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事件 平成 16年 (ワ) 5713号 不正競争行為差止等請求事件
平成 16年 (ワ) 7661号 損害賠償請求事件
第1事件原告(第2事件被告) 大阪ガスケミカル株式会社 第1事件被告(第2事件原告) アイ・ビー・アール株式会社 第2事件被告 P1 第2事件被告 P2 第2事件被告 P3 第1事件原告(第2事件被告)、第2事件被告P1、同P2、同P3訴訟代理 人弁護士 岩坪哲
同 井上裕史
同 田上洋平 第1事件原告(第2事件被告)、第2事件被告P1、同P2、同P3補佐人弁 理士 小谷悦司
同 川瀬幹夫
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/11/11
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 第1事件被告(第2事件原告)は、第1事件原告(第2事件被告)が製造するシロアリ防除剤「スーパーシロアリ退治」の譲渡、引渡し、譲渡若しくは引渡しのための展示、並びに広告が、第1事件被告(第2事件原告)の登録商標第4126282号の商標権を侵害するとの事実を告知、流布してはならない。
2 第1事件被告(第2事件原告)は、第1事件原告(第2事件被告)に対し、320万7300円及びこれに対する平成16年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 第1事件原告(第2事件被告)のその余の請求を棄却する。
4 第1事件被告(第2事件原告)の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、第1事件及び第2事件を通じてこれを10分し、その1を第1事件原告(第2事件被告)の負担とし、その余を第1事件被告(第2事件原告)の負担とする。
6 この判決は、第1、第2項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
(第1事件) 1 請求の趣旨 (1) 主文第1項同旨 (2) 第1事件被告(第2事件原告)は、第1事件原告(第2事件被告)に対し、1700万円及びこれに対する平成16年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は第1事件被告(第2事件原告)の負担とする。
(4) 仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁 (1) 第1事件原告(第2事件被告)の請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は第1事件原告(第2事件被告)の負担とする。
(第2事件) 1 請求の趣旨 (1) 第1事件原告(第2事件被告)、第2事件被告P1、同P2、同P3は、
第1事件被告(第2事件原告)に対し、連帯して2億2812万5000円、及びうち4062万5000円に対する平成11年5月1日から、うち3750万円に対する平成12年5月1日から、うち3750万円に対する平成13年5月1日から、うち3750万円に対する平成14年5月1日から、うち3750万円に対する平成15年5月1日から、うち3750万円に対する平成16年5月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は第1事件原告(第2事件被告)、第2事件被告P1、同P2、
同P3の負担とする。
(3) 仮執行宣言 2 請求の趣旨に対する答弁 (1) 主文第4項同旨 (2) 訴訟費用は第1事件被告(第2事件原告)の負担とする。
当事者の主張
(第1事件) 1 請求原因 (1) 商標権 第1事件被告(第2事件原告。以下、単に「被告」という。)は、次の商標権(以下「被告商標権」といい、その登録商標を「被告登録商標」という。)を有する。
登録番号 第4126282号 出願年月日 平成8年4月26日 出願番号 商願平8-46747 登録年月日 平成10年3月20日 商品の区分 第5類 指定商品 薬剤 登録商標 別紙被告登録商標目録記載のとおり (2) 標章の使用 第1事件原告(第2事件被告。以下、単に「原告」という。)は、平成9年4月以降、別紙原告標章目録記載の標章(以下「原告標章」という。)を付したシロアリ防除剤「スーパーシロアリ退治」(以下「原告製品」という。)を製造し、販売し又はその販売の申出をしている。
(3) 被告登録商標の構成等 ア 被告登録商標の構成は、次のとおりである。
(ア) 全体の構成 全体的に、困ったシロアリが、円環とその内側に配された斜線を有する図形(以下、円環とその内側に配された右肩上がり又は左肩上がりの斜線を有する図形を「禁止標識図」という。)をはみ出し、活発にばたばたと暴れ、標識から逃れ出ようとする印象を与え、この点において自他識別機能を有する。
(イ) 具体的表現 a 虫の顔 @ 全体に丸顔である。
A 目が「大きい黒目」で、これに八の字眉毛が配され、汗をかいていることと合わせて、いかにも困った表情である。
B 触覚は、ぴんとはね、はっきりと横線が入っている。
C 牙が長くて太い。
D 禁止標識図の枠からはみ出て動的な印象を与える。
b 虫の手足 @ 6本と思しき手足(又は足)は、いずれも極めて細長く、シャープにかつ湾曲して描かれ、裸足であることと合わせ、精悍な印象を生じている。
A 足のうち2本が禁止標識図をはみ出し、特に向かって右側の足の足先に描かれた2本の曲線の印からして、ばたばたと盛んに暴れている様子がうかがわれる。
B 6本と思しき手足(又は足)は、禁止標識図との関係で、前方にはみ出る足、後方に隠れる足があるように描かれている。
c 虫の胴体 虫の胴体はひょうたん型で、腹側に4本の横線が曲線的に間隔を広く描かれており、立体感があり、動的な印象を生じている。
イ ところで、禁止標識図は、例えば駐車禁止、使用禁止等のいわゆる「禁止標識」を観念させるものとして慣用された図形である。
被告登録商標と同様に禁止標識図に複数本の足を有する擬人化された虫状の図形を重ね合わせた外観を有する商標は、被告登録商標に先行して出願され登録されている。また、禁止標識図に蝿、蚊、百足などの虫類、烏などの鳥類、鼠や猫などの動物類を組み合わせた表示は、それらの虫類、鳥類、動物類を駆除したり忌避する薬剤、装置等に、その用途、効能を知らしめる表示として、一般に広く付されている。
