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事件 平成 20年 (ワ) 16126号 不正競争行為差止等請求事件
東京都文京区<以下略>
原告企業A
同訴訟代理人弁護士佐伯洋平 東京都中央区<以下略>
被告企業A 東京都港区<以下略>
被告A 東京都台東区<以下略>
被告B 東京都世田谷区<以下略>
被告C 東京都江東区<以下略>
被告D 東京都大田区<以下略>
被告E 東京都渋谷区<以下略>
被告F 東京都豊島区<以下略>
被告G 東京都豊島区<以下略>
被告H
上記9名訴訟代理人弁護士中村泰正
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2009/11/27
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求1被告企業Aは,別紙営業秘密目録記載の各営業秘密をその営業上の活動に使用又は開示してはならない。
2被告企業Aは,前項の営業秘密につき,同秘密の内容がデータにて記録媒体に保存されているものについては同データのすべてを同記録媒体より削除し,同データがプリントアウト等の方法により紙媒体に印字又は複写されているものについては同紙媒体のすべてを廃棄せよ。
3被告企業A,被告A,被告B,被告C,被告D,被告E及び被告Fは,原告に対し,各自5596万5000円及びこれに対する平成20年6月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被告G及び被告Hは,原告に対し,各自2798万2500円及びこれに対する平成20年6月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要1請求について(1) 被告会社に対してア差止請求原告は,被告企業A(以下「被告会社」という。)において,?不正開示行為があることを知って原告が保有する別紙営業秘密目録記載の各営業秘密(以下「本件営業秘密」という。)を取得・使用し(不正競争防止法2条1項8号),?原告から被告A,被告B,被告C,被告D,被告E,被告F又は亡I(以下,上記7名を「被告個人ら」という。)が示された本件営業秘密を不正の競業を行う目的又は原告に損害を加える目的で使用し(同法2条1項7号) 又は?本件営業秘密について不正取得行為をした(同 ,法2条1項4号)と主張して,不正競争による差止請求権(同法3条)に基づき,本件営業秘密の使用・開示の差止め及び本件営業秘密を記録した媒体の除却を求めている。
損害賠償請求原告は,?上記不正競争は被告会社と被告個人らとが一体となって行なった不正競争であると主張して,不正競争による損害賠償請求権(不正競争防止法4条,民法719条)に基づき,又は?上記不正競争につき被告会社には被用者としての責任があると主張して,使用者責任(民法715条)に基づき,損害賠償金内金5596万5000円及びこれに対する不正競争の後である平成20年6月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるとともに,?亡I又は被告Fがした信義則上の義務に反する原告従業員の引抜き行為を被告会社において幇助したと主張して,不法行為(民法709条,719条)に基づき,上記同額の損害賠償金及びこれに対する不法行為の後である平成20年6月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めている。
(2) 被告G及び被告H並びに被告Fに対して原告は,原告と業務提携契約を締結した株式会社DSTマネジメント(以下「DST」という。)の取締役であった亡I又は被告Fにおいて,?原告から示された本件営業秘密を不正の競業を行う目的又は原告に損害を加える目的で使用し若しくは被告会社に開示し(不正競争防止法2条1項7号),又は?本件営業秘密について不正取得行為をしたが(同法2条1項4号),これらは被告会社と被告個人らが一体となって行なった不正競争であると主張して,被告G及び被告H並びに被告Fに対し,不正競争による損害賠償請求権(同法4条,民法719条)に基づき,損害賠償金内金5596万5000円(被告G及び被告Hについては各相続分の限度。以下,この項において同じ。)及びこれに対する不正競争の後である平成20年6月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるとともに,?DSTの取締役として負っている同社に上記業務提携契約中の秘密保持義務を遵守させるべき職務を怠ったと主張して,取締役の対第三者責任(会社法429条)に基づき,上記同額の損害賠償金及びこれに対する本件訴状送達の後の日である平成20年6月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め,さらに,?信義則上の義務に反して原告の従業員を引き抜いたと主張して,不法行為(民法709条,719条)に基づき,上記同額の損害賠償金及びこれに対する不法行為の後である平成20年6月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めている。
(3) 被告A,被告B,被告C,被告D及び被告Eに対して原告は,原告従業員であった被告A,被告B,被告C,被告D又は被告Eにおいて,?原告から示された本件営業秘密を不正の競業を行う目的又は原告に損害を加える目的で使用し若しくは被告会社に開示し(不正競争防止法2条1項7号),又は?本件営業秘密について不正取得行為をしたが(同法2条1項4号),これらは被告会社と被告個人らが一体となって行なった不正競争であると主張して,不正競争による損害賠償請求権(同法4条,民法719条)に基づき,損害賠償金内金5596万5000円及びこれに対する不正競争の後である平成20年6月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるとともに ?被告A 被告B 被告C又は被告D(被 ,,,告Eは除かれている。)が亡I又は被告Fの信義則上の義務に反する原告従業員の引抜き行為について共同行為者若しくは幇助者であると主張して,不法行為(民法709条,719条)に基づき,上記同額の損害賠償金及びこれに対する不法行為の後である平成20年6月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めている。
