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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19ワ4916不正競争行為差止等請求事件 平成20ワ3404不正競争行為差止等請求事件 判例 不正競争防止法
平成18ワ29160損害賠償等請求事件 判例 不正競争防止法
関連ワード 記憶 /  差止請求(差止) /  逸失利益 /  因果関係 /  利益額(利益の額) /  弁護士費用 /  代理人 /  代表者 /  得べかりし利益 /  秘密管理(秘密管理性) /  秘密として管理 /  有用性 /  営業上の情報 /  非公知性 /  営業秘密 /  2条1項7号 /  品質等誤認表示(誤認) /  損害額 / 
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事件 平成 20年 (ワ) 15238号 不正競争行為差止等請求事件
東京都港区<以下略>
原告株式会社VSN
同 訴訟代理人弁護 士尾崎純理
同 渥美央二郎
同 飯島康央
同 山田朋美 東京都港区<以下略>
被告MVP総合研究所株式会社 愛知県岩倉市<以下略>
被告A 東京都中央区<以下略>
被告B 千葉県千葉市<以下略>
被告C
上記4名訴訟代理人弁護士金森仁
同 中村大輔
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2010/03/04
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
主文 1被告らは,原告に対し,連帯して2954万7720円及びこれに対する平成20年6月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,これを10分し,その9を原告の負担とし,その余は被告らの負担とする。
24この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
第1請求被告らは,原告に対し,連帯して3億5225万7465円及びこれに対する平成20年6月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要本件は,労働者派遣を業とする会社である原告が,被告MVP総合研究所株式会社(以下「被告会社」という。)の当時の代表取締役であった被告Aが被告B及び被告Cらと共謀して,原告の営業秘密である原告所属の派遣労働者に関する情報及びその派遣先企業に関する情報を使用するなどして原告所属の派遣労働者を違法に引き抜き,これにより原告に対して8億7946万6607円の損害を与えたとして,被告会社に対し,会社法350条に基づき,被告A,被告B及び被告Cに対し,不正競争防止法2条1項7号,4条又は不法行為に基づき,損害の一部の賠償として,連帯して3億5225万7465円及びこれに対する不法行為の後の日である平成20年6月25日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1争いのない事実等(1)当事者ア原告原告は,平成16年2月10日に設立された株式会社であり,主に技術系分野の派遣労働者(以下「派遣エンジニア」という。)を派遣する労働者派遣事業を行っている会社である(甲1,2,55)。従業員数は4000名を超え,東京本社を始め,名古屋,大阪,横浜,徳島,福岡など全国に営業所及び出張所が合計10か所ある(甲2)。原告の営業部門は,業種ごとに分類され,ME事業部(機械・電気関連),BC事業部(生物・化学関連),IT事業部(情報技術関連)がある。
3各派遣エンジニアは,派遣元である原告と顧客である派遣先企業との間の労働者派遣契約に基づいて,各営業部門から派遣先に派遣され,派遣先の指揮命令下で就業する。原告は,派遣先との間の契約関係の管理と派遣先において就業する派遣エンジニアを管理するために,派遣先企業ごとに営業担当の従業員を置いている。
イ被告ら(ア)被告MVP総合研究所株式会社(被告会社)被告会社は,昭和62年8月1日に設立された株式会社であり,平成20年3月10日,本店所在地及び商号を現在のものに変更するとともに,技術系エンジニアの派遣事業を開始した。
(イ)被告A被告Aは,原告の元従業員で,事業部統括(部長の上級職)の職にあった者であり,平成20年2月8日付けで原告を退職し,同年3月10日,被告会社の代表取締役に就任し,同年8月18日,同代表取締役を辞任した。
(ウ)被告B被告Bは,原告の元従業員で,BC事業部長の職にあった者であり,平成20年1月31日付けで原告を退職し,同年3月10日,被告会社の取締役に就任し,同年8月18日,同取締役を辞任した。
(エ)被告C被告Cは,原告の元従業員で,IT事業部システムコンサルティング課課長の職にあった者であり,平成20年2月15日付けで原告を退職し,同年3月10日,被告会社の取締役に就任し,同年8月18日,同取締役を辞任した。
ウその他の関係者(本件訴訟の被告であったが,和解により訴訟が終了した。)4(ア)DDは,原告の元従業員で,横浜営業所においてME事業部営業課長の職にあり,かつ,同営業所所長を兼ねていた者であり,平成20年3月31日付けで原告を退職し,被告会社に就職し,その採用担当となった。
(イ)EEは,原告の元従業員で,ME事業部長の職にあり,平成20年6月11日付で原告に対し,退職の申出をした。
(ウ)FFは,原告の元従業員で,横浜営業所においてME事業部営業職に就き,別紙移籍エンジニア一覧表の番号1から20に該当する「前派遣先」欄記載の派遣先の営業担当であった者である。Fは,平成20年5月7日付けで原告を懲戒解雇となった後,被告会社に就職した。
エ原告は,「人材統合システム」等のデータベース及び「新規取引内容報告書」に記録された原告従業員(派遣エンジニアを含む。)の氏名,役職,残有給休暇日数,退職日,携帯電話番号,社員番号,分野,担当営業,就業先,派遣個別契約の満了日及び給与データの情報(以下「本件情報」という。)を電子データ及び書面の形で保有していた。
オ被告A,同B,同C,D及びEは,いずれも原告を退職するまでの間,本件情報にアクセスをする権限を付与されていた。
2争点(1)本件情報が営業秘密に該当するか(争点1)(2)本件情報の不正目的の使用・開示の有無及び原告所属の派遣エンジニアの退職との因果関係(争点2)(3)本件の勧誘行為につき不法行為が成立するか(争点3)(4)被告らの共謀の有無(争点4)(5)損害の額(争点5)53争点に関する当事者の主張(1)争点1(本件情報が営業秘密に該当するか)〔原告の主張〕ア秘密管理性(ア)本件情報の電子データは,原告においてNotesというアプリケーションソフトをカスタマイズして開発されたデータベースにおいて保存されており,同データベースのシステムは,情報戦略推進部で一元的に管理されている。
データベース内の本件情報にアクセスをするためには,まず前提として,?Windowsアカウント,?メール,?Notesアカウント,?DigiSheet,?使用するPC機器等のアカウント申請が必要である。各アカウントの使用が承認されるためには,申請者の所属する部門長が申請者の業務遂行上必要であるかについて確認して承認を行い,その後,情報戦略推進部において,情報の使用の妥当性を確認の上,承認する。
このアカウントの付与があっても,データベース内の本件情報にアクセスをするためには,さらにアクセス権限申請書を提出してアクセス権限の申請をし,承認を得る必要がある。このアクセス権限申請書には,アクセス権限を申請するデータベースの名称,アクセスの理由(必要性)等を記載する。この申請について,申請者の所属する部門の個人情報保護部門管理者が,部門における個人情報保護の観点からの妥当性を確認し,承認した後,申請者の部門長が申請者の業務遂行上,そのデータベースへのアクセスが必要かなどを確認し,承認する。その後,個人情報保護管理者が,全社的な個人情報保護の観点から妥当性を確認した上で承認し,その上で,情報戦略推進部において,部長が上記各承認を経ているかをチェックし,さらに申請内容の妥当性を確認して承認の決裁をする。すべての手続きの完了後,情報戦略推進部において,アクセ6ス権付与の作業を実施する。
(イ)原告の社内の電子データの持出しは禁止されており,原告において社員に貸し出しているパソコンは,外部記憶媒体の接続部分を密栓し,外部記憶媒体の使用が物理的に不可能な状態になっており,密栓を解いて使用する場合には,利用申請書が必要である。また,ノートパソコンの社外持出しも原則として禁止されており,業務上やむを得ない場合には,「ノートPC社外持ち帰り申請書兼誓約書」の提出が必要である。
(ウ)人材統合システムに記録された情報のうち社員個人に関する情報は,書類としても存在する。この書類は,東京本社2階の倉庫に社員番号順に整理されて保管されている。同倉庫は,常に施錠されており,その鍵は,合計3本存在し,総務部人事給与課責任者により1本,総務課責任者により1本,総務部備付けのキーボックスに貸出用として1本保管されている。
同倉庫に入室し,資料を閲覧する場合には,まず,総務部に備付けの「鍵貸出管理表」に,日付,部署,氏名,使用場所,鍵番号,貸出時刻を記載し,認可印欄に許可者(総務部社員)の氏名を記載する必要がある。また,鍵返却の際にも,返却時刻を記載し,認可印欄に許可者の氏名を記載する。
倉庫からの資料持出しは原則として禁止されている。なお,営業部門の社員が同倉庫に入室することはできないことになっており,必要資料(社員の経歴書等の採用関係書類のみ)の貸出しを総務部の社員に依頼し,貸出しを受けることのみが認められている。
(エ)新規取引内容報告書のデータベースに記録された情報は,派遣先との基本契約書及び個別の派遣契約書等の書類にも記載されている。
原告は,IT事業部及びBC事業部に関する上記書類を東京本社5階のキャビネットに,ME事業部に関する上記書類を各営業所のキャビネ7ットに,いずれも施錠して保管している。
上記キャビネットの鍵は,営業事務担当の社員が保管しており,貸出しの際は,「鍵(キャビネット)管理台帳」に,日付,部門,氏名,鍵番号,使用目的,貸出時刻を記載の上,鍵の保管者の許可印を受ける必要がある。鍵返却の際にも,返却時刻を記載し,確認印を受ける必要がある。
