これを引用する。ただし、原判決29頁7行目から30頁5行目までを,後記(3)のとおり改め,原判決30頁16行目「虚偽の事実」から17行目「告訴を行い,」までを削除する。
(1) 完成済み及び仕掛かり中の原告製品が納入できなかったことによる損害について ア 一審原告は,富士重工業からは日程表・換算表を提示され,三菱自動車からは購買担当者の概算の提示により,それぞれ200台の原告製品の予備発注を受けた旨主張する。
しかし,日程表(甲第36号証)及び換算表(甲第37号証)は,日程管理の面から作成されているもので,これによって,原告製品の実際の納入必要数が確定されるわけでないことは明らかであり(このことは,一審原告も認めているところである。一審原告の控訴理由書3頁),これらの提示があったからといって,富士重工業が一審原告に対し,間接的あるいは概算的に一定数量の原告製品の発注をしたものと見ることはできない。また,三菱自動車の場合は,一審原告に対しそのような書類も示されているわけではなく,一審原告の主張によっても,単に購買担当者から,前のプロジェクトに使用された数量と一般的な数量として大まかにいって200台位と聞いているにすぎないというのであり,これをもって間接的あるいは概算的に一定数量の原告製品の発注があったということはできない。
自動車業界において,一審原告の主張する予備発注という慣行が存在するかどうかはともかく(本件において,そのような慣行があることを的確に認めるに足りる証拠は存在しない。),少なくとも,それが,一審原告が主張するように(もっとも,一審原告主張の不文律があると認めるに足りる証拠は存在しないが,その点はともかくとして),予備発注の数量より少ない数しか本発注がされないときは,次のプロジェクトの際にその在庫分を発注するという形で手当てするという暗黙の約束事を伴うというのであれば,予備発注なるものは,単なる購買担当者の見込みや部品業者の予測といったものではなく,概算的にせよ数量を示した発注者の明確な指示(予備注文)といえるだけのものでなければならないというべきである。なぜなら,自動車メーカーとして,部品業者が現実に必要な数以上に過剰に生産した部品についても,結果的にその全量を購入しなければならない以上,それは確定的な発注行為(一審原告のいう本発注)と実質的に異なるところがないことになるからである(本件においても,一審被告が一審原告に代わって,現実に納入したCRの数量は,それぞれ200台に遙かに満たないものであり,仮に自動車メーカーが,その過剰分についても将来購入しなければならないとすれば,自動車メーカーにとっては,かなりの負担になることが予想される。)。
本件においては,一審原告が,富士重工業及び三菱自動車から,そのような意味での予備発注(各200台)を受けたことを認めるに足りる的確な証拠は存在しないから,かかる予備発注があったことを前提に,一審被告納入部分の86台を超えて,完成済み及び仕掛かり中の400台全部について,その損害賠償を求める一審原告の主張は理由がない。
イ 一審被告は,本件告知より前に,一審原告は原告製品の販売を自粛していたと主張し,当審において,新たに乙第27号証を提出する。
一審被告が,三菱自動車に対し,本件告知を行ったのは平成10年12月3日であるが,その後,一審原告は,三菱自動車に対し,平成10年12月17日付け「チェンジリテーナ販売実績について」と題する書面(乙第27号証)を送付しており,その中には, 「さて,このたび弊社チェンジリテーナ(判決注・原告製品)が,実用新案権(広島プレスセンター所有)侵害にあたることとなり,ご迷惑をおかけしました。
これは,ひとえに事前調査の不備によるものと,貴社に深くお詫び申しあげるしだいでございます。
今後につきましては,即刻販売を中止するとともに,規格を改めるよう準備中でございます。」 との記載がある。
上記記載からすると,乙第27号証は,「今後につきましては,即刻販売を中止する」,「規格を改めるよう準備中」とあるように,取引先である三菱自動車に対し,今後の対応策として,原告製品の販売を中止して,その規格を改める準備を行う旨を表明したものであり,この書面をもって,一審被告が主張するように,一審原告が本件告知より前に三菱自動車に対する販売を自粛していたことを裏付けるものということはできない。そして,前記引用に係る原判決認定のとおり,一審原告は,平成10年12月初めに取引先に対して原告製品の販売を中止する旨の書面を送付しているが,富士重工業及び三菱自動車に対しては販売中止の措置をとることなく,取引継続について理解を求めていたのであって,一審被告の上記主張は採用することができない。