2前提となる事実(1) 当事者等ア原告は,平成17年7月21日に設立された不動産の売買,賃貸借,その仲介等を目的とする株式会社であり,主に投資用中古ワンルームマンション(所有者と居住者とが異なる中古ワンルームマンション)の売買の仲介業を営んでいる。(争いのない事実)イDSTは,平成18年2月14日に設立された経営コンサルタント業等を目的とする株式会社であり,代表取締役は,J,取締役は,亡I,被告Fほか1名であった。なお,Jは,株式会社ランドクリエイト(以下「ランドクリエイト」という。)という主に不動産賃貸の仲介を業とする会社を別途経営していた。(争いのない事実,甲4,弁論の全趣旨)ウ被告会社は,不動産の売買,仲介,賃貸等を目的とする株式会社であり,平成18年12月8日に亡Iが全額出資し 「株式会社ランドジャパン」と ,, 。 の商号で設立され 主にワンルームマンションの売買の仲介業を営んでいる被告会社は,平成20年5月1日,商号を現商号に変更した。(争いのない事実,被告A,弁論の全趣旨)エ株式会社アーバンフォース(以下「アーバンフォース」という。)は,平成19年2月,被告Fほか1名によって設立された会社であり,主に不動産賃貸の仲介業を営んでいるほか,被告会社と業務提携し,その業務の一部を行っている。(争いのない事実,乙34,被告F,弁論の全趣旨)オ亡Iは,Jが経営するランドクリエイトに勤務していたが,被告会社設立後,その代表取締役に就任した。しかし,平成19年5月ころ行方不明になり,推定同月31日に殺害され,そのことが同年8月に判明した。同事件の容疑で,Jが逮捕,勾留され,現在,Jに対する刑事裁判手続が係属中である。(争いのない事実,甲2,10,弁論の全趣旨)カ被告Aは,後記本件業務提携契約に基づき,平成18年3月,DSTから原告に営業部員として出向した。被告Aは,原告で課長代理として勤務したが,同年10月,自己都合を理由に退職した。その後,被告Aは,平成19, ,, 年2月 被告会社営業統括本部長として同社に入社し 平成20年5月1日。,,,, 被告会社代表取締役に就任した(争いのない事実甲5乙32被告A弁論の全趣旨)キ被告Bは,後記本件業務提携契約に基づき,平成18年5月,DSTから原告に営業部員として出向した。被告Bは,原告で主任,係長として勤務したが,原告の社風が合わなかったことから,平成19年6月末日に原告を自主退社し,同年7月,アーバンフォースに入社し,同社の売買事業部の業務に従事し そのかたわら 提携先である被告会社の営業活動もしている (争 ,, 。
いのない事実,甲6,乙35,被告F)。
ク被告Cは,後記本件業務提携契約に基づき,平成18年12月,DSTから原告の営業部員として出向した。被告Cは,原告の社風に耐えられなかったことから,平成19年6月末日に原告を自主退社し,同年7月,アーバンフォースに入社し,同社の売買事業部の業務に従事し,そのかたわら,提携。,,, 先である被告会社の営業活動もしている (争いのない事実 甲7 乙36被告F)ケ被告Dは,後記本件業務提携契約に基づき,平成19年1月,DSTから原告の営業部員として出向した。被告Dは,原告の社風が合わなかったところ,被告Fから誘われたこともあり,平成19年6月末日に原告を自主退社し,同年7月,アーバンフォースに入社したが,平成20年10月,実家の家業を継ぐため同社を退職した。(争いのない事実,甲8,乙38,被告F)コ被告Eは,平成18年6月に原告に入社し,事業部員として不動産取引契約の締結及び履行の管理をする業務に従事していたが,原告の社風に耐えられなかったことから,平成19年2月3日,原告を自主退社し,その後,被告会社に入社した。(争いのない事実,乙33,弁論の全趣旨)サ被告Fは,平成18年3月,DSTの取締役に就任していたが,Jから原告の営業力増強のため原告に派遣できる営業部員を準備するよう依頼されたことから,自らの後輩,知人である被告B,被告C,被告Dらに声をかけ,同人らをDSTから原告へ出向させた。被告Fは,平成19年2月にアーバンフォースを設立し,その代表取締役を務めているが,そのかたわら,提携先の被告会社の業務部も担当している。(乙34,被告F)シ被告G及び被告Hは,殺害された亡Iの両親であり,その相続人である。
(争いのない事実)(2) 本件業務提携契約原告とDSTは,平成18年3月1日,業務提携契約(以下「本件業務提携契約」という。)を締結した。その内容は,次のとおりである(契約書上の呼称。 。,, は本判決のものに置き換えてある ) 本件業務提携契約は 平成19年8月Jの逮捕,勾留を受けて,合意解約された。(争いのない事実,甲1,弁論の全趣旨)「第1条(目的)原告は,原告の業務計画を迅速かつ確実に達成するために,次の業務(以下 『本業務』という)をDSTに委託し,DSTはこれを受託する。 ,(1) 原告の行う不動産の売買・仲介に伴う金融機関等の関係各位との交渉・折衝業務および不動産の仕入れ業務(2) 原告が特に依頼する案件の仕入・調査又は交渉(3) 原告の財務計画の立案・策定および実施に関するコンサルテーション,不動産の仕入れに対するコンサルティング・・・第5条(秘密の保持)DSTは,本業務の遂行にあって知り得た一切の件に関して,契約期間中はもとより契約終了後も,第三者に漏らしてはならない 」。
(3) 本件営業秘密ア本件所有者情報(ア) 別紙営業秘密目録1記載の情報(以下「本件所有者情報」という。)は,原告代表者とIT関係会社との共同開発による特注のデータベースシステム(以下「nccl」という。)において,原告の管理するサーバ内に電子データとして保管管理されている。ncclのデータは,一般に流通している不動産所有者情報,登記情報などを入力したほか,平成18年5月ころに購入した過去10年分の全国電話帳の電子データを入力し,これらを関連付けるなどされているものである。(甲20,弁論の全趣旨)(イ) 本件所有者情報は,秘密として管理されていた。(争いのない事実)すなわち,ncclにアクセスするためには,原告から従業員に貸与されたデスクトップパソコンにインストールされている専用のアプリケーションソフト(以下「本件ソフトウェア」という。)を使用して,従業員のID(氏名)及び従業員ごとに与えられた個別のパスワードを入力してログインしなければならない(平成19年6月28日までは,本件ソフトウェアがインストールされたパソコンであれば,インターネットを通じて原告の会社外部からもアクセス可能であった。)