(オ)本件情報は,いずれもその内容及び客観的状況から営業秘密であることを認識することが可能であることは明らかである。また,労働者派遣事業においては,本件情報のような内容を有するものが営業秘密であることは自明であるだけでなく,原告においては,営業秘密の取扱いに注意すべきであることを就業規則において明示し(甲10),秘密保持に関する誓約書を署名押印の上提出させ(甲11),前記のようにアクセス権を厳重に制限している。さらに,研修などで個人情報保護テキスト等を使用して講義をし,周知徹底していた(甲12,13)。
そのため,本件情報のデータベースはもとより,本件情報が記載された書類についても,情報にアクセスした者が当該情報が営業秘密であることを客観的に認識することが可能である。
(カ)以上のとおり,本件情報は,原告において秘密として管理されており,秘密管理性の要件を満たす。
有用性労働者派遣事業は,派遣先との間の労働者派遣契約に基づき,自社の派遣社員を派遣して対価を得ることを目的としており,特に,顧客である派遣先のニーズに合った派遣社員を派遣することが重要である。
この点,人材統合システムのような派遣社員名簿は,自己の下にある派遣社員の氏名,住所のほか,経歴,取得資格,派遣実績等の事項を把握するための情報であり,また,派遣先企業のリストである新規取引内容報告8書のような顧客名簿は,一般企業における顧客名簿と同様の性質を有するに止まらず,派遣先企業の派遣社員に対するニーズや当該会社の業務内容,執務環境等の事項を把握するための情報であり,両者は,派遣先のニーズに合致した人材を派遣するという労働者派遣事業における営業活動にとって必要不可欠なものである。
すなわち,原告は,本件情報を基に,派遣先のニーズに合ったより良い人材を派遣することが可能となり,その結果,派遣先からの社会的信用を得て,利益を得ることにつながる。また,本件情報は,労働者派遣事業者間における競争において有利な地位を占める上でも極めて重要な役割を果たすものである。
以上のとおり,本件情報は,原告の事業活動において有用な営業上の情報であり,有用性の要件を満たす。
非公知性派遣先の情報は,派遣先と取引をすることを前提として派遣元に対して開示される情報であって,本来的に非開示であり,これらが長年の取引によって蓄積されたものである。また,派遣社員の情報は,個人情報を含んでおり一般的に非開示である。
しかも,前記のとおり,原告が保有する本件情報は,労働者派遣事業における営業活動にとって必要不可欠なものである上,同業者間での競争において有利な地位を占めるために極めて重要な役割を果たすという性質上,他に公開されていない。また,原告は,本件情報を営業活動を通じて独自に作成し,保有したものであり,公開したことはない。
以上のとおり,本件情報は,公然と知られておらず,非公知性の要件を満たす。
〔被告らの主張〕ア秘密として管理されていなかったこと9原告は,本件情報が秘密として管理されており,秘密管理性の要件を満たすと主張する。しかしながら,以下のとおり,本件情報は秘密として管理されていたとはいえない。
(ア)本件情報が記載された文書やデータには「マル秘」,「部外秘」等の表示がされていなかったこと本件情報が記載された文書としては,待機社員の氏名,経歴,派遣実績,派遣先等の情報が載った「契約満了表」並びに派遣先との基本契約書及び個別の派遣契約書等もあった。
これらの文書やデータには「マル秘」,「部外秘」等の表示は一切されておらず,原告は,アクセスした者がその情報が秘密であることを認識できる表示を行うという最低限の秘密管理さえ怠っていた。
(イ)本件情報にアクセスすることができる者が限定されていたとはいえないことa原告は,派遣先との基本契約書及び個別の派遣契約書等を施錠したキャビネットに保管し,かつ,その鍵を厳重に管理していたと主張する。
しかしながら,東京本社の5階や各営業所にあるキャビネットは,一度解錠されると日中は開けたまま放置されているのが常であった。
現に,必要な文書を取り出すだけであれば鍵の貸出しから返却までには長くても数分あれば足りるところ,原告が提出した「鍵(キャビネット)管理台帳」(甲9の資料4)によれば,鍵の貸出しから返却までに1時間以上かかることが頻繁にあり,例えば2月15日,3月6日,3月11日及び3月14日のように午前中に貸し出されたものが夕方まで返却されず,長い時には返却までに7時間半もの時間を要することさえあったことが明らかである。
しかも,同台帳は,情報を管理しているという体裁を取り繕うため10だけに記入されることが多く,鍵の貸出し・返却の都度記入されることは極めてまれで,週末や月末など区切りのいいところで数日分から数十日分をまとめて適当な数字を記入するというような極めてずさんな運用がされていた。
原告の東京本社にはタグを用いた入退館管理やセキュリティゲートなどの物理的なセキュリティシステムは一切設置されておらず,間接社員に加え多数の派遣エンジニアが在籍し,とりわけ数百人単位の新入社員が配属される春先などは社員同士でも互いを識別することができなかったため,部外者が開いたままのキャビネットから派遣先との基本契約書及び個別の派遣契約書等を持ち出すことは極めて容易な状態にあった。
bまた,原告は,毎日1回,待機社員の氏名,経歴,派遣実績,派遣先等の情報が載った「契約満了表」を作成・更新した上,営業課と人財課の社員に対してメールに添付して送信し,営業課の社員はこれを印刷して営業に使用しており,この印刷された「契約満了表」の保管は社員各人に委ねられていて,回収に関するルールなども定められていなかった。
c確かに,原告主張のように本件情報の電子データへのアクセスにアクセス権限申請書の提出・承認手続が必要であったことは認める。
しかしながら,本件情報のうち顧客情報に関するデータとしては,新規取引内容報告書だけでなく,同報告書の主要な情報である派遣先の会社名,勤務条件等の情報が書き込まれた「契約状況表」が作成されており,拠点で管理されている契約状況表については営業部サーバにアクセスすることができた者であれば,役職の限定なくアクセスすることが可能であり,パスワードによる保護もされていなかった。
dまた,本件情報のうち社員情報については,上記のとおり「契約満11了表」が営業課と人財課の全社員に対してメールに添付して送信されており,役職の限定などの人的制限はされていなかった。
e以上のとおり,本件情報が記載された文書には誰でも容易にアクセスすることができたこと,本件情報を構成しあるいは加工したデータの中には役職による人的制限もパスワードによる保護もされていなかったものがあったことからすれば,本件情報にアクセスできる者が限定されていたなどとはいえない。
(ウ)本件情報の秘密性についての指導が不十分であったこと原告における情報管理に関する指導の機会は,間接社員に対して年2回,派遣エンジニアに対して年1回実施される研修しかなく,研修そのものの頻度も決して高くはなかった。
それに加え,原告が提出した「2007年度実施個人情報研修一覧」(甲12)によれば,全役員,全従業員を対象とした社員総会研修(派遣エンジニアに対する唯一の研修)の出席者は1,288名にすぎず,それを上回る1,434名もの社員が欠席していたこと,欠席者に対しては,講義を実施せず,通信教育で代替させていたことが明らかである。
また,その講義内容についても,「個人情報保護研修テキスト」(甲13)によれば,個人情報や営業秘密についての一般的・抽象的な指導にとどまり,原告が保有している情報のうちどの情報が営業秘密に該当するかなどの個別的・具体的な指導はされていない。
したがって,本件情報の秘密性についての原告の指導は極めて不十分なものであった。
(エ)以上のとおり,本件情報が記載された文書やデータには「マル秘」,「部外秘」等の表示がされておらず,本件情報にアクセスすることができる者が限定されていたともいえず,本件情報の秘密性についても極めて不十分な指導しかされていなかった以上,本件情報が秘密として管理12されていたとはいえない。
有用性について派遣業界は,平成11年の労働者派遣法改正以後急成長を遂げ,労働者派遣事業所数は平成19年4月1日時点で1万4331に達し(乙A3),上場会社に限っても15社を超え,今なお旺盛な新規参入が続く業界である。このような状況下で,派遣事業に関わる人材は激しく流動しているのが実情であり,人材の移動に伴いどの企業が派遣社員を採用しているのかやどのような人材を欲しているのかといった営業情報は当然のごとく業界内を駆けめぐっている。しかも,どの派遣会社がどのような企業と取引があるかは求人ページや求人媒体を見れば,職種,就業場所や就業条件からかなりの確度をもって特定することができ(原告の公開内容として乙A4),ハローワークの求人票では派遣先企業名まで明示されている(乙A5の1ないし5)。
したがって,顧客情報の有用性を判断するにあたっては,上記のような派遣業界の特殊性を考慮する必要があり,派遣事業者の顧客名簿を一般企業におけるそれと同列に論じ,有用と評価することはできない。
非公知性について原告が営業秘密と主張する顧客情報は,被告A,被告B及び被告Cが原告入社前に独力で入手したものであり,被告らが独力で知り得る情報でもある。
また,原告は,新卒採用者のオリエンテーション時に派遣先企業リストを配付していたのであり,公開したことがないというのは虚偽である。
さらに,原告では,被告らが本件情報を使用したとされるわずか1年前に332社の顧客情報(「お客様情報」)と1433名分以上の社員情報(「派遣エンジニアに関する個人情報」)が「Winny」により流出するという重大な事故が起きていた(乙A6)。
13この流出事故により,原告の有していたほぼすべての顧客情報と社員情報は,通常一般人が誰でも容易にアクセスすることが可能なウェブ上に相当期間さらされていたのであり,原告が意図したものではないとしても,客観的に公開されていた状態に変わりはない。
(2)争点2(本件情報の不正目的の使用・開示の有無及び原告所属の派遣エンジニアの退職との因果関係)〔原告の主張〕ア被告らは,遅くとも平成19年12月ころから,被告会社において原告と競合する労働者派遣事業を行うことを計画し,事業開始の準備を進めていた。
派遣先から支払われる派遣料は,派遣社員の経歴,取得資格,派遣実績等によって異なり,しかも,技術系の労働者派遣事業においては,技術スキルを向上させることが派遣料に反映される。そのため,労働者派遣事業においては,派遣社員に対する育成コストが必要である。
