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事件 平成 15年 (ワ) 7126号 不正競争行為差止等請求事件
原告 株式会社日研工作所
訴訟代理人弁護士 三山峻司
同 室谷和彦
同 西迫文夫
被告 パイオニア貿易株式会社
被告A
被告両名訴訟代理人弁護士 赤尾直人
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/11/09
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告らは、原告に対し、連帯して金694万9760円及びこれに対する平成15年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し、その2を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 被告パイオニア貿易株式会社は、別紙物件目録記載のミーリングチャックを販売し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入してはならない。
2 被告パイオニア貿易株式会社は、別紙物件目録記載のミーリングチャックを廃棄せよ。
3 被告パイオニア貿易株式会社は、別紙物件目録記載のミーリングチャックの製品カタログ・パンフレットを廃棄せよ。
4 被告らは、原告に対し、連帯して金1000万円及びこれに対する平成15年7月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件では、被告パイオニア貿易株式会社(以下「被告会社」という。)が別紙物件目録記載のミーリングチャックを販売し、輸入し、輸出するなどの行為が不正競争防止法2条1項1号の定める不正競争に該当するとして、原告が、被告会社に対し、その販売等の差止め等及び損害賠償を請求するとともに、被告会社の営業活動が全体として原告に対する不法行為を構成するとして、被告会社に対し損害賠償を請求している。また、原告は、被告会社の上記各行為につき被告Aが被告会社の代表取締役として商法266条ノ3所定の責任を負うほか、自身の行為が不正競争防止法2条1項1号の定める不正競争行為に該当するとして、損害賠償を請求している。
1 当事者間に争いのない事実等 (1) 当事者 ア 原告は、大東市に本店所在地を有し、工作機械部品及び治工具の製造販売等を目的とする株式会社である。
イ 被告会社は、岐阜市に本店所在地を有し、機械及び工具類の売買等を目的とする会社である。
被告会社は、もと、原告との間で、原告からその製品の供給を受ける形での継続的な取引関係があったが、その後解消するに至っている。
被告会社は、韓国所在のDoosung 社(Doosung Precision Corporation。
以下「DSP社」という。)から製品を輸入した上で、自ら取引先に輸出し、あるいは、取扱業者である、米国イリノイ州のHeartech Precision Inc.(以下「HPI社」という。)やドイツ国ボアスタッドのNikken Heartech Europe GMBH(以下「NHE社」という。)に輸出している(これらの製品を「HPI製品」又は「被告製品」という。)。
ウ 被告Aは、被告会社の代表取締役であるとともに、HPI社及びNHE社の代表者でもある。
(2) 原告製ミーリングチャックの形態・形状 ミーリングチャックは、対象物である工作物を切削するために、工作機械等の回転主軸の先端に取り付けられ、かつ、切削加工を行う工具を把持する取付具であり、テーパシャンク部とチャック部からなる。テーパシャンク部は規格化されており、製造者ごとの製品形態上の特徴といい得るものはない。これに対し、締付金具とチャック筒からなるチャック部の形態・形状は、製造者ごとに異なっている。なお、テーパシャンク部については複数の規格があり、これに応じて製造者ごとに複数のミーリングチャックが製造販売されているが、それらのチャック部の形態はいずれも同じである。
原告製ミーリングチャックのチャック部の形態は、以下に述べるような構成を有する(以下のアないしオの各構成をそれぞれ「構成<ア>」ないし「構成<オ>」という。)。
ア 締付金具がシルバーグレー色でクロムメッキの表面処理がなされている。
イ 締付金具には、円周上に平行に網目状の滑止め(ローレット)が2列に施されている。
ウ 上記の2列の網目状の滑止め(ローレット)間にはスパナ用の「切り欠け」が等間隔に設けられている(C20型・C32型・C42型は、いずれも8個設けられている。)。
エ 上記のローレット間に設けられた「切り欠け」は、正面から見ると長方形状で軸方向に楕円溝(サイドカッタで加工した形状)となっている。
オ 締付金具の内側のチャック筒の内径部には、油切りのためのスロッタ溝が等間隔に軸方向に6箇所設けられている。
(3) 被告製ミーリングチャックの形態・形状 被告製ミーリングチャック(原告が別紙物件目録記載のミーリングチャックとして主張するもの)のチャック部は、構成<ア>ないし<オ>を備えている。
(4) カタログへの原告製品写真の転用等 被告会社では、その取扱製品のカタログ(甲10。以下「被告会社カタログ」という。)を作成していたが、同カタログには、以下のような写真等が掲載されていた。
ア 被告製品として被告会社カタログ(28頁)に掲載されている「HSKシャンクHMCミーリングチャック」は、原告製HSKシャンクミーリングチャック(米国向け仕様(シルバー色))を角度を変えて、かつ、原告の商標である「NIKKEN」商標(以下「原告商標」という。)が見えないようにして写真撮影をしたものである。
イ 被告製品として被告会社カタログ(31頁)に掲載されている「ストレートシャンクHMCミーリングチャック」は、原告製ストレートシャンクミーリングチャックの写真を使用している。
ウ 被告製品として被告会社カタログ(8頁)に掲載されている「HSXコレットチャック」は、原告製スリムチャックの写真を使用している。また、仕様の表のコード番号(SKの代わりにHSK)から種類まで、原告製品の該当品と同様である。
エ 被告製品として被告会社カタログ(9頁)に掲載されている「HSXコレットチャック」は、原告製スリムチャック(EU向け仕様(ISO SK規格))を角度を変えて、かつ原告商標が見えないようにして写真撮影をしたものである。
オ 被告製品として被告会社カタログ(9頁)に掲載されている「ストレートシャンクHSXコレットチャック」は、原告製ストレートシャンクスリムチャックを角度を変えて、かつ原告商標が見えないようにして写真撮影をしたものである。シャンク径がφ20oとφ32oのものにつき、仕様の表のコード番号(SKの代わりにHSX)から種類まで、原告製品の該当品と同様である。
カ 被告製品として被告会社カタログ(28頁)に掲載されている「HSKシャンクHSXコレットチャック」は、原告製スリムチャック(米国向け仕様(シルバー色))を角度を変えて、かつ原告商標が見えないようにして写真撮影したものである。
キ 被告製品として被告会社カタログ(10頁)に掲載されている「SXコレット」は、原告製スリムチャックコレットを角度を変えて、かつ原告商標が見えないようにして写真撮影をしたものである。また、仕様の表のコード番号(SKの代わりにSX)から種類まで、原告製品の該当品と同様である。
ク 被告製品として被告カタログ(12頁)に掲載されている「ストレートシャンクHMXコレットチャック」は、原告製ストレートシャンクミニミニチャックを角度を変えて、かつ原告商標が見えないようにして写真撮影をしたものである。
2 争点 (1) 不正競争防止法に基づく請求 ア 原告製ミーリングチャックの形態は原告の商品等表示として周知性を有するか イ 原告製ミーリングチャックと被告製ミーリングチャックの類否 ウ 誤認混同のおそれの有無 エ カタログ廃棄請求の可否 (2) 民法709条に基づく請求 ア 原告製品への便乗・隷属的模倣の存否 イ 原告製品のコード番号の模倣等の存否 ウ 原告製品の周知著名性に便乗した広告宣伝等の存否 エ 原告製品やその写真を使用したカタログによる営業行為の存否 オ 原告製品と被告製品を混交した販売活動の存否 カ 被告製品と原告製品の品質の差異 キ 被告会社の行為は全体として不法行為を構成するか (3) 被告Aの責任 (4) 原告の損害
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(不正競争防止法に基づく請求)ア(原告製ミーリングチャックの形態は原告の商品等表示として周知性を有するか) 【原告の主張】 (1) ミーリングチャックの形態は、次のような多種多様性を有している。
ア 締付金具の表面処理 締付金具の表面処理には、硬質クロムメッキ処理、無電解メッキ処理、
カニゼンメッキ処理、フェルマイト処理、パーカ処理、イオン窒化処理、レイデント処理、精密研磨仕上げで表面処理なし、の各種があり、処理方法により締結金具表面の色彩が異なる。また、同じ処理を行っても、締結金具の表面に表れる色彩が必ずしも同じ色彩となるわけではない。
イ ローレットの模様及び配列における形態 ローレットは締付時の滑止め機能を有するが、その存否、模様(網目状、直線状など)、配列(1列、2列など)は多種多様で、製造者ごとに異なる。
ウ 切欠部の配列態様 切欠部は、締付時のスパナとの滑止め機能を有するが、その存否、配置及び個数は多種多様である上、各製造者が作成している専用のスパナに対応させたものとなっているため、製造者ごとに異なっている。
エ 切欠部の形状 切欠部の態様は、正面視楕円形状、正面視長方形状、正面視穴形状など多様である上、各製造者が作成している専用のスパナに対応させたものとなっているため、製造者ごとに異なっている。
オ スロッタ溝 チャック筒内側には、工具を強力に把持し、工具に付着するオイルをホイールに導くためのスロッタ溝が設けられることがある。その存否、溝の配置、形状等は多種多様であって、製造者ごとに異なっている。
(2) 上記のとおり、ミーリングチャックのチャック部は、技術的機能による制約が少なく、自由に形態を選択し得る部分である。原告製ミーリングチャックは、
このように多種多様な選択肢の中から、構成<ア>ないし<オ>をそれぞれ選択し、全体としてコンパクトな印象を与えている。したがって、構成<ア>ないし<オ>の個々の構成あるいはその組合せが、原告製ミーリングチャックの形態上の特徴である。
このような構成を有する製品は原告製品にしかなく、特に、締付金具部がシルバーグレー色であること、チャック筒内径部に等間隔に設けられたスロッタ溝があることの見た目に与える印象は大きい。
ミーリングチャックの使用状況をみても、チャック部がマシニングセンタ(工作機械)の主軸に装着される使用時に最も目に触れる部分である。
(3)ア 原告は、昭和38年に世界で初めてミーリングチャックを開発して世に出した。このことにより、ストレートシャンクエンドミルの開発、普及を促し、世界の工業界に大きく貢献したと言われ、原告製のミーリングチャックは、需要者に好評を博して現在に至っている。現在原告が製造販売している構成<ア>ないし<オ>を採る原告製ミーリングチャックは、昭和59年から販売されており、以来現在に至るまでの販売総数は120万本以上である。このような締付金具形態を有するミーリングチャックは、取引業者及び工作機械に関心のある需要者の間で、原告取扱いの製品であることが周知されるに至っている。
イ 原告は、平成9年にミーリングチャック開発後40年を記念した記念タイプのミーリングチャックを開発販売するに際し、構成<ア>ないし<オ>が強調されるように撮影された原告製ミーリングチャックの写真を表紙に掲載したカタログを2種類作成した。同カタログは、1つは10万部、もう1つは5万部作成され、原告製品の代理店、販売店、ユーザー等に配布された。
ウ 原告製ミーリングチャックの日本国内におけるマーケットシェアは50%以上である。ミーリングチャックの取引関係者は、工作機械と共に工具を購入するユーザーと、これらに工具を供給販売する販売業者や代理店、更には工具を取り付ける工作機械メーカーなどであるが、これらの需要者は、原告製品の特徴として、<ア>ないし<オ>の各構成が備わっていることを指摘している(甲36参照)。
エ 原告製品の輸出先・仕向国であり、かつ被告製品の輸出先・仕向国である欧米においても、原告製品は、「NIKKEN」として知名度と信用ある工作機械周辺機器メーカーの製品として知られている。
(4) したがって、<ア>ないし<オ>の構成を採る原告製ミーリングチャックの形態は、原告の商品等表示として周知性を有している。
【被告らの主張】 (1) 原告製ミーリングチャックの各構成は、以下に述べるとおり、商品等表示性を有さない。
ア 原告の主張する<ア>ないし<オ>の各構成は、次に述べるようにいずれも技術的機能に由来するものであるから、商品等表示性を有しない。商品の形態技術的機能に由来している場合には、不正競争防止法2条1項1号の適用を除外すべきである。同号の「商品等表示」は、識別機能を発揮するために各業者ごとに任意に表示の対応を選択し得ることを基本的前提としており、形態において選択の範囲が限定される場合は、「商品等表示」に該当しないものというべきである。なお、
原告は、形態が選択できる中から1つを選択したことをもって商品等表示性を主張するが、技術的機能に由来する複数個の形態選択の余地がある場合であっても、そのいずれかの選択肢を採用しなければならない以上、限られた選択肢の1つを特定の業者が独占し得るものと解することはできない。
(ア) 構成<ア> クロムメッキが摩耗防止及び酸化・錆防止に極めて適切であることは周知の事実であるから、ミーリングチャックの表面をクロムメッキ処理すること自体は技術的常識の採用にすぎない。他社のミーリングチャックにもクロムメッキ処理されているものがあることからしても、これが技術的常識を採用したものであることは明らかである。
(イ) 構成<イ> 締結金具に対する締付の際の滑止め機能としてローレットが設けられるが、片側(1列)よりも両側(2列)の方が、直線状よりも網目状の方が、滑止め機能として効果的である。したがって、2列の網目状のローレットの存在は、技術的常識である。2列のローレットを設けることは40年前から採用されている手法であるし、他社製品にも2列の網目状のローレットを採用しているものがある。
(ウ) 構成<ウ> スパナを使用して締結金具を締付する際に、スパナとの滑止めのために切欠部を設けることは、技術的常識である。そして、ローレットを2列設け、その間に切欠部を設けることは機能的に効果的である上、経済的かつコンパクトな設計を可能とする。
切欠部は、等間隔に6個あるいは8個設けられる。これは、スパナを使用する場合の回転角度が概略同一であること、回転角度単位が略45度ないし60度であることが多いこと、7個とすると、対称に設けることが不可能で設計上も煩雑であること、などの技術的理由に由来している。
したがって、切欠部を、2列のローレットの間に、等間隔に8箇所設置することは、当業者の技術的常識にすぎない。
(エ) 構成<エ> 切欠部を正面視長方形状とすると、円形状の場合よりもスパナの内面側と切欠部の縁部分とが接触しやすい。また、サイドカッタによるカッティングを行うと、断面形状が楕円形状(両端側が浅く、底部が一定の深さを有する。)となり、スパナの使用に都合がよい。したがって、切欠部の形状を、正面視長方形状、
断面楕円形状とすることは、技術的機能に由来しているといえる。このことは、他社製品においても同形状が採用されていることからも明らかである。
また、断面形状を長方形状とするか、楕円形状とするかは、加工上効率的なカッティングを実現し得るという技術的機能に由来している。
(オ) 構成<オ> スロッタ溝をチャック筒の内側に等間隔に設けるのは、チャック筒の先端部側の径を小さくするような弾性変形を容易にし、工具を強力に把持すること、及びチャック筒に挿入された工具が締め付けられた時に、工具に付着するオイルの流入路を形成し、オイルホイールに導くという技術的機能を発揮するためであり、公然と知られている技術である。
また、スロッタ溝の数は、少ないと先端部の弾性変形の容易性及び均一な弾性変形を生じさせるという技術的機能の発揮に支障が生じやすく、他方、多いとチャック筒の耐変形強度に支障が生じるため、両者の技術上の観点を考慮した上で、6箇所が選択されているのである。