。デスクトップパソコンの貸与やパスワードの付与は,従業員のうち役職がある者(約半数)のみに限られており,また,利用者ごとにアクセス・編集権限が制限され,これらの権限変更をする権限は原告代表取締役ほか2名のみが有していた。本件所有者情報をプリントアウトする権限は,本件所有者情報の編集を業務内容とする部署の社員のみに限られており,アクセス権限があって検索・閲覧が可能な営業部員であっても,プリントアウトする権限はない。また,本件所有者情報を記録媒体にダウンロードする機能はncclにはない。そのため,ncclに自由にアクセスできない原告従業員のために,本件所有者情報のうち数万件ほどがプリントアウトされてファイルとされていたが,同ファイルは専用の鍵付き戸棚に備え置くとともに,その鍵については原告代表取締役及び原告事業部課長のみが保管し,同ファイルの原告従業員への貸出し,返還については,貸出簿への記載を求めるとともに,当日中の使用のみを許容し,複写及び外部持出しは一切禁止していた。上記戸棚は,業務時間外は施錠がされており,ファイルは,用済後,適宜廃棄処分されていた。(争いのない事実,甲20,弁論の全趣旨)(ウ) 被告A及び被告Bは,原告からデスクトップパソコンの貸与及び上記パスワードの付与は受けていたが,被告C及び被告Dは,パソコンの貸与もパスワードの付与も受けていなかった。被告Eは,デスクトップパソコンの貸与は受けていたが,パスワードの付与は受けていなかった。被告A,被告B,,, 。 被告C 被告D及び被告Eは プリントアウトする権限は有していなかった(争いのない事実,乙32,33,35,36,38,弁論の全趣旨)イ本件買取業者情報別紙営業秘密目録2記載の情報(以下「本件買取業者情報」という。)は,原告代表者が管理するパソコン内部に保存されており,従業員は,各自に貸与されているデスクトップパソコンから上記パソコンにLANを通じてアクセスするようになっていた。本件買取業者情報は,パソコンを貸与された従業員であればだれでも自由に閲覧することが可能であり,特にパスワードによるアクセス制限はなかった。(争いのない事実,弁論の全趣旨)ウ本件書式別紙営業秘密目録3記載の情報(以下「本件書式」という。)は,原告の実際の業務において使用される契約書類等の書式であり,原告から各従業員に貸与されたパソコン内部に保存されており,特にパスワードによるアクセス制限はなかった。(争いのない事実,甲14の1,弁論の全趣旨)3争点(営業秘密性について)(1) 本件所有者情報の有用性(2) 本件所有者情報の非公知性(3) 本件買取業者情報の秘密管理性(4) 本件買取業者情報の有用性(5) 本件買取業者情報の非公知性(6) 本件書式の秘密管理性(7) 本件書式の有用性(8) 本件書式の非公知性(不正競争について)(9) 不正競争の有無(取締役の対第三者責任について)(10)職務過怠の有無(一般不法行為について)(11)信義則上の義務違反の有無(損害について)(12)損害の発生及び額4争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(本件所有者情報の有用性)についてア原告(ア) 本件所有者情報は,主にワンルームマンションの所有者情報を中心に集積されたデータであり,物件数約58万件のうち約35万件がワンルームマンションの情報である。投資用ワンルームマンションの所有者は,自己使用目的ではないためマンションの所在と所有者の所在とが一致せず,所有者は全国各地に点在しており,その個人情報の調査は非常に困難である。したがって,投資用中古ワンルームマンションの仲介を専門とする原告にとって,非常に有用な情報の集合体である。
(イ) 本件所有者情報は,残債務額,原告における営業履歴,賃貸先,賃料額等の情報など,一般には公開されていない情報を含んでおり,不動産売買仲介業における有用な情報が盛り込まれている。
(ウ) 本件所有者情報のうち,約半数の連絡先情報は登記情報,番号案内サービス,有料名簿などから入手できるものではあるものの,取得には相応の費用を要するものであり,その余の約半数は,原告又はその子会社の営業活動の中で取得した情報や過去の電話帳データを入力して物件データと連結させているものであり,一般的には保有されていない情報である。
イ被告ら所有者の住所,氏名は,登記情報を閲覧ないし取得すれば簡単に得られる情報であり,電話番号も,番号案内サービスを利用し,あるいは電話帳を見れば簡単に検索できる。また,そこまでしなくても,当該情報は名簿業者などにより頻繁に売買されている。
(2) 争点(2)(本件所有者情報の非公知性)についてア原告本件所有者情報の中には非公知の情報があり,本件所有者情報は非公知性を有する。
イ被告ら所有者の住所,氏名は,登記情報を閲覧ないし取得すれば簡単に得られる情報であり,電話番号も,番号案内サービスを利用し,あるいは電話帳を見れば簡単に検索できる。また,そこまでしなくても,当該情報は名簿業者などにより頻繁に売買されている。
(3) 争点(3)(本件買取業者情報の秘密管理性)についてア原告本件買取業者情報は,原告従業員に貸与されたパソコンからはプリントアウトできない設定がされていた上,原告は,本件買取業者情報について,原告における業務目的以外の使用,社外での使用及び退職後の使用を一切禁止していた。
イ被告ら本件買取業者情報は,原告従業員のだれもが自由にプリントアウトすることができた。特に営業部員は,1物件につき1枚,本件買取業者情報をプリントアウトし,各自が,そこに当該物件に対する買取業者の買取価格などを書き込んだりし,あるいは新たな業者,担当者の氏名・携帯番号を追記していった。したがって,営業部員の各自が本件買取業者情報をプリントアウトしたものを数十枚ずつ所持していたような状況であり,社内にもこのプリントアウトされたものが散乱していた。
(4) 争点(4)(本件買取業者情報の有用性)についてア原告(ア) 本件買取業者情報における買取業者73社は,主に投資用中古ワンルームマンションを購入する会社である。投資用中古ワンルームマンションの買取市場は非常に狭い市場であるが,この狭い市場の中において73社もの専門買取業者の情報があれば,不動産売却希望者のニーズと買手側のニーズが一致する可能性が高まるとともに,買手間において価格競争が生じるため,より高額での売却が可能となる。