被告らは,派遣社員に対する育成コスト等の費用をかけずに簡便かつ大量に集めるための手段として,原告所属の派遣エンジニアを引き抜くことを企図し,その方策を講じた。
イその方策の一つは,?原告の派遣先のうち,労働者派遣契約の契約満了日が近付いており,契約更新のための交渉が行われている派遣先を標的とする,?原告の営業担当に,その派遣先に対して高率のレートアップ(派遣料増額)を契約更新の絶対条件として交渉を行わせる,?当該派遣先に派遣されている派遣エンジニアに対し,原告と派遣先との契約更新は困難であると持ちかける,?当該派遣先において継続して就業を希望している者に対し,被告会社が派遣先と労働者派遣契約を締結するので,現在の派遣先で就業したいならば原告を退職して被告会社に入社すれば可能である旨勧誘する,というものである。
14ウ被告ら及びその他の関係者らは,この方策を実行するため,以下のとおり,原告の営業秘密である本件情報のうち,原告従業員の残有給休暇日数,退職日,個人の携帯電話番号,給与データ,社員番号,氏名,役職,分野,担当営業,就業先及び派遣先企業との間の派遣契約の満了日の情報を不正に開示し,又は使用した。
(ア)Eが本件情報を開示したことEは,平成20年2月18日,被告A,被告B及び被告Cら(以下,この3名を合わせて「被告ら」ということがある。)が被告会社の営業開始準備を行っていた東京都千代田区永田町にあるTBRビルの一室を訪れ,被告らに対して,Eが持参したパソコンに保存されていた原告の営業秘密に属する本件情報のうち原告従業員の残有給休暇日数及び退職日に関する情報を開示した。
(イ)Fが本件情報を利用して派遣エンジニアの勧誘行為をしたことa契約満了日の迫った会社の派遣エンジニアを標的にしたことFは,原告の横浜営業所において,アマノ株式会社(以下「アマノ」という。)を担当しており,平成20年3月下旬ころには同社と原告との間の派遣契約の契約満了日が迫っていたため,契約更新に伴う派遣料増額交渉業務を担当していた。この派遣契約の契約満了日は,原告の営業秘密であるところ,Fは,契約満了日の迫ったアマノに派遣されている原告所属の派遣エンジニアを標的として引き抜き行為を行った。
bGに対する勧誘行為Fは,平成20年3月下旬ころ,アマノに派遣されていた原告所属の派遣エンジニアであるGに対し,その個人で保有する携帯電話に電話をかけ,同人と面接の約束を取り付け,同月末,同人に会うためにアマノを訪れ,被告会社への入社を勧誘した。
15また,Fは,同年5月2日,Gの携帯電話に電話をかけ,被告会社社長の被告AがどうしてもGに会って話をしたいと言っているから会ってほしいなどと言って勧誘行為を行った。
上記のG個人の携帯電話の番号は,従業員に関するデータとして原告が管理している営業秘密であり,Gは,Fにプライベートで携帯電話の番号を教えたことはない。
cHに対する勧誘行為Fは,アマノに派遣されていた原告所属の派遣エンジニアであるH及びその他2名と被告Cとを引き合わせて,被告Cとともに,被告会社へ入社するように勧誘した。その際,Fは,Hに対し,原告の営業秘密である同人の原告における給与と被告会社に移った場合の給与をまとめた一覧表を取り出して,被告会社に移った場合の給与のシミュレーションを説明し,被告会社へ入社するよう勧誘した。
(ウ)Iが本件情報を利用して派遣エンジニアの勧誘行為をしたことaIは,原告に在籍中,大阪営業所所長として,船井電機株式会社(以下「船井電機」という。)を担当していた。
Iは,平成20年3月31日付けで原告を退職した後,同年4月末ころ,船井電機に派遣されていた原告所属の派遣エンジニア2名の個人の携帯電話に電話をかけ,面会の約束を取り付けた。上記2名の個人の携帯電話番号は,従業員に関するデータとして原告が管理している営業秘密であり,同人らも,Iとプライベートの付き合いはなく,Iに携帯電話番号を教えたこともない。
bIは,同年5月初旬ころ,上記派遣エンジニア2名に対し,原告の営業秘密である同人らの原告における給与データと被告会社に入社した場合の給与シミュレーションをまとめたデータを示しながら,被告会社に入社すれば,給与が増額されることを説明して,被告会社へ入16社するように勧誘した。
(エ)Jが本件情報を利用して派遣エンジニアの勧誘行為をしたことJは,原告に在籍中,徳島営業所所長として,三洋電機株式会社洲本工場(以下「三洋電機」という。)を担当しており,平成20年5月下旬ころには,同社と原告との間の派遣契約の契約満了日が迫っていた。
Jは,三洋電機に派遣されていた原告所属の派遣エンジニアに対して,被告会社の方が原告よりも待遇が良いこと,原告を退職しても三洋電機の同じ部署で,退職日の翌日から同じように仕事をすることができる旨述べて,三洋電機との契約期間の満了を機に被告会社へ入社するよう勧誘した。このような契約期間がいつ満了するかは,原告の営業秘密である。
(オ)Eが本件情報が記載されたエンジニアリストを開示したこと甲第22号証のエンジニアリスト(以下「本件エンジニアリスト」という。)は,平成20年4月25日午後8時46分に,当時原告のME事業部の事業部長職にあったEらに送信されたものである(甲22)。
本件エンジニアリストには,原告の営業秘密である「社員番号」「名前」「役職」「分野」「担当営業」「就業先」が記載されていた。
Eは,原告から貸与されていたパソコン上で,同日午後9時52分から同日午後10時にかけて,本件エンジニアリストのタイトルを本件エンジニアリストの内容とは無関係の「Q様試算表」と変更した上で2部印刷し,その後,タイトルが変更された本件エンジニアリストをごみ箱へ移動し,最終的には完全に削除するという通常業務では考えられない不自然な行動をとっている(甲21)。
そして,被告会社は,本件エンジニアリストと比較して「F」「D」という書き込みが加えられたことを除いて全く同一の文書を保有していた(甲22,甲23の1及び2)。
17以上の各事実からすると,Eが原告の営業秘密が含まれる本件エンジニアリストにアクセスをし,これを印刷した上で,被告らに交付し,開示したことは明らかである。
エ上記の被告らによる本件情報の開示又は使用行為と,派遣エンジニアの退職との因果関係についてFが担当していた派遣エンジニアで原告を退職したのは20名であった。
株式会社東京精密(以下「東京精密」という。)に派遣されていた派遣エンジニアの7名の退職者のうち5名が平成20年5月15日付けで一斉退職し,アマノに派遣されていた派遣エンジニアの5名の退職者の全員が同月20日付けで一斉退職し,ユーディナデバイス株式会社(以下「ユーディナデバイス」という。)に派遣されていた派遣エンジニアの6名の退職者の全員が同日付けで一斉退職した。Iが担当していた派遣エンジニアで原告を退職したのは船井電機に派遣されていた4名であり,その全員が同年7月31日付けで原告を一斉退職した。Jが担当していた派遣エンジニアで原告を退職したのは三洋電機に派遣されていた18名であり,その全員が同年6月20日付けで原告を一斉退職した。
また,原告を退職したこれら合計42名は,いずれも被告会社に移籍し,従前の派遣先でそのまま就業していた。
上記のとおり,退職が一斉に行われたこと及び原告を退職した派遣エンジニアがそのまま従前の派遣先で就業していたことに加え,本件で使用又は開示がされた営業秘密は,被告らが勧誘対象者を絞り込むための情報として有効であったことは明らかであるから,被告らによる営業秘密を不正利用して行った勧誘行為によって,上記派遣エンジニア42名が原告を退職し被告会社へ移籍したことは明らかである。
〔被告らの主張〕ア原告に所属していた派遣エンジニアで被告会社に移籍した者は,原告へ18の不満等からその自由意思に基づき転職を決意し,被告会社の求人に応募していたのであるから,被告らがあえて本件情報を使用しなければならない必要性はなく,使用した事実はない。
イEが平成20年2月18日に原告従業員の残有給休暇日数や退職日などの情報を開示したとの原告の主張は,否認する。
被告らは,平成20年2月18日,TBRビルにおいてEと面談したが,Eから聴き取った内容は原告の就業規則上の有給休暇日数であり,個別の社員の残有給休暇日数ではない。
ウFが原告の営業秘密を利用してGに対し勧誘行為をしたとの原告の主張は否認する。
Fは,Gとプライベートでも親交があり,携帯電話番号を教えあって連絡を取っており,同人の結婚披露宴にも出席しているのであり,GがFに携帯電話番号を教えたことがないというのは完全な虚偽である。
Fは,Gを被告Cに引き合わせたこと,被告CとともにGに対し被告会社への入社も今後の選択肢の一つであると話したことはあるものの,Fは,Gと親しい仲であり,Gから個人的な相談を受けたり,Gから原告の組織や派遣先業務に対しての愚痴を聞いたりしていたため,被告会社への入社も選択肢の一つではないかと話したにすぎず,積極的な勧誘を行った事実はない。
また,被告Aに会って話をしたいと言い出したのはGであり,Fは被告Aにその旨を伝え,了解を取っただけである。
(3)争点3(本件の勧誘行為につき不法行為が成立するか)〔原告の主張〕被告らは,原告所属の派遣エンジニアを大量かつ組織的に被告会社に引き抜いて事業を行うことを共謀し,引き抜き行為を実行したものであり,以下の事情からすれば,不法行為が成立する。
19ア引き抜き行為の態様が悪質であること(ア)Fの行為Fは,同人が営業担当であったアマノにおいて契約更新の交渉を行うに際し,15パーセントという高率の派遣料増額を契約更新の絶対条件として提示してアマノと原告との契約更新を意図的に困難に陥れた上で,アマノで就業していた原告所属の派遣エンジニアに対し,「アマノは原告のレートアップ要求を受け入れないだろうから,原告とアマノの契約は更新されずに打ち切られるので,アマノでは働けなくなる。」旨述べて動揺を誘い,その動揺に乗じて被告会社に勧誘した。これにより,アマノに派遣されていた原告所属の派遣エンジニアのうち,Fの話を誤信した者が多数一斉に退職することとなった。
(イ)Iの行為Iは,船井電機に派遣されている原告所属の派遣エンジニアに対し,「原告は,現在,船井電機に対して強硬なレートアップ交渉を行っているが,船井電機は応じない可能性が高いので,船井電機と契約を更新することは難しい。原告にいたままでは船井電機で継続して働くのは難しいから,このまま船井電機で働きたければ,被告会社に移った方がいい。」旨述べて,被告会社への入社を勧誘した。