したがって、スロッタ溝が、チャック筒の内部に等間隔に6箇所配置されることは技術的常識であるというべきであり、そのことは、他社製品においてもスロッタ溝の構造において同様の構成が採用されていることから明らかである。
原告は、スロッタ溝が設けられる場合も、その配置、形状等は多種多様であって、製造者ごとに異なっていると主張する。しかし、原告のいう各種のスロッタ溝の配置、形状等を検討すれば、スロッタ溝の断面形状に関する設計には自ずと限界が存在すること、また、原告製ミーリングチャックのようにスロッタ溝を端部まで延長するか否かは、加工容易性という技術的機能に由来しているものであることが明らかである。
イ 原告は、構成<ア>ないし<オ>の組合せが商品等表示性を有するとも主張するが、各構成が単独において商品等表示性を有さないのであるから、その組合せが商品等表示性を有することもない。
また、構成<ア>のクロムメッキによる色彩は、締付金具の全表面領域という2次元を前提とする面を領域としており、3次元を前提とする形状とは異なる要因である。これに対し、構成<イ>、<ウ>、<エ>は、ローレット、切欠部の個別の形態及び相互の配列に関するもので、締付金具の外側表面の形状に関する要因であるし、構成<オ>のスロッタ溝は、締付金具の内側に位置しているチャック筒の内側表面、内部又は外側表面に設けられるべき形状に関する要因である。したがって、
これらの各態様は、相互に何ら関連性を有しておらず、相互に独立して選択されるべき事項であって、これらの結合によって新たな形態上の要因を生ずることはあり得ない。
加えて、構成<ア>ないし<オ>の形態は、他社製品においても採用されており、決して原告独自の形態ではない。
ウ 原告製ミーリングチャックも、海外の同種製品を模倣したものにすぎない。
(2) 原告は、国内外において原告製ミーリングチャックの形態が周知であったと主張し、取引関係者等が作成した文書を書証として提出する。
しかし、国内の取引関係者が作成した文書は、原告の要請に従って記載されているものであるほか、構成<ア>ないし<オ>において共通する他社製品の存在を考慮したものではないから、周知性を証するものとはならない。
また、被告会社は、輸出入行為しかしていないので、本件では海外における形態の周知性が問題となるところ、原告が周知性の証拠として提出する海外の取引関係者が作成した文書は、原告製品全体を賞賛するものにすぎず、原告製ミーリングチャックの形態が国際市場において周知性を獲得していることの根拠とはならない。
2 争点(1)イ(原告製ミーリングチャックと被告製ミーリングチャックの類否) 【原告の主張】 (1) 被告製ミーリングチャックは、原告製ミーリングチャックと同じく構成<ア>ないし<オ>を備えており(このことは、基本的に被告らの認めるところである。)、形態上の外観においては、一見しただけではその相違がわからない程に酷似している。
工作機械(主にマシニングセンタ)やこれに付属する工具は、産業・業務用製品であって、購買の主体は企業であり、購買担当者は専門の技術者が多く、工具を取り扱う業者や需要者は、ミーリングチャック等の商品知識に詳しい。これらの商品知識に詳しい需要者層においてすら、原告製ミーリングチャックと被告製ミーリングチャックとの間で多数の誤認混同を惹起している。このことからしても、
被告製ミーリングチャックの形態が原告製ミーリングチャックの形態に酷似していることが裏付けられる。
(2) 被告らは、次の点を挙げて類似しない旨主張するが、いずれも失当である。
ア 被告らは、被告製ミーリングチャックには、軸方向と直交し、円輪形状を呈する3本の円輪スロッタが存在すると主張する。
しかし、この円輪スロッタはチャック筒の奥の内側にあるため、外部からほとんど視認できないし、刃物をチャック部に挿入すると全く見えない。したがって、形態の類否判断の基準とはなり得ない。なお、被告らは、円輪スロッタについて韓国において実用新案権が付与されている旨主張するが、韓国の実用新案権は無審査方式によるものであるから、権利の付与に格段の意味はない。
イ 被告らは、ローレットの間隔・幅・網目模様・フランジからの距離等が、被告製ミーリングチャックと原告製ミーリングチャックとで異なると主張する。しかし、これらは微差であって、形態の類似性を否定するものではない。
ウ 被告らは、原告製ミーリングチャックと被告製ミーリングチャックとはOリングを保持する溝の位置が異なると主張する。
しかし、Oリングはチャック筒内部に存する溝であって外部からは観察できないから、形態の類否判断の基準とはなり得ない。
エ 被告らは、被告製ミーリングチャックの締結金具表面の色彩が、原告製ミーリングチャックのそれよりもブルーがかっていると主張するが、原告製のものの色彩とほとんど異ならない。
【被告らの主張】 (1) 構成<ア>ないし<オ>は、いずれも技術的機能に由来するか、技術的常識に属するものであるから、類否判断の基準とすることはできない。
(2) 原告製ミーリングチャックと被告製ミーリングチャックを比較すると、次のような相違点が存在する。そして、これらの相違点の存在によれば、原告製ミーリングチャックと被告製ミーリングチャックはその形態において十分識別可能であり、非類似である。
ア 被告製ミーリングチャックの締結金具の表面の色彩は、原告製のものよりもややブルーに近い色を呈している。
イ 原告製ミーリングチャックと被告製ミーリングチャックでは、2列のローレットの間隔、ローレットの幅、ローレットの網目模様、フランジ部に近い側のローレットの締付金具端部からの距離が、それぞれ異なる。
ウ 被告製ミーリングチャックには、チャック筒の奥の内側に3本の円輪スロッタが存在するが、これは原告製ミーリングチャックにはないものである。ミーリングチャックは工具を挿入せずに独立した状態で取引の対象となるから、この3本の円輪スロッタは、外部から十分目視できる状況にある。この3本の円輪スロッタの存在について、DSP社の関係者が韓国において実用新案権を付与されている。
エ 原告製ミーリングチャックと被告製ミーリングチャックは、フランジに接続しているチャック筒の後端部におけるOリングを保持するための溝の位置が、
根元周囲にあるか又は根元から離れた位置にあるかという点において相違している。この溝は、外部から観察することは困難かもしれないが、当業者が点検した場合には上記相違を十分察知し得るところである。
3 争点(1)ウ(誤認混同のおそれの有無) 【原告の主張】 (1) 原告製ミーリングチャックと被告製ミーリングチャックは、多種多様な形態のあるミーリングチャックの中で、外観からほとんど判別できないほどに形態が類似しているから、取引関係者に誤認混同を生じさせるおそれがある。
(2) さらに、次のような被告会社の販売活動により、原告製ミーリングチャックと被告製ミーリングチャックとが、取引関係者の間で誤認混同のおそれを高め、
あるいは、各所で現実に誤認混同を生じさせている。
ア 被告会社が、中国で開催された展覧会に被告製ミーリングチャックを出展し、カタログ等を配布したことにより、ミーリングチャック等の専門家であるはずの取引関係者が、被告製ミーリングチャックが原告や原告の韓国にある関連会社で製造されているミーリングチャックであると誤認している。
イ 被告会社は、被告製品を販売する際、原告製品と混交させて販売したり、原告製品であるかのような表記をしたりしているため、需要者が、原告製ミーリングチャックと被告製ミーリングチャックを誤認混同するおそれが生じている。
(3) 被告らは、円輪スロッタやOリングが被告製ミーリングチャックに存在すること、被告製品にはHPI商標が付されていること、被告製品は原告製品と比較して安価であること、などの事情から、取引関係者が誤認混同するおそれはないと主張する。
しかしながら、前記2【原告の主張】(2)で述べたとおり、円輪スロッタやOリングの存在は、出所を峻別させるものではない。また、被告会社が宣伝広告等において原告の商標である「NIKKEN」商標を使用し、あるいは従前からの原告との取引関係が終了した事実を明らかにしないまま被告製品を販売しているなどの事情からすれば、HPI商標を付しただけでは誤認混同は避けられない。また、
価格が安価であることによって出所が識別されるものでもない。
【被告らの主張】 (1) 構成<ア>ないし<オ>は、いずれも技術的機能の要請によるものであるから、これらが類似していても、誤認混同のおそれがあるということはできない。
他方、被告製ミーリングチャックには、3本の円輪スロッタが設けられていたり、根元から離れた位置の周囲にOリングを保持する溝が設けられているなど、原告製ミーリングチャックにはない構成が採られている。
原告製ミーリングチャックや被告製ミーリングチャックを購入する者(需要者)は、機械加工を行っているユーザー等の専門家であるから、上記相違点を認識するはずであり、誤認混同が生じることはない。
(2) 原告は、原告製品を販売する際、製品自体及び包装箱に「NIKKEN」商標を付している。これに対して、被告製品及びその包装箱には「HPI」商標が付されている。したがって、原告製品と被告製品とは商標により十分峻別が可能であり、誤認混同は生じない。
(3) 被告製品は原告製品に比較して安価であるから、誤認混同は生じない。単価が安いことは、新たな市場獲得の要因であるばかりか、双方の製品の出所の峻別にも寄与している。
(4) なお、被告会社やその代理店は、原告製品との形態上の共通性が問題となった場合、従来の取引先に対しては、製造元が韓国のDSP社であって原告ではないことを説明している。新たな取引先に対しても、DSP社製品であること、特に米国における販売の場合には、輸入元をHPI社とするDSP社製品であることを説明している。したがって、誤認混同によって取引が成立することはあり得ず、現にそのような事実は存在しない。
4 争点(1)エ(カタログ廃棄請求の可否) 【原告の主張】 被告製ミーリングチャックの輸出等の行為は、不正競争防止法2条1項1号に該当するから、同法3条2項所定の侵害の停止又は予防に必要な行為として、
同ミーリングチャックの写真を掲載した被告会社作成のヨーロッパ向け製品カタログである被告会社カタログ(甲10)の廃棄を求めることができる。また、米国向けの製品カタログであるHPI社のカタログ(甲9)(以下「HPIカタログ」という。)も、原告製品の写真等が掲載されており、また、HPIカタログの作成に被告らが関与していることからすれば、廃棄請求の対象となる。
被告会社は、原告製品の写真等を使用しないカタログが作成されており、
被告会社カタログやHPIカタログは使用を中止しあるいは廃棄したと主張するが、いずれも証拠がない。
【被告らの主張】 被告会社カタログには被告製ミーリングチャック以外の被告製品が多数掲載されているし、HPIカタログはHPI社のものであるから、その廃棄請求は過大である。
また、被告会社は、原告からの要求により、原告製品の写真等を使用した被告会社カタログを1か月内に廃棄処分し、配布先にも使用しないよう指示した。
現在は、被告会社カタログ、HPIカタログに対応するものとして、原告製品の写真等を使用しないカタログ(乙1、19)を作成し、使用している。
5 争点(2)(民法709条に基づく請求)ア(原告製品への便乗・隷属的模倣の存否) 【原告の主張】 (1) 被告製品の一部は、次のとおり、原告製品に対する隷属的な模倣製品である。
ア ミーリングチャックについて 被告製ミーリングチャックは、原告製ミーリングチャックの構成<ア>ないし<オ>を有しており、原告製ミーリングチャックに酷似している。
イ コレットについて 被告製エンドミルコレットは、原告製ストレートコレットのほぼ完全なコピー商品である。被告会社は、原告製ストレートコレットの製作図面を使用して、DSP社に被告製エンドミルコレットを製造させた。
被告製SXコレットは、原告製スリムコレットに酷似するコピー商品である。
被告製コレット[VX・MX]は、原告製ミニミニコレットのコピー商品である。
ウ ドリルチャックについて 被告製ドリルチャックは、原告製ドリルチャックの全くのコピー商品である。
(2) 原告製品は、需要者に好評を博しており、このような周知の原告製品と酷似した被告製品を販売する行為は、原告製品のブランド力への便乗行為であって、
不法行為となり得る。
【被告らの主張】 (1) 工作機械部品は、その性能と価格によって評価されるものであるから、形態が類似していることをもってその販売等が違法となることはない。
また、原告製品と被告製品の形態が似ている部分は、技術的機能が反映された部分であり、そのような部分で似た製品を販売することが違法となることはない。
なお、被告製品はDSP社によって製造されており、被告会社は、DSP社に対して製造の発注を行ったわけではなく、購入に当たって「HPI」の表示を行わせているにすぎない。
(2) ミーリングチャックについて 原告製ミーリングチャックと被告製ミーリングチャックの共通点はいずれも技術的機能に由来すること、技術的機能に由来しない部分において相違点があることは、前記1及び2の【被告らの主張】で述べたとおりである。
(3) 原告製ストレートコレットと被告製エンドミルコレットについて ア 原告製ストレートコレットは、
a 略円筒形状を基本構成とし、先端において径を長く設定したことによる鍔状の突部を設け、
b 略円筒形状の表面の長さ方向に3本の直線状の分割溝を等角度に配置して設け、
c 後端付近に円輪状の溝を設けるとともに、上記bの直線状の溝に対応する位置に丸孔を設けた ことによる形態を採用している。
イ 前記アaのうち、略円筒形状の基本構成は、ミーリングチャックのチャック部に嵌合するための構成であり、鍔状の突部の設置は、ミーリングチャックによって把持状態から解放されたストレートコレットを取り出しやすくするための設計であり、前記アb、cは、ミーリングチャックによって把持された際に弾性的に変形可能とするための構成であるから、いずれも技術的機能上の要請に由来している。
ウ 対応する他社製品でも、ミーリングチャックとコレットの製造元が異なる場合も想定して、前記アaないしcの構成が採用されている場合が多い。
エ 原告は、被告会社が原告製ストレートコレットの製作図面を使用して被告製エンドミルコレットを製造した旨主張するが、被告会社は、そのような図面を所有した事実はなく、まして、原告の製作図面を被告製品の承認図として使用したことはない。
(4) 原告製スリムコレットと被告製SXコレットについて ア 原告製スリムコレットは、
a 先端に向けて順次径を大きくするテーパ形状を採用し、
b 先端側から後端付近に向けて6本の分割溝を等間隔に配置して設ける一方、後端から先端付近に向けて2本の分割溝を等間隔に配置して設けており、
c 先端付近において円輪状の溝を設け、かつ当該溝の更なる先端位置の径を小さくしたことによる先端方向突出部を設け、後端において径を等しくした状態による略円筒形突出部を設けた ことによる形態を採用している。
イ 前記アaのテーパ形状は、テーパコレットチャック(被告製品における「HSXコレットチャック」)による外側からの把持によって先端側に局所的に押圧力を加えることによって、スリムコレットを内側に変形させ、ひいては刃物を堅固状態にて把持することを目的としている。
前記アbは、上記テーパコレットチャックによる外側からの把持に対応して、スリムコレットが先端部及び後端部、更にはこの中間部の全領域において変形しやすいようにすることを目的としている。
前記アcは、テーパコレットチャックとスリムコレットとを結合させるためにナットの先端と嵌合し、かつ、テーパコレットチャックの後端側に押し上げられることによって、スリムコレットのテーパ部分の変形をより一層助長することを目的としている。
以上のとおり、前記アaないしcの形態は、いずれも技術的機能に由来するものである。
ウ 対応する他社製品も、概ね同様の構成を有している。他社製品においては、後端部の丸孔の存否や略円筒形の突出部の存否という相違点は認められるが、
これらはいずれも当業者が必要に応じて選択し得る技術常識にすぎない。
(5) 原告製ミニミニコレットと被告製コレット[VX・MX]について ア 原告が対象としているミニミニコレットは、
a 後端から先端に向けての中途部位に至るまで略同一径による略円筒形状とし、当該中途部位から先端に至るまで順次径を拡大することによるテーパ形状を形成しており、
b 後端に近い中途部位から先端に向けて3本の分割溝を等間隔に設けた ことによる形態を採用している。