(イ) 本件買取業者情報は,原告の営業の過程で取得した部課長以上の決裁権限を有している仕入担当者の名前及び同担当者の携帯番号などであり,これらは一般には公開されていない。したがって,本件買取業者情報は,これらの者に対して直接営業することを可能とさせる。さらに,本件買取業者情報には,当該買取業者の好みのエリアに関する情報を含むため,これに合致する物件の売買を仲介することでより高額の売却が可能となる。
イ被告ら買取業者はインターネットで検索すればだれでも知り得る類の情報であり,また,買取業者自身から仲介業者への営業も頻繁にあるため,買取業者の情報を独自の調査などによって開拓すべきものではない。
(5) 争点(5)(本件買取業者情報の非公知性)についてア原告本件買取業者情報は,原告が独自に開拓した個人情報であり,一般には全く知られてない。
イ被告ら買取業者はインターネットで検索すればだれでも知り得る類の情報であり,また,買取業者自身から仲介業者への営業も頻繁にあるため,買取業者の情報を独自の調査などによって開拓すべきものではない。
(6) 争点(6)(本件書式の秘密管理性)についてア原告原告は,本件書式について,原告における業務目的以外の使用,社外での使用及び退職後の使用を一切禁止していた。
イ被告ら争う。
(7) 争点(7)(本件書式の有用性)についてア原告本件書式は,原告設立に携わった原告出資者及び原告代表者等の会社設立前からの不動産業の勤務経験等を生かして作成された独自の書式であり,不動産取引業,特に投資用ワンルームマンション区分所有権の売買契約の仲介業務の営業については,非常に有用な情報である。
イ被告ら区分所有建物の売買契約書や領収証等は,オリジナリティーを発揮すべき類の書面ではなく,営業秘密としての有用性はない。
(8) 争点(8)(本件書式の非公知性)についてア原告本件書式は,原告が仲介して契約を成立させた当事者が事実上目にする以外には,一般的には知られていない。
イ被告ら区分所有建物の売買契約書や領収証等は,書類の性質上,営業秘密ではない。
(9) 争点(9)(不正競争の有無)についてア原告次の事実によれば,被告会社及び被告個人らは,共同してncclに不正にアクセスするなどの不正の手段により本件営業秘密を取得し,又は被告会社のために原告から示された本件営業秘密を不正の競業を行う目的若しくは原告に損害を加える目的で使用若しくは開示し,あるいは,不正開示行為があることを知って本件営業秘密を取得若しくは使用し,又は取得若しくは使用させたものといえる。
(ア) 亡I及び被告Fは,DSTの取締役として,本件業務提携契約に基づき,本件営業秘密を自由に閲覧,取得できる立場にあった。
,,,, , (イ) 被告A 被告B 被告C 被告D及び被告Eは 原告従業員であったから本件営業秘密に自由にアクセスができる状況にあった。そして,被告B,被告C,被告D及び被告Eは,被告会社が設立された後も原告従業員の立場にあり続けた。
(ウ) 被告会社は,平成19年3月16日に宅地建物取引業免許(以下「宅建免許」という )を取得したが,平成20年3月14日時点で媒介契約を締結 。
した不動産取扱件数が174件に達していた。開業から約1年でこのように多数の物件を取り扱えることは異例である。そうするためには,その数をはるかに超える所有者に対して営業活動を行う必要があり,そのためには,膨大な数の所有者情報を有していなければならない。亡Iは,平成19年3月時点で既に45万から60万件の所有者情報を取得していたことがうかがわれるが,被告会社設立からわずか約3か月でこのような膨大な情報を入手していることからすると,原告から情報を窃取した蓋然性が極めて高いといえる。その一方で,被告らは,亡Iが所有者情報をどのように入手したのかについて一切合理的な説明ができていない。したがって,本件営業秘密の不正取得,使用行為が推認されるというべきである。
(エ) 平成20年10月17日時点で被告会社が不動産所有者と専任専属媒介契, , 約又は専任媒介契約の締結に至った物件数は 少なくとも294件であるがそのうち273件(約93%)は,本件所有者情報にある物件と重複する。
(オ) 平成18年7月,原告は,原告所有のデスクトップパソコンを被告Aに譲り渡したが,このパソコンには,本件所有者情報の原始データ,本件ソフトウェア,本件買取業者情報及び本件書式が記録されていた。原告は,すべてのデータを消去するとの指示を被告Aにしたが,実際に被告Aがパソコンのデータを削除したかどうかの確認はしていない。したがって,平成18年10月まで有効であった被告Aのアクセス権,平成19年6月まで有効であっ, , た被告Bらのアクセス権 あるいは他の原告従業員のアクセス権を使用して平成18年7月以降,被告会社又は被告ら個人は,外部よりインターネットを通じてncclへアクセスし,これを自由に閲覧することができた。
(カ) 何者かが,平成19年5月中旬ころに一度,原告従業員でありプリントアウト権限を有するKのIDを不正利用して外部からncclにアクセスをした。なお,本件サーバに対するアクセス数は1日当たり100件を超えるのであり,アクセス履歴からこの不正アクセスを割り出すことは非常に困難である上,平成19年11月に新サーバに移行した際にアクセス記録が破棄され,該当のアクセス記録は存しない。
(キ) 本件書式と被告会社で使用している書式は,フォントサイズに至るまで酷似しているところ,被告Aは,平成19年10月18日に原告代表者と原告取締役(CEO)のLとが被告会社を来訪した際,原告から譲り受けた前記パソコンに本件書式が記録されており,これを利用したことを認めた。
(ク) 上記来訪の際に,原告代表者が本件所有者情報と被告会社の所有者情報とが異なる旨の発言をしたことは認めるが,両人は,両情報を見比べたわけではなく,被告会社の所有者情報が記載された名簿の体裁とncclにおける画面表示又はプリントアウト形式などの両者の見た目や配列の差異を認めたにすぎず,本件所有者情報を構成するデータそれ自体が違うことを認めたわけではない。しかも,提示された名簿はわずか1冊で,被告Aが選択したものであるから,その他の簿冊についてはncclのものと異なるとはいえない。かえって,被告は,本訴係属中にあえて上記簿冊を廃棄しており,自己に不利益なものであることを自認する行動を採っている。
イ被告ら本件所有者情報は,量が膨大でプリントアウトすることは不可能であり,厳重に管理されていたので持出しは不可能であった。なお,本件買取業者情報及び本件書式については,全く情報としての価値がなく,そもそも持ち出す動機がない。被告会社の有する所有者情報は,被告自ら取得したものである。