ウ 一審被告は,原告製品の製造には2か月程度もあれば十分であるから,予め在庫を保有する必要はないし,一審原告の在庫損害は架空のものであるとして,その損害額は消極損害(得べかりし利益)に限られると主張する。
しかし,甲第20号証ないし第22号証(いずれも枝番を省略),第41号証によれば,一審原告(正確にはその別法人)は,中国や日本国内に工場を有し,ある程度まとまった数の部品を製造し,さらに工程を分担することにより,価格面での競争力を発揮するという業態を採っていること,そのため,まとまった量の注文を受けると,納入までに多少長めの時間を要することもあることが認められる。そして,同業者間における競争が激しいことからすれば,発注(本件において,現実のCRの納入時期は,一審被告の納入実績から,平成11年2月以降であり,当初の予定は,甲第36号証から,平成10年12月ころであったと認められる。)を受けた後できるだけ早期に納入できるよう,前もって製造を開始しておくことは,部品メーカーとして合理的な判断ということができるから,前記の一審原告の業態を併せ考慮すると,納入時期の2,3か月程度前の時点で,一部完成品が存在したということに何ら不自然な点はない。
したがって,一審被告の上記主張は理由がない。
(2) 新タイプのCRを開発・製造したことによる損害について ア 一審被告は,一審原告が新タイプのCRの開発に着手した経緯として述べるところは不自然であるなどとして,その開発は,補助参加人のスーパーチェンジリテーナー(被告新製品)が市場に広まった後に,対抗上,これを模倣して行われたものであると主張する。
しかし,本件告知が契機となって,原告製品の採用がキャンセルされる事態となった以上,一審原告にとって,一審被告と和解して現行製品の販売を継続・販売することのほかに,本件実用新案権を侵害しないような製品を開発するという選択肢を考慮することは当然である。このことは,乙第27号証の「規格を改めるよう準備中でございます。」との記載からも裏付けることができる。
また,前記引用に係る原判決認定のとおり,一審原告は,本件告知後に,三菱自動車から「実用新案権を侵害していないとはっきりしているものが提案できれば,再度検討する。ただし,安いものでなければ採用しない。また,他社で実績がないものは採用しない。」との回答,富士重工業から「もし本件実用新案権を侵害していないものがあればテストして再度検討する」との回答を,それぞれ得ていたものであり,両社の回答はいずれも,本件実用新案権を侵害しないものであることの前提を付した上で,製品の善し悪しなどを考慮して採用を検討するとしているものであって,両社がこのような回答をすること自体に不自然なところはなく,これらの回答は,一審原告にとって,新タイプのCRを開発する動機付けになるものということができる。
甲第80号証の1ないし9,第81号証によれば,一審原告の新タイプのCRは,構成要件Cを充足しないほか,CR本体に深横溝を設けず,その代わり,深く掘り下げた孔を形成している点,本体に被せるカバーがない点(使用状態においてパンチセットブロックが露出しないため,不要となる。),パンチセットブロックが変形八角形状になっている点などで,補助参加人のスーパーチェンジリテーナー(被告新製品)と異なる(これらの点は,原告製品との相違点でもある。)ものであることが認められ,一審原告の新タイプのCRは,スーパーチェンジリテーナー(被告新製品)の単なる模倣品ではないことは明らかである。一審被告は,一審原告の新タイプのCRの小型化の程度が,スーパーチェンジリテーナーと同程度であると主張するが,そうであるとしても,そのことのみでは,上記認定を覆すには足りない。
なお,甲第33号証の2によれば,一審原告において,新タイプのCRの設計を完成した時期は,平成11年7月ないし8月ころと認めることができ,この認定を左右するに足りる証拠はない。
以上からすれば,一審原告による新タイプのCRの開発が,補助参加人のスーパーチェンジリテーナー(被告新製品)に対抗するために,これを模倣して行われたものであるとの一審被告の主張は理由がない。
イ 一審被告は,一審原告の新タイプのCRの製造費用についての損害賠償が認められない以上,同じ理由により,その開発費用の損害賠償も認められないと主張する。