そうであるとすると、虫の図形を禁止標識図と組み合わせた標章は、当該商品が虫類を駆除したり忌避する用途、効能を有する薬剤、装置等であることを需要者に知らしめる表示として慣用されており、虫の図形を禁止標識図と組み合わせるだけでは、自他識別機能を生じない。
したがって、被告商標権は、商標法3条1項3号又は5号の規定に違反して登録されたという無効理由(同法46条1項1号)を有する。被告商標権は、
同法47条の除斥期間が平成15年3月20日の経過をもって徒過しているが、客観的にみて上記の無効理由の存在が認められる被告商標権に基づく権利行使は、権利の濫用として許されない。また、虫の図形と禁止標識図という構成要素のみを被告登録商標と共通にする標識の使用は、指定商品(薬剤)の効能、用途を普通に用いられる方法で表示するにすぎないから、同法26条1項2号により被告商標権の効力は及ばない。
ウ 仮に被告商標権の権利行使が可能であるとしても、被告登録商標類似範囲は、具体的な外観、形状に限定されなければならず、具体的には、虫の図形の頭部、胴部、足部にそれぞれ描かれている描画要素、すなわち触角、眉毛、目、
口、牙からなる顔(頭部)の表情が類似している範囲、又は胴部や足部を加えた虫部全体が表現する「もがき困った表情」を有する範囲に限定される。
(4) 原告標章の構成等 ア 原告標章の構成は、次のとおりである。
@ 左方の5本の縦線の上にアルファベットで「SUPER」の文字を縦書きし、
A その右側の上方に横長六角形の図形を描き、その上半分に「大阪ガスケミカル 木材の防蟻・防虫・防腐剤」と横書きし、同下半分に「シロアリ、クサレ、カビに抜群の効果」と横書きし、
B その下に大きく「スーパー」と「シロアリ退治」という、黒線で囲った文字を各々右端をそろえて2段に併記し、
C その下に、家の図形内に刷毛で「S」の字を白抜きの塗布軌跡として表し、家の図形内の右下に「S」の字と一部重ね合わせて、禁止標識図に擬人化した虫の図を重ね合わせた図形(別紙商標等説明図の原告表示に示された図形。以下「原告表示」という。)を表し、
D かつ家の図形の右下に、「大阪ガスケミカル株式会社」の社名を横書きしてなるものである。
イ 原告製品の表示のうち自他識別機能を生ずる部分は、上記構成を有する原告標章であり、原告標章は、原告表示とその余の部分が一体不可分なものである。原告表示は原告標章の一部として全体中に埋没している。
仮に原告製品の表示のうち自他識別機能を生ずる部分が原告表示であるとすると、原告表示の構成は、次のとおりである。
(ア) 全体の構成 全体として、禁止標識図の中に閉じこめられた虫(シロアリ)がもはや抵抗力を失いぐったりとして観念した弱々しい印象を与えている。
(イ) 具体的表現 a 虫の顔 @ 頭の中央部が凹んだおむすび型である。
A 目は、目全体の約半分をまぶたが塞ぐ半眼状態で、白目が勝ってあきらめの相が読み取れる。
B 触覚がだらりと垂れて、その横線はあるかどうか不分明である。
C 牙は短く細い。
D 全体として禁止標識図に寄りかかり、力のない印象を与える。
b 虫の手足 @ 6本の手足が力なくだらりとして描かれ、手足の先でかろうじて禁止標識図の枠にしがみつく印象である。
A 手足には、手袋、足袋のようなものが描かれている。
c 虫の胴体 尻尾の方へ行くに従って全体に細くなる形状であり、ほとんど直線に近い横線が、間隔狭く7本描かれ、胴体そのものが立体感に乏しく薄い印象を与え、静的な印象を助長している。
(5) 原告標章と被告登録商標との対比 ア 原告製品の表示のうち自他識別機能を有するのは原告標章の部分であるところ、原告標章は、その文字部分から「スーパーシロアリタイジ」又は「オオサカガスケミカルノスーパーシロアリタイジ」の称呼が生じ、原告製品はこれらの称呼をもって取引されている。原告表示は識別力がなく、原告製品の標章の要部とはいえず、単に看者の目を引くためのいわゆるアイキャッチャーとして機能しているにすぎない。
前記(4)アの原告標章の構成は、原告標章だけが備えており、被告登録商標は備えていないから、原告標章と被告登録商標外観上、相紛れることはない。
また、被告登録商標からは特有の称呼を生じない。
したがって、原告標章と被告登録商標非類似であることは明白である。
イ 仮に原告製品の表示のうち自他識別機能を有する部分が原告表示であるとして、原告表示と被告登録商標を対比すると、両者は、禁止標識図に擬人化した虫を重ね合わせた図形であるという点において共通するが、原告表示と被告登録商標は具体的な表現を異にしており、全体についてみても、被告登録商標は、前記(3)ア(ア)のとおり、困ったシロアリが禁止標識図をはみ出し、活発にばたばたと暴れ、標識から逃れ出ようとする印象を与えているのに対し、原告表示は、前記(4)イ(ア)のとおり、禁止標識図の中に閉じこめられた虫(シロアリ)がもはや抵抗力を失いぐったりとして観念した弱々しい印象を与えているから、印象を全く異にする。したがって、原告表示と被告登録商標類似しない。
(6) 告知行為等 ア 被告は、原告に対し、平成16年4月14日、原告製品の販売が被告商標権を侵害する旨の警告を口頭で行い、同月15日ごろ、同趣旨の同日付け内容証明郵便を送付した。また、被告は、同月14日、原告製品が納品されているホームセンターである株式会社K1の茨木店に来店し、商品撤去を求めた。
イ 原告は、被告に対し、平成16年4月15日付け内容証明郵便をもって、同月28日までに被告登録商標との類否関係について調査、回答する旨を被告に告げた。
原告は、被告に対し、同月28日、同日付け回答書を、ファックスするとともに、内容証明郵便をもって送付し、同内容証明郵便は、同月30日、被告に到達した。原告は、同回答書において、被告登録商標類似範囲は制限的に理解され、原告標章の使用は被告商標権を侵害しない旨回答するとともに、原告は徒に被告との紛争を好むものではないとの立場を示し、直ちに問題の標章(原告標章中の原告表示の部分)についてはマスキングをすることで対処を開始した旨を明らかにした。
ウ ところが、被告は、平成16年4月28日以降も、原告製品が納品されているホームセンター等の小売店に対し、文書を送付し、原告製品の販売が被告商標権を侵害している旨述べるとともに、原告製品の店頭からの撤去を求め、各小売店にも損害賠償請求に及ぶ旨示唆した。このような文書が送付された小売店は、K2(兵庫県姫路市所在)、K3(三重県安芸郡所在)、K4(兵庫県宍粟郡所在)、K5(大阪市所在)、K6(和歌山県有田郡所在)、K7であった。
(7) 不正競争 ア 原告と被告は、いずれもシロアリ防除剤の製造販売を業としているから、競争関係にある。