(ア) 亡I及び被告Fは,原告の会社内で業務に従事していたわけではなく,ncclにアクセスできる状況ではなかった。
(イ) 被告C及び被告Dは,ncclにアクセスするパスワードを付与されていなかったから,本件所有者情報にアクセスすることはできなかった。被告A及び被告Bが原告から貸与されたのはデスクトップパソコンであり,原告の会社内で業務時間中にncclにアクセスできるにすぎなかった。また,ncclにアクセスするには本件ソフトウェアが必要であるから,それがインストールされていない外部のパソコンからインターネットを使用してアクセスすることも不可能である。
(ウ) 被告会社が平成19年3月16日に宅建免許を取得し平成20年3月14日時点で174件の媒介契約を締結した不動産取扱件数を有していたことは認めるが,174件は,開業1年後の取扱件数として別段過大な件数ではない。被告会社設立前でも所有者情報を収集することは可能であり,むしろ設立に当たって当然の準備行為であるから,被告会社が設立されてから亡Iが所有者情報を収集し始めたとの仮定が成り立たないし,仮に被告会社設立後に亡Iが所有者情報を収集し始めたとしても,外注すれば3か月で十分である。
被告会社が有する不動産所有者情報は,亡Iが保有していた電子データをプリントアウトして製本化した名簿がベースとなっている。簿冊総数は88冊で都道府県別に分かれていた。1頁に15件から20件程度の所有者情報があり,1冊の名簿の頁数は,おおよそ100頁から150頁であり,合計すると20万件程度であった。亡Iがどのようにしてその電子データを取得したのかは不明であるが,被告会社は,平成20年4月から6月にかけて,438万9500円で172物件8779戸分の登記事項要約書を取得し,番号案内サービス,電話帳,電話番号調査ソフトなどにより所有者の電話番号を調べて所有者情報を追加した。なお,被告会社は,情報流出リスクの低減化と業務効率化のため,平成20年11月5日以降,所有者情報をサーバ内に保存し営業電話等をパソコンの操作によりできるようにしたシステム(テレコールシステム)を導入しており,不要となった名簿や亡Iが有していた電子データをいずれも既に廃棄している。
(エ) 原告が重複すると主張するデータの中には,平成20年4月以降に被告会社が取得したデータが13件,取引業者の方から被告会社に売却が依頼された物件が3件る。不動産所有者の氏名,住所及び電話番号は公開されていあるといえるものであり,原告も,被告会社も,中古マンションの販売の仲介をする対象地域が重なり合っているのだから,本件所有者情報と被告会社の保有する所有者情報に一致するところがあったとしても,それは共通した公開情報を有していたというにすぎない。
(オ) 原告から平成18年7月ころに被告Aがデスクトップパソコンを譲り受けたことは認めるが,同パソコンには,原告が主張するいずれのデータも入っていなかった。
(カ) 仮にKのIDを利用した不正アクセスがあったとしても,それと被告会社又は被告個人らとを結び付ける事実は何もない。
(キ) 本件書式と被告会社で使用されていた書式とは,記載内容,用語,構成がほとんど異なり,全く似ていない。本件書式が原告から譲り受けたパソコンの中にあったと被告Aが言ったのは,平成19年10月18日午後5時に被告会社に来訪した原告代表者とLが午後9時すぎに至るまでの4時間以上にわたって居座り続けたことから,その場を収めるための便法としてついた嘘にすぎない。
(ク) 原告代表者及びLは,上記同日に被告会社を訪問した際,被告Aから被告会社の所有者情報を提示され,それが本件所有者情報と異なることを自ら確認している。
(10)争点(10)(職務過怠の有無)についてア原告亡I又は被告Fは,DSTの取締役として,信義則上,?本件業務提携契約に基づき入手した本件営業秘密を同契約の目的以外の目的(図利加害目的)では使用してはならない義務,及び?原告と競業する業務を目的とする会社を設立し又は業務を開始する場合には,設立及び業務を開始する事実を事前に,又は事後速やかに原告に報告し,原告においてDSTから派遣された従業員に営業秘密を開示するか否かについて選択の機会を与える義務を負っていた。それにもかかわらず,亡I又は被告Fは,これを怠り,原告に報告することなく,亡Iは被告会社の代表取締役として,被告Fは被告会社の業務提携者として,本件営業秘密を用いて営業行為を行ったのであるから,取締役の職務を行うにつき故意に原告に損害を加えたものである。
イ被告ら亡Iも,被告Fも,DSTの取締役であった以外は,原告について何らの知識,情報等を得ておらず,原告とは全く無関係な立場である。
(11)争点(11)(信義則上の義務違反の有無)についてア原告(ア) 亡I及び被告F自らの人脈で原告に従業員を派遣したDSTの取締役である亡I又は被告Fは,本件業務提携契約に基づき,信義則上,これら従業員を雇用する予定又は雇用する場合には,事前又は事後速やかに原告にこれを報告する義務があるにもかかわらず,これを怠り,原告と競業する会社を密かに設立し,雇用予定のこれら従業員の派遣を継続させ,あるいは原告に報告なくこれら従業員を雇用した。
(イ) 被告会社被告会社は,亡I又は被告Fの上記不法行為に基づき設立,運営された客体であり,同人らを幇助した。
(ウ) 被告A被告Aは,亡I又は被告Fの上記不法行為に積極的に関与し,同不法行為を共同して行い,又はこれを幇助した。
(エ) 被告B,被告C及び被告D被告B,被告C又は被告Dは,亡I若しくは被告Fの上記不法行為を認識しており,同人らを幇助した。
イ被告らすべて争う。
(12)争点(12)(損害の発生及び額)についてア原告(ア) 推定売上高原告における従業員1人当たりの1か月の売上額は約287万円であると, , , ころ 被告会社の営業担当社員は 少なくとも5人以上いるはずであるから原告と同種営業を営む被告会社の1か月当たりの売上額は1435万円(287万円×5人),1年当たりの売上額は1億7220万円(1435万円×12か月)を下らないものと推定される。
(イ) 推定利益率不動産仲介業については,仕入れが不要であるという特殊性からその粗利益率は少なくとも売上額の65%以上と推定される。
(ウ) 推定利益以上から,被告会社の1年当たりの粗利益額は1億1193万円(1億7220万円×65%)と推定されるところ,被告会社は,その営業を事実上平成19年3月に開始し,その後少なくとも5年以上その営業を継続するものと考えられるから,その5倍の利益を得ると推定される。