イ 被告製コレット[VX・MX]には、前記アbの分割溝の後端において、テーパ変形に伴って根元部分が変形しやすいように、当該分割溝と接続した状態にて前後方向を長軸とする略楕円形状の孔が設けられている。この孔の存否において、原告製ミニミニコレットの形態と明らかに相違しており、双方の形態は十分識別可能である。
ウ 前記アaは、テーパコレットチャックにおけるチャック筒の円筒形状をなしている内側によってミニミニコレットの後端側を一様に把持し、かつ、当該チャック筒の略テーパ形状による先端側と嵌合し、ミニミニコレットをテーパコレットのチャックの後端側にボルトによって順次後端側に引き寄せることによって、テーパ変形を行いやすくするための構成であり、前記アbは、テーパ変形に基づいて、先端部が相互に接近するために必要な余裕空間を設けるための構成である。したがって、いずれも技術的機能に由来した形態である。
エ 対応する他社製品も概ね同様の構成を採っている。なお、分割溝を4本とするものもあるが、これは当業者が必要に応じてなし得る選択事項にすぎない。
(6) 原告製ドリルチャックと被告製ドリルチャックについて 被告製ドリルチャックは、チャック筒の前方向に盛り上がった部分が純然たる円輪形状ではなく、8個の切欠部が刻印されており、しかも先端部が白色であるから、形状及び色彩において原告製ドリルチャックとの識別は十分可能である。
(7) なお、原告製ミーリングチャック、同ストレートコレットの形態は、ドイツのスティーバー社が開発した製品の形態に便乗したものであり、原告製ドリルチャックの形態は、スペインのランブリック社の製品をコピーしたものである。
6 争点(2)イ(原告製品のコード番号の模倣等の存否) 【原告の主張】 (1) コード番号は、製品を識別する符号であって、在庫管理や受発注業務の重要なメルクマールとなり、コード番号の変更や攪乱は直ちに製品の識別に影響を与える関係にある。規格品でなく各社が製作するミーリングチャック等の製品は、各社ごとにコード番号が異なっている。競業者間でコード番号が同一又は模倣されたときには、需要者が同じ製品であると誤解する可能性がある。通常の市場におけるミーリングチャックの競業者が、上記のような意義を有するコード表示を他社の製品と同一にして混乱を招来するようなことは考えられない。
(2) 被告会社によるコード番号の模倣 被告会社は、ミーリングチャックとストレートコレットについて、原告製品のコード番号を模倣している。
原告製ミーリングチャックのコード番号は、例えば「BT40-C32-105」といったように、3つに分割され、左部分のアルファベットと数値は対応するシャンクの規格とサイズを示し、中央部分のアルファベット「C」は原告製ミーリングチャックを示す略号で原告固有のものであり、その右の数値は内径サイズを示し、右端の数字は長さを示している。
しかるに、被告会社は、例えば「BT40-C32-105」というように、自己のコード表示である「HMC」を用いずに、原告製ミーリングチャックのコード表示を模倣し、各社である程度ばらつきの出る内径や長さを示す数字も、原告製品に対応する被告製ミーリングチャックはすべて同じ数字になっている。
また、ストレートコレットについては、被告会社は、原告製ストレートコレットのコード番号(符号)である「KM」の表示と同一の表示を使用している。
ドリルチャックについては、被告会社は、被告製品のコード番号である「BT40-NDC13-80」ではなく、原告製ドリルチャックのコード番号「BT40-NPU13-80」を使用している。
(3) 被告製品における原告製品のコード番号の使用 被告会社は、被告製品に対応する原告製品のコード番号を製品自体にレーザーマーキングしたり、その包装箱に原告製品のコード番号を記載したラベルを貼付したりしている。
被告会社は、被告製品のコード番号によって見積依頼がなされたのに対して、原告製品のコード番号を使用して見積書を作成したり、原告製品のコード番号によって見積依頼がなされたのに対して、被告製品のコード番号を使用した見積書を作成したりするなどして、原告製品のコード番号も被告製品のコード番号であるかのような使用をしている。
NHE社は、原告製品の発注に対し、対応する被告製品のコード番号で請求書(インボイス)を作成したり、対応する原告製品のコード番号がレーザーマーキングされた被告製品を納入したり、被告製品を原告製品のコード番号を付した包装箱に入れた状態で納入したりしている。HPI社は、取扱製品を紹介するウエブサイトにおける価格表上、原告製品については原告製品のコード番号を、被告製品については原告製品のコード番号の末尾に「HTC」と表記したものを使用した上で、混在させている。NHE社及びHPI社の代表者は被告会社の代表者である被告Aであるから、NHE社やHPI社のこれらの行為はいずれも被告Aの指示によるものであり、被告会社の行為と同視できる。
【被告らの主張】 (1) コード番号は、あくまで製品を区分けするための符号であって、それ自体は出所の識別機能を目的としていない。コード番号の同一あるいは類似は、ユーザーや取扱業者をして、双方が同一の基準設定によって区分けしたことを認識させるにすぎない。
また、コード番号における数値の同一は、寸法の同一にすぎないから、1社がその数値を独占することはできないというべきである。
(2) 被告会社は、原告から原告製品の納入を中止されたことにより、同様の製品を製造販売せざるを得なくなった。DSP社の代表者は、かつて原告の韓国支社工場長であったため、商品区分けの基準設定であるコード番号を慣れ親しんだ原告製品のコード番号と同様のものにしたにすぎない。原告製品のコード番号と同様のものとするときには、末尾に「HPI」と記載することにより、原告製品ではないことを明示している。
また、被告会社では、被告製品について独自のコード番号を作成したが、
この場合、寸法等を表さないコード番号中央部のアルファベットが問題となるところ、例えばミーリングチャックの場合でも、「C」の文字を使用するメーカーは数社あり、原告製品では「C」、被告製品では「HMC」であることからすれば、被告会社のコード番号が原告のコード番号の模倣であるということはできない。
(3) HPI社のウエブサイトにおいては価格表に原告製品のコード番号と被告製品のコード番号(原告製品のコード番号の末尾に「HTC」と記載したもの)とが混在しているが、HPI社では、顧客にその意味を尋ねられたときは、末尾にHTCとあるものが被告製品であることを説明している。
なお、HPI社は、被告製品をも取り扱っているのであるから、被告製品のコード番号が原告製品のコード番号と混在して価格表に表記されるのは当然である。
(4) 原告製品と被告製品は、カタログに基づいて発注されるものであるから、
発注者は、発注段階で原告製品か被告製品かを認識している。
(5) 以上の点からすれば、コード番号の模倣や同一は、製品の誤認混同を生じさせるものではないし、原告の信用を毀損するものではないし、利益喪失の原因ともならないから、違法であるということはできない。
(6) なお、NHE社やHPI社は独立した法人であり、両社の行為を被告会社の行為と同視することはできない。
7 争点(2)ウ(原告製品の周知著名性に便乗した広告宣伝等の存否) 【原告の主張】 NHE社は、原告製品と形態を酷似させる被告製品を販売するに際し、帳票や請求書等において、原告商標を使用している。なお、このNHE社の営業行動は、被告会社に命じられてなされているものと推測されるから、被告会社の行為と同視できる。
また、被告会社は、原告製品の在庫分を低価格にて販売する旨記載した広告等に、原告製品と極めて紛らわしい被告製品の販売についても記載している。
これらの広告宣伝行為は、形態酷似、同一あるいは模倣のコード番号の使用等と相まって、不法行為を形成する。
【被告らの主張】 (1) 被告会社は、原告製品の在庫製品を販売するための広告宣伝において、被告製品が原告製品と同等あるいはそれ以上であると述べているにすぎない。このように述べたとしても、原告製品の信用及び評価を低下させることにはならない。したがって、不法行為となることはない。
なお、原告製品をいくらで販売するかは被告会社の裁量事項であり、そのこと自体に違法性はない。
(2) NHE社は、原告製品(在庫)を扱っていたから、原告の商標を使用した帳票等を使用したにすぎない。そのような行為で、原告の信用が害されたり、得べかりし利益が失われたりするものではない。なお、NHE社の行為は、そのまま被告会社の行為として評価されるべきではない。
8 争点(2)エ(原告製品やその写真を使用したカタログによる営業行為の存否) 【原告の主張】 (1) 被告会社は、日本で被告会社カタログを作成し、取引先に送付して販売活動を行っている。同カタログには、被告Aあるいはその息子の指示により、原告製品の写真をスキャニングしたものや、原告製品を撮影した写真が使用されている。
また、被告会社カタログは、印刷物として配布されるだけでなく、デジタルデータとしても広く広告宣伝に使用されている。
具体的な被告会社の使用行為は、第2の1(当事者間に争いのない事実等)記載の行為のほか、次の使用行為が含まれる。
ア 被告製品として被告会社カタログに掲載されている「NCドリルチャック」は、仕様の表のコード番号から種類まで、原告製NCドリルチャックと同一である。
イ 被告製品として被告会社カタログに掲載されている「ストレートシャンクスタブアーバ」は、原告製K-SCAスタブアーバの写真を使用している。
ウ 被告製品として被告会社カタログに掲載されている「NCストレートコレット」は原告製NKストレートコレットの写真を使用している。
エ 被告会社カタログの「HSK63Aシャンク図」は、原告の「HSK63Aシャンク図」のコピーである。
(2) HPI社は、HPIカタログにおいて、次のとおり、原告製品の写真の盗用等を行っている。被告会社とHPI社との関係からいえば、HPI社のカタログ作成行為は被告会社の作成行為と同視できる。
ア 被告製品「HSKシャンクHMCチャック」の写真は、被告会社カタログと同様、原告製品を撮影したものである。
イ 被告製品「HSXコレットチャック」の写真は、被告会社カタログと同様、原告製品の写真である。
ウ 被告製品「ストレートシャンクHSXコレットチャック」の写真は、被告会社カタログと同様、原告製品の写真である。
エ 被告製品「HSXシャンクHSXコレットチャック」の写真は、被告会社カタログと同様、原告製品の写真である。
オ 被告製品「SXコレット」の写真は、被告会社カタログと同様、原告製品の写真である。
カ 被告製品「ストレートシャンクHMXコレットチャック」の写真は、被告会社カタログと同様、原告製品の写真である。
(3) 競争業者のカタログの製品写真を無断で自社製品として転載することは、
自由競争の範囲を逸脱する公序良俗違反の行為である。また、原告と共通する顧客を原告から奪うための欺瞞的な表示による不当な顧客誘引行為であり、違法な行為であることは明らかである。
【被告らの主張】 原告製品や原告カタログの写真を被告会社カタログに転用する行為は、原告製品と基本的形態において共通している被告製品の写真として使用されているというにすぎず、被告製品の品質・内容について虚偽の表示を行っているわけではない。したがって、被告各製品の品質・内容を偽ったことにはならないし、原告の社会的信用又は評価を低下させることにもならない。原告主張の写真の転用行為が認められるとしても、そのことが違法性を有することにはならない。
また、写真の転用行為は、被告Aやその息子の指図によってなされたものではなく、被告会社従業員であったBの指図によりなされたものである。
なお、【原告の主張】(1)アについては、区分けの一致にすぎないというべきである。また、同イ及びウについては、製品寸法比率が異なるので使用を否認する。同エについては、点線と実線の相違や矢印の先端の太さの相違などから明らかなように、コピーではない。
9 争点(2)オ(原告製品と被告製品を混交した販売活動の存否) 【原告の主張】 (1) 被告会社は、顧客からの原告製品の注文に対し、被告製品のコード番号を混在させた見積書を作成して送付した上、原告製品と被告製品を混在させて輸出した。また、顧客から被告製品コード番号に基づき発注された際、原告製品のコード番号をもって見積書を作成し、被告製品と原告製品を混交させて納品した。
(2) 被告会社は、原告製品と同一のコード番号を被告製品自体にレーザーマーキングし、あるいは被告製品を梱包する包装箱に原告製品のコード番号を記載したラベルを貼付し、被告製品と原告製品を混交させて、NHE社を通じて販売している。
(3) NHE社は、右上に原告の商標である「NIKKEN」の文字を大書した請求書を用いて、原告製品と被告製品を区別することなく販売している。また、その結果、被告製品が原告製品と誤認され、原告の現地法人に返品されたことがある。HPI社は、ウエブサイトにて原告製品を紹介しつつ、その価格表に原告製品のコード番号と被告製品のコード番号を混在させている。
NHE社もHPI社も、いずれも被告Aの指示により、上記のような原告製品と被告製品を混交した販売活動を行っているというべきである。
(4) 製品の混交がなされた場合、顧客は、すべて発注した原告製品であると認識し、その結果、原告が築いてきた原告製品に対する信頼、信用が損なわれることになる。
【被告らの主張】 (1) 被告会社は、被告製品のコード番号により発注された際、対応する原告製品しかなかったため、原告製品と被告製品を混交して販売したことはあるが、このときは顧客に予め事情を説明して許可を求めた。
(2) 被告会社が、韓国から被告製品を輸入する際、あるいは海外へ輸出する際、原告製品と被告製品を混交したことはない。NHE社が混交して販売したとしても、そのことは被告会社とは無関係である。また、NHE社は、原告製品とコード番号が同じ被告製品を販売する際には、末尾に「HPI」の文字を付記しているし、必ず取引先に対して原告製品と被告製品を混交させる旨説明して了承を得ている。
(3) NHE社は原告製品を扱っていたのであるから、請求書等に原告の商標を使用していたとしても問題とはならない。
HPI社が原告製品と被告製品とを取り扱っている以上、同社の価格表に原告製品と被告製品のコード番号が混在していることは当然である。
なお、NHE社の行為もHPI社の行為も、被告会社とは無関係である。
(4) 原告は、被告製品が原告製品と誤認されて原告の元へ返品されたと主張するが、問題となっているのは原告製ストレートコレットであり、その形態は前記5【被告らの主張】(3)で述べたとおりいずれも技術的機能に由来するものであるから、類似うんぬんは問題とならない。被告会社では、原告製品と被告製品を峻別していたから、原告の主張する事態は、顧客において、コード番号によって原告製品と被告製品を区別管理していなかったために発生したにすぎない。
10 争点(2)カ(被告製品と原告製品の品質の差異) 【原告の主張】 被告製品は、コレットにつきバリがあり精度が悪い、ミーリングチャックについてサイドロックネジが付属していないため売り物にならない、さびている、等々の品質の不良があった。また、規格において許容される差(公差)を大きくはずれた規格外製品があり、時に取引先から返品されることさえある。
被告会社は、平成15年において、原告製品を取り扱う海外法人に対して、
大量(約1500万円相当)の原告製品を発注しているが、この事実は、被告製品が品質上の不良や不具合あるいは製品に対する信用性がなかったことを裏付ける。
【被告らの主張】 被告会社は、被告製品の品質性能が悪いことを理由とするクレームを受けたことはない。むしろ、被告会社側の調査によれば、被告製品の方が原告製品より優れていることが認められる。原告は、規格外製品の存在を指摘するが、規格は望ましい状態についての任意規定であるし、海外において必ずしも同一の基準が採用されるとは限らないから、数ある規格のうちの1つに反していることをもって、粗悪品であるとか欠陥品であるとかいうことはできない。
なお、工業製品において欠陥品が混在することは避けられず、原告製品についてもクレームにより返品されたことがある。また、原告製品の中にも規格外製品は存在する。
11 争点(2)キ(被告会社の行為は全体として不法行為を構成するか) 【原告の主張】 原告は、従前被告会社に対して原告製品を販売しており、海外への輸出は、
欧州についてはドイツにあるNHE社、米国については米国のHPI社、その他の地域については被告会社に委ねていた。なお、NHE社やHPI社は、いずれも被告会社の代表者である被告Aが代表者となっており、被告会社からの製品を納入するだけの組織にすぎない。NHE社やHPI社の取扱製品は、ほぼすべてあるいは大半が原告製品であった。