イ 原告標章は被告登録商標類似せず、又は原告標章に被告商標権の効力は及ばないから、原告製品の販売は被告商標権を侵害しない。したがって、原告製品の販売が被告商標権を侵害するということは、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実に該当する。
ウ 被告が、原告製品の納品先である小売店に対して、前記(6)ウのとおり、
文書をもって、原告製品の販売が被告商標権を侵害している旨述べることは、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当する。そして、被告の不正競争によって、原告は、営業上の利益侵害された。
(8) 故意過失 被告には、不正競争を行うにつき、故意又は過失があった。
(9) 損害 ア(ア) 原告は、被告の不正競争によって、次のような損害を被った。
@ 商品対策費用 マスキング対応費用 38万0100円 パッケージデザイン変更費用 61万4880円 上記合計 99万4980円 A 売上の減少(平成16年5月、6月) 131万2250円 B 本件の対応に要した従業員等の人件費 245万5086円 C 商標調査、弁護士、弁理士手数料 318万3075円 D 上記@ないしCの合計 794万5391円 (イ) 原告は、被告に対し、上記(ア)の損害のうち、@商品対策費用99万4980円、B本件の対応に要した従業員等の人件費245万5086円、C商標調査、弁護士、弁理士手数料318万3075円、及びA売上の減少の内金36万6859円の合計700万円を請求する。
イ 原告は、被告の不正競争によって営業上の信用を毀損されたものであり、その損害は、金銭に換算すると1000万円を下らない。
ウ 前記ア(イ)、イの損害の合計は1700万円である。
(10) 結論 よって、原告は、被告に対し、不正競争防止法2条1項14号3条1項に基づき、原告が製造する原告製品の譲渡、引渡し、譲渡若しくは引渡しのための展示、並びに広告が被告商標権を侵害するとの事実を告知、流布することの差止めを求め、同法4条に基づき、不正競争による損害賠償として1700万円及びこれに対する不正競争の後である平成16年5月26日(第1事件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否 (1) 請求原因(1)(商標権)は認める。
(2) 請求原因(2)(標章の使用)の事実のうち、平成9年4月以降という部分は否認し、その余は認める。
(3)ア 請求原因(3)(被告登録商標の構成等)は争う。
イ 被告登録商標は、顕著性を有し、自他識別機能があり、他社からの差別化を図って運用してきた。
被告登録商標は、商品の効能、用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標ではないし、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標でもない。被告登録商標に用いられている擬人化した虫の部分には十分な個性があること、禁止標識図と擬人化した虫の図を重ね合わせた標章は、禁止標識図を用いた既存の標章のうちでも少数にとどまること、シロアリ防除剤生産者の標章中に被告登録商標類似のものが多数存在するとはいえないことから、被告登録商標は、自他識別機能を有しており、ありふれたものではない。
(4)ア 請求原因(4)(原告標章の構成等)は争う。
イ 原告製品は、「SUPER」という文字の下に、内容物の色を特定するために「クリアー」又は「オレンジ」と横書きされており、また、原告表示の下に容量の表示があり、色及び容量の違いにより、全部で4種類ある。
原告製品に記載された文字は、アルファベット、漢字、ひらがな、かたかなであり、通常のゴシック体を反転、斜字などとしたにすぎず、特別デザイン化されたものではない。また、原告製品の表示のうち、家と思われるデザイン上に塗布用刷毛を用いてS字形の塗布軌跡が描かれ、その左上の部分に逆三角形の黒地に白抜きで「塗布用」と記載されている部分は、「家に対してこの商品を塗布しなさい」という使用法を描画及び文字により説明しているものである。そうであるとすると、原告製品の表示のうち、原告表示以外の部分は、商品の品質、効能、用途、
数量、使用の方法、製造者名を普通に用いられる方法で表示しているにすぎない。
原告製品が4種類存在すること、及び原告製品の表示のうち原告表示以外の部分が商品の品質、効能、用途、数量、使用の方法、製造者名を普通に用いられる方法で表示していることを考えると、原告表示が原告標章の一部として全体中に埋没しているという原告の主張は失当である。商標は、通常、商品の品質、効能、用途、数量、使用の方法、製造販売者名などを示す文字又は描画と併記されているから、原告表示が原告標章の一部として全体中に埋没しているというのであれば、多くの著名な登録商標が全体中に埋没していることとなる。
原告製品の表示のうち被告登録商標と対比されるべき部分は、原告表示の部分である。
(5)ア 請求原因(5)(原告標章と被告登録商標との対比)は争う。
イ 被告登録商標と原告表示を対比すると、次のとおりとなる。(以下の番号は、別紙商標等説明図の番号を指す。括弧内の「被」の後に記載された番号は、
同別紙の被告登録商標の番号を指し、「原」の後に記載された番号は、同別紙の原告表示の番号を指す。) (ア) 被告登録商標及び原告表示は、標識部(被50・原10)と、蟻、
白蟻又はその他の虫を擬人化した虫部(被告60・原告20)とから構成されている。被告登録商標及び原告表示が白蟻駆除用の薬剤の商標として使用される場合には、需要者は、描かれた虫の肌が白又は白に近い色で描かれていれば、白蟻であることを連想する。
(イ) 被告登録商標の標識部50と原告表示の標識部10とは、モノクロかカラーか、線状の外リング51aの有無の相違はあるものの、時と所を異にした離隔的観察によれば、需要者にとっては、実質的にはほとんど同じ「禁止マーク」として認識される。
(ウ) 被告登録商標及び原告表示の外観について検討する。
a 被告登録商標の虫部60は、濃色(黒色)のリング部51内の白色からなる空間Sに、白色からなる虫部60が濃色(黒色)の線で描かれた構成とされている。原告表示の虫部20は、赤色からなるリング部11内の淡い黄色(缶の地色)からなる空間Sに、白色からなる虫部20が赤色の線で描かれた構成とされている。したがって、色に関連して、両者は、虫部60、20の描かれている空間Sの色が白色か淡い黄色かの点で異なり、また虫部60、20の輪郭線の色が濃色(黒色)か赤色かの点で異なる。その一方、両者を色調で比較すると、空間Sに淡いトーンをもつ原告表示は、商標全体として三つのトーンをもつのに対し、空間Sに淡いトーンをもたない被告登録商標は、商標全体として二つのトーンしかもたないが、原告表示の空間Sは淡い色であるから、原告表示は実質的に被告登録商標と色調があまり変らない。