(ウ)被告Cの行為被告Cは,G,H,Kらに対して,「今の原告の経営陣の考えにはついて行けない。Tさんは今の経営陣に原告から追い出された。Tさんは,原告で成し遂げられなかったことを成し遂げたいと考えており,そのためにTさんに金を出してもらった。」などと原告経営陣が経営者として不適格であること,「15パーセントレートアップみたいなことをしていれば,VSNの将来も危ないな」などと原告の会社としての将来が明るくないこと,「君たちエンジニアも原告で良い思いはしていないだろ20う。被告会社は派遣会社のステータスを上げるような会社を目指していく。」などと原告が派遣エンジニアの利益を無視したような処遇を行っていることなど,事実を誤認させることを述べて勧誘した。
(エ)上記各行為は,原告と派遣先の契約更新は困難であり,現在の派遣先で就業したいならば原告を退職して被告会社に入社しなければならない,という詐言を弄して,派遣エンジニアを不安に陥れて動揺させることによって,転職の意思決定をさせるというものであり,かかる行為は,もはや自由競争の範囲内を逸脱する行為である。
イ引き抜き対象者が大量であることFは,アマノ等において,G,Hを始めとして原告所属の派遣エンジニア複数に対して勧誘行為を行い,Iは,船井電機に派遣されている原告所属の派遣エンジニア全員に対して勧誘行為を行い,Jは,三洋電機に派遣されている原告所属の派遣エンジニア全員に対して勧誘行為を行っている。
かかる行為に鑑みれば,被告らがある派遣先企業を標的にして,その派遣先で就業している派遣エンジニアの大多数を対象者とし,実際に勧誘行為を行っていたことが認められる。
また,Lの陳述書(甲15)によれば,Dは「150名から160名が(引き抜きの)ターゲット」と発言し,被告Cは「Fが解雇された以上は引き抜く人数を1500名まで引き上げる」と発言しており,これらの発言からすれば,被告らは,原告所属の派遣エンジニア150名,あるいは1500名を引き抜くことを想定していたことが明らかとなっている。
以上に鑑みれば,被告らの引き抜きの規模が大量であることが認められる。
ウ在職中の情報収集,勧誘行為であることEは,当時,原告のME事業部長という幹部社員であったにもかかわらず,被告らに対し,原告の営業秘密を開示して,被告らの引き抜き工作の21ための情報収集を行っていた。また,Fは,当時,原告の横浜営業所においてME事業部営業職に就いていた原告社員であったにもかかわらず,原告所属の派遣エンジニアに対し,原告の営業秘密を用いた勧誘行為を行った。
このように,E及びFは,いずれも原告に社員として在籍中に,その地位と原告の営業秘密を使用して,組織的,計画的に原告所属の派遣エンジニアに対して,競業他社である被告会社への入社を勧誘した。E及びFが原告の営業秘密の保持義務,労働契約上の職務専念義務及び誠実義務を負っていたことからすれば,これらの行為の違法性が大きいことはもちろん,現職社員の地位を利用した引き抜き活動を計画し,実行していた被告らの共謀の内容の違法性が大きいことは明らかである。
〔被告らの主張〕ア引き抜き行為の態様が悪質であるとの原告の主張に対する反論FがGに対して原告とアマノとの契約が更新されず打ち切られる可能性があることを告げたのは,原告から15パーセントもの派遣料増額交渉の断行を指示されたからである(乙A2)。原告では,派遣時と待機時とで派遣エンジニアに対する待遇が大きく異なり,契約の打切りにより待機となった場合にはGの生活が脅かされる事態になることから,Fは,派遣料増額交渉に先立ちGにその可能性を告げたものである。
また,Fは,Gとの間で親交があったことから,Gからの質問に対し,友人として自らが被告会社に転職する予定であることやGに対しても被告会社への転職が選択肢の一つとなることを告げたにすぎない。
なお,Fは,原告の指示に忠実に従い,担当企業との間で派遣料増額交渉をし,約半数の企業に8パーセントから12パーセントの派遣料増額を承諾させた上で契約を更新させて原告の利益に貢献していたのであり,Fが詐言を弄し派遣エンジニアを不安に陥れて動揺させることによって転職22の意思決定をさせていたなどという事実はない。
イ引き抜き対象者が大量であるとの原告の主張に対する反論被告会社は原告退職者が中心となって設立されたため,社内において立ち話などの際に引き抜けたら楽だよなという程度の冗談話がされることはあったものの,会社として,あるいは,役員が原告所属の派遣エンジニアを引き抜くとの意思決定をしていた事実はない。
Dが口にしていたとされる「150名から160名程度」という数字は被告会社の中途採用エンジニアの予定人数であり,被告Cが口にしていたとされる「1500名」という数字は,被告会社が5か年計画で新卒や中途で一般採用するエンジニアの予定人数である。
そもそも,原告が抱える2000人強の派遣エンジニアのうち1500人を引き抜くなどというのはあまりにも荒唐無稽な話であり,派遣業に従事した経験がなく原告代表者の知人の弟であるLが,社内で耳にした会話を曲解し,あるいは悪意をもって歪曲・ねつ造したものである。
(4)争点4(被告らの共謀の有無)〔原告の主張〕ア以下に述べる事実からすれば,被告らの間で原告から大量の社員を組織的に引き抜く旨の共謀があったことは明らかである。
(ア)平成19年12月20日,被告会社の代表取締役であったTは,自宅で自身の誕生日パーティーを開催した。同人は,原告の元代表取締役会長であり,同年5月に退任して原告の経営陣から外れていた。Tの誕生日パーティーには,被告Aのほか,被告B,被告C及びEらも出席していた。
そのパーティーの席上,被告Aは,Tに対し,「会長,会社をやりましょう。」,「VSNからエンジニアを引き抜けます。」などと声をかけ,Tもこれに同調し,握手するなどしていた。その場にいた他の出席23者たちも,被告AとTの上記のやりとりを聞き,拍手するなどしていた。
被告Aらは,この場において,「MVP」という社名を出して話をしていた。Tの誕生日パーティーは,被告会社で労働者派遣事業を行い,原告から社員を引き抜くためのさながら決起集会の様相を呈していた(甲28)。
このように,少なくとも,被告A,被告B,被告C,E及びTの間では,平成19年12月20日の時点において,被告会社でエンジニア派遣事業を行い,エンジニアについては原告から社員を引き抜くことによって確保するという内容の共謀が成立していたことは明らかである。
(イ)また,被告A,被告B及びTは,平成20年2月ころ,Tの自宅において,原告の派遣先企業を奪取することを内容とする打合せをしていた。その内容は,当時,原告のME事業部長であったEを中心として,一方では原告の各派遣先企業に対して強引な派遣料増額交渉を行うことにより原告との契約の更新を困難とさせ,他方で,被告会社が同じ企業に対して派遣料を含む契約条件は従前の原告との契約内容と同様のままにするとの条件で被告会社が契約を引き継ぐことを提案し,被告会社が原告の派遣先企業と新たに派遣契約を締結するというものであった(甲28)。
すなわち,遅くとも平成20年2月ころには,少なくとも被告A,被告B及びTの間では,原告所属の派遣エンジニアの引き抜きのみならず,原告の派遣先企業を奪取するという内容の共謀が成立していたことは明らかである。
また,上記の打合せは,被告らがこの時点で,原告に幹部として在籍していたEに,原告内部の情報収集のみならず,原告の契約更新を困難ならしめて派遣先を奪取するとともに派遣エンジニアの引き抜きを容易にするための情報操作を行う重要な役割を担わせようとしたことを示す24ものである。
(ウ)さらに,Eが所持していた平成19年度の手帳(甲16)の11月12日からの週のページには「MVP総研株式会社」との記載があり,12月24日からの週のページには,原告所属の派遣エンジニアに対する勧誘方法,勧誘を行う体制,被告A,F及びDなどの退職予定時期に関する記載や,原告を退職して被告会社に就職した派遣エンジニアが就業する派遣先企業名が記載されている。
そして,退職予定時期については,少なくとも対象者らに対して,被告らの計画を開示した上で話合いをした上でなければ決められないから,D及びFらについても,平成19年12月末ころに,被告らにおいて上記内容の共謀がされていることを知り,同人らと意思を通じていたことは明らかである。
また,少なくともDについては,平成20年3月31日付けで原告を退職して被告会社に移籍し,採用担当となっていることから,遅くともそのころまでには,被告らとの間に共謀が成立していたことは明白である。
また,Fについても,原告に在職中の同年3月下旬ころ,GやHらに対して,被告会社の取締役であった被告Cの同席の下で,原告の営業秘密を利用した勧誘行為を行っていることからすれば,遅くともそのころまでには,被告らとの間に共謀が成立していたことは明白である。
Iについても,平成19年12月ころから平成20年4月ころにかけて,被告会社の役員であった被告Cが同席した上で,原告の営業秘密を使用した勧誘行為を行っていることからすれば,遅くともそのころまでには,被告らとの間で共謀が成立していたことは明らかである。
イTからの資金提供(ア)Tは,平成20年3月,SBIValueUpFund1号25投資事業有限責任組合(以下「SBI」という。)に自己が保有する原告の発行済株式をすべて譲渡し,その際,原告との競業禁止義務を課せられたため,同月10日付けで被告会社の代表取締役を辞任したことになっているものの,その後も被告会社にはTから多額の資金提供が行われている。
これは,Tを被告,SBIを原告とする違約金等請求事件(東京地方裁判所平成20年(ワ)第21472号)においてSBIから提出された書証,Tから提出された書証及びTの準備書面3末尾添付の「資金移動一覧表」からも明らかである(甲29ないし39)。
上記各証拠等を基に作成された上記事件における甲第63号証(甲34)によれば,Tは,平成20年3月28日及び同年4月21日,被告会社に対して,直接に合計約2.4億円を送金し,平成20年5月12日には,Tが代表取締役を務め,T所有の競走馬の管理事業を目的とする株式会社FDOを経由して,被告会社に対して,合計1.6億円を送金している。また,平成20年4月9日から同年7月30日までの間に,FDOを経由して,被告会社に対して少なくとも合計約1.2億円を送金している。