原告は、平成14年10月に、HPI社が米国において原告製ミーリングチャックと酷似する被告製ミーリングチャックを販売していることを知り、被告会社に抗議したところ、被告会社がこれに誠実に対応しなかったため、同年11月に被告会社との取引を中止した。
しかし、被告会社、NHE社及びHPI社は、その取引中止の事実を顧客に説明しないまま、従前どおりの取引を行っている。
以上の状況を前提として、争点(2)のアないしオの行為がなされており、しかも、被告製品は原告製品と比較してその品質が劣るため、被告会社の争点(2)のアないしオの行為は、全体として、様々な手段を講じて品質の劣る被告製品を原告製品であるかのように誤解させ、顧客に原告製品は品質が落ちたとの誤解を生ぜしめ、
ひいては原告製品や原告に対する信頼を毀損する行為であるということができ、不法行為としての違法性を有しているというべきである。
【被告らの主張】 原告主張の各行為はいずれも不法行為としての違法性を有していないし、これらを全体として評価するとしても、不法行為としての違法性を有するに至るものではない。
なお、原告と被告会社との取引は、原告によって一方的に中止された。すなわち、原告が米国企業と提携して原告製品を米国にて販売するようになった結果、
被告会社の系列企業である代理店(HPI社)の営業が妨害されることとなった。
被告会社は、自らの経営維持が困難となったため、これに対処することを目的としてやむなくDSP社の製品を販売した。原告は、このDSP社製品の販売行為を口実として、被告会社に対し取引の中止を申し立てたのである。従前原告製品を取り扱っていた被告会社、HPI社及びNHE社は、原告の一方的取引中止行為により、やむなく、原告製品に技術的機能に由来する部分において類似する被告製品を販売せざるを得なかったのである。したがって、従前の状況を前提として争点(2)のアないしオの行為を全体的に評価したとしても、被告会社の行為が不法行為となることはない。
また、NHE社やHPI社はそれぞれ独立した法人であって、法人格否認の法理は成り立たないから、本件でNHE社やHPI社の行為を理由として被告会社の行為の違法性を主張するのは失当である。
12 争点(3)(被告Aの責任) 【原告の主張】 (1) 被告会社は継続的に原告製品を取り扱い、被告Aは被告会社の代表取締役として会社業務全般を統括管理していたのであるから、被告Aは、被告会社が本件のごとき不正競争行為あるいは不法行為をしないよう注意すべき義務があった。
しかるに、被告Aは、この注意義務を懈怠しただけでなく、被告会社の代表取締役として被告会社による不正競争行為や不法行為の実行を明示又は黙示に指揮実行したものであるから、民法709条又は商法266条ノ3に基づく責任がある。
(2) さらに、被告Aは、自ら原告製品のコピー品をDSP社に発注して製造させて日本に輸入し、原告製品を撮影した写真等を利用して被告会社カタログ・HPIカタログを作成するよう指示し、同人が代表するアメリカ合衆国の被告会社の子会社HPI社及びドイツの被告会社の子会社NHE社を通じて輸出販売しており、
被告会社の代表者の立場を超え、一個人として、不正競争行為を行っているものというべきである。
【被告Aの主張】 被告会社において不法行為が成立しない以上、被告会社を指揮監督すべき被告Aにおいても不法行為は成立しない。
また、原告は、被告Aの商法266条ノ3に基づく責任について述べているが、同条の悪意又は重過失の主張がない。
被告A個人の行為が不正競争行為に該当することはない。
13 争点(4)(原告の損害) 【原告の主張】 (1) 原告の被った損害 ア 積極的損害(調査費用等)及び消極的損害(得べかりし利益の喪失) (不法行為による損害) 原告は、被告らが原告製品と被告製品とを混交して販売したために、次のとおり、混交された被告製品数に相当する原告製品数を販売する機会を喪失し、
また、その事実に関する調査費用の捻出を余儀なくされた。
(ア) 被告会社が、中国の顧客に対し、原告製ミーリングチャックであると称しながら、被告製ミーリングチャックを輸出したことによる損害 a 販売機会の逸失 15万4440円 b そのための調査費 15万円 (イ) NHE社が、ドイツの顧客に対し、原告製コレットであると称しながら被告製コレットを混交させて販売したことによる損害(被告会社が輸出したことによる原告の損害と同視できる。) a 販売利益の喪失 69万5520円 b そのための調査費 79万4120円 (ウ) 被告会社が、被告製ミーリングチャックを原告製品として米国に輸出したことによる損害 販売利益の喪失 30万5200円 (エ) NHE社が、原告商標である「NIKKEN」商標を大書し、原告製ストレートコレットのコード番号末尾にHPIと記載した被告製品を付して販売させたことによる、販売利益の喪失に相当する損害(被告会社が輸出したことによる原告の損害と同視できる。) 54万6000円 イ 信用毀損による損害(不正競争又は不法行為による損害) 被告らは、ミーリングチャックに関して不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争を行ったことに加え、原告製品の形態やコード番号を模倣させ、原告製品の写真等を盗用したカタログを使用し、原告製品と被告製品とを混交して販売させるなどといった営業活動によって、原告製品よりも品質の劣る被告製品を、安価であることをもって相当多数販売してきた。
その結果、品質や性能に対して原告が長年にわたり築き上げてきた原告製品に対する顧客の信用が毀損されたということができ、これを金額に換算するならば1000万円が相当である。
(2) 原告の本訴における損害賠償請求 原告は、不正競争防止法4条又は民法709条に基づき、上記損害のうち1000万円を請求する。
【被告らの主張】 原告の主張は争う。
【原告の主張】(1)ア(ア)は、顧客が被告製品を指定したものであるから原告の損害とはいえず、同(イ)及び(エ)については顧客に混交することを了解してもらっているので原告の損害とはならず、同(ウ)については米国に輸出したことのみで販売利益の喪失には該当しないから損害にならない。また、(1)イの信用毀損に関しては、原告主張の行為と原告の信用毀損との間には因果関係がない。
争点に対する判断
1 争点(1)(不正競争防止法に基づく請求)について (1) 争点(1)ア(原告製ミーリングチャックの形態は原告の商品等表示として周知性を有するか)について ア 第2の1の当事者間に争いのない事実等と証拠(甲1、6、8、18、
21ないし25、33ないし36、47ないし52、59、60、63、68、72、75、87ないし89、92、94ないし98、106、107、検甲1、
2、乙2、5ないし7、14ないし18、30、33ないし35、46、47、検乙1ないし3)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる(なお、本判決では、書証の枝番号は、その全部を引用する場合には記載を省略している。)。
(ア) 原告代表者であるCは、昭和27年に個人企業として松本鉄工所を創業し、昭和33年に有限会社日研工作所を設立した。同有限会社は、昭和35年に株式会社に組織変更されて、現在の原告に至っている。原告創業者であるCは、
我が国におけるツーリング(ドリルやエンドミルなどの刃物が材料を切削する際に工作機械に刃物を固定するための工具)と呼ばれる工作機械工具に関する草分け的存在である。原告は、ツーリングを中心とする工作機械部品・工具のメーカーとして、各種製品を製造販売している。また、原告は、国内各所に営業所・出張所を設置しているほか、昭和56年には日研フランス、昭和58年には日研アメリカ(HPI NIKKEN)と日研韓国事務所、昭和60年には日研ドイツ(NIKKEN HEARTECH)、平成元年には日研イギリス(NIKKEN U.K)など、海外の事業所等を次々に開設していった。
原告は、昭和38年から工作機械部品の一つであるミーリングチャックの製造開発を始め、昭和59年から現在製造販売している形態の原告製ミーリングチャックを製造販売し、現在に至るまでに約120万本以上販売している(以下「原告製ミーリングチャック」というときは、昭和59年以降現在まで製造販売している形態を有するものをいうこととする。)。原告製ミーリングチャックの平成12年から平成14年ころの国内マーケットシェアは、50%以上である。
原告は、我が国の工作機械用ツーリング、工作機器のトップメーカとなっている。平成5年(1993年)には、「月刊・生産財マーケティング」を発行しているニュースダイジェスト社が昭和59年(1984年)に制定し、生産財分野で優れたマーケティング活動をして成果を収めた優良企業・経営者を表彰する「NDマーケティング大賞」を原告代表者が受賞している。その受賞理由は、原告が日本の工作機械部品に関する草分け的存在であり、かつその製品が長期間にわたって高い市場占有率を維持していること、諸外国の調査等を踏まえた卓抜した技術力によって新製品を開発し続けていること、経済不況下においても企業利益を確保し、技術的にも我が国はもとより、世界的にもトップ級と評価されていることなどである。
(イ) ミーリングチャックは、工作機械、主にマシニングセンタの主軸に固定される、切削刃を把持する工具ホルダである。切削加工の際には切削刃と一体になって回転する。
切削刃の締付固定は、ミーリングチャックのチャック筒内径部に、シャンク径がチャックの内径と等しい刃物のシャンク部を挿入した後(径が異なる場合にはコレット等を使用する。)、手締めにて締付金具を回しながら刃物の突出し長さを調整し、スパナによって締付金具を締め付ける方法にて行う。
ミーリングチャックが工作機械に固定された状態においては、締結金具部分のみが視認でき、角度によってはチャック筒表面も視認可能であるが、チャック筒内部等は視認不可能である。
(ウ)a ミーリングチャックは、フランジの鍔部を含むテーパシャンク部と、締付金具とチャック筒からなるチャック部とから構成される。
b テーパシャンク部は、工業規格があるので各社の製品で差異が生じないが、チャック部の形態は各メーカーによって様々に異なっている。
チャック部の主な相違点は、全体形状、締結金具の表面処理と色彩、ローレット、切欠部及びスロッタ溝において認められる。実際に製造販売されているミーリングチャックにおいては、次のような相違が認められる。
(a) 全体形状 ミーリングチャックのチャック部は、円柱形状を基本とするが、
縦長のものや横長のものがある。また、円柱の上部の稜角をなめらかにしただけのものや、径を順次変化させることによりテーパ状にして、円柱形状に変化を付けるものもある。なお、径の変化やテーパの傾斜状況等は、各製造者ごとに異なる。
(b) 締結金具の表面処理と色彩 締付金具の表面処理は、クロムメッキ処理、無電解メッキ処理、
カニゼンメッキ処理、フェルマイト処理、パーカ処理、イオン窒化処理、レイデント処理、精密研磨仕上げ(表面処理なし)等がある。このうち、クロムメッキ処理は、堅くて摩耗しにくいので、機械部品のメッキに適しているとされている。
これらの処理の違いにより、締結金具の表面の色彩には、シルバーグレー、グレー、黒、ゴールドグレーなどがあり、さらに、シルバーと黒の2色を使用するものもある。また、同じ処理をしたからといって、必ずしも同じ色彩になるとは限らない。
(c) ローレット ローレットは、手で締付金具を締める際の滑止めとして、締結金具の円周上に設けられるものである。ローレットが設けられない場合もある。
ローレットが設けられる場合には、1列の場合と2列の場合がある。
また、ローレットの幅には広いものや狭いものがあり、その模様には、直線状のもの、粗い網目状のもの、細かな網目状のものなどがある。ローレットの位置も、締結金具の上部、中部、下部、全体など様々である。
(d) 切欠部 切欠部は、スパナで締付金具を締め付ける際のスパナの引掛けのためのものである。
切欠部が設けられない場合もあるが、設けられる場合には、均等に6箇所か8箇所設けられる。設けられる位置は、締結金具の上部、中央部、下部と様々である。
その形状は、正面から見れば長方形状、軸方向には楕円形状のもの(サイドカッタ加工による)や、正面から見れば楕円形状、軸方向には長方形状のもの(エンドミル加工による)などがある。
ローレットとの関係においては、ローレット内に設けられるもの、2列のローレットの間に設けられるものなどがあり、2列のローレットの間に設けられる場合には、ローレット部に切欠部の上下が接するにすぎないものや、ローレット部分に切欠部が一部入っているものなどがある。
なお、切欠部は、スパナによる締結を効率よく行うためのものであるが、各メーカーは自社のミーリングチャック用に独自に製作した専用のスパナを製作販売しており、切欠部の形状もその専用のスパナに対応したものになっている。
(e) スロッタ溝 スロッタ溝は、刃物のシャンク部に付いた油分を切るためにチャック筒の内径部に設けられるものであるが、設けられない場合もある。設けられる場合にも、円筒部内側に軸方向に等間隔に設ける、円筒部外周に均等に設ける、円筒部に均等に穴を開けて内径部側からスリットを入れる、均等に穴を開ける、長手方向2箇所円周方向に均等にレーザー加工してスリットを入れる、筒の内径部のみに長溝を円周方向に均等に入れる、など様々である。
c 原告製ミーリングチャックのチャック部の形態 原告製ミーリングチャックのチャック部の全体形状は、やや横長の円柱状であり、締結金具中央から先端に向けてわずかながら順次径を小さくしていくことによるテーパ状を形成し、さらに締結金具上部6分の1付近からは径の減少率を上げることによるテーパ状を形成している。
原告製ミーリングチャックの締結金具には、クロムメッキ処理が施されており、色はシルバーグレーである(構成<ア>)。
原告製ミーリングチャックの締結金具には、ローレットが、中央部と下部に、ローレットの幅よりも若干広い程度の間隔を置いて、2列設置されている。ローレットの模様は、細かな網目状である(構成<イ>)。
原告製ミーリングチャックの切欠部は、サイドカッタ加工による、
正面視長方形状で軸方向には楕円形状のもので、等間隔に8箇所、2列のローレットの間に上下辺がローレットにやや接するように設けられている(構成<ウ>、
<エ>)。
原告製ミーリングチャックには、スロッタ溝が、円筒部内側に、軸方向に等間隔で6箇所設けられている(構成<オ>)。
原告製ミーリングチャックのチャック部の形態は、これらの構成により、全体としてコンパクトで一種の機能的な美感を備えたものになっている。
d 国内において、<ア>ないし<オ>の構成、すなわち、締付金具がシルバーグレー色でクロムメッキの表面処理がなされていること(構成<ア>)、締付金具には、円周上に平行に網目状のローレットが2列に施されていること(構成<イ>)、2列の網目状のローレット間にはスパナ用の切欠が等間隔に8箇所設けられていること(構成<ウ>)、ローレット間に設けられた切欠は正面から見ると長方形状で軸方向に楕円溝(サイドカッタで加工した形状)となっていること(構成<エ>)、締付金具の内側のチャック筒の内径部には、スロッタ溝が等間隔に軸方向に6箇所設けられていること(構成<オ>)、以上のような構成を採るものは、平成14年以降の被告製ミーリングチャックのほか、平成15年ころの共立精機製のミーリングチャックの存在が認められる。ただし、被告製ミーリングチャックは国内において販売されておらず、また、共立精機製ミーリングチャックがどの程度出回っていたのかは不明である。
海外においては、共立精機、スペインのライプ社、韓国のダイン社(共立精機と提携関係にある。)がほぼ同様の構成を採ったミーリングチャックを扱っている。これらは、最近になって、あるいは一地域において出回っているものと推認されるが、少なくとも、我が国に輸入されているとか、海外において周知の形態であって我が国においてもその形態が知られているといった事情はない。
(エ) ミーリングチャックの取引関係者は、工作機械と共に工具を購入するユーザー、工具を供給販売する販売業者や代理店、工具を取り付ける工作機械メーカーである。