b 被告登録商標及び原告表示の虫部(被60・原20)に描かれている描画要素は、頭部(顔部)(被61・原21)、胴部(被62・原22)、足部(被63・原23)とからなる。
c 被告登録商標及び原告表示の虫部(被60・原20)は、いずれもその姿勢が少し傾いて描かれている。
d 被告登録商標及び原告表示の虫部(被告60・原20)の頭部(被61・原21)には、その描画要素として、触覚(被611・原211)、眉又はまぶた(被612・原212)、目(被613・原213)、口(被614・原214)、牙(被615・原215)、下顎(被616・原216)が描かれている。これらの要素は、その種類や数等が何ら一致する必要がないにもかかわらず、
一致している。
e 被告登録商標の頭部61は、その全体がどちらかというと丸い形状に描かれ、頭部61の頂上部には凹みが形成されていないのに対し、原告表示の頭部21は、その全体が丸みをもったおむすび形状に描かれ、頭部21の頂上部がやや凹んだ状態に描かれているが、虫の頭ないし顔としてのイメージは両者において共通する。
f 原告表示の頭部21に描かれている触覚211は、被告登録商標の頭部61に描かれている触角611と比べて、長く垂れ下がっており、その節211aが後者の節611aよりも不明瞭に描かれている。しかし、一対の触覚が頭部において左右対称に描かれ、その先端部がカーブを描いて垂れた状態に描かれ、また触覚に複数本の節が描かれている点で、描画態様は同じである。
g 原告表示の眉又はまぶた212は、被告登録商標の眉又はまぶた612と比べて、後者にない丸い輪郭線を有する点で異なるが、下がり眉又はまぶたに描かれている点で描画態様が同じである。
h 原告表示の目213は、被告登録商標の目613と比べて、後者が黒塗りで描かれているのに対し、前者がそうでない点で異なるが、目の上部が眉又はまぶたによって被われた状態に描かれている点で描画態様が似ている。
i 被告登録商標及び原告表示の頭部(被61・原21)には、鼻と思われる描画要素は特に描かれていない。
j 被告登録商標及び原告表示の頭部(被61・原21)の口(被614・原214)は、波状の線によって描かれており、その波状の線の具体的な湾曲の仕方が、そっくりである。
k 原告表示の頭部21の牙215は、被告登録商標の頭部61の牙615と比べて、前者が後者より少し小さく、湾曲していない点において異なるが、
必須の描画要素でないにもかかわらず描かれており、口の両側から下向きに描かれている点において、描画態様が似ている。
l 被告登録商標及び原告表示の頭部(被61・原21)の下顎(被616・原216)は円弧状に描かれている。
m 被告登録商標の胴部62は、原告表示の胴部22と比べると、前者の上部が少し細くなっている点、横筋の数が異なる点で相違するが、全体の輪郭形状が卵形に描かれており、複数本の横筋が描かれている点が同じである。
n 被告登録商標の足部63は、原告表示の足部23と比べると、後者の一部の先端が指のついた手先23bのような形状に描画されている点等で異なるが、いずれも漫画的に湾曲して描かれている描画態様や、単純に描かれた足先の描画態様が似ており、特に両者とも足部を標識部の前面側へ出そうとして標識部に掛けている構図となっている点において似ている。
o 被告登録商標と原告表示の外観は、以上に述べたとおり、多くの点で似ており、その相違点は、需要者が時と場所を異にして見る場合には、いずれも消滅又は極小化する。
(エ) 被告登録商標及び原告表示がシロアリ駆除剤について使用される場合は、いずれも「シロアリを防除するための薬品」という同一の観念を生じさせるものであり、シロアリが死にかけている、困っている、焦っている、観念している、標識から逃れ出ようとしているという末節における相違にとらわれるべきでない。
(オ) 被告登録商標及び原告表示は、いずれも「シロアリ禁止マーク」という称呼を生じる。
(カ) 以上のとおり、被告登録商標と原告表示は、外観観念、称呼において同一又は類似であり、同一又は類似の商品に使用する場合には、需要者にとって、出所の混同を生じるほどに紛らわしいから、類似している。
(6) 請求原因(6)(告知行為等)の事実は認める。
請求原因(6)の告知行為等は、被告が被告商標権に基づいて行った合法的行為である。
(7)ア 請求原因(7)(不正競争)は争う。
イ 原告標章は被告登録商標類似しているから、被告が原告の取引先である小売店数社に対してその法的権利の範囲内で行った通知には、全く違法性がない。被告は原告と営業上遭遇したことはなく、原告の営業上の信用を毀損する意図はなく、その必要もない。
(8) 請求原因(8)(故意過失)は争う。
(9)ア 請求原因(9)(損害)は争う。
イ 原告の主張する損害とは、元々あってはならない不正利益の一部を失っただけであり、被告にその責任はない。
原告がマスキング処理だけしたのか、その後パッケージデザインを変更したのか不明確である。被告は、原告に対してマスキング処理やパッケージデザインの変更を要請するなどしていない。原告が被告商標権を侵害していないと信じるのであれば、マスキング処理やデザイン変更をする必要はない。また、原告製品は、社団法人日本しろあり対策協会がそのような認定を行っていないにもかかわらず、「シロアリ対策協会認定基準適合品」という不当な表示を行っていたものであり、マスキング処理はそのような不当な表示をもマスキングするものであった。したがって、原告は、マスキング処理の費用を被告に請求することはできない。
原告が被告商標権を侵害していないという十分な根拠があり、知識の豊富な原告の従業員が顧客に説明を行うのであれば、顧客が仕入れを控えることはないはずであり、不都合な部分のマスキング処理をしたりパッケージデザインを変更したことにより顧客に動揺が見られたのは当然である。
原告主張の請求額を裏付ける客観的証拠はなく、原告には損害を請求する根拠はない。
(第2事件) 1 請求原因 (1) 商標権 被告は、被告商標権を有する。
(2) 標章の使用 原告は、平成9年4月以降、平成16年4月終わりごろまで、原告表示を付した原告製品を製造し、販売し若しくはその販売の申出をしていた。