上記を合計すると,Tから被告会社への資金移動は,5.2億円にも上る。
(イ)また,被告A及び被告Bは,平成20年5月13日又は14日ころ,Tの自宅において,同人に対し,「VSNから幹部クラスの社員を引き抜くのに実弾が必要なので,500万円貸していただけませんか。」と依頼し,Tから,現金500万円を受け取っている(甲28)。
なお,この資金提供に先立つ約700万円の出金については,甲第31号証の三菱東京UFJ銀行の回答により裏付けられている。
このように,被告らは,原告から大量の社員を引き抜くことを共謀し,26Tから資金の提供を受け,原告の派遣先の奪取と原告所属の派遣エンジニアの引き抜き行為を行っていたものである。
(ウ)以上のことからすれば,被告らによる引き抜き行為は,Tとの共謀に基づいて組織的かつ大量に行われていたことが明らかである。
〔被告らの主張〕共謀の事実は否認する。
(5)争点5(損害の額)〔原告の主張〕ア平成20年4月から5月にかけて,原告を退職する派遣エンジニアが例年になく増加した。この時期は,被告会社が派遣事業開始後本格的に事業活動に着手した時期であり,その本格化と並行して大量退職が発生している。したがって,少なくとも別紙移籍エンジニア一覧表記載の42名の派遣エンジニアの退職の原因は,被告らによる引き抜き行為にあることは明らかである。
イ平均在籍期間による損害算定別紙移籍エンジニア一覧表記載の派遣エンジニアの原告退職前3か月間における平均売上額は月額68万5781円,平均給与額は月額31万3841円であるので,平均売上総利益は月額37万1940円となる。また,原告における派遣エンジニアの平均在籍期間は,約2.4年である。
したがって,当該42人の派遣エンジニアを対象とした1人当たりの平均利益額から原告の損害を算出すると,下記計算式のとおり,4億4989万8624円となる。
(計算式)371,940×12×2.4×42=449,898,624(1か月の利益)(1年分)(平均在籍期間)(退職人数)ウ退職率による損害算定27本件の引き抜きの対象となった42人の派遣エンジニアは,被告らによる引き抜き行為がなければ同人らが自然に退職するまで原告において稼働し,原告はこれによって売上げを得ることができたのであるから,引き抜かれた派遣エンジニアの数と同数の42人の派遣エンジニアが0人になるまでの間に得られる売上の合計を推計し,これに基づいて算出された利益の総額が原告が喪失した得べかりし利益ということになる。
そして,原告所属の派遣エンジニアの退職率(毎年どれくらいの割合で退職するのかの率)は,期中エンジニア退職人数÷(期中エンジニア退職人数+期末エンジニア人数)×100という計算式によって算出することができる。原告の平成20年3月末日における在籍エンジニア数は2246人であり,原告の平成19年4月から平成20年3月までの退職者数は432人であるから,下記計算式のとおり,退職率は16.1パーセントとなる。
(計算式)432人÷(432人+2246人)×100この退職率によれば,42人の派遣エンジニアは,1年目は42人,2年目には35.2人,3年目には29.5人などとなり,23年目で全員が退職する計算となる。そして,22年間ののべ在籍人数は累計で1月当たり3050.4人となる。
これに別紙移籍エンジニア一覧表記載の派遣エンジニアの1人当たりの平均利益額37万1940円を乗じると,11億3456万5776円となるところ,その中間利息を控除した8億7946万6607円が原告の被った損害の額というべきである。
エ以上のとおり,算定方法により異なるものの退職率により算定すると原告の損害は8億7946万6607円となり,請求の趣旨の範囲で損害の一部の賠償を求めるものである。
28〔被告らの主張〕原告は,平均利益額に平均在籍期間を乗じ,又は,退職率を基に逸失利益を算出している。
しかしながら,原告の算出方法は,派遣業者が新たな派遣先企業を獲得してエンジニアを派遣するまでには長くても2,3か月あれば足りること,原告の主張に従ったとしても平均在籍期間はわずか2.4年で数か月もたたないうちに退職する者も多数存在すること,原告の提出した「2007年12月以降退職者リスト」(甲5)によれば原告を退職する社員の数は月平均で44.2名(原告が被告らによる引き抜き行為があったと主張する平成20年5月を除いた平成19年12月から平成20年4月までの平均)にも上っていたことなどを全く考慮しておらず,極めて不当である。
第3当裁判所の判断1争点1(本件情報が営業秘密に該当するか)について(1)原告は,原告が有する本件情報(原告所属の派遣エンジニアの氏名,役職,残有給休暇日数,退職日,携帯電話番号,社員番号,分野,担当営業,就業先,派遣個別契約の満了日,給与データ)が不正競争防止法2条1項7号の「営業秘密」に該当すると主張するので,この点について判断する。
(2)前記争いのない事実等に証拠(甲8ないし13,19,20)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
ア原告は,本件情報を,電子データとしてデータベース内に保有するほかに,それが記載された書類の形式で保有していた。
イデータベース内の本件情報の管理(甲8)(ア)アクセス制限上記データベースのシステムは,原告の情報戦略推進部で一元的に管理されていた。データベース内の本件情報にアクセスするためには,アカウントの付与を前提としたアクセス権限の付与を受けている必要があ29った。
申請が必要となるアカウントは,Windowsアカウント,メール,Notesアカウント,DigiSheet,使用するPC機器等であった。アカウント申請書(甲8添付資料1)による申請があると,その申請者の所属する部門の部門長及び情報戦略推進部が妥当性を判断して当該アカウント申請を承認するかどうかを判断し,承認されると申請者に上記アカウントが付与される。なお,原告の従業員が社外に送信するメールは,必ず上司に対してもbccとして送信されることとなっていた。
アクセス権限も申請により付与されるものであり,申請書(甲8添付資料2及び3)には,アクセス権限を申請する対象のデータベースの名称,アクセスの理由等を記載するものとされていた。その申請について,申請者の所属する部門の個人情報保護部門管理者がその部門における個人情報保護の観点から,同部門の部門長が申請者の業務遂行においてそのデータベースへのアクセスが必要かどうかという観点から,個人情報保護管理者が全社的な個人情報保護の観点から,順次,それぞれ妥当性を判断して承認を行うこととされていた。その上で,情報戦略推進部において,上記各承認を経ているかを確認し,更に申請内容の妥当性を確認して承認の決裁をする。すべての手続完了後,情報戦略推進部においてアクセス権限の付与がされるものとされていた。
(イ)データ持ち出し防止措置原告社内の電子データの社外持ち出しは禁止されており,原告が従業員に貸し出しているパソコンについては,外部記憶媒体の接続部分を密栓し,外部記憶媒体の使用が物理的に不可能な状態とされており,密栓を解いて使用する場合には,利用申請書(甲8添付資料4)の提出が必要であった。
また,ノートパソコンの社外持ち出しも原則禁止されており,業務上30やむを得ない場合には,ノートPC社外持ち帰り申請書兼誓約書(甲8添付資料5)の提出が必要であった。
ウ書類の保管(甲9)(ア)人事関係書類本件情報のうち従業員個人に関する情報が記載された書類は,原告の東京本社2階の施錠された倉庫に保管されていた。その鍵は3本あり,2本は責任者が保管し,残る1本が総務部に備付けのキーボックスに貸出用として保管されていた。
上記倉庫の鍵の貸出しを受けるには,総務部に備付けの鍵貸出管理表(甲9資料1及び2)に必要事項を記載し,総務部社員が認可し署名することが必要とされていた。鍵返却の際にも,上記管理表に返却時間を記載し,総務部社員の署名が必要とされていた。
上記倉庫からの資料の持ち出しは原則として禁止されていた。また,営業部門の従業員は,同倉庫に入室することは許されず,総務部の社員に依頼することで従業員の履歴書等の採用関係書類のみの貸出しを受けることができるとされていた。
(イ)派遣先情報書類本件情報のうち原告の派遣先企業に関する情報が記載された書類として,派遣先企業との基本契約書及び個別の派遣契約書等があった。
これらの書類は,IT事業部及びBC事業部に関するものについては原告の東京本社5階のキャビネットに保管され,ME事業部に関するものについては各営業所の施錠されたキャビネットに保管されていた。
上記キャビネットの鍵は,営業事務担当の従業員が保管しており,鍵(キャビネット)管理台帳(甲9資料4)が作成され,日付,部門,氏名,鍵番号,使用目的,貸出時刻,返却時刻等を記載することとされていた。
31エ原告は,その就業規則の第45条1項14号及び15号において,業務上知り得た個人情報や原告及び関係取引先の重大な秘密及びその他の情報の漏洩等をしたときは懲戒解雇とすると定めていた(甲10)。また,秘密情報の保持に関する誓約書を従業員に提出させ(甲11),研修などで個人情報保護テキスト等(個人情報,営業秘密の保護の重要性,どのような情報が秘密情報に当たるのか,秘密管理のルール等について具体的な記載がされていた。)を使用して講義を行っていた(甲12,13)。
(3)以上の認定事実によれば,原告は,本件情報を電子データとしてデータベース内に保有するとともに,書類として保有していたものであり,データベースについてはアクセス権限を制限し,権限を与える際には多くの決裁者による慎重な決裁を必要としていたこと,書類については施錠することができる倉庫又はキャビネットに保管し,その鍵を責任者により管理台帳を用いるなどして管理していたことが認められ,これらのことからすれば,本件情報は,原告により秘密として管理されていたと認めることができる。
そして,本件情報は,派遣エンジニアの氏名や連絡先,分野,派遣先,給与データ等の情報や,派遣先企業の名称,派遣個別契約の満了日等の情報を含んでいるところ,これらの情報は,原告にどのような派遣エンジニアが所属し,どのような条件で企業に派遣されているのかを知ることができるものであるから,労働者派遣事業において有益な営業上の情報であるということができる。