原告は、本件訴訟において、原告製品を扱い、あるいは使用している多数の国内の工具類販売業者、部品加工等の工程で工具を使用する大手メーカーを含む工具のユーザー、工作機械等の機械製造メーカー等から見た原告製ミーリングチャックの特徴等について記載した報告書ないし書面を証拠として提出している(甲36、88)。これらの報告書等では、原告製ミーリングチャックが高品質であること、精度がよく、耐久性があり、使いやすいなど性能が良いことなどが指摘された上で、さらに外観の特徴として、締付金具が他社製品に比べて小径でコンパクトであることのほかに、シルバーコーティングされていること、ローレットが網目状で2列であること、正面視長方形状、軸方向に楕円形状の切欠が8箇所あること、スロッタ溝があることなど、構成<ア>ないし<オ>の一部(中には全部を挙げている者もいる。)が挙げられている。
(オ) 原告は、国内外向けに原告製品のカタログを作成しているが、取扱製品を写真で紹介している見開きの頁(甲8の3、4頁など)には、前記(ウ)cの構成(構成<ア>ないし<オ>を含む。)がはっきり写っている原告製ミーリングチャックが一番目立つ方法で掲載されている。
また、原告は、我が国において、ミーリングチャックの製造開始から40年を経過したことを記念する記念製品(平成9年2月開発)を製造し、平成9年にカタログ(CAT8800、甲49)を10万部、同13年にカタログ(CAT8801、甲50)を5万部作成し、取引先に配布したが、それらのカタログの表紙には、前記(ウ)cの構成(構成<ア>ないし<オ>を含む。)がはっきり写っている原告製ミーリングチャックの写真が使用されている。
もっとも、原告製品のカタログやその他広告宣伝において、原告製ミーリングチャックのチャック部の形態上の特徴を特に取り上げて、文章で説明したり、宣伝したものは見当たらない。
(カ) 一方、原告製品は、いずれも「NIKKEN」の文字からなる商標を付して取引されており、各製品自体には、「NIKKEN」の文字がレーザーマーキングされている。原告製ミーリングチャックについていえば、Vフランジ又はその周辺に「NIKKEN」の文字がレーザーマーキングされており、包装箱のデザインにも「NIKKEN」の文字が使用されている。また、原告カタログには、
製品名の近傍には必ず、場合によっては製品写真そのものに、原告製であることを示す「NIKKEN」の表記がされている。なお、原告は、ローマ字の「NIKKEN」の文字からなる商標(原告商標)やこの文字を長方形状の枠で囲った商標等について、指定商品を金属加工機械器具等として商標登録を受けている。
(キ) 工作機械部品は、刃物とともに回転し、切削加工を実現するものであるから、精度、刃物把持力、耐久性といった品質や性能が最も重視されている。
これらがなければ、刃物の回転にぶれが生じ、切削精度が落ち、刃物の寿命も短くなってしまうからである。また、工作機械部品は、事故の防止・減少、能率低下の防止などの観点から安全性や耐久性が求められるので、その点からしても、精度、
刃物把持力、耐久性といった品質や性能は重要である。そして、これらの精度、刃物把持力、耐久性といった品質や性能は、どの製造業者が製造した製品かということに対する信用によって保証されているということができる。その結果、顧客は、
工作機械部品を購入する際には、品質や性能を購入動機とするところであるが、その一環として、「どこの製造者が製造した製品か」ということを強い購入動機としている。原告は、国内外を問わず、高品質・高性能の工作機械部品を製造する者として高い評価を得ており、「NIKKEN」の商標(NIKKENブランド)に対する信頼も厚い。
(ク) 原告製品は、通常、製品の一般的名称と各製品に付されたコード番号によって受発注されており、その形態を一々確認して取引がされるわけではない。
イ(ア) 商品の形態は、通常、主として、その商品の機能を発揮させ、又は美感を高めるためなどの目的から適宜選択されるものであり、必ずしも商品の出所を表示することを目的として選択されるものではない。しかし、商品の形態が他の同種商品と識別し得る独特の特徴を有し、かつ、商品の形態が、長期間継続的かつ独占的に使用されるか、又は、短期間であっても商品の形態について強力な宣伝広告等が行われて大量に販売されたような場合には、商品の形態が特定の者の商品であることを示す商品等表示として需要者の間で広く認識されることがあり得、その場合には、商品の形態が不正競争防止法2条1項1号商品等表示として保護されることがあると解される。一方、商品形態が当該商品の機能ないし効果と必然的に結びついている場合において、当該形態を保護することがその機能ないし効果を奏し得る商品そのものの独占的・排他的支配を招来するような場合には、自由競争のもたらす公衆の利益を阻害することになるから、そのような形態にまで不正競争防止法2条1項1号による保護が及ぶものではないと解するのが相当である。
そこで、前記アの認定事実を基礎として、原告製ミーリングチャックの形態が原告の商品等表示として周知であるといえるか否かについて検討する。
(イ) 本件において、原告が原告製ミーリングチャックの形態の特徴として主張する構成<ア>ないし<オ>は、締結金具の表面処理及びその結果としての色彩、締結の際の滑止めのためのローレットや切欠、刃物の油を切るためのスロッタ溝に関する構成であり、いずれもミーリングチャックのチャック部における技術的機能に関連する構成である。これらの各構成は、それぞれ、技術的機能の観点から選択し得る複数の選択肢の中から選択されたものであって、技術的機能と密接に結びついた形態であるということができる。また、個々の構成それぞれを個別にみれば、同様の形態が他社の製品で採用されているものもあり、必ずしも、原告製ミーリングチャックの形態上の顕著な特徴といえるものではない。一方、構成<ア>ないし<オ>の組合せ全体としてみると、ミーリングチャックのチャック部の形態として多岐多様な選択肢がある中から、特定の構成の組合せとして選択されたものであるということができ、ミーリングチャックの形態としてその機能ないし効果と必然的に結びついたものであるとまではいえないと解される。
(ウ) 前記ア認定の事実によれば、原告は古くから我が国のツーリング分野のトップメーカーとして市場で高いシェアを占め、その製品は高品質で性能の高いものとして需要者、取引者に受け止められ、製品にはすべて「NIKKEN」の商標が明記されているものであるから、「NIKKEN」の商標が原告製ミーリングチャックを含む原告製品の商品等表示として内外の需要者広く認識されるに至っている事実は、優に認定できるところである。
一方、原告ミーリングチャックの商品形態についてみると、構成<ア>ないし<オ>の形態を備えた原告製ミーリングチャックは、昭和59年以降平成15年ころまでに120万本以上製造販売され、そのシェアは平成12年ないし14年の段階で50%以上であったものである。ミーリングチャックのチャック部は、使用する場合に目立つ部分であり、カタログ等においても原告製品の代表的なあるいは象徴する部分としてその形態を強調するようにして紹介されており、構成<ア>ないし<オ>を備えたミーリングチャックは、我が国においては平成14年以降被告会社ほか1社、海外においてさえ最近か一地域に限定される形でわずか3社しか取り扱っておらず、我が国においてその存在はほとんど認識されていなかったものである。そして、原告製ミーリングチャックを扱い、あるいは使用している多数の企業が、原告製ミーリングチャックの形態上の特徴として、構成<ア>ないし<オ>の全部ないし一部を挙げている。したがって、原告製ミーリングチャックの形態は、これらの工作機械工具類についての知識が豊富なミーリングチャック等の工作機械部品・工具の需要者、取引者の間では、相当程度において、他の業者の製品の形態と区別して認識されるに至っているものと推認できる。
しかしながら、前述のように、商品形態は本来は商品の出所を表示することを目的として選択されるものではなく、原告製ミーリングチャックにおいては、商品の出所を表示する商標として「NIKKEN」商標が必ず製品に付されていることに加え、構成<ア>ないし<オ>のそれぞれも、技術的機能に関連して選択されたものであり、これらの組合せ全体としてみても、必ずしも形態的に同種製品と比べて際だった特徴として捉え難いものであり、また、原告においても、格別に原告製ミーリングチャックのチャック部の特徴を宣伝広告の対象にしてきた事実もうかがわれない。そして、ミーリングチャックの取引実情においても、その形態を見て取引するというものでもない。
これらの事実を総合すれば、原告製ミーリングチャックの商品形態が商品の出所を表示するものとして需要者ないし取引者の間で広く認識されるに至っていると認定することは困難であるといわざるを得ない。前述のとおり、原告の提出した証拠の中には、原告製ミーリングチャックを扱い、あるいは使用している多くの企業関係者が、原告製ミーリングチャックの形態的な特徴を指摘しているが、
この事実は、原告製ミーリングチャックと他社製品のミーリングチャックとの形態上の違いを多くの需要者、取引者が認識していることの裏付けであるとはいえても、原告製ミーリングチャックの商品形態が原告の商品の出所を示す商品等表示として周知性を有することまで直ちに肯定させるに足りるものではない。
よって、争点(1)アに関する原告の主張は採用の限りでない(なお、念のために争点(1)イ及びウについて、次項以下で検討する。)。
(2) 争点(1)イ(原告製ミーリングチャックと被告製ミーリングチャックの類否)について ア 第2の1の当事者間に争いのない事実と証拠(甲37ないし40、47、48、乙12、18、検甲1、2)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(ア) 原告製ミーリングチャックのチャック部の形態は、前記(1)ア(ウ)cのとおりである。
(イ) 被告製ミーリングチャックのチャック部の形態は次のとおりである。
チャック部の全体形状は、やや横長の円柱状であり、締結金具中央から先端に向けてわずかながら順次径を小さくしていくことによるテーパ状を形成し、さらに締結金具上部6分の1付近からは径の減少率を上げることによるテーパ状を形成している。
チャック部の締結金具には、クロムメッキ処理が施されており、色はシルバーグレーである。
被告製ミーリングチャックの締結金具には、ローレットが中央部と下部に、ローレットの幅よりも若干狭い程度の間隔を置いて、2列配置されている。
ローレットの模様は、細かな網目状である。
チャック部の切欠部は、サイドカッタ加工による、正面視長方形状で軸方向には楕円形状のものが、等間隔に8箇所、2列のローレットの間にローレットを一部削るように設けられている。
チャック部には、スロッタ溝が等間隔に6箇所設けられている。
(ウ) 他方で、被告製ミーリングチャックは、原告製ミーリングチャックと比較して、次のような相違点を有する。
a Oリングの位置が異なる。ただし、Oリングはチャック筒の内部構造であるため、通常これを視認することはできない。
b 被告製ミーリングチャックには、チャック筒内の3本の円輪スロッタがあるが、原告製にはこれがない。3本の円輪スロッタは、韓国においてDSP社の関係者に実用新案権が付与されているが、チャック筒の内部を覗いた場合には視認できるものの、ミーリングチャックが通常使用される状態、すなわち、工作機械に固定された場合では視認することができない。なお、ミーリングチャックは通常コード番号等を使用して取引されているため、取引先がチャック筒の内部を覗く場合はほとんど想定されない。
c 被告製ミーリングチャックは、原告製ミーリングチャックと比較して、@締結金具の色彩が、若干青みがかってくすんでいる、A締結金具の後端と下部に設けられたローレットの底辺との距離が、若干広い、Bローレットの幅が若干広く、2列のローレットの間隔が若干狭い、C切欠部の一部がわずかながらローレットに切り込んでいる、D先端の急傾斜のテーパ状部分が若干広い、といった相違点がある。
イ 前記認定事実からすれば、被告製ミーリングチャックは、原告製ミーリングチャックとの共通点が多く、相違点は微差であるか通常の使用方法では視認できないものであるから、専門家であったとしても通常の注意力ではその相違点には気が付かず、したがって、原告製ミーリングチャックと被告製ミーリングチャックを識別できないと推測される。
被告らは、前記ア(ウ)の相違点を指摘して、専門家である需要者によればこれらの相違点によって識別は可能である旨主張するが、その主張する相違点をもってしても類似性を否定することはできない。その他、上記認定を覆すに足りる証拠はない。
(3) 争点(1)ウ(誤認混同のおそれの有無)について ア 前記(1)で認定した事実と証拠(甲8ないし11、18、21ないし23、26ないし28、34ないし36、57、88、89、乙8、18)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(ア) 原告製品や被告製品は、通常、製品の一般的名称と各製品に付されたコード番号によって受発注されており、その形態を認識しながら取引がなされるわけではない。
(イ) 原告製品には、Vフランジ又はその周辺に「NIKKEN」の文字がレーザーマーキングされており、包装箱のデザインには「NIKKEN」の文字が使用されている。これに対して、被告製品には、Vフランジ又はその周辺に、
「NIKKEN」の文字ではなく、「HPI」や「DSP」の文字がレーザーマーキングされており、包装箱のデザインには、「NIKKEN」ではなく「HPI」や「DSP」の文字が使用されている。
原告も被告会社も、それぞれカタログを作成しているが、原告カタログ(甲8)には、製品名の近傍には必ず、場合によっては製品写真そのものに、原告製であることを示す「NIKKEN」(原告商標)の表記がある。また、HPI社カタログ(甲9)及び被告会社カタログ(甲10)には、製品名の近傍には必ず、場合によっては製品写真そのものに「HPI」の表記があり、「NIKKEN」の表記は一切ない。
イ また、工作機械部品は、精度、刃物把持力、耐久性といった品質や性能が最も重視されており、これらの品質や性能は、どの製造業者が製造した製品かということに対する信用によって保証されているものであり、顧客は、工作機械部品を購入する際には、「どこの製造者が製造した製品か」ということを強い購入動機としていること、原告は、国内外を問わず、高品質・高性能の工作機械部品を製造する者として高い評価を得ており原告商標に対する信頼も厚いことは、前記(1)ア(キ)で認定したとおりである。
ウ 以上の認定事実からすれば、原告製ミーリングチャックは、その品質性能に対する評価、ひいては製品にマーキングされている原告商標に対する信頼によって取引先に出所を認識されているというべきであって、そのような表記がなされていない被告製ミーリングチャックが、その形態が酷似するがゆえに原告製品と誤認混同されるおそれがあるということはできない。
原告は、形態酷似によって誤認混同のおそれがある旨主張し、その証拠として、「HPIのミーリングチャック」と認識し、HPI社のカタログに記載されていると認識しながら、そのミーリングチャックを原告製ミーリングチャックと誤認した者が存在することを報告する報告書等(甲11、37ないし40)や被告会社が原告製ミーリングチャックと被告製ミーリングチャックを混交して販売していたことを証する文書(甲53等)を提出する。
しかしながら、製品やカタログには「NIKKEN」の文字がなく、
「HPI」の文字があることを認識し、したがって、「HPI製品」と認識しているにもかかわらず、これを原告製品と誤解するというのは不自然であって、そのような誤解をした者が仮に存在したとしても、そのことをもって誤認混同のおそれがあるということはできない。製品を混交して納品されたなどのその他の事情によって、被告製ミーリングチャックを原告製ミーリングチャックであると誤解することは考えられるが、そのような場合には、混交して納品された結果、発注者が原告製品であると思い込んだために誤認混同という結果が生じているのであって、取引に際し、形態酷似の結果、出所が誤認混同されたということはできない。
その他、ミーリングチャックに関し、形態に着目して出所の誤認混同が生じるおそれがあることを認めるに足りる的確な証拠はない。
(4) したがって、原告の不正競争防止法に基づく請求は、その余の点について検討するまでもなく理由がない。
2 争点(2)(民法709条に基づく請求について) (1) 第1の4項の請求は、被告会社の輸出入に関連する行為や被告会社の国外関連会社の行為の結果、原告に、輸出機会喪失、国外への調査費用の拠出及び信用毀損という損害が発生したことを理由とする、不法行為に基づく損害賠償請求でもあるから、渉外的要素を含む法律関係ということができ、準拠法の決定が必要となる。