しかし,一審原告としては,本件告知により,三菱自動車及び富士重工業から,原告製品を採用しないことを通告されたため,両社との信頼関係を回復し,取引復活の糸口として新タイプのCRを開発して提示することを余儀なくさせられたものであり,一審原告が新タイプのCRを開発しようとすることは,部品業者として合理的な行為であるといえるから,その開発費用と本件告知とは相当因果関係があるということができる。
確かに,前記のとおり,一審原告が新タイプのCRを開発しても,三菱自動車及び富士重工業としては,これを検討するというだけで,必ずしもその採用を確約していたものではないが,試作品ができなければ検討すらされないのであり,また,試作品もできないうちから,製品採用の具体的見込みが立つことは通常あり得ないのであるから,前記のような事情の下では,開発製品の採用が確約されていないことは,本件告知とその開発費用との相当因果関係を認める妨げとなるものではなく,この点は,製造費用と同列に論じることはできない。
ウ 一審被告は,新タイプのCRの開発費用として319万円は過大であるとも主張する。
しかし,甲第23号証,第41号証によれば,新タイプのCRの設計,試作等を外注した場合には,その構造設計,試作品製作,性能評価,関連書類の作成等の費用を含め319万円を要するものと見積もられているのであり,原告製品と新タイプのCRとの相違点(前記したもののほか,その小型化の程度)に照らせば,その額は妥当なものと認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。
エ 一審原告は,新タイプのCRについて,開発費用だけでなく,その製造費用も損害として認められるべきであると主張する。
しかし,新タイプのCRの製造費用を本件告知による損害と認めるためには,少なくともそれが採用されること自体についての合意が成立しているか,採用される相当の蓋然性があったことが必要であるというべきであるが,本件において,そのような合意あるいは相当の蓋然性があったことを認めるに足りる証拠はなく,一審原告の上記主張は理由がない。
(3) 原告製品以外の自動車プレス金型用製品を納入できなかったことによる損害について(原判決29頁7行目から30頁5行目までを,次のとおり改める。) 甲第44号証ないし第48号証,第50号証ないし第54号証,第70号証,第71号証によれば,平成10年初めころ,一審原告は,富士重工業に対し,鋳込みフック等の製品のプレゼンテーションを実施することを申し込み,これが了承されたこと,平成10年5月ころから,一審原告の製品であるガススプリング,CRについてトラブルが相次いで発生し,プレゼンテーションの実施が延期されたこと,結局,本件告知がなされた後も実施されなかったこと,の各事実を認めることができる。
そして,甲第70号証(Aの陳述書)によれば,上記の鋳込みフック等の製品は富士重工業の規格に合わせた特注製品であり,これを採用することは,その購入先を相当の期間一審原告に固定することになることから,A(富士重工業群馬製作所の工機管理課の係長)だけで決められるものではなく,生産技術課,型設計課,治具設備課,プレス技術課等の社内的な了解が必要であり,そのため,製品についての性能,耐久性,価格,供給性,さらには,従来製品との比較実験等を具体的に説明するプレゼンテーションが企画されたというのであって,このことからすると,単にプレゼンテーションが行われることが予定されていたからといって,一審原告の上記製品が採用される具体的な見込みがあったということは到底できないといわなければならない。しかも,上記のとおり,一審原告の製品であるガススプリングやCRに相次いで不具合があったことは,たとえそれへの対応が迅速且つ適切に行われたとしても,富士重工業にとって新商品となる鋳込みフック等の一審原告の製品の採用に関してプラスの方向に働くとはいえない状況もあったのである。
したがって,本件告知がなければ,一審原告が主張する原告製品以外の自動車プレス金型用製品を富士重工業に対し販売することができたということはできず,それらの金型用製品が納入できなかったことと本件告知との間に相当因果関係があることを認めることはできない。他に,上記相当因果関係の存在を認めるに足りる証拠はないから,それらの金型用製品を納入できなかったことによる損害をいう一審原告の主張は理由がない。
(4) 製品カタログ製作による損害(当審において追加された請求)について 一審原告は,主に富士重工業向けに営業を行うために,原告製品以外の自動車プレス金型用部品(鋳込みフック等)を掲載した本件カタログを完成させたが,本件告知により,上記金型用部品の採用の見込みがなくなり,本件カタログが無駄になったので,その製作費用(富士重工業等への配付分1800部分)相当分の損害を被ったと主張する。