さらに,本件情報は,原告が事業を継続する中で集積した原告の従業員の個人情報及び派遣先企業の情報であると認められるから,公然と知られていないものであるといえる。
以上から,本件情報は,原告の営業秘密(不正競争防止法2条1項7号,6項)に該当するものと認められる。
(4)被告らは,原告が派遣先企業リストを新卒採用者のオリエンテーションで32配布していたこと,情報流出事故(乙A6)があったことから,本件情報に非公知性はないと主張する。しかしながら,本件情報は派遣先企業の名称のみならず,その他の契約内容にわたるものであるから,仮に原告が派遣先企業リストを新入社員に配布したことがあったとしても,それをもって本件情報の非公知性が失われたとはいえない。また,流出事故についても,証拠(乙A6)によれば,原告はその後に対策をとっていることが認められるから,これをもって本件情報の非公知性が失われたということもできない。被告らの上記主張は採用することができない。
2争点2(本件情報の不正目的の使用・開示の有無及び原告所属の派遣エンジニアの退職との因果関係)について(1)前記争いのない事実等に証拠(甲1ないし5,14ないし18,21,22,24,25,28,34,39ないし43,45,48ないし50,52,53の1ないし42,54ないし57,乙A1,2,7ないし13,乙B1,証人G,証人L,証人M,被告A本人,被告B本人,被告C本人,被告D本人,被告E本人,被告F本人。ただし,後記の信用することができない部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
ア原告及び被告会社の経緯(ア)原告は,平成16年2月10日に設立された株式会社であり,同年4月,被告会社(当時の商号は株式会社ベンチャーセーフネット)から特定労働者派遣事業を承継し,それ以降,主に技術系分野の派遣労働者(派遣エンジニア)を派遣する労働者派遣事業を行っている(甲55。
以下,原告に労働者派遣事業を譲渡する前の被告会社と同事業を承継した原告とを区別せず「原告」ということがある。)。原告の事業部門には,BC事業部(生物・化学関連),ME事業部(機械・電気関連)及びIT事業部(情報技術関連)があった。
(イ)原告の前身でもある被告会社は,昭和62年に有限会社関口興産と33して設立された後,株式会社への組織変更,株式会社ベンチャーセーフネットへの商号変更を経て,平成9年から特定労働者派遣事業を開始し,平成16年に原告に事業を譲渡するまで同事業を行っていた(甲55)。
被告会社は,平成16年4月,特定労働者派遣事業を原告に譲渡した後は,Tの資産管理会社のような形で存続していた(甲3,57,被告A本人)。
イ被告ら及びその他の関係者ら(ア)被告Aは,平成6年に株式会社ハイテック(現在の株式会社シーテック)に入社し,それ以降人材派遣業に携わってきた者であり,平成19年3月,Eの紹介により原告に入社し,平成20年2月8日付けで原告を退職する時点では,事業部統括(部長の上級職)であった(乙A9,被告A本人)。
(イ)被告Bは,平成6年,株式会社ハイテックに入社し,それ以降,人材派遣業に携わってきた者であり,平成19年6月,被告Aの紹介により原告に入社し,平成20年1月31日付けで原告を退職する時点では,BC事業部長であった(乙A11,被告B本人)。
(ウ)被告Cは,平成4年,株式会社ハイテックに入社し,それ以降,人材派遣業に携わってきた者であり,平成19年9月,被告Aの紹介により原告に入社し,平成20年2月15日付けで原告を退職する時点では,IT事業部システムコンサルティング課の課長であった(乙A10,被告C本人)。
(エ)Eは,平成8年,株式会社ハイテックに入社し,そこで被告Aの部下となり,また,同社のグループ会社の社長をしていた被告Bとも知り合った。Eは,平成10年9月,原告に転職し,平成15年には執行役員ME事業部長兼BC事業部長に就任し,平成20年6月に退職届を提出したころは,原告の執行役員ME事業部長であった(乙B1,被告E34本人)。
(オ)Dは,平成11年,原告に入社して,営業を担当し,平成20年3月31日付けで原告を退職する時点では,横浜営業所のME事業部営業課長であり,Eの部下であった(乙A7,被告D本人)。
(カ)Fは,平成16年7月,原告に入社し,横浜営業所のME事業部営業職に就き,E及びDの部下であった者である。Fは,20社ほどの派遣先を担当し,別紙移籍エンジニア一覧表の番号1ないし20記載の者を含む派遣エンジニアの営業担当として,派遣エンジニアからの相談対応,派遣先企業との交渉等の業務を行っていた(乙A8,被告F本人)。
ウ被告らによる事業立ち上げの経緯(ア)Tは,原告の株式を大量に保有するとともに,原告の代表取締役であったものの平成18年7月25日に辞任し,それ以降,平成20年3月までは原告の相談役の地位にあり,同月,相談役も辞任した。Tは,被告会社を使って人材派遣業を起業することを平成19年9月ころから計画していた(甲1,3,57,被告B本人)。
(イ)Tは,平成19年11月20日,秘書であるNを被告会社の取締役に就任させ,Nに平成20年1月15日付けで,「MVP総合研究所株式会社」を転借人とする六本木ヒルズ森タワー28階の転貸借契約を締結させ,925万7510円の敷金をT自らが負担した(甲3,54,57)。
(ウ)平成19年12月20日,Tは,自宅で同人の誕生日パーティーを開催した。同パーティーには,30人から40人ぐらいの出席者がおり,原告関係者としては,被告A,被告B,被告C及びEが出席していただけで,原告の社長やその他の役員らは出席していなかった。そのパーティーにおいて,被告Aは,Tに対し,「これから一緒に会社を始めましょう。」,「VSNからも人を引き抜けます」などと発言した(甲28,35証人M)。
(エ)Eは,同人の手帳の平成19年11月12日からの週のページに「MVP総研株式会社」と記載した。また,同年12月24日からの週のページに「客先」,「声掛け順」,「E/G」(エンジニアの意と認められる。),「ネタ整理」,「ヴィジョン」,「業務内容」,「給与」及び「交友関係」と記載し,これらの右下に,「A12/末〜1/15最終出社」,「F3/25在籍必須↑3/末」,「D2/末」,「I3/末」,「O1/末」,「J2/末」などと記載した(甲16)。
(オ)被告A及び被告Bは,平成20年1月23日ころ,甲第42号証の「MVP総合研究所株式会社5カ年業績計画書」(以下「1月付け計画書」という。)を,スポンサーに対する説明資料として作成した(甲42,被告A本人,被告B本人)。1月付け計画書には,平成20年度上期(平成20年1月から同年6月)の被告会社の業績計画として予想売上,予想経費等が記載されており,「売上高」の科目には,平成20年3月までは0円,同年4月が3575万円,同年5月が4875万円,同年6月が6175万円,上期計が1億4625万円と記載され,「技術社員採用広告費」の科目には,同年3月までは記載がなく,同年4月が71万5000円,同年5月が97万5000円,同年6月が123万5000円,上期計292万5000円と記載されていた(甲42)。
(カ)被告Bは,平成20年1月31日,被告Aは,同年2月8日,被告Cは,同月15日,それぞれ原告を退職した。これら3名の被告らは,同月18日月曜日,TBRビルに集まり,被告会社の事業立ち上げについて準備会合を開いた。被告Bは,同日の日中に同準備会合にEを呼び出し,Eに対し,原告社員数名についていつごろ被告会社に移籍するこ36とができそうかを尋ねた。これに対して,Eは,持参したパソコンで確認しながら被告Bに当該社員の残有給休暇日数を開示するとともに,その日数からいつごろ被告会社に移籍することができそうであるかを答えた(甲15,証人L)。
(キ)同年3月10日,被告Aは,被告会社の代表取締役に,被告B及び被告Cは,被告会社の取締役に就任した。また,同日,被告会社は,商号を「株式会社ベンチャーセーフネット」から「MVP総合研究所株式会社」に変更するとともに,本店を六本木ヒルズ森タワー28階に移転した(甲3)。
(ク)Tは,同年3月に1億8000万円,4月に5644万9999円の資金を被告会社に送金した(甲34,39)。
エ原告所属の派遣エンジニアに対する勧誘(ア)Hらに対する勧誘aFは,平成20年2月上旬,担当の派遣先のひとつであるアマノに行き,原告所属の派遣エンジニア6,7名(Gは欠席していた。)に対して,Eが原告名義で作成して派遣先に送付した派遣料の単価を次回更新時から15パーセント増額するよう申し入れる書面(乙A2)を回覧するとともに,原告がアマノに対して15パーセントの派遣料増額を要求していることを説明した。Fは,3月27日,アマノに派遣されている原告所属の派遣エンジニアであるHほか2名と面談し,アマノとの派遣料増額の交渉が難航していること,アマノとの交渉が成立せず契約更新がされない可能性があり,そうなると派遣エンジニアは派遣先を変えなければならないこと,アマノで働き続けるにはアマノに雇用してもらうか,派遣元を変えるしか方法がないことを伝えた(甲25,48,50,被告F本人)。また,Fは,上記派遣エンジニアらに対して,F自身は被告会社へ転職するつもりであることを37伝えた(甲25)。
b後日,Fは,Hら上記派遣エンジニア3名を居酒屋の個室に呼び,被告会社の役員として被告Cを紹介した。被告Cは,Hらに対し,被告会社について説明をした(甲25,被告C本人,被告F本人)。
(イ)Gらに対する勧誘aFは,平成20年3月下旬ころ,担当の派遣先のひとつであるアマノに派遣されていた原告所属の派遣エンジニアであるGの携帯電話に電話をかけ,アマノに行く用事があるからその時に話がしたいと伝え,面談の約束を取り付けた。Fは,同月27日,アマノの応接室でGと面談し,原告を退職した人たちが被告会社を立ち上げたこと,出資者は原告の元会長であるTであること,F自身が被告会社に転職する予定であることを伝え(被告F本人),一緒に被告会社へ転職することを勧誘した(甲17,証人G)。
b同年4月7日,Gは,Fからの連絡を受け,同じくアマノに派遣されている原告所属の派遣エンジニア1名とともに居酒屋へ行き,Fから被告会社の役員として被告Cの紹介を受けた(甲17,18,証人G,被告C本人,被告F本人)。被告Cは,Gらに対し,被告会社について説明するなどして被告会社へ転職することを勧誘した。また,Eも被告会社に転職する予定であることを伝えた(甲17,証人G)。