この点、不法行為に関する準拠法は法例11条1項により規律されているものであって、原因事実の発生地によることとなっている。本件では、国内に所在する被告会社の輸出入行為や海外法人に対する指示行為が主な対象行為となっており、その損害は我が国に住所を置く原告に生じているものというべきであるから、
原因事実の発生地は、被告会社の行為地でありかつ原告に損害の発生した地でもある我が国であり、我が国の法が準拠法となるというべきである。
よって、被告会社の行為が民法709条所定の不法行為に該当するかどうかを、以下で検討することとする。
(2) 争点(2)ア(原告製品への便乗・隷属的模倣の存否)について 第2の1の当事者間に争いのない事実等と証拠(甲8ないし10、15、
16、28、67の4、甲91、検甲1、2、4、5、乙1、33、37)を総合すれば、次の事実が認められる。
ア ミーリングチャックについて 原告製ミーリングチャックと被告製ミーリングチャックが酷似していることは、前記1(2)イで述べたとおりである。
イ 原告製ストレートコレットと被告製エンドミルコレットについて (ア) ストレートコレットは、ミーリングチャックのチャック部に嵌合し、刃物を把持するものである。
(イ) 原告製ストレートコレット(KMコレット)(旧タイプ)(検甲4)は、@略円筒形状を基本構成とし、先端において径を長くしたことによる鍔状の突起を設け、A略円筒形状の表面の長手方向に、3本の直線状の分割溝を等間隔に配置し、B後端付近に円輪状の溝を設けるとともに、Aの直線状の溝に対応する位置に丸孔を設けた構成である。
@のうち、略円筒形状であるのはミーリングチャックのチャック部に嵌合するためであり、鍔状の突起の設置は、ストレートコレットをミーリングチャックから取り出しやすくするための構成である。A及びBは、ストレートコレットがミーリングチャックによって把持された際に、弾性的に変形することを可能とするための構成である。
(ウ) 原告製ストレートコレット(KMコレット)(新タイプ)(甲8の30頁)は、@略円筒形状を基本構成とし、先端において径を長くしたことによる鍔状の突起を設け、A略円筒形状の表面の長手方向に、先端から後端途中まで3本の直線状の分割溝を等間隔に配置し、B後端から中央部までの3本の直線状の分割溝を、Aの分割溝の間に等間隔に配置した構成である。
(エ) 被告製エンドミルコレット(原告製ストレートコレットに相当)(検甲5)のほか、共立精機、聖和精機、大昭和精機のストレートコレットも、前記(イ)@ないしBの構成を採っている。MSTコーポレーションは、分割溝が4本のストレートコレットを扱っているが、その他の点では同@ないしBの構成を採っている。
ウ 原告製スリムコレットと被告製SXコレットについて (ア) テーパコレット1(原告製品の名称は、「スリム(チャック)コレット」(SKコレット))は、テーパコレットチャックのチャック部に嵌合し、刃物を把持するものである。
(イ) 原告製スリムコレット(甲8の38頁)は、@先端に向けて順次径を大きくするテーパ形状を採用し、A先端側から後端付近に向けて6本の分割溝を等間隔に配置して設け、後端側から先端付近に向けて2本の分割溝を等間隔に配置して設けており、B先端付近において円輪状の溝を設け、かつ、当該溝の更なる先端位置の径を小さくしたことにより先端方向突出部を設け、後端において径を等しくした状態による略円筒形状突出部を設けた構成である。
@は、テーパコレットチャックによる外側からの把持によって先端側に局所的に押圧力を加えることによって、スリムコレットを内側に変形させ、刃物を把持することを目的としていることによる形状である。Aは、テーパコレットチャックによる外側からの把持に対応して、スリムコレットがその全体において変形しやすいようにするための構成である。Bはテーパコレットチャックとスリムコレットとを結合させるためにナットの先端と嵌合し、かつ、テーパコレットチャックの後端側に押し上げられることによってスリムコレットのテーパ部分の変形をより一層助長することを目的とした構成である。
(ウ) 被告製SXコレット(原告製スリムコレットに相当)(甲10の10頁参照)も、@ないしBの構成を採る。
(エ) 大昭和精機、ユキワ精機のスリムコレットは、先端側から後端側に設けた切欠溝の後端部において丸孔を設けており、かつ、後端において略円筒形の突出部が存在しないが、それ以外の点は@ないしBとほぼ同様の構成を採る。
エ 原告製ミニミニコレットと、被告製コレット[VX・MX]について (ア) テーパコレット2(原告製品の名称は「ミニミニコレット[MMK、VMK]」)も、テーパコレットチャックのチャック部に嵌合し、刃物を把持するものである。
(イ) 原告製ミニミニコレット[MMK](甲28参照)は、@後端から先端に向けて中途部位に至るまで略同一径による略円筒形状とし、中途部位から先端に至るまで順次径を拡大することによるテーパ形状を形成し、A中央やや後端部寄りに等間隔に略楕円形状の孔が3箇所設けられ、同孔からそれぞれ先端部に向けて3本の分割溝が等間隔に設けられている。
原告製ミニミニコレット[VMK](甲8の32頁)は、@後端から先端に向けて中途部位に至るまで略同一径による略円筒形状とし、中途部位から先端に至るまで順次径を拡大することによるテーパ形状を形成し、A先端から中途部位に至るまでに長手方向に3本の分割溝が等間隔に設けられ、B長手方向に3本の分割溝が、Aの分割溝と等間隔になるよう3本設けられている。
(ウ) @は、テーパコレットチャックにおけるチャック筒の円筒形状をなしている内側によってミニミニコレットの後端部を一様に把持し、かつ、当該チャック筒の略テーパ形状による先端側と嵌合し、かつ、ミニミニコレットをテーパコレットチャックの後端側にボルトによって順次引き寄せることによって、テーパ変形を行いやすくすることを目的とする構成であり、Aは、テーパ変形に基づいて、
先端部が相互に接近するために必要な余裕空間を設けることを目的とする構成である。
(エ) 被告製コレット[VX・MX](甲9の19頁、甲10の12頁参照)は、原告製ミニミニコレット[MMK]の@及びAの構成を採る。
また、聖和精工のミニミニコレットは、分割溝が4本であるが、それ以外の点においては、原告製ミニミニコレット[MMK]の@及びAの構成を採る。
オ 原告製ドリルチャックと被告製ドリルチャックについて (ア) 原告製ドリルチャック(甲8の45頁)のチャック部の形態は次のとおりである。
チャック部の先端から3分の1程度はテーパ形状であり、それ以外の後端に至るまでは略円筒形状である。
チャック部の後端部の略円筒形状部分の色は黒、テーパ形状部及びチャック先端部の色はシルバーである。
円筒形状部の真ん中にローレットが1列円周上に設けられている。
ローレットの幅とほぼ同じ長さで、正面視長方形状、軸方向には楕円形状のサイドカッタ加工の切欠が、等間隔に6箇所設けられている。
チャック筒は、等間隔に3つに分かれ、それぞれの隙間部に略凸形状の把持部材が嵌合している。
(イ) 被告製ドリルチャック(甲10の19頁)は、原告製ドリルチャックとほぼ同様の形態であるが、チャック先端部の色が黒である点が異なる。
(ウ) ミーリングチャックは、チャック部とテーパシャンク部とに分け、
チャック部については製造者ごとにその形態を創作することが可能であることは、
前記1(1)ア(ウ)で認定したとおりであり、このことからすれば、ドリルチャックにおけるチャック部も、同様に製造者ごとにその形態を創作することが可能であって、必ずしも製造者がほぼ同一の形態のものを製造しているものではないことが、
強く推認される。
カ 被告Aは、顧客からNHE社に対して原告製ストレートコレット(旧タイプ)の発注があった際、これを受注し、DSP社(代表者は、原告の韓国関連業者(100%子会社)の工場長をしていた。)に対して、同製品と形態の同一であるコレットを製造させた。そして、被告会社がこれを輸入し、NHE社を介して当該顧客に納品した。その後、被告会社は、原告が米国にてHPI社以外に取扱業者を定めて取引を開始したことに伴い、HPI社ひいては被告会社に経営危機が生じると判断し、平成14年9月以降、本格的に原告製品とほぼ同一の形態を有する製品を製造させ、これに「HPI」との表示をさせた上で輸出入した。ただし、具体的にほぼ同一の形態を有する製品が製造され、市場に出ていることが確認されたのは、前記アないしオの5品目のみである。
(3) 争点(2)イ(原告製品のコード番号の模倣等の存否)について 証拠(甲6、26ないし30、53、54、62、77、79、104、
乙10、11)によれば、次の事実が認められる。
ア 工作機械部品業界では、コード番号は、製品を識別する符号であり、在庫管理や受発注業務において利用される。需要者は、コード番号によって、各製造者に発注している。
工作機械部品に関して付されるコード番号は、大きく2つないし3つの部分からなる。例えば、原告製ミーリングチャックでは、「BT40-C32-105」といった3構成であり、原告製ストレートコレット(KMコレット)では「KM22-18」といった2構成になっている。2構成の場合は、左部分がアルファベットと数字、右部分が数字からなり、3構成の場合は、左部分はアルファベットと数字から、中央部分はアルファベットと数字から、右部分は数字からなっている。
左部分(3構成の場合)のアルファベットと数字は、どの規格のどの程度のシャンク径に対応するものであるかを示し、中央部分(3構成の場合)あるいは左部分(2構成の場合)の数字、右部分(2構成の場合と3構成の場合)の数字はいずれも当該製品の寸法を示す。工作機械部品はある程度の汎用性が求められるため、特に数字については製造者においてほぼ似た数値とはなるが、必ずしも一致するとは限らない。一致した場合には、製品の各所の寸法が同一であることを示すにすぎず、いわゆる模造品であることを示すものではない。
中央部分(3構成の場合)あるいは左部分(2構成の場合)のアルファベットは、製造者と製品によって異なり、例えば、ミーリングチャックの場合は、
原告は「C」、被告は「HMC」、NTツールは「CT」、聖和精機は「CTH」「HPC」、大昭和精機は「HMC」、黒田精工は「CTR」である。
イ 被告会社は、平成14年9月には、被告製品(HPI製品)について、
原告製品のコード番号と比較して、コード番号のアルファベトが異なる、独自のコード番号を使用するに至った。
ウ 被告製ミーリングチャックには、原告製ミーリングチャックのコード番号(BT40-C32-105あるいはBT40-C32-85)をレーザーマーキングされ(ただし、被告製品であることを示す「HPI」とのレーザーマーキングも併記されている。)、その包装箱にも同じ番号を記したラベルが貼付されたものがあった(ただし、包装箱全体のデザインやラベルには被告製品であることを示す「HPI」の文字が記載されている。)。
被告製エンドミルコレットには、原告製ストレートコレット(KMコレット)のコード番号を付した包装箱に入れられていたものがあった(ただし、包装箱全体のデザインには被告製品であることを示す「HPI」の文字が記載されている。)。
被告製ドリルチャックには、原告製ドリルチャックのコード番号(BT40-NPU13-80)がレーザーマーキングされたものがあった(ただし、
「HPI」の文字のレーザーマーキングも併記されている。)。
被告会社は、そのような原告製品のコード番号をレーザーマーキングし、あるいは包装箱に原告製品のコード番号を付した製品を、輸出入していた。
エ 富裕注塑制模(上海)有限公司は、平成15年6月17日、被告会社に対し、被告製品のコード番号(シャンクコレットチャック(コード番号中央部分がHSX10C)、シャンクコレット(コード番号左部分のアルファベットがSX)、ミーリングチャック(コード番号中央部分がHMC32))によって見積依頼(甲30の1)をした。被告会社は、同月23日に、被告製シャンクコレットに対応する原告製SKスリムチャックコレットのコード番号(左部分のアルファベットがSK)、被告製シャンクコレットチャックに対応する原告製HSKシャンクSKスリムチャックのコード番号(中央部がSK10C)を記載した見積書(甲30の2)を送付した。
同有限公司は、平成15年6月25日にも被告製品のコード番号を使用した見積依頼書(乙11)を被告会社に対して送付している。
オ HPI社は、米国において原告製品を販売していたが、取扱製品が原告製であることを示しているウエブサイトの価格表の中に、被告製品のコード番号を付したもの(末尾に「HTC」と表記されている)を原告製品のコード番号の中に混在させている。ミーリングチャックの場合、末尾に「HTC」と記載されている商品の価格は、末尾に記載のない商品の価格と比較して、低価格である。
末尾に「HTC」と表記されているものが被告製品のコード番号であることを示す表示はない。
(4) 争点(2)ウ(原告製品の周知著名性に便乗した宣伝広告等の存否)について 証拠(甲13、14〔乙8〕、甲55、73、74、乙28、29、32)によれば、次の事実が認められる。
ア NHE社は、従前より、製品販売に際して使用するインボイスその他の文書に、「NIKKEN」の文字からなる原告商標を使用している。なお、その使用行為について、ドイツ国ハンブルク地方裁判所は、NHE社の社名は、「Nikken Heartech Europe GMBH」であるから、「NIKKEN」の文字を含んでいること、原告は商号の移転を議題とする株主総会を提案できたにもかかわらず、これを行わなかったことを主な理由として、NHE社が平成16年5月まで「NIKKEN」表記を使用することを認めている。
イ 被告会社は、原告との取引関係が終了することに伴い、取引先に対し、
次のような内容を記載した広告(「NIKKEN特別提供」と題する文書(甲13))を配布した。
「被告会社は在庫整理セールを発表します。最近におけるNikken製品の配給に関する変更の故に、当社は日本、ドイツ、米国の当社貯蔵施設に残っているすべてのNikken製品を一掃することにしました。小売価格で1500万ユーロ相当のNikken製品を大きな価値で当社から即時引渡により提供しています。」、「新製品種目『HPIブランドツーリング』も提供しています。価格表およびHPIツーリングカタログについては電話でご連絡ください。」 末尾には、被告会社の名称、住所等が記されている。
ウ 被告会社は、原告との取引関係が終了することに伴い、取引先に対し、
平成15年4月18日付けで、次のような内容を記載したファックス(甲14)を送信した。
「当社はNikken製品を20年以上にわたり販売してきましたが、Nikkenは最近公式の事前通告なしに海外事業方針を変更しました。Nikkenはもはや当社に製品を供給しません。」、「当社は当社のNikken製品在庫を一掃することにしました。」、「同時に、当社は、当社のオリジナル製品である“HPI-DSP”ブランドツールを提供することができることをお知らせします。品質はNikken製品と同一、あるいは時にはそれよりも優れています。ミーリングチャックについては、振れ精度が締付金具の口元から100mm離れた位置で5ミクロン以内で、クランピングパワーが10%増しです。」 末尾には、被告会社名のほか、HPI社及びNHE社を示す記号が記されている。
(5) 争点(2)エ(原告製品やその写真を使用したカタログによる営業行為の存否)について ア 第2の1の当事者間に争いのない事実等と証拠(甲7ないし10、15、16、19、20、46、78、91、93、105、乙1、19、20、26)を総合すれば、次の事実が認められる。
(ア) 被告製HSKシャンクHMCミーリングチャック(被告会社カタログ(甲10)28頁)とされているものは、原告製HSKミーリングチャック(米国用のシルバー一色のもの)(原告カタログ(甲8)134頁参照)を角度を変えて、かつ原告の商標であるNIKKENの商標が見えないようにして写真撮影をしたものである。
(イ) 被告製ストレートシャンクHMCミーリングチャック(被告会社カタログ31頁)とされているものは、原告製ストレートシャンクミーリングチャック(原告カタログ35頁)の写真を使用している。
(ウ) 被告製HSXコレットチャック(被告会社カタログ8頁)とされているものは、原告製スリムチャックの写真(原告カタログ37頁)を使用している。
(エ) 被告製HSXコレットチャック(被告会社カタログ9頁)とされているものは、原告製スリムチャック(欧州用)(原告カタログ120頁参照)を角度を変えて、かつ原告商標が見えないようにして写真撮影をしたものである。