甲第49号証(枝番省略),第64号証,第65号証,第71号証,乙第20号証,第21号証によれば,一審原告は,平成10年7月に本件カタログを製作し,これを富士重工業等に配付したことを認めることができる。
しかし,本件カタログが富士重工業向けの上記鋳込みフック等の金型用部品の営業のために用意されたものであったとしても,前記のとおり,プレゼンテーションが行われたとしても,当然にそれらの製品が採用されるとは限らなかったのであるから,それが採用されなかったために本件カタログが無駄になったとしても,そのことと本件告知との間に相当因果関係があるとは認められない。もともと,当時,一審原告と富士重工業との間には,原告製品のほかに継続的な取引関係があったわけではなく,本件告知によって,原告製品以外に具体的な取引が停止されたということは認められないのであるから,本件カタログによる宣伝等が具体的な取引の成立という形で成果を挙げなかったとしても,そのことをもって本件告知による損害ということができないことはいうまでもなく,一審原告の主張する上記損害はこれを認める余地がないというべきである。
(5) 営業上の信用・名誉毀損による損害について ア 当裁判所も,前記引用に係る原判決説示の諸事情を含め,本件にあらわれた一切の事情を総合考慮すると,一審被告の本件告知による一審原告の営業上の信用毀損に基づく損害としては500万円とするのが相当と判断する。
イ 一審原告は,一審被告が実用新案権者であるかのように装って,その旨三菱自動車及び富士重工業に誤信させているから,本件告知の内容が虚偽であることを明確に認識していたというべきであると主張する。
前記引用に係る原判決説示のとおり,一審被告は,本件実用新案権につき権利者でないにもかかわらず,自己が実用新案権者であるかのように記載して本件告知を行ったものであり,本件告知を知的財産権の権利者の権利行使の一環として行われた行為と評価することはできないのであるが,他方,本件全証拠によっても,一審被告において,原告製品が本件実用新案権を侵害するものでないことを明確に認識していたと認めることはできないのであって,一審原告の上記主張は理由がない。
ウ 一審被告は,本件告知は一審原告の信用に大きな影響,打撃を与えない旨主張するが,前記引用に係る原判決説示のとおり,本件告知により,一審原告は富士重工業及び三菱自動車に対して原告製品を納入することができなくなったのであり,一審原告に一定の信用毀損が生じたことは明らかであって,これを軽微な影響等にとどまるということはできない。
(6) 弁護士費用について 一審原告は,弁護士費用相当の損害として450万円を主張するが,前記引用に係る原判決説示のとおり,本件事案の内容等諸般の事情を斟酌すれば,本件告知と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害としては100万円をもって相当と認める。
3 謝罪広告の必要性について 当裁判所も,一審原告の謝罪広告掲載請求は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第4 当裁判所の判断」の3のとおりであるから,これを引用する。
一審原告は,謝罪広告の必要性を縷々主張するが,甲第72号証,第73号証,第75号証によれば,一審原告と補助参加人間の関連事件(東京地裁平成13年(ワ)第14488号事件,東京高裁平成15年(ネ)第1127号事件)について,平成15年12月25日,原告製品が本件実用新案権を侵害しないことを明らかにした控訴審判決が言い渡され,既に確定していることが認められる。また,本判決においても,原告製品が本件実用新案権を侵害せず,一審被告の本件告知は違法であったことが明らかにされているのであり,自動車の部品(金型)製造業界が狭いことは一審原告自身主張するところであることなども考えると,本件において,金銭賠償に加え,謝罪広告の掲載までを認める必要性が存在するとは認められない。
4 結論 以上のとおりであるから,原判決は相当であって,一審原告及び一審被告の本件各控訴はいずれも理由がなく,また,一審原告が当審において拡張した損害賠償請求も理由がない。
よって,本件各控訴及び一審原告の当審において拡張した請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久
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