c同年4月12日,Gは,原告本社で行われたリーダー研修の懇親会で,Eに話しかけ,自分も被告会社に転職するつもりであることを伝えるとともに,被告CからEも被告会社に転職する予定であると聞いているが本当であるか,どのくらいの人数を原告から被告会社に引き抜くつもりであるのかを尋ねた。これに対して,Eは,自身も夏までには被告会社へ行く予定であること,250人くらい引き抜ければいいかなと考えていることなどを話した(甲17,証人G)。
38d同月中旬頃,Gは,Fに対して,被告会社に転職することを伝えた。
Fは,Gに対し,被告会社のホームページに掲載されているメールアドレスに応募メールを送るとともに,履歴書を郵送するよう指示した。
Gはこれに従い,同月20日,希望職種,氏名,住所,生年月日,電話番号のみを記載したメールを被告会社に送るとともに,同月21日,履歴書,職務経歴書を作成して,被告会社に郵送した(甲17,乙A12,13,証人G)。
e同月23日,Fは,Gに電話をし,同月25日にFが担当する派遣エンジニアがそろって退職届を提出するので,この日にGも退職届を提出するよう伝えた。これに対し,Gは,被告会社における給与の提示がなかったことなどから,その日に提出することができない旨を回答した(甲17,証人G)。
(ウ)同月25日,Fが担当する派遣エンジニアの複数名が退職届を提出した(甲17,22,証人G)。
F及びDが担当していた派遣エンジニアから一斉に退職届が出されたため,原告のケア担当であるPは,F及びDの担当する派遣エンジニアを一覧表(本件エンジニアリスト)にまとめて,同日午後8時46分,Eを含む役員らに対して送信した(甲22)。
Eは,同日午後9時52分から午後10時までの間に,本件エンジニアリストの電子ファイルについて,そのファイル名を「エンジニアリスト」から「Q様試算表」と変更してデスクトップ上に保存した上で2回印刷し,同ファイルをゴミ箱に移動し,さらにゴミ箱からも完全に削除した(甲21)。
(エ)同年5月1日,Gは,被告会社へ転職する意思を変え,被告会社への引き抜き行為が行われていることを,原告に報告した(甲49,証人G)。
39同月2日,Fは,Gに電話をかけ,Gが原告に引き抜き行為が行われていることを話したと聞いた旨伝えるとともに,それが本当であるかについて質問をした。また,その電話で,Fは,Gに対し,「どうしてもうちの社長が」,「MVPの社長ですよ。決まっているじゃないですか」,「Gさんにどうしてもお会いしたいということだったんで」などと発言し,被告Aに会うよう働きかけた。Gは,この電話におけるFの発言を録音していた(甲18,証人G,被告F本人)。
(オ)Fは,同月7日付けで原告を懲戒解雇となり,同月23日付けで被告会社に就職し,営業課長の役職に就いた(被告F本人)。
オ別紙移籍エンジニア一覧表記載のとおり,Fが担当していた派遣エンジニアのうち東京精密へ派遣されていた派遣エンジニアが同年4月15日付けで1名,同年5月7日付けで1名,同月15日付けで5名,アマノへ派遣されていた派遣エンジニアが同月20日付けで5名,ユーディナデバイスへ派遣されていた派遣エンジニアが同日付けで6名,株式会社島津製作所(以下「島津製作所」という。)へ派遣されていた派遣エンジニアが同日付けで2名,それぞれ原告を退職し,被告会社に就職するとともに,原告在籍中と同じ派遣先で勤務を続けた(甲24)。
(2)被告らは,Tの誕生日パーティの席において被告AがTに対して「一緒に会社を始めましょう」,「VSNからも人を引き抜けます」などと発言したことを否認する。しかしながら,同事実があったことについては証人Mが供述しており,同証人の供述内容は被告Aが発言している状況について具体的であって,また,その他の供述部分についても客観的証拠と整合しており,不自然な点もなく,信用することができる。
また,被告らは,平成20年2月18日にTBRビルにおいて被告BがEから聞いたのは,原告の就業規則上の有給休暇制度についてであって派遣エンジニアの残有給休暇日数ではないと主張する。そして,被告Bは,被告会40社に移るつもりがあるのかについてEの本心を探るため呼び出したのであり,呼び出す口実として就業規則上の有給休暇制度についての説明を求めた旨供述する。しかしながら,就業規則の内容を知りたければ,電話で聞くなどすることができたにもかかわらず,原告に在籍しているEを平日の日中に原告の競業会社となる被告会社の立ち上げの準備会合に呼び出して1時間ほど参加させた上で,就業規則上の有給休暇制度についてのみ説明させ,また,Eの被告会社への移籍についての話もなかったという被告Bの供述内容は不自然である。また,Eは,被告A及び被告Bが原告に戻る可能性があれば説得したいと思い上記準備会合に出向いたと供述するものの,会合の場で被告A及び被告Bに原告に戻るよう説得をしなかったとも供述していることから,Eの供述もにわかに信用することはできない。被告らの主張は採用することができない。
(3)以上の認定事実を基に,不正競争防止法違反(営業秘密の使用等による従業員の引き抜き)に関する原告の各主張について,以下,検討する。
アEが残有給休暇日数及び退職日を開示したとの主張について前記認定事実のとおり,Eが原告所属の原告社員の残有給休暇日数を当時既に原告を退職していた被告Bに開示した事実については,これを認めることができる。
原告は,原告社員の退職日も開示されたと主張する。しかしながら,前記認定事実によれば,Eが残有給休暇日数から原告社員がいつごろ原告を退職して被告会社に転職することができそうかの予想を被告Bに伝えたことは認められるものの,本件情報の「退職日」を伝えたことについては,これを認めるに足る証拠がない。
イFが派遣契約満了日の迫った会社の派遣エンジニアを標的にしたとの主張について前記認定事実のとおり,Fは,20社ほどの派遣先企業の営業担当をし41ていたものであり,また,Fの供述によれば,担当していたほとんどの派遣先企業との派遣契約の更新時期は毎年3月末であったことが認められ,これに反する証拠はない。そうすると,Fにおいては,派遣契約満了日の情報を用いて勧誘対象者を絞り込んだといった事情は認められないから,Fが本件情報のうち派遣契約満了日の情報を使用したということは困難である。
ウGの携帯電話番号を使用したとの主張について前記認定事実のとおり,Fは,平成20年3月下旬ころ,Gの携帯電話に電話をかけて面談の約束を取り,その面談において,被告会社へ転職するようGを勧誘したことが認められる。
しかしながら,証拠(乙A8,証人G,被告F本人)及び弁論の全趣旨によれば,GはFと携帯電話番号の交換をしていたこと,Gが携帯電話からFの携帯電話に電話をして,自身の結婚式の二次会に招待したり,子どもが生まれたことを報告したりしていたことが認められ,これらの事実からすれば,Fが保有していたGの電話番号のみを取り上げて原告の営業秘密に当たるということは困難である。
したがって,FがGの携帯電話に電話したことをもって,本件情報の使用と認めることはできない(なお,前記認定事実のとおり,Gは,Fの勧誘にもかかわらず原告を退職しなかったのであり,また,Fがその他の派遣エンジニアに対する勧誘行為に派遣エンジニアの携帯電話番号を使用したなどといった事情も認められない。)。
エHに対して原告での給与額を示して勧誘したとの主張について原告は,FがHに対して被告に転職した場合の給与と比較するためにHの原告での給与額が記載された一覧表を示して勧誘を行ったと主張し,H作成の陳述書(甲25)中には,これに沿う部分がある。
しかしながら,F,被告Cは上記事実を否定している上(被告F本人,42被告C本人),前記認定事実のとおり,Gに対しては被告における給与額を示すことができなかったことも考え合わせると,上記H作成の陳述書の記載内容をにわかに信用することはできず,他に原告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。
オI及びJによる勧誘行為について原告は,I及びJが派遣エンジニアの携帯電話番号,原告における給与額及び派遣契約期間の満了日といった本件情報を使用して,原告所属の派遣エンジニアに対して被告会社への勧誘を行った旨主張し,R及びSの陳述書(甲26,27)には,上記主張に沿う部分がある。しかしながら,上記陳述書は,I又はJから勧誘を受けたとされる匿名の派遣エンジニアから原告の取締役又は担当者が聞き取った伝聞内容が記載されているにとどまるものであり,同陳述書の記載からただちに上記主張事実を認めることはできず,他に上記事実を認めるに足りる証拠の提出はない。
カEが本件エンジニアリストを被告らに開示したとの主張について前記認定事実のとおり,Eは,本件エンジニアリストをメールで受信した後に,ファイル名を変更した上で印刷して,ファイルを完全削除するという通常ではあり得ない操作を行っていることが認められ,この事実に,Eが被告会社の立ち上げの準備会合に参加していること,その場において派遣エンジニアの残有給休暇日数を被告Bに開示していること,被告らとEとの関係等を総合すると,Eが本件エンジニアリストを印刷して,これを被告らに開示したものと認められる。
(4)上に述べたところによれば,Eが?営業秘密である原告社員の残有給休暇日数を被告Bに開示したこと,?営業秘密の記載された本件エンジニアリストを被告らに開示したことは認められる。
しかしながら,?については,開示された残有給休暇日数がどのように引き抜き行為に用いられ,派遣エンジニアの退職に関係したのかが明らかでな43く,原告社員の残有給休暇日数が開示されたことと原告所属の派遣エンジニアが退職した事実との間に因果関係を認めることはできない。また,?については,前記認定事実のとおり,本件エンジニアリストが作成されたのは,平成20年4月25日に原告所属の派遣エンジニアが一斉に退職届を出したことを契機とするものであって,既に退職届が出されていた以上,本件エンジニアリストが開示されたことと,原告所属の派遣エンジニアが退職した事実との間に因果関係を認めることができない。
(5)以上のとおり,不正競争防止法違反行為と原告が主張する各事実は,いずれも,違反行為の事実が認められないか,又は違反行為と原告所属の派遣エンジニアの退職との間に因果関係を認めることができないのであるから,原告の不正競争防止法に基づく請求はいずれも理由がない。