(3) 指定商品 原告製品はシロアリ防除剤であり、被告登録商標の指定商品である薬剤に属する。
(4) 商標の類否 原告表示は被告登録商標類似する。
(5) 商標権侵害 原告が原告表示を付した原告製品を販売することは、被告商標権を侵害する。
(6) 代表取締役の責任 第2事件被告P1、同P2、同P3は、原告の代表取締役であり、商標権侵害について原告とともに損害賠償責任を負う。
(7) 損害 原告が原告製品の販売によって得る利益は、1年当たり3750万円であり、これまでに原告製品の販売によって得た利益は、次のとおり合計2億2812万5000円であって、商標法38条2項により、この金額が、被告が受けた損害の額と推定される。
平成10年3月20日から平成11年4月末日まで 4062万5000円 平成11年5月1日から平成12年4月末日まで 3750万円 平成12年5月1日から平成13年4月末日まで 3750万円 平成13年5月1日から平成14年4月末日まで 3750万円 平成14年5月1日から平成15年4月末日まで 3750万円 平成15年5月1日から平成16年4月末日まで 3750万円 合計 2億2812万5000円 (8) 結論 よって、被告は、原告に対し、被告商標権侵害による損害賠償として、 連帯して2億2812万5000円、及びうち4062万5000円に対する不法行為の後である平成11年5月1日から、うち3750万円に対する不法行為の後である平成12年5月1日から、うち3750万円に対する不法行為の後である平成13年5月1日から、うち3750万円に対する不法行為の後である平成14年5月1日から、うち3750万円に対する不法行為の後である平成15年5月1日から、うち3750万円に対する不法行為の後である平成16年5月1日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 請求原因に対する認否 (1) 請求原因(1)(商標権)は認める。
(2) 請求原因(2)(標章の使用)の事実のうち、原告が、平成9年4月以降、
平成16年4月終わりごろまで、原告製品を製造し、販売し若しくはその販売の申出をしていたことは認め、その余は否認する。
原告製品の表示のうち、自他識別機能を生じる部分は原告標章であり、原告表示は原告標章の一部として全体中に埋没している。
(3) 請求原因(3)(指定商品)は認める。
(4) 請求原因(4)(商標の類否)は争う。
(5) 請求原因(5)(商標権侵害)は争う。
(6) 請求原因(6)(代表取締役の責任)のうち、第2事件被告P1、同P2、
同P3が原告の代表取締役であることは認め、その余は争う。
(7) 請求原因(7)(損害)は争う。
理 由
第1事件について
1 請求原因(1)(商標権)は、当事者間に争いがない。
2 請求原因(2)(標章の使用)の事実のうち、原告が、原告標章を付した原告製品を製造し、販売し又はその販売の申出をしていることは、当事者間に争いがない。
甲第20号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成9年4月以降、原告標章を付した原告製品を製造し、販売し又はその販売の申出をしていることが認められる。
3 請求原因(3)(被告登録商標の構成等)について検討する。
(1) 甲第1号証及び弁論の全趣旨によれば、被告登録商標の構成は、次のとおり認められる。
ア 全体の構成 被告登録商標は、禁止標識図と虫の図を重ね合わせ、禁止標識図の斜線が虫の上に被せられるような表示とされている。
イ 具体的表現 (ア) 虫の顔 a 頭は全体が丸型である。
b 目は縦長の楕円形で黒く塗りつぶされており、左右の目の上方外側に、左右の八の字型の眉がそれぞれ目に接するように配されている。
c 触覚は、頭の上の左右から外方に斜め上に向けて伸び、横線が入っている。
d 顔の上下の中心付近に、顔を上下に分ける波線が描かれており、波線の左右から下に向かって牙が描かれている。牙は、下方に近付くにつれて細くなり、下方の先端が尖っており、内側に向けて若干湾曲した形状に描かれている。
(イ) 虫の手足 6本の足が描かれているが、ほぼ足先まで見えるように描かれているのは、そのうち4本である。この4本の足は、いずれも細長く、U字型に湾曲して描かれており、そのうち下方の2本の足の足先は禁止標識図の円環の外にはみ出しており、向かって右側の足の足先には、湾曲した短い曲線が2本描かれており、足が動いていることを示唆している。
(ウ) 虫の胴体 虫の胴体は、上方が細く下方が太い、楕円形に近い形で、4本の横方向の曲線が間隔を広くとって描かれている。
(2) 原告は、被告登録商標が商標法3条1項3号又は5号に該当し、また、同法26条1項2号が適用される旨主張するから、この点について検討する。
甲第2号証、第4号証の1ないし22によれば、禁止標識図と図形、それも虫などの動物を意味する図形を組み合わせ、図形に象徴される物や行為を禁止し、忌避し、又は防除する意味を表すことは、広く慣用されているものと認められる。他方、甲第3号証の1ないし9によれば、禁止標識図と様々に擬人化等された虫の図形を組み合わせた図形について商標登録されているものがあることが認められる。これらの認定事実からすると、禁止標識図と虫を意味するありふれた図形を組み合わせただけの標章であれば、自他識別機能が生じないであろうが、禁止標識図と組み合わせられる虫の図形に独特な特徴があり、当該図形に自他識別機能が認められるような場合には、これと禁止標識図とを組み合わせた図形にも自他識別機能が認められるものというべきである。
被告登録商標のうち、禁止標識図と組み合わせられた虫の図は、前記(1)イ認定の構成を有しており、独特な特徴を備え、自他識別機能を有すると認められるから、このような虫の図と禁止標識図を組み合わせた被告登録商標にも自他識別機能が備えられているというべきである。
したがって、被告登録商標は、商品の効能、用途等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標、又は極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標には該当しないというべきであり、商標法3条1項3号又は5号には該当せず、また、同法26条1項2号の適用もないというべきである。
4 請求原因(4)(原告標章の構成等)について検討する。
(1) 乙第10号証の1、2、第26号証の1ないし4、検甲第1号証及び弁論の全趣旨によれば、原告標章の構成は、次のとおり認められる。
ア 左方の5本の縦線の上にアルファベットで「SUPER」の文字が縦書きされている。