(オ) 被告製ストレートシャンクHSKコレットチャック(被告会社カタログ9頁)とされているものは、原告製ストレートシャンクスリムチャック(原告カタログ39頁参照)を角度を変えて、かつ原告商標が見えないようにして写真撮影をしたものである。
(カ) 被告製HSKシャンクHSXコレットチャック(被告会社カタログ28頁)とされているものは、原告製HSKスリムチャック(米国用のシルバー一色のもの)(原告カタログ135頁参照)を角度を変えて、かつ原告商標が見えないようにして写真撮影をしたものである。
(キ) 被告製SXコレット(被告会社カタログ10頁)とされているものは、原告製スリムチャックコレット(原告カタログ38頁参照)を角度を変えて、
かつ原告商標が見えないようにして写真撮影をしたものである。
(ク) 被告製ストレートシャンクHMXコレットチャック(被告会社カタログ12頁)は、原告製ストレートシャンクミニミニチャック(原告カタログ35頁参照)を角度を変えて、かつ原告商標が見えないようにして写真撮影をしたものである。
(ケ) 被告製ストレートシャンクスタブアーバ(被告会社カタログ25頁)とされているものは、原告製K-SCAスタブアーバの写真(原告カタログ90頁)を使用している。
(コ) 被告製NCストレートコレット(被告会社カタログ6頁)とされているものは、原告製NKストレートコレットの写真(原告カタログ30頁)を使用している。
(サ) 被告会社カタログ34頁の「HSK63Aシャンク図」は、原告カタログ168頁の「HSK63Aシャンク図」を元に、線や矢印等を若干変化させたコピー図である。
(シ) HPI社取扱製品「HSKシャンクHMCチャック」の写真(HPI(甲9)カタログ6頁)は、被告会社カタログ28頁同様、原告製HSKミーリングチャック(米国用のシルバー一色のもの)(原告カタログ134頁参照)を角度を変えて、かつ原告商標が見えないようにして写真撮影をしたものである。
(ス) HPI社取扱製品「HSXコレットチャック」の写真(HPIカタログ9、11頁)は、被告会社カタログ9頁と同様、原告製スリムチャックの写真(原告カタログ120頁)である。また、HPI社のウエブサイトには、同社取扱製品カタログが掲載されているが、その中のHSXコレットチャック(甲93)は、原告製ストレートシャンクスリムチャック(原告カタログ39頁)の写真を使用したものである。
(セ) HPI社取扱製品「ストレートシャンクHSXコレットチャック」の写真(HPIカタログ6、13頁)は、原告製ストレートシャンクスリムチャック(原告カタログ39頁)の写真である。
(ソ) HPI社取扱製品「HSKシャンクHSXコレットチャック」の写真(HPIカタログ13頁)は、原告製スリムチャック(米国用のシルバー一色のもの)(原告カタログ135頁参照)を角度を変えて撮影したものである。
(タ) HPI社取扱製品「SXコレット」の写真(HPIカタログ14頁)は、原告製スリムチャックコレット(原告カタログ38頁参照)を角度を変えて、かつNIKKENの商標が見えないようにして写真撮影をしたものである。またHPI社のウエブサイトには、同社取扱製品カタログが掲載されていたが、その中のSXコレット(甲46)は、HPIカタログ同様、原告製スリムチャックコレッの写真を利用したものである。
(チ) HPI社取扱製品「ストレートシャンクHMXコレットチャック」の写真(HPIカタログ6、18頁)は、原告製ストレートシャンクミニミニチャック(原告カタログ35頁参照)を角度を変えて、かつ原告商標が見えないようにして写真撮影をしたものである。
(ツ) HPI社のウエブサイトには、同社取扱製品カタログが掲載されているが、その中のHMCミーリングチャック(甲93)は、原告カタログ35頁の原告製ストレートシャンクミニミニチャックの写真を利用している。
(テ) HPI社のウエブサイトには、同社取扱製品が掲載されているが、
その中のNPUドリルチャック(甲93)は、原告カタログ45頁の原告製ストレートシャンクNCドリルチャックの写真を利用している。
イ 被告会社は、海外取引先と取引する際、欧州についてはNHE社を介して、米国についてはHPI社を介して、それ以外の国については被告会社の営業所を通じて、それぞれ取引していたが、顧客が発注する際の資料とするカタログについては、主に欧州を目的とする被告会社カタログと、米国を目的とするHPIカタログとを作成していた。なお、取扱製品が同じなのにカタログが異なるのは、米国のみミリメートルを用いず、インチによって表示しているためである。
被告会社カタログ及びHPIカタログは、被告会社、NHE社及びHPI社の代表者である被告Aの指示により作成された。カタログ作成当時、掲載すべき被告製品がすべてそろっていなかったため、被告Aの意を受けた同人の長男は、
原告製品そのものを撮影したり、原告カタログの写真を利用したりした写真を使用するよう指示した(ただし、原告の商標である「NIKKEN」の表記は、これが写らないように撮影方法を工夫したり、写真の文字を消去処理するなどした。)。
これらの写真を使用したカタログは、被告Aの承認を得た後、被告会社に送付され、被告会社にて編集して印刷所に委託するなどしてカタログとして完成され、被告会社及びHPI社のカタログとして取引先等に配布された。
ウ 被告会社は、被告会社カタログのデジタルデータを作成し、顧客に送付している。ただし、その内容は不明であって、原告製品や原告カタログ中の写真が使用されているのか否かは不明である。
HPI社は、HPIカタログの一部と同様、原告製品の写真や原告カタログ中の写真を利用して、ウエブサイト上で被告製品としてこれを掲載している。
原告製品や原告カタログ中の写真の利用については、前記ア記載のとおりである。
エ 被告らは、被告会社カタログ及びHPIカタログについて、それぞれ原告製品やその写真を利用しないカタログ(乙1、19)を作成しているが、被告会社カタログ及びHPIカタログの処理あるいは新しいカタログへの切替等について不明である。
(6) 争点(2)オ(原告製品と被告製品を混交した販売活動の存否)について 証拠(甲15ないし18、41ないし44、54ないし57、62、79、91、101ないし103、108、乙9、12、21ないし23、27ないし29、39、40、42、48、49、51、52)によれば、次の事実が認められる。
ア 被告会社について (ア) 被告会社は、平成14年9月24日、「MADE IN JAPAN」、「NIKKEN TABLES AND TOOL HOLDERS」などと記載した上、製品として被告製品のコード番号を記したHPI社宛の請求書(インボイス)をHPI社に送付し、被告製品を輸出した。
(イ) BMB BEIJING FENG BUSINESSは、平成15年7月7日、被告会社に、被告製品のコード番号を使用し、製造元を「HPI」として、製品を発注した。被告会社は、同日、「Nikken製品の引き合いをいただき誠にありがとうございます。ご要望のあった製品に対しての価格と納期は以下のとおりです」との書き出しで、製品名のところに被告製ミーリングチャックのコード番号(コード番号の中央部分がHMC32)を記載した見積書を送付した。
そして、原告製ミーリングチャックのコード番号(コード番号中央部分がC32)をレーザーマーキングした被告製ミーリングチャック(DSP HPIとレーザーマーキングしてある。)を、被告製ミーリングチャックのコード番号(コード番号の中央部分がHMC)を付した包装箱に入れて、納入した。
イ NHE社について (ア) NHE社は、オーストラリアのNC研磨機メーカーのドイツ法人であるANCA社に対し、原告ストレートコレット(KMコレット)のコード番号と、原告製ストレートコレットのコード番号末尾にHPIの文字を表記したものを併記した、平成15年1月24日付け受発注確認書(乙29)及び同年3月30日付け明細請求書(乙28の1)を送付した。
ANCA社は、NHE社に対し、平成15年2月28日、「NIKKEN製品」と指定し、コード番号も原告製品において使用されている番号(コード番号の左部分がKM32)で特定した、ストレートコレット(KMコレット)160個(複数のサイズ有り)の注文書(甲54)を送付して原告製品を発注した。しかし、NHE社は、原告製品のコード番号の末尾に「HPI」と付記したもの90個、付記のないもの70個を記載した平成15年3月6日付け受発注確認書(甲55)を作成し、実際に、原告製品70個と被告製品90個を混交して納入した。納入された被告製品は、いずれも被告製品において使用されている番号(コード番号の左部分がMC32)が記載されたラベルの付された包装箱に入っていた。さらに、NHE社は、数回に分けて、請求書を送付したが、その中でも、原告製品のコード番号の末尾に「HPI」と付記されたものが記載されていた。
以上の段階において、ANCA社が「HPI」の表記に注意を払った様子はない。その後、原告から指摘を受けて、被告製品が混入していることに気付いたANCA社は、NHE社に抗議するとともに、直ちに原告に対し原告製ストレートコレット90個を追加発注した。
(イ) NHE社は、ANCA社に対し、原告製ストレートコレットであるとして納品し、包装箱にも原告製ストレートコレットのコード番号(左部分のアルファベトがKM)が付されていたが(対応する被告製品のコード番号はMC32-18である。)、包装箱のデザインは「HPI」の文字が使用され、中に入っていたストレートコレットは被告製品であった。ANCA社はその販売店であるRAVEMA社を経由してスウェーデンの自動車メーカーであるVOLVO社に対してこれを納品したが、平成15年9月16日に当該コレットが外径が大きいため使用できないので交換して欲しいとの要望がVOLVO社より出され、この要望はANCA社からRAVEMA社を通じて、原告の現地法人であるNIKKEN U.K社に対して通知され、コレットも同現地法人に対して返品された。なお、同コレットには「NIKKEN」、「HPI」あるいは「DSP」などの表示はない。
(ウ) ドイツ法人AWEBA社は、平成15年5月21日ころ、NHE社に対し、原告製品のコード番号である「KM20-8」を記載して、コレットが必要な振れ精度を満たしていないので、コレットを返品する旨記載した文書(甲102の1)を送付した。しかし、NHE社が平成15年5月にAWEBA社に対して発送した受発注確認書(乙51、52)には、原告製コレットのコード番号末尾に「HPI」の文字を付記したものか、被告製品固有のコード番号が記載されている。
(エ) 従前NHE社に発注される際には、原告製品であることを示す「NIKKEN」の文字は付されておらず、コード番号と一般的商品名称を記載する程度にすぎなかった。
NHE社では、平成14年11月に原告と被告会社との取引が終了したことに伴い、新たに原告製品を取り寄せることができなくなり、在庫品で対応せざるを得なくなった。そこで発注に対しては被告製品を混交させることによって対応していたが、その際には、原告製品のコード番号末尾に「HPI」の文字を付記する取扱いをし、また、平成15年5月中旬ころには、被告製品固有のコード番号に切り替えた。しかし、末尾に「HPI」の文字を付記した意味及び被告製品固有のコード番号への切り替えの意味について顧客に説明せず、わずかに個別に「原告製品を韓国にて製造することになった」旨の説明をしたことがあったにすぎなかった。
これらの事情から、前記(ア)ないし(ウ)以外の顧客の中にも、発注当時は原告製品のコード番号で発注したため、受発注確認や納品時には被告製品の固有のコード番号が使用されていたにもかかわらずこれに気付かず、後日納品された製品の梱包を解いた段階などにおいて、初めて被告製品が納入されたことを認識した者が存在する。
(7) 証拠(甲2、3、13、14、乙18、49)及び弁論の全趣旨によれば、前記(2)ないし(6)の前提となる経緯に関する事実として、次のような事実が認められる。
被告会社は、昭和48年の会社設立時から、主として海外における販売を目的として、原告との間で工作機械部品等の取引を開始した。被告会社における取扱商品のほとんどは原告製品であった。
NHE社は、ドイツにおける被告会社取扱製品(そのすべてあるいは大半が原告製品)の独占販売代理店として設立され、主に欧州の取引先に対する同製品の販売拠点となっている。また、HPI社は、米国における被告会社取扱製品(そのすべてあるいは大半が原告製品)の独占販売代理店として設立され、米国の取引先に対する同製品の販売拠点となっている。それ以外の海外取引先については、被告会社が直接輸出している。ただし、どの会社も代表者は被告会社の代表者である被告Aであり、被告会社との関係で「ドイツ、米国の当社貯蔵施設」(甲13)と記載したり、被告会社の取引先に対するファックスに「NHE」「HPI HEARTECH PRECISION INC.」(甲14)等と記載したり、HPI社と被告会社の経営危機を同一視して主張したりしていることなどから、NHE社やHPI社は、別個の法人格は有していても、専ら被告会社の指示に従って営業活動を行っていたというべきである。
前記(2)カ記載のとおり、被告会社は、NHE社が顧客から原告製KMコレット(旧タイプ)の受注を受けたことをきっかけに、原告製品と同一の形態の製品をDSP社に対して製造させ、これにHPIを付記させることによって被告製品として販売し始めた。そして、被告会社は、平成14年9月から本格的に原告製品に似せた被告製品を取り扱うようになった。
原告は、HPI社が原告製ミーリングチャックに酷似する廉価なコピー商品を販売しているとの情報を入手し、HPI社の責任者や被告Aに対して苦情を申し立てた。これに対し、HPI社の責任者や被告Aがそのような事実は知らない旨述べるばかりであったため、原告は更に被告会社に対して警告書を送付して説明や謝罪を求めた。しかし、これに対しても被告会社や被告Aからの応答はなかったため、原告は、被告会社に対し、被告会社の行為は不正競争防止法違反行為であると指摘した上で、被告会社、HPI社及びNHE社に対する原告製品の取引を中止した。被告会社は、原告との取引中止後、直接取引を行っていた取引先等へは原告との取引が中止された旨記載した広告やファックスを送信したが、NHE社やHPI社における取引に関しては、原告との取引が中止されたので以後は在庫品以外は被告製品を取り扱うことを積極的に説明したことはなかった。
(8) 争点(2)カ(被告製品と原告製品の品質の差異)について 証拠(甲16ないし18、41ないし43、102、108)によれば、
次の事実が認められる。
被告製品は、コレットにつきバリ(金属を加工する際、その縁などにはみ出た余分な部分)があり精度が悪い、必要な振り精度がない、ミーリングチャックについてネジ類が付属していないため売り物にならない、さびている、打痕傷がある、などの品質不良が認められた。
また、被告製ミーリングチャックでは、テーパシャンク部のJIS規格上テーパ角度(7/24)である16度35分40秒に対して許容される公差から大きく外れた(-6秒ないし-11秒の外れ)精度の規格外製品があり、取引先から返品されたことがある。
なお、被告製品を製造していたDSP社は、平成12年ころ、韓国市場に製品を出したところ、ミーリングチャックの名に値しない等の苦情が寄せられ、製品をすべて廃棄したことがある。その後同社の技術が平成14、15年頃までに格段に進歩したことを裏付ける証拠はない。
(9) 争点(2)キ(被告会社の行為は全体として不法行為を構成するか)について ア 前記(2)ないし(8)の認定事実を総合すれば、次のようにいうことができる。
被告会社は、既にその品質や性能が高く評価されていた原告製品を輸出する営業活動を長年にわたり行ってきたものであり、NHE社やHPI社と共に、
そのような原告製品の取扱業者として、取引先から認識されていた。
しかるに、被告会社が、原告製ミーリングチャックと酷似する被告製ミーリングチャックを米国にてHPI社を通じて販売したことを理由として原告が被告会社との取引を中止したことにより、被告会社は原告製品を取り扱うことが困難となった。そのため、被告会社は、DSP社に被告製品の製造を依頼した。
被告会社は、DSP社に製造を依頼するに当たり、その必然性が認められないにもかかわらず、原告製品に酷似した被告製品の製造を依頼した。また、原告製品のコード番号と被告製品のコード番号(独自のものと、原告製品のコード番号末尾に「HPI」の文字を付記したにすぎないものがある。)を受発注及び納品において混在させて用いた。被告会社カタログやHPIカタログには、原告製品の写真や原告カタログに掲載された写真を利用した。さらに、原告製品を発注した顧客に対し、被告製品を混交させて納品するなどした。