3争点3(本件の勧誘行為につき不法行為が成立するか)について(1)前記認定事実によれば,Fは,原告の営業担当として原告所属の派遣エンジニアの相談に応じる立場にあり,かつ,派遣先企業との契約更新に関する交渉を担当する立場にある者であったにもかかわらず,原告所属の派遣エンジニアに対し,原告と派遣先企業との契約が更新されない可能性があり,同じ派遣先で働き続けたければ派遣元を変わる方法があると伝え,被告会社を紹介するとともに,被告会社の役員であった被告Cと引き合わせ,被告会社への入社を勧誘したものであって,原告における立場を利用して派遣エンジニアを不安にさせ,その不安に乗じて勧誘を行ったものということができる。
また,Fは,原告所属の派遣エンジニアらに対して退職届を提出する日をそろえるよう指示を出していたことが認められ,これは,引き抜きを原告に知られないよう秘密裏に行うためであったものと認められる。そして,Fの引き抜き行為により,平成20年4月と5月の短期間に20人の原告所属の派遣エンジニアが原告を退職して被告会社に就職した上で,同じ派遣先企業で就労し続けていることが認められる。
44このように,Fは原告に在籍中であったにもかかわらず,その立場を利用して派遣エンジニアを不安にさせ,その不安に乗じて勧誘を行ったものであって,その行為態様は悪質と言わざるを得ず,また,原告に引き抜き防止の措置をとる機会を与えないよう秘密裏に一斉の引き抜き行為を行ったこと,引き抜き人数も20人と少なくないことなども考慮すれば,Fの行った別紙移籍エンジニア一覧表の番号1ないし20の派遣エンジニアの引き抜き行為は社会的相当性を欠く違法な行為であるというべきであり,これにより原告はこれらの派遣エンジニアの稼働により得られるはずであった利益を得ることができなくなったものであるから,上記行為は,不法行為に該当するものと認められる。
(2)なお,原告は,I及びJの担当していた原告所属の派遣エンジニア(別紙移籍エンジニア一覧表の番号21ないし42)に対する引き抜き行為も不法行為であると主張する。しかしながら,前記のとおり,I及びJによる勧誘行為の有無や内容については証拠上不明であると言わざるを得ないから,この点に関する原告の主張は採用することができない。
4争点4(被告らの共謀の有無)について前記認定事実によれば,被告A,被告B及び被告Cは,平成20年1月から3月の間に原告を退職し,そのころから被告会社の立ち上げの準備を行ってきたものであり,その準備会合に原告の執行役員ME事業部長のEを呼び,原告所属の派遣エンジニアの残有給休暇日数を聞き出していること,前記のとおりEが本件エンジニアリストを持ち出し,被告Bに開示したこと,被告AがTの誕生パーティーにおいて「これから一緒に会社を始めましょう」,「VSNからも人を引き抜けます」と発言したこと,Eが平成19年末ころに手帳に被告会社への引き抜きに関するものと認められる記載を行い,そこには被告AやFらの原告退職予定日が記載され,特にFについては「3/25在籍必須」との記載があり,同記載はFが同日まで原告に在籍して引き抜き行為を行うことを45前提とした記載と見ることができること,被告A及び被告Bが,スポンサーに対する説明資料として作成した1月付け計画書には平成20年4月から6月の「売上高」が3575万円から6175万円とされているのに対し「技術社員採用広告費」は71万5000円から123万5000円と極めて低額とされていることから,被告会社のスポンサーであるTに対して原告からのエンジニアを引き抜くことを前提とした事業計画を説明し,それに応じてTから資金提供がされたものと推認することができること,Fが原告所属の派遣エンジニアを被告Cと引き合わせて被告会社への入社を勧誘しており,被告CがFの引き抜き行為に現実に関与していたこと,Fが被告会社への移籍を渋っているGに対し被告Aが会いたがっているとして被告AとGとを引き合わせようとしていたこと,Fが原告を懲戒解雇になって間もなく被告会社に就職し営業課長の役職に就いたことが認められる。
これらの事実を総合すると,被告A,被告B及び被告Cは,原告在籍中のFやEらを利用して原告所属の派遣エンジニアを被告会社へ引き抜くことを共謀し,Fはこの共謀に基づいて前記引き抜きの不法行為を行ったものと認めることができる。
したがって,被告A,被告B及び被告Cは,Fの引き抜き行為によって原告に生じた損害を連帯して賠償する責任を負うものと認められ(民法719条1項),被告会社の代表取締役であった被告Aがその職務を行うについて原告に損害を加えたものであると認められるから,被告会社も原告に生じた損害を連帯して賠償する責任を負う(会社法350条)。
5争点5(損害の額)について(1)派遣エンジニア1人当たりの利益額前記のとおり,被告らの不法行為により原告所属の派遣エンジニア20人が原告を退職したものと認められる。そして,証拠(甲55,56)及び弁論の全趣旨によれば,平成19年4月1日から平成20年3月までの期間に46おいて,原告の売上高は178億0944万6000円であり,派遣エンジニアに係る労務費及び経費の合計額は118億4680万3000円であったこと,平成20年3月31日時点における原告所属の派遣エンジニアは2246人であったことが認められ,これらからすれば,下記計算式のとおり派遣エンジニア1人当たりの原告の利益額は月額22万1231円であったと認めることができる。
(計算式)(17,809,446,000円-11,846,803,000円)÷ 2,246人÷12か月なお,原告は,原告を退職した派遣エンジニア42人の平均売上総利益は月額37万1940円であり,これをもって損害算定の基礎とすべきであると主張する。しかしながら,原告は,平均売上総利益額について原告従業員Uの陳述書(甲56)を提出するにとどまっており,上記金額を認めるに足りる客観的な証拠はなく,また,被告らの不法行為により退職したと認められる派遣エンジニア20人に係る原告の利益額については不明であって,原告の主張は採用することができない。
(2)損害算定の期間原告は,平均在籍年数や退職率をもって損害の算定の基礎とすべき旨を主張する。しかしながら,被告らの引き抜き行為の不法行為と相当因果関係のある原告の損害は,補充の派遣エンジニアを確保するまでに必要な期間中の原告の得べかりし利益とするのが相当である。
そして,証拠(甲2,55)及び弁論の全趣旨によれば,原告の事業は機械・電気等の専門分野を持ついわゆる技術系の人材派遣であって,上記20人の原告を退職した派遣エンジニアも専門的技術を有する者であったと認められ,同事実によれば,退職した派遣エンジニアの代わりに直ちに他の者を補充することができるものではないということができる。もっとも,証拠(甲2,55)及び弁論の全趣旨によれば,原告における派遣エンジニアは,47おおむね1年の派遣契約に基づいて派遣されていたこと,労働者派遣市場は流動的であり原告においても中途採用も盛んに行われていること,平成20年3月31日時点における原告従業員の平均勤続年数は2.4年,平均年齢は28.3歳であったことが認められ,これらの事情も考え合わせると,原告が退職した派遣エンジニアを補充する人材を確保するために必要な期間は,6か月間と認めるのが相当である。
(3)そうすると,上記派遣エンジニア1人当たりの原告の利益額の月額22万1231円の6か月分である132万7386円に退職した人数である20を乗じた2654万7720円をもって,原告が被った損害と認めることができる。
(4)弁護士費用相当損害金本件事案の内容や性質等を考慮すると,弁護士費用相当損害金は,300万円と認められる。
(5)以上のとおり,原告の損害額は,2654万7720円と300万円の合計2954万7720円と認められる。
6結論よって,原告の請求は,2954万7720円及びこれに対する不法行為の後の日である平成20年6月25日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
48裁判官山門優裁判官舟橋伸行49(別紙)移籍エンジニア一覧表退職日氏名前派遣先営業担当12008/4/15F1株式会社東京精密F22008/5/7F2株式会社東京精密F32008/5/15F3株式会社東京精密F42008/5/15F4株式会社東京精密F52008/5/15F5株式会社東京精密F62008/5/15F6株式会社東京精密F72008/5/15F7株式会社東京精密F82008/5/20F8アマノ株式会社F92008/5/20F9アマノ株式会社F102008/5/20F10アマノ株式会社F112008/5/20F11アマノ株式会社F122008/5/20F12アマノ株式会社F132008/5/20F13ユーディナデバイス株式会社F142008/5/20F14ユーディナデバイス株式会社F152008/5/20F15ユーディナデバイス株式会社F162008/5/20F16ユーディナデバイス株式会社F172008/5/20F17ユーディナデバイス株式会社F182008/5/20F18ユーディナデバイス株式会社F192008/5/20F19株式会社島津製作所F202008/5/20F20株式会社島津製作所F212008/6/20J1三洋電機株式会社J222008/6/20J2三洋電機株式会社J232008/6/20J3三洋電機株式会社J242008/6/20J4三洋電機株式会社J252008/6/20J5三洋電機株式会社J262008/6/20J6三洋電機株式会社J272008/6/20J7三洋電機株式会社J282008/6/20J8三洋電機株式会社J292008/6/20J9三洋電機株式会社J302008/6/20J10三洋電機株式会社J312008/6/20J11三洋電機株式会社J322008/6/20J12三洋電機株式会社J332008/6/20J13三洋電機株式会社J342008/6/20J14三洋電機株式会社J352008/6/20J15三洋電機株式会社J362008/6/20J16三洋電機株式会社J372008/6/20J17三洋電機株式会社J382008/6/20J18三洋電機株式会社J392008/7/31I1船井電機株式会社I402008/7/31I2船井電機株式会社I412008/7/31I3船井電機株式会社I422008/7/31I4船井電機株式会社I
裁判長裁判官 阿部正幸
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