イ 「SUPER」の文字の下の枠の中に横書きで、「クリアー」又は「オレンジ」と記載されている。
ウ 「SUPER」の文字の右側の上方に横長六角形の図形があり、その上半分に「大阪ガスケミカル」、「木材の防蟻・防虫・防腐剤」と赤字で横書きされ、その下半分の赤色の下地に白色の文字で「シロアリ、クサレ、カビに抜群の効果」と横書きされている。
エ 上記の横長六角形の図形の下に、黒線で縁取りされた白抜きの大きな文字で、「スーパー」、「シロアリ退治」という文字が、各々右端をそろえて2段に併記されている。
オ その下に、赤色の家の図形内に刷毛で「S」の字を白抜きの塗布軌跡として表し、家の図形内の右下に「S」の字と一部重ね合わせて、原告表示が配されている。
カ 家の図形の左上方には、黒色の逆三角形の中に「塗布用」という文字が白抜きで記載されており、家の図形の右上方には、底辺が短い平たい台形の中に、
赤字で「低臭タイプ」と記載されている。
キ 家の図形の右下方で原告表示の下に当たる部分に、白抜きの文字で「4l」又は「15l」と容量が記載されている。
ク 家の図形の右下に、「大阪ガスケミカル株式会社」と黒色の文字で横書きされている。
(2) 乙第10号証の1、2、検甲第1号証及び弁論の全趣旨によれば、原告表示の構成は、次のとおり認められる。
ア 全体の構成 原告表示は、禁止標識図と虫の図を重ね合わせ、禁止標識図の斜線が虫の上に被せられるような表示とされている。
イ 具体的表現 (ア) 虫の顔 a 頭は全体が逆三角形型で、上部中央が若干凹んでいる。
b 目は、横方向に若干長い楕円形で、目全体の上半分をまぶたが塞ぐ半眼状態で、まぶたの下に白抜きで目玉が記載されている。
c 触覚は、頭の上部中央の凹みの左右から外方に斜め上に向けて伸び、U字型を描き、左右の触覚の先は、頭の下の方まで垂れ下がっている。
d 顔の上下の下から約3分の1の位置付近に、顔を上下に分ける波線が描かれており、波線の左右から下に向かって短い牙が描かれている。牙は、下方に近付くにつれて細くなり、下方の先端が尖っている。
(イ) 虫の手足 6本の足が、ほぼ足先まで見えるように描かれている。一番上の左右の足先は、手袋のようになっており、手であることが示されており、下の4本の足の足先は、足袋のように描かれている。足はいずれも若干曲がっているが、禁止標識図の円環に足先を置くように描かれている。
(ウ) 虫の胴体 虫の胴体は、下方が細い楕円形に近い形で、7本の横方向の線が間隔を狭くして描かれている。
(3) 被告登録商標との類否を検討するに当たり、被告登録商標と対比されるべき部分が原告標章か原告表示かについて検討する。
ア 被告登録商標は、図形のみからなる商標であるから、原告製品の表示の自他識別機能を生じる部分について、図形と文字が強く結び付いて不可分一体のものと認められるような場合でない限り、自他識別機能を生じる図形の部分をもって、被告登録商標と対比するのが相当というべきである。
イ 原告標章の構成は前記(1)のとおりであり、「大阪ガスケミカル」、「大阪ガスケミカル株式会社」の文字は製造者を表し、「木材の防蟻・防虫・防腐剤」の文字は商品の内容を表し、「シロアリ、クサレ、カビに抜群の効果」の文字は商品の効果を表し、「クリアー」又は「オレンジ」の文字は商品の色を表し、「塗布用」の文字は商品の用途を表し、「低臭タイプ」の文字は商品の性質を表し、「4l」、「15l」の文字は容量を表しており、これらの記載は、その内容及び表示の態様からして、自他識別機能を生ずるものではない。また、これらの記載は、その表示の態様からして、原告標章の図形部分と不可分一体であるとは認められない。
「スーパー」、「シロアリ退治」の文字は原告製品の商品名を表し、
「SUPER」の文字は商品名の一部を表し、これらは、文字によって自他識別機能を生じ得る部分であるが、その表示の態様からして、これらの商品名の表示が、
原告標章の図形部分と不可分一体であるとは認められない。
したがって、原告標章のうち図形の部分をもって、被告登録商標との類否を検討するのが相当である。
ウ ところで、原告標章の図形部分のうち、家の図形、刷毛の図形、白抜きの塗布軌跡の図形は、いずれも単純化されて描かれており、このうち特に家の図形、刷毛の図形は、ありふれた表現の域を出ないものであると認められる。これに対し、原告表示は、白い円に囲まれ、その他の図形部分と区別されて描かれている上、虫の図は、擬人化、漫画化され、その他の図形部分に比べて細かなところまで具体的に描かれていることから、原告表示は、原告製品に描かれた図形部分のうちで最も看者の目を引き、要部をなすものと認められ、また、その故に、自他識別機能を生じる部分であると認められる。このように、原告表示は、原告製品の表示の図形部分の要部をなし、自他識別機能を生じる部分であると認められるから、被告登録商標との類否を検討するに当たって被告登録商標と対比されるべき部分は、原告表示と解するのが相当である。
5 請求原因(5)(原告標章と被告登録商標との対比)について検討する。
(1) 前記4(3)ウのとおり、被告登録商標との類否を検討するに当たって被告登録商標と対比されるべき部分は、原告表示と解するのが相当であるから、被告登録商標と原告表示の類否について検討する。
(2)ア 被告登録商標の構成は前記3(1)認定のとおりであり、原告表示の構成は前記4(2)認定のとおりである。
イ 被告登録商標と原告表示は、全体の構成において、禁止標識図と擬人化された虫の図を重ね合わせ、禁止標識図の斜線が虫の上に被せられるような表示とされている点で共通する。しかし、前記3(2)認定のとおり、禁止標識図と虫などの動物を意味する図形を組み合わせ、図形に象徴される物や行為を禁止し、忌避し、
又は防除する意味を表すことは、広く慣用されている。また、甲第3号証の1ないし5、7ないし9、第4号証の3、6ないし8、18、19、22によれば、禁止標識図に組み合わせる虫を意味する図形について、虫を擬人化した表現とすることもよく行われており、様々に擬人化された虫と禁止標識図を組み合わせた標章が、
様々な業者により使用されたり商標登録されたりしていることが認められる。したがって、上記の点において共通するとしても、そのことのみをもって、被告登録商標と原告表示が類似するとはいえない。
ウ そこで、被告登録商標と原告表示について、禁止標識図と組み合わせられた虫の図の外観を対比する。