(エ) 損害額被告会社が得る上記利益は,被告会社につき,また,その余の被告らとの関係においても原告の損害と推定される(不正競争防止法5条2項)。
原告は,その損害のうち6か月分の損害である5596万5000円(1億1193万円÷12か月×6か月)を請求する(被告G及び被告Hについてはその2分の1 。)イ被告らすべて争う。
第3当裁判所の判断1争点(3)(本件買取業者情報の秘密管理性)について不正競争防止法にいう営業秘密の要件としての秘密管理性が認められるためには,少なくとも,これに接した者が秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理している実体があることが必要である。
ところで,争いのない事実と証拠(甲13,乙1〜3,被告A)及び弁論の全趣旨によれば,?本件買取業者情報とは,買取業者の名称,電話番号及びファックス番号,同業者の担当者の氏名及び携帯電話番号並びに同業者が主に取り扱う物件であること,?買取業者となり得る者はインターネットでも公開されており容易に検索可能であり,買取業者の担当者がその氏名,連絡先,買取物,,, 件の要望を秘匿すべき理由はないこと ?原告において 本件買取業者情報はパソコンを貸与された従業員であればだれでも自由に閲覧することが可能であり,特にパスワードによるアクセス制限はなかったこと,?被告A,被告B,, , 被告C及び被告Dらが原告に在籍していた当時 本件買取業者情報はいつでもかつ,枚数の制限なく自由にプリントアウトできる状況にあり,営業部員は,自分の分としてプリントアウトされたものを利用して営業活動を行っていたが,これに対して,原告においてプリントアウトされた本件買取業者情報を管理する措置は何ら採られていなかったことが認められる。以上からすれば,本件買取業者情報に接した者がこれを秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理している実体があるとはいえない。したがって,本件買取業者情報は,秘密管理性を欠き,営業秘密ということはできない。
以上から,本件買取業者情報に係る不正競争の主張は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。
2争点(8)(本件書式の非公知性)について本件書式が原告の実際の業務において使用される契約書類等の書式であることからすれば(第2,2前提となる事実(3)ウ),原告の仲介により売買契約を締結した売主・買主,原告と媒介契約を締結した依頼者などの第三者は必ず本件書式を認識することになるのであり,かつ,原告の顧客が原告と特別の関係を有する者に限定されているものではないから,本件書式は,不特定かつ多数の者に示されているものである。そして,それら本件書式を示された者が原告に対して本件書式の守秘義務を負うものとは認められないし,負わせることができる性質のものでもない(例えば,それらの者が契約書,領収書等を更に第三者に提示して自己の権利を証明することが不可能になってしまう。)。したがって,本件書式は,非公知性を欠き,営業秘密ということはできない。
以上から,本件書式に係る不正競争の主張は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。
3争点(9)(不正競争の有無)について(1) 上記1,2のとおり,本件買取業者情報及び本件書式は営業秘密とはいえないから,以下,本件所有者情報についてのみ不正競争の有無について判断すべきところ,まず,本件所有者情報を被告個人らが取得できたのか否の点について検討する。なお,本件所有者情報は,一つ一つの物件についてみればほとんどが公開された情報であり,秘密といえるのはその集積された体系というべきものであるから,本件所有者情報を取得したのか否かについても,このような集積された体系(その全部である必要はないが,相当の分量である必要はある )の取得の有無という観点から判断する。 。
(2) 紙媒体による取得について本件所有者情報は約58万件分のデータというものであり,ncclに自由にアクセスできない原告従業員のために,数万件ほどをプリントアウトしてファイルとされていたこと,当該ファイルが保管されていた専用保管庫の鍵は,原告代表取締役及び原告事業部課長のみが保管し,保管庫は業務時間外は施錠がされ,また,当該ファイルの貸出しは貸出簿で管理され,貸出しも当日中のみであって外部への持出しは禁止されていたことは,上記第2,2前提となる事実(3)ア(イ)のとおりであるところ,当該ファイルの量は,100頁から150頁程度のファイルにして32冊というのであるから(甲16),このファイルを勤務時間内に複写したり,あるいは勤務時間外に社外に持ち出すことは,ほとんど不可能というべきである。
また,亡I又は被告Fが原告の会社内に立ち入ったことがあるとは,本件証拠上全くうかがわれない。そして,被告Cと被告Dは,いずれもパソコンの貸与もパスワードの付与も受けておらず,被告Eは,パスワードの付与を受けておらず,被告Aと被告Bは,パソコンの貸与及びパスワードの付与は受けていたが,いずれもプリントアウトの権限は有していなかったものである(第2,2前提となる事実(3)ア(ウ))。そうすると,被告個人らが,自ら本件所有者情報をプリントアウトすることができたとは認められない。そもそも,原告は,上記ファイルが本件所有者情報全体の5%未満であると主張しており(訴状8頁),その主張に従えば,本件所有者情報の全部をプリントアウトした場合,その総冊数は640冊(32冊×100/5),頁数は少なくとも6万4000頁ということになる。被告らの自認するところによれば,被告会社の所有者情報は20万件程度というものであって,これは本件所有者情報の3分の1程度となるところ,仮にこれがすべて本件所有者情報をプリントアウトしたものであるとしても,依然,膨大なものである。そうであれば,原告の会社内でこれに相応する数の情報をプリントアウトすれば,容易に発覚することが明らかであり,この方法は,ほとんど実現可能性がないものである。