被告会社は、以上の行為を、顧客に対して原告製品と被告製品とが異なることを明確に説明することなく行っており、原告と被告会社の取引終了後も従前の販売方法と異なったものとしたわけではなかった。そのため、顧客の中には、コード番号の変更は認識しながら、原告製品を発注するつもりで被告製品のコード番号を使用した後、使用する段階等で被告製品が納入されていることに気付く者、製品に明確なHPIの表示がないため発注どおりの原告製品と認識し、原告に対して原告製品として外径が異なることを理由に返品する者がいた。
被告製品はその品質及び性能において原告製品に及ばないものであり、
したがって、原告製品と誤認したまま使用した顧客の中に、原告製品の性能が低下したと誤解した者が存在したであろうことは容易に推測できるところである。
イ ところで、不正競争防止法は、公正かつ自由な営業活動を中心とした競業秩序を破壊する不正ないし不公正な行為のうちから一定の類型を「不正競争」として、その防止及び損害賠償の措置等について規定している(同法1条参照)。しかし、競業秩序を破壊する不正ないし不公正な行為は、必ずしも不正競争防止法の規定する各類型の不正競争行為に限られるわけではない。同法の規定する不正競争行為に該当しなくても、業者の行う一連の営業活動行為の態様が、全体として、公正な競争秩序を破壊する著しく不公正な方法で行われ、行為者に害意が存在するような場合には、かかる営業活動行為が全体として違法と評価され、民法上の不法行為を構成することもあり得るものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、前記認定事実によれば、被告会社の行為は、形態の酷似した製品の製造、コード番号の混同使用、原告製品であるかのごときカタログの作成及び使用、原告製品と被告製品の混交等により、品質及び性能において一定の評価を得ていた原告製品の評価を低下させるものであったということができ、このような行為は、全体としてみたときに、公正な競業秩序を破壊する著しく不公正な行為であると評価できるから、民法上の不法行為を構成するものと認めるのが相当である。
(10) 以下、上記の争点に関する被告らの主張について検討する。
ア 被告らは、被告製品が原告製品に類似あるいは酷似することについて、
いずれも技術的機能に由来するから、その製造等が違法となることはないと主張する。
しかし、ミーリングチャック及びドリルチャックなど、製造者ごとに独自の形態を製作し得る部分についてまで酷似する必然性はないし、コレット類もすべての形態が一致するわけではないから(他社製品においてわずかながらの相違点が認められる。)、被告会社の販売活動における態様いかんによっては、このような原告製品の酷似製品を製造をすることは、不法行為の違法性を基礎付ける一要因となり得るものというべきである。
なお、被告らは、被告製品はDSP社によって製造されたものであって、被告会社も被告Aも無関係である旨主張するが、被告製品が他に取り扱われている事情について証する証拠はなく、かえって、上記酷似製品の製造が被告Aの考案、指示によってなされた旨述べるDの証言書(甲16)等が存在するところであり、この点に関する前記認定を覆すに足りる証拠はない。
イ 被告らは、コード番号は製品の分類にすぎず、概ね製品の規格や寸法を示すものであることからすれば、コード番号の類似や、被告製品に原告製コード番号を使用することが、違法となることはないと主張する。
確かに、コード番号が対応する刃物の規格や製品自体の寸法等を示すものであることからすれば、これが同一であったり、製造者によって異なる部分が一部異なったりしていても、直ちに違法ということはできないが、上記のとおり、被告らは、これを原告製品の受発注・納入時に混交させる方法で用いていたのであり、そのような場合には、顧客の予期しない被告製品を混交させるに当たり顧客の誤解を導く要因ともなっていたのであるから、そのような使用方法を行うに当たっては、他の行為との関係でこれが違法性を認める一要因となり得るというべきである。
ウ 被告らは、カタログに他社製品を撮影した写真や、他社製品の写真を利用した写真を使用することが違法となることはないと主張する。しかし、この行為もまた、顧客の誤解を導く一要因となったことを考えるならば、単なる写真利用行為ということはできない。
なお、被告らは、写真利用行為について関与を否定し、被告会社従業員Bの判断による旨主張する。しかし、カタログという、取引先に対して取扱製品を披露する重要な文書について、一従業員の判断で被写体が被告製品ではない写真を使用するとは考えられないから、被告らの主張は極めて不自然というほかなく、その他上記認定を覆すに足りる証拠はない。
エ 被告らは、原告製品と被告製品を混交させる場合には、その旨顧客に説明し、その了解を得ていたと主張し、またNHE社の行為は被告らとは無関係であると主張する。
しかしながら、被告らが顧客に対し、原告製品と被告製品を混交させたことを説明したことを証する的確な証拠はなく、かえって、被告製品のコード番号や製造元としてHPIとの表記をしていた顧客が、後日納入品(被告製品のコード番号で送付され、包装箱のラベルやデザインには「HPI」の文字が記載されていた。)が規格外商品である旨のクレームを述べるときに、原告の現地法人に対して通知返品した事実、被告製品が混交されたことを知った後NHE社などにクレームを述べた事実などからすれば、被告らは、被告製品や被告製品のコード番号について適切な説明をせず、これを原告製品や原告製品のコード番号を示すものとの顧客の誤解をそのまま放置し、かつ利用していたというべきである。
そして、このような混交、顧客の誤解の放置・利用行為は、被告会社から輸入した製品を受発注するだけの営業活動を行うNHE社が単独で決定し得るものではない。NHE社の代表者は被告Aであることを考えれば、NHE社の行為は、少なくとも被告会社の指示にしたがったものというべきである。
オ 被告らは、被告製品が原告製品よりも品質において優れていると主張し、これを証するものとして乙第9号証(DSP社作成の試験結果報告書)、第12号証(DSP社代表取締役の宣誓供述書)、第18号証の1(ハードミリング社代表取締役の宣誓供述書)、同号証の2(AVNマスキン社の代表取締役の宣誓供述書)を提出する。しかし乙第9号証は、通常の製品試験の結果を記したものとしては、中立性・正確性に欠けるため信頼できない。また、乙第12号証、第18号証の1、2はいずれも被告製品の品質や性能の良さを述べるものであるが、本件で提出されている他の証拠(甲16、17、41、43、102、108等)と対比して、その内容を信用することはできない。
被告らは、原告製品であっても苦情があり、また規格外のものがあることを主張し、その証拠として、乙第21号証の1(HPI社から被告会社に伝達した書簡)、同号証の2(インボイス)、第23号証(試験成績書)、第41号証の1(ツールシャンクの規格に関する書面)、同号証の2(試験成績書2通)を提出する。確かに、一般に工作機械部品のようなものでは、製造した製品に、ごくわずかではあるが規格外製品や不具合製品が生じ得ることは否定できないし、原告製品の中にもそのようなものが存在し得ることは否定できないところである。しかし、
前記(8)に挙示した証拠で認定される被告製品の不具合は、通常許容され得る程度を超えているというべきであって、原告製品にも不具合製品等があることの指摘をすることによって、前記認定が左右されるものではない。
カ 被告らは、原告製品と似た形態を有する被告製品を取り扱うようになった理由として、原告が一方的に取引を中止してきたため、やむなく、原告製品に技術的機能に由来する部分において類似する被告製品を製造販売せざるを得なかったことを挙げる。しかしながら、前記(9)アで述べたとおり、被告製品は原告製品に酷似したものであり、また、前記(10)アで述べたとおり、製造者ごとに独自の形態を製作し得る部分についてまで酷似する必然性はないのであるから、たとえ原告が一方的に取引を中止したという事情が認められたとしても、被告製品を原告製品に酷似させることが是認されるものではない。しかも、原告が取引を中止した理由が被告製ミーリングチャックが原告製ミーリングチャックに酷似しているとの原告の指摘に対して被告らが誠意をもって対応しなかったことにあるというべきであるから、原告の指摘を受けた後も更に別製品で原告製品と酷似する被告製品を製造したり、原告製品に被告製品を混交させるなどして販売しようとしたりした被告会社、
HPI社及びNHE社の営業活動は、悪質というほかない。
(11) なお、原告は、被告会社が原告製品の在庫処理をし、かつこれと同等及び優れた製品である被告製品を取り扱うことを記載した広告を配布したこと、NHE社が「NIKKEN」の文字を使用して営業活動を行っていること、などの事情に違法性が認められると主張する。しかしながら、原告製品を一部とはいえ扱っており、また社名に「NIKKEN」の文字があることからすれば、NHE社が「NIKKEN」の文字が記載された文書を利用して営業活動を行っていることを違法と評価することはできないし、その他の被告会社の行為と併せて考えても、これを違法性を認定する要因とすることもできない。また、取引が終了した場合に、その旨告知した上で在庫品を処理する旨及び今後はそれ以上の品質を有する新製品を販売する旨記載した広告等を取引先に配布するのは通常の取引経済活動の範囲内というべきであって、原告製品に関する虚偽事実の告知を行うなど、不正競争行為や不法行為と言いうる事情がない限り、それ自体をもって違法ということはできず、本件における被告会社の様々な行為と併せ考えたとしても、違法性の一要因として評価することはできない。
3 争点(3)(被告Aの責任)について 証拠(甲15ないし17、20、91)及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告Aは、被告製品を原告製品に酷似させること、被告製品のコード番号を原告製品のコード番号に酷似させたり、被告製品に原告製品のコード番号を使用したりすること、被告会社及びHPI社のカタログに原告製品の写真等を使用すること、原告製品と被告製品を混交させてすべて原告製品として販売することについて、被告会社の代表者というのみならず、自らも直接かつ積極的に関与していたことが認められる。
したがって、被告Aは、被告会社の代表取締役として、その職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったものというべきであるから、商法266条ノ3に基づく損害賠償責任を負う。
4 争点(4)(原告の損害)について (1) 逸失利益及び調査費用 前記2で認定判断したとおり、被告会社の販売活動は全体として不法行為を構成するものであるところ、後掲証拠によれば、原告は、被告会社の販売行為(これと同視できるNHE社による販売行為を含む。)により原告製品の欧米及び中国に対する輸出機会を喪失し、また、被告製品が混入されたことに関する調査を余儀なくされ、次の損害(合計194万9760円)を被ったものと認められる。
ア 被告会社が、中国の顧客に対し、原告製ミーリングチャックであると称しながら、被告製ミーリングチャックを輸出したことによる損害(甲58) a 販売機会の逸失 15万4440円 b そのための調査費用 15万円 イ NHE社が、顧客(ANCA社)に対し、原告製品(ストレートコレット)であるかのごとき記載(コード番号の利用)をして、原告製品であるとの誤解を利用したまま、被告製品を混交させて販売したことによる損害(販売利益の喪失)(甲90) 54万6000円 ウ NHE社が、顧客(ANCA社)から原告製品(KMコレット)であることを指定の上発注されたにもかかわらず、被告製品を混交させて納品したことに関し、原告が調査した際に要した調査費用(甲58) 79万4120円 エ 被告会社が、被告製ミーリングチャックを原告製ミーリングチャックとして米国に輸出したことによる損害(販売利益の喪失)(甲81) 30万5200円 なお、原告は、上記イの関係で販売利益の喪失も損害として主張するが、
前記2(6)イで認定したとおり、ANCA社に対する輸出機会の喪失は、その後の再度の発注により填補されているということができるから、この関係で販売利益の喪失の損害を原告が被ったとは認められない。
(2) 信用毀損について 証拠(甲53、56、57、100、102)によれば、原告に対して直接被告製品に関するクレームがなされたのは、1社1製品にすぎないこと、しかし、被告製品を原告製品と誤解した複数の顧客の存在することが認められる。そして、前記1(1)ア(キ)によれば、工作機械部品はその品質や性能が重用視されるものであるところ、原告製品は品質及び性能に優れたものとして需要者から高い評価を得ているものであること、他方、前記2(8)によれば、被告製品は原告製品より品質・性能において劣っていることからすれば、被告製品を原告製品と誤解した顧客の存在により、原告が長年その営業活動によって培ってきた原告製品全体の品質や性能に対する信用が大きく毀損されたとものというべきである。本件に顕れた諸般の事情を勘案すると、原告の信用毀損による損害は500万円と認めるのが相当である。
(3) 以上の結果、原告には、694万9760円の損害が発生したことが認められる。
5 以上によれば、原告の請求は、不法行為による損害賠償(被告Aについては商法266条ノ3に基づく責任)として、被告らに対し、連帯して、694万9760円及びこれに対する不法行為の後で本件訴状送達の日の翌日である平成15年7月18日から支払済みまでの遅延損害金を支払うよう求める限度で理由がある。
追加
別紙物件目録1名称ミーリングチャック(MillingChuck)テーパシャンク部の規格により、具体的には次のような名称を有する。
BTシャンクミーリングチャックSKシャンクミーリングチャックHSKシャンクミーリングチャックNTシャンクミーリングチャックモールステーパシャンクミーリングチャックストレートシャンクミーリングチャックCATシャンクミーリングチャック2形態・形状の構成ミーリングチャックは、工業規格であるフランジの鍔部を含むテーパシャンク部と締付金具とチャンク筒からなるチャック部から構成される。
フランジの顎部を含むテーパシャンク部については、JISBT規格、JISHT(汎用)規格、JISMT(モールステーパ)規格、ISOSK規格、
ISOHSK規格とUSAのCAT規格がある。テーパシャンク部には形態上の特徴はない。
チャック部については、後記3のとおり。
規格の中は、サイズごとに分かれており、7/24テーパの場合は、#30(テーパの基準径:φ31.75o)、#40(テーパの基準径:φ44.45o)と#50(テーパの基準径:φ69.85o)であり、1/10テーパの場合は、HSK63A(フランジ径:φ63o)とHSK100A(フランジ径:φ100o)がある。
3チャック部の構成上記1のミーリングチャックの、締付金具とチャック筒からなるチャック部の形態は、工業規格であるフランジの鍔部を含むテーパシャンク部の形態とは別に次のとおりの構成からなる。
ア締付金具がシルバーグレー色でクロームメッキの表面処理がなされている。
イこの締付金具の外径には、円周上に平行に網目状の滑止め(ローレット)が2列に施されている。
ウ上記の2列の網目状の滑止め(ローレット)間にはスパナ用の「切り欠け」が等間隔に8個設けられている。
エ上記のローレット間に設けられた「切り欠け」は、正面から見れば長方形状で中心に向かって楕円の溝(サイドカッタで加工した形状)となっている。
オ締付金具の内側にあるチャック筒の円径には、スロッタ溝が等間隔に軸方向に6箇所設けられている。
4図面による説明(別紙図面のとおり)(別紙)イ号製品の図面BTシャンクミーリングチャックSKシャンクミーリングチャックHSKシャンクミーリングチャックNTシャンクミーリングチャックモールステーパシャンクミーリングチャックストレートシャンクミーリングチャックCATシャンクミーリングチャック
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 大濱寿美
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