(ア) 被告登録商標と原告表示において、禁止標識図と組み合わせられた虫の図は、いずれも擬人化された虫の図であるから、その顔の表情及び動作の様子が看者の注意を引くものと認められ、したがって、その顔の態様、及び動作の様子を示す手足の態様が、看者の注意を引く要部に当たると認められる。
(イ) 虫の顔について対比すると、次のとおりである。
a 被告登録商標は、頭は全体が丸型であるのに対し、原告表示は、頭は全体が逆三角形型で、上部中央が若干凹んでいる。
b 被告登録商標は、目が縦長の楕円形で黒く塗りつぶされており、左右の目の上方外側に、左右の八の字型の眉がそれぞれ目に接するように配されているのに対し、原告表示は、目が横方向に若干長い楕円形で、目全体の上半分をまぶたが塞ぐ半眼状態で、まぶたの下に白抜きで目玉が記載されている。
(ウ) 虫の手足について対比すると、次のとおりである。
被告登録商標は、ほぼ足先まで見えるように描かれている4本の足はいずれも細長く、U字型に湾曲して描かれており、そのうち下方の2本の足の足先は禁止標識図の円環の外にはみ出しており、向かって右側の足の足先には、湾曲した短い曲線が2本描かれており、足が動いていることを示唆している。これに対し、原告表示は、6本の足はいずれも若干曲がっているが、禁止標識図の円環に足先を置くように描かれている。
(エ) 前記(イ)のとおり頭全体の形及び目が異なることにより、被告登録商標と原告表示は、虫の図の顔の印象が大きく異なっている。また、前記(ウ)のとおり手足の態様に違いがあることから、被告登録商標の虫の図は、円環から逃れ出ようとする動的な印象を与えるのに対し、原告表示の虫の図は、円環に寄りかかるように静的な印象を与え、動作の様子が大きく異なる。
このような外観の違いがあることからすると、被告登録商標の虫の図と原告表示の虫の図は類似しないというべきであり、被告登録商標と原告表示は、
禁止標識図と虫の図からなるその全体においても類似しないというべきである。
(オ) 被告は、虫部に頭部、胴部、足部が描かれている点、その頭部に触覚、眉又はまぶた、目、口、牙が描かれている点が一致していることをもって、被告登録商標と原告表示が類似することの根拠と主張する。しかし、甲第3号証の1ないし9、第20号証(別紙2)、乙第16号証の3、6、7、12、19によれば、実際のシロアリには頭部、胴部、足部が存在し、その頭部には触覚、目、口、
牙が存在すること、シロアリその他の虫の図として頭部、胴部、足部が描かれ、その頭部に触覚、眉又はまぶた、目、口、牙が描かれることが少なくないことが認められるから、上記の一致点があることによって、被告登録商標と原告表示が類似するとはいえない。
また、被告登録商標と原告表示の虫の図は、顔に、顔を上下に分ける波線が描かれ、波線の左右から下に向かって牙が描かれており、牙は、下方に近付くにつれて細くなり、下方の先端が尖っている点が共通する。しかし、牙が、下方に近付くにつれて細くなり、下方の先端が尖っている点は、牙として通常の形態であるし、被告登録商標と原告表示では、顔を上下に分ける波線の位置、牙の長さが異なる。さらに、前記(イ)の頭全体の形及び目の違いによってもたらされる印象の相違は非常に大きく、波線及び牙が存在することから生じる印象の共通性をはるかに凌ぐものというべきである。
(3)ア 以上によれば、前記(2)ウ(エ)のとおり、被告登録商標と原告表示は類似しない。なお、原告標章は、原告表示をその一部に含むものであり、原告表示が被告登録商標類似しないことから、原告標章全体も被告登録商標類似しない。
イ したがって、原告表示(又は原告標章)を付した原告製品の譲渡(販売を含む。)、引渡し、譲渡若しくは引渡しのための展示は、被告商標権を侵害しないというべきである。また、原告製品の広告に原告表示(又は原告標章)を付して展示し若しくは頒布することは被告商標権を侵害しないというべきであり、弁論の全趣旨によれば、原告製品の広告は、原告表示(又は原告標章)を付した広告媒体を展示し若しくは頒布して行われるものと推認されるから、原告製品の広告を行うことも、被告商標権を侵害しないというべきである。
6 請求原因(6)(告知行為等)の事実は、当事者間に争いがない。
7 請求原因(7)(不正競争)について検討する。
(1) 弁論の全趣旨によれば、原告は、シロアリ防除剤の製造販売を業としていることが認められ、乙第3号証の1ないし9、第4号証の1ないし8、第5、第6号証、第7及び第8号証の各1、2、第17、第18号証、第37号証並びに弁論の全趣旨によれば、被告もシロアリ防除剤の製造販売を業としていることが認められ、原告と被告は競争関係にあることが認められる。
(2) 前記5(3)アのとおり、原告表示(又は原告標章)は被告登録商標類似せず、前記5(3)イのとおり、原告表示(又は原告標章)を付した原告製品の販売は被告商標権を侵害しない。したがって、原告製品の販売が被告商標権を侵害するということは、虚偽の事実に該当する。そして、弁論の全趣旨によれば、このような虚偽の事実は、原告の営業上の信用を害するものと認められる。
(3) そうであるとすると、被告が、原告製品の納品先である小売店に対して、
前記第1事件の請求原因(6)ウ(前記6のとおり、当事者間に争いがない。)のとおり、文書を送付して、原告製品の販売が被告商標権を侵害している旨述べることは、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為として、不正競争防止法2条1項14号所定の不正競争に該当するというべきである。そして、弁論の全趣旨によれば、被告の不正競争によって、原告の営業上の利益侵害されたものと認められる。
(4) 被告は、前記第1事件の請求原因(6)ウのとおり、平成16年4月28日以降、原告製品の納品先である小売店に対し、文書を送付し、原告製品の販売が被告商標権を侵害している旨述べるとともに、原告製品の店頭からの撤去を求め、各小売店にも損害賠償請求に及ぶ旨示唆したものであるから、今後、原告製品の譲渡、引渡し、譲渡若しくは引渡しのための展示、並びに広告が被告商標権を侵害するとの事実を告知、流布するおそれがあるものと認められる。
8 請求原因(8)(故意過失)について検討する。
前記第1事件の請求原因(6)イ(前記6のとおり、当事者間に争いがない。)のとおり、原告は、被告に対し、平成16年4月28日、同日付け回答書を、ファックスするとともに、内容証明郵便をもって送付し、同内容証明郵便は、同月30日、被告に到達し、原告は、同回答書において、原告標章の使用は被告商標権を侵害しない旨回答した。しかし、被告は、前記第1事件の請求原因(6)ウのとおり、同月28日以降、不正競争に該当する行為に及んだものである。このような事実に鑑みると、被告には、不正競争を行うにつき、故意又は少なくとも過失があったものと認められる。