, 。 したがって 被告らが本件所有者情報を紙媒体で取得したとは認められない(3) 電子データによる取得について証人Mの証言及び同人作成の陳述書(乙37)によれば,Mは,印刷等を業とする株式会社ティップ・アイの代表取締役であり,同社はDST及び被告会社と取引関係にあったこと,Mは,平成19年1月ころ,亡Iから,同人が購入した電子データの印刷,製本の依頼を受け,提供を受けた約20万件分ほどの所有者情報を記録したPDFファイルに基づき,これを印刷,製本してA4版で100冊近くになる名簿を作成し,これを被告会社に納入したことが認められる。Mが代表取締役を務める株式会社ティップ・アイは,DSTや被告会社と取引関係があったことが認められるものの(乙34,37),第三者というべきMが証人として虚偽の事実を述べるべき事情は特に見当たらず,その証言の信用性を疑うべき理由はない。そうすると,被告会社の所有者情報は,もともとは電子データであったということになるが,ncclにはデータを記録媒体にダウンロードする機能がなく(第2,2前提となる事実(3)ア(イ)),電子データとして本件所有者情報を取得することができないのであるから,亡Iが取得していた上記電子データと本件所有者情報は別物と認めることができる(本件所有者情報自体,名簿業者から取得したデータを利用して集積されているのであるから,亡Iにおいてもそのような業者からデータを取得できることが推認し得る。)。そして,証拠(甲26,乙4〜31,37,証人M,被告A)及び弁論の全趣旨によれば,被告会社の所有者情報は,亡Iが準備した名簿に被告会社が自ら取得した登記情報,電話番号情報を加えたものであり,平成20年11月以降は,亡Iが取得した電子データに基づいて名簿を電子化したものであることが認められるから,被告会社及び被告ら個人のいずれもが,電子データとしても本件所有者情報を取得してはいないことになる。
(4) 原告の主張についてア原告は,亡I又は被告Fが本件営業秘密を自由に閲覧,取得できた旨を主張するが,前記説示のとおりであり,これを認める証拠は全くない。
イ原告は,被告A,被告B,被告C,被告D又は被告Eが本件営業秘密を不正に取得できる状況にあった旨を主張する。しかしながら,上記の者らはいずれも本件所有者情報をプリントアウトする権限を有せず,原告従業員の中で特に本件所有者情報の不正取得が容易である立場にあったものではないから,これらの者と他の原告従業員とは,不正取得の容易性という観点からは同等というほかない。そうすると,これらの者が他の従業員のID及びパスワードを利用した可能性は,等しく原告のどの従業員にもいえることであって,原告の主張するところは,営業秘密に接した従業員の一般的な不正取得の可能性をいうものにすぎず,格別,不正競争の存在を基礎付けるものではない。
ウ原告は,被告会社の業績が本件所有者情報を不正に取得していなければ説明できないものである旨を主張する。所有者情報がないのに業績を上げたとするならば,そのことが不自然であるということもできるが,被告会社は,上記のとおり本件所有者情報とは別の所有者情報を取得していたのであるから,その業績に不自然な点はない。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
エ原告は,被告会社が媒介契約を締結した物件と本件所有者情報にある物件とが約93%の割合で重複していることは不自然である旨を主張する。
しかしながら,一定の時期に不動産の売却希望をする所有者の数は限られたものであるところ(すべての不動産所有者が売却を希望するわけではない,原告も,被告会社も,その営業対象をその一定の限度の中から選択 。)しているのであり,しかも,原告と被告会社とは,共に本店を東京都区部に置き,その営業範囲をほぼ同一とし,主な業態もマンションの売買仲介を中心とする点でほとんど変わりがなく,事業対象及び営業対象が重複している(そのことは何ら違法なことではない。そして,対象物件である不動産 。)はその存在が公開されているのであるから,ある程度の量の所有者情報を集, 。 積すれば その情報の集合に重複する部分が生ずることは当然のことであるそして,本件所有者情報は約58万件と膨大な量なのであるから,ある物件を取り出してその情報が本件所有者情報に含まれるかどうかを比べた場合,それが含まれる可能性は高いのであり,そうとすれば,被告会社が媒介契約を締結した物件と本件所有者情報にある物件とがかなりの割合で重複することは,とりたてて不自然というものではない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
オ原告は,原告から被告Aに譲り渡したパソコンに本件所有者情報の原始データ及びncclにアクセスするための本件ソフトウェアが記録されていた旨を主張する。
しかしながら,平成19年10月18日に原告代表者とLとが被告会社事務所を訪れ,午後5時ころから午後9時ころまでの4時間にわたって被告Aに対して詰問を続けた際にも,終始,被告Aはこのことを強く否認し,その点についての態度は一貫していたものである(甲25,26,被告A,弁論の全趣旨)。一方,原告が上記主張の根拠とするところは原告代表者の供述及び同人作成の陳述書(甲24)のみで,客観的なものでなく,そもそも原告が主張するところの「原始データ」なるものが何を意味するのかも不明である(仮に電話帳データと物件データのことを意味するのであれば 相互に リ,「ンク」されていない両データが存しても,それだけでは何の活用価値もない。)。しかも,本件所有者情報に関する原告の管理状況は,原告従業員に対しても非常に厳しいものであるにもかかわらず,その一方で当該パソコンが上記のような重要なデータが記録されたままの状態で放置されていたということもにわかには信じ難く,また,上記原告の主張内容を裏付けるに足りる証拠もない。
もっとも,仮に,被告Aが譲り受けたパソコンの中に本件ソフトウェアがインストールされたままであったとしても,結論を左右するものではない。
すなわち,本件ソフトウェアを利用して外部よりインターネットを通じてncclへアクセスしてこれを閲覧しても,ncclにはデータを記録媒体にダウンロードする機能がないのであるから,手書きでデータを書き写すか画面印刷をするほかないが,これらの方法によっては,数十万件に及ぶデータを取得するにはあまりにも非効率的で現実性がないというほかない。また,仮に何らかの方法でアクセス権限のある原告従業員のIDとパスワードを入手できたとして(原告の主張,立証にはこれをうかがわせる具体的事実が何ら提示されていないが。),これにより会社外部のパソコンで本件所有者情報をプリントアウトした場合,これによりプリントアウトされる文書はncclのプリントアウト形式のものとなる。しかしながら,原告代表者とLが平成19年10月18日に被告会社事務所を訪れた際に被告Aから見せられた被告会社の所有者情報を記載した名簿が,少なくともその体裁においてncclのものと全く異なるものであったことは,実質的に当事者間には争いのない事実である。もちろん,原告代表者及びLが被告Aから示されたのは上記名簿のうちの1冊にすぎないが,前記(3)において認定のとおり,被告会社の所有者情報を記載した名簿は一括して製本化されたものであり,その形式はすべて同じものであると考えるのが自然であるから,結局,1冊を見れば,被告会社の所有者情報を記載した名簿がncclを利用してプリントアウトしたものでないことの確認としては十分である。結局のところ,仮に本件ソフトウェアと,更にこれに加えて何らかの手段でプリントアウト権限を有する原告従業員のIDとパスワードを入手できたとしても,やはり被告会社が本件所有者情報を取得したとの結論を整合的に導くことはできない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
カ原告は,平成19年5月中旬ころにncclに不正アクセスがあった旨を主張するが,これを裏付けるに足りる証拠はなく,仮にそのような事実があったとして,これを被告個人らと結び付ける証拠は全くない(被告個人ら以外の原告従業員が行ったとしても何ら矛盾はない。)。
キ原告は,本件書式と被告会社で使用している書式が酷似し,また,被告Aが本件書式を利用したことを認めた旨を主張する。
しかしながら,被告Aが認めたのは,原告から譲り受けたパソコン内に本件書式が記録されていたことにすぎない(甲26 。もっとも,原告の主張 )するように,被告Aが本件書式を利用したのか,あるいは,被告らの主張するとおり,被告Aがパソコン内に本件書式があったと事実を述べたことは虚偽にすぎないのかの確定はさておいて,本件書式があったから本件ソフトウェアもあったとか,本件書式を取得したから本件所有者情報も取得したとか推認することはできないから,いずれにしても被告会社が本件所有者情報を取得したことの根拠になるものではない。
クさらに,原告は,被告会社が本訴係属中にあえて被告会社の所有者情報を記載した名簿を廃棄したことは,自己に不利益なものであることを自認したものである旨を主張する。本件の重要な証拠である名簿を保全措置も採らずに廃棄したことは,不用意なこととして責められるべきであることは原告の主張するとおりではあるが,上記オで説示したとおり,被告会社の所有者情報を記載した名簿がncclからプリントアウトしたものと同一とは認められないのであるから,被告らの上記訴訟対応は上記認定を左右するものではない。また,被告会社においては,設立者であって事情を最もよく知る亡Iが設立後半年も経たないうちに殺害されるという事態が生じたのであり,直ちに所有者情報の出所を明らかにできなかったとしてもやむを得ない面がある。結局,上記事実を加味しても前記認定判断を覆すに足りない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(5) 以上の次第であり,被告ら個人が本件所有者情報を取得したとの事実が認められないから,その余の点について検討するまでもなく,不正競争の存在を認める余地はない。
したがって,不正競争の存在を前提とする被告会社の使用者責任も認めることはできない。
4争点(10)(職務過怠の有無)について原告は,亡I又は被告Fは,DSTの取締役として,信義則上,?本件業務提携契約に基づき入手した本件営業秘密を同契約の目的以外の目的(図利加害目的)で使用してはならない義務,及び?原告と競業する業務を目的とする会社を設立し又は業務を開始する場合には,設立及び業務を開始する事実を事前若しくは事後速やかに原告に報告し,原告においてDSTから派遣された従業員に営業秘密を開示するか否かについて選択の機会を与える義務を負っていたと主張する。
しかしながら,上記?の義務違反がないことは前述までの認定判断のとおりである。また,原告と,経営コンサルタントを主な目的とし原告に対して人材派遣をしたにすぎないDSTとは,そもそも競業関係にあるということはできないのであり,現に本件業務提携契約(甲1)にもそのような競業避止義務の定めはないのであるから,DSTの取締役にすぎない亡I又は被告Fが原告に対して競業避止義務類似の義務を負う理由はなく,上記?の義務の存在が認められない。
したがって,原告の上記主張は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。
5争点(11)(信義則上の義務違反の有無)について(1) 原告は,亡I又は被告Fの責任につき,自らの人脈で原告に従業員を派遣したDSTの取締役である亡I又は被告Fは,本件業務提携契約に基づき,これら従業員を雇用する予定又は雇用する場合には,事前又は事後速やかに原告にこれを報告する義務があると主張する。
しかしながら,上記4に説示したとおり,亡I又は被告Fが原告に対して上記のような競業避止義務類似の義務を負うことはない。また,秘密保持義務を負った者であっても,当然に競業避止義務を負うわけではなく,不正競争でない限り同種業務を行うことを禁じる理由はないから,原告従業員にすぎない被告A,被告B,被告C,被告D又は被告Eが原告に対して競業避止義務を負うということはできない。そして,亡I又は被告Fがこれらの者を出向させた時点において,被告会社又はアーバンフォースがこれらの者を雇用する予定であったことを認めるに足りる証拠もなく,亡I又は被告Fがこれらの者を雇用することを避止しなければならない義務というものも想定し難い。
(2) 原告は,被告会社,被告A,被告B,被告C及び被告Dの共同不法行為ないし幇助を主張するが,その前提とする亡I又は被告Fの義務違反が存在しないことは上記(1)に説示したところから明らかであり,上記主張は前提において誤りというほかない。
(3) したがって,原告の上記主張は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。
6結論以上検討したところによれば,原告の被告らに対する本訴各請求はいずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 岡本岳
裁判官 中村恭
裁判官 鈴木和典
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