9 請求原因(9)(損害)について検討する。
(1)ア 商品対策費用について 前記第1事件の請求原因(6)イのとおり、原告は、被告が不正競争に該当する行為を行う以前に、平成16年4月28日付け回答書において、原告表示の部分をマスキングする旨、被告に通知していたものである。この事実に照らすと、マスキング処理及びパッケージデザインの変更は、被告が不正競争に該当する行為を行うか否かにかかわらず、原告表示(又は原告標章)と被告商標権をめぐる紛争を避けるために原告が採った措置であると認められ、それらの費用の支出は、被告の不正競争と相当因果関係にある損害とは認められない。
イ 売上の減少について 原告は、原告製品の平成16年5月、6月の売上の減少を損害であると主張し、甲第15号証によれば、原告製品について、平成10年ないし平成15年の6年間の出荷実績をもとに、平成16年5月、6月の売上の減少が算出されたことが認められる。しかし、これらの売上の減少が被告の不正競争と相当因果関係にあると認めるに足りる証拠はないから、この売上の減少をもって損害と認めることはできない。
ウ 本件の対応に要した従業員等の人件費について (ア) 甲第15号証及び弁論の全趣旨によれば、原告が、被告による不正競争に対処するために、従業員等をして、被告から文書の送付を受けた小売店を訪問して事情説明を行うなどの対応をさせたことが認められる。
ところで、甲第15号証においては、平成16年4月14日から同年5月19日までの間に、少なくとも4名の従業員等が本件の対応のために少なくとも373時間を費やした旨記載されている。しかし、前記第1事件の請求原因(6)ウのとおり、被告が不正競争を行ったのは平成16年4月28日以降であるから、同日以降の対応に必要であった時間が算定の基礎とされるべきである。また、原告の従業員等が小売店に対して事情説明を行う場合、本件に直接関係する事柄以外にも言及することが考えられるから、上記時間数のうち実際に本件の対応に必要であった時間数が占める割合をも考慮する必要がある。そうであるとすると、被告の不正競争の対応に要した時間数は、上記373時間の約4割に当たる150時間と認めるのが相当である。
(イ) 甲第15号証によれば、本件の対応に当たった原告の従業員等の平均時間単価は1時間当たり6582円であることが認められるから、被告の不正競争と相当因果関係にある損害としての原告の従業員等の人件費は、これに上記150時間を乗じた98万7300円であると認められる。
エ 商標調査、弁護士、弁理士手数料について (ア) 甲第15号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、商標調査費用として3万3075円、訴訟代理人、補佐人に対する着手金として第1事件につき210万円、第2事件につき105万円を支出したことが認められる。
(イ) 商標調査費用は、被告が原告製品の納品先に虚偽の事実を告知、流布するという不正競争に該当する行為を行うと否とにかかわらず、原告表示(又は原告標章)と被告商標権をめぐる紛争を解決するために原告が支出しなければならなかった費用であると認められるから、その支出は、被告による不正競争と相当因果関係にある損害とは認められない。
本件の事案の内容、審理の経過等諸般の事情に鑑みると、第1事件の着手金210万円の2割に当たる42万円をもって、被告の不正競争と相当因果関係にある損害と認めるのが相当である。
(2) 前記第1事件の請求原因(6)イのとおり、原告は、被告に対し、平成16年4月28日付け回答書を送付し、原告標章の使用は被告商標権を侵害しない旨回答するとともに、原告標章中の原告表示の部分をマスキングする旨通知したが、被告は、前記第1事件の請求原因(6)ウのとおり、同日以降、原告製品が納品されている小売店6店に対し、文書を送付し、原告製品の販売が被告商標権を侵害している旨述べるとともに、原告製品の店頭からの撤去を求め、各小売店にも損害賠償請求に及ぶ旨示唆したものであり、これらの小売店の所在地は、兵庫県、三重県、大阪市、和歌山県という比較的広範囲に及んでいたものである。このような被告による不正競争の経緯に鑑みると、原告は、被告の不正競争によりその信用を毀損されたものと認められ、その損害を金銭に換算すると、180万円と認めるのが相当である。
(3) 以上によれば、被告の不正競争による損害の合計額は、前記(1)ウ(イ)の98万7300円、前記(1)エ(イ)の42万円、前記(2)の180万円の合計320万7300円である。
10 よって、原告は、被告に対し、不正競争防止法2条1項14号3条1項に基づき、原告が製造する原告製品の譲渡、引渡し、譲渡若しくは引渡しのための展示、並びに広告が被告商標権を侵害するとの事実を告知、流布することの差止めを求めることができ、同法4条に基づき、不正競争による損害賠償として320万7300円及びこれに対する不正競争の後である平成16年5月26日(第1事件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができるというべきである。
第2事件について
1 請求原因(1)(商標権)は、当事者間に争いがない。
請求原因(2)(標章の使用)の事実のうち、原告が、平成9年4月以降、平成16年4月終わりごろまで、原告製品を製造し、販売し若しくはその販売の申出をしていたことは、当事者間に争いがない。
請求原因(3)(指定商品)は当事者間に争いがない。
請求原因(6)(代表取締役の責任)のうち、第2事件被告P1、同P2、同P3が原告の代表取締役であることは、当事者間に争いがない。
2 前記第1(第1事件について)5(3)アのとおり、原告表示(又は原告標章)は被告登録商標類似せず、前記第1、5(3)イのとおり、原告表示(又は原告標章)を付した原告製品の販売は被告商標権を侵害しない。
したがって、被告商標権の侵害を理由とする被告の請求はいずれも理由がない。
結論
よって、原告の請求は、主文第1、第2項の限度で認容し、その余は理由がないから棄却し、被告の請求は、いずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条64条を、仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山田知司
裁判官 中平健
裁判官 大濱